説明

地熱タービン設備の防食方法及び装置並びに地熱タービン設備の構成機器

【課題】地熱タービン設備の腐食環境下においても電気防食機能を発揮する犠牲陽極コーティング層を、作業性が良好で且つ低コストに、しかも残留熱応力等の熱影響を生じさせることなく施工できること。
【解決手段】腐食損傷が発生し易い腐食環境下で使用される地熱タービン設備の防食対象部位29(例えば、蒸気タービンのタービンロータ、タービン動翼のそれぞれの表面)に、犠牲陽極用金属としてのMgまたはMg合金の粉末粒子32を、ショットコーティング装置33によるショットコーティング技術を用いて吹き付けて付着させ、前記防食対象部位29に犠牲コーティング層31を形成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犠牲陽極を用いた蒸気タービン設備の防食方法及び装置、並びにこの防食方法により表面に犠牲陽極コーティング層が形成された地熱タービン設備の構成機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、腐食疲労、孔食および応力腐食割れなどが発生し易い腐食環境下で使用される機器、例えば、地熱発電プラントにおける地熱タービン設備の地熱タービンでは、タービンロータにタービン動翼を植設するためのタービン動翼の動翼側植込部やタービンロータのロータ側植込部において、材料の耐食性向上や耐応力腐食割れ対策が求められている。
【0003】
しかし、地熱タービン設備は、硫化水素、塩素等の強い腐食因子を含む地熱蒸気を使用する腐食環境にあるため、運転年数や運転停止中の保管状態によって腐食が進行し易く、硫化水素による水素脆化誘起応力腐食割れの深さ、または局部的に発生する孔食の深さが発電プラントの管理基準値を超えると、遠心応力や振動応力によって応力腐食割れや孔食を起点とした疲労き裂が成長する恐れがある。
【0004】
このような腐食を抑制するために、Cr(クロム)やNi(ニッケル)を添加したり、C(炭素)を低減してタービン構成部材(タービンロータ、タービン動翼等)の材質を改善することが考えられるが、この場合、機械的な特性を考慮すると、コストや製造性等の点で課題がある。また、腐食環境を改善するために、地熱タービン設備の気水分離器にアルカリ性薬品を注入する方法があるが、この場合にもコスト面で不利がある。
【0005】
そこで、地熱タービン設備における地熱タービン等の構成機器の表面に耐腐食性コーティング層を形成し、この構成機器を腐食から保護することが考えられており、このようなコーティング層を作業性よく、低コストで形成する技術が望まれている。このうち、タービン構成部材の金属材料の腐食を、犠牲陽極を用いることで抑制する技術が特許文献1に開示されている。
【0006】
この特許文献1には、タービンロータのロータディスクとタービン動翼との接合面に、犠牲陽極用金属としてZn(亜鉛)を設けている。このZnは、タービン構成部材(タービンロータとタービン動翼など)を構成する金属材料よりも腐食電位が低いため、このZnを犠牲陽極として用いることで、タービン構成部材を腐食疲労や孔食、応力腐食割れなどの腐食損傷から保護できる。
【0007】
前記Znは、Zn製の薄板の挿入、溶融めっき、電気めっき、またはZn粉末をペーストに混入して塗布すること等によって、タービンロータのロータディスクとタービン動翼との間に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−204902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、地熱蒸気中にNaCl(塩化ナトリウム)やHS(硫化水素)、Si(ケイ素)、CaCO(炭酸カルシウム)などが含まれる地熱タービン設備の環境下では、犠牲陽極(Zn)とタービン構成部材(タービンロータ、タービン動翼など)との腐食電位差が減少してしまうため、犠牲陽極による電気防食効果が低下してしまう。
【0010】
また、タービン動翼とタービンロータのロータディスクとの隙間寸法が極めて狭く、形状も3次元の複雑な形状であるため、Znの薄板の挿入は極めて困難であり、しかも薄板の挿入によって重量が変化してタービンの回転バランスに影響を及ぼす恐れがある。
【0011】
更に、溶融めっきや電気めっきによってタービン動翼とタービンロータとの接合面にZnを設ける場合には、煩雑な表面処理作業やめっき作業が必要となり、作業性及びコストの面で課題がある。更に、タービン動翼やタービンロータが加熱されて、これらのタービン動翼などに残留熱応力や熱変形が生ずる恐れがある。
