説明

基板上に層を堆積させるための装置および方法

本発明は、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるための装置に関し、この装置は、物体を配置するための堆積チャンバと、堆積させようとする材料を有する少なくとも1つのソースと、堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の濃度を、少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、物体上への堆積前に修正することができるように実施される、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置とを備え、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量は、成分についての結合速度と積極的に連動している少なくとも1つの制御パラメータを修正することによって、制御することができる。本発明はさらに、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるための装置に関し、堆積プロセスを制御するための装置が、反応性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、反応性の材料は銅および/またはモリブデンを含む。本発明はさらに、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるための方法に関し、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量は、堆積プロセスを制御するための装置の結合速度を修正することによって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に薄層を有する層システムの製造の技術分野において、少なくとも2つの成分から作製される層を、基板上に堆積させるための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の成分(例えば、CdS、CuS、CuSe、In、InSe、ZnS、GaAs等)から作製される半導体層の電子特性および構造特性は、主に層の組成によって決まる。例えば、PVDプロセス(物理気相堆積、薄層の物理的堆積、例えば、熱蒸発、電子ビーム蒸着、スパッタリング)による層堆積の場合、層の組成は、特に化合物が気体状態で解離する場合、出発原料の組成から逸脱することがある。成分の特性(質量、化学反応性、融点など)が異なることにより、層は、ソースから基板までの途中で成分が失われると、出発原料とは異なる組成を有することがある。出発原料でさえ、用途にとって望ましい最適な組成とは既に異なる組成を有することがある。
【0003】
以下、下記用語を使用する。
「蒸発速度」とは、ソースから直接の材料の流れを指す。「堆積の速度」により、単位時間当たりに基板上に堆積される物質の量が特徴付けられる。一方、「結合速度」、または「ゲッタ速度」とは、反応性の、または不活性な表面によって気相から抽出される材料の量を指す。
【0004】
複数の成分(化合物半導体)で作製される化合物を、非常に多様な方法によって、薄膜として堆積させることができる。熱蒸発の場合、所謂「同時蒸発(co−evaporation)」(例えば、Cu、In、GaおよびSeから作製される黄銅鉱吸収体の製造ための、個々の成分の蒸発)が使用される。しかしながら、高材料品質の層を生成するためには、基板を高い温度(>400℃)で保持しなければならない。特に、薄膜太陽電池におけるバッファ層の製造時には、高い基板温度(>250℃)が多くの場合弊害となる。というのは、比較的高い温度では、主にその温度下における拡散およびまた半導体材料との化学反応によって薄層が既に混ざるからである。同時蒸発の場合、ソースの配置を正確に規定しなければならない。加えて、大きい表面上で均一に、一桁の百分率の範囲で正確に堆積層の組成を微調整するためには、蒸発速度を非常に正確に規定しなければならない。スクープからの、浸出セル(effusion cell)からの、線形蒸発器からの、または電子ビームを用いた化合物のスパッタリングまたは熱蒸発によって、化合物半導体を生成することもできる。この場合、出発原料の組成によって、またプロセスパラメータによって層の組成を微調整しなければならない。例えば、酸化亜鉛、酸化亜鉛マグネシウム、硫化カドミウム、硫化亜鉛または硫化インジウムを用いた実験が知られている。ここで、特に低温では、同時蒸発を用いるよりも層形成において優れた結果が得られる。しかしながら、再現性および堆積物の長期安定性に関して困難が生じる。特に、出発原料は、再現性および太陽電池の効率に確実に影響を及ぼす。適切な層形成を確保するために、化合物材料から正確な組成を蒸発させることは困難である。材料の組成による、またはソース温度やソース形状などの蒸発パラメータによる層組成の制御は、ソース材料の成分が枯渇した場合に非常に重要となる。その際は、プロセスの長期安定性を確保することはできない。適当な多成分化合物から作製されるターゲットのスパッタリングまたは電子ビーム蒸着(e−beam evaporation)によって、ZnO、ZnMgO、InSnO(ITO)などの酸化化合物半導体が多くの場合生成される。この場合、酸素損失による層組成のずれが通常観測される。この酸素損失は、酸素ガスの添加によって補うことができる。層の組成は、ターゲット材料の組成を通じて微調整することもできる。スパッタリングの場合、スパッタ圧によってわずかに組成を微調整することもできる。しかしながら、その際一成分がターゲット中で富化するため、長期に安定なプロセスとはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、堆積物、すなわち、堆積プロセスを選択的に制御することができる、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるための装置および方法を提供することである。薄膜(薄層)太陽モジュールがさらに提供されるべきである。この目的は、等位(coordinated)請求項の特徴を有する装置および方法によって実現される。本発明の有利な実施形態が、下位請求項の特徴により報告される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
特に、この目的は、物体上、特に基板上に少なくとも2つの成分から作製される層、特に薄層を堆積させるための装置によって実現される。この装置は以下、
その中に物体を配置することができる、または物体が配置されている堆積チャンバと、
特に堆積チャンバ内に配置することができる、または配置される堆積させようとする材料を有する少なくとも1つのソース(「配置することができる」とは、「設けることができる」を意味すると理解することもできる)と、
それにより堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を、制御された形で堆積が起こるように少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、したがって物体上、特に基板上へのその成分の堆積前に修正することができるように実施される、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置とを備える。
【0007】
