説明

土木用ジオグリッド

【課題】バイオマス由来ポリマーを少なくとも25wt%以上含有し、環境負荷を低減しながらも力学物性を満たし、かつ経済的に生産できる土木用ジオグリッドを提供する。
【解決手段】基布に樹脂加工を施してなるジオグリッドであって、該基布が、バイオマス由来ポリマーを含んでなる強度5cN/dtex以上、伸度25%以下の繊維から構成され、350以上900未満のカバーファクターと、目合いの1辺が3〜50mmである四辺形のメッシュ状形態を有してなり、かつ、前記バイオマス由来ポリマーのジオグリッドに対する含有比率が25〜50質量%であることを特徴とする土木用ジオグリッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良、地盤強化等の土木工事に際し、土中に敷設して使用される土木用ジオグリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある化石燃料資源を原料としているが、近年、該化石燃料資源はその埋蔵残量が懸念されるだけでなく、焼却廃棄時に発生する二酸化炭素についても地球温暖化を誘引するものとして大きな社会問題となっている。したがって、上記の課題をクリアする新たな資源の探索・開発が急務となっている。この中で、バイオマス由来物質は、廃棄後においても余分な二酸化炭素を産出しない資源として注目を集めている。これは、バイオマス由来の物質から製造された資材等は、燃焼させても、その際に発生する二酸化炭素はもともと大気中にあったものであり、人類の産業活動のタイムスケールにおいて、大気中の二酸化炭素のマクロバランスとしては増加しないという考え方に基づくものである。これはカーボンニュートラルと称され、重要視される傾向にある。
【0003】
例えば、バイオマス由来のプラスチック製品は、石油系由来のプラスチック製品に比べて環境負荷が少なく、かつ炭酸ガスのバランスを崩すことが無いなどの特徴を有するため、地球温暖化防止、化石燃料資源の節約、自然環境の保全に資するとの認識が社会的に定着しつつある。また一方、バイオマス由来のプラスチック製品の普及促進を図るため、既存の石油系由来のプラスチック製品と識別するための制度として、民間の任意団体である日本バイオプラスチック協会が「バイオマスプラ識別表示制度」を提唱し、その中で、バイオマス由来ポリマー成分を25.0質量%以上含むことを認定基準としている。
【0004】
ここで、土木用ジオグリッドに焦点をあてると、合成繊維を製織しさらにこの基布を樹脂加工してなる土木用ジオグリッドが開示されている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、これらの開示技術は全て石油系由来ポリマーを使用したものであり、バイオマス由来ポリマーを使用した記載もなく、また、その必要性を示唆した記載も無い。
【0005】
したがって、環境に配慮したバイオマスを使用した土木用ジオグリッドの作製技術は見出されていない。とは言いながらも、現状ではバイオマス由来ポリマーは汎用樹脂と比較して生産量が少ないため、安価ではないという問題点も抱えている。
【0006】

【特許文献1】特開2004−036006号公報
【特許文献2】特開2001−140259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な現状に鑑みて行われたものであり、バイオマス由来ポリマーを少なくとも25wt%以上含有することで二酸化炭素発生量を低減するなど環境に優しく、また石油系ポリマーと併用することで経済的に生産できる土木用ジオグリッドを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、基布に樹脂加工してなる土木用ジオグリッドにおいて、バイオマス由来ポリマーを土木用ジオグリッド全質量に対し25〜50質量%の範囲で含有することにより、環境に優しく、かつ物性的に遜色のない土木用ジオグリッドを得ることができるという知見を見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の構成を要旨とする。
(a).基布に樹脂加工を施してなるジオグリッドであって、該基布が、バイオマス由来ポリマーを含んでなる強度5cN/dtex以上、伸度25%以下の繊維から構成され、200以上900未満のカバーファクター(CF:下記式(1))と、目合いの1辺が3〜50mmである四辺形のメッシュ状形態を有してなり、かつ、前記バイオマス由来ポリマーのジオグリッドに対する含有比率が25〜50質量%であることを特徴とする土木用ジオグリッド。
(b).前記基布が、バイオマス由来ポリマーを芯部、石油系由来ポリマーを鞘部に配した芯鞘型複合繊維により構成されていることを特徴とする(a)記載の土木用ジオグリッド。
(c).前記バイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維が芯鞘構造を呈した複合繊維であって、芯部がポリ乳酸、鞘部がポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする(a)および(b)記載の土木用ジオグリッド。
CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm
【発明の効果】
【0010】
本発明の土木用ジオグリッドは、バイオマス由来ポリマーを25〜50質量%含有しているため、従来のような全成分が石油系由来ポリマーからなる土木用ジオグリッドに比べ、焼却廃棄にあたっても大気中の二酸化炭素を増加させる度合いが少なく、地球温暖化を軽減する効果を奏する。
【0011】
