説明

基板冷却機構および基板冷却方法ならびに熱処理装置

【課題】複数の基板を加熱するバッチ式の熱処理装置において、熱処理後の基板を速やかに、かつ均一に冷却することができる冷却機構および冷却方法、ならびにこのような冷却機構を備えた熱処理装置を提供すること。
【解決手段】処理容器11内の基板保持部材15と加熱手段12との間に挿入される挿入位置と挿入位置から引き出された引き出し位置との間で移動可能であり、熱処理後の基板Wへの輻射熱を遮蔽する筒状をなす熱遮蔽部材30と、処理容器11の外部に配置された空冷ポート21とを有し、熱遮蔽部材30は、引き出し位置において、2つの半筒状部材31が合体および分離可能に設けられており、これらが合体した状態で、熱遮蔽部材30が引き出し位置と挿入位置との間で移動し、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理後の基板を冷却する基板冷却機構および基板冷却方法、ならびにそのような基板冷却機構を備えた熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体ウエハ等の基板に対して拡散処理、成膜処理、酸化処理等の熱処理を行う場合には、縦型の石英製の処理容器内に、複数の基板を垂直方向に多段に配置した石英製のボートを、処理容器に搬入し、処理容器の周囲に設けられた円筒状の抵抗発熱型のヒーターにより基板を加熱するバッチ式の縦型熱処理装置が広く用いられている。
【0003】
このような縦型熱処理装置では、処理容器の下方に基板搬送室となるローディングエリアが設けられ、そのローディングエリアでボートに複数の基板が搭載された後、処理容器内に搬入され、熱処理が行われる。熱処理終了後、ボートに搭載された基板は、処理容器からローディングエリアに移され、ボートから取り出されて搬出される。このとき基板は500〜1200℃程度の高温であり、これによりローディングエリアも高温となるため、ローディングエリアの炉口近傍に冷却ガスを供給して冷却する技術が知られている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−176045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ローディングエリアに冷却ガスを供給しても、高温に加熱された基板の温度を有効に低下させることが困難であり、基板の冷却に時間がかかってしまい、その分処理のスループットが低下する。
【0006】
また、冷却効果を高めるために冷却ガスを大量に流すことも行い得るが、多くの場合、ボートには狭い間隔で複数の基板が搭載されているため冷却ガスは側方から供給せざるを得ず、そのため基板の面内において冷却が不均一となることによって基板の温度分布に偏りが生じ、熱膨張の違いから歪が発生して基板が破損しやすくなるという問題も起こる。特に、基板が大型化するにつれ基板内の温度分布の偏りはより深刻なものとなってくる。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、複数の基板を加熱するバッチ式の熱処理装置において、熱処理後の基板を速やかに冷却することができ、また、基板が大型化しても均一に冷却することができる冷却機構および冷却方法、ならびにこのような冷却機構を備えた熱処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点は、複数の基板を保持する基板保持部材と、前記基板保持部材を収容する処理容器と、前記基板保持部材を囲繞するように配置され輻射熱により加熱する加熱手段と、前記基板保持部材を前記処理容器の内部と前記処理容器の外部との間で搬送する搬送機構とを有し、前記加熱手段により前記基板保持部材に保持された基板を熱処理する熱処理装置における、熱処理後の基板を冷却する基板冷却機構であって、前記処理容器内の前記基板保持部材と前記加熱手段との間に挿入される挿入位置と挿入位置から引き出された引き出し位置との間で移動可能であり、前記熱処理後の基板への輻射熱を遮蔽する筒状をなす熱遮蔽部材と、前記処理容器の外部に配置された空冷ポートとを有し、前記熱遮蔽部材は、前記引き出し位置において、2つの半筒状部材が合体および分離可能に設けられており、これら2つの半筒状部材は、互いに分離して配置された退避位置と、これらが合体して筒状に構成される合体位置との間で移動可能に設けられ、前記2つの半筒状部材が前記合体位置で合体した状態で、前記熱遮蔽部材が前記引き出し位置と前記挿入位置との間で移動し、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されていることを特徴とする基板冷却機構を提供する。