堆積プロセスを制御するための装置は、少なくとも1つの成分についての装置の結合速度と積極的に連動している少なくとも1つの制御パラメータを修正することによって、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量を制御または修正することができるように実施される。導入部で既に述べた通り、堆積させるための装置の結合速度により、単位時間当たりに反応性または内側表面によって気相から抽出される選択的に結合された成分の量が表される。この結合速度は、結合表面の結合能力および/またはサイズによって決まる。
【0008】
本発明の本質的核心は、上記装置を用いると(また上記方法を用いると)、多成分から作製される層の、特に基板上への堆積中の層組成の制御または調整が可能であることにある。受容体(すなわち、例えば、蒸発の場合には蒸発チャンバ、またはカソードスパッタリングの場合にはスパッタチャンバ)内では、制御装置は規定のパラメータで作動し、堆積チャンバはしたがって、堆積が選択的に、または制御された形で起こるように実施される。というのは、堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の濃度が、早期の「捕捉」によって選択的に修正されるからである。したがって、「制御された形で」とは、物体上への堆積の速度を規定するために、堆積させようとする材料の成分がその濃度(成分のうちの少なくとも1つ)について選択的に影響を受けることを意味する。基板上への堆積前に要望通り選択的に複数の成分に影響を与える、すなわち、例えば、それら成分の濃度を修正することももちろん可能である。上記装置を用いると(また上記方法を用いると)、例えば、物体上に、特に基板上に少なくとも1つの層を堆積させることができ、したがって、例えば、積層または多層体を製造することができる。本発明による目的は、特に、化合物からの蒸発の場合に有用である。一方、同時蒸発で、個々の元素の蒸発速度の他に、追加のパラメータによって堆積の速度を制御することが可能であることも有利である。本発明は、あらゆるコーティング方法に、特にPVD法において、そこでは特に、スクープ、るつぼ、浸出セル、線状ソース等からの熱的方法で適用可能である。PVDによる層堆積を伴う他の方法が、電子ビーム蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンビームアブレーション、またはレーザビームアブレーションである。しかしながら、薄層の堆積のための他の方法(例えば、CVD、化学気相堆積)との適用も考えられる。これらの層は、非常に多様な物体上に、特に基板上に、この方法を用いて堆積させることができる。堆積の速度は、以下詳細に説明するように、様々なパラメータによって制御または調整することができる。本発明による目的は、したがって、長期にわたって安定なプロセスにとって、特に、出発原料のそれぞれ一瞬にして入手可能な組成から所望の層組成が数パーセントしか逸脱しない場合に適している。したがって、処理システムの構造およびプロセス制御は、これまで可能であったよりもかなり簡単に設計することができる。
【0009】
以下では、大半の部分で、例えば、モリブデンには「Mo」またはセレンには「Se」と特定の元素記号を示す。
【0010】
有利には、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積するための本発明による装置において、堆積プロセスを制御するための装置は、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量を成分の堆積プロセス中(にさえ)制御することができるように実施される。この方策により、層の堆積中にさえ、層組成に選択的に影響を及ぼすことが可能となる。さらに、堆積チャンバ内で発生する負圧の修正なしで少なくとも1つの成分の選択的に結合された量を制御することができるように、堆積プロセスを制御するための装置が実施されることは、本発明による装置において特に有利となり得る。この方策により、層の生成がかなり容易に、かつかなり速く起こり得るように負圧または真空を破壊することなく、堆積層の組成の制御または修正が有利に可能となる。加えて、生成される層の組成(純度)に悪影響を及ぼすことがある真空の破壊により異物が堆積チャンバに不所望にも侵入することを、防止することが可能である。
【0011】
別の好ましい実施形態において、制御装置は、(化学的に)反応性の材料で作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、また(堆積させようとする材料の)少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素への化学的結合によって(したがって、基板上への層としての実際の堆積の前に)修正することができるように実施される。言い換えれば、制御しようとする少なくとも1つの成分に対して化学的に反応性の材料を有する少なくとも1つのゲッタリング要素による、堆積させようとする材料の気体粒子(分子、原子および/またはイオン)の選択的または標的結合によって、堆積させようとする層(したがって、堆積層)の組成が、出発原料の組成と比較して気相中で修正される。層形成はそれに応じて、制御された形で調整することができる。
【0012】
好ましくは、制御装置は、好ましくは制御しようとする少なくとも1つの成分に対して(化学的に)不活性な材料で作製される少なくとも1つのゲッタリング要素を備えることもでき、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素への物理的結合によって修正することができるように実施される。ここで、選択的結合は、例えば、凝縮または吸着(主にゲッタリング表面の温度による制御、以下参照)によって起こり得る。言い換えれば、1つまた複数の物体がチャンバ内に位置し、物体上には蒸気(またはプラズマでさえ)の成分が、化学的または物理的反応によって選択的に結合している(すなわち、例えば、意図的に選択的される)。これにより、チャンバ内の蒸気の組成と、層の組成との間に差異が生じる。ゲッタリング要素は、その上、したがって基板上へも堆積が規定の形で、したがって選択的に起こるように、規定の特性を伴って実施される。堆積させようとする材料は、環境の設計に応じて、実質的にはどこにでも、1つまたは複数のゲッタリング要素上にさえも堆積されることになる。したがって、堆積させようとする材料の特定の割合が、基板上への実際の堆積より前に「取り去られる」。言い換えれば、ゲッタリング要素(または随意複数のゲッタリング要素)は、蒸気および/またはプラズマの化学組成を修正するよう働きをする。したがって、基板上の層の組成は、可変的に微調整することができる。ゲッタリング材料上への気体粒子の結合は、可逆的であっても不可逆的であってもよい。反応性のゲッタリング材料を用いると、不可逆的な結合が通常実現されるが、ゲッタリン要素を、例えば、時々交換または再生しなければならない。
【0013】
好ましくは、ゲッタリング要素は、特にゲッタリング要素上で化学的結合を実現するために、銅および/またはモリブデン、またはそれぞれの化合物に適した別の元素から実施される。B型の出発原料の蒸発の場合、蒸発チャンバ内のゲッタリング面の使用によって、割合yを低減させることができる。硫黄またはセレン化合物の結合には、銅が特に適している。したがって、本発明による装置では、特にCuS、In、InS、GaS、Ga、Al、CuInS、CuGaS、CuAlS、CuIn、CuSe、InSe、GaSe、GaSe、AlSe、CuInSe、CuGaSe、CuAlSe、CuInSe、SnSe、SnSe、ZnSe、SnS、SnS、ZnS、CuSnS、CdS、CdSe、CdTe、CuZnSnS、CuZnSnSeなどの化合物、または他の化合物、特に他のセレン、硫黄もしくはテルル含有化合物を使用することができる。銅もモリブデンも共に、好ましくはSeまたはSまたはTeと結合する。したがって、物体または基板上に堆積された、または堆積させようとする層は、堆積層の正確な組成の制御が可能となるように、これらの元素に関して枯渇する。酸化化合物の堆積の場合にさえ、例えば、Tiから作製されるゲッタリング表面上における酸素の反応性結合によって、層の酸素含有量を制御することが、例えば可能である。
