説明

基準周波数発生装置

【課題】本発明は、周波数偏差の最大値が制約条件を超えない限りにおいて整定時間を短くでき、且つオーバーシュートが起こらないようにVCOを定量的に制御することのできる基準周波数発生装置を提供することを目的とする。
【解決手段】前記課題を解決するために本発明における基準周波数発生装置は、追従誤差eを目標値としてI−P制御部により操作量uを決定し、該操作量uを電圧制御型発振器の応答特性に寄与する1次遅れフィルタを介して前記電圧制御型発振器に操作量u’として出力するとともに、二項係数標準形をモデルとした部分的モデルマッチング法により前記I−P制御部および前記1次遅れフィルタにおける伝達関数を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上デジタル放送の送信所や移動体通信の基地局等に設けられ、GNSS衛星から送信された測位信号に基づいて測位1PPSを生成し、この測位1PPSに同期した基準1PPSおよび基準周波数信号を地上デジタル放送の送信所や移動体通信の基地局等に供給する基準周波数発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般に普及している地上デジタル放送や移動体通信では、通信データの多重化技術が用いられており、例えば、時分割多重接続(TDMA)や周波数分割多重接続(FDMA)が存在する。このような多重化されたシステムにおいて、送信タイミングや周波数を同期するために、全てのシステムに共通な1秒間隔のタイミング信号(基準1PPSと称する)や10MHzの基準周波数が必要となる。そこで、基準周波数発生装置は地上デジタル放送の送信所や移動体通信の基地局等に基準1PPSや基準周波数信号を安定して供給することが求められる。このため、基準周波数発生装置は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星が送信する測位信号から得られる精度の高い時刻情報を参照し、そのGNSS時刻の1秒タイミング(測位1PPSと称する)に同期した基準1PPSおよび基準周波数信号が出力されるように制御される。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の基準周波数発生装置は、具備する電圧制御型発振器(VCOと称する)が出力した基準1PPSのタイミングと測位信号から取得した測位1PPSのタイミングの時間間隔を測定し、その時間間隔の変化量が等しくなるように、PI制御を行う。このようにして、基準1PPSと測位1PPSとを同期する。
【0004】
ここで、地上デジタル放送の送信所や移動体通信の基地局の増加に伴い、基準周波数発生装置は様々な場所で利用されるようになり、一時的に測位信号を受信できないことも珍しいことではなくなってきた。上述のように、基準周波数発生装置は測位信号から生成した測位1PPSを参照することにより、正確な送信タイミングや周波数信号を安定して出力することができる。したがって、一時的にせよ測位信号を受信できなくなれば、つまり測位1PPSが参照できなくなれば、その間VCOが出力する基準1PPSの誤差は徐々に大きくなってしまう。
【0005】
測位信号の受信を再開しはじめると、受信中断で生じた誤差を補正すべくVCOは制御されるが、従来からの基準周波数発生装置で用いられているVCOの制御方式では、図8に示すような応答を経て定常状態に達することになる。図8(a)は、VCOが出力する基準1PPSの偏差の時間変化を示し、横軸は測位信号の受信再開時からの経過時間を、縦軸はVCOが出力する基準1PPSの偏差を表す。図8(b)は、VCOが出力する周波数偏差の時間変化を示し、横軸は測位信号の受信再開時からの経過時間を、縦軸はVCOが出力する周波数信号の偏差を表す。なお、図8(a)および(b)中のXは周波数偏差の最大値を、Yは整定時間を、Zは基準1PPS偏差のオーバーシュートを表す。また、基準1PPS偏差の定常値は測位1PPSと同期が取れていることを、周波数偏差の定常値は所望の基準周波数を意味する。
【特許文献1】特開平8−146166号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、基準周波数発生装置の同期制御においては、できるだけ早期に正確な基準1PPSを出力するために、図8における整定時間Yは可能な限り短いことが求められる。この整定時間Yは、周波数偏差を大きくすることで短くすることができるが、周波数偏差は放送法や各々の上位システムの仕様により、最大値Xの許容値が制約条件として設けられている。さらに、周波数偏差を大きくすることで、オーバーシュートZが起こってしまう。このオーバーシュートZがあると、基準1PPSと測位1PPSの同期が取れた状態から再び同期が外れてしまうこととなり、同期がとれた状態であることを検知することを困難にしてしまう。逆に、オーバーシュートZが発生しないように周波数偏差を必要以上に小さくしようとすると、整定時間Yが長くなってしまう。
