説明

圧電マイクロポンプ

【課題】逆止弁を使用せずに流体を輸送でき、構造が簡単で、所望の流量を得ることが可能な圧電マイクロポンプを提供する。
【解決手段】ダイヤフラム20を間にしてポンプ室15の外周部と対向するポンプ本体10の部位に、ダイヤフラムと接する第1壁部13bが形成され、この壁部と接するダイヤフラムの部位に第1開口部21aが設けられ、ポンプ本体の側壁であって、ダイヤフラムのポンプ室側の側面と接する第2壁部12bに第2開口部12cが設けられる。圧電素子の振動に伴うダイヤフラムの屈曲変位によって、第1開口部及び第2開口部を交互に開き、一方の開口部から流体を吸い込み、他方の開口部から流体を排出する。特に、ダイヤフラムを3次共振モードで駆動すると、最大流量が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電マイクロポンプ、特に圧電素子により屈曲変位するダイヤフラムを用いた圧電マイクロポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンなどの小型電子機器の冷却用ポンプや燃料電池の燃料輸送用ポンプなどに、圧電マイクロポンプが用いられている。圧電マイクロポンプは、圧電素子への電圧印加により屈曲変形するダイヤフラムを用いたポンプであり、構造が簡単で薄型に構成でき、かつ低消費電力であるという利点がある。圧電素子を駆動源として用いた圧電マイクロポンプの場合、その流入口および流出口に逆止弁が設けられるが、逆止弁の長期間の使用による信頼性の低下や、逆止弁にゴミ等の異物が付着して流体を十分に輸送できないという問題があった。また、一般的に逆止弁の材質は弾性の低いゴムや樹脂が使用されるが、この場合、圧電素子を高い周波数で駆動した時に逆止弁が追従動作できず、流体を輸送できない等の問題があった。
【0003】
特許文献1には、流入口と流出口とを有するポンプ本体上に、ダイヤフラムを接触状態で取り付けるとともに、ダイヤフラム上に流入口から流出口に向かって並ぶように複数の圧電素子を取り付けた圧電ポンプが提案されている。このポンプの場合には、流入口側に近い圧電素子から流出口側に近い圧電素子へと順次に駆動することにより、ダイヤフラムを流入口から流出口に向かって順次撓ませ、流体を流入口から流出口に向かって押し出すことができる。そして、圧電素子への電圧印加を停止すると、ダイヤフラムの復元によって流入口と流出口との間の流路を閉じるので、流入口および流出口の逆止弁を省略することができる。
【0004】
特許文献2には、逆止弁を有しない流体ポンプが開示されている。特に、特許文献2の図10には、ポンプ本体とダイヤフラムとの間にポンプ室を形成し、ポンプ本体の中央部に第1開口部を設け、周辺部に第2開口部を設け、ダイヤフラムに弾性バッファを形成し、ダイヤフラムの中央部を別の駆動手段によって往復駆動することによって、ダイヤフラムを屈曲変形させる流体ポンプが開示されている。ダイヤフラムが第1開口部を開いた時に第1開口部から流体をポンプ室に吸込み、第1開口部を閉じた時に第2開口部に対応するバッファ部を撓ませ、バッファ部の弾性復元力によって第2開口部から流体を排出するようになっている。
【0005】
特許文献1のような圧電ポンプでは、複数の圧電素子を平面状に配列する必要があるため、圧電ポンプが大型かつ複雑になるとともに、圧電素子を順番に駆動するためのドライバ回路も複雑になり、高価となるという問題がある。
【0006】
特許文献2の場合には、単一の駆動源でダイヤフラムを往復駆動するだけであるから、構造が簡単になる。しかし、ダイヤフラムの第1開口部と対向した部位、つまりダイヤフラムの中央部だけを変位させ、その変位に遅れてダイヤフラムの周辺部(バッファ部)を屈曲変形させるので、ダイヤフラムとして柔らかい材料を使用しなければならず、吐出圧力を高くできない。また、流体が空気のような圧縮性流体の場合、ダイヤフラムのバッファ部を弾性変形させるには、ゴムや樹脂のような非常に柔らかい材料を使用しなければならず、駆動周波数を高くすることができない。すなわち、ダイヤフラムとして柔らかい材料を使用した場合、ダイヤフラムの中央部の変位とダイヤフラムの周辺部の変位の遅れ時間が生じているため、この遅れ時間に対応する周波数以上では駆動できないからである。そのため、所望の流量を得ることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−149778号公報
