説明

塗布液の塗布装置

【課題】本発明は、基材にプライマー液を塗布する際の塗布ムラの発生が生じ難く、そして、プライマー層を薄く、好適には、単分子層〜20nmの厚みで形成しやすい基材へのプライマー液の塗布装置を提供することを課題とする。
【解決手段】塗布装置が、少なくともプライマー液を塗布するための塗布ゾーン、前記塗布を行った後に基材を洗浄するための洗浄ゾーン、そして各ゾーン内及び各ゾーン間で基材を搬送するための機構を有し、前記塗布ゾーンは、塗布液の基材への吐出機構、及び基材上に吐出された塗布液を、含液可能な弾性部材で基材の全領域を拭うことが可能な払拭機構を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に被膜を形成する前に基材と被膜との密着性を向上させるために基材に塗布液を塗布して基材上にプライマー層を形成するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材と基材上に形成される被膜との密着性を向上させるために、被膜の形成前にプライマー層を形成させることがある。そして基材がガラス基材の場合、プライマー層を形成するための塗布液(以下、プライマー液)には、アルコキシ基、イソシアネート基、ハロゲン基等の加水分解可能な官能基を有するケイ素化合物等と溶媒とを混合してなる塗布液が使用される。そして、形成される被膜の種類に応じて、前記ケイ素化合物が有する官能基の一部が必要な化学種となるように選択される。
【0003】
プライマー層は、基材と基材上に形成される被膜との密着性の向上を目的として形成されるので、プライマー液の塗布ムラ、プライマー層へのリントの付着等の欠陥原因は回避されなければならない。なぜなら、前記欠陥原因は、被膜と基材との密着性低下を引き起こすからである。又、基材がガラスや鏡等の光学部材で、被膜が可視光域に透光性を有する光学被膜である場合、前記欠陥原因は、光学歪をも生じさせるので、回避されなければならない。
【0004】
プライマー液の塗布ムラを回避する一つの手段は、該塗布液のゲル化を避けることと、プライマー層を薄く、好適には、単分子層〜20nmの厚みで形成することである。例えば、特許文献1では、ゲル化を回避するために基材を水冷する機構、及び前後の工程に水の移動を防止する機構を有するゾーン、プライマー液を塗布するためのロールコーター法類似の塗布機構を有するゾーンとを有する装置が開示されている。又、特許文献2では、基材を洗浄ゾーン、プライマー液の塗布ゾーン等の各ゾーンが、基材の搬送ゾーンを除いて気密構造となった装置が開示されている。
【特許文献1】特開昭56−76271号公報
【特許文献2】特開平7−251117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記で挙げた塗布ムラ発生の抑制、及びプライマー層へのリントの付着の抑制といった課題のうち、少なくとも塗布ムラ発生を抑制することを目的とした。すなわち、本発明は、基材にプライマー層を形成するための塗布液を塗布する際の塗布ムラの発生が生じ難く、そして、プライマー層を薄く、好適には、単分子層〜20nmの厚みで形成しやすい基材への塗布液の塗布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明のプライマー層を基材に形成するための塗布液(以下、「プライマー液」とする)の塗布装置は、少なくともプライマー液を塗布するための塗布ゾーン、前記塗布を行った後に基材を洗浄するための洗浄ゾーン、そして各ゾーン内及び各ゾーン間で基材を搬送するための機構を有し、前記塗布ゾーンは、塗布液の基材への吐出機構、及び基材上に吐出された塗布液を、含液可能な弾性部材で基材の全領域を拭うことが可能な払拭機構を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の塗布装置では、基材が装置に投入された後、基材へのプライマー液の吐出、該プライマー層形成後の基材の洗浄が、搬送ローラーやコンベヤ等の基材を搬送するための機構により基材が搬送されることによって、連続工程で行われる。そして、好適には、プライマー液の吐出前に基材の洗浄が行われる。
【0008】
この連続工程では、プライマー液の基材への吐出は、ノズル等の噴射機能を有する管から行われ、好適には、ノズル等の噴射機能を有する管が複数個、基材の進行方向に対して垂直に配置される。プライマー層は薄く、好適には、単分子層〜20nm、より好適には10nm以下の厚みで形成されるために、プライマー液は、粘度が高いものではない。従って、前記吐出により、プライマー液は基材表面にわたってある程度供給することは可能である。
