説明

基板洗浄用ラック

【課題】洗浄効果を犠牲にすることなく、洗浄中の基板の振動を抑えることができる基板洗浄用ラックを提供する。
【解決手段】基板洗浄用ラック10は、ラック本体12内に複数の基板14を立てた状態で収容し、その流通路12aを通じて上から下方向へ洗浄液等の流体を流通させて基板14の洗浄作業を行うものである。ラック本体12内には両端保持部材16及び下部保持部材18が設けられており、基板14の両側の縁辺部及び下側の縁辺部は、それぞれ両端保持部材16及び下部保持部材18により保持されている。また基板14を収容した状態で、ラック本体12内には上部保持部材20が取り付けられ、この上部保持部材20によって基板14の上側の縁辺部が保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基板に電子部品等を半田付けした後、残留したフラックスを洗い流したり、その後の乾燥を行ったりする際に基板を収容しておく基板洗浄用ラックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向する両側面部に複数対の基板挿入部を有し、これら基板挿入部に挿入された基板間に洗浄液を通過させる構造の基板洗浄用ラックが知られている(特許文献1参照。)。特にこの基板洗浄用ラックは、基板挿入部間に仕切り板を設けることで、ラックの端面部と仕切り板の間、そして2枚の仕切り板の間にそれぞれ略同じ面積で複数の基板洗浄区域を形成している。
【0003】
上記の基板洗浄用ラックによれば、全ての基板挿入部に基板が収容されていなかったとしても、基板挿入部内に広い空間と狭い空間が形成されないので、ラックの全面にわたり均等な流速で洗浄液を流通させることができる。このため、洗浄する基板の数量がラックの収容数量に満たなかった場合でも、広い空間の部分にダミーの基板を装着する必要がなく、それだけ作業の手間を省くことができると考えられる。
【0004】
また先行技術の基板洗浄用ラックは、その全面を細かく区切った状態で洗浄液を流通させることにより、内部に激しい乱流を発生させている。このときの乱流で洗浄液が基板の表面に強く接触するため、それだけ洗浄効果を高めることができると考えられる。
【特許文献1】特開平11−145093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した先行技術のようにラック内で洗浄液の流速をある程度まで高め、激しく乱流を発生させると、それが基板全体に大きな振動を発生させる原因にもなる。このときの振動によって基板が変形(歪が発生)すると、例えば配線パターンと電子部品との半田付け部分に過度な応力がかかり、半田付け部分の割れや欠け、剥がれといった不具合を生じるおそれがある。そうかといって、あまり洗浄液の流速を低下させると、今度は充分な洗浄効果が得られなくなってしまうという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、洗浄効果を犠牲にすることなく、洗浄中の基板の振動を抑える技術の提供を課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため以下の解決手段を採用する。
すなわち本発明は、洗浄対象物となる基板を収容し、基板に沿って一方向に流体を流通させて基板の洗浄又は乾燥を行うための基板洗浄用ラックである。特に本発明の基板洗浄用ラックは、第1の保持部材材及び第2の保持部材材を用いて基板を保持する構成である。
【0008】
このうち第1の保持部材材は、流体の流通方向でみて基板の両側に位置する2つの縁辺部をそれぞれ保持するものである。また第2の保持部材材は、流体の流通方向に延びる板形状をなしており、流体の流通方向で対向する基板の2つの縁辺部のうち少なくとも上流側に位置する縁辺部を保持するものである。
【0009】
通常、流体の流通時に基板の両側の縁辺部を保持しているだけでは、これらの間(特に流れの中心位置)で基板がフリーの状態となり、上記のように流体との接触によって基板全体に振動が発生してしまう。
【0010】
