説明

基板に塗布された金属含有構造物を腐食から保護する方法

本発明は、基板上に堆積された金属含有構造物、特に導電性構造物を腐食攻撃、特に電気的腐食攻撃から保護するための方法に関する。前記方法は、構造物に対して、当該の導電性材料の不動態化範囲内の不動態化電圧を、少なくとも一時的に印加することに基づくものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に塗布された金属含有構造物、特に、導体トラックを腐食から保護するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導体トラックまたは導体アレイの構造物が、さまざまな目的のために、通常はガラスからなるが、プラスチック(例えば、ポリカーボネート)から製造されることも増えてきている、自動車窓ガラスに塗布されていることは一般に知られている。それらは、アンテナ、加熱用アレイ、センサなどとして使用されている。さらに、レインセンサは、建設部門において、特に、ガラス屋根の場合には、従来から用いられている技術である。そのような構造物はまた、例えば、強化ガラス板の上で、内装用途のための破壊センサ(閉回路ループ)として使用される。
【0003】
通常、前記構造物は、大きな産業規模で製造され、銀含有量の高い焼成ペーストをスクリーン印刷することにより、ガラス基板上に焼成される。焼成には、ガラス板が一枚物である場合は、曲げおよびその後の強化を目的としたガラス板の加熱が、ほとんどの場合、伴っている。
【0004】
そのような導体構造物が、特に、湿度センサまたはレインセンサの場合のように、窓ガラスの外側に配置されている場合は、気象条件で長期にわたり曝露使用された後では、腐食現象が生じうる。この目的のために、さまざまな保護手段が既に提案されている。
【0005】
次に述べるように、DE−A 2 231 095には、ガラス板の表面上で加熱導体として使用される導体構造物の上に、誘電材料(被覆)を塗布することが記載されている。DE−C1−100 15 430には、ガラス板の表面上の凝縮物を検出する容量作動型センサが記載されており、前記センサの電極には、誘電不動態化層が塗布されている。しかし、既に焼成された構造物の上に、そこを標的として追加の層を塗布することは、作業進行の障害となり、時間が掛かり、人手が掛かる中間段階であって、非常に正確に実行しなければならないため、なおさらである。そのようなセンサが、例えば、車両のワイパの拭き取り領域に存在するときは、保護層は時間の経過と共に消耗し、必要に応じて取り替えなければならない。
【0006】
金属は、電圧を印加することにより、電気的腐食から効果的に保護されうること自体は、知られている。この話題に関する証拠書類は、インターネットリンクで入手できる:http://docserver.bis.uni−oldenburg.de/publikationen/dissertation/2000/ducper00/pdf/kap02.pdf。これは、Matthias Ducciによるドイツの学位論文、「金属電極上の周期的および無秩序振動現象および神経刺激伝導の電気化学モデル実験」、2000年、IX、268頁、+CD−ROMによるビデオシークエンス、オルデンブルグ大学、2000年、からの抜粋(第2章)である。鉄を腐食から保護するために、十分に高い外部電圧を印加することにより、金属を、材料について決定されるべき不動態化電位より高い混合電位に設定することが述べられている。不動態化が導入された後は、非常に低い電流密度により、この状態が維持されうる。不動態化電流密度は、腐食電流密度と同等であり、鉄では10μA/cmであるが、不動態化電流密度は、ほぼ0.2A/cmである。
【0007】
WO−A1−01/07 683には、鋼から作製されたコンクリート補強材を腐食から保護するための適切な適用例が記載されている。表面電位の差を相殺し、一様な電位をもたらすために、アノード系を使用して、制御された低い直流電圧を鋼の補強材に供給した結果、腐食が防止された。
【0008】
知られている他の適用例において、金属を腐食から保護する不動態化を行うための、交流電圧が提案されている。しかし、鋼の場合は、交流不動態化電圧により、直流電圧が使用された場合より迅速に、腐食が進行することが観測されている。これは、交流電圧が、不動態化表面層を劣化させるという事実により説明される。
【0009】
しかし、また、交流電圧の周波数を高くしていくと、構造物の腐食の傾向は電圧の上昇に支配されること、および/または防食効果が改善されることが観測されている。これは、電流方向の分極の変化が、不動態化層による腐食性電荷担体の拡散より速く進行するという事実により説明される。
【0010】
不動態化電圧の水準は、腐食から保護される材料について、個別に決定されなければならない。通例、明確な不動態化範囲が、外部電圧または不動態化電圧の関数として決定されることができ、その領域においては、腐食電流は、(金属の溶解速度に比例して)最小化されるか、または消失するが、このことは、最早腐食が生じていないことを意味する。外部電圧が極端に低い場合は、十分な防食効果が達成されず(「活性」範囲)、電圧が極端に高い(「破壊電位」を超える)場合は、いわゆる「過剰不動態化」状態が生じ、防食効果が不十分になって、腐食電流は再び有意に上昇する。
【0011】
一般に、建築物の鉄骨構造に、この電気的不動態化を適用することは、知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
