説明

塗布液の塗布装置

【課題】 金属イオンによる塗布対象物の品質低下を抑制して良好な塗布を行なう。
【解決手段】 ノズルプレート7bが金属材料で構成されたインクジェット式の塗布ヘッド7に供給する塗布液を貯留する給液タンク12と、塗布ヘッド7と給液タンク12とを接続し塗布ヘッド7に塗布液を供給する給液管13、14と、塗布ヘッド7から塗布液を排出する排液管22、23と、給液タンク12に貯留された塗布液を塗布ヘッドに向けて送液する送液手段18と、この送液手段18を制御する制御装置とを備え、制御装置は、塗布液中に含有される金属イオンの濃度が設定濃度に到達したときに、塗布液を排出管を通して排出させるように送液手段18を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式の塗布ヘッドの吐出孔から塗布対象物に向けて塗布液を吐出させる塗布液の塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、表示装置や半導体装置などを製造工程においては、基板上に機能性薄膜や微細な回路パターンを形成するプロセスがあり、このようなプロセスにおいて、インクジェット方式の塗布ヘッド用いて塗布液を塗布するインクジェット式塗布装置が用いられている。
【0003】
このような塗布装置は、基板などの塗布対象物に向けて塗布液を複数のノズルから液滴として吐出させる塗布ヘッドを備えており、塗布対象物を載置したステージと塗布ヘッドとを水平方向において相対移動させながら、塗布ヘッドの複数のノズルから塗布対象物の被塗布面に向けて液滴を順次吐出して塗布を行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−103207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のような塗布装置においては、金属イオンとの接触によって性能劣化等の品質の低下を生じるような塗布対象物に対して塗布液を塗布する場合が考えられる。
【0006】
例えば、インクジェット式の塗布ヘッドの構成部材としてステンレス鋼が用いられている場合、このステンレス鋼から金属イオンとして鉄イオンが溶出することがある。このような鉄イオンが含まれた塗布液がシリコンウエハに塗布された場合、鉄イオンがウエハ内部に拡散する等によって、そのウエハから生産される半導体デバイスの品質を低下させるおそれが考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、金属イオンによる塗布対象物の品質低下を抑制して良好な塗布を行なうことが可能なインクジェット式塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る塗布液の塗布装置は、インクジェット式の塗布ヘッドの吐出孔から塗布対象物に向けて塗布液を吐出させ前記塗布対象物上に塗布液を所定のパターンで塗布する塗布液の塗布装置において、
前記塗布ヘッドに供給する塗布液を貯留する給液タンクと、
前記塗布ヘッドと前記給液タンクとを接続し前記塗布ヘッドに塗布液を供給する給液管と、
前記塗布ヘッドから塗布液を排出する排液管と、
前記給液タンクに貯留された前記塗布液を前記塗布ヘッドへ向けて送液する送液手段と、
この送液手段を制御する制御装置とを備え、
前記塗布ヘッド、前記給液タンク、或いは前記給液管のうち少なくとも一つは、前記塗布液と接触する部分に金属材料を含んで構成されてなり、
前記制御装置は、塗布液中に含有される金属イオンの濃度が設定濃度に到達したときに、前記塗布液を前記排出管を通して排出させるように前記送液手段を制御するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属イオンとの接触による塗布対象物の品質低下を抑制して良好な塗布を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る塗布装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る塗布装置の概略的構成を示す。
【0013】
この塗布装置1は、ベース2を有し、このベース2上に一対のガイドレール3を介して搬送テーブル4が移動可能に設けられる。
【0014】
搬送テーブル4は、図示しない駆動機構によってガイドレール3の延設方向に沿って往復移動される。この搬送テーブル4の上面には複数の支持ピン5が設けられており、塗布対象物としての基板Wはこの支持ピン5によって搬送テーブル4上に支持される。ここで、基板Wは、例えば、半導体ウエハ等のシリコン基板や表示パネルを製造するために用いられる矩形状のガラス基板である。
