説明

圧電アクチュエーター、ロボットハンド、及びロボット

【課題】ローターの回転速度の変動を抑えて安定した回転を得ることができる圧電アクチュエーターを実現する。
【解決手段】圧電アクチュエーター100は、圧電素子11を含む振動体1と、円盤形状を有するローター2と、振動体1の一端から突出しローター2に当接する摺動部15と、圧電素子11に駆動信号を供給する駆動制御部5とを備え、駆動制御部5は、予め取得した駆動開始からの時間経過に伴うローター2の回転速度の目標値に対する差異の変化に基づいて、駆動信号の周波数を変化させて回転速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエーター、ロボットハンド、及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエーターは、高周波の交流電圧等の駆動電圧を機械的振動に変換する圧電素子と、圧電素子によって駆動される被駆動部材とを有する駆動装置である。圧電アクチュエーターの一つの形態として、回転体を被駆動部材とする圧電モーターが知られている(例えば、特許文献1参照)。圧電モーターは、圧電素子の屈曲振動を、圧電素子を含む振動体から突出する摺動部を介して伝達し、回転体を所定の方向に回転させるものである。
【0003】
このような圧電モーターの用途として、近年、ロボットハンド(ロボット)の駆動手段としての用途が注目されている。ロボットハンドは、精密かつ正確な動作を必要とするため、ロボットハンドの駆動手段として用いられる圧電モーターでは、回転体の回転速度が安定していることが求められる。
【0004】
特許文献1に記載の圧電モーター(振動波モーター)では、エンコーダーからパルス情報として出力される回転速度と、CPUから出力される目標速度との差を速度差検出回路で比較し、その速度差情報に基づいて、速度制御回路が振動波モーターを駆動する駆動パルスの周波数を決定して出力する。これにより、振動波モーターの回転速度が目標速度となるように調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−209882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような圧電モーターでは、駆動中に回転速度をモニターし、回転速度が目標速度から外れたことを検出した場合、その都度回転速度の調整を行う構成となっている。そのため、回転速度のずれが発生した時点から、回転速度を調整してずれが抑えられる時点までに遅延が生じるので、回転速度の安定性を確保することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例に係る圧電アクチュエーターは、圧電素子を含む振動体と、円盤形状を有する回転体と、前記振動体の一端から突出し前記回転体に当接する摺動部と、前記圧電素子に駆動信号を供給して前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御部と、を備え、前記駆動制御部は、予め取得した前記回転体の回転速度の変動特性に基づいて、前記回転速度を制御することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、例えば、回転体と摺動部との摩擦力の変動等に起因して、回転体の回転速度に周期的な変動が発生する場合に、予め取得した回転速度の変動特性に基づいて、このような変動の発生を抑えるように制御することができる。これにより、回転速度の変動の発生を検出して都度制御を行う場合に比べて、回転速度の変動に対する制御の遅れが抑えられるので、回転速度をより安定させることができる。
【0010】
[適用例2]上記適用例に係る圧電アクチュエーターであって、前記駆動制御部は、前記変動特性として取得した駆動開始からの時間経過に伴う前記回転速度の目標値に対する差異の変化に基づいて、前記駆動信号の周波数を変化させて前記回転速度を制御することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、駆動開始からの時間経過に伴う回転速度の目標値に対する差異を相殺するように、圧電素子に供給する駆動信号の周波数を変化させて、振動体(摺動部)の振動数を調整することができる。これにより、回転体の回転速度の変動の発生を抑える制御を行うことができる。
【0012】
[適用例3]上記適用例に係る圧電アクチュエーターであって、前記回転体の回転を増速又は減速して伝達する増減速機構をさらに備え、前記増減速機構における最前段から最後段までの各段の回転数の比は整数比であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、増減速機構を備えているので、回転体の回転速度を所望の速度に増速又は減速できるが、増減速機構の回転に伴う負荷変動によって、回転体の回転速度に周期的な変動が起こり得る。しかしながら、増減速機構における最前段から最後段までの各段の回転数の比が整数比であるため、回転数の比が整数比でない場合に比べて、増減速機構の負荷変動に起因する回転体の回転速度の変動周期を短くできるので、回転速度の変動をより容易に制御することができる。