基板上の、特にガラス板上の、外気に曝された金属含有構造物を、外気に誘起された腐食から保護するための方法を詳細に記述することが、本発明の目的であり、この方法により、導電性構造物に不動態被覆を追加することが不必要とされうる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、特許請求項1に記載の特徴の助けによって、本発明により達成される。従属請求項の特徴には、この方法およびその用途の有利な発展が詳細に記述されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、最初に考察された導電性表面構造物でさえ、金属、特に銀により不動態化されうる系であることができ、適切な電圧を印加することにより、腐食から保護されうるという考察に基づいている。
【0015】
湿度センサ、アンテナ導体および加熱導体などの、ガラスまたはプラスチックの板の上に印刷される構造物、具体的には銀含有量の高いガラスフリットから作製されるスクリーン印刷ペースト用に工業的に使用される材料は、直流電圧および交流電圧の両方を印加することにより、急激な腐食から効果的に保護されうることが、一連の実験において実際に発見された。しかし、電極に不動態化電圧を連続して印加したままにしておくことは、必須ではない。
【0016】
決定的なのは、導体構造物の配置である。電気的な不動態化、従って腐食に対する能動的な保護には、基板表面それ自体の上でまたは別の方法で、接近しており、かつ電気的に接続されていない、不動態化電圧水準における2つの導体の間の電位差が必要である。これは、容量作動型センサの場合は、特に容易に実施されうる。しかし、同様に、容量結合されうるその他の用途、例えばアンテナ構造物の場合も、反対極に関して適切な空間配置が行われるならば、本明細書に記載の方法を用いて、不動態化されうる。従って、例えば、接地棒(アースまたは+12V)に平行に導かれる信号導体を有する系は、適切な信号振幅および必要に応じて周波数を選択することにより、不動態化されうる。
【0017】
部品の耐用年数をシミュレートする全試験条件について、増強された腐食効果が与えられたとすると、印刷導体構造物は確実に破壊されると想定しなければならないので、DIN 50021に従って塩水噴霧試験を実施する場合は、それらの印刷導体構造物を人工的で攻撃的な外気に曝さないように、試験される車両用ガラス板上の印刷導体構造物を覆うことが、これまでの通例であり、(特定の製造者試験標準に従って)受け入れられてきた。
【0018】
試験が実行されている間中、不動態化電圧が印加されている、いくつかの試験パターンについて前記試験が実行された後では、240時間の曝露の後でさえ、目視評価によれば、ほんの比較的穏和な腐食現象のみが観察された。しかし、この腐食によって、問題にしている構造物の完全な機能不全が生じるには至らなかった。
【0019】
今日まで、知られている防食手段が必要とされてきたか、または別の解決策(例えば、ガラス板の裏側にある光センサまたは容量型センサ)を選択してきた外部用途においてさえ、比較的低い交流(AC)電圧を印加することによって起こりうるこの電気的不動態化は、基板上、特にガラス上にスクリーン印刷によって作製される銀含有導体構造物を、費用効率を高めて使用できる可能性を開いている。電圧を印加して保護効果を発揮させることには、非常に僅かなエネルギーしか消費しないので、ほんの無視できる程度の、操業に要する追加コストが、この程度に上昇するだけである。自動車部門で受け入れられている1.5mAという数値より数桁小さい、10μA/cm未満の測定電流密度で、閉回路電流が不動態化モードに設定される。
【0020】
現在では自動車部門において、銀含有導体構造物は、湿潤領域でのセンサまたは他の用途において窓ガラスの外側で、覆われることなく使用されうる。建設部門においては、印刷レインセンサまたは破壊センサが、例えば、屋根窓の外側のガラス板に取り付けられることが可能である。この構造物へ保護電圧を印加するためのコストは、比較的低い。
【0021】
機械的および化学的靭性を向上させる一般的な目的で行う、印刷構造物上の焼成を、該当する場合は、なくすことが可能である。狙いは、ガラス以外の物質、例えばプラスチック板を使用することが、簡単化されることである。
【0022】
いずれにせよ必要とされるセンサ作動電圧または測定電圧が、不動態化電圧範囲へ移動させられるときは、センサ構造物の動作は、電気的不動態化と非常に有利に組み合わせられることができる。これまで、本明細書において考察された関係は考慮されてこず、普通に入手可能な電子部品を有するセンサは、ほぼ3V〜の電圧で作動されてきた。しかし、この電圧数値では、保護し、不動態化する効果は生まれない。さらに、これらの測定交流電圧に、習慣的に採用されている周波数は、最適周波数より低い。経験的に求められた不動態化範囲は、3Vより遙かに小さな電圧数値で生じる。最適(最小腐食電流)は、1.1V、正弦波状の電圧プロフィールを有する3000Hzの周波数で発見され、統計的に確認された。
【0023】
最適電圧水準を1つだけに限定することは可能であるが、周波数に関しては、類似の保護作用または低腐食電流が、3kHzを超える周波数でも設定されることを考慮から排除できない。
【0024】