【0009】
上記第1の観点において、前記空冷ポートは、前記基板保持部材に冷却ガスを供給する冷却ガス供給機構を有することが好ましい。また、前記熱遮蔽部材の前記半筒状部材をそれぞれ支持する支持部材をさらに有し、前記支持部材は、前記半筒状部材が合体して前記加熱手段と前記処理容器内の前記基板保持部材との間に挿入された際に、前記半筒状部材の熱を排出する機能を有することが好ましい。前記支持部材は、窒化アルミニウムおよびアルミナのいずれかで構成することができる。また、前記熱遮蔽部材の前記外側面を構成する前記相対的に低輻射率の材料は、石英およびタングステンのいずれかを用いることができ、前記内側面を構成する前記相対的に高輻射率の材料は、窒化アルミニウムおよびアルミナのいずれかを用いることができる。
【0010】
前記熱遮蔽部材は、前記引き出し位置に引き出された際に、前記冷却ガス供給機構からの冷却ガスの供給を妨げないような長さを有するものとすることができる。また、前記熱遮蔽部材は、前記冷却ガス供給機構からの冷却ガスが通過して前記基板保持部材の基板に供給されるような穴を有する構成とすることができる。この場合に、前記熱遮蔽部材は、前記冷却ガス供給機構からの冷却ガスの供給を妨げる部分のみに冷却ガスが透過する穴を有する構成とすることができる。
【0011】
本発明の第2の観点は、複数の基板を保持する基板保持部材と、前記基板保持部材を収容する処理容器と、前記基板保持部材を囲繞するように配置され輻射熱により加熱する加熱手段と、前記基板保持部材を前記処理容器の内部と前記処理容器の外部との間で搬送する搬送機構とを有し、前記加熱手段により前記基板保持部材に保持された基板を熱処理する熱処理装置における、熱処理後の基板を冷却する基板冷却方法であって、熱処理後、前記処理容器内の前記基板保持部材と前記加熱手段との間に、筒状をなし、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されている熱遮蔽部材を挿入し、前記熱処理後の基板への輻射熱を遮蔽して、前記基板保持部材に保持された基板の輻射冷却を行い、さらに、前記基板保持部を前記処理容器の外部に配置された空冷ポートに搬出して基板の空冷を行うことを特徴とする基板冷却方法を提供する。
【0012】
本発明の第3の観点は、複数の基板を保持する基板保持部材と、前記基板保持部材を収容する処理容器と、前記基板保持部材を囲繞するように配置され輻射熱により加熱する加熱手段と、前記基板保持部材を前記処理容器の内部と前記処理容器の外部との間で搬送する搬送機構と、熱処理後の基板を冷却する基板冷却機構とを具備し、前記基板冷却機構は、前記処理容器内の前記基板保持部材と前記加熱手段との間に挿入される挿入位置と挿入位置から引き出された引き出し位置との間で移動可能であり、熱処理後の基板への輻射熱を遮蔽する筒状をなす熱遮蔽部材と、前記処理容器の外部に配置された空冷ポートとを有し、前記熱遮蔽部材は、前記引き出し位置において、2つの半筒状部材が合体および分離可能に設けられており、これら2つの半筒状部材は、互いに分離して配置された退避位置と、これらが合体して筒状に構成される合体位置との間で移動可能に設けられ、前記2つの半筒状部材が前記合体位置で合体した状態で、前記熱遮蔽部材が前記引き出し位置と前記挿入位置との間で移動し、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されていることを特徴とする熱処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱処理後、処理容器内の基板保持部材と加熱手段との間に筒状の熱遮蔽部材が挿入されるので、加熱手段から基板への輻射熱を遮蔽することおよび基板から放出される輻射熱を吸収することができる。このため、高温状態で輻射冷却により基板を有効に冷却することができる。また、外側面を相対的に低輻射率の材料で構成することにより、加熱手段からの輻射熱を反射して基板への到達を極力低減し、内側面を相対的に高輻射率の材料で構成することにより、基板から放出される輻射熱を吸収する効果を高めることができる。その後、基板保持部材は空冷ポートに搬出されて空冷されるが、輻射冷却により基板温度が低下しているため、対流冷却によって効果的に基板が冷却され、基板が空冷により効率的に冷却されない時間を極力短縮することができる。さらに、熱遮蔽部材は挿入位置から引き出し位置に引き出された後、各半筒状部材に分離して退避位置に退避するので、熱遮蔽部材が基板の空冷を妨げることがなく、基板保持部材の搬入出の妨げになることもない。また、大量の冷却ガスで冷却する等の急激な冷却方法とは異なり、大型の基板であっても基板内の温度分布の偏りが少なく均一な冷却を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱処理装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の熱処理装置のローディングエリアを示す横断面図である。
