説明

地中レーダ

【課題】地中の掘削作業に先立って埋設状況を調査する際に、埋設物の位置を探知するだけでなく、地中の埋設物が金属物体か非金属物体かを識別可能とする地中レーダ。
【解決手段】地中に向けて電磁波を送出する電磁波送信部4と、送出された該電磁波に基づいて反射された電磁波を受信する電磁波受信部5とを有し、該電磁波受信部5によって受信された電磁波に基づき地中に埋設された埋設物9を探知する地中レーダ1において、前記電磁波受信部5で受信された電磁波の受信波形19と前記電磁波送信部4から送出される電磁波の送信波形12との相互相関処理、及び該受信波形19の自己相関処理を行う相関処理部22と、前記相関処理部22により得られる相互相関値と自己相関値との比率を算出し、算出した該比率に基づいて前記地中に埋設された埋設物9が金属物体であるか非金属物体であるかを識別する識別部7とを備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中の埋設物を探知するための地中レーダに関し、詳しくは、埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別可能な地中レーダに係るものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道の改良工事や道路工事等において、例えば、土やコンクリート等の掘削作業を伴って行うことがある。この様な掘削作業に先立って、掘削作業エリアの、ガス管、水道管、電力ケーブル等の既設の設備の埋設状況を調査して、作業の安全確保を図ることがある。この様な埋設状況の調査は、一般的に、掘削作業エリアにおいて地中レーダを操作することによって行われている。
【0003】
この種の地中レーダとしては、例えば特許文献1に記載された様に、レーダ送信波を発生する送信機と、該送信波を送出する送信アンテナと、地中の埋設物からの反射波を受信する受信アンテナとを有して、受信波のデータに所定の演算処理をすることにより、埋設物の位置を探知する構成のものがある。
【特許文献1】特許第3039509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のこの種の地中レーダにおいては、埋設物の位置を探知するだけであるため、前述の様に掘削作業に先立って地中の埋設状況を調査して、埋設物の位置が分かっても、その埋設物が金属物体か非金属物体かを識別(例えば、金属管か塩化ビニル管かの識別等)することができなかった。したがって、埋設物が金属物体か非金属物体かに関わらず掘削作業がスムーズに行われるように、どちらにでも対応可能な掘削作業用の機械や工事道具等を準備しなければならず、結果として不要な準備をもしなければならない場合があり、準備にコストがかかるという問題がある。
【0005】
本発明者は、地中に向けて送出された電磁波の送信波形と送出された電磁波に基づいて反射された電磁波の受信波形との相互相関値及び受信波形の自己相関値を算出し、得られた自己相関値と相互相関値の比率に基づいて、地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別することができることを見出した。
【0006】
そこで、本発明は前述の問題点に対処し、埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別可能な地中レーダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による地中レーダは、地中に向けて電磁波を送出する電磁波送信部と、送出された該電磁波に基づいて反射された電磁波を受信する電磁波受信部とを有し、該電磁波受信部によって受信された電磁波に基づき地中に埋設された埋設物を探知する地中レーダにおいて、前記電磁波受信部で受信された電磁波の受信波形と前記電磁波送信部から送出される電磁波の送信波形との相互相関処理、及び該受信波形の自己相関処理を行う相関処理部と、前記相関処理部により得られる相互相関値と自己相関値との比率を算出し、算出した前記比率に基づいて前記地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別する識別部と、を備えたものである。
【0008】
