説明

塗布フィルムの製造装置およびそれを用いた塗布フィルムの製造方法

【課題】
塗布欠陥の発生が極めて少なく、かつ長期間安定した状態を維持可能な塗布フィルムの製造装置および塗布フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】
走行するフィルムへ塗液を塗布する塗布手段と、塗布手段の下流側に塗液が塗布されたフィルムを乾燥する乾燥手段とを有する塗布フィルムの製造装置において、塗布手段と乾燥手段との間に、乾燥手段から塗布手段に伝わる熱を遮断するための熱遮蔽手段を設けた塗布フィルムの製造装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布フィルムの製造装置およびそれを用いた塗布フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光学機能性フィルムに代表される液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル等のディスプレイの部材に用いられる基材には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー等からなる基材フィルムが用いられている。これらの基材フィルムを各種光学機能フィルムに用いる場合は、基材フィルムに、各種用途に応じた機能層が設けられる。例えば、液晶ディスプレイでは、ハードコート層、反射防止層、プリズム層、光拡散層等の機能層が挙げられ、該機能層を基材フィルムに積層する場合には、両層の間には両層との接着層が設けられているのが一般的である。
【0003】
接着層は、例えば、基材フィルムの表面に、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、共重合ポリエステル樹脂などの各種樹脂を主成分とする塗液を、種々の方法によって基材フィルム塗布し、塗布層として設ける方法が一般的に知られている。塗布方法としては、結晶配向が完了する前のフィルムに、直接又は必要に応じてコロナ放電処理を施してから、前記樹脂の溶液または樹脂を分散媒で分散させた分散体を含有する水性塗布液をフィルムに塗工し、乾燥後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、樹脂フィルムの結晶配向を完了させる方法(インラインコーティング法)が工業的に広く実施されている。
【0004】
ところで、これらの液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのディスプレイは、年々、大型化が進んでおり、基材フィルムの製造工程において、広面積内に光学欠点がないことが必要とされている。光学欠点とは、フィルム中を通過した光やフィルム表面を反射した光の光路が部分的に乱れ、該欠点部分が周囲と比較し明るくなったり暗くなったりする欠陥の事であり、ディスプレイ用途としては致命的な欠点の一つである。これらの欠陥の原因としては、たとえば基材フィルムの内部にある異物などの欠陥や基材フィルム表面のキズなどが挙げられるが、近年のディスプレイの高精細化・高機能化により、塗布層でのコントラストが低い欠陥も問題となってきており、改善が望まれている。
【0005】
塗布層での欠点としては、部分的な厚みの僅かな変動が挙げられ、これらは塗布層を設ける際の塗液の液はねや塗液中の微細な泡等によるものや、非常に微細な異物が塗布層中もしくは塗布層上に存在するため、その周囲の塗布膜厚が変動しているもの等が挙げられる。特に、乾燥前の塗布層に微細な異物が落下した場合は、異物を起点とした塗布膜厚の変動範囲が広くなるため、コントラストが低くてもサイズが大きくなり、視認されやすい。これらの異物は、乾燥装置内を循環している熱風中に含まれる塵や、フィルムや塗液などからの昇華物などが乾燥装置内に結露、析出した堆積物が原因となる事が多く、これらの問題を解決するための乾燥装置が特許文献1に提案されている。
【0006】