【特許文献2】特表平10−511165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、逆止弁を使用せずに流体を輸送でき、構造が簡単で、所望の流量を得ることが可能な圧電マイクロポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、ポンプ本体と、外周部がポンプ本体に固定され、中央部に圧電素子を固定したダイヤフラムと、ポンプ本体とダイヤフラムとの間に形成されたポンプ室とを有する圧電マイクロポンプであって、上記ダイヤフラムを間にしてポンプ室の外周部と対向するポンプ本体の部位に、ダイヤフラムと接する第1の壁部が形成され、上記第1の壁部と接するダイヤフラムの部位に第1の開口部が設けられ、上記ポンプ本体の側壁であって、上記ダイヤフラムのポンプ室側の側面と接する第2の壁部に第2の開口部が設けられており、上記圧電素子の振動に伴うダイヤフラムの屈曲変位によって、第1の開口部及び第2の開口部を交互に開き、一方の開口部から流体を吸い込み、他方の開口部から流体を排出することを特徴とする圧電マイクロポンプを提供する。
【0010】
本発明では、特許文献2のようにダイヤフラム自身の弾性復元力を利用して流体を押し出すのではなく、ダイヤフラムを圧電素子によって強制的に屈曲変形させることで、流体を吐出する。ポンプ室の外周部と対向するポンプ本体の第1の壁部と接するダイヤフラムの部位に第1の開口部が設けられ、ダイヤフラムのポンプ室側の側面と接するポンプ本体の第2の壁部に第2の開口部が設けられている。圧電素子を振動させると、ダイヤフラムが屈曲変位し、第1の開口部及び第2の開口部を交互に開く。ダイヤフラムの屈曲変位に伴うポンプ室の容積変化により、一方の開口部から流体を吸い込み、他方の開口部から流体を排出することができる。このように、第1開口部に対向するダイヤフラムの部分と第2開口部に対向するダイヤフラムの部分とを相反方向に効率よく屈曲変形させることができるため、逆止弁を省略できるとともに、吐出圧力を高くでき、吐出側の圧力が高い条件下でも流体を確実に吐出できる。ダイヤフラムとして硬い材料を使用できるので、ダイヤフラムの圧電素子への追従性が良好であり、従って高い周波数で動作させることが可能である。そのため、大きな流量を得ることができる。
【0011】
圧電素子に印加する電圧の周波数は任意に選定できるが、ダイヤフラム全体(圧電素子を含む)の共振周波数付近の周波数で駆動した場合には、ダイヤフラムの変位体積が非常に大きくなり、大流量が得られる点で望ましい。ダイヤフラムを1次共振モードで駆動すると、ダイヤフラム全体が一様な方向に変位するので、第2の開口部から流体を吸い込み、第1の開口部から流体を吐出することができる。3次共振モードで駆動した場合には、ダイヤフラムの中央部と周辺部とが逆方向に変位するので、第1の開口部から流体を吸込み、第2開口部から流体を吐出することができる。
【0012】
1次共振モード及び3次共振モードのいずれも高い周波数で駆動できるが、特に、3次共振モードを利用した場合には、1次共振モードの約3倍という非常に高い周波数で動作可能であり、これにより可聴領域を越えた周波数で駆動できるため、騒音を防ぐことができる。特に、人間の可聴領域を越えた3次共振モードで駆動した場合には、騒音が生じず、かつ大流量が得られる。また、変位が少ない分、ポンプ本体とダイヤフラムとの固定部分で生じるストレスが減り、信頼性が高くなる。
【0013】
1次共振モードで駆動する場合、ダイヤフラムを間にしてポンプ室と対向するポンプ本体の部位に、ダイヤフラムを覆う天板を設け、この天板に排出孔を形成してもよい。この場合には、ダイヤフラムを間にしてポンプ室と対向する側に別の流体室を形成し、第1の開口部から吐出された流体を一旦流体室に溜め、この流体室から排出孔を介して流体を排出できるため、流体を1箇所から排出できる。
【0014】
