説明

地山の安定化方法、地山の安定化構造、充填材、地山に空間を形成する方法、推進工法を用いたトンネルの構築方法及びこの方法により構築されたトンネル、掘進機によるトンネルの構築方法及びこの方法により構築されたトンネル、被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法、被圧地下水を排水するための水抜き用井戸

【課題】地地山内に空間又は空隙を形成する際に地山を保持して安定化することが可能な地山の安定化方法及び安定化構造、並びにそれに用いる充填材を提供する。
【解決手段】シールド機1や推進機2等の削孔機による孔の削孔により地山13内に形成された空隙部9に地山13内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材11を流動状態で充填し、該充填材が冷却されて固体状態になって地山13を保持し、地山13の崩落を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山内に空間又は空隙を構築する際の地山の安定化方法及び安定化構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、シールド工法や推進工法にてトンネルを掘削する際には、シールド機や推進機等の削孔機と地山との間に、掘進時に地山との摩擦を低減する滑材としての性能や所定の時間経過後に所定の強度を発現して地山を保持する裏込め材としての性能を有する充填材を充填される。
【0003】
この充填材として、例えば、特許文献1には、水とセメント等の硬化材とナフタレンスルホン酸系減水剤とからなるA液と、水とセメント等の硬化材とポリマー樹脂等の高分子化合物とからなるB液とを空隙部近傍で混合した充填材が開示されている。この充填材は、ナフタレンスルホン酸系減水剤とポリマー樹脂とが混合すると凝集を引き起こして高粘性になる性質を利用して、削孔機の外周に形成された空隙部に充填され、掘進施工中は滑材としての性能を有し、施工後は地山と同程度の強度に硬化して裏込め材としての性能を発現するものである。
【0004】
また、特許文献2には、水とセメントと多糖類と珪酸ナトリウムと親水性潤滑剤とを含む懸濁液に、カルボン酸系遅延硬化剤を添加した充填材が開示されている。この充填材は、削孔機の外周に形成された空隙部に充填され、掘進施工中(例えば、1ヶ月程度)はゲル化状態を呈して滑材としての性能を有し、施工後は地山と同程度の強度に硬化して裏込め材としての性能を発現するものである。ゲル化状態で滑材としての性能を保持する期間は、カルボン酸系遅延硬化材の添加量を調整することにより適宜変更可能である。
【0005】
また、特許文献3には、高吸水性樹脂と、ベントナイトと、セメントと、遅延硬化剤とを混合した充填材が開示されている。この充填材は、削孔機の外周に形成された空隙部に充填され、掘進施工中(例えば、1〜4週間程度)は流動状態で推進機と地山との摩擦を低減する性能を有し、施工後は地山と同程度の強度に硬化して地山を保持する性能を発現するものである。削孔機と地山との摩擦を低減する性能を維持する期間は、遅延硬化材の添加量を調整することにより適宜変更可能である。
【0006】
また、特許文献4には、吸水性樹脂と、ベントナイトと、珪酸ソーダと、泥土とを混合した充填材が開示されている。この充填材は、削孔機の停止時に、チャンバー内に充填されて切羽を保持する性能を有し、再び削孔機が掘進する際には、充填材の粘性を低下するための解ゲル剤を注入して充填材を流動状態にして、吸引撤去されるものである。この充填材は、地山の地質に応じて水、泥土の添加量を変更して粘度を調整しながら用いられ、例えば、不透水性土層の場合には1000cP程度、砂礫層の場合には5000cP以上となるように調整して用いるものである。
【特許文献1】特開2006−96650号公報
【特許文献2】特開平7−331234号公報
【特許文献3】特開平7−82983号公報
【特許文献4】特開2005−220563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の充填材では、次のような問題点があった。(1)約1ヶ月程度は滑材としての性能を維持するために流動状態で地山を保持する性能を有していないので、推進施工中は地山が崩落する可能性がある。(2)充填された充填材が地下水に希釈されてしまい剤料の配合割合が変化し、滑材としての性能や裏込め材としての性能が低下してしまう可能性がある。(3)充填後にトラブル等で推進機が長期間停止すると、充填材には遅延硬化材が添加されているために、充填材が硬化して充填材と推進管とが一体化してしまい、推進機が推進できなくなる可能性がある。(4)推進施工中の充填材は地山を保持する性能を有していないので、線路、道路、ビル等の重要構造物の直下や低土被り区間等の数mmの沈下をも許容されない厳しい条件下では、安全面から推進工法を適用することができない。
【0008】
また、特許文献4に記載の充填材では、次のような問題点があった。(1)ゲル状態で変形可能であるために、上記(1)と同様に、地山を保持する性能を有していない。(2)地山の地質に応じて水、泥土の添加量を変更するとともに、調合された充填材の粘度を管理しなければならず、手間がかかる。(3)水、泥土の添加量の調整は困難であり、現場経験の豊富な人間しかできず、現場経験の少ない人間が添加量の調整をすることができない。(4)強い粘度を有しており、チャンバー内に残ると圧力計等の装置類に悪影響をおよぼすので、掘進を再開する場合にはすべての充填材をチャンバー内から完全に排出しなければならず、掘進を開始するまでに時間がかかる。(5)チャンバーから排出された充填材は地上で回収され、水分と樹脂分とに分離するために、分離装置等が必要となり、削孔機の設備投資が高くなる。
【0009】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、地山内に空間又は空隙を形成する際に地山を保持して安定化することが可能な地山の安定化方法及び安定化構造、並びにそれに用いる充填材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明の地山の安定化方法は、地山内に形成された空間又は空隙に充填材を充填して該地山を保持する地山の安定化方法において、前記空間内又は前記空隙内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、前記空間又は前記空隙に流動状態で注入し、冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持することを特徴とする(第1の発明)。
本発明による地山の安定化方法によれば、地山内の通常温度では固体状態となる充填材を地山内に形成された空間又は空隙に充填するため、固体状態の充填材は空間又は空隙から流出することが無く、地山を保持することが可能となる。したがって、地山の崩落を防止できるので、地表面が沈下することが無い。
【0011】
第2の発明の地山の安定化方法は、シールド機によりトンネルが掘削された地山を安定化するための安定化方法において、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、前記シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に流動状態で充填し、該充填材が冷却されて固体状態になり地山を保持することを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、トンネル内の通常温度では固体状態となる充填材をシールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填するために、固体状態の充填材は空隙部から流出することが無く、シールド機を長時間停止させても地山を確実に保持し、地山の空隙部での崩落を防止することが可能となる。
【0012】
第3の発明の地山の安定化方法は、発進立坑に設けた推進ジャッキにより推進機を押圧して地中を掘進させつつ、該推進機の後部に推進管を順次継ぎ足して地中管路を構築する推進工法によりトンネルを掘削する際に地山を安定化するための安定化方法において、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、前記推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に流動状態で充填する充填工程と、冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持する保持工程とを備えることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、推進工法にてトンネルを掘削する場合には、トンネル内の通常温度では固体状態となる充填材を推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填するため、固体状態の充填材は空隙部から流出することが無く、推進機を通過させても地山を確実に保持し、地山の空隙部での崩落を防止することが可能となる。
【0013】
第4の発明の地山の安定化方法は、地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機により掘削されるトンネルの地山を安定化するための安定化方法において、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、切羽と前記隔壁との間に流動状態で充填し、冷却されて固体状態となった前記充填材により前記切羽を保持することを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、トンネル内の通常温度では固体状態となる充填材を切羽と掘進機の隔壁との間に充填するために、固体状態の充填材は切羽と隔壁との間から流出することが無く、掘進機を長時間停止させても切羽を確実に保持し、切羽の崩落を防止することが可能となる。
【0014】
第5の発明は、第1〜4のいずれかの発明において、前記固体状態となった充填材で前記地山を保持した後、前記充填材を加熱して流動状態とすることにより固体状態での前記地山の保持を終えることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、充填材は地山を一時的に保持し、恒久的にコンクリート等で地山を保持する際には容易に除去が可能なので、効率的に地山内に空間又は空隙を形成することが可能となる。
【0015】
第6の発明は、第2の発明において、前記シールド機の推進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態とすることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、シールド機の推進時に充填材は流動状態であるために、シールド機の外周面と充填材との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。
【0016】
第7の発明は、第3の発明において、前記推進機の推進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態とすることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、推進機の推進時に充填材は流動状態であるために、推進機の外周面と充填材との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。
【0017】
第8の発明は、第4の発明において、前記掘進機の推進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態とすることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、掘進機の推進時に充填材は流動状態であるために、掘進機の外周面と充填材との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。
【0018】
第9の発明は、第2〜8のいずれかの発明において、地山の変状が許されない線路、道路等の重要構造物の存在する位置に、前記トンネルの削孔により地山の変状に影響を与えるトンネル区間でのみ前記充填材を充填して地山を安定化することを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、線路、道路等の重要構造物の存在する位置に、トンネルの削孔により地山の変状を与えるトンネル区間のみに、地山内の通常温度では固体状態となる充填材を空間に充填するため、高価な充填材の材料費を低減することが可能となる。
【0019】
第10の発明は、第1〜9のいずれかの発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、充填材として、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを単体で使用するため、従来の充填材のように複数の材料を混合する必要が無く、充填材の作成に手間がかからない。また、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルは、すべて生分解性を有しており、時間が経過すると水と空気に分解されるために、環境に悪影響を与えない。
【0020】
第11の発明は、第1〜9のいずれかの発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを含有することを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルは、すべて生分解性を有しており、時間が経過すると水と空気に分解されるために、環境に悪影響を与えない。また、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルが水と空気に分解して消失した場合にも、砂、スラグ、粘土等の粉粒体は地山と隔壁との間に存在するために、長期間にわたって地山を確実に保持することが可能となる。さらに、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と砂、スラグ、粘土等の粉粒体とを混合することにより、高価な高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステル等を含む添加材の量を少なくすることができるために、充填材の材料費を低減することが可能となる。
【0021】
第12の発明は、第11の発明において、前記充填材は、前記充填材に占める前記添加材の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように、前記添加材と前記粉粒体とを混合したものであることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材を地山の間隙率と同等となるように充填材に混合すると、粉粒体は充填材中に地山の土粒子と同程度の体積割合で含まれるために、生分解性を有するこれらの添加材が時間の経過により消失した場合にも、この粉粒体により地山と同程度の圧縮強度を有し、地山を保持することが可能となる。
【0022】
第13の発明は、第10又は11の発明において、前記高級アルコールは、ラウリルアルコールであることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、高級アルコールはラウリルアルコールであり、一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。
【0023】
第14の発明は、第10又は11の発明において、前記高級脂肪酸は、ラウリン酸であることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、高級脂肪酸はラウリン酸であり、一般的な原料であるために、原材料の入手が容易である。
【0024】
第15の発明は、第10又は11の発明において、前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸エステルであることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、脂肪酸エステルはステアリン酸エステルであり、一般的な原料であるために、原材料の入手が容易である。
【0025】
第16の発明は、第1〜15のいずれかの発明において、前記充填材は、加熱装置にて前記所定の温度以上に加熱されることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、充填材を加熱するための加熱装置を備えるために、充填材を加熱して流動状態にすることが可能となる。また、加熱装置を設置することにより、充填材を効率的に加熱することができるために、短時間で充填材を流動状態にすることが可能となる。
