説明

固形石鹸及びこれを用いた送達方法

【課題】耐アルカリ性を有しない微生物培養物を含む固形石鹸であり、固形石鹸中における微生物培養物の死滅を防止することができ、ひいては微生物培養物の有する作用を確実に発揮させることのできる固形石鹸及び当該固形石鹸を用いた送達方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の固形石鹸は、耐アルカリ性を有しない微生物培養物と、この微生物培養物を被覆しているゼラチン層と、このゼラチン層に外接している石鹸本体とを備えている。上記微生物は少なくとも乳酸菌を含むことが好ましい。一対のゼラチン層間に微生物培養物を積層した層状体が石鹸本体を少なくとも二片に分断するように配設されているとよい。本発明の固形石鹸を利用した送達方法は、微生物の体表面への送達方法であり、活性を有した状態で微生物を体表面に送達することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルカリ性を有しない微生物培養物を含んでいる固形石鹸及びこれを用いた送達方法に関する。より詳細には、本発明は、耐アルカリ性を有しない微生物培養物をゼラチン層で被覆することによって、微生物の有する作用を最大限発揮させることのできる固形石鹸及びこれを用いた送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物の中には人間の諸機能に有用な作用を及ぼすものが多く存在しており、このような微生物を含有する固形石鹸についても様々なものが開発されている。例えば、特開2007−056174号公報においては、光合成菌・乳酸菌・酵母菌・放線菌・麹菌等の有用微生物群を含む固形石鹸が開示されている。また、特開平11−043437号公報においては、乳酸菌培養物等を包含可能な固形石鹸が開示されている。
【0003】
しかし、固形石鹸は、高級脂肪酸のナトリウム塩等からなっており、通常は弱アルカリ性である。その一方、微生物の中には耐アルカリ性の性質を有していないものもある。それ故、固形石鹸中においては死滅してしまう微生物も多い。そのため、固形石鹸の製造過程においては微生物を加えていても、完成品中における微生物の生存率が低く、これらの微生物の有している作用が殆ど期待できないという問題がある。
【0004】
従って、製造過程で加えた微生物の完成品中における生存率が高く、これらの微生物が有する作用を十分に発揮させることのできる固形石鹸の開発が望まれている。しかし、そのような要求を満たす固形石鹸は現在のところ開発されていない。
【特許文献1】特開2007−056174号公報
【特許文献2】特開平11−043437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、固形石鹸中における微生物の死滅を防止して生存率を高め、これらの微生物の有する人間の諸機能にとって有用な作用を最大限に発揮可能な固形石鹸の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた発明は、
耐アルカリ性を有しない微生物培養物と、
この微生物培養物を被覆しているゼラチン層と、
このゼラチン層に外接している石鹸本体と
を備える固形石鹸である。
【0007】
本発明に係る固形石鹸は、微生物培養物をゼラチン層で被覆することによって、その微生物培養物と弱アルカリ性の石鹸本体とが接触しないように構成されている。従って、微生物の死滅を効果的に防止することができる。その結果、当該固形石鹸は、微生物の生存率を高めることができ、ひいては、これらの微生物が有する人間の諸機能に有用な作用を最大限に発揮させることができる。また、微生物には環境浄化作用を有しているものもあるので、環境汚染の改善につなげることもできる。
【0008】
上記微生物は、少なくとも乳酸菌を含んでいることが好ましい。乳酸菌は、細胞賦活作用、代謝活性作用及びピーリング作用等、人間にとって有用な多くの作用を有している。従って、このような乳酸菌を含んでいることで、当該固形石鹸は、人間の諸機能にとって有用な作用を効果的に発揮させることができる。
【0009】
一対のゼラチン層間に微生物培養物を積層した層状体が石鹸本体を少なくとも二片に分断するように配設されているとよい。これにより、層状体の端面が当該固形石鹸の表面に露出することになる。従って、微生物培養物が表面に露出している部分を洗浄箇所に接触させて洗浄することによって、微生物を確実に洗浄箇所に行き渡らせることができる。
【0010】
