説明

圧電振動片、圧電振動デバイス、及び圧電振動デバイスの製造方法

【課題】 圧電振動デバイスの製造に際し、アニール処理により減少させたCI値が、アニール処理後のさらなる熱処理により大幅に増加することを抑制する。
【解決手段】圧電材料からなる圧電振動片1において、前記圧電材料に接合する第1金属と、この第1金属に接合する第2金属とにより励振電極26,27を形成する。ここで、前記第2金属は前記第1金属よりも高い導電性を有するものとし、且つ、前記第2金属に対する前記第1金属の重量比を、5.9%超〜30.3%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電材料からなる圧電振動片、この圧電振動片が搭載された圧電振動デバイス、及びこの圧電振動デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、圧電振動デバイスとして、例えば、音叉型水晶振動子(以下、水晶振動子という)などが挙げられる。この種の圧電振動デバイスでは、その筐体であるパッケージがベースと蓋とから構成され、筐体内部は気密封止されている。また、この筐体内部では、圧電振動片(水晶振動片)が、ベース上の電極パッドに導電性接着剤又は導電性バンプを介して接合されている。
【0003】
この水晶振動片は、その基板が、基部と、この基部から突出した2本の脚部とから構成されてなり、異電位で構成された励振電極が脚部に形成されている。また、基板には、基部において励振電極を電極パッドと電気的に接続させるための引出電極が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記した特許文献1には、水晶振動片の引出電極とベースの電極パッドとを、メッキバンプを介してFCB法により超音波接合して、水晶振動片をベースに搭載した後、ベースに搭載した水晶振動片の周波数を微調整する最終の周波数調整を行ってから、ベースに蓋を加熱溶融接合等の手法により封止材を介して接合し、水晶振動片をベースと蓋とで構成された内部空間に気密封止する水晶振動子の製造方法が開示されている。
【0005】
このような水晶振動子の製造工程においては、水晶振動片に対し、最終の周波数調整を施す前に、アニール処理を施す。また、最終の周波数調整を施した後において、ベースに搭載した水晶振動片に対し、封止工程、リフロー工程、エージング工程等の製造工程を実施する。このような最終の周波数調整後の製造工程では、水晶振動片に熱履歴をかけることとなる。つまり、水晶振動子を製造する際に、水晶振動片には、アニール処理による熱処理を含めて合計2回以上の熱処理を施す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−284073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、現在、圧電振動片は、圧電振動片を搭載する圧電振動デバイスの小型化にともない、小型化を図る必要があるが、圧電振動片のサイズを小さくすると、直列共振抵抗値(CI値)が大きくなるという不都合が生じる。
【0008】
そこで、上記した圧電振動デバイスの製造工程においては、アニール処理を圧電振動片に施してCI値を減少させている。しかしながら、上述の通り、アニール処理後に実施される最終の周波数調整後には、封止工程、リフロー工程、エージング工程等で直接的又は間接的に圧電振動片に熱履歴をかける必要があり、このような熱履歴によって、CI値は大幅に増加する。
【0009】
即ち、圧電振動デバイスの製造において、アニール処理を施して圧電振動片のCI値を減少させても、アニール処理後のさらなる熱処理により、CI値は、大幅に増加してしまっていた。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、圧電振動デバイスの製造に際し、アニール処理により減少させたCI値が、アニール処理後のさらなる熱処理により大幅に増加することが抑制された圧電振動片、この圧電振動片が搭載された圧電振動デバイス、及びこの圧電振動デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧電振動片は、圧電材料からなる圧電振動片であって、前記圧電材料に接合する第1金属と、この第1金属に接合する第2金属とにより励振電極が形成されており、前記第2金属が前記第1金属よりも高い導電性を有し、且つ、前記第2金属に対する前記第1金属の重量比が、5.9%超〜30.3%以下であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、圧電振動片に形成されている励振電極を構成する第2金属に対する第1金属の重量比が5.9%超〜30.3%以下とされているから、当該圧電振動片を用いて圧電振動デバイスを製造する際に生じるアニール処理後のさらなる熱処理によるCI値の増加の度合いを低減させることができる。即ち、アニール処理により減少させたCI値が、アニール処理後の熱処理により大幅に増加することを抑制することができる。なお、本明細書中で、第2金属に対する第1金属の重量比(%)とは、励振電極を構成する第1金属の重量を、その励振電極を構成する第2金属の重量で除し、百分率に換算した数値をいうものとする。