【0015】
搬送テーブル4が往復移動する領域の上方には、複数、この実施形態においては3つの塗布ヘッド7が搬送テーブル4の移動方向と交差する方向、この実施形態においては直交する方向に沿って並設される。これら3つの塗布ヘッド7は、ベース2上に搬送テーブル4を跨いで立設された不図示の門型フレームに支持される。
【0016】
塗布ヘッド7は、インクジェット方式の塗布ヘッドであり、本体部7a及び本体部7aの下端部に設けられたノズルプレート7bを有し、ノズルプレート7bの下面にはX軸方向に沿って複数の吐出孔(ノズル)7cが所定間隔で配列されて設けられている。ここで、本体部7aとノズルプレート7bは金属材料、例えば、ステンレス鋼で構成されており、ノズルプレート7bには切削加工等によって吐出孔7cに連通する圧力室や各圧力室に塗布液を供給するための流路が形成されている。また、塗布ヘッド7には、吐出孔7c毎に駆動素子が設けられる。そして、塗布ヘッド7は、この駆動素子を駆動させることによって前述の圧力室に容積変化を生じさせ、吐出孔7cから塗布液を液滴として吐出させるようになっている。
【0017】
塗布ヘッド7には、給液装置11によって塗布液(例えば、拡散用ドーパント薄膜を形成する拡散塗布液、結晶性薄膜を形成する溶液、レジスト液等)が供給されるようになっている。
【0018】
給液装置11は、塗布液を貯留する給液タンク12を有する。この給液タンク12は塗布ヘッド7とほぼ同じ高さ位置に配置されており、貯留される塗布液の液面Fは塗布ヘッド7のノズルプレート7bの下面と同等若しくはわずかに低くなるように制御される。
【0019】
給液タンク12の底部には給液管13の一端が接続される。この給液管13からは複数の塗布ヘッド7に対応する数の給液分岐管14の一方の端部が所定間隔で分岐されている。各給液分岐管14の他方の端部は塗布ヘッド7にそれぞれ接続される。すなわち、給液分岐管14の他方の端部は、塗布ヘッド7のノズルプレート7bに形成された流路の一端部側と接続される。また、各給液分岐管14には、流路を開閉する給液バルブ15が設けられる。
【0020】
給液タンク12には窒素などの加圧気体の給気管16が接続される。給気管16は流路を開閉する給気バルブ17を備え、給気バルブ17による流路の開閉によって給液タンク12内への加圧気体の供給/停止が制御される。給気管16から給液タンク12内に加圧気体を供給すると、この給液タンク12内の塗布液Lは加圧されるので、給液タンク12内の塗布液Lは給液管13から給液分岐管14を通じて塗布ヘッド7内の不図示の流路へと供給される。なお、給気管16は加圧気体供給源18に接続されてなり、給気管16、給気バルブ17および加圧気体供給源18によって送液手段を構成する。
【0021】
各塗布ヘッド7には排液バルブ21を備える排液分岐管22一方の端部がそれぞれ接続される。すなわち、排液分岐管22の一方の端部は、塗布ヘッド7のノズルプレート7bに形成された流路の他端部側と接続される。また、排液分岐管22の他方の端部は、排液管23にそれぞれ接続される。排液管23の一端部は、開閉バルブ28を介して補給タンク29に接続される。なお、排液バルブ21は排液分岐管22の流路を開閉し、開閉バルブ28は排液管23の流路を開閉する。
【0022】
ここで、給液管13の下流側の端部と排液管23の上流側の端部とは、流入バルブ26を有する連通管27を介して接続される。また、給液管13の中間部(給液分岐管14との接続位置と給液タンク12との間)と排液管23の中間部(排液分岐管22との接続位置と開閉バルブ28との間)とは分流バルブ24を有する分岐管25によって接続される。ここで、分流バルブ24、流入バルブ26は、分岐管25、連通管27の流路を開閉する。なお、この補給タンク29は、塗布ヘッド7から排出された塗布液の回収タンクとしても機能する。
【0023】
補給タンク29の底部には補給管31の一端部が接続される。補給管31の他端は給液タンク12の底部に接続される。補給管31には、補給管31の流路を開閉する補給バルブ32が設けられる。これにより、補給タンク29から給液タンク12に塗布液を供給可能とする。すなわち、補給タンク29は、給液タンク12と同様に、給気バルブ33を備えた給気管34が接続される。給気管34によって補給タンク29内に加圧気体が供給されると、補給タンク29内に貯留された塗布液は加圧気体の圧力によって補給管31を通って給液タンク12へと送られる。なお、給気管34は、給気管16と同じ加圧気体供給源18に接続される。
