説明

基板載置装置

【課題】シリコンウエハ等の基板を載置した際に、基板と接触した突起の磨耗により発生するパーティクルを効果的に低減する。
【解決手段】突起先端面に基板を載置する基板載置装置であって、前記突起先端面の縁角部がラウンド形状であることを特徴とする基板載置装置であり、前記突起先端面は、相対密度が98%以上、気孔率は0.5%以下のセラミックスからなり、前記ラウンド形状の曲率半径が、前記セラミックスの平均粒径の2.0倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、およびサファイア基板等の基板を載置し、成膜、露光、エッチング等の工程に供される基板載置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造において、被処理物であるシリコンウエハに対して、露光、成膜、エッチング処理が行われている。このような工程では、シリコンウエハを載置するセラミックス製の載置装置が用いられることが多い。これは、セラミックスの熱的、電気的、機械的特性がこれらの工程に好適だからである。特に、セラミックスは耐磨耗性に優れるため、ウエハと接触しても問題となるようなパーティクルが生じ難いという利点があった。しかしながら、近年、シリコンウエハの大口径化とデバイスのデザインルールの微細化に伴い、上記の処理中に発生するパーティクルについての要求も厳しくなっており、セラミックス製の載置装置においてもパーティクルの問題が重要視されるようになってきた。
【0003】
パーティクルの主な発生源としては、シリコンウエハと載置装置の載置面の接触部が挙げられ、接触面積が多いほど、シリコンウエハ裏面のパーティクルが多いことは広く知られている。このため、シリコンウエハと載置面の接触面積は小さい方がよく、表面にピンを形成した載置装置であれば、パーティクルの低減を図ることができる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−267436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らの検討においても、シリコンウエハに代表される基板と接触する載置面の面積を減らすことによりパーティクルが減少する傾向は得られたものの、ほぼ同一の接触面積を持つ載置装置であっても、パーティクルの発生量が大きく異なる場合や、接触面積を減らしてもパーティクルが減らない場合があり、問題となっていた。
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、パーティクルをより効果的に減らした基板載置装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記問題を解決するために、基板と接触するピンの形状に着目して、発生するパーティクルとの関係について検証したところ、ピンの縁角部の形状が大きく影響していることを見出した。本発明に係る基板載置装置は、すなわち、突起先端面に基板を載置する基板載置装置であって、前記突起先端面の縁角部がラウンド形状であることを特徴とするものである。
【0006】
基板載置装置においては、静電気や負圧により載置面に基板が載置される。この際、基板はピンに押し付けられ、基板とピンが接触する、つまり擦れることでパーティクルが発生する。載置した基板の裏面に付着したパーティクル分布を基に、パーティクルの発生が多い箇所と少ない箇所でピンの先端部を観察したところ、パーティクルの多い箇所には、ピンの縁角部にピンの先端面と側面により形成される稜線が明確に観察される部分が多く見られ、少ないところには稜線が少ないか、稜線が明確でない部分が多く見られた。この知見を基に、ピンの形状について検討し、本発明のラウンド形状が適していることがわかった。従来、セラミックスの加工においては、縁角部をC面取りすることが一般的に行われるが、C面取りでは、ピンの先端面とC面により稜線ができるため、基板載置装置のピン形状には適さない。
【0007】
本発明は、基板を載置する突起の先端部の形状に特徴を有するものであるが、突起の全体形状は、上述のようなピン形状の他、リング状、格子状、網状、またはこれらの組み合わせ等、特に限定しない。ただし、先に述べたように、基板と載置面の接触面積は小さいほうが良いので、ピン形状が最も望ましい。ピン形状は、角柱、円柱等種々の形状を採用でき、基板との接触面積を基板の面積の10%以下にすることが望ましい。