そこで本発明では、流体の流通方向でみて両側の縁辺部だけでなく、流通方向で対向する2つ縁辺部のうち、少なくとも上流側の縁辺部を合わせて保持することにより、合計で少なくとも3つの縁辺部を保持するものとしている。これにより、流体の流通時に両側の縁辺部の間で基板がフリーの状態になるのを防止し、振動の発生を抑えている。
【0011】
また第2の保持部材は、その構造が流体の流通方向に延びる板形状であるため、これを両側の縁辺部の間(流れの中心位置)に配置したとしても、流体の流れに過度な抵抗を生じたり、流速を大きく低下させたりすることはない。
【0012】
本発明の基板洗浄用ラックは、内部に流体を流通させる流通路が形成され、その対向する一対の内壁面にそれぞれ第1の保持部材が設けられた角筒形状のラック本体を備えている構造であってもよい。この場合、第2の保持部材は、ラック本体に対して着脱可能に設けられていることが好ましい。
【0013】
上記の構造であれば、基板をラック本体に収容する際、先ず第2の保持部材をラック本体から取り外した状態にしておき、ラック本体の流通路内に流体の流通方向に沿って基板を挿入することで、両側の縁辺部を第1の保持部材に保持させることができる。次に第2の保持部材をラック本体に取り付けると、流通方向で対向する基板の縁辺部を第2の保持部材により保持させることができる。
【0014】
また、基板洗浄用ラックを用いた基板の洗浄作業(洗浄又は乾燥)の終了後は、ラック本体から第2の保持部材を取り外すことで、ラック本体から基板を容易に抜き取ることができる。
【0015】
本発明の基板洗浄用ラックにおいて、特に第2の保持部材について以下に複数の好ましい態様を挙げることができる。
【0016】
(1)第2の保持部材は、基板の厚み方向に対して90度以下の角度で形成された三角形状溝を有しており、この三角形状溝内に基板の縁辺部を受け入れた状態で基板の厚み方向への振動又は変形を規制する態様であってもよい。なお、ここで規制するのは振動又は変形のいずれか一方でもよいし、両方でもよい(これ以降も同様とする。)。すなわち、「振動」を規制する場合は基板の周期的な歪みを抑えることができ、「変形」を規制する場合は厚み方向でみた一方向での歪みを抑えることができる。
【0017】
この場合、三角形状溝はちょうど基板の縁辺部に対して90度以下の角度で口を開いたような状態となるため、三角形状溝内に基板の縁辺部を容易に受け入れることができる。また、基板の縁辺部はそのエッジを三角形状溝の内面に接触させることで相対的に拘束されるため、それによって流体の流通時に振動の発生を確実に抑えることができる。
【0018】
上記(1)の態様において、第1の保持部材は、複数の基板を略一定の間隔で互いに平行に並べて保持するべく流体の流通方向に延びる複数の保持溝を有していてもよい。この場合、第2の保持部材は、第1の保持部材により両側の縁辺部が保持された状態の複数の基板にそれぞれ対応した位置に複数の三角形状溝を有することが望ましい。
【0019】
この場合、基板洗浄用ラックに複数の基板を収容した状態で、第1の保持部材及び第2の保持部材を用いて複数の基板を同時に保持することができるため、それだけ洗浄作業の効率を高めることができる。
【0020】
(2)あるいは、第2の保持部材は、基板の縁辺部を受け入れる入口部分が基板の厚み方向に対して90度以下の角度を有するテーパー溝として形成され、かつ、入口部分よりも奥の部分が基板の厚みより僅かに大きい略一定の幅で基板の縁辺部の受け入れ方向へ延びる平行溝として形成されており、テーパー溝を通じて平行溝内に基板の縁辺部を受け入れた状態で基板の厚み方向への振動又は変形を規制する態様であってもよい。
【0021】
上記(2)の態様であれば、テーパー溝がちょうど基板の縁辺部に対して90度以下の角度で口を開いたような状態となるため、基板洗浄用ラックに基板を収容した状態で第2の保持部材により基板の縁辺部を保持する際、最初にテーパー溝を通じて基板の縁辺部を容易に受け入れることができる。そして、テーパー溝の奥で基板の縁辺部は平行溝内に受け入れられるので、そこで確実に厚み方向への変位が規制され、それによって流体を流通させた時の振動の発生が防止される。