当該固形石鹸が扁平な略四角柱状体又は略円柱状体であり、上記層状体が、固形石鹸の上下面に対して平行又は垂直に形成されているとよい。そのような構造を有する固形石鹸を用い、微生物培養物が表面に露出しているいずれかの部分を洗浄箇所に接触させて洗浄することによって、容易かつ十分に、微生物を洗浄箇所に行き渡らせることができる。すなわち、層状体の形成方向に固形石鹸を使用していくことによって、微生物を常時確実に洗浄箇所に送達し、その微生物が有する作用を効果的に発揮させることができる。
【0011】
上記ゼラチン層がカプセル状であり、このゼラチン層内に微生物培養物を封入した複数の粒状体が石鹸本体内に分散されていてもよい。これにより、当該固形石鹸の内部に微生物培養物を分散させることができる。従って、当該固形石鹸をいずれの部分から使用していったとしても、微生物が有する作用を十分発揮させることができる。
【0012】
本発明のもう一つの態様は、
微生物の体表面への送達方法であって、
上記固形石鹸を用いて体表面を洗浄することで、活性を有した状態で微生物を体表面に送達することを特徴とする送達方法である。
【0013】
この送達方法によると、送達箇所において微生物が有している作用を最大限発揮させることができる。
【0014】
ここで、本明細書中における「耐アルカリ性を有しない」とは、アルカリ性環境下では成育できないことをいい、具体的にはpHが8未満でなければ成育できないことを意味する。また、「微生物培養物」とは、栄養、温度等の外部条件を制御しながら、微生物を人工的に発育、増殖させることによって得られたものをいい、「ゼラチン」とは、動物の皮や骨、結合組織等コラーゲンを含む物質を長時間石灰液中に浸すか酸で処理したものを温水で抽出したものをいう。「活性」とは、人間の諸機能に有益な作用をもたらす活性を意味する。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の固形石鹸によると、耐アルカリ性を有しない微生物が固形石鹸中において死滅するのを防止することができる。その結果、これらの微生物が有する細胞賦活等の作用を最大限に発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。図1は本発明の一実施形態に係る固形石鹸を示す概観正面図、図2は図1の固形石鹸の概観平面図、図3は図1の固形石鹸の製造過程を示す概観斜視図、図4は図1の固形石鹸とは異なる形態に係る固形石鹸を示す概観断面図である。
【0017】
図1及び図2の固形石鹸1は、石鹸本体2と層状体3とを備えている。固形石鹸1は、浴用、手洗い又は洗顔用等の皮膚洗浄剤として広く使用されるものであり、通常は扁平な略四角柱体又は略円柱状体等に形成されている(図1では扁平な略四角柱状体を例示)。また、固形石鹸1の大きさは、特に限定されるものではなく、例えば、縦5.5cm、横8.0cm、高さ2.55cm程度とされている。
【0018】
石鹸本体2は、洗浄剤を含む組成物を固化したものである。この石鹸本体2の基剤としては、固形石鹸の基剤として公知であるいずれのものも使用でき、例えば、牛脂、パーム油、ヤシ油、パーム核油等の動物、植物油脂由来の高級脂肪酸又はこれらの脂肪酸エステル類をカセイソーダ等によってケン化して得られた脂肪酸アルカリ金属塩(脂肪酸石鹸)又はアシルグルタミン酸塩等の合成界面活性剤を使用可能である。これらは単独、或いは併用して基剤とすることができる。
【0019】
層状体3は、一対のゼラチン層5と、その一対のゼラチン層5間に積層される乳酸菌培養物4とを有している。層状体3は、石鹸本体2を固形石鹸1の高さ方向に二等分する状態で、石鹸本体2内に配設されている。層状体3の端面は、固形石鹸1の側面に露出している。
【0020】
乳酸菌培養物4は、耐アルカリ性を有しない、人間の諸機能に対して有用な作用を有する乳酸菌の培養物である。この乳酸菌培養物4の厚みは、特に限定されないが、0.1mm以上、2.0mm以下程度とされている。乳酸菌培養物4において培養されている乳酸菌は、特に限定されるものではなく、細胞賦活作用、代謝活性作用及びピーリング作用等の人間の諸機能に対して有用な作用を有するものであればよく、1又は複数種のものを同時に使用することができる。
【0021】
この乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)等のラクトバチルス属の乳酸菌;カルノバクテリウム・ディバージェンス(Carnobacterium divergens)、カルノバクテリウム・ピシコーラ(Carnobacterium piscicola)等のカルノバクテリウム属の乳酸菌;ロイコノストック・メセンテロイズ(Leuconostoc mesenteroides)、ロイコノストック・シトレウム(Leuconostoc citreum)等のロイコノストック属の乳酸菌;ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ピオジェネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス属の乳酸菌;エンテロコッカス・カゼリフラバス(Enterococcus caseliflavus)、エンテロコッカス・サルフレウス(Enterococcus sulfreus)等のエンテロコッカス属の乳酸菌;ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus rafinolactis)等のラクトコッカス属の乳酸菌;ヴェイセラ・コンフューザ(Weissella confusa)、ヴェイセラ・カンドゥレリ(Weissella kandleri)等のヴェイセラ属の乳酸菌;アトポビウム・ミニュタム(Atopobium minutum)、アトポビウム・パービュラス(Atopobium parvulus)等のアトポビウム属の乳酸菌;バゴコッカス・フルビアリス(Vagococcus fluvialis)、バゴコッカス・サーモニナラム(Vagococcus salmoninarum)等のバゴコッカス属の乳酸菌;ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等のペディオコッカス属の乳酸菌等を使用することができる。
【0022】
また、乳酸菌の培養方法は、乳酸菌が良好に生育する条件であれば特に限定されるものではない。例えば、MRS(de Man Rogosa Sharpe)培地等を用いて、静置培養又はpHを一定に制御した中和培養で行う方法や、GYP培地やGAM培地等の公知の乳酸菌用の培地を用いる培養方法を挙げることができる。
【0023】
ゼラチン層5は、コラーゲンに熱を加え、抽出したものであり、タンパク質を主成分とする。ゼラチン層5の厚みは、特に限定されないが、0.1mm以上1.5mm以下が好ましい。このゼラチン層5によって、乳酸菌培養物4は、弱アルカリ性の石鹸本体2と接することなく保持される。従って、乳酸菌培養物4が弱アルカリ性下で死滅することが効果的に防止され、当該固形石鹸1は、乳酸菌培養物4において培養されている乳酸菌が有する細胞賦活作用、代謝活性作用及びピーリング作用等を効果的に発揮させることができる。
【0024】
当該固形石鹸1は、乳酸菌培養物4において培養されている乳酸菌の死滅を効果的に防止することで、その乳酸菌の持つ作用を最大限に発揮させることができる。すなわち、大多数の乳酸菌は、耐アルカリ性を有していないため、弱アルカリ性の石鹸本体2の中では多くが死滅してしまう。しかし、当該固形石鹸1は、乳酸菌培養物4をゼラチン層5で被覆することで、乳酸菌培養物4と弱アルカリ性の石鹸本体2との接触を防ぎ、乳酸菌が死滅しない環境を提供している。その結果、当該固形石鹸1は、乳酸菌の有する細胞賦活作用、代謝活性作用及びピーリング作用等を最大限に発揮させることができる。
【0025】
また、層状体3が固形石鹸1の上下面に対して平行に形成されており、この層状体3の端面が固形石鹸1の側面に露出しているので、固形石鹸1をその側面から使用していけば必ず乳酸菌が皮膚等の洗浄箇所に接することになる。従って、固形石鹸1を用い、乳酸菌培養物4が側面に露出している部分を洗浄箇所に接触させて洗浄することによって、容易かつ十分に、乳酸菌を洗浄箇所に行き渡らせることができる。すなわち、層状体3の形成方向に固形石鹸1を使用していくことによって、乳酸菌を常時確実に洗浄箇所に送達し、その乳酸菌が有する作用を効果的に発揮させることができる。さらに、乳酸菌の中には、環境浄化作用を有しているものもあるので、当該固形石鹸1は、環境汚染の改善にも寄与することができる。
【0026】
尚、乳酸菌培養物4において培養される乳酸菌が有する作用について詳述すると、例えば、肌状態良化作用、肌の若返り作用、肌の柔軟化作用、美白作用、皺減少作用、体臭抑制作用、腋臭改善作用、水虫改善作用、膣の自浄作用、カンジダ症改善作用、フケ抑制作用、抗アトピー作用、軽微な伝染病の抑制作用、病原菌増殖抑制作用、免疫賦活作用等を挙げることができる。
【0027】
