説明

塗布装置及び円筒状部材の塗布方法

【課題】透明体である場合を含む塗布液を円筒状部材に塗布し、その塗布量を測定する装置を提供する。
【解決手段】円筒状部材10の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズル12と、塗布ノズル12にて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサ15と、円筒状部材10を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部11と、塗布ノズル12により塗布液が塗布される円筒状部材10の円周上の塗布位置に合焦点し、円筒状部材10の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラ20と、円筒状部材10の塗布位置に対してカメラ20と対向して配置され円筒状部材10を逆光状態にて照明する照明手段21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状部材などへの塗布液の塗布装置及び塗布方法に関し、より詳細には、例えばモータ部材の嵌合接着部への接着剤の塗布装置、及び塗布量の測定方法に関する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に流体軸受モータの組立て工程では、接着剤を用いた嵌合接着による組立て方法が用いられている。接着剤の塗布にはエア式あるいはメカ式のディスペンサを用いることが多く、塗布ノズルからの吐出量が一定となるように塗布条件を制御しながら、円筒形状を有する嵌合部材の円周上に塗布する方法がとられる。この嵌合接着には十分な接合強度と油漏れを防止するための封止材としての機能が要求される一方で、過度の余剰接着剤はモータ軸受部に進入し回転を阻害するため、嵌合部の接着剤が過不足なく充填されていることが望ましい。従って、接着剤の塗布工程において塗布量を測定・管理することは、組立て完成品の品質を維持するために重要である。
【0003】
接着剤に代表される塗布液の塗布量測定には、例えば電子天秤を用いて塗布前後の重量差を測定する方法や、形状寸法を光学的に測定して塗布液の断面積あるいは体積を求める方法がある。特に、非接触ながら形状寸法が測定可能な光学的測定は、一般的によく用いられる方法であり、例えばレーザ光を走査して塗布された接着剤の断面形状を測定する方法や、CCDカメラを用いて塗布幅等の寸法形状を測定する例がある。これらの測定方法により得られた塗布量の測定結果を、塗布量の制御を行うディスペンサにフィードバックし、塗布量の安定化を図る方法が提案されている。
【特許文献1】特開平11−119232号公報
【特許文献2】国際公開2003/005424号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば電子天秤による重量測定は塗布の総量を測定するものであって、部分的な塗布ムラを検出することはできない。高精度タイプの電子天秤の測定精度は測定分解能が1μGに達するものもあるが、こうした測定器は振動や風の流れ、温度、静電気の帯電といった外乱に対して敏感であり、安定した計測結果を得るためには、1回あたりの計測に10秒から20秒の時間が必要となる。加えて、重量測定は塗布前後の重量差を測定するものであるため、測定は各製品につき2回実施する必要があり、生産リードタイムにとって不利である。高精度な測定器ほど測定時間は長くなる傾向にあるため、現実的には生産ラインで高精度な測定を得ることは困難である。
【0005】
一方、光学的な測定方法を用いる場合であるが、接着剤等の塗布液は識別のため若干着色してあっても、透明体あるいは半透明体であることが多い。これに対し、被塗布面であるモータ部材が光の反射率の高い金属素材で構成されていることから、測定が困難となる場合が少なくない。例えば、レーザ光を用いた変位センサや、レーザ光を走査して測定するタイプの形状測定器は、本来、透明体の形状測定には不向きである。最近の技術として透明体に対応した測定センサも開発されているが、透明体である塗布液と反射率の高い金属との組み合わせでは、反射光の光量差や透明体内での乱反射の影響を受け、誤った測定結果を生じる問題がある。
【0006】