【0024】
また、補給管31には、塗布液中に含まれる金属イオンを除去するイオン交換器35が接続される。イオン交換器35は、補給タンク29と補給バルブ32の間に接続される。このイオン交換器35内には、塗布液中の金属イオンを吸着して除去するイオン交換樹脂36が設けられる。
【0025】
また、塗布装置1は、制御装置(不図示)を備える。制御装置は、搬送テーブル4の移動、塗布ヘッド7による液滴の吐出、および給液バルブ15、排液バルブ21、分流バルブ24、流入バルブ26、排液バルブ28、補給バルブ、給気バルブ17、32の開閉を制御する。また、制御装置は記憶部を付随して備えており、この記憶部には溶液の塗布に必要な各種データが記憶される。
【0026】
次に、作動について説明する。
【0027】
なおここで、少なくとも給液管13、各給液分岐管14および塗布ヘッド7の内部には塗布液が充填された状態にあり、塗布ヘッド7は吐出孔7cから液滴を吐出可能な状態になっているものとする。
【0028】
またこのとき、給液バルブ15、排液バルブ21、分流バルブ24、流入バルブ26は開状態とし、開閉バルブ28、補給バルブ32は閉状態とする。また、給液タンク12、補給タンク29に加圧気体を供給する給気バルブ17、給気バルブ33も閉状態とする。
【0029】
搬送テーブル4は、不図示の制御装置の制御によって基板Wの搬入/搬出作業位置に位置付けられており、この状態の搬送テーブル4に対して不図示の搬送装置によって基板Wが供給される。搬送装置によって供給された基板Wは、搬送テーブル4の支持ピン5によって支持される。
【0030】
搬送テーブル4に基板Wが供給されると、不図示の制御装置の制御によって搬送テーブル4がY軸方向に沿う一方向への移動を開始する。
【0031】
搬送テーブル4の一方向への移動中、制御装置はリニアエンコーダ等の位置検出器(不図示)から得た搬送テーブル4の位置情報に基づいて、基板Wが塗布ヘッド7の下方を通過するタイミングに合せて塗布ヘッド7の吐出孔7cから所定量の液滴を所定の時間間隔(吐出周波数)で吐出させ、基板W上に所望のパターンで塗布液の液滴を塗布する。
【0032】
基板Wが塗布ヘッド7の下方を通過したならば、搬送テーブル4の移動を停止させる。搬送テーブル4を停止させたならば、搬送テール4をX軸方向に沿う一方向とは反対方向の他方向へ移動させ、基板Wの搬入/搬出作業位置に位置付ける。
【0033】
搬送テーブル4が、搬入/搬出作業位置に位置付けられたならば、不図示の搬送装置によって、塗布が完了した基板Wを搬送テーブル4上から取り出し、新たな基板Wを搬送テーブル4に供給する。
【0034】
このような作業を繰返すことで、基板Wに対する塗布液の塗布が連続的に行われる。
【0035】
なお、基板Wに対する塗布液の塗布は、基板Wを塗布ヘッド7の下方を1回通過させることで行なう以外にも、2回以上の通過によって塗布するようにしても良い。
【0036】
このような塗布装置1では、塗布ヘッド7内の流路を構成するノズルプレート7bがステンレス鋼で形成されていることから、このステンレス鋼から塗布液中に鉄イオン等の金属イオンが溶出することが考えられる。
【0037】
そこで、本実施形態の塗布装置では、金属イオンが塗布液中に溶出することによって塗布液中の金属イオンの濃度(含有量)が塗布液や基板Wに性能の劣化等の品質低下を生じさせることのない範囲(許容範囲)に維持するように、定期的或いは設定された条件が満たされる毎に、以下の金属イオンを含有する塗布液を塗布ヘッド7内から排出させる排出作動を実行する。
【0038】
例えば、塗布ヘッド7内の塗布液は、塗布ヘッド7内に停滞している時間が長い程、ノズルプレート7b内の流路壁面に接触している時間が長いから、ノズルプレート7bから溶出した金属イオンをより多く含むもとなり、塗布液中の金属イオンの濃度が高くなる。
【0039】
そこで、塗布液が停滞している時間とその塗布液中の金属イオンの濃度との関係を予め実験等によって求め、この関係から塗布液中の金属イオン濃度が許容値を越えることとなる時間を許容停滞時間として求めて制御装置の記憶部等に設定しておく。そして、基板に対する塗布液の塗布を行なう塗布動作が休止される等により塗布液が塗布ヘッド7内で停滞している時間を計測し、その計測時間が設定された許容停滞時間に達したら排液動作を行なうようにする。したがって、本実施形態では、塗布液中の金属イオンの濃度を塗布液が停滞している時間から間接的に求めることも可能である。なお、停滞時間の計測は、制御装置から塗布ヘッド7に吐出を停止させる旨の信号が出力された時点、或いは、制御装置から塗布ヘッド7に対して出力される吐出させる旨の信号が停止された時点から計時を開始し、計測時間が上記許容停滞時間を達した時点で排液動作を開始させる。計測時間が許容停滞時間に到達する前に制御装置が液滴を吐出させる旨の信号を出力したときは、計時をリセットする。なお、計時は制御装置が備えるタイマを用い、計時開始および許容停滞時間経過の判定等は制御装置が行なう。