次に、図3の固形石鹸1の製造方法を説明する。まず、図3(1)に示すように、固形石鹸の基剤として公知であるものを用いて得られた石鹸本体2(縦5.5cm、横8.0cm、高さ1.2cm)を水平な机等に静置する。次に、(2)に示すように、この石鹸本体2の上に、厚さ0.5mmの薄板状のゼラチン層5を置き、(3)に示すように、このゼラチン層5の上面に乳酸菌培養物4を約0.5mmの層状となるように添加する。さらに、(4)に示すように、この乳酸菌培養物4の上に厚さ0.5mmの薄板状のゼラチン層5を重ねる。次いで、(5)に示すように、このゼラチン層5の上から(1)に示すのと同様の基剤及び大きさを有する石鹸本体2を重ねたうえで、(6)に示すように、上面から加圧する。これにより、逐次重ねた石鹸本体2、ゼラチン層5、乳酸菌培養物4、ゼラチン層5及び石鹸本体2が圧着されて固形石鹸1が得られる。
【0028】
図4の固形石鹸11は、石鹸本体2と石鹸本体2内に分散する複数の粒状体12とを備えている。石鹸本体2、乳酸菌培養物4及びゼラチン層5は、上記図1の固形石鹸1と同様であるため、同一番号を付して説明を省略する。
【0029】
粒状体12は、カプセル状のゼラチン層5と、このゼラチン層5内に封入される乳酸菌培養物4とを有している。粒状体12は、石鹸本体2の内部全体に分散されている。粒状体12の形状及び大きさは特に限定されるものではない。粒状体12の形状は、箱状、球状、紡錘形状、フットボール型、長楕円型等であり(図3では球状を例示)、粒状体12の大きさは、例えば、5.0mm〜15.0mm程度の径を有する球状体である。粒状体12の分散濃度は、固形石鹸11を任意の箇所から使用した場合に乳酸菌が洗浄箇所に行き渡る範囲であれば特に限定されるものではなく、例えば、10質量%〜50質量%である。
【0030】
粒状体12は、カプセル状のゼラチン層5の内部に乳酸菌培養物4が封入されている。そのため、粒状体12が石鹸本体2の内部全体に分散されることによって、乳酸菌培養物4も石鹸本体2の内部全体に分散されていることになる。従って、当該固形石鹸11は、任意の部分から使用、消費していった場合であっても、乳酸菌培養物4において培養されている乳酸菌を洗浄箇所に確実に行き渡らせることができ、ひいては乳酸菌が有する作用を効率的に発揮させることができる。
【0031】
当該固形石鹸11は、上記固形石鹸1と同様、ゼラチン層5によって、乳酸菌培養物4が弱アルカリ性の石鹸本体2と接触しないように保持されているので、耐アルカリ性を有しない乳酸菌の死滅を効果的に防止することができる。従って、当該固形石鹸11は、乳酸菌培養物4において培養される乳酸菌の生存率を高めることができ、乳酸菌培養物4が有する人間の諸機能に有益な作用を最大限に発揮させることができる。また、乳酸菌には環境浄化作用を有するものもあるので、当該固形石鹸11は環境汚染の改善にも寄与することができる。
【0032】
固形石鹸11の製造方法について説明する。まず粒状体12を製造する。粒状体12は公知の方法によって製造可能である。この粒状体12は、例えば、一対のダイロール間に二枚のゼラチンシートを供給し、その上から乳酸菌培養物4を供給して、さらに、ダイロールにおける成形突起の作用によって乳酸菌培養物4をゼラチンシートによって包み込むことによって製造することができる。この粒状体12の比重は、好ましくは1.1〜1.5であり、さらに好ましくは1.1〜1.2である。粒状体12の比重が上記範囲内にあることで、後述する石鹸膠との比重差が小さくなり、粒状体12を石鹸膠中にほぼ均一に分散させることが可能となる。次に、固形石鹸11の基剤として公知のものを用いて石鹸膠をつくり、この中に粒状体を添加してほぼ均一に分散させたうえで枠に流し込んで冷却固化させる。冷却固化後に枠から抜き、縦5.5cm、横8.0cm、高さ2.5cmの寸法に切断したうえ乾燥させて整形することにより固形石鹸11が得られる。
【0033】
次に、当該固形石鹸(1又は11)を用いた送達方法について説明する。この送達方法は、微生物の体表面への送達方法であって、当該固形石鹸(1又は11)を用いて体表面を洗浄することで、活性を有した状体で微生物を体表面に送達することを特徴とする。この送達方法の実施形態の例としては、
(1)層状体3又は粒状体12が露出している固形石鹸(1又は11)の表面と送達箇所とを直接接触させる方法、
(2)層状体3又は粒状体12が露出している固形石鹸(1又は11)の表面をバススポンジ等の洗浄器具と接触させて、乳酸菌培養物4を洗浄器具に付着させたうえで、この洗浄器具と送達箇所とを接触させる方法等を挙げることができる。
【0034】
