説明

固体脂質エマルション及び皮膚外用剤

【課題】美白剤として有用なビフェニル化合物を安定に含有し、かつ優れた使用感を有する皮膚外用剤を提供することにある。
【解決手段】油相100質量部中、下記(A)〜(D)を60質量部以上含有する油相と、
(A)特定のビフェニル化合物から選ばれる1種以上、
(B)室温で固体又はペースト状であるトリグリセライド及び/又はワックスエステルから選ばれる1種以上、
(C)炭素数12以上の直鎖で飽和のアルコールから選ばれる1種以上、
(D)ホスファチジルコリン含量が60質量%以上であるリン脂質から選ばれる1種以上
水相とを含有し、
(A)〜(D)成分の組成比が下記(a)〜(c)
(a)(C)成分、(D)成分の質量比(C)/(D)が1/3〜50/1、
(b)(C)成分及び(D)成分と、(B)成分の質量比〔(C)+(D)〕/(B)が1/10〜3/1、
(c)(A)成分と、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の質量比(A)/[(B)+(C)+(D)]が1/10以下
である固体脂質エマルション及びこれを含有する皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体脂質エマルション及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸基を有するビフェニル化合物が優れたチロシナーゼ活性阻害効果及びメラニン生成抑制効果を有するとともに安全性が高く、美白化粧料の配合成分として有用であることが知られている(特許文献1、2)
【0003】
しかしながら、これらのビフェニル化合物は、それ自体は安定であるが、常温で粉末状であって、水に対する溶解性が著しく低いだけでなく、一般的な油剤に対する溶解性も低く、十分な美白効果が得られる量配合した外用剤を得ることは困難であった。そこで、これらのビフェニル化合物を化粧料に代表される皮膚外用剤に安定に配合すべく検討され、ある特定の液状油(ジカルボン酸又はその誘導体、イソステアリン酸モノグリセリル、リン酸トリアルキルエステル、乳酸アルキルエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)と併用した場合に安定であることが知られている(特許文献3〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−145040号公報
【特許文献2】特開平7−25743号公報
【特許文献3】特開2008−7433号公報
【特許文献4】特開2008−7434号公報
【特許文献5】特開2008−7435号公報
【特許文献6】特開2008−7436号公報
【特許文献7】特開2008−31144号公報
【特許文献8】特開2006−232731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらビフェニル化合物と特定の液状油を用いた場合、油性感が強くなり、逆に液状油の含有量を低下させるとビフェニル化合物を十分に効果を奏する量安定に配合することが困難であった。
従って、本発明の課題は、ビフェニル化合物を十分に効果を奏する量安定に保持し、かつ、優れた使用感を有する皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、ビフェニル化合物を十分量安定に含有し、かつ使用感の良好な皮膚外用剤を開発すべく種々検討し、本発明者らが先に開発した国体脂質エマルション形成技術に着目した(特許文献8)。しかし、前記ビフェニル化合物は、それ自体常温で粉末状であることから、固体脂質エマルション中に安定に保持することは困難であったが、ビフェニル化合物と固体脂質エマルション構成成分との含有比を一定の範囲とすることにより、固体脂質エマルションの油相中にビフェニル化合物が安定に保持されること、さらには全く意外なことに、得られた固体脂質エマルション含有皮膚外用剤は、さっぱり感を有し、塗擦感、肌残り感がなく優れた使用感を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、油相100質量部に対して、下記(A)〜(D)を60質量部以上含有する油相と、
(A)下記一般式(1)及び(2)で示されるビフェニル化合物から選ばれる1種以上、
(B)室温で固体又はペースト状であるトリグリセライド及びワックスエステルから選ばれる1種以上、
(C)炭素数12以上の直鎖で飽和のアルコールから選ばれる1種以上、及び
(D)ホスファチジルコリン含量が60質量%以上であるリン脂質から選ばれる1種以上
水相とを含有し、
(A)〜(D)成分の組成比が下記(a)〜(c)
(a)(C)成分、(D)成分の質量比(C)/(D)が1/3〜50/1、
(b)(C)成分及び(D)成分と、(B)成分の質量比〔(C)+(D)〕/(B)が1/10〜3/1、
(c)(A)成分と、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の質量比(A)/[(B)+(C)+(D)]が1/10以下