このような構成により、電磁波送出部によって、地中に向けて電磁波を送出させ、電磁波受信部によって、送出された該電磁波に基づいて反射された電磁波を受信させて地中に埋設された埋設物を探知させ、相関処理部によって、前記電磁波受信部で受信された電磁波の受信波形と前記電磁波送信部から送出される電磁波の送信波形との相互相関処理、及び該受信波形の自己相関処理を行わせ、識別部によって、前記相関処理部により得られる相互相関値と自己相関値との比率を算出させ、算出した該比率に基づいて前記地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別させる。これにより、地中の掘削作業に先立って埋設状況を調査する際に、埋設物の位置を探知するだけでなく、地中の埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別する。
【0009】
また、請求項2のように、前記電磁波送信部は、送出される電磁波の送信波形の信号を、地中に向けて送出する電磁波の出力を増幅させる送信波アンプ部と前記相関処理部とに分配する分配部を有する構成にするとよい。
【0010】
さらに、請求項3のように、前記電磁波送信部は、電磁波を地中に向けて複数回送出する構成にしてもよい。
【0011】
さらにまた、請求項4のように、地中に向けて複数回送出された電磁波に基づいて異なる時刻に受信される各受信波形のデータをそれぞれ全て加算して平均値を算出する平均処理部を有する構成にしてもよい。
【0012】
また、請求項5のように、閾値を予め設定し、該閾値と算出した前記比率とを比較して、地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別する識別部を有する構成にしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、電磁波送出部によって、地中に向けて電磁波を送出させ、電磁波受信部によって、送出された該電磁波に基づいて反射された電磁波を受信させて地中に埋設された埋設物を探知させ、相関処理部によって、前記電磁波受信部で受信された電磁波の受信波形と前記電磁波送信部から送出される電磁波の送信波形との相互相関処理、及び該受信波形の自己相関処理を行わせ、識別部によって、前記相関処理部により得られる相互相関値と自己相関値との比率を算出させ、算出した前記比率に基づいて前記地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別させる構成としたので、埋設物の位置を探知するとともに、埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別することができる。したがって、例えば地中の掘削作業に先立って、埋設物が非金属物体であることを識別した場合、非金属物体が埋設されている場合に対応した機械や工具等のみを用意すればよく、不要なコストをかけることなく工事の準備をすることができる。
【0014】
また、請求項2に係る発明によれば、分配部によって、送出される電磁波の送信波形の信号を、地中に向けて送出する電磁波の出力を増幅させる送信波アンプ部と前記相関処理部とに分配することができる。したがって、相関処理部は容易に送信波形を得ることができる。
【0015】
さらに、請求項3に係る発明によれば、前記電磁波送信部によって、電磁波を地中に向けて複数回送出することができる。したがって、電磁波受信部は、送出された電磁波に基づいて反射された電磁波を、時間をずらして複数回受信することができ、受信ミスを少なくすることができる。
【0016】
さらにまた、請求項4に係る発明によれば、地中に向けて複数回送出された電磁波に基づいて異なる時刻に受信される各受信波形のデータを、平均処理部により、それぞれ全て加算して平均値を算出させる。これにより、受信波形の、例えば、地中レーダの電子回路内からの不規則なノイズ成分や、地表面からの不規則な反射波等に起因して生じるランダム性のあるノイズ成分を打ち消し合わせ、埋設物からの電磁波の反射波の信号成分を強め合わせることができる。したがって、受信波形のS/N比を向上させ、例えば、探知結果を画像表示したときの視認性を向上させることができる。
【0017】
また、請求項5に係る発明によれば、予め設定された閾値と算出された前記比率とを比較させることにより、地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別することができる。したがって、地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを容易に識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明による地中レーダの実施形態を示す構成図である。
