説明

塗布装置および塗布方法

【課題】 大きな塗布領域に均一にムラなく、色度の仕様に関する要求を満たし、透過光量を有効範囲全体で均一化するカラーフィルター等を低コストで実現する塗布装置を提供する。
【解決手段】 複数の吐出ノズルを有した塗布ヘッドにより、塗布対象物に前記吐出ノズルによって塗布材を微量の液滴として塗布する装置であって、制御装置の制御により、前記塗布ヘッドが対象物と相対移動し、対象物に塗布材を供給して、前記塗布ヘッドの有効幅以上の領域を塗布する工程において、塗布領域の一部を塗布ヘッドの走査方向に直角な方向の移動により、端部を重複走査する重ね塗りとし、重複部分で前記塗布ヘッドの端に向け、吐出ノズルの吐出量に段階的な傾斜を設け、少なくとも1往復以上の塗布ヘッドの走査により対象物全有効域に塗布材を均一に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置内の所定の位置に保持された塗布対象物に対して、複数の吐出ノズルを有する塗布ヘッドによって着色材料などの塗布すべき材料を吐出する塗布装置及び塗布方法に関する。特に塗布対象物の塗布領域が小区画(画素と呼ぶ)に分割されたその小区画に多色の着色材料を吐出・充填する場合等に大きな効果を期待できる。
【背景技術】
【0002】
最近の情報端末の画像表示技術の進展には目を見張るものがあり、大画面のものや、或いは小型の画面でも、非常に高い精細度の映像表示機器(ディスプレイ)が製造、実用化されている。そのような状況の中、低コストで高品位な画像表示を可能とするディスプレイに対する要求が強い。こうした要求に応えるディスプレイのキーデバイスとして、カラーフィルタがあり、そのカラーフィルタの製造方法・装置にも様々な工夫が取り入れられている。
【0003】
そうしたカラーフィルタの製造方法・装置に関する従来のコーティング技術では、塗布対象物であるガラス基板等に、遮光機能を果たす種々の材料によってマトリクス状に遮光部を形成した塗布対象物において、そのマトリクス状の遮光部のマス目(小区画である塗布領域「画素」)の中に着色材料を充填してカラーフィルタとしての機能を実現している。
【0004】
最近では、その塗布対象物の「画素」に着色材料を充填する方法として、複雑な工程に頼らざるを得なかった従来のコーティング技術に代わり、「画素」に着色材料を吐出・充填するインクジェットヘッドを装備した塗布装置によって塗布対象物であるマトリクス状に遮光部を形成したガラス基板等上に、カラーフィルタの機能を実現するための必要な原色数の着色材料をインクジェットヘッドに形成されたインクジェットノズルから吐出・充填してカラーフィルタを製造する方法が提案されている。
【0005】
このインクジェットヘッドを搭載した塗布装置を用いて着色材料等を吐出・充填する場合、大画面のカラー液晶TV、プラズマTV或いはその他のディスプレイ機器向けの大型のカラーフィルタや、或いは小画面の情報端末用のディスプレイなど小型のカラーフィルタでも一枚の基板から大量に分割してカラーフィルタを得ようとする場合、一度に大きな面積である塗布対象物に大きく拡がり形成された多数の画素に着色材料等を吐出・充填する必要がある。
【0006】
こうした大きな面積を持つ塗布対象物としてのカラーフィルタの生産において迅速に、効率的に、全ての画素へ着色材料の吐出・充填を完了させるには、複数のインクジェットヘッドを直線的に長く搭載した有効塗布幅の大きなインク吐出部を持った塗布装置であれば、インク吐出部とガラス基板間の相対的な、少ない移動回数でガラス基板等の全ての画素に着色材料を吐出・充填することで可能である。
【0007】
また、個々の画素に着色材料を吐出・充填することを短時間で完了するには
1)1つのインクジェットノズルからの1回に吐出する量を大にする
か、或いは
2)画素に対応するインクジェットノズルの数を増やす(=高密度に配列する)
という2つの選択肢がある。
【0008】
しかし、1)の一度に大量の着色材料を吐出する方法では
カラーフィルタの画素の縦横寸法が百ミクロン単位と小さなもので、さらにマトリクス状の遮光部の隔壁の高さも数μm程度と低いので、着色材料が1つの画素から隣接する画素に溢れ出てしまい、色違いの区画が隣接していれば「混色」の原因に、また同じ色であっても乾燥工程後の着色剤充填部の厚みに差が発生して、カラーフィルタの部分的な「透過光量の差」となって品位低下に、或いは不良品と判定される低レベルの着色材料の塗布にとなってしまい、実用的でない。
【0009】