【0022】
また上記(2)の態様において、第1の保持部材は、複数の基板を略一定の間隔で互いに平行に並べて保持するべく流体の流通方向に延びる複数の保持溝を有していてもよい。そして第2の保持部材は、第1の保持部材により両側の縁辺部が保持された状態の複数の基板にそれぞれ対応した位置に複数のテーパー溝及び平行溝を有しており、平行溝内に基板の縁辺部を受け入れた状態で個々の基板の厚み方向への振動又は変形を規制しつつ、流体の流通方向でみた基板の長さ寸法のばらつきを吸収することができる。
【0023】
この場合も同様に、基板洗浄用ラックに複数の基板を収容した状態で、第1の保持部材及び第2の保持部材を用いて複数の基板を同時に保持することができるため、それだけ洗浄作業の効率を高めることができる。
【0024】
さらに、複数の基板に長さ寸法のばらつき(寸法公差)があったとしても、そのばらつきが平行溝内で吸収されるため、第1の保持部材及び第2の保持部材を用いて全ての基板を良好に保持することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の基板洗浄用ラックは、流体による洗浄効果や乾燥作用を充分に発揮しつつ、基板の振動を効果的に抑えることができる。これにより、洗浄中又は乾燥中に基板に変形が生じるのを抑え、半田付け部分に不具合が発生するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0027】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態の基板洗浄用ラック10の構造例を示す斜視図である。なお図1中、基板洗浄用ラック10の一部を破断して示し、また一部を分解して示している。
【0028】
〔ラック本体〕
基板洗浄用ラック10は、角筒形状をなすラック本体12を備えている。このラック本体12は、内部が矩形断面をなす流体の流通路12aとして形成されており、この流通路12a内には、洗浄対象物となる複数の基板14を例えば立てた状態で収容することができ、基板14の洗浄又は乾燥時には、上から下へ向かって洗浄液又は乾燥用エアを流通させることができる。
【0029】
〔第1の保持部材〕
ラック本体12には、流通路12a内で対向する一対の内壁面12bにそれぞれ両端保持部材16が対をなして取り付けられている。これら両端保持部材16はいずれも、上下方向に延びる複数の保持溝16aを有している。ラック本体12内に基板14を収容する際、基板14の両側の縁辺部がそれぞれ保持溝16aにより案内されることで、ラック本体12内には複数の基板14が略等間隔をおいて平行に配置される。この状態で両端保持部材16は、その保持溝16aにより基板14の両側の縁辺部を保持している。
【0030】
〔第2の保持部材〕
またラック本体12には、流通路12a内の下方位置に下部保持部材18が設けられている。下部保持部材18は、流通路12a内で対向する別の一対の内壁面12c間にわたって延びており、両端はそれぞれ対応する内壁面12cに接合されている。ラック本体12に基板14が収容される際、基板14はその下側の縁辺部(下端面)が下部保持部材18に接触する位置まで挿入される。
【0031】
図1では隠れた位置にあるため示されていないが、下部保持部材18には、基板14の縁辺部と接触する位置に複数の三角形状溝18aが形成されている。これら三角形状溝18aは、下部保持部材18の上縁部に沿ってその長手方向に配列して形成されており、その1つ1つが基板14の厚み方向へ三角形状(V字形状)に開いた切り欠き溝として構成されている。上記のように基板14が下部保持部材18に接触する位置まで挿入されると、基板14の下側の縁辺部がそれぞれ対応する三角形状溝18a内に受け入れられる。この状態で下部保持部材18は、基板14の下側の縁辺部を保持することができる。
【0032】
