説明

圧力容器及び水素貯蔵タンク並びに圧力容器の製造方法

【課題】ドーム部に巻き付けられる繊維束が口金部を通るように配列しても、口金部近傍から肩部にかけて圧力容器の軸方向の強度を高めるのにあまり寄与しない繊維を少なくできるとともに、同じ耐圧性を確保するのに必要な繊維量を減らすことができる圧力容器を提供する。
【解決手段】圧力容器11は、筒部12の両端にドーム部13を有する形状に形成され、ドーム部13の中心に口金部14備えている。圧力容器11は、ガスバリア性を有する円筒状の胴部15aの両端にドーム部15bを有するとともにドーム部15bの中心に口金部14を備えたライナ15と、その外側に樹脂含浸繊維束を巻き付けて硬化することにより形成された外殻16とを備えている。ドーム部13には内側に巻き付けられた繊維束層17aを覆う形状補正部材18が設けられ、形状補正部材18の外側にも繊維束層17bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力容器及び水素貯蔵タンク並びに圧力容器の製造方法に係り、詳しくはガスバリア性を有するライナと、樹脂含浸繊維束を前記ライナの外側に巻き付けて硬化することにより形成された繊維強化樹脂製の外殻とを備え、筒部の両端にドーム部を有する形状に形成されるとともに前記ドーム部の中心に口金部を備えた圧力容器及び水素貯蔵タンク並びに圧力容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮天然ガス(CNG)、液化天然ガス(LNG)等を収容する圧力容器は、一般にスチールやアルミニウム合金等の金属製のため重量が重い。また、近年、地球温暖化を抑制する意識が高まり、特に車両から排出される二酸化炭素の低減を目的として燃料電池電気自動車や水素エンジン自動車等の水素を燃料とした水素自動車の開発が盛んである。水素自動車としては、水素供給源として水素ガスが充填された水素タンクを搭載するものが一般的である。この場合、燃料タンクとなる圧力容器の重量が重いと燃費が悪くなる。この不都合を解消するため、ガスバリア性を有するライナを耐圧性の繊維強化樹脂(FRP)製の外殻で覆ったガスボンベが提案されている。
【0003】
FRP製の外殻はフィラメントワインディング法(以下、FW法と言う場合もある。)でライナ上に巻き付けられた樹脂含浸繊維層が硬化されることによって形成されている。薄肉回転対称体形状の圧力容器の主応力方向は軸方向と周方向で、繊維強化複合材においては繊維を主応力方向に配列するのが最適な繊維配列である。そのため、従来、圧力容器50のドーム部51に対しては図9に示すようなインプレーン巻(平面巻)又は図示しないヘリカル巻が行われ、円筒部52に対してはインプレーン巻又はヘリカル巻とフープ巻の組合せで繊維Fが配列されて圧力容器50が製造されている。
【0004】
しかし、通常のインプレーン巻やヘリカル巻の場合、繊維は全て圧力容器50の両端の口金53に接して折り返しているので、口金53近傍の肉厚すなわち口金53に接する繊維または繊維束による繊維層の肉厚が厚く、肩部(ドーム部と円筒部との境界付近)の肉厚が薄い構造となり、口金53の近傍に余分な繊維Fが存在する。この傾向は円筒部径と口金径の比が大きくなるほど顕著になる。このような繊維配列構成では、口金付近に繊維が集中し、形状不良となるとともに、繊維に無駄ができてコスト高となる。
【0005】
口金近傍の厚みがドーム部の他の部分に比べて過剰に厚くなるのを防止するため、図10に示すように、FW法により繊維強化層が形成された圧力容器50のドーム部51において、強化用の繊維Fが周回を重ねる毎に極点近傍を通る軌道から低緯度を通る軌道へ移行しながら巻かれている圧力容器50が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。強化用の繊維Fはエポキシ樹脂を含浸させながら、アルミニウム製のライナの円筒部に巻付け角度20°でヘリカル巻を行い、このとき、極点近傍から低緯度方向へ所定の角度まで軌道をずらせながらワインディングを行い、さらに円筒部52にフープ巻きを行うことが開示されている。
【0006】
また、ドーム部の口金付近に集中する不要な繊維を無くすとともに、容器全体の繊維量を減らすことができ、しかも繊維の巻付け時に繊維が横滑りせずに製造が容易となる圧力容器が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この圧力容器は、ライナの外側を覆う外殻を構成する繊維のドーム部における配列軌道が、口金に接する軌道と、口金に接しない軌道の2種類存在する。口金に接する軌道を通るように配列される巻付け繊維はインプレーン巻で巻き付けられている。図11に示すように、口金53に接しない軌道を通る巻付け繊維54の大部分は、円筒部52の端部で測地線の近くを通り配列角度が次第に大きくなるヘリカル巻55を経て、円筒部52に配列されるフープ巻56に連続するように配列されている。また、口金53に接しない軌道を通る巻付け繊維54は、ドーム部51における巻付け部の頂点とライナの軸線を含む平面上で前記頂点を通る接線Lに対して直交する平面上に位置するように配列される。
【特許文献1】特開平5−79598号公報(明細書の段落[0006]、[0009]、図1)
【特許文献2】特開2000−337594号公報(明細書の段落[0013]、[0014]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、圧力容器として高圧(例えば、20MPa以上)でガスが充填される場合、ヘリカル巻きやインプレーン巻きを用いて、口金部を通るように配列されて圧力容器の軸方向の強度を高めるのに寄与する繊維(繊維束)の量を増やすのが効果的である。前述した通りこの様に配列すると、口金部近傍の繊維束層の厚さがライナの胴部に近い位置に比較して増加する。