【0012】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、地熱タービン設備の腐食環境下においても電気防食機能を発揮する犠牲陽極コーティング層を、作業性が良好で且つ低コストに、しかも残留熱応力等の熱影響を生じさせることなく施工できる地熱タービン設備の防食方法及び装置、並びにこの防食方法により表面に犠牲陽極コーティング層が形成された地熱タービン設備の構成機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る地熱タービン設備の防食方法は、腐食損傷が発生し易い腐食環境下で使用される地熱タービン設備の構成機器の表面に、犠牲陽極用金属としてのMgまたはMg合金の粉末粒子を、ショットコーティング技術を用いて吹き付けて付着させ、前記構成機器の表面に犠牲陽極コーティング層を形成することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係る地熱タービン設備の防食装置は、腐食損傷が発生し易い腐食環境下で使用される地熱タービン設備の構成機器の表面を防食処理する地熱タービン設備の防食装置であって、犠牲陽極用金属としてのMgまたはMg合金の粉末粒子と、この粉末粒子を前記構成機器の表面に吹き付けて付着させ犠牲陽極コーティング層を形成するショットコーティング手段と、を有することを特徴とするものである。
【0015】
更に、本発明に係る地熱タービン設備の構成機器は、前述に記載の地熱タービン設備の防食方法により、表面に犠牲陽極コーティング層が形成されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る地熱タービン設備の防食方法及び装置によれば、腐食損傷が発生し易い地熱タービン設備の腐食環境下においても地熱タービン設備の構成機器との腐食電位差が大きなMgまたはMg合金を犠牲陽極として用いることで、前記構成機器の電気防食を良好に実現できる。
【0017】
また、犠牲陽極用金属としてのMg等の粉末粒子を、ショットコーティング技術を用いて吹き付けて犠牲陽極コーティング層を形成するので、常温で簡易に犠牲陽極コーティング層を形成できる。このため、作業性が良好で且つ低コスト化を実現できると共に、犠牲陽極コーティング層が形成される地熱タービン設備の構成機器に残留熱応力等の熱影響を生じさせることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る地熱タービン設備の防食方法における第1の実施の形態が実施される地熱タービン設備の地熱タービンを示し、(A)は地熱タービンの全体構成図、(B)は図1(A)のIB部の拡大構成図。
【図2】図1のタービン動翼を、タービンロータのロータ側植込部と共に示す分解斜視図。
【図3】図2のタービン動翼とタービンロータのそれぞれの表面に犠牲陽極コーティング層を形成するためのショットコーティング装置を示す構成図。
【図4】図3の粉末粒子を説明する図であり、(A)はMgの粉末粒子の説明図、(B)はMg合金の粉末粒子の説明図。
【図5】図3のショットコーティング装置にて噴射される粉末粒子の噴射角度を説明する図であり、(A)は噴射角度10°の場合の断面図、(B)は噴射角度90°の場合の断面図。
【図6】図3のショットコーティング装置にて形成された犠牲陽極コーティング層の膜厚を説明する断面図。
【図7】図3のショットコーティング装置にて2層構造の犠牲陽極コーティング層を形成する手順を示す説明図。
【図8】本発明に係る地熱タービン設備の防食方法における第2の実施の形態が実施される地熱タービン設備の地熱気水分離器を示し、(A)は全体側面図、(B)は図8(A)のVIIIB部を拡大して示す断面図。
【図9】本発明に係る地熱タービン設備の防食方法における第3の実施の形態が実施される地熱タービン設備の復水器の内部構成を示し、(A)は地熱タービンと共に示す全体構成図、(B)は図9(A)のIXB部を拡大して示す断面図、(C)は図9(B)のIXC部を拡大して示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
[A]第1の実施の形態(図1〜図7)
図1は、本発明に係る地熱タービン設備の防食方法における第1の実施の形態が実施される地熱タービン設備の地熱タービンを示し、(A)は地熱タービンの全体構成図、(B)は図1(A)の1B部の拡大構成図である。
【0021】
図1(A)に示すように、地熱タービン設備の構成機器である地熱タービン11は、タービンハウジング12の内部に配置されたタービンケーシング13の内側に、動翼群14を備えるタービンロータ15が回転自在に支持され、このタービンロータ15にカップリング16を介して発電機17が連結され、タービンハウジング12に地熱蒸気導入管18及び地熱蒸気排出管19が設置されて構成される。