また、本発明の土木用ジオグリッドは、脂肪族成分がリッチであるバイオマス由来ポリマーを構成成分として25〜50質量%含んでいながらも、強度5cN/dtex以上、伸度25%以下である繊維を用いて構成され、かつ、カバーファクターが好適な領域にあり、特定のメッシュ状形態を保持しているため、土木用ジオグリッドとして求められる力学特性や施工性などにおいて優れた性能を堅持している。また、これらの形態は、本発明における繊維からなる基布と加工樹脂とが緊密に接合されているため、土中での垂直方向や傾斜面でのずり方法の力に対しても良好に保持できるものであり、これにより上記の力学特性や施工性などは安定して保持されるものである。
【0012】
本発明の土木用ジオグリッドは、地盤改良,地盤強化等の土木工事に際し,土中に埋めて敷設し使用される土木用ジオグリッドとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の土木用ジオグリッドとしては、バイオマス由来のポリマーを含んでなる繊維から構成された基布に樹脂加工を施してなる形態を有するものであり、基布と該基布に施された樹脂加工部とから構成される。
【0014】
本発明における基布を構成するバイオマス由来のポリマーからなる繊維(以下、本発明における繊維と称する場合がある。)としては、基布を形成する経糸および緯糸として使用されるものであり、強度が5cN/dtex以上、伸度が25%以下のフィラメントであることが必要であり、好ましくは、強度が7〜15cN/dtex、伸度が10〜22%である。ここで、該繊維の強度が5cN/dtex未満であると、施工時および施工後にかかる応力に耐えられないものとなる場合がある。また、該繊維の伸度が25%を超えて大きくなると、工事後の土石の滑りが生じたときに土木用ジオグリッドが伸張され崩壊が生ずる場合がある。
【0015】
すなわち、本発明における繊維が、強度が5cN/dtex以上、伸度が25%以下の特性を有することで、後述のようなバイオマス由来のポリマー含有比率を有するジオグリッドでありながら、石油系由来のポリマーのみからなる従来のジオグリッドに対して遜色のない力学特性を保持できることになる。
【0016】
本発明におけるバイオマス由来のポリマーとしては、溶融紡糸が可能であるものであればよく、特に限定されるものではない。具体的にはPLA(ポリ乳酸)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)やPBS(ポリブチレンサクシネート)などバイオマス由来のモノマーを科学的に重合してなるポリマー類やポリヒドロキシ酪酸などのPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)などの微生物生産系を挙げることができる。好ましくは耐熱性的に安定で、比較的量産化されてきているポリ乳酸がよい。
【0017】
ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸またはポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体などが挙げられる。
【0018】
また、ポリ乳酸を使用する場合、上記のようにD−乳酸とL−乳酸が単独で用いられているもの、もしくは併用されているものであるが、中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。例えば、ポリ乳酸のホモポリマーであるポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られに難くなるという問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなるため好ましくない。そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸やD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上とすることが好ましい。
【0019】
また、使用されるポリ乳酸が、上記したようなポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)の場合は、融点が200〜230℃と高く、摩擦熱などの影響を受けにくいため、特に好ましい。また、使用されるポリ乳酸がポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグルコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられ、中でもヒドロキシカプロン酸またはグルコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。また、このようなポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合では、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。ポリ乳酸が80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0020】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲にすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性がさらに向上する。
【0021】
また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。さらに、本発明の目的を損なわない範囲であれば必要に応じて、ポリ乳酸中に熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び/又は有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0022】