【0009】
しかしながら、当該吐出だけでは、塗布厚みムラや塗布されない部位の発生等の塗布ムラを抑制することは難しく、結果として商品の欠陥が多くなる。ここでいう欠陥とは、プライマー層上に形成される被膜と基材との密着性低下、基材がガラスや鏡等の光学部材で被膜が可視光域に透光性を有する光学被膜である場合であっては、光学歪の発生も含まれる。
【0010】
本発明の塗布装置は、塗布ゾーンに含液可能な弾性部材で基材の全領域を拭うことが可能な払拭機構が配置されるので、該機構部にプライマー液が吐出された基材が搬送されると、前記弾性部材によりプライマー液が基材上で強制的に薄く且つ均質な状態で塗り広げられることが可能となる。
【0011】
又、該弾性部材を含液可能なものとしたので、塗布装置が稼動中に一時的にプライマー液の吐出機構に異常、例えば噴射機能を有する管の目詰まり等が発生しても、該弾性部材からもプライマー液が基材に供給されるようになるので、プライマー液の塗布不良の発生を抑制することができるようになる。ここで含液可能な弾性部材とは、プライマー液を吸収可能な部材のことであり、その吸収量については、1cmあたり、0.15g〜0.55g吸収できるものが好ましい。
【0012】
そして、基材へのプライマー層の形成を確実なものとするために、基材が前記払拭機構で拭われた後に基材に塗布されたプライマー液を乾燥させるための機構、例えば、エアをブローできる機構を有することが好ましい。
【0013】
さらに本発明の塗布装置では、前記洗浄ゾーンは、基材に結合されなかったプライマー成分及び/又はリントを除去するための機構を有し、該機構は、水の供給機構、及びスポンジ硬度で1〜20のスポンジが設置された洗浄パッドを有してなる洗浄機構又は線径300μm以下で10段階モース硬度において1〜2.5の硬度を有する材質によるディスクブラシを有してなる洗浄機構とを有することが好ましい。
【0014】
前記機構を設けると、本発明の塗布装置を用いての基材へのプライマー層の形成は、プライマー層へのリントの付着の抑制を行いやすくなり、さらには、基材に結合されなかったプライマー成分を容易に除去しやすくなるので、不良の発生を抑制しやすくなり好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗布液の塗布装置は、プライマー液を基材に均質に且つ薄く塗布することが可能であり、さらには、プライマー液の吐出機構に異常が発生したとしても、払拭機構にてもプライマー液を供給可能となっているので、基材へのプライマー液の塗布不良を低減することが可能となる。そして、基材にプライマー層を均質に且つ薄く形成可能であるので、基材と被膜とからなる物品の生産効率に向上に寄与する。又、基材がガラスや鏡等の光学部材で被膜が可視光域に透光性を有する光学被膜である場合であっては、光学歪の発生も抑制できる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の塗布装置を図で説明する。図1は、塗布ゾーンの要部断面、図2は、プライマー液塗布後の洗浄のための洗浄ゾーンの要部断面を示す。洗浄装置等で洗浄された基材は、塗布ゾーン1に導入される。塗布ゾーン1に導入された基材7は、各ゾーン内及び各ゾーン間で基材を搬送するための機構である搬送ローラ6で搬送される。本発明では、基材7が搬送される方向を下流側、その反対側を上流側とする。搬送された基材7が、プライマーの基材への吐出機構2の下方に到達すると、吐出機構2よりプライマー液が基材7に吐出される。該吐出機構2には、ノズル等の噴射機能を有する管を使用でき、好適には、ノズル等の噴射機能を有する管が複数個、基材の進行方向に対して垂直に配置される。
【0017】
その後基材が下流側に搬送され、基材7が基材の払拭機構34に到達すると、含液可能な弾性部材3により、基材7全体が払拭される。該弾性部材3は、基材7全体を払拭できるように進行方向に対して垂直方向の基材7の長さより長くすることが好ましい。又、該弾性部材3は、搬送された基材7により、図1に図示したように、その先端が押し曲げられるように配置されることが好ましい。
【0018】
そして、当該機能が生じるように、弾性部材3は、塗布ゾーン1を側方から見たときに下辺部が下流側となるよう斜めに配置されることが好ましい。この時の傾き具合は、基材7と弾性部材3の押し曲げられていない部位とが40〜50°に調整されることが好ましい。加えて、払拭機構34では、弾性部材3と保持部材4とが取り外し可能な構造とすることが好ましい。
