説明

塗工ペースト

【課題】 本発明は、無機粉末や導電粉末の分散性及び塗工性に優れた塗工ペーストを提供する。
【解決手段】 本発明の塗工ペーストは、積層型電子部品に用いられる塗工ペーストであって、平均粒径が0.01〜1μmの有機微粒子を0.01〜20重量%含有していることを特徴とするので、導電粉末や無機粉末の分散性及び塗工性に優れており、優れた精度で印刷することができ、更に、塗工ペーストに導電粉末を含有させることによって導電ペーストとして用いることができ、この導電ペーストは焼成後の脱脂性に優れていることから、優れた電気特性を有する塗膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサなどの積層コンデンサ、多層回路基板、積層コイルなどの積層型電子部品の製造に用いられる塗工ペーストであって、塗工性に優れていると共に、導電粉末や無機粉末の分散性に優れた塗工ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末などの無機粉末をバインダー樹脂中に分散させてなるペーストをドクターブレード法などを用いてポリエチレンテレフタレートなどからなるキャリアフィルム上に塗布、乾燥させた上で焼成することによって、精密な導電膜、セラミック膜、ガラス膜を製造することが行われている。そして、積層セラミックコンデンサなどの積層型の電子部品は、一般的に下記の要領で作製される。
【0003】
先ず、ポリビニルブチラールや(メタ)アクリル酸エステル系樹脂などのバインダー樹脂、セラミック原料粉末、可塑剤及び分散剤などを均一に混合することによって得られたセラミックスラリーを、ポリエチレンテレフタレートフィルムやステンレス板などの支持板の離型処理面上に流延成形した後、支持板から剥離することによってセラミックグリーンシートを製造する。
【0004】
次に、複数枚のセラミックグリーンシートの夫々に、パラジウムやニッケルなどの導電粉末を分散させてなる導電ペーストをスクリーン印刷などによって塗布した上で、複数枚のセラミックグリーンシートを互いに重ね合わせて加熱圧着して積層体を製造する。そして、この積層体に脱脂処理を施した上で焼成してセラミック焼成物を製造し、このセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結することによって積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0005】
積層セラミックコンデンサの製造工程において、上述のように、導電ペーストが塗布されたセラミックグリーンシートを積層しているが、この際、セラミックグリーンシート上には、導電ペーストを塗布した部分(導電ペースト層)と、導電ペーストを塗布していない部分との間に段差が生じていることから、セラミックグリーンシートを積層する際に上記段差が原因となって、セラミックグリーンシートと導電ペースト層とが層間剥離する、所謂、デラミネーションを生じ、或いは、積層セラミックコンデンサの端部において誘電層や導電層が変形するといった問題点を生じていた。特に、近年では、積層セラミックコンデンサに高容量化が求められ、更なる多層化、薄膜化が求められていることから、導電ペーストの塗布によって生じるセラミックグリーンシート表面の段差のおよぼす影響が顕著に表れる虞れがあった。
【0006】
そこで、特許文献1には、セラミックグリーンシート上における導電ペーストが塗布されていない部分にセラミックペーストをスクリーン印刷などを用いて塗布することによってセラミックグリーンシート上の段差を解消する方法が開示されている。
【0007】
そして、導電ペーストやセラミックペーストに用いられるバインダー樹脂としては、塗工性に優れており、スクリーン印刷などの塗工方法に好適に適用して精密な形状の塗膜を容易に形成することができることから、エチルセルロース樹脂が多く用いられている。
【0008】
ところが、エチルセルロース樹脂は、ブチラール樹脂などを原料とするセラミックグリーンシートとの接着性に劣ることから、デラミネーションの問題を充分に改善することができなかった。更に、エチルセルロース樹脂は、熱分解性に劣ることから脱脂処理を施しても、上記積層体の焼成後にカーボン成分が残留し、得られる積層セラミックコンデンサの電気特性が低下するといった問題点を生じていた。
【0009】
そこで、ポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシートとの接着性に優れており、デラミネーションの発生を抑制することができることから、ポリビニルアセタール樹脂などのポリビニル系樹脂をバインダー樹脂として用いて、導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストを作製することが検討されている。
【0010】
しかしながら、ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂として用いた場合、塗工ペーストの粘度が充分に高くならず、塗工ペーストをスクリーン印刷する際に、滲みが発生して目的とする精度で印刷することができなかったり、或いは、タレが発生して必要な厚みが確保できないといった問題を生じた。
【0011】