本発明の土木用ジオグリッドにおいて使用されるバイオマス由来ポリマー以外のポリマーとしては、特に限定されるものではないが、基布として使用する場合には溶融紡糸が可能な石油系由来ポリマーであることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタテート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル:ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11およびナイロン12に代表されるポリアミド:ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン:ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー:ポリ4フッ化エチレンならびにその共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどに代表されるフッ素系繊維、ビニロン樹脂などが挙げられる。好ましくは低コストであるポリエステルやポリアミド系ポリマーがよい。またより好ましくは、バイオマス系ポリマーでは脂肪族ポリエステル系ポリマーが多いことから、相溶性の面からポリエステル系がよい。特に好ましくはコスト面や取扱い性からポリエチレンテレフタレートがよい。
【0023】
また、粘度、熱的特性、相溶性を鑑みてポリエステル系ポリマーには、他のモノマー成分を共重合させてもいてもよい。例えば、酸成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸:アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられ、アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールなどが挙げられる。また、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸:ε―カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどを共重合していてもよい。
【0024】
また、本発明における基布としては、特に限定されるものではなく、織物や編物で対応できる。強力が求められる分野であれば、原糸の強力が反映され易い織物が好ましく、グリッドのような目の粗いものが要求される場合には緯糸挿入ラッセル編なども利用できる。織物についても特に制限するものではなく、用途に応じて種々の形態をとることができ、該織物の組織選択については原糸や使用される状況下によって適時選択することが可能である。
【0025】
しかしながら、本発明における基布としては、特に織物の場合には、カバーファクター(CF)が200以上900未満であることが必要である。式(1)にカバーファクターの計算式を示す。
CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
ただし
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(dtex)
Ys:ヨコ糸繊度(dtex)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm
ここで、上記のCFが200未満である場合、得られた基布並びにジオグリッドの目合いが大きくなり過ぎるため補強に必要な強力を得ることができない。また土の滑り防止効果が期待できない。一方、CFが900以上である場合、目合いが小さくなるため補強材を介しての土のブリッジあるいは噛み合い効果は期待できない。
【0026】
さらに、本発明における基布としては、目合いの1辺が3〜50mmである四辺形のメッシュ状形態を有していることが必要であり、好ましくは5〜30mmである。ここで、目合いの1辺が3mm未満の場合、メッシュを介しての上下の土石のブリッジあるいは噛み合い効果が阻害され、引き抜き抵抗が減じられることとなり、補強の効果が薄れる結果となる。一方、目合いの1辺が50mmを超える場合、土石中のグリッド密度が少なくなり、土の滑り防止効果が少なくなる。
【0027】
本発明の土木用ジオグリッドにおいて、バイオマス由来ポリマーは繊維として基布に使用されるが、その方法・形態については特に制限されるものではない。具体的には、石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーからなる繊維とを合撚して使用する方法、生地の経緯方向に別々に製織して使用する方法、所定の間隔おきに石油系由来ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーからなる繊維を設定して使用する方法、バイオマス由来ポリマーからなる繊維に石油系由来ポリマーからなる繊維をカバーリングして使用する方法、また、石油系由来ポリマーとバイオマス由来ポリマーを使用した複合繊維およびこれらの組み合わせによる方法などを挙げることができる。この中でも、石油系ポリマーからなる繊維とバイオマス由来ポリマーからなる繊維との機械的物性や熱的物性が異なる点から、複合繊維として用いる方法が好ましい。
【0028】
また、該複合繊維としても、異形断面型複合繊維やサイドバイサイド型複合繊維、芯鞘型複合繊維など、公知の技術によって得られる繊維を適宜選択することができるが、本発明の土木用ジオグリッドの用途においては芯鞘型複合繊維であることが好ましい。さらには、上記芯鞘型複合繊維としては、その芯部と鞘部とがほぼ同心円状に配置された同心芯鞘複合繊維であることが、機械的物性や熱的物性に斑が生じにくいため、好ましい。このような構成とすることで、鞘部に均一に汎用ポリマーを配する効果を奏することができる。偏心上に存在すると鞘部の汎用ポリマー層に薄い箇所が生じ、該汎用ポリマー層が薄い箇所において、樹脂加工時に収縮が発生すると偏心され目ずれやしわの原因となる。このような芯鞘構造に複合繊維は、公知の技術によって製造することができる。
【0029】