【図3】図1のAA線による縦断面図である。
【図4】熱遮蔽部材を示す斜視図である。
【図5】熱遮蔽部材を示す断面図である。
【図6】熱遮蔽部材の装着手順を説明するための図である。
【図7】熱遮蔽部材の退避手順を説明するための図である。
【図8】熱遮蔽部材の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る熱処理装置を示す縦断面図、図2は図1の熱処理装置の基板搬送室であるローディングエリアを示す横断面図、図3は図1のAA線による縦断面図である。
【0016】
図1に示すように、熱処理装置1は、基板である複数の半導体ウエハ(以下単にウエハと記す)Wに対し、例えば拡散処理、酸化処理、成膜処理等の各種熱処理を施すものであり、これら処理を行う熱処理エリア2と、熱処理エリア2へウエハWの搬入出を行うローディングエリア(基板搬送室)3とを有している。
【0017】
熱処理エリア2は、上下方向に延びる円筒状をなす縦型の処理容器11を有している。この処理容器11は、本体部が耐熱性を有する材料、例えば石英で構成されており、本体部の下は円筒状の金属製のマニホールド13となっており、このマニホールド13には、処理ガス供給配管および排気管(いずれも図示せず)が接続され、処理容器11内への処理ガスの供給および処理容器11内の排気を行えるようになっている。処理容器11の周囲には加熱手段として抵抗ヒーターからなる円筒状のヒーターユニット12が設けられている。また、処理容器11の内部には石英製の内筒14が設けられており、処理容器11は二重管構造となっている。なお、加熱手段は、抵抗ヒーターに限られず輻射熱により加熱するものあればよく、また、処理容器11の外側に限られず、基板を囲繞するように配置されれば処理容器11の内側に設置されてもよい。
【0018】
処理容器11の内筒14内には、複数のウエハWを上下方向に積層した状態で保持した石英製のウエハボート15が搬入され、処理容器11内を減圧雰囲気にした状態で処理ガスにより拡散処理、成膜処理、酸化処理等の所定の熱処理が行われるようになっている。
【0019】
ローディングエリア3は、筐体21を有し、筐体21内にはウエハボート15を支持して昇降する昇降支持体22が設けられている。昇降支持体22は、昇降機構(図示せず)により昇降され、これにより、ウエハボート15を筐体21内の二点鎖線で示すウエハ受け渡し位置と、処理容器11内の実線で示す処理位置との間で昇降可能となっている。
【0020】
ウエハボート15は、保温筒16およびキャップ17を介して昇降支持体22に支持されており、昇降機構により昇降支持体22を下降させ、ウエハボート15がローディングエリア3の筐体21内にある状態で、移載機構(図示せず)によりウエハボート15とウエハキャリア(図示せず)との間にウエハWの受け渡しが行えるようになっている。
【0021】
移載機構によりウエハキャリアからウエハボート15にウエハWを移載し、ウエハボート15に複数、例えば50〜150枚のウエハWを搭載した状態で、昇降機構による昇降支持体22を上昇させることにより、図1に示すように、ウエハWを搭載したウエハボート15が処理容器11内に搬入された状態となる。この状態で、キャップ17は処理容器11の底部開口および筐体21の上部開口に対応する開口を閉塞し、処理容器11内を気密空間に保持するようになっている。そして、処理容器11を排気し、処理容器11内に所定の処理ガスを導入しつつヒーターユニット12によりウエハボート15に搭載されたウエハWを例えば500〜1200℃の高温に加熱することにより、拡散処理、成膜処理、酸化処理等の所定の熱処理が行われるようになっている。処理容器11内で所定の処理を行った後は、昇降機構により昇降支持体22、キャップ17および保温筒16とともにウエハボート15がローディングエリア3の筐体21内に下降されて空冷される。つまり、ローディングエリア3の筐体21は基板であるウエハWを冷却する冷却機構の一部である空冷ポートとして機能する。
【0022】