【0007】
つまり、基準周波数発生装置は、周波数偏差の最大値Xが制約条件を超えない限りにおいて整定時間Yを短くし、且つオーバーシュートZが起こらないようにすることが求められる。
【0008】
しかしながら、従来のような基準周波数発生装置では、VCOを試行錯誤に制御するため、周波数偏差の最大値が制約条件を超えることなく整定時間をできる限り短くでき、且つオーバーシュートが起こらないよう定量的に制御することができなかった。例えば、測位信号の受信再開時における追従誤差の大きさは測位信号の受信中断時間等により異なるが、この任意の大きさの追従誤差に対して自動的に定量的な制御をすることができなかった。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、周波数偏差の最大値が制約条件を超えることなく、整定時間をできる限り短くでき、且つオーバーシュートが起こらないようにVCOを定量的に制御することのできる基準周波数発生装置を提供することを目的とする。さらに、VCOの制御における操作量を簡易な方法で算出することのできる基準周波数発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本発明における基準周波数発生装置は、測位信号に基づく測位時刻信号に同期した基準時刻信号または基準周波数信号を出力し、前記測位信号に基づいて前記測位時刻信号を出力する受信機と、前記測位時刻信号と前記基準時刻信号を比較し追従誤差を出力する比較器と、前記追従誤差に基づいて操作量を出力する制御器と、前記操作量に応じて発振し周波数信号を出力する電圧制御型発振器と、前記周波数信号から前記基準時刻信号を検出する検出器とを備え、前記制御器は、I−P制御部および前記電圧制御型発振器の応答特性に寄与する1次遅れフィルタにより前記操作量を算出し、該I−P制御部および1次遅れフィルタの伝達関数を二項係数標準形をモデルとした部分的モデルマッチング法により算出することを特徴とする。
【0011】
二項係数標準形をモデルとした部分的モデルマッチング法により制御器の伝達関数を算出したことにより、基準1PPSと測位1PPSを同期するに際してオーバーシュートが発生しない基準周波数発生装置を提供することができる。また、1次遅れフィルタを設けたことにより電圧制御型発振器の機種に因らず、定量的な制御をすることができる。
【0012】
さらに、前述の基準周波数発生装置が備える制御器は、前記二項係数標準形モデルの固有値を前記電圧制御型発振器が出力する周波数偏差の許容値に基づいて決定することを特徴とする。また、前述の制御器は、前記二項係数標準形モデルの固有値を前記測位信号の受信再開時における前記追従誤差に基づいて決定することを特徴とする。
【0013】
このようにすることで、周波数偏差の最大値が制約条件を超えない限りにおいて整定時間を短くでき、且つオーバーシュートが起こらないように電圧制御型発振器を定量的に制御することができる。また、測位信号の受信再開時における追従誤差の大きさに応じて、上述のような制御を行うような制御器の伝達関数を都度算出することができる。つまり、制御器の伝達関数は測位信号の受信再開毎に決定され、電圧制御型発振器が出力する基準1PPS誤差の大きさに因らず常に上述のような制御を行うことができる。
【0014】
さらに、前述の基準周波数発生装置が備える制御器は、前記I−P制御部におけるP動作の入力量を該P動作の入力量の変化分を逐次加算することで算出する離散手段を有することを特徴とする。また、前述の離散手段は、前記P動作の入力量である前記基準時刻信号の変化分を前記追従誤差の変化分とみなして該P動作の入力量を算出することを特徴とする。
【0015】
このようにすることで、I−P制御を行う際にP動作の入力量に誤差が含まれる場合でも、誤差の小さな入力量、ひいては操作量を算出することができる。また、制御器の入力量を追従誤差のみとすることができ、誤差の小さな操作量を算出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による基準周波数発生装置は、周波数偏差の最大値が制約条件を超えない限りにおいて整定時間を短くでき、且つオーバーシュートが起こらないようにVCOを定量的に制御することができる。さらに、定量的に制御したことにより、整定時間など基準1PPSや周波数偏差の応答を簡易に予測することができる。
【0017】
