説明

垂直磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】 高S/N比の実現に適した粒径分布を持ち、互いに孤立して一様に分布する磁性粒子を有する垂直磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 基板の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層が配置されている。下地層の上に、中間層が配置されている。中間層は、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成されている。結晶粒の各々の上面は、上方に向かって凸状の形状を有する。中間層の上に、磁気記録層が配置されている。磁気記録層内では、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体及びその製造方法に関し、特に磁気記録層の磁性粒子が非磁性領域で相互に隔離された垂直磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記憶装置、例えば、ハードディスクドライブ装置は、他の記憶装置に比べて、記憶容量1ビット当たりの単価が安く、大容量化を図ることが容易である。このため、近年、パーソナルコンピュータ等に大量に使用されている。さらに、デジタル音響画像関連機器での利用が牽引役となって、飛躍的な需要の増大と共に、ビデオ信号の記録のためにさらなるハードディスクドライブ装置の大容量化が望まれている。
【0003】
大容量化と低価格化とを両立するために、磁気記録媒体の記録密度を高めることが望まれる。記録密度が高まると、ハードディスクドライブ装置に格納される磁気記録媒体の枚数を削減し、それに伴って磁気ヘッド数を削減することが可能になる。これにより、部品数の削減による低価格化を図ることが可能になる。
【0004】
磁気記録媒体の高記録密度化の手法として、高分解能化と低ノイズ化による信号対雑音比(S/N比)の向上が挙げられる。低ノイズ化は、従来、記録層を構成する磁性粒子の微細化と磁性粒子の磁気的な孤立化により促進されてきた。
【0005】
垂直磁気記録媒体は、基板上に軟磁性材料からなる軟磁性裏打層と、その上に記録層が積層されて構成されている。記録層は通常、CoCr基合金からなり、基板を加熱した状態で、スパッタリング法により形成される。このとき、CoリッチなCoCr基合金の多数の磁性粒子が形成されると共に、磁性粒子の粒界に、非磁性であるCrが偏析する。このため、磁性粒子間の磁気的な孤立化が図られる。
【0006】
一方、軟磁性裏打層は、再生の際に磁気ヘッドに流れ込む磁束の磁路の一部を形成する。裏打層を結晶質の軟磁性材料で形成すると、磁区が形成されることによりスパイクノイズが発生する。スパイクノイズの発生を抑制するために、裏打層は、磁区を形成し難い非晶質あるいは微結晶体により構成することが好ましい。裏打層の結晶化を回避するために、記録層を形成する際の加熱温度が制限される。
【0007】
そこで、高温の加熱処理を行うことなく、記録層の磁性粒子の孤立化を図るために、CoCr基合金からなる磁性粒子を、SiO等の酸化物、窒化物、及びカーボン等の非磁性の母相により互いに離隔した構造の記録層が検討されている。さらに、磁性粒子のc軸が基板面に垂直方向に成長した柱状構造を形成すると共に、磁性粒子をほぼ等間隔に成長させるために、記録層の下地にRuからなる下地層を形成することが提案されている(例えば、下記の特許文献1及び2参照)。
【0008】
単にRuからなる下地層を配置すると、記録層の磁性粒子は下地層の結晶粒の表面に結晶成長する。下地層の結晶粒の大きさや配置によっては、記録層の磁性粒子同士が結合して、十分な磁性粒子の孤立化を図ることができない。また、磁性粒子の粒径が大きくなり、その結果、媒体ノイズが増大する場合がある。
【0009】
一方、隣接する磁性粒子同士を略等距離に形成しようとすると、Ruからなる下地層の下に、シード層を設け、下地層の結晶粒の形成を制御する必要がある。下地層の結晶粒を、好ましい大きさ及び分布にするために、従来、シード層を積層体で構成することが必要とされていた。シード層を積層体で構成すると、シード層が厚膜化してしまう。シード層が厚くなると、軟磁性裏打層と記録層との距離が離れてしまうため、記録の際に必要なヘッド磁界を増加させなければならない。またヘッド磁界の分布が拡大し、隣接トラックの情報を消去してしまうサイドイレーズ等の書き滲みの問題も生じる。
【0010】
下記の特許文献3及び4に、下地層を、下部中間層と上部中間層との2層構造とした構造が開示されている。下部中間層は、Ru、RuCo合金、またはRuCr合金で形成され、上部中間層は、Si酸化物、Al酸化物、RuAg合金、またはRuCu合金で形成される。この構造を採用することにより、磁性粒子の結晶配向性を高め、かる磁性粒子同士を十分に分離させることができる。これにより、高いS/N比を得ることができる。