【0014】
別の好ましい実施形態においては、ゲッタリング要素は堆積チャンバ内に要素自体として配置され、かつ/または堆積チャンバの少なくとも一部、特に堆積チャンバ壁の少なくとも一部を形成する。したがって、ゲッタリング要素は、堆積チャンバ内にそのために設けられた場所に配置することができ、したがってそこから容易に取り外し可能でもある。例えば、ゲッタリング要素は、随意形成蒸気ローブ(vapor lobe)内に配置することができ、したがって気相、ひいては層形成に影響を及ぼす。所望のゲッタリング材料(少なくとも部分的に)から蒸着チャンバの壁を形成すること、またはゲッタリング材料から作製される内壁(同じく少なくとも部分的に)を設けること(省スペース)も可能である。
【0015】
好ましくは、制御装置は、ゲッタリング要素の活性領域が可変となるように実施されるマスキング要素を少なくとも1つ備える。言い換えれば、蒸気に暴露されるゲッタリング要素の表面が可変である。マスキング要素は、例えば、ゲッタリング要素を部分的に覆う、または活性領域を拡大するように配置される。このマスキング要素(または随意複数のマスキング要素)が完全に反応した場合、ゲッタリング要素の全面が、例えば、機能することができる。このため、1つまたは複数のマスキング要素は不活性の材料から形成される(ゲッタリング機能が、原則として回避されるように)。ベローズ、可動カバー等の装置を、例えば、マスキング要素として設けることができる。1つまたは複数のマスキング要素によってここではそのサイズ修正することができるゲッタリング要素の活性表面(結合表面)はしたがって、堆積させようとする層の少なくとも1つの成分の選択的結合について結合速度を制御するために、変数制御パラメータとなる。
【0016】
有利な一実施形態においては、制御装置は、ゲッタリング要素の、かつ/または物体の、特に基板の活性領域の少なくとも活性領域の温度を制御することができるように実施される、温度制御または温度調整のための装置を少なくとも1つ有する。この装置は、例えば、ソース加熱装置および/または基板加熱装置として設けることができ、あるいはこれらを備えることができる。ゲッタリング要素の温度はゲッタ速度に影響を及ぼし、したがって堆積させようとする層の少なくとも1つの成分の選択的結合の結合速度を制御するための変数制御パラメータとなる。
【0017】
成分(すなわち、ゲッタリング要素上の気体粒子の特定量の)凝縮(この場合、物理的結合)の程度は、したがって基板上の層の組成は、ゲッタリング表面の温度によって制御することができる。あるいは、基板温度は、堆積の速度を制御するための異なるパラメータとして、または追加のパラメータとしてさえここでは適切である。この温度の変動を利用して、ゲッタ速度は、反応物の選択に応じて増加または減少する。温度上昇の結果、ゲッタリング機能を増大させることができ、またはより熱い表面から堆積チャンバへと戻る再放出のより高い確率さえ、したがってゲッタリング機能の低下さえももたらすことができる。しかしながら、いずれの場合も、堆積の速度および/または結合速度は、変数プロセスパラメータを利用して外から制御することができる。その後、生成プロセスにおいて、一定の保守間隔で表面を加熱によって再生させることができる。あるいは、熱処理可能な(temperable)表面(パネル、フィルム、メッシュ等)を、コーティングされていない未使用の表面と交換し、また置き換えることができる。さらに、結合させようとする成分の反応速度に、不活性でない(non−inert)ゲッタリング表面(この場合化学的結合)の温度が影響を及ぼすことができる。例えば、硫黄含有雰囲気中の銅表面の場合、銅の温度を上昇させることによって、硫黄腐食(例えば、銅表面上の硫黄結合の増加)の速度を加速させることができ、その結果、堆積プロセス中には、より少ない硫黄しか層に取り込むことはできない。
【0018】
好ましくは、制御装置は、2つの異なる構成のゲッタリング要素が設けられるように異なる電位を印加することができる電極要素として実施される、少なくとも2つのゲッタリング要素を有し、それらゲッタリング要素により、異なる結合速度(ゲッタリング要素上の堆積)が随意可能となる。ゲッタリング要素およびチャンバ壁が異なる電位となるように、チャンバ壁に対してゲッタリング要素を接続することも可能である。このため、制御装置を備える追加の電極を設けることができる。このため、制御装置は、異なる電位の印加が可能となるように、適当なスイッチング要素を備えざるを得ない。したがって、外から蒸気組成を制御するさらなる能力により、例えば、チャンバ内の2つの銅表面を異なる電位に設定し得る。厚さが異なる堆積物を、互いに対して電位差を有する2つの表面上に構築することができる。この電位差の変動を、あるいは電極表面およびその配置を利用することによって、層組成を同じく積極的に制御し得る。あるいは、チャンバ壁に対して、またはプロセスチャンバ内の別の電極対してCu表面の電位を修正することもできる。
【0019】
ゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の移動および/または位置決めのための装置を少なくとも1つ有する制御装置が、有利に設けられ、この装置は、ゲッタリング要素および/またはマスキング要素を堆積チャンバ内で移動させることができ、したがってゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の位置を変化させることができるように実施される。したがって、例えば、ゲッタリング要素の活性領域を、(例えば、マスキング要素の背後および/または随意生じる蒸気ローブ内でゲッタリング要素を移動させることによって)変化させることができる。要素の交換のための移動を使用することも可能である。1つまたは複数のマスキング要素の移動により、1つまたは複数のゲッタリング要素の活性領域の修正が同様に可能となる。ゲッタリング要素のこの修正が、例えば、浸出セル(またはスパッタリングカソード等)の軸からの半径方向距離の関数である場合には、蒸発軸からの距離の関数としてゲッタリング機能を微調整することが考えられる。この関数は、原則的として、異なる蒸発種の蒸気ローブの、生じる可能性がある不均一性を取り除くために使用することができる。この作用は、層組成に関して大面積の均質コーティングを可能とするためにも使用し得る。
【0020】
好ましくは、ゲッタリング要素は、パネル要素またロッド要素として実施される。というのは、これらの要素は容易に置き換えることができ、また活性領域を適切な形で利用可能にするからである。ゲッタリング要素は、膜要素として、シート要素として、グリッド要素(格子面内の1つまたは2つの方向に異なるメッシュ間隔も有し、格子として一次元的に、またはメッシュもしくはスクリーンとして二次元的に)として、もしくは同様の要素として設けることもできる。
【0021】
ゲッタリング要素は、好ましくは少なくとも1つのソースを少なくとも部分的に包み込むように実施される。このため、シリンダ形状が、例えば、適切であり、またはゲッタリング要素はボックス要素として実施される。したがって、ゲッタリング要素は、蒸発部位(ソース)に極めて接近して機能する。
【0022】
好ましくは、装置を用いて下記化合物を堆積させることができる。
すべての多成分化合物、
特に、ローマ数字IからVIが相当する元素周期律表の族を指す、II−VI−、III−V−、IIIVI−、I−III−VI−、I−III−VI−、I−III−VI−、I−II−IV−VI−、化合物、
特に、酸素、硫黄、セレンまたはテルルを有する化合物すべて、