一方、ラック本体12には、流通路12a内の上方位置に上部保持部材20が取り付けられるものとなっている。上部保持部材20は、ラック本体12に対して着脱可能であり、図1ではラック本体12から分離した状態で上部保持部材20が示されている。上部保持部材20は、上記のようにラック本体12内に基板14を収容した状態で、その上方からラック本体12内に挿入して取り付けられる。上部保持部材20がラック本体12に取り付けられると、基板14の上側の縁辺部に上部保持部材20が接触した状態となる。
【0033】
ここで上部保持部材20は、対向する一対のサイド保持板20a及び連結板20bを有しており、これらサイド保持板20a及び連結板20bは四角筒(又は四角枠)形状に組み合わせられている。また上部保持部材20は、一対のサイド保持板20aの間にこれらと平行なセンタ保持板20cを有している。このセンタ保持板20cは一対の連結板20b間にわたって延びており、両端はそれぞれ対応する連結板20bの内面に接合されている。
【0034】
図1に示されているように、上部保持部材20のサイド保持板20a及びセンタ保持板20cには、それぞれ基板14の上側の縁辺部と接触する位置に複数の三角形状溝20d(図1中、一部にのみ符号を付す)が形成されている。これら三角形状溝20dは、各保持板20a,20cの下縁部に沿ってその長手方向に配列して形成されており、その1つ1つが基板14の厚み方向へ三角形状(V字形状)に開いた切り欠き溝として構成されている。上記のように上部保持部材20がラック本体12に取り付けられて基板14の上側の縁辺部に接触すると、基板14の上側の縁辺部がそれぞれ対応する三角形状溝20d内に受け入れられる。この状態で上部保持部材20は、基板14の上側の縁辺部を保持することができる。
【0035】
図2は、基板洗浄用ラック10の縦断面図(図1中のII−II断面)である。上記のように複数の基板14は、それぞれ両側の縁辺部が両端保持部材16の保持溝16a内に案内されてラック本体12内に収容されている。また基板14の下側の縁辺部は、ラック本体12内に挿入された状態で下部保持部材18に接触し、それぞれ対応する三角形状溝18a内に受け入れられている。
【0036】
上部保持部材20は、ラック本体12内に挿入して取り付けられており、この状態で自重により基板14の上側の縁辺部に接触している。そして上部保持部材20は、各保持板20a,20cの下縁部に形成された三角形状溝20d内に基板14の上側の縁辺部を受け入れ、この状態で上側の縁辺部を保持している。
【0037】
また図3は、図2とは別方向からみた基板洗浄用ラック10の縦断面図(図1中のIII−III断面)である。すなわち図2では、収容された基板14の厚み方向でみた縦断面を示しているが、図3では基板14と平行な方向でみた縦断面を示している。
【0038】
収容された基板14の幅方向でみると、下部保持部材18はちょうど基板14の中央位置に設けられている。このため下部保持部材18は、下側の縁辺部の中央位置を保持することができる。なお、このような下部保持部材18の取付位置はあくまで一例であり、基板14に対して幅方向に中央からずれた位置に設けられていてもよい。あるいは、下部保持部材18が複数箇所に設けられていてもよい。
【0039】
また上部保持部材20は、収容された基板14の幅方向でみて、その略中央位置に取り付けられている。これにより上部保持部材20は、センタ保持板20cにより上側の縁辺部の中央位置を保持し、その両側では2つのサイド保持板20aにより略均等な位置(合計3箇所)で上側の縁辺部を保持することができる。
【0040】
図4は、基板洗浄用ラック10の横断面図(図1中のIV−IV断面)である。上記のように両端保持部材16には、基板14の配列方向に一定の間隔をおいて複数の保持溝16aが形成されている。各保持溝16aの幅は、基板14の厚みよりも僅かに大きく設定されている。また、一対をなす両端保持部材16同士でみると、対向する保持溝16a同士の間隔は基板14の幅寸法よりも僅かに大きく設定されている。このためラック本体12内に基板14を収容したり、あるいはラック本体12内から基板14を抜き取ったりする際の作業がしやすくなっている。
【0041】