また、VCOの制御における操作量の算出を簡易な方法で算出することができるため、計算量の増加等による負荷を大きくすることなく、また高価にすることなく制御できる。また、VCOの機種に因らずに上述の効果を有した制御系を設計することができるため、異機種に対してもソフトウェアを一本化することができ、開発期間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態1による基準周波数発生装置100の主要構成の一例を示す図である。図1に示すように、基準周波数発生装置100は、アンテナ10と、受信機20と、比較器30と、制御器40と、VCO50と、検出器60とを備える。なお、本実施の形態1による制御系において、制御対象はVCO50であり、受信機20から出力される値が目標値r、比較器30から出力される値が追従誤差e、制御器40から出力される値が操作量u’、VCO50を介して検出器60から出力される値が制御量yである。
【0019】
アンテナ10は、GNSS衛星から測位信号を受信する。受信機20は、アンテナ10で受信した受信信号から測位時刻信号を取得し比較器30に出力する。測位時刻信号は、1秒間隔のタイミングパルスから成る測位1PPS(Pulse Per Second)である。
【0020】
比較器30は、前回のサイクルの処理により検出器60から出力された基準1PPSと、今回のサイクルの処理により受信機20から出力された測位1PPSとを比較し、それらのタイミングの差(位相差)である追従誤差eを制御器40に出力する。
【0021】
制御器40は、比較器30から出力された追従誤差eを入力量として操作量uおよびu’を算出する。具体的に、制御器40はI−P制御部41によって操作量uを算出し、1次遅れフィルタ42を介した操作量u’をVCO50に出力する。I−P制御部41および1次遅れフィルタ42の各伝達関数は、3次の二項係数標準形をモデルとして部分的モデルマッチング法により算出される。なお、この算出方法の詳細は後述する。
【0022】
I−P制御部41はいわゆる比例先行型PI制御であり、通常のPI制御と異なり、検出器60から出力された制御量yがP動作の入力量yとして与えられるといった特徴がある。ここで、P動作の入力量yには、微小時間変動に対してほぼ一定とみなせるような誤差が含まれている。そこで、制御器40はP動作への入力量yを、離散手段を用いて入力量の変化分Δyを逐次加算することにより求める(インクリメント方式)。このようにすることで、上述のような誤差に影響されない入力量yを算出することができ、誤差の小さな操作量uを求めることができる。なお、この離散手段の詳細は後述する。
【0023】
また、入力信号に対するVCO50の応答特性はその種類に応じて決まっている。つまり、VCO50の時定数はその種類によって一意に固定される。しかしながら、制御対象の時定数が固定であれば、後述するように本発明で用いるモデルとのマッチングを行うことができない。そこで、I−P制御部41における操作量uに対して任意な時定数Tを与えることができ、制御対象であるVCO50の応答に寄与する一次遅れフィルタ42を制御器40に設ける。このようにすることで、制御対象であるVCO50の時定数に左右されることなく、モデルとのマッチングをすることができるようになる。なお、一次遅れフィルタ42の時定数の算出方法の詳細は後述する。
【0024】
VCO50は、制御器40から出力された操作量u’に基づいて発振し、10MHz等の基準周波数信号を地上デジタル放送の送信所や移動体通信の基地局等および検出器60に出力する。なお、本実施の形態1では、入力信号に対する応答速度が十分に速いVCO50を用いている。そのため、VCO50の時定数は無視することができる。
【0025】
検出器60は、VCO50から出力された基準周波数信号に基づいて基準時刻信号を検出し、この基準時刻信号を地上デジタル放送の送信所や移動体通信の基地局、および比較器30に出力する。特に、基準時刻信号は1秒間隔のタイミングパルスから成る基準1PPSである。
【0026】
以下、部分的モデルマッチング法によるI−P制御部41および一次遅れフィルタ42における伝達関数の算出方法について図面を用いて説明する。
【0027】
図2は、基準周波数発生装置100の制御処理を表すブロック線図である。図2中のrはこの制御系における目標値を表し、受信機20から出力される測位1PPSである。また、yは制御量を表し、VCO50から出力される基準周波数の偏差Δfを積分した関係にある基準1PPSである。eは比較器30により求められる追従誤差を表し、目標値rと制御量yの差、つまり測位1PPSのタイミングと基準1PPSのタイミングとの時間差である。u’は制御対象であるVCO50に一次遅れフィルタ42を介して出力される操作量であり、uはI−P制御部41により求められる操作量である。
【0028】
さらに、KpはI−P制御部41におけるP動作の伝達関数を、Ki/sはI−P制御部41におけるI動作の伝達関数を、1/(TS+1)は一次遅れフィルタ42の伝達関数を、1はVCO50の伝達関数を、1/Sは検出器60の伝達関数を示す。なお、本実施の形態1では、入力信号に対する応答速度が十分に速いVCO50を用いている。そのため、VCO50の時定数を無視し、VCO50の伝達関数を1に近似している。
【0029】
図2に示す制御系において、目標値rから制御量yの伝達関数は数1で与えられる。
【数1】

