説明

地盤の異方性を調査する原位置試験装置

【課題】鉛直方向と水平方向とでは剛性が異なる地盤の異方性を原位置で直接測定・調査する原位置試験装置を提供する。
【解決手段】調査対象地盤中に掘削したボーリング孔の中へ挿入される外管と、外管の中へ内管を挿入し組み合わせて成るS波発生機構と、観測点のS波センサーおよび観測装置とからなる。外管の外周壁に窓孔が複数形成され、各窓孔の内外方向へ出入り可能にS波伝播ブロックが設置されている。内管には、突起型ブロックが設けられている。外管と内管は、ボーリング孔の中へ所定の測定深度まで挿入され、内管を操作し突起型ブロックにより各S波伝播ブロックを窓孔の外方へ押し出させてボーリング孔の孔壁面へ圧着させ、内管を通じてS波を発生させ観測点のS波センサーおよび観測装置によりS波速度測定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉛直方向と水平方向とでは剛性が異なる地盤の異方性を原位置で直接測定・調査する原位置試験装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
堆積年代が古い地盤は、隆起・沈降の履歴を受けているため、地盤の鉛直方向と水平方向とでは強度や剛性(ヤング係数)が異なる場合のあることが知られている。
一般的に言う「異方性」には、地盤のひずみレベルがかなり大きなところで発揮される「強度」と、非常に小さいひずみレベルでの「剛性」の二つが含まれる。
本発明では、鉛直方向と水平方向の剛性が異なることを対象にしているが、ここではそれを単に「異方性」と定義する。そのうち、強度については「強度異方性」と呼ばれている。
地盤の強度異方性を把握する従来技術としては、例えば室内試験が知られている。この試験は、原位置から採取した乱さない試料を用いて、鉛直方向および水平方向を軸とした強度試験を行い、それぞれの結果の比較から強度異方性を把握することは調査可能である。一方、剛性の異方性については単に「異方性」と呼ばれ、強度試験と同じような方法で鉛直方向および水平方向を軸とした試料を用い、せん断弾性波(以下、これをS波と略す場合がある。)速度を測定したり、土の弾性範囲における非常に小さな荷重を与えて変位を測定したりすることにより剛性を測定することが可能である。
【0003】
但し、上記した室内試験による測定は、研究的に行われている程度でしかない。実際の地盤では、鉛直方向と水平方向の差が構造物の設計に取り入れていないため、原位置で測定する方法に関しては、あまり必要性がなかったからである。したがって、原位置で直接地盤の異方性を測定する方法はほとんど提案されていない。
通常のPS検層では、地表面またはボーリング孔内でS波を発生させて地盤のS波速度を測定している。このS波には、せん断方向が鉛直成分となるSV波と、せん断方向が水平成分となるSH波の2種類があることは知られている。
【0004】
下記の特許文献1に開示された弾性波速度計測方法及びその装置は、弾性波による地盤調査に使用するものである。弾性波発振源と、地盤を伝搬する弾性波の速度を測定する2個の受信器とを1本のパイプに納めてあり、地盤へ突き刺すように貫入して、地盤内で直接地盤をせん断させてせん断弾性波を発生させ、S波速度を2個の受信器の波動到達時間差から求める構成である。予めボーリング孔をあける必要が無く、深度方向に連続して精度良く安価に弾性波速度測定ができると説明されている。
特許文献2に記載されたS波振幅を用いた地盤調査方法は、先端にコーンを取り付けたロッドを地盤中へ打撃貫入し、そのとき発生する弾性波を地表のS波センサーで検出し、地盤の力学特性を評価するものである。
【0005】
【特許文献1】特公平7−56513号公報
【特許文献2】特開2003−321828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示された弾性波速度計測方法及び装置は、弾性波発振源と、弾性波速度を測定する2個の受信器とを1本のパイプに納めたコンパクトな構成の点、および地盤へ突き刺すように貫入して使用する方法のユニークさは注目できる。しかし、弾性波発振源はモータで回転されるハンマーが棒を打撃して直接地盤をせん断させる構成であるから、せん断方向が水平成分となるSH波を1種類発生させるに過ぎない。そして、右回転の打撃と左回転の打撃による2個のS波を2個の受信器で検出し、2個の受信器間の距離と、波動到達時間差とから、地盤内を伝搬する弾性波速度を求める構成なので、波動伝搬に伴うノイズの混入と、それが測定値の精度に及ぼす悪影響の懸念が大きいと考えられる。