本発明の圧電マイクロポンプは空気のような圧縮性流体を輸送するのに適しており、いわゆる圧電マイクロブロアとして使用できる。液体のような非圧縮性流体を吐出する場合、流入口および流出口にそれぞれゴムや樹脂のような柔らかい材料を用いた逆止弁を設け、数十Hz程度の低い周波数で圧電素子を駆動するのが一般的である。ところが、逆止弁を持つポンプを空気のような圧縮性流体を吐出するために用いた場合、圧電素子の変位量が非常に小さく、流体を殆ど吐出できない。圧電素子をダイヤフラムの共振周波数(1次共振周波数又は3次共振周波数)付近で駆動すると、最大変位が得られるが、共振周波数はkHzのオーダーの高周波数のため、逆止弁が追従動作できない。本発明では逆止弁を有しないので、圧電素子を共振周波数付近の周波数で駆動しても、逆止弁による制約がなく、圧縮性流体を効率よく輸送できる。また、逆止弁にゴミ等が付着して動作不良が生じる懸念もなく、信頼性の高い圧電マイクロポンプを提供できる。
【0015】
第1開口部及び第2開口部を、3次共振モードでの圧電素子が配置された部分を除くダイヤフラムの最大変位位置またはそれより外周側に形成するのがよい。3次共振モードでのダイヤフラムの最大変位位置は、圧電素子とダイヤフラムの面積比やダイヤフラムのヤング率などによって異なるが、圧電素子の配置部分を除く最大変位位置またはそれより外側に第1開口部及び第2開口部を設けることにより、圧電マイクロポンプの動作サイクルにおいて、第1開口部及び第2開口部のリフト量が十分に得られ、かつシール性を十分に得ることができる。そのため、流体の逆流を防ぐことができ、吐出圧力だけでなく、吐出流量も高くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポンプ室の外周部と対向するポンプ本体の第1の壁部と接するダイヤフラムの部位に第1の開口部を設け、ダイヤフラムのポンプ室側の側面と接するポンプ本体の第2の壁部に第2の開口部を設け、圧電素子に電気信号を印加することで、ダイヤフラムの第1開口部の部分と第2開口部に対向するダイヤフラムの部分とを同じ方向に屈曲変形させることで、一方の開口部が開いているときには他方の開口部が閉じるようにしたので、吐出圧力を高くでき、吐出側の圧力が高い条件下でも流体を確実に吐出できる。また、ダイヤフラムを高い周波数で駆動することが可能になり、大きな流量を得ることができる。さらに、圧電マイクロポンプをポンプ本体と圧電素子を貼り付けたダイヤフラムだけで構成でき、逆止弁のような補助部品を必要としないので、構造が非常に簡単になり、小型・薄型で、高信頼性の圧電マイクロポンプを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る圧電マイクロポンプの第1実施例の断面図ある。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1に示す圧電マイクロポンプの分解斜視図である。
【図4】図1に示す圧電マイクロポンプを1次共振モードで駆動したときの変位を示す断面図である。
【図5】図1に示す圧電マイクロポンプを3次共振モードで駆動したときの変位を示す断面図である。
【図6】本発明に係る圧電マイクロポンプの第2実施例の横断面図である。
【図7】図6のVII −VII 線断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、実施例に基づいて説明する。
【0019】
[第1実施例]
図1〜図3は本発明の第1実施例を示し、この実施例は圧縮性流体である空気を輸送する圧電マイクロブロアの例を示す。ここで、図1は圧電マイクロブロアの断面図、図2は図1のII−II線断面図、図3は分解斜視図である。
【0020】
本実施例の圧電マイクロブロアBは、ポンプ本体10とダイヤフラム20とで構成されている。ポンプ本体10は、底板11と下枠板12と上枠板13と天板14とを下方から順に積層接着したものであり、樹脂材料や金属材料等の硬質材料によって形成されている。下枠板12には半分が楕円形で残りの半分が円形の空洞部12aが形成され、この空洞部12aによってポンプ室15が形成されている。上枠板13にも半分が楕円形で残りの半分が円形の空洞部13aが形成され、この空洞部13aによって流体室16が形成されている。ポンプ室15は図2に破線で示され、流体室16は図2に実線で示されており、両室15,16は非対称形状となっている。下枠板12の側壁であって、流体室16の円形部分と対向する部位には、圧電素子22よりやや外側まで迫り出した台座部(第2の壁部に相当)12bが形成され、この台座部12bには振動板21によって閉じられる第2開口部12cが形成されている。台座部12bはダイヤフラム20の外周接着領域より内側に位置しており、ダイヤフラム20が変位することで、第2開口部12cを開くことができる。
