説明

基材に対する金属層の施与方法

本発明は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法により金属塩溶液から金属を蒸着することによって、基材に対して金属層を塗布する方法に関し、且つかかる方法における重大な要因は、カーボンナノチューブが基材の表面に存在することである。更に本発明は、カーボンナノチューブを、基材に対する金属層の塗布に使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属塩溶液から金属の蒸着によって基材に対して金属層を施す方法、及びカーボンナノチューブを、基材に対する金属層の施与に使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常は非導電性である材料、例えばプラスチックを金属被覆する方法は、知られている。かかる金属被覆された部品、例えば金属被覆されたプラスチック部品は、広範な用途分野で使用されており、例えば、かかる部品の導電性により、かかる部品を電気部品として使用することが可能である。更に、金属被覆されたプラスチック部品は、とりわけ装飾分野で広く使用されている。なぜなら、かかる部品は、金属から完全に製造される製品と同じ外観を有し、より軽量で且つより低コストで製造され得るからである。
【0003】
プラスチックを金属被覆する方法は、広く使用されており、且つ例えば、硫酸クロム混合物を使用するか、及び/又は例えば、無電流及び/又は電気メッキ法によって金属層を緻密に且つ強固に接着させる堆積の前提条件として、貴金属を含むプライマー層又は接着促進層を塗布する、化学的又は物理的な粗化方法或いは化学的又は物理的なエッチング法により、プラスチックの表面に対する比較的複雑な予備処理が必要とされる(例えば、WO01/77419を参照されたい。)。
【0004】
導電性を有するプラスチックを提供する別の公知の方法(電気メッキ法による金属蒸着の場合に必要な前提条件)は、カーボンナノチューブ又は炭素ナノ繊維をプラスチックに組み込むことである。かかる導電性カーボンナノチューブにおける他の利点は、例えば、金属粉末より軽量であり、且つ一般にプラスチックに増大された靱性を与えることである(例えば、US2006/0025515A1を参照されたい。)。
【0005】
DE10259498A1は、粒子状の炭素化合物、例えばカーボンブラック又はグラファイトだけではなく、カーボンナノ繊維を含む導電性の熱可塑性樹脂を開示している。かかる文献に記載されるプラスチック混合物は、導電性を有するだけではなく、良好な流動性、良好な表面品質、更には高い靱性を有する。かかる混合物は、プラスチックの静電塗装及びプラスチックの静電的性質を改善するのに特に適当である。しかしながら、明細書に開示された表面抵抗は、伝導性の熱可塑性樹脂を、電気メッキ法による金属被覆方法での基材として使用する場合に不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO01/77419
【特許文献2】US2006/0025515A1
【特許文献3】DE10259498A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法により金属塩溶液から金属を蒸着することによって、基材に対して金属層を塗布する改良された方法を提供することにある。かかる方法により、特に、比較的短い電気メッキ時間内での基材に対する良好な接着、低コスト及び良好な品質にて金属層を基材に堆積させることが可能であり、そして金属被覆された基材が比較的軽量となるようにする必要がある。
【0008】
これにより、冒頭に記載された方法は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法により金属塩溶液から金属を蒸着することによって、基材に対して金属層を塗布する方法に関して見出され、且つかかる方法における重大な要因は、基材の表面にカーボンナノチューブを存在させることである。
【0009】
更に、カーボンナノチューブに使用法が、基材に対する金属層の塗布方法に関して見出された。
【0010】
本発明の方法により、化学的な方法及び/又は電気メッキ法により金属塩溶液から金属を蒸着することによって、基材に対して金属層を改良塗布することが可能となる。特に、金属層は、本発明の方法によって、基材に対する良好な接着で、比較的短い電気メッキ時間で、低コストで、そして良好な品質で基材に対して堆積され得る。これにより製造された金属被覆基材は、比較的軽量である。
【0011】
本発明の方法を、他の製品、方法、及び使用法と同様に以下に説明する。
【0012】
本発明の方法の重大な特徴は、カーボンナノチューブを、金属被覆されるべき基材の基材表面に存在させることである。これは、基材それ自体が、すなわち、これにより基材の表面が、カーボンナノチューブを含み、或いはその他に、カーボンナノチューブが、粘着性ポリマー被膜の形又はラッカーの形で、カーボンナノチューブが本来存在しない基材に対して施されることを意味する。基材表面内に又は基材表面に対して設けられるカーボンナノチューブにより、導電性がもたらされ、且つこれは、化学的方法及び/又は電気メッキ法によって基材に対して金属蒸着するその後の処理に極めて重要である。例えば、他の導電性構成要素、例えば金属粉末又はカーボンブラック粒子を、カーボンナノチューブと一緒に基材表面中又は基材表面に対して設けて、電気伝導性を増大させることが可能であるものの、これらの存在は、本発明にとって絶対に必要ではない。カーボンナノチューブそれ自体及びその製造方法は、以下の後の段階に記載されている(成分B又はB’)。
【0013】
従って、本発明の方法における好ましい実施形態において、化学的な方法及び/又は電気メッキ法による金属付着の方法で使用される基材は、カーボンナノチューブを含み、以下の後の段階で詳細に記載される成形用組成物から製造される。本発明の方法における他の好ましい実施形態において、化学的方法及び/又は電気メッキ法による金属付着の方法で使用される基材は、以下の後の段階で記載され、カーボンナノチューブを含む分散液が設けられ、そして少なくとも部分的に乾燥され及び/又は少なくとも部分的に硬化された基材である。
【0014】
[カーボンナノチューブを含む成形用組成物]
一の好ましい実施形態において、本発明の方法で使用され得る基材は、熱可塑性成形用組成物を基礎とし、熱可塑性成形用組成物は、成分A、B、C、及びDの、100質量%である合計質量に対して、
a 20〜99質量%、好ましくは55〜95質量%、特に好ましくは60〜92質量%の成分Aと、
b 1〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは8〜20質量%の成分Bと、
c 0〜10質量%、好ましくは0〜8質量%、特に好ましくは0〜5質量%の成分Cと、
d 0〜40質量%、好ましくは0〜30質量%、特に好ましくは0〜10質量%の成分Dと、
を含む。
【0015】
かかる成形用組成物における個々の成分を以下に説明する:
【0016】
[成分A]
原則として、成分Aとして、任意の熱可塑性ポリマーが適当である。熱可塑性ポリマーは、一般に、破断点引張強さが10〜1000%の範囲であり、好ましくは20〜700%の範囲であり、特に好ましくは50〜500%の範囲であるポリマーである。(本願で記載される破断点引張強さ及び引張強さに関するこれらの値、及び他の全ての値は、ISO527−2:1996引張試験において1BA型(これにより記載された基準の補遺A:“小さな試験片”)の試験片に対して測定される。)
成分Aの適例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン(耐衝撃性又は非耐衝撃性)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート)、MABS(透明ABS、メタクリレート単位を含む)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(例、BASF社製のStyroflex(登録商標)又はStyrolux(登録商標)、CPC社製のK-ResinTM)、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、脂肪族−芳香族コポリエステル(例、BASF社製のExoflex(登録商標))、ポリカーボネート(例、Bayer社製のMakrolon(登録商標))、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ(エーテル)スルホン、及びポリフェニレンオキシド(PPO)である。
【0017】
成分Aとして、耐衝撃性の芳香族ビニル共重合体、ポリオレフィン、脂肪族−芳香族コポリエステル、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、及びスチレンベースの熱可塑性エラストマーから選択される1種以上のポリマーを使用するのが好ましい。
【0018】
同様に好ましい成分Aとして、ポリアミドを使用することが可能である。
【0019】
耐衝撃性の芳香族ビニル共重合体:
好ましい耐衝撃性の芳香族ビニル共重合体は、芳香族ビニルモノマーと、ビニルシアニド(SAN)と、からなる耐衝撃性共重合体である。使用される耐衝撃性SANは、ASAポリマー及び/又はABSポリマーを含み、或いはその他に、(メタ)アクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンポリマー(“MABS”、透明ABS)、或いはその他に、SAN、ABS、ASA、及びMABSと、他の熱可塑性樹脂、例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、PVC、又はポリオレフィンと、のブレンドを含むのが好ましい。
【0020】
成分Aとして使用され得るASA及びABSの破断点引張強さの値は、一般に10〜300%であり、15〜250%であるのが好ましく、20〜200%であるのが特に好ましい。
【0021】
ASAポリマーは、特にスチレン及び/又はα−メチルスチレンとアクリロニトリルからなる共重合体マトリックスにおいてポリアルキルアクリレートゴムに対する芳香族ビニル化合物、特にスチレン、及びビニルシアニド、特にアクリロニトリルの弾性グラフト共重合体を含む耐衝撃性SANポリマーであるのが一般的である。
【0022】
熱可塑性成形用組成物がASAポリマーを含む一の好ましい実施形態において、成分Aの弾性グラフト共重合体ARは、
a1 1〜99質量%、好ましくは55〜80質量%、特に55〜65質量%の、0℃未満のガラス転移温度を有する粒子状グラフトベースA1と、
a2 1〜99質量%、好ましくは20〜45質量%、特に35から45質量%の、A2に基づき、以下のモノマー:すなわち、
a21 成分A21として、40〜100質量%、好ましくは65〜85質量%の、スチレン、置換スチレン、又は(メタ)アクリレート、又はこれらの混合物、特にスチレン及び/又はα−メチルスチレンの単位と、
a22 成分A22として、60質量%以下、好ましくは15〜35質量%の、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル、特にアクリロニトリルの単位と、からなるグラフトA2と、
からなる。
【0023】
本発明の場合のグラフトA2は、少なくとも1種のグラフトシェルからなる。
【0024】
本発明の成分A1は、以下のモノマー:
a11 成分A11として、80〜99.99質量%、好ましくは95〜99.9質量%の少なくとも1種のC1〜C8アルキルアクリレート、好ましくはn−ブチルアクリレート及び/又はエチルヘキシルアクリレートと、
a12 成分A12として、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5.0質量%の少なくとも1種の多官能性架橋モノマー、好ましくはジアリルフタレート及び/又はDCPAと、
からなる。
【0025】
本発明の一の実施形態によると、成分ARの平均粒径は、一モード分布にて50〜1000nmである。
【0026】
他の実施形態によると、成分ARの粒径分布は、二モードであり、すなわち、成分ARの合計質量に対して、50〜200nmの平均粒径を有する60〜90質量%と、50〜400nmの平均粒径を有する10〜40質量%と、である。
【0027】
平均粒径及び粒径分布は、累積質量分布から決定される寸法である。平均粒径は、全ての場合において、粒径の質量平均である。平均粒径の測定は、分析用超遠心器を使用するW. Scholtan and H. Lange, Kollid-Z. und Z.-Polymere 250 (1972), 782-796頁の方法に基づいている。超遠心器測定により、試験片における粒径の累積質量分布を得る。これにより、粒子において質量換算でどれだけの割合が、粒径以下の直径を有するかを導き出すことが可能である。累積質量分布のd50と称される平均粒径は、本発明の場合、粒子の50質量%がd50に相当する直径より小さい直径を有する粒径と定義される。同様に、50質量%の粒子は、d50より大きな直径を有する。ゴム粒子の粒径分布の幅を記載するために、累積質量分布によって得られるd10及びd90の値が、d50(平均粒径)と共に利用される。累積質量分布のd10及びd90は、これらがそれぞれ10及び90質量%の粒子に基づく点で異なり、d50と同様に規定される。以下の商:すなわち、
(d90−d10)/d50=Q
は、粒径分布の幅の基準である。弾性グラフト共重合体ARは、0.5未満のQ値を有するのが好ましく、特に0.35未満である。
【0028】
アクリレートゴムA1は、1種以上のC1〜C8アルキルアクリレート、好ましくはC4〜C8アルキルアクリレートからなり、好ましくは、少なくとも数種類のブチル、ヘキシル、オクチル又は2−エチルヘキシルアクリレート、特にn−ブチル及び2−エチルヘキシルアクリレートを使用するアルキルアクリレートであるのが好ましい。かかるアルキルアクリレートゴムは、コモノマーとして、30質量%以下の硬質ポリマー形成性モノマー、例えば酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、メチルメタクリレート、ビニルエーテルを含んでいても良い。
【0029】
また、アクリレートゴムは、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%の架橋性で、多官能性のモノマー(架橋モノマー)を含む。その例示は、共重合可能な2個以上の二重結合を含み、好ましくは1,3−共役ではないモノマーである。