【0026】
第17の発明は、第1〜16のいずれかの発明において、前記充填材は、冷却装置にて前記所定の温度以下に冷却されることを特徴とする。
本発明による地山の安定化方法によれば、充填材を冷却するための冷却装置を備えるために、充填材を冷却して固体状態にすることが可能となる。また、冷却装置を設置することにより、充填材を効率的に冷却することができるために、短時間で充填材を固体状態にすることが可能となる。
【0027】
第18の発明の充填材は、地山に形成された空間又は空隙に充填されることにより、該地山を保持して安定化するための充填材であって、前記空間内又は前記空隙内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする。
【0028】
第19の発明の充填材は、シールド機によるトンネルの余堀掘削によって生じる空隙部に充填されて、該トンネルが掘削された地山を安定化するための充填材であって、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする。
【0029】
第20の発明の充填材は、推進工法でトンネルを掘削する際の推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填されて、該トンネルが掘削される際の地山を安定化するための充填材であって、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする。
【0030】
第21の発明の充填材は、地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機により掘削されるトンネルの切羽と該掘進機の隔壁との間に充填されて、地山を安定化するための充填材であって、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする。
【0031】
第22の発明は、第18〜21のいずれかの発明において、充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする。
【0032】
第23の発明は、第18〜21のいずれかの発明において、充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを、前記充填材に占める前記添加材の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように混合したものであることを特徴とする。
【0033】
第24の発明の地山の安定化構造は、空間又は空隙が形成された地山を保持して安定化するための地山の安定化構造であって、前記空間内又は前記空隙内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記空間又は前記空隙に充填されてなることを特徴とする。
【0034】
第25の発明の地山の安定化構造は、シールド機によりトンネルが掘削された地山を安定化するための安定化構造であって、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填されてなることを特徴とする。
【0035】
第26の発明の地山の安定化構造は、発進立坑に設けた推進ジャッキにより推進機を押圧して地中を掘進させつつ、該推進機の後部に推進管を順次継ぎ足して所定の地中管路を構築する推進工法によりトンネルが掘削される際の地山を安定化するための安定化構造であって、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填されてなることを特徴とする。
【0036】
第27の発明の地山の安定化構造は、地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機により掘削されるトンネルの地山を安定化するための安定化構造であって、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記切羽と前記掘進機の隔壁との間に充填されてなることを特徴とする。
【0037】
第28の発明の推進工法を用いたトンネルの構築方法は、発進立坑に設けた推進ジャッキにより推進機を押圧して地中を掘進させつつ、該推進機の後部に推進管を順次継ぎ足して所定の地中管路を構築する推進工法を用いたトンネルの構築方法において、前記推進機の停止時は、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に流動状態で充填して、冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持し、前記推進機の掘進再開時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態にすることを特徴とする。
【0038】
第29の発明のトンネルは、第28の発明の推進工法を用いたトンネルの構築方法により構築されたことを特徴とする。
【0039】
第30の発明の掘進機によるトンネルの構築方法は、地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機によるトンネルの構築方法において、前記掘進機の停止時には、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記切羽と前記隔壁との間に流動状態で充填して、冷却されて固体状態となった前記充填材により前記切羽を保持し、前記掘進機の掘進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態にすることを特徴とする。
【0040】
第31の発明のトンネルは、第30の発明の掘進機によるトンネルの構築方法により構築されたことを特徴とする。
【0041】
第32の発明の地山に空間を形成する方法は、地山に空間を形成する方法において、前記空間の形成時は、前記空間内の通常温度では固体状態であり、前記通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記空間に流動状態で充填して、冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持し、前記空間の形成再開時は、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態にすることを特徴とする。
【0042】
第33の発明の地山に空間を形成する方法は、地山に空間を形成する方法において、前記空間内の通常温度では固体状態であり、前記通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を筒状の中空管に充填し、前記中空管を前記地山内に挿入し、前記充填材を前記所定の温度以上に加熱して流動状態にし、前記流動状態の前記充填材を前記中空管から排出することを特徴とする。
【0043】
第34の発明は、第32又は33の発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする。
【0044】
第35の発明は、第32又は33の発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを含有することを特徴とする。
【0045】
第36の発明の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法は、被圧地下水を排水するための水抜き用井戸を既設の地中構造物内から地山内に構築する方法において、地山を掘削するためのビットを先端部に備えた集水用開口を有する中空管内に、通水可能な空隙部を有するフィルター材を充填し、前記地山内の通常温度では固体状態であり、前記通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記空隙部に充填し、前記中空管を前記地中構造物内から前記地山内に挿入して設置し、前記充填材を前記所定の温度以上に加熱して流動状態にし、前記中空管の集水用開口を介して作用する前記被圧地下水の水圧で前記流動状態の前記充填材を前記空隙部から排出することを特徴とする。
【0046】
第37の発明の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法は、被圧地下水を排水するための水抜き用井戸を既設の地中構造物内から地山内に構築する方法において、地山を掘削するためのビットを先端部に備えた集水用開口を有する中空管内に、掘削水を送水するための送水管を挿入して二重管を構成し、前記中空管の内周と前記送水管の外周との間に、通水可能な空隙部を有するフィルター材を充填し、前記地山内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記空隙部に充填し、前記二重管を前記地中構造物内から前記地山内に挿入して設置し、前記充填材を前記所定の温度以上に加熱して流動状態にし、前記中空管の集水用開口を介して作用する前記被圧地下水の水圧で前記流動状態の前記充填材を前記空隙部から排出することを特徴とする。
【0047】
第38の発明は、第36又は37の発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする。
【0048】
第39の発明は、第36又は37の発明において、前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを含有することを特徴とする。
【0049】
第40の発明は、第38又は39の発明において、前記高級アルコールは、ラウリルアルコールであることを特徴とする。
【0050】
第41の発明は、第38又は39の発明において、前記高級脂肪酸は、ラウリン酸であることを特徴とする。
【0051】
第42の発明は、第38又は39の発明において、前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸エステルであることを特徴とする。
【0052】
第43の発明の充填材は、被圧地下水を排水する水抜き用井戸を構築するための孔を既設の地中構造物内から削孔する際に、地山を掘削するためのビットを先端部に備えた集水用開口を有する中空管内に充填されて前記被圧地下水の噴出を防止するための充填材であって、前記地山内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする。
【0053】
第44の発明の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸は、被圧地下水を排水するために既設の地中構造物内から地山内に構築された水抜き用井戸であって、地山内に設置された集水用開口を有する中空管と、前記中空管内に充填され、通水可能な空隙部を有するフィルター材と、前記地山内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる性質を有し、前記空隙部に充填された充填材とから構成され、前記充填材が前記所定の温度以上に加熱されて流動状態になると、前記流動状態の前記充填材が前記中空管の集水用開口を介して作用する前記被圧地下水の水圧にて前記中空管から排出されるとともに、前記被圧地下水が前記空隙部を通過して排出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0054】
本発明の地山の安定化方法及び安定化構造、並びに充填材を用いることにより、地山に空間又は空隙を形成する際に地山を保持して安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明に係る地山の安定化方法及び安定化構造の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
本発明の第一〜第三実施形態においては、線路の下方をシールド機1にて掘削する場合について説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係るシールド機1にて線路3の下方に掘削されたトンネル7の縦断面図で、図2は、図1のA−A’矢視図である。なお、以下の図において、本発明の説明に不要な部分の図示は省略している。
【0056】
図1及び図2に示すように、シールド機1で地山13内にトンネル7を削孔する。このシールド機1の余堀掘削によるシールド機1の外周面と地山13との間の空隙部(請求項1の空間又は空隙に相当)9に充填材11が充填されている。
【0057】
充填材11は、高級アルコールのラウリルアルコール(例えば、カルコール2098(製品名、カルコール:登録商標、花王株式会社製))を含む添加材と砂や粘土を含む粉粒体とからなり、充填材11に占めるラウリルアルコールを含む添加材の体積割合が地山13の間隙率(例えば、一般的な砂層の場合約30〜60%程度)と同程度になるように混合する。ただし、この体積割合では充填材11の流動状態での流動性が低くなり空隙部9への充填作業が困難となる場合には、ラウリルアルコールの体積割合を充填作業が可能となる程度に多くしてもよい。
【0058】
そして、トンネル7内の通常温度である20℃前後では、ラウリルアルコール(本実施形態においては、カルコール2098)は固化しており、地山13と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有しているために、固体状態の充填材11は地山13を保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止する。
【0059】
また、トンネル7内が通常温度よりも高くなりラウリルアルコールの融点(本実施形態においては、カルコール2098の融点である23.5℃〜26.5℃)以上になるとラウリルアルコールが液化するために、充填材11は流動状態となる。このため、充填材11はシールド機1内にて上記融点以上で保温され、流動状態で空隙部9に充填される。
【0060】
次に、本発明の充填材11の充填方法について施工手順にしたがって説明する。本実施形態においては、地上を電車が走行しない夜間のみにトンネル7の掘削作業を行い、電車が走行する昼間は掘削作業を長時間停止する場合について説明する。なお、シールド機1の停止期間はこれに限定されるものではなく、例えば、お正月休み等の長期間停止させる場合にも本発明を適用することが可能である。
【0061】
図3は、本実施形態に係るシールド機1の側断面図である。図3に示すように、シールド機1は、地中を掘削するためのカッター15を備えたフード部17と、カッター15の駆動装置19、このカッター15により掘削された土砂を排出するための排土機構(図示しない)、及びシールド機1を前進させるための複数のシールドジャッキ21を備えたガーダ部23と、シールドジャッキ21によりガーダ部23と連結され、セグメント34を組み立てるためのエレクタ25を備えたテール部27とから構成されている。
【0062】
ガーダ部23及びテール部27は、シールド機1内部から空隙部9に充填材11を注入するための注入孔29と、一端が各注入孔29にそれぞれ接続される注入管31と、これらの注入管31の他端に接続され、各注入管31及び各注入孔29を介して空隙部9に充填材11を供給する注入装置33aと、各注入孔29付近に設けられ、空隙部9内の圧力を測定する圧力計(図示しない)とを備える。注入孔29はガーダ部23及びテール部27のそれぞれについて上下左右の4箇所に設けられる。
【0063】
注入装置33aは、充填材11を貯留するための温度調節器付きタンク37と、充填材11を温度調節器付きタンク37から注入管31へ送給するための充填材用注入ポンプ39とを備えている。
温度調節器付きタンク37の内部は、充填材11が流動状態に保持されるように、例えば、約26℃程度に設定されている。
各注入管31には開閉バルブ35が接続されており、各開閉バルブ35の開閉によりすべての注入孔29から充填材11を同時に注入したり、各注入孔29からそれぞれ注入したりすることができる。
【0064】
また、ガーダ部23及びテール部27の内周面には加熱装置である電熱線41が設けられている。電熱線41は、ガーダ部23及びテール部27の内周面に環状に貼付されており(図2)、電熱線41に通電することにより、シールド機1の外殻全体が温められる。
【0065】
図4は、本実施形態に係るシールド機1にて線路3の下方を掘削した状態を示すトンネル7の側断面図である。
【0066】
上記のように構成したシールド機1にてトンネル7を掘削すると、図4に示すように、カッター15による掘削径はシールド機1の径よりもやや大きいために、シールド機1の外周面と地山13との間にカッター15の余堀掘削による空隙部9が生じる。長時間にわたり掘削作業を停止する場合に、この空隙部9を放置するとシールド機1周辺の地山13が緩み、地山13が空隙部9で崩落する可能性があるために、空隙部9に充填材11を充填する。