従って、2)の微量の着色材料を吐出するインクジェットノズルを高密度に配列する方策が選択肢として残る。
【0010】
その方策の一つとして特許文献1では、ノズル数が少ない横幅の複数の小さなインクジェットヘッドそれぞれを、同じ角度に傾けて配列・配置して支持手段に装着する。それによって塗布装置の走査方向に直角な方向のインクジェットノズルの実効配列密度を高め、ノズル間ピッチを画素(引例呼称;フィルタエレメント)の隣接画素間ピッチに一致させる等などによって、画素への着色材料の吐出・充填に必要なインクジェットノズルの配列密度を実現する方法が開示されている。
これによって、ノズル数の多い大きな幅の1つのインクジェットヘッドを走査方向に直角な方向に同じ傾き角斜を持たせた場合と比べると、同じ塗布幅の実現するに当りインクジェットヘッドの走査方向の寸法を小さくすることができ、結果として同じ塗布に必要な走査距離で比較すると装置の総走査距離が短く、製造時間を短縮できるとしている。
【0011】
また、特許文献2では、個々のインクジェットヘッドに備えられたノズル間の吐出量のバラツキよってカラーフィルタに色ムラや筋ムラが発生することを解消するための対策として、
直線的にインクジェットヘッドを繋ぐ、或いは隣接する一組のインクジェットヘッドを走査方向にずらしてその端部を重ね合うように並列に配置して一つの長尺ノズル列とする。
【0012】
その長尺ノズル列を複数組用意し、それぞれの長尺ノズル列を走査方向に直角な方向に、長尺ノズル列の繋ぎ(重ね合わせ)部分をずらして並列に配置し、1つの画素の領域を走査するノズルを複数とする構成を開示している。
これによって、1つの画素に複数のインクジェットヘッドのノズルから着色材料の吐出・充填を行なうので、インクジェット個体のノズルからの吐出量のバラツキが低減され、色ムラや筋ムラの発生が抑えることができるとしている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−273868号公報
【特許文献2】特許第3925525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1の方法については、特許文献2で開示されたように、複数のインクジェットヘッド(引例;液滴吐出ヘッド)間で吐出量に多少のバラツキが生じるのが避けられないため、例えば、あるインクジェットヘッドによって着色材料(引例;液状材料)を吐出・充填された画素では色が濃くなり、他のインクジェットヘッドによって着色材料を吐出・充填された画素では色が薄くなるなどして、パネル内に色ムラを生じるという問題があった。
【0015】
本発明者等は、吐出量のバラツキの要因を探る中で、個々のインクジェットノズルから吐出された着色材料の量に注目した。その結果、個々のインクジェットノズルからの吐出する量は、同時に作動する近傍のインクジェットノズルの吐出による影響を受け、そのインクジェットノズルから単独で着色材料を吐出した場合に比べ5〜10%程度吐出する着色材料の量が増加し、それによる透過光量の差や色ムラが大きいことを確認した。
こうした影響を特許文献2の方法で避けるには、多くの長尺ノズル列を準備し、それらを何重にも並列配置して、1つの画素に多くのインクジェットヘッドから着色材料を吐出・充填させることが必要になり、それをカラーフィルタに用いる原色の数だけ備えるのは経済的、実用的ではない。
【0016】
本発明者等は、また従来方式のコーティング技術等を含めた自社のカラーフィルタ生産の経験から、透過光量の差や色ムラの低減には、評価尺度である「色度」の許容値を規定の値に抑えることにより実用化が可能であり、カラーフィルターとしての「色度」の許容値が、有効領域全体において1000分の3であり、この「色度」の許容値を実現するには個々の画素に吐出・充填される着色材料の塗布量バラツキの許容値を3%以下にすることであることを確認している。
本発明は、これをカラーフィルタの目標仕様とし、その仕様を満足して色ムラや筋ムラのない画素への着色材料の吐出・充填が可能である塗布装置・方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記した問題に鑑み、
複数の吐出ノズルを有した塗布ヘッドにより、塗布対象物に前記吐出ノズルによって塗布材を微量の液滴として塗布する装置であって、制御装置の制御により
前記塗布ヘッドが対象物と相対移動し、対象物に塗布材を供給して、前記塗布ヘッドの有効幅以上の領域を塗布する工程において、
塗布領域の一部を塗布ヘッドの走査方向に直角な方向の移動により、端部を重複走査する重ね塗りとし、
