説明

塗布用エアゾール製品

【課題】皮膚に紛体を含有した液剤を塗布するに際し、紛体による目詰まりが生じることなく、円滑な塗布を実現する。
【解決手段】塗布用エアゾール製品は、紛体を含有した液剤と噴射剤を充填したエアゾール容器Aと該エアゾール容器の弁に取り付けられる塗布体Bと、を有し、塗布体Bは、エアゾール容器Aの弁を構成するステム10に取り付けられる本体1と該本体1に装着される焼結多孔質体2からなり、本体1と焼結多孔質体2との間には空隙6が形成されると共に、焼結多孔質体2には一端が空隙6側に開口し他端が外部側に開口した貫通孔7が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布用エアゾール製品に係り、特に、紛体を含有した液剤であっても目詰まりを生じることなく、円滑に人体に塗布することができる塗布用エアゾール製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアゾール製品は、エアゾール容器に目的の内容物(液剤)と噴射剤を充填して構成されており、エアゾール容器の所定部位に設けた弁機構を開放することで噴射される。例えば、液剤が消炎鎮痛剤や害虫忌避剤、ローション、育毛剤等のように直接皮膚に噴射する医薬品や医薬部外品、化粧品である場合、噴射された液剤が飛散するという問題が生じる。このため、液剤の飛散を防止する目的で塗布材を介在させることがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に係る技術は、揮発性物質、液体、ペースト、固体等の物質を人体に塗布する際に用いるアプリケータユニットに関するものであり、多孔質の塗布半球状部を容器に備えた分配バルブの可動部に接続して構成されている。そして、半球状部を適用したときに作用する力によって分配バルブを動かし、半球状部を経由して物質を塗布分配し得るように構成されている。
【0004】
特許文献1に記載された多孔質の塗布半球状部に代表される多孔質体は、高分子材料からなる多数の粒体を焼結成形して形成されている。このような半球状部には粒体どうしの間に連続した隙間が形成されることとなり、この隙間を通って塗布すべき物質が表面に浸出することとなる。また、粒体の粒度や成形密度を適宜選択することによって、表面の滑らかさを好ましい状態となるように設定することができる。
【0005】
一方、直接皮膚に作用させる液剤として制汗剤がある。この制汗剤は、皮膚に付着したときにサラサラ感を得るために紛体を含有させて液剤を構成し、この液剤をエアゾール容器に充填して所要の部位に向けて噴射させることで適用するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−000740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の如く、エアゾール製品として提供されている制汗剤は適用すべき部位に向けて噴射されるため、液剤が飛散するという問題がある。このため、塗布体を介して所要の部位に塗布し得るようにした制汗剤が要求されているのが実情である。
【0008】
上記特許文献1に記載された半球状部を含む多孔質体に形成された隙間は、多数の粒体によって規制されて網目状に形成されるものの、該隙間の寸法は管理されたものではない。このため、紛体を含有した液剤を多孔質体を介して皮膚に塗布しようとしたとき、多孔質体に形成された隙間が目詰まりを起こして、液剤が円滑に多孔質体の表面に浸出しないという問題が生じた。
【0009】
本発明の目的は、紛体を含有した液剤を塗布するに際し、紛体による目詰まりが生じることなく、円滑な塗布を実現することができる塗布用エアゾール製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る塗布用エアゾール製品は、紛体を含有した液剤と噴射剤を充填したエアゾール容器と該エアゾール容器の弁に取り付けられる塗布体と、を有し、前記塗布体は、エアゾール容器の弁を構成するステムに取り付けられる本体と該本体に装着される高分子焼結多孔質体からなり、前記本体と高分子焼結多孔質体との間には空隙が形成されると共に、前記高分子焼結多孔質体には一端が前記空隙側に開口し他端が外部側に開口した貫通孔が形成されているものである。
【0011】
上記塗布用エアゾール製品に於いて、前記高分子焼結多孔質体がポリエチレン又はポリプロピレン或いはエチレン・酢酸ビニルコポリマーを主成分とする粒体を原料として形成されていることが好ましい。