このような問題に対して、ポリビニルアセタール樹脂の添加量を増加させることによって塗工ペーストの粘度を向上させことが検討されているものの、塗工ペースト中の樹脂濃度が高くなり過ぎると、焼成工程での脱脂性が低下し、積層セラミックコンデンサの電気特性が低下する問題があった。
【0012】
又、高重合度のポリビニルアセタール樹脂を用いることによって塗工ペーストの粘度を向上させることが検討されており、このような高重合度のポリビニルアセタール樹脂を得る方法としては、例えば、高重合度のポリビニルアルコールを原料とする方法や、ポリビニルアセタール樹脂を分子間で架橋する方法などが検討されている。
【0013】
しかしながら、高重合度のポリビニルアルコールを原料とする方法は、高重合度のポリビニルアルコールの製造が困難であったり、或いは、アセタール化する際のポリビニルアルコールの粘度が高くなり過ぎるため、アルデヒドや触媒が分散されにくくなり、アセタール化が困難になるといった問題があった。
【0014】
又、ポリビニルアセタール樹脂を分子間で架橋する方法は、ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するため、使用可能な有機溶剤が限定されたり、或いは、ポリビニルアセタール樹脂を有機溶媒に高温で長時間をかけて溶解することが必要になるため、生産効率が低下するという問題があった。更に、この方法では、例えば、導電ペーストの製造において、混練圧力が高過ぎると架橋部分や主鎖部分が切断されてポリビニルアセタール樹脂の分子量が低下するため、塗工ペーストとして所望の粘度を得ることができないという問題もあった。
【0015】
又、小粒径化した無機粉末や導電粉末をポリビニルアセタール樹脂中に高分散させるためには、高圧力で混練する必要があり、ポリビニルアセタール樹脂の粘度を単に上げただけでは、無機粉末や導電粉末の分散性の低下を招くといった問題を生じていた。
【0016】
【特許文献1】特公平3−35762号公報
【特許文献2】特公平4−49766号公報
【特許文献3】特開2002−280250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、無機粉末や導電粉末の分散性及び塗工性に優れた塗工ペーストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の塗工ペーストは、積層型電子部品に用いられる塗工ペーストであって、平均粒径が0.01〜1μmの有機微粒子を0.01〜20重量%含有していることを特徴とする。
【0019】
即ち、本発明の塗工ペーストは、上述のように、平均粒径が0.01〜1μmの有機微粒子を0.01〜20重量%含有させることによって、塗工ペースト中の溶液と有機微粒子の表面との間で生じる摩擦抵抗によって塗工ペーストの粘度を調整しており、よって、バインダー樹脂の含有量を増加させたり、バインダー樹脂の重合度を必要以上に大きくしたり、或いは、バインダー樹脂を架橋させたりする必要がなく、無機粉末や導電粉末を良好に分散させることができると共に優れた塗工性を有している。
【0020】
有機微粒子の平均粒径は、小さいと、有機微粒子自体を塗工ペースト内において分散させることが困難となる一方、大きいと、塗工ペースト内の溶液と、有機微粒子の表面との総接触面積が小さくなって、塗工ペーストの粘度調整が不充分となるので、0.01〜1μmに限定され、0.01〜0.5μmが好ましい。
【0021】
ここで、有機微粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱を利用した粒度分析計を用いて測定することができ、具体的には、有機微粒子をイオン交換水又は純水中に乳化分散させてなるエマルジョンを用意し、このエマルジョン中の有機微粒子の粒子径をレーザー回折散乱を利用した粒度分析計を用いて体積平均粒径を測定し、この体積平均粒径を有機微粒子の平均粒径とする。なお、粒度分析計は、例えば、日機装社から商品名「マイクロトラックUPA粒度分析計」で市販されている。
【0022】
そして、塗工ペースト中における有機微粒子の含有量は、少ないと、塗工ペーストの粘度調整が不充分となる一方、多いと、積層型電子部品の製造工程中の焼成工程において脱脂性が低下し、或いは、脱脂後にボイドなどが残り易くなって、積層型電子部品の電気特性が低下するので、0.01〜20重量%に限定され、0.1〜10重量%が好ましい。
【0023】
有機微粒子の製造方法としては、特に限定されず、例えば、水を主成分とする分散媒中にて、分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを20重量%以上含有し、且つ、水に対して難溶解性であるエチレン性不飽和モノマーを重合させる方法が挙げられる。なお、エチレン性不飽和基とは、炭素−炭素二重結合構造を含む基を意味する。
【0024】
重合時に分散媒として用いられる水は、イオン交換水又は純水であることが好ましい。又、水を主成分とする分散媒とは、水単独、又は、水と界面活性剤や乳化剤若しくはポリビニルアルコールのような水溶性高分子系保護コロイドなどとの混合水溶液を意味する。
【0025】