【0067】
図5は、本実施形態に係る空隙部9に充填材11を充填した状態を示すトンネル7の側断面図である。図5に示すように、温度調節器付きタンク37内で流動状態に保温された充填材11を充填材用注入ポンプ39にて供給し、注入管31及び注入孔29を介して空隙部9に注入する。充填材11を注入する際は、注入圧を圧力計にて常時監視し、充填材用注入ポンプ39にて圧力を調整する。ガーダ部23及びテール部27に設けられた注入孔29からそれぞれ充填材11が空隙部9に注入されるために、シールド機1の全外周にわたって良好に充填材11の注入が行われる。
【0068】
充填材11を注入する際は、注入圧が土被り圧よりやや高めの圧力となるように圧力計にて確認しながら注入するとともに、地盤沈下計等(図示しない)の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜圧力を調整し、地山13の変形を防止する。また、充填材11の注入量も同様に、地盤沈下計等の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜調整する。
【0069】
空隙部9に充填された充填材11は、例えば、20℃程度の周囲の地山13により冷却されることによりラウリルアルコールが固化して、充填材11が固体状態となる。固体状態の充填材11は、空隙部9から流出することが無く、また、所定の一軸圧縮強度を有するために、地山13を保持し、空隙部9での崩落を防止する。
充填材11が固体状態になったことを確認した後にトンネル7内での作業を停止し、これにより地上での電車の走行が可能となる。
そして、最終電車が終了して、再び夜中に作業を開始する。掘進作業の開始時は、これに先だって電熱線41に通電し、シールド機1を介して充填材11を加熱する。
【0070】
図6は、本実施形態に係るシールド機1を介して充填材11を加熱した状態を示すトンネル7の側断面図であり、シールド機1の外周面近傍を拡大したものである。図6に示すように、シールド機1の内周面に設けられた電熱線41でシールド機1を介して充填材11を加熱すると、シールド機1の外周面に接する部分のラウリルアルコールから次第に液化し、ラウリルアルコールが液化した部分の充填材11が流動状態になる。シールド機1の外周面近傍の充填材11が流動状態になったらカッター15を回転させて掘進を開始する。シールド機1の外周面近傍の充填材11が流動状態であるために、シールド機1の外周面と充填材11との間に生じる摩擦抵抗が小さく、シールド機1はスムーズに推進する。シールド機1を推進させるためには、すべての充填材11を流動化する必要は無く、少なくともシールド機1の外周面と接する部分のみを流動化させればよい。
【0071】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、掘進作業を長時間停止する場合には、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材11をシールド機1の余堀掘削によって生じる空隙部9に充填するために、シールド機1を長時間停止させても地山13を確実に保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止することが可能となる。また、シールド機1の推進時に充填材11は流動状態であるために、充填材11とシールド機1の外周面との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。さらに、充填材11を空隙部9へ流動状態で充填するために、充填作業も容易となる。
【0072】
また、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、充填材11はラウリルアルコールと砂とからなり、このうちラウリルアルコールは生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、地山13中に残存せず、環境に負荷をかけない。さらに、ラウリルアルコールを地山13の間隙率と同程度となるように充填材11に混合すると、砂は充填材11中に地山13の土粒子と同程度の体積割合で含まれるために、生分解性を有するラウリルアルコールが時間の経過により消失した場合にも、砂により地山13と同程度の圧縮強度を有し、地山13を保持することが可能となる。そして、ラウリルアルコール及び砂は一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。また、ラウリルアルコールと砂とを混合することにより、ラウリルアルコールの量を少なくすることができるために、充填材11の材料費を低減することが可能となる。
【0073】
さらに、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、シールド機1は充填材11を加熱するための電熱線41を備えるために、充填材11を加熱して液化することが可能となる。また、シールド機1の内周面に電熱線41を設置することにより、充填材11を効率的に加熱することができるために、短時間で充填材11を液化することが可能となる。さらに、充填材11の融点がトンネル7内の通常温度約20℃よりも数度程度高い23.5℃〜26.5℃であるために、充填材11を加熱して液化するための電熱線41の設備が小規模でよく、設備投資を少なくすることが可能となる。
【0074】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。以下の説明において、第一実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0075】
第二実施形態におけるシールド機1は加熱装置と冷却装置とを備えたものである。
図7は、本発明の第二実施形態に係るシールド機1の側断面図である。図7に示すように、ガーダ部23及びテール部27の内周面には加熱及び冷却可能なペルチェ素子43が設けられている。ペルチェ素子43は、ガーダ部23及びテール部27の内周面に環状に貼付されており、ペルチェ素子43に流れる電流の向きを変えることにより、シールド機1の内周面に接するシールド機1側端面を加熱又は冷却するものである。
【0076】
上記のように構成したシールド機1にてトンネル7を掘削し、一日の掘進作業が終了して次の掘進作業開始まで、第一実施形態と同様に、空隙部9に充填材11を充填する。
【0077】
流動状態の充填材11を空隙部9に充填し、ペルチェ素子43のシールド機1側端面を冷却するように通電し、シールド機1本体を介して充填材11を冷却する。充填材11は、冷却されることにより、短時間で固体状態となり、地山13を保持する。
【0078】
次の掘進作業の開始時は、これに先だってシールド機1側端面を加熱するようにペルチェ素子43に通電し、シールド機1を介して充填材11を加熱する。シールド機1の外周面近傍の充填材11が流動状態になるとカッター15を回転させて掘進を開始する。
【0079】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材11をシールド機1の余堀掘削によって生じる空隙部9に充填するために、シールド機1を長時間停止させても地山13を確実に保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止することが可能となる。
【0080】
また、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、シールド機1は充填材11を加熱及び冷却可能なペルチェ素子43を備えるために、充填材11を容易に液化及び固化することが可能となる。そして、シールド機1の内周面にペルチェ素子43を設置することにより、充填材11を効率的に加熱又は冷却することができるために、短時間で充填材11を流動状態又は固体状態にすることが可能となる。
【0081】
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。第三実施形態における充填材45は、高級脂肪酸のラウリン酸からなるものである。
【0082】
図8は、本発明の第三実施形態に係る空隙部9に充填材45を充填した状態を示す側断面図である。第一及び第二実施形態と同様に、シールド機1の余堀掘削によって生じた空隙部9に高級脂肪酸のラウリン酸(例えば、ルナックL−70(製品名、ルナック:登録商標、花王株式会社製))を含む添加材と砂や粘土を含む粉粒体とからなる充填材45を充填する。
【0083】
トンネル7内の通常温度である20℃前後では、ラウリン酸は固化しており、地山13と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有しているために、固体状態の充填材45は地山13を保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止する。
【0084】
また、トンネル7内が通常温度よりも高くなりラウリン酸の融点(本実施形態においては、ルナックL−70の融点である32℃〜36℃)以上になるとラウリン酸が液化するために、充填材45は流動状態となる。このため、充填材45はシールド機1内にて上記融点以上で保温され、流動状態で空隙部9に充填される。
【0085】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材45をシールド機1の余堀掘削によって生じる空隙部9に充填するために、シールド機1を長時間停止させても地山13を確実に保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止することが可能となる。
【0086】
また、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、ラウリン酸は生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、地山13中に残存せず、環境に負荷をかけない。そして、一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。
【0087】
次に、本発明の第四〜第六の実施形態について説明する。
本発明の第四〜第六実施形態においては、線路3の下方を推進工法にて掘削する場合について説明する。
【0088】
図9は、本発明の第四実施形態に係る推進機2aにて線路3の下方に掘削されたトンネル7の縦断面図で、図10は、図9のB−B’矢視図である。
図9及び図10に示すように、推進機2aの余堀掘削によって推進機2a及び推進管16aと地山13との間に生じた空隙部9に充填材11が充填されている。
【0089】
トンネル7内の通常温度である20℃前後では、ラウリルアルコール(本実施形態においては、カルコール2098)は固体状態で、地山13と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有しているために、固体状態の充填材11は地山13を保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止する。
【0090】
次に、本実施形態に係る充填材11の充填方法について施工手順にしたがって説明する。上述した各実施形態と同様に、本実施形態においても、地上を電車が走行しない夜間のみにトンネル7の掘削作業を行い、電車が走行する昼間は掘削作業を停止する場合について説明する。
【0091】
図11は、本実施形態に係る推進設備4の概略全体図である。図11に示すように、トンネル7は、発進立坑5内に設けた推進ジャッキ6により推進機2aを押圧して地山13を掘進させつつ、この推進機2aの後部に推進管16aを順次継ぎ足して所定の地中管路を構築する推進工法により掘削される。
【0092】
推進機2aは、切羽対向面に回転するとともに地山13を掘削するカッター15と、掘削土砂に一定の圧力を与えてこれを保持するための隔壁18と、泥水をチャンバー22内に送給するための泥水管36と、掘削土砂をチャンバー22内から排出するための排泥管42と、チャンバー22内の掘削土砂を撹拌、混練するためのアジテータ28aと、チャンバー22内の圧力を測定する圧力計(図示しない)等を備える。
【0093】
推進管16aは、推進管16a内部から空隙部9に充填材11を注入するための注入孔29と、注入孔29付近に設けられ、空隙部9内の圧力を測定する圧力計(図示しない)と、加熱装置である電熱線41とを備える。注入孔29は推進管16aの上方部に複数設けられている。また、電熱線41は、推進管16aの内周面に環状に貼付されており(図10参照)、電熱線41に通電することにより、推進管16aの外殻全体が温められる。
【0094】
一方、地上には、充填材11を製造・供給するための注入装置33bが設けられている。注入装置33bは、ラウリルアルコールを含む添加材と粉粒体とを混合して貯留するとともに温度管理を行うための温度調節器付きタンク37と、この充填材11を空隙部9に送給するための充填材用注入ポンプ39と、充填材用注入ポンプ39と注入孔29とを接続する注入管31とから構成される。
温度調節器付きタンク37の内部は、充填材11が流動状態に保持されるように、例えば、約26℃程度に設定されている。
【0095】
図12は、本実施形態に係る推進機2aにて地山13を掘削した状態を示すトンネル7の側断面図で、図13は、本実施形態に係る空隙部9に充填材11を充填した状態を示すトンネル7の側断面図である。
図12に示すように、上記のように構成した推進機2aにてトンネル7を掘削すると、カッター15による掘削径は推進機2aの径よりもやや大きいために、推進機2aの外周面と地山13との間にカッター15の余堀掘削による空隙部9が生じる。この空隙部9を放置すると推進機2a周辺の地山13が緩み、地山13が空隙部9で崩落する可能性があるために、所定の距離だけ掘進すると掘進作業を停止し、空隙部9に充填材11を充填する。
【0096】
温度調節器付きタンク37内で流動状態に保温された充填材11を充填材用注入ポンプ39にて注入管31及び注入孔29を介して供給し、図13に示すように、空隙部9に注入する。複数の注入孔29からそれぞれ充填材11が空隙部9に注入されるために、推進機2a及び推進管16aの全外周にわたって良好に充填材11の注入が行われる。
【0097】
充填材11を注入する際は、注入圧が切羽圧力よりやや高めの圧力となるように圧力計にて確認しながら注入するとともに、地盤沈下計等(図示しない)の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜圧力を調整し、地山13の変形を防止する。また、充填材11の注入量も同様に、地盤沈下計等の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜調整する。
【0098】
空隙部9内に充填された充填材11は、例えば、20℃程度の周囲の地山13により冷却されることによりラウリルアルコールが固化して、充填材11が固体状態となる。固体状態の充填材11は、空隙部9から流出することが無く、また、所定の一軸圧縮強度を有するために、地山13を保持し、空隙部9での崩落を防止する。
充填材11が固体状態になったことを確認した後にトンネル7内での作業を停止し、これにより地上での電車の走行が可能となる。
【0099】
そして、夜になって最終電車が終了すると、新たな推進管16aを地山13に埋設された推進管16aの後部に接続し、再び掘進作業を開始する。掘進作業の開始時は、これに先だって電熱線41に通電し、推進管16aを介して充填材11を加熱する。
【0100】
図14は、本実施形態に係る推進管16aを介して充填材11を加熱した状態を示すトンネル7の側断面図であり、推進管16aの外周面近傍を拡大したものである。
図14に示すように、推進管16aの内周面に設けられた電熱線41で推進管16aを介して充填材11を加熱すると、推進管16aの外周面に接する部分のラウリルアルコールから次第に液化し、ラウリルアルコールが液化した部分の充填材11が流動状態になる。推進管16aの外周面近傍の充填材11が流動状態になったらカッター15を回転させるとともに推進機2aを押圧して推進させ、掘進を開始する。推進管16aの外周面近傍の充填材11が流動状態であるために、推進管16aの外周面と充填材11との間に生じる摩擦抵抗が小さく、推進管16aはスムーズに推進する。推進管16aを推進させるためには、すべての充填材11を流動状態にする必要は無く、少なくとも推進管16aの外周面と接する部分のみを流動状態にすればよい。そして、掘進作業中は電熱線41による加熱を停止する。
【0101】
図15は、本実施形態に係る推進時おける空隙部9の充填材11の状態を示す図である。図15に示すように、電熱線41による加熱を停止すると充填材11は固体状態になるものの、推進機2aは推進しているので、充填材11は、推進管16aの外周面に固着して推進管16aとともに推進する部分11aと地山13に固着して推進管16aが推進しても動かない部分11bとに分離され、これらの接触する面には滑り面が形成される。この滑り面は、充填材11同士が接触しているだけなので、摩擦抵抗は小さく、推進管16aはスムーズに推進することができる。
