説明

圧力測定装置およびこれを備える車両

【課題】深い穴が形成された金属部材を有する圧力センサによって水素の圧力を測定する際に、圧力センサから出力される圧力値を的確に補正する。
【解決手段】圧力測定装置100は、水素消費装置に供給する水素が貯えられる水素貯留部12と、一端が開口し他端に底を有する穴部であって前記水素貯留部から供給された水素の少なくとも一部が導入される穴部72を備えた金属部材62と、この金属部材62の外面の、前記穴部72の底面に対向する位置に設けられた圧力検出素子78と、この圧力検出素子78によって得られた電気信号を、前記水素の圧力を示す圧力値として出力する出力部と、を備える圧力センサ60とを備える。圧力測定装置100は、更に、圧力センサ60から出力された圧力値が所定値以上の場合に、この圧力値の補正を行う補正部130を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の圧力を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧な気体の圧力を検出する圧力センサとして、例えば、特許文献1に開示された圧力センサがある。特許文献1に記載の圧力センサは、42アロイ等の低熱膨張金属からなる金属部材に深い穴が形成された構造を有している。この圧力センサでは、前述した穴に、測定対象となる高圧な気体を導入し、その穴の底部の変形を歪みゲージで検出することで、気体の圧力を測定している。特許文献1に記載の圧力センサは、このような構造の金属部材を採用することにより、高圧な気体に対する耐圧強度を高めている。
【0003】
しかし、このような圧力センサによって、高圧な水素ガスの圧力を測定しようとすると、金属部材の内部を水素が透過する現象が生じる場合があった。特に、透過した水素が、金属部材と歪みゲージとの間に滞留すると、滞留した水素の圧力によって、歪みゲージの出力が変動し、圧力センサからの出力値に誤差が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−296198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、深い穴が形成された金属部材を有する圧力センサによって水素の圧力を測定する際に、圧力センサから出力される圧力値を的確に補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]水素の圧力を測定する圧力測定装置であって、水素消費装置に供給する水素が貯えられる水素貯留部と、一端が開口し他端に底を有する穴部であって前記水素貯留部から供給された水素の少なくとも一部が導入される穴部を備えた金属部材と、前記金属部材の外面の、前記穴部の底面に対向する位置に設けられた圧力検出素子と、前記圧力検出素子によって得られた電気信号を、前記水素の圧力を示す圧力値として出力する出力部と、を備える圧力センサと、前記圧力センサから出力された圧力値が所定値以上の場合に、該圧力値を補正する補正部とを備える圧力測定装置。
【0008】
このような態様の圧力測定装置であれば、圧力センサによって検出された水素の圧力値が所定値以上の場合に限ってその圧力値を補正する。そのため、圧力センサの測定誤差に影響を与える圧力値の下限値を所定値として設定すれば、圧力センサの測定誤差に影響を与えないような低い圧力値に対してまで補正を行うことがないので、的確に圧力値を補正することが可能になる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の圧力測定装置であって、更に、前記水素貯留部に前記水素が充填されたことを検出する充填検出部を備え、前記圧力補正部は、前記水素貯留部に前記水素が充填された時点から前記水素の圧力値が前記所定値未満となった時点までの時間を前記充填の度に積算し、該積算された時間に応じて前記水素の圧力値を補正する、圧力測定装置。
【0010】
このような態様の圧力測定装置であれば、圧力センサを、所定値以上の圧力値において使用した時間に応じて圧力値を補正することができる。そのため、圧力センサから出力される圧力値に経年変化が生じていたとしても、その圧力値を的確に補正することが可能になる。
【0011】
[適用例3]適用例1に記載の圧力測定装置であって、該圧力測定装置は、車両に備えられており、更に、前記水素貯留部に前記水素が充填されたことを検出する充填検出部と、前記充填された水素の圧力値と、単位圧力当たりに走行可能な距離を示す所定の燃費とに基づいて、前記水素の圧力が前記所定値に達するまでに前記車両が走行可能な距離である推定走行距離を求める推定走行距離算出部とを備え、前記圧力補正部は、前記水素貯留部に前記水素が充填されてからの走行距離が、前記推定走行距離に達するまでの時間を積算し、該積算された時間に応じて前記水素の圧力値を補正する、圧力測定装置。
【0012】
このような態様の圧力測定装置であれば、誤差の含まれ得る圧力センサからの圧力値ではなく、車両の走行距離に応じて圧力センサの使用時間を積算することができる。そのため、圧力センサから出力される圧力値に経年変化が生じていたとしても、その圧力値を的確に補正することが可能になる。
【0013】
[適用例4]適用例2または適用例3に記載の圧力測定装置であって、前記充填検出部は、前記圧力センサから出力された前記水素の圧力値の変動に基づいて、前記水素貯留部に前記水素が充填されたか否かを検出する、圧力測定装置。このような態様の圧力測定装置であれば、水素貯留部から供給される水素の圧力変動に基づいて、水素が充填されたかを検出することが可能になる。
【0014】
[適用例5]適用例2または適用例3に記載の圧力測定装置であって、更に、前記水素貯留部に貯えられる水素の温度を検出する温度センサを備え、前記充填検出部は、前記温度センサによって検出された温度の変動に基づいて、前記水素貯留部に前記水素が充填されたか否かを検出する、圧力測定装置。このような態様の圧力測定装置であれば、水素貯留部に水素を充填する際に生じる水素の温度変化に基づいて、水素が充填されたかを検出することが可能になる。
【0015】
[適用例6]適用例2または適用例3に記載の圧力測定装置であって、更に、前記水素貯留部に水素を充填する水素充填装置と通信を行う通信部を備え、前記充填検出部は、前記通信に基づいて、前記水素貯留部に前記水素が充填されたか否かを検出する、圧力測定装置。このような態様の圧力測定装置であれば、水素貯留部に水素を充填する水素充填装置との通信に基づいて、水素が充填されたかを検出することが可能になる。