【0019】
この払拭機構34にて、プライマー液が吐出された基材7が搬送されると、弾性部材3によりプライマー液が基材上で強制的に薄く且つ均質な状態で塗り広げられることが可能となる。そして、該弾性部材3が、搬送された基材により、図1に図示したように、その先端が押し曲げられるように配置されていると、弾性部材3が基材7に圧力を加えつつ、接触するので、プライマー液が基材上で強制的に薄く且つ均質な状態で塗り広げられることを容易とする。
【0020】
弾性部材3は、直方体の形状を有するものを使用することが好ましく、その材料にはスポンジ硬度が1〜20、好ましくは3〜15、より好ましくは5〜10のスポンジ状の樹脂を使用することが好ましい。そのような樹脂には、ポリウレタン、ネオプレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等があり、その中でもポリウレタン製のスポンジを使用することが好ましい。
【0021】
基材7は、払拭機構34を経た後、好ましくは下流側に配置されるプライマー液を乾燥させるための機構5を使用することで乾燥させられ、基材上にプライマー層が形成される。
【0022】
プライマー層が形成された後、基材に結合されなかったプライマー成分及び/又はリントを除去するための洗浄工程のため、基材7は洗浄ゾーンへと送られる。該工程は、手作業としてもよいが、生産効率向上のためには、洗浄ゾーンは、図2に図示したような、基材の搬送機構である搬送ローラ6、水の供給機構11、及び洗浄機構9を有する洗浄ゾーン20とすることが好ましい。
【0023】
水の供給機構11より水が基材へ供給され、洗浄機構9を基材に押し付けつつ
基材の洗浄を行うことで、基材に結合されなかったプライマー成分、リント等が除去される。洗浄機構9は、基材の進行方法に対して垂直方向に単列又は2列以上の複数列配列される。又、該洗浄ゾーン20では、プライマー層へのリントの付着を抑制するために洗浄機構9及び水の供給機構11をフード12で覆うことが好ましい。
【0024】
そして洗浄パッド10は、スポンジ硬度で1〜20、好ましくは3〜15、より好ましくは5〜10のスポンジが設置されたものとすることが好ましい。そのようなスポンジとしては、ポリウレタン、ネオプレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等を使用でき、その中でもポリウレタン製のスポンジを使用することが好ましい。
【0025】
又、前記洗浄パッド10の代りに、線径300μm以下で10段階モース硬度において1〜2.5の硬度を有する材質によるディスクブラシとしてもよい。前記線径については、実用を考慮すると、10μm以上、維持コスト等を考慮すると50μm以上、より好ましくは100μm以上とすることが好ましい。そして前記材質には、10段階モース硬度で2程度の硬度を有するナイロン等の軟質な樹脂を使用することが好ましい。
【0026】
前記洗浄パッド10又はディスクブラシは基材の進行方向8に対して垂直報告に配列され、該配列は単列又は好ましくは2〜4列の複数列としてもよい。複数列とする場合各洗浄パッド又ディスクブラシは千鳥状に配列されることが好ましく、各列に配列された洗浄パッド又はディスクブラシの回転方向は、各列毎で異なっていることが好ましい。そして、前記洗浄ゾーンを経た基材は、その後被膜の形成工程へと送られ、基材に被膜が形成される。
【0027】
本発明の塗布液の塗布装置に使用される基材には、代表的なものとしてはガラスが用いられる。そのガラスは自動車用、建築用、建装用等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。
【0028】
ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス、銀引き法、あるいは真空成膜法により作製された鏡、さらには平板、曲げ板等各種ガラス製品を使用できる。特には平板の基材を使用することが好ましい。板厚は特に制限されないが、1mm以上10mm以下が好ましく、車両用としては1mm以上5mm以下が好ましい。
【0029】
又、基材は、ガラスに限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート等の樹脂、金属、特には金属鏡、セラミックス等も使用することができる。
【0030】
