説明

圧縮機およびヒートポンプシステム

【課題】
圧縮機起動時にケーシングに接触した気体がケーシング表面で凝縮し、液滴が発生してしまった場合、この液滴が遠心力でインペラ外側のケーシング面に集積し、粗大な液滴もしくは液膜となると、これを高速で回転するインペラの翼端で掻き揚げることによって、翼先端のエロージョンが生じるおそれがある。
本発明の目的は、圧縮機中でケーシング面に集積した液体により引き起こされるエロージョンの発生を抑制し、信頼性に優れた圧縮機及びその運転方法を提供することにある。
【解決手段】
オープン式インペラ2及びケーシング36を有し、凝縮して液体となる気体を圧縮する遠心式のターボ圧縮機において、ケーシング36を加熱する加熱手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温,常圧では凝縮して液体となる気体を圧縮する遠心式のターボ圧縮機及びその運転方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
遠心式のターボ圧縮機において、液滴衝突による羽根のエロージョンを回避する技術としては、例えば高田ら著作の「産業用ヒートポンプシステム」69〜70頁に、吸気温度を3℃の過熱状態にするため、圧縮機吐出の蒸気を吸込側へバイパスさせる技術が開示されている。
【0003】
【非特許文献1】高田秋一、黒田章一著「産業用ヒートポンプシステム」、省エネルギーセンター1991年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記技術では、圧縮機起動時にケーシングに接触した気体がケーシング表面で凝縮し、液滴が発生してしまう可能性が高い。この液滴が遠心力でインペラ外側のケーシング面に集積し、粗大な液滴もしくは液膜となると、これを高速で回転するインペラの翼端で掻き揚げることによって、翼先端のエロージョンが生じるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、圧縮機中でケーシング面に集積した液体により引き起こされるエロージョンの発生を抑制し、信頼性に優れた圧縮機及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
オープン式インペラ及びケーシングを有し、常温,常圧では凝縮して液体となる気体を圧縮する遠心式のターボ圧縮機において、前記ケーシングを加熱する加熱手段を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、圧縮機中でケーシング面に集積した液体により引き起こされるエロージョンの発生を抑制し、信頼性に優れた圧縮機及びその運転方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、翼端シュラウドを持たないオープン式インペラを有する遠心式のターボ圧縮機に関するものである。このような圧縮機は、重いシュラウド部分がない分インペラの周速を上げることができ、容易に高圧力比化を達成することができる。回転数を多く必要とする水蒸気圧縮用の圧縮機としても適用が容易となる。
【0009】
ただし、オープン式インペラを用いる場合、圧縮中の気体が直接ケーシングにふれることになる。圧縮機の起動時などケーシングの温度が低い場合には、気体がケーシング表面で凝縮し液滴が発生し、エロージョンの原因となる。
【0010】
液滴衝突による羽根のエロージョンを回避する技術としては、吸気温度を3℃の過熱状態にするため、圧縮機吐出の蒸気を吸込側へバイパスさせる技術がある。しかしこの技術は、配管圧損や放熱により主流気体温度が飽和温度以下になり凝縮することによる液滴の発生の抑制には効果的だが、圧縮機起動時の常温に冷めきったケーシングに気体が接触することにより液滴が発生することを抑えるのは困難である。
【0011】
仮に吸気の過熱度を10〜20℃程度にすれば、ケーシングへの接触があっても主流気体は飽和温度以下になりにくく、ケーシング面上での凝縮を抑制することはできる。しかしターボ式の圧縮機の場合、吸気の温度を上げることは圧縮動力の増加につながるため、吸気流体の過度な昇温はシステム効率の著しい低下を招く。