【0014】
[適用例4]上記適用例に係る圧電アクチュエーターであって、前記振動体は、前記圧電素子に積層された振動板をさらに有していることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、振動体が振動板で補強されるので、より安定した振動が得られる。これにより、回転体の回転速度をより安定させることができる。
【0016】
[適用例5]本適用例に係るロボットハンドは、上述の圧電アクチュエーターを備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、回転速度が安定した圧電アクチュエーターを備えているので、ワークを把持する指の回動動作を精密かつ正確に行うロボットハンドを提供できる。
【0018】
[適用例6]本適用例に係るロボットは、上述のロボットハンドを備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、ワークを把持する指の回動動作を精密かつ正確に行うロボットを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの構成を示す模式図。
【図2】第1の実施形態に係る振動体の振動挙動を説明する図。
【図3】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの駆動制御部を示すブロック図。
【図4】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの回転速度の変動特性と制御プロファイルを模式的に示す図。
【図5】第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの回転速度の制御方法を説明する図。
【図6】第2の実施形態に係る圧電アクチュエーターの構成を示す模式図。
【図7】第2の実施形態に係る圧電アクチュエーターの回転速度の制御方法を説明する図。
【図8】第3の実施形態に係るロボットハンドの構成を示す模式図。
【図9】第4の実施形態に係るロボットの構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である圧電アクチュエーターについて図面を参照して説明する。なお、参照する各図面において、構成をわかり易く示すため、各構成要素の寸法の比率、角度等が異なる場合がある。
【0022】
(第1の実施形態)
<圧電アクチュエーター>
まず、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの概略構成を説明する。図1は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの構成を示す模式図である。詳しくは、図1(a)は圧電アクチュエーターの平面図であり、図1(b)は圧電アクチュエーターの側面図である。
【0023】
図1(a),(b)に示すように、圧電アクチュエーター100は、振動体1と、回転体としてのローター2と、保持部材3と、付勢バネ4と、基台18と、を備えている。圧電アクチュエーター100は、被駆動部材として回転するローター2を備える圧電モーターである。振動体1、ローター2、保持部材3、及び付勢バネ4は、基台18に設置されている。
【0024】
図1(a)に示す平面視で、振動体1は、短辺1aと長辺1bとを有する略矩形形状である。以下の説明では、短辺1aに沿った方向を短手方向と呼び、長辺1bに沿った方向を長手方向と呼ぶ。図1(b)に示すように、振動体1は、振動板10と、振動板10の表裏両面にそれぞれ配置された1対の圧電素子11と、が積層された積層体である。
【0025】
振動板10は、金属や樹脂等の剛性のある材料で形成された板状部材からなり、例えば、導電性を有するステンレス鋼で形成されている。1対の圧電素子11は、接着剤や合金ろう材等の固着手段によって、振動板10に固着されている。圧電素子11は、圧電体層13と、第1電極12と、第2電極14と、で構成される。
【0026】
圧電体層13は、板状に形成されている。圧電体層13は、電気機械変換作用を示す圧電材料からなり、例えば、一般式ABO3で示されるペロブスカイト構造を有する金属酸化物を材料として形成されている。このような金属酸化物としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)等があげられる。
【0027】
第1電極12は、圧電体層13の振動板10側に設けられており、圧電体層13の略全面に亘って形成されている。第1電極12は、圧電素子11における共通電極となっている。1対の圧電素子11の第1電極12同士は、振動板10を介して電気的に接続されている。第1電極12及び第2電極14は、Ni,Au,Ag等の導電性金属を材料として、蒸着、スッパッタリング等により形成されている。
【0028】