特に、CuSe、InSe、GaSe、GaSe、AlSe、CuInSe、CuGaSe、CuAlSe、CuInSe、CuS、In、InS、GaS、Ga、Al、CuInS、CuGaS、CuAlS、CuInSe、SnSe、SnSe、ZnSe、SnS、SnS、ZnS、CuSnS、CdS、CdSe、CuZnSnS、CuZnSnSe、CdTeなどの化合物。
【0023】
言い換えると、ゲッタリング要素は、これらの化合物が堆積プロセスに、また物体上または基板上への層堆積に特に適しているように実施される。
【0024】
本発明はまた、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるための装置にも及び、この装置は、物体を配置するための堆積チャンバと、堆積させようとする材料を有する少なくとも1つのソースと、堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の濃度を、少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、物体上への堆積前に修正することができるように実施される、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置とを備え、堆積プロセスを制御するための装置は、反応性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素への化学的および/または物理的結合によって修正することができるように実施され、反応性の材料は、銅および/またはモリブデン、あるいはそれらの1つまたは複数の化合物を含む。有利には、この装置は、少なくとも1つの成分についての結合速度と積極的に連動している少なくとも1つの制御パラメータを修正することによって、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量を制御することができるように実施され、この目的のために、堆積プロセスを制御するための装置は、ゲッタリング要素の温度および/または活性結合表面および/または電位を修正することができるように実施することができる。
【0025】
本発明はまた、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるための方法にも及び、少なくとも1つの成分の濃度は、堆積プロセスを制御するための装置を用いて成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、物体上への堆積前に修正され、選択的に結合された量は、堆積プロセスを制御するための装置の成分についての結合速度を修正することによって制御される。本発明による方法の有利な一実施形態においては、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量は、ゲッタリング要素の温度および/または活性結合表面および/または電位を修正することによって制御される。本発明による方法の別の有利な実施形態においては、要望通り堆積層の組成を選択的に制御するために、電極要素として実施される少なくとも2つのゲッタリング要素に、異なる電位が印加される。本発明による方法の別の有利な実施形態においては、要望通り堆積層の組成を選択的に制御するために、堆積チャンバの壁に対して少なくとも1つのゲッタリング要素に異なる電位が印加される。本発明による方法の別の有利な実施形態においては、要望通り堆積層の組成を選択的に制御するために、少なくとも1つの他の電極に対してゲッタリング要素に異なる電位が印加される。本発明による方法の別の有利な実施形態においては、少なくとも1つのゲッタリング要素および/またはゲッタリング要素のためのマスキング要素が堆積チャンバ内で移動され、したがって、ゲッタリング要素および/またはマスキング要素の位置は、要望通り堆積層の組成を選択的に制御するために変化させる。
【0026】
本発明はまた、物体上、特に基板上に少なくとも2つの成分から作製される層、特に薄層を、下記を備える装置を用いて堆積させるための方法に関し、装置は、
堆積チャンバと、特に堆積チャンバ内に配置することができる、または配置される、堆積させようとする材料を有する少なくとも1つのソースと、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置とを備え、この方法は下記ステップ、
堆積チャンバ内に物体、特に基板を配置するステップと、
それにより堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を、制御された形で堆積プロセスが起こるように、少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、したがって物体上、特に基板上へのその成分の堆積前に修正することができるように、少なくとも1つの制御装置によって堆積プロセスを制御するステップとを備える。
【0027】
好ましくは、制御装置は、反応性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置される。好ましくは、追加のステップ、少なくとも1つの成分の濃度の修正のステップであって、(化学的に)反応性の材料から作製されるゲッタリング要素を用いた、その成分の規定量のゲッタリング要素への化学的結合による修正のステップが設けられる。同様に、制御装置は好ましくは、不活性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、好ましくは、追加のステップ、少なくとも1つの成分の濃度の修正のステップであって、(化学的に)不活性の材料から作製されるゲッタリング要素を用いた、その成分の規定量のゲッタリング要素への物理的結合による修正のステップが設けられる。
【0028】
既に説明した通り、蒸発材料、言い換えると、材料(蒸発している、また堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分)の濃度を、物体上、特に基板上の層形成プロセスが制御または調整された形で進行させることがこのように可能であるために、ゲッタリング材料への気体粒子の物理的または化学的結合によって選択的に修正することができる。このため、好ましくは、制御装置の少なくとも1つのマスキング要素を用いることによる、ゲッタリング要素の活性領域の修正という追加のステップを設けることもできる。好ましくは、ゲッタリング要素の、かつ/または物体の、特に基板の少なくとも活性領域の温度を意味する、制御装置の温度制御または調整のための装置を用いることによる制御のステップを設けることもできる。ゲッタリング要素の活性領域の修正および/または活性領域の温度の、もしくは基板の温度の修正は同じく、基板上の層形成プロセスを選択的に進行させ、また層形成プロセスに意図的に影響を及ぼすための方策である。というのは、ゲッタリング要素の、かつ/または基板の異なる温度により、ゲッタリング要素上の成分の異なる結合が、また基板上への1つまたは複数の成分の異なる堆積も生じるからである。また、基板上への堆積プロセスを制御するために、2つのゲッタリング要素に異なる電位を印加する追加のステップも適切である(堆積させようとする材料の濃度がこのように影響を受ける、すなわち、気相中で修正されるという点で)。このため、制御装置は、電極要素として実施され、またそれに応じて接続することができる少なくとも2つのゲッタリング要素を備えている。ゲッタリング要素および壁、あるいはゲッタリング要素および追加の電極が異なる電位となるように、堆積チャンバ壁に、または追加の電極にゲッタリング要素を接続することもできる。
【0029】