【0016】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれか一項に記載の圧力測定装置であって、前記補正部は、前記積算された時間に加えて、前記水素の温度に基づいて、前記補正を行う、圧力測定装置。
【0017】
このような態様の圧力測定装置であれば、圧力センサが使用された時間だけではなく、水素の温度をも加味して圧力値を補正するので、より的確に水素の圧力値を補正することが可能になる。
【0018】
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれか一項に記載の圧力測定装置と、前記水素消費装置としての燃料電池と、前記燃料電池によって発電された電力によって駆動されるモータと、前記圧力測定装置から出力された補正後の圧力値に基づいて、前記水素貯留部内の水素の残量を算出する残量算出部とを備える車両。
【0019】
このような態様の車両であれば、燃料電池に供給する水素の圧力を的確に補正することができるので、水素貯留部内の水素の残量を精度良く算出することが可能になる。
【0020】
なお、本発明は、上述した圧力測定装置や車両としての構成のほか、圧力測定装置を備える燃料電池システムや、圧力測定方法としても構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例としての圧力測定装置100を備える電気自動車10の概略構成を示す説明図である。
【図2】圧力センサ60の概略構成を示す断面図である。
【図3】圧力センサ60の出力特性を示すグラフである。
【図4】第1実施例における圧力測定処理のフローチャートである。
【図5】第1実施例における圧力測定処理のフローチャートである。
【図6】水素タンク12から出力される水素ガスの圧力変化を示す図である。
【図7】補正マップ140の一例を示す説明図である。
【図8】第2実施例における圧力測定処理のフローチャートである。
【図9】第3実施例における電気自動車10cの構成を示す図である。
【図10】水素タンク12に水素ガスが充填される際の水素ガスの温度変化と圧力変化とを示すグラフである。
【図11】第3実施例において実行される充填検出処理のフローチャートである。
【図12】第3実施例において実行される圧力測定処理のフローチャートである。
【図13】第4実施例における電気自動車10dの構成を示す図である。
【図14】第4実施例において実行される充填検出処理のフローチャートである。
【図15】第5実施例において温度係数K2を決定するためのマップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき次の順で説明する。
A.第1実施例:
A−1.電気自動車の概略構成:
A−2.圧力センサの構成:
A−3.圧力測定処理:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.第4実施例:
E.第5実施例:
【0023】
A.第1実施例:
A−1.電気自動車の概略構成:
図1は、本発明の実施例としての圧力測定装置100を備える電気自動車10の概略構成を示す説明図である。電気自動車10は、圧力測定装置100のほか、水素貯留部としての水素タンク12や、エアコンプレッサ14、水素消費装置としての燃料電池16、二次電池18、モータ20、インバータ22、制御装置50などを備えている。
【0024】
水素タンク12には、充填口26が接続されている。水素タンク12には、この充填口26を通じて、水素ステーション等に設置されている水素ディスペンサ(図示せず)から約70MPaの水素ガスが充填される。水素タンク12から遮断弁13を通じて出力された水素ガスは、圧力調整弁30によって1.5MPa程度まで減圧され、燃料電池16に供給される。遮断弁13の近傍には、水素タンク12から出力される水素ガスの圧力を検出する圧力センサ60が取り付けられている。以下の説明において、「水素ガスの圧力」という場合には、圧力調整弁30によって減圧される前の水素ガスの圧力のことをいう。なお、図1には、水素タンク12を1つだけ示したが、その数は特に限定されない。
【0025】
燃料電池16は、水素タンク12から供給された水素ガスと、エアコンプレッサ14から供給された空気中の酸素との電気化学反応によって発電を行う。燃料電池16としては、固体高分子型燃料電池や固体酸化物型燃料電池など、種々のものを適用可能である。燃料電池16によって発電された電力は、モータ20の駆動に利用されると共に、二次電池18の充電に利用される。二次電池18は、燃料電池16とともにモータ20を駆動する電力源として用いられる。
【0026】
インバータ22は、燃料電池16や二次電池18が出力する直流電流を、三相交流に変換し、モータ20に供給する。モータ20は、インバータ22を介して電力の供給を受けると、図示していない車輪を回転させて電気自動車10を走行させる。
【0027】
制御装置50は、CPUやRAM、ROM、EEPROMを備える論理回路によって構成されている。制御装置50には、イグニッションスイッチ31や、アクセルポジションセンサ32、車速センサ34、インバータ22、インストルメントパネル36、圧力測定装置100が接続されている。制御装置50は、電気自動車10の動作全般を制御する装置であり、例えば、アクセルポジションセンサ32によって検出されたアクセルの踏み込み量に応じて、インバータ22を制御し、モータ20の駆動力を調整する。なお、イグニッションスイッチ31からの信号は、制御装置50を通じて、圧力測定装置100にも伝達される。
【0028】
制御装置50は、上述した論理回路によって実現される機能ブロックとして、残量算出部52と走行距離算出部54とを備えている。
【0029】
残量算出部52は、圧力測定装置100から水素の圧力値を受信し、この圧力値に応じて、水素タンク12内の水素の残量を算出する。算出した水素ガスの残量は、インストルメントパネル36に表示する。残量算出部52は、例えば、圧力測定装置100から入力した圧力値が70MPaの場合に、水素の残量を100%と算出し、圧力値が70MPaから低くなるほど残量が100%から0%に近づく所定の関数やマップを用いて、水素ガスの残量を算出する。
【0030】