【0102】
そして、所定の距離だけ掘進すると、上述したように、掘進作業を停止し、新たに形成された空隙部9に充填材11を充填して地山13を保持する。再び推進機2aを推進させる際には、新たに充填材11を充填した空隙部9に位置する推進管16aのみを電熱線41で加熱して推進管16aの外周面に接する部分の充填材11を流動状態にする。以前に充填した空隙部9には上記滑り面がすでに形成されているので、以前に充填した空隙部9を加熱する必要は無い。したがって、本実施形態においては、常に掘進機に接続された推進管16aのみを加熱して、新たに充填された充填材11のみを流動状態にすればよい。
【0103】
上述したように、発進立坑5に設けた推進ジャッキ6により推進管16aを押圧することにより推進機2aを掘進させ、この掘進により生じた空隙部9に充填材11を充填し、推進管16aの後部に新たな推進管16aを継ぎ足し、新たに形成された空隙部9に充填した充填材11を流動状態にして、再び推進機2aを掘進させるという一連の作業を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返し、図16、図17に示すように、トンネル7を掘削する。
【0104】
そして、推進機2aが図示しない到達立坑に到達し、目的の区間に推進管16aが埋設された後に推進機2a及び推進ジャッキ6を撤去すると工事が完了する。
【0105】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、線路3、道路、ビル等の重要構造物の下方を推進工法にてトンネル7を掘削する場合には、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材11を推進機2aの余堀掘削によって生じる空隙部9に充填するために、推進機2aを通過させても地山13を確実に保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止することが可能となる。また、推進機2aの推進時に充填材11は流動状態であるために、充填材11と推進機2aの外周面との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。さらに、充填材11を空隙部9へ流動状態で充填するために、充填作業も容易となる。
【0106】
また、充填材11はラウリルアルコールを含む添加材と砂や粘土とを含み、このうちラウリルアルコールは生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、地山13中に残存せず、環境に悪影響を与えない。さらに、ラウリルアルコールを含む添加材を地山13の間隙率と同程度となるように充填材11に混合すると、砂や粘土は充填材11中に地山13の土粒子と同程度の体積割合で含まれるために、生分解性を有するラウリルアルコールが時間の経過により消失した場合にも、砂や粘土により地山13と同程度の圧縮強度を有し、地山13を保持することが可能となる。そして、ラウリルアルコール及び砂や粘土は一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。また、ラウリルアルコールを含む添加材と砂や粘土とを混合することにより、ラウリルアルコールを含む添加材の量を少なくすることができるために、充填材11の材料費を低減することが可能となる。
【0107】
さらに、推進管16aは充填材11を加熱するための電熱線41を備えるために、充填材11を加熱して流動状態にすることが可能となる。また、推進管16aの内周面に電熱線41を設置することにより、充填材11を効率的に加熱することができるために、短時間で充填材11を流動状態にすることが可能となる。さらに、充填材11の融点がトンネル7内の通常温度約20℃よりも数度程度高い23.5℃〜26.5℃であるために、充填材11を加熱して流動状態にするための電熱線41の設備が小規模でよく、設備投資を少なくすることが可能となる。
【0108】
次に、本発明の第五の実施形態について説明する。主に、充填材11の充填方法について施工手順にしたがって説明する。
本発明の第五実施形態は、掘削するトンネル7から線路3までの距離が近く、トンネル7を掘削すると線路3の沈下等の悪影響をおよぼす線路3直下等のトンネル区間の空隙部9には充填材11を充填する、一方、掘削するトンネル7から線路3までの距離が十分に離れており、トンネル7を掘削しても線路3の沈下等の悪影響をおよぼさないトンネル区間の空隙部9には滑材12を充填するものである。つまり、地表面沈下等の地山13の変状が許されない線路3の存在する位置にトンネル7の掘削により地山13の変状の影響を与えるトンネル区間にのみ充填材11を充填するものである。
【0109】
図18は、本発明の第五実施形態に係る推進設備32の概略全体図である。図18に示すように、地上には充填材11及び滑材12を製造・供給するための注入装置33cが設けられている。注入装置33cは、温度調節器付きタンク37と、充填材用注入ポンプ39と、滑材12を製造及び貯留するための滑材用タンク38と、この滑材12を空隙部9に送給するための滑材用注入ポンプ40と、一端は注入孔29に、他端は分配されて各注入ポンプ38、40に接続される注入管31とから構成される。注入管31には開閉バルブ35が接続されており、開閉バルブ35の開閉により充填材11又は滑材12の注入を切り替えることができる。ただし、充填材11を注入するための注入管と滑材12を注入するための注入管とを別系統として設け、充填材11及び滑材12をそれぞれ別の注入管で注入してもよい。
推進機2aにてトンネル7を掘削すると、第四実施形態と同様に、空隙部9が形成される。
【0110】
図19は、本実施形態に係る線路3からの距離が十分に離れたトンネル区間の空隙部9に滑材12を充填した状態を示すトンネル7の側断面図である。
図19に示すように、線路3からの距離が十分に離れており、トンネル7を掘削しても線路3の沈下等の悪影響をおよぼさないトンネル区間Nの空隙部9には、滑材12を充填する。
【0111】
滑材12は、滑材用注入ポンプ40で注入管31及び注入孔29を介して空隙部9に注入される。複数の注入孔29からそれぞれ滑材12が空隙部9に注入されるために、推進機2aの全外周にわたって良好に滑材12の注入が行われる。
滑材12を注入する際は、第四実施形態の充填材11を充填する際と同様に、注入圧及び地盤沈下計等を用いて地山13の変形を防止する。
トンネル7を掘削しても、線路3の沈下等の悪影響をおよぼさないトンネル区間Nにおいて、掘進及び滑材12の充填を繰り返し、トンネル7を構築する。
【0112】
図20は、本実施形態に係る線路3直下付近のトンネル区間Lの空隙部9に充填材11を充填した状態を示すトンネル7の側断面図である。
図20に示すように、線路3からの距離が近く、トンネル7を掘削すると線路3の沈下等の悪影響をおよぼす線路3直下等のトンネル区間Lの空隙部9には充填材11を充填する。なお、本実施形態においては、沈下等の悪影響を線路3におよぼす区間として、線路3直下付近としたが、これに限定されるものではなく、線路3に悪影響をおよぼす区間及びおよぼさない区間は設計時の解析等により予め設定され、各現場条件により適宜設定される。
【0113】
例えば、線路3直下付近の空隙部9には、滑材12の充填を中止し、第四実施形態と同様に、温度調節器付きタンク37内で流動状態に保温された充填材11を充填材用注入ポンプ39にて供給し、注入管31及び注入孔29を介して空隙部9に注入する。空隙部9内に充填された充填材11は、直ちに固体状態となり、地山13を保持し、空隙部9での崩落を防止する。
【0114】
そして、掘進作業の開始時は、新たに充填材11を充填した空隙部9に位置する推進管16aのみを電熱線41で加熱して、推進管16aの外周面に接する部分の充填材11を流動化させて、推進機2a及び推進管16aを推進させる。
【0115】
それから、掘進及び充填材11の充填を繰り返し、線路3に悪影響をおよぼさないトンネル区間Nになると、図21に示すように、空隙部9への充填を充填材11から滑材12に変更し、上述した滑材12の注入方法で再び滑材12の充填を行うとともに、掘進を行う。
【0116】
上述したように、発進立坑5に設けた推進ジャッキ6により推進管16aを押圧することにより推進機2aを掘進させ、線路3からの距離が近く、トンネル7を掘削すると線路3の沈下等の悪影響をおよぼす線路3直下等のトンネル区間Lの空隙部9には充填材11を充填し、一方、線路3からの距離が十分に離れており、トンネル7を掘削しても線路3の沈下等の悪影響をおよぼさないトンネル区間Nの空隙部9には滑材12を充填し、それから、推進管16aの後部に新たな推進管16aを継ぎ足し、空隙部9に充填した充填材11が存在する場合はこの充填材11を流動状態にして、再び推進機2aを掘進させるという一連の作業を1サイクルとし、このサイクルを推進機2aが到達立坑に到達するまで複数回繰り返して、所定の地中管路を構築する。
【0117】
そして、推進機2aが図示しない到達立坑に到達したら、推進管16aの外周に裏込め材としてモルタルを注入し、空隙部9に充填されている滑材12と置換して推進管16aを地山13に固定すれば、工事が完了する。
【0118】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、線路3からの距離が近く、トンネル7を掘削すると線路3の沈下等の悪影響をおよぼす線路3直下等のトンネル区間Lの空隙部9には充填材11を充填する、一方、線路3からの距離が十分に離れており、トンネル7を掘削しても線路3の沈下等の悪影響をおよぼさないトンネル区間Nの空隙部9には滑材12を充填するために、高価な充填材11の材料費を低減することが可能となる。
【0119】
なお、上述した第四及び第五実施形態においては、注入装置33b、33cを地上に設置する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、トンネル7内に設置してもよい。
【0120】
また、上述した第四及び第五実施形態においては、推進機2aの推進再開時に、新たに形成された空隙部9に充填された充填材11のみを流動状態にする方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、すべての推進管16aに電熱線41を取り付けて、空隙部9に充填されたすべての充填材11を加熱して流動状態にしてもよい。
【0121】
次に、本発明の第六の実施形態について説明する。第六実施形態における推進管16aは加熱装置及び冷却装置を備えたものである。
【0122】
図22は、本発明の第六実施形態に係る推進管16aの側断面図である。図22に示すように、推進管16aの内周面には加熱及び冷却可能なペルチェ素子43が設けられている。ペルチェ素子43は、推進管16aの内周面に環状に貼付されており、ペルチェ素子43に流れる電流の向きを変えることにより、推進管16aの内周面に接する推進管16a側端面を加熱又は冷却するものである。
【0123】
第四及び第五実施形態と同様に、推進機2aにてトンネル7を掘削し、空隙部9に充填材11を充填する。
充填材11を充填後、ペルチェ素子43の推進管16a側端面を冷却するように通電し、推進管16a本体を介して充填材11を冷却する。充填材11は、冷却されることにより、短時間で固体状態となり、地山13を保持する。
【0124】
そして、掘進作業の開始時は、これに先だって推進管16a側端面を加熱するようにペルチェ素子43に通電し、推進管16aを介して充填材11を加熱する。推進管16aの外周面近傍の充填材11が流動状態になるとカッター15を回転させて掘進を開始する。
【0125】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材11を空隙部9に充填するために、推進機2aを推進させても地山13を確実に保持し、地山13の空隙部9での崩落を防止することが可能となる。
【0126】
また、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、推進機2a及び推進管16aは充填材11を加熱及び冷却可能なペルチェ素子43を備えるために、充填材11を容易に流動状態及び固体状態にすることが可能となる。そして、推進機2a及び推進管16aの内周面にペルチェ素子43を設置することにより、充填材11を効率的に加熱又は冷却することができるために、短時間で充填材11を流動状態又は固体状態にすることが可能となる。
【0127】
なお、上述した各実施形態において、直線状にトンネル7を掘削する際の空隙部9に充填材11や充填材45を充填する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、進行方向に対して上下方向又は左右方向に曲線状に推進する際に、それぞれ縦方向又は横方向に大きく余堀掘削を行う場合にも適用することが可能である。
【0128】
次に、本発明の第七及び第八の実施形態について説明する。
本発明の第七及び第八実施形態においては、線路3の下方に地下構造物を構築する際に使用される推進工法の一つであるパイプルーフ工法でオーガータイプの掘進機を用いて地山13を掘削する場合について説明するが、この工法及び掘進機に限定されるものではなく、推進工法全般に適用可能であり、また、この推進工法に用いられる一般的な掘進機に適用可能である。
【0129】
図23は、本発明の第七実施形態に係る推進機2bにて線路3の下方に掘削されたトンネル7の縦断面図であり、図24は、図23のC−C’矢視図である。
図23及び図24に示すように、推進機2bの進入によって、地山13内にトンネル7が形成される。この推進機2bの進入によって緩んだ地山13の土粒子間の間隙(請求項1の空間又は空隙に相当)44に充填材30が充填されている。本実施形態においては、充填材30は、ラウリルアルコール(例えば、カルコール2098)を含む添加材のみからなるものを用いた。
【0130】
トンネル7内の通常温度である20℃前後では、ラウリルアルコール(本実施形態においては、カルコール2098の融点は23.5℃〜26.5℃)は固体状態で、地山13と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有しているために、固体状態の充填材30は地山13を保持し、地山13の崩落を防止する。
【0131】
また、トンネル7内が通常温度よりも高くなりラウリルアルコールの融点以上になるとラウリルアルコールが液化するために、充填材30は流動状態となる。そこで、充填材30は上記融点以上で保温され、流動状態で間隙44に充填される。
【0132】
次に、本実施形態に係る充填材30の充填方法について施工手順にしたがって説明する。上述した各実施形態と同様に、本実施形態においても、地上を電車が走行しない夜間のみにトンネル7の掘削作業を行い、電車が走行する昼間は掘削作業を停止する場合について説明する。
【0133】
図25は、本実施形態に係る推進設備4の概略全体図である。図25に示すように、トンネル7は、発進立坑5内に設けた推進ジャッキ6により推進機2bを押圧して地山13内を掘進させつつ、この推進機2bの後部に推進管16bを順次継ぎ足して所定の地中管路を構築する推進工法により掘削される。
【0134】
推進機2bは、切羽対向面に回転するとともに地山13を掘削するカッター15と、カッター15で掘削した掘削土砂を後方へ排出するためのスクリュー46と、これらの装置を内包するための筒状の推進管16bとから構成される。
【0135】
推進管16bは、間隙44に充填材30を注入するための注入孔29と、一端が充填材用注入ポンプ39(後述する)に、他端が注入孔29に接続され、充填材30を注入孔29に送給するための注入管31と、注入孔29付近に設けられ、間隙44内の圧力を測定する圧力計(図示しない)と、加熱装置である電熱線41とを備える。注入孔29は、推進管16bの上方部及び下方部に複数設けられている。また、注入管31は、掘削土砂の排出を妨げないように、推進管16b内に埋め込まれている。そして、電熱線41は、推進管16bの内周面に貼付されており(図24参照)、電熱線41に通電することにより、推進管16bの外殻全体が温められる。
【0136】
一方、地上には、充填材30を製造・供給するための注入装置33dが設けられている。注入装置33dは、充填材30を貯留するとともに温度管理を行うための温度調節器付きタンク37と、この充填材30を注入管31及び注入孔29を介して間隙44に供給するための充填材用注入ポンプ39とから構成される。
温度調節器付きタンク37の内部は、充填材30が流動状態に維持されるように、例えば、約26℃程度に設定されている。
【0137】