であることを特徴とする固体脂質エマルションを提供するものである。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルケニル基、アルデヒド基、又はアセチル基を示す)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R3及びR4は、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を示す)
【0012】
また、本発明は、前記固体脂質エマルションから、水相を除去することにより得られる固体脂質粒子を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、前記固体脂質エマルション又は固体脂質粒子を含有する皮膚外用剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の固体脂質エマルション、固体脂質粒子及びこれを含有する皮膚外用剤は、ビフェニル化合物を安定に保持し、かつ、皮膚上におけるさっぱり感に優れ、塗擦感、肌残り感がなく、優れた使用感を有するものである。従って、本発明の皮膚外用剤は、使用感及び安定性の良好な美白化粧料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いられる(A)下記一般式(1)又は(2)で表されるビフェニル化合物は、常温で粉末状の物質で、優れたチロシナーゼ活性阻害効果及びメラニン生成抑制効果が知られている公知の物質である。例えばジクレオソール、テトラヒドロジオイゲノール、テトラヒドロマグノロール等を挙げることができる。これらのビフェニル化合物は、常法により合成して用いることもでき、また、植物などから得たものを水添して用いることもできる。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルケニル基、アルデヒド基、又はアセチル基を示す)
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R3及びR4は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を示す)
【0020】
一般式(1)においてR1、R2は、好ましくは炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、アルデヒド基、又はアセチル基であり、より好ましくは炭素数1〜3の直鎖のアルキル基である。一般式(2)においてR3、R4は、好ましくは水素原子、又は炭素数1〜10の直鎖のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜8の直鎖のアルキル基である。
【0021】
一般式(1)においては、R1、R2は、それぞれCH3、C25、C37、CH2OH、C36OH、CHO、COCH3、CH2CH=CH2等から選択される1種が挙げられる。一般式(2)において、R3、R4は、それぞれH、CH3、C25、C37、C49、C511、C613、C715、C817等から選択される1種が挙げられる。
【0022】
(A)成分は、前記各化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
(A)成分の固体脂質エマルション又は皮膚外用剤中における含有量は、エマルションの安定性向上、皮膚に塗布した際の使用感またメラニン生成抑制作用向上の点から、0.01〜8質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%である。
【0023】
本発明で用いられる(B)室温(25℃)で固体又はペースト状のトリグリセライド及びワックスエステルは、室温を超える温度域に融点を持ち、室温で固体又はペースト状のものである。尚、ペースト状のものは室温で完全に液状とならず半固体状である点で、液状のものと区別することができる。
【0024】
本発明で用いられるトリグリセライドとしては、直鎖又は分岐鎖で飽和又は不飽和の脂肪酸とグリセリンのトリエステルを主成分とするものであり、天然の動植物由来又は化学合成などによって得られるものを用いることができる。
【0025】
前記トリグリセライドとして、固体脂質粒子の形成、安定性の点から、好ましくは炭素数12〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸とグリセリンのトリエステルであり、より好ましくは炭素数14〜22の直鎖で飽和の脂肪酸とグリセリンのトリエステルである。
【0026】
前記トリグリセライドとして具体的には、トリミリスチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、トリベヘン酸グリセリルなどが挙げられる。これらのトリグリセライドは、それぞれ単独で使用しても、2種以上を混合して使用しても良い。