【0030】
次に、部分的モデルマッチング法における伝達関数のモデルとして、3次の二項係数標準形である数2を与える。
【数2】

【0031】
この数2のモデルは、図3で示すようにSTEP応答においてオーバーシュートが発生せず、さらに固有値ωの値が大きくなるにつれて整定時間が短くなり、且つ周波数偏差の最大値が大きくなるような特徴を有している。なお、数2のSTEP応答は追従誤差eの応答を意味し、図3(a)は制御開始時の追従誤差Eを1秒とした時のSTEP応答を示す。また、数2に示すモデルのINPULSE応答は周波数偏差Δfを意味し、図3(b)は制御開始時の追従誤差Eを1秒とした時のINPULSE応答を示す。
【0032】
数1と数2を比較することにより、定数項から数3の関係式を、1次の項から数4の関係式を、2次の項から数5の関係式を導くことができる。
【数3】

【数4】

【数5】

【0033】
ここで、1次遅れフィルタ42を設けずに制御対象の伝達関数がVCO50の応答特性のみよって決定されると、数5に示す等式が成り立たず、2次の項の比較におけるマッチングが行えない。つまり、モデルを用いた定量的な制御を行うことができない。しかしながら、1次遅れフィルタ42を用いて制御対象の時定数を所望の値とすることで、全ての項において数2のモデルとマッチングすることができる。
【0034】
また、基準周波数発生装置100の制御系の構成において、VCO50が出力する基準1PPSは周波数偏差Δfを積分した関係にある。つまり、STEP入力時のVCO50の周波数偏差Δfの応答は、数2に示すモデルのINPULSE応答に等しいという特徴がある。したがって、数1のモデルから追従誤差eの応答とともに周波数偏差Δfの応答を数6のように求めることができる。
【数6】

【0035】
そして、数6より周波数偏差の最大値fPEAKに関する関係式数7を求めることができ、fPEAKに周波数偏差の制約条件(許容値)と、制御開始時の追従誤差Eが入力されたとき、固有値ωは一意に決定される。このように固有値ωが決定されれば、数3から数5に示す関係式より各伝達関数を決定することができる。つまり、任意な周波数偏差の許容値や制御開始時の追従誤差Eに応じた各伝達関数を、制御開始毎に決定することができる。
【数7】

【0036】
次に、離散手段について説明する。I−P制御部41における伝達関数を数8に示す。
【数8】

ここで、入力量yには、微小時間変動に対してほぼ一定とみなせるような誤差が含まれている。そこで数9に示すように、入力量の変化分Δyを逐次加算することにより入力量yを求める。入力量の変化分Δyには誤差が含まれていないとみなせるため、誤差の小さな入力量yを求めることができる。そして、このような逐次求めた入力量yを用いることで、数8より誤差の小さな操作量uを求めることができる。
【数9】

【0037】
また、数8を離散化したものの差分を数10に示す。
【数10】

上述の入力量yを逐次求めてから操作量uを求める代わりに、数10に示す操作量の変化分Δuを逐次加算することにより操作量uを求めてもよい。このようにしても、誤差の小さな操作量uを求めることができる。
【0038】
他に、基準1PPSの変化分Δyは、数11に示すように、追従誤差の変化分Δeの正負を反転したものと近似することができる。なお、数11における展開において、測位1PPSは測位信号から得られる精度の高い時刻情報を参照し生成しているため、その測位1PPSの変化分Δrは0とみなしている。
【数11】