重複部分で前記塗布ヘッドの端に向け、吐出ノズルの吐出量に段階的な傾斜を設け、
少なくとも1往復以上の塗布ヘッドの走査により対象物全有効域に塗布材を均一に塗布することを特徴とする構成としている。
また、前記重複する領域の幅が、少なくとも塗布ヘッドの全吐出ノズルの両端に位置する相対吐出量の低い吐出ノズルの塗布領域の幅、及び/或いは少なくとも3画素以上である構成としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塗布対象物有効域全面で色ムラが少なく、均一に塗布材を塗布することができ、また塗布ヘッドの走査方向に沿った直線的な塗布量のバラツキによる筋ムラが発生することもない塗布が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を、塗布対象物としてカラーフィルタ用ガラス基板、塗布ヘッドとして多数のノズルを持つインクジェットヘッドの複合体を用いる実施形態ついて、赤(R)緑(G)青(B)3色のインクを用いたカラーフィルタを生産する装置及び方法によって説明する。
図1は本発明に係るカラーフィルタ製造装置を示す斜視図、図2は本発明に係るカラーフィルタ製造装置の要部を示す平面図、図3はインクジェットヘッドの配列の一例を示す平面概略図、図4はインクジェットノズルの配列を説明する平面図である。
【0020】
これら各図において、直交座標系の3軸をX,Y,Zとし、XY平面を水平面、Z軸方向を鉛直方向、鉛直軸周りの回転方向をθ方向とする。また、図1の紙面手前側を上流とし、紙面奥側を下流とする。図2では紙面右側が上流、紙面左側が下流となる。そして、上流から下流に向かう動作を往動、下流から上流に向かう動作を復動とする。
【0021】
図1に示すように、本発明に係るカラーフィルタ製造装置1は、機台2、吸着ステージ3、塗布ガントリー4、インク吐出部5、カメラガントリー6、アラインメントカメラ7、スキャンカメラ8、基板搬送ロボット9及び制御装置10などを備える。
【0022】
機台2は、カラーフィルタ製造装置1の主構成部(例えば吸着ステージ3、塗布ガントリー4、カメラガントリー6など)を可動に支持する台座として機能し、主として石材により構成される。石材とするのは温度変化に伴う変形を最小限に抑えるためである。
【0023】
吸着ステージ3は、図2に示すように、マトリクス状の遮光部を形成したガラス基板Kを、十分な平面度を確保して載置可能な載置面31を有し、機台2と同様に石材で構成される。その載置面31には、図示しない吸引ポンプに接続されガラス基板などに負圧を与える複数の吸着孔32と複数のリフトピン孔33が形成され、リフトピン孔33には上下動可能なリフトピン34とが備えられている。そしてガラス基板Kは基板搬送ロボット9によって、リフトピン34上に搬送され、そのリフトピン34の緩やかな降下後、載置面に吸着孔32からの負圧で固定される。
吸着ステージ3はまた、図示しないステージ回転駆動手段によりθ方向に回動駆動可能とされる。
【0024】
塗布ガントリー4は、吸着ステージ3を跨ぐことのできるサイズの門型形状とされ、少なくとも吸着ステージ3の幅間隔を隔てて立設した2本の支柱部41と、2本の支柱部41間に架設した水平枠部42とを備える。そして、吸着ステージ3を跨いだ状態で、一対の第1リニアモータ43によりX軸方向に走行可能となるように、機台2上に支持される。一対の第1リニアモータ43は、機台2の両端にX軸に沿って互いに平行に取り付けられる。
【0025】
上記水平枠部42は、2本の支柱部41にそれぞれ設けられたリニアモータ或いはボールネジによる駆動機構等で構成するサーボモータ機構44によりZ方向に昇降可能とされる。水平枠部42には、インク吐出部5が第2リニアモータ45によりY軸方向に走行可能となるように設けられる。第2リニアモータ45は、水平枠部42にY方向に沿って取り付けられる。
【0026】
図3に示すインクジェットヘッドの配列の一例によったインク吐出部5は、赤(R)、緑(G)、青(B)の着色材料のいずれかを塗布するためのものであり、特には図示していないが、他の着色材料を塗布するためのインク吐出部5も並行に設けられている。
【0027】
図3の例では、RGB各色ごとのインク吐出部5は、インクジェットヘッド51を5つ並列に配置した5段で一つの列を構成し、段を構成するインクジェットヘッド51を3段と2段と2分割して、それらを千鳥状に6列配備した合計30ヘッドで構成している。
【0028】