さらに、上記の芯鞘複合繊維としては、バイオマス由来ポリマーを芯部、バイオマス由来以外のポリマーを鞘部に配した構造を有するものであることが好ましい。さらには、芯部をバイオマス由来ポリマーであるポリ乳酸、鞘部を石油系由来ポリマーであるエチレンテレフタレートとすることがより好ましい。
【0030】
また、上記芯鞘複合繊維における芯鞘比率(質量比率)としては、芯部/鞘部=50/50〜90/10であることが好ましい。バイオマス由来ポリマーを使用した芯部の比率が50未満の場合、バイオマス由来ポリマーの使用量が少ないため、本発明の趣旨にそぐわなくなるため好ましくない。また、芯部の比率が90を超える場合、力学特性や耐候性などを保持するための鞘部の厚みが少なくなるため、得られる土木用ジオグリッドの要求物性を維持できなくなる傾向となり、好ましくない。
【0031】
本発明の土木用ジオグリッドとしては、基布に樹脂加工を施してなるものであるが、当該樹脂の種類については、特に限定されるものではない。しかし、基布繊維との接着性を良好に保つためにも、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等を用いるのが好ましい。また、これら樹脂には、硬化剤、促進剤、顔料等の添加剤やタルク、石膏、クレー、炭酸カルシウム等のフィラーを必要に応じて混合していてもよい。また、基布に施される樹脂加工としては、該基布に対し好適に選定された樹脂を該基布に含浸させることで行われる。具体的な方法としては、特に限定するものではなく、ディッピング、コーティング、スプレー、塗装等の通常の手段を用いることができ、これらを組み合わせてもよい。
【0032】
本発明の土木用ジオグリッドにおけるバイオマス由来ポリマーの含量比率としては、土木用ジオグリッドの全質量に対し、25〜50質量%の範囲であることが必要である。バイオマス由来ポリマーの含有比率が25質量%未満の場合、例えばポリエチレンテレフタレートなどの従来の汎用ポリマーの含有割合が多くなるため、土木用ジオグリッドの力学物性などにおいては好ましい傾向になる。しかしながら、本発明の趣旨である環境負荷の軽減、カーボンニュートラルの観点にはそぐわないものであり、またバイオプラスチックの認定には当てはまらないものとなる。一方、バイオマス由来ポリマーの含有率が50質量%を超える場合、例えば、バイオマス由来ポリマーが脂肪族ポリエステルであり、基布を構成する繊維に使用される場合、得られた土木用ジオグリッドの力学強度や耐候性において求められる特性を保持できなくなる。
【0033】
したがって、本発明の土木用ジオグリッドでは、該含有比率が上記範囲であることにより、従来のような全成分が石油系由来ポリマーからなる土木用ジオグリッドに比べ、焼却廃棄にあたっても大気中の二酸化炭素を増加させる度合いが少なく、地球温暖化を軽減する効果を奏することができる。また、上記のような環境に対する効果と、土木用ジオグリッドに求められる力学特性や施工性などとを、バランス良く保持させることが可能となる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明について実施例をもって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、得られた繊維及び土木用ジオグリッドの評価は、以下の方法にて行った。
(1)糸強度:JIS L−1069に準じて測定した。
(2)糸伸度:JIS L−1069に準じて測定した。
(3)引張強力:ジオグリッドをJIS L−1069に準じて測定し,1m幅に換算した数値を用いて評価し、19.6cN/m以上を合格とした。
【0035】
(実施例1)
ポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比98.5/1.5(ネイチャーワークス社製)のものを用い、芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸が15モル%共重合されたPETを用い、それぞれのチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、共重合PETが鞘部、ポリ乳酸が芯部となるように配し、複合比(芯鞘質量比)を50/50とし、紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた複合繊維は、繊度1100dtex192フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度は5.4cN/dtex、切断伸度21.0%であった。この原糸を2本合撚した糸条を経糸に用い、1本撚糸した糸条を緯糸に用いてレピア織機にてCFが614(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)の2本絡み織り組織を製織した。次いでこの基布を下記組成からなる塩化ビニル樹脂に含浸し、150℃×3分の熱処理を施し、本発明の土木用ジオグリッドを得た。
[塩化ビニル樹脂液組成]
・塩化ビニルペーストレジン 100部 (ゼオン株式会社製ゼオン121)
・ジオクテルフタレート(可塑剤)40部
・メチルイソブチルケトン/ネフテン系シンナー10部(容積比:1/1、希釈剤)
【0036】
(実施例2)