好ましくは、追加のステップ、堆積チャンバ内のゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の移動(位置を修正する)ステップ、したがって、制御装置のゲッタリング要素および/またはマスキング要素を移動および/または位置決めするための装置を用いることによる、ゲッタリング要素の活性領域の修正ステップが設けられる。これにより、堆積させようとする材料に対する作用に適した場所におけるゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の所望の配置が、またゲッタリング要素の活性領域の修正のための位置決めが可能となる。そして最後に、以下の追加のステップ、ゲッタリング要素を用いることによって装置のソースを包み込むステップを設けることが有利となることがある。好ましくは、以下のステップ、下記化合物を堆積させるステップが設けられる(言い換えると、本発明による方法を用いてこれらの化合物すべてを選択的に堆積させることができる)。
すべての多成分化合物、
特に、II−VI−、III−V−、IIIVI−、I−III−VI−、I−III−VI−、I−III−VI−、I−II−IV−VI−化合物、
特に、酸素、硫黄、セレンまたはテルルを有する化合物すべて、
特に、CuSe、InSe、GaSe、GaSe、AlSe、CuInSe、CuGaSe、CuAlSe、CuInSe、CuS、In、InS、GaS、Ga、Al、CuInS、CuGaS、CuAlS、CuIn、SnSe、SnSe、ZnSe、SnS、SnS、ZnS、CuSnS、CdS、CdSe、CuZnSnS、CuZnSnSe、CdTeなどの化合物。
【0030】
積層(多層体、例えば、基板とその上に堆積された1つまたは複数の層)を有する薄膜太陽モジュールまたは薄層太陽モジュールについての保護も同様に特許主張され、積層または積層のうちの少なくとも一層は上記の方法を用いて生成される、または生成された。
【0031】
本発明はさらに、黄銅鉱化合物、特にCu(In,Ga)(S,Se)を半導体層として好ましくは備える薄層太陽電池または薄層太陽モジュールの製造のための、少なくとも2つの成分から作製される層を物体上に堆積させるためのそのような装置およびそのような方法の使用に及ぶ。好ましくは、この使用は、CIS−もしくは(CIGSSe)薄層太陽電池の、またはCISもしくは(CIGSSe)薄層太陽モジュールの製造に役立つ。
【0032】
本発明の目的の様々な実施形態を個々に、または任意の組合せで実現することができることが理解されよう。特に、上記特徴および以下で説明する特徴は、指示された組合せだけでなく、他の組合せまたは単独で本発明の構成から逸脱することなく使用することができる。
【0033】
以下に、本発明を例示的な実施形態に関して説明するが、それら実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一実施形態における本発明による装置の概略平面図である。
【図2】硫黄の蒸気圧曲線である。
【図3】S分圧の測定曲線を有するグラフである。
【図4】薄層内のS含有量の曲線を示すグラフである。
【図5】別の実施形態における本発明による装置の概略平面図である。
【図6】別の実施形態における本発明による装置の概略平面図である。
【図7】別の実施形態における本発明による装置の概略平面図である。
【図8】別の実施形態における本発明による装置の概略平面図である。
【図9】薄膜太陽電池の積層である。
【図10】薄膜太陽電池の別の積層である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、物体上、特に基板20上に少なくとも2つの成分から作製される層、特に薄層を堆積させるための装置10を示す。概略平面図が示されている。配置は、堆積チャンバ11(明確には特定されない)および堆積チャンバ11に配置されている、堆積させようとする材料30を有するソース12(ここでは蒸発器)を備える。このシステム10内には、コーティングしようとする基板20または複数の基板(すなわち、一般的に言えば物体)を配置することができる。コーティングのためには、堆積させようとする材料30(ソース内では見えない)を、例えば、蒸発させなければならない。このため、堆積させようとする材料30が、例えば、ソース12内で加熱され(熱蒸発)、したがってこの環境内で物体上に堆積する。ソース12と基板20との間では、気相内で堆積させようとする材料30によって形成される蒸気ローブ31が識別可能である。他の気体生成方法を同様に使用することもできる。装置(また対応する方法)は、PVD法による層堆積において、またはCVD法による層堆積においてさえ使用することができる。スパッタリングカソード、浸出セル、るつぼ(使用する方法次第)をソースとして設けることもできる。
【0036】
基板20上に堆積させようとする層の組成は、この配置により選択的に影響を受けることがある。このため、装置10は、堆積プロセスを制御するための装置40を備え、この装置40は、それにより堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を、基板20上への堆積が制御された形で起こるように、少なくとも1つの成分の規定量を(基板以外の物体上に)選択的に結合させることによって、気相内で、したがってその成分の堆積前に修正することができるように実施される。具体的に、蒸気の一成分が化学的または物理的反応によってその上に結合する物体、ここでは、ゲッタリング要素41が、チャンバ11内(すなわち、蒸発の場合には蒸発チャンバ内、カソードスパッタリングの場合にはスパッタチャンバ内)に位置する。これにより、ソース12におけるそのままの蒸気の組成と、層の組成との間に差異が生じる。ここで、ゲッタリング要素は、他の構成要素とより差別化するために破線によって示してある。したがって、ゲッタリング体上、またはゲッタリング要素41上にも材料が堆積される。ゲッタリング要素41は、指定のパラメータまたは規定の特性で実施されるため、基板20上に堆積させようとする材料の粒子の堆積も選択的に起こる。ゲッタ材料に応じて、堆積させようとする材料はゲッタリング要素41に物理的または化学的に結合する。
【0037】
ゲッタリング要素41上の結合速度は、ゲッタリング要素の活性域もしくは活性領域43の表面のサイズによって、または温度や追加の電位など他の物理的パラメータによって制御することができる。ゲッタリング要素41上の結合は可逆的であっても不可逆的であってもよい。
【0038】
これらの層は、本発明による装置および本発明による方法を用いて、様々な基板上に堆積させることができる。基板は、フレキシブル(例えば、高分子フィルムまたは金属箔)で実施することも、剛性(セラミック、ガラス)で実施することもできる。
【0039】
ゲッタリング要素41上の物理的結合(例えば、吸着)は、例えば、蒸発チャンバ内の(ゲッタリング要素の)不活性表面の温度により制御することができる。図2は、例として、硫黄の蒸気圧曲線を示す。温度が横座標上に℃でプロットされ、蒸気圧が縦座標上にmbarでプロットされている。−20℃から20℃の範囲における(化学的に不活性なゲッタリング要素でさえ)温度の変動により、3桁を超えて硫黄の蒸気圧が変動する。ソースと基板との間の気体区画(gas compartment)内の蒸気圧は、蒸発チャンバ内の大きな表面にわたって多大な影響を受け得る。温度に応じて表面上に硫黄が凝縮することになる。ゲッタリング要素は、化学的に反応性の領域を有することも、または化学的に反応性の材料から、例えば、銅(Cu表面)から形成することもできる。ここで、少なくとも1つの成分の濃度は、ゲッタリング要素上の成分の所定量の化学結合によって修正される。
【0040】