本発明の塗布液の塗布装置に使用されるプライマー液には、プライマー成分と溶媒とを混合して得られるもので、該プライマー成分には、アルキレン基を有する加水分解性ケイ素化合物及び/又は加水分解物が好適に使用される。そして、該プライマー液には、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、アルコキシド化合物等の加水分解性ジルコニウム化合物及び/又は加水分解物、又はオキシ塩化チタニウム、硝酸チタニウム、酢酸チタニウム、アルコキシド化合物等加水分解性チタニウム化合物及び/又は加水分解物等が適宜導入される。
【0031】
前記アルキレン基を有する加水分解性ケイ素化合物には、モノメチルシラノール、ジメチルシラノール、トリメチルシラノール、シラノール(テトラハイドロキシシラン)、モノエチルシラノール、ジエチルシラノール、トリエチルシラノール、モノプロピルシラノール、ジプロピルシラノール、トリプロピルシラノール、トリイソプロピルシラノール、ジフェニルシランジオール、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0032】
上記ケイ素化合物等を溶媒に希釈又は溶解させ、プライマー液を調製する。該溶媒には、アルコール類、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、又は、パラフィン系炭化水素や芳香族炭化水素の一般有機溶剤、例えばn−ヘキサン、トルエン、クロロベンゼン等、又はこれらの混合物を使用することができる。
【0033】
塗布液のpHを調整するために、塩酸、硝酸、酢酸の酸を導入してもよく、ケイ素化合物、及びジルコニウム化合物の加水分解反応を促進させるために少量の水を導入してもよい。
【0034】
そして、本発明の塗布液の塗布装置で使用されるプライマー液には、プライマー層を薄く、好適には、単分子層〜20nmの厚みで形成させるために、ケイ素化合物、ジルコニウム化合物、及びチタニウム化合物の総量を、溶媒に対して、1.0重量%乃至1.4重量%となるように調整されたプライマー液を使用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の塗布装置の塗布ゾーンに要部断面を示す図である。
【図2】本発明の塗布装置において、プライマー液塗布後の行われる洗浄のために配置される洗浄ゾーンの要部断面を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 塗布ゾーン
2 プライマー液の基材への吐出機構
3 含液可能な弾性部材
4 含液可能な弾性部材3の保持部材
34 基材の払拭機構
5 プライマー液を乾燥させるための機構
6 搬送ローラ
7 基板
8 基材の搬送方向
9 洗浄機構
10 洗浄パッド
11 水の供給機構
12 フード
20 洗浄ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマー層を基材に形成するための塗布液の塗布装置であり、該塗布装置は、少なくとも塗布液を塗布するための塗布ゾーン、前記塗布を行った後に基材を洗浄するための洗浄ゾーン、そして各ゾーン内及び各ゾーン間で基材を搬送するための機構を有し、前記塗布ゾーンは、塗布液の基材への吐出機構、及び基材上に吐出された塗布液を、含液可能な弾性部材で基材の全領域を拭うことが可能な払拭機構を有することを特徴とする塗布液の塗布装置。
【請求項2】
基材が前記払拭機構で拭われた後に基材上に塗布された塗布液を乾燥させるための機構を有することを特徴とする請求項1に記載の塗布液の塗布装置。
【請求項3】
前記洗浄ゾーンは、基材と結合されなかったプライマー成分及び/又はリントを除去するための機構を有し、該機構は、水の供給機構、及びスポンジ硬度で1〜20のスポンジが設置された洗浄パッドを有してなる洗浄機構又は線径300μm以下で10段階モース硬度において1〜2.5の硬度を有する材質によるディスクブラシを有してなる洗浄機構とを有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗布液の塗布装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの塗布装置による基材へのプライマー層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−247588(P2006−247588A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70280(P2005−70280)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】