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度1670dtex192フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は5.6cN/dtex、切断伸度は21.2%であった。この原糸を5本合撚した糸条を経糸および緯糸に用いてレピア織機にてCFが880(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)の4本絡み織り組織を製織した。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニル樹脂を加工し、本発明の土木用ジオグリッドを得た。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度1670dtex192フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は5.6cN/dtex、切断伸度は21.2%であった。この原糸を2本合撚した糸条を経糸に用い、1本撚糸した糸条を緯糸に用いてレピア織機にてCFが920(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)の2本絡み織り組織を製織した。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニル樹脂を加工し、土木用ジオグリッドを得た。
【0038】
(比較例2)
実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度1100dtex192フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は5.6cN/dtex、切断伸度は21.2%であった。この原糸を2本合撚した糸条を経糸に用い、1本撚糸した糸条を緯糸に用いてレピア織機にてCFが317(原糸比重は、芯鞘質量比が50/50なので(1.27+1.38)/2=1.325として計算を行った。)の2本絡み織り組織を製織した。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニル樹脂を加工し、土木用ジオグリッドを得た。
【0039】
(比較例3)
複合比(芯鞘質量比)を95/5とし、実施例1と同様に溶融紡糸を行い、繊度1400dtex210フィラメントの丸断面形状の複合繊維を得て、該繊維の引張強度は4.5cN/dtex、切断伸度は27.5%であった。この原糸を2本合撚した糸条を経糸に用い、1本撚糸した糸条を緯糸に用いてレピア織機にてCFが705(原糸比重は、芯鞘質量比が95/5なので(1.27×0.95+1.38×0.05)=1.276として計算を行った。)の2本絡み織り組織を製織した。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニル樹脂を加工し、土木用ジオグリッドを得た。
【0040】
(比較例4)
芳香族ポリエステルとして、融点217℃のイソフタル酸15モル%共重合したPETを減圧乾燥した後、溶融紡糸装置に供給して紡糸温度240℃で溶融紡糸を行った。得られた繊維は、繊度1100dtex192フィラメントの丸断面形状のものであり、引張強度は8.4cN/dtex、切断伸度16.4%であった。この原糸を2本合撚した糸条を経糸に用い、1本撚糸した糸条を緯糸に用いてレピア織機にてCFが601の2本絡み織り組織を製織した。次いでこの基布に実施例1と同様に塩化ビニル樹脂を加工し、土木用ジオグリッドを得た。
各実施例及び比較例について物性測定した結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果から実施例1および2は全ての項目で満足するものであり、従来の土木用ジオグリッドと遜色ない物性が得られた。また、環境に優しい素材であるといえる。一方、比較例1は、補強に必要な強力に問題はなかったが、カバーファクターが大きいため、目合いが小さく補強材を介しての土のブリッジあるいは噛み合い効果がなかった。比較例2は、カバーファクターが小さいため目合いが大きいものとなり、ジオグリッドに必要な強力を有しておらず、土の滑り防止効果がなかった。比較例3は、バイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維が強度、伸度共に構成要件を満たしていないため、得られる土木用ジオグリッドは強度的に劣るものであり、敷設後の土圧等には耐えられないものであった。比較例4は、物性には問題なかったが、バイオマス由来ポリマーを使用していないため、環境負荷の面で改善されていないものである。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布に樹脂加工を施してなるジオグリッドであって、該基布が、バイオマス由来ポリマーを含んでなる強度5cN/dtex以上、伸度25%以下の繊維から構成され、200以上900未満のカバーファクター(CF:下記式(1))と、目合いの1辺が3〜50mmである四辺形のメッシュ状形態を有してなり、かつ、前記バイオマス由来ポリマーのジオグリッドに対する含有比率が25〜50質量%であることを特徴とする土木用ジオグリッド。

CF=Td・(Ts/pt)1/2+Yd・(Ys/py)1/2 ・・・(1)
Td:タテ織密度(本/2.54cm)
Yd:ヨコ織密度(本/2.54cm)
Ts:タテ糸繊度(デシテックス)
Ys:ヨコ糸繊度(デシテックス)
pt:タテ糸材料の比重(g/cm
py:ヨコ糸材料の比重(g/cm
【請求項2】
前記基布が、バイオマス由来ポリマーを芯部、石油系由来ポリマーを鞘部に配した芯鞘型複合繊維により構成されていることを特徴とする請求項1記載の土木用ジオグリッド。
【請求項3】
前記バイオマス由来ポリマーを含んでなる繊維が芯鞘構造を呈した複合繊維であって、芯部がポリ乳酸、鞘部がポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする請求項1又は2記載の土木用ジオグリッド。



【公開番号】特開2009−228377(P2009−228377A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78088(P2008−78088)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】