図3は、ゲッタリング要素有りおよび無しで堆積させるための装置において記録された、チャンバ内の時間経過に伴うS分圧の曲線を表すグラフを示す。このため、多成分の硫黄含有化合物が基板上に堆積された。プロセス時間が横座標上に時間および分でプロットされ、S分圧が縦座標上にmbarでプロットされている。基板上の堆積層の層組成は、X線蛍光分析によって決められた。銅箔(ゲッタリング要素としての)を組み込むと、堆積層の相対的な硫黄含有量が約3%低減することが示された(層の組成に影響を与えるために、堆積チャンバまたはコーティングチャンバのチャンバ壁内面が、上記銅箔の比較的大きな領域で裏打ちされていた)。硫黄分圧を決定するために、システム内に位置する残留ガス分析器が使用された。銅表面の存在により、S分圧が一桁低下したことがわかる。これにより、堆積層の層組成が影響を受ける。
【0041】
さらなる実験では、導入されたCu表面(またはゲッタリング要素)が加熱された。図4は、ゲッタリング要素の温度に対してプロットされた、薄層内S含有量の曲線を示す。ゲッタリング要素の温度が横座標上に℃でプロットされ、基板上の堆積層内S含有量の減少が縦座標上に原子%でプロットされている。この場合も同様に、硫黄含有多成分化合物の堆積によって層が生成された。上述のCu表面の加熱により層内の硫黄含有量が減少する、言い換えれば、加熱により箔のゲッタリング機能が増大することがわかる。
【0042】
図5は、物体20上に層を堆積させるための本発明による装置10の別の実施形態を、概略平面図で示す。本実施形態は、図1に示す実施形態と同様に構成されている。しかしながら、この場合、チャンバ壁上にパネル(またシート、箔、等)として設置される2つのゲッタリング要素41a、41bが設けられている。1つまたは複数のゲッタリング要素41a、41bの所望の効果に応じて、堆積チャンバ11の壁全体(側壁、床および/または天井)あるいはその小区域(subregion)のみをこのために使用することができる。パネル41a、41bを加熱する、冷却する、あるいは互いに対して、またはチャンバ壁もしくは別の電極に対して異なる電位とすることができる。このため、対応する要素または装置を設けざるを得ない。したがって、制御装置40は、温度制御および/または温度調整ための装置44を少なくとも1つ備えることができる。これはここでは「ブラックボックス」として示され、装置44は輪郭が概略的に表示される。ここで制御装置40は、装置44の作動のための適切な制御要素を有するはずである。装置40はまた、ゲッタリング要素41、41bを接続する装置46を備えることもでき、この装置46により上記電位配分が可能となる。したがって、装置46により、堆積チャンバの壁への、または追加の電極への2つのゲッタリング要素の接続が、また随意1つのゲッタリング要素の接続も可能となる。
【0043】
図6は、本発明による装置の別の実施形態を示し(基板を図示しない概略上面図)、この場合、4つのゲッタリング要素41a、41b、41c、41dが設けられている。これらのゲッタリング要素のそれぞれを、マスキング要素42a、42b、42c、42dによって覆うことができる。言い換えれば、マスキング要素のそれぞれが、例えば、各ゲッタリング要素41a、41b、41c、41dの活性表面領域43(ゲッタリング要素41aとしてのみ描かれている)が可変となるように(矢印Bの方向に)可動である。ゲッタリング要素もまた、可動となるように設計することができる。このため、ゲッタリング要素および/または(それぞれの)マスキング要素を移動および/または位置決めするための装置45を設けることができる。装置45は、この場合もやはり、「ブラックボックス」としてここでは概略的に示されているだけであり、制御装置40が移動装置45を備えることができることを示すよう意図されている。装置45は、例えば、マスキング要素および/またはゲッタリング要素でさえそこでは手動または自動で可動となるレール要素を備えることもあり得る。装置44、45および46は、図示した実施形態のいずれにおいても設けることができ、制御装置40は適切な制御装置と共に実施され、またはゲッタリング要素は適切なコネクタソケット等を備える。
【0044】
図7も同様に、本発明による装置10の別の実施形態の概略平面図を示す。この実施形態もやはり、図1に示す実施形態と同様に構成されているが、ソース12は、例えば、浸出セルである。ここでは、ゲッタリング要素41がソース12の周りに配置されている。ゲッタリング要素41はここでは、例えば、円筒形であるが(結果として、断面が示されている)、楕円形、矩形、六角形等であってもよく、包み込まれたゲッタリング要素41を加熱する、冷却する、またはいくつかに分けて異なる電位とすることができる。包み込まれたゲッタリング要素(例えば、包み込まれたゲッタリングシリンダ)を矢印Bに沿って移動させることによって、実際の活性表面を修正することができる。
【0045】
図8は、先に説明した実施形態と同様の、本発明による装置の別の実施形態(概略平面図)を示す。ソース12は、この場合もやはり蒸発器ソースである。しかしながら、ここでは、格子状のゲッタリング要素41が、蒸気ローブ内に配置されている。したがって、メッシュ(格子として一次元的に、またはメッシュもしくはスクリーンとして二次元的に)が、蒸気「ビーム」内にある。このグリッド要素も同様に、加熱する、冷却する、または(例えば、チャンバ壁に対して)異なる電位とすることができる。代替の実施形態においては、メッシュ間隔を修正することによってグリッド要素の面積を変化させることができる。
【0046】
図9および図10は、本発明による装置10を用いて、または本発明による方法を用いて製造することができるコーティングされた基板20を示す。図9は、Cu(In,Ga)(S,Se)吸収体ベースの薄膜太陽電池の積層を示す。「むき出しの」基板21は、例えば、ガラス、Fe、Alまたはプラスチックフィルムから、拡散バリヤと共に随意形成することができる。この基板上に、Mo層221が堆積される。その後、Cu(In,Ga)(S,Se)層222、次にバッファ層223、最後に、例えば、TCO−層(透明導電性酸化物層)224、例えば、ZnO:Alが堆積される。Cu(In,Ga)(S,Se)層に代えて、CuZnSn(S,Se)層、CuZnSnS層またはCuZnSnSe層さえ設けることも可能である。図10は、CdTe吸収体およびCdSバッファベースの薄膜太陽電池の積層を示す。ガラス基板21は、例えば、拡散バリヤと共に随意実施することができる。TCO層(例えば、SnO/ITO等)231、CdSバッファ層232、CdTe吸収体層233、最後に界面/金属接点234が続く。
【0047】
本発明の目的の観点からは、物体上に堆積させようとする化合物の成分を、堆積前にも簡単にその濃度について選択的に修正することができ、堆積プロセスを制御することができるように、また物体上、特に基板上に規定の層が堆積されるようにする。これら装置および方法は、基板サイズおよびチャンバサイズに制約されない。
【0048】
本発明のさらなる特徴が、以下の記載から明らかにされる。