図1において、本実施形態の地中レーダ1は、車輪部2と、地中レーダ本体3とで成り、地中レーダ本体3は、電磁波送信部4と、電磁波受信部5と、信号処理部6と、識別部7と、表示部8とを備えて成る。
【0019】
車輪部2は、地中レーダ本体3を、例えば地中の金属管や塩化ビニール管等の埋設物9の埋設状況を探知する場所まで容易に搬送可能にするもので、図1に示すように、例えば地中レーダ本体3の下方に取り付けられている。
【0020】
電磁波送信部4は、図1に示すように、電磁波を地中に向けて送出するもので、送出する電磁波の出力を増幅させる送信波アンプ10と、増幅された電磁波を地中に向けて送出する送信アンテナ部11とを備えている。ここで、送出される電磁波の送信波形12は、図2に示すように、時間とともに振幅(電圧)が変化する波形である。
【0021】
また、本実施形態においては、電磁波送信部4は、図1に示すように、例えば、ガウシアン波やインパルス波、チャープ波、FM―CW波などのように広域の周波数成分をもった波源を予め複数用意し、スイッチによって送出する電磁波の波源を切り替えて選択し波源信号を出力することが可能な波源選択部13と、選択された波源の周波数成分を制約して特定の周波数域において波源信号の出力を減衰させるフィルタを予め複数用意し、スイッチによってフィルタを切り替えて選択し、フィルタを通して所定の送信波形12の信号を出力することが可能なフィルタ選択部14とで構成された周波数特性変更手段15を備えている。さらに、電磁波送信部4は、フィルタ選択部14より入力された送信波形12の信号を送信波アンプ10と後述する相関処理部22とに分配して出力する分配部16を備えている。この電磁波送信部4により、送出する電磁波の波源及びフィルタを選択し、送信波形12の周波数特性を変更して、所定の送信波形12の電磁波を地中に向けて送出することができる。
【0022】
なお、波源選択部13及びフィルタ選択部14はスイッチによって波源及びフィルタを選択する構成について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば波源選択部13は波源を一つにして変調器を用いて波源のパラメータを変えて波源を選択してもよく、又フィルタ選択部14は一つのパッケージ化されたフィルタを用いて、該フィルタの構成素子の定数や配置のパラメータを変えてフィルタを選択する構成にしてもよい。
【0023】
さらに、本実施形態においては、電磁波送信部4は、電磁波を地中に向けて複数回送出するように構成されている。このため、送出された電磁波に基づいて反射された電磁波を、時間をずらして複数回受信することができため、受信ミスを低減できる。また、異なる時刻に受信される各受信波形の信号を後述する平均処理部6で処理させるための複数のデータを容易に得ることができる。
【0024】
電磁波受信部5は、送出された電磁波に基づいて反射された電磁波を受信して、出力を増幅させるもので、図1に示すように、反射された電磁波を受信する受信アンテナ部17と、受信した電磁波の出力を増幅させる受信波アンプ18とを備えている。ここで受信される電磁波の受信波形19は、図3及び図4に示すように、時間とともに受信波の振幅(電圧)が変化する波形である。
【0025】
信号処理部6は、受信波アンプ18から出力される信号を処理するものであり、図1に示すように、受信波形19の高調波ノイズを除去する波形処理部20と、波形処理部20からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部21とを備えている。なお、波形処理部20は、例えばローパスフィルタで構成されている。
【0026】
ここで、本実施形態において、信号処理部6は、図1に示すように、受信波アンプ18からの入力信号を処理する相関処理部22を備えている。この相関処理部22は、電磁波受信部5で受信された電磁波の受信波形19と電磁波送信部4の分配部16から送出(分配)される電磁波の送信波形12との相互相関処理、及び受信波形19の自己相関処理を行うものであり、得られる相互相関値と自己相関値のデータを後述する識別部7に出力する。また、受信波アンプ18からの受信波形19の信号を波形処理部20に送信する。なお、自己相関処理は、例えば、一波目の受信波形19を予め図示外のメモリに保存させ、その後、二波目以降の受信波形19と該メモリに保存された一波目の受信波形19との相関処理をすることにより行う。また、自己相関及び相互相関の処理結果としてその波形を、自己相関の波形23(図5,6参照)及び相互相関の波形24(図5,6参照)として後述する表示部8で確認することもできる。
【0027】