第2電極14は、圧電体層13の第1電極12とは反対側に設けられており、溝部によって面内方向で複数に分割されている。図1(a)に示すように、この溝部は、第2電極14を圧電素子11の短手方向において略3等分し、その3つに分割された電極のうち短手方向両外側の2つの電極を、長手方向においてさらに略2等分するように形成されている。これにより、第2電極14は、電極部14a,14b,14c,14d,14eの5つの電極部に分割されている。電極部14a,14b,14c,14d,14eは、個別電極として互いに電気的に隔離されている。
【0029】
第2電極14の5つの電極部のうち、短手方向中央部に配置された電極部14aは、縦振動用電極として機能する。電極部14aの短手方向両側に、電極部14aを挟んで対角となるように配置され対を成す電極部14b及び電極部14eは、第1屈曲振動用電極として機能する。また、電極部14aを挟んで電極部14b,14eと交差する対角となるように配置され対を成す電極部14c及び電極部14dは、第2屈曲振動用電極として機能する。
【0030】
圧電素子11において、電極部14aが配置された領域が、圧電素子11の長手方向に縦振動を励起する縦振動励起領域となっている。これに対して、縦振動励起領域の短手方向両側の電極部14b,14eが配置された領域、及び電極部14c,14dが配置された領域が、それぞれ圧電素子11の短手方向に屈曲振動を励起する屈曲振動励起領域となっている。
【0031】
なお、第1電極12及び第2電極14(電極部14a,14b,14c,14d,14e)は、図示しない電極配線等を介して、駆動制御部5(図3参照)に電気的に接続されている。駆動制御部5は、圧電素子11を制御する駆動信号を供給する。
【0032】
振動板10は、長手方向の一端側に、圧電素子11よりもローター2側に突出するように、延設された摺動部15を有している。摺動部15は、ローター2の側面(円周面)に当接している。
【0033】
また、振動板10は、長手方向中央部に、短手方向両外側に向かって延設された一対の腕部16を有している。腕部16には厚さ方向に貫通する貫通孔が設けられており、貫通孔を挿通させたネジを介して、腕部16が保持部材3に固定されている。これにより、振動体1は、保持部材3に対して、腕部16を基点として縦振動及び屈曲振動が可能な状態で保持される。
【0034】
ローター2は、円盤形状を有しており、振動体1の摺動部15が設けられた側に配置されている。ローター2は、基台18に立設された棒状の軸2aを回転中心として、回転自在に保持されている。
【0035】
基台18は、一対のスライド部18aを有している。一対のスライド部18aは、振動体1に対して、短手方向の両外側に、長手方向に沿って延在して配置されている。保持部材3は、基台18に対して、スライド部18aに沿ってスライド移動可能に支持されている。
【0036】
保持部材3のローター2とは反対側には、付勢バネ4が設置されている。付勢バネ4は、保持部材3を介して振動体1をローター2に向けて付勢し、この付勢力により、摺動部15がローター2に所定の力で当接する。付勢バネ4の付勢力は、ローター2と摺動部15との間で適切な摩擦力が発生するように適宜設定されている。これにより、振動体1の振動が、摺動部15を介してローター2に効率よく伝達される。
【0037】
次に、圧電アクチュエーター100の動作を説明する。図2は、第1の実施形態に係る振動体の振動挙動を説明する図である。詳しくは、図2(a)は、第1電極12(図1(b)参照)と第2電極14の電極部14a,14b,14eとの間に駆動信号を供給した場合の、振動体1の振動状態を示す図である。また、図2(b)は、第1電極12と第2電極14の電極部14a,14c,14dとの間に駆動信号を供給した場合の、振動体1の振動状態を示す図である。
【0038】
図2(a)に示す振動状態では、縦振動用電極である電極部14aに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、長手方向に沿って伸縮する縦振動が励振される。また、第1屈曲振動用電極である電極部14b,14eに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、短手方向に沿って屈曲する屈曲振動が励振される。このような縦振動と屈曲振動とが合成されて、2点鎖線で示す振動が振動体1に励振されることにより、摺動部15は、時計回りの楕円軌道R1を描くように摺動する。これにより、ローター2が、図1(a)に矢印で示すように、反時計回りに回転する。
【0039】
図2(b)に示す振動状態では、縦振動用電極である電極部14aに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、長手方向に沿って伸縮する縦振動が励振される。また、第2屈曲振動用電極である電極部14c,14dに対して駆動信号が供給されることにより、振動体1に、短手方向に沿って屈曲する屈曲振動が励振される。このような縦振動と屈曲振動とが合成されて、2点鎖線で示す振動が振動体1に励振されることにより、摺動部15は、反時計回りの楕円軌道R2を描くように摺動する。これにより、ローター2が、図1(a)に示す矢印とは反対の、時計回りに回転する。