また、カメラを用いる例においても、塗布液が透明体あるいは半透明体であるために十分なコントラストが得られず、塗布幅等の形状寸法を画像処理することが困難となることが多い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の塗布装置は、円筒状部材の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルにて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサと、前記円筒状部材を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部と、前記塗布ノズルにより塗布液が塗布される円筒状部材の円周上の塗布位置に合焦点し、前記円筒状部材の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラと、前記円筒状部材の塗布位置に対してカメラと対向して配置され前記円筒状部材を逆光状態にて照明する照明手段と、を備えたものである。
【0008】
また、本発明の塗布装置は、円筒状部材の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルにて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサと、前記円筒状部材を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部と、前記塗布ノズルにより塗布液が塗布される円筒状部材の円周上の塗布位置に合焦点し、前記円筒状部材の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラと、前記円筒状部材の塗布位置に対してカメラと対向して配置され前記円筒状部材を逆光状態にて照明する照明手段と、を備え、前記カメラにより撮像される塗布液のシルエット画像に基づいて前記円筒状部材に塗布された塗布量の断面積を測定することを特徴としたものである。
【0009】
また、本発明の円筒状部材の塗布方法は、円筒状部材の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズルと、前記塗布ノズルにて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサと、前記円筒状部材を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部と、前記塗布ノズルにより塗布液が塗布される円筒状部材の円周上の塗布位置に合焦点し、前記円筒状部材の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラと、前記円筒状部材の塗布位置に対してカメラと対向して配置され前記円筒状部材を逆光状態にて照明する照明手段と、を備え、前記カメラにより撮像される塗布液のシルエット画像に基づいて前記円筒状部材に塗布された塗布量の断面積を測定して塗布状態を判定することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗布装置及び塗布方法によれば、円筒状部材に塗布された透明体である場合を含む塗布液の塗布量測定を可能にし、その測定結果を塗布条件にフィードバックさせることにより、塗布品質の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の塗布装置及び塗布方法の実施形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に示す塗布装置は、被塗布物である円筒状部材10を保持し回転させるチャック部11と、塗布ノズル12と、塗布ノズル12に供給する塗布液14を保持するシリンジ13を有している。チャック部11は回転時の円筒状部材10の偏心量を最小限に抑えるように、例えばコレットチャック、あるいはダイアフラムチャックに代表される精密チャックを使うことが望ましい。さらにチャック部11を回転させるための図示しない回転機構は、円筒状部材10の回転位置を検知でき、回転速度を任意に変更できることが望ましい。尚、被塗布対象となる円筒状部材10は、必ずしも円筒形である必要はなく、例えば円錐や球といった回転体やその一部によって構成される形状であっても良く、実際の流体軸受モータの部品は複雑な形状となっている場合が多い。
【0013】
塗布ノズル12の円筒状部材10に対する相対位置は、図示しない精密ステージ等を用いた調整機構によってX軸、Y軸及びZ軸方向に調整され、塗布時以外は円筒状部材10からZ軸方向へ退避するようになっている。この塗布ノズル12は、エア式あるいはメカ式のディスペンサ15に接続され、ディスペンサ15の制御によって、所定の量の塗布液14を円筒状部材10の円周上に塗布する。
【0014】