上記分散媒の使用量は、特に限定されるものではないが、後述するエチレン性不飽和モノマー100重量部に対して、分散媒100重量部以上であることが好ましく、より好ましくは200重量部〜10000重量部であり、さらに好ましくは300重量部〜2000重量部である。
【0026】
これは、エチレン性不飽和モノマー100重量部に対する分散媒の使用量が100重量部未満であると、得られる有機微粒子エマルジョン中の有機微粒子が不規則に凝集し、或いは、互いに融着を起こして、均一で狭い粒径分布と小さな平均粒径とを有する有機微粒子を得ることができないことがあるからである。
【0027】
上記界面活性剤や乳化剤又は保護コロイドなどは、本発明の課題達成を阻害しない限り、反応性であっても非反応性であってもよく、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0028】
反応性界面活性剤としては、例えば、ラジカル重合性のプロペニル基が導入されたアニオン系反応性界面活性剤やノニオン系反応性界面活性剤などが挙げられる。又、非反応性界面活性剤としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩や直鎖アルキルスルホン酸塩などが挙げられる。これらの反応性界面活性剤や非反応性界面活性剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0029】
分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーは、架橋性モノマーとして機能し、有機微粒子の架橋度を高めて、有機微粒子の機械的強度、耐熱性、耐溶剤性等の向上に寄与する。
【0030】
分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0031】
上記エチレン性不飽和モノマーには、分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーが20重量%以上含有されていることが好ましく、25重量%以上含有されていることがより好ましく、30重量%以上含有されていることが特に好ましい。
【0032】
これは、エチレン性不飽和モノマー中における、分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの含有量が20重量%未満であると、所望の粒径分布や平均粒径を有する有機微粒子は得られるものの、有機微粒子の架橋度が十分に高くならないため、有機微粒子の機械的強度、耐熱性、耐溶剤性などが不充分となる虞れがあるからである。
【0033】
分子内に2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと併用されてエチレン性不飽和モノマーを構成してもよい、分子内にエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、スチレン系モノマー、アクリル系モノマーなどが挙げられる。これらの分子内にエチレン性不飽和基を有するモノマーは、水に対して難溶解性である限り、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0034】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2,4,5−トリメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレンなどが挙げられるが、なかでもスチレンが好適に用いられる。これらのスチレン系単量体は、単独で用いられて二種以上が併用されてもよい。
【0035】
又、アクリル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートや、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、アクリルアミドなどが挙げられ、n−ブチルアクリレートが好ましい。なお、アクリル系モノマーは、単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。
【0036】
上記エチレン性不飽和モノマーは水に対して難溶解性であることが必要である。より具体的には、エチレン性不飽和モノマーの水に対する25℃での溶解度は20重量%以下であることが好ましく、5重量%以下がより好ましく、1重量%以下が特に好ましい。
【0037】
これは、エチレン性不飽和モノマーの水に対する25℃での溶解度が20重量%を超えると、重合時に粒子が不規則に凝集し、或いは、膨潤して、均一で狭い粒径分布と小さな平均粒径とを有する有機微粒子が得られなくなることがあるからである。
【0038】
本発明の有機微粒子の製造に用いられる重合開始剤としては、例えば、過酸化水素水や過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩などが挙げられ、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0039】