【0040】
このように、本実施形態の圧電アクチュエーター100では、第1電極12と第2電極14との間に駆動信号を供給する際に、第2電極14のうち縦振動用電極(電極部14a)の他に、第1屈曲振動用電極(電極部14b,14e)を選択する場合と、第2屈曲振動用電極(電極部14c,14d)を選択する場合とを切り替えることにより、ローター2を反時計回り及び時計回りの双方向に回転させることが可能である。なお、ローター2の回転速度は、振動体1の振動周波数によって調整することができる。
【0041】
<駆動制御部>
次に、圧電アクチュエーター100の駆動制御部について、図3を参照して説明する。図3は、圧電アクチュエーターの駆動制御部を示すブロック図である。ここでは、駆動制御部5が、圧電素子11の第2電極14のうち、図3に斜線で示す縦振動用電極(電極部14a)と第1屈曲振動用電極(電極部14b,14e)とに駆動信号を供給して、振動体1を振動させる場合を例に取り説明する。
【0042】
図3に示すように、駆動制御部5は、振動検出部6と、駆動信号発生部7と、ドライバー8とを備えている。また、圧電アクチュエーター100は、駆動制御部5の他に、ローター2の回転速度を検出する回転検出部9を備えている。
【0043】
図3に示す圧電アクチュエーター100では、縦振動用電極(電極部14a)と第1屈曲振動用電極(電極部14b,14e)とに駆動信号が供給されることで、振動体1(圧電素子11)は、駆動信号が供給されない第2屈曲振動用電極(電極部14c,14d)の領域においても振動する。この振動により、圧電素子11が第2屈曲振動用電極の領域において電気を発生し、電極部14c,14dから振動に応じた振動検出信号(交流電流)が振動検出部6に出力される。振動検出部6は、振動体1から入力された振動検出信号を駆動信号発生部7に出力する。
【0044】
駆動信号発生部7は、所定の周波数の駆動信号を生成して、ドライバー8に出力する。駆動信号発生部7は、振動検出部6から入力された振動検出信号と、ドライバー8に出力している駆動信号との位相差を演算して、位相差が最適となるように駆動信号の周波数を決定する。ドライバー8は、駆動信号発生部7で生成された駆動信号に基いて、振動体1(圧電素子11)を駆動する電力を供給する。
【0045】
回転検出部9は、ローター2に近い位置に設置されている。回転検出部9は、ローター2の回転速度に応じた信号(例えば、パルス信号)を駆動信号発生部7に出力する。回転検出部9としては、例えば、フォトリフレクター、フォトインタラプター、MRセンサー等の、光方式や磁気方式の回転エンコーダーを用いることができる。
【0046】
通常の駆動状態において、駆動信号発生部7は、振動検出部6から入力された振動検出信号と、ドライバー8に出力している駆動信号との位相差が最適となるように駆動信号の周波数を決定して、ドライバー8にフィードバックする。これにより、圧電素子11に、位相差が最適となる周波数の駆動信号が供給されるので、摺動部15が所定の楕円軌道を描いて摺動し、ローター2の回転速度が所定の速度に保たれる。
【0047】
ところで、圧電アクチュエーター100のように、振動体1の振動を摺動部15を介して伝達してローター2を回転させる構成の圧電モーターでは、個々の圧電モーター固有の要因により、ローター2の回転速度が変動する場合がある。例えば、ローター2の側面(摺動部15が当接する円周面)の表面の粗さが円周に亘って均一でない場合や、ローター2の回転中心が偏心している場合、ローター2の回転に伴ってローター2と摺動部15との摩擦力が変動する。このような摩擦力の変動は、周期的に繰り返し発生するため、ローター2の回転速度が周期的に変動することとなり、安定した回転が得られなくなってしまう。そこで、本実施形態に係る圧電アクチュエーター100では、駆動制御部5が、このようなローター2の回転速度の変動を抑える制御を行う。
【0048】
以下に、本実施形態におけるローター2の回転速度の変動を抑える制御方法を説明する。図4は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーターの回転速度の変動特性と制御プロファイルを模式的に示す図である。図4において、横軸は駆動開始からの時間の経過を示し、縦軸は時間の経過に伴う回転速度の変化を示している。
【0049】
図4において、波形20はローター2の目標回転速度(一定速度)を示し、波形21は駆動制御部5により回転速度の変動を抑える制御を行わないときのローター2の回転速度の変動特性を示している。駆動制御部5により回転速度の変動を抑える制御を行わない場合、時間の経過とともに、波形21で示すローター2の回転速度が変動し、波形20で示す目標回転速度との差異が変化する。このような回転速度の変動は、時間の経過に伴って周期的に繰り返される。
【0050】