この乾燥装置を使用することで、フィルム表面に落下する異物による塗布層での欠点が極めて少なくなるが、塗布層における欠点数の総数を減らすためには、前記塗液中の微細な泡を成長させない範囲で乾燥させる事が必要であり、そのためこれらの乾燥装置を塗布装置直後に設置した場合、乾燥装置より発生する熱風が塗布手段側に直接流れることにより、塗布される前の塗液に過剰の熱を与え、塗布装置の温度を上昇させてしまう問題があった。塗布装置の温度が高くなると循環中もしくは塗布装置に付着した塗液中の固形成分が凝集を起こし、その凝集物が塗布層に混入する事で塗布欠点が発生し、結果として塗布層での欠点総数の減少が不十分であったり、経時にて欠点数が増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−101595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、塗布欠陥の発生が極めて少なく、かつ長時間安定した状態を維持可能な塗布フィルムの製造装置および塗布フィルムの製造方法を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を用いるものである。
(1)走行するフィルムへ塗液を塗布する塗布手段と、該塗布手段の下流側に前記塗液が塗布されたフィルムを乾燥する乾燥手段とを有する塗布フィルムの製造装置において、前記塗布手段と前記乾燥手段との間に、前記乾燥手段から前記塗布手段に伝わる熱を遮断するための熱遮蔽手段を設けることを特徴とする塗布フィルムの製造装置。
(2)前記熱遮蔽手段が、走行するフィルムの上下両側にフィルム幅方向全幅に渡って設置された遮蔽板であって、かつ前記フィルムと前記遮蔽板の間隙が10mm以上50mm以下であることを特徴とする、(1)に記載の塗布フィルムの製造装置。
(3)前記熱遮蔽手段が、走行するフィルムの幅方向全幅に渡って、温度が0〜50℃、風速が3〜5m/sの低温風を吹き付ける手段であることを特徴とする、(1)に記載の塗布フィルムの製造装置。
(4)前記熱遮蔽手段が、(2)に記載の遮蔽板と(3)に記載の低温風吹き付け手段の両方を有することを特徴とする、(1)に記載の塗布フィルムの製造装置
(5)前記熱遮蔽手段が、塗布手段においてフィルムへの塗布および計量が完了した時点から距離1.0m以内に位置していることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の塗布フィルムの製造装置。
(6)前記熱遮蔽手段と前記乾燥手段の間のフィルム走行方向の距離が1.0〜3.0mであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の塗布フィルムの製造装置。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載の装置を用いて走行するフィルムに塗布層を設けることを特徴とする、塗布フィルムの製造方法。
(8)少なくともフィルムを長手方向および幅方向に延伸する工程を有する2軸延伸フィルムの製造工程中に塗布層を設けることを特徴とする、(7)に記載の塗布フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗布手段と熱遮蔽手段、及び乾燥手段をこの順に有する塗布装置を用いることで、塗布欠点の発生が極めて少ない塗布フィルムを得ることが出来る。また長時間の連続運転でも塗布欠点が安定した状態を維持可能な生産性が高い塗布フィルムの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】比較例の塗布フィルム製造装置の概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の製造装置の概略図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の製造装置の概略図である。
【図4】本発明の第3の実施形態の製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明おいて、少なくとも塗布手段、熱遮蔽手段、乾燥手段の順に有している事が必要である。
【0014】
本発明における熱遮蔽手段は、特には限定されないが、物理的に熱を遮断する遮蔽板を設置したり、塗布手段全体を遮断版で囲う方法や、もしくはフィルム表面に向かって低温風を吹き付けて熱を遮断する方法が好ましい方法としてあげられる。
【0015】
まずは、熱を遮断する遮蔽板を用いる方法について図2を用いて以下に説明する。
【0016】
1は走行するフィルム、2は塗布装置、3は乾燥装置、4は遮蔽板、hは走行するフィルムと遮蔽板との距離、lは塗布装置から遮蔽板までの距離、Lは塗布装置から乾燥装置までの距離である。
【0017】