【0030】
架橋モノマーの適例は、ジビニルベンゼン、ジアリルメタレート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、ジエチルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリシクロデセニルアクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレート、トリアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレートである。ジシクロペンタジエニルアクリレート(DCPA)が、特に好適な架橋モノマーであると判明した(DE−C1260135を参照)。
【0031】
成分ARは、グラフト共重合体である。かかるグラフト共重合体ARは、50〜1000nm、好ましくは50〜800nm、特に好ましくは50〜600nmの平均粒径d50を有する。かかる粒径は、使用されるグラフトベースA1が、50〜800nm、好ましくは50〜500nm、特に好ましくは50〜250nmの粒径を有する場合に達成され得る。グラフト共重合体ARは、1ステージ以上を有するのが一般的であり、すなわち、コアと、1種以上のシェルと、からなるポリマーである。ポリマーは、第1ステージ(グラフトコア)A1と、かかる第1ステージにグラフトされ、そしてグラフトステージ又はグラフトシェルとして知られている1種又は好ましくはそれ以上のステージA2(グラフト)と、からなる。
【0032】
簡単なグラフト又は逐次グラフトを用いて、1種以上のグラフトシェルをゴム粒子に施しても良く、そして各々のグラフトシェルは、異なる構成を有していても良い。グラフトモノマーに加えて、多官能性の架橋モノマー又は反応性基を含むモノマーが、グラフト処理において含まれていても良い(例えば、EP−A230282、DE−B3601419、EP−A269861を参照されたい)。
【0033】
一の好ましい実施形態において、成分ARは、2ステージ以上で構築されるグラフト共重合体からなり、且つグラフトステージは、樹脂形成性モノマーから調製され、30℃を超え、好ましくは50℃を超えるガラス転移温度Tgを有するのが一般的である。2ステージ以上を有する構造は、とりわけ、熱可塑性マトリックスと(部分的に)相溶性のゴム粒子ARを作製する役割を果たす。
【0034】
グラフト共重合体ARの調製方法の例示は、以下に列挙される少なくとも1種のモノマーを、少なくとも1種の、上記に列挙されたグラフトベース又はグラフトコア材料A1に対してグラフトする。
【0035】
本発明の一の実施形態において、グラフトベースA1は、15〜99質量%のアクリレートゴム、0.1〜5質量%の架橋剤、及び0〜49.9質量%の、いずれかの記載された他のモノマー又はゴムからなる。
【0036】
グラフトA2の形成に好適なモノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、及びメタクリロニトリルであり、特にアクリロニトリルである。
【0037】
本発明の一の実施形態において、0℃未満のガラス転移温度を有する架橋されたアクリレートポリマーは、グラフトベースA1としての役割を果たす。架橋されたアクリレートポリマーは、−20℃未満、特に−30℃未満のガラス転移温度を有することが好ましい。
【0038】
一の好ましい実施形態において、グラフトA2は、少なくとも1種のグラフトシェルからなり、その最外部のグラフトシェルは、30℃を超えるガラス転移温度を有し、一方、グラフトA2のモノマーから形成されるポリマーは、80℃を超えるガラス転移温度を有するであろう。
【0039】
グラフト共重合体ARの好適な調製方法は、エマルジョン、溶液、バルク、又は懸濁重合である。グラフト共重合体ARは、水溶性又は油溶性開始剤、例えばぺるオキソジスルフェート又はベンゾイルペルオキシドを使用するか、又はレドックス開始剤を用いて、20〜90℃の条件下、成分A1のラテックスの存在下でのフリーラジカルエマルジョン重合によって調製されるのが好ましい。レドックス開始剤は、20℃未満の重合にも好適である。
【0040】
好適なエマルジョン重合法は、DE−A2826925、3149358及びDE−C1260135に記載されている。
【0041】
グラフトシェルは、DE−A3227555、3149357、3149358、3414118に記載されるエマルジョン重合法で構築されるのが好ましい。50〜1000nmの粒径を、DE−C1260135及びDE−A2826925、並びにApplied Polymer Science, 第9巻 (1965), 2929頁に記載される方法によって明確に設定するのが好ましい。異なる粒径のポリマーの使用は、例えば、DE−A2826925及びUS5196480から公知である。
【0042】
DE−C1260135に記載される方法は、20〜100℃、好ましくは50〜80℃の条件下、水性エマルジョンにおいて、本発明の一の実施形態で使用されるアクリレート及び多官能性架橋モノマーを、適宜、他のコモノマーと一緒に、それ自体公知の方法で、重合することによってグラフトベースA1を調製することによって開始する。通常の乳化剤、例えばアルカリ金属アルキル−又はアルキルアリールスルホネート、アルキルスルフェート、脂肪アルコールスルホネート、10〜30個の炭素原子を有する高級脂肪酸の塩又は樹脂セッケンを使用することが可能である。アルキルスルホネート又は10〜18個の炭素原子を有する脂肪酸のナトリウム塩を使用するのが望ましい。一の実施形態において、乳化剤の使用量は、グラフトベースA1の調製で使用されるモノマーに対して、0.5〜5質量%、特に1〜2質量%である。モノマーに対する水の割合が質量換算で2:1〜0.7:1にて稼働させるのが一般的である。重合開始剤として、特に一般的に使用されるペルスルフェート、例えば過硫酸カリウムを使用する。しかしながら、レドックス系を使用することも可能である。開始剤の一般的な使用量は、グラフトベースA1の調製で使用されるモノマーに対して、0.1〜1質量%である。重合中に用いられても良い他の重合助剤は、6〜9の好ましいpHを設定可能である通常の緩衝物質であり、且つ例えば、重炭酸ナトリウム及びピロリン酸ナトリウム、そして更には、0〜3質量%の分子量調節剤、例えばメルカプタン、テルピノール又はダイマーのα−メチルスチレンである。正確な重合条件、特に性質、供給パラメータ、及び乳化剤の量は、これにより得られる架橋アクリレートポリマーのラテックスが、約50〜800nm、好ましくは50〜500nm、特に好ましくは80〜250nmの範囲のd50を有するように上述した範囲内にて個々に決定される。本発明において、ラテックスの粒径分布は、狭くなる意図であるのが好ましい。
【0043】
本発明の一の実施形態において、これにより得られる架橋アクリレートポリマーのラテックスの存在下、以下の工程にてグラフトポリマーARの調製するために、スチレンとアクリロニトリルからなるモノマー混合物を重合し、そして本発明の一の実施形態において、この場合、モノマー混合物におけるアクリロニトリルに対するスチレンの質量比は、100:0〜40:60の範囲とすべきであり、65:35〜85:15の範囲であるのが好ましい。グラフトベースとしての役割を果たす架橋ポリアクリレートポリマーに対するスチレン及びアクリロニトリルのこのようなグラフト共重合は、この場合でも、上述の一般的な条件下で水性エマルジョンにおいて有利に行われる。グラフト共重合を、エマルジョン重合に使用される系において行って、グラフトベースA1を調製可能なのが一般的であり、且つ他の乳化剤及び開始剤を必要により添加しても良い。本発明の一の実施形態でグラフトされるスチレン及びアクリロニトリルモノマーの混合物を、重合中に、一度に全て、2段階以上に分けて、又は好ましくは連続的に反応混合物に添加しても良い。架橋アクリレートポリマーの存在下におけるスチレン及びアクリロニトリルの混合物のグラフト重合は、グラフト共重合体ARにおいて、成分ARに対して、1〜99質量%、好ましくは20〜45質量%、特に35〜45質量%のグラフト度を得るように行われる。グラフト重合でのグラフト収率が100%ではないので、グラフト重合で使用される必要があるスチレン及びアクリロニトリルの混合物の量は、所望のグラフト度に相当する量よりも幾分多い。グラフト重合におけるグラフト収率の制御、及びこれによる、仕上げ処理されたグラフト共重合体ARのグラフト度の制御は、当業者に周知の一般的な原則である。例えば、モノマーの計量導入速度又は調節剤の添加によって達成可能である(Chauvel, Daniel, ACS Polymer Preprints 15 (1974), 329頁以降)。エマルジョングラフト共重合により、グラフト共重合体に対して、約5〜15質量%のフリーで、未グラフト化スチレン−アクリロニトリル共重合体を得るのが一般的である。グラフト共重合で得られる重合生成物におけるグラフト共重合体ARの割合は、上述した方法によって測定される。また、エマルジョン法によるグラフト共重合体ARの調製により、上述した技術的な処理の利点の他に、例えば、粒子を大きくするために、粒径を少なくともある程度まで凝集させることによる粒径の再現可能な変化の可能性を得る。これは、粒径の異なるポリマーがグラフト共重合体ARに存在していても良いことを意味する。グラフトベース及びグラフトシェルからなる成分ARは、特に、粒径に関して、個々の用途に理想的に適合可能である。
【0044】
グラフト共重合体ARは、グラフト共重合体全体に対して、1〜99質量%、好ましくは55〜80質量%、特に好ましくは55〜65質量%のグラフトベースA1と、1〜99質量%、好ましくは20〜45質量%、特に好ましくは35〜45質量%のグラフトA2と、を含むのが一般的である。
【0045】
ABSポリマーは、ジエンポリマー、特にポリ−1,3−ブタジエンを共重合体マトリックス、特にスチレン及び/又はα−メチルスチレンとアクリロニトリルの共重合体マトリックスに存在させる耐衝撃性SANポリマーであると理解されるのが一般的である。
【0046】
熱可塑性成形用組成物がABSポリマーを含む一の好ましい実施形態において、成分Aの弾性グラフト共重合体AR’は、
a1’ A1’に対して、10〜90質量%の少なくとも1種の、以下のa11’〜a13’を重合することによって得られ、0℃未満のガラス転移温度を有する弾性グラフトベースと、
a11’ 60〜100質量%、好ましくは70〜100質量%の少なくとも1種の共役ジエン及び/又はC1〜C10アルキルアクリレート、特にブタジエン、イソプレン、n−ブチルアクリレート及び/又は2−エチルヘキシルアクリレート、
a12’ 0〜30質量%、好ましくは0〜25質量%の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、特にスチレン、α−メチルスチレン、n−ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、又はこれらの混合物、そして最後に示した中で、特にブタジエン−スチレン共重合体及びn−ブチルアクリレート−スチレン共重合体、及び
a13’ 0〜10質量%、好ましくは0〜6質量%の少なくとも1種の架橋モノマー、好ましくはジビニルベンゼン、ジアリルマレエート、アリル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレート、ジカルボン酸、例えばコハク酸及びアジピン酸のジビニルエステル、及び二官能性アルコール、例えばエチレングリコール又はブタン−1,4−ジオールのジアリル及びジビニルエーテル、
a2’ A2’に対して、10〜60質量%、好ましくは15〜55質量%の、以下のa21’〜a23’からなるグラフトA2’と、
a21’ 50〜100質量%、好ましくは55〜90質量%の少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン及び/又はα−メチルスチレン、
a22’ 5〜35質量%、好ましくは10〜30質量%のアクリロニトリル及び/又はメタクリロニトリル、好ましくはアクリロニトリル、
a23’ 0〜50質量%、好ましくは0〜30質量%の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、好ましくはメチルメタクリレート及びn−ブチルアクリレート、
からなる。
【0047】
熱可塑性成形用組成物がABSを含む他の好ましい実施形態において、成分AR’は、AR’に基づいて、以下のa1”及びa2”からなり、二モードの粒径分布を有するグラフトゴムであり:すなわち、
a1” A1”に対して、40〜90質量%、好ましくは45〜85質量%の、以下のa11”〜a12”を重合することによって得られる粒子状の弾性グラフトベースA1”と、
a11” 70〜100質量%、好ましくは75〜100質量%の少なくとも1種の共役ジエン、特にブタジエン及び/又はイソプレン、
a12” 0〜30質量%、好ましくは0〜25質量%の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、特にスチレン、α−メチルスチレン、n−ブチルアクリレート、又はこれらの混合物、
a2” A2”に対して、10〜60質量%、好ましくは15〜55質量%の、以下のa21”〜a23”からなるグラフトA2”と、
a21” 65〜95質量%、好ましくは70〜90質量%の少なくとも1種の芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、
a22” 5〜35質量%、好ましくは10〜30質量%のアクリロニトリル、
a23” 0〜30質量%、好ましくは0〜20質量%の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、好ましくはメチルメタクリレート及びn−ブチルアクリレート、である。
【0048】
熱可塑性成形用組成物がASAポリマーを成分Aとして含む一の好ましい実施形態において、成分Aの硬質マトリックスAMは、芳香族ビニルモノマーから誘導し、そして芳香族ビニルモノマーから誘導する単位の合計質量に対して、0〜100質量%、好ましくは40〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%の、α−メチルスチレンから誘導する単位と、0〜100質量%、好ましくは0〜60質量%、特に好ましくは0〜40質量%の、スチレンから誘導する単位と、を含む単位を含み、AMに対して、
M1 成分AM1として、40〜100質量%、好ましくは60〜85質量%の芳香族ビニル単位と、