【0012】
また遠心圧縮機の場合、入口部の翼の回転速度は出口部と比較して小さく、仮に凝縮してできた微細な液滴が主流中に存在するとしても、液滴と翼の相対速度が小さくエロージョンは発生しにくい。これに対し、液滴が遠心力でインペラシュラウド側のケーシング面に集積し、粗大な液滴もしくは液膜となり、そのケーシング面上に静止した液膜を、高速で回転するインペラの翼端で掻き揚げることによって生じる翼先端のエロージョンの方が、圧縮機の信頼性に与える影響がはるかに大きい。本発明は、システム効率の低下を抑えつつ、ケーシング面上での凝縮を抑制することにより、信頼性に優れた圧縮機及び圧縮機の運転方法を提供するものである。
【実施例1】
【0013】
図1,図2を用い、本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の一実施例であるヒートポンプシステムに用いられる圧縮機を示す。図2は、本発明の一実施例であるヒートポンプシステムの構成図を示す。本実施例のヒートポンプシステムは、圧縮機を用い、排温水から熱をくみ上げて、熱利用設備で利用する蒸気を生成するヒートポンプシステムである。
【0014】
本実施例のヒートポンプシステムでは、常温,常圧で液体となる作動流体として水を利用している。水は、冷媒として良く使われるフロンなどの媒体と比べ、価格が廉価で、かつ、地球温暖化などを起こす心配の少ない地球に優しい作動流体である。水は、常圧下で100℃を越えると蒸気になるが、液体から気体に相変化する際の蒸発潜熱が大きく、蒸気媒体中に潜熱として持つ熱量も大きいことも特徴である。また、工場内の加熱源として水蒸気が使われることも多く、本実施例のように水を媒体としたヒートポンプシステムを構成することで、ヒートポンプで生成した水蒸気を、熱交換器を介さずに、工場利用の熱源として供給することができ設備費を低減できることも、作動媒体として水を利用したときの特徴である。
【0015】
まず、本実施例のヒートポンプシステムを、図2を用いて説明する。本発明の一実施例であるヒートポンプシステムは、外部から供給される高温の熱源である温水系統40との熱交換により、内部に貯まった液水41を蒸発させて作動媒体の水蒸気を生成する蒸発器42と、駆動装置である電動機1によって駆動され、蒸発器42で生成した水蒸気を加圧する圧縮機34と、圧縮機34を駆動する電動機1と、圧縮機34で加圧した高温の蒸気を供給する吐出配管25、及び圧縮機34から蒸気を圧縮機ケーシング加熱チャンバ35へ導く配管22を備えている。更に、圧縮機34で加圧して生成した高温の蒸気を、吐出配管25から弁23を備えた熱供給配管系統24へ供給し、この蒸気の熱を消費する外部の熱利用設備20と、圧縮機34で生成した高温の蒸気の一部を、吐出配管25の分岐部26から分岐して導き、配管22を通じて供給する圧縮機ケーシング加熱チャンバ35と、チャンバ35から配管27を介して蒸気と液水が供給されて一時蓄えられる圧力容器60と、から構成されている。また、蒸発器42には、外部から蒸発器42の内部に液水41となる水を供給する給水系統31と、この供給された液水を過熱して蒸発させる高温の加熱源となる温水系統40が配設されている。
【0016】
前記給水系統31には弁39が設けてあり、給水系統31を流れる約15℃の液水は、弁39によって流量を調整されつつ、蒸発器42の内部に供給される。蒸発器42には、温水系統40を通じて、例えば95℃程度の外部熱源から蒸発器42に熱を供給している。そして蒸発器42では、給水系統31を通じて供給され内部に貯蔵された約15℃の液水41が、前記温水系統40を通じて供給された95℃の外部熱源と熱交換することによって蒸発し、約90℃,0.07MPaの水蒸気が生成される。
【0017】
圧縮機34は、例えば、図1に示されるような単段の遠心圧縮機で構成されている。蒸発器42で熱交換して発生した低圧の水蒸気が該圧縮機34に供給され、電動機1により圧縮機34を回転駆動させて圧縮することにより、圧縮機34から吐出される水蒸気は昇圧,昇温化されて、例えば約0.27MPa,約130℃の高温の水蒸気となる。そして、この高圧高温の水蒸気は、圧縮機34から吐出配管25及び弁23を備えた熱供給配管24を通じて外部の熱利用設備20に熱源として供給され、消費される。