走行距離算出部54は、車速センサ34から受信したパルス信号に応じて、電気自動車10の走行距離を算出する。そして、この走行距離を、水素ガスの残量と同様に、インストルメントパネル36に表示する。走行距離算出部54は、算出した走行距離を、後述する圧力測定処理の実行のために圧力測定装置100に伝達する。また、走行距離算出部54は、イグニッションスイッチがオフにされた場合に、算出した走行距離を、自身が備えるEEPROMに記録する。
【0031】
圧力測定装置100は、CPUやRAM、ROM、EEPROM等を備える論理回路によって構成されている。圧力測定装置100は、圧力センサ60から出力された水素ガスの圧力値の誤差を補正する機能を備えている。圧力測定装置100は、この機能を実現するために、前述した論理回路によって実現される機能ブロックとして、充填検出部110と、推定走行距離算出部120と、圧力補正部130とを備えている。また、圧力測定装置100が備えるROMには、圧力センサ60から出力された圧力値を補正するために用いる補正マップ140が記憶されている。なお、圧力測定装置100が備えるEEPROMには、例えば、イグニッションスイッチ31がオフにされる直前に検出された水素の圧力値などが書き込まれる(詳細は後述)。
【0032】
充填検出部110は、水素タンク12に水素ガスが充填されたか否かを検出する。本実施例では、後述のように、圧力センサ60によって検出した水素ガスの圧力の変動に基づいて、水素ガスが充填されたかを検出する。
【0033】
推定走行距離算出部120は、充填された水素の圧力値と、単位圧力当たりに電気自動車10が走行可能な距離を示す所定の燃費とに基づいて、水素の圧力が所定の閾値Ptに達するまでに走行可能な距離(以下、「推定走行距離Dm」という)を算出する。
【0034】
圧力補正部130は、圧力センサ60から受信した水素の圧力値が、所定の閾値Pt以上の場合に、この圧力値を、圧力センサ60の使用時間と補正マップ140とに基づいて補正する。本実施例において、圧力センサ60の使用時間とは、圧力センサ60が、前述した閾値Pt以上の圧力で使用された時間のことをいう。閾値Ptは、圧力センサ60の特性上、その出力値に誤差が含まれ得る圧力を実験的に求め、こうして求められた圧力に基づいて設定されている。
【0035】
圧力測定装置100は、圧力補正部130によって補正した水素ガスの圧力値を、制御装置50に送信する。制御装置50はこうして送信された補正後の圧力値に基づいて、残量算出部52によって、水素タンク12内の水素の残量を算出する。もちろん、残量算出部52は、圧力補正部130によって水素ガスの圧力値が補正されなかった場合には、補正されていない圧力値に基づいて水素の残量を算出する。
【0036】
なお、上述した充填検出部110や、推定走行距離算出部120、圧力補正部130、補正マップ140の詳細な機能や働きについては、後述する「圧力測定処理」の説明で詳しく述べる。
【0037】
A−2.圧力センサの構成:
図2は、圧力センサ60の概略構成を示す断面図である。圧力センサ60は、42アロイ等のFe−Ni系合金や、コバール、SUS等の低熱膨張金属により形成された金属ステム62を備えている。圧力センサ60は、更に、水素ガスが流れる配管への取り付けに用いられるハウジング64や、金属ステム62をハウジング64の内部に固定するネジ部材66、圧力測定装置100が電気的に接続される金属端子68などから構成される。
【0038】
金属ステム62は、下端が開口し、上端に底を有する穴部72を備えた略円筒状の部材である。この穴部72には、ハウジング64の下部に設けられた孔74を通じて、水素タンク12から出力された水素ガスが導入される。穴部72の内径は、約2.5mmであり、その底部は、0.2〜1.0mmの薄肉状に形成されている。以下では、薄肉状の底部のことを、ダイアフラム76と呼ぶ。
【0039】
ダイアフラム76の上面には、圧力検出素子として歪みゲージ78が実装されたセンサ基板80が低融点ガラスによって接着されている。歪みゲージ78から出力された電気信号は、金属端子68を通じて、圧力測定装置100に入力される。
【0040】
以上のように構成された圧力センサ60には、上述したように、最大70MPaの水素ガスが導入される。すると、この水素ガスの圧力によってダイアフラム76が変形する。ダイアフラム76が変形すると、その上面に接着されたセンサ基板80に実装されている歪みゲージ78も変形する。すると、歪みゲージ78からは、その変形度合いに応じた電気信号が圧力値として出力され、その圧力値が圧力測定装置100に伝達される。
【0041】
図3は、圧力センサ60の出力特性を示すグラフである。このグラフには、70MPaの水素ガスの圧力を測定した場合の圧力センサ60の出力誤差を「%FS(フルスケール)」によって示している。このグラフによれば、圧力センサ60への水素ガスの供給を開始してから、その使用時間が経過するにつれて、圧力センサ60の出力値が本来の出力値よりも大きい値を示すようになることがわかる。図3によれば、例えば、5年以上、圧力センサ60を使用すると、+4.0%FS前後の出力誤差が生じることになる。これは、高圧の水素ガスを圧力センサ60に導入すると、水素ガスが金属ステム62中を透過して、ダイアフラム76と歪みゲージ78との間の低融点ガラス内に滞留する現象が生じ、これにより、歪みゲージ78の出力が、本来の圧力値よりも高い圧力値を示すからである。そこで、本実施例では、以下に説明する圧力測定処理において、この圧力センサ60の出力誤差の補正を行う。
【0042】
A−3.圧力測定処理:
図4および図5は、第1実施例における圧力測定処理のフローチャートである。この圧力測定処理は、イグニッションスイッチ31がオンにされた場合に、圧力測定装置100によって実行される。以下、この圧力測定処理について、水素タンク12から出力される水素ガスの圧力変化を示す図6を参照しながら説明する。
【0043】
この圧力測定処理が実行されると、まず、圧力測定装置100の充填検出部110は、前回、イグニッションスイッチ31がオフにされる直前に圧力センサ60によって検出された圧力値を、圧力測定装置100が備えるEEPROMから読み込む。ここで読み込まれる圧力値は、前回、当該圧力測定処理が実行されたことによって補正された補正後の圧力値Pcである。そして、充填検出部110は、この圧力値Pcが、所定の閾値Pt未満であるかを判断する(ステップS100)。この閾値Ptは、圧力センサ60の出力に影響を与える水素の圧力値に基づいて予め定められており、図6に示すように、例えば、35MPaとすることができる。
【0044】