本発明における熱遮蔽手段として、遮断板を設置することが好ましい。ここでいう遮蔽板とは塗布装置の出口に、走行するフィルムの上下両側にフィルム幅方向全幅に渡って設けられている乾燥手段からの熱風流れ込みを遮断する板である。幅方向全幅に渡って設置されることで塗布手段への熱風流の流れ込みの影響を低減する事が可能となる。また、前記遮断板との塗布フィルムとの間隙は10mm以上50mm以下である事が好ましく、20mm以上30mm以下であることがさらに好ましい。間隙が50mmをこえると乾燥手段からの熱風流れ込みを十分に抑制する事ができない場合があったり、空気中の浮遊物が塗布装置内に入り込み塗布フィルム表面に付着する事で塗布欠陥が増加する場合がある。また間隙が10mm未満の場合は、熱風流れ込みによる影響は防止する事ができるが、間隙が狭く塗布フィルムの搬送時のバタツキによりフィルムが遮断板に接触する場合がある。
【0018】
また、遮断板は、図2に記載するように、塗布手段全体を覆い囲む様に設置した場合は、塗布手段の上流側からの浮遊物の混入も防止できるためさらに好ましい。
【0019】
なお、フィルムが間隙を通過する際に、遮蔽板とフィルムの接触によるキズや塗布欠点を防止するために、乾燥手段である乾燥装置の上流側にフィルムの振動を防止するガイドロールを設けてもよい。
【0020】
本発明における、遮蔽板の材質は特には限定されないが、アクリル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ナイロンをはじめとする各種合成樹脂等を成型した板や、ステンレス、アルミ等の金属を板状に成型したものを用いることができる。また、遮蔽板のガラスウールなどの繊維素材を加工してシート化したもの、発泡性樹脂を加工してシート化したものをアルミ等の金属性シートで覆うと、熱遮蔽性が上がるため、長期生産時の安定性が上がるため好ましい。
【0021】
次に、フィルム表面に向かって低温風を吹き付ける方法について図3を用いて以下に説明する。
【0022】
5は低温風装置であり、図2の遮蔽板に変わる熱遮蔽手段である。吹き出し口の形状はスリット状、ノズル状のどちらでも構わない。スリット状の場合は走行するフィルムの幅方向に3mm以下、走行方向に5mm以下のスリットを設けているものが好ましく、ノズル状の場合はフィルムの走行方向に5mm以下の間隙を設けているものが好ましい。本発明においてはスリット状の吹き出し口を使用した。また低温風は装置近傍の空気を吸い込み、フィルターをかけた風を吹きつけた。温度調整は装置内に設置した温度調整装置を用いて調整した。
【0023】
本発明の熱遮蔽手段において、塗布フィルムに向かって乾燥手段で発生する熱風の温度よりも低い温度の低温風を吹き付ける手段であることが好ましい。低温風を上下から走行するフィルムに向かって幅方向全幅に渡って吹き付けることで、乾燥手段からの熱風流れ込みを抑制できるため好ましい。ここで、低温風の温度が乾燥手段で発生する熱風の温度よりも高い場合は、吹き付けた風により塗布装置の温度が上昇するため好ましくない。低温風の温度としては、0〜50℃が好ましく、さらに好ましくは10〜20℃である。温度が0℃未満である場合は、冷風によるフィルムの縮みによりシワや塗布のムラが発生することがあり、50℃を越える場合は、塗布装置の温度上昇の抑制が不十分となり、経時での塗布欠点増加が見られることがあるため好ましくない。また低温風の風速は3〜5m/sである事が好ましい、風速が3m/s未満である場合は、乾燥手段からの熱風流れ込みの抑制が不十分となる場合があり、5m/sを越えると塗布フィルムに当たった低温風が塗布装置側に流れ、塗布部分での欠陥を誘発することがあり好ましくない。
【0024】
本発明における上記低温風の遮蔽手段については、それぞれ単独で用いても良いし、両方を一緒に用いても良い。遮蔽板と低温風による遮蔽装置の両方を用いることでより効率的に熱風の影響を抑制し、塗布装置内の温度上昇ならびに塵埃を非常に効果的に抑えることが出来るため好ましい。なお、遮蔽板と低温風による遮断装置の順番については特には限定されないが、塗布装置への風による影響がより少ないという意味で、遮蔽板が上流側に、低温風による遮蔽装置が下流側に来る順番がより好ましい。
【0025】