【0013】
本発明の圧電振動片において、前記第1金属はクロム、ニッケル、モリブデン、チタン、又はタングステンであってよい。
【0014】
この構成によれば、圧電材料と第1金属との接合性を十分に確保することができる。また、圧電材料への第1金属の蒸着による膜形成を容易に行うことができる。
【0015】
また、本発明の圧電振動片において、前記第2金属は金であってよい。
【0016】
この構成によれば、電極膜の酸化による励振電極の劣化を防止することができる。また、第2金属の導通抵抗を下げて、CI値を下げることができる。
【0017】
また、本発明の圧電振動デバイスは、上記した本発明の圧電振動片が搭載されている圧電振動デバイスであって、前記圧電振動片と、この圧電振動片の前記励振電極を気密封止するための第1封止部材及び第2封止部材とを備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、圧電振動デバイスは、上記した本発明の圧電振動片を用いて製造されたものであるから、当該圧電振動デバイスを製造する際に生じるアニール処理後のさらなる熱処理によるCI値の増加の度合いが低減されたものとなる。即ち、アニール処理により減少させたCI値がほぼ維持されたものとなる。
【0019】
本発明の圧電振動デバイスの製造方法は、上記した本発明の圧電振動デバイスを製造するための製造方法であって、前記第1封止部材に前記圧電振動片を搭載する搭載工程と、
前記圧電振動片にアニール処理を施すアニール処理工程と、前記圧電振動片に対して最終の周波数調整を行う周波数調整工程と、前記搭載工程及び前記アニール処理工程の後、前記周波数調整工程の前に、前記圧電振動片に対して熱処理を施す事前熱処理工程と、前記周波数調整工程の後に、前記圧電振動片に対して熱処理を施す後熱処理工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
このような製造方法によれば、アニール処理工程を備えるため、アニール処理によりCI値を減少させることができる。そして、アニール処理工程の後、周波数調整の工程の前に、事前熱処理工程を備えるから、最終の周波数調整後に、CI値が熱処理により変動することを抑制することができる。加えて、上記した本発明に係る圧電振動片を使用するから、アニール処理により減少させたCI値が、アニール処理後のさらなる熱処理により大幅に増加することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧電振動デバイスの製造に際し、アニール処理により減少させたCI値が、アニール処理後のさらなる熱処理により大幅に増加することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る水晶振動片が搭載された水晶振動子の内部を公開した概略側面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る水晶振動片の概略構成を示す平面図である。
【図3】重量比(Cr/Au)とアニール処理後の事前熱処理によるCI値の増加率との関係を示すグラフ図である。
【図4】重量比(Cr/Au)とアニール処理によるCI値の減少率との関係を示すグラフ図である。
【図5】重量比(Cr/Au)と封止処理によるCI値の変動率との関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る水晶振動片の概略構成を示す平面図である。
【図7】図6に示す水晶振動片が搭載された水晶振動子の概略構成を示す図であり、水晶振動片が図6のA−A線に沿って切断された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施の形態では、圧電振動片として水晶振動片に本発明を適用した場合を示す。しかしながら、これは好適な例であり、本発明の圧電振動片は、水晶振動片に限定されるものではなく、圧電材料を用いた圧電振動片であればよい。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る水晶振動片が搭載された水晶振動子の内部を公開した概略側面図であり、図2は、本発明の実施の形態に係る水晶振動片の概略構成を示す平面図である。