特許文献2に記載されたS波振幅を用いた地盤調査方法の場合は、先端にコーンを取り付けたロッドを地盤中へ打撃貫入する際の瞬時の弾性波をS波センサーで検出する方法であるから、いわば再現性に乏しい地盤調査方法であり、類推判断の要素が支配的となる欠点が認められる。
【0007】
本発明の目的は、ノイズ混入の懸念が少なく、また、必要な試験を同一条件下で何回も再現して行うことができ、SV波とSH波の2種類をきっちりと使い分けて、弾性波速度測定を高精度に行うことができ、地盤の異方性の有無を把握することが容易に可能であり、構造物の合理的な設計に寄与する、原位置試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る地盤の異方性を調査する原位置試験装置は、
調査対象地盤1中に掘削したボーリング孔2の中へ挿入される外管3と、前記外管3の中へほぼ同心配置に内管4を挿入し組み合わせて成るS波発生機構5と、観測点のS波センサー12、13および観測装置15とからなる。
前記S波発生機構5における外管3の外周壁に窓孔が複数形成され、各窓孔には、同窓孔の内外方向へ出入り可能にS波伝播ブロック6が設置されている。
前記内管4には、前記S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出す突起型ブロック8が各S波伝播ブロック6と対応する配置に設けられている。
前記S波発生機構5の外管3と内管4は、各S波伝播ブロック6が窓孔の外側開口面よりも内方へ引っ込んだ格納状態でボーリング孔2の中へ挿入され、所定の測定深度において内管4を操作し突起型ブロック8により各S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出させボーリング孔2の孔壁面へ圧着させ、内管4を通じてS波を発生させ観測点のS波センサー12、13および観測装置15によりS波速度測定を行う。測定後には内管4を操作して突起型ブロック8を退避させ、各S波伝播ブロック6を窓孔の開口面よりも内方の位置へ復元・格納させる。そして、S波発生機構5たる外管3および内管4は地上へ引き揚げられ、又は異なる測定位置へ移動されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した地盤の異方性を調査する原位置試験装置において、
S波発生機構5のS波伝播ブロック6は、水平回転において共通する一方の端部を垂直方向の回転軸7により外管3の窓孔の内外方向へほぼ水平方向に回転して出入り可能に設置され、且つ復元力を与えるバネ等の復元要素が設置されている。S波伝播ブロック6の内周面6aには、前記水平回転において同一の方向に、前記回転軸7の位置を基点として押し出しリフトが高くなる勾配面が形成されている。内管4の突起型ブロック8は、前記S波伝播ブロック6に接触しない退避位置から水平回転を始めて、同S波伝播ブロック6の内周面6aの終端に至る手前位置までの回転で、S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出しボーリング孔2の孔壁面へ圧着させる有効高さを有する構成とされている。前記内管4の操作で突起型ブロック8を逆回転させ退避させると、各S波伝播ブロック6に働く前記復元力により各S波伝播ブロック6は窓孔の開口面よりも内方の元位置へ復元し格納される構成である。
【0010】
請求項3に記載した発明は、請求項1に記載した地盤の異方性を調査する原位置試験装置において、
S波発生機構5のS波伝播ブロック6は、外管3の窓孔へ内外方向へ略水平に出入り可能に設置され、且つ復元力を与えるバネ等の復元要素16が設置されている。S波伝播ブロック6の内周面6bは上・下方向に傾斜して押し出しリフトが高くなる勾配面に形成されている。内管4の突起型ブロック8は、前記S波伝播ブロック6に接触しない上方又は下方の退避位置から上・下方向に移動させると、同S波伝播ブロック6の内周面6bの終端に至る手前位置までの移動でS波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出しボーリング孔2の孔壁面へ圧着させる有効高さを有する構成とされている。前記内管4の操作で突起型ブロック8を逆方向へ移動させ退避させると、各S波伝播ブロック6に働く前記復元力により各S波伝播ブロック6は窓孔の開口面よりも内方の元位置へ復元し格納される構成である。