【0011】
【特許文献1】特開2003−217107号公報
【特許文献2】特開2003−346334号公報
【特許文献3】特開2005−093040号公報
【特許文献4】特開2005−108268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高S/N比の実現に適した粒径分布を持ち、互いに孤立して一様に分布する磁性粒子を有する垂直磁気記録媒体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一観点によると、
基板の上に配置され、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層と、
前記下地層の上に配置され、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成され、該結晶粒の各々の上面が上方に向かって凸状の形状を有する中間層と、
前記中間層の上に配置され、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている磁気記録層と
を有する垂直磁気記録媒体が提供される。
【0014】
本発明の他の観点によると、
基板の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層を形成する工程と、
前記下地層の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成され、該結晶粒の各々の上面が上方に向かって凸状の形状を有する中間層を形成する工程と、
前記中間層の上に、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている磁気記録層を形成する工程と
を有する垂直磁気記録媒体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に、実施例による磁気記録媒体の断面図を示す。実施例による磁気記録媒体は、基板1の上に、軟磁性裏打層2、シード層3、下地層4、中間層5、磁気記録層6、保護層7、及び潤滑層8がこの順番に積層された構造を有する。
【0017】
基板1として、例えば、プラスチック基板、結晶化ガラス基板、強化ガラス基板、シリコン基板、及びアルミニウム合金基板等を用いることができる。磁気記録媒体がテープ状である場合には、基板1として、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド等のフィルムを用いることができる。本実施例では、製造段階で基板加熱を行わないため、樹脂製の基板を用いることができる。
【0018】
軟磁性裏打層2は、Fe、Co、及びNiからなる群より選択された少なくとも1つの元素と、Al、Si、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Nb、C、及びBからなる群より選択された少なくとも1つの元素とを含む非晶質または微結晶の合金で形成され、その厚さは30nm〜2μmの範囲内である。
【0019】
軟磁性裏打層2は、記録ヘッドから発生するほぼすべての磁束を吸収するためのものであり、飽和記録するために、軟磁性裏打層2の飽和磁束密度Bsと膜厚との積を大きくすることが好ましい。このために、飽和磁束密度Bsが1.0T以上の軟磁性材料を用いることが好ましい。このような軟磁性材料の例として、FeSi、FeAlSi、FeTaC、CoZrNb、CoCrNb、NiFeNb、FeCoB、FeCoCrB、FeCoNiB、FeCoNiCrB等が挙げられる。さらに、高転送レートでの書き込み特性の観点から、高周波における透磁率が高い材料を用いることが好ましい。
【0020】
また、軟磁性裏打層2は、これらの合金から選択された2種類以上の合金からなる層を含む積層構造としてもよい。
【0021】
軟磁性裏打層2は、例えば、めっき、スパッタリング、蒸着、化学気相成長(CVD)等により形成することができる。
【0022】
シード層3は、非晶質のTa、Ti、C、Mo、W、Re、Os、Hf、Mg、Pt、またはこれらの金属の合金、結晶性のTi、Re、Rh、Ni、Pt、Pd、Ag、Cu、NiCr、NiFe、NiFeCr、またはNiFeSiで形成され、その厚さは1.0nm〜10nmの範囲内である。シード層3は、この上に形成される下地層4の結晶粒のc軸を基板面に垂直な方向に配向させると共に、面内方向に関して結晶粒を一様に分布させる機能を持つ。
【0023】
下地層4の結晶配向性の観点から、シード層3を、Ta、または面心立方(fcc)構造の結晶性膜とすることが好ましい。また、サイドイレーズ等を防止するために、軟磁性裏打層2と磁気記録層6とを近づけることが好ましい。このために、シード層3の厚さを1nm〜5nmの範囲内とすることが好ましい。
