塗布装置
【課題】高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能にする、塗布装置を提供することを目的とする。
【解決手段】液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置において、気体の吸引口を有し、且つ、吸引口側の壁面に複数の凹凸が存在する、もしくは吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではない部分を設けたノズルを用い、塗布終端において吸引を強めることで選択的に塗布液をノズル壁面に濡れ上がらせ、ビードに細かい亀裂を複数生じさせる。
【解決手段】液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置において、気体の吸引口を有し、且つ、吸引口側の壁面に複数の凹凸が存在する、もしくは吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではない部分を設けたノズルを用い、塗布終端において吸引を強めることで選択的に塗布液をノズル壁面に濡れ上がらせ、ビードに細かい亀裂を複数生じさせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を対象物上の所定位置に塗布する液体の塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エクストルージョン方式のノズル(ダイヘッド)を用いた塗布装置は、均一な薄膜塗布が可能であることから、種々の分野で広く利用されている。図9に、従来におけるダイヘッドの塗布液吐出口付近の側方断面図を示す。
【0003】
このノズル(ダイヘッド)は、基本的に液入り口からの塗布液を巾方向に広がらせるためのマニホールド(図示せず)と、このマニホールドから塗布液が押し出される塗布スリットとを備えた構造をしている。そして、液入り口から内部に流入した塗布液がマニホールドにて巾方向に広がり、先端の塗布用スリットを通過して、塗布液吐出口2から押し出されて基板の表面に塗布されるように構成されている。
【0004】
この塗布装置を塗布速度の高速化に対応させるには、ノズル(ダイヘッド)1の先端部の塗布液吐出口2から押し出されるビード4を、安定に保持させる必要がある。そのための方法として、ノズル1におけるスリット(若しくは、穴形状などの塗布液が吐出する箇所)の上流側に減圧チャンバー7を付加し、この減圧チャンバー7によりノズル1先端のビード近傍部を減圧する方法が一般的に知られている。また、図10には、従来の液体塗布装置の、吸引口側壁面の斜視図を示す。このように、従来の液体塗布装置では、吸引口側壁面は平滑な面となっている。
【0005】
更に、近年では、高機能なデバイスを低コスト且つ高い生産性で生産するため、ロールトゥロールで高速搬送される基材に、より短い間隔(「未塗布部を短くする」という意味)で、間欠的に塗布膜を形成することが要求されてきている。また、枚葉の被塗布材への塗布においては、デバイスの小型・軽量化による商品力向上や、材料コスト削減を実現するため、被塗布材の表面全域に塗布膜を形成することが要求されつつある。
【0006】
このような高速間欠塗布、及び、被塗布材全域への塗布を実現するためには、塗布終端部の液キレを塗布巾方向で、均一に短時間で実現することが必要になる。
【0007】
図11は、終端部でノズル1を上昇させる(「被塗布材から遠ざける」という意味)方法において、図11(a)は側方断面を示し、図11(b)は塗布液吐出口側から見た図を示すものである。
【0008】
従来より、塗布終端部の液キレを塗布巾方向で、均一に短時間で実現すべく、図11に示すような、終端部においてポンプ(図示せず)からの塗布液供給を停止すると共に、ノズル1を上昇させる方法が用いられてきた。この方法によると、ノズル1を上昇させることでビード4が伸びると共に、局部的にビードの厚みが薄い部分が生じ、その薄い部分を起点にビードに亀裂が生じてビードが切り離される。また、塗布終端部の液キレを改善する方法として、サックバックピストン(図示せず)によりノズル1内の流路に塗布液吸い込み空間を形成する方法が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−045762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図12は、尾引きにより、塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生した図であり、図12(a)は尾引き部の拡大図、図12(b)は塗布時のノズル上方概観図、図12(c)は塗布時のノズル側方概観図を示す。また、図13は、枚葉の被塗布材への塗布において発生した尾引きの図であり、図13(a)は塗布時のノズル上方概観図、図13(b)は塗布後の被塗布材上方概観図、図13(c)は尾引き部の拡大図である。なお、両図において、1がノズル、21が尾引き部、5が被塗布材、8が塗布膜である。
【0011】
図11に示すような、終端部でノズル1を上昇させる方法では、ビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することが困難なため、部分的に最も長く伸びた塗布液が、図12(a),及び,図13(c)に示すような、被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまう。その結果、図12に示すように、未塗布部の短い間欠塗布では、塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まりが低下することになる。よって、未塗布部を一定長さ以上短くすることができず、十分に生産性向上と低コスト化を実現することができないという問題があった。
【0012】
また、枚葉の被塗布材への塗布においては、被塗布材全域に塗布しようとすると、「尾引き」により塗布液が被塗布材からはみ出し、設備の汚染や、はみ出した塗布液が他のサンプルに付着することによる不良が発生することになる。その結果、図13に示すように、「尾引き」分に相当する余分な被塗布材の領域をデバイス設計上確保せざるを得ず、デバイスの小型化・軽量化が困難となると共に、材料コスト削減も困難となるという問題があった。