【0008】
また、静電吸着による基板載置装置では、ピン状突起の総面積が小さくなると、基板に働く全体の吸着力が小さくなるが、吸着力は基板と接触している面だけでなく、非接触面部分でも発生する。この非接触面部分の吸着力は、突起の高さが低いほど大きくなるので、ピン状突起の基板との接触面積を小さくした場合でも、ピン状突起の高さを低くすれば、吸着力を確保することができる。
【0009】
セラミックスは、結晶粒子が結合した構造からなっている。基板とセラミックスの接触、磨耗により発生するパーティクルは、この結晶粒子の一部が、脱落したものである。本発明者は、このセラミックスの結晶粒子の大きさ、すなわち平均粒径と突起先端面の縁角部のラウンド形状との間に一定の関係を持たせることによりパーティクルをより効果的に抑制できることを見出した。すなわち、本発明は、突起先端面はセラミックスからなり、前記ラウンド形状の曲率半径が、前記セラミックスの平均粒径の2.0倍以上であることを特徴とするものである。
【0010】
突起先端面の縁角部のラウンド形状が、平均粒径と同程度か小さい場合は、縁角部に存在する粒子は、周囲の結合粒子との接触面積が小さくなるため結合が弱くなることに加え、基板が載置され突起に押し付けられた際に、縁角部に存在する粒子1個あたりにかかる応力が大きくなる。しかも、突起先端面の縁角部の粒子は、加工負荷による残留応力を持っているため、より脱落しやすい状態となっており、外的な力がかかると容易に脱落してしまう。本発明では、縁角部のラウンド形状の曲率半径がセラミックスの平均粒径の2.0倍以上としているので、粒子にかかる応力を小さく抑えることができ、粒子の脱落、すなわちパーティクルの発生を劇的に減らすことができる。なお、粒子の脱落時には、脱落する粒子自身や粒界、周囲の粒子の破砕を伴うため、単に粒径を大きくすればパーティクル数が減るということはないし、平均粒径が大きくなれば焼結体自体の強度が低下するので望ましくない。
【0011】
縁角部のラウンド形状の曲率半径は、セラミックスの平均粒径の2.0倍以上あればラウンド形状化の効果が得られるが、より好ましくは2.5倍以上とすることが望ましい。なお、本発明において、ラウンド形状の曲率半径の上限は特に定めない。曲率半径がより大きくなれば、ラウンド形状の効果に加えて、接触面積が減る効果が得られるためである。ただし、先端面が無くなると突起高さをそろえることが困難になるため、突起全体がラウンド形状となるのは望ましくない。したがって、ラウンド形状の曲率半径は、突起の先端面と側面からなる先端部に内接する仮想球の半径よりも小さいことが望ましい。
【0012】
突起の形成方法は特に限定せず、本発明の突起形状が得られる加工方法であれば良い。一般的なものは、突起を形成する部分にマスクをして、それをブラスト加工する方法である。その他、エッチング処理したり、マシニングにより形成したりする方法が採用できる。
【0013】
突起先端面の縁角部のラウンド加工の方法としては、ラップ盤が使用できる。ラップ盤は、鉄、銅、錫の金属製のものがあるが、本発明では化学繊維製のポリッシングクロスを用いる方法が好適である。クロスの厚み、研磨時間等を選択することによりラウンド形状の曲率を調整することが可能である。このとき、油性のダイヤモンドスラリーを用いてもよい。必要に応じて、マシニングによる微細加工、手磨き加工を用いても良い。
【0014】
本発明の基板載置装置に係るセラミックスは、相対密度が98%以上、気孔率は0.5%以下が望ましい。相対密度が98%よりも小さいと、粒子の結合が弱まるため、特に縁角部の粒子の脱落が起き易くなる。また、気孔率が、0.5%より大きい場合も縁角部に気孔があると近傍の粒子は脱落し易い。したがって、相対密度はより大きいことが好ましく、気孔率もより小さいことが好ましい。
【0015】
本発明の基板載置装置は、その処理環境に耐えることができる材質でなければならない。例えば、成膜処理やエッチング処理は、高温、腐食性ガス雰囲気で行われるために、このような用途に用いる基板載置装置には、耐熱性や耐食性に優れる材料であるセラミックスが用いられる。より具体的には、アルミナ、窒化アルミニウム、サイアロン、窒化珪素、炭化珪素、イットリア、イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)等が好適である。なお、真空吸着による基板載置装置においては、絶縁性、導電性を問わず、種々の材料を採用できるが、静電吸着による基板載置装置では、その使用温度において好適な体積抵抗率を備える材料を採用する必要がある。