例えば、φ5mmの円筒状部材10に比重1.1の塗布液14を重量で0.1mg塗布する場合、塗布液14の粘度にも関係するが、塗布液14の幅は200μm、高さは40μm程度となる。この塗布に適した塗布ノズル12には、塗布ノズル先端の外形が0.15〜0.20mm程度の先端がシャンファー加工された金属製精密ノズルが好ましい。また、塗布ノズル12の先端と円筒状部材10の被塗布表面までの距離は、塗布液14の塗布高さとほぼ同じ40±10μm程度に設定すると安定した塗布形状を得られやすい。従って、チャック部11の円筒状部材10の保持精度、回転精度、ならびに塗布ノズル12の位置調整機構の機械的精度はミクロンオーダーであることが望ましい。
【0015】
さらに本発明による塗布装置は、円筒状部材10の円周上の塗布ノズルが近接する塗布点に焦点が合致し、その塗布点における接線方向が光軸方向と一致するように配置されたカメラ20と、そのカメラ20に対向するように配置される照明手段21を有する。照明手段21には撮像範囲内の光量分布を均一にするため面発光照明が好ましく、調光機能を有するLEDやハロゲンランプ等の光源に拡散板を組み合わせた装置を用いるとよい。
【0016】
この照明手段21はカメラ20に対向して配置され、その照明手段21とカメラ20の間に円筒状部材10が配置される構成となることで、照明方式は逆光状態を形成する透過照明方式となり、撮像される画像はシルエット像となる。すなわち、照明手段21からカメラ20に照明光17が直接入射する背景部分は明部となり、光を遮断する円筒状部材10やノズル12は暗部として撮像される。さらに円筒状部材10上に塗布された塗布液14についても、その材質が不透明体であれば照明光17を遮断するため暗部となる。
【0017】
さらに、図2に示すように、塗布液14が透明体あるいは半透明体であっても、照明手段21からの照明光17は塗布液14を透過してカメラ20に到達することはない。これは塗布液14の光屈折率が空気の屈折率よりも大きいために、塗布液14に入射した照明光17の経路が曲げられる現象によるものである。従って、塗布液14は透明あるいは半透明体であっても、不透明体と同様に暗部として撮像される。尚、照明手段21と円筒状部材10の距離は実用上問題ない範囲で可能な限り離す方が、照明光17の平行に近い成分のみを撮像に用いることができるため、より輪郭の鮮明なシルエット像を得ることができる。
【0018】
このカメラ20は画像処理機能及び塗布量算出機能を有する計算機22に接続され、計算機22により算出した塗布量の測定結果をもとにディスペンサ15の塗布条件の変更指示を行うほか、塗布ノズル12の円筒状部材10に対する相対位置を測定する。この測定された塗布ノズル12の相対位置のデータは計算機22内に記憶され、塗布工程において塗布ノズル12の先端と円筒状部材10の被塗布面との距離を所定の値に保つよう、塗布ノズル12の位置制御用の参照データとして用いられる。
【0019】
チャック部11の回転機構部と、塗布ノズル12の図示しない位置調整機構とディスペンサ15と、計算機22は、制御部25に接続され、制御・統括される。
【0020】
次に、塗布及び塗布量の測定工程を図3のフローチャートに示し、順を追って説明する。
【0021】
まずチャック部11に円筒状部材10を保持する(ステップS100)。
【0022】
塗布ノズル12を塗布位置に移動させ、チャック部11を回転させながら塗布ノズル12と円筒状部材10の相対位置、及び円筒状部材10の偏心量をカメラ20で測定し、測定結果を計算機22に記憶させる(ステップS101)。相対位置の測定は、簡易的には画像処理を用いて塗布ノズル12の先端部及び円筒状部材10の表面をエッジ抽出し、そのエッジ間の距離を求めればよい。しかしながら、実際の運用において、塗布ノズル12の先端には塗布液の液滴が付着していることが多く、またこの液滴の量が常に一定とは限らないため、塗布ノズル12の先端部のエッジを直線として抽出することが困難な場合がある。この場合、パターンマッチングを用いる方がより柔軟に対応できる。例えば、液滴を拭き取った状態の塗布ノズル12の側面部分を含む形状パターンを予め計算機22に記憶させておき、これの形状パターンに対するマッチング精度の許容範囲を大きめにして、液滴付着による塗布ノズル先端の形状変化を許容すればよい。
【0023】
さらにステップS101の後、円筒状部材10の被塗布面上に繊維くずや粒子状の異物が付着を検査する(ステップS102)。前述の塗布液14のシルエット像を得る手段と同様にして、透過照明方法により異物は暗部として撮像される。チャック部11を回転させながら、円筒状部材10の円周をカメラ20によって撮像すれば、画像処理によって円周上のすべての異物を円筒状部材10以外の暗部領域として容易に抽出することができる。抽出した暗部領域に対応する画素数をカウントし、所定の閾値を超える画素数が検出された場合、異物が付着していると判断する。このステップS102は、ステップS101と同時に実施してもよい。