【0025】
本実施の形態に係る水晶振動子1(本発明でいう圧電振動デバイスであり、以下、水晶振動子という。)は、図1及び図2に示すように、異電位で構成された第1及び第2の励振電極(第1の励振電極を26、第2の励振電極を27と表記する。なお、区別する必要がない場合は励振電極26,27とする。)が形成された水晶振動片2(本発明でいう圧電振動片)と、この水晶振動片2を搭載するベース3(本発明でいう第1封止部材)と、ベース3に搭載した水晶振動片2の励振電極26,27を気密封止するための蓋4(本発明でいう第2封止部材)とが設けられて構成されている。
【0026】
この水晶振動子1では、ベース3と蓋4とが接合されて本体筐体が構成されている。これらベース3と蓋4とが封止材33を介して接合され、この接合により本体筐体の内部空間11が形成されている。そして、この本体筐体の内部空間11内のベース3上に、金属バンプ5を介して水晶振動片2が保持接合されているとともに、本体筐体の内部空間11が気密封止されている。なお、本明細書中でいう金属バンプ5には、ワイヤーから作製されたスタッドバンプの他、メッキ処理されたメッキバンプ等が含まれる。
【0027】
ベース3は、図1に示すように、底部31と、この底部31から上方に延出した壁部32とから構成される箱状体に形成されている。このベース3は、セラミック材料からなる平面視矩形状の一枚板上に、セラミック材料からなる中空を有する直方体状の板を積層して一体的に焼成することにより、凹状とされている。また、壁部32は、底部31の平面視外周に沿って成形されている。この壁部32の上面は、蓋4との接合領域であり、この接合領域には、蓋4と接合するための封止材33の一部を構成するメタライズ層(例えば、タングステンメタライズ層上にニッケル,金の順でメッキした構成、または錫と金、錫と銀とからなる構成)が設けられている。なお、メタライズ層の代わりにガラス層を設けてもよい。このベース3には、水晶振動片2の励振電極26,27それぞれと電気的に接合する複数の電極パッド(図示省略)が形成されている。これら電極パッドは、ベース3の外周裏面に形成される端子電極(図示省略)にそれぞれ電気的に接合されている。これら端子電極から外部部品や外部機器と接続される。なお、これらの端子電極および電極パッドは、タングステン、モリブデン等のメタライズ材料を印刷した後にベース3と一体的に焼成して形成される。そして、これらの端子電極および電極パッドのうち一部のものについては、メタライズ上部にニッケルメッキが形成され、その上部に金メッキが形成されて構成される。
【0028】
蓋4は、金属材料からなり、平面視矩形状の一枚板に成形されている。この蓋4の下面には、封止材33の一部が形成されている。この蓋4は、シーム溶接やビーム溶接、加熱溶融接合等の手法により封止材33を介してベース3に接合されて、蓋4とベース3とによる水晶振動子1の本体筐体が構成される。
【0029】
なお、本実施の形態では、ベース3の材料としてセラミック材料を用いているが、ベース3は、セラミック材料を用いて構成されたものに限定されるものではなく、例えば、水晶、ガラス等の材料を用いて構成されたものであってもよい。また、本実施の形態では、蓋4の材料として、金属材料を用いているが、蓋4は金属材料からなるものに限定されるものではなく、例えば、セラミック材料やガラス材料からなるものであってもよい。
【0030】
次に、本発明の実施の形態に係る水晶振動片の具体的な構成について説明する。
【0031】
図2に示すように、本実施の形態に係る圧電振動片は、フォトリソグラフィ法で成形された音叉型の水晶振動片2である。具体的には、水晶振動片2は、異方性材料の水晶片である水晶素板(図示省略)から、ウエットエッチング形成された水晶Z板である。
【0032】
この水晶振動片2の基板20は、図2に示すように、2本の脚部21,22と基部23とから構成されており、2本の脚部21,22は基部23から突出して形成されている。また、2本の脚部21,22の両主面には、CI値を改善させるために、溝部25が形成されている。
【0033】
各脚部21,22には、異電位で構成された第1及び第2の励振電極26,27と、これら励振電極26,27をベース3の電極パッド(図示省略)に電気的に接合させるための引出電極28とが形成されており、引出電極28は励振電極26,27から基部23に引き出されている。
【0034】
第1の励振電極26は、一方の脚部21の両主面と、他方の脚部22の両側面とに形成されている。同様に、第2の励振電極27は、他方の脚部22の両主面と、一方の脚部21の両側面とに形成されている。
【0035】