図4は1つのインクジェットヘッド51と並列或いは隣接するインクジェットヘッド51それぞれのインクジェットノズル52が配置される配列ピッチPの関係を示す説明の図である。図のように、インクジェットヘッド51に設けられたインクジェットノズル52が、列をなす5つのインクジェットヘッド51の5つのインクジェットノズル52それぞれが、端から整然とピッチP分ずれた位置に配置されている。
さらに、その列の他端にあるインクジェットノズル52から、隣接する列の端のインクジェットノズル52が、ピッチPで配置されるという位置関係を示している。
つまり個々の列をなすインクジェットヘッド51のインクジェットノズル52の間においても、また塗布幅を確保する為に走査方向に直角な向きに直線的に隣接する2つの端のインクジェットヘッド51の間においても、全てがピッチPで配置される。
これにより、有効塗布幅全体に隙間なく、必要なピッチPの配置でインクジェットノズル52が存在する。
【0029】
図1に戻って、カメラガントリー6にはアラインメントカメラ7、スキャンカメラ8が機台2上の測定基準位置に調整した上でカメラガントリー6に装着・固定されており、アラインメントカメラ7によってガラス基板K上に付されたアライメントマーク(図5参照)を読み取り、基準点からのズレを計測して機台2上のガラス基板KのXY平面における角度のズレを計算し、計算結果に基づいて吸着テーブル3を回転させることにより、ガラス基板Kのアラインメントと、ガラス基板の持つ画素配置の位置情報などからガラス基板の原点補正を達成することができる。
【0030】
また、カメラガントリー6には、ガラス基板Kに着弾した着色材料を検出・計測するスキャンカメラ8を装着・保持することがより好ましく、このスキャンカメラ8は、カメラガントリー6上を、Y方向、Z方向に往復移動可能に装着され、駆動される。
【0031】
なお、スキャンカメラ8に代えて二次元CCDカメラを採用することによれば、ガラス基板Kに着弾した液滴を、ガラス基板K表面におけるその直径から面積を演算し、徐々に高さを一定のステップで上げて、それぞれの面積を演算することにより、液滴の体積を算出することが可能であり、その着色材料を吐出したインクジェットノズルごとに着色材料の吐出量を精度高く計測・演算することができる。
【0032】
次に、図5から図8も参照して、上記のように構成されたカラーフィルタ製造装置1の動作を説明する。図5はカラーフィルタの形成対象となるガラス基板Kの画素配列のイメージ図、図6A,Bは本発明に係るカラーフィルタ製造装置の概略動作を示すフローチャート、図7は塗布量を段階的に傾斜を持たせたインクジェットノズル選択の一例を示す図、図8はインク吐出部5の有効塗布幅の境界付近の画素に、1つの色についてその着色材料の吐出・充填を段階的な傾斜を設けて2回の吐出で充填されるイメージ図である。
【0033】
カラーフィルタを作成しようとするガラス基板Kの表面には、図5に示すように、カラーインクの塗布区画を形成するマトリクス状の遮光部であるブラックマトリクスBM、及びアラインメントマークM1が予め形成されている。図中の「R」「G」「B」は赤、緑、青色のそれぞれの目的色に対応する画素であることを示す。
【0034】
また、カラーフィルタ製造装置1は、吸着ステージ3は非吸着状態、塗布ガントリー4は最上流位置、インク吐出部5は非吐出状態、カメラガントリー6は最下流位置である。基板搬送ロボット9における可動支持台93上には、ガラス基板Kが載置されている状態として説明を進める。
動作は特別な説明がある場合を除き、制御装置10の制御に基づき駆動制御される。
【0035】
〔ガラス基板搬入(ステップS1)〕
まず基板搬送ロボット9は、可動支持台93を駆動してガラス基板Kを吸着ステージ3の真上に搬送する。並行して機台2の吸着ステージ3の載置面31では、リフトピン孔33からリフトピン34を上昇し、基板搬送ロボット9は、可動支持台93を徐々に降下させ、ガラス基板Kをリフトピン34の先端部に載せる。ガラス基板Kをリフトピン34に載せた後、基板搬送ロボット9は、可動支持台93を待避させる。
吸着ステージ3は、ガラス基板Kを支承したリフトピン34を降下させ、ガラス基板Kが降下して載置面31に到達したとほぼ同時に、吸引ポンプによって真空吸着孔32に負圧を発生させ、ガラス基板Kを載置面31上に負圧により吸着保持する。
【0036】
〔ガラス基板位置決め(ステップS2)〕
ガラス基板Kの吸着ステージへの吸着が終えた後、第1リニアモータ43によってアラインメントカメラ7をアラインメントマークM1の上方に移動する。