【0022】
図1(B)に示すように、タービンロータ15には、軸方向に所定間隔で複数のロータディスク20が一体に形成され、各ロータディスク20にロータ側植込部21が周方向に形成されている。前記動翼群14を構成するタービン動翼22は、その動翼側植込部23がロータ側植込部21に嵌合されることで、タービンロータ15に一体化される。このタービン動翼22は、図2に示すように、基端側の前記動翼側植込部23と、先端側の動翼有効部24とが一体成形されて構成される。
【0023】
ここで、タービンロータ15は例えば12Cr鋼から構成され、タービン動翼22は例えば3.5NiCrMoV鋼から構成されている。
【0024】
図1(A)及び(B)に示すように、地熱蒸気導入管18を経てタービンケーシング13内に導入された地熱蒸気は、矢印Aに示すように、タービンケーシング13に支持されたノズル25に案内されてタービン動翼22に衝突し、このタービン動翼22が植設されたタービンロータ15を回転させ、これにより発電機17を回転駆動させる。タービンロータ15を回転させた後の地熱蒸気は、地熱蒸気排出管19を通って地熱タービン11外へ排出される。尚、符号26は、ノズル25に設けられたシールであり、ノズル25にて案内された地熱蒸気を漏洩させることなくタービン動翼22へ導く機能を果たす。
【0025】
ところで、地熱蒸気中にはNaClやHS、Si、CaCO等の強い腐食因子が含まれているため、上記地熱タービン設備は、その地熱タービン11等の構成機器に腐食疲労や孔食、応力腐食割れなどの腐食損傷が発生し易い腐食環境下にある。そこで、本実施形態では、地熱タービン11における防食対象部位としてのタービンロータ15とタービン動翼22のそれぞれの表面に犠牲陽極コーティング層を形成して、電気防食処理を施している。
【0026】
防食対象部位としてのタービンロータ15の表面は、例えばロータ側植込部21(図2)の嵌合外面21Aと、ロータ軸受部27(図1)の外表面である。また、防食対象部位としてのタービン動翼22の表面は、例えば動翼側植込部23の嵌合内面23Aと、動翼側植込部23のグランド面23Bと、動翼有効部24のテノン部24Aなどである。尚、ロータ側植込部21の嵌合外面21Aに動翼側植込部23の嵌合内面23Aが嵌合されて、タービン動翼22がタービンロータ15に一体化される。
【0027】
この防食対象部位29(タービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面)の全てまたは一部に犠牲陽極コーティング層31を形成する地熱タービン設備の防食装置30を図3に示す。この地熱タービン設備の防食装置30は、犠牲陽極用金属としてのMg(マグネシウム)またはMg合金の粉末粒子32と、この粉末粒子32を吹き付けるショットコーティング手段としてのショットコーティング装置33とを有して構成される。
【0028】
ここで、犠牲陽極を用いる電気防食法は、防食対象金属に、その金属よりも低い電位(腐食電位)を有する金属を犠牲陽極として接触させ、両金属の腐食電位差を利用して犠牲陽極から電子を放出させ、この犠牲電極を優先的に腐食させることで防食対象金属を防食するものである。
【0029】
地熱蒸気中にNaClやHS、Si、CaCO等が含まれた地熱タービン設備の腐食環境下では、Mgの腐食電位は−1.6Vvs.SSSCであり、Zn(亜鉛)の腐食電位−1.0Vvs.SSSCよりも低い。また、地熱タービン設備の腐食環境下におけるタービン構成部材(タービンロータ15、タービン動翼22等)の腐食電位は−0.6〜−0.8Vvs.SSSCとなる。従って、MgまたはMg合金の粉末粒子32を用いて犠牲陽極コーティング層31を形成した場合、上記地熱タービン設備の腐食環境下でも、犠牲陽極コーティング層31とタービン構成部材(タービンロータ15、タービン動翼22等)との腐食電位差が大きく維持されるので、この犠牲陽極コーティング層31によるタービン構成部材の電気防食効果が果たされる。
【0030】
また、MgまたはMg合金の粉末粒子32は、図4に示すように、直径が1μm〜100μmの球状の粉末粒子である。これにより、犠牲陽極コーティング層31の緻密性が向上する。更に、Mg合金は、MgとAl(アルミニウム)とからなる合金、MgとZnとからなる合金、またはMgとAlとZnからなる合金が単独で、もしくは混合して用いられる。
【0031】