M2 成分AM2として、60質量%以下、好ましくは15〜40質量%の、アクリロニトリル又はメタクリロニトリル、特にアクリロニトリルの単位と、
からなる少なくとも1種の硬質共重合体である。
【0049】
熱可塑性成形用組成物がABSポリマーを含む成分Aとして含む一の好ましい実施形態において、成分Aの硬質マトリックスAM’は、芳香族ビニルモノマーから誘導し、そして芳香族ビニルモノマーから誘導する単位の合計質量に対して、0〜100質量%、好ましくは40〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%の、α−メチルスチレンから誘導する単位と、0〜100質量%、好ましくは0〜60質量%、特に好ましくは0〜40質量%の、スチレンから誘導する単位と、を含む単位を含み、AM’に対して、
M1’50〜100質量%、好ましくは55〜90質量%の芳香族ビニルモノマーと、
M2’0〜50質量%のアクリロニトリル又はメタクリロニトリル又はこれらの混合物と、
M3’0〜50質量%の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、例えばメチルメタクリレート及びN−アルキル−又はN−アリールマレイミド、例えばN−フェニルマレイミドと、
からなる少なくとも1種の硬質共重合体である。
【0050】
熱可塑性成形用組成物がABSを含む成分Aとして含む他の好ましい実施形態において、成分AM’は、50〜120ml/gの粘度数VN(ジメチルホルムアミドに対する0.5質量%濃度溶液中で25℃の条件下にてドイツ工業規格53726(DIN53726)により測定される)を有し、芳香族ビニルモノマーから誘導し、そして芳香族ビニルモノマーから誘導する単位の合計質量に対して、0〜100質量%、好ましくは40〜100質量%、特に好ましくは60〜100質量%の、α−メチルスチレンから誘導する単位と、0〜100質量%、好ましくは0〜60質量%、特に好ましくは0〜40質量%の、スチレンから誘導する単位と、を含む単位を含み、AM’に対して、
M1”69〜81質量%、好ましくは70〜78質量%の芳香族ビニルモノマーと、
M2”19〜31質量%、好ましくは22〜30質量%のアクリロニトリルと、
M3”0〜30質量%、好ましくは0〜28質量%の少なくとも1種の他のモノエチレン性不飽和モノマー、例えばメチルメタクリレート又はN−アルキル−又はN−アリールマレイミド、例えばN−フェニルマレイミドと、
からなる少なくとも1種の硬質共重合体である。
【0051】
一の実施形態において、ABSポリマーは、粘度数VNが少なくとも5単位(ml/g)異なるか、及び/又はアクリロニトリル含有量が5単位(質量%)異なる成分AM’を相互に一緒に含む。結局、成分AM’及び他の実施形態と一緒に、(α−メチル)スチレンと無水マレイン酸又はマレイミドとの共重合体、(α−メチル)スチレンとマレイミド及びメチルメタクリレート又はアクリロニトリルとの共重合体、或いは(α−メチル)スチレンとマレイミド、メチルメタクリレート、及びアクリロニトリルとの共重合体も存在していても良い。
【0052】
かかるABSポリマーにおいて、グラフトポリマーAR’は、エマルジョン重合によって得られるのが好ましい。グラフトポリマーAR’と、成分AM’、適宜、他の添加剤との混合は、混合装置において行われるのが一般的であり、これにより実質的に溶融されたポリマー混合物を製造する。溶融されたポリマー混合物を極めて迅速に冷却するのが有利である。
【0053】
その他の点において、上述したABSポリマーの製造方法及び一般的な実施形態、並びに特定の実施形態は、ドイツ国特許出願DE−A19728629号に詳細に記載され、引用することによって本願の内容に特に組み込まれる。
【0054】
上述したABSポリマーは、他の一般的な助剤及びフィラーを含んでいても良い。かかる物質の例示は、滑剤及び離型剤、ワックス、顔料、染料、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、及び静電防止剤である。
【0055】
本発明の一の好ましい実施形態によると、成分Aの硬質マトリックスAM及びAM’の粘度数は、それぞれ50〜90の範囲であり、60〜80の範囲であるのが好ましい。
【0056】
成分Aの硬質マトリックスAM及びAM’は、無定形ポリマーであるのが好ましい。本発明の一の実施形態によると、スチレンとアクリロニトリルの共重合体と、α−メチルスチレンとアクリロニトリルとからなる共重合体と、の混合物は、成分Aの硬質マトリックスAM及びAM’として、それぞれ使用される。硬質マトリックスのこれらの共重合体におけるアクリロニトリル含有量は、硬質マトリックスの合計質量に対して、0〜60質量%であり、好ましくは15〜40質量%である。また、成分Aの硬質マトリックスAM及びAM’は、それぞれ、成分AR及びAR’を調製するグラフト共重合反応中に製造されるフリーで、未グラフト化(α−メチル)スチレン−アクリロニトリル共重合体を含む。グラフト共重合体AR及びAR’を調製するグラフト共重合反応中に選択される条件に応じて、グラフト共重合反応が終了する前に、十分な割合の硬質マトリックスを形成することが可能であった。しかしながら、グラフト共重合反応反応中に得られる生成物を、追加の、別個に調製される硬質マトリックスとブレンドすることが必要であろう。
【0057】
成分Aの、追加の、別個に調製される硬質マトリックスAM及びAM’は、それぞれ、一般的な方法によって得られる。例えば、本発明の一の実施形態によると、スチレン及び/又はα−メチルスチレンとアクリロニトリルとの共重合反応は、バルク、溶液、懸濁液、又は水性エマルジョン中で行われても良い。成分AM及びAM’の粘度数は、それぞれ40〜100であるのが好ましく、50〜90であるのが好ましく、特に60〜80である。この場合の粘度数は、0.5gの材料を100mlのジメチルホルムアミドに溶解するドイツ工業規格53726により測定される。
【0058】
成分AR(及びAR’)並びに成分AM(及びAM’)の混合は、公知の方法によって所望の形態で行われても良い。例えば、かかる成分がエマルジョン重合にょって調製された場合、これにより得られたポリマー分散液を相互に混合し、その後、ポリマーを一緒に沈殿させ、そしてポリマー混合物を後処理することが可能である。しかしながら、これらの成分を、圧延若しくは混練か、成分を一緒に押し出すことによってブレンドするのが好ましく、且つ成分を、必要より、重合反応中に得られる水性分散液又は水溶液から予め単離した。水性分散液中で得られるグラフト共重合生成物を単に部分的に脱水し、そして湿潤片の形で硬質マトリックスと混合しても良く、その結果、グラフト共重合体の完全な乾燥が混合処理中に行われる。
【0059】
スチレンベースの熱可塑性エラストマー:
好ましいスチレンベースの熱可塑性エラストマー(S−TPE)は、破断点引張強さが300%を超え、特に好ましくは500%を超え、特に500〜600%であるエラストマーである。これにより混合されたS−TPEは、外部ポリスチレンブロックSと、これらの間に配置され、ランダムスチレン/ブタジエン分布(S/B)randomを有するか、又はスチレン傾斜(S/B)taperを有するスチレン−ブタジエンブロック共重合体ブロックと、を有する直鎖又は星形のスチレン−ブタジエンブロック共重合体を含むのが特に好ましい(例、BASF社製のStyroflex(登録商標)又はStyrolux(登録商標)、CPC社製のK-Resin(登録商標))。
【0060】
ブタジエンの合計含有量は、15〜50質量%の範囲であるのが好ましく、特に好ましくは25〜40質量%の範囲であり、そしてスチレンの合計含有量は、対応して、50〜85質量%の範囲であるのが好ましく、特に好ましくは60〜75質量%の範囲である。
【0061】
スチレン−ブタジエンブロック(S/B)は、30〜75質量%のスチレンと、25〜70質量%のブタジエンと、からなるのが好ましい。(S/B)ブロックは、35〜70質量%のブタジエン含有量及び30〜65質量%のスチレン含有量を有するのが特に好ましい。
【0062】
ポリスチレンブロックSの含有量は、ブロック共重合体の全体に対して、5〜40質量%の範囲であるのが好ましく、特に25〜35質量%の範囲である。S/B共重合体ブロックの含有量は、60〜95質量%の範囲であるのが好ましく、特に65〜75質量%の範囲である。
【0063】
2個のSブロックの間に配置され、ランダムスチレン/ブタジエン分布を有する1個以上の(S/B)randomブロックを有する一般構造S−(S/B)−Sで表される直鎖のスチレン−ブタジエンブロック共重合体であるのが特に好ましい。この種のブロック共重合体は、非極性溶剤中において、例えばWO95/35335又はWO97/40079に記載されているように、極性共溶剤又はカリウム塩を添加するアニオン重合によって得られる。
【0064】
ビニル含有量は、全体の1,2−並びに1,4−cis及び1,4−trans結合に対して、ジエン単位における1,2−結合の相対含有量である。スチレン/ブタジエン共重合体ブロック(S/B)における1,2−ビニル含有量は、20%未満であるのが好ましく、特に10〜18%の範囲であり、特に好ましくは12〜16%の範囲である。
【0065】
ポリオレフィン:
成分Aとして使用され得るポリオレフィンは、10〜600%、好ましくは15〜500%、特に好ましくは20〜400%の破断点引張強さの値を有するのが一般的である。
【0066】
成分Aの適例は、半結晶性ポリオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、又は4−メチル−1−ペンテンの単独重合体又は共重合体、そして、酢酸エチル、ビニルアルコール、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、又はメタクリレートとのエチレン共重合体である。使用される成分Aは、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖の低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、又はエチレン−アクリル酸共重合体を含むのが好ましい。特に好ましい成分Aは、ポリプロピレンである。
【0067】
ポリカーボネート:
成分Aとして使用され得るポリカーボネートは、20〜300%、好ましくは30〜250%、特に好ましくは40〜200%の破断点引張強さの値を有するのが一般的である。
【0068】
成分Aとして好適なポリカーボネートのモル比(質量平均Mw、ポリスチレン標準に対して、テトラヒドロフラン中でのゲル透過クロマトグラフィによって測定される。)は、10000〜60000g/モルの範囲であるのが好ましい。例えば、ポリカーボネートは、界面重縮合によるDE−B−1300266の方法によって、或いはジフェニルカーボネートとビスフェノールとの反応によるDE−A−1495730の方法に従って得られる。好ましいビスフェノールは、2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)プロパンであり、一般に、そして更には、以下、ビスフェノールAと称する。
【0069】
ビスフェノールAに代えて、他の芳香族ジヒドロキシ化合物、特に2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィット、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ジ(4−ヒドロキシフェニル)エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、又はジヒドロキシジフェニルシクロアルカン、好ましくはジヒドロキシジフェニルシクロヘキサン、又はジヒドロキシシクロペンタン、特に1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、又はその他に、上述したジヒドロキシ化合物の混合物を使用することも可能である。
【0070】
特に好ましいポリカーボネートは、ビスフェノールAを基礎とするか、又はビスフェノールA並びに80モル%以下の上述した芳香族ジヒドロキシ化合物を基礎とするポリカーボネートである。
【0071】
成分Aとして特に適当なポリカーボネートは、レゾルシノールエステルから誘導するか、又はアルキルレゾルシノールエステルから誘導する単位を含むポリカーボネートであり、例えば、WO00/61664、WO00/15718、又はWO00/26274に記載されている。かかるポリカーボネートは、例えばジェネラル・エレクトリック社によって販売されており、且つ商標名は、SollX(登録商標)である。
【0072】
US−A3737409によるコポリカーボネートを使用することも可能であり、そしてビスフェノールAとジ(3,5−ジメチルジヒドロキシフェニル)スルホンを基礎とするコポリカーボネートが、この場合に特に関心があり、高い耐熱性という特徴を有する。また、相互に異なるポリカーボネートの混合物を使用することも可能である。
【0073】
ポリカーボネートの平均モル質量(質量平均Mw、ポリスチレン標準に対して、テトラヒドロフラン中でのゲル透過クロマトグラフィによって測定される。)は、10000〜64000g/モルの範囲である。かかるモル質量は、15000〜63000g/モルの範囲であるのが好ましく、特に15000〜60000g/モルの範囲である。これは、ポリカーボネートの相対溶液粘度が、25℃のジクロロメタンにおける0.5質量%濃度溶液中で測定されて、1.1〜1.3の範囲であり、好ましくは1.15〜1.33の範囲であることを意味する。使用されるポリカーボネートの相対溶液粘度の間の差異は、0.05以下であるのが好ましく、特に0.04以下である。
【0074】
ポリカーボネートを使用する形態は、リグラインドの形態であるか、又はその他に、ペレットの形態であっても良い。
【0075】
熱可塑性ポリウレタン:
芳香族又は脂肪族の熱可塑性ポリウレタンは、一般に、成分Aとして好適であり、そして透明である無定形で脂肪族の熱可塑性ポリウレタンが特に適当である。脂肪族熱可塑性ポリウレタン及びその調製法は、当業者に知られており、例えばEP−B1567883又はDE−A10321081より公知であり、そして例えば、BASF社から商標Texin(登録商標)及びDesmopan(登録商標)にて市販されている。
【0076】
好ましい脂肪族熱可塑性ポリウレタンのショア硬度Dは、45〜70であり、その破断点引張強さの値は、30〜800%であり、好ましくは50〜600%であり、特に好ましくは80〜500%である。
【0077】
特に好ましい成分Aは、スチレンベースの熱可塑性エラストマーである。