筐体21内に戻されたウエハで移載機構によりウエハボート15に搭載された処理後のウエハWをウエハキャリアに収納するようになっている。処理容器11からウエハボート15をローディングエリア3に搬出した後は、シャッター(図示せず)により処理容器11の底部開口を塞いで、処理容器11からローディングエリア3への熱を遮断し、ウエハボート15に保持されたウエハWの冷却が妨げられないようになっている。
【0023】
図2、3に示すように、ローディングエリア3の筐体21内には清浄ガス例えばNガスを供給するためのファンフィルターユニット(FFU)23と、整流状態で清浄ガスを排出する排気ユニット24が設けられており、さらに、FFU23の上方には、熱処理後に処理容器11から筐体21内に降下されつつあるウエハボート15に、冷却ガス、例えばNガスを吹き付ける冷却ガス供給ノズル25が例えば2個設けられている。この冷却ガス供給ノズル25は、熱処理後に基板であるウエハWを冷却する基板冷却機構の一部として機能する。また、筐体21にはウエハキャリアを搬入出するための搬入出口26が設けられており、搬入出口26はシャッター27により開閉可能となっている。
【0024】
熱処理装置1は、熱処理後に基板であるウエハWを冷却する基板冷却機構を有している。冷却機構は上述したように、空冷ポートとして機能するローディングエリア3の筐体21と、上記冷却ガス供給ノズル25を有しているが、その他にその主要部として、ウエハWの熱処理終了時に、ヒーターユニット12と処理容器11内のウエハボート15との間に挿入されることにより、ヒーターユニット12からウエハWへの熱を遮蔽する熱遮蔽部材30を有している。この熱遮蔽部材30は、ヒーターユニット12からの熱を遮蔽することにより基板であるウエハWの冷却を促進する。熱遮蔽部材30はヒーターユニット12と処理容器11内のウエハボート15との間の挿入位置と、ローディングエリア3の筐体21の上部の引き出し位置との間で移動可能に設けられている。
【0025】
熱遮蔽部材30は、2つの半筒状部材31を有しており、図4に示すように、これらが合体して筒状に形成される。これら2つの半筒状部材31の下端にはアーム32が取り付けられており、引き出し位置において駆動機構(図示せず)により、アーム32を介して、2つの半筒状部材31を、両者が外方へ離隔した退避位置と、合体して熱遮蔽の機能を発揮する合体位置との間で移動し、かつ2つの半筒状部材31が合体位置で合体して筒状の熱遮蔽部材30を構成した状態で、上記駆動機構により熱遮蔽部材30が引き出し位置と挿入位置との間で昇降されるようになっている。なお、アーム32の取り付け位置は下端に限るものではない。
【0026】
熱遮蔽部材30の2つの半筒状部材31は、図5に示すように、内側面を含む内側部分33と外側面を含む外側部分34とが一体的に設けられた二層構造となっている。内側部分33はウエハW(ウエハボート15)からの輻射熱を吸収しやすいように、相対的に高輻射率の耐熱材料、例えば窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(Al)で構成され、外側部分34はヒーターユニットからの熱線を極力遮ることができるように、相対的に低輻射率(すなわち高反射率)の耐熱材料、例えば石英、タングステン(W)で構成される。これら内側部分33と外側部分34とは適宜の方法で接合または貼り合わせされていてもよいし、外側部分34を適宜の膜形成技術により内側部分33に膜形成してもよい。
【0027】
また、アーム32は、熱遮蔽部材30が吸収した熱を排出する機能を有し、比較的熱伝導率が高い耐熱材料、例えば窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(Al)で構成されることが好ましい。排熱性を極力良好にする観点からは、内側部材33、外側部材34およびアーム32は、一体ものであることが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、筐体21の上部で2つの半筒状部材31を合体させて筒状部材30を形成した後、内筒14とウエハボート15との間に挿入される。キャップ17には2つの半筒状部材31を合体させて熱遮蔽部材30を形成した状態で熱遮蔽部材30およびアーム32が通過可能な孔(図示せず)が形成されており、これにより熱遮蔽部材30の上昇およびその後のウエハボート15の下降が可能となる。この孔は熱処理の際にはシャッター(図示せず)により閉じられるようになっている。
【0029】
次に、このように構成される熱処理装置1の動作について説明する。
まず、ウエハボート15をローディングエリア3の筐体21におけるウエハ受け渡し位置に配置し、移載機構によりウエハキャリアからウエハボート15に複数、例えば50〜150枚程度のウエハWを移載する。
【0030】