EEPROMから読み込んだ圧力値Pcが閾値Pt未満である場合には、充填検出部110は、圧力センサ60から、現在の水素ガスの圧力値Pnを取得する。そして、取得した現在の圧力値Pnが、前述した閾値Pt以上であるかを判断する(ステップS102)。現在の圧力値Pnが閾値Pt以上であれば、充填検出部110は、イグニッションスイッチ31がオフにされている間に、水素タンク12に水素ガスが充填されたと判断する。水素タンク12に水素ガスが充填されると、例えば、図6のタイミングt0やタイミングt2に示すように、水素ガスの圧力は、70MPaまで上昇する。充填検出部110によって、水素ガスが充填されたことが判断されると、続いて、圧力測定装置100の圧力補正部130が、圧力センサ60のこれまでの使用時間Ttと補正マップ140とに基づき、圧力値Pnを補正するための補正係数Kを決定する(ステップS104)。つまり、本実施例では、圧力測定装置100は、水素タンク12に水素が充填される毎に、補正係数Kの決定を行っている。
【0045】
図7は、補正マップ140の一例を示す説明図である。この図の横軸は、圧力センサ60の使用時間Ttを示し、縦軸は補正係数Kを示している。この図に示すように、本実施例では、圧力センサ60の使用時間Ttが長いほど、補正係数Kが低くなるよう設定されている。この補正マップ140は、丁度、図3に示した圧力センサ60の出力変動を打ち消すように、補正係数Kが、圧力センサ60の使用時間Ttに応じて設定されている。使用時間Ttの詳細な計算方法については後述する。
【0046】
上述のように補正係数Kの決定を行うと、圧力測定装置100は、制御装置50の走行距離算出部54に所定のリセット信号を送信し、電気自動車10の走行距離Dnを「0」にリセットさせる(ステップS106)。圧力測定装置100は、こうして走行距離Dnをリセットさせると、続いて、推定走行距離算出部120によって、水素ガスの圧力値が閾値Ptに達するまでに電気自動車10が走行可能な距離(推定走行距離Dm)を下記式(1),(2)に基づき算出する(ステップS108)。
【0047】
Pc=K・Pn ・・・(1)
Dm=(Pc−Pt)・Fc ・・・(2)
【0048】
これらの式では、圧力測定装置100は、圧力センサ60から取得した現在の水素ガスの圧力値Pnに対して、ステップS104で決定した補正係数Kを乗じて、補正後の圧力値Pcを求める。そして、この補正後の圧力値Pcから前述した閾値Ptを差し引き、この差し引かれた値に対して、予め定められた電気自動車10の燃費Fc(単位圧力当たりの走行距離)を乗算する。このような演算を行うことで、圧力測定装置100は、推定走行距離Dmを算出することができる。
【0049】
なお、上述したステップS100においてEEPROMから読み込んだ圧力値が閾値Pt以上である場合には、今回のイグニッションスイッチのオフ時には、水素ガスは充填されていないことになる。この場合、水素ガスの充填直後に実行された前回以前の当該圧力測定処理によって、補正係数Kや推定走行距離Dmは既に決定されている。そのため、この場合には、圧力測定装置100は、上述したステップS102〜S108の処理をスキップする。
【0050】
以上で説明した一連の処理は、イグニッションスイッチ31がオンになる度に、その直後に1回だけ実行される処理である。以下では、イグニッションスイッチ31がオフにされるまで、電気自動車10の運転中に常時実行される処理について説明する。
【0051】
上述した処理によって、補正係数Kや推定走行距離Dmが決定されると、圧力測定装置100の圧力補正部130は、圧力センサ60から現在の水素ガスの圧力値Pnを取得する(ステップS110)。圧力値Pnを取得すると、圧力補正部130は、取得された圧力値Pnに、上記ステップS104で決定された補正係数Kを乗じて補正を行う。そして、補正された圧力値Pcを制御装置50に出力する(ステップS112)。こうすることで、制御装置50の残量算出部52は、水素タンク12内の水素の残量を正確に算出することができる。
【0052】
補正した圧力値Pcを出力すると、圧力測定装置100の圧力補正部130は、制御装置50の走行距離算出部54から現在の走行距離Dnを取得する(ステップS114)。そして、取得された現在の走行距離Dnが、ステップS108で算出された推定走行距離Dm以下であるかを判断する(ステップS116)。走行距離Dnが、推定走行距離Dm以下であれば、圧力補正部130は、下記式(3)に基づいて、圧力センサ60の使用時間Ttを積算する(ステップS118)。一方、走行距離Dnが、推定走行距離Dmを超えていれば、圧力補正部130は、圧力センサ60の使用時間Ttの積算を中断する(ステップS120)。
【0053】
Tt’=Tt+Δt ・・・(3)
なお、Tt’は、積算後の新たな使用時間を表し、Δtは、ステップS118の処理が前回実行されてから今回実行されるまでに経過した時間を表す。
【0054】
本実施例では、上述のように、走行距離Dnと推定走行距離Dmとを対比することで、水素ガスが充填された時点から、水素ガスの圧力が閾値Ptに達する時点までの圧力センサ60の使用時間Ttを積算することができる。なお、使用時間Ttは、圧力センサ60が、閾値Pt以上の圧力の水素ガスに晒されている限り積算される値である。そのため、この使用時間Ttは、電気自動車10が停車している場合も積算される。例えば、図6のタイミングt0で、水素ガスが水素タンク12に充填されると、電気自動車10が走行しているか停車しているかに拘わらず、圧力値が閾値Ptに達するタイミングt1まで使用時間Ttは積算される。そして、その後、また、水素ガスが充填されると、その充填のタイミングt2以降、引き続き、使用時間Ttは積算されていく。
【0055】
続いて、圧力測定装置100は、イグニッションスイッチ31がオフにされたかを判断する(ステップS122)。イグニッションスイッチ31がオフにされれば、圧力測定装置100は、補正した圧力値Pcと、推定走行距離Dmと、使用時間TtとをEEPROMに記録して(ステップS124)、当該圧力測定処理を終了する。このとき、走行距離Dnについては、制御装置50によって記録が行われる。一方、イグニッションスイッチ31がオフにされなければ、圧力測定装置100は、上述したステップS110〜S122の処理を繰り返し実行する。
【0056】