上記のように構成した推進機2bにてトンネル7を掘削するとともに、推進機2bを推進ジャッキ6の押圧にて推進させると、推進管16bの周囲の地山13が緩んで土粒子内に間隙44が生じたり、従来より存在していた間隙44が大きくなる。この間隙44を放置すると地山13の緩みが進行し、地山13が崩落して地表面が沈下する可能性があるので、所定の距離だけ掘進すると掘進作業を停止し、間隙44に充填材30を充填する。
【0138】
図26は、間隙44に充填材30を充填した状態を示すトンネル7の側断面図であり、推進管16bの外周面近傍を拡大したものである。
図26に示すように、流動状態に保温された充填材30を注入管31から注入孔29を介して間隙44に注入する。このとき、複数の注入孔29からそれぞれ充填材30が間隙44に注入されるために、推進管16bの全外周にわたって良好に充填材30の注入が行われる。
【0139】
充填材30を注入する際は、注入圧が、予め設計等により決定された所定の圧力となるように圧力計にて確認しながら注入するとともに、地山沈下計等(図示しない)の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜圧力を調整し、地山13の変形を防止する。また、充填材30の注入量も同様に、地山沈下計等の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜調整する。
【0140】
間隙44内に充填された充填材30は、例えば、20℃程度の周囲の地山13により冷却されることにより固化して、固体状態となる。固体状態の充填材30は、間隙44から流出することが無く、また、地山13と同等の一軸圧縮強度を有するために、地山13を保持することができる。
充填材30が固体状態になったことを確認した後に、作業を中止し、これにより地上での電車の走行が可能となる。
【0141】
そして、夜になって最終電車が終了すると、新たな推進管16bを地山13に埋設された推進管16bの後部に接続し、再び掘進作業を開始する。掘進作業の開始時は、これに先だって電熱線41に通電し、推進管16bを介して充填材30を加熱する。
【0142】
図27は、充填材30を加熱した状態を示すトンネル7の側断面図であり、推進管16bの外周面近傍を拡大したものである。
図27に示すように、推進管16bの内周面に設けられた電熱線41で、推進管16bを介して充填材30を加熱すると、推進管16bの外周面に接する部分の充填材30から次第に液化し、流動状態になる。推進管16bの外周面近傍の充填材30が流動状態になったらカッター15を回転させるとともに推進機2bを押圧して推進させ、掘進を開始する。推進管16bの外周面近傍の充填材30が流動状態であるために、推進管16bの外周面と充填材30との間に生じる摩擦抵抗が小さく、推進管16bはスムーズに推進する。推進管16bを推進させるためには、すべての充填材30を流動状態にする必要は無く、少なくとも推進管16bの外周面と接する部分のみを流動状態にすればよい。そして、掘進作業中は電熱線41による加熱を停止する。
【0143】
図28は、本実施形態における推進時の充填材30の状態を示す図である。
図28に示すように、電熱線41による加熱を停止すると充填材30の温度が低下して、やがて固体状態になるものの、推進機2bは推進しているので、充填材30は、推進管16bの外周面に固着して推進管とともに推進する部分11aと地山13に固着して推進管16bが推進しても動かない部分11bとに分離され、これらの接触する面には滑り面が形成される。この滑り面は、充填材30同士の接触面であるため、摩擦抵抗は小さく、推進管16bはスムーズに推進することができる。
【0144】
そして、所定の距離だけ掘進すると、上述したように、掘進作業を停止し、新たに形成された間隙44に充填材30を充填して地山13を保持する。再び推進機2bを推進させる際には、新たに充填材30を充填した間隙44に位置する推進管16bのみを電熱線41で加熱して推進管16bの外周面に接する部分の充填材30を流動状態にする。以前に充填した間隙44には上記滑り面がすでに形成されているので、以前に充填した間隙44を加熱する必要は無い。
【0145】
上述したように、発進立坑5に設けた推進ジャッキ6により推進管16bを押圧することにより推進機2bを掘進させ、この掘進により生じた間隙44に充填材30を充填し、推進管16bの後部に新たな推進管16bを継ぎ足し、新たに形成された間隙44に充填した充填材30を流動状態にして、再び推進機2bを掘進させるという一連の作業を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返し、図29、図30に示すように、トンネル7を掘削する。
【0146】
そして、推進機2bが図示しない到達立坑に到達し、目的の区間に推進管16bが埋設された後に推進機2b及び推進ジャッキ6を撤去すると工事が完了する。
【0147】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、線路3、道路、ビル等の重要構造物の下方をパイプルーフ工法にてトンネル7を掘削する場合には、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材30を推進機2bの進入によって緩んだ地山13の土粒子間の間隙44に充填するために、地山13が保持されて地山13の崩落を防止する。したがって、推進機2bを通過させても、地表面の沈下を防止することが可能となる。また、推進機2bの推進時に充填材30は流動状態であるために、充填材30と推進管16bの外周面との摩擦抵抗が小さくなり、容易に推進することが可能となる。さらに、充填材30を間隙44へ流動状態で充填するために、充填作業も容易となる。
【0148】
また、充填材30のラウリルアルコールは生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、地山13中に残存せず、環境に悪影響を与えない。そして、ラウリルアルコール及び砂や粘土は一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。
【0149】
さらに、推進管16bは充填材30を加熱するための電熱線41を備えるために、充填材30を加熱して流動状態にすることが可能となる。また、推進管16bの内周面に電熱線41を設置することにより、充填材30を効率的に加熱することができるために、短時間で充填材30を流動状態にすることが可能となる。さらに、充填材30の融点がトンネル7内の通常温度約20℃よりも数度程度高い23.5℃〜26.5℃であるために、充填材30を加熱して流動状態にするための電熱線41の設備が小規模でよく、設備投資を少なくすることが可能となる。
【0150】
また、本実施形態においては、推進機2bの推進再開時に、新たに形成された間隙44に充填された充填材30のみを流動状態にする方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、すべての推進管16bに電熱線41を取り付けて、間隙44に充填されたすべての充填材30を加熱して流動状態にしてもよい。
【0151】
次に、本発明の第八実施形態に係る充填材30の充填方法について施工手順にしたがって説明する。第八実施形態における推進管16bは加熱装置及び冷却装置を備えたものである。
【0152】
図31は、本発明の第八実施形態に係る推進管16bによる推進状態を示すトンネル7の側断面図である。図31に示すように、推進管16bの内周面には加熱及び冷却可能なペルチェ素子43が設けられている。ペルチェ素子43は、推進管16bの内周面に貼付されており、ペルチェ素子43に流れる電流の向きを変えることにより、推進管16bの内周面に接する接触面43cを加熱又は冷却するものである。
【0153】
第七実施形態と同様に、推進機2bにてトンネル7を掘削し、間隙44に充填材30を充填する。
充填材30を充填後、ペルチェ素子43の接触面43cを冷却するように通電し、推進管16b本体を介して充填材30を冷却する。充填材30は、冷却されることにより、短時間で固体状態となり、地山13が保持される。
【0154】
そして、掘進作業の開始時は、これに先だって接触面43cを加熱するようにペルチェ素子43に通電し、推進管16bを介して充填材30を加熱する。推進管16bの外周面近傍の充填材30が流動状態になるとカッター15を回転させて掘進を開始する。
【0155】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態である充填材30を間隙44に充填するために、地山13が保持されて地山13の崩落を防止する。したがって、推進機2bを推進させても、地表面の沈下を防止することが可能となる。
【0156】
また、推進管16bは充填材30を加熱及び冷却可能なペルチェ素子43を備えるために、充填材30を容易に流動状態及び固体状態にすることが可能となる。そして、推進管16bの内周面にペルチェ素子43を設置することにより、充填材30を効率的に加熱又は冷却することができるために、短時間で充填材30を流動状態又は固体状態にすることが可能となる。
【0157】
なお、上述した第七及び第八実施形態においては、添加材として高級アルコールのラウリルアルコールを用いる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、上述した高級脂肪酸のラウリン酸、脂肪酸エステルのステアリン酸エステル等を用いてもよい。
【0158】
また、上述した第七及び第八実施形態においては、充填材30としてラウリルアルコールを含む添加材のみからなるものを用いる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、添加材に砂や粘土等の粉粒体を添加してもよい。
【0159】
なお、上述した各実施形態においては、注入孔29は、ガーダ部23及びテール部27のそれぞれの上下左右の4箇所に、推進管16aの上方に、推進管16bの上方及び下方にそれぞれ設けた場合について説明したが、この数及び設置位置に限定されるものではなく、トンネル7の断面規模に応じて注入孔29の数及び位置は適宜変更することが可能である。
【0160】
次に、本発明の第九〜第十二の実施形態について説明する。
本発明の第九〜第十二実施形態においては、線路3の下方をシールド機1にて掘削する場合について説明するが、これに限定されるものではなく、シールド工法や推進工法により掘削されるトンネル全般に適用可能である。
【0161】
図32は、本発明の第九実施形態に係る土圧式シールド機1aにて線路3の下方に掘削されたトンネル7の縦断面図である。
図32に示すように、土圧式シールド機1a前方の切羽47とカッター15の前面との間及びカッター15の後面と隔壁18との間(つまり、切羽47と隔壁18との間)に充填材11が充填されている。
【0162】
トンネル7内の通常温度である20℃前後では、ラウリルアルコール(本実施形態においては、カルコール2098)は固体状態で、地山13と同程度の一軸圧縮強度を有しているために、固体状態の充填材11は切羽47を確実に保持し、切羽47の崩落を防止する。
【0163】
また、充填材11は土圧式シールド機1a内にて上記融点以上で保温され、流動状態で切羽47と隔壁18との間に充填される。
【0164】
図33は、本実施形態に係る土圧式シールド機1aの前部拡大図で、図34は、図33のD−D’部分を示す斜視図である。図33及び図34に示すように、土圧式シールド機1aは、地山13を掘削するためのカッター15と、カッター15を駆動するための駆動装置49と、駆動装置49の駆動力をカッター15に伝達する回転軸20と、掘削土砂に一定の圧力を与えてこれを保持するための隔壁18と、掘削土砂を隔壁18とカッター15との間に形成されるチャンバー22内から排出するための排土機構24と、チャンバー22内の掘削土砂や充填材11を撹拌、混練するための撹拌装置26と、掘削土砂と充填材11との混練効果を高めるための固定翼8と、切羽47と隔壁18との間に充填材11を供給する注入装置33a(図32参照)と、隔壁18の前面に設けられ、チャンバー22内の圧力を測定する圧力計(図示しない)等を備える。
【0165】
カッター15は、切羽47とカッター15の前面との間に充填材11を注入するための複数の注入孔29aと、一端が各注入孔29aに接続され、他端が注入装置33aに接続される注入管31aとを備える。この注入管31aは、カッター15本体内に設置され、回転軸20内を挿通するように配設されている。
【0166】
隔壁18は、チャンバー22内に充填材11を注入するための複数の注入孔29bと、一端が各注入孔29bに、他端が注入装置33aに接続される注入管31bとを備える。
【0167】
注入装置33a(図32参照)は、充填材11を貯留するための温度調節器付きタンク37と、充填材11を温度調節器付きタンク37から注入管31a、31bへ送給するための充填材用注入ポンプ39とを備えている。温度調節器付きタンク37の内部は、充填材11が流動状態に保持されるように、例えば、約26℃程度に設定されている。
【0168】
カッター15の回転軸20の外周面には、チャンバー22内に突出するようにアジテータ28bが設けられており、このアジテータ28bは、ガーダ部48内に設置された駆動モータ(図示しない)により、カッター15と独立して回転駆動される。
【0169】
撹拌装置26は、土圧式シールド機1aの中心軸と同心で、かつ異なる径の3つの円周上にそれぞれ周方向に所定の間隔で配置され、チャンバー22内に突出するように、カッター15の後面に複数台設けられている。
【0170】
固定翼8は、土圧式シールド機1aの中心軸と同心で、かつ異なる径の3つの円周上にそれぞれ周方向に所定の間隔で配置され、チャンバー22内に突出するように、隔壁18の前面に複数台設けられている。
【0171】
また、カッター15、アジテータ28b、撹拌装置26、固定翼8、隔壁18の内部には加熱装置である電熱線41が埋め込まれており、電熱線41に通電することにより、これらの部材を介して充填材11が温められる。電熱線41の発熱容量は、切羽47と隔壁18との間に充填された充填材11を所定の時間内、例えば、10分程度ですべて流動状態にすることができる程度に設定する。
【0172】
次に、本実施形態に係る充填材11の充填方法について施工手順にしたがって説明する。上述した実施形態と同様に、本実施形態においても、地上を電車が走行しない夜間のみにトンネル7の掘削作業を行い、電車が走行する昼間は掘削作業を長時間停止する場合について説明する。
【0173】
図35は、本実施形態に係る土圧式シールド機1aにて線路3の下方を掘削している状態を示すトンネル7の側断面図である。
図35に示すように、上記のように構成した土圧式シールド機1aのカッター15を回転させて地山13を掘削し、掘削により生じる掘削土砂をチャンバー22内の下方の排土機構24から排出するとともに、土圧式シールド機1a本体を推進させることによりトンネル7を掘削する。
【0174】
そして、1日の作業の終了時間近くになると長時間の掘進作業の停止に備えて、掘削を行いつつ、切羽47を保持するための充填材11を注入孔29a、29bから注入して、切羽47と隔壁18との間に充填材11を充填する。
【0175】
図36は、本実施形態に係る切羽47と隔壁18との間に充填材11を充填した状態を示すトンネル7の側断面図である。
図36に示すように、温度調節器付きタンク37内で流動状態に保温された充填材11を充填材用注入ポンプ39にて供給し、注入孔29a、29bから切羽47と隔壁18との間に注入する。
【0176】
充填材11を注入するタイミングは、土圧式シールド機1aの掘進速度、地山13の地質、湧水量等により適宜変更されるが、例えば、掘削予定位置の手前5cmにカッター15の前面が位置するときに注入を開始する。
充填材11を注入する際は、注入圧が切羽圧力よりやや高めの圧力となるように圧力計にて確認しながら注入するとともに、地盤沈下計等(図示しない)の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜圧力を調整し、切羽47の変形を防止する。また、充填材11の注入量も同様に、地盤沈下計等の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜調整する。
【0177】
充填材11を注入しつつ、掘進作業を行うので、充填材11は、カッター15、撹拌装置26、固定翼8、アジテータ28bによりチャンバー22内で掘削土砂に含まれる土砂、粘土等の粉粒体と十分に混合される。なお、シールド機1が掘削予定位置に到達しても、粉粒体と充填材11との混合が十分でない場合は、混合のために、掘削を行わずにカッター15、撹拌装置26、アジテータ28bを回転させてもよい。
【0178】