【0027】
本発明で用いられるワックスエステルは、高級アルコールと高級脂肪酸のエステルを主成分とするものであり、天然の動植物由来又は化学合成などによって得られるものを用いることができる。
【0028】
前記ワックスエステルとして、固体脂質粒子の形成、安定性の点から、好ましくは、炭素数2〜30の直鎖の飽和アルコールと炭素数12〜40の直鎖の飽和脂肪酸のエステルであり、さらに好ましくは炭素数12〜20の直鎖の飽和アルコールと炭素数12〜36の直鎖の飽和脂肪酸とのエステルである。
【0029】
前記ワックスエステルとして具体的には、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチル、ステアリン酸セチル、ミツロウ、カルナバロウ、キャンデリラロウ、コメヌカロウなどが挙げられる。これらは、それぞれ単独で使用しても、2種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
(B)成分は、前記トリグリセライド又はワックスエステルを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。(B)成分の固体脂質エマルション又は皮膚外用剤中における含有量は、エマルションの安定性向上、皮膚に塗布した際の使用感の向上の点から、0.1〜30質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜25質量%、さらに好ましくは1〜20質量%である。
【0031】
本発明で用いられる(C)炭素数12以上の直鎖で飽和のアルコールは、動植物由来又は化学合成のものどちらも使用可能である。これらのアルコールは単独で用いることも、2種以上を混合して用いることもできる。好ましいアルコールとしては、固体脂質粒子の形成、安定性の点から、炭素数が12〜40の直鎖で飽和のアルコールであり、より好ましくは炭素数が16〜24の直鎖で飽和のアルコールである。
【0032】
(C)成分のアルコールとしては、ドデカノール(ラウリルアルコール)、トリデカノール、テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ペンタデカノール、ヘキサデカノール(セチルアルコール)、ヘプタデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール)、ノナデカノール、イコサノール、ヘンイコサノール、ドコサノール(ベヘニルアルコール)、オクタコサノール、ドトリアコンタノールなどを挙げることができる。また、炭素数12以上の直鎖で飽和のアルコールを含有している水素添加された植物性アルコールも用いることができ、水添ナタネ油アルコール、水添ココナッツ油アルコール、水添パーム油アルコール等を用いることができる。これらは、それぞれ単独で使用しても、2種以上を混合して使用しても良い。
【0033】
(C)成分の固体脂質エマルション又は皮膚外用剤中における含有量は、エマルションの安定性向上、皮膚に塗布した際の使用感の向上の点から、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.5〜10質量%である。
【0034】
本発明において、(D)リン脂質としては、リン脂質中ホスファチジルコリン含量が60質量%以上であるリン脂質を使用する。好ましくはホスファチジルコリン含量が、65質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有するリン脂質である。ホスファチジルコリン以外のリン脂質成分としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。
【0035】
本発明に用いられるリン脂質は、動植物から抽出、精製した天然物であっても、化学合成したものであっても良く、水素添加、水酸化処理などの加工を施しても良い。天然物としては、大豆又は卵黄等からの抽出・精製物であるレシチンが、市販品の入手が容易であり、好ましい。より好ましいリン脂質としては、エマルションの安定性向上の点から、水素添加、水酸化処理されたリン脂質であり、大豆レシチン水素添加物、卵黄レシチン水素添加物が好適に挙げられる。
【0036】
リン脂質中のホスファチジルコリンの含有率は、薄層クロマトグラフィー(TLC)や高速液体クロマトフラフィー(HPLC)、イアトロスキャン(ヤトロン社製)等を用いた方法で分析することができる。例えば、特開2001−186898号公報に記載されるリン脂質が含まれる有機溶媒をTLCにスポットしてクロロホルム:メタノール:酢酸=65:25:10で展開し、50wt%硫酸エタノールを噴霧、加熱後デンシトメーターでリン脂質を分析する方法が挙げられる。前記方法以外でも、リン脂質中に含まれるホフファチジルコリンの含有量、含有率を測定、算出できる方法であれば、いずれの方法でも良い。
【0037】