【0018】
圧縮機34に連結している軸の軸端には駆動装置である電動機1が接続されており、水蒸気を圧縮して高温の水蒸気を生成するのに必要な圧縮機34の圧縮動力を供給している。
【0019】
本実施例では、圧縮機34を駆動する動力源として電動機を想定したが、ガスタービンやガスエンジンなどの原動機などを用いても構わない。また、圧縮機と原動機の回転数が同じ必要もなく、両者の間に回転数を変えるための増速機や減速機がついていても良い。
【0020】
そして、この圧縮機34から吐出する高温,高圧の水蒸気を吐出配管25に設けられた分岐部26で熱供給配管24と分岐した配管22を通じて流下させて蒸発器42に戻して、作動媒体である水がヒートポンプ装置を循環するようにする。つまり、配管22に設けられた弁21を開弁することによって圧縮機34から吐出された高温,高圧の蒸気が、ケーシング36の外周側に設けられたケーシング加熱チャンバ35へ供給され、ケーシング36を加熱する。ケーシング加熱チャンバ35を流れる蒸気により圧縮機34の吸気蒸気の温度以上までケーシング36を暖め、主流蒸気がケーシング36に接触した際に凝縮するのを抑制するようになっている。なお、弁21は制御装置21aにより適切に制御される。
【0021】
主流蒸気がケーシング36に接触した際の凝縮を抑制するためには、少なくとも水分が気体として存在している吸気温度以上にケーシング36の温度を維持すれば良い。ケーシングによる冷却を考慮しなければ、圧縮機内部の圧縮過程は、高圧化しつつ蒸気の過熱度が上昇する断熱圧縮過程であり、少なくとも吸気時に飽和状態にある蒸気は、圧縮の途中で液水に戻ってしまうことはない。
【0022】
以下、本実施例のヒートポンプシステムを構成する構成機器の詳細構成および運転について説明する。
【0023】
本発明の一実施例であるヒートポンプ装置を構成する蒸発器42には、外部熱源により温められた温水が温水系統40を通じて供給がされるが、供給される温水は、工場やごみ焼却場の排熱,河川,下水、大気などの未利用熱源を利用して生成されたものであることが望ましい。前記蒸発器42では、温水系統40を通じて供給される温水と、蒸発器42の内部の液水41とが直接的には接触しない間接式の熱交換器の場合を示しているが、温水系統40の温水と蒸発器42内の液水41が混合する直接接触式の熱交換器であっても良い。また、蒸発器42の内部に位置する温水系統40の伝熱面としては、蒸発器内に溜まった液水41の中をチューブ式の配管を配置した熱交換器であっても、二相流式のプレート式熱交換器であっても、どちらでも良い。
【0024】
蒸発器42には圧縮機34から吐出された高温蒸気の一部が、弁61の開弁時に配管63を通じて供給され、蒸発器42の底面に溜まった液水41の蒸発が促進されるようになっている。
【0025】
本実施例では、圧縮機34を単段の遠心圧縮機としているが、熱利用設備20へ供給する蒸気温度と、熱源40の温度差が大きい場合などは、圧縮機を多段化しても構わない。その場合、各段の圧縮機吐出蒸気を、それぞれの段の圧縮機ケーシングを加熱する熱源として用いても良いが、圧縮機の最終段の高圧蒸気を、他段全てのケーシングの加熱蒸気として用いても良い。後者の場合、構成が簡素化されるという利点がある。前者の場合、ケーシングを加熱する蒸気温度と加熱により到達させたい温度との開きを抑制でき、熱ロスの発生が少なく、システム効率が向上する。
【0026】
次に、圧縮機ケーシング36の加熱につき、図1を用いて詳細に説明する。
【0027】
圧縮機34は、内部にロータ6を有し、そのロータは軸受5によって保持されている。ロータの一端にはインペラ2を有し、他端は駆動系に繋がる軸端部を備えている(図示省略)。インペラ2は、ハブ部とハブ部から伸びる複数枚の翼3を有し、翼3が回転することにより流れを軸方向から流路面積の狭い半径方向に押しやり、気体を高圧化する。インペラ2と軸受5の間にはシール部4を備え、外部からの空気の漏れこみを抑制する構成となっている。インペラ2は、翼端シュラウドを持たないオープン式のインペラであり、重いシュラウド部分を持たない分、インペラの周速を上げることができ、容易に高圧力比を達成することができる。また、オープン式のため、インペラ内部を流れる主流がケーシング36に直接接触することになる。ケーシング36を加熱すれば主流に含まれる液滴を蒸発させることもできる。