本発明において、熱遮蔽手段が塗布手段においてフィルムへの塗布および計量が完了した時点から距離1.0m以内に位置していることが必要であり、好ましくは0.5m以内、さらに好ましくは0.3m以内である。1.0mを越えた位置に設置した場合は、乾燥手段からの風速が強い場合にフィルムに沿って塗布手段側へ流れてくる熱風の遮蔽効果が不十分になる事がある。乾燥手段でフィルムに吹き付けられた熱風は一部がフィルムに沿って逆流する流れとなり、フィルム状を逆流しながら周囲に拡散する。熱遮蔽装置が乾燥装置に近いほどフィルムに沿って流れる熱風を遮蔽する割合が少なくなるため、熱遮蔽効果が不十分となる。また、塗布手段での塗布・計量部においては、周囲のエアーの流れが乱れると塵埃などの影響を塗布が受ける事があるため、上述の位置に熱遮蔽装置を設ける事が好ましい。熱遮蔽手段が塗布手段においてフィルムへの塗布および計量が完了した次点からの距離の最小値は特には限定されないが、塗布および計量部分からの液はね等の影響を防止したり、作業性の観点から概ね0.1m程度である。
【0026】
本発明では、塗布手段である塗布装置においてフィルムへの塗布および計量が完了した時点から、乾燥手段である乾燥装置との間のフィルム流れ方向の距離が0.5〜10.0mであることが好ましく、さらには1.0〜3.0mが好ましい。塗布装置と乾燥装置との距離が長すぎる場合は、塗布フィルムの塗布層が乾燥する前に空気中の浮遊物等が付着した微小な塵埃を起点とする塗布欠点が発生しやすくなるため好ましくない。また、距離が短すぎると、乾燥装置から発生する熱風に対する遮蔽の効果が不十分となる場合がある。
【0027】
本発明における塗布手段は特には限定されないが、例えばリバースコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法などを用いることができるが、塗布層の厚みムラの均一性が高いグラビアコート法およびバーコート法が好ましく、特に好ましくは計量バーによるバーコート方式である。
【0028】
本発明における乾燥手段は特には限定されないが、塗布層が設けられたフィルムに熱風を吹き付ける方式が乾燥効率から好ましい手段として挙げられる。フィルムに吹き付けられる熱風中に、空気中の塵埃が含まれる場合は、塗布欠陥が増加する事があるため、事前に高精度のフィルター、例えば粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有するフィルターにて塵埃を濾過することが可能な装置が好ましい。さらに、吹き付けた熱風や熱風により蒸散した溶媒および発生した昇華物を取り除く目的で排気口を有する装置が好ましい。また、塗布層の乾燥速度を速め、塵埃の付着をさらに防止するため例えば、赤外線ヒーター等の輻射熱による加熱手段を有する装置を有する事が好ましい。
【0029】
本発明の塗布フィルムの基材フィルムに用いる樹脂は、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、ノルボルネン等の脂環式ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド系樹脂、イミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルフォン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、またはこれらの樹脂のブレンド物などが挙げられ、特に反射防止フィルム、光拡散シート、プリズムシート、赤外線吸収フィルム、透明導電性フィルム、防眩フィルムなどのディスプレイ材料に用いられる光学用途用に用いる場合は、機械特性や熱特性および透明性に優れたポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート樹脂が好ましい樹脂として挙げられる。
【0030】
上述のポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレート樹脂には、更に他のジカルボン酸成分やジオール成分が一部、好ましくは20モル%以下共重合されていてもよい。また、このポリエステル中には、光学的機能を阻害しない範囲で、各種添加剤、例えば酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0031】
上述したポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は、0.5〜0.8dl/gの範囲が好ましい。極限粘度が0.5dl/g未満であると、溶融ポリエステル樹脂を押出し冷却固化する際に押出量の調整が難しく、0.8dl/g以上であると、濾過フィルターで押出しが困難となるため好ましくない。
【0032】
