説明

圧延機および圧延機の張力制御方法

【課題】巻き取り開始後の設定張力を適切に変化させることにより、被圧延材の幅縮み等を抑制して生産安定性を高める。
【解決手段】熱間圧延機(21,22)の入側および出側のそれぞれに被圧延材を巻き取る巻き取り機(13a,13b)を備え、被圧延材を前記巻き取り機内のマンドレルに巻き付け、前記圧延機と巻き取り機との間で前記被圧延材に所定の張力を印加しながら被圧延材を繰り返し圧延する圧延機の張力制御方法において、 前記被圧延材に印加する張力を、被圧延材の両端部において、張力制御が開始される被圧延材の先端部から中間部に向けての所定距離に渡って漸減するように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機の張力制御技術にかかり、特に、被圧延材の幅縮み等を抑制して生産安定性を高めることのできる圧延機の張力制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を再結晶温度以上に加熱して行う熱間圧延システムは、ステッケル圧延機を用いたシステムとタンデム圧延機を用いたシステムが知られている。ステッケル圧延機を用いたシステムでは、圧延機の前後面(被圧延材の入り側、出側)に巻取り機を配置し、圧延機と圧延機の前後面に配置された前記巻取り機との間で圧延が繰返される。
【0003】
圧延に際しては、圧延機と圧延機の前後面にそれぞれ配置した巻取り機との間の張力設定が非常に重要である。張力設定を誤まると、巻取り機の寿命が短縮し、また、製品(被圧延材)の品質が劣化する。
【0004】
品質を表す指標のうちの重要項目として、被圧延材の幅縮みが規定されている。被圧延材には様々な種類があり、例えば硬い被圧延材、軟らかい被圧延材がある。軟らかい被圧延材の圧延において、張力を大きく設定した場合、被圧延材が圧延方向に伸びて、幅が縮んでしまう。また、硬い被圧延材の圧延において、張力を大きく設定した場合、被圧延材が破断する。このように張力の設定は、生産安定化に大きな影響を与える。
【0005】
特許文献1には、熱間圧延されて所定速度で搬送されている鋼帯の先端をマンドレルに巻き付け、張力を付与しながら前記鋼帯をマンドレルに巻き取るタンデム圧延システムにおける熱間圧延鋼帯の巻取り方法において、鋼帯先端のマンドレルへの巻き付き時は、鋼帯に付与する張力を定常時の設定張力より小さい初期値に設定し、その後所定の巻き状態となるまで(例えば、所定巻き数の巻き付けが完了するまで、または所定時間が経過するまで)の間は、鋼帯に付与する張力を前記初期値から定常時の設定張力まで漸増させること、及びこれにより、仕上圧延機の最終スタンドを出た直後の位置(温度が700〜900℃と非常に高くなっている部分)に生じるネッキングを抑制することが示されている。
【0006】
特許文献2には、タンデム圧延システムにおいて、圧延機で圧延された被圧延材を、第1のピンチロールと、その下流に配置した第2のピンチロールとを介して、巻取機で巻取るに当たり、被圧延材が第1のピンチロールを抜ける時点での張力変動をなくし、巻取終了まで良好な張力制御をすることが示されている。
【特許文献1】特開平11−188422号公報
【特許文献2】特開平7−53101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ステッケル圧延システムは、タンデム圧延システムとは異なり、被圧延材の温度分布は、その先後端が低く中間部が高い。したがって、被圧延材の張力制御のための張力設定を高く設定すると、この設定値は被圧延材の中間部では高すぎるすぎる為、被圧延材圧延方向に延びてしまい良好な圧延ができなくなる。また、張力設定を低く設定すると、圧延機と巻取機の間で被圧延材が張らずに良好な圧延ができなくなる。
【0008】
なお、特許文献1に開示される技術では、張力制御は時間に着目してなされており、巻取り開始から時間に対し、一定の変化率で漸増させた指令により制御している。このため、巻取り速度は毎回異なり、巻取り長に対する張力指令も毎回異なることから、巻取り速度の大小により張力指令や時間設定の調整に多大な労力を必要とする。また、特許文献2に開示される技術は、被圧延材がピンチロールを抜ける際に生じる巻き取り張力変動を抑制する技術であり、温度変化に着目する技術ではない。このため、被圧延材の幅縮み抑制に対して有効な制御手段ではない。