【0021】
底板11には、下枠板12の第2開口部12cと連通する孔11aが形成されている。天板14の中央部には、流体室16と外気とを連通させる連通孔14aが形成されている。なお、天板14は省略可能であり、流体室16は外気に直接開放していてもよい。
【0022】
ダイヤフラム20は、金属板や硬質の樹脂板よりなる振動板21と、その中央部上面に貼り付けられた円板状の圧電素子22とで構成されている。ダイヤフラム20の構成は、バイモルフ型圧電素子を振動板に接着した構成でもよいし、振動板を挟んで上下に単板の圧電素子を接着した構成でもよい。また、単板の圧電素子を金属板に接着したユニモルフ型圧電素子でもよい。さらに、ダイヤフラム20を圧電素子22のみで構成したものでもよい。つまり、圧電素子22に交番電界(正弦波または矩形波)を印加し、圧電素子の振動を利用して屈曲変位を行なうダイヤフラムであれば、その構成は問わない。圧電素子22を貼り付けた振動板21の領域より外周側であって、ポンプ本体10に接着された領域より内周側の部分に、貫通孔よりなる第1開口部21aが形成されている。この実施例の第1開口部21aは、下枠板12に形成された第2開口部12cと180・対称位置に形成されている。上枠板13の側壁であって、ポンプ室15の円形部分と対向する部位には、圧電素子22よりやや外側位置まで迫り出した台座部(第1の壁部に相当)13bが形成され、この台座部13bによって第1開口部21aは閉じられている。
【0023】
振動板21の外形は下枠板12及び上枠板13と同一の四角形に形成されており、その外周部が下枠板12と上枠板13との間で接着固定されている。振動板21の接着領域は、図3に斜線で示すように、ポンプ室15及び流体室16より外周側の領域となっている。したがって、第1開口部21aの周辺や第2開口部12cの周辺は接着されておらず、ダイヤフラム20が自由に変位できる。振動板21は金属板又は樹脂板でもよいが、共振モードで駆動したときに圧電素子22の変位に追随できるように、ヤング率が約109 Pa以上の硬質板を使用するのがよい。図1に示す静止時においては、第1開口部21aが台座部(第1の壁部)13bで閉じられ、第2開口部12cがダイヤフラム20で閉じられている。
【0024】
図4は上記構造の圧電マイクロブロアBについて、ダイヤフラム20を1次共振モードで駆動した場合の変位の様子を示す。1次共振モードとは、ダイヤフラム20全体が一様に上側に凸または下側に凸となるように変位するモードである。図4の(a)は圧電素子22への印加電圧の最初の1/4周期を示し、ダイヤフラム20が上側に凸となるように変位した状態である。第2開口部12cが開かれ、第1開口部21aは台座部13bによって閉じられる。ダイヤフラム20の下側のポンプ室15の体積が増えるため、第2開口部12cから流体がポンプ室15に吸い込まれる。ダイヤフラム20が上側に変位することで、流体室16の体積が減少するため、流体は天板14の連通穴14aから排出される。図4の(b)は次の1/4周期を示し、ダイヤフラム20が平坦な姿勢に戻った状態である。第1開口部21a及び第2開口部12cは共に閉じられ、流体の移動はない。図4の(c)はさらに次の1/4周期を示し、ダイヤフラム20が下側に凸となるように変位するので、ダイヤフラム20の下側のポンプ室15の体積が減少し、同時に第1開口部21aが台座部13bから離れるため、ポンプ室15の流体は第1開口部21aから流体室16へと押し出される。このとき、第2開口部12cはダイヤフラム20によって閉じられているので、流体が逆流することがない。その後、ダイヤフラム20の動作は図4の(b)に戻り、それ以後(b)→(a)→(b)→(c)の動作を周期的に繰り返す。
【0025】
上記のように、ダイヤフラム20を1次共振モードで駆動すると、第2開口部12cから流体を吸い込み、第1開口部21aを介して連通穴14aから流体を排出することができる。ダイヤフラム20が共振することで、非常に大きな変位が得られ、しかも高周波で駆動されるため、流体を効率よく輸送できる。