【0078】
[成分B]
熱可塑性成形用組成物は、成分Bとしてカーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブ及びその製造方法は、当業者に知られており、文献、例えばUS2005/0186378A1に記載されている。カーボンナノチューブは、例えば、金属触媒及び炭素含有気体を含む反応器において合成され得る(例えば、US−A5643502を参照されたい。)。カーボンナノチューブは、例えばHyperion Catalysis又はApplied Scinences Incより市販されている。
【0079】
好ましいカーボンナノチューブは、単層又は多層の菅型構造を有するのが一般的である。単層カーボンナノチューブ(SWCN)は、単一のグラファイト炭素層から形成され、そして多層カーボンナノチューブ(MWCN)は、複数の上記のグラファイト炭素層から形成される。グラファイト層は、円筒の軸の周囲に対して同心配置を有する。カーボンナノチューブにおける長さと直径の比は、少なくとも5であるのが一般的であり、少なくとも100であるのが好ましく、特に好ましくは少なくとも1000である。ナノチューブの直径は、0.002〜0.5μmの範囲であるのが一般的であり、0.005〜0.08μmの範囲であるのが好ましく、特に好ましくは0.006〜0.05μmの範囲である。カーボンナノチューブの長さは、0.5〜1000μmの範囲であるのが一般的であり、0.8〜100μmであるのが好ましく、特に好ましくは1〜10μmの範囲である。カーボンナノチューブは、中空の円筒形コアを有し、その周囲に対して、グラファイト層が形式的に巻き付けられた。かかる空洞の直径は、0.001〜0.1μmの範囲であるのが一般的であり、0.008〜0.015μmの範囲であるのが好ましい。カーボンナノチューブの一般的な実施形態において、空洞の周囲における菅の壁部は、例えば8層のグラファイト副層から構成される。この場合のカーボンナノチューブは、複数のナノチューブからなる、直径1000μm以下、好ましくは直径500μm以下の凝集体の形をとることが可能である。凝集体は、鳥の巣、コーマ糸、又はオープンネットワーク構造の形をとることが可能である。
【0080】
モノマーの重合前、重合中又は重合後にカーボンナノチューブを添加して、成分Aの熱可塑性ポリマーを得ることが可能である。ナノチューブを重合後に添加する場合、押出器又は好ましくは混練器中において熱可塑性溶融物への添加によってナノチューブを添加するのが好ましい。混練器又は押出器での配合処置では、特に上述した凝集体を実質的に又は完全に粉砕し、そしてカーボンナノチューブを熱可塑性マトリックスに分散させる。
【0081】
一の好ましい実施形態において、カーボンナノチューブを供給する形態は、成分Aとして使用される熱可塑性樹脂の群から選択されるのが好ましい、熱可塑性樹脂における高濃度マスターバッチの形態であっても良い。マスターバッチにおけるカーボンナノチューブの濃度は、5〜50質量%の範囲であるのが一般的であり、8〜30質量%の範囲であるのが好ましく、特に好ましくは12〜22質量%の範囲である。マスターバッチの調製は、例えばUS−A5643502に記載されている。マスターバッチに使用により、特に、凝集体の粉砕を改良する。成形用組成物又は成形体におけるカーボンナノチューブの長分布は、成形用組成物又は成形体を得るための加工処理によって、当初に用いられるカーボンナノチューブの長分布より短くても良い。
【0082】
[成分C]
原則として、プラスチック混合物に使用する場合に従来技術に記載され、そして当業者に知られている任意の任意の分散剤が、成分Cとして適当である。好ましい分散剤は、界面活性剤又は界面活性剤混合物、例えばアニオン性、カチオン性、両性又は非イオン性の界面活性剤である。市販され、そしてCD Roempp Chemie Lexikon [CD Roempp chemical encyclopedia]- Version 3.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 2006, keyword "Dispergierhilfsmittel" [dispersing agnents]に記載のように、当業者に知られているオリゴマー及びポリマーの分散剤が更に望ましい。
【0083】
例示は、ポリカルボン酸、ポリアミン、長鎖ポリアミンとポリカルボン酸からなる塩、アミン/アミド−官能性ポリエステル及びポリアクリレート、大豆レシチン、ポリホスフェート、変性カゼインである。かかるポリマーの分散剤は、ブロック共重合体、くし形ポリマー、又はランダム共重合体の形で存在していても良い。
【0084】
カチオン性及びアニオン性の界面活性剤は、例えば"Encyclopeida of Polymer Scinence and Technology", J. Wiley & Sons (1996), 第5巻, 816-818頁、及び"Emulsion Polymerisation and Emulsion Polymers", P. Lovell and M. El-Asser編, Wiley & Sons (1997)発行, 224-226頁に記載されている。
【0085】
アニオン性界面活性剤の例示は、8〜30個の炭素原子、好ましくは12〜18個の炭素原子の鎖長を有する有機カルボン酸のアルカリ金属塩である。かかる塩は、セッケンと称されるのが一般的である。通常使用される塩は、ナトリウム、カリウム、又はアルミニウム塩である。使用され得る他のアニオン性界面活性剤は、8〜30個の炭素原子、好ましくは12〜18個の炭素原子を有するアルキルスルフェート及びアルキル−又はアルキルアリールスルホネートである。特に好適な化合物は、アルカリ金属ドデシルスルフェート、例えばナトリウムドデシルスルフェート又はカリウムドデシルスルフェート、そしてC12〜C16パラフィンスルホン酸のアルカリ金属塩である。他の好適な化合物は、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート及びナトリウムジオクチルスルホスクシネートである。
【0086】
カチオン性界面活性剤の適例は、アミン又はジアミンの塩、第四級アンモニウム塩、例えばヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、そして更には、長鎖の置換された環式アミンの塩、例えばピリジン、モルホリン、ピペリジンである。特に、トリアルキルアミンの第四級アンモニウム塩、例えばヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドを使用することが可能である。この場合のアルキル基は、1〜20個の炭素原子を有するのが好ましい。
【0087】
非イオン性界面活性剤は、特に、成分Cとして使用されても良い。非イオン性界面活性剤は、例えばCD Roempp Chemie Lexikon - Version 1.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1995, keyword "Nichtionische Tenside" [Nonionic surfactants]に記載されている。
【0088】
非イオン性界面活性剤の適例は、ポリエチレン−オキシド−又はポリプロピレン−オキシド−ベースの物質、例えばBASF社製のPluronic(登録商標)又はTetronic(登録商標)である。非イオン性界面活性剤として好適なポリアルキレングリコールは、1000〜15000g/モルの範囲のモル質量Mnを有するのが一般的であり、2000〜13000g/モルの範囲であるのが好ましく、4000〜11000g/モルの範囲であるのが特に好ましい。好ましい非イオン性界面活性剤は、ポリエチレングリコールである。
【0089】
ポリアルキレングリコールは、それ自体公知であるか、又はそれ自体公知の方法によって調製されても良く、例えば、アルカリ金属水酸化物触媒、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを使用するか、又はアルカリ金属アルコキシド触媒、例えばナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド又はカリウムイソプロポキシドを使用し、2〜8個の反応性水素原子、好ましくは2〜6個の反応性水素原子を含む少なくとも1種の開始剤分子を添加するアニオン重合か、或いはルイス酸触媒、例えば五塩化アンチモン、フッ化ホウ素エテレート(boron fluoride etherate)、又は漂白土を使用するカチオン重合によって調製されても良いが、且つ開始材料は、アルキレン基に2〜4個の炭素原子を有する1個以上のアルキレンオキシドである。
【0090】
アルキレンオキシドの適例は、テトラヒドロフラン、ブチレン1,2−又は2,3−オキシド、スチレンオキシド、及び好ましくはエチレンオキシド及び/又はプロピレン1,2−オキシドである。アルキレンオキシドは、個々に、一方を他方の後にして交互に、又は混合物として使用されても良い。使用され得る開始剤分子の例示は、以下の通りである:水、有機ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、フタル酸、又はテレフタル酸、脂肪族又は芳香族で、無置換又はN−モノ−、又はN,N−若しくはN,N’−ジアルキル−置換の、アルキル基に1〜4個の炭素原子を有するジアミン、例えば無置換又はモノ−若しくはジアルキル−置換エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、1,3−プロピレンジアミン、1,3−若しくは1,4−ブチレンジアミン、又は1,2−、1,3−、1,4−、1,5−若しくは1,6−ヘキサメチレンジアミン。
【0091】
使用され得る他の開始剤分子は、以下の通りである:アルカノールアミン、例えばエタノールアミン、N−メチル−及びN−エチルエタノールアミン、ジアルカノールアミン、例えばジエタノールアミン、及びN−メチル−及びN−エチルジエタノールアミン、そしてトリアルカノールアミン、例えばトリエタノールアミン、及びアンモニア。多価アルコール、特に2価又は3価のアルコール或いは3を超えて高級の官能性を有するアルコール、例えばエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、スクロース、及びソルビトールを使用するのが望ましい。
【0092】
他の好適な成分Cは、エステル化ポリアルキレングリコール、例えば、上述したポリアルキレングリコールにおける末端OH基と有機酸、好ましくはアジピン酸又はテレフタル酸とをそれ自体公知の方法で反応させることによって調製され得る上述したポリアルキレングリコールのモノ−、ジ−、トリ−又はポリエステルである。ポリエチレングリコールアジペート又はポリエチレングリコールテレフタレートが成分Cとして好ましい。
【0093】
特に好適な非イオン性界面活性剤は、活性水素原子を有する化合物、例えば、脂肪アルコール、オキソアルコール、又はアルキルフェノールへのエチレンオキシドの付加体をアルコキシル化することによって調製される物質である。エチレンオキシド又は1,2−プロピレンオキシドをアルコキシル化反応に使用するのが望ましい。
【0094】
他の好ましい非イオン性界面活性剤は、アルコキシル化又は非アルコキシル化糖エステル又は糖エーテルである。
【0095】
糖エーテルは、脂肪アルコールを糖類と反応させることによって得られるアルキルグルコシドであり、そして糖エステルは、糖を脂肪酸と反応させることによって得られる。上述した物質を調製するために必要とされる糖類、脂肪アルコール、及び脂肪酸は、当業者に知られている。
【0096】
好適な糖類は、例えば、Beyer/Walter, Lehrbuch der organischen Chemie [Textbook of organic chemistry], S. Hirzel Verlag Stuttgart, 第19版, 1981, 392-425頁に記載されている。特に好適な糖類は、D−ソルビトール及びD−ソルビトールの脱水によって得られるソルビタンである。
【0097】
好適な脂肪酸は、飽和或いは単不飽和又は多不飽和で、非分岐又は分岐の、6〜26個の炭素原子、好ましくは8〜22個の炭素原子、特に好ましくは10〜20個の炭素原子を有するカルボン酸であり、例えば、CD Roempp Chemie Lexikon - Version 1.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1995, keyword "Fettsaeuren" [Fatty acids]に記載されている。好ましい脂肪酸は、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びオレイン酸である。
【0098】
好適な脂肪アルコールにおける炭素骨格は、好適な脂肪酸として記載された化合物の骨格と同一である。
【0099】
糖エーテル、糖エステル、及びこれらの製造方法は、当業者に知られている。好ましい糖エーテルは、上述した糖類を上述した脂肪アルコールと反応させることによって、公知の方法により調製される。好ましい糖エステルは、上述した糖類を、上述した脂肪酸と反応させることによって、公知の方法により調製される。好ましい糖エステルは、ソルビタンと脂肪酸とのモノ−、ジ−、及びトリエステル、特にソルビタンモノラウレート、ソルビタンジラウレート、ソルビタントリラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンジオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、及びソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノ−とジオレエートの混合物である。
【0100】
[成分D]
熱可塑性成形用組成物は、成分Dとして、繊維質又は粒子状の、成分Bと異なるフィラー、又はかかるフィラーの混合物を含む。これは、市販品、例えば炭素繊維又はガラス繊維であるのが好ましい。
【0101】
使用される得るガラス繊維は、E、A、又はCガラスから構成されていても良く、そして寸法形成剤及びカップリング剤で処理されるのが好ましい。かかる繊維の直径は、6〜20μmであるのが一般的である。連続フィラメント繊維(ロービング)又はその他に、チョップトガラス繊維(短繊維)を使用することが可能であり、その長さは、1〜10mmであり、好ましくは3〜6mmである。
【0102】