次いで、昇降機構により昇降支持体22を介してウエハボート15および保温筒16を上昇させ、筐体21の開口および処理容器11の底部開口を介して処理容器11内の内筒14の内側部分に搬入する。この際にキャップ17により筐体21の開口および処理容器11の底部開口が閉塞される。このとき、処理容器11内はヒーターユニット12により加熱されて500〜1200℃の高温に保持されている。この状態で、処理容器11内を排気して所定の減圧雰囲気にするとともに、所定の処理ガスを処理容器内に導入して拡散処理、成膜処理、酸化処理等の所定の熱処理を行う。
【0031】
熱処理が終了後、ウエハボート15を降下させてウエハWを冷却するが、本実施形態ではそれに先だって、熱遮蔽部材30をヒーターユニット12と処理容器11内のウエハボート15との間に挿入し、ヒーターユニット12からウエハWの熱を遮蔽してウエハWの冷却を促進する。
【0032】
従来、熱処理後のウエハの冷却は、専らローディングエリアでの空冷によって行われていたが、一般的に物体の放熱は、400℃程度以上では輻射が支配的であり、400℃程度以下では対流が支配的であるため、ウエハボート15が処理容器11から搬出された直後の高温状態においては、冷却ガスによる対流冷却はほとんど冷却に寄与しない。また、冷却効果を高めるために大量の冷却ガスを流したとしても冷却ガスの上流側のみが冷却され基板内に極度な温度分布が生じて基板の歪による破損の原因となる。そこで、本実施形態では、高温状態において輻射冷却によりウエハWを有効に冷却すべく熱遮蔽部材30を用いている。
【0033】
すなわち、輻射冷却を効果的にするためには、(1)ウエハWは熱処理後もヒーターユニット12からの輻射熱を受けているが、このヒーターユニット12からウエハWに及ぼされる輻射熱を遮ること、および(2)ウエハ面から放出される輻射熱を吸収すること、の2つが重要であり、この2つは熱処理後にヒーターユニット12とウエハボート15との間に低温の熱遮蔽部材30を挿入することにより達成されるのである。
【0034】
具体的には、熱遮蔽部材30をヒーターユニット12とウエハボート15との間に挿入することにより、熱遮蔽部材30がヒーターユニット12からの輻射熱を遮蔽するとともに、外側部分34として低輻射率材料(高反射率材料)を用いてヒーターユニット12からの輻射熱の吸収を極力低減し、かつ、内側部分33として高輻射率材料を用いてウエハW(ウエハボート15)からの輻射熱を吸収しやすくする。さらに、熱遮蔽部材30が吸収した熱をアーム32を介して排出することにより、ウエハW(ウエハボート15)からの輻射熱を吸収する効果をより高めることができる。排熱性を良好にする観点からアーム32は比較的熱伝導率が高い耐熱材料、例えば窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(Al)で構成されることが好ましく、内側部材33、外側部材34およびアーム32は、一体ものであることが好ましい。
【0035】
また、以上により、ウエハボート15が処理容器11内からローディングエリア3に搬出された際にはウエハWの温度は従来よりも低下しており、ウエハWが空冷により効率的に冷却されない時間を極力短縮することができる。
【0036】
次に、図6および図7を参照して、熱遮蔽部材30の装着および退避手順について説明する。
ウエハボート15にウエハWを移載している際、およびウエハボート15を処理容器11内に搬入する際には、図6(a)に示すように、筐体21内の上部において、筒状の熱遮蔽部材30を構成する2つの半筒状部材31が外方へ離隔した退避位置にある。
【0037】
そして、上記筒状の熱遮蔽部材30を処理容器11内の内筒14の内側にウエハボート15を囲繞するように挿入するまでには、図6(b)に示すように2つの半筒状部材31を水平移動させて合体させ、筒状の熱遮蔽部材30を形成する。熱処理が終了した時点で、図6(c)に示すように、処理容器11内の内筒14の内側にウエハボート15を囲繞するように挿入する。挿入動作と同時または挿入後に、ウエハボート15を降下させる。これにより、上述したように、降下しつつあるウエハボート15のウエハWへのヒーターユニット12からの輻射熱を遮蔽するとともに、ウエハWからの輻射熱を吸収することができる。なお、全体の処理時間を短縮する観点からは、熱処理が終了して冷却を行うまでの間に行う他の処理が無ければ、図6(b)の半筒状部材31を合体させて筒状の熱遮蔽部材30を形成する工程は熱処理が終了するまでの間に完了していることが望ましい。
【0038】