【0024】
下地層4は、Ru、またはRuを主成分とするRu−X合金(Xは、Co、Cr、Fe、Ni、及びMnからなる群より選択された少なくとも1つの元素)で形成され、その厚さは2nm〜30nmである。Ru及びRu−X合金の結晶構造は六方最密(hcp)構造である。下地層4は、柱状の多数の結晶粒4aにより構成される。結晶粒4aの平均粒径は、2nm〜12nmの範囲内にすることが好ましく、5nm〜10nmの範囲内にすることがより好ましい。
【0025】
下地層4を2nmより薄くすると、下地層4の結晶性が劣化する。逆に30nmよりも厚くすると、磁気記録ヘッドと軟磁性裏打層2との間の距離が離れすぎて、記録磁界の低減、書き滲み等の問題が発生する。さらに、磁気記録層6の結晶粒を孤立化させるという観点から、下地層4の厚さを3nm〜20nmの範囲内とすることが好ましい。
【0026】
下地層4をRu−X合金のようなhcp構造の材料で形成することにより、磁気記録層6のhcp構造を有する磁性粒子の磁化容易軸を基板面に対して垂直方向に配向させることができる。
【0027】
中間層5は、下地層4の表面上に隈なく分布する複数の結晶粒5aにより構成される。各結晶粒5aの上面は、上方に向かって凸状の形状を有する。各結晶粒5aの高さ(中間層5の厚さ)は、例えば5nmである。中間層5は、下地層4と同様に、Ru、またはRuを主成分とするRu−X合金(Xは、Co、Cr、Fe、Ni、及びMnからなる群より選択された少なくとも1つの元素)で形成され、その厚さ(結晶粒5aの高さ)は2nm〜10nmの範囲内である。また、中間層5はカーボンを含み、その濃度は、下地層4のカーボン濃度よりも高い。
【0028】
中間層5を2nmよりも薄くすると、各結晶粒5aの結晶性が劣化する。逆に、10nmよりも厚くすると、磁気記録ヘッドと軟磁性裏打層2との間の距離が離れすぎて、記録磁界の低減、書き滲み等の問題が発生する。さらに、磁気記録層6の結晶粒を孤立化させるという観点から、中間層5の厚さを3nm〜7nmの範囲内とすることが好ましい。
【0029】
磁気記録層6は、磁性粒子6aと、非磁性領域6bとで構成され、その厚さは6nm〜20nmの範囲内である。磁性粒子6aは、中間層5の結晶粒5aの上面の頂点を含む領域上に配置されて基板面内に離散的に分布し、その各々は柱状構造を有する。非磁性領域6bは、中間層5の結晶粒界に沿って配置されて、磁性粒子6aを取り囲み、隣り合う磁性粒子6a同士を物理的に離隔させる。このように、磁気記録層6は、いわゆる「グラニュラ構造」を有する。
【0030】
磁性粒子6aは、Ni、Fe、Co、Ni系合金、Fe系合金、またはCo系合金で形成してもよい。Co系合金として、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPt−M(Mは、B、Mo、Nb、Ta、W、Cu、またはこれらの金属の合金)が挙げられる。
【0031】
磁性粒子6aの磁化容易軸は、膜厚方向と平行である。磁性粒子6aを形成する強磁性材料がhcp構造を有する場合には、膜厚方向、すなわち結晶成長方向が[001]方向となることが好ましい。
【0032】
磁性粒子6aがCoCrPt合金で形成される場合には、Co含有量を50原子%〜80原子%の範囲内とし、Cr含有量を5原子%〜20原子%の範囲内とし、Pt含有量を15原子%〜30原子%の範囲内とすることが好ましい。Pt含有量を、従来一般的であった含有量よりも多くすることにより、垂直異方性磁界を増加させ、保磁力を高めることができる。
【0033】
非磁性領域6bは、磁性粒子6aを形成する強磁性材料と固溶しない、あるいは化合物を形成しない非磁性材料で形成される。例えば、Si、Al、Ta、Zr、Y、Ti、Cr及びMgからなる群より選択された少なくとも1つの元素と、O、N、及びCからなる群より選択された少なくとも1つの元素との化合物で形成される。このような材料として、例えばSiO、Al、Ta、ZrO、Y、TiO、MgO等の酸化物、Si、AlN、TaN、ZrN、TiN、Mg等の窒化物、SiC、TaC、ZrC、TiC等の炭化物が挙げられる。
【0034】
複数の磁性粒子6aが、非磁性領域6bによって物理的に相互に離隔されるので、磁性粒子6a間の磁気的相互作用が低減される。その結果、媒体ノイズを低減させることができる。
【0035】
非磁性領域6bの体積密度は、磁気記録層6の体積を基準として、2体積%〜40体積%の範囲内とすることが好ましい。非磁性領域6bの体積密度が2体積%よりも低くなると、磁性粒子6a間を十分離隔することができなくなり、磁性粒子6aの磁気的な孤立化が不十分になる。非磁性領域6bの体積密度が40体積%を超えると、磁気記録層6の飽和磁化が著しく低下し、再生時の出力が低下する。なお、磁性粒子6aの孤立化、及び垂直配向性の分散の観点から、非磁性領域6bの体積密度を8体積%〜30体積%の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