【0028】
インペラ翼3とケーシング36との接触を防ぐため、翼端には0.1〜数mm程度の間隙を設けるのが常であるが、その間隙量はインペラの製作交差や、ケーシングの熱変形,インペラの熱,回転変形を考慮し、適切に選定する必要がある。インペラ内を流れる主流中に発生した液滴は、遠心力により外周側へ追いやられ、ケーシング36の内表面に累積する。その累積量が翼端間隙よりも厚くなった場合、その水分をインペラ翼3の端部が高速で掻き揚げることになる。この状態のまま長時間に亘り運用すると、エロージョンにより翼端部が壊食されることになる。
【0029】
また、主流内に液滴が存在しないとしても、ケーシング36が低温、例えば15℃の場合には、約90℃の主流蒸気がケーシング36に接触すると、凝縮により液滴がケーシング面上に累積する。液滴の厚みが翼端間隙以上になると、翼3との接触を免れない。したがって累積した液滴が厚くなる前に液水を蒸発させる必要がある。なお、ケーシング36の被加熱面、すなわちチャンバ35とケーシング36の接触領域は、インペラ翼3と相対する部分全体をカバーする領域であることが望ましい。このようにすれば、インペラ翼3による累積液滴の掻き揚げが起こり得る部分全体において、液滴の蒸発を促進させることができる。
【0030】
圧縮機34の吐出配管25には分岐部26があり、その分岐点から配管系統22へ供給される蒸気が分岐され、ケーシング加熱チャンバ35へ供給されている。配管22は一本の配管として示したが、これに限定されるものではなく、チャンバ35へ一様に供給するという観点からは周方向に複数本の配管で構成してもよい。望ましくは、4本や6本の配管を周方向等間隔で設けるのが良い。
【0031】
チャンバ35へ供給された蒸気は、ケーシング36を加熱し、そのケーシング温度を適度な温度に維持する。本実施例では、周方向に繋がったチャンバ35を想定した。配管22から供給された蒸気は周方向に流れながらケーシング36と熱交換し、ケーシング36を加熱する。ケーシングの加熱により熱を奪われて低温化した水蒸気は、一部が液化して液水となり、液化しなかった蒸気とともにチャンバ35の下部に設けられた配管27を通って圧力容器60へ一時保持される。
【0032】
ケーシング36は、強度部材というよりも、主流とチャンバ35を分離する隔壁としての役割を果たすものである。圧縮機全体を支える強度部材は、むしろチャンバ35を構成する外側の部材となる。したがって、図1で示した圧縮機よりも、チャンバ35を構成する部材の厚み35aがケーシング36の厚み36aよりも大きい圧縮機の方が望ましい。このようにすれば、ケーシング36の熱容量を下げられ、ケーシング36の加熱に要する熱量を低減することができる。
【0033】
また、チャンバ35の内部に液滴が溜まると、ケーシング36やチャンバ35に周方向の温度不均一ができるため、熱応力や周方向不均一な変形の原因となり、圧縮機の信頼性が低下する。よって、本実施例のように、液分はチャンバ35内に保持するよりも、むしろ圧力容器60に溜めた方がケーシングの信頼性や、インペラ翼端間隙の管理の上からも望ましい。
【0034】
ドレン容器60に貯まった水分のうち、気体部分は弁62で圧縮機吸気圧程度にまで減圧され、配管70を通って圧縮機34の吸気部へ供給される。このとき、周方向へ一様に蒸気を混合させるため、配管70からの蒸気を周方向のリング状のヘッダ7に受け、そこから、周方向複数本の配管もしくはスリット8により、吸気蒸気と混合させると良い。このように構成すれば、蒸気、すなわち水や熱の有効利用が図られる。
【0035】
ドレン容器60に貯まった液水は、弁61で流量を調整されつつ、蒸発器42の液相部分へ供給される。ドレン容器60内の水位をあるレベルに保持するため、例えばレベル計65を使って水位を監視し、その結果を元に弁61を開閉し、流量を調整しても良い。弁61による減圧により、液水の一部が減圧沸騰により気化するが、残った液水は蒸発器42へ供給された熱源により加熱されて気化することになる。圧縮機によって高温化した液水を蒸発器42に供給するため、外部給水源31から常温の水を供給するよりも蒸発に必要な加熱量が少なくて済み、外部給水源31の水を使うよりも、多くの蒸気を蒸発器42において発生させることができる。