これらの励振電極26,27は、第1金属と第2金属とから形成された薄膜であり、より具体的には、脚部21,22の両主面及び両側面上に第1金属からなる下地電極層が形成され、この下地電極層上に第2金属からなる上部電極層が形成されて構成された薄膜である。この薄膜は、真空蒸着法やスパッタリング法等の手法により全面に形成された後、フォトリソグラフィ法によりメタルエッチングして所望の形状に形成される。
【0036】
ここで、第1金属としては、水晶(本発明でいう圧電材料)への接合性が良好な金属を用いる。第1金属の好適な具体例としては、クロム、ニッケル、モリブデン、チタン、又はタングステンを挙げることができ、これらの第1金属によれば、当該第1金属の水晶への蒸着による膜形成を容易に行うことができる。
【0037】
第2金属としては、第1金属への接合性が良好で、且つ、第1金属よりも高い導電性を有する金属を用いる。また、第2金属としては、酸化し難い金属が使用されることが好ましく、具体例としては、金を挙げることができる。第2金属として金を用いると、第2金属の導通抵抗を下げて、CI値を下げることができる。
【0038】
また、励振電極26,27を構成する第2金属に対する第1金属の重量比は、5.9%超〜30.3%以下の範囲内とされる。第2金属に対する第1金属の重量比が5.9%以下の場合、水晶振動片2にアニール処理を施すことによりCI値を減少させても、アニール処理後にさらに熱処理が施されることによりCI値が大幅に増加してしまうおそれがある。また、第2金属に対する第1金属の重量比が30.3%を超えると、導電性の低下により、電気的特性の低下(例えば、CI値の増加等)を生じる。
【0039】
さらに、アニール処理によるCI値の減少効果を十分に得るには、励振電極26,27を構成する第2金属に対する第1金属の重量比が、5.9%超〜12.9%以下であることが好ましく、7.1%以上〜10.7%以下であることが特に好ましい。
【0040】
また、第1金属からなる下地電極層の厚みは、特に、限定されるものではないが、10nm以上〜26nm以下であると、アニール処理後のさらなる熱処理によるCI値の増加量をより少なくすることができる。
【0041】
さらに、第2金属からなる上部電極層の厚みは、特に、限定されるものではないが、30nm以上〜72nm以下であると、アニール処理後のさらなる熱処理によるCI値の増加量をより少なくすることができる上に、良好な導通を得ることができる。
【0042】
なお、本実施の形態に係る水晶振動片2において、励振電極26,27の層構成は、アニール処理等の熱処理が全く施されていない状態では、上記した通り、第1金属層の上に第2金属が積層した2層構成となっているが、熱処理が施されることにより、第1金属は、第2金属層中に拡散し、第1金属と第2金属とからなる励振電極26,27の層構成は変化する。
【0043】
また、水晶振動片2の引出電極28は、上記した励振電極26,27と同様の薄膜で構成されていても、異なる薄膜で構成されていてもよく、例えば、クロムの下地電極層と、金の上部電極層とから構成された積層薄膜とされてもよい。この薄膜は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等の手法により全面に形成された後、フォトリソグラフィ法によりメタルエッチングして所望の形状に形成される。
【0044】
なお、引出電極28の上部電極層を金で構成し、金属バンプ5として、金バンプを用いると、金属バンプ5と引出電極28との良好な密着性を確保することができる。
【0045】
次に、上記した構成からなる当該水晶振動子1の製造方法について概略説明する。
【0046】
まず、水晶振動片2に対し周波数の粗調整を行う。具体的には、脚部21,22の先端部に形成された金属膜211,221に対してレーザ除去、イオンミーリング法、又は金属蒸着などにより金属量の増減を行う。
【0047】
このようにして水晶振動片2への周波数の粗調整を終えた後、水晶振動片2の引出電極28と、ベース3の電極パッドとを、金属バンプ5を介してFCB法により超音波接合して、金属バンプ5によりこれら引出電極28と電極パッドとを電気的に接合し、この接合により水晶振動片2をベース3に搭載する(本発明でいう搭載工程)。
【0048】
そして、ベース3に水晶振動片2を搭載した後に、アニール処理を施して、電極構成を安定させ(本発明でいうアニール処理工程)、CI値を減少させる。なお、CI値を十分に減少させるためには、高真空下、250〜400℃の温度で1〜4時間程度、アニール処理を行うことが好ましい。
【0049】