【0008】
この場合、口金部に厚く巻き付けられた繊維束層の上にさらに繊維束を巻き付ける際に繊維の滑りの問題や、形状不良の問題が発生し、口金部を通るように配列することが困難になる。また、口金部近傍から肩部にかけての部分で、前に巻き付けられた(配列された)繊維束を押圧する力が弱くなる。
【0009】
この対策として口金部近傍から肩部にかけての部分(低緯度部分)で繊維束を多く巻いて形状を補正する必要が生じる。この部分に巻かれる繊維束は軸方向の強度を高めるのにあまり寄与せず、ドーム部に巻く繊維束が増えた分円筒部においても余計に繊維を巻くこととなる。従って繊維量が増え、円筒部外径も大きくなる。
【0010】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的はドーム部に巻き付けられる繊維束が口金部を通るように配列しても、口金部近傍から肩部にかけて圧力容器の軸方向の強度を高めるのにあまり寄与しない繊維を少なくできるとともに、同じ耐圧性を確保するのに必要な繊維量を減らすことができる圧力容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ガスバリア性を有するライナと、樹脂含浸繊維束を前記ライナの外側に巻き付けて硬化することにより形成された繊維強化樹脂製の外殻とを備え、筒部の両端にドーム部を有する形状に形成されるとともに前記ドーム部の中心に口金部を備えた圧力容器である。そして、前記外殻は前記樹脂含浸繊維束により形成される少なくとも2層の繊維束層を有し、前記ドーム部上の繊維束層間のうち少なくとも1つに形状補正部材が設けられている。
【0012】
この発明では、形状補正部材がドーム部に巻き付けられた繊維束層を覆う状態で配置され、その外側に繊維束が巻き付けられる構成のため、ドーム部に巻き付けられる繊維束は口金部を通るようにさらに配列することが可能となり、また、前に巻き付けられた(配列された)繊維束を充分押圧するように緊張状態で巻き付けられる。その結果、ドーム部に巻き付けられる繊維束が口金部を通るように配列しても、口金部近傍から肩部にかけて圧力容器の軸方向の強度を高めるのにあまり寄与しない繊維を少なくできるとともに、同じ耐圧性を確保するのに必要な繊維量を減らすことができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記形状補正部材は、ライナ側に隣接する繊維束層の前記ライナの胴部に対応する部分の外径より小さな外径である。この発明では、形状補正部材の外径が前記部分の外径より大きな場合に比較して、形状補正部材の外側への繊維束の巻き付け(配列)が容易になる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記形状補正部材は、該形状補正部材のライナ側の面の形状が、ライナ側に隣接する繊維束層の表面に沿った形状に形成され、前記圧力容器の軸を含む断面における前記表面の凹部を埋めるように配置されている。
【0015】
従って、この発明では、ライナ側に隣接する繊維束層の表面を埋めるように配置された形状補正部材の存在により、そのライナと反対側の面に巻き付けられる繊維束は形状補正部材のライナと反対側の面に沿って確実に緊張された状態で配列され、圧力容器の強度が高くなる。また、形状補正部材のライナ側の面の形状がライナ側に巻き付けられた繊維束層の表面に沿った形状のため、ライナと反対側の面に繊維束が巻き付けられる際に既にライナ側に巻き付けられた繊維束層の繊維が形状補正部材を介して緊張され、また、既に巻き付けられた繊維束層の含浸樹脂のボイド発生が抑制されて圧力容器の強度アップに寄与する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記形状補正部材は、該形状補正部材のライナと反対側の面が前記ライナのドーム部外面の曲率より小さな曲率の曲面で形成されている。この発明では、形状補正部材のライナと反対側の面の曲率がライナのドーム部外面の曲率より大きな場合に比較して、ドーム部の形成により適切な形状となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記形状補正部材は、前記繊維束層の異なる層の間に配置された状態で複数設けられている。この発明では、ドーム部の形状を所望の形状に近い状態にすることが容易になる。また、圧力容器の強度を高めるために繊維束層の厚さを厚くする場合、容易に対応することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記形状補正部材は、ライナ側がライナと反対側より柔らかく形成されている。この発明では、形状補正部材がライナ側に巻き付けられた繊維束層を覆うように配置された状態で、そのライナと反対側に繊維束が巻き付けられる際、形状補正部材がライナ側の繊維束層に密着し易くなり、形状補正部材と繊維束層の間に空隙が生じ難くなる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の圧力容器を使用した水素貯蔵タンクである。従って、この発明では、同じ耐圧性の水素貯蔵タンクにおいて軽量化を図ることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明は、筒部の両端にドーム部を有する形状に形成されるとともにドーム部の中心に口金部を備え、かつガスバリア性を有するライナの外側に、樹脂含浸繊維束がフィラメントワインディングで巻き付けられた圧力容器の製造方法である。前記ライナをフィラメントワインディング装置の回転支持部に一体回転可能に固定し、前記ドーム部に形成される繊維束層の形状を整える環状の形状補正部材を、予め前記回転支持部と、前記ライナとの間のフィラメントワインディングに支障を来さない退避位置に準備した状態でフィラメントワインディングを行う。そして、前記繊維束の巻付け途中で、前記退避位置に準備した形状補正部材を移動させて、それまでに巻き付けられた繊維束層に接触する位置に配置した後、フィラメントワインディングを再開することを少なくとも1回行う。