アラインメントカメラ7はアラインメントマークM1を撮像し、得られた画像データを制御装置10に送り、送られた画像データを画像処理してアライメントマークM1のそれぞれの座標を算出し、ガラス基板Kの機台2上のXY平面における角度のズレと、ガラス基板Kの原点位置を算出補正する。
ガラス基板Kの角度のズレは図示しないステージ回転駆動手段を駆動制御することにより、ガラス基板Kの角度ズレの修正を行う。
【0037】
〔塗布前準備(ステップS3)〕
第1リニアモータ43は、塗布ガントリー4を移動させてインク吐出部5が、ガラス基板Kにおける上流側の塗布開始位置に合わせる。続いて、サーボモータ機構44は、インクジェットノズル52の吐出口とガラス基板Kの表面との隙間が0.25mm〜1.0mm程度の微少間隔となるように、インク吐出部5を降下させる。
【0038】
次に、塗布動作を詳細に説明する
〔着色材料塗布(ステップS4)〕
本発明に係るカラーフィルタ製造装置1のガラス基板Kにおける全画素gsに対して、目的色の着色材料を塗布する一連の動作は、図8Aに示す大きな矢のように上流から下流への往動の走査による塗布、隣接塗布区画へ移るY軸方向移動、そして図8Bに示す大きな矢のように下流から上流に向かう復動の走査による塗布により、インクジェットヘッド51から着色材料をガラス基板Kに吐出・充填して塗布動作を終了する。
以下にさらに詳しく説明する。
【0039】
〔往動による塗布〕
第1リニアモータ43の駆動により、塗布ガントリー4を往動させる。これによりインク吐出部5は、図8Aの矢に示すように、インクジェットノズル52の吐出口とガラス基板Kの表面とが微少間隔を保ち移動する。制御装置10は、塗布目的とする画素gsに、所定の色の着色材料を所定タイミングで所定量の着色材料を吐出するように、インク吐出部5に指令を送る。これによって、ガラス基板KのブラックマトリクスBMにおける各画素gsに、適正量の着色材料が塗布される(図6BのステップS42,S43参照)。
【0040】
この往動による塗布では、制御装置10の指令によってインクジェットヘッド51のインクジェットノズル52からの着色材料の吐出により着色材料が塗布された画素の充填量は、図8Aのように重複塗布領域にあるインク吐出部5の塗布幅において黒白濃淡で判るように、端に向かって段階的に傾斜を設けている。この図では示していないが、他の色も同じように、ほぼ同時に塗布される。
【0041】
〔往動塗布終了後のインク吐出部のY方向シフト〕
第1リニアモータ43の駆動により、塗布ガントリー4がガラス基板K上を所定の塗布有効領域の終端、或いは塗布ガントリー4の移動端まで移動して停止する。
その後、第2リニアモータ45の駆動によりインク吐出部5をY方向に移動させる。
【0042】
この移動量は、少なくとも塗布有効幅Wが復路走査で段階的な傾斜を設けて塗布された画素を含む領域を重複して走査し、着色材料を吐出・補完して所定量を充填する位置へとインク吐出部5をY方向へ移動させる距離となる。
【0043】
〔復動による塗布〕
第1リニアモータ43の駆動により、塗布ガントリー4を復動させる(ステップS41)。これによりインク吐出部5は、図8Bの矢に示すように下流から上流に、往動時と同じようにインクジェットノズル52の吐出口とガラス基板Kの表面とが微少間隔を保ち移動する。
【0044】
制御装置10は、塗布対象である画素gsに、所定の色の着色材料を所定タイミングで所定量の着色材料を吐出するように、インク吐出部5に指令を送る。これによって、ガラス基板KのブラックマトリクスBMにおける各画素gsに、段階的な傾斜を設けた量とした領域も含め全ての有効画素に、総量で所定量となる着色材料が塗布される(図6BのステップS42,S43参照)。
こうして上流から下流への1回の往復走査ですべての画素へ、着色材料を所定量充填することができる。
【0045】
インク吐出部5がガラス基板Kにおける上流側の塗布終了位置に到達したら(ステップS44でイエス)、第1リニアモータ43は、機台2のX軸原点まで移動し、塗布ガントリー4の走行を停止させる。
その後、第2リニアモータ45の駆動により、インク吐出部5を初期位置まで戻して終了する(ステップS45参照)。
【0046】
本発明によるカラーフィルタへの着色材料の塗布では、対象の塗布領域の一部を、塗布ヘッドの走査方向に直角な方向の移動により端部が重複走査する重ね塗りとし、
重複部分で前記塗布ヘッドの端に向け、吐出ノズルの吐出量に段階的な傾斜を設け、
少なくとも1往復以上の塗布ヘッドの走査により対象物全有効域に塗布材を均一に塗布することができる。