次いで、最終の周波数調整(後述する周波数調整工程)及び後述する後熱処理の前に、さらに、熱処理を施す(本発明でいう事前熱処理工程)。なお、この熱処理は、窒素雰囲気下で行われ、水晶振動片2に加えられる熱の温度は、アニール処理の温度より低く、且つ、後述する後熱処理工程で水晶振動片2に加わる温度よりも高い温度とされている。このような熱処理により、CI値は若干増加するが、後述する最終の周波数調整に先立って行うことで、最終の周波数調整後の熱処理によるCI値の変動量が抑制される。
【0050】
次いで、ベース3に搭載した水晶振動片2への最終の周波数調整、即ち、周波数の微調整を行う(本発明でいう周波数調整工程)。具体的には、脚部21,22の先端部に形成された金属膜211,221に対してイオンミーリング法又は金属蒸着法などにより金属量の増減を行う。
【0051】
そして、ベース3に搭載した水晶振動片2への最終の周波数調整を終えた後に、ベース3に蓋4を封止材33を介して接合して水晶振動片2を内部空間11に気密封止し、熱をかける封止工程、さらに熱をかけるリフロー工程、及びエージング特性を測るエージング工程といった後熱処理工程を実施し、水晶振動子1を製造する。
【0052】
なお、本発明でいう後熱処理工程とは、第1封止部材へ搭載された圧電振動片に対する最終の周波数調整の後、圧電振動片に直接的又は間接的に熱が加えられる工程をいい、封止工程、リフロー工程、及びエージング工程に限定されるものではない。また、本発明でいう事前熱処理工程とは、アニール処理工程の後、最終の周波数調整工程及び後熱処理工程の前に、圧電振動片に直接的又は間接的に熱を加える工程をいう。
【0053】
本実施の形態では、ベース3に搭載した水晶振動片2への最終の周波数調整後の封止工程、リフロー工程、及びエージング工程において、水晶振動片2にベース3及び蓋4を介して間接的に熱を加えている。
【0054】
以下に、本発明に係る実施例1〜8の圧電振動片、及び比較例1〜3の圧電振動片を用いて、圧電振動デバイスの製造に際して生じるCI値の変動に関する実験を行った結果を、説明する。
<実施例1〜8、比較例1〜3>
実施例1〜8、及び比較例1〜3に係る圧電振動片は、いずれも、上記した図2に示す構成の水晶振動片2である。これらの実施例1〜8、及び比較例1〜3に係る水晶振動片において、励振電極26,27は、脚部21,22の両主面及び両側面上にクロムからなる下地電極層(Cr層)を形成し、この下地電極層上に金からなる上部電極層(Au層)を形成して構成された薄膜であり、熱処理が全く施されていない状態でのCr層及びAu層の膜厚は、以下の表1及び表2に示す通りとなっている。なお、表1及び表2には、励振電極26,27を構成する金(第2金属)に対するクロム(第1金属)の重量比を重量比(Cr/Au)として示している。また、比較例2及び3は、従来の圧電振動片として一般に適用されている水晶振動片である。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
これら実施例1〜8、及び比較例1〜3に係る水晶振動片2を、それぞれ、図1に示すように、FCB法によりベース3へ搭載した。そして、ベース3に搭載した水晶振動片2にアニール処理(高真空下、350℃で1時間)を施した。さらに、アニール処理の後、ベース3に搭載した水晶振動片2に熱処理(窒素雰囲気下、300℃で2時間)を施した。そして、水晶振動片2に対して周波数の微調整(最終の周波数調整)を行った後、ベース3に蓋4を加熱溶融接合して水晶振動片2を気密封止し、封止処理を行った。
【0058】
上記工程から、アニール処理後のCI値に対する事前熱処理後のCI値の増加率(%)、ベース搭載直後のCI値に対するアニール処理後のCI値の減少率(%)、事前熱処理後のCI値に対する封止処理後のCI値の変動率(%)を算出した。これらの算出結果を、それぞれ、アニール処理後の事前熱処理によるCI値の増加率(%)、アニール処理によるCI値の減少率(%)、封止処理によるCI値の変動率(%)として、表1及び2に示す。
【0059】
さらに、図3に、上記した重量比(Cr/Au)と、アニール処理後の事前熱処理によるCI値の増加率(%)との関係を示し、図4に上記した重量比(Cr/Au)と、アニール処理によるCI値の減少率(%)との関係を示す。また、図5に、上記した重量比(Cr/Au)と、封止処理によるCI値の変動率(%)との関係を示す。
【0060】
表1及び表2のアニール処理によるCI値の減少率(%)に示されるように、実施例1〜8及び比較例1〜3のいずれの水晶振動片2においても、アニール処理によりCI値が減少することが認められた。さらに、アニール処理により減少したCI値は、実施例1〜8及び比較例1〜3のいずれの水晶振動片2においてもアニール処理後、周波数調整前の事前熱処理により増加することが認められるが、その増加率は、比較例2及び3に係る従来の水晶振動片2よりも、実施例1〜8に係る水晶振動片2の方が少ないことが認められた。
【0061】