そこで、時間の経過とともに変化するローター2の回転速度と目標回転速度との差異を相殺するように、波形25で示すような制御プロファイルを設定する。この制御プロファイルに基づいて、圧電素子11に供給する駆動信号の周波数を変化させることにより、振動体1(摺動部15)の振動を変化させて、ローター2の回転速度の変動を打ち消すように制御する。制御プロファイルによる制御周期は、回転速度の変動周期に対応するものである。これにより、ローター2の回転速度の変動の発生を抑えるので、目標回転速度に近い安定した回転を得ることができる。
【0051】
この波形25で示す制御プロファイルを設定する方法を説明する。予め、圧電アクチュエーター100の固体毎に、回転速度の変動を抑える制御を行わない状態で、所定の基準周波数の駆動信号を供給し、回転検出部9(図3参照)から出力される回転速度信号に基づいて、ローター2の回転速度の変動特性(波形21)を取得する。
【0052】
続いて、駆動信号の周波数を変化させて、同様に、ローター2の回転速度の変動特性を取得する。これにより、周波数をどの位変化させると回転速度がどのように変化するかが分かるので、ローター2の回転速度の変動特性に基づいて、目標回転速度に対する回転速度の変動を抑える制御プロファイル(波形25)を設定することができる。駆動信号発生部7(図3参照)が、この制御プロファイルに基づいて駆動信号を出力することにより、回転速度の変動を抑える制御が行われる。
【0053】
次に、本実施形態の回転速度の制御による効果を説明する。図5は、回転速度の制御による効果を説明する図である。詳しくは、図5(a)は本実施形態の制御方法による回転速度の変化を模式的に示す図であり、図5(b)は従来の制御方法の例による回転速度の変化を模式的に示す図である。図5(a),(b)において、横軸は駆動開始からの時間の経過を示し、縦軸は時間の経過に伴う回転速度の変化を示している。また、図5(a),(b)において、波形21は回転速度の変動を抑える制御を行わないときの回転速度の変化を示し、波形30は回転速度の変動を抑える制御を行ったときの回転速度の変化を示し、波形40は回転検出部9から出力される回転速度信号を示している。
【0054】
図5(b)に示す従来の制御方法の例では、時間T1が経過した時点で回転速度が波形21のように変化すると、回転検出部から出力される回転速度信号が波形40のように変化する。従来の駆動制御部は、この回転速度信号の変化を検出した場合にローターの回転速度を調整する制御を行うため、時間T2がさらに経過した時点で回転速度が修正される。従って、回転速度の変動の発生に対して時間T2だけ制御に遅延が生じてしまう。この結果、回転速度の安定性を確保することが困難であるという課題があった。
【0055】
これに対して、図5(a)に示すように、本実施形態の回転速度の制御方法によれば、駆動制御部5の制御プロファイルに基づく制御により回転速度の変動の発生が抑えられるので、時間T1が経過した時点でも回転速度が波形21のように変化することなく、波形30のように目標回転速度(波形20)に近い安定した回転速度を得ることができる。したがって、回転検出部9から出力される回転速度信号の波形40も安定したものとなる。
【0056】
(第2の実施形態)
<圧電アクチュエーター>
次に、第2の実施形態に係る圧電アクチュエーターの概略構成を説明する。図6は、第2の実施形態に係る圧電アクチュエーターの構成を示す模式図である。
【0057】
第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター101は、第1の実施形態に係る圧電アクチュエーター100に対して、ローター2の回転を増速又は減速して伝達する増減速機構をさらに備えている点が異なっているが、その他の構成はほぼ同じである。したがって、第1の実施形態と共通する構成要素については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0058】
図6に示すように、第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター101は、振動体1と、ローター2と、保持部材3と、付勢バネ4と、基台18と、増減速機構としてのギア輪列50とを備えている。
【0059】
ギア輪列50は、ギア51と、ギア52と、ギア53と、ギア54とで構成される。ギア51は、ローター2と同軸に配置されており、ローター2と一体的に回転する。ギア52はギア51と螺合しており、ギア52の歯数はギア51の歯数の整数倍となっている。ギア53は、ギア52と同軸に配置されており、ギア52と一体的に回転する。ギア53の歯数は、ギア52の歯数の整数分の1となっている。ギア54はギア53と螺合しており、ギア54の歯数はギア53の歯数の整数倍となっている。
【0060】
したがって、ローター2の回転数は最前段のギア51から、中段のギア52(ギア53)、最後段のギア54までの各段で順次整数分の1に減速して伝達されるので、ギア輪列50における最前段のギア51から最後段のギア54までの各段の回転数の比は整数比となる。このように、圧電アクチュエーター101では、ギア輪列50を備えることにより、ローター2の回転速度が必要とする回転速度よりも速い場合に、ローター2の回転速度を減速して所望の回転速度を得ることができる。