【0009】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたもので、巻き取り開始後の設定張力を適切に変化させることにより、被圧延材の幅縮み等を抑制して生産安定性を高めることのできる圧延機の張力制御技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0011】
熱間圧延機の入側および出側のそれぞれに被圧延材を巻き取る巻き取り機を備え、被圧延材を前記巻き取り機内のマンドレルに巻き付け、前記圧延機と巻き取り機との間で前記被圧延材に所定の張力を印加しながら被圧延材を繰り返し圧延する圧延機の張力制御方法において、 前記被圧延材に印加する張力を、被圧延材の両端部において、張力制御が開始される被圧延材の先端部から中間部に向けての所定距離に渡って漸減するように設定した。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以上の構成を備えるため、巻き取り開始後の設定張力を適切に変化させ、被圧延材の幅縮み等を抑制して生産安定性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態にかかる圧延システムを説明する図である。図1において、1は計算機、2は巻き取り機3の張力を制御する張力制御装置、3a,3bは張力設定手段、4a,4bは温度実績収集手段で収集した温度実績を解析する温度実績解析手段、5a,5bは被圧延材に印加される張力実績を収集する張力実績収集手段、6a,6bは被圧延材の長さ方向の温度実績を収集する温度実績収集手段、7a,7bは張力制御手段、8a,8bは張力指令演算手段であり、後述する先端部設定張力F1、中間部設定張力F2、および張力漸減部巻取り長L、および巻取り長LACTをもとに張力指令値を演算する。9a,9bは被処理材の巻き取り長を演算する巻き取り長演算手段である。
【0014】
また、10a、10bは巻き取り機駆動装置、11a,11bは巻き取り長検出手段、12a,12bは被圧延材の温度を検出する温度検出手段、13a、13bは巻き取り機、14a、14bは巻き取り機のマンドレル、21はワークロール、22はバックアップロールである。
【0015】
この圧延システムは、一対のワークロール21と一対のバックアップロール22で構成された圧延機と該圧延機の前後面(被圧延材の入り側、出側)に配置した一対の巻取り機13a、13bを備える。被圧延材を前記圧延機と一対の巻き取り機との間で、繰返し圧延する際、被圧延材は、前記圧延機を通過して前記巻取り機に進入し、さらに該巻取り機内のマンドレル14に巻き付けられ、その後、巻き取り機は前記圧延機と前記巻取り機との間の張力を適宜保ちながら、前記被圧延材を巻き取る。
【0016】
本実施形態においては、被圧延材を前記マンドレルに巻き付けた後に開始する張力制御において、被圧延材に印加する張力を、被圧延材の巻き取り先端部(張力制御開始点)から中間部に向けての所定距離に渡って漸減するように設定する。
【0017】
図2は、被圧延材の巻き取り長と各巻き取り位置において印加する張力との関係を説明する図である。図2に示すように、前記巻取り先端部において印加する張力(先端部設定張力)をF1、前記巻き取り先端部から所定の巻き取り長(張力漸減部巻き取り長)Lだけ中間部よりの地点において印加する張力(中間部設定張力)をF2に設定する。なお、前記先端部設定張力F1、中間部設定張力F2、および張力漸減部巻取り長Lは、図1の計算機1で設定し、設定された値は計算機1から張力制御装置2に送られる。なお、前記先端部設定張力F1、中間部設定張力F2、および張力漸減部巻取り長Lは、計算機1において、鋼種、板厚、板幅、被圧延材に応じて設定することが可能である。
【0018】
図4は、被圧延材の巻き取り長に対する温度(温度実績)を収集する温度実績収集手段6a、6bの処理を説明する図である。まず、温度実績収集手段6a、6bは、温度検出手段12a、12b介して被圧延材の表面温度を測定し収集する(ステップS4−1)。このとき、温度実績収集手段は、巻き取り機13a、13bに備えられた巻き取り長検出手段および巻き取り長演算手段を介して前記温度の測定位置における巻き取り長を演算する(ステップS4−2)。次いで温度実績収集手段は、前記温度の測定値と測定した位置の巻き取り長とを時系列に並べて温度実績を作成し(ステップS4−3)、作成した温度実績を温度実績解析手段4a、4bに送る(ステップS4−4)。
【0019】
図5は、温度実績解析手段4a、4bの処理を説明する図である。まず、温度実績収集手段6a、6bから巻取り長に関連付けられた温度実績を入力し(ステップS5−1)、温度実績が予め設定した任意のしきい値以上となるときの巻取り長L(張力漸減部巻き取り長L)を求める。(ステップS5−2)。次に前回の処理の際に設定されていた張力漸減部巻き取り長L’(またはL’’)を前記Lに置き換え(ステップS5−3)、置き換えられた巻き取り長Lを張力設定手段3a、3bに出力する。