【0039】
数10および数11の関係により、基準1PPSの変化分Δyを用いることなく追従誤差e及びその変化分Δeから、操作量の変化分Δuを求めることもできる。このようにすることで、制御器40に入力される値を追従誤差eのみとすることができ、誤差の小さな操作量uを算出することもできる。
【0040】
基準1PPSの変化分Δyを追従誤差の変化分Δeとみなして制御を行った基準周波数発生器100における基準1PPSおよび基準周波数応答のシミュレーション結果を図4に示し、実機検証結果を図5に示す。図4および図5において、横軸は測位信号の受信再開時からの経過時間を、縦軸左はVCOが出力する基準1PPSの偏差を、縦軸右はVCOが出力する基準周波数の偏差を表す。また、基準1PPSの偏差における定常状態は基準1PPSと測位1PPSの同期が取れていることを意味し、基準周波数の偏差における定常状態はVCOが出力する周波数が10MHz等の所望の基準周波数であることを意味する。なお、GNSS衛星から送信された測位信号の受信中断で生じた周波数の誤差は、本制御の前処理にて修正されている。
【0041】
以上のようにして、I−P制御部41の伝達関数KiおよびKp/s、一次遅れフィルタの伝達関数1/(Ts+1)を簡易に求めることができる。さらに、図4および図5に示すようにVCO50の制御において周波数偏差の最大値が制約条件を超えない限りにおいて整定時間を短くでき、且つオーバーシュートが起こらないように定量的な制御することができる。
【0042】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2を図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態2では、入力信号に対するVCO51の応答速度が遅い場合を想定している。つまり、実施の形態1におけるVCO50のように時定数が無視できない場合について言及する。
【0043】
なお、VCOの時定数を無視することができるか否かの判断は、VCOの時定数または整定時間が基準周波数発生器の制御周期1秒の2倍未満か否かを一つの目安とすることができる。また、本実施の形態2による基準周波数発生装置200の構成は、VCOの応答特性のみが異なるのみで実施の形態1における基準周波数発生装置100と同様の構成であり、説明を省略する。
【0044】
基準周波数発生装置200に備えられたVCO51は、上述のように時定数を無視することができない。したがって、本実施の形態2では部分的モデルマッチング法で用いるモデルの次元が異なる。以下、部分的モデルマッチング法によるI−P制御部41および一次遅れフィルタ42の伝達関数の算出方法について図面を用いて説明する。
【0045】
図6は、基準周波数発生装置200の制御処理を表すブロック線図である。ここで、VCO51の時定数をTとし、伝達関数は1/(TS+1)である。
【0046】
目標値rから制御量yの伝達関数は、数12で与えられる。
【数12】

【0047】
次に、部分的モデルマッチング法における伝達関数のモデルとして、4次の二項係数標準形である数13を与える。
【数13】

【0048】
数12と数13とを分母系列表現において比較することにより、1次の項から数14の関係式が、2次の項から数15の関係式が、3次の項から数16の関係式を導くことができる。なお、数14から数16の関係式から導き出される各伝達関数と、4次の項から導き出される関係式とは一致させることができない。しかしながら、部分的モデルマッチング法では4次等の高次の項はモデルとのマッチングに際して無視することができるといった特徴を持つ。したがって、数14から数16の関係式から各伝達関数を算出することができる。
【数14】

【数15】

【数16】

【0049】
ここで、1次遅れフィルタ42を設けずに制御対象の伝達関数がVCO51の応答特性のみよって決定されてしまうと、数16に示す等式が成り立たないため、分母系列表現における3次の項の比較においてマッチングが行えない。つまり、モデルを用いた定量的な制御を行うことができない。しかしながら、VCO51の時定数が無視できない場合であっても、1次遅れフィルタ42を用いて制御対象の時定数を所望の値とすることで、3次までの項において数13のモデルとマッチングすることができる。
【0050】
そして、数13より周波数偏差の最大値fPEAKに関する関係式数17を求めることができ、fPEAKに周波数偏差の制約条件(許容値)と、制御開始時の追従誤差Eが入力されたとき、固有値ωは一意に決定される。このように固有値ωが決定されれば、数14から数16に示す関係式より各伝達関数を決定することができる。つまり、任意な周波数偏差の許容値や制御開始時の追従誤差Eに応じた各伝達関数を、制御開始毎に決定することができる。
【数17】