【0047】
この場合の、重複する領域の幅が、少なくともインク吐出部の全吐出ノズルの両端に位置する相対吐出量の低い吐出ノズルの塗布領域の幅、及び/或いは少なくとも3画素以上であることが好ましい。
【0048】
次に、本発明の塗布装置により塗布領域全面にわたり均一に塗布する仕組みを実施例をもとに説明する。
【実施例1】
【0049】
本発明の実施例として、代表的な37インチサイズの高精細テレビ受像機に対応できる幅180μm、長さ530μmの大きさの画素に、インク吐出部5を搭載した塗布ガントリー4の1回の往復走査によって、塗布領域の一部を塗布ヘッドの走査方向に直角な方向の移動により、端部(本実施例では4つの画素)を重複走査する重ね塗りとし、重複部分で前記塗布ヘッドの端に向け、吐出ノズルの吐出量に段階的な傾斜を設け、塗布領域内のカラーフィルタとして有効な領域の全画素に所定量の着色材料を吐出・充填することとして説明する。
【0050】
この場合、微小な液滴で、100万を越える上記した大きさの画素に3色それぞれの着色材料を塗布することから、インクジェットノズル52の密度にもそれに対応した密度が必要であり、この場合にはインクジェットノズル52の配列密度を1800dpiとして、1つのインクジェットノズル52からの着色材料1発(滴)の吐出量を30pl(ピコ・リットル)として50発、合計1500plの着色材料を、ガラス基板Kにマトリクス状の遮光部を形成したガラス基板Kのそのマス目=画素の中に吐出・充填してカラーフィルタを製造することとしている。
【0051】
そして、インク吐出部5の有効塗布幅をカラーフィルタ有効画素領域の幅Wの1/2に加え、インク吐出部の全吐出ノズルの両端に位置する相対吐出量の低い吐出ノズルの塗布領域の幅、及び/或いは少なくとも画素3つの幅寸法分以上大きい幅としている。
1800dpiのインクジェットノズル52の配列ピッチPは、14.11μmとなるが、この14.11μmというピッチの値は、現状の基本的なインクジェット方式によるインクジェットノズル52を構成する部材寸法・機構上等の制約から1つのインクジェットヘッド51で実現することが困難である。そこで、この14.11μmのピッチを、5つ(段)のインクジェットヘッド51で実現する。
【0052】
つまり1つのインクジェットヘッド51に形成されるインクジェットノズル52の配列間隔は、14.11μmの5倍の70.56μm(360dpi)で準備する。
その5つのインクジェットヘッド51のそれぞれのインクジェットノズル52をピッチ14.11μmづつずらした配置として1つの列を構成している。
さらに、その列相互の端のインクジェットノズル52の配列も間隔14.11μmとして連続した配列としてインク吐出部5の塗布幅と配列密度を確保する。
【0053】
画素gsへの着色材料の吐出・充填に関しては、インクジェットノズル52から吐出された着色材料の液滴が、基板上に形成されたマトリクス状の遮光部の隔壁に乗り上げて隣接する画素gsに溢れるなどにより双方の画素gsの充填量が所定の量から外れたり、或いは隔壁を乗り越えて隣接する画素gsの着色材料と混じって混色が発生する等の問題への対応が重要となる。
【0054】
本発明者等は、事前のインクジェットノズル52から吐出された着色材料の液滴の計測で、基板への飛翔中の液滴の直径が平均すると40μmであると確認したことから、本実施例では、画素gsの縦横の縁から着色材料の飛翔中の液滴の半径である20μmの位置より外側の区域を吐出禁止領域とし、画素gsの長手方向で490μm、短手方向で140μmの範囲にインクジェットノズル52からの着色材料の液滴を飛翔・着弾させるよう着色材料の吐出を制御する。以下RGBどれか1つの色についての塗布を説明する
【0055】
画素の短手方向の140μmの範囲に液滴を着弾させるには、塗布ガントリー4の走査(移動)速度と、塗布ガントリー4と着色材料を着弾させる画素gsとの相対位置関係と、により着色材料の吐出タイミングを設定することで精度良く着弾させることができる。したがって塗布ガントリーの速度は、精度を維持する範囲であって、生産性が許容する範囲で設定する。
【0056】
一方、画素の長手方向の着段位置の制約は、目標となる画素gsの長手方向の490μmの幅の上を通過するインクジェットノズル52から画素に着色材料を吐出・充填すること必要であること。したがって、その490μmの範囲を通過するインクジェットノズル52に吐出・塗布の動作指令を行なうよう制御をする。
【0057】