【0020】
図6は、張力設定手段3a、3bの処理を説明する図である。まず、張力指令演算手段8a,8bは、図1に示す巻取り機駆動装置10に流れる駆動電流を取得し、取得した駆動電流を式(1)を用いて張力に換算する。
【0021】
ACT = K×Gr / D×IACT ・・・式(1)
ここで、TACTは張力、Kは電流−張力換算係数、Grは巻取り機13a,13bのギア比、Dはマンドレル14の直径、IACTは駆動電流を示す。得られた張力は、張力実績収集手段5a、5bに収集するとともに張力設定手段3に入力する。
【0022】
次に、温度実績解析手段4から、張力漸減部巻き取り長Lを入力し(ステップS6−2)、次いで、被圧延材の鋼種、板厚、板幅、張力実績から、先端部設定張力F1、中間部設定張力F2、および張力漸減部巻取り長Lを設定する。次いで、設定した値(F1、F2,L)を張力指令演算手段8に出力する。
【0023】
図3は、張力指令演算手段8a、8b処理を説明する図である。まず、張力設定手段3a,3bから出力された先端部設定張力F1、中間部設定張力F2、および張力漸減部巻取り長Lを取り込み(ステップS3−1)、次いで、巻取り長演算手段9a,9bから巻取り長LACTを取得し(ステップS3−2)、これらのデータを式(2)に適用して、張力制御指令値TREFを算出する。
【0024】
REF=(L−LACT)×(F1−F2)/L+F2 ・・・式(2)
ここで、TREFは張力制御指令値、LACTは、前記巻取り長演算手段9より入力された巻取り長を示す。次に前記張力制御指令値TREFを式(3)に適用して張力指令を電流指令IREFに換算する。
【0025】
REF=1/K×D/Gr×TREF ・・・式(3)
ここで、IREFは、電流指令を示す(ステップS3−3)。
【0026】
次に算出された前記電流指令IREFは、巻き取り機駆動装置10a、10bに流れる電流IACTとの差分がとられ、張力制御手段7a、7bは前記差分をもとに巻き取り機駆動装置10a、10bを負帰還制御する。
【0027】
以上、先端部設定張力F1、中間部設定張力F2、および張力漸減部巻取り長Lを設定する例、すなわち、張力に着目した例について説明した。しかしながら、前述のように張力は駆動装置の駆動電流に換算することが可能である。このため前記先端部設定張力F1、中間部設定張力F2を電流に換算して定義することができる。また、張力を、圧延機と巻取り機の速度差により定義することもできる。
【0028】
図1に示すステッケル圧延システムでは、圧延機と巻取り機との間で圧延が繰返される。このため、任意の方向に圧延されているときの被圧延材の後端は、圧延方向が逆転すると、被圧延材の先端となる。このため、任意の方向に圧延されているとき、前述のように温度実績、前記巻取り長、前記張力実績をもとに、張力設定手段により先端部張力F1、中間部張力F2、前記先端巻取り長Lを取得しておき、前記任意の方向での圧延が終了し、圧延方向を逆転させる際、前記取得しておいたF1、F2、Lを前記張力指令演算手段8に送ることができる。
【0029】
そして、張力指令演算手段は、張力制御指令値TREFを算出し、巻取り機13を駆動する。これにより、前記被圧延材の先端巻取り部から中間巻取り部にいたる個所においては、温度に着目した張力制御指令を与えること、すなわち、指令値が、張力制御が開始される先端部から中間部に向けて所定距離に渡って漸減するように設定し、中間部において一定となるように設定することができる。
【0030】
以上説明したように、熱間ステッケル圧延においては、被圧延材の中間部の温度が先端部より高い。このため、被圧延材の先端部に対して適切である張力を中間部に適用すると、張力が高すぎるため被圧延材に幅縮みが生じる。逆に、中間部に対して適切な張力を先端部に適用すると、張力が低すぎるため巻き付け失敗が起こりやすくなる。
【0031】
本実施形態では、被圧延材に対する張力設定値として、先端部用と中間部用の二つを備え、被圧延材が巻取り機による張力制御が開始された後、巻取り長に応じて、先端部用張力設定値から中間部用張力設定値へ徐々に減少させる張力を与える演算手段を備えた。
【0032】