フィラー又は強化材料、例えばガラスビーズ、鉱物繊維、ウィスカー、酸化アルミニウム繊維、雲母、粉末石英、及び珪炭石を添加することも可能である。
【0103】
更に、熱可塑性成形用組成物は、プラスチック混合物に特有で且つ一般的である他の添加剤を含んでいても良い。
【0104】
かかる添加剤の例示として、以下のものが特記に値する場合がある:染料、顔料、着色剤、静電防止剤、酸化防止剤、耐熱性改良用安定剤、耐光性増大用安定剤、加水分解耐性の上昇用安定剤及び化学物質耐性増大用安定剤、熱分解を阻止するための薬剤、及び特に、成形品の製造に有利である滑剤。これらの他の添加剤は、製造処理において任意の段階で計量導入されても良いが、早い時点で計量導入されるのが好ましく、これにより、添加剤の安定作用(又は他の特定の作用)を、早い段階で利用することが可能である。熱安定剤又は酸化抑制剤は、元素周期表第I族における金属(例、Li、Na、K、Cu)から誘導される通常の金属ハロゲン化物(塩化物、臭化物、ヨウ化物)である。
【0105】
好適な安定剤は、一般的な立体障害フェノール、並びにビタミンE又は類似構造化合物である。HALS安定剤(立体障害性のアミン系光安定剤(Hindered Amine Light Stabilizers))、ベンゾフェノン、レゾルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾ−ル、例えばTinuvin(登録商標)RP(CIBA社製のUV吸収剤の2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−メチルフェノール)、及び他の化合物についても適当である。これらの通常使用される量は、2質量%以下である(熱可塑性成形用組成物混合物全体に対する)。
【0106】
好適な滑剤及び離型剤は、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸エステル、そして一般的な高級脂肪酸、その誘導体、そして、12〜30個の炭素原子を有する対応の脂肪酸混合物である。かかる添加剤の量は、0.05〜1質量%の範囲である。
【0107】
シリコーン油、オリゴマーのイソブチレン、又は類似の物質についても、添加剤として使用されても良く、そして通常量は、0.05〜5質量%である。また、顔料、染料、着色増白剤(color brightener)、例えばウルトラマリーンブルー、フタロシアニン、二酸化チタン、硫化カドミウム、ペリレンテトラカルボン酸の誘導体を使用することも可能である。
【0108】
加工助剤及び安定剤、例えばUV安定剤、滑剤、及び静電防止剤の通常使用される量は、0.01〜5質量%である。
【0109】
[金属被覆可能な基材の製造方法]
熱可塑性成形用組成物は、使用されるポリマーAの性質に応じて、通常は150〜300℃の範囲であり、特に200〜280℃の範囲である温度条件下、当業者に知られている装置を用いて、成分A、B、及び存在する場合にはC及びDから、例えば成分を溶融物において混合することによる当業者に公知の方法によって調製される。この場合の各々の成分を、純粋な形で混合装置に導入することが可能である。しかしながら、個々の成分、例えばA及びB又はA及びCを予備混合することによって開始し、その後、これらを、他の成分A、B、及び/又はC、又は他の成分、例えばDと混合することも可能である。一の実施形態において、成分Aにおいて、添加用マスターバッチとして知られている、例えば成分B、C、又はDから濃縮物を最初に調製し、その後、これを、所望量の残りの成分と混合する。熱可塑性成形用組成物を、当業者に知られている方法によってペレット化し、次に、例えば、押出、射出成形、カレンダー成形、又は圧縮成形により加工して、金属被覆可能な成形体(すなわち、基材)、例えばフォイル又はシート又は層状化複合フォイル又は層状化複合シートを得ることが可能である。しかしながら、混合処理の直後か、又は混合処理での単一運転において(すなわち、溶融物での混合と、好ましくはスクリュー押出器を使用する、好ましくは押出か、又は射出成形と、の同時実施)、熱可塑性成形用組成物を加工し、特に押出又は射出成形して、金属被覆可能な成形体、例えばフォイル又はシートを得ることも可能である。
【0110】
押出による本発明の一の好ましい実施形態において、スクリュー押出器は、少なくとも1つの分配混合スクリュー要素を有する一軸スクリュー押出器として構成された。
【0111】
本発明の他の好ましい実施形態において、スクリュー押出器は、少なくとも1つの分配混合スクリュー要素を有する二軸スクリュー押出器として構成された。
【0112】
金属被覆可能な成形体の押出処理は、従来技術に記載され、そして当業者に知られている方法、例えば、アダプタ共押出又はダイ押出の形のスロットダイ押出法、及び従来に記載され、当業者に知られている使用法によって行われ得る。金属被覆可能な成形体を射出成形、カレンダー成形、又は圧縮成形する方法についても同様に、当業者に知られ、そして従来技術に記載されている。
【0113】
フォイル又はシートの形態の金属被覆可能な成形体の厚さ全体は、10μm〜5mmであるのが一般的であり、10μm〜3mmであるのが好ましく、特に好ましくは20μm〜1.5mmであり、特に100〜400μmである。
【0114】
金属被覆可能な成形体を、プラスチックの加工技術で一般的な他の付形処理に付すことが可能である。
【0115】
他の付形処理により得られる成形体:
金属被覆可能なフォイル又はシート又は層状化複合シート又は層状化複合フォイルを使用して、他の成形体を製造することが可能である。所望の成形体が、この場合に使用可能であり、且つシート様成形体、特に大表面積(large-surface-area)成形体であるのが好ましい。かかるフォイル又はシート及び層状化複合シート又は層状化複合フォイルは、極めて良好な靱性値、個々の層相互の良好な接着、及び良好な寸法安定性が重要である他の成形体の製造に使用されるのが特に好ましいので、例えば、表面の剥離による破損を最小限に抑制する。他の付形処理によって得られる特に好ましい成形体は、モノフォイル又は層状化複合シート又は層状化複合フォイルと、射出成形、発泡、注型、又は圧縮成形法によって材料の裏側に施されるプラスチックからなる裏打ち層と、を有する。
【0116】
例えばWO04/00935に記載され、そして公知である方法を使用して、金属被覆可能なフォイル又はシート又は金属被覆可能な層状化複合シート又は層状化複合フォイルから上記の成形体を製造することが可能である(層状化複合シート又は層状化複合フォイルの他の加工処理方法は、以下に記載されるものの、かかる方法は、フォイル又はシートの他の加工処理に使用することも可能である。)。材料は、加工処理の更なる段階無しに、射出成形、発泡、注型、又は圧縮成形方法によって、層状化複合シート又は層状化複合フォイルの裏側に施され得る。特に、上述した層状化複合シート又は層状化複合フォイルの使用により、事前に熱成形することなく、僅かな三次元構成部品でさえ製造することが可能である。しかしながら、層状化複合シート又は層状化複合フォイルを、事前の熱成形処理に付すことも可能である。
【0117】
例えば、裏打ち層と、中間層と、外側層と、からなる3層構造、又は裏打ち層と、外側層と、からなる2層構造の層状化複合シート又は層状化複合フォイルを熱成形して、比較的複雑な構成部品を製造することが可能である。この場合に、ポジティブ又はネガティブ熱成形法を使用することが可能である。適切な方法は、当業者に知られている。この場合の層状化複合シート又は層状化複合フォイルは、熱成形法に適応される。層状化複合シート又は層状化複合フォイルの表面の品質及び金属被覆性は、高い配向比、例えば1:5以下の条件下の配向にて低下しないので、熱成形法において考え得る配向に関する制限は、殆どない。熱成形法の後、層状化複合シート又はフォイルを、更に別の付形工程、例えば断面切断に付すことが可能である。
【0118】
適宜、上述した熱成形法の後、射出成形、発泡、注型、又は圧縮成形法によって層状化複合シート又は層状化複合フォイルの裏側に材料を施すことによって、他の金属被覆可能な成形体を製造することが可能である。かかる方法は、当業者に知られており、例えばDE−A110055190又はDE−A119939111に記載されている。
【0119】
このような射出成形、圧縮成形、又は注型法に利用されるプラスチック材料は、ASAポリマー、ABSポリマー、SANポリマー、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルスルホン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン(PP)、又はポリエチレン(PE)を基礎とするか、或いはその他に、ASAポリマー又はABSポリマーとポリカーボネート又はポリブチレンテレフタレートとからなるブレンド、及びポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートとからなるブレンドを基礎とする熱可塑性成形用組成物を含み、そしてPP及び/又はPEを使用する場合、前もって基材層に接着促進層を設けることが明らかに可能である。特に好適な材料は、無定形の熱可塑性樹脂及びそのブレンドである。射出成形法による材料の裏側への塗布に好ましくは使用されるプラスチック材料は、ABSポリマー又はSANポリマーである。他の好ましい実施形態において、当業者に知られている熱硬化性成形用組成物は、発泡又は圧縮成形法による材料の裏側への塗布に使用される。一の好ましい実施形態において、かかる組成物は、ガラス繊維強化プラスチック材料であり、そして好適な変体が、特にDE−A110055190に記載されている。発泡法による材料の裏側への塗布の場合、ポリウレタンフォーム、例えばDE−A119939111に記載されるポリウレタンフォームを使用するのが望ましい。
【0120】
一の好ましい製造方法において、金属被覆可能な層状化複合シート又は層状化複合フォイルを熱成形し、その後、逆成形用金型に配置し、そして射出成形、注型、又は圧縮成形法によって、熱可塑性樹脂を材料の裏側に施すか、或いは発泡又は圧縮成形法によって、熱硬化性プラスチックを材料の裏側に施す。
【0121】
熱成形の後で且つ逆成形用金型への配置前に、層状化複合シート又は層状化複合フォイルを断面切断に付しても良い。断面切断を、逆成形用金型から除去する後まで、遅らせることが可能である。
【0122】
[カーボンナノチューブを含む分散液]
他の好ましい実施形態において、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって金属を蒸着する本発明の方法で使用され得る基材は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法による金属被覆工程の前に、基材に対して、カーボンナノチューブを含む分散液を設け、そして分散液を、少なくとも部分的に乾燥させるか、及び/又は少なくとも部分的に硬化する基材である。
【0123】
カーボンナノチューブを含む好ましい分散液は、100質量%となる成分A’、B’、及びC’の合計質量に対して、
a’ 0.1〜99.9質量%、好ましくは2〜89.5質量%、特に好ましくは4〜84質量%の成分A’と、
b’ 0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、特に好ましくは1〜10質量%の成分B’と、
c’ 0〜99.8質量%、好ましくは10〜97.5質量%、特に好ましくは15〜95質量%の成分C’と、
を含む。
【0124】
分散液は、上述の成分A’〜C’以外に、少なくとも1種の以下の成分:
d’ 成分A’〜C’の合計質量に対して、0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜40質量%、特に好ましくは1〜20質量%の分散剤成分D’と、更には、
e’ 成分A’〜C’の合計質量に対して、0〜50質量%、好ましくは0.1〜40質量%、特に好ましくは0.5〜30質量%の、成分B’と異なるフィラー成分E’と、
を含む。
【0125】
分散剤における個々の成分を以下に説明する:
[成分A’]
有機バインダー成分A’は、バインダー又はバインダー混合物である。考え得るバインダーは、顔料親和力を有するアンカー基を有するバインダー、自然発生及び合成ポリマー及びこれらの誘導体、天然樹脂及び合成樹脂及びこれらの誘導体、天然ゴム、合成ゴム、タンパク質、セルロース誘導体、乾性油及び非乾性油等である。これらは、化学的又は物理的に硬化する物質、例えば空気硬化、放射線効果、又は熱硬化物質であっても良いものの、かかる物質である必要はない。
【0126】
バインダー成分A’は、ポリマー又はポリマー混合物であるのが好ましい。
【0127】