【0024】
ステップS101において塗布ノズル12の相対位置測定の結果が許容範囲内であり、かつステップS102で異物が検出されなかった場合、計算機22は塗布してよいと判断し、塗布するステップS105に進む。NGの場合、ステップS100の円筒状部材10のセットからやり直す(ステップS103)。
【0025】
塗布ステップS105では、ステップS101により計算機22に記憶された塗布ノズル12と円筒状部材10との相対位置測定結果を元に、円筒状部材10の回転に同期した塗布ノズル12の位置調整を行いながら、ディスペンサ15が制御する塗布条件に従って行われる。ここで、塗布の開始位置と終了位置はディスペンサ15の特性上、塗布量が安定しないことが多く、円周部を1回転のみで塗布すると、継ぎ目となる箇所に塗布量が多いあるいは少ない部分が生じてしまう。これを防止するため、塗布は複数回で所定の塗布量に達するように吐出量を設定するなどして、継ぎ目部分をオーバーラップさせるような塗布方法が好ましい。塗布が完了すると、塗布ノズル12は次ステップの塗布液の断面積測定に影響が出ないよう、撮像範囲外の位置まで退避する。
【0026】
ステップS105の塗布完了後、円筒状部材10を回転させながらカメラ20で円筒状部材10上に塗布された塗布液14の断面を連続的に撮像し、計算機22に具備される画像処理装置および塗布量算出機能により、塗布量が算出される(ステップS106)。具体的には、撮像は円筒状部材10の円周をn等分した各位置について行われ、撮像された画像をもとに円筒状部材10上に塗布された塗布液の断面積Snが求まる。円周上の各位置における塗布液の断面積は、計算機22に記録され、塗布状態の判定に用いられる。塗布された体積Vは、円周長さをn等分した各円弧長さをΔLとすると、近似的に、
V=Σ(Sn×ΔL)
として算出することができる。通常、円筒状部材10の塗布部の直径は塗布液14の塗布高さよりも十分に大きいため、上記近似式の誤差は無視してよい。測定精度を考慮すれば、円周の分割数nは可能な限り多いことが望ましく、36分割以上の分割数であれば塗布量の測定値の再現性は概ね安定する。塗布液14の比重ρが既知である場合、塗布量は重量Mに換算することができ、M=ρ×Vと表される。
【0027】
そこで電子天秤を用い、塗布重量の測定結果と比較すれば、測定の信頼性を高めることができる。微量塗布の場合、重量測定誤差の影響を避けるため、所定の塗布量の複数倍を塗布したサンプルを用いるとよい。
【0028】
塗布量/塗布状態判定(ステップS107)では、ステップS106で計算機22内に記録された塗布量Mと、円周をn等分されて撮像された塗布液の各断面積Snの値が、所定の許容範囲内に収まっているか判定する。塗布液の各断面積Snの値を判定するのは、円周方向での塗布ムラを検出するためである。塗布量が許容範囲外であればNGと判断し、塗布量がターゲット値になるよう、予め用意した塗布条件と塗布量との関係をもとに、計算機22からディスペンサ15の塗布条件が変更され(ステップS108)、次回の塗布から修正された塗布条件が適用される。
【0029】
最後に、塗布作業を継続するかどうか判断し(ステップS109)、継続ならば別の円筒状部材10を用意し、ステップS100から工程を繰り返す。
【0030】
尚、塗布ノズル12と円筒状部材10の相対位置の変動、即ち偏心量が所定の許容範囲に収まっている場合、ステップS101における塗布ノズルの相対位置測定は、全周ではなく1箇所の測定のみに簡略化してもよい。さらにステップS102の異物検査も特に必要なければ省略してもよい。
【0031】
以上の塗布及び塗布量の測定のフローによれば、塗布量をフィードバック制御する安定した塗布工程が実現できる。
【0032】
次に、塗布量の測定における画像処理の方法について説明する。図4は円筒状部材10の円周上に線引き塗布した塗布液14を、カメラ20により撮像した画像の説明図である。前述のように、照明方式が透過照明方式となる本実施例では、撮像される画像はシルエット像となる。この結果、撮像される画像はあたかも円筒状部材を回転軸と平行な面で切断して得られる断面図と同等のものとなる。画像をグレースケールで処理する場合、円筒状部材10、塗布ノズル12及び塗布液14は黒色、それ以外の背景は白色として表示される。この照明方式によれば、塗布液14の画像上の色は塗布液自身の色や透明性に左右されず、無色透明であっても良好な像を得ることができる。照明手段21の光量及びカメラ20のフォーカスを適切に選択した撮像条件下では、鮮明なコントラストの像が得られるため、前処理としてのフィルタ処理といったマシンパワーを必要とする画像処理が不要であり、画像処理時間の短縮ができる。