【0021】
この発明では、ライナがフィラメントワインディング装置の回転支持部に支持された状態で、樹脂含浸繊維束がライナの外側に巻き付けられて繊維束層が形成される。そして、ライナを回転支持部から取り外すことなく、形状補正部材をドーム部に形成された繊維束層の適切な位置に配置することができる。従って、形状補正部材の配置及び配置後のフィラメントワインディングの再開に手間がかからない。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ドーム部に巻き付けられる繊維束が口金部を通るように配列しても、口金部近傍から肩部にかけて圧力容器の軸方向の強度を高めるのにあまり寄与しない繊維を少なくできるとともに、同じ耐圧性を確保するのに必要な繊維量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図5に従って説明する。図1は圧力容器の模式断面図、図2(a)はヘリカル巻の繊維束の配列状態を示す模式図、(b)はフープ巻の繊維束の配列状態を示す模式図、図3はヘリカル巻の繊維束のドーム部における配列状態(配列軌道)を示す模式図である。図4はフィラメントワインディング装置(以下、FW装置と称す。)の巻き取り部の模式側面図、図5はFW装置の模式平面図である。
【0024】
図1に示すように、圧力容器11は、筒部12の両端にドーム部13を有する形状に形成され、ドーム部13の中心に口金部14備えている。圧力容器11は、ガスバリア性を有するライナ15と、ライナ15の外側を覆う繊維強化樹脂(FRP)製の外殻16とを備えている。
【0025】
ライナ15は、円筒状の胴部15aの両端にドーム部15bを有する形状に形成されるとともに前記ドーム部15bの中心に口金部14を備えている。圧力容器11を水素貯蔵タンクとして使用する場合、ライナ15は、例えばアルミニウム合金を材質として形成される。口金部14には配管のプラグ等を螺合するためのねじ孔14aが形成されている。
【0026】
外殻16は、樹脂含浸繊維束(以下、単に繊維束と言う場合もある。)をライナ15の外側に巻き付けて硬化することにより形成されている。この実施形態では、FRPの強化繊維に炭素繊維が使用され、樹脂にはエポキシ樹脂が使用されている。
【0027】
ドーム部13には先に巻き付けられた繊維束層17aと、後から巻き付けられた繊維束層17bとの間(繊維束層間)に形状補正部材18が設けられている。即ち、形状補正部材18は、繊維束層17a及び繊維束層17bに挟まれた状態に配置されている。形状補正部材18は、繊維束層17aのライナ15の胴部15aに対応する部分の外径より小さな外径で、外面が該形状補正部材18の外側に巻き付けられる繊維束がくい込まない硬さに形成されている。また、形状補正部材18はその中央に繊維束層17aの口金部14近傍の部分の径と同じか、僅かに大きい径の孔が設けられている。この実施形態では形状補正部材18はエポキシ樹脂で形成されている。形状補正部材18は、該形状補正部材18のライナ15側の面の形状が、繊維束層17aの表面に沿った形状に形成され、圧力容器11の軸を含む断面における前記表面の凹部19を埋めるように配置されている。形状補正部材18は、ライナ15と反対側の面は凸でありその曲率がライナ15のドーム部15bの外面の曲率より小さな曲面で形成されている。また、繊維束層17aの口金部14近傍の部分と肩部を滑らかに結ぶ曲面で構成されている。
【0028】
外殻16を構成する繊維束はライナ15の外面に連続的に巻き付けられて所定の厚さの繊維束層に形成されている。繊維束20は図2(a)に示すようにヘリカル巻で巻き付けられるものと、図2(b)に示すようにフープ巻で巻き付けられるものとの2種類が存在する。フープ巻は胴部15aと対応する箇所にのみ巻き付けられている。
【0029】
ヘリカル巻を形成する繊維束20は、ドーム部13(15b)における配列軌道が、図3に実線で示すように口金部14の接線方向に延びる状態あるいは、図3に鎖線で示すように口金部14に僅かに巻付いた状態となるように配列されている。ヘリカル巻を構成する繊維束20の巻付け角度は、圧力容器11に要求される耐圧性にもよるが、例えば10度〜25度の範囲が好ましい。巻付け角度とは、筒部12において繊維束20と軸線方向との成す角度を意味する。
【0030】
次に前記のように構成された圧力容器11の製造方法を説明する。圧力容器11を製造する際は、FW装置を使用する。図4に示すように、FW装置31はライナなどの被巻付け部材を回転可能に支持する回転支持部としての一組のチャック32を備えている。また、図5に示すように、FW装置31は、繊維束供給部33、樹脂含浸装置34、繊維束ガイド35及び繊維束供給ヘッド36を備えている。繊維束供給ヘッド36は、チャック32に支持された被繊維束巻付け部材(この実施形態ではライナ15)の長手方向(図5における左右方向)に沿って往復移動可能に構成されている。繊維束供給ヘッド36は、複数のボビンBから供給される繊維束20を1本にまとめるとともに扁平なリボン状にしてライナ15に巻き付けるように構成されている。
【0031】
繊維束供給ヘッド36を往復移動させるアクチュエータ37には、ボールネジを使用するとともに、ナットと一体移動可能な移動体37aを1軸方向に移動させる構成の公知のものが使用されている。移動体37a上には、図示しない昇降用アクチュエータが固定され、繊維束供給ヘッド36は昇降用アクチュエータに取り付けられている。
【0032】