【0011】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した地盤の異方性を調査する原位置試験装置において、
S波発生機構5の内管4を通じて発生させるS波は、内管4へ上下方向の打撃を加えて発生させるせん断方向が鉛直成分となるSV波、又は内管4へ水平方向の回転を加えて発生させるせん断方向が水平成分となるSH波の2種類とされる。これら2種類のS波を、観測点の2点の振動センサー12、13および観測装置15で観測を行い、同じ波形の時間差からSV波とSH波のS波速度を算定して地盤の異方性を調査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の原位置試験装置は、調査対象地盤1中にボーリング孔2を掘削し、その中へS波発生機構5を挿入することにより簡単、容易に実施できる。しかも同一の測定位置において必要なだけ同じ試験を繰り返す(再現する)ことができ、試験の精度、確実性を高めることができる。即ち、S波発生機構5(外管3)の挿入深度の位置を固定しておいて、内管4を回転し、或いは上下動させる操作により、各S波伝播ブロック6をボーリング孔2の孔壁面へ圧着させてS波の伝搬を確実にできる。その上で、S波発生機構5の内管4へ上下方向の打撃20を加えてSV波を、又は水平方向の回転21を加えてSH波を発生させると、それぞれ各S波伝播ブロック6を通じて地盤中に伝播するので、そのS波を観測点の2点の振動センサー12、13および観測装置15でリアルタイムに観測でき、原位置地盤の異方性を直接に正確に測定することができる。そして、ノイズが混入するおそれは殆どない。
しかも、測定後には、内管4を逆操作することにより、各S波伝播ブロック6を再び窓孔の開口面よりも内方の元位置へ格納させることができるから、S波発生機構5たる外管3および内管4はそのまま地上へ引き揚げて回収することができる。或いはボーリング孔2内で測定深度を変えた異なる測定位置において、原位置地盤の異方性を必要とされる多点にわたり効率よく調査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
調査対象地盤1中に掘削したボーリング孔2の中へ挿入される外管3と、前記外管3の中へほぼ同心配置に内管4を挿入し組み合わせて成るS波発生機構5と、観測点のS波センサー12、13および観測装置15とで構成する。
前記S波発生機構5における外管3の外周壁に窓孔が複数形成され、各窓孔には、同窓孔の内外方向へ出入り可能にS波伝播ブロック6が設置される。
前記内管4には、前記S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出す突起型ブロック8が各S波伝播ブロック6と対応する配置に設けられる。
前記S波発生機構5(外管3と内管4)は、各S波伝播ブロック6が外管3の窓孔の開口面よりも内方へ引っ込んだ格納状態でボーリング孔2の中へ挿入され、所定の測定深度において内管4を操作し突起型ブロック8により各S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出させボーリング孔2の孔壁面へ圧着させる。そして、内管4を通じてS波を発生させ、観測点のS波センサー12、13および観測装置15によりS波速度測定を行う。測定後には内管4を操作して突起型ブロック8を退避させ、各S波伝播ブロック6を窓孔の開口面よりも内方の位置へ復元・格納させ、S波発生機構5(外管3および内管4)は地上へ引き揚げ、又は異なる測定位置へ移動する。
【実施例1】
【0014】
以下に、本発明を図示した実施例により説明する。
図1〜図3に示した実施例は、原位置試験装置のS波発生機構5が、内管4を水平に回転操作して各S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出させボーリング孔2の孔壁面へ圧着させて地盤の異方性を測定、調査とする構成である場合を示している。
このS波発生機構5は、調査対象地盤1中に掘削したボーリング孔2の中へ挿入される外管3と、前記外管3の中へほぼ同心配置に内管4を挿入して組合せた構成とされている。ボーリング孔2は一例としてコアボーリング法により地中数mの深さまで掘削される。その孔径は、S波発生機構5(の外管3)の挿入に支障ないように、S波発生機構5の外管3の外径(通例70mm程度)よりも少し大きい90mm程度の大きさの孔径で掘削されている。