【0033】
特に段差のない円筒状部材10への線引き塗布の場合、図4で示すように塗布液14の断面は円の一部として幾何学的モデルに当てはめることができる。この画像から塗布液の幅Wや高さHといった寸法を測定すれば、断面積を近似的に算出することが可能である。
【0034】
また断面積を求める別の方法として、画像中の指定した領域を明度で2値化処理し、塗布液の明度に該当する画素の数をカウントすることで、直接的に断面積を算出する方法がある。前述の例のように、例えばφ5mmの円筒状部材10に比重1.1の塗布液14を重量で0.1mg塗布する場合、塗布液14の粘度にも関係するが、塗布液14の幅は200μm、高さは40μm程度となる。この塗布状態を撮像する条件として、1/3インチCCDカメラと倍率4倍のカメラレンズを用いれば、撮像視野は0.9mm×1.2mm程度の大きさとなる。CCDカメラに分解能640×480のものを選択しておけば単位画素の大きさは1.875μm角となる。さらにサブピクセル処理等の手段を用いることで、測定寸法精度は0.2μm程度まで高精度化が可能であり、これにより実用上、十分な測定精度を得ることができる。
【0035】
この方法によれば、塗布液の断面形状が不安定で幾何学モデルから容易に逸脱するような場合、あるいは断面形状が幾何学モデルに当てはまらない場合においても、断面積を正確に測定することができる。図4の例では、点線で示した画像処理領域30の一辺を常に円筒状部材10の稜線に一致させ、円筒状部材10が回転して位置が変動しても、画像処理領域30の一辺は稜線に追随するように設定している。画像処理領域30の大きさは、円筒状部材10上に濡れ広がった塗布液14が画像処理領域内30内に余裕を持って囲むことのできる大きさを設定すればよい。またその画像処理領域30の形状は図4に示した矩形に限らず、円筒状部材10の稜線の形状に合わせたものであればよい。このようにして塗布液14の断面積部分と円筒状部材10の断面積部分の分離を図っている。求める塗布液14の断面積Snは、画像処理領域30内の黒色部分の総画素数を実面積に換算して求めることができる。
【0036】
図5は円筒状部材10が段差を有し、その段差のコーナー部に塗布液14を塗布した画像の説明図であり、前述の画像処理領域30内における塗布液14の断面の画素数をカウントし、直接的に断面積を求める測定方法の有効性を示した実施例である。塗布液14はコーナー部に濡れ広がるため、塗布液14の断面は略三角形の形態をとるが、塗布液の量や流れ方により形状が変化しやすく、幾何学モデルを適用することが難しい。そこで、画像処理領域30の2辺を円筒状部材10の段差部の稜線に一致させるように設定し、同様にして画像処理領域30内の黒色部分の総画素数を実面積に換算すれば、塗布液の断面積を求めることができる。
【0037】
さらに図6は前述の図4の場合において、円筒状部材10に矩形の溝40が形成され、この溝40部に塗布がなされる場合の画像の説明図である。この溝40は塗布液溜まりの役割を持ち、嵌合部全面への塗布液のまわりを改善する効果や余剰塗布液を吸収する効果を狙い形成されている。溝40に塗布液14が流入するため、塗布液の断面積の算出には溝40への流入分を考慮しなければならない。
【0038】
そこで図3のフローチャート中に示した塗布ノズル相対位置測定(ステップS101)時に、溝40の断面積を測定しておき、塗布後の測定結果の補正に用いることで正確な測定が可能となる。溝40の断面積を求める方法は、塗布液14の断面を測定するための画像処理領域30aとは別に、画像処理領域30bのように円筒状部材10内に設定し、塗布前では背景と同一の明度となる画素部分をカウントする方法である。画像処理領域30aの塗布液14の断面積に、画像処理領域30bの溝40の断面積を加算した値が実際の塗布液の断面積となる。
【0039】
画像処理領域30a、30b共に、円筒状部材10の稜線にそれぞれの画像処理領域の一辺が一致するように配置されるが、画素数のカウントが画像処理領域30aでは図4における画像処理領域30と同様に塗布液14の断面にあたる黒色部分に対して行われるのに対し、画像処理領域30bでは溝40の断面にあたる白色部分に対して行われる。画像処理領域30aの塗布液14の断面にあたる画素数のカウントは図3の塗布量測定(ステップS106)で行われるが、画像処理領域30bの溝40の断面にあたる画素数のカウントは塗布前の状態でなれば実施できない。そこで画像処理領域30bの溝40の断面にあたる画素数のカウントは、予め図3の塗布ノズル相対位置測定(ステップS101)において、塗布ノズルの相対位置測定と同時に実施される。カウントされた総画素数は溝40の断面積データとして、計算機22内に円周位置と共に記録され、塗布量測定(ステップS106)において総塗布量を算出される際に参照される。