図7(a)に示すように、ウエハボート15の上端が熱遮蔽部材30に達した際に、図7(b)に示すように、熱遮蔽部材30をウエハボート15とともに降下させ、処理容器11の外部に搬出し、筐体21内の所定の位置に位置させる。この状態で、図7(c)に示すように、2つの半筒状部材31を水平方向外方に移動させて、退避位置に退避させる。
【0039】
このように熱遮蔽部材30を分割タイプのものとして退避できるようにしたので、ローディングエリア3での熱処理後のウエハWの空冷を妨げることがなく、また、ウエハボート15の搬入出の妨げになることもない。
【0040】
また、熱遮蔽部材30の長さは、ローディングエリアの筐体21内に降下した際に、ウエハボートへの冷却ガスの供給を妨げない長さとなっている。これにより、熱遮蔽部材30が筐体21内に降下してから退避位置に退避するまでの間にも、ウエハボート15に冷却ガスが吹き付けられ、効率よくウエハWの空冷を行うことができる。なお、ここでの冷却ガスの吹き付けは、前述のような、基板内に極度な温度分布が生じるような大量の冷却ガスによるものではないことは言うまでもない。
【0041】
ただし、熱遮蔽部材30のヒーターユニット12の輻射熱を遮蔽する効果およびウエハW(ウエハボート15)からの輻射熱を吸収する効果は、その長さが長いほど大きくなるので、これらの効果をより重視する場合には、図8(a)に示すように、より長尺にすることが有利である。熱遮蔽部材30の上記効果と、ローディングエリア3での冷却ガスの吹きつけによるウエハWの冷却を両立する観点からは、図8(b)に示すように、穴41が形成されたものを用いることができる。すなわち、処理容器11内に挿入された際には、遮蔽部材30の穴41の形成されていない部分で上記熱遮蔽部材30としての効果を発揮し、熱遮蔽部材30がローディングエリア3に戻された際には穴41を通ってウエハW(ウエハボート15)に冷却ガスを供給することができる。図8(b)の構成では穴41の存在により熱遮蔽部材30の効果が不十分になるおそれがある場合には、図8(c)に示すように、上部30aに穴を形成せずに熱遮蔽部材30の上記効果を十分に発揮させ、下部30bに穴41を形成して冷却ガスがウエハW(ウエハボート15に到達するようにすることが好ましい。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、熱遮蔽部材30を処理容器11の内筒14とウエハボート15との間に挿入したが、これに限らず、処理容器11の外壁と内筒14との間、あるいはヒーターユニット12と処理容器11の外壁との間に挿入されていてもよい。ただし、ヒーターユニットからの輻射熱を遮蔽する効果およびウエハW(ウエハボート15)からの輻射熱を吸収する効果の両方を有効に発揮する観点からは、よりウエハボート15に近い処理容器11の内筒14とウエハボート15との間に挿入するのが有利である。
【0043】
また、熱処理としては、拡散処理、成膜処理、酸化処理を挙げたが、その他、アニール処理、改質処理、エッチング処理等、基板の加熱をともなう処理であれば本発明の熱処理に含まれる。さらに、本発明の熱処理においては、ガスの供給は必須ではない。さらにまた、基板として半導体ウエハを用いた場合を例示したが、処理に応じてサファイア基板、ZnO基板、ガラス基板等種々のものを用いることができ、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1:熱処理装置
2;熱処理エリア
3;ローディングエリア
11;処理容器
12;ヒーターユニット
14;内筒
15;ウエハボート
16;保温筒
17;キャップ
21;筐体
22;昇降支持体
25;冷却ガス供給ノズル
30;熱遮蔽部材
30a;上部
30b;下部
31;半筒状部材
32;アーム
33;内側部
34;外側部
41;穴
W;半導体ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板を保持する基板保持部材と、前記基板保持部材を収容する処理容器と、前記基板保持部材を囲繞するように配置され輻射熱により加熱する加熱手段と、前記基板保持部材を前記処理容器の内部と前記処理容器の外部との間で搬送する搬送機構とを有し、前記加熱手段により前記基板保持部材に保持された基板を熱処理する熱処理装置における、熱処理後の基板を冷却する基板冷却機構であって、
前記処理容器内の前記基板保持部材と前記加熱手段との間に挿入される挿入位置と挿入位置から引き出された引き出し位置との間で移動可能であり、前記熱処理後の基板への輻射熱を遮蔽する筒状をなす熱遮蔽部材と、前記処理容器の外部に配置された空冷ポートとを有し、