本発明は、物体上、特に基板上に少なくとも2つの成分から作製される層、特に薄層を堆積させるための装置に関する。この装置は、物体をその中に配置することができる堆積チャンバと、特に堆積チャンバ内に配置することができる、または配置されている、堆積させようとする材料を有する少なくとも1つのソースと、それにより堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を、制御された形で堆積が起こるように少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、したがって物体上、特に基板上へのその成分の堆積前に修正することができるように実施される、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置とを備える。一実施形態によれば、制御装置は、反応性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素への化学的結合によって修正することができるように実施される。一実施形態によれば、制御装置は、好ましくは不活性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素への物理的結合によって修正することができるように実施される。一実施形態によれば、ゲッタリング要素は堆積チャンバ内に要素自体として配置され、かつ/または堆積チャンバの少なくとも一部、特に堆積チャンバ壁の少なくとも一部を形成する。一実施形態によれば、制御装置は、ゲッタリング要素の活性領域が可変となるように実施されるマスキング要素を少なくとも1つ備える。一実施形態によれば、制御装置は、ゲッタリング要素の、かつ/または物体の、特に基板の活性領域の少なくとも活性領域の温度を制御することができるように実施される、温度制御および/または温度調整のための装置を少なくとも1つ有する。一実施形態によれば、制御装置は、2つの異なる構成のゲッタリング要素が設けられるように異なる電位を印加することができる電極要素として実施される、少なくとも2つのゲッタリング要素を有する。一実施形態によれば、制御装置は、堆積チャンバ壁に対してゲッタリング要素に異なる電位を印加することができるように実施される。一実施形態によれば、制御装置は少なくとも1つの電極を有し、この電極に対してゲッタリング要素に異なる電位を印加することができるように実施される。一実施形態によれば、制御装置は、ゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の移動および/または位置決めのための装置を少なくとも1つ有し、この装置は、ゲッタリング要素および/またはマスキング要素を堆積チャンバ内で移動させることができ、したがってゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の位置を変化させることができるように実施される。一実施形態によれば、ゲッタリング要素はパネル要素もしくはロッド要素として、かつ/またはグリッド要素として実施され、かつ/あるいはゲッタリング要素は少なくとも部分的にソースを包み込むように実施される。一実施形態によれば、この装置は、以下の成分を堆積させることができるように実施される。
すべての多成分化合物、
特に、II−VI−、III−V−、IIIVI−、I−III−VI−、I−III−VI−、I−III−VI−、I−II−IV−VI−化合物、
特に、酸素、硫黄、セレンまたはテルルを有する化合物すべて、
特に、以下の化合物:CuSe、InSe、GaSe、GaSe、AlSe、CuInSe、CuGaSe、CuAlSe、CuInSe、CuS、In、InS、GaS、Ga、Al、CuInS、CuGaS、CuAlS、CuInSe、SnSe、SnSe、ZnSe、SnS、SnS、ZnS、CuSnS、CdS、CdSe、CuZnSnS、CuZnSnSeまたはCdTe。
【0049】
本発明は、以下を備える、すなわち、堆積チャンバと、特に堆積チャンバ内に配置することができる、または配置されている、堆積させようとする材料を有する少なくとも1つのソースと、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置とを備える装置を用いて、物体上、特に基板上に少なくとも2つの成分から作製される層、特に薄層を堆積させるための方法に関する。この方法は以下のステップ、堆積チャンバ内に物体、特に基板を配置するステップと、それにより堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の少なくとも濃度を、制御された形で堆積プロセスが起こるように、少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、したがって物体上、特に基板上へのその成分の堆積前に修正することができるように、少なくとも1つの制御装置によって堆積プロセスを制御するステップとを備える。一実施形態によれば、制御装置は、反応性の材料から、かつ/または好ましくは不活性の材料から作製されるゲッタリング要素を少なくとも1つ有し、このゲッタリング要素は堆積チャンバ内に配置され、この方法は、以下の1つのステップおよび/または以下の複数のステップ、少なくとも1つの成分の濃度の修正のステップであって、反応性の材料から作製されるゲッタリング要素を用いた、その成分の規定量のゲッタリング要素への化学的結合による修正のステップ、および/または少なくとも1つの成分の濃度の修正のステップであって、好ましくは不活性の材料から作製されるゲッタリング要素を用いた、その成分の規定量のゲッタリング要素への物理的結合による修正のステップを含む。一実施形態によれば、制御装置は、温度制御および/または温度調整のための装置を少なくとも1つ有し、この方法は追加のステップ、温度制御または調整のための装置を用いて、ゲッタリング要素の、かつ/または物体の、特に基板の少なくとも活性領域の温度を制御するステップを含む。一実施形態によれば、制御装置は、少なくとも1つのマスキング要素、ならびに/あるいはゲッタリング要素および/またはマスキング要素を移動および/または位置決めするための装置を少なくとも1つ有し、この方法は、追加の1つのステップおよび/または追加の複数のステップ、少なくとも1つのマスキング要素によるゲッタリング要素の活性領域の修正ステップ、ならびに/あるいはゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の移動および/または位置決めのための装置を用いた、ゲッタリング要素の、かつ/またはマスキング要素の堆積チャンバ内で移動および/または位置決めステップを含む。
【符号の説明】
【0050】
10 堆積させるための装置
11 堆積チャンバ、チャンバ
12 ソース
20 基板、一般に物体
21 「むき出しの」基板
221、222、223、224、231、232、233、234 層
30 堆積させようとする材料
31 蒸気ローブ
40 堆積プロセスを制御するための装置
41、41a、41b、41c、41d ゲッタリング要素
42a、42b、42c、42d マスキング要素
43 活性領域
44 温度制御または調整のための装置
45 ゲッタリング要素の移動および/または位置決めのための装置
46 接続装置
B マスクおよび/またはゲッタリング要素の移動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの成分から作製される層を物体(20)上に堆積させるための装置(10)であって、
物体(20)を堆積するための堆積チャンバ(11)と、
堆積させようとする材料(30)を有する少なくとも1つのソース(12)と、
堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の濃度を、少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、物体(20)上への堆積前に修正することができるように実施される、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置(40)を備え、少なくとも1つの成分についての結合速度と積極的に連動している少なくとも1つの制御パラメータを修正することによって、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量を制御することができる、装置(10)。