【0026】
図1の構造の圧電マイクロブロアについて、下記の条件で試作を行い、特性の評価を行った。
上枠板:厚さ1.5mmのガラスエポキシ板、空洞部の半分は直径52mmの円(圧電素子に対し10mmの余白)で、残りの半分は圧電素子に対し6mmの余白となるような楕円形状
下枠板:厚さ0.1mmのガラスエポキシ板、上枠板と対称形状で、楕円側の端部から1.5mmの位置に直径2mmの穴(第2開口部)を形成
底板:厚さ1.5mmのガラスエポキシ板、下枠板と同じ位置に穴
天板:なし
圧電素子:直径32mm:厚み0.2mmの円形圧電セラミックを2枚積層したバイモルフ型圧電素子
ダイヤフラム:圧電素子を厚み0.1mmのガラスエポキシ板に接着し、上枠板の楕円側の端部から1.5mmの位置に直径2mmの穴(第1開口部)を形成
駆動電圧:・60Vの矩形波
【0027】
上記条件で試作したマイクロブロアの特性を評価するため、圧電素子を駆動周波数2.2kHz(1次共振モード)で駆動したところ、静圧900Pa、無負荷流量0.4ml/secが得られ、ブロアとして高い周波数で動作することが確認できた。今回は、直径32mmの圧電素子を用いたが、圧電素子の共振周波数は圧電素子を小型化すれば高くなり、ダイヤフラムの材質を硬くしてもやはり高くなるので、それら条件を設定することにより、さらに高い周波数での駆動も可能である。そのため、可聴領域を越えた周波数まで高くすれば騒音の問題も解決できる。
【0028】
図5はダイヤフラム20を3次共振モードで駆動した場合を示す。3次共振モードとは、ダイヤフラム20の中央部と周辺部とが上下逆となるように変位するモードである。この場合には、ダイヤフラム20の圧電素子が配置されていない部分における最大変位となる周辺部と対応する位置またはそれより外側に第1開口部21a及び第2開口部12cを形成するのがよい。図5の(a)は圧電素子22への印加電圧の最初の1/4周期を示し、ダイヤフラム20の中央部が上側に凸となるように変位する。圧電素子22の変形とポンプ室15の圧力が低下することから、ダイヤフラム20の周辺部が下に引っ張られる。そのため、第1開口部21aが開かれ、第2開口部12cはダイヤフラム20によって閉じられる。ここで、ダイヤフラム20の周辺部のみが下に引っ張られ、圧電素子22全体が下方へ変位しない理由は、圧電素子22の質量が振動板21の質量より大きいので、高周波駆動ではその重心位置が殆ど変化しないからである。ダイヤフラム20の周辺部が下方へ引っ張られる動きは、第1開口部21aがより大きく開く方向であるため、流体がスムーズにポンプ室15に導入される。図5の(b)は次の1/4周期であり、ダイヤフラム20が平坦な姿勢に戻る。この状態では、第1開口部21a及び第2開口部12cは共に閉じられ、流体の移動はない。図5の(c)はさらに次の1/4周期であり、ダイヤフラム20の中央部が下側に凸となるように変位する。ポンプ室15の圧力が高くなるので、ダイヤフラム20の周辺部が上に押され、第2開口部12cが開かれるため、ポンプ室15の流体は第2開口部12cから外部へと押し出される。このとき、第1開口部21aは台座部13bによって閉じられているので、流体が逆流することがない。その後、ダイヤフラム20の動作は図5の(b)に戻り、それ以後(b)→(a)→(b)→(c)の動作を周期的に繰り返す。
【0029】
上記のように、ダイヤフラム20を3次共振モードで駆動すると、第1開口部21aから流体を吸い込み、第2開口部12cから流体を排出することができる。3次共振モードの場合、1次共振モードと比べて1ストローク当たりの排除体積は減少するが、周波数が高くなることで、ストローク回数が増え、逆に流量を増やすことができる。なお、図5では天板14を使用したが、3次共振モードで駆動する場合には流体室16が大気に開放していてもよいので、天板14は省略することができる。
【0030】
[第2実施例]