本発明における塗布フィルムの塗布層を構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、各種グラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などを使用することができ、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。これらポリエステル樹脂を水系塗液として用いる場合、水溶性あるいは水分散性のポリエステル樹脂が用いられる。このような水溶性化あるいは水分散化のためには、スルホン酸塩基を含む化合物や、カルボン酸塩基を含む化合物を共重合させることが好ましい。
【0033】
また、本発明の塗布層には、さらに接着性を向上させるために、樹脂に各種の架橋剤を併用することができる。架橋剤の種類は特には限定されないが、例えば、メラミン系、エポキシ系、オキサゾリン系樹脂が一般に用いられる。
【0034】
本発明の塗布層に含有される粒子としては、無機系粒子や有機系粒子を挙げることができるが、易滑性や耐ブロッキング性が向上するので、無機粒子がより好ましい。この無機粒子としては、例えばシリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタンなどを用いることができる。上記の無機粒子および有機粒子は表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、界面活性剤、分散剤としての高分子、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0035】
本発明における塗布フィルムの厚みは特に限定されるものではないが、機械的強度、透明性などの点から、通常は好ましくは2〜500μm、さらに好ましくは10〜200μmである。
【0036】
次に、本発明の塗布装置を用いた塗布フィルムの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略すことがある)樹脂を用いた2軸延伸ポリエステルフィルムを用いた場合について説明するが、これに限定されるものではない。
【0037】
樹脂フィルムを構成する極限粘度0.5〜0.8dl/gのPETペレットを真空乾燥した後、押し出し機に供給し260〜300℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10〜60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化せしめて未延伸PETフィルムを作製する。この未延伸フィルムを70〜100℃に加熱されたロール間で縦方向(フィルムの進行方向を指し「長手方向」ともいう)に2.5〜5.0倍延伸する。このフィルムの少なくとも片面に、本発明の塗布装置を用いて塗布層を積層する。具体的には少なくとも片面に、必要に応じて空気中でコロナ放電処理を施し、該表面の濡れ張力を47mN/m以上とし、その処理面に塗布層を構成する水系塗剤を塗布する。この塗布された積層ポリエステルフィルムをクリップで把持して乾燥ゾーンに導き、塗布層を乾燥させた後に70〜150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70〜150℃の加熱ゾーンで幅方向(フィルムの進行方向とは直交する方向を指し「横方向」ともいう)に2.5〜5.0倍延伸し、続いて200〜240℃の加熱ゾーンで5〜40秒間熱処理を施し、100〜200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した樹脂フィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3〜12%の弛緩処理を施してもよい。二軸延伸は縦、横逐次延伸あるいは同時二軸延伸のいずれでもよく、また縦、横延伸後、縦、横いずれかの方向に再延伸してもよい。得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの端部をカットした後に中間製品として巻き取る。
【0038】
また、フィルムの延伸方法については、上述した逐次2軸延伸方式でも、塗布層を塗布、オーブンの予熱で塗布層の乾燥および予熱を実施した後に同時に2方向に延伸する同時2軸延伸であっても良い。
【0039】
こうして得られた塗布フィルムは塗布欠点が少なく、主にディスプレイ関連用途、詳しくは、ハードコート用フィルム、反射防止用フィルム、プリズム用フィルム、光拡散用フィルム等の光学用フィルムまたはその他の基材フィルムとして使用する際に、好適である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施に何ら制限されるものではない。