この送達方法によると、乳酸菌培養物4において培養される乳酸菌を、送達箇所に容易かつ確実に、かつ活性を有しつつ行き渡らせることができる。従って、この送達方法は、乳酸菌が有する人間にとって有益な作用を最大限発揮させることができる。また、この送達方法は、水などによって、固形石鹸(1又は11)、洗浄器具又は送達箇所を事前に濡らしたうえで行うことが好ましい。これにより、乳酸菌をさらに効率的に送達させることができる。
【0035】
尚、本発明は上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、石鹸本体には、固形石鹸に通常用いられる成分を、本発明の効果を損なわない範囲において任意に併用することが可能である。例えば、石鹸本体には、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコール、ソルビトール、グリセリン、ショ糖等のポリオール類、アニオン、両性、ノニオン等の界面活性剤、スクワラン、スクワレン、流動パラフィン、ラノリン誘導体、脂肪酸、高級アルコール等の過脂肪剤、タルク、マイカ、セリサイト、炭等の体質顔料、アロエエキス、チャエキス、カミツレエキス等の植物抽出エキス類、保湿剤、パール化剤、香料、着色料、酸化防止剤、殺菌剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤等を配合することができる。
【0036】
また、固形石鹸のゼラチン層によって被覆されている微生物培養物の微生物の種類は、乳酸菌に限られるものではなく、人間の諸機能に対して有益であり、かつ耐アルカリ性を有しないものであれば好適に用いることができる。そのような微生物の例として例えば、光合成菌、酵母菌、放線菌及び麹菌等が挙げられる。これらの微生物は、乳酸菌と共に用いてもよい。さらに、当該固形石鹸は、微生物培養物がゼラチン層に被覆されていればよいので、例えば、微生物培養物を成分として含んでいるヨーグルトをゼラチン層によって被覆するものであってもよい。
【0037】
微生物培養物及び微生物培養物を被覆しているゼラチン層の形態は、特に限定されるものではなく、固形石鹸を使用して洗浄した場合に、微生物培養物が洗浄箇所に行き渡るものであればよい。例えば、石鹸本体を、固形石鹸の上下面に対して平行又は垂直に分断する複数の板状体の縞模様を形成していてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0039】
[実施例1]
使用する材料(括弧内は重量%)
牛脂(22.4)
ヤシ油(11.3)
ヒマシ油(2.4)
ラウリン酸(1.6)
ミリスチン酸(2.7)
パルミチン酸(2.5)
エタノール(21.4)
水酸化ナトリウム(6.9)
蒸留水(11.7)
砂糖(13.5)
ソルビット液(3.6)
【0040】
牛脂、ヤシ油及びヒマシ油の油脂と、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸の脂肪酸と、エタノールとを上記割合でケン化釜中で混合し、50°〜70°まで加温した。そこへ蒸留水に溶解させた水酸化ナトリウムを注加し、70°〜80°に保ちながらケン化させた。このケン化反応終了後に、液温を約70°に保ちながら、これに砂糖及びソルビット液を添加溶解させて石鹸膠を得た。
【0041】
次に、この石鹸膠を二等分してそれぞれを枠に流し込んで冷却固化させた。この固化後に枠から抜き、縦5.5cm、横8.0cm、高さ1.2cmの寸法に切断したうえ乾燥させて整形し、一対の石鹸本体を得た。この一対の石鹸本体の一片の上面に厚さ0.5mmの薄板状のゼラチン層を置き、このゼラチン層の上面に乳酸菌(ラクトバチルス・ブルガリクス及びラクトバチルス・アシドフィラス)培養物を約0.5mmの層として添加した。さらにこの乳酸菌培養物の上に厚さ0.5mmの薄板状のゼラチン層を重ねた。次いで、このゼラチン層の上から、もう一片の石鹸本体を重ねたうえで上面側から加圧した。これにより、逐次重ねた石鹸本体、ゼラチン層、乳酸菌培養物、ゼラチン層及び石鹸本体をそれぞれ圧着させて、固形石鹸を得た。
【0042】
[実施例2]
一対のダイロール間に二枚のゼラチンシートを供給し、その上から乳酸菌(ラクトバチルス・ブルガリクス及びラクトバチルス・アシドフィラス)培養物を供給した。さらに、ダイロールにおける成形突起の作用によってこの乳酸菌培養物をゼラチンシートによって包み込み、長径12.8mm、短径8.1mm、比重1.2の長楕円型の粒状体を得た。上記実施例1と同様の手順で得た石鹸膠に対して、分散濃度30質量%の割合で粒状体を添加し、ほぼ均一に分散させたうえで枠に流し込んで冷却固化させた。ここで、各粒状体の比重が1.2であり石鹸膠との比重差が小さいため、各粒状体を石鹸膠中において均一に分散させることができた。冷却固化後に枠から抜き、縦5.5cm、横8.0cm、高さ2.55cmの寸法に切断したうえ乾燥させて整形し、固形石鹸を得た。