【0012】
また、上記何れかの塗布用エアゾール製品に於いて、高分子焼結多孔質体の標準平均気孔径が5μm乃至100μmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る塗布用エアゾール製品では、塗布体は、エアゾール容器の弁を構成するステムに取り付けられる本体と、該本体に装着される高分子焼結多孔質体(以下、単に「焼結多孔質体」という)とによって構成されている。更に、本体と焼結多孔質体との間に空隙が形成され、焼結多孔質体には一端が空隙側に開口し他端が外部側に開口した貫通孔が形成されている。このため、弁から噴射された液剤は本体を経て該本体と焼結多孔質体との間に形成された空隙に至り、この空隙から焼結多孔質体に形成された隙間と貫通孔を通って該焼結多孔質体の表面に浸出する。
【0014】
特に、焼結多孔質体に形成された貫通孔が空隙と外部とを連通させているため、液剤に含有された紛体による目詰まりを起こすことなく、円滑な液剤の通過を実現することができる。
【0015】
また、焼結多孔質体をポリエチレン又はポリプロピレン或いはエチレン・酢酸ビニルコポリマーの粒体を原料として焼結成形することによって、肌触りを滑らかにすることが出来る。特に、標準平均気孔径を5μm〜100μmの範囲に形成することによって、皮膚に接触したときの使用感を向上させ、且つ1回の動作毎に適正な塗布量を確保することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例に係る塗布用エアゾール製品の要部断面図である。
【図2】図1の上面斜視図である。
【図3】本実施例に係る焼結多孔質体の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下上記塗布用エアゾール製品の好ましい実施形態について図を用いて説明する。図に示す塗布用エアゾール製品は、部分的に記載したエアゾール容器Aと、このエアゾール容器Aの弁に取り付けられた塗布体Bとを有して構成されている。塗布体Bはエアゾール容器Aの弁を構成するステム10に取り付けられており、該塗布体Bを皮膚に押圧させたとき、ステム10を通過した液剤を浸出させて塗布し得るように構成されている。
【0018】
エアゾール容器Aには、紛体を含有した液剤と、噴射剤と、が充填されており、ステム10を押圧して内側へと移動させるのに伴って、噴射剤によって加圧された液剤を噴射することが可能である。
【0019】
液剤に含有される紛体の材質や粒度及び含有率等の条件は特に限定するものではなく、液剤の機能に応じて適宜設定することが好ましい。このような紛体を含有する液剤の代表的な例としての制汗剤の場合、紛体として粒度20μm程度の多孔質紛体を利用すると共に、液体としてエタノールを利用し、前記紛体を前記液体に約1%〜約10%含有させて構成されている。
【0020】
エアゾール容器Aに充填された液剤を噴射するための噴射剤も特に限定するものではない。一般的なエアゾール製品で噴射剤として利用されている液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)、或いは炭酸ガスや窒素ガス等の圧縮ガス、更にはハイドロフルオロカーボン(HFC)等の代替フロンガス、等のガスを選択的に利用することが可能である。
【0021】
塗布体Bは、エアゾール容器Aの弁を構成するステム10に取り付けられる本体1と、本体1の表面に装着された焼結多孔質体2と、を有して構成されている。またエアゾール容器Aには肩カバー3が取り付けられており、該肩カバー3にキャップ4が着脱可能に取り付けられている。
【0022】
本体1は、頂部1aと、該頂部1aの中心から下方に突出して形成されステム10を嵌合すると共に該ステム10と連通した孔1bを有するボス状の取付部1cと、頂部1aの外周に沿ってリング状の凹溝として形成され焼結多孔質体2を装着するための装着部1dと、を有して構成されている。
【0023】
特に、装着部1dは、内周が頂部1aの外周から下方に立ち下がった立下片1eによって規定され、外周が立上片1fによって規定され、底部がリング状の底片1gによって規定されている。そして、装着部1dに焼結多孔質体2の嵌合部2bを嵌合させたとき、該嵌合部2bを立下片1eと立上片1f及び底片1gによって保持している。
【0024】