なお、上述したステップS110〜S124の処理は、ステップS102において、現在の圧力値Pnが閾値Pt以上と判断された場合に実行される処理である。これに対して、ステップS102において、現在の水素ガスの圧力値Pnが閾値Pt未満であると判断されれば、水素ガスの充填が行われていないか、もしくは、水素ガスが充填されても、その圧力が閾値Pt未満に留まったことになり、圧力センサ60から出力される圧力値には誤差が含まれないか、もしくは、含まれていても無視し得る程度となる。そこで、この場合には、補正係数Kを決定することなく、図5に示す処理を電気自動車10の運転中、常時実行する。すなわち、圧力センサ60から水素ガスの圧力値Pnを取得し(ステップS140)、取得された圧力値Pnをそのまま制御装置50に出力する(ステップS142)。そして、このステップS140とステップS142の処理を、イグニッションスイッチ31がオフにされるまで、常時実行する(ステップS144)。
【0057】
以上で説明した本実施例の圧力測定装置100は、水素タンク12から出力される水素ガスの圧力値Pnが所定の閾値Pt以上の場合に限り、圧力センサ60によって検出した水素ガスの圧力値Pnを補正する。そのため、圧力センサ60の特性上、その出力に誤差が含まれないような圧力に対してまで補正を行うことがないので、水素ガスの圧力を的確に補正することが可能になる。
【0058】
また、本実施例の圧力測定装置100は、高圧の水素ガスの充填によって圧力センサ60から出力される圧力値Pnに誤差が含まれたとしても、その誤差を、圧力センサ60の使用時間Ttに応じて決定される補正係数Kによって補正することができる。そのため、圧力センサ60から出力される圧力値に含まれる誤差が経年変化したとしても、的確にその補正を行うことが可能になる。
【0059】
また、本実施例の圧力測定装置100は、充填後の水素ガスが閾値Ptに達するまでに走行することのできる距離(推定走行距離Dm)を、電気自動車10の燃費に基づいて求める。そして、この推定走行距離Dmと現在の走行距離Dnとを対比することで、水素ガスの圧力が閾値Ptにまで低下したかを判断する。そのため、誤差が含まれ得る圧力センサ60からの出力値を用いることなく、水素ガスの圧力が閾値Ptにまで低下したかを判断することができる。
【0060】
B.第2実施例:
続いて、本発明の第2実施例について説明する。上述した第1実施例では、使用時間Ttを積算する際に、予め算出した推定走行距離Dmと現在の走行距離Dnとを対比することで水素ガスの圧力が閾値Ptにまで低下したかを判断した。これに対して、第2実施例では、圧力センサ60によって検出した圧力値Pnをそのまま用いて、水素ガスの圧力が閾値Ptにまで低下したかを判断する。なお、第2実施例の圧力測定装置100は、その構成から推定走行距離算出部120(図1参照)を省略することができる。
【0061】
図8は、第2実施例における圧力測定処理のフローチャートである。第2実施例の圧力測定処理は、第1実施例と同様に、イグニッションスイッチ31がオンにされた場合に、圧力測定装置100によって実行される。この圧力測定処理が実行されると、まず、圧力測定装置100の充填検出部110は、前回、イグニッションスイッチ31がオフにされる直前に圧力センサ60によって検出された圧力値を、圧力測定装置100が備えるEEPROMから読み込む。そして、充填検出部110は、この圧力値Pcが、所定の閾値Pt未満であるかを判断する(ステップS200)。
【0062】
EEPROMから読み込んだ圧力値Pcが閾値Pt未満である場合には、充填検出部110は、圧力センサ60から、現在の水素ガスの圧力値Pnを取得する。そして、取得した現在の圧力値Pnが、前述した閾値Pt以上であるかを判断する(ステップS202)。現在の圧力値Pnが閾値Pt以上であれば、充填検出部110は、イグニッションスイッチ31がオフにされている間に、水素タンク12に水素ガスが充填されたと判断する。充填検出部110によって、水素ガスが充填されたと判断されると、圧力測定装置100の圧力補正部130が、圧力センサ60のこれまでの使用時間Ttと補正マップ140とに基づき、圧力値Pnを補正するための補正係数Kを決定する(ステップS204)。
【0063】
なお、上述したステップS200においてEEPROMから読み込んだ圧力値が閾値Pt以上である場合には、水素ガスの充填直後に実行された前回以前の当該圧力測定処理によって、補正係数Kが既に決定されていることになる。そのため、この場合には、圧力測定装置100は、上述したステップS202〜S204の処理をスキップする。
【0064】
上述した処理によって、補正係数Kが決定されると、圧力測定装置100の圧力補正部130は、圧力センサ60から現在の水素ガスの圧力値Pnを取得する(ステップS210)。圧力値Pnを取得すると、圧力補正部130は、取得された圧力値Pnに、上記ステップS204で決定された補正係数Kを乗じて補正を行う。そして、補正された圧力値Pcを制御装置50に出力する(ステップS212)。
【0065】
補正した圧力値Pcを出力すると、圧力測定装置100の圧力補正部130は、ステップS210で取得した現在の圧力値Pnが、閾値Pt以上であるかを判断する(ステップS216)。圧力値Pnが閾値Pt以上であれば、圧力補正部130は、使用時間Ttの積算を行う(ステップS218)。一方、圧力値Pnが閾値Pt未満であれば、圧力補正部130は、使用時間Ttの積算を中断する(ステップS220)。
【0066】
続いて、圧力測定装置100は、イグニッションスイッチ31がオフにされたかを判断する(ステップS222)。イグニッションスイッチ31がオフにされれば、圧力測定装置100は、補正した圧力値Pcと、使用時間TtとをEEPROMに記録して(ステップS224)、当該圧力測定処理を終了する。一方、イグニッションスイッチ31がオフにされなければ、圧力測定装置100は、上述したステップS210〜S222の処理を繰り返し実行する。
【0067】
なお、ステップS102において、現在の水素ガスの圧力値Pnが閾値Pt未満であると判断されれば、水素ガスの充填が全く行われていないか、もしくは、水素ガスが充填されても、その圧力が閾値Pt未満に留まったことになり、圧力センサ60からの出力される圧力値には誤差が含まれないか、もしくは、含まれていても無視し得る程度となる。そこで、この場合には、第1実施例と同様に、補正係数Kを決定することなく、図5に示す処理を電気自動車10の運転中、常時実行する。
【0068】