【0061】
ところで、ギア輪列50では、各ギアの歯の形状やピッチのばらつき、回転中心の偏心、面方向における歪み等により、回転中に回転トルクが変動する場合がある。ギア輪列50の回転トルクが変動すると、圧電アクチュエーター101の負荷が変動するため、ローター2の回転速度の変動を招く。最後段のギア54が1回転するとき他のギアはその整数倍回転するので、ギア輪列50による負荷変動は、ギア54の回転周期で繰り返し発生することとなる。
【0062】
このため、第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター101では、ローター2の回転速度の周期的な変動を招く要因として、ローター2と摺動部15との摩擦力の変動と、ギア輪列50による負荷変動との2つの要因が存在する。
【0063】
次に、第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター101における、回転速度の変動を抑える制御方法を説明する。図7は、回転速度の変動特性と制御プロファイルを模式的に示す図である。詳しくは、図7(a)は回転速度の変動特性を示す図であり、図7(b)は制御プロファイルを示す図である。
【0064】
図7(a)において、波形21は、第1の実施形態と同様に、回転速度の変動を抑える制御を行わないときの、ローター2と摺動部15との摩擦力の変動に起因するローター2の回転速度の変動特性を示している。波形22は、回転速度の変動を抑える制御を行わないときの、ギア輪列50による負荷変動に起因するローター2の回転速度の変動特性を示している。
【0065】
波形23は、波形21の変動特性と波形22の変動特性とを合成したものであり、第2の実施形態に係る圧電アクチュエーター101のローター2の回転速度の変動特性を示すものである。第2の実施形態における変動特性の周期は、波形21のローター2と摺動部15との摩擦力の変動に起因する回転速度の変動周期と、波形22のギア輪列50による負荷変動に起因する回転速度の変動周期との最小公倍数となる。
【0066】
図7(b)に示すように、第2の実施形態では、波形23で示すローター2の回転速度の変動特性に対して、波形20で示す目標回転速度との差異を相殺するように、波形26で示すような制御プロファイルを設定する。この波形26で示す制御プロファイルに基づく制御により、圧電素子11に供給する駆動信号の周波数を変化させて、ローター2の回転速度を制御する。これにより、第1の実施形態に対してギア輪列50による負荷変動に起因する回転速度の変動が加わった場合でも、ローター2の回転速度の変動を抑えて、目標回転速度に近い安定した回転を得ることができる。
【0067】
ここで、ギア輪列50における最前段から最後段までの各段の回転数の比が整数比であるため、回転数の比が整数比でない場合に比べて、ギア輪列50の負荷変動に起因するローター2の回転速度の変動周期が短くなり、第2の実施形態における制御プロファイルに基づく制御周期を短くできるので、回転速度の変動をより容易に制御することができる。
【0068】
なお、上述のギア輪列50は、ローター2の回転を減速して伝達する減速機構であったが、ローター2の回転を増速して伝達する増速機構であってもよい。また、ギア輪列50のギアの段数は、上述の形態に限定されるものではなく、上述の段数よりも少ない構成であってもよいし多い構成であってもよい。さらに、圧電アクチュエーター101が備える増減速機構は、ギア輪列に限定されるものではなく、ゴム等からなるローラーや、ベルトとプーリー等で構成される機構であってもよい。
【0069】
(第3の実施形態)
<ロボットハンド>
次に、第3の実施形態に係るロボットハンドの概略構成を説明する。図8は、第3の実施形態に係るロボットハンドの構成を示す模式図である。詳しくは、図8(a)は関節部が1段のロボットハンドを示す図であり、図8(b)は関節部が2段のロボットハンドを示す図である。
【0070】
図8(a)に示すロボットハンド201aは、基部225と、一対の指211とを備えている。基部225の延在方向両側には、一対の関節部202が設置されている。一対の指211は、関節部202により、それぞれ一端側が基部225に接続されている。一対の関節部202には、上述の圧電アクチュエーター100(又は圧電アクチュエーター101)が配置されており、圧電アクチュエーターの駆動により、一対の指211が関節部202を軸として互いに異なる向きに回動する。これにより、一対の指211の他端側でワーク233を把持することができる。
【0071】
図8(b)に示すロボットハンド201bは、ロボットハンド201aの構成に対して、一対の指212をさらに備えており、指211と指212とで指部210が構成されている。一対の指211の他端側にはそれぞれ関節部203が配置されており、関節部203により、指212の一端側が指211に接続されている。一対の関節部203には、上述の圧電アクチュエーター100(又は圧電アクチュエーター101)が配置されており、圧電アクチュエーターの駆動により、一対の指212が関節部203を軸として回動する。これにより、一対の指部210を屈曲させて、指212の他端側でワーク234を把持することができる。ロボットハンド201bの構成によれば、一対の指部210(指211,212)が関節部202,203の2段の関節で接続されているので、ワーク233よりも小さいワーク234を把持する場合に好適である。