また、中間部用張力設定値となるときの巻取り長Lは、検出した被圧延材の温度にしたがって設定し、被圧延材の巻き取り長Lを超える中間部(高温部)には中間部用の張力を設定し、被圧延材の巻き取り長L以下の先端部(低温部)には先端部用の張力を設定し、さらに先端部用の張力設定値は被圧延材の温度変化あるいは先端部からの距離にしたがって徐々に減少させる。これにより、被圧延材の中間部の張力と先端部の張力を最適に設定することができ,被圧延材の幅縮み、破断、巻き付け失敗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態にかかる圧延システムを説明する図である。
【図2】被圧延材の巻き取り長と各巻き取り位置において印加する張力との関係を説明する図である。
【図3】張力指令演算手段の処理を説明する図である。
【図4】温度実績収集手段の処理を説明する図である。
【図5】温度実績解析手段の処理を説明する図である。
【図6】張力設定手段の処理を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
1 計算機
2 張力制御装置
3 張力設定手段
4 温度実績解析手段
5 張力実績収集手段
6 温度実績収集手段
7 張力制御手段
8 張力指令演算手段
9 巻取り長演算手段
10 巻取り機駆動装置
11 巻取り長検出手段
12 温度検出手段
13 巻取り機
14 マンドレル
21 ワークロール
22 バックアップロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延機の入側および出側のそれぞれに被圧延材を巻き取る巻き取り機を備え、被圧延材を前記巻き取り機内のマンドレルに巻き付け、前記圧延機と巻き取り機との間で前記被圧延材に所定の張力を印加しながら被圧延材を繰り返し圧延する圧延機の張力制御方法において、
前記被圧延材に印加する張力を、被圧延材の両端部において、張力制御が開始される被圧延材の先端部から中間部に向けての所定距離に渡って漸減するように設定したことを特徴とする圧延機の張力制御方法。
【請求項2】
熱間圧延機の入側および出側のそれぞれに被圧延材を巻き取る巻き取り機を備え、被圧延材を前記巻き取り機内のマンドレルに巻き付け、前記圧延機と巻き取り機との間で前記被圧延材に所定の張力を印加しながら被圧延材を繰り返し圧延する圧延機の張力制御方法において、
前記被圧延材に印加する張力を、被圧延材の両端部において、張力制御が開始される被圧延材の先端部から中間部に向けての所定距離に渡って漸減し、かつ中間部において一定となるように設定したことを特徴とする圧延機の張力制御方法。
【請求項3】
請求項1記載の圧延機の張力制御方法において、
被圧延材に印加する張力を漸減する前記所定距離は、張力制御が開始される被圧延材の先端部から、前記被圧延材の巻き取り長に対する温度実績と予め設定した温度閾値が一致する部分までの距離であることを特徴とする圧延機の張力制御方法。
【請求項4】
請求項1記載の圧延機の張力制御方法において、
被圧延材の前記先端部および中間部において印加する張力は、それぞれ被圧延材の鋼種、板厚、板幅、および印加された張力の実績をもとに算出することを特徴とする圧延機の張力制御方法。
【請求項5】
熱間圧延機の入側および出側のそれぞれに被圧延材を巻き取る巻き取り機および該巻き取り機を駆動する巻き取り機駆動装置を配置し、
被圧延材の先端を前記巻き取り機内のマンドレルに巻き付け、張力制御装置により前記巻き取り機駆動装置を制御して前記圧延機と巻き取り機との間の前記被圧延材に印加される張力を調整しながら被圧延材を繰り返し圧延する圧延機において、
前記張力制御装置は、前記被圧延材に印加する張力を、被圧延材の両端部において、張力制御が開始される先端部から中間部に向けて所定距離に渡って漸減するように設定し、中間部において一定となるように設定することを特徴とする圧延機。
【請求項6】
請求項5記載の圧延機において、
被圧延材に印加する張力を漸減する前記所定距離は、被圧延材の先端から、前記被圧延材の巻き取り長に対する温度実績と予め設定した温度閾値が一致する部分までの距離であることを特徴とする圧延機。
【請求項7】
請求項5記載の圧延機において、
被圧延材の前記先端部および中間部において印加する張力は、それぞれ被圧延材の鋼種、板厚、板幅、および印加された張力の実績をもとに算出することを特徴とする圧延機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−279638(P2009−279638A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136710(P2008−136710)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】