【0013】
また、サックバックピストンにより、ノズル1内の流路に塗布液吸い込み空間を形成する方法では、ノズルの構造が複雑になり、分解・洗浄・組み立てなど、メンテナンスが煩雑で困難となる問題があった。また、ノズルの小型軽量化が困難となり高価な設備となるという問題があった。
【0014】
更に、微少なビードの液量を適量だけ吸い込むというサックバックピストンの精密制御は非常に困難であり、連続的な大量生産中において、吸い込み量が少なく「尾引き」が発生したり、吸い込み量が多過ぎたりして、ノズル内にエアが混入し、均一な塗布液の吐出が継続できなくなるという状況が頻繁に発生する。このようなことから、生産中にサックバックピストンの吸い込み量についての調整頻度が多くなり、生産性を低下させるという問題があった。
【0015】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能にする、塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成させるため、請求項1に記載の発明は、液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、塗布液を吐出させるノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側の範囲に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面に複数の凹凸が存在することを特徴とする塗布装置である。
【0017】
本構成によると、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことができる。
【0018】
上記目的を達成させるため、請求項2に記載の発明は、ノズル先端面とノズルの吸引口側の壁面との角度が、塗布巾方向で同一でないことを特徴とする請求項1記載の塗布装置である。
【0019】
本構成によると、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことができる。
【0020】
また、上記目的を達成させるため、請求項3に記載の発明は、液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、塗布液を吐出させるノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側の範囲に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではないことを特徴とする塗布装置である。
【0021】
本構成によると、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能にした塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1における液体塗布装置の概略図
【図2】本発明の実施の形態1における液体塗布装置の、吸引口側壁面の凹凸部斜視図
【図3】(a)は、本発明の実施の形態1における、塗布終端部で、ノズル(ダイヘッド)の気体吸引口側壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の側方断面図、(b)は、本発明の実施の形態1における、塗布終端部で、ノズルの気体吸引口側壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の塗布液吐出口側から見た図
【図4】本発明の実施の形態2における、ノズルの吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではない液体塗布装置の吸引口側壁面の濡れ性が異なる部分の斜視図
【図5】(a)は、本発明の実施の形態2における、塗布終端部でノズルの気体吸引口側壁面の濡れ性の高い部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の側方断面図、(b)は、本発明の実施の形態2における、塗布終端部でノズルの気体吸引口側壁面の濡れ性の高い部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の塗布液吐出口側から見た図
【図6】実施の形態1における本発明のノズルの吸引口側壁面の凹凸部の図
【図7】(a)は、実施の形態1における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾ける場合のノズル側方断面図、(b)は、塗布液吐出口側から見た図
【図8】(a)は、実施の形態2における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾ける場合のノズル側方断面図、(b)は、塗布液吐出口側から見た図
【図9】従来法であるダイヘッドの塗布液吐出口付近の側方断面図
【図10】従来の液体塗布装置の吸引口側壁面の斜視図
【図11】(a)は、終端部でノズルを上昇させる方法の側方断面図、(b)は、終端部でノズルを上昇させる方法の塗布液吐出口側から見た図
【図12】(a)は、尾引きにより、塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生した箇所の尾引き部の拡大図、(b)は、塗布時のノズル上方概観図、(c)は、塗布時のノズル側方概観図
【図13】(a)は、塗布時のノズル上方概観図、(b)は、塗布後の被塗布材上方概観図、(c)は、枚葉の被塗布材への塗布において発生した尾引きの拡大図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における液体塗布装置の概略図である。塗布液タンクの塗布液は、例えば、定量ポンプのように安定した送液が可能な送液ポンプにより送り出され、ノズル1に送り込まれる。その後、塗布液はマニホールドからスリット(ストライプ塗布の場合は、巾の狭いスリット、または穴形状の流路など)へ押し出され、更に、塗布液吐出口2から吐出されて、ノズル1と相対的に走行している被塗布材5に塗布され、塗布膜8を形成する。