上記の如き形状を持った本体1を構成する材料は特に限定するものではなく、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を用いることが可能である。特に、本体1を構成する材料は、成形後多少の弾力性を発揮し得るものであることが好ましく、このような弾力性を有することで、焼結多孔質体2を装着する際に、該焼結多孔質体2に寸法のばらつきが生じているような場合でも、このばらつきを吸収することが可能である。
【0025】
焼結多孔質体2はポリエチレン又はポリプロピレン或いはエチレン・酢酸ビニルコポリマーの粒体を原料とし、この原料を焼結成形することによって構成されている。即ち、焼結多孔質体2は、予め設定された粒度の範囲に管理されたポリエチレン又はポリプロピレン或いはエチレン・酢酸ビニルコポリマーの粒体を成形型に収容した後、高圧、高温下で成形して製造されている。
【0026】
このように焼結多孔質体2の原料としてポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニルコポリマー等の中から選択された材料を用いることによって、塗布使用時の皮膚に対する感触を向上させることが可能である。
【0027】
上記の如くして成形された焼結多孔質体2では、粒度を管理された多数の粒体が互いに強固に結び付いて形成されるため、隣接する孔が互いに連続して網目状の隙間(気孔)が形成される。このため、孔径を5μm〜100μmの範囲で厳密に管理した焼結多孔質体2として製造することが可能である。
【0028】
本実施例に於いて、焼結多孔質体2は、孔径が5μm〜100μmの範囲に設定されると共に、空孔率が30%〜50%の範囲に設定されている。この空孔率は、焼結多孔質体2に孔の比率を示すものであり、空孔率をDとし、嵩密度をDtとし真密度をDoとしたとき、
D=(1−Dt/Do)×100
で計算されるものである。
【0029】
焼結多孔質体2は全体が浅いカップを伏せた形状を有している。この焼結多孔質体2の表面2aは球の一部の形状を持って形成されており、外周部分は本体1に設けた凹溝からなる装着部1dに嵌合するリング状の嵌合部2bとして形成されている。このように、焼結多孔質体2の外周部分にリング状の嵌合部2bが形成されることによって、中心には円筒状の凹溝2cが形成され、該凹溝2cの底面である本体1の頂部1aと対向する対向面2dが形成される。この対向面2dは、表面2aの曲率と略等しい曲率を持った球面の一部として形成されており、対向面2dに対応する焼結多孔質体2は表面2aの間で略均等な厚さを有する。
【0030】
焼結多孔質体2に形成された凹溝2cの深さは、本体1の頂部1aの外周に形成された立下片1eの高さよりも大きい寸法を有している。このため、焼結多孔質体2の嵌合部2bを本体1の装着部1dに嵌合させたとき、本体1の頂部1aと焼結多孔質体2の対向面2dとの間に、凹溝2cの深さと立下片1eの高さとの差に応じた高さを持った空隙6が形成される。
【0031】
空隙6は、ステム10から本体1の孔1bを経て噴射された紛体を含有した液剤を、後述する貫通孔7に対し万遍なく分散させるための空間となるものであり、個々の貫通孔7に対向して形成されたものであっても良い。しかし、本体1の頂部1aと焼結多孔質体2の対向面2dとの間を一つの部屋として構成することが好ましい。
【0032】
空隙6の深さは特に限定するものではなく、噴射すべき液剤の性質や該液剤に含有した紛体の条件等に応じて適宜設定することが好ましい。しかし、使用する毎に空隙6に液剤が滞留するため、空隙6の深さが余りに大きくなると無駄になる液剤の量が多くなる虞があり、空隙6の深さが小さいと焼結多孔質体2の表面2aに万遍なく液剤を浸出させるのが難しくなる虞がある。
【0033】
焼結多孔質体2には、一端が対向面2dに開口し他端が表面2aに開口する貫通孔7が形成されている。この貫通孔7は、液剤に含有された紛体を円滑に焼結多孔質体2の表面2aに通過させるためのものである。このため、貫通孔7は、焼結多孔質体2に形成されている網目状の隙間の寸法よりも十分に大きい寸法を有して形成されている。
【0034】
また、貫通孔7は焼結多孔質体2に網目状に形成されている隙間とは異なり、該焼結多孔質体2を厚さ方向に貫通して形成されている。しかし、貫通孔7は必ずしも直線的に形成されている必要はなく、多少曲がりが生じていたとしても、焼結多孔質体2を厚さ方向に貫通していれば良い。
【0035】
上記の如く、貫通孔7は焼結多孔質体2に形成された網目状の隙間よりも十分に大きい寸法を有しており、且つ焼結多孔質体2を厚さ方向に貫通して形成されるため、網目状の隙間の流路抵抗と比較して極めて小さい流路抵抗となる。従って、空隙6に噴射された液剤に含有された紛体を円滑に通過させることが可能であり、該貫通孔7を通過した紛体を焼結多孔質体2の表面2aに付着させておくことが可能である。