ホスファチジルコリンを60質量%以上含有しているリン脂質としては、コートソームNC−21(水素添加大豆レシチン;日油社製)、レシノールS−10E、レシノールS−10EX(水素添加大豆レシチン;日光ケミカルズ社製)等を挙げることができる。
【0038】
(D)リン脂質は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。(D)リン脂質の固体脂質エマルション又は皮膚外用剤中における含有量は、エマルションの安定性向上、また皮膚に塗布した際の使用感の向上の点から、0.0001〜20質量%が好ましく、よりに好ましくは0.001〜15質量%、さらに好ましくは0.01〜12質量%、最も好ましくは0.01〜5質量%である。
【0039】
本発明の固体脂質エマルションにおいては、固体脂質粒子の形成性、製剤の安定性の点から、前記(A)〜(D)成分を油相100質量部に対して、60質量部以上必要であり、好ましくは70質量部以上、さらに好ましくは75質量部以上である。ここで油相全量が前記(A)〜(D)成分であってもよい。
【0040】
本発明の固体脂質エマルション中の固体脂質粒子は、構成する(A)〜(D)各成分の組成比は、下記(a)〜(c)であるのが好ましい。
(a)(C)成分と(D)成分の質量比(C)/(D)が、1/3〜50/1の範囲内であることが必要であり、好ましくは1/2〜20/1、より好ましくは1/2〜10/1である。
【0041】
(b)(C)成分と(D)成分の総量と、(B)成分の質量比〔(C)+(D)〕/(B)が、1/10〜3/1であることが必要であり、好ましくは1/10〜2/1、より好ましくは1/5〜2/1である。
【0042】
(c)(A)成分と、(B)成分と(C)成分と(D)成分の総量の質量比(A)/〔(B)+(C)+(D)〕が、1/10以下であることが必要であり、好ましくは1/15以下、より好ましくは1/20以下である。
【0043】
これらの範囲内であると成分(B)、(C)及び(D)に成分(A)を加えた固体脂質粒子エマルションの調製がより容易であり、また固体脂質粒子製剤の安定性にも特に優れ、皮膚に塗布した際の使用感も優れる。
【0044】
本発明において、固体脂質粒子の硬さ、使用感の調製のため、任意成分として(E)室温(25℃)で液状の油成分を油相に配合することができる。また、上記の要件を満たすトリグリセライドやワックスエステルを含有する混合脂質(例えば、トリ(カプリル・カプリン・ミリスチン・ステアリン)酸グリセリルや、パーム油、ヤシ油、牛脂、硬化油などの混合脂質)の場合、この任意成分である(E)成分の含有量が少なく、混合物として固体又はペースト状の性状を呈するものであれば使用が可能である。しかし、本発明の固体脂質粒子エマルション又は固体脂質粒子に高い濃度で配合した場合、固体脂質粒子の界面及び深部への分配が高まり、粒子の軟化及び液状化が生じ、固体脂質粒子の形態を保てなくなり、製剤の安定性を著しく損なう場合があるため、これらの(E)成分は、固体脂質粒子を構成する脂質成分の総量((A)から(D)成分の総量)に対して、室温で液状の油成分(E)の質量比〔(E)/(A+B+C+D)〕は、2/5以下が好ましく、より好ましくは1/5以下であり、さらに好ましくは1/9以下である。
【0045】
室温で液状の油成分の具体例としては、スクワラン、トリオクタン酸グリセリル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、2−オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ジメチルポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0046】
固体脂質粒子を構成する脂質成分の総量((A)から(D)成分及び(E)成分の総量)をエマルション全体に対して、30質量%以下とすると、水相に対する脂質成分の分散がより容易であると同時に、皮膚外用剤として使用した場合にさっぱり感などの官能特性にも優れるため好ましい。30質量%を超えてしまうと、分散の効率が悪くなり、攪拌条件にもよるが、場合によっては分散不能となることもある。より好ましい脂質成分の総量は、エマルション全体に対して、0.3〜30質量%であり、さらに好ましくは1.0〜25質量%である。
【0047】
本発明の固体脂質エマルションは、油相である成分を加温溶解した後に、同温度以上に加温溶解させた水相を攪拌させた中に、前記油相を添加、分散させ、その後冷却を行うことにより製造することができる。又は、油相である成分を加温溶解した後に、同温度以上に加温溶解させた水相を油相中に徐徐に添加、分散させ、その後冷却を行うことにより製造することもできる。水相、油相の攪拌には特殊な装置を用いる必要はなく、加温及び攪拌が可能であれば、公知の任意の装置、例えばマグネチックスターラーやホモミキサーなどで製造することができる。また、簡便な攪拌分散による製造ではなく、高圧ホモジナイザーやマイクロチャネル、膜などの特殊な装置を用いて製造することも可能である。
【0048】