【0040】
塗布液の排液動作について説明する。
【0041】
塗布液の排液動作を行なうにあたり、基板W上に塗布液を塗布する際に開状態としていた給液バルブ15、排液バルブ21、分流バルブ24、流入バルブ26のうち、分流バルブ24と流入バルブ26を閉状態とする。また、閉状態としていた開閉バルブ28、補給バルブ32のうち、開閉バルブ28を開状態とする。
【0042】
この状態で、制御装置(不図示)は、まず、給気バルブ17を開状態として給液タンク12内へ加圧気体を供給する。ここで、加圧気体の供給は、予め設定された時間だけ継続する。すなわち、給気バルブ17は予め設定された時間だけ開状態を維持された後、閉状態とされる。この時間は、例えば、塗布ヘッド7内にあった塗布液を加圧気体の供給によって排液分岐管22および排液管23を経て補給タンク29まで移動させるに充分な時間が設定される。
【0043】
給液タンク12内へ加圧気体が供給されると、給液タンク12内の塗布液が給液管13へと押し出される。給液管13へ押し出された塗布液は、分流バルブ24が閉状態であるから、全てが各給液分岐管14を通って各塗布ヘッド7内へ送られる。各塗布ヘッド7内へ送られた塗布液は、吐出孔7cが開放されているものの吐出孔7cの流路抵抗が排液分岐管22に比べてはるかに大きいため吐出孔7cからはほとんど流出することなく、排液分岐管22を通って排液管23へと流れ、補給タンク29内に回収される。
【0044】
次に、給気バルブ17を閉じ、給気バルブ33を開状態にすると共に補給バルブ32を開状態とし、補給タンク29内に加圧気体を供給する。これによって、補給タンク29内の塗布液が加圧気体の圧力によって押し出され、補給管31を通って給液タンク12へと送られ給液タンク12内の塗布液が補充される。このとき、塗布液中の金属イオンは、補給管31の途中に設けられたイオン交換器35内のイオン交換樹脂36によって吸着されて除去されることとなる。なお、塗布液の補充は、給液タンク12内の塗布液の液面の高さが塗布ヘッド7のノズルプレート7bの下面と同等の高さになるまで行われる。
【0045】
上述によれば、塗布ヘッド7の吐出孔7cからの塗布液の吐出が停止される等によって塗布ヘッド7内で塗布液が停滞している停滞時間が設定された許容停滞時間に到達したときに、塗布ヘッド7内の流路内の塗布液が排液分岐管22および排液管23を介して補給タンク29内に排液されるので、塗布ヘッド7の、特にノズルプレート7bに形成された流路内に停滞してノズルプレート7bの流路の壁面から溶出した金属イオンによって金属イオン濃度が高められた塗布液が、その後の塗布動作によって基板W上に塗布されることが防止される。そのため、基板Wが金属イオンとの接触によって性能が劣化する部材を用いて形成される場合であっても、停滞によって金属イオンの濃度が高まった塗布液は塗布ヘッド7内から補給タンク29へ回収されるから、基板Wに塗布される塗布液は金属イオンを含有しない、或いは金属イオンの含有量(濃度)が許容値内のものとなり、金属イオンによって基板Wの品質が低下されることが防止できる。
【0046】
また、補給管31の途中にはイオン交換器35が設けられているから、上述の塗布液の排液動作によって塗布ヘッド7内から金属イオンが含有された塗布液が補給タンク29内に回収されたとしても、補給タンク29から給液タンク12へ塗布液が補給されるとき、塗布液中に含有された金属イオンはイオン交換器35内を通過する際にイオン交換樹脂36に吸着されて塗布液中から除去される。そのため、給液タンク12内には金属イオンが除去された塗布液が補給されることになるから、給液タンク12から塗布ヘッド7に供給される塗布液も金属イオンが含有されない、或いは極めて含有量が少ないものとなる。その結果、基板Wに塗布される塗布液も同様に、金属イオンが含有されない、或いは極めて含有量が少ないものとなるから、その塗布液が塗布される基板Wが金属イオンとの接触によって性能が劣化する部材を用いて形成される場合であっても、基板Wに塗布される塗布液は金属イオンを含有しない、或いは金属イオンの含有量(濃度)が許容値内のものとなり、その塗布液の塗布によって基板Wの品質を低下させることを防止できる。