保護層7は、例えば、アモルファスカーボン、水素化カーボン、窒化カーボン、または酸化アルミニウム等で形成され、その厚さは0.5nm〜15nmの範囲内である。
【0037】
潤滑層8は、例えば、パーフルオロポリエーテルを主鎖とする潤滑剤で形成され、その厚さは0.5nm〜5nmの範囲内である。潤滑剤として、例えば、Monte Fluos社から提供されているZDol、Z25、アウジモント社から提供されているZテトラオール、AM3001等を使用することができる。なお、保護層7の材料によっては、潤滑層8を省略できる場合もある。
【0038】
次に、実施例による磁気記録媒体の製造方法について説明する。まず、基板1の表面を洗浄し、乾燥させた後、軟磁性裏打層2を、無電解めっき、電気めっき、スパッタリング、真空蒸着等により形成する。DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、軟磁性裏打層2の上にシード層3を形成する。スパッタリングガス導入前に、スパッタリングチャンバ内を、1×10−7Pa程度の超高真空状態になるまで真空排気しておく。スパッタリングガスとしてArを用い、スパッタリング時の圧力を0.4Paとする。例えば、2〜4秒程度で所望の膜厚のシード層3が堆積するように、DCパワーを調節する。
【0039】
シード層3の成膜時に基板加熱は行わない。これにより、軟磁性裏打層2の結晶化または微結晶の肥大化を抑制することができる。なお、軟磁性裏打層2の結晶化または微結晶の肥大化が生じない程度、例えば250℃以下の温度まで基板加熱を行ってもよい。逆に、基板を冷却してもよい。例えば、−100℃またはこれよりも低い温度まで冷却してもよい。
【0040】
上述の基板加熱または基板冷却条件は、下地層4、中間層5、及び磁気記録層6の成膜時にも適用される。
【0041】
シード層3の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、下地層4を形成する。スパッタリングガスとしてArを用い、スパッタリング時の圧力を2.66Pa〜26.6Paの範囲内とする。堆積速度が2nm/sよりも速く、かつ8nm/s以下になるように、DCパワーを制御する。この条件で、高い結晶配向性と均一な粒径を有する下地層4が得られる。
【0042】
下地層4の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、中間層5を形成する。スパッタリングガスとしてArを用い、スパッタリング時の圧力を2.66Pa〜26.6Paの範囲内とする。堆積速度が0.1nm/sよりも速く、かつ2nm/s以下になるように、DCパワーを制御する。すなわち、下地層4の堆積時に比べて、DCパワーを低下させることにより、成膜速度を遅くする。例えば、DCパワーを100Wとする。
【0043】
成膜速度を遅くすると、各結晶粒5aの上面は、上方に向かって凸状になる。すなわち、各結晶粒5aの平断面の寸法は、下地層4の上面から離れるに従って小さくなる。下地層4の上面においては、図2Aに示すように、結晶粒5aが面内に隈なく配置されているが、下地層4の上面よりも高い位置における切断面においては、図2Bに示すように、結晶粒5aが相互に離れて分布する。中間層5の厚さ方向の中央における切断面で、相互に隣り合う結晶粒5aの間隔が1nm〜2nmの範囲内になるように、中間層5を形成することが好ましい。図2Bの切断面よりも高い位置における切断面では、図2Cに示すように、結晶粒5aの寸法が、より小さくなる。
【0044】
下地層4の成膜速度は、その表面がほぼ平坦になる条件とし、中間層5の成膜時には、上述の構造の中間層5が形成されるように、成膜速度を遅くすればよいこのように、成膜速度、具体的にはDCパワーを調整することにより、所望の形状の結晶粒からなる多結晶膜を形成することができる。
【0045】
中間層5の形成時の圧力を2.66Paよりも低くすると、結晶粒5aの間に空隙部が形成されず、中間層5が連続体になってしまう。また、圧力を26.6Paよりも高くすると、結晶粒5a内にAr原子が取り込まれ、結晶性が低下してしまう。
【0046】
中間層5を形成した後、その表面をカーボンを含むガス、例えば二酸化炭素(CO)に晒す。例えば、二酸化炭素の圧力を0.2Paとし、COに晒す時間(暴露時間)を6秒とする。これにより、中間層5の表面にカーボンが吸着される。
【0047】