本発明の固体脂質粒子の粒子径は、マグネチックスターラーやホモミキサーなどの攪拌分散乳化装置を用いた場合、10〜500μm、攪拌分散強度を強めると10〜100μmの固体脂質粒子に調製することが可能である。また、高圧ホモジナイザー、マイクロチャネル、膜などの高圧乳化装置を用いて製造し、適当なプロセスパラメータや助剤の選択により、10μmよりも小さな固体脂質粒子、特に10〜100nmの固体脂質粒子を調製することも可能と推測される。
【0049】
本発明の特定の脂質成分を用いた場合に、固体脂質エマルションが簡便かつ安定的に製造される詳細なメカニズムは不明であるが、リン脂質に高級アルコールを組み合わせると相転移温度が上昇することが確認されている(特許文献5)。これが固体脂質粒子の界面の安定性を高め、成分(A)を含有する固体脂質粒子の安定性に寄与しているひとつの理由であると考えられる。
【0050】
本発明の固体脂質粒子は、上記の手法により得られた固体脂質エマルションから、水相を除去することにより製造することが可能である。水相の除去には、公知の任意の手法を用いることが可能である。例えば、遠心分離、膜濾過、凍結乾燥などを挙げることができる。
【0051】
本発明の固体脂質粒子エマルションにおける連続相である水相は、水を含有する液相であるが、固体脂質粒子エマルションの調製に影響を及ぼさない範囲で、適宜、水と相溶性を有する他の溶媒や水溶性の各種成分を配合することが可能である。
【0052】
本発明では、水相にさらに炭素数12未満の低級アルコール、及び多価アルコールを含有することが好ましい。好ましい低級アルコールとしては、炭素数2〜8のアルコールであり、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、フェノール、クレゾール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール等が挙げられる。また、好ましい多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、イソプレングリコール、1,2ペンタンジオール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール等を挙げることができる。これらのうち、特に好ましくは、グリセリン、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上を含有させると、エマルションの安定性、また皮膚に塗布した際の使用感が向上するため好ましい。
【0053】
低級アルコール及び多価アルコールの固体脂質エマルション又は皮膚外用剤中における含有量は、エマルションの安定性向上、また皮膚に塗布した際の使用感の向上の点から、0.1〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜15質量%である。
【0054】
本発明では、水相にさらに水溶性高分子を含有させることができる。前記水溶性高分子としては、天然水溶性高分子、天然水溶性高分子誘導体、合成水溶性高分子などを、単独又は2種以上を混合して使用することが可能である。具体的には、カラギーナン、アルギン酸、寒天、グアーガム、デンプン、ペクチン、大豆タンパク、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、ヒアルロン酸及びそのアルカリ金属塩、キサンタンガム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどを挙げることができる。これらのうち、特にアクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、キサンタンガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリルアミド、(アクリル酸Na/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、ヒアルロン酸及びそのアルカリ金属塩からなる群より選ばれる1種以上を含有させると、エマルションの安定性、また皮膚に塗布した際の使用感が向上するため好ましい。
【0055】
水溶性高分子のエマルション又は皮膚外用剤中における含有量は、エマルションの安定性向上、また皮膚に塗布した際の使用感の向上の点から、0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜3質量%である。
【0056】
本発明に係る固体脂質エマルション又は固体脂質粒子は、皮膚外用剤として顔、手足などの体表面に適用することができ、成分(A)に基づく優れた美白作用及び独特の官能特性を賦与することが可能である。また、本発明の固体脂質エマルション又は固体脂質粒子は、各種の皮膚外用剤に、添加して配合することもでき、これら皮膚外用剤に美白作用及び独特の官能特性を賦与することが可能である。従って、本発明の皮膚外用剤は美白化粧料として特に有用である。
【0057】