以上で説明した第2実施例では、圧力センサ60によって検出した圧力値Pnをそのまま用いて水素ガスの圧力が閾値Ptまで低下したかを判断している。そのため、推定走行距離Dmの算出を省略することができるので、処理内容を簡略化することが可能になる。図3に示したように、圧力センサ60から出力される圧力値の経年変化は、年単位の長期間に亘って現れるものである。これに対して、水素タンク12に充填された水素ガスが閾値Ptにまで低下するのは、長くて1〜2ヶ月という期間である。そのため、本実施例のように圧力センサ60によって検出した圧力値Pnをそのまま用いて水素ガスの圧力が閾値Ptに達したかを判断しても、使用時間Ttの積算を行う上で、実用上、問題となることはない。
【0069】
C.第3実施例:
続いて本発明の第3実施例について説明する。上述した第1実施例や第2実施例では、イグニッションスイッチ31がオンにされた直後に、水素ガスの圧力変化を検出することで、水素タンク12に水素ガスが充填されたか否かを判断した。これに対して、第3実施例では、水素タンク12に充填される水素ガスの温度変化に基づいて、水素ガスが充填されたかを判断する。
【0070】
図9は、第3実施例における電気自動車10cの構成を示す図である。図9に示すように、本実施例の水素タンク12には温度センサ61が内蔵されており、この温度センサ61は圧力測定装置100cに接続されている。その他の構成は、圧力測定装置100cが推定走行距離算出部120を備えていない点を除いて第1実施例と同様である。
【0071】
図10は、水素タンク12に水素ガスが充填される際の水素ガスの温度変化と圧力変化とを示すグラフである。一般的に、水素タンク12に対して水素ガスを充填するのに要する時間は、10分程度である。水素タンク12には、この10分の間に、外部の水素ディスペンサから水素ガスが断熱圧縮されて供給される。そのため、この断熱圧縮によって、水素タンク12内の水素の温度は急激に上昇し、充填開始から数分の間に、その温度は、80〜85度程度まで上昇することになる。水素ガスの充填が完了すると、この温度は、徐々に低下し、周囲の外気温と同等になる。そこで、本実施例では、この水素ガスの温度変化を検出することで、水素タンク12に水素が充填されたかを判断する。
【0072】
図11は、第3実施例において実行される充填検出処理のフローチャートである。この充填検出処理は、イグニッションスイッチ31がオフにされている間に、圧力測定装置100cによって繰り返し実行される。つまり、本実施例では、イグニッションスイッチ31がオフにされている場合にも、圧力測定装置100cには二次電池18から電源が供給される。
【0073】
この充填検出処理が実行されると、圧力測定装置100cの充填検出部110は、温度センサ61によって、水素タンク12内の水素ガスの温度Tを検出する(ステップS300)。そして、検出された温度Tが70℃以上であるかを判断する(ステップS302)。検出された温度Tが70℃以上であれば、充填検出部110は、水素タンク12に水素が充填されたと判断し、水素ガスの充填がなされた旨を示すフラグ(以下、「充填フラグ」という)をオンにして、そのフラグの状態をEEPROMに記録する(ステップ304)。一方、検出された温度Tが70℃未満であれば、ステップS304の処理をスキップする。続いて、充填検出部110は、イグニッションスイッチ31がオンにされたかを判断する(ステップS306)。イグニッションスイッチ31がオンにされれば、充填検出部110は、当該充填検出処理を終了する。一方、イグニッションスイッチ31がオフのままであれば、充填検出部110は、上述したステップS300〜S306の処理を繰り返し実行する。以上で説明した充填検出処理によれば、圧力測定装置100cは、イグニッションスイッチ31がオフにされている間に、水素タンク12に水素ガスが充填されたかを監視することができる。
【0074】
図12は、第3実施例において実行される圧力測定処理のフローチャートである。この圧力検出処理は、イグニッションスイッチ31がオンにされた場合に、圧力測定装置100によって実行される処理である。つまり、本実施例では、図11に示した充填検出処理が終了すると、引き続き、当該圧力測定処理が実行されることになる。なお、第3実施例の圧力測定処理は、第1実施例の圧力測定処理(図4)に対して、ステップS100とステップS102とステップS124との処理が異なるだけである。そのため、図12には、図4に示した処理内容と同じ処理内容について、図4と同じステップ番号を付している。
【0075】
この圧力測定処理が実行されると、圧力測定装置100cは、まず、圧力センサ60から水素ガスの圧力値Pnを取得し、この圧力値Pnが、閾値Pt以上であるかを判断する(ステップS100b)。圧力値Pnが閾値Pt未満であれば、圧力値Pnを補正する必要がないので、図5に示した処理を実行する。一方、圧力値Pnが閾値Pt以上であれば、圧力測定装置100cは、EEPROMに記録された充填フラグの状態がオンであるかを判断する(ステップS102b)。充填フラグがオンであれば、イグニッションスイッチ31がオフの間に水素タンク12に水素ガスが充填されたことになる。そこで、圧力測定装置100cは、ステップS104〜S108において、補正係数Kの決定などの処理を行う。一方、充填フラグがオフであれば、前回以前の当該圧力測定処理によって、すでに、補正係数K等が決定されていることになるので、ステップS104〜S108の処理をスキップする。以下、本実施例では、第1実施例の圧力測定処理のステップS110〜S122と同様の処理が実行される。最後にイグニッションスイッチ31がオフにされると(ステップS122)、本実施例では、圧力測定装置100は、補正後の圧力値Pcと推定走行距離Dmと使用時間TtとをEEPROMに記録するとともに、充填フラグをオフにして、そのフラグの状態をEEPROMに書き込む(ステップS124b)。
【0076】
以上で説明した第3実施例の圧力測定装置100cによれば、水素タンク12内の水素ガスの温度変化に基づいて、水素タンク12に水素が充填されたかを判断することが可能になる。なお、本実施例の圧力測定処理では、図12に示したステップS100b、S102bおよびS124b以外の処理は、第1実施例の圧力測定処理と同様の処理を実行することとしたが、第2実施例の処理(具体的には、ステップS204〜S222)と同様の処理を実行することとしてもよい。つまり、水素ガスの温度変化に基づいて水素ガスの充填を判断する手法は、第1実施例に対しても第2実施例に対しても同様に適用可能である。
【0077】