【0043】
[実施例3]
使用する材料(括弧内は重量%)
オリーブ油(68.2)
水酸化ナトリウム(7.9)
蒸留水(23.9)
【0044】
蒸留水に水酸化ナトリウムを注加した後、この水溶液が40°になるまで冷却した。この水溶液を、40°になるまで加熱したオリーブ油に混合して攪拌しつつケン化させた。この後、適宜攪拌を行い、約24時間後に石鹸膠を得た。次に、この石鹸膠を二等分してそれぞれを枠に流し込んで冷却固化させた。この固化後に枠から抜き、縦5.5cm、横8.0cm、高さ1.2cmの寸法に切断したうえ乾燥させて整形し、一対の石鹸本体を得た。この一対の石鹸本体の一片の上面に、上記実施例1で示したのと同様に、順次ゼラチン層、乳酸菌(ラクトバチルス・ブルガリクス及びラクトバチルス・アシドフィラス)培養物、ゼラチン層及びもう一片の石鹸本体を重ねていき、上面側から加圧することによってそれぞれ圧着させて固形石鹸を得た。
【0045】
[比較例1]
上記実施例1と同様の手順で得た石鹸膠を枠に流し込んで冷却固化させ、この固化後に枠から抜き、縦5.5cm、横8.0cm、高さ2.55cmの寸法に切断したうえ乾燥させて整形し、固形石鹸を得た。
【0046】
[特性の評価]
上記実施例1〜3、及び比較例1の固形石鹸に基づいて、専門パネラーにより、1日1回30日間継続して使用した場合の使用性評価を行った。
【0047】
この結果、実施例1〜3については、肌荒れが治り、肌が滑らかになり、皺が減り、また体臭が軽減されるという効果が確認できた。一方、比較例については、上記効果は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明の固形石鹸及びこれを用いた送達方法は、耐アルカリ性を有しない微生物の固形石鹸中における生存率を最大限高めることができ、ひいてはこれらの微生物が有する人間の諸機能に対して有益な作用を最大限引き出すことができる。従って、このような固形石鹸を用いて洗浄することによって、快適な使用感が得られ、健康を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る固形石鹸を示す概観正面図である。
【図2】図1の固形石鹸の概観平面図である。
【図3】図1の固形石鹸の製造過程を示す概観斜視図である。
【図4】図1の固形石鹸とは異なる形態に係る固形石鹸を示す概観断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 固形石鹸
2 石鹸本体
3 層状体
4 乳酸菌培養物
5 ゼラチン層
11 固形石鹸
12 粒状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐アルカリ性を有しない微生物培養物と、
この微生物培養物を被覆しているゼラチン層と、
このゼラチン層に外接している石鹸本体と
を備える固形石鹸。
【請求項2】
上記微生物は少なくとも乳酸菌を含む請求項1に記載の固形石鹸。
【請求項3】
一対のゼラチン層間に微生物培養物を積層した層状体が石鹸本体を少なくと二片に分断するように配設されている請求項1又は請求項2に記載の固形石鹸。
【請求項4】
固形石鹸が扁平な略四角柱状体又は略円柱状体であり、
上記層状体が、固形石鹸の上下面に対して平行又は垂直に形成されている請求項3に記載の固形石鹸。
【請求項5】
カプセル状のゼラチン層内に微生物培養物を封入した複数の粒状体が石鹸本体内に分されている請求項1又は請求項2に記載の固形石鹸。
【請求項6】
微生物の体表面への送達方法であって、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の固形石鹸を用いて体表面を洗浄することで、活性を有した状態で微生物を体表面に送達することを特徴とする送達方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−90195(P2010−90195A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258832(P2008−258832)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(508298802)
【Fターム(参考)】