【0016】
また、本発明の目的を達成するためには、載置面を構成する突起先端部がセラミックスであれば足り、突起先端部以外の基台等を構成する部材は、同一のセラミックスであっても良いし、その他のセラミックス、金属、金属とセラミックスの複合材料等であっても良い。
【0017】
基板載置装置には、基板を加熱するために、ヒータ等の加熱機構が設けることができる。また、載置装置の裏面からランプ等で加熱することにより、基板を加熱してもよい。さらに基板載置装置には、サセプタの機能を付与してもよい。
【0018】
セラミックスの製造方法としては、常圧、ホットプレスのような焼結法の他、溶射、CVD、AD法等の種々の方法が採用できる。
【発明の効果】
【0019】
このように本発明によれば、基板を載置する載置面を形成する突起の縁角部をラウンド形状としているので、基板を載置した際に、基板と接触した突起の磨耗により発生するパーティクルを効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の基板載置装置をより詳細に説明する。
はじめに、真空吸着による基板載置装置を示す。図1は本発明の一実施形態に係る基板載置装置の概略構成を示す断面図である。基板載置装置1は外周のリング状突起3の内側に、基板を載置する複数のピン状突起2、基板脱着用のリフトピン(図示せず)が上下できる貫通孔5、該貫通孔周囲のリング状突起4を有した構造を持ち、吸引孔6から真空排気することで、載置された基板を吸着固定することができる。これらの突起の高さは、ほぼ同一で、突起の先端は平面加工されており、この先端面、すなわち載置面に基板Wが載置される。
【0021】
なお、本発明は上記構造形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、突起の大きさ、高さ、数、および配置は限定されるものではなく任意に選択されて良く、突起2のみが載置面を形成し、リング状突起3、4は載置面を形成しない構造も採用できる。また図1では、吸引孔6は1箇所のみ示しているが、これも数、場所ともに限定されるものではない。さらには、支持具の外形も円形、四角形等、被吸着基板の形状に応じて選択されて良い。
【0022】
図2にピン状突起2の先端面縁角部の突起先端面及び突起側面に垂直な断面を示す。縁角部はラウンド形状Rを有しており、その曲率半径rはピン状突起2を形成するセラミックスの平均粒径の2.0倍以上となっており、ラウンド形状Rは、ピン状突起2の先端面2aと滑らかにつながった構造となっている。なお、図2では、ピン状突起2の縁角部についてのみ示したが、リング状突起3および4の縁角部も同様の構造を有していることは言うまでもない。
【0023】
図3は、本発明の他の実施形態である静電吸着による基板載置装置11の概略構成を示す断面図である。セラミックス絶縁層14a及び同一のセラミックスからなる基台14bの間に1対の電極13a及び13bを内蔵し、電源15を接続した双極型構造の静電吸着による基板載置装置である。絶縁層14aには基板を載置する複数のピン状突起12が形成されており、その縁角部は図2に示した真空吸着による基板載置装置の例と同様にラウンド加工されている。
【実施例】
【0024】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(試験例1〜4)炭化ケイ素粉末に炭化ホウ素0.4質量%、カーボン4質量%を添加した原料粉末を用い、4個の焼結体(φ210×10mm)を得た。アルキメデス法により算出した各焼結体の相対密度は、99%、気孔率は0.5%であった。この焼結体について円筒および平面研削を行い、φ200×8mmに加工し、中心に真空吸着のための直径1mmの貫通穴を形成した。載置面側に、図4に示すような、直径Dが0.5mm、間隔Pが2mm、千鳥60°のピンパターン、およびPCD198-200のリングパターンのマスクを貼り、ブラスト加工により高さ50μmのピン状突起およびリング状突起を形成した。これらの突起のラウンド加工は、化学繊維製の研磨盤を用いて加工した。この基板載置装置を洗浄した後、クラス100のクリーンルーム内で8インチウエハ吸着試験を行い、レーザー散乱方式の異物検査装置によりウエハの載置した面(ウエハ裏面)についてパーティクルサイズ0.2〜1.0μmのパーティクル測定を実施した。真空引きは基板載置装置の中心に形成した吸気穴から行い、ウエハを設置し-0.1MPaで1分間保持した。