【0036】
次に、本実施例のヒートポンプシステムの運転方法を図2を用いて説明する。
【0037】
ヒートポンプシステム停止時には、装置全体が常温15℃程度にまで冷やされており、装置内圧も大気圧程度になっている。運転時には、蒸発器42に熱源を供給する温水系統40に、95℃の温水を供給して、蒸発器42内の水温が90℃程度になるように加熱する。90℃の水温に対する飽和蒸気圧は0.07MPaであるため、弁23を閉じて、例えば、真空ポンプ80などにより機内の圧力を0.07MPa以下にまで減圧すると、蒸発器42において液水が沸騰し、水蒸気が発生する。起動直後、装置の配管やケーシングは15℃前後であるため、蒸発器42で発生した90℃の飽和蒸気は、ケーシングなどに接触すると冷却され飽和温度以下になり、ケーシングなどの表面で一部が凝縮し液滴が発生する。
【0038】
蒸発器42から低圧水蒸気の発生が確認され次第、電動機1を始動させ圧縮機34の回転数を徐々に昇速させる。蒸発器42の内圧が一定だとすると、圧縮機34の吐出圧は圧縮機の回転数の増加に応じて高くなる。圧縮機34の回転数が低速の間は、吐出圧が大気圧以下となるため、熱利用設備20へ掃気することができず、すべての蒸気を真空ポンプ80で排気する必要がある。回転数がある程度高くなると、圧縮機34の吐出圧が大気圧以上となるため、真空ポンプ80を停止し、弁23を開けて発生した蒸気を熱利用設備20へ掃気することができる。
【0039】
通常の起動の場合、圧縮機は始動から約5分程度で定格回転数に到達する。回転数は比較的短時間に定格点に到達するものの、圧縮機のケーシングや配管などは、大きな熱容量を持つため、熱平衡状態にある定格状態の温度に到達するのに通常だと1〜2時間程度の時間を要する。この暖機期間中、蒸発器42で蒸発した蒸気は、配管やケーシングによって冷やされ、飽和温度以下となり、なんらかの方法で加熱しないと液滴を発生させることになる。
【0040】
本実施例のヒートポンプシステムでは、昇速時に弁61と弁62を開き、圧縮機34で圧縮されて高温となった蒸気をケーシング加熱チャンバ35へ供給し、圧縮機翼3の翼端近傍に位置するケーシング36を加熱する。ケーシング36が圧縮機吐出圧に対する飽和温度程度にまで加熱されることになるため、インペラ内に流入した液滴が、遠心力により外周側へ飛ばされてケーシング36に付着した際、液滴雰囲気圧に対する飽和温度以上になり、すぐに蒸発する。
【0041】
圧縮機が定格回転数に到達し、所定の温度、すなわち定常的な熱平衡に達した後は、弁61や62を閉じて、圧縮機吐出蒸気によるケーシング36の加熱を停止させても良い。熱平衡に到達した後は、吐出蒸気による加熱を行わなくても、圧縮機主流からの加熱によって、ケーシング36は吸気よりも高温な状態に保持される。よって、吐出蒸気による加熱がなくてもエロージョンが発生しないため、圧縮機の吐出蒸気を本来の熱利用設備20で用いた方が熱を有効利用できる。
【0042】
圧縮機の昇速前または昇速中、すなわち圧縮機の昇速が完了するまでの間に、ケーシング36を加熱すれば、定格運転に達する前の、特に液滴発生が懸念される期間における圧縮機の信頼性を高めることができる。さらにケーシング36の温度が、圧縮機の吐出圧に対する飽和温度、すなわち吸気圧に対する飽和温度よりも高い状態に保持されつづければ、ケーシング36の表面で液滴の凝縮は抑制され、ケーシング36の表面での液膜の形成は抑制される。よって、インペラのエロージョンによる壊食が抑制でき、圧縮機34の翼端間隙を、通常の凝縮しない気体の圧縮機と同等に狭く設定することができ、液膜を考慮して翼端間隙を広げる場合に比べ、圧縮機の効率を大幅に向上させることができる。
【0043】
また、ケーシング36との接触によって主流蒸気が冷やされることがない場合、インペラ2の入口において、主流蒸気が飽和温度以上になっていれば、インペラ内部で主流が凝縮することがない。よって、圧縮機の吸気温度を飽和温度まで低下させることができるため、最小限の圧縮動力で所定の蒸気圧力を達成することができ、システム効率が向上する。