図6,図7,図8は本発明の第2実施例の圧電マイクロブロアを示す。第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。本実施例では、下枠板12及び上枠板13にそれぞれポンプ室15と流体室16を構成する空洞部12a,13aが形成され、これらポンプ室15と流体室16は互いに90・位相の異なる楕円形状となっている。ポンプ室15の長軸側の2箇所と対面するダイヤフラム20の部位には、上枠板13の台座部13bと接する第1開口部21aが形成され、流体室16の長軸側の2箇所と対向する下枠板12の台座部12bには第2開口部12cが形成されている。この実施例では、第1開口部21a及び第2開口部12cがそれぞれ2箇所に形成されているので、流路を大きくでき、流量を増大させることができる。なお、第1実施例と同様に、ダイヤフラム20を1次共振モードと3次共振モードとで駆動することにより、流体の輸送方向を逆転することができる。
【0031】
上記実施例では、第1開口部21a及び第2開口部12cを丸穴とした例を示したが、開口部の形状は任意であり、その個数や大きさ、長さも任意である。ポンプ本体の構造として、底板11と下枠板12と上枠板13と天板14との積層構造とし、ダイヤフラム20を下枠板12と上枠板13との間で挟着する例を示したが、その構造は任意である。外形形状も四角形に限らない。上記実施例では、本発明の圧電マイクロポンプを空気のような圧縮性流体を輸送するブロアとして用いた例を示したが、液体のような非圧縮性流体にも適用することができる。
【符号の説明】
【0032】
B 圧電マイクロポンプ(圧電マイクロブロア)
10 ポンプ本体
11 底板
12 下枠板
12b 台座部(第2の壁部)
12c 第2開口部
13 上枠板
13b 台座部(第1の壁部)
14 天板
15 ポンプ室
16 流体室
20 ダイヤフラム
21 振動板
21a 第1開口部
22 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体と、外周部がポンプ本体に固定され、中央部に圧電素子を固定したダイヤフラムと、ポンプ本体とダイヤフラムとの間に形成されたポンプ室とを有する圧電マイクロポンプであって、
上記ダイヤフラムを間にしてポンプ室の外周部と対向するポンプ本体の部位に、ダイヤフラムと接する第1の壁部が形成され、
上記第1の壁部と接するダイヤフラムの部位に第1の開口部が設けられ、
上記ポンプ本体の側壁であって、上記ダイヤフラムのポンプ室側の側面と接する第2の壁部に第2の開口部が設けられており、
上記圧電素子の振動に伴うダイヤフラムの屈曲変位によって、第1の開口部及び第2の開口部を交互に開き、一方の開口部から流体を吸い込み、他方の開口部から流体を排出することを特徴とする圧電マイクロポンプ。
【請求項2】
上記圧電素子にダイヤフラムが1次共振モードで変位する電気信号を印加することにより、第2の開口部から流体を吸い込み、第1の開口部から流体を吐出することを特徴とする請求項1に記載の圧電マイクロポンプ。
【請求項3】
上記ダイヤフラムを間にしてポンプ室と対向するポンプ本体の部位には、上記ダイヤフラムを覆う天板が設けられ、この天板に排出口が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の圧電マイクロポンプ。
【請求項4】
上記圧電素子にダイヤフラムが3次共振モードで変位する電気信号を印加することにより、第1の開口部から流体を吸い込み、第2の開口部から流体を吐出することを特徴とする請求項1に記載の圧電マイクロポンプ。
【請求項5】
上記第1の開口部及び第2の開口部は、3次共振モードでの圧電素子が配置された部分を除くダイヤフラムの最大変位位置またはそれより外周側に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の圧電マイクロポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−107636(P2012−107636A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53941(P2012−53941)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【分割の表示】特願2007−243290(P2007−243290)の分割
【原出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】