注入を開始してから充填材11がチャンバー22内に拡散されるのに十分な時間が経過した後、又は設計等により決定された所定量の充填材11を注入したら、土圧式シールド機1aを停止する。切羽47と隔壁18との間に充填された充填材11は、切羽47周囲の地山13の温度、例えば、20℃程度に冷却されることにより短時間でラウリルアルコールが固化して、充填材11が固体状態となる。固体状態の充填材11は、切羽47と隔壁18との間から流出することが無く、また、所定の一軸圧縮強度を有するために、切羽47を確実に保持し、崩落を防止する。
充填材11が固体状態になったことを確認した後にトンネル7内での作業を停止し、これにより地上での電車の走行が可能となる。
【0179】
そして、夜になって最終電車が終了すると、再び掘進作業を開始する。掘進作業の開始時は、これに先だって電熱線41に通電し、土圧式シールド機1aのカッター15や隔壁18等を介して充填材11を加熱する。加熱を開始すると、カッター15の前面及び後面、隔壁18に接する部分のラウリルアルコールから次第に液化し、ラウリルアルコールが液化した部分の充填材11が流動状態になる。そして、すべての充填材11が流動状態になった後にカッター15を回転させて掘進を開始する。
【0180】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、掘進作業を長時間停止する場合には、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態となる充填材11を切羽47と隔壁18との間に充填するために、固体状態の充填材11は切羽47と隔壁18との間から流出することが無く、土圧式シールド機1aを長時間停止させても切羽47を確実に保持し、切羽47の崩落を防止することが可能となる。また、土圧式シールド機1aの掘進時に充填材11は温められることにより流動状態になるために、充填材11と切羽面との摩擦抵抗が小さくなり、切羽47を傷めることなくカッター15を回転して掘進を再開することが可能となる。さらに、充填材11を流動状態で充填するために、充填作業も容易となる。
【0181】
また、充填材11はラウリルアルコールと土砂や粘土とからなり、このうちラウリルアルコールは生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、地山13中に残存せず、環境に悪影響を与えない。そして、ラウリルアルコールは一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。また、ラウリルアルコールと土砂や粘土とを混合することにより、ラウリルアルコールの量を少なくすることができるために、充填材11の材料費を低減することが可能となる。
【0182】
さらに、土圧式シールド機1aは充填材11を加熱するための電熱線41を備えるために、充填材11を加熱して流動状態にすることが可能となる。また、カッター15内部及び隔壁18等に電熱線41を設置することにより、充填材11を効率的に加熱することができるために、短時間で充填材11を流動状態にすることが可能となる。そして、充填材11の融点がトンネル7内の通常温度約20℃よりも数度程度高い23.5℃〜26.5℃であるために、充填材11を加熱して流動状態にするための電熱線41の設備が小規模でよく、設備投資を少なくすることが可能となる。
【0183】
次に、本発明の第十の実施形態について説明する。本発明の第十実施形態においては、ラウリルアルコール(第九実施形態と同様にカルコール2098)を含む添加材のみからなる充填材30を用いた。
【0184】
1日の作業の終了時間近くになると、掘削を行いつつ、温度調節器付きタンク37内で流動状態に保温された充填材30を切羽47と隔壁18との間に注入する。注入された充填材30は、カッター15、撹拌装置26、固定翼8、アジテータ28bにより掘削土砂に含まれる土砂、粘度等の粉粒体と十分に混合される。
【0185】
そして、充填材30が十分に粉粒体と混合したら、土圧式シールド機1aを停止する。停止後に充填材30は、切羽47周囲の地山13の温度、例えば、20℃程度に冷却されることにより第九実施形態と同様に固体状態となる。固体状態の充填材30は、切羽47と隔壁18との間から流出することが無く、また、所定の一軸圧縮強度を有するために、切羽47を確実に保持し、崩落を防止する。
【0186】
そして、再び掘進作業を開始する際は、第九実施形態と同様に、電熱線41に通電して充填材30を加熱し、すべての充填材30を流動状態にした後にカッター15を回転させて掘進を開始する。
【0187】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、掘進作業を長時間停止する場合には、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態となる充填材30を切羽47と隔壁18との間に充填するために、固体状態の充填材30は切羽47と隔壁18との間から流出することが無く、土圧式シールド機1aを長時間停止させても切羽47を確実に保持し、切羽47の崩落を防止することが可能となる。また、充填材30として、ラウリルアルコールを含む添加材のみを使用するため、従来の充填材のように複数の材料を混合する必要が無く、充填材30の作成に手間がかからない。
【0188】
なお、上述した第九及び第十実施形態においては、電熱線41をカッター15、アジテータ28b、撹拌装置26、固定翼8、隔壁18の内部に設置する方法について説明したが、これらすべての箇所に電熱線41を設置しなければならないものではなく、充填材11や充填材30を十分に加熱することができれば、これらの箇所の一部にのみ設置してもよく、また、取り付け位置についても上記に示していない場所に設置してもよい。
【0189】
次に、本発明の第十一の実施形態について説明する。第十一実施形態における土圧式シールド機1bは加熱装置と冷却装置とを備えたものである。
【0190】
図37は、本発明の第十一実施形態に係る土圧式シールド機1bの側断面図である。図37に示すように、カッター15の内部及び隔壁18の内側面には加熱及び冷却可能なペルチェ素子43a、43bが設けられている。ペルチェ素子43a、43bは、カッター15内及び隔壁18の内側面にそれぞれ複数個取り付けられており、ペルチェ素子43a、43bに流れる電流の向きを変えることにより、充填材11を加熱又は冷却するものである。
【0191】
上記のように構成した土圧式シールド機1bにてトンネル7を掘削し、1日の作業の終了時間近くになると、第九又は第十実施形態と同様に、掘削を行いつつ、温度調節器付きタンク37内で流動状態に保温された充填材11を切羽47と隔壁18との間に充填する。
【0192】
充填材11を充填した後にペルチェ素子43aの切羽側面及びペルチェ素子43bのチャンバー22側面を冷却するように通電し、カッター15及び隔壁18を介して充填材11を冷却する。充填材11は、冷却されることにより、短時間で固体状態となり、切羽47を保持する。
【0193】
そして、再び掘進作業を開始する際は、これに先だってペルチェ素子43aの切羽側面及びペルチェ素子43bのチャンバー22側面を加熱するようにペルチェ素子43a、43bに通電し、カッター15及び隔壁18を介して充填材11を加熱し、すべての充填材11を流動状態にした後にカッター15を回転させて掘進を開始する。
【0194】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、土圧式シールド機1bは充填材11を加熱及び冷却可能なペルチェ素子43a、43bを備えるために、充填材11を容易に流動状態及び固体状態にすることが可能となる。そして、カッター15の内部及び隔壁18の内側面にペルチェ素子43a、43bを設置することにより、充填材11を効率的に加熱又は冷却することができるので、短時間で充填材11を流動状態又は固体状態にすることが可能となる。
【0195】
なお、上述した各実施形態においては、注入孔29a、29bはカッター15の前面や隔壁18の前面に設けたが、これに限定されるものではなく、シールド機1の掘削断面規模に応じて注入孔29の数及び位置は適宜変更することが可能である。
【0196】
次に、本発明の第十二の実施形態について説明する。第十二実施形態におけるシールド機として泥水式シールド機1cを用いるものである。
【0197】
図38は、本発明の第十二実施形態に係る泥水式シールド機1cにて線路3の下方に掘削されたトンネル7の縦断面図である。
図38に示すように、泥水式シールド機1c前方の切羽47と隔壁18との間に、第九実施形態と同様に、充填材11が充填されている。トンネル7内の通常温度である20℃前後では、ラウリルアルコールは固体状態で、地山13と同程度の一軸圧縮強度を有しているために、固体状態の充填材11は切羽47を保持し、切羽47の崩落を防止する。
【0198】
泥水式シールド機1cは、カッター55と、隔壁18と、泥水及び充填材11をチャンバー22内に送給するための泥水管53と、泥水管53を介してチャンバー22内に充填材11を供給する注入装置33aと、掘削土砂をチャンバー22内から排出するための排泥管54と、チャンバー22内の掘削土砂を撹拌、混練するためのアジテータ28cと、チャンバー22内の圧力を測定する圧力計(図示しない)等を備える。
【0199】
また、カッター55の本体内、アジテータ28c内、隔壁18内には加熱装置である電熱線41が埋め込まれている。
【0200】
次に、本実施形態に係る充填材11の充填方法について施工手順にしたがって説明する。
トンネル7の掘削時は、上記のように構成した泥水式シールド機1cのカッター55を回転させて地山13を掘削するとともに、チャンバー22内に泥水管53から供給される加圧した泥水を満たして切羽47の安定を図る。また、掘削により生じる掘削土砂をアジテータ28cで撹拌し、排泥水としてチャンバー22内の下方の排泥管54から排出するとともに、泥水式シールド機1c本体を推進させる。
【0201】
そして、1日の作業の終了時刻になると、掘進を停止して、泥水の代わりに充填材11を泥水管53を介してチャンバー22内に注入して、チャンバー22内を充填材11に置換する。
【0202】
充填材11を注入する際は、注入圧が切羽圧力よりやや高めの圧力となるように圧力計にて確認しながら注入するとともに、地盤沈下計等(図示しない)の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜圧力を調整し、切羽47の変形を防止する。また、充填材11の注入量も同様に、地盤沈下計等の測定器にて計測される地表面の変状に応じて適宜調整する。
【0203】
そして、排泥管54から排出される泥水が充填材11になったら、チャンバー22内の泥水がほぼ充填材11に置換されたものとし、充填材11の注入を停止する。
チャンバー22内に充填された充填材11は、切羽47周囲の地山13の温度により冷却されて固体状態となる。固体状態の充填材11は切羽47を確実に保持し、崩落を防止する。
充填材11が固体状態になったことを確認した後にトンネル7内での作業を停止し、これにより地上での電車の走行が可能となる。
【0204】
そして、最終電車が終了すると、再び掘進作業を開始する。掘進作業の開始時は、第九及び第十実施形態と同様に、これに先だって電熱線41に通電し、泥水式シールド機1cのカッター55や隔壁18等を介して充填材11を加熱し、チャンバー22内の充填材11が流動状態になった後にカッター55を回転させて掘進を開始する。
【0205】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、掘進作業を長時間停止する場合には、トンネル7内の通常温度約20℃では固体状態となる充填材11を切羽47と隔壁18との間に充填するために、固体状態の充填材11は切羽47と隔壁18との間から流出することが無く、泥水式シールド機1cを長時間停止させても切羽47を確実に保持し、切羽47の崩落を防止することが可能となる。また、泥水式シールド機1cの泥水管53を充填材11を注入するための注入管として利用することができるので、新たに注入管を泥水圧シールド機1c内に設置する必要が無く、泥水圧シールド機1c内の作業スペースを確保することが可能となる。したがって、従来の泥水圧シールド機1cに注入装置33aを設置するだけでよく、設備投資を少なくすることが可能となる。
【0206】
なお、上述した第九〜第十二実施形態においては、添加材として高級アルコールのラウリルアルコールを用いる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、上述した高級脂肪酸のラウリン酸、脂肪酸エステルのステアリン酸エステル等を用いてもよい。
【0207】
なお、上述した各実施形態においては、粉粒体として砂、粘土、掘削土砂の土砂を用いる方法についてそれぞれ説明したが、これに限定されるものではなく、粉粒体として、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ、ベントナイト、廃ガラス等を用いてもよく、また、粉粒体を単体で用いるだけでなく、組み合わせて用いてもよい。
【0208】
また、上述した各実施形態においては、円形断面のシールド機1又は円形断面の推進機2a、2bを用いた方法について説明したが、円形断面に限定されるものではなく、例えば、矩形断面等の様々な形状に広く適用が可能である。
【0209】
そして、上述した各実施形態においては、線路3の下方にトンネル7を構築する場合について説明したが、線路3に限定されるものではなく、道路、建物等の構造物の下方にトンネル7を構築する場合について適用することが可能である。
【0210】
さらに、上述した各実施形態においては、シールド機1又は推進管16a、16bの内周面に電熱線41、ペルチェ素子43等を設置して充填材11、30、45を加熱又は冷却する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、シールド機1の内周面に設置した配管内、地山13と推進管16a、16bとの間、切羽47と隔壁18との間等に温かい又は冷たい水等の流動体を挿通させて充填材11、45を加熱又は冷却してもよい。
【0211】
また、上述した各実施形態においては、ラウリルアルコールやラウリン酸等を含む添加材と砂や粘土からなる粉粒体とを混合した充填材11、45を用いた場合又はラウリルアルコール又はラウリン酸からなる材料を単体で充填材30として用いた場合について説明したが、その充填材に限定されるものではなく、上述したすべての実施形態において、いずれも用いることができる。
【0212】
次に、本発明の第十三及び第十四の実施形態について説明する。
本発明の第十三及び第十四実施形態においては、トンネル7内から水抜き用井戸を構築する場合について説明するが、これに限定されるものではなく、地下街等の地中構造物全般に適用可能である。
【0213】
図39は、本発明の第十三実施形態に係る集水用開口を有する中空管57内にフィルター材63を充填した状態を示す断面図である。
図39に示すように、地山13を掘削するためのビット14を備えた集水用開口を有する中空管57 内に、掘削水を送水するための送水管59を挿入して二重管61を構成し、この中空管57の内周と送水管59の外周との間にフィルター材63を充填する。
【0214】
本実施形態においては、集水用開口を有する中空管57として外周面に複数の集水孔65を有するケーシングパイプを用い、フィルター材63としてケイ砂を用いた。集合体としてフィルター材63の役割を果たすケイ砂は、その粒子間に空隙(請求項1の空間又は空隙に相当)を有し、この空隙は3次元的に二重管61の一端から他端まで連通している。
なお、中空管57の集水用開口の形状は丸形に限定されるものではなく、角形、溝状でもよい。
送水管59の孔底側端部には逆止弁10が接続されており、送水管59内からビット14側への通水を可能とするとともにビット14側から送水管59内への逆流を防止する。
【0215】
図40は、図39のフィルター材63内に充填材30を充填した状態を示す断面図である。充填材30は、フィルター材63を構成するケイ砂の上記空隙に充填される。
充填材30は、23.5℃〜26.5℃(カルコール2098の融点)以上になると液化する性質を有しているので、充填材30を上記融点以上で保温して、流動状態でフィルター材63の空隙に充填する。
【0216】
充填材30を充填するための注入装置(図示しない)は、充填材30を貯留するための温度調節器付きタンク(図示しない)と、充填材30を温度調節器付きタンクからホースを介してフィルター材63内へ送給するための充填材用注入ポンプ(図示しない)とを備えている。温度調節器付きタンクの内部は、充填材30が流動状態に保持されるように、例えば、約26℃程度に設定されている。温度調節器付きタンク内で流動状態に保温された充填材30を充填材用注入ポンプにて供給し、ホースを介して、例えば、二重管61の図中上端からフィルター材63の空隙に充填する。この空隙は上述したように二重管61の両端部間を3次元的に連通しているために、充填材30をフィルター材63の全体にわたって充填できる。