【0041】
まず、本発明における評価方法について説明する。
(1)フィルムと遮蔽板の間隙
塗布フィルムの通過するパスラインに糸をたるまないようにピンと張り、糸と遮蔽板との間隙をスケールにて測定した。なお、幅方向中央部と両端部の3点を測定しその平均値をフィルムと遮蔽板との間隙とした。
【0042】
(2)低温風の風速と温度
カノマックス製“アネモマスター風速計Model6112”を用いて、フィルムパスライン上での風速と温度を測定した。
(3)塗布欠陥
塗布フィルムを巻き出しながら、走行フィルム面に対して、距離150mmに設置したLED光源から入射角15°にてフィルム位置での照度30,000Lxにて塗布層側から照射し、その正反射光(反射角15°の反射光)をフィルムからの距離200mmに設置した分解能が幅方向0.16mm、長手方向0.12mm、画素サイズ10μm、検出光0.31lx・sを1024階調に分解する感度を有したCCDカメラにて検出した。検出した信号を長手方向に微分処理を実施し、幅6ピクセル(幅約1mm)以上、長手方向2ピクセル(長さ約0.24mm以上)、微分後の信号閾値が100階調以上の欠陥個数をフィルムロール全幅・全長に渡ってカウントし、フィルムの面積1m当たりの欠陥数に換算し、小数点以下2桁目は四捨五入した。
【0043】
◎:0.3ヶ/m以下
○:0.3ヶ/mを越えて0.7ヶ/m以下
△:0.7ヶ/mを越えて1.0ヶ/m以下
▲:1.0ヶ/mを越えて1.5ヶ/m以下
×:1.5ヶ/mを越える
なお、◎、○は非常に良好、△は良好、▲は使用可能レベル、×は不合格とした。
[実施例1]
粒子を含まないポリエチレンテレフタレートを溶融時に、溶融樹脂の異物除去用濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)15μmのステンレススチール製焼結濾材を用い、濾過したポリマーを押出機より280℃で溶融押出し、静電印可された20℃のキャストドラム上にキャストし無延伸シートとした後、これを80℃で予熱後、赤外線ヒーターにて95℃に加熱し、ロール延伸で長手方向に3.0倍延伸した。この後、メタリングバーとしてワイヤーバーを使用し、以下の水溶性塗液を、図2に示される製造装置を用いて塗布した。なお、製造装置の詳細は表1に示す。なお、表1に示される遮蔽板は走行するフィルムの上下両側にフィルム幅方向全幅に渡って設置されており、フィルムと遮蔽板の間隙は上側、下側共に同じ間隙になるように設置した。その後110℃のオーブンにて塗布層を乾燥後、引き続き110℃にて幅方向に3.6倍延伸、220℃で熱処理した。なお、乾燥オーブンにおいて、フィルムに吹き付ける熱風は事前に粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を有するフィルターで濾過すると共に、熱風を吹き付ける複数のノズルの間に吹き付けた熱風を排気する排気口を有する構造とした。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材とする塗布フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1の通り、塗布欠点が少なく良好であった。
【0044】
塗液:以下の樹脂成分を有する濃度3.0%の水溶液
・メタクリル酸メチル/アクリル酸エチル/アクリル酸=65モル部/34モル部/1モル部の組成を有する、粒径50nmのアクリル樹脂エマルション : 固形分濃度100重量部
・メラミン系架橋剤 : 固形分濃度20重量部
・粒径80nmのコロイダルシリカ粒子 : 固形分濃度3重量部
[実施例2〜29、比較例1〜2]
表1に示される塗布装置および塗布条件を用いた以外は実施例1と同様の方法で塗布フィルムを作成した。なお、表1に示される低温風は、フィルム上下両側に、フィルム幅方向全幅に渡って吹きつけた。また、比較例1〜2は図1の装置を用いて行った。1は走行するフィルム、2は塗布装置、3は乾燥装置という構成から成っており、Lは塗布装置から乾燥装置までの距離である。
[結果]
(遮蔽手段)
遮蔽手段を有さない、比較例1、2は塗布欠点数量が多い結果であったが、遮蔽手段を有する実施例1〜29については欠陥数が少なく合格範囲であった。遮蔽板とフィルムの間隙については、20〜30mmが良好な結果となった(実施例1〜5)。なお実施例11については、平均の欠陥数は良好であったが、間隙が狭いため、フィルムの搬送中のバタツキにより接触キズが発生する事があった。また、低温風による遮蔽装置は風速3〜5m/sの範囲で良好な結果であった。(実施例14〜16)