図5は、上記の三角形状溝20dを拡大して示した図である。なお、ここでは上部保持部材20のサイド保持板20a又はセンタ保持板20cを例に挙げているが、下部保持部材18についても同様であるため、図中に下部保持部材18及びその三角形状溝18aとしての参照符号も適宜括弧書きで示している。このため以下の説明中、「三角形状溝」という場合、それは下部保持部材18の三角形状溝18aについても該当するものとする。
【0042】
三角形状溝20dは、上記のようにサイド保持板20a又はセンタ保持板20cの下縁部(下部保持部材18の場合は上縁部)に形成されて基板14の縁辺部の方向に開口している。このとき三角形状溝20dは、基板14の厚み方向に対して角度θを有しており、ここでは角度θの範囲として90度以下を適当としている。また三角形状溝20dは、その開口幅が基板14の厚みよりも大きく設定されている。
【0043】
このため、基板14と上部保持部材20(又は下部保持部材18)とを接触させると、それぞれ対応する位置の三角形状溝20d内に基板14の縁辺部が容易に受け入れられる。この状態で、基板14の縁辺部のエッジが三角形状溝20dの内面に接触し、それによって基板14の縁辺部が確実に保持されることになる。なお、複数ある基板14の長手方向(図中の上下方向)でみた寸法にばらつきがある場合、いくつかの基板14については縁辺部のエッジが三角形状溝20dの内面から僅かに離れていることもある。角度θとして90度以下を適当としているのは、上記のように寸法のばらつきによって三角形状溝20dの内面に接しない基板14があっても、その振動をより効果的に抑制できるからである。
【0044】
〔洗浄作業例〕
図6は、基板洗浄用ラック10を用いて行われる基板14の洗浄作業の概要を一例として示す図である。ここでは、いわゆるダイレクトパス方式で基板14の洗浄を行っている。この場合、基板14を収容した状態の基板洗浄用ラック10を洗浄槽30内に設置した状態で、洗浄槽30内に洗浄液を循環させる。洗浄槽30は上下にそれぞれ流入口30a及び排出口30bが設けられており、これら流入口30a及び排出口30bには循環流路32が接続されている。
【0045】
循環流路32の途中にはポンプのような循環装置36が設置されており、循環流路32内に満たされた洗浄液を循環させることができる。
【0046】
洗浄液の循環に伴い、洗浄槽30内に流入口30aから洗浄液が流れ込み、この洗浄液は基板洗浄用ラック10内で上から下方向へ流通しつつ、基板14を洗浄する。例えば、基板14がリフロー工程を経た後であれば、ここで半田付け後の残留フラックス等が洗い流される。
【0047】
基板14を洗浄した洗浄液は、基板洗浄用ラック10を通過して排出口30bから循環流路32内に排出され、循環装置36へと回収される。循環装置36内では洗浄液に混入した異物等が濾過された後、洗浄液として再び循環流路32内に送り出される。
【0048】
以上が基板洗浄用ラック10を用いた基板14の洗浄作業の概要である。このとき基板14は、洗浄液の流通方向に沿って立てた状態で基板洗浄用ラック10内に収容されているため、流通する洗浄液との接触によって良好に洗浄作用を発揮することができる。
【0049】
その一方で基板14には、接触する流体(洗浄液)によって厚み方向に圧力が加わるが、基板14の両面で圧力のバランスが変動すると、それによって基板14には厚み方向への力が作用することになる。このときの力が基板14に厚み方向への振動を発生させ、それが基板14の変形となって歪みを生じようとするが、上記のように基板洗浄用ラック10には下部保持部材18及び上部保持部材20が設けられているため、それによって洗浄時の基板14の振動が抑えられている。
【0050】
〔測定結果〕
図7は、洗浄中に基板14に生じた歪みの測定結果を示す図である。図7中(A)は、従来の基板洗浄用ラックを用いた場合(下部保持部材18及び上部保持部材20を設けていない場合)の測定結果(比較例)を示す。また図7中(B)は、下部保持部材18及び上部保持部材20を設けた場合の測定結果(第1実施形態)を示している。なお測定は、基板14の表面の適当な位置(例えば中央位置)に歪みゲージを取り付けた状態で行った。
【0051】
〔比較例〕