その後、中間層5の上に、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、磁気記録層6を形成する。ターゲットとして、磁性粒子6aの磁性材料と、非磁性領域6bの非磁性材料とが複合化されたものを用いる。スパッタリングガスとして、Ar等の不活性ガスを用いる。また、非磁性領域6bが酸化物である場合には、Arガスに酸素ガスを混合してもよい。非磁性領域6bが窒化物である場合には、Arガスに窒素ガスを混合してもよい。スパッタリング時の圧力は、2Pa〜8Paの範囲内とすることが好ましく、3Pa〜6Paの範囲内とすることがより好ましい。なお、磁性材料のターゲットと、非磁性材料のターゲットとを別々に準備し、この2枚のターゲットをスパッタリングすることにより、磁気記録層6を成膜してもよい。
【0048】
シード層3の形成から、磁気記録層6の形成までは、各層の表面の清浄性を維持するために、基板を大気に晒すことなく、基板を真空、または成膜時の雰囲気内に配置しておくことが好ましい。
【0049】
磁気記録層6の上に、スパッタリング、化学気相成長(CVD)、フィルタを用いた陰極アーク堆積(FCA:Filtered Cathodic Arc deposition)等により、保護層7を形成する。保護層7の上に、引き上げ法、スピンコート法、液面低下法等により、潤滑層8を塗布する。
【0050】
次に、上記実施例による磁気記録媒体の構造及び製造条件の一具体例について説明する。軟磁性裏打層2を、厚さ50nmのCoZrNb膜とする。シード層3、厚さ3nmのNiFeCr膜とする。下地層4を、厚さ20nmのRu膜とする。中間層5を、厚さ5nmのRu膜とする。磁気記録層6を形成するためのスッパタリングターゲットの組成をCo67Cr13Pt21とSiOとの混合物とし、SiOの濃度を9mol%とする。磁気記録層6の厚さは16nmとする。保護層7を、厚さ3nmのカーボン膜とする。
【0051】
CoZrNb膜、NiFeCr膜、及びカーボン膜成膜時のArガス圧を0.399Pa(3mTorr)とする。下地層4の成膜時のArガス圧を2Paとし、成膜速度を5nm/sとする。中間層5の成膜時のArガス圧を8Paとし、成膜速度を1nm/sとする。磁気記録層6の成膜時のArガス圧を3Paとする。なお、各層の成膜時に、基板加熱は行わない。
【0052】
上記実施例では、磁気記録層6の下地に中間層5が配置されている。中間層5の表面は、結晶粒5aの寸法及び形状に応じた凹凸を有する。磁気記録層6の磁性粒子6aは、中間層5の表面の凸状部分に優先的に成長する。このため、中間層5の結晶粒5aの寸法を制御することにより、磁気記録層6の磁性粒子6aの分布密度を制御することができる。結晶粒5aの寸法を揃えることにより、磁性粒子6aをほぼ均一に分布させることができる。
【0053】
図3A及び図3Bを参照して、下地層4及び中間層5を配置したことの効果について定量的に説明する。
【0054】
図3Aは、中間層5を形成するときのDCパワーと、磁気記録層6の保磁力との関係を示す。横軸は、DCパワーを単位「W」で表し、縦軸は保磁力を単位「Oe」で表す。下地層4及び中間層5は、ともにRuで形成した。また、スパッタリング時の圧力は8Paとし、下地層4及び中間層5の各々の成膜時間を4秒とした。下地層4を成膜するときのDCパワーと中間層5を成膜するときのDCパワーとの合計が1100Wになるように、DCパワーを制御した。例えば、図3Aにおいて、中間層成膜時のDCパワーを200Wにして作製した試料の下地層は、DCパワー900Wで成膜されている。このため、下地層4と中間層5との合計の厚さが、試料によらず一定になる。図3Aに示した例では、各試料の下地層4と中間層5との膜厚の合計が25nmになる。図3Aの横軸に、中間層5及び下地層4の成膜時のDCパワーに対応する成膜レートを記している。下地層4と中間層5以外の構成は、上記具体例と同じ構成である。
【0055】
中間層5の成膜速度が0.5nm/s〜1nm/sの範囲内で、相対的に高い保磁力が得られていることがわかる。
【0056】
図3Bは、中間層5の厚さと、トータルS/N比との関係を示す。横軸は、中間層5の厚さを単位「nm」で表し、縦軸はトータルS/N比を単位「dB」で表す。下地層4及び中間層5は、ともにRuで形成した。また、スパッタリング時の圧力、DCパワー、成膜時間等の条件は、図3Aに示した試料作製時の条件と同一である。このため、下地層4と中間層5との合計の厚さは25nmになる。
【0057】
中間層5の成膜速度が1nm/s〜1.5nm/sの範囲内で、トータルS/N比が相対的に高くなっていることがわかる。
【0058】
図3A及び図3Bの評価結果から、保磁力及びS/N比の両方を高くするために、中間層5の成膜速度を1nm/s近傍に設定することが好ましいことがわかる。また、図3A及び図3Bから、中間層5の成膜速度を0.5nm/s〜2nm/sの範囲内としても、十分高い保磁力とS/N比が得られることがわかる。
【0059】