着色材料を吐出・充填することが可能な画素領域内の幅490μmの間に入るインクジェットノズル52の数は、インクジェットノズル52の配列ピッチが14.11μmであることから、34個となる。
【0058】
この34個のインクジェットノズル52で画素gsへの着色材料の吐出・充填する量は前述のように総量で1500plである。本発明では画素gsのうち、一部(本実施例では4つの画素)を2回の着色材料の吐出・充填で所定の総量を充填する。その2回に分けて充填する画素gsへの着色材料の吐出量を、1回目は所定の充填量に対して段階的な傾斜を設けた20,40,60,80%の量、2回目は反対に80,60,40,20%の量により、対象となる画素gsに対し2回の吐出・充填する量の組合わせとして充填する場合を詳述する。
【0059】
この2回の着色材料の吐出による充填量の段階的な傾斜を設けた充填量の調節は、本実施例では、個々のインクジェットノズル52からの吐出量を制御するのでなく、画素gsへの吐出を行なうインクジェットノズル52の数を制御して行なう。その割合は、対象となる総数が34個であるから7,14,20,27個のインクジェットノズル52を図7のように適度に分散させて選択し、そのインクジェットノズル52から所定の着色材料の吐出・充填をすることで実現する。
【0060】
さらに詳細に説明すると、この34個のインクジェットノズルから吐出するノズルの選択を図7のように
1)5つおきに計7個。 これをA群
2)1)に加え1)のノズルから1つ飛ばしたノズルで計14個。 これをB群
3)2)の選択の反転したノズル選択。 計20個。 これをC群
4)1)の選択の反転したノズル選択。 計27個。 これをD群
として、
往動(X方向の上流から下流への1回の走査)ではインクジェットヘッドの配列の終端で重複塗布する位置の画素に対しては端からA群、B群、C群、D群のインクジェットノズルを選択して着色材料を吐出させる制御を実行し、その他の画素に対しては所定の量(1500pl)を吐出させて、塗布ガントリー4の移動によりインク吐出部5をX方向に上流から下流に走査し、印字指令が与えられたインクジェットノズル52からの吐出・充填が行なわれて塗布すべき領域の端まで移動させる(図8A)。
【0061】
その後、インク吐出部5をY方向へと移動する。その移動量は、少なくとも4つの着色材料の塗布の量を段階的に傾斜を設けた画素gsの幅を重複する位置への移動量とする。インク吐出部5をY方向へと移動させた後、塗布ガントリー4をX方向に下流から上流へ走査させる。
そして、復動(X方向の下流から上流への走査)では、重複部分の4つの画素では塗布すべき所定の量(1500pl)の着色材料へ、段階的に傾斜を設けた吐出・充填量を補完し、その他の画素には所定の量(1500pl)を吐出する。補完する吐出・充填量は、具体的には、往路でA、B,C,D群のノズル選択により塗布されたそれぞれの画素に、A群で塗布された画素にはD群の、B群で塗布された画素にはC群の、C群で塗布された画素にはB群の、D群で塗布された画素にA群のノズル選択となるよう、制御指令を受けた対応するインクジェットノズル52からの着色材料の吐出・充填を行なう。重複塗布を行なう4つの画素は、こうして往復走査によって塗布すべき所定の量(1500pl)の着色材料を補完して塗布され、有効領域全体が図8Bのように均一に塗布される。
図8では、1つの色の塗布された状態を示しているが、他の色の画素も同じように着色材料が塗布される。
【0062】
この段階的に傾斜を設けた着色材料の吐出量の設定はインクジェットノズル52を図7のように適度に分散させることが好ましく、その理由は、隣接するインクジェットノズル52の動作の影響を可能な限り排除するよう、個々のインクジェットノズル52を可能な限り独立して吐出作動させることが、より安定した着色材料の吐出が実現できるからである。
【0063】
このように本発明によれば、
一部の画素gsへの着色材料の充填を段階的に吐出量を傾斜を設け、前記の一部の画素gsを重複した1往復以上の走査によってその段階的な傾斜を設けた画素への充填量を補完することに加え、段階的な傾斜を、お受けた吐出量を、1つの画素範囲で分散した位置から選択したインクジェットノズルにより吐出・充填すること、により隣接する多数のインクジェットノズルで同時に吐出した場合、吐出した端部近傍のインクジェットノズルに発生する吐出量が他より相対的に低いという悪影響を回避し、塗布ヘッドの塗布幅以上の幅の塗布領域に均一に着色材料を塗布することができる。
【0064】
つまり、個々のインクジェットノズルからの吐出量にバラツキがなくなり、