より具体的には、図3に示すグラフより、アニール処理後のCI値に対する事前熱処理後のCI値の増加率は、上記した重量比(Cr/Au)が5.9%の時に最大となり、5.9%を超えると減少する傾向にあることが認められた。
【0062】
また、図4に示すグラフより、上記した重量比(Cr/Au)が5.9%超〜12.9%以下の時に、アニール処理により15%以上CI値を減少させることができることが認められ、重量比(Cr/Au)が7.1%以上〜10.7%以下の時にアニール処理によりほぼ25%以上CI値を減少させることができることが認められた。
【0063】
さらに、図5に示すグラフより、上記した重量比(Cr/Au)が12.5%を超えた時に、急激に、事前熱処理後のCI値に対する封止処理(後熱処理)後のCI値の変動率が大きくなることが認められ、この封止処理(後熱処理)によるCI値の変動率は、重量比(Cr/Au)が7.1%以上〜8.3%以下の時に特に少ないことが認められた。
【0064】
以上のことから、アニール処理後のさらなる熱処理(事前熱処理)によるCI値の変動を抑制するには、励振電極26,27を構成する第2金属に対する第1金属の重量比が、5.9%超である必要があることが認められた。また、アニール処理によるCI値の減少効果は、第2金属に対する第1金属の重量比が5.9%超〜12.9%以下の時に十分に得られ、7.1%以上〜10.7%以下の時に最大となることが認められた。さらに、事前熱処理後のCI値からの最終の周波数調整後の熱処理(後熱処理)によるCI値の変動量は、重量比(Cr/Au)を12.5%未満に限定することで確実に抑制することができることが認められた。
【0065】
以上、圧電振動デバイスの製造に際して生じるCI値の変動に関し、実施例1〜8を用いて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
なお、上記した本実施の形態では、上記した通り、圧電振動片を構成する圧電材料として水晶が用いられているが、これは好適な例でありこれに限定されるものではなく、水晶以外の圧電材料、例えば、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等により圧電振動片が構成されていてもよい。
【0067】
また、上記した本実施の形態では、上記した通り、圧電振動片は、音叉型の水晶振動片とされているが、本発明の圧電振動片はこれに限定されるものではなく、ATカットの圧電振動片であってもよい。
【0068】
また、上記の実施の形態において、水晶振動子1は、金属バンプ5を介してベース3上の電極パッドへ接合されているが、本発明の圧電振動デバイスはこれに限定されるものではなく、例えば、圧電振動片は導電性接着剤を介してベースの電極パッドへ接合されていてもよい。
【0069】
さらに、上記の実施の形態において、水晶振動子1は、ベース3と蓋4とにより構成された内部空間11内に水晶振動片2(励振電極26,27)が気密封止された構成とされているが、本発明に係る圧電振動デバイスは、本発明に係る圧電振動片と、この圧電振動片の前記励振電極を気密封止するための第1封止部材及び第2封止部材とを備える構成であれば、特に限定されるものではなく、他の形態であってもよい。具体的には、図6,7に示すような第1封止部材3aと第2封止部材4aとの間に振動部25aを有する水晶振動片2aを挟むことにより、水晶振動片2aに形成された励振電極が気密封止された構成の水晶振動子1aであってよい。
【0070】
図6は、本発明の他の実施形態に係る水晶振動片を示す概略構成図である。また、図7は、図6に示す水晶振動片が搭載された水晶振動子の概略構成を示す図であり、水晶振動片が図6のA−A線に沿って切断された状態を示す断面図である。なお、図7では、図面の見易さを考慮して断面部のハッチングを省略している。
【0071】
図6に示す水晶振動片2aは、圧電材料である水晶からなる直方体の基板20aに、振動部25aが形成された構成とされている。振動部25aは、2本の脚部21a,22aと基部23aとから構成されており、2本の脚部21a,22aは基部23aから突出して形成されている。また、振動部25aの外周の一部分24aを除く他の部分に隣接する領域26aは、中空形成されている。そして、水晶振動片2aの両主面の平面視主面外周が、それぞれ、第1封止部材3a及び第2封止部材4aとの接合部27a,28aとされている。
【0072】
この振動部25aの各脚部21a,22aには、異電位で構成された第1及び第2の励振電極(図示省略)と、引出電極(図示省略)とが形成されている。ここで、第1の励振電極は、一方の脚部21aの両主面と、他方の脚部22aの両側面とに形成されている。同様に、第2の励振電極は、他方の脚部22aの両主面と、一方の脚部21aの両側面とに形成されている。また、励振電極は、図2に示した水晶振動片2に形成された励振電極26,27と同様に、第1金属と第2金属とからなり、この励振電極を構成する第2金属に対する第1金属の重量比は、5.9%超〜30.3%以下とされている。