【0217】
そして、フィルター材63及び充填材30が流出しないように中空管57の端部に蓋69をし、二重管61を冷却して充填材30を固化する。充填材30は20℃以下に冷却されることにより固化する。
【0218】
図41は、本実施形態に係るトンネル7内のセグメント73にプリペンダー71を取り付けた状態を示す図である。
図41に示すように、二重管61を挿入する位置のセグメント73にプリペンダー71を取り付ける。セグメント73とプリペンダー71との接続部から泥水等の掘削水や被圧地下水が漏水しないように両者を溶接にて接合するものとする。
プリペンダー71は掘削水を排水するための排水口75を備えており、掘削水をトンネル7内に流すこと無く、所定の場所に集水する。排水口75には開閉バルブ77が接続されており、開閉バルブ77の開閉により掘削水の排水量を調整することができる。
【0219】
図42は、本実施形態に係る地山13を削孔して二重管61を所定の深さまで挿入している状態を示す図である。図42に示すように、ドリリングマシン79をトンネル7内に設置し、中空管57の上部付近をドリリングマシン79の回転装置80に接続し、送水管59の上端をスイベル78を介して掘削水注入用ポンプ(図示しない)に接続する。そして、ドリリングマシン79が中空管57を介してビット14を回転させながら地山13内に圧入する。削孔時は、掘削水注入用ポンプから吐出される泥水等の掘削水を送水管59内に供給し、ビット14の先端より注水する。掘削された土砂は、ビット14の先端より供給される掘削水とともに、地山13と中空管57の外周との間を通過してプリペンダー71の排水口75から排出される。
【0220】
トンネル7の周辺地山13の通常温度である20℃前後では、充填材30は固体状態で、被圧地下水の水圧と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有しているために、掘削水や被圧地下水は二重管61内(つまり、中空管57の内周と送水管59の外周との間)に流入しない。
【0221】
図43は、本実施形態に係る二重管61を所定の深さに設置完了した状態を示す図である。図43に示すように、所定の深度まで二重管61を挿入すると、ドリリングマシン79を撤去し、被圧地下水がトンネル7内に流入しないようにプリペンダー71の開閉バルブ77を閉じる。
【0222】
図44は、本実施形態に係る二重管61内の充填材30を加熱している状態を示す図である。図44に示すように、中空管57の孔口側端部に充填材30や被圧地下水を排出するための排水口81を取り付ける。排水口81には開閉バルブ83が接続されており、開閉バルブ83の開閉により充填材30や被圧地下水の排水量を調整することができる。
【0223】
また、充填材30を加熱するための加熱装置である電熱線41を中空管57及び送水管59のそれぞれ孔口側端部の外周面に取り付ける。そして、電熱器82で電熱線41に通電して、中空管57及び送水管59を介して充填材30を加熱すると、充填材30は孔口側から孔底側に向かって徐々に液化する。液化した充填材30は流動性を有するために、集水孔65を介して作用する被圧地下水の圧力によって中空管57の排水口81から被圧地下水と共に排出される。また、フィルター材63中の空隙に充填されていた充填材30が排出されたことにより、被圧地下水がこの空隙を通過可能となる。上述したように空隙は3次元的に二重管61の両端部間を連通しているために、この空隙を通して被圧地下水が排水される。
【0224】
図45は、本実施形態に係る地山13内に被圧地下水の水抜き井戸を構築した状態を示す図である。
図45に示すように、プリペンダー71の排水口75から止水材85を注入し、プリペンダー71の内周と中空管57の外周との隙間を充填して中空管57の外周からトンネル7内へ流れ込む被圧地下水を止水し、水抜き用井戸を構築する。
被圧地下水は、集水孔65を介して二重管61内に流入してフィルター材63内(つまり、中空管57の内周と送水管59の外周との間)を通過し、排水口81から排水される。排水口81から排水された被圧地下水は、排水タンク等に集水され、所定の方法にて処理される。
【0225】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、中空管57と送水管59とで二重管61を構成し、中空管57と送水管59との間にフィルター材63及び充填材30を充填して中空管57と送水管59との間を水が通過できないようにし、この二重管61を地山13内に挿入するために、挿入作業中に被圧地下水が二重管61内に流れ込むことが無く、トンネル7内への被圧地下水の噴出を防止することが可能となる。
【0226】
また、二重管61を地山13内に設置した後に、充填材30を加熱して流動状態にすることにより、集水孔65を介して作用する被圧地下水の圧力で二重管61内から充填材30を容易に排出することができる。さらに、フィルター材63中の空隙に充填されていた充填材30が排出されることにより、被圧地下水がこの空隙を通過可能になるので、この空隙を利用して被圧地下水を排水することが可能となる。
【0227】
そして、二重管61内にフィルター材63が充填されており、地山13内の土砂が二重管61内に流入しないために、地山13の変状を防止することが可能となる。また、集水孔65に土砂が目詰まりすること無く、長期間にわたって良好に排水を継続することが可能となる。
さらに、送水管59にてビット14先端に掘削水を送水するために、二重管61を地山13内に容易に挿入することが可能となる。
【0228】
また、充填材30を加熱する際に中空管57及び送水管59を伝熱材として使用するために、中空管57のみを伝熱材として使用する場合に比べて、短時間で充填材30を流動状態にすることが可能となる。
また、充填材30は生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、地山13内に残存せず、環境に負荷をかけない。そして、充填材30は一般的な原料であるために、原料の入手が容易である。
さらに、充填材30(本実施形態においては、カルコール2098)の融点がトンネル7内の通常温度約20℃よりも数度程度高い23.5℃〜26.5℃であるために、充填材30を加熱して液化するための加熱装置の設備が小規模でよく、設備投資を少なくすることが可能となる。
【0229】
なお、本実施形態においては、フィルター材63としてケイ砂を用いる方法について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、不織布等を用いてもよい。
また、本実施形態においては、電熱線41で充填材30を加熱する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、充填材30を加熱できれば他の方法を用いてもよい。
【0230】
次に、本発明の第十四の実施形態について説明する。
本発明の第十四実施形態は、充填材50として、高級脂肪酸のラウリン酸(例えば、ルナックL−70)を含む添加材のみを用いるものである。
ラウリン酸(本実施形態においては、ルナックL−70)は、トンネル7内やトンネル7の周辺地山13の通常温度である20℃前後では固体状態で、32℃〜36℃(ルナックL−70の融点)以上になると液化する性質を有している。このため、充填材50を二重管61内に充填するとき及び二重管61内から排出するときは、第十三実施形態と同様に、充填材50を上記融点以上に加熱して、流動状態にして使用する。
【0231】
以上説明したように、本実施形態の地山13の安定化方法によれば、フィルター材63及び充填材50を充填した二重管61を地山13内に挿入するので、トンネル7内への被圧地下水の噴出を防止することが可能となる。また、ラウリン酸は生分解性を有するために、環境に負荷をかけない。
【0232】
なお、上述した各実施形態の地山13の安定化方法によれば、シールド機1、土圧式シールド機1a、1b、泥水式シールド機1c、推進機2a、2b、ドリリングマシン79等の削孔機で地山13にトンネル7や水抜き用井戸等の孔を削孔すると、地山13と削孔機との間に空隙部9が生じたり、地山13の緩みにより土粒子内に間隙44が生じるので、この空隙部9に充填材11、30、45、50を充填して地山13を保持したり、間隙44に充填材11、30、45、50を充填して地山13を保持することにより、地山13の崩落を防止する。
【0233】
また、上述した各実施形態においては、添加材として高級アルコールからなるラウリルアルコール又は高級脂肪酸からなるラウリン酸を用いる方法について説明したが、これらに限定されるものではなく、例えば、脂肪酸エステルのステアリン酸エステル等を用いてもよく、これは、トンネル7内の通常温度である20℃前後では、固体状態となり、地山13と同程度の一軸圧縮強度(例えば、0.5〜1.0MPa程度)を有するともに、トンネル7内が通常温度よりも高くなり所定の融点以上になると流動状態になるので、ラウリルアルコール又はラウリン酸と同様に取り扱うことができる。また、脂肪酸エステルのステアリン酸エステルも生分解性を有するために、時間が経過すると水と空気に分解されて消失し、環境に悪影響を与えない。
【0234】
そして、上述した各実施形態においては、添加材として高級アルコールからなるラウリルアルコール又は高級脂肪酸からなるラウリン酸を用いる方法について説明したが、ラウリルアルコール又はラウリン酸のいずれかに限定されるものではなく、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれも用いることができる。
【0235】
さらに、上述した各実施形態においては、添加材として高級アルコールからなるラウリルアルコールのカルコール2098又は高級脂肪酸からなるラウリン酸のルナックL−70を用いる方法について説明したが、カルコール2098又はルナックL−70に限定されるものではなく、掘削対象トンネル内の通常温度よりも融点がやや高い高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを選択すればよく、例えば、地熱地帯を掘削する場合に掘削対象トンネル内の通常温度が40℃程度であれば、融点が42℃〜44℃のラウリン酸のルナックL−98(製品名、ルナック:登録商標、花王株式会社製)を用いる。
【0236】
また、上述した各実施形態においては、地山13にトンネル7や水抜き用井戸の孔を削孔した際に生じた空間や空隙に充填材11、30、45、50を充填した場合について説明したが、これらに限定されるものではなく、内部に空間又は空隙が生じた地山13を、その空間内部に充填された充填材11、30、45、50で保持する場合に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】本発明の第一実施形態に係るシールド機にて線路の下方に掘削されたトンネルの縦断面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】本実施形態に係るシールド機の側断面図である。
【図4】本実施形態に係るシールド機にて線路の下方を掘削した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図5】本実施形態に係る空隙部に充填材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図6】本実施形態に係るシールド機を介して充填材を加熱した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係るシールド機の側断面図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る空隙部に充填材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図9】本発明の第四実施形態に係る推進機にて線路の下方に掘削されたトンネルの縦断面図である。
【図10】図9のB−B’矢視図である。
【図11】本実施形態に係る推進設備の概略全体図である。
【図12】本実施形態に係る推進機にて地山を掘削した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図13】本実施形態に係る空隙部に充填材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図14】本実施形態に係る推進機を介して充填材を加熱した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図15】本実施形態に係る推進時おける空隙部の充填材の状態を示す図である。
【図16】本実施形態に係る推進機にて線路の下方を推進する状態を示す図である。
【図17】本実施形態に係る推進機にて線路の下方を推進する状態を示す図である。
【図18】本発明の第五実施形態に係る推進設備の概略全体図である。
【図19】本実施形態に係る線路からの距離が十分に離れたトンネル区間の空隙部に滑材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図20】本実施形態に係る線路直下付近のトンネル区間の空隙部に充填材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図21】本実施形態に係る線路からの距離が十分に離れたトンネル区間の空隙部に滑材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図22】本発明の第六実施形態に係る推進管の側断面図である。
【図23】本発明の第七実施形態に係る推進機にて線路の下方に掘削されたトンネルの縦断面図である。
【図24】図23のC−C’矢視図である。
【図25】本実施形態に係る推進設備の概略全体図である。
【図26】空間に充填材を充填した状態を示すトンネルの側断面図であり、推進管の外周面近傍を拡大したものである。
【図27】充填材を加熱した状態を示すトンネルの側断面図であり、推進管の外周面近傍を拡大したものである。
【図28】本実施形態における推進時の充填材の状態を示す図である。
【図29】本実施形態に係る推進機にて線路の下方を推進する状態を示す図である。
【図30】本実施形態に係る推進機にて線路の下方を推進する状態を示す図である。
【図31】本発明の第八実施形態に係る推進管による推進状態を示すトンネルの側断面図である。
【図32】本発明の第九実施形態に係る土圧式シールド機にて線路の下方に掘削されたトンネルの縦断面図である。
【図33】本実施形態に係る土圧式シールド機の前部拡大図である。
【図34】図33のD−D’部分を示す矢視図である。
【図35】本実施形態に係る土圧式シールド機にて線路の下方を掘削している状態を示すトンネルの側断面図である。
【図36】本実施形態に係る切羽と隔壁との間に充填材を充填した状態を示すトンネルの側断面図である。
【図37】本発明の第十一実施形態に係る土圧式シールド機の側断面図である。
【図38】本発明の第十二実施形態に係る泥水式シールド機にて線路の下方に掘削されたトンネルの縦断面図である。
【図39】本発明の第十三実施形態に係る集水用開口を有する中空管内にフィルター材を充填した状態を示す断面図である。
【図40】図39のフィルター材内に充填材を充填した状態を示す断面図である。
【図41】本実施形態に係るトンネル内のセグメントにプリペンダーを取り付けた状態を示す図である。
【図42】本実施形態に係る地山を削孔して二重管を所定の深さまで挿入している状態を示す図である。
【図43】本実施形態に係る二重管を所定の深さに設置完了した状態を示す図である。
【図44】本実施形態に係る二重管内のラウリルアルコールを加熱している状態を示す図である。
【図45】本実施形態に係る地山内に被圧地下水の水抜き井戸を構築した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0238】
1 シールド機
1a、1b 土圧式シールド機
1c 泥水式シールド機
2a、2b 推進機
3 線路
4 推進設備
5 発進立坑
6 推進ジャッキ
7 トンネル
8 固定翼
9 空隙部
10 逆止弁
11 充填材(カルコール2098と粉粒体とからなる)
12 滑材
13 地山
14 ビット
15 カッター
16a、16b 推進管
17 フード部
18 隔壁
19 駆動装置
20 回転軸
21 シールドジャッキ
22 チャンバー
23 ガーダ部
24 排土機構
25 エレクタ
26 撹拌装置
27 テール部
28a、28b、28c アジテータ
29、29a、29b 注入孔
30 充填材(カルコール2098のみからなる)
31 注入管
32 推進設備
33a 注入装置(トンネル内)
33b、33c、33d 注入装置(地上)
34 セグメント
35 開閉バルブ
36 泥水管
37 温度調節器付きタンク
38 滑材用タンク
39 充填材用注入ポンプ
40 滑材用注入ポンプ
41 電熱線
42 排泥管
43、43a、43b ペルチェ素子