カラーフィルタの評価尺度である「色度」の許容値を有効領域全体において1000分の3以内の目標が達成され、
カラーフィルタの有効領域全体で色ムラのない、インク吐出部の走査方向にも筋ムラのない均一な塗布を実現することができる。
【0065】
本実施例では1回の往復走査で全塗布領域を塗布する例を上げたが、塗布幅が大きい場合には、次の塗布が必要な領域に向けて、その繋ぎ部分においてこの段階的な傾斜を設けた吐出・充填を行なうことで対応が可能であることは自明である。
【0066】
また、前述の例では、塗布ガントリー4を吸着テーブル3に対してX方向に移動させるようにした実施例を説明したが、塗布ガントリー4を固定し、吸着テーブル3を移動させるように構成することも可能である
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上、塗布装置の代表的な応用例として液晶表示装置などに用いられるガラス基板のカラーフィルタ製造への適用例を述べたが、この装置は他の平面的な部材に着色材料或いは被膜材料を塗布する装置へと展開することも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るカラーフィルタ製造装置を示す斜視図
【図2】本発明に係るカラーフィルタ製造装置の要部を示す平面図
【図3】インクジェットヘッドの配列の一例を示す平面概略図
【図4】インクジェットノズルの配列を説明する平面図
【図5】ガラス基板の画素配列のイメージ図
【図6】本発明のカラーフィルタ製造装置の動作概要を示すフローチャート
【図7】塗布量を段階的に傾斜を設けたインクジェットノズル選択の一例
【図8】塗布領域の境界付近の画素に段階的な傾斜を設けて塗布されるイメージ図
【符号の説明】
【0069】
1 カラーフィルタ製造装置(塗布装置)
4 塗布ガントリー
5 インク吐出部
51 インクジェットヘッド
52 インクジェットノズル
gs 画素(被塗布箇所)
K ガラス基板(基板)
X 方向(スキャン方向)
Y 方向(スキャン直交方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出ノズルを有した塗布ヘッドにより、塗布対象物に前記吐出ノズルによって塗布材を微量の液滴として塗布する装置であって、制御装置の制御により
前記塗布ヘッドが対象物と相対移動し、対象物に塗布材を供給して、前記塗布ヘッドの有効幅以上の領域を塗布する工程において、
塗布領域の一部を塗布ヘッドの走査方向に直角な方向の移動により、端部を重複走査する重ね塗りとし、
重複部分で前記塗布ヘッドの端に向け、吐出ノズルの吐出量に段階的な傾斜を設け、
少なくとも1往復以上の塗布ヘッドの走査により対象物全有効域に塗布材を均一に塗布することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記重複する領域の幅が、少なくとも塗布ヘッドの全吐出ノズルの両端に位置する相対吐出量の低い吐出ノズルの塗布領域の幅、及び/或いは少なくとも3画素以上である、請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
複数の吐出ノズルを有した塗布ヘッドにより、塗布対象物に前記吐出ノズルによって塗布材を微量の液滴として塗布する装置であって、制御装置の制御により
前記塗布ヘッドが対象物と相対移動し、対象物に塗布材を供給して、前記塗布ヘッドの有効幅以上の領域を塗布する工程において、
塗布領域の一部を塗布ヘッドの走査方向に直角な方向の移動により、端部を重複走査する重ね塗りとし、
重複部分で前記塗布ヘッドの端に向け、吐出ノズルの吐出量に段階的な傾斜を設け、
少なくとも1往復以上の塗布ヘッドの走査により対象物全有効域に塗布材を均一に塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項4】
前記重複する領域の幅が、少なくとも塗布ヘッドの全吐出ノズルの両端に位置する相対吐出量の低い吐出ノズルの塗布領域の幅、及び/或いは少なくとも3画素以上である、請求項3記載の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−240966(P2009−240966A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92094(P2008−92094)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】