【0044】
さらに、通常の圧縮機よりも、ケーシング36を積極的に暖機するため、短い時間に定格性能の状態に到達させることができる。定格性能に到達して十分な暖機が完了した段階では、ケーシングの加熱を終了しても良く、圧縮機で得た高温蒸気を熱利用設備で有効に活用することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施例のヒートポンプシステムは、圧縮機ケーシング36を加熱する加熱手段を備えているため、圧縮機中でケーシング面に集積した液体により引き起こされるエロージョンの発生を抑制し、圧縮機の信頼性を向上させることができる。この加熱手段としては、軸に対して径方向外側に、蒸気の流れるチャンバ35を有している。この加熱手段であるチャンバ35には、チャンバ35と吐出配管25とを接続する配管22により圧縮機吐出蒸気の一部が供給される。この蒸気により、チャンバ35が加熱される。
【実施例2】
【0046】
図3を用い、本発明の一実施例を説明する。図3は、本発明の一実施例であるヒートポンプシステムに用いられる圧縮機を示す。図1で示したヒートポンプシステムと同様の部分は説明を省略する。また、図3において図2で示した圧縮機と同様の部分についても説明を省略する。
【0047】
起動時や運転時に配管やケーシング表面で凝縮したドレンは、適宜、図示を省略したドレン排出機構によって系外に排出する他、特に圧縮機インペラ2への流入を抑えるため、液滴回収機構であるドレン回収ヘッダ9,ドレン回収スリット10を加熱チェンバ35が設けられた位置よりも圧縮機作動流体の流れ方向上流側である圧縮機吸気部に設け、不要な液滴の流入を抑制するのが望ましい。圧縮機34へ流入する液水量を極力抑えるため、ドレンを回収するための周対象なスリット10は、圧縮機インペラ2の上流側かつインペラ2に近い位置に設置することが望ましい。スリット10からドレン回収ヘッダ9を介して回収した吸気部ドレンは、弁67を開にし、弁69を閉にすることによって一時ドレン容器66に保持される。
【0048】
このように、ドレン回収機構を利用すれば、配管表面に凝縮して流れてきた液滴も、インペラ2の内部に流入する前に回収することができ、ケーシングの加熱に必要な蒸気量を少なくすることができる。それにより、圧縮機で得た高温蒸気をより多く熱利用設備20で利用することができる。
【実施例3】
【0049】
図4を用い、本発明の一実施例を説明する。図4は、本発明の一実施例であるヒートポンプシステムの構成図を示す。図2で示したヒートポンプシステムと同様の部分は説明を省略する。圧縮機ケーシング35を暖める手段として、圧縮機吐出蒸気とは別の蒸気源からの蒸気を利用している点が、前述の実施例と異なる。
【0050】
まず、全体構成について説明する。本実施例のヒートポンプシステムは、外部から供給される高温の熱源と熱交換して内部に貯まった液水41を蒸発させて作動媒体の水蒸気を生成する蒸発器42と、駆動装置である電動機1によって駆動され、蒸発器42で生成した水蒸気を高温の蒸気に加圧する圧縮機34と、圧縮機34を駆動する電動機1と、圧縮機34で加圧した高温の蒸気を供給する吐出配管25、及び圧縮機34から蒸気を圧縮機ケーシング加熱チャンバ35へ導く配管28を備えている。更に、ボイラー84で生成した高温の蒸気を、弁85を備えた熱供給配管28を使って圧縮機ケーシング加熱チャンバ35へ供給し、チャンバ35から配管27を介して蒸気と液水が供給されて一時蓄えられる圧力容器60と、から構成されている。
【0051】
ボイラー84は、可燃燃料を使って蒸気を生成する燃焼型のボイラーであっても、電気を使って電熱線により加熱し、蒸気を生成する電気式のボイラーであっても、どちらでも良い。また、工場や発電設備で作った余剰蒸気を使っても良い。重要なのは、圧縮機34の吐出蒸気以外の蒸気を使っている点にある。蒸気の温度は圧縮機の吸気蒸気温度である必要があり、暖め過ぎてケーシング強度の低下や、圧縮動力の増大を避ける意味から、必要な加熱温度の上限である、圧縮機吐出圧に対する飽和温度以下であることが望ましい。
【0052】