【0047】
また、上述により、許容停滞時間が経過したとき、塗布ヘッド7内で金属イオンの濃度が高まった塗布液は補給タンク29内に回収されて補給タンク29内に貯留されていた塗布液(金属イオン濃度の低い塗布液)と混合されるから、補給タンク29内に回収された塗布液の金属イオンの濃度は低下し、補給タンク29内に貯留された塗布液全体としては金属イオン濃度が許容範囲内のものとなる。そのため、塗布液が金属イオンとの接触によって性能劣化が生じるものであっても、塗布液中の金属イオン濃度は許容範囲内に保たれるから、塗布液の品質が低下することが防止できる。この場合、許容停滞時間を塗布液中の金属イオン濃度が許容値に到達する時間に対して余裕を持った時間に設定すれば、塗布液の性能劣化をより効果的に防止することができる。
【0048】
なお、上述の排液動作が完了した時点からも停滞時間の計時を開始するように制御装置が制御するようにしても良い。
【0049】
すなわち、排液動作が完了しても直ちに塗布液の吐出が行われないときには、塗布ヘッド7内で塗布液が停滞するので、塗布液中の金属イオン濃度が再び増加することとなる。
【0050】
そこで、排液動作が完了した時点からも停滞時間の計時を開始し、計測した停滞時間が許容停滞時間に到達したときには再び排液動作を実行するようにする。
【0051】
このようにすることによって、排液動作が完了した後に塗布液の吐出がしばらく行われないときであっても、塗布液中の金属イオンの濃度が許容範囲を越えることが防止できるので、更に良好に上述の効果を得ることができる。
【0052】
また、排液動作が完了した後、吐出孔7c内で停滞していた塗布液を排出する吐出孔7c内塗布液の排液動作を行なうようにしても良い。この場合、給液バルブ15を開状態とし、排液バルブ21、分流バルブ24、流入バルブ26を閉状態とした状態で、給気バルブ17を予め設定された時間だけ開状態とする。これにより、給液タンク12側から加圧供給される塗布液は、給液管13を通って各給液分岐管14へと送られ、排液バルブ21が閉じていることによって吐出孔7cから流出されて排出されることとなる。この吐出孔7c内塗布液の排液動作は、上述の排液動作に続いて行われるようにしても良い。
【0053】
このようにすることによって、吐出孔7c内で停滞していた塗布液を確実に排出することができるので、停滞によって金属イオンの濃度が高まった塗布液が基板Wに塗布されることによって基板Wの品質を低下させることをより一層確実に防止することができる。
【0054】
次に、第2の実施形態について図2を用いて説明する。
【0055】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、イオン交換器35の取付け位置である。第1の実施形態においてはイオン交換器35を補給管31に設けたが、第2の実施の形態では、補給タンク29に循環用の循環配管37を設け、この循環配管37の途中にイオン交換器35を配置したものである。
【0056】
すなわち、循環配管37は、流入側の端部が補給タンク29の底部に接続され、流出側の端部が補給タンク29の上部から補給タンク29内に貯給される塗布液中に浸漬する高さ位置まで侵入して設けられる。この循環配管37の途中にはチューブポンプ等の送液ポンプ38とイオン交換器35が流入側の端部側から順に設けられる。
【0057】
この送液ポンプが作動されると、循環配管37の流入側の端部から補給タンク29内の塗布液が循環配管37内に取り込まれ、取り込まれた塗布液はイオン交換器35内のイオン交換樹脂36を通過して循環配管37の排出側端部から補給タンク29内へと排出される。
【0058】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、塗布ヘッド7内の塗布液の停滞時間が予め設定された許容停滞時間に到達した時点で排液動作が行われる。
【0059】
この排液動作の後、制御装置(不図示)は、予め設定された時間だけ送液ポンプ38を駆動させ、補給タンク29内の塗布液を循環配管37に循環させる。このとき、循環配管37を循環した塗布液は、循環配管37の途中に設けられたイオン交換器35内のイオン交換樹脂36を通過するので、イオン交換樹脂36を通過したときに塗布液内に含有された金属イオンが吸着されて除去され、金属イオンが除去された塗布液が補給タンク29内に戻されることとなる。このように、補給タンク29内の塗布液を循環配管38に循環させることによって、補給タンク29の塗布液中に含有される金属イオンが除去されることとなる。なお、送液ポンプ38を作動させる時間は、補給タンク29内の塗布液の貯留量と送液ポンプ38によって循環される塗布液の流量によって異なるが、補給タンク29内の塗布液中の金属イオンを充分に除去できる時間は実験等によって求めることができる。