なお、本実施例では、水素ガスの充填時に、水素タンク12内の水素の温度が80〜85度程度まで上昇する場合について説明したが、この上昇温度は、水素タンク12の種類や、水素ガスの温度上昇を抑制するために水素ステーション側に設置されているプレクーラーの冷却能力に応じて異なる。そのため、図11に示した充填検出処理のステップS302の比較対象となる温度(本実施例では70℃)は、水素タンク12の種類やプレクーラーの冷却能力に応じて、適宜、他の値とすることが可能である。
【0078】
また、本実施例では、水素タンク12内の水素ガスの温度が所定の温度まで上昇した場合に、水素が充填されたと判断したが、かかる判断は他の方法によっても実現可能である。例えば、単位時間(例えば、1秒〜1分)当たりに上昇した水素ガスの温度が、所定値(例えば、5〜20度の間の温度)以上である場合に、水素ガスが充填されたと判断することも可能である。
【0079】
D.第4実施例:
上述した第3実施例では、水素ガスの温度変化に基づいて、水素タンク12に水素ガスが充填されたかを判断した。これに対して、第4実施例では、水素ステーション等に設置されている水素ディスペンサ90と直接的に通信を行うことで、水素タンク12に水素ガスが充填されたかを判断する。
【0080】
図13は、第4実施例における電気自動車10dの構成を示す図である。本実施例では、水素ディスペンサ90が接続される充填口26に、赤外線送信機27が内蔵されている。圧力測定装置100dは、この赤外線送信機27を介して、水素ディスペンサ90側に設けられた赤外線受信機91と直接的に通信することができる。なお、本実施例では、水素タンク12は、第3実施例と同様に、温度センサ61を内蔵している。
【0081】
図14は、第4実施例において実行される充填検出処理のフローチャートである。この充填検出処理は、イグニッションスイッチ31がオフにされている間に、圧力測定装置100cによって実行される。つまり、本実施例では、イグニッションスイッチ31がオフにされている場合にも、圧力測定装置100cには二次電池18から電源が供給される。
【0082】
この充填検出処理が実行されると、圧力測定装置100dの充填検出部110は、イグニッションスイッチ31がオフであるかを判断する(ステップS400)。イグニッションスイッチ31がオンにされた場合には、圧力測定装置100dは、当該充填検出処理を終了する。これに対して、イグニッションスイッチ31がオフの場合には、充填検出部110は、充填口26に備えられた赤外線送信機27を用いて、水素ディスペンサ90側の赤外線受信機91との通信を試み、充填口26に水素ディスペンサ90が接続されたかを判断する(ステップS402)。水素ディスペンサ90が接続されていなければ、圧力測定装置100dは、処理をステップS400に戻す。
【0083】
充填口26に水素ディスペンサ90が接続されると、圧力測定装置100dは、水素充填処理を実行する(ステップS404)。この水素充填処理は、「SAE J2799」の規格に基づいて、圧力測定装置100dと水素ディスペンサ90とが、相互に通信を行いながら水素ガスの充填を行う処理である。具体的には、圧力測定装置100dは、水素ディスペンサ90に対して、水素タンク12内に流入した水素ガスの温度と圧力とを示す情報を逐次送信する。水素ディスペンサ90は、この情報を受信すると、水素ガスの温度が85℃以上に上昇しないように、水素ガスの供給スピード(圧力)を調整して、水素タンク12に水素ガスを供給する。圧力測定装置100dと水素ディスペンサ90とは、このように、相互に通信を行うことで、水素ガスの温度上昇を抑制しながら、水素ガスの充填を迅速に行うことができる。
【0084】
充填検出部110は、ステップS404において実行された水素充填処理により、水素ガスの充填が完了したかを判断する(ステップS406)。水素ガスの充填が完了すれば、充填検出部110は、充填フラグをオンにして(ステップS408)、そのフラグの状態をEEPROMに書き込み、当該充填検出処理を終了する。水素ガスの充填が完了していなければ、充填検出部110は、処理をステップS404に戻して、水素充填処理を続行する。
【0085】
本実施例では、以上で説明した充填検出処理が終了すると、第3実施例において説明した圧力測定処理と同様の処理が実行される。つまり、EEPROMに記録された充填フラグの状態に基づいて、補正係数K等を決定するか否かが判断される。以上で説明した本実施例の圧力測定装置100dによれば、水素ディスペンサ90と直接的に通信を行うことで、水素タンク12に水素ガスが充填されたかを判断するので、正確に、水素ガスが充填されたかを判断することが可能になる。
【0086】
E.第5実施例:
上述した各実施例では、圧力センサ60の使用時間Ttに応じて、圧力値を補正するための補正係数Kを決定した。これに対して、本実施例では、圧力センサ60の使用時間Ttだけではなく、水素ガスの温度Tをも考慮して、補正係数Kを決定する。
【0087】
具体的には、例えば、第1実施例の圧力測定処理(図4)のステップS118において、使用時間Ttの積算を行うのに先立ち、圧力測定装置100は、まず、温度センサ61を用いて水素ガスの温度を測定する。そして、この水素ガスの温度に応じた温度係数K2を所定のマップに基づいて決定し、上述した式(3)に替えて下記式(4)に基づいて、使用時間Ttを求める。この式では、Δtに対して、温度係数K2を乗算している。
【0088】
Tt’=Tt+K2・Δt ・・・(4)
【0089】
図15は、温度係数K2を決定するためのマップの一例を示す図である。この図に示すように、温度係数K2は、水素ガスの温度が高いほど、大きな値を示すように設定されている。
【0090】
以上のようにして、ステップS118において、温度係数K2を用いた使用時間Ttの算出が行われると、この使用時間Ttは、水素ガスの温度が高いほど、本来の使用時間よりも長い時間を示すことになる。また、逆に、水素ガスの温度が低ければ、本来の使用時間よりも短い時間を示すことになる。そのため、図4の圧力測定処理のステップS104では、水素ガスの温度と圧力センサ60の使用時間とに応じて、補正係数Kが決定されることになる。
【0091】
以上で説明した第5実施例によれば、圧力センサ60の使用時間だけではなく、圧力センサ60の使用時間と、水素ガスの温度とに応じて、圧力センサ60から出力される圧力値を補正することが可能になる。圧力センサ60はその特性上、導入される水素ガスの温度が高いほど、その出力値の経年変化も早く進行することが判明している。そのため、本実施例によれば、より正確に、圧力センサ60の出力値を補正することが可能になる。
【0092】