本実施例ヒートポンプシステムの動作について説明する。圧縮機ケーシングの加熱チャンバ35へ流入する蒸気の量を制御する弁85を開くことにより、ボイラー84で発生した蒸気を加熱チャンバ35に導き、圧縮機34のケーシングを加熱する。
【0053】
ケーシング加熱によって熱を奪われた蒸気は、一部が凝縮して気液二相状態になり、圧力容器60の内部に一時保持される。そのうち、気相部分は弁62によって圧を調整されて圧縮機34の吸気部に供給され、圧縮機吸気の加熱度を増やすために利用される。また、ドレン容器60の底面に溜まった液水は、蒸発器42の液水部35に供給され、蒸発する水分の一部として再利用される。
【0054】
本実施例では、ドレン容器60の水分が、圧縮機34の主流蒸気に供給されるように構成したが、加熱チャンバ35からの蒸気を系統ドレンとして廃棄しても良い。そのときには、ドレンとしての排出が速やかに行われるよう、ボイラー84による供給蒸気圧を大気圧以上にすべきである。
【0055】
電動機1を回転させる前に、弁85を開いてボイラー84からの高温蒸気を加熱チャンバ35へ供給して圧縮機のケーシングを加熱する。十分にケーシングが暖機され、圧縮機の吸気蒸気が凝縮しなくなった時点で、電動機1を起動し、徐々に定格回転数にまで昇速する。定格に到達した後は、弁85を閉じて加熱チャンバへの蒸気供給を停止し、ケーシングが余分に加熱されるのを防ぎ、蒸気の浪費を避ける方が良い。
【0056】
本実施例では、圧縮機34の作動蒸気以外の蒸気源からケーシング加熱用の蒸気を供給しているため、圧縮機の回転数に係わらず高温の蒸気源による加熱を実現することができ、ケーシングの加熱を早め、迅速に圧縮機の回転を上げることができる。また、余剰蒸気の有効利用にもなる。
【0057】
圧縮機34の作動蒸気以外の加熱源を用いるという意味では、敢えて蒸気で加熱する必要はなく、例えば、圧縮機ケーシングの周りに電熱線を巻き、電気の抵抗熱で持ってケーシングを暖めても良い。
【0058】
この場合、圧縮機34の回転数に係わらず、ケーシングを暖めることができ、圧縮機の起動を迅速にするとことができるという効果は同じであるが、更に燃焼式のボイラー設備に比べ危険物としての燃料を扱う必要がなく、設備費を低減できる。
【0059】
以上示した各実施例では、排熱回収するヒートポンプシステムに適用した事例にて、本発明の有効性を説明したが、本発明は圧縮機部分そのものに関するものであり、その適用範囲は本システムに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例1であるヒートポンプシステムに用いられる圧縮機を示す。
【図2】本発明の実施例1であるヒートポンプシステムの構成図を示す。
【図3】本発明の実施例2であるヒートポンプシステムに用いられる圧縮機を示す。
【図4】本発明の実施例3であるヒートポンプシステムの構成図を示す。
【符号の説明】
【0061】
1 電動機
2 インペラ
3 翼
4 シール部
5 軸受
6 ロータ
7,9 ヘッダ、
8,10 スリット
20 熱利用設備
22,24,27,70 配管
23,39,61,62,67,69,81,85 弁
25 吐出配管
26 分岐部
31 給水系統
34 圧縮機
35 チャンバ
36 ケーシング
40 温水系統
41 液水
42 蒸発器
60,66 容器
63 配管系統
65 レベル計
80 真空ポンプ
84 ボイラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オープン式インペラ及びケーシングを有し、凝縮して液体となる気体を圧縮する遠心式のターボ圧縮機において、
前記ケーシングを加熱する加熱手段を備えたことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項2】
水蒸気を圧縮するオープン式インペラと、該インペラを包囲するケーシングとを備えた遠心式のターボ圧縮機において、
前記ケーシングの外周側に流体の流れるチャンバを有することを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載のターボ圧縮機において