図7中(A):従来の基板洗浄用ラック(基板14の両側の縁辺部のみを保持するラック)を用いて洗浄作業を行った場合、洗浄作業の開始(図中の時刻t0)から基板14に歪みが発生し、その後も継続して周期的に大きな歪みが観測された。これは、洗浄液の流通に伴い基板14に厚み方向への振動が生じていることを意味している。この場合、振動によって基板14の半田付け部分に応力が発生し、場合によっては半田付け部分に割れや欠け、剥がれ等が発生する可能性がある。
【0052】
〔第1実施形態〕
図7中(B):これに対し、基板洗浄用ラック10に下部保持部材18及び上部保持部材20を設けて洗浄作業を行った場合、洗浄作業の開始(図中の時刻t0)から僅かに基板14に歪みは生じているが、歪みそのものは先の比較例よりもずっと小さいレベルにある。これは、洗浄液を流通させても、基板14にはほとんど振動(変形)が生じていないことを意味している。
【0053】
このため第1実施形態の基板洗浄用ラック10によれば、洗浄時に基板14の半田付け部分に過度な応力が発生するのを防止し、割れや欠け、剥がれ等の損傷から基板14を保護することができる。
【0054】
〔乾燥時〕
以上は洗浄時についてであるが、洗浄後の乾燥時についても同様に基板14の振動による歪みの発生を抑えることができる。すなわち、乾燥時には基板洗浄用ラック10を乾燥炉(図示しない)に移し替え、そこに乾燥用エアを上から下方向に流通させて基板14を乾燥させる。このとき、基板14の両面で流体(乾燥用エア)の圧力が変化すると、それによって基板14を厚み方向に振動させようとする力が発生するが、上記のように下部保持部材18及び上部保持部材20を用いることにより、基板14の振動を抑えることができる。したがって乾燥時においても基板14の歪みを最小限に抑え、半田付け部分に欠陥が生じるのを防止することができる。
【0055】
〔第2実施形態〕
次に、基板洗浄用ラック10の第2実施形態について説明する。
第2実施形態の基板洗浄用ラック10は、その基本的な構成を第1実施形態と共通にしているが、下部保持部材18及び上部保持部材20の形態が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0056】
図8は、第2実施形態の基板洗浄用ラック10に適用される下部保持部材18又は上部保持部材20の形態例を示す拡大図である。ここでも上部保持部材20のサイド保持板20a又はセンタ保持板20cを例に挙げているが、下部保持部材18についても同様であるため、図中に下部保持部材18としての参照符号も括弧書きで示している。
【0057】
第1実施形態では、下部保持部材18や上部保持部材20に三角形状溝18a,20dが形成されていたが、第2実施形態では、これに代えてテーパ溝20e及び平行溝20fが形成されている。これらテーパ溝20e及び平行溝20fは、基板14の縁辺部の受け入れ方向に連続して形成されており、両者は一続きの溝を構成している。
【0058】
先ずテーパ溝20eは、基板14の縁辺部の受け入れ方向でみると入口部分に相当する。すなわちテーパ溝20eは、サイド保持板20a又はセンタ保持板20cの下縁部、あるいは下部保持部材18の上縁部に形成され、対応する基板14の方向に開口している。またテーパ溝20eは、基板14の厚み方向に対して角度θを有しており、ここでは角度θの範囲として90度以下を適当としている。またテーパ溝20eは、その開口幅が基板14の厚みよりも大きく設定されている。
【0059】
次に平行溝20fは、基板14の縁辺部の受け入れ方向でみるとテーパ溝20e(入口部分)よりも奧の部分である。平行溝20fは、テーパ溝20eと違って略一定の幅で延びており、その終端は例えば半円形状に加工されている。平行溝20fの幅は、基板14の厚みよりも僅かに大きく設定されている。
【0060】
第2実施形態において、基板14と上部保持部材20(又は下部保持部材18)とを接触させると、最初にそれぞれ対応する位置のテーパ溝20e内に基板14の縁辺部が容易に受け入れられる。さらに受け入れが進行すると、基板14の縁辺部はテーパ溝20eを通じて平行溝20f内に受け入れられる。この状態で、基板14の縁辺部の両側が平行溝20f内に填り込んだ状態となり、それによって基板14の縁辺部が厚み方向に関して確実に保持されることになる。なお、このとき基板14の縁辺部のエッジが平行溝20fの終端の内面に接触していてもよい。