また、本実施形態において、信号処理部6は、図1に示すように、平均処理部25をさらに備えている。この平均処理部25は、複数回送出された電磁波に基づいて異なる時刻に受信される各受信波形19のデータをそれぞれ全て加算して平均値を算出するものであり、平均化された受信波形19のデータを後述する識別部7に出力する。前述のように、電磁波送信部4は、電磁波を地中に向けて複数回送出する構成となっているため、送出された電磁波に基づいて反射された電磁波を、時間をずらして複数回受信して各受信波形19を得ることができている。なお、電磁波送信部4が、電磁波を一回送出する構成でもよく、この場合、平均処理部25は、受信波形19のデータについて、時間をずらした波形データを複数作成して、それぞれ全て加算して平均値を算出する。
【0028】
さらに、本実施形態において、地中レーダ本体3は、図1に示すように、識別部7を備えている。この識別部7は、地中に埋設された埋設物9が金属物体であるか非金属物体であるかの識別を行うものであり、相関処理部22により得られる相互相関値と自己相関値に基づいて、相互相関値と自己相関値に関する比率を相関比率として、例えば相関比率を次式
相関比率=100−(相互相関値/自己相関値)×100
により定義して算出し、相関比率の単位をパーセントとして示し、予め識別部7内に設定された該相関比率についての閾値と算出した該相関比率(%)とを比較することにより、金属物体と非金属物体の識別をする。そして、識別結果を後述する表示部8に出力して、確認できるようになっている。なお、識別部7は信号処理部6等の装置全体を制御するためのものでもあり、例えばCPUやFPGA(Field Programmable Gate Array)などのデバイスによって構成されている。
【0029】
表示部8は、前述の識別結果を表示し、加えて、平均処理部25から得られる平均化された受信波形19のデータに基づいて、例えば、視認性のよい探知結果を画像表示させることができる。また、前述のように自己相関の波形23及び相互相関の波形24をも表示させることができる。
【0030】
次に、このように構成された地中レーダ1において、例えば、地中が、図7(a)に示すように、コンクリート(厚みt=5cm、比誘電率Er=6)を上層(地表面側)とし、土壌(比誘電率Er=36)を下層とした2層状であり、直径がそれぞれ10cmの円柱状樹脂管又は円柱状金属管を地表面から2mの深さの土壌層に埋設させた2つの場合について、それぞれ地中レーダを操作して予備的に実験をした結果に基づいて、埋設物9が金属物体であるか非金属物体であるかを識別する動作及び手順について説明する。
【0031】
まず、図7(a)に示すように、探知エリアに地中レーダ1を設置し、送信する電磁波の周波数特性を波源選択部13及びフィルタ選択部14のスイッチを操作して、例えば、ガウシアン波形の送信波形12の信号を分配部16に送信し、分配部16によって、送信波形12の信号を送信波アンプ10に出力し、送信波アンプ10によって送信波形12の信号の出力を増幅させて、送信アンテナ部11より、地中に向けて電磁波を送出する。
【0032】
次に、送出された電磁波に基づいて反射された電磁波を受信アンテナ部17により受信し、受信した電磁波の出力を受信波アンプ18により増幅させ、上記円柱状樹脂管又は上記円柱状金属管について、一波目の受信波形19の信号を得る。そして、得られた一波目の受信波形19のデータを前述の図示外のメモリに保存する。
【0033】
そして、二波目以降の送信波形12を、分配部16から送信波アンプ10と相関処理部22とに送信させ、送信波アンプ10によって送信波形12の信号の出力を増幅させて、送信アンテナ部11より、地中に向けて電磁波を送出する。そして、送出された電磁波に基づいて反射された電磁波を受信アンテナ部17により受信し、受信した電磁波の出力を受信波アンプ18により増幅させ、二波目以降の受信波形19の信号を相関処理部22に出力する。
【0034】
さらに、相関処理部22によって、二波目以降の受信波形19と分配部16から分配された二波目以降の電磁波の送信波形12との相互相関処理をそれぞれ行い、同時に、受信された二波目以降の各受信波形19について、前述の図示外のメモリに予め保存された受信波形19との自己相関処理をそれぞれ行う。そして、得られる相互相関値と自己相関値のデータをそれぞれ識別部7に出力するとともに、受信波アンプ18からの二波目以降の受信波形19の信号を波形処理部20に送信する。
【0035】