前記チャンバに圧縮機吸気よりも高温の水蒸気を供給するよう構成したことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項4】
ハブ部と、該ハブ部からのびる翼とを有するオープン式インペラと、前記インペラを包囲するケーシングと、前記インペラで圧縮された流体が流れる吐出配管とを備えた、水蒸気を圧縮する遠心式のターボ圧縮機において、
前記ケーシングの外周側に流体の流れるチャンバを有し、前記チャンバと前記吐出配管とを接続する配管を有することを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項5】
請求項3に記載のターボ圧縮機において、
前記チャンバに圧縮機系外の水蒸気を供給するよう構成したことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項6】
請求項3に記載のターボ圧縮機において、
前記インペラは、ハブ部と、該ハブ部からのびる翼とを有し、前記チャンバと前記ケーシングとの接触領域が、前記ケーシングの前記翼と相対する部分全体をカバーする領域であることを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項7】
請求項2に記載のターボ圧縮機において、
前記チャンバを構成する部材の厚みが前記ケーシングの厚みよりも大きいことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項8】
請求項3に記載のターボ圧縮機において、
前記チャンバ内の液滴を前記チャンバの外で溜めておくための容器を備えたことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項9】
請求項3に記載のターボ圧縮機において、
前記チャンバ内の水蒸気の少なくとも一部を前記ターボ圧縮機の吸気に混合させるよう構成したことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項10】
請求項1に記載のターボ圧縮機において、
前記加熱手段の上流側に液滴回収機構を有することを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項11】
請求項1に記載のターボ圧縮機において
前記加熱手段を制御する制御装置を備えたことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項12】
オープン式インペラと、ケーシングと、該ケーシングを加熱する加熱手段を有し、常温,常圧では凝縮して液体となる気体を圧縮する遠心式のターボ圧縮機の運転方法であって、
圧縮機の昇速が完了するまでの期間の少なくとも一部で、前記ケーシングを前記加熱手段を用いて加熱することを特徴とする圧縮機の運転方法。
【請求項13】
請求項12に記載のターボ圧縮機の運転方法であって、
前記ケーシングが所定の温度に到達した後、前記加熱手段によるケーシングの加熱を停止することを特徴とするターボ圧縮機の運転方法。
【請求項14】
請求項12に記載のターボ圧縮機の運転方法において、
前記ケーシングの加熱温度の上限を圧縮機吐出圧に対する飽和温度以下とすることを特徴とするターボ圧縮機の運転方法。
【請求項15】
熱源との熱交換により水を蒸発させて水蒸気を生成する蒸発器と、前記蒸発器で生成された水蒸気を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された水蒸気を熱利用設備に供給する配管とを備えたヒートポンプシステムにおいて、
前記圧縮機は、オープン式インペラ及びケーシングを有し、前記ケーシングを加熱する加熱手段を備えた遠心式のターボ圧縮機であることを特徴とするヒートポンプシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−85044(P2009−85044A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252982(P2007−252982)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】