【0061】
また平行溝20fは、基板14の受け入れ方向にある程度の深さ(長さ)Dを有している。この深さDにより、複数ある基板14の長手方向(図中の上下方向)でみた寸法のばらつきが平行溝20f内で吸収されている。
【0062】
〔実施形態のまとめ〕
上述した第1実施形態及び第2実施形態によれば、ラック本体12内に基板14を立てた状態で収容すると、その両側の縁辺部が両端保持部材16により保持されるとともに、下側の縁辺部が下部保持部材18により保持される。さらに、ラック本体12に上部保持部材20を取り付けることで、基板14の上側の縁辺部が上部保持部材20により保持された状態となる。
【0063】
したがって、基板14は4つある縁辺部が全て保持された状態となるので、洗浄時や乾燥時に流体(洗浄液又は乾燥用エア)を流通させても、基板14に生じる歪みを最小限に抑えることができる。
【0064】
また、下部保持部材18や上部保持部材20は、流体の流通方向に沿って延びる板形状であるため、流体のスムーズな流通を妨げることがない。このため、特に流体による洗浄力や乾燥効率を犠牲にすることなく、基板14を確実に保持することができる。
【0065】
〔その他の実施形態〕
図9は、上部保持部材20の別形態例を示す斜視図である。先の形態例では、センタ保持板20cが1箇所に設けられていたが、この形態例では、複数箇所にセンタ保持板20cが設けられている。この場合、基板14の幅方向でみたより多くの位置で縁辺部を保持することができるので、それだけ基板14を強固に保持し、より歪みの発生を抑えることができる。なお、図9の形態例では三角形状溝20dを適用しているが、この形態例においてテーパ溝20e及び平行溝20fを適用してもよい。
【0066】
各実施形態において、下部保持部材18に代えて単に支持部材を用いてもよい。支持部材には、三角形状溝18aやテーパ溝20e、平行溝20f等は形成されておらず、基板14の縁辺部を保持する機能はない。この場合、支持部材は単純に基板14の下端面に接触し、その落下を防止する機能を有するものとなる。ただし、この場合でも上部保持部材20を適用することで、基板14の両側の縁辺部と上側の縁辺部の少なくとも3つが保持される。したがって、各実施形態と同様に洗浄時や乾燥時に基板14の歪みを最小限に抑えて半田付け部分に欠陥が発生するのを防止することができる。
【0067】
あるいは各実施形態において、下部保持部材18には三角形状溝18aを適用し、上部保持部材20にはテーパ溝20e及び平行溝20fを適用した形態を採用してもよいし、逆に上部保持部材20には三角形状溝20dを適用し、下部保持部材18にはテーパ溝20e及び平行溝20fを適用した形態を採用してもよい。
【0068】
各実施形態において、角度θの範囲として90度以下を適当としているが、その下限は基板14の縁辺部の受け入れに問題ない範囲内(例えば15度程度)で適宜に設定することができる。
【0069】
その他、基板洗浄用ラック10に収容される基板14の枚数は特に制約されるものではない。したがって、基板14の収容枚数に応じてラック本体12の大きさや両端保持部材16、下部保持部材18及び上部保持部材20の大きさを適宜に変形し、合わせて三角形状溝18a,20dやテーパ溝20e、平行溝20f等の数や配置を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態の基板洗浄用ラックの構造例を示す斜視図である。
【図2】基板洗浄用ラックの縦断面図(図1中のII−II断面)である。
【図3】図2とは別方向からみた基板洗浄用ラックの縦断面図(図1中のIII−III断面)である。
【図4】基板洗浄用ラックの横断面図(図1中のIV−IV断面)である。
【図5】三角形状溝を拡大して示した図である。
【図6】基板洗浄用ラックを用いて行われる基板の洗浄作業の概要を一例として示す図である。
【図7】洗浄中に基板に生じた歪みの測定結果を示す図である。