【0060】
この補給タンク29内の塗布液を循環配管37に循環させる循環動作は、塗布ヘッド7内で許容停滞時間以上停滞された塗布液を排液する排液動作に続いて行われる。なお、補給タンク29内の塗布液は循環配管37に常時循環させるようにしても良い。
【0061】
このようにすることによって、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0062】
なお、上述の実施形態において、塗布ヘッド7のノズルプレート7bがステンレス鋼で形成され、ノズルプレート7bに形成された流路の壁面から塗布液中に金属イオンが溶出するものとして説明したが、これに限られるものではなく、本願発明は、補給タンク29や給液タンク12等がステンレス鋼等の金属材料で形成され、補給タンク29や給液タンク12の内壁面から塗布液中に金属イオンが溶出するものに適用可能である。
【0063】
例えば、第1の実施形態の態様による場合、補給タンク29内に貯留された塗布液は、給液タンク12に供給されるときに補給管31の途中に配置されたイオン交換器35によって塗布液中に含有される金属イオンが除去される。そのため、補給タンク29がステンレス鋼等の金属材料で構成されており、補給タンク29の内壁面から金属イオンが溶出することがある場合でも、その塗布液中の金属イオンは給液タンク12に供給されるまでの間に除去されるから、給液タンク12から塗布ヘッド7に供給される塗布液は金属イオンを含有しないものとなり、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0064】
また、第2の実施形態の態様による場合、補給タンク29内の塗布液を循環配管37に循環させることで、補給タンク29内の塗布液中に含有される金属イオンを除去することができる。そのため、補給タンク29がステンレス鋼等の金属材料で構成されており、補給タンク29の内壁面から金属イオンが溶出することがある場合でも、補給タンク29内の塗布液中に含有される金属イオンを無くす、或いは許容範囲内に保つことができることから、給液タンク12から塗布ヘッド7に供給される塗布液は金属イオンの濃度が許容範囲内のものとなり、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。なおこの場合、循環配管37への塗布液の循環は、常時行なうようにしても良く、設定時間おきに定期的に行なうようにしても良い。
【0065】
また、第1、第2の実施形態の態様において、給液タンク12がステンレス鋼等の金属材料で形成されている場合、給液タンク12に貯留された塗布液中に含有される金属イオンの濃度が許容される範囲を越えることになるまでの経過時間を予め実験等によって求めておき、許容時間を制御装置に付随する記憶部に設定しておく。そして、給液タンク12に塗布液が貯留されてからの経過時間を計測し、その計測時間が設定された許容時間に到達するまでの間に給液タンク12への塗布液の補充が無かったときには、第1の実施形態と同様にして、排液動作を行わせるようにする。なお、この際の排液動作継続時間は、給液タンク12内に貯留された塗布液が全て排出される時間に設定すれば良いが、実際には、給液管13内に気体が進入することは好ましくないので、給液タンク12内に若干量の塗布液が残る時間に設定すると良い。給液タンク12内に若干量の塗布液が残っていたとしても、補給タンク29から金属イオンが除去された塗布液が供給されることによって給液タンク12内の塗布液の金属イオン濃度は低下することとなる。
【0066】
したがって、このようにすることによって、給液タンク12がステンレス鋼等の金属材料で形成されている場合であっても、給液タンク12から塗布ヘッド7に供給される塗布液は金属イオンの濃度が許容範囲内のものとすることができ、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