【請求項2】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、少なくとも1つの成分の選択的に結合された量を、成分の堆積プロセス中に制御することができるように実施される、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、制御しようとする少なくとも1つの成分に対して化学的に不活性である材料から作製されるゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)を少なくとも1つ有し、ゲッタリング要素が堆積チャンバ(11)内に配置され、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)への物理的結合によって修正することができるように実施される請求項1または2の一項に記載の装置(10)。
【請求項4】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、制御しようとする少なくとも1つの成分に対して化学的に反応性である材料から作製されるゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)を少なくとも1つ有し、ゲッタリング要素が堆積チャンバ(11)内に配置され、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)への化学的結合によって修正することができるように実施される請求項1から3の一項に記載の装置(10)。
【請求項5】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、ゲッタリング要素の温度および/または活性結合表面および/または電位を修正することができるように実施される、請求項3または4の一項に記載の装置(10)。
【請求項6】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、2つの異なる構成のゲッタリング要素が設けられるように異なる電位を印加することができる電極要素として実施される、少なくとも2つのゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)を有する、請求項3から5の一項に記載の装置(10)。
【請求項7】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、堆積チャンバ(11)の壁に対して少なくとも1つのゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)に異なる電位を印加することができるように実施される、請求項3から6の一項に記載の装置(10)。
【請求項8】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が電極を少なくとも1つ有し、この電極に対してゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)に異なる電位を印加することができるように実施される、請求項3から7の一項に記載の装置(10)。
【請求項9】
堆積プロセスを制御するための装置(40)が、ゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)および/またはゲッタリング要素のためのマスキング要素(42a、42b、42c、42d)を移動および/または位置決めするための装置(45)を少なくとも1つ有し、装置が、ゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)および/またはマスキング要素(42a、42b、42c、42d)を堆積チャンバ(11)内で移動させることができ、したがってゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)の、かつ/またはマスキング要素(42a、42b、42c、42d)の位置を修正することができるように実施される、請求項3から8の一項に記載の装置(10)。
【請求項10】
ゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)が、パネル要素および/またはロッド要素および/またはグリッド要素として実施され、かつ/あるいはゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)が少なくとも部分的にソース(12)を包み込むように実施される、請求項3から9の一項に記載の装置(10)。
【請求項11】
ゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)が堆積チャンバ(11)内に配置され、かつ/または堆積チャンバ(10)の少なくとも一部を形成する、請求項3から10の一項に記載の装置(10)。
【請求項12】
少なくとも2つの成分から作製される層を物体(20)上に堆積させるための装置(10)であって、
物体(20)を配置するための堆積チャンバ(11)と、
堆積させようとする材料(30)を有する少なくとも1つのソース(12)と、
堆積させようとする材料の少なくとも1つの成分の濃度を、少なくとも1つの成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、物体上への堆積前に修正することができるように実施される、堆積プロセスを制御するための少なくとも1つの装置(40)を備え、堆積プロセスを制御するための装置(40)が、堆積チャンバ(11)内に配置される、反応性の材料から作製されるゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)を少なくとも1つ有し、また少なくとも1つの成分の濃度をその成分の規定量のゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)への化学的および/または物理的結合によって修正することができるように実施され、反応性の材料が、銅および/またはモリブデンを含む、装置(10)。
【請求項13】
少なくとも2つの成分から作製される層を物体(20)上に堆積させるための方法であって、少なくとも1つの成分の濃度が、堆積プロセスを制御するための装置(40)を用いることにより、成分の所定量を選択的に結合させることによって、その成分の気相中で、物体上への堆積前に修正され、選択的に結合された量が、堆積プロセスを制御するための装置(40)の成分についての結合速度を修正することによって制御される、方法。
【請求項14】
少なくとも1つの成分の選択的に結合された量が、ゲッタリング要素(41、41a、41b、41c、41d)の温度および/または活性結合表面および/または電位を修正することによって制御される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
薄膜太陽電池または薄膜太陽モジュール、特に、CIS(CIGSSe)薄膜太陽電池またはCIS(CIGSSe)薄膜太陽モジュールの製造のための、請求項1から12の一項に記載の装置、および請求項13または14の一項に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−520566(P2013−520566A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553349(P2012−553349)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052609
【国際公開番号】WO2011/104235
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】