【0036】
焼結多孔質体2に形成する貫通孔7の太さや数は限定するものではなく、液剤に含有する紛体の粒度や含有率、及び一度使用する毎の適量等の条件を考慮して適宜設定することが好ましい。
【0037】
また、貫通孔7を如何なる方法で形成するかは限定するものではなく、焼結多孔質体2を成形する際に中子を設けて形成する方法や、焼結多孔質体2を成形した後、ドリルによって機械的に形成する方法等の方法があり、加工のし易さやコストの面を考慮して適宜選択することが好ましい。
【0038】
本実施例では、焼結多孔質体2に太さが約2mmの貫通孔7を3本形成している。
【0039】
上記の如く形成された本体1、焼結多孔質体2では、本体1の装着部1dに焼結多孔質体2の嵌合部2bを嵌合させることで、焼結多孔質体2を本体1に装着して塗布体Bを構成することが可能である。そして、本体1の取付部1cをエアゾール容器Aのステム10に嵌合させることで、塗布用エアゾール製品を構成することが可能である。
【0040】
肩カバー3は、エアゾール容器Aの肩部に取り付けられると共に、上端部分にキャップ4を着脱可能に取り付ける機能を有するものである。肩カバー3は外径がエアゾール容器Aの外径と略等しく形成されており、下端部にはエアゾール容器Aに取り付けられる突起状の取付部3aが内側に向けて形成され、上端部にはキャップ4を取り付けるための取付部3bが形成されている。
【0041】
本発明に於いて、焼結多孔質体2として、ポリエチレン又はポリプロピレン或いはエチレン・酢酸ビニルコポリマーを材料とした高分子焼結多孔質体を用いており、更に、該焼結多孔質体2の標準平均気孔径を5μm〜100μmの範囲に設定している。そして前記条件を満足した焼結多孔質体2を用いることで、該焼結多孔質体2が直接使用者の皮膚にふれたときの感覚、即ち、使用感の向上をはかると共に適正な塗布量を確保し得るようにしている。
【0042】
皮膚に直接接触する焼結多孔質体2は、液剤の浸出状態の良否もさることながら、皮膚に接触したときの感触が大きな比重を占めている。このため、焼結多孔質体2の標準平均気孔径は5μm〜100μmの範囲が好ましく、10μm〜100μmの範囲であることがより好ましく、更に、10μm〜50μmであることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る塗布用エアゾール製品は、紛体や短い繊維体を含有した液剤を人体に塗布するエアゾール製品に利用して有利である。
【符号の説明】
【0044】
A エアゾール容器
B 塗布体
1 本体
1a 頂部
1b 孔
1c 取付部
1d 装着部
1e 立下片
1f 立上片
1g 底片
2 焼結多孔質体
2a 表面
2b 嵌合部
2c 凹溝
2d 対向面
3 肩カバー
3a、3b 取付部
4 キャップ
6 空隙
7 貫通孔
10 ステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紛体を含有した液剤と噴射剤を充填したエアゾール容器と該エアゾール容器の弁に取り付けられる塗布体と、を有し、
前記塗布体は、エアゾール容器の弁を構成するステムに取り付けられる本体と該本体に装着される高分子焼結多孔質体からなり、前記本体と高分子焼結多孔質体との間には空隙が形成されると共に、前記高分子焼結多孔質体には一端が前記空隙側に開口し他端が外部側に開口した貫通孔が形成されていることを特徴とする塗布用エアゾール製品。
【請求項2】
前記高分子焼結多孔質体がポリエチレン又はポリプロピレン或いはエチレン・酢酸ビニルコポリマーを主成分とする粒体を原料として形成されていることを特徴とする請求項1に記載した塗布用エアゾール製品。
【請求項3】
高分子焼結多孔質体の標準平均気孔径が5μm乃至100μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載した塗布用エアゾール製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192971(P2012−192971A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60042(P2011−60042)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000185363)小池化学株式会社 (11)
【Fターム(参考)】