さらにまた、給液管13、給液分岐管14の全体或いは一部や、各バルブ15、21、24、26、28、32の流路が金属材料で形成されるものにも適用できる。このような場合には、給液管13、給液分岐管14、塗布ヘッド7、排液分岐管22および排液管23内での塗布液の停滞時間が許容停滞時間を経過したとき、給液管13、給液分岐管14、塗布ヘッド7、排液分岐管22および排液管23内で停滞していた塗布液を補給タンク29内に排出するように排出動作を行なう。この排出動作は、例えば、補給管31、給液タンク12、給液管13、給液分岐管14、排液分岐管22、および排液管23内で停滞していた塗布液を補給タンク29に一旦回収するように行なう。このようにすることによって、給液管13、給液分岐管14の全体或いは一部や、各バルブ15、21、24、26、28、32の流路が金属材料で形成されている場合であっても、給液タンク12から塗布ヘッド7に供給される塗布液は金属イオンの濃度が許容範囲内のものとすることができ、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0068】
なお、塗布ヘッド7、給液タンク12、補給タンク29、給液管13、給液分岐管14、各バルブ15、21、24、26、28、32の流路のうちの複数の部材が金属材料で形成されている場合、それぞれの部材内の流路壁面の総面積と流路内に蓄積可能な塗布液の量との関係やそれぞれの部材を構成する金属材料の種類等の要因によって、部材毎に許容停滞時間が異なることが考えられる。そこで、このような場合には、部材毎に許容停滞時間を設定して何れかの許容停滞時間に達したときに排液動作を実行するようにしたり、複数の部材のうち最も許容停滞時間が短い部材の許容停滞時間を設定しておき、その許容停滞時間に達したときに排液動作を実行するようにしたりすると良い。
【0069】
なお、上述の実施形態において、給液タンク12に、第2の実施形態において補給タンク29に設けたと同様に、送液ポンプとイオン交換器を備えた循環配管を設けるようにしても良い。このように構成すると、給液タンク12内の塗布液を循環配管に循環させることによって塗布液中に含有される金属イオンを除去することができるので、塗布ヘッド7に供給される塗布液を金属イオンが含有されていないもの、或いは、塗布液中の金属イオンの濃度が許容範囲内のものとすることができる。このような態様は、給液タンク12がステンレス鋼等の金属材料で形成する場合に適用して好ましい。なお、循環配管への塗布液の循環は定期的に行なうものであっても良いが、常時行った方が金属イオンの除去率を向上させることができるので好ましい。
【0070】
なお、第1の実施形態において、排液動作を塗布ヘッド7内の塗布液の停滞時間が許容停滞時間に到達したときに行なうものとして説明したが、これに限られるものではなく、例えば、常時行なうようにしても良い。すなわち、塗布ヘッド7の吐出孔7cから塗布液を吐出させる吐出動作の実行中であっても、僅かな流量(流速)であればノズルプレート7bに形成された流路内に塗布液を流しても、すなわち、給液タンク12から給液管13、給液分岐管14、塗布ヘッド7、排液分岐管22、排液管23内を通して補給タンク29へ塗布液を流しても、吐出孔7cからの液滴の正常な吐出に影響しないことがある。そこで、このような場合には、吐出孔7cからの液滴の吐出が正常に行なえる範囲内の流速で、給液タンク12から給液管13、給液分岐管14、塗布ヘッド7、排液分岐管22、排液管23内を通して補給タンク29へ塗布液を常時流すようにしても良い。なおこの場合、給液バルブ15、排液バルブ21、開閉バルブ28を開状態とし、分流バルブ24、流入バルブ26、補給バルブ32を閉状態とする。
【0071】
なお、塗布ヘッド7、給液タンク12或いは補給タンク29内の塗布液の金属イオンの濃度が許容範囲に達したことを経過時間に基づいて検出したが、これに限られるものではなく、他の手段、例えば、金属イオン濃度検出器などの測定装置を用いて塗布ヘッド7、給液タンク12或いは補給タンク29内の塗布液の金属イオンの濃度を直接検出するようにしても良い。
【0072】
また、塗布ヘッド7内から塗布液を排出させる際の塗布液の送液を、給液タンク12内に加圧気体を供給する加圧気体供給源を用いて行なったが、これに限られるものではなく、例えば、送液ポンプを用いる等、要は塗布液を送出できる手段であれば他の手段であっても良い。
【0073】
また、イオン交換器35を、補給管32や循環配管37に設けた例で説明したが、塗布液中に含有した金属イオンを除去することができれば良いので、他の位置、例えば、給液管13、各給液分岐管14、各排液分岐管22、或いは排液管23のいずれかに設けるようにしても良いし、これらの複数を組み合わせた位置に設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 塗布装置
12 給液タンク
13 給液管
14 給液分岐管
16 給気管(送液手段)
17 給気バルブ(送液手段)
18 加圧気体供給源(送液手段)