【図8】第2実施形態の基板洗浄用ラックに適用される下部保持部材又は上部保持部材の形態例を示す拡大図である。
【図9】上部保持部材の別形態例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0071】
10 基板洗浄用ラック
12 ラック本体
12a 流通路
12b,12c 内壁面
14 基板
16 両端保持部材
16a 保持溝
18 下部保持部材
18a 三角形状溝
20 上部保持部材
20a サイド保持板
20c センタ保持板
20d 三角形状溝
20e テーパ溝
20f 平行溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄対象物となる基板を収容し、前記基板に沿って一方向に流体を流通させて前記基板の洗浄又は乾燥を行うための基板洗浄用ラックであって、
前記流体の流通方向でみて前記基板の両側に位置する2つの縁辺部をそれぞれ保持する第1の保持部材と、
前記流体の流通方向に延びる板形状をなし、かつ、前記流体の流通方向で対向する前記基板の2つの縁辺部のうち少なくとも上流側に位置する前記縁辺部を保持する第2の保持部材と
を備えた基板洗浄用ラック。
【請求項2】
請求項1に記載の基板洗浄用ラックにおいて、
内部に前記流体を流通させる流通路が形成され、その対向する一対の内壁面にそれぞれ前記第1の保持部材が設けられた角筒形状のラック本体をさらに備え、
前記第2の保持部材は、
前記ラック本体に対して着脱可能に設けられていることを特徴とする基板洗浄用ラック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の基板洗浄用ラックにおいて、
前記第2の保持部材は、
前記基板の厚み方向に対して90度以下の角度で形成された三角形状溝を有し、この三角形状溝内に前記基板の縁辺部を受け入れた状態で前記基板の厚み方向への振動又は変形を規制することを特徴とする基板洗浄用ラック。
【請求項4】
請求項3に記載の基板洗浄用ラックにおいて、
前記第1の保持部材は、
複数の前記基板を略一定の間隔で互いに平行に並べて保持するべく前記流体の流通方向に延びる複数の保持溝を有しており、
前記第2の保持部材は、
前記第1の保持部材により両側の縁辺部が保持された状態の複数の前記基板にそれぞれ対応した位置に複数の前記三角形状溝を有することを特徴とする基板洗浄用ラック。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の基板洗浄用ラックにおいて、
前記第2の保持部材は、
前記基板の縁辺部を受け入れる入口部分が前記基板の厚み方向に対して90度以下の角度を有するテーパー溝として形成され、かつ、前記入口部分よりも奥の部分が前記基板の厚みより僅かに大きい略一定の幅で前記基板の縁辺部の受け入れ方向へ延びる平行溝として形成されており、
前記テーパー溝を通じて前記平行溝内に前記基板の縁辺部を受け入れた状態で前記基板の厚み方向への振動又は変形を規制することを特徴とする基板洗浄用ラック。
【請求項6】
請求項5に記載の基板洗浄用ラックにおいて、
前記第1の保持部材は、
複数の前記基板を略一定の間隔で互いに平行に並べて保持するべく前記流体の流通方向に延びる複数の保持溝を有しており、
前記第2の保持部材は、
前記第1の保持部材により両側の縁辺部が保持された状態の複数の前記基板にそれぞれ対応した位置に複数の前記テーパー溝及び前記平行溝を有しており、前記平行溝内に前記基板の縁辺部を受け入れた状態で個々の前記基板の厚み方向への振動又は変形を規制しつつ、前記流体の流通方向でみた前記基板の長さ寸法のばらつきを吸収することを特徴とする基板洗浄用ラック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−110679(P2010−110679A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284217(P2008−284217)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】