本発明に係る固体脂質エマルション、固体脂質粒子、又はこれらを配合した皮膚外用剤には、必要に応じて、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品等に通常配合される成分を配合することができる。すなわち、具体的成分として、生理学的薬効成分、油脂類、色素、香料、防腐剤、界面活性剤、顔料、酸化防止剤、キレート剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、無機塩類、糖類、塩類、ビタミン類、植物抽出液等を挙げることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳説する。尚、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0059】
以下に、実施例で用いた評価試験方法について説明する。
(固体脂質粒子の確認方法)
偏光顕微鏡(OPTIPHOT2−POL、ニコン社製)により組成物の観察を行い、固体脂質粒子の形成有無及びその形状、また、ビフェニル化合物の析出について観察を行った。
【0060】
尚、実施例におけるビフェニル化合物の表記を前記一般式R1、R2及びR3、R4の違いにより下記のごとく記載する。ビフェニル化合物1(R1、R2;CH3)、ビフェニル化合物2(R1、R2;C25)、ビフェニル3(R1、R2;C37)、ビフェニル化合物4(R3、R4;C37)、ビフェニル化合物5(R3、R4;C613)、ビフェニル化合物6(R3、R4;C817)。
【0061】
実施例1
(B)パルミチン酸セチルを5g、(C)ヘキサデカノールを1g、(D)ジパルミトイルホスファチジルコリンを1g、(A)ビフェニル化合物1を0.3gの油相を加温して均一に溶解した。次いで、予め80℃に加温した精製水92.7gをマグネチックスターラーにて400回転/分で攪拌しながら、油相を徐々に加え乳化を行った。この乳化液を室温まで冷却し、本発明の固体脂質粒子エマルションを得た。得られた固体脂質粒子エマルションを偏光顕微鏡で観察し、粒子径約100〜500μm(平均粒子径:320μm)の球状で結晶質の固体脂質粒子の生成を確認した。この固体脂質粒子エマルションを25℃、1ヶ月の条件にて保存し、経時安定性を外観観察、偏光顕微鏡により確認したところ、固体脂質粒子相のクリーミングは認められたものの、固体脂質粒子の崩壊や合一は認められず、また、ビフェニル化合物の析出も認められず安定であった。
【0062】
実施例2
実施例1で得た固体脂質粒子エマルションから水を濾別し、凍結乾燥を行い、本発明の固体脂質粒子の粉末を得た。得られた固体脂質粒子を偏光顕微鏡で観察し、粒子径が約100〜500μmである球状で結晶質の固体脂質粒子を確認した。この固体脂質粒子の粉末を、実施例1と同様に25℃、1ヶ月の条件にて保存し、その安定性を偏光顕微鏡で確認したところ、固体脂質粒子の崩壊や合一は認められず、また、結晶状態を保っており安定であった。
【0063】
実施例3、比較例1〜3
下記表1の組成からなる実施例3及び比較例1〜3を,実施例1と同様の方法にて製造し、得られた組成物の外観観察及び偏光顕微鏡観察にて、固体脂質粒子の形成及びビフェニル化合物の析出を評価した。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に記載のごとく、実施例3の固体脂質粒子は、球状の固体脂質粒子の形成が確認され、ビフェニル化合物の析出も認められなかった。しかしながら、本発明の要件を満たさない比較例1〜3では、粒子の形成は認められない事やビフェニル化合物の析出が認められるなどの問題が生じた。尚、比較例3では、水相中にビフェニル化合物の明らかな析出は見られず、トリステアリン酸グリセリルとオクタデカノールとともに結晶化したものと推測されるが、固体脂質粒子は形成されなかった。
【0066】
実施例4、比較例4〜6
下記表2の組成からなる実施例4及び比較例4〜6を,実施例1と同様の方法にて製造し、得られた組成物の外観観察及び偏光顕微鏡観察にて、固体脂質粒子の形成及びビフェニル化合物の析出を評価した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2に記載のごとく、実施例4の固体脂質粒子は、球状の固体脂質粒子の形成が確認され、ビフェニル化合物の析出も認められなかった。しかしながら、本発明の成分(A)〜(D)の組成比(a)〜(c)の要件を満たさない比較例4〜6では、凝集塊の形成やビフェニル化合物の析出が認められるなどの問題が生じた。
【0069】
実施例5〜6、比較例7〜8
下記表3の組成からなる実施例5〜6及び比較例7〜8を,実施例1と同様の方法にて製造し、得られた組成物の外観観察及び偏光顕微鏡観察にて、固体脂質粒子の形成及びビフェニル化合物の析出を評価した。尚、実施例6及び比較例7〜8に用いたトリ2−エチルヘキサン酸グリセリルは、室温で液状である。
【0070】
【表3】

【0071】