繊維束供給部33は、繊維束20が巻かれた複数(この実施形態では3つ)のボビンBが、張力調整装置(図示せず)に連結された支軸33aに支持される構成になっている。張力調整装置には例えばパウダーブレーキや、渦電流により支軸33aに負荷を加える構成の所謂パーマトルクが使用されている。繊維束20は、例えば、炭素繊維の無撚りのマルチフィラメントからなり、マルチフィラメントはフィラメント数が3000〜96000本程度である。
【0033】
樹脂含浸装置34は、樹脂槽34a及び塗布ローラ34bを備え、樹脂槽34aの上方にはボビンBから引き出された繊維束20を樹脂槽34aの所定位置に案内するローラと、樹脂槽34aで樹脂が含浸された後の繊維束20を案内するローラ(いずれも図示せず)とが設けられている。繊維束ガイド35は複数のボビンBから引き出された繊維束20がそれぞれ分離された状態で樹脂含浸作用を受けるように案内するため、櫛歯状のガイド部(図示せず)を備えている。
【0034】
チャック32は被繊維束巻付け部材をその軸心を中心に回転可能に支持し、可変速モータにより回転駆動される。そして、制御装置(図示せず)により可変速モータが制御されて、繊維束供給ヘッド36の移動速度と可変速モータの回転を同期させることにより、繊維束20の被繊維束巻付け部材に対する巻付け角度を任意の角度に設定して巻き付けることができるようになっている。
【0035】
そして、ライナ15をFW装置31のチャック32に一体回転可能に支持し、形状補正部材18をチャック32と、ライナ15との間のフィラメントワインディングに支障を来さない図4に示す退避位置に準備する。この実施形態では、形状補正部材18を一時的に支持する支持部材39が、FW装置31の両側においてチャック32上方を通ってチャック32に支持されるライナ15の口金部14付近まで延びるように設けられている。そして、各支持部材39の先端部39aが形状補正部材18の退避位置となり、形状補正部材18は支持部材39の先端部39aに掛けられた状態で支持される。
【0036】
この実施形態では、ライナ15は口金部14がチャック32に直接支持されるのではなく、ロッド38を介してライナ15がチャック32に支持される。ロッド38は、先端に口金部14のねじ孔14aと螺合する小径の雄ねじ部を有し、雄ねじ部がライナ15の口金部14に螺着されることにより口金部14が延長された状態となる。
【0037】
次に作業者は、繊維束供給部33から繊維束20を引き出し、樹脂含浸装置34、繊維束ガイド35等を経て繊維束供給ヘッド36に導き、繊維束供給ヘッド36に挿通した後、繊維束20の端部をライナ15の所定位置に固定する。繊維束20の端部の固定作業は作業者が手作業で行い、例えば粘着テープを使用して行われる。また、作業者は、フィラメントワインディング時の回転速度、繊維束供給ヘッド36の巻付け時の往復移動幅等の巻付け条件を制御装置(図示せず)に入力する。そして、その状態でフィラメントワインディングが行われる。
【0038】
先ずヘリカル巻で繊維束20が口金部14に接触する状態で配列されるとともに、両側のドーム部15bを経て1往復毎に巻付け位置がずれるようにして、ドーム部15bの全体が繊維束20で覆われるまで巻き付けられて、各ドーム部15bに1層分のヘリカル巻層が、胴部15aに2層分のヘリカル巻層が形成される。次にフープ巻層が胴部15aに所定層形成される。
【0039】
次に再びヘリカル巻が行われ、ドーム部15bにヘリカル巻が所定量巻き付けられると、フィラメントワインディングが中断されて、繊維束層17aの巻付けが完了する。ここで、所定量とはドーム部15bに巻き付けられた繊維束層において、口金部14近傍の厚さと、口金部14から離れた部分の厚さとの比が、繊維束20の巻付けを継続した場合、該繊維束20が前に巻き付けられた繊維束20に接しないか、接しても接圧力が小さくなる量を意味する。この量は、予め試験などで求められている。ヘリカル巻が所定量に達した状態では、繊維束層17aの表面(外面)の口金部14近傍は、圧力容器11の軸を含む断面においてライナ15の内側方向に凸の曲面となっており、凹部19が形成されている。その結果、繊維束層17aの表面に巻き付けられる繊維束20は、口金部14寄りにおいて、繊維束層17aに接しないか、接しても接圧力が小さくなる。なお、前記繊維束層の厚さとは、ドーム部15bの表面の法線方向における前記繊維束層の長さを意味する。
【0040】
次に退避位置に準備された形状補正部材18をロッド38に沿って移動させて、それまでに巻き付けられた繊維束層17aに接触する位置に配置する。形状補正部材18は、そのライナ15側面の形状が、繊維束層17aの表面に沿った形状に形成され、凹部19を埋めるように配置される。その後、フィラメントワインディングが再開され、前記と同様にヘリカル巻による巻き付けが行われ、繊維束層17bが形成される。そして、要求される耐圧性を確保するのに必要な厚さの繊維束層17bが形成されて繊維束20の巻付けが終了する。
【0041】
巻付けが終了した後、ライナ15とともに成形体がFW装置31から取り外されて加熱炉に入れられ、所定温度で樹脂が硬化される。硬化温度は樹脂により異なるが、例えばエポキシ樹脂の場合は80〜180℃程度である。加熱硬化によりFRP製の外殻16が形成される。冷却後、バリ等の除去が行われた後、口金部14のねじ孔14aに、水素充填及び排出用配管を接続するためのプラグ等が螺合されて圧力容器11が完成する。
【0042】