バインダーとして好ましいポリマーは、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン);ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート);アクリレート化アクリレート;アルキド樹脂;アルキルビニルアセテート;アルキレン−酢酸ビニル共重合体、特にメチレン−酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル、ブチレン−酢酸ビニル;アルキレン−塩化ビニル共重合体;アミノ樹脂;アルデヒド樹脂及びケトン樹脂;セルロース及びセルロース誘導体、特にヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエステル、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、カルボキシアルキルセルロース、セルロースニトレート;エポキシアクリレート;エポキシ樹脂;変性エポキシ樹脂、例えば二官能性又は多官能性ビスフェノールA又はビスフェノールF樹脂、エポキシ−ノボラック樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂;脂肪族エポキシ樹脂、グリシド酸エーテル、ビニルエーテル、エチレン−アクリル酸共重合体;炭化水素樹脂;MABS(透明ABS、メタクリレート単位を含む);メラミン樹脂、無水マレイン酸共重合体;メタクリレート;天然ゴム;合成ゴム;塩素化ゴム;天然樹脂;ロジン;セラック;フェノール樹脂;ポリエステル;ポリエステル樹脂、例えばフェニルエステル樹脂;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリアミド;ポリイミド;ポリアニリン;ポリピロール;ポリブチレンテレフタレート(PBT);ポリカーボネート(例、Bayer社製のMakrolon(登録商標));ポリエステルアクリレート;ポリエーテルアクリレート;ポリエチレン;ポリエチレン−チオフェン;ポリエチレンナフタレート;ポリエチレンテレフタレート(PET);ポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG);ポリプロピレン;ポリメチルメタクリレート(PMMA);ポリフェニレンオキシド(PPO);ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE);ポリテトラヒドロフラン;ポリエーテル(例、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)、ポリビニル化合物、特にポリ塩化ビニル(PVC)、PVC共重合体、PVdC、ポリ酢酸ビニル、そして更には、これらと、適宜、部分的に加水分解された形のポリビニルアルコールと、ポリビニルアセタールと、ポリ酢酸ビニルと、ポリビニルピロリドンと、ポリビニルエーテルと、ポリビニルアクリレートと、ポリビニルメタクリレートとの、溶液における及び分散液の形の共重合体、そして更には、これらと、ポリアクリレートと、ポリスチレン共重合体との共重合体;ポリスチレン(耐衝撃性変性又は耐衝撃性非変性);非架橋又はイソシアネートで架橋されたポリウレタン;ポリウレタンアクリレート、スチレン系アクリル酸共重合体;スチレン−ブタジエンブロック共重合体(例、BASF社製のStyroflex(登録商標)又はStyrolux(登録商標)、CPC社製のK-Resin(登録商標)、Kraton Polymers社製のKraton D又はKraton G);タンパク質、例えばカゼイン;SIS;トリアジン樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂(BT)、シアネートエステル樹脂(CE)、アリル化ポリフェニレンエーテル(APPE)である。
【0128】
また、2種以上の混合物が、有機バインダー成分A’を形成しても良い。
【0129】
成分A’として好ましいポリマーは、アクリレート、アクリレート樹脂、セルロース誘導体、メタクリレート、メタクリレート樹脂、メラミン、そしてアミノ樹脂、ポリアルキレン、ポリイミド、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、例えば二官能性又は多官能性ビスフェノールA又はビスフェノールF樹脂、エポキシ−ノボラック樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂;脂肪族エポキシ樹脂、グリシド酸エーテル、ビニルエーテル、そしてフェノール樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリスチレン共重合体、ポリスチレン−アクリレート、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、アルキレン−酢酸ビニル、そして塩化ビニル共重合体、ポリアミド、そして更には、これらの共重合体である。
【0130】
[成分B’]
成分Bとして上述したカーボンナノチューブを成分B’として使用することが可能である。
【0131】
本発明の一の実施形態において、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブをバインダー成分A’に最初に組み込むことによって分散液に添加され得る;成分A’がポリマー又はポリマー混合物である場合、かかる組み込みは、バインダー成分A’を得るために、モノマーの重合中又は重合後に行うことが可能である。ナノチューブを重合後に添加する場合、押出器又は好ましくは混練器中においてポリマー溶融物への添加によってナノチューブを添加するのが好ましい。混練器又は押出器での配合処置では、凝集体又はカーボンナノチューブを実質的に又は完全に粉砕し、そしてカーボンナノチューブをポリマーマトリックスに分散させる。
【0132】
カーボンナノチューブをバインダー成分A’に対して予備組み込みする一の好ましい実施形態において、カーボンナノチューブをバインダー成分A’に計量導入する形態は、成分A’として使用されるポリマーの群から選択されるのが好ましいポリマーにおける高濃度マスターバッチの形態であっても良い。マスターバッチにおけるカーボンナノチューブの濃度は、5〜50質量%の範囲であるのが一般的であり、8〜30質量%の範囲であるのが好ましく、特に好ましくは12〜22質量%の範囲である。マスターバッチの調製は、例えばUS−A5643502に記載されている。マスターバッチに使用により、凝集体の粉砕を改良する。
【0133】
カーボンナノチューブの長分布は、分散液への組み込み又は成分A’に対する予備組み込みの結果として、当初に用いられるカーボンナノチューブの長分布より短くても良い。
【0134】
[成分C’]
分散液は、溶剤成分C’を更に含む。これは、溶剤又は溶剤混合物からなる。
【0135】
溶剤の適例は、脂肪族及び芳香族炭化水素(例、n−オクタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン)、アルコール(例、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アミルアルコール)、多価アルコール、例えばグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、アルキルエステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、3−メチルブタノール)、アルコキシアルコール(例、メトキシプロパノール、メトキシブタノール、エトキシプロパノール)、アルキルベンゼン(例、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン)、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、アルキルグリコールアセテート(例、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート)、ジアセトンアルコール、ジグリコールジアルキルエーテル、ジグリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレンジグリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジグリコールアルキルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジオキサン、ジプロピレングリコール及びジプロピレングリコールエーテル、ジエチレングリコール及びジエチレングリコールエーテル、DBE(二塩基性エステル)、エーテル(例、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン)、塩化エチレン、エチレングリコール、エチレングリコールアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、クレゾール、ラクトン(例、ブチロラクロン)、ケトン(例、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK))、メチルジグリコール、塩化メチレン、メチレングリコール、メチルグリコールアセテート、メチルフェノール(o−、m−、p−クレゾール)、ピロリドン(例、N−メチル−2−ピロリドン)、プロピレングリコール、プロピレンカーボネート、四塩化炭素、トルエン、トリメチロールプロパン(TMP)、芳香族炭化水素及び混合物、脂肪族炭化水素及び混合物、アルコール系モノテルペン(例、テルピネオール)、水、そして更には、2種以上のかかる溶剤からなる混合物である。
【0136】
好ましい溶剤は、アルコール(例、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール)、アルコキシアルコール(例、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール)、ブチロラクロン、ジグリコールジアルキルエーテル、ジグリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、エステル(例、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ブチルグリコール、酢酸ブチルジグリコール、ジグリコールアルキルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールエーテルアセテート、DBE)、エーテル(例、テトラヒドロフラン)、多価アルコール、例えばグリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、炭化水素(例、シクロヘキサン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン)、N−メチル−2−ピロリドン、水、そして更には、これらの混合物である。
【0137】
[成分D’]
更に、分散液は、分散剤成分D’として、成分Cとして上述した分散剤を含んでいても良い。
【0138】
[成分E’]
更に、分散液は、フィラー成分E’として、成分Dとして上述したフィラーを含むことが可能である。
【0139】
更に、分散液は、上述した成分A’、B’、C’、及び適宜D’及び/又はE’と一緒に、他の添加剤、例えば加工助剤及び安定剤、UV安定剤、滑剤、腐食防止剤、及び難燃剤を含むことが可能である。
【0140】
また、他の添加剤、例えばチキソトロピー効果を有する薬剤、例えばシリカ、シリケート、例えばアエロジル(Aerosil)又はベントナイト、又はチキソトロピー効果を有する有機薬剤及び増粘剤、例えばポリアクリル酸、ポリウレタン、水素化ヒマシ油、染料、脂肪酸、脂肪酸アミド、可塑剤、湿潤剤、消泡剤、滑剤、乾燥剤、架橋剤、光開始剤、錯化剤、ワックス、顔料、及び導電性ポリマー粒子を使用することも可能である。
【0141】
分散剤の合計質量に対する、他の添加剤の含有量は、通常、0.01〜30質量%である。含有量は、0.1〜10質量%であるのが好ましい。
【0142】
分散液を調製する好ましい方法は、以下の工程:
a’)成分A’〜B’と少なくとも一部の成分C’と、更に適宜、D’、E’、そして他の成分とを混合する工程と、
b’)混合物を分散する工程と、
c’)適宜、工程a’)で使用されなかった割合の成分C’を添加して、代表的な塗布方法に用いられる粘性を調節する工程と、
を含む。
【0143】
分散液は、当業者に知られているアッセンブリを使用する激しい混合及び分散によって調製され得る。これは、成分を強力な分散アッセンブリ、例えば混練器、ボールミル、ビーズミル、溶解器、3ロールミル(three-roll mill)、又はローター・ステーター混合器において混合する工程を含む。
【0144】
分散液における全ての所望の成分を、方法の単一工程で混合することが可能である。しかしながら、2種以上の成分、例えば成分A’及びB’を上述したように予備混合し、そして残りの成分の混合を、方法における後の別個の工程まで遅らせることも可能である。
【0145】
金属層を少なくとも一部の、基材の表面に対して製造する本発明の方法における一の実施形態では、以下の工程:
a)カーボンナノチューブを含む分散液を基材に施す工程と、
b)基材に施された層を少なくとも部分的に乾燥し、及び/又は少なくとも部分的に硬化する工程と、
c)少なくとも部分的に乾燥され及び/又は少なくとも部分的に硬化された分散層に対して、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって金属を蒸着する工程と、
を含む。
【0146】
好適な基材は、非導電性材料、例えばポリマーによって提供される。好適なポリマーは、エポキシ樹脂、例えば二官能性又は多官能性で、アラミド強化又はガラス繊維強化又は紙強化エポキシ樹脂(例、FR4)、ガラス繊維強化プラスチック、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリイミド樹脂、シアネートエステル、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ナイロン、ビニルエステル樹脂、ポリエステル、ポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリアニリン、フェノール樹脂、ポリピロール、ポリナフタレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンジオキシチオフェン、フェノール樹脂被覆アラミド紙、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フルオロ樹脂、誘電体、APPE、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリールアミド(PAA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート(ASA)、スチレン−アクリロニトリル(SAN)、そして更には、2種以上の上述したポリマーの混合物(ブレンド)であり、極めて広範な形態をとることが可能である。基材は、当業者に知られている添加剤、例えば難燃剤を含むことが可能である。
【0147】
原則として、成分A’で列挙された任意のポリマーを使用することも可能である。他の好適な基材は、複合材料、フォーム型ポリマー、Styropor(登録商標)、Styrodur(登録商標)、ポリウレタン(PU)、セラミック表面、テキスタイル、厚紙、ボール紙、紙類、ポリマー被覆紙類、木材、無機物質、ケイ素、ガラス、植物組織、又はその他に動物組織、又は樹脂浸透不織布であり、これらは、シート又はロールを得るために圧縮される。
【0148】
本発明における上記の実施形態の場合、“非導電性基材”は、基材の表面抵抗が109ohms/cmを超えることを意味するのが好ましい。
【0149】
分散液を、当業者に知られている方法によって基材/裏側に施すことが可能である。
【0150】
基材表面への塗布は、一方の側以上で行うことが可能であり、一次元、二次元、又は三次元に及ぶことが可能である。基材は、一般に、使用目的に適切な所望の幾何形状を有することが可能である。
【0151】
分散液を、工程a)において構造化又は非構造化の形で基材に施すことが可能である。塗布工程[工程a)]、乾燥及び/又は硬化工程[工程b)]、及び金属蒸着工程[工程c)]は、連続的な手順にて行われるのが望ましい。これは、工程a)、b)及びc)を単純に行うことによって可能である。しかしながら、バッチ法又は半連続法についても、勿論、可能である。