【0073】
また、第1封止部材3aは、図7に示すように、ガラスウエハから形成された直方体の基板であり、この第1封止部材3aの一主面31aは平坦平滑面(鏡面加工)として成形されている。そして、この第1封止部材3aの一主面31aの平面視主面外周が、水晶振動片2aとの接合部32aとされている。さらに、第1封止部材3aには、水晶振動片2aの励振電極と電気的に接続する電極パッド(図示省略)が設けられている。
【0074】
また、第2封止部材4aは、図7に示すように、ガラスウエハから形成された直方体の基板であり、この第2封止部材4aの一主面41aは平坦平滑面(鏡面加工)として成形されている。そして、この第2封止部材4aの一主面41aの平面視主面外周が、水晶振動片2aとの接合部42aとされている。
【0075】
そして、水晶振動片2aの接合部27aを封止材6aを介して第1封止部材3aの接合部32aに接合して、第1封止部材3aの上に水晶振動片2aを搭載し、さらに、水晶振動片2aの接合部28aを封止材7aを介して第2封止部材4aの接合部42aに接合することで、水晶振動片2aの振動部25a(励振電極)が気密封止され、水晶振動子1aが構成されている。
【0076】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0077】
1 水晶振動子(圧電振動子)
11 内部空間
2 水晶振動片(圧電振動片)
20 基板
21,22 脚部
211,221 脚部の先端部の金属膜
23 基部
25 溝部
26,27 励振電極
28 引出電極
3 ベース(第1封止部材)
31 底部
32 壁部
33 封止材
4 蓋(第2封止部材)
5 金属バンプ
1a 水晶振動子(圧電振動子)
2a 水晶振動片(圧電振動片)
20a 基板
21a,22a 脚部
23a 基部
24a 振動部の外周の領域の一部
25a 振動部
26a 振動部の外周の領域
27a,28a 水晶振動片の接合部
3a 第1封止部材
31a 第1封止部材の一主面
32a 第1封止部材の接合部
4a 第2封止部材
41a 第2封止部材の一主面
42a 第2封止部材の接合部
6a,7a 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料からなる圧電振動片であって、
前記圧電材料に接合する第1金属と、この第1金属に接合する第2金属とにより励振電極が形成されており、
前記第2金属が前記第1金属よりも高い導電性を有し、且つ、前記第2金属に対する前記第1金属の重量比が、5.9%超〜30.3%以下である
ことを特徴とする圧電振動片。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電振動片であって、
前記第1金属がクロム、ニッケル、モリブデン、チタン、又はタングステンであることを特徴とする圧電振動片。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電振動片であって、
前記第2金属が金であることを特徴とする圧電振動片。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の圧電振動片が搭載されている圧電振動デバイスであって、
前記圧電振動片と、
この圧電振動片の前記励振電極を気密封止するための第1封止部材及び第2封止部材と
を備えることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電振動デバイスの製造方法であって、
前記第1封止部材に前記圧電振動片を搭載する搭載工程と、
前記圧電振動片にアニール処理を施すアニール処理工程と、
前記圧電振動片に対して最終の周波数調整を行う周波数調整工程と、
前記搭載工程及び前記アニール処理工程の後、前記周波数調整工程の前に、前記圧電振動片に対して熱処理を施す事前熱処理工程と、
前記周波数調整工程の後に、前記圧電振動片に対して熱処理を施す後熱処理工程と
を備えることを特徴とする圧電振動デバイスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−160095(P2011−160095A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18758(P2010−18758)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】