さらにまた、波形処理部20によって、二波目以降の受信波形19の高調波ノイズを例えばローパスフィルタにより除去し、A/D変換部21により、波形処理部20からのアナログ信号をデジタル信号に変換し、平均処理部25にデジタル信号を出力する。そして、異なる時刻に受信された二波目以降の各受信波形19について、ノイズ除去後のデータをそれぞれ全て加算して平均値を算出し、識別部7を経由して表示部8に該データを送信し、視認性のよい探知結果を画像表示させる。また、自己相関及び相互相関の処理結果としてその波形を、自己相関の波形23及び相互相関の波形24として表示部8に画像表示させる。
【0036】
ここで、相関処理部22より得られた相互相関値と自己相関値に基づいて、識別部7によって前述の相関比率を算出する。この相関比率は埋設物9が上記円柱状樹脂管の場合は約37%、埋設物9が上記円柱状金属管の場合は約5%という数値を得られた。このように、埋設物9が円柱状樹脂管の場合に得られる相関比率の方が円柱状金属管の場合に得られる相関比率より大きい値となることが分かる。なお、二波目以降の各受信波形19に基づいて、それぞれ相関比率を算出すると信頼性のあるデータを得ることができる。なお、例えば、二波目の受信波形19のみに基づいて、相関比率を算出してもよい。
【0037】
同様の手順で、埋設物9の条件(埋設深さ、形状、構造、材質)をそれぞれ変えて、予備的な実験を行った。その結果、埋設物9の埋設深さが1mと1.5mの場合においても、上記と略同等の相関比率をそれぞれ得ることが分かった。また、埋設物9が円柱金属管でなく、外径10cm、内径8cmの中空金属管や一辺10cmの角状金属の場合においても、上記円柱状金属管が埋設されている場合と略同等の相関比率を得ることが分かった。さらに、埋設物9が円柱状樹脂管でなく、直径10cmの球形状空洞や直径10cmの球形状の水や一辺10cmの角材(木材)とした場合においても、上記円柱状樹脂管が埋設されている場合と略同等の相関比率を得ることが分かった。
【0038】
したがって、埋設物9の条件(埋設深さ、形状、構造、材質)に関わらず、埋設物9が非金属物体(樹脂、空気、水、木材等)の場合に得られる相関比率(上記埋設物の条件を変更した予備的な実験においては、約30〜37%)の方が金属物体の場合に得られる相関比率(上記埋設物の条件を変更した予備的な実験においては、約5〜8%)より明らかに大きい値となる。このように識別部7により上記相関比率を算出させ、例えば、その相関比率について、埋設物9が金属物体か非金属物体かを識別する閾値を、上記予備的な実験結果に基づいて予め識別部7内に設定し、以後の操作において前記閾値と算出された相関比率とを比較させることにより、埋設物9が金属物体であるか非金属物体であるかを識別し、識別結果を表示部8に表示する。
【0039】
また、同様の手順で、埋設物9を直径10cmの円柱状金属管と一辺10cmの角材(木材)と直径10cmの球形状の水の場合について、地中の条件(コンクリート及び土壌の比誘電率、コンクリート層の厚み)をそれぞれ変えて、予備的な実験を行った。その結果、土壌層の比誘電率(Er=36)は変更せず、コンクリート層の比誘電率Erを2.0、3.0、4.0にした場合においても、図8に示すように、前述と略同等の相関比率をそれぞれ得ることが分かった。さらに、コンクリート層の比誘電率を変更せず、土壌層の比誘電率Erを10と20にした場合や、コンクリート層と土壌層の比誘電率を変更せず、コンクリート層の厚みを50cm、100cm、150cmとした場合についても、前述と略同等の相関比率をそれぞれ得ることが分かった。
【0040】
したがって、地中の条件(コンクリート及び土壌の比誘電率、コンクリート層の厚み等)に関わらず、埋設物9が非金属物体の場合に得られる相関比率(上記地中の条件を変更した予備的な実験においては、約24〜46%)の方が金属物体の場合に得られる相関比率(上記地中の条件を変更した予備的な実験においては、約2〜6%)より明らかに大きい値となる。
【0041】
さらに、上記説明においては、地中の層は、図7(a)に示すように、地中がコンクリート層と土壌層の2層状であり、埋設物9が土壌層に埋設されている場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図7(b)に示すように、地中が土壌層のみで、埋設物9が土壌層に埋設されている場合や、図7(c)に示すように、地中がコンクリート層と土壌層の2層状であるが、埋設物がコンクリート層に埋設されている場合についても、前述と同様に、埋設物が上記非金属物体の場合に得られる相関比率の方が上記金属物体の場合に得られる相関比率より明らかに大きい値を得ることが確認されている。
【0042】