【0152】
使用されるコーティング法は、一般的で且つ周知のコーティング法を含むことが可能である(注型、散布、ナイフ塗布、ハケ塗り、印刷(凸版印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、パッド印刷、インクジェット、オフセット、DE10051850に記載されるLaserSonic(登録商標)法等)、噴霧、ディップコーティング、ロール塗り、粉砕、流動床等)。層の厚さは、0.01〜100μmにて変化するのが好ましく、更に好ましくは0.1〜50μmであり、特に好ましくは1〜25μmである。層は、非構造化又は構造化形態で施され得る。
【0153】
従来の方法を、構造化又は非構造化の形で施される分散液の乾燥又は硬化に使用することが可能である。例えば、分散液を、化学的な方法、例えばUV放射線、電子線、マイクロ波照射、IR照射、又は熱による、例えばバインダーの重合、重付加又は重縮合反応によって、、或いは、溶剤の蒸発による単に物理的な方法によって、硬化することが可能である。また、物理的な方法及び化学的な方法による乾燥を組み合わせることも可能である。
【0154】
分散液を塗布し、そして少なくとも部分的に乾燥し、及び/又は少なくとも部分的に硬化した後に得られる層により、少なくとも部分的に乾燥され、及び/又は少なくとも部分的に硬化された分散層に対して、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって金属を、その後に蒸着することが可能となる。
【0155】
[電気メッキ法による基材への金属蒸着]
表面にカーボンナノチューブが存在する基材、例えばカーボンナノチューブを含む熱可塑性成形用組成物又はカーボンナノチューブを含む分散液で被覆される基材は、基材表面の複雑な予備処理を必要とすることなく、電気メッキ法によって金属層を堆積させる場合、すなわち、金属被覆される基材を製造する場合に特に好適である。
【0156】
原則として、プラスチックの表面に対して、電気メッキ法によって金属を蒸着する場合に当業者に知られ、そして文献に記載される任意の方法が、金属被覆される基材の製造方法として適当である(例えば、Harold Ebneth等著., Metallisieren von Kunststoffen: Praktische Erfahrungen mit physikalisch, chemisch und galvanisch metallisierten Hochpolymeren [Metallization of plastics: practical experience with high polymers metallized by physical, chemical, and electroplating methods], Expert Verlag, Renningen-Malmsheim, 1995, ISBN 3-8169-1037-8; Kurt Heymann等著., Kunststoffmetallisierung: Handbuch fuer Theorie und Praxis [Metallization of plastics: theoretical and practical manual] No.22 in series of publications entitled Galvanotechnik und Oberflaechenbehandlung [Electroplating technology and surface treatment], Saulgau: Leuze, 1991; Mittal, K. L. (ed.), Metallized Plastics Three: Fundamental and Applied Aspects, Thrid Electrochemical Society Symposium on Metallized Plastics: Proceedings, Phoenix, Arizona, October 13-18, 1991, New York, Plenum Pressを参照されたい。)。
【0157】
代表的な最終付形処理の後、金属被覆可能な基材を、電位の利用によってカソードとして配置し、そして酸性、中性、又は塩基性の金属塩溶液と接触させ、その後、かかる金属塩溶液の金属を、電気メッキ法によって、金属被覆可能な基材におけるカーボンナノチューブを含む表面に対して蒸着させる。蒸着に好ましい金属は、クロム、ニッケル、銅、金、及び銀、特に銅である。また、例えば、金属被覆可能な基材を、異なる金属の溶液を有するディップコーティング電解槽(dip-coating bath)に導入し、且つ各々の場合、外部電圧及び電流の流れを利用することによって、電気メッキ法によって複数の金属層を連続して堆積させることも可能である。
【0158】
金属被覆可能な基材の表面に対する特定の予備処理は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法による金属被覆の前に必要とされないものの、原則として、当業者に公知の方法によって表面活性化を行うことが可能である。基材表面の表面活性化は、表面を制御された方法で粗くするか、又はカーボンナノチューブを表面に対して放出するための制御された方法を用いることによって、接着を改善し、又はその他に、金属蒸着を促進するために使用され得る。また、カーボンナノチューブの放出は、金属被覆を達成するために、少ない割合をポリマーマトリックスにおいて必要とする点において有利である。
【0159】
例えば、表面活性化は、機械的な摩耗、特にブラッシング、摩砕、又は研磨剤若しくは加圧下でウォータージェットからの衝撃を用いる艶出し、サンドブラスト、又は超臨界二酸化炭素(ドライアイス)を用いる噴射によって、或いは物理的な方法、例えば、加熱、レーザー、UV光、コロナ又はプラズマ放電、及び/又は化学的摩耗、特にエッチング及び/又は酸化によって行われ得る。機械的な摩耗及び/又は化学的な摩耗を行う方法は、当業者に知られ、そして従来技術に記載されている。
【0160】
艶出しに用いられる研磨剤は、当業者に知られている任意の研磨剤であっても良い。研磨剤の適例は、軽石質の粉末(pumice flour)である。加圧下でウォータージェットを使用する場合に硬化された分散液の最上層を除去するために、ウォータージェットは、小さな中実粒子、例えば軽石質の粉末(Al23)を含み、その粒径分布は、40〜120μmであり、好ましくは60〜80μmであり、又はその他に、粒径が>3μmである粉末石英(SiO2)を含むのが好ましい。
【0161】
表面活性化は、金属被覆可能な基材の引張、特に、1.1〜10倍、好ましくは1.2〜5倍、特に好ましくは1.3〜3倍に亘る引張により行われ得る。機械的及び/又は化学的摩耗及び引張に関する上述の実施形態は、勿論、表面活性化に対して、相互に組み合わせて利用することも可能である。
【0162】
引張は、1以上の方向で行われるのが好ましい。押出形材、ストランド、又は菅の場合、引張は、1の方向で行われるのが好ましく、そしてシート様プラスチック品の場合、多方向、特に2方向の引張を、例えば、フォイル又はシートにおいて吹込成形又は熱成形法で行うのが望ましい。多方向の引張の場合、上述した引張係数が、少なくとも1つの方向の引張において達成されることが必要不可欠である。
【0163】
引張に使用され得る方法は、原則として、文献に記載され、そして当業者に知られている任意の引張方法である。フォイルの場合に好ましい引張方法の例示は、吹込成形法である。
【0164】
化学的摩耗の場合、基材のポリマーに適する化学物質又は化学物質の混合物を使用するのが望ましい。化学的摩耗の場合、ポリマーは、例えば、表面から離れて、溶剤によって少なくとも部分的に溶解されても良く、或いはマトリックス材料の化学構造は、適当な試薬によって少なくともある程度は粉砕されていても良く、これにより、カーボンナノチューブを放出する。マトリックス材料を膨張させる試薬についても、カーボンナノチューブの放出に適当である。かかる膨張により、蒸着させるべき金属イオンが電解質溶液から浸透することが可能である空洞を形成し、これにより、大多数のカーボンナノチューブを金属被覆することが可能となる。放出されるカーボンナノチューブの大多数により、金属被覆処理の速度を上昇させる。
【0165】
マトリックス材料が、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、エポキシ−ノボラック、ポリアクリレート、ABS、スチレン−ブタジエン共重合体、又はポリエーテルである場合、カーボンナノチューブの放出は、オキシダントによって達成されるのが好ましい。オキシダントにより、マトリックス材料の結合を壊すので、これによる粒子の放出と共に、バインダーを切り離すことが可能となる。オキシダントの適例は、マンガネート、例えば過マンガン酸カリウム、マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、マンガン酸ナトリウム、過酸化水素、酸素、触媒の存在下での酸素、例えばマンガン、モリブデン、ビスマス、タングステン、及びコバルトの塩の存在下での酸素、オゾン、バナジウムペントキシド、二酸化セレン、過硫酸アンモニウム溶液、アンモニア又はアミンの存在下での硫黄、二酸化マンガン、鉄酸カリウム、ジクロメート/硫酸、硫酸又は酢酸若しくは無水酢酸におけるクロム酸、硝酸、ヨウ化水素酸、臭化水素酸、重クロム酸ピリジニウム、クロム酸−ピリジン錯体、無水クロム酸、酸化クロム(V)、過ヨウ素酸、酢酸鉛、キノン、メチルキノン、アントラキノン、臭素、塩素、フッ素、第二鉄塩溶液、ジスルフェート溶液、過炭酸ナトリウム、オキソハロゲン酸(oxohalic acid)の塩、例えばクロレート又はブロメート又はヨーデート、ペルハロ酸の塩、例えばナトリウムペルヨーデート又はナトリウムペルクロレート、ナトリウムペルボレート、ジクロメート、例えばナトリウムジクロメート、過硫酸の塩、例えばペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ一硫酸カリウム、クロロクロム酸ピリジニウム、次亜ハロゲン酸(hypohalic acid)の塩、例えば次亜塩素酸ナトリウム、求電子試薬の存在下でのジメチルスルホキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、3−クロロ過安息香酸、2,2−ジメチルプロパノール、デス−マーチン−ペルヨージナン、塩化オキサリル、尿素−過酸化水素付加体、尿素ペルオキシド、2−ヨードキシ安息香酸、過オキソ一硫酸カリウム、m−クロロ過安息香酸、N−メチルモルホリンN−オキシド、2−メチルプロパ−2−イルヒドロペルオキシド、過酢酸、ピバアルデヒド、四酸化オスミウム、オキソン、ルテニウム(III)塩及びルテニウム(IV)塩、2,2,6,6−トリメチルアセトアルデヒドN−オキシドの存在下での酸素、トリアセトキシペルヨージナン、トリフルオロ過酢酸、トリメチルアセトアルデヒド、硝酸アンモニウムである。必要により、処理中に温度を上昇させて、放出処理を改善することが可能である。
【0166】
好ましくは、マンガネート、例えば過マンガン酸カリウム、マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、マンガン酸ナトリウム、過酸化水素、N−メチルモルホリンN−オキシド、ペルカーボネート、例えば過炭酸ナトリウム又は過炭酸カリウム、ペルボレート、例えばナトリウムペルボレート又はカリウムペルボレート、過スルフェート、例えば過硫酸ナトリウム又は過硫酸カリウム、ナトリウム、カリウム、及びアンモニウムのペルオキソジ−及びモノスルフェート、ナトリウムハイポクロライド、尿素−過酸化水素付加体、オキソハロゲン酸の塩、例えばクロレート又はブロメート又はヨーデート、ペルハロ酸の塩、例えばナトリウムペルヨーデート又はナトリウムペルクロレート、テトラブチルアンモニウムペルオキシジスルフェート、キノン、第二鉄塩溶液、バナジウムペントキシド、ピリジニウムジクロメート、次亜塩素酸、臭素、塩素、ジクロメートである。
【0167】
特に好ましくは、過マンガン酸カリウム、マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、マンガン酸ナトリウム、過酸化水素及びその付加体、ペルボレート、ペルカーボネート、ペルスルフェート、ペルオキソジスルフェート、ナトリウムハイポクロリド、及びペルクロレートである。
【0168】
例えば、エステル構造物、例えばポリエステル樹脂、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエステルウレタンを含むマトリックス材料においてカーボンナノチューブを放出する場合、例えば、酸性又はアルカリ性の化学物質及び/又は化学物質の混合物を使用するのが望ましい。好ましい酸性の化学物質及び/又は化学物質の混合物は、例えば、濃縮された酸又は希酸、例えば塩酸、硫酸、リン酸、又は硝酸である。また、有機酸もマトリックス材料に応じて適当な場合があり、例えば、ギ酸又は酢酸である。好適なアルカリ性化学物質及び/又は化学物質の混合物は、例えば、塩基、例えば水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、水酸化アンモニウム、又は炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムである。必要により、処理中に温度を上昇させて、放出処理を改善することが可能である。
【0169】
また、溶剤を、マトリックス材料でのカーボンナノチューブの放出に使用することも可能である。溶剤は、マトリックス材料に適切に適合される必要がある。なぜなら、マトリックス材料は、溶剤中に溶解するか、又は溶剤によって溶媒和する必要があるからである。マトリックス材料が溶解可能な溶剤を使用する場合、基層を、溶剤と短時間だけ接触させて、マトリックス材料の最上層を溶媒和することにより、分離させる。原則として、任意の上述した溶剤を使用可能である。好ましい溶剤は、キシレン、トルエン、ハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルである。溶剤の作用を改善するために、必要により、溶解処置中に温度を上昇させることが可能である。
【0170】
化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって堆積される1層以上の金属層の厚さは、当業者に知られている一般的な範囲内であり、本発明の場合に重要ではない。