前記ショットコーティング装置33は、図3に示すように、ショットコーティング技術を用いて、MgまたはMg合金の粉末粒子32を地熱タービン11における防食対象部位29(タービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面)に吹き付けて付着させ、この防食対象部位29に犠牲陽極コーティング層31を形成するものであり、粉末粒子供給装置34、圧縮ガス供給装置35及び噴射ノズル36を有して構成される。
【0032】
粉末粒子供給装置34は、配管37の一端側に接続され、MgまたはMg合金の粉末粒子32を貯留すると共に、この貯留した粉末粒子32を配管37に供給する。圧縮ガス供給装置35は、配管37の前記一端側の開口近傍に設置され、粉末粒子供給装置34から配管37の一端側に供給された粉末粒子32に圧縮ガス38を作用する。噴射ノズル36は、配管37の他端側に接続され、圧縮ガス38が作用した粉末粒子32を防食対象部位29(タービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面)へ噴射させる。
【0033】
この噴射ノズル36からの粉末粒子32の噴射速度について述べる。噴射されたMg等の粉末粒子32が防食対象部位29に付着して容易に堆積され易くするために、粉末粒子32の噴射速度は40m/秒〜800m/秒の範囲に調整される。この噴射速度を実現させるために、圧縮ガス供給装置35における圧縮ガス38の圧力は、噴射ノズル36の形状等を考慮して0.1MPa〜50MPaの範囲に調整される。
【0034】
また、Mgなどの粉末粒子32が防食対象部位29に付着し堆積され易くするために、図5に示すように、噴射ノズル36から噴射される粉末粒子32が防食対象部位29に対してなす噴射角度θ(つまり、噴射ノズル36と防食対象部位29とのなす角)は、10°〜90°の範囲に調整される。
【0035】
上述のショットコーティング装置33により防食対象部位29に付着され堆積されて形成される犠牲陽極コーティング層31の膜厚Tは、1μm〜2mmの範囲に設定される。これは、防食対象部位29(タービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面)の表面形状や防食期間、防食対象部位29の隙間寸法(例えばタービンロータ15のロータ側植込部21の嵌合外面21Aとタービン動翼22の動翼側植込部23の嵌合内面23Aとの隙間寸法)などを考慮したものである。
【0036】
また、防食対象部位29に形成される犠牲陽極コーティング層31は、MgもしくはMg合金の粉末粒子32を用いて単層に構成され、またはMgの粉末粒子32による層とMg合金の粉末粒子32による層とが積層されて複数層に構成される。例えば図7(A)に示すように、ショットコーティング装置33の噴射ノズル36から最初にMg合金の粉末粒子32を噴射させて、防食対象部位29にMg合金層39Aを形成する。次に、図7(B)に示すように、噴射ノズル36からMgの粉末粒子32を噴射させて、Mg合金層39Aの表面にMg層39Bを形成する。このように犠牲陽極コーティング層31は、Mg合金層39AまたはMg層39Bによる単層でもよく、Mg合金層39AとMg層39Bとをそれぞれ1層または複数層積層させた複数層構造であってもよい。
【0037】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
【0038】
(1)地熱蒸気にはNaClやHS、Si、CaCO等の強い腐食因子が存在するので、地熱タービン設備の環境下では、構成機器としての地熱タービン11のタービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面に、腐食疲労や孔食、応力腐食割れなどの腐食損傷が発生し易い。本実施形態では、地熱タービン11の防食対象部位29であるタービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面に、上述の地熱タービン設備の腐食環境下においてもタービンロータ15及びタービン動翼22との腐食電位差が大きなMgまたはMg合金を用いて、犠牲陽極コーティング層31を形成している。この結果、タービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面(防食対象部位29)を犠牲陽極コーティング層31によって良好に電気防食して、腐食損傷から保護できる。従って、これらのタービンロータ15及びタービン動翼22を備える地熱タービン11の耐用年数を向上させることができる。
【0039】