表3に記載のごとく、実施例4〜5の固体脂質粒子は、球状の固体脂質粒子の形成が確認され、ビフェニル化合物の析出も認められなかった。また、実施例6は、実施例5に比べ、のびが良く、肌触りに優れていた。
しかしながら、本発明の要件を満たさない成分(E)を高濃度に含有する比較例7〜8では、凝集塊の形成や、ビフェニル化合物の析出が認められるなどの問題が生じた。尚、比較例7においては、固体脂質粒子が一部形成されていたが、粒子の軟化及び液状化が生じ、均一な固体脂質粒子が形成できておらず、ビフェニル化合物の析出も見られた。
【0072】
実施例7
下記表4の組成からなる本発明の固体脂質粒子エマルションを製造した。製造方法は、油相成分を均一に混合溶解した後に、予め混合し80℃に加温した水相を攪拌下で油相に加え、ホモミキサーを用いて5000回転/分にて乳化を行い、攪拌下で室温まで冷却した。
【0073】
【表4】

【0074】
得られた固体脂質粒子エマルションを偏光顕微鏡により観察し、粒子径10から100μmである球状の固体脂質粒子の生成を確認した。得られた固体脂質粒子エマルションを25℃、1ヶ月の条件で保存し、安定性を確認したところ、凝集や合一や、ビフェニル化合物の析出も認められず、安定性に優れたものであった。また、得られた組成物に関し官能評価を行ったところ、美白効果、さっぱり感に優れた外用組成物であった。
【0075】
実施例8
下記表5の組成からなる本発明の固体脂質粒子エマルションを製造した。製造方法は、油相成分を均一に混合溶解した後に、予め混合し80℃に加温した水相に攪拌下で加え、ホモミキサーを用いて5000回転/分にて乳化を行い、攪拌下で室温まで冷却した。
【0076】
【表5】

【0077】
得られた固体脂質粒子エマルションを偏光顕微鏡により観察し、粒子径20から50μmである球状の固体脂質粒子の生成を確認した。得られた固体脂質粒子エマルションを25℃、1ヶ月の条件で保存し、安定性を確認したところ、凝集や合一や、ビフェニル化合物の析出も認められず安定性に優れるものであった。また、得られた組成物に関し官能評価を行ったところ、美白効果、さっぱり感に優れた外用組成物であった。トリ(カプリル・カプリン・ミリスチン・ステアリン)酸グリセリルは、室温で液状の油分を40%含有する固形油を用いた実施例8は、実施例7の皮膚外用剤に対し、さらにのびが良く、肌触りに優れた外用組成物であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相100質量部に対して、下記(A)〜(D)を60質量部以上含有する油相と、
(A)下記一般式(1)及び(2)で示されるビフェニル化合物から選ばれる1種以上、
(B)室温で固体又はペースト状であるトリグリセライド及びワックスエステルから選ばれる1種以上、
(C)炭素数12以上の直鎖で飽和のアルコールから選ばれる1種以上、及び
(D)ホスファチジルコリン含量が60質量%以上であるリン脂質から選ばれる1種以上
水相とを含有し、
(A)〜(D)成分の組成比が下記(a)〜(c)
(a)(C)成分、(D)成分の質量比(C)/(D)が1/3〜50/1、
(b)(C)成分及び(D)成分と、(B)成分の質量比〔(C)+(D)〕/(B)が1/10〜3/1、
(c)(A)成分と、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の質量比(A)/[(B)+(C)+(D)]が1/10以下
であることを特徴とする固体脂質エマルション。
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基若しくはヒドロキシアルケニル基、アルデヒド基、又はアセチル基を示す)
【化2】

(式中、R3及びR4は、それぞれ水素原子、又は炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を示す)
【請求項2】
さらに油相中に(E)室温で液状の油成分を油相に含有し、(A)から(D)成分の総量)に対して、室温で液状の油成分(E)の質量比〔(E)/(A+B+C+D)〕が、2/5以下である請求項1記載の固体脂質エマルション。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体脂質エマルションから、水相を除去することにより得られる固体脂質粒子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の固体脂質エマルションを含有する皮膚外用剤。
【請求項5】
請求項3に記載の固体脂質粒子を含有する皮膚外用剤。
【請求項6】
美白化粧料である請求項4又は5記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2012−12320(P2012−12320A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148980(P2010−148980)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】