【0051】
さらに、実施の形態1と同様の離散手段により、基準1PPSの変化分Δyを追従誤差の変化分Δeにて代用することにより、操作量uを逐次加算することで算出する。ここで、目標値rおよびP動作への入力量yの観測に精度の低いタイミングカウンタを用いた場合には、目標値rおよび入力量yに誤差を多分に含むことになる。しかしながら、追従誤差eは入力量yと目標値rの差分から得られるため、観測に際して生じた誤差は相殺されている。したがって、上述の離散手段によって制御器40への入力される値は追従誤差eのみとすることができるので、目標値rおよびP動作への入力量yの観測に精度の低いタイミングカウンタを用いた場合でも誤差の小さな操作量uを算出ことができる。
【0052】
このようにして制御を行った基準周波数発生器200の実機検証結果を図7に示す。図7において、横軸は測位信号の受信再開時からの経過時間を、縦軸左はVCOが出力する基準1PPSの偏差を、縦軸右はVCOが出力する基準周波数の偏差を表す。
【0053】
図7から、入力信号に対する応答速度が遅いようなVCO51の制御においても、周波数偏差の最大値が制約条件を超えない限りにおいて整定時間を短くでき、且つオーバーシュートが起こらないように定量的な制御ができていることがわかる。また、各伝達関数も簡易に求めることができ、計算量の増加等による負荷を大きくすることなく制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態1による基準周波数発生装置の主要構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1による基準周波数発生装置の制御に関するブロック線図である。
【図3】本発明の実施の形態1による二項係数標準形モデルの応答を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1による基準周波数発生装置の制御におけるシミュレーション結果を示すである。
【図5】本発明の実施の形態1による基準周波数発生装置の制御における実機検証結果を示すである。
【図6】本発明の実施の形態2による基準周波数発生装置の制御に関するブロック線図である。
【図7】本発明の実施の形態2による基準周波数発生装置の制御における実機検証結果を示すである。
【図8】従来の基準周波数発生装置の制御における実機検証結果を示すである。
【符号の説明】
【0055】
10 アンテナ
20 受信機
30 比較器
41 I−P制御部
42 一次遅れフィルタ
50、51 VCO
60 検出器
100、200 基準周波数発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位信号に基づく測位時刻信号に同期した基準時刻信号または基準周波数信号を出力する基準周波数発生装置において、
前記測位信号に基づいて前記測位時刻信号を出力する受信機と、
前記測位時刻信号と前記基準時刻信号を比較し追従誤差を出力する比較器と、
前記追従誤差に基づいて操作量を出力する制御器と、
前記操作量に応じて発振し周波数信号を出力する電圧制御型発振器と、
前記周波数信号から前記基準時刻信号を検出する検出器とを備え、
前記制御器は、I−P制御部および前記電圧制御型発振器の応答特性に寄与する1次遅れフィルタにより前記操作量を算出し、該I−P制御部および1次遅れフィルタの伝達関数を二項係数標準形をモデルとした部分的モデルマッチング法により算出することを特徴とした基準周波数発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基準周波数発生装置において、
前記制御器は、前記二項係数標準形モデルの固有値を前記電圧制御型発振器が出力する周波数偏差の許容値に基づいて決定することを特徴とした基準周波数発生装置。
【請求項3】
請求項1または2の何れかに記載の基準周波数発生装置において、
前記制御器は、前記二項係数標準形モデルの固有値を前記測位信号の受信再開時における前記追従誤差に基づいて決定することを特徴とした基準周波数発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の基準周波数発生装置において、
前記制御器は、前記I−P制御部におけるP動作の入力量を該P動作の入力量の変化分を逐次加算することで算出する離散手段を有することを特徴とした基準周波数発生装置。
【請求項5】
請求項4に記載の基準周波数発生装置において、
前記離散手段は、前記P動作の入力量である前記基準時刻信号の変化分を前記追従誤差の変化分とみなして該P動作の入力量を算出することを特徴とした基準周波数発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−17408(P2009−17408A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178933(P2007−178933)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】