(2)犠牲陽極用金属としてのMgまたはMg合金の粉末粒子32を、ショットコーティング装置33によるショットコーティング技術を用いて防食対象部位29(タービンロータ15、タービン動翼22のそれぞれの表面)に吹き付けて犠牲陽極コーティング層31を形成するので、常温で簡易に犠牲陽極コーティング層31を形成できる。このため、作業性が良好で且つ低コスト化を実現できると共に、表面に犠牲陽極コーティング層31が形成される地熱タービン11のタービンロータ15、タービン動翼22に残留応力や熱変形などの熱影響を生じさせることがない。
【0040】
[B]第2の実施の形態(図8)
図8は、本発明に係る地熱タービン設備の防食方法における第2の実施の形態が実施される地熱タービン設備の地熱気水分離器を示し、(A)は全体側面図、(B)は図8(A)のVIIIB部を拡大して示す断面図である。
【0041】
この第2の実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる点は、MgまたはMg合金を用いた犠牲陽極コーティング層31による電気防食を施行する地熱タービン設備の構成機器が、地熱タービン11ではなく、地熱気水分離器40である点である。
【0042】
この地熱気水分離器40は、円筒形状の胴体41の軸方向中央位置に導入配管42が接続され、胴体41の軸方向に一端に地熱蒸気導出配管43が、他端に熱水導出配管44がそれぞれ接続されて構成される。この地熱気水分離器40は、導入配管42から導入された地熱蒸気と熱水の2層流体を胴体41内で気水分離し、地熱蒸気を地熱蒸気導出配管43から排出して地熱タービン11(図1)へ導き、熱水を熱水導出配管44から排出する。
【0043】
この地熱気水分離器40の胴体41を構成する胴体壁45の内面が防食対象部位であり、この内面に、MgまたはMg合金からなる粉末粒子32の犠牲陽極コーティング層31が、ショットコーティング装置33を用いて形成され、胴体壁45が電気防食される。
【0044】
従って、この第2の実施の形態においても、地熱タービン設備の構成機器を地熱気水分離器40と置き換え、防食対象部位29を、地熱気水分離器40の胴体41における胴体壁45の内面と置き換えることで、前記第1の実施の形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏する。
【0045】
[C]第3の実施の形態(図9)
図9は、本発明に係る地熱タービン設備の防食方法における第3の実施の形態が実施される地熱タービン設備の復水器の内部構成を示し、(A)は地熱タービンと共に示す全体構成図、(B)は図9(A)のIXB部を拡大して示す断面図、(C)は図9(B)のIXC部を拡大して示す側面図である。
【0046】
この第3の実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる点は、MgまたはMg合金を用いた犠牲陽極コーティング層31による電気防食を施行する地熱タービン設備の構成機器が、地熱タービン11ではなく、復水器50である点である。
【0047】
この復水器50は、入口水室51と出口水室52とが複数本の冷却水配管53で接続され、地熱タービン11に連通して構成される。冷却水配管53は、入口水室51と出口水室52とをそれぞれ構成する管板54に接続される。入口水室51に供給された冷却水が冷却水配管53内を流れる間に、地熱タービン11から復水器50内へ導入された地熱蒸気が冷却水により冷却され、凝縮されて復水になる。また、冷却水配管53内を流れて地熱蒸気と熱交換された冷却水は、出口水室52を経て排出される。
【0048】
この復水器50では、図9(B)及び(C)に示すように、地熱蒸気に接する入口水室51及び出口水室52における管板54の水室外側面55と冷却水配管53の外表面が防食対象部位29となる。これらの管板54の水室外側面55と冷却水配管53の外表面に、MgまたはMg合金からなる粉末粒子32の犠牲陽極コーティング層31が、ショットコーティング装置33を用いて形成され、これらの管板54及び冷却水配管53が電気防食される。
【0049】
従って、この第3の実施の形態においても、地熱タービン設備の構成機器を復水器50と置き換え、防食対象部位29を、入口水室51及び出口水室52における管板54の水室外側面55と冷却水配管53の外表面とに置き換えることで、前記第1の実施の形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏する。
【0050】
尚、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形してもよい。例えば、地熱タービン設備以外であっても、腐食疲労、孔食、応力腐食割れ等が発生する腐食環境で使用される他の金属機器にも本発明を適用することが可能である。また、上述の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせてもよく、またはこれらの全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0051】