【0015】
S波発生機構5の外管3の外周壁(管壁)に、一例として図1A、Bに示したS波伝播ブロック6の配列に等しい配置と個数の窓孔が同数形成され、各窓孔に1個ずつの割合で、同窓孔の内外方向へ出入り自在にS波伝播ブロック6…が設置されている。
図1〜図3に示した実施例の場合、各S波伝播ブロック6は、水平方向の回転において共通する一方の端部が、垂直方向の回転軸7により、外管3の窓孔の内外方向へほぼ水平方向に回転して出入り可能に設置されている。その上で、S波伝播ブロック6に元の格納位置への復元力を与える捩りコイルバネ、又はスプリングバック機能を働く板バネ等々の復元要素が回転軸7に巻き付けられて、又はS波伝播ブロック6に直接てこの作用を働く構成で設置されている(図1A〜図3A)。
【0016】
S波伝播ブロック6の内周面6aは、前記回転軸7を中心とする水平回転において共通する一方向に、前記回転軸7の位置を基点(又は原点)として漸次押し出しリフトが高くなる形態の押し出し勾配面が円弧形状に形成されている。しかも、前記押し出し勾配面のリフト勾配は、後述する内管4の突起型ブロック8が前記S波伝播ブロック6に接触しない退避位置から回転を始めて、同S波伝播ブロック6の内周面6aの終端に至る手前位置までの回転(図2Aを参照)で、S波伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出してボーリング孔2の孔壁面へS波の伝搬に必要充分な状態に圧着させるように設計して構成されている。
【0017】
一方、内管4には、上記の伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出す突起型ブロック8が、各伝播ブロック6と対応する配置に、即ち、図1A〜図3Aに示すように内管4が水平な一方向に回転すると対応する配置の伝播ブロック6と接触して、各伝播ブロック6の内周面6aに形成した上記押し出し勾配面の押し出しリフトにしたがい、S波伝播ブロック6を回転軸7を中心として回転させ窓孔の外方向へ押し出す構成で設置されている。
【0018】
以下に、外管3と内管4とで上記のように構成されたS波発生機構5を、地盤の異方性を調査する原位置試験装置として使用する方法を、図5および図6と共に説明する。
先ず調査対象地盤1中に、ボーリング孔2および該ボーリング孔2から一定の距離を隔てた位置に2本の観測孔10、11を掘削する。前記2本の観測孔10、11にはそれぞれS波速度測定用の振動センサー12、13を所定の深度まで挿入して設置し、それぞれは地上の観測装置15(パーソナルコンピュータなど)とリード線18により結線して準備を行う。
【0019】
一方、ボーリング孔2の中へは、上記のS波発生機構5を挿入し設置する。
即ち、外管3の各伝播ブロック6…が窓孔の開口面よりも内方へ引っ込んだ状態(図1Aを参照)にして、ボーリング孔2の中へ挿入してゆく。S波発生機構5がボーリング孔2内の所定の測定深度に達した段階で、先ずは外管3を、地上の図示を省略した例えばチャッキング機構付きの櫓設備などで位置決め固定する。次に、内管4を図2Aの場合には水平な反時計回り方向に回転する操作を行い、もって同内管4の突起型ブロック8で、各伝播ブロック6を窓孔の外側へ押し出させ、ボーリング孔2の孔壁面へS波の伝搬が可能な状態に圧着させる。
【0020】
以上の準備が整った段階で、内管4を通じてS波を発生させS波速度測定を行う。
内管4を通じてS波を発生させる手法として、先ず図5には、地上に突き出ている内管4へ上下方向の打撃20を加えてせん断方向が鉛直成分となるSV波を発生させ、これを内管4から突起型ブロック8、伝播ブロック6の経路で地盤へ伝播させる。或いは図6に示すように、内管4へ水平方向の回転21を加えてせん断方向が水平成分となるSH波を発生させ、これをやはり内管4から突起型ブロック8、伝播ブロック6の経路で地盤へ伝播させる。
前記した2種類のS波(SV波とSH波)はそれぞれ、上述した観測点の2点の振動センサー12と13で受信して、地上の観測装置15で記録・保存すると共に、同じ波形の時間差からSV波とSH波のS波速度を算定する処理を行い、地盤の異方性を調査するのである。
【0021】