腐食しやすい印刷導電性表面構造物の実際的な意味を持つ試験、特に、DIN50021による塩水噴霧試験を準備する目的で、第一段階では、材料の不動態範囲を決定した。表面構造物用の材料が、スクリーン印刷によって、基板上に平面状に塗布されている一連の試料電極がこの目的のために製造された。スクリーン印刷された釉薬は、担体材料としてガラスフリット、導電性金属として80%の含有量の銀、必要に応じて顔料からなる。
【0025】
それ自体は知られている、以下の装置が、動電位法実験に用いられる:
測定セルは、5%の塩化ナトリウム溶液が入っている容器を備えている。調査される材料から作製された作用電極、白金から作製された対向電極および参照電極(銀/塩化銀電極)が溶液中に浸漬され、ハーバー−ルギン細管(Haber−Luggin capillary)を介して、参照電極の電位が取り出されている。直流電圧および交流電圧実験用には、適切なユニット(直流電圧用にはポテンショスタット、交流電圧用には関数発生器)が、それぞれ使用された。最後に、適切なソフトウエアを備えた測定用コンピュータが、信号評価のために使用された。
【0026】
第1段階は、この測定セルに浸漬された試料に、(試料電極と対向電極との間で)0〜4Vの範囲のDC電圧を印加することであった。
【0027】
第1に、前記電圧範囲を横断する適切な時間間隔を決定する必要がある。前記電圧幅をあまりにも急いで横断する(2時間)と、ほぼ2Vで腐食電流が若干減少したにも係わらず、顕著な不動態化範囲は形成されなかったことが分かった。対照的に、48時間の実行時間が与えられると、不動態化に到達する前に、腐食が既にそれまでに促進されていたか、あるいはいかなる不動態化範囲をも決定することが同様に不可能である程度にまで材料が破壊された。
【0028】
最後に、0〜4Vの電圧幅を横断するために、12時間の時間間隔を与えると、調査中の材料の顕著な不動態化範囲が、ほぼ0.75〜1.8Vの間で発見された。
【0029】
0.75〜1.8Vの間で、こうして発見された減少した不動態化範囲内で交流電圧により作動させた際の腐食挙動が、次に調査された。
【0030】
同様に製造され、工業生産という状況では互いにまったく等しいと見なされる試料に、混合電圧(交流電圧が重ねられた直流電圧)が印加された場合は、腐食電流が基本的に明瞭に上昇する。しかし、3000Hzの周波数では、対照的な展開が発見された。
【0031】
このことは、純粋な交流電圧による、さらなる実験により確認された。この実験では、直流または混合電圧の場合より、純粋な交流電圧の場合の方が、基本的により良好な保護または腐食電流のより顕著な減少がもたらされることが分かった。
【0032】
従って、現実の例示的なパターン、具体的にはガラス板上に印刷された櫛形電極を有し、塩水噴霧試験の間、1.1Vの交流電圧が3kHzでこれらの櫛形電極に印加された湿度センサを用いて、実験が続行された。
【0033】
試料構造物の腐食の程度は、試験期間中、連続的に上昇した。240時間の滞在期間の後ですら、腐食の進行はまだ完了されなかった。それにも係わらず、センサ機能にとって重要な櫛形電極の容量が、効果がなくなる数値にまで減少させられることはなかったということを確かめることができた。このことは、通常の外気および現実の使用条件下で殆ど見えない電極の外部腐食はあるものの、試験導電性構造物の耐用年数が、要求を完全に満たす筈であることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
問題としている導電体材料の不動態化の範囲内にある電気的不動態化電圧が、少なくとも一時的に構造物に印加されることを特徴とする、基板に塗布された金属含有構造物、特に導電体構造物を、腐食性、特に電気的腐食性の攻撃から保護するための方法。
【請求項2】
前記電気的不動態化電圧が、センサ、特に容量作動型湿度センサの測定用電圧として、同時に使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
正弦波状に振動する交流電圧を不動態化電圧として使用することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記不動態化電圧の振幅が0.75Vから1.75Vの間、特に1.1Vであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記不動態化電圧の周波数が、2000Hzを超えること、好ましくは2000から4000Hzの間であることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
湿度センサ、破壊センサ、アンテナおよび加熱導体などの金属含有構造物への請求項1から5のいずれか一項に記載の方法の適用。
【請求項7】
前記構造物が、ガラス板またはプラスチック板上に堆積されていることを特徴とする請求項6に記載の適用。

【公表番号】特表2006−518458(P2006−518458A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502084(P2006−502084)
【出願日】平成16年1月7日(2004.1.7)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000013
【国際公開番号】WO2004/070084
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(399052888)サン−ゴバン グラス フランス (23)
【Fターム(参考)】