【0040】
尚、図6には矩形の溝を1本のみ表示しているが、溝40の形状は矩形以外の例えば半円状であってもよいし、本数も複数であってもよい。溝40の寸法形状が高精度に形成されている場合は、溝40の断面積を撮像によらず、予め算出しておくこともできるが、本実施例によれば、溝40の深さ等の形状が加工条件によって変動する場合において、塗布量をより正確に測定することができる。
【0041】
次に、塗布量測定の信頼性を判定する方法について説明する。図7は円筒状部材10の円周上への線引き塗布が不連続になった場合の不良塗布状態を示す説明図である。この現象は、塗布ノズル12からの吐出量に対し円筒状部材10の回転速度が速すぎる場合、あるいは塗布ノズル12と円筒状部材10間の距離が適正位置よりも離れ過ぎる場合に生じ得る。この場合、実際にはカメラ20の焦点面50に塗布液14が塗布されていないにもかかわらず、カメラ20で撮像された画像には、カメラ20の焦点位置よりも前方もしくは後方に存在する塗布液が写り込む。図7ではカメラ20前方の塗布液が、焦点位置50における高さH’の塗布液であるかのように写り込むことを示している。このように、未塗布部分であっても塗布されているかのような断面積測定の結果を生じる。
【0042】
さらに、不連続塗布の場合であっても、塗布ノズル12より吐出された塗布液14の総量は適正塗布時と同じであるため、塗布部分は未塗布部分の分だけ塗布量が多くなり、断面積は適正塗布時より大きくなる。従って不連続塗布が発生した場合、実際の塗布量よりも測定される塗布量の方が多めとなり、正確な測定結果が得られない問題が発生する。
【0043】
しかしながら、図7において写り込んだ塗布液14はカメラ20の焦点位置からずれた位置にあるため、図8の(A)で示すように塗布液14の輪郭は焦点ぼけして不鮮明となる。図8の(B)のグラフは図8の(A)の走査方向に対応した明度の遷移に対応しており、連続塗布の場合(a)と比較すれば、写り込んだ塗布液14の輪郭(b)は明度の遷移が比較的緩い勾配として表される。そこでこの遷移の勾配に閾値を設けて判定すれば、各々の断面積測定における測定数値の信頼性を判定することができる。この処理は、図3の塗布量測定(ステップS106)において明度の遷移を測定し、塗布量/塗布状態判定(ステップS107)で判定することによって実現できる。
【0044】
即ち、塗布状態が良好であれば、合焦点位置のシルエット像は、暗部として得られ、塗布状態が不良の場合、明度の遷移するシルエット像がえられ、容易に塗布状態の良否が判定できる。
【0045】
また別の塗布の不連続状態を判定する方法として、図9に示すように、塗布液の断面積を円周方向にプロットしてグラフ化し、その断面積の振幅で判断する方法がある。塗布条件が適切であり、塗布液が安定して連続的に塗布されている場合は、図9の(c)に示すように断面積の数値には変動が少ない。一方、塗布条件が不適切なため不連続塗布が生じた場合、グラフ上には振幅の大きい波が認められるようになる(d)。そこで断面積の上限(f)と下限(e)の閾値を設け、閾値を超える振幅が発生する場合は、不連続塗布の発生を含む塗布不良が発生していると判定する。尚、前述の不連続塗布とは塗布液の未塗布部分が形成された状態を述べたものであるが、実際の生産において連続塗布されているが塗布ムラが生じている場合においても、本判定方法によれば同等の不良として検出が可能である。
【0046】
以上の判定方法を用いることにより、塗布量測定の信頼性を向上し、測定自体の不具合により塗布不良品を見逃す問題を未然に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明にかかる塗布装置及び塗布量の測定方法は、円筒状部材に透明である場合を含む塗布液を塗布し、その塗布量を測定する機能を有し、モータ部材の組立て工程において接着剤の塗布及び塗布量の測定装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例1における塗布装置の構成を示す概略斜視図
【図2】本発明の塗布方法の原理を説明するための図
【図3】本発明の実施例1における塗布方法のフローチャート
【図4】本発明の実施例1における撮像された塗布液の断面図