【0072】
第3の実施形態に係るロボットハンド201a及びロボットハンド201bは、関節部202,203に、回転速度の変動が少なく安定した回転が得られる圧電アクチュエーター100又は圧電アクチュエーター101を備えている。これにより、ワーク233,234を把持する指211,212の回動動作を精密かつ正確に行うロボットハンド201a,201bを提供できる。
【0073】
(第4の実施形態)
<ロボット>
次に、第4の実施形態に係るロボットの概略構成を説明する。図9は、第4の実施形態に係るロボットの構成を示す模式図である。図9に示すように、ロボット200は、一対のアーム240と、一対のアーム250と、一対のロボットハンド201a(又はロボットハンド201b)とを備えている。アーム240とアーム250とは、関節部204により、互いに接続されている。一対の関節部204には、上述の圧電アクチュエーター100(又は圧電アクチュエーター101)が配置されており、圧電アクチュエーターの駆動により、アーム240がアーム250に対して回動する。
【0074】
第4の実施形態に係るロボット200は、関節部204に回転速度の変動が少なく安定した回転が得られる圧電アクチュエーター100又は圧電アクチュエーター101を備えており、かつ、上述のロボットハンド201a(又はロボットハンド201b)を備えている。これにより、ワークの把持及びアーム240の動作を精密かつ正確に行うロボット200を提供できる。
【0075】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形及び応用が可能である。変形例を以下に述べる。
【0076】
(変形例)
例えば、上述した実施形態では、回転速度の変動が生じる要因として、ローター2と摺動部15との摩擦力の変動、及びギア輪列50による負荷変動をあげ、これらに対して駆動制御部5による回転速度の変動制御を行う構成であったが、回転速度の変動が生じる要因はこれらに限定されるものではない。これら以外の要因によって回転速度の変動が生じる場合であっても、周期的に発生する回転速度の変動であれば、上述した実施形態のようにその変動特性に基づいて制御プロファイルを設定することにより、回転速度を制御することが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…振動体、2…回転体としてのローター、5…駆動制御部、10…振動板、11…圧電素子、15…摺動部、50…増減速機構としてのギア輪列、100…圧電アクチュエーター、200…ロボット、201a…ロボットハンド、201b…ロボットハンド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子を含む振動体と、
円盤形状を有する回転体と、
前記振動体の一端から突出し前記回転体に当接する摺動部と、
前記圧電素子に駆動信号を供給して前記圧電素子の駆動を制御する駆動制御部と、を備え、
前記駆動制御部は、予め取得した前記回転体の回転速度の変動特性に基づいて、前記回転速度を制御することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記駆動制御部は、前記変動特性として取得した駆動開始からの時間経過に伴う前記回転速度の目標値に対する差異の変化に基づいて、前記駆動信号の周波数を変化させて前記回転速度を制御することを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記回転体の回転を増速又は減速して伝達する増減速機構をさらに備え、
前記増減速機構における最前段から最後段までの各段の回転数の比は整数比であることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電アクチュエーターであって、
前記振動体は、前記圧電素子に積層された振動板をさらに有していることを特徴とする圧電アクチュエーター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電アクチュエーターを備えたことを特徴とするロボットハンド。
【請求項6】
請求項5に記載のロボットハンドを備えたことを特徴とするロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−253990(P2012−253990A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127025(P2011−127025)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】