43c 接触面
44 間隙
45 充填材(ルナックL−70と粉粒体とからなる)
46 スクリュー
47 切羽
48 ガーダ部
49 駆動装置
50 充填材(ルナックL−70のみからなる)
53 泥水管
54 排泥管
55 カッター
57 中空管
59 送水管
61 二重管
63 フィルター材
65 集水孔
69 蓋
71 プリペンダー
73 セグメント
75 排水口
77 開閉バルブ
78 スイベル
79 ドリリングマシン
80 回転装置
81 排水口
82 電熱器
83 開閉バルブ
85 止水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山内に形成された空間又は空隙に充填材を充填して該地山を保持する地山の安定化方法において、
前記空間内又は前記空隙内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、前記空間又は前記空隙に流動状態で注入し、
冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持することを特徴とする地山の安定化方法。
【請求項2】
シールド機によりトンネルが掘削された地山を安定化するための安定化方法において、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、前記シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に流動状態で充填し、
該充填材が冷却されて固体状態になり地山を保持することを特徴とする地山の安定化方法。
【請求項3】
発進立坑に設けた推進ジャッキにより推進機を押圧して地中を掘進させつつ、該推進機の後部に推進管を順次継ぎ足して地中管路を構築する推進工法によりトンネルを掘削する際に地山を安定化するための安定化方法において、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、前記推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に流動状態で充填する充填工程と、
冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持する保持工程とを備えることを特徴とする地山の安定化方法。
【請求項4】
地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機により掘削されるトンネルの地山を安定化するための安定化方法において、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を、切羽と前記隔壁との間に流動状態で充填し、
冷却されて固体状態となった前記充填材により前記切羽を保持することを特徴とする地山の安定化方法。
【請求項5】
前記固体状態となった充填材で前記地山を保持した後、前記充填材を加熱して流動状態とすることにより固体状態での前記地山の保持を終えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項6】
前記シールド機の推進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態とすることを特徴とする請求項2に記載の地山の安定化方法。
【請求項7】
前記推進機の推進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態とすることを特徴とする請求項3に記載の地山の安定化方法。
【請求項8】
前記掘進機の推進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態とすることを特徴とする請求項4に記載の地山の安定化方法。
【請求項9】
地山の変状が許されない線路、道路等の重要構造物の存在する位置に、前記トンネルの削孔により地山の変状に影響を与えるトンネル区間でのみ前記充填材を充填して地山を安定化することを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項10】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項11】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項12】
前記充填材は、前記充填材に占める前記添加材の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように、前記添加材と前記粉粒体とを混合したものであることを特徴とする請求項11に記載の地山の安定化方法。
【請求項13】
前記高級アルコールは、ラウリルアルコールであることを特徴とする請求項10又は11に記載の地山の安定化方法。
【請求項14】
前記高級脂肪酸は、ラウリン酸であることを特徴とする請求項10又は11に記載の地山の安定化方法。
【請求項15】
前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸エステルであることを特徴とする請求項10又は11に記載の地山の安定化方法。
【請求項16】
前記充填材は、加熱装置にて前記所定の温度以上に加熱されることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項17】
前記充填材は、冷却装置にて前記所定の温度以下に冷却されることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の地山の安定化方法。
【請求項18】
地山に形成された空間又は空隙に充填されることにより、該地山を保持して安定化するための充填材であって、
前記空間内又は前記空隙内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする充填材。
【請求項19】
シールド機によるトンネルの余堀掘削によって生じる空隙部に充填されて、該トンネルが掘削された地山を安定化するための充填材であって、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする充填材。
【請求項20】
推進工法でトンネルを掘削する際の推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填されて、該トンネルが掘削される際の地山を安定化するための充填材であって、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする充填材。
【請求項21】
地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機により掘削されるトンネルの切羽と該掘進機の隔壁との間に充填されて、地山を安定化するための充填材であって、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする充填材。
【請求項22】
請求項18〜21のいずれかにおいて、充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする充填材。
【請求項23】
請求項18〜21のいずれかにおいて、充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを、前記充填材に占める前記添加材の体積割合が前記地山の間隙率と同等となるように混合したものであることを特徴とする充填材。
【請求項24】
空間又は空隙が形成された地山を保持して安定化するための地山の安定化構造であって、
前記空間内又は前記空隙内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記空間又は前記空隙に充填されてなることを特徴とする地山の安定化構造。
【請求項25】
シールド機によりトンネルが掘削された地山を安定化するための安定化構造であって、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記シールド機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填されてなることを特徴とする地山の安定化構造。
【請求項26】
発進立坑に設けた推進ジャッキにより推進機を押圧して地中を掘進させつつ、該推進機の後部に推進管を順次継ぎ足して所定の地中管路を構築する推進工法によりトンネルが掘削される際の地山を安定化するための安定化構造であって、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に充填されてなることを特徴とする地山の安定化構造。
【請求項27】
地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機により掘削されるトンネルの地山を安定化するための安定化構造であって、
前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になる充填材が、前記切羽と前記掘進機の隔壁との間に充填されてなることを特徴とする地山の安定化構造。
【請求項28】
発進立坑に設けた推進ジャッキにより推進機を押圧して地中を掘進させつつ、該推進機の後部に推進管を順次継ぎ足して所定の地中管路を構築する推進工法を用いたトンネルの構築方法において、
前記推進機の停止時は、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記推進機の余堀掘削によって生じる空隙部に流動状態で充填して、冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持し、
前記推進機の掘進再開時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態にすることを特徴とする推進工法を用いたトンネルの構築方法。
【請求項29】
請求項28に記載された推進工法を用いたトンネルの構築方法により構築されたことを特徴とするトンネル。
【請求項30】
地山を掘削するためのカッターの後方に隔壁を備える掘進機によるトンネルの構築方法において、
前記掘進機の停止時には、前記トンネル内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記切羽と前記隔壁との間に流動状態で充填して、冷却されて固体状態となった前記充填材により前記切羽を保持し、
前記掘進機の掘進時には、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態にすることを特徴とする掘進機によるトンネルの構築方法。
【請求項31】
請求項30に記載された掘進機によるトンネルの構築方法により構築されたことを特徴とするトンネル。
【請求項32】
地山に空間を形成する方法において、
前記空間の形成時は、前記空間内の通常温度では固体状態であり、前記通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記空間に流動状態で充填して、冷却されて固体状態となった前記充填材により地山を保持し、
前記空間の形成再開時は、前記固体状態となった充填材を前記所定の温度以上に加熱することにより流動状態にすることを特徴とする地山に空間を形成する方法。
【請求項33】
地山に空間を形成する方法において、
前記空間内の通常温度では固体状態であり、前記通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を筒状の中空管に充填し、
前記中空管を前記地山内に挿入し、
前記充填材を前記所定の温度以上に加熱して流動状態にし、
前記流動状態の前記充填材を前記中空管から排出することを特徴とする地山に空間を形成する方法。
【請求項34】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする請求項32又は33に記載の地山に空間を形成する方法。
【請求項35】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを含有することを特徴とする請求項32又は33に記載の地山に空間を形成する方法。
【請求項36】
被圧地下水を排水するための水抜き用井戸を既設の地中構造物内から地山内に構築する方法において、
地山を掘削するためのビットを先端部に備えた集水用開口を有する中空管内に、通水可能な空隙部を有するフィルター材を充填し、
前記地山内の通常温度では固体状態であり、前記通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記空隙部に充填し、
前記中空管を前記地中構造物内から前記地山内に挿入して設置し、
前記充填材を前記所定の温度以上に加熱して流動状態にし、
前記中空管の集水用開口を介して作用する前記被圧地下水の水圧で前記流動状態の前記充填材を前記空隙部から排出することを特徴とする被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項37】
被圧地下水を排水するための水抜き用井戸を既設の地中構造物内から地山内に構築する方法において、
地山を掘削するためのビットを先端部に備えた集水用開口を有する中空管内に、掘削水を送水するための送水管を挿入して二重管を構成し、
前記中空管の内周と前記送水管の外周との間に、通水可能な空隙部を有するフィルター材を充填し、
前記地山内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる充填材を前記空隙部に充填し、
前記二重管を前記地中構造物内から前記地山内に挿入して設置し、
前記充填材を前記所定の温度以上に加熱して流動状態にし、
前記中空管の集水用開口を介して作用する前記被圧地下水の水圧で前記流動状態の前記充填材を前記空隙部から排出することを特徴とする被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項38】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかであることを特徴とする請求項36又は37に記載の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項39】
前記充填材は、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルのいずれかを含む添加材と粉粒体とを含有することを特徴とする請求項36又は37に記載の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項40】
前記高級アルコールは、ラウリルアルコールであることを特徴とする請求項38又は39に記載の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項41】
前記高級脂肪酸は、ラウリン酸であることを特徴とする請求項38又は39に記載の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項42】
前記脂肪酸エステルは、ステアリン酸エステルであることを特徴とする請求項38又は39に記載の被圧地下水を排水するための水抜き用井戸の構築方法。
【請求項43】
被圧地下水を排水する水抜き用井戸を構築するための孔を既設の地中構造物内から削孔する際に、地山を掘削するためのビットを先端部に備えた集水用開口を有する中空管内に充填されて前記被圧地下水の噴出を防止するための充填材であって、
前記地山内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度では流動状態になることを特徴とする充填材。
【請求項44】
被圧地下水を排水するために既設の地中構造物内から地山内に構築された水抜き用井戸であって、
地山内に設置された集水用開口を有する中空管と、
前記中空管内に充填され、通水可能な空隙部を有するフィルター材と、
前記地山内の通常温度では固体状態であり、該通常温度よりも高い所定の温度になると流動状態になる性質を有し、前記空隙部に充填された充填材とから構成され、
前記充填材が前記所定の温度以上に加熱されて流動状態になると、前記流動状態の前記充填材が前記中空管の集水用開口を介して作用する前記被圧地下水の水圧にて前記中空管から排出されるとともに、前記被圧地下水が前記空隙部を通過して排出されることを特徴とする被圧地下水を排水するための水抜き用井戸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【公開番号】特開2008−169683(P2008−169683A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164027(P2007−164027)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】