【図5】本発明の実施例1における撮像された塗布液の他の断面図
【図6】本発明の実施例1における撮像された塗布液の更に他の断面図
【図7】塗布状態が不連続となった塗布液の塗布不良状態を説明するための図
【図8】塗布不良状態における塗布液の断面における明度の遷移を説明するための図
【図9】塗布液の断面積の変動を示す図
【符号の説明】
【0049】
10 円筒状部材
11 チャック部
12 塗布ノズル
13 シリンジ
14 塗布液
15 ディスペンサ
17 照明光
20 カメラ
21 照明手段
22 計算機
25 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状部材の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズルと、
前記塗布ノズルにて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサと、
前記円筒状部材を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部と、
前記塗布ノズルにより塗布液が塗布される円筒状部材の円周上の塗布位置に合焦点し、前記円筒状部材の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラと、
前記円筒状部材の塗布位置に対してカメラと対向して配置され前記円筒状部材を逆光状態にて照明する照明手段と、
を備えた塗布装置。
【請求項2】
円筒状部材の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズルと、
前記塗布ノズルにて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサと、
前記円筒状部材を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部と、
前記塗布ノズルにより塗布液が塗布される円筒状部材の円周上の塗布位置に合焦点し、前記円筒状部材の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラと、
前記円筒状部材の塗布位置に対してカメラと対向して配置され前記円筒状部材を逆光状態にて照明する照明手段と、
を備え、
前記カメラにより撮像される塗布液のシルエット画像に基づいて前記円筒状部材に塗布された塗布量の断面積を測定することを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
前記断面積は、前記円筒状部材の円周をn等分し、当該n等分された塗布液の測定された断面積をSnとし、当該n等分された円周方向の各円弧長をΔLとし、
V=Σ(Sn×ΔL)にて、塗布された体積を求めることを特徴とする請求項2に記載の
塗布装置。
【請求項4】
前記断面積は、前記測定された断面積を単位画素数の総和として求めることを特徴とする請求項2に記載の塗布装置。
【請求項5】
円筒状部材の円周部に塗布液を線状に塗布する塗布ノズルと、
前記塗布ノズルにて塗布する塗布液の吐出量を制御するディスペンサと、
前記円筒状部材を保持し所定の速度で回転及び位置決めするチャック部と、
前記塗布ノズルにより塗布液が塗布される円筒状部材の円周上の塗布位置に合焦点し、前記円筒状部材の当該塗布位置に対する回転方向の円周上の接線方向が光軸方向となるように配置されるカメラと、
前記円筒状部材の塗布位置に対してカメラと対向して配置され前記円筒状部材を逆光状態にて照明する照明手段と、
を備え、
前記カメラにより撮像される塗布液のシルエット画像に基づいて前記円筒状部材に塗布された塗布量の断面積を測定して塗布状態を判定することを特徴とする円筒状部材の塗布方法。
【請求項6】
前記円筒状部材の円周方向に測定される塗布液の断面のシルエット像における明度の遷移を測定し、塗布状態の良否を判定することを特徴とする請求項5に記載の円筒状部材の塗布方法。
【請求項7】
前記測定される塗布液の断面積の変動幅と所定の基準値とを比較し、その比較結果に基づいて塗布状態の良否を判定することを特徴とする請求項5に記載の円筒状部材の塗布方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−231221(P2006−231221A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50431(P2005−50431)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】