11 地熱タービン(構成機器)
15 タービンロータ
21 ロータ側植込部
22 タービン動翼
23 動翼側植込部
24 動翼有効部
29 防食対象部位
30 地熱タービン設備の防食装置
31 犠牲陽極コーティング層
32 粉末粒子
33 ショットコーティング装置(ショットコーティング手段)
34 粉末粒子供給装置
35 圧縮ガス供給装置
36 噴射ノズル
37 配管
38 圧縮ガス
40 地熱気水分離器(構成機器)
41 胴体
50 復水器(構成機器)
53 冷却水配管
54 管板
D 直径
T 膜厚
θ 噴射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食損傷が発生し易い腐食環境下で使用される地熱タービン設備の構成機器の表面に、犠牲陽極用金属としてのMgまたはMg合金の粉末粒子を、ショットコーティング技術を用いて吹き付けて付着させ、前記構成機器の表面に犠牲陽極コーティング層を形成することを特徴とする地熱タービン設備の防食方法。
【請求項2】
前記MgまたはMg合金の粉末粒子は、直径が1μm〜100μmの球状の粉末粒子であることを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項3】
前記Mg合金は、MgとAlからなる合金、MgとZnからなる合金、またはMgとAlとZnからなる合金を単独で、もしくは混合して用いることを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項4】
前記犠牲陽極コーティング層は、MgもしくはMg合金の粉末粒子を用いて単層に構成され、またはMgの粉末粒子による層とMg合金の粉末粒子による層とで複数層に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項5】
前記犠牲陽極コーティング層の厚さは、1μm〜2mmの範囲に設定されることを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項6】
前記ショットコーティング技術による粉末粒子の噴射速度は、40m/秒〜800m/秒の範囲に調整されることを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項7】
前記ショットコーティング技術により噴射する粉末粒子が構成機器の表面に対してなす噴射角度は、10°〜90°に調整されることを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項8】
前記地熱タービン設備の構成機器における防食対象部位は、地熱タービンにおける動翼の動翼側植込部、動翼有効部もしくはタービンロータのロータ側植込部、地熱汽水分離器の胴体、または復水器内の管板もしくは冷却水配管であることを特徴とする請求項1に記載の地熱タービン設備の防食方法。
【請求項9】
腐食損傷が発生し易い腐食環境下で使用される地熱タービン設備の構成機器の表面を防食処理する地熱タービン設備の防食装置であって、
犠牲陽極用金属としてのMgまたはMg合金の粉末粒子と、
この粉末粒子を前記構成機器の表面に吹き付けて付着させ犠牲陽極コーティング層を形成するショットコーティング手段と、を有することを特徴とする地熱タービン設備の防食装置。
【請求項10】
前記ショットコーティング手段は、粉末粒子を供給する粉末粒子供給装置と、この粉末粒子供給装置から供給された前記粉末粒子に圧縮ガスを作用する圧縮ガス供給装置と、前記粉末粒子供給装置に配管を介して接続され、圧縮ガスが作用した前記粉末粒子を噴射させる噴射ノズルと、を有して構成されたことを特徴とする請求項9に記載の地熱タービン設備の防食装置。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の地熱タービン設備の防食方法により、表面に犠牲陽極コーティング層が形成された地熱タービン設備の構成機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−47117(P2012−47117A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190702(P2010−190702)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】