ドーム部15bを有するライナ15の外側に巻き付けられる繊維束20のドーム部15bにおける配列軌道が口金部14に接するようにフィラメントワインディングによってヘリカル巻あるいはインプレーン巻で巻き付けられる場合、繊維束層の厚さがライナ15の胴部15aに近い位置に比較して、口金部14近傍で厚くなる。そして、ドーム部15bに巻き付けられた繊維束層が増えると、口金部14近傍の繊維束20の割合が増加して、繊維束層表面の形状が圧力容器11の軸を含む断面において全体として外側に凸の曲面ではなく、口金部14近傍に凹部19を有する形状となる。そのため、後から巻き付けられる繊維束20が、前に巻き付けられた(配列された)繊維束層を押圧する力が弱くなる。しかし、この実施形態では、形状補正部材18が凹部19を埋める状態で配置され、その外側に巻き付けられる繊維束20は、形状補正部材18のライナ15と反対側の面である外側に凸の面に巻き付けられる構成のため、繊維束20はドーム部15bに緊張状態で巻き付けられる。その結果、圧力容器11の強度が高くなる。
【0043】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1)圧力容器11は、ガスバリア性を有するライナ15の外側に繊維強化樹脂製の外殻16を備え、筒部12の両端にドーム部13を有する形状でドーム部13の中心に口金部14を備えている。そして、ドーム部13上の繊維束層17a、17b間に形状補正部材18が設けられている。従って、ドーム部13を構成する繊維束は口金部を通るようにさらに配列することが可能となり、また、前に巻き付けられた(配列された)繊維束を充分押圧するように緊張状態で巻き付けられる。その結果、ドーム部13に巻き付けられる繊維束20が口金部14を通るように配列しても、口金部14近傍から肩部にかけて圧力容器11の軸方向の強度を高めるのにあまり寄与しない繊維を少なくできるとともに、同じ耐圧性を確保するのに必要な繊維量を減らすことができ、軽量化及び筒部12の薄肉化が可能になる。また筒部12の薄肉化により圧力容器の小径化も可能となる。
【0044】
(2)ドーム部13を構成する繊維束層17a,17bは、口金部14に接する状態で巻き付けられた繊維束20のみによって構成されている。従って、ドーム部13を構成する全ての繊維束20が圧力容器11の軸方向強度に効率よく寄与する。
【0045】
(3)形状補正部材18は、該形状補正部材18のライナ15側面の形状が、繊維束層17aの表面に沿った形状に形成され、前記表面の凹部19を埋めるように配置されている。従って、繊維束層17aの表面を埋めるように配置された形状補正部材18の存在により、その外側に巻き付けられる繊維束20は形状補正部材18のライナ15と反対側の面に沿って確実に緊張された状態で配列され、圧力容器11の強度が高くなる。また、外側の繊維束20が巻き付けられる際に既に内側に巻き付けられた繊維束層17aの繊維が形状補正部材18を介して緊張され、また、既に巻き付けられた繊維束層17aの含浸樹脂のボイド発生が抑制されて圧力容器11の強度アップに寄与する。
【0046】
(4)形状補正部材18は、ライナ15と反対側の面がライナ15のドーム部15b外面の曲率より小さな曲率の曲面で形成されている。従って、形状補正部材18のライナ15と反対側の面の曲率がライナ15のドーム部15b外面の曲率より大きな場合に比較して、圧力容器11のドーム部13の形成(繊維束20の巻付け)により適切な形状となる。
【0047】
(5)形状補正部材18は、ライナ15側面の繊維束層17aの胴部15aに対応する部分の外径より小さな外径である。従って、外側に繊維束20を巻き付けやすい。
(6)形状補正部材18を用いることにより、ドーム部15bに繊維束20が巻き付けられた状態から更に繊維束20を巻き付ける際に、ドーム部15bにおける繊維束20の配列軌道を予測するのが容易となり、設計が容易になる。
【0048】
(7)圧力容器11を製造する際、ライナ15をFW装置31のチャック32に一体回転可能に固定し、ドーム部15bに形成される繊維束層の形状を整える環状の形状補正部材18を、予めチャック32と、ライナ15との間のフィラメントワインディングに支障を来さない退避位置に準備した状態でフィラメントワインディングを行う。そして、繊維束20の巻付け途中で、前記退避位置に準備した形状補正部材18を移動させて、それまでに巻き付けられた繊維束層17aに接触する位置に配置した後、フィラメントワインディングを再開する。従って、フィラメントワインディングを中断して、形状補正部材18を繊維束層17aに接触する位置に配置する際、ライナ15をチャック32から取り外すことなく、形状補正部材18を繊維束層17aの適切な位置に配置することができ、形状補正部材18の配置及び配置後のフィラメントワインディングの再開に手間がかからない。
【0049】
(8)形状補正部材18を挿入することにより、外観形状が良くなる。従って、外観形状を整えるための繊維束20が少なくなり、軽量、コンパクトにでき、繊維束20の使用量が減って製造コストを低下することができる。
【0050】
(9)ライナ15をFW装置31のチャック32で支持する際、口金部14を直接支持するのではなく、ねじ孔14aに螺着されるロッド38を介して支持する。従って、口金部14の長さとして、ドーム部13を構成する繊維束20の巻付けに必要な長さと、チャック32で支持するのに必要な長さとの合計の長さに形成して、外殻16が形成された後に、圧力容器11として不要な部分を切断除去する手間がなくなる。また、ライナ15の製造に必要な材料を少なくできる。
【0051】
(10)繊維束20に炭素繊維が使用され、マトリックス樹脂にエポキシ樹脂が使用されているため、自動車の燃料タンクとして使用される強度を確保して、軽量化及びコンパクト化をより高めることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を図6に従って説明する。この実施形態は、形状補正部材18がドーム部13を構成する繊維束層の異なる層の間に配置された状態で複数設けられている点が前記第1の実施形態と異なっており、その他の構成は同じである。前記第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。なお、図6において、繊維束層17a,17b及び形状補正部材18の区別を分かり易くするため、形状補正部材18の断面部分をハッチング(斜線)ではなくドットを付して表している。