本発明の有機微粒子の重合方法としては、例えば、乳化重合法やソープフリー重合法などが挙げられ、乳化重合法が好ましい。具体的には、例えば、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管及び還流冷却器を備えたセパラブルフラスコのような反応容器中に、水を主成分とする分散媒の所定量を仕込み、例えば窒素ガスのような不活性ガス気流下、一定の攪拌状態のもとで所定の温度に昇温した後、重合開始剤の所定量を添加する。次いで、上記エチレン性不飽和モノマーの所定量を滴下ロートにより所定の滴下速度で重合反応系内に滴下した後、重合反応系の温度を所定の温度に維持し、所定時間の乳化重合反応又はソープフリー重合反応を行うことにより、所望の有機微粒子エマルジョンを作製することができる。
【0040】
重合反応の温度は、特に限定されるものではないが、40〜90℃が好ましく、50〜80℃が好ましい。また、重合反応の時間は、特に限定されるものではないが、2〜30時間が好ましく、4〜12時間がより好ましい。
【0041】
そして、上述のようにして得られた有機微粒子エマルジョンを乾燥させることによって有機微粒子を得ることができる。有機微粒子エマルジョンの乾燥方法としては、有機微粒子が実質的に球形を維持できる方法であれば如何なる乾燥方法であってもよく、例えば、噴霧乾燥機を用いる噴霧乾燥法(スプレードライ法)、凍結乾燥機を用いる凍結乾燥法(フリーズドライ法)、熱風乾燥法、真空乾燥法などが挙げられるが、生産性に優れていることから、噴霧乾燥法(スプレードライ法)や凍結乾燥法(フリーズドライ法)が好ましい。上記噴霧乾燥法(スプレードライ法)に用いる噴霧乾燥機の具体例としては、四流体ノズルを有する噴霧乾燥機が好ましく、例えば、藤崎電機社製から商品名「MDL−050」や「MDP−050」などで市販されている噴霧乾燥機が挙げられる。
【0042】
なお、上記有機微粒子としては、積水化学工業株式会社から商品名「Advancell」にて市販されているものが好適に用いることができる。
【0043】
又、塗工ペーストに含有されるバインダー樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチルセルロース、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられ、セラミックグリーンシートとの接着性に優れていることから、ポリビニルアセタール樹脂が好ましい。なお、バインダー樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0044】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアセタール化することによって得られるが、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、低いと、ポリビニルアセタール樹脂が水溶性となり、溶剤として有機溶剤を用いた場合に溶剤に溶解せず、塗工ペーストを得ることができない一方、高いと、ポリビニルアセタール樹脂中の残存水酸基が少なくなり、ポリビニルアセタール樹脂の柔軟性や強靭性が低下し、塗工ペーストを用いて得られた塗膜の強度が低下することがあるので、40〜80モル%が好ましい。
【0045】
なお、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度とは、ポリビニルアルコール又は後述する変性ポリビニルアルコールの水酸基数のうち、アセタール化された水酸基数の割合をいい、アセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を算出すればよい。
【0046】
具体的に、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール結合中のメチン基に由来するピーク面積Sa及び変性ポリビニルアセタール樹脂の水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積Sbより下記式(1)を用いて算出することができる。
アセタール化度(モル%)=100×Sa/(Sa+Sb) ・・・式(1)
【0047】
ポリビニルアルコールの重合度は、低いと、ポリビニルアセタール樹脂の柔軟性や強靭性が低下し、塗工ペーストを用いて得られた塗膜の強度が低下することがある一方、高いと、ポリビニルアルコールの水溶性が低下し、或いは、ポリビニルアルコールの粘度が高くなり過ぎて、ポリビニルアルコールのアセタール化が困難となることがあるので、300〜3000が好ましい。
【0048】
又、ポリビニルアルコールは、エチレン性不飽和モノマーを共重合成分として含有してなる変性ポリビニルアルコールであることが好ましい。このようなエチレン性不飽和モノマー成分としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。又、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物の存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系モノマーと、上述のエチレン性不飽和モノマーとを共重合し、これをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールであってもよい。
【0049】