図3A及び図3Bの評価実験では、下地層4及び中間層5の各々の成膜時間を4秒に固定したが、中間層5の成膜速度を遅くし、かつ成膜時間を4秒よりも長くすると、成膜時間が4秒のときと同等の膜厚の中間層5が形成される。従って、中間層5の成膜速度を0.5nm/s以下にしても、成膜時間を長くすれば、十分な保磁力及びS/N比を確保することができるであろう。
【0060】
次に、図4A〜図5を参照して、中間層5の表面を、カーボンを含むガスに晒すことの効果について説明する。上記具体例と同一の構成の評価用試料を、CO暴露量のみを異ならせて複数個作製し、その保磁力とMHループの傾きαとを測定した。
【0061】
図4Aは、COガスへの暴露量と保磁力との関係を示し、図4Bは、COガスへの暴露量とMHループの傾きαとの関係を示す。図4A及び図4Bの横軸は、COガスへの暴露量を任意単位で表す。図4Aの縦軸は保磁力を単位「Oe」で表し、図4Bの縦軸はMHループの傾きαを表す。ここで、COガスへの暴露量は、COガスの圧力と暴露時間との積で定義される。傾きαは、磁気記録層6内の磁性粒子6aの孤立化の目安となる物理量であり、孤立化の程度が高くなるに従って、αが小さくなる。
【0062】
図4A及び図4Bに示すように、CO暴露量を大きくするに従って、保磁力が高くなり、かつ磁性粒子6aの孤立化の程度が高くなる。
【0063】
発明者らの評価実験によると、COガス圧を0.01Pa〜2Paの範囲内とし、暴露時間を1秒程度にすれば、十分有意な効果が得られることがわかった。また、COガス以外のカーボンを含むガスに晒してもよい。例えば、COガスやCHガスに晒してもよい。さらに、これらのガスに、OガスやNガスを混合してもよい。
【0064】
図5に、従来の垂直磁気記録媒体の、深さ方向に関する種々の元素濃度分布を示す。測定は、SIMSにより行った。横軸は、深さを単位「nm」で表し、縦軸は、濃度を単位「原子/cc」で表す。CoZrNbからなる軟磁性裏打層の上に、Ta層、NiFe層、Ru層、及びCoCrPt−SiO磁気記録層が形成されている。Ru層内の浅い領域(深さ12〜13nmの領域)に、カーボン濃度の小さなピークが現れている。
【0065】
Ru層の浅い領域においてカーボン濃度が高くなっている構造が、磁気記録層の磁性粒子の分離構造に何らかの影響を与えていると推測される。実施例において中間層5の表面を、カーボンを含むガスに晒すことにより、Ru層の浅い領域のカーボン濃度を積極的に高めることができる。例えば、中間層5のカーボン濃度を、下地層4のカーボン濃度よりも高くすることができる。これにより、磁気記録層6において、より良好な磁性粒子の分離構造を得ることができると考えられる。
【0066】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0067】
上記実施例から、以下の付記に示される発明が導出される。
【0068】
(付記1)
基板の上に配置され、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層と、
前記下地層の上に配置され、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成され、該結晶粒の各々の上面が上方に向かって凸状の形状を有する中間層と、
前記中間層の上に配置され、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている磁気記録層と
を有する垂直磁気記録媒体。
【0069】
(付記2)
前記中間層がカーボンを含み、中間層のカーボン濃度は、前記下地層のカーボン濃度よりも高い付記1に記載の垂直磁気記録媒体。
【0070】
(付記3)
前記磁気記録層の磁性粒子が、前記中間層の結晶粒の凸状の上面の頂点を含む領域上に配置され、前記非磁性領域が、前記中間層の結晶粒界に沿って配置されている付記1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【0071】
(付記4)
さらに、前記基板の上に配置され、軟磁性材料で形成された裏打層と、
前記裏打層の上に配置され、非晶質のTa、Ti、C、Mo、W、Re、Os、Hf、Mg、Pt、及びこれらの合金、及び結晶性のTi、Re、Rh、Ni、Pt、Pd、Ag、Cu、NiCr、NiFe、NiFeCr、NiFeSiからなる群より選択された少なくとも1つの材料で形成され、厚さが1nm〜5nmの範囲内であるシード層と
を有し、
前記下地層が前記シード層の上に配置されている付記1乃至3のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【0072】
(付記5)
基板の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層を形成する工程と、