なお、本実施例では、第1実施例の圧力測定処理を例に挙げて、水素ガスの温度を圧力センサ60の出力値に反映させる方法を説明した。しかし、水素ガスの温度を圧力センサ60の出力値に反映させるのは、第1実施例に限らず、他のすべての実施例に対しても適用可能である。
【0093】
また、本実施例では、使用時間Ttを温度係数K2によって調整することで、水素ガスの温度を圧力センサの出力値の補正に反映させた。しかし、このほかにも、例えば、使用時間Ttと水素ガスの温度との2つの要因に応じて補正係数Kが定まるマップや関数によって補正係数Kを求めてもよい。
【0094】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができる。
【0095】
例えば、上述した各実施例では、補正係数Kを、1回の水素ガスの充填につき1回だけ決定している。これに対して、例えば、イグニッションスイッチ31がオンにされる度に、補正係数Kを決定することとしてもよい。また、電気自動車10の走行中に逐次積算される使用時間Ttに応じて、リアルタイムに補正係数Kを決定することとしてもよい。
【0096】
また、上述した各実施例では、本発明を、車載用の燃料電池16に供給される水素ガスの圧力値を補正する場合に適用した。しかし、本発明は、車載用の燃料電池16に限らず、据置型の燃料電池や、他の水素消費装置に供給される水素ガスの圧力値を補正する場合についても、同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
10,10c,10d…電気自動車
12…水素タンク
13…遮断弁
14…エアコンプレッサ
16…燃料電池
18…二次電池
20…モータ
22…インバータ
26…充填口
27…赤外線送信機(車両側)
30…圧力調整弁
31…イグニッションスイッチ
32…アクセルポジションセンサ
34…車速センサ
36…インストルメントパネル
50…制御装置
52…残量算出部
54…走行距離算出部
60…圧力センサ
61…温度センサ
62…金属ステム
64…ハウジング
66…ネジ部材
68…金属端子
72…穴部
76…ダイアフラム
78…歪ゲージ
80…センサ基板
90…水素ディスペンサ
91…赤外線受信機(水素ディスペンサ側)
100,100c,100d…圧力測定装置
110…充填検出部
120…推定走行距離算出部
130…圧力補正部
140…補正マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の圧力を測定する圧力測定装置であって、
水素消費装置に供給する水素が貯えられる水素貯留部と、
一端が開口し他端に底を有する穴部であって前記水素貯留部から供給された水素の少なくとも一部が導入される穴部を備えた金属部材と、前記金属部材の外面の、前記穴部の底面に対向する位置に設けられた圧力検出素子と、前記圧力検出素子によって得られた電気信号を、前記水素の圧力を示す圧力値として出力する出力部と、を備える圧力センサと、
前記圧力センサから出力された圧力値が所定値以上の場合に、該圧力値を補正する補正部と
を備える圧力測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力測定装置であって、
更に、前記水素貯留部に前記水素が充填されたことを検出する充填検出部を備え、
前記補正部は、前記水素貯留部に前記水素が充填されたことが検出された時点から前記水素の圧力値が前記所定値にまで低下する時点までの時間を積算し、該積算された時間に応じて前記圧力値を補正する、圧力測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の圧力測定装置であって、
該圧力測定装置は、車両に備えられており、
更に、前記水素貯留部に前記水素が充填されたことを検出する充填検出部と、
前記水素貯留部に前記水素が充填されたことが検出された際の前記水素の圧力値と、単位圧力当たりに前記車両が走行可能な距離を示す所定の燃費とに基づいて、前記水素の圧力値が前記所定値に達するまでに前記車両が走行可能な距離である推定走行距離を求める推定走行距離算出部とを備え、
前記補正部は、前記水素貯留部に前記水素が充填されたことが検出された時点からの前記車両の走行距離が、前記推定走行距離に達するまでの時間を積算し、該積算された時間に応じて前記圧力値を補正する、圧力測定装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の圧力測定装置であって、
前記充填検出部は、前記圧力センサから出力された前記圧力値の変動に基づいて、前記水素貯留部に前記水素が充填されたか否かを検出する、圧力測定装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の圧力測定装置であって、
更に、前記水素貯留部に貯えられる水素の温度を検出する温度センサを備え、
前記充填検出部は、前記温度センサによって検出された温度の変動に基づいて、前記水素貯留部に前記水素が充填されたか否かを検出する、圧力測定装置。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載の圧力測定装置であって、
更に、前記水素貯留部に水素を充填する水素充填装置と通信を行う通信部を備え、
前記充填検出部は、前記通信に基づいて、前記水素貯留部に前記水素が充填されたか否かを検出する、圧力測定装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の圧力測定装置であって、
前記補正部は、前記積算された時間に加えて、前記水素の温度に基づいて、前記補正を行う、圧力測定装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の圧力測定装置と、
前記水素消費装置としての燃料電池と、
前記燃料電池によって発電された電力によって駆動されるモータと、
前記圧力測定装置から出力された補正後の圧力値に基づいて、前記水素貯留部内の水素の残量を算出する残量算出部と
を備える車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−21972(P2011−21972A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166628(P2009−166628)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】