【0053】
図6に示すように、圧力容器11のドーム部13は、3層の繊維束層17aと、3個の形状補正部材18と、外層の繊維束層17bとを備えている。各形状補正部材18は、その厚さが第1の実施形態の形状補正部材18の厚さより薄く形成されている。ドーム部13を構成する繊維束層17a,17bの合計の厚さは、使用される繊維束20の太さ、繊維の強度、圧力容器11に要求される耐圧性等によって異なる。従って、圧力容器11に要求される耐圧性に必要な繊維束層17a,17bの合計の厚さが薄くて良ければ、第1の実施形態のように1個の形状補正部材18を使用するだけでよい場合もある。
【0054】
しかし、必要な繊維束層17a,17bの合計の厚さが厚い場合は、1個の形状補正部材18を使用しただけでは、フィラメントワインディングの途中で繊維束20の巻付けを中断するとともに、形状補正部材18を繊維束層17aに接するように配置して繊維束20の巻付け部の形状を補正しても、口金部14近傍の繊維量が過剰になる。その結果、同じ巻付け量において繊維束20による圧力容器11の軸方向への強度の寄与が少なくなるため、圧力容器11に要求される耐圧性を確保するのに必要な繊維束20の量が多くなるとともに、ドーム部13の形状の外観が悪くなる。しかし、この実施形態の構成では、形状補正部材18を複数使用することにより、繊維束20を圧力容器11の軸方向への強度の寄与が効果的に発揮される状態で巻き付けることができ、ドーム部13の形状の外観が良くなるとともに、必要な繊維束20の量が少なくなる。
【0055】
従って、この実施形態においては、前記第1の実施形態の効果(1)〜(10)と同様の効果を有する他に次の効果を有する。
(11)形状補正部材18は、ドーム部13を構成する繊維束層17a,17bの異なる層の間に配置された状態で複数設けられている。従って、ドーム部13の形状を所望の形状に近い状態にすることが容易になり、設計がより容易になるとともに外観上も良好になる。また、圧力容器11の強度を高めるためにドーム部13を構成する繊維束層17a,17bの合計厚さを厚くする場合、容易に対応することができる。
【0056】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 形状補正部材18は、ライナ15側の面の形状が滑らかな形状に限らない。例えば、図7に示すように、内径部分から外径部分に延びる溝(凹部)18aを形成してもよい。この場合、圧力容器11の製造時に形状補正部材18を繊維束層17aの表面と接する位置に配置した後、形状補正部材18の上に繊維束20を巻き付ける際、繊維束層17aから染み出した樹脂液を形状補正部材18の外径部分まで導き易くなり、形状補正部材18が繊維束層17aの表面に密着し易くなる。
【0057】
○ 図7に示すように、形状補正部材18に孔18bを形成してもよい。孔18bが存在すると、圧力容器11の製造時に形状補正部材18を繊維束層17aの表面と接する位置に配置した後、形状補正部材18の上に繊維束20を巻き付ける際、繊維束層17aから染み出した樹脂液が孔18bから形状補正部材18の外側に排出され易くなり、形状補正部材18が繊維束層17aの表面に密着し易くなる。図7に示すように、形状補正部材18に溝18a及び孔18bの両者を形成してもよい。
【0058】
○ 形状補正部材18は、ライナ15側の面の形状が、繊維束層17aの表面に沿った形状に形成されていなくてもよい。例えば、自由状態では一部が繊維束層17aから浮いた状態となる形状であっても、形状補正部材18の外側に巻き付けられる繊維束20の張力によって繊維束層17aの表面密着するように変形可能であればよい。
【0059】
○ 形状補正部材18は、ライナ15と反対側の面がライナ15のドーム部15b外面の曲率より小さな曲率の曲面で形成されているものに限らず、ドーム部15b外面の曲率以上の曲率の曲面で形成されていてもよい。しかし、ドーム部15b外面の曲率より小さな曲率の曲面の方がドーム部13の外観が良好になるとともに、繊維束20を巻き付ける際に繊維束20に適切な張力が加わる状態となり易い。
【0060】
○ 形状補正部材18の材質はエポキシ樹脂に限らない。例えば、形状補正部材18をエポキシ樹脂以外の樹脂で形成したり、繊維強化樹脂で形成したり、あるいは金属やセラミックスで形成したりしてもよい。しかし、金属やセラミックスに比較して樹脂の方が軽量化のためには好ましい。
【0061】
○ 形状補正部材18は全体が同じ硬さではなく、ライナ15側がライナ15と反対側より柔らかく形成されたものであってもよい。例えば、形状補正部材18をライナ15と反対側部分とライナ15側部分とが異なる硬さの材質で形成された2層構造としてもよい。例えば、ライナ15側にエラストマー層を設けてもよい。この場合、圧力容器11の製造時に、形状補正部材18のライナ15と反対側に繊維束20が巻き付けられる際、形状補正部材18がライナ15側の繊維束層17aに密着し易くなり、形状補正部材18と繊維束層17aの間に空隙が生じ難くなる。その結果、圧力容器11の強度が向上する。
【0062】
○ 形状補正部材18を熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)製とする場合、フィラメントワインディングの終了後、繊維束20に含浸された熱硬化樹脂が加熱炉で加熱されて硬化されるまでは、ライナ15側とライナ15と反対側とで異なる硬さとしてもよい。例えば、ライナ15と反対側は完全硬化された熱硬化性樹脂で形成し、ライナ15側を半硬化状態の同じ熱硬化性樹脂で形成してもよい。この場合も形状補正部材18のライナ15と反対側に繊維束20が巻き付けられる際、形状補正部材18がライナ15側の繊維束層17aに密着し易くなり、形状補正部材18と繊維束層17aの間に空隙が生じ難くなる。