前記熱遮蔽部材は、前記引き出し位置において、2つの半筒状部材が合体および分離可能に設けられており、これら2つの半筒状部材は、互いに分離して配置された退避位置と、これらが合体して筒状に構成される合体位置との間で移動可能に設けられ、前記2つの半筒状部材が前記合体位置で合体した状態で、前記熱遮蔽部材が前記引き出し位置と前記挿入位置との間で移動し、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されていることを特徴とする基板冷却機構。
【請求項2】
前記空冷ポートは、前記基板保持部材に冷却ガスを供給する冷却ガス供給機構を有することを特徴とする請求項1に記載の基板冷却機構。
【請求項3】
前記熱遮蔽部材の前記半筒状部材をそれぞれ支持する支持部材をさらに有し、前記支持部材は、前記半筒状部材が合体して前記加熱手段と前記処理容器内の前記基板保持部材との間に挿入された際に、前記半筒状部材の熱を排出する機能を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の基板冷却機構。
【請求項4】
前記支持部材は、窒化アルミニウムおよびアルミナのいずれかで構成されていることを特徴とする請求項3に記載の基板冷却機構。
【請求項5】
前記熱遮蔽部材の前記外側面を構成する前記相対的に低輻射率の材料は、石英およびタングステンのいずれかであり、前記内側面を構成する前記相対的に高輻射率の材料は、窒化アルミニウムおよびアルミナのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の基板冷却機構。
【請求項6】
前記熱遮蔽部材は、前記引き出し位置に引き出された際に、前記冷却ガス供給機構からの冷却ガスの供給を妨げないような長さを有することを特徴とする請求項2に記載の基板冷却機構。
【請求項7】
前記熱遮蔽部材は、前記冷却ガス供給機構からの冷却ガスが通過して前記基板保持部材の基板に供給されるような穴を有することを特徴とする請求項2に記載の基板冷却機構。
【請求項8】
前記熱遮蔽部材は、前記冷却ガス供給機構からの冷却ガスの供給を妨げる部分のみに冷却ガスが透過する穴を有することを特徴とする請求項7に記載の基板冷却機構。
【請求項9】
複数の基板を保持する基板保持部材と、前記基板保持部材を収容する処理容器と、前記基板保持部材を囲繞するように配置され輻射熱により加熱する加熱手段と、前記基板保持部材を前記処理容器の内部と前記処理容器の外部との間で搬送する搬送機構とを有し、前記加熱手段により前記基板保持部材に保持された基板を熱処理する熱処理装置における、熱処理後の基板を冷却する基板冷却方法であって、
熱処理後、前記処理容器内の前記基板保持部材と前記加熱手段との間に、筒状をなし、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されている熱遮蔽部材を挿入し、前記熱処理後の基板への輻射熱を遮蔽して、前記基板保持部材に保持された基板の輻射冷却を行い、さらに、前記基板保持部を前記処理容器の外部に配置された空冷ポートに搬出して基板の空冷を行うことを特徴とする基板冷却方法。
【請求項10】
複数の基板を保持する基板保持部材と、
前記基板保持部材を収容する処理容器と、
前記基板保持部材を囲繞するように配置され輻射熱により加熱する加熱手段と、
前記基板保持部材を前記処理容器の内部と前記処理容器の外部との間で搬送する搬送機構と、
熱処理後の基板を冷却する基板冷却機構と
を具備し、
前記基板冷却機構は、前記処理容器内の前記基板保持部材と前記加熱手段との間に挿入される挿入位置と挿入位置から引き出された引き出し位置との間で移動可能であり、熱処理後の基板への輻射熱を遮蔽する筒状をなす熱遮蔽部材と、前記処理容器の外部に配置された空冷ポートとを有し、
前記熱遮蔽部材は、前記引き出し位置において、2つの半筒状部材が合体および分離可能に設けられており、これら2つの半筒状部材は、互いに分離して配置された退避位置と、これらが合体して筒状に構成される合体位置との間で移動可能に設けられ、前記2つの半筒状部材が前記合体位置で合体した状態で、前記熱遮蔽部材が前記引き出し位置と前記挿入位置との間で移動し、かつ外側面が相対的に低輻射率の材料で構成され、内側面が相対的に高輻射率の材料で構成されていることを特徴とする熱処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−62317(P2013−62317A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198604(P2011−198604)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】