(塗布装置から遮蔽板までの長手方向距離)
塗布装置から遮蔽板までの長手方向距離が、0.0〜1.0mの範囲で塗布欠点が良好な結果であった。距離が1.0mを超える場合(実施例10)は塗布欠点が増加した。
(遮蔽板から乾燥装置までの長手方向距離)
遮蔽板から乾燥装置までの長手方向距離が1.0〜3.0mの範囲で塗布欠点が良好な結果であった。距離が1.0m未満(実施例28)や3.0mを越える場合(実施例27,29)は塗布欠点が増加した。
(塗布装置)
上記の好ましい範囲である、遮蔽板と低温風による遮蔽手段の両方を有し、かつ遮蔽板とフィルムの間隙が20〜30mm、低温風の温度が10〜20℃、風速が3〜5m/sであり、さらに布装置と乾燥装置との距離が1.0〜3.0mの範囲である場合は、塗布欠点数が非常に良好な結果であった。(実施例22,23,25,26)
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の塗布フィルムの製造装置によれば、塗布欠点の発生が極めて少なく、かつ長期間安定した状態を維持可能な生産性にすぐれた塗布フィルムを得ることができるため、特に反射防止フィルム、光拡散シート、プリズムシート、赤外線吸収フィルム、透明導電性フィルム、防眩フィルムなどのディスプレイ材料に用いられる光学用途用塗布フィルムの製造方法ならびに塗布装置として好適に用いることが出来る。
【符号の説明】
【0047】
1:フィルム
2:塗布装置
3:乾燥装置
4:遮蔽板
5:低温風装置
6:吹きつけられた低温風
7:塗液吹きつけ部
8:塗液計量部
9:塗液受けパン
10:フィルム進行方向
h: フィルムと遮蔽板の間隙
l:塗布装置と遮蔽板間のフィルム流れ方向の距離
L:塗布装置と乾燥装置間のフィルム流れ方向の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するフィルムへ塗液を塗布する塗布手段と、該塗布手段の下流側に前記塗液が塗布されたフィルムを乾燥する乾燥手段とを有する塗布フィルムの製造装置において、前記塗布手段と前記乾燥手段との間に、前記乾燥手段から前記塗布手段に伝わる熱を遮断するための熱遮蔽手段を設けることを特徴とする塗布フィルムの製造装置。
【請求項2】
前記熱遮蔽手段が、走行するフィルムの上下両側にフィルム幅方向全幅に渡って設置された遮蔽板であって、かつ前記フィルムと前記遮蔽板の間隙が10mm以上50mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の塗布フィルムの製造装置。
【請求項3】
前記熱遮蔽手段が、走行するフィルムの幅方向全幅に渡って、温度が0〜50℃、風速が3〜5m/sの低温風を吹き付ける低温風吹き付け手段であることを特徴とする、請求項1に記載の塗布フィルムの製造装置。
【請求項4】
前記熱遮蔽手段が、前記遮蔽板と前記低温風吹き付け手段の両方を有することを特徴とする、請求項1に記載の塗布フィルムの製造装置。
【請求項5】
前記熱遮蔽手段が、塗布手段においてフィルムへの塗布および計量が完了した時点から距離1.0m以内に位置していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗布フィルムの製造装置。
【請求項6】
前記熱遮蔽手段と前記乾燥手段の間のフィルム走行方向の距離が1.0〜3.0mであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塗布フィルムの製造装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の装置を用いて走行するフィルムに塗布層を設けることを特徴とする、塗布フィルムの製造方法。
【請求項8】
少なくともフィルムを長手方向および幅方向に延伸する工程を有する2軸延伸フィルムの製造工程中に塗布層を設けることを特徴とする、請求項7に記載の塗布フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−10071(P2013−10071A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143852(P2011−143852)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】