【0063】
○ 形状補正部材18は、ライナ側に隣接する繊維束層のライナの胴部15aに対応する部分の外径より小さな外径に限らず、前記部分の外径以上であってもよい。しかし、外径より小さい方が好ましい。
【0064】
○ 形状補正部材18を径の異なる大きさの複数のリング(環状部材)で構成してもよい。
○ 形状補正部材18を複数の部材を組み合わせて環状となるように構成してもよい。この場合、フィラメントワインディングの際に、FW装置31のチャック32とライナ15との間の退避位置に形状補正部材18を予め準備しておかなくても、繊維束層17aの表面(外面)に接する位置に容易に配置できる。
【0065】
○ ドーム部13を構成する繊維束層17a,17bは、ヘリカル巻のみで構成されるものに限らず、ヘリカル巻で形成される繊維束層とインプレーン巻で形成された繊維束層とを組み合わせて構成されたものとしても、インプレーン巻のみで構成されたものとしてもよい。繊維束20がドーム部13に口金部14に接する状態で巻き付けられた場合、ライナ15の胴部15a外径と口金部14外径との比が大きい程、口金部14付近の繊維束層の厚さが他の部分の厚さより厚くなる。従って、胴部15a外径と口金部14外径との比と、圧力容器11に要求される耐圧性とにより、ドーム部13を構成する繊維束20をどの巻き方とするか適宜選択される。
【0066】
○ 実施の形態では、ドーム部13を構成する繊維束層17aはヘリカル巻層が形成され次にフープ巻層が形成され次に再びヘリカル巻が行なわれて形成され、また繊維束層17bはヘリカル巻が行なわれて形成されているが、この構成に限らない。巻き方の順番を入れ替えても良いし、さらに別の巻層を形成しても良いし、繊維束層17aのヘリカル巻層を1層省略してもよい。口金部14を通るように繊維束20が巻かれた巻層が形状補正部材18のライナ側に隣接する繊維束層にあればよい。
【0067】
○ ドーム部13に巻き付けられる繊維束20は、口金部14を通る軌道のみに限らない。口金部14を通らない低緯度巻きがあってもよい。
○ 第2の実施形態で3つの繊維束層間全てに形状補正部材18を配置したが、全てでなくても良い。少なくとも1つ配置されていればよい。
【0068】
○ 繊維束層は4層以上であってもよく、その場合も形状補正部材18は隣接する繊維束層間全てに配置される必要はなく、少なくとも1つの形状補正部材18が配置されていればよい。
【0069】
○ 圧力容器11は、ライナ15の内部に熱交換器を備えた構成としてもよい。ガスを圧力容器11内に高圧で充填する場合、圧縮による発熱のため短時間で充填するにはガスを冷却しながら充填する必要がある。特に圧力容器11を水素貯蔵タンクとして使用するとともに、内部に水素貯蔵物質(例えば、水素吸蔵合金)を充填した構成では、圧縮容器内部の冷却が必要になる。その場合、ライナ15内に熱交換器を内蔵することが好ましい。ライナ15内に熱交換器を内蔵する構成として、図8に示すように、ライナ15のドーム部15bとして、蓋部21を備えた構成としてもよい。例えば、ライナ15は一端側(図8に示されている部分)が分割式となっており、ドーム部15bに熱交換器22の外径より大きな径の開口部23が形成されるとともに、開口部23を覆うとともに熱交換器22が一体に構成された蓋部21を備えている。蓋部21は、胴部15a側にねじ24により固定されている。熱交換器22は熱媒管25、エンドプレート26、伝熱フィン27及び円筒状のフィルタ28を備えるとともに、エンドプレート26及び伝熱フィン27の間に水素吸蔵合金(図示せず)が充填されている。
【0070】
○ ライナ15の内部に熱交換器を備えた圧力容器11は、ライナ15を分割式にしなくてもよい。例えば、一端側のドーム部15b側に熱交換器を固定した後、他端側を絞り加工する。その後、フィラメントワインディング及び加熱硬化により外殻16を形成する。
【0071】
○ ライナ15はアルミニウム合金製に限らず、ステンレス鋼や銅等の他の金属製としたり、金属製に代えてガスバリア性を有する樹脂製としたりしてもよい。ライナ15を樹脂製とする場合は、ドーム部15bの中心部に金属製の口金部14を固着した構成とする。ライナ15を樹脂製とした場合、金属製に比較して軽量化に寄与できる。
【0072】
○ FW装置31のチャック32にライナ15を支持する際、ロッド38を介して支持する構成に代えて、口金部14をドーム部15bに巻き付けられる繊維束20の巻付け位置より長く形成する。そして、ライナ15を口金部14でチャック32に支持し、繊維束20の巻付け完了及び樹脂硬化後に、不要な部分を切断除去してもよい。
【0073】
○ 外殻16を構成するFRPのマトリックス樹脂として、圧力容器に要求される性能に合わせて、エポキシ樹脂に限らず他の熱硬化性樹脂(例えば、ポリイミド樹脂)や、曲げ弾性率の高い熱可塑性樹脂(例えばポリエーテルエーテルケトン)等を使用してもよい。また、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の他の樹脂を使用してもよい。この場合樹脂の価格がエポキシ樹脂より安いのでコスト低減を図れる。
【0074】
○ 予め炭素繊維に樹脂が含浸されたプリプレグ繊維を使用してもよい。この場合、樹脂含浸装置が不要のため、工数低減ができるとともに、樹脂含浸装置のスペース分、装置全体の設置スペースを狭くできる。
【0075】
○ 繊維束20の材質は炭素繊維に限らず、圧力容器に要求される性能に合わせて、ガラス繊維等の他の無機繊維やポリアラミド繊維等の高強度、高弾性率の有機繊維を使用してもよい。
【0076】
○ ライナ15の胴部15aは円筒状に限らず、断面楕円形や多角形の筒状であってもよい。但し、繊維束20が胴部15a及びほぼ半球状のドーム部15bにわたって滑らかに連続して巻き付けられる形状とする必要がある。