上記のようにして当該測定位置での測定を終了した後には、先ずS波発生機構5の内管4を当初操作とは逆向きに操作して、即ち図3Aに示すように水平な時計回り方向に回転操作し、各伝播ブロック6を突起型ブロック8による圧縮から解放し、各々の復元要素の働きにより窓孔の開口面よりも内方の元位置復元させ格納させる(図3A、Bを参照)。
しかる後に、S波発生機構5(外管3および内管4)を地上へ引き揚げて回収する。或いは同じボーリング孔2内の異なる深度の測定位置へ設置し直し、又は異なるボーリング孔2へ挿入して更なる地盤の異方性調査の目的に供せられる。
【0022】
上記したように使用されるので、S波発生機構5の外管3および内管4の材質は、S波の伝搬に好ましい鋼などの金属製、更に言えば錆びに強いステンレス鋼などにより製作される。この点は、以下に説明する実施例2にも共通する事項である。
【実施例2】
【0023】
次に、図4A〜Cに示した実施例は、S波発生機構5の内管4を上下方向に直動させる操作により外管3の各伝播ブロック6を窓孔の外方へ押し出させボーリング孔2の孔壁面へ圧着させて地盤の異方性を測定、調査する構成である場合を示している。
本実施例のS波発生機構5は、外管3の各伝播ブロック6が、図4Cに詳示したように窓孔内を放射方向(内外方向)へほぼ水平に滑って出入りする構成とされている。他方、内管4とその突起型ブロック8は上・下方向へ移動させる構成である。
【0024】
本実施例の場合は、図4Aに示したように、内管4は、S波伝播ブロック6より上方の位置を、S波伝播ブロック6に接触しない退避位置とされている。もっとも、S波伝播ブロック6より下方の位置を、S波伝播ブロック6に接触しない退避位置とする構成で実施することもできる。
外管3のS波伝播ブロック6は、上記したように窓孔へ略水平に出入り可能に設置されていると共に、復元力を与えるバネ等の復元要素16が設置されている。図4Cに示した復元要素16は圧縮用コイルバネであるが、この限りではない。皿バネや板バネなども適宜に採用可能である。
【0025】
S波伝播ブロック6の内周面6bは、図示例の場合、下向きに出っ張る形に傾斜して押し出しリフトが高くなる勾配面に形成されている。もっとも、逆に内周面6bを下向きに出っ張る形に傾斜させて押し出しリフトが高くなる勾配面に形成した構成で同様に実施することも可能である。
内管4の突起型ブロック8は、前記S波伝播ブロック6に接触しない上方の退避位置から下向き方向へ移動させると、先ずはS波伝播ブロック6の内周面6bとの接触を開始し、同内周面6bの傾斜勾配にしたがって押し出しを開始し、同内周面6bの終端に至る手前の位置(図4Bを参照)までの移動でS波伝播ブロック6を窓孔の外方へ必要充分に押し出してボーリング孔2の孔壁面へ圧着させS波の伝播を可能にする有効高さを有するように設計して構成されている。
【0026】
したがって、地盤の異方性調査を終了した後、前記内管4を操作して突起型ブロック8を上向き方向へ移動させ退避させると、S波伝播ブロック6に働く前記復元要素16の復元力により、各S波伝播ブロック6は窓孔の開口面よりも内方の元位置へ復元し格納されるのである。図4C中の符号17はS波伝播ブロック6の格納位置を規定する位置決めストッパである。
【0027】
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例の限りではない。本発明の要旨及び技術的思想を逸脱しない範囲で、いわゆる当業者が必要に応じて行う設計変更や変形、応用の態様で種々に実施されるものであり、それらを本発明が包含することを主張する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】A、Bは本発明のS波発生機構をボーリング孔内へ挿入した状態を概念的に示す水平断面図と縦断面図である。
【図2】A、BはS波発生機構をボーリング孔内で各伝播ブロックが孔壁面へ圧着するようにした使用状態を概念的に示す水平断面図と縦断面図である。
【図3】A、BはS波発生機構をボーリング孔内から引き揚げられる状態にした構成を概念的に示す水平断面図と縦断面図である。
【図4】A、Bは異なる実施例のS波発生機構をボーリング孔内へ挿入した状態で概念的に示す水平断面図と縦断面図である。CはS波伝播ブロックの出入り可能構造を示す水平断面図である。
【図5】本発明の原位置試験装置を使用してSV波により地盤の異方性を調査する方法を概念的に示す断面図である。
【図6】本発明の原位置試験装置を使用してSH波により地盤の異方性を調査する方法を概念的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 調査対象地盤