上記変性ポリビニルアルコール中におけるエチレン性不飽和モノマー成分の含有量は、少ないと、塗工ペースト中の無機粉末や導電粉末の分散性が低下し、或いは、塗工ペーストの印刷性が低下することがある一方、多いと、変性ポリビニルアルコールの水溶性が低下し、アセタール化が困難となり、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤への溶解性が低下し、有機溶剤を用いた塗工ペーストの作製に支障を生じ、或いは、塗工ペーストの経時粘度安定性が低下することがあるので、1〜20モル%が好ましい。
【0050】
又、上記変性ポリビニルアルコールのケン化度は、低いと、変性ポリビニルアルコールの水溶性が不十分となって、変性ポリビニルアルコールをアセタール化するのが困難になったり、水を溶剤として用いた場合、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤への溶解性が低下して、導電ペーストの調製に支障が生じたり、或いは、導電ペーストの経時粘度安定性が悪化したりすることがあるので、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0051】
なお、上記変性ポリビニルアルコールのケン化度とは、加水分解に用いた、酢酸ビニルとエチレン性不飽和モノマーとの共重合体の全エステル基数に対する変性ポリビニルアルコールの水酸基数の割合(モル%)をいう。
【0052】
更に、変性ポリビニルアルコールは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよく、又、変性ポリビニルアルコールと未変性のポリビニルアルコールとを併用してもよいが、ポリビニルアルコール全体におけるエチレン性不飽和モノマー成分の含有量が1〜20モル%となるように調整することが好ましい。
【0053】
ポリビニルアルコールのアセタール化に用いられるアルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドなどが挙げられ、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドの何れか一方或いは双方を用いることが好ましい。なお、アルデヒドは単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0054】
ポリビニルアセタール樹脂の製造方法としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールを水に溶解し、得られた水溶液に塩酸などの酸触媒の存在下にてアルデヒドを添加してポリビニルアルコールをアセタール化した後、水酸化ナトリウムなどのアルカリで中和して水洗、乾燥をすることによってポリビニルアセタール樹脂を製造する方法が挙げられる。
【0055】
更に、塗工ペーストに用いられる溶剤としては、特に限定されず、一般的に塗工ペーストに用いられる有機溶剤を使用することができる。このような溶剤としては、炭素数が6〜18の芳香族炭化水素類、炭素数が5〜24の脂肪族炭化水素類、炭素数が1〜20で且つ1以上の水酸基を有するアルコール類、炭素数が1〜20で且つ1以上のカルボン酸基を有する酸類、炭素数が1〜18で且つ1以上のエステル結合を有するエステル類、炭素数が1〜18で且つ1以上のエーテル結合を有するエーテル類、炭素数が1〜18で且つ1以上のケトン結合を有するケトン類が好ましい。なお、溶剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0056】
具体的には、溶剤としては、例えば、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネオールアセテート、テルピネオールアセテートなどのテルピネオール類及びその誘導体;トルエン、キシレン、イソノナン、イソオクタン、ミネラルスピリットなどの脂肪族又は芳香族炭化水素と、上記テルピネオール類及びその誘導体との混合溶剤;エタノール、ブタノール、イソオクチルアルコールなどのアルコール類と、上記脂肪族又は芳香族炭化水素との混合溶剤;ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸ブチル、酢酸オクチル、酢酸2−エチルヘキシル、エチレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが好ましい。
【0057】
そして、塗工ペースト中における溶剤の含有量は、少ないと、塗工ペーストの粘度が大きくなって塗工性が低下することがある一方、多いと、塗工ペーストの粘度が低くなり過ぎて塗工後にたれやすくなることがあるので、20〜80重量%が好ましい。
【0058】
本発明の塗工ペーストは、導電粉末を含有させることによって導電ペーストとして、無機粉末、特にセラミック粉末を含有させることによってセラミックペーストとして用いることができ、種々の電子機器に使用される多層回路基板、積層コイル、積層コンデンサなどの積層型電子部品及びこれらの積層型電子部品を含む積層部品の電極形成材料の製造に好適に用いることができる。
【0059】