【0171】
導電性構成部品として使用する場合に特に好ましい金属被覆された基材、特にプリント基板は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって堆積される少なくとも1層の金属層、特に銅層、銀層、又は金層を有する。
【0172】
装飾分野で使用する場合に特に好ましい金属被覆された基材は、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって堆積される銅層と、これに対して、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって堆積されるニッケル層と、そこに堆積されるクロム層、銀層、又は金層と、を有する。
【0173】
適宜、文献に記載され、そして当業者に知られている方法によって導体トラック構造物を製造した後、金属被覆された基材は、導電性の構成部品、特にプリント基板、RFIDアンテナ、トランスポンダ・アンテナ又は他のアンテナ構造物、スイッチ、センサ、及びMID、EMI遮蔽材料(すなわち、電磁波妨害を回避するための遮蔽)、例えば吸収体、減衰器、又は電磁放射用反射板としてか、或いはガス障壁又は装飾部品、特に自動車分野、衛生分野、玩具分野、家庭分野、及び事務分野での装飾部品として適当である。
【0174】
かかる用途の例示は、以下の通りである:コンピュータのケース、電子部品のケース、軍事用及び非軍事用の盾、装置、カミソリ用付属品及び洗面台の付属品、シャワーヘッド、シャワーレール、シャワー保持部、金属被覆されたドアハンドル及びドアノブ、トイレットペーパーロールの保持部、バスタブのグリップ、家具及び鏡における金属被覆された装飾ストリップ、及びシャワーパーティションのフレーム。
【0175】
また、以下のものも特記に値する場合がある:自動車分野における金属被覆されたプラスチック表面、例えば装飾ストリップ、外部ミラー、ラジエータグリル、初期段階の金属被覆、エアロフォイルの表面、外部の車体部品、ドア枠、交換用トレッド板、装飾ホイールカバー。
【0176】
プラスチックから製造され得る部品は、特に、これまで金属から部分的に又は完全に製造された部品である。この場合に特記に値する場合がある例示は、以下の通りである:工具、例えばプライヤー、ドライバー、ドリル、ドリルチャック、鋸刃、リングレンチ、及びオープン・ジョーレンチ(open-jaw wrenches)。
【0177】
また、金属被覆された基材は、これらが磁化性金属を含む場合、磁化性機能部品の分野、例えば磁性パネル、マグネチック・ゲーム、例えば冷蔵庫のドアにおける磁性面にも使用される。また、かかる基材を、良好な熱伝導が有利である分野、例えばシートヒータシステム、床仕上げ材−ヒータシステム、断熱材料のフォイルに施す。
【0178】
本発明の方法により、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって、金属塩溶液から金属の蒸着による基材への金属層の塗布を改善することが可能である。特に、本発明の方法では、基材に対して、金属層を、比較的短い電気メッキ時間内で基材に対する良好な接着、低コスト、そして良好な品質にて堆積させることが可能である。これにより金属被覆された基材は、比較的軽量である。
【0179】
以下の実施例を用いて、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0180】
[実験部1]カーボンナノチューブを含む成形用組成物からなる基材:
成分Aとして以下のものを使用した:
A−i Styroflex(登録商標)2G66、BASF社製のS−TPE、
A−ii PP4821、Borealis社製のポリプロピレン、メルト・フロー・インデックス 2.4g/10分(230℃及び2.16kgの条件下でISO1133により測定)。
【0181】
成分Bとして以下のものを使用した:
B−i Baytubes(登録商標)C150P、炭素含有量>95質量%、平均粒径13〜16nm及び長さ1〜10μmであるBayer Material Science社製の多層カーボンナノチューブ。
【0182】
以下の成分を、本願ではない比較実験に使用した:
Comp−i Vulcan(登録商標)XC 72R、Cabot Corp製の導電性カーボンブラック。
【0183】
[金属被覆可能な基材の製造]
表1に記載される定量的割合の成分Aを、120〜150℃の温度条件下でIKA Duplex混練器に取り込み、同様に表1に記載される定量的割合の他の成分を数回に分けて添加し、そして混合した(質量%単位のデータ、それぞれ、全ての成分の合計質量に対する)。約30分の混練の後に得られた成形用組成物を射出成形して、エッジ長さ50×50mmの平坦な試験片を形成した。
【0184】
[表面活性化]
更に、以下の表面活性化を、表1において適切に示された試験片に対して行った:
試験片を、6質量%のKMnO4及び4.5質量%のNaOHを含み(それぞれ、水溶液の合計質量に対する)、温度が80℃であった水溶液中に2分間に亘って浸漬した。その後、試験片を、水道水の流れで30秒間濯いだ。最後に、試験片を、2質量%のH22及び10質量%のH2SO4(それぞれ、水溶液の合計質量に対する)を含む水溶液中に1分間に亘って浸漬した。
【0185】
[金属被覆]
試験片は、Atotech社から販売の酸性Cupracid(登録商標)HS硫酸銅電解槽(21質量%のCuSO4、5.5質量%のH2SO4、0.2質量%の増白剤、0.5質量%のHSレベラー(HS leveler)、及び0.02質量%のNaCl、それぞれ溶液、特に水溶液の合計質量に対する)における浸漬及び1Vの電位の利用により30分間に亘って金属被覆された。試験片は、視覚的に均一な銅層が、30分間の電気メッキの後に試験片全体に対して堆積された場合に金属被覆可能と見なされた。
【0186】
表1は、試験片の金属被覆性を示している。
【0187】
【表1】

【0188】
*“比較”で示される実施例は、比較実施例である。
【0189】
** 試験片は、視覚的に均一な銅層が、明細書に記載された30分間の電気メッキの後に試験片全体に対して堆積された場合に金属被覆性に関して“有り”と分類された。
【0190】
[実験部2]カーボンナノチューブを含む分散液での基材の被覆
成分A’として以下のものを使用した:
A’−i Styroflex(登録商標)2G66、BASF社製のS−TPE。
【0191】
成分B’として以下のものを使用した:
B’−i Baytubes(登録商標)C150P、炭素含有量>95質量%、平均粒径13〜16nm及び長さ1〜10μmであるBayer Material Science社製の多層カーボンナノチューブ。
【0192】
成分C’として以下のものを使用した:
C’−i n−ブチルアクリレート。
【0193】
成分E’として以下のものを使用した:
E’−i Vulcan(登録商標)XC 72R、Cabot Corp製の導電性カーボンブラック。
【0194】
[分散液の調製]
表2に記載される定量的割合の成分A’を取り込み、同様に表2に記載される定量的割合の成分B’を数回に分けて添加し、そして120℃の温度条件下でIKA Duplex混練器において混合した(質量%単位のデータ、それぞれ、全ての成分の合計質量に対する)。
【0195】
これにより得られた混合物を、ガラス粒子の存在下、Skandex DAS 200混合器中において、表2に記載される定量的割合の成分C’及び適宜、他の成分(質量%単位のデータ、それぞれ、全ての成分の合計質量に対する)と1時間に亘って混合した。その後、ガラス粒子を除去した。
【0196】
[基材の被覆]
これにより得られた分散液を、2つの選択的な方法(表2に示される)によって更に加工処理した:
α)分散液を、ポリエチレンテレフタレートからなる、基材としてのフォイルに対して施した。80℃の条件下で分散液を10分間乾燥した後、基材において、厚さが約25μmである層を形成し;又は
β)分散液を、RFIDアンテナの形態のSaueressig CP90/200グラビア色校正装置によって、ポリエチレンテレフタレートからなる、基材としてのフォイルに対して印刷し、その後、乾燥して、層の厚さが約3μmであるトラックを形成した。
【0197】
[表面活性化]
表2に適切に示された被覆基材の場合、更に、以下の表面活性化を行った:
被覆基材を、6質量%のKMnO4及び4.5質量%のNaOHを含み(それぞれ、水溶液の合計質量に対する)、温度が80℃であった水溶液中に2分間に亘って浸漬した。その後、被覆基材を、水道水の流れで30秒間濯いだ。最後に、被覆基材を、2質量%のH22及び10質量%のH2SO4(それぞれ、水溶液の合計質量に対する)を含む水溶液中に1分間に亘って浸漬した。
【0198】
[金属被覆]
被覆基材は、Atotech社から販売の酸性Cupracid(登録商標)HS硫酸銅電解槽(21質量%のCuSO4、5.5質量%のH2SO4、0.2質量%の増白剤、0.5質量%のHSレベラー、及び0.02質量%のNaCl、それぞれ溶液、特に水溶液の合計質量に対する)における浸漬及び1Vの電位の利用により30分間に亘って金属被覆された。被覆基材は、視覚的に均一な銅層が、30分間の電気メッキの後に基材全体に対して堆積された場合に金属被覆可能と見なされた。
【0199】
表2は、被覆基材の金属被覆性を示している。
【0200】
【表2】

【0201】
* 被覆基材は、視覚的に均一な銅層が、明細書に記載された30分間の電気メッキの後に基材全体に対して堆積された場合に金属被覆性に関して“有り”と分類された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩溶液から金属の蒸着によって基材に対して金属層を施す方法であって、
基材の表面にカーボンナノチューブを存在させる工程を含むことを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
使用されるカーボンナノチューブは、長さが0.5〜1000μmの範囲であり、直径が0.002〜0.5μmの範囲である単層又は多層カーボンナノチューブを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基材は、熱可塑性成形用組成物を含み、且つ熱可塑性成形用組成物は、100質量%となる成分A、B、C、及びDの合計質量に対して、
a 成分Aとして、20〜99質量%の熱可塑性ポリマーと、
b 成分Bとして、1〜30質量%のカーボンナノチューブと、
c 成分Cとして、0〜10質量%の分散剤と、
d 成分Dとして、0〜40質量%の繊維質又は粒子状のフィラー、又はこれらの混合物と、
を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
成分Aとして、耐衝撃性芳香族ビニル共重合体、ポリオレフィン、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、及びスチレンベースの熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上のポリマーを使用する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
a’ 成分A’、B’、及びC’の合計質量に対して、0.1〜99.9質量%の有機バインダー成分A’と、
b’ 成分A’、B’、及びC’の合計質量に対して、0.1〜30質量%の、成分B’としてのカーボンナノチューブと、
c’ 成分A’、B’、及びC’の合計質量に対して、0〜99.8質量%の溶剤成分C’と、
を含む分散液を基材に対して供給し、そして分散液を、少なくとも部分的に乾燥させるか、及び/又は少なくとも部分的に硬化し、分散液の少なくとも部分的な乾燥及び/又は少なくとも部分的な硬化の後、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって金属を蒸着させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
分散液は、更に以下の成分の内少なくとも1種:
d’ 成分A’、B’、及びC’の合計質量に対して、0.1〜50質量%の分散剤成分D’、
e’ 成分A’、B’、及びC’の合計質量に対して、0.1〜50質量%のフィラー成分E’、
を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
バインダー成分A’は、ポリマー又はポリマー混合物からなる請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
分散液を、構造化又は非構造化の形で基材に施す請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
カーボンナノチューブが存在する基材表面を活性化した後に、化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって金属を蒸着させる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
カーボンナノチューブを、基材に対する金属層の施与に使用する方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により得られる導電性金属層を少なくとも部分的に有する基材表面。
【請求項12】
請求項11に記載の基材表面を、電流又は熱の伝導用に、又は装飾金属面として、又は電磁放射線の遮蔽用に、又はその他に磁化用に使用する方法。
【請求項13】
プリント基板、RFIDアンテナ、トランスポンダ・アンテナ又は他のアンテナ構造物、シートヒータシステム、リボンケーブル、フォイル導体、非接触型ICカード、太陽電池又はLCDディスプレイ画面又はプラズマディスプレイ画面における導体トラックとしての、或いは化学的な方法及び/又は電気メッキ法によって被覆される任意の形の製品の製造に対する請求項12に記載の使用法。

【公表番号】特表2009−545671(P2009−545671A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522234(P2009−522234)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057754
【国際公開番号】WO2008/015168
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】