さらにまた、上記説明においては、埋設物の深さが1m、1.5m、2mの場合の識別手順について説明したが、本発明はこれに限らず、電磁波の出力レベルを上げることにより、出力レベルに対応した深さまで、埋設物を識別可能である。
【0043】
以上より、埋設物の埋設状況を探知しようとするエリアの地中の条件(比誘電率、コンクリート層の厚み、地中の層の状況)や埋設物の条件(埋設深さ、形状、構造、材質)に関わらず、前記相関比率に基づいて埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別することができる。
【0044】
なお、地中レーダ本体3に車輪部2を取り付けた場合について説明したが、これに限らず、車輪部2を設けずに地中レーダ本体3を引きずって搬送させる構成にしてもよい。また、送信アンテナ部11及び受信アンテナ部17を地表面と距離を隔てて設置した場合について、図1に示したが、これに限らず、地表面と送信アンテナ部11及び受信アンテナ部17が干渉しない程度に、地表面に近づけて設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による地中レーダの一実施形態を示す構成図である。
【図2】地中に向けて送出する電磁波の送信波形の一例を示す説明図である。
【図3】非金属の埋設物からの受信波形の一例を示す説明図である。
【図4】金属の埋設物からの受信波形の一例を示す説明図である。
【図5】埋設物が非金属の場合の相互相関及び自己相関の波形の一例を示す説明図である。
【図6】埋設物が金属の場合の相互相関及び自己相関の波形の一例を示す説明図である。
【図7】地中の状態と埋設物の埋設位置とを示す説明図であり、(a)は地中がコンクリートと土壌の2層で形成され、埋設物が土壌層に埋設されている状況図、(b)は地中が土壌で形成されて埋設されている状況図、(c)は地中がコンクリートと土壌の2層で形成され、埋設物がコンクリート層に埋設されている状況図である。
【図8】コンクリート層の誘電率を変化させた場合の予備的実験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0046】
1…地中レーダ
4…電磁波送信部
5…電磁波受信部
6…信号処理部
7…識別部
9…埋設物
12…送信波形
19…受信波形
22…相関処理部
25…平均処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に向けて電磁波を送出する電磁波送信部と、送出された該電磁波に基づいて反射された電磁波を受信する電磁波受信部とを有し、該電磁波受信部によって受信された電磁波に基づき地中に埋設された埋設物を探知する地中レーダにおいて、
前記電磁波受信部で受信された電磁波の受信波形と前記電磁波送信部から送出される電磁波の送信波形との相互相関処理、及び該受信波形の自己相関処理を行う相関処理部と、
前記相関処理部により得られる相互相関値と自己相関値との比率を算出し、算出した該比率に基づいて前記地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別する識別部と、
を備えたことを特徴とする地中レーダ。
【請求項2】
前記電磁波送信部は、送出される電磁波の送信波形の信号を、地中に向けて送出する電磁波の出力を増幅させる送信波アンプ部と前記相関処理部とに分配する分配部を有することを特徴とする請求項1に記載の地中レーダ。
【請求項3】
前記電磁波送信部は、電磁波を地中に向けて複数回送出する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の地中レーダ。
【請求項4】
地中に向けて複数回送出された電磁波に基づいて異なる時刻に受信される各受信波形のデータをそれぞれ全て加算して平均値を算出する平均処理部を有すること特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の地中レーダ。
【請求項5】
前記識別部は、閾値を予め設定し、該閾値と算出した前記比率とを比較して、地中に埋設された埋設物が金属物体であるか非金属物体であるかを識別することを特徴とする請求項1〜4に記載の地中レーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−151603(P2010−151603A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329856(P2008−329856)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】