上記導電粉末としては、導電性を示すものであれば、特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、これらの合金などからなる粉末が挙げられる。なお、導電粉末は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0060】
又、上記セラミックペーストは、接着性に優れており、デラミネーションを防止することができ、積層セラミックコンデンサの製造に好適に用いることができる。上記セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどが挙げられる。
【0061】
そして、塗工ペースト中における導電粉末又は無機粉末の含有量は、多くても少なくても、塗工ペーストの粘度が塗工に適した粘度とならないので、30〜80重量%が好ましい。
【0062】
なお、本発明の塗工ペーストには、その物性を損なわない範囲内で、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤などが添加されてもよい。
【0063】
本発明の塗工ペーストを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、バインダー樹脂及び有機溶剤と共に、導電粉末又はセラミック粉末をブレンダーミル、3本ロールなどの公知の混合機に供給して混練した後に有機微粒子を添加し分散する塗工ペーストの製造方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0064】
本発明の塗工ペーストは、積層型電子部品に用いられる塗工ペーストであって、平均粒径が0.01〜1μmの有機微粒子を0.01〜20重量%含有していることを特徴とするので、導電粉末や無機粉末の分散性及び塗工性に優れており、優れた精度で印刷することができる。
【0065】
そして、塗工ペーストに導電粉末を含有させることによって導電ペーストとして用いることができ、この導電ペーストは焼成後の脱脂性に優れていることから、優れた電気特性を有する塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
〔実施例1〕
【0067】
(ポリビニルブチラールの製造)
ポリビニルアルコール(重合度:1700、ケン化度:88モル%)193gを純水2900gに供給して90℃にて約2時間に亘って攪拌し、ポリビニルアルコールを純水に溶解させてポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0068】
このポリビニルアルコール水溶液を28℃に冷却した上で、ポリビニルアルコール水溶液中に、濃度が35重量%の塩酸20gと、n−ブチルアルデヒド115gとを供給し、更に、ポリビニルアルコール水溶液を10℃に冷却、保持してアセタール化反応を行ない、反応生成物を析出させた。しかる後、ポリビニルアルコール水溶液を30℃に5時間に亘って維持してブチラール化反応を完了させた後、得られたポリビニルブチラール水溶液を中和し水洗及び乾燥工程を経て、白色のポリビニルブチラールの粉末を得た。得られたポリビニルブチラールのブチラール化度は65モル%であった。
【0069】
(導電ペーストの製造)
上述のようにして得られたポリビニルブチラール3gとα−テルピネオール97gとを攪拌装置(特殊機化工業社製 商品名「T.K.ホモディスパーfmodel」)に供給して80℃のオイルバス内で加熱しながら3時間に亘って撹拌して、ポリビニルブチラールをα−テルピネオールに溶解させてα−テルピネオール溶液を得た。
【0070】
更に、上記α−テルピネオール溶液の全量と、導電粉末としてのニッケル粉末(三井金属社製 商品名「2020SS」)100gとを3本ロールに供給して、α−テルピネオール溶液中にニッケル粉末を均一に分散させた。得られた導電ペースト9.9g中に、平均粒径が0.13μmの有機微粒子(積水化学工業株式会社 商品名「Advancell K−001」)0.1gを添加して均一に混練して最終的な導電ペーストを得た。
【0071】
(セラミックペーストの作製)
上述のようにして得られたポリビニルブチラール5gとα−テルピネオール60gとを攪拌装置(特殊機化工業社製 商品名「T.K.ホモディスパーfmodel」)に供給して80℃のオイルバス内で加熱しながら3時間に亘って撹拌して、ポリビニルブチラールをα−テルピネオールに溶解させてα−テルピネオール溶液を得た。
【0072】
更に、上記α−テルピネオール溶液の全量と、セラミック粉末としてのチタン酸バリウム(堺化学工業社製 商品名「BT−03」、平均粒径:0.3μm)100gとを3本ロールに供給して、α−テルピネオール溶液中にチタン酸バリウムを均一に分散させた。得られたセラミックペースト9.5g中に、平均粒径が0.13μmの有機微粒子(積水化学工業株式会社 商品名「Advancell K−001」)0.5gを添加して均一に混練して最終的なセラミックペーストを得た。
【0073】
〔実施例2〕
重合度1500、エチレン単位含有量4モル%、ケン化度96モル%の変性ポリビニルアルコール193gを純水2900gに供給して90℃にて約2時間に亘って攪拌し、変性ポリビニルアルコールを純水に溶解させて変性ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0074】