2 ボーリング孔
3 外管
4 内管
5 S波発生機構
6 S波伝播ブロック
20 上下方向の打撃
21 水平回転
12、13 S波センサー
6a、6b S波伝播ブロック
7 回転軸
15 観測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調査対象地盤中に掘削したボーリング孔の中へ挿入される外管と、前記外管の中へほぼ同心配置に内管を挿入し組み合わせて成るS波発生機構と、観測点のS波センサーおよび観測装置とからなり、
前記S波発生機構における外管の外周壁に窓孔が複数形成され、各窓孔には、同窓孔の内外方向へ出入り可能にS波伝播ブロックが設置されており、
前記内管には、前記S波伝播ブロックを窓孔の外方へ押し出す突起型ブロックが各S波伝播ブロックと対応する配置に設けられており、
前記S波発生機構の外管と内管は、各S波伝播ブロックが窓孔の開口面よりも内方へ引っ込んだ格納状態でボーリング孔の中へ挿入され、所定の測定深度において内管を操作し突起型ブロックにより各S波伝播ブロックを窓孔の外方へ押し出させボーリング孔の孔壁面へ圧着させること、および内管を通じてS波を発生させ、観測点のS波センサーおよび観測装置によりS波速度測定を行い、測定後には内管を操作して突起型ブロックを退避させ、各S波伝播ブロックを窓孔の開口面よりも内方の位置へ復元・格納させ、S波発生機構たる外管および内管は地上へ引き揚げられ、又は異なる測定位置へ移動されることを特徴とする、地盤の異方性を調査する原位置試験装置。
【請求項2】
S波発生機構のS波伝播ブロックは、水平回転において共通する一方の端部を垂直方向の回転軸により外管の窓孔の内外方向へほぼ水平方向に回転して出入りが可能に設置され、且つ復元力を与えるバネ等の復元要素が設置されており、S波伝播ブロックの内周面には前記水平回転において同一の方向に前記回転軸の位置を基点として押し出しリフトが高くなる勾配面が形成されており、内管の突起型ブロックは前記S波伝播ブロックに接触しない退避位置から水平回転を始めて同S波伝播ブロックの内周面の終端に至る手前位置までの回転でS波伝播ブロックを窓孔の外方へ押し出しボーリング孔の孔壁面へ圧着させる有効高さを有する構成とされ、前記内管の操作で突起型ブロックを逆回転させて退避させると、各S波伝播ブロックに働く前記復元力により各S波伝播ブロックは窓孔の開口面よりも内方の元位置へ復元し格納される構成であることを特徴とする、請求項1に記載した地盤の異方性を調査する原位置試験装置。
【請求項3】
S波発生機構のS波伝播ブロックは、外管の窓孔へ内外方向へ略水平に出入り可能に設置され、且つ復元力を与えるバネ等の復元要素が設置されており、S波伝播ブロックの内周面は上・下方向に傾斜して押し出しリフトが高くなる勾配面に形成されており、内管の突起型ブロックは前記S波伝播ブロックに接触しない上方又は下方の退避位置から上・下方向に移動させると同S波伝播ブロックの内周面の終端に至る手前位置までの移動でS波伝播ブロックを窓孔の外方へ押し出しボーリング孔の孔壁面へ圧着させる有効高さを有する構成とされ、前記内管の操作で突起型ブロックを逆方向へ移動させ退避させると、各S波伝播ブロックに働く前記復元力により各S波伝播ブロックは窓孔の開口面よりも内方の元位置へ復元し格納される構成であることを特徴とする、請求項1に記載した地盤の異方性を調査する原位置試験装置。
【請求項4】
S波発生機構の内管を通じて発生させるS波は、内管へ上下方向の打撃を加えて発生させるせん断方向が鉛直成分となるSV波、又は内管へ水平方向の回転を加えて発生させるせん断方向が水平成分となるSH波の2種類とされ、これら2種類のS波を観測点の2点の振動センサーおよび観測装置で観測を行い、同じ波形の時間差からSV波とSH波のS波速度を算定して地盤の異方性を調査することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した地盤の異方性を調査する原位置試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−57472(P2007−57472A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245756(P2005−245756)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】