前記下地層の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成され、該結晶粒の各々の上面が上方に向かって凸状の形状を有する中間層を形成する工程と、
前記中間層の上に、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている磁気記録層を形成する工程と
を有する垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0073】
(付記6)
前記中間層の堆積速度が、前記下地層の堆積速度よりも遅い付記5に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0074】
(付記7)
前記中間層の堆積速度が、0.1nm/sよりも速くかつ2nm/s以下であり、前記下地層の堆積速度が、2nm/sよりも速くかつ8nm/s以下である付記6に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0075】
(付記8)
前記中間層を形成した後、前記磁気記録層を形成する前に、該中間層の表面を、カーボンを含む雰囲気に晒す工程を含む付記5乃至7のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例による磁気記録媒体の断面図である。
【図2】(2A)、(2B)及び(2C)は、それぞれ実施例による磁気記録媒体の中間層の、底面、中央部分、及び上面近傍における平断面図である。
【図3】(3A)は、中間層成膜時のDCパワーと保磁力との関係を示すグラフであり、(3B)は、中間層の厚さとトータルS/N比との関係を示すグラフである。
【図4】(4A)は、中間層表面のCO暴露量と保磁力との関係を示すグラフであり、(4B)は、中間層表面のCO暴露量とMHループの傾きαとの関係を示すグラフである。
【図5】従来の磁気記録媒体の深さ方向に関する種々の元素濃度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1 基板
2 軟磁性裏打層
3 シード層
4 下地層
4a 結晶粒
5 中間層
5a 結晶粒
6 磁気記録層
6a 磁性粒子
6b 非磁性領域
7 保護層
8 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に配置され、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層と、
前記下地層の上に配置され、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成され、該結晶粒の各々の上面が上方に向かって凸状の形状を有する中間層と、
前記中間層の上に配置され、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている磁気記録層と
を有する垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記磁気記録層の磁性粒子が、前記中間層の結晶粒の凸状の上面の頂点を含む領域上に配置され、前記非磁性領域が、前記中間層の結晶粒界に沿って配置されている請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
基板の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuからなる多結晶の下地層を形成する工程と、
前記下地層の上に、Ruを主成分とする六方最密充填構造の合金、またはRuで形成され、面内に分布する複数の結晶粒で構成され、該結晶粒の各々の上面が上方に向かって凸状の形状を有する中間層を形成する工程と、
前記中間層の上に、磁性材料からなる複数の磁性粒子が面内に分布し、相互に隣り合う磁性粒子同士が、両者の間に配置された非磁性材料からなる非磁性領域によって磁気的に分離されている磁気記録層を形成する工程と
を有する垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記中間層の堆積速度が、前記下地層の堆積速度よりも遅い請求項3に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記中間層を形成した後、前記磁気記録層を形成する前に、該中間層の表面を、カーボンを含む雰囲気に晒す工程を含む請求項3または4に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−84479(P2008−84479A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265294(P2006−265294)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】