【0077】
○ マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂に代えて紫外線硬化樹脂を使用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項1〜請求項5に記載の発明において、前記ドーム部を構成する繊維束層は、前記口金部に接する状態で巻き付けられた繊維束のみによって構成されている。
【0078】
(2)請求項1〜請求項5に記載の発明において、前記ドーム部に巻き付けられた繊維束層は、前記口金部に接する状態でかつヘリカル巻で巻き付けられた繊維束のみによって構成されている。
【0079】
(3)筒部の両端にドーム部を有する形状に形成されるとともにドーム部の中心に口金部を備え、かつガスバリア性を有するライナの外側に、樹脂含浸繊維束がフィラメントワインディングで巻き付けられた圧力容器の製造方法であって、前記ライナをフィラメントワインディング装置の回転支持部に一体回転可能に固定した状態でフィラメントワインディングを行い、前記ドーム部に巻き付けられた繊維束によって形成される繊維束層の外形が、その外側に巻き付けられる繊維束からの押圧力が予め設定された値以下になる形状になると、それまでに巻き付けられた繊維束層の外側に形状補正部材を配置してその上から繊維束を再び巻き付けて繊維束層を形成する圧力容器の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1の実施形態における圧力容器の断面図。
【図2】(a)はヘリカル巻の繊維束の配列状態を示す模式図、(b)はフープ巻の繊維束の配列状態を示す模式図。
【図3】ヘリカル巻の繊維束のドーム部における配列状態(配列軌道)を示す模式図。
【図4】FW装置の巻き取り部の模式側面図。
【図5】FW装置の模式平面図。
【図6】第2の実施形態における圧力容器の部分断面図。
【図7】別の実施形態の形状補正部材を裏側から見た図(背面図)。
【図8】別の実施形態における圧力容器の部分断面図。
【図9】インプレーン巻の繊維の配列状態を示す模式図。
【図10】従来技術の圧力容器におけるドーム部の繊維の配列状態を示す模式図。
【図11】別の従来技術におけるヘリカル巻の配列状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0081】
11…圧力容器、12…筒部、13,15b…ドーム部、14…口金部、15…ライナ、15a…胴部、16…外殻、17a,17b…繊維束層、18…形状補正部材、19…凹部、20…繊維束、31…FW装置、32…回転支持部としてのチャック。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスバリア性を有するライナと、樹脂含浸繊維束を前記ライナの外側に巻き付けて硬化することにより形成された繊維強化樹脂製の外殻とを備え、筒部の両端にドーム部を有する形状に形成されるとともに前記ドーム部の中心に口金部を備えた圧力容器であって、
前記外殻は前記樹脂含浸繊維束により形成される少なくとも2層の繊維束層を有し、
前記ドーム部上の繊維束層間のうち少なくとも1つに形状補正部材が設けられている圧力容器。
【請求項2】
前記形状補正部材は、ライナ側に隣接する繊維束層の前記ライナの胴部に対応する部分の外径より小さな外径である請求項1に記載の圧力容器。
【請求項3】
前記形状補正部材は、該形状補正部材のライナ側の面の形状が、ライナ側に隣接する繊維束層の表面に沿った形状に形成され、前記圧力容器の軸を含む断面における前記表面の凹部を埋めるように配置されている請求項1又は請求項2に記載の圧力容器。
【請求項4】
前記形状補正部材は、該形状補正部材のライナと反対側の面が前記ライナのドーム部外面の曲率より小さな曲率の曲面で形成されている請求項3に記載の圧力容器。
【請求項5】
前記形状補正部材は、前記繊維束層の異なる層の間に配置された状態で複数設けられている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の圧力容器。
【請求項6】
前記形状補正部材は、ライナ側がライナと反対側より柔らかく形成されている請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の圧力容器。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の圧力容器を使用した水素貯蔵タンク。
【請求項8】
筒部の両端にドーム部を有する形状に形成されるとともにドーム部の中心に口金部を備え、かつガスバリア性を有するライナの外側に、樹脂含浸繊維束がフィラメントワインディングで巻き付けられた圧力容器の製造方法であって、
前記ライナをフィラメントワインディング装置の回転支持部に一体回転可能に固定し、前記ドーム部に形成される繊維束層の形状を整える環状の形状補正部材を、予め前記回転支持部と、前記ライナとの間のフィラメントワインディングに支障を来さない退避位置に準備した状態でフィラメントワインディングを行い、前記繊維束の巻き付け途中で、前記退避位置に準備した形状補正部材を移動させて、それまでに巻き付けられた繊維束層に接触する位置に配置した後、フィラメントワインディングを再開することを少なくとも1回行うことを特徴とする圧力容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−132746(P2006−132746A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325340(P2004−325340)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】