【0025】
(試験例5〜8)窒化アルミニウム粉末に酸化イットリウムを3質量%添加した原料粉末を用い、モリブデン製の双極型電極を埋設し焼成することで、φ210×10mmの4個の焼結体を得た。各焼結体の相対密度は99%、気孔率は0.5%であった。次にこの焼結体を円筒および平面研削を用い、絶縁層厚さが1mmに、外形をφ200×8mmに加工した。この絶縁層に上記試験例と同様に、直径Dが0.5mm、間隔Pが2mm、千鳥60°のピンパターンのマスクを貼り、ブラスト加工により高さ50μmのピン状突起を形成した。ピン状突起のラウンド加工は、化学繊維製の研磨盤を用いて加工した。この基板載置装置を洗浄した後、クラス100クリーンルーム内で、500℃まで加熱し、双極型電極に電圧を印加して8インチウエハを吸着させ、レーザー散乱方式の異物検査装置によりウエハの載置した面(ウエハ裏面)について0.2〜1.0μmサイズのパーティクル測定を実施した。
【0026】
突起先端面における縁角部のラウンド形状の曲率半径は、ダイヤモンド針を用いた触針式の表面粗さ計で得られた突起の断面曲線から計測した。また、焼結体の平均粒径は、一部を切断研磨した面のSEM観察像からインターセプト法により算出した。真空吸着装置による試験例1〜4の結果を表1に、静電吸着装置による試験例5〜8の結果を表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
真空吸着による基板載置装置の試験例である表1において本発明の範囲内である試験例3および4では、ラウンド形状がセラミックスの平均粒径の2.0倍以上であるので、パーティクル数がそれぞれ900、800と少なかった。一方、本発明の範囲外である試験例1および2では、パーティクル数が3600、2200と著しく増加した。
【0030】
静電吸着による基板載置装置の試験例である表2において本発明の範囲内である試験例7および8では、ラウンド形状がセラミックスの平均粒径の2.0倍以上であるので、パーティクル数がそれぞれ800、500と少なかった。一方、本発明の範囲外である試験例5および6では、パーティクル数が5900、3300と著しく増加した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の真空吸着による基板載置装置の概略構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の突起先端面の縁角部を示す拡大断面図である。
【図3】本発明の静電吸着による基板載置装置の概略構成を示す模式断面図である。
【図4】ピン状突起の配置例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1;真空吸着による基板載置装置
2;ピン状突起
2a;突起先端面
R;縁角部のラウンド形状
r;曲率半径
3、4;リング状突起
5;リフトピン貫通穴
6;吸気穴
11;静電吸着による基板載置装置
12;ピン状突起
13a、13b;双極型電極
14a;セラミックス絶縁層
14b;セラミックス基台
15;電源

W;基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突起先端面に基板を載置する基板載置装置であって、
前記突起先端面の縁角部がラウンド形状であることを特徴とする基板載置装置
【請求項2】
前記突起先端面はセラミックスからなり、前記ラウンド形状の曲率半径が、前記セラミックスの平均粒径の2.0倍以上であることを特徴とする請求項1記載の基板載置装置
【請求項3】
前記セラミックスは、相対密度が98%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の基板載置装置
【請求項4】
前記セラミックスの気孔率は0.5%以下であることを特徴とする請求項1〜3記載の基板載置装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−85129(P2008−85129A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264267(P2006−264267)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】