この変性ポリビニルアルコール水溶液を28℃に冷却した上で、変性ポリビニルアルコール水溶液中に、濃度が35重量%の塩酸20gと、n−ブチルアルデヒド160gとを供給し、更に、変性ポリビニルアルコール水溶液を10℃に冷却、保持してアセタール化反応を行ない、反応生成物を析出させた。しかる後、変性ポリビニルアルコール水溶液を30℃に5時間に亘って維持してブチラール化反応を完了させた後、得られた変性ポリビニルブチラール水溶液を中和し水洗及び乾燥工程を経て、白色のポリビニルブチラールの粉末を得た。得られたポリビニルブチラールのブチラール化度は76モル%であった。
【0075】
上述のようにして得られたポリビニルブチラールを用いたこと以外は実施例1と同様にして導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0076】
〔実施例3〕
重合度1700、エチレン単位含有量10モル%、ケン化度88モル%の変性ポリビニルアルコール185gを純水2900gに供給して90℃にて約2時間に亘って攪拌し、変性ポリビニルアルコールを純水に溶解させて変性ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0077】
この変性ポリビニルアルコール水溶液を28℃に冷却した上で、変性ポリビニルアルコール水溶液中に、濃度が35重量%の塩酸20gと、n−ブチルアルデヒド65g及びアセトアルデヒド46gとを供給し、更に、変性ポリビニルアルコール水溶液を10℃に冷却、保持してアセタール化反応を行ない、反応生成物を析出させた。しかる後、変性ポリビニルアルコール水溶液を30℃に5時間に亘って維持してアセタール化反応を完了させた後、得られたポリビニルアセタール水溶液を中和し水洗及び乾燥工程を経て、白色のポリビニルアセタール樹脂の粉末を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は71モル%であった。
【0078】
上述のようにして得られたポリビニルアセタール樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0079】
〔比較例1〕
有機微粒子を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の要領で導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0080】
〔比較例2〕
有機微粒子を添加しなかったこと以外は実施例2と同様の要領で導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0081】
〔比較例3〕
有機微粒子を添加しなかったこと以外は実施例3と同様の要領で導電ペースト及びセラミックペーストを得た。
【0082】
得られた導電ペースト及びセラミックペーストの粘度を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0083】
(粘度)
導電ペースト及びセラミックペーストの粘度を、回転式レオメータ(Bohlin社製 商品名「Gemini150」)とコーンプレート(直径40mm、コーン角度1°)とを用いて測定温度20℃、剪断速度10s-1の条件にて測定した。
【0084】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層型電子部品に用いられる塗工ペーストであって、平均粒径が0.01〜1μmの有機微粒子を0.01〜20重量%含有していることを特徴とする塗工ペースト。
【請求項2】
有機微粒子は、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られる合成樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の塗工ペースト。
【請求項3】
バインダー樹脂、溶剤及び導電粉末を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗工ペースト。
【請求項4】
バインダー樹脂、溶剤及び無機粉末を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の塗工ペースト。
【請求項5】
バインダー樹脂が、エチルセルロース及び/又はポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の塗工ペースト。
【請求項6】
ポリビニルアセタール樹脂が、エチレン性不飽和モノマー成分量が1〜20モル%で且つケン化度が80モル%以上である変性ポリビニルアルコールをアセタール化してなるものであって、アセタール化度が40〜80モル%である変性ポリビニルアセタール樹脂を含有していることを特徴とする請求項5に記載の塗工ペースト。

【公開番号】特開2007−332267(P2007−332267A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165452(P2006−165452)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】