22 排液分岐管
23 排液管
29 補給タンク(回収タンク)
31 補給管
35 イオン交換器
36 イオン交換樹脂
37 循環配管
38 送液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット式の塗布ヘッドの吐出孔から塗布対象物に向けて塗布液を吐出させ前記塗布対象物上に塗布液を所定のパターンで塗布する塗布液の塗布装置において、
前記塗布ヘッドに供給する塗布液を貯留する給液タンクと、
前記塗布ヘッドと前記給液タンクとを接続し前記塗布ヘッドに塗布液を供給する給液管と、
前記塗布ヘッドから塗布液を排出する排液管と、
前記給液タンクに貯留された前記塗布液を前記塗布ヘッドへ向けて送液する送液手段と、
この送液手段を制御する制御装置とを備え、
前記塗布ヘッド、前記給液タンク、或いは前記給液管のうち少なくとも一つの部材は、前記塗布液と接触する部分に金属材料を含んで構成されてなり、
前記制御装置は、塗布液中に含有される金属イオンの濃度が設定濃度に到達したときに、当該塗布液を前記排出管を通して排出させるように前記送液手段を制御することを特徴とする塗布液の塗布装置。
【請求項2】
前記排液管に接続され、前記排液管から排出される前記塗布液を回収する回収タンクを備え、
前記回収タンクは、前記塗布液中に含有される金属イオンを除去するイオン交換器が接続されてなることを特徴とする請求項1に記載の塗布液の塗布装置。
【請求項3】
前記回収タンクと前記給液タンクとの間を接続する補給管を備え、
前記イオン交換器は、前記補給管に設けられることを特徴とする請求項2記載の塗布液の塗布装置。
【請求項4】
前記回収タンク内の塗布液を循環させるための循環配管を備え、
前記イオン交換器は、前記循環配管に設けられることを特徴とする請求項2記載の塗布液の塗布装置。
【請求項5】
前記塗布ヘッドは、前記塗布液と接触する部分に金属材料を含んで構成されてなり、
前記制御装置は、前記塗布ヘッド内において金属イオンの濃度が設定濃度に到達した塗布液が前記排出管を通して排出させるように前記送液手段を制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塗布液の塗布装置。
【請求項6】
前記給液管、前記排液管および前記補給管は、塗布液の流路を開閉するバルブを備え、
前記塗布ヘッド、前記給液タンク、前記給液管、前記排液管或いは前記バルブのうち少なくとも一つの部材は、前記塗布液と接触する部分に金属材料を含んで構成されてなり、
前記制御装置は、金属材料を含んで構成された前記部材内の塗布液中に含有される金属イオンの濃度が設定濃度に到達したときに、当該塗布液を前記排出管を通して排出させるように前記送液手段を制御することを特徴とする請求項3記載の塗布液の塗布装置。
【請求項7】
インクジェット式の塗布ヘッドの吐出孔から塗布対象物に向けて塗布液を吐出させ前記塗布対象物上に塗布液を所定のパターンで塗布する塗布液の塗布装置であって、
前記塗布ヘッドに供給する塗布液を貯留する給液タンクと、
前記塗布ヘッドと前記給液タンクとを接続し前記塗布ヘッドに塗布液を供給する給液管と、
前記塗布ヘッドに供給される塗布液中に含まれる金属イオンを除去するイオン交換器を備えたことを特徴する塗布液の塗布装置。
【請求項8】
前記塗布ヘッドから塗布液を排出する排液管と、
この排液管に接続され、前記排液管から排出される前記塗布液を回収する回収タンクと、
この回収タンクと前記給液タンクとを接続し前記回収タンク内の塗布液を前記給液タンクに補給するための補給管とを備え、
前記イオン交換器は、前記補給管に設けられることを特徴とする請求項6に記載の塗布液の塗布装置。
【請求項9】
前記塗布ヘッドから塗布液を排出する排液管と、
この排液管に接続され、前記排液管から排出される前記塗布液を回収する回収タンクと、
この回収タンクと前記給液タンクとを接続し前記回収タンク内の塗布液を前記給液タンクに補給するための補給管と、
前記回収タンク内の塗布液を循環させる循環配管とを備え、
前記イオン交換器は、前記循環配管に設けられることを特徴とする請求項6に記載の塗布液の塗布装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−161753(P2012−161753A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24770(P2011−24770)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】