【0026】
また、本発明では、例えば、減圧ポンプなどを流量調整バルブや流量計を介して減圧チャンバー7へ繋ぎ込み、ノズル1と被塗布材間の気体を吸引する。このように、塗布液吐出口2の塗布上流側に設けられた気体吸引口3から、気体を吸引することで、ビード4の上流側近傍が減圧され、基板の走行によるせん断力に対して、ビード4を塗布上流側に引っ張る力を得ることができ、ビード4を維持できるようになる。
【0027】
ここで、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を実現しようとする場合などは、終端部でノズルを上昇させる方法が、従来から用いられてきたが、ビードが伸びながら千切れて行く挙動を制御することが困難なため、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまう。
【0028】
また、サックバックピストンによりノズル内の流路に塗布液吸い込み空間を形成する方法を用いられる場合があるが、ノズルの構造が複雑になり、分解・洗浄・組み立てなど、メンテナンスが煩雑で困難となったり、ノズルの小型軽量化が困難となったり高価な設備となる。更に、微少なビードの液量を適量だけ吸い込むというサックバックピストンの精密制御は非常に困難であり、生産中におけるサックバックピストンの吸い込み量についての調整頻度が多くなり、生産性を低下させてしまう。
【0029】
図2には、本発明の実施の形態1における液体塗布装置の、吸引口側壁面の凹凸部斜視図を示す。また、図3には、塗布終端部で、ノズル(ダイヘッド)の気体吸引口側壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法における、図3(a)は側方断面図であり、図3(b)は塗布液吐出口側から見た図を示す。
【0030】
図2に示すように、本発明では、ノズルの気体吸引口3側の壁面に凹凸を複数個設けると共に、塗布終端部において、短時間、気体吸引量を増加させる。これにより、ビードの上流側が塗布時よりも減圧され、図3に示すように、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることができる。
【0031】
その結果、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を複数個形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに複数個の細かい亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となる。
【0032】
以上のように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を複数個生じさせることで、ビードの伸びが微小となるよう速やかにビードを切り離すことが可能となる。その結果、塗布終端部の微小な尾引きはレベリングで塗布膜中に平滑化されるため、従来法のように尾引きが倒れこむことなく、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布が可能となる。
【0033】
(実施の形態2)
図4は、ノズル(ダイヘッド)の吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではない液体塗布装置の、吸引口側壁面の濡れ性が異なる部分の斜視図である。
【0034】
図4において、9は濡れ性の低い部分で10が濡れ性の高い部分であり、本発明の実施の形態2における液体塗布装置は、このような塗布巾方向に複数個の濡れ性の異なる領域を形成した構造となっている。このような液体塗布装置を用いて塗布する際、塗布終端部において、短時間、気体吸引量を増加させる。
【0035】
ここで、図5は、本発明の実施の形態2における、塗布終端部で、ノズルの気体吸引口側壁面の濡れ性の高い部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法における、図5(a)は、側方断面図であり、図5(b)は、塗布液吐出口側から見た図である。
【0036】
このように、塗布終端部において、短時間、気体吸引量を増加させることで、ビードの上流側が塗布時よりも減圧され、図5に示すように、壁面の濡れ性の高い部分10のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることができる。その結果、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となる。
【0037】
以上のように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を複数個生じさせることで、ビードの伸びが微小となるよう速やかにビードを切り離すことが可能となる。その結果、塗布終端部の微小な尾引きはレベリングで塗布膜中に平滑化されるため、従来法のように尾引きが倒れこむことなく、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布が可能となる。
【0038】
ここで、実施の形態1および2において、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾けることでも、短時間、気体吸引量を増加させることと同様に、塗布液の濡れ上がりを促進でき、同様の効果が得られる。
【0039】
(実施例1)
実施の形態1を使用した実施例により、更に詳細に説明する。本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図1のノズル1を用いて、吸引口側壁面の凹凸部を図6に示すように、ノズルの吐出口先端面に対する角度を部分的に変更したノズルにより塗布した。
【0040】
また、塗工ギャップ19を100μmとし、塗工速度150mm/sで、ノズル1と相対的に走行するPETフィルム基材上に、せん断速度1000(1/s)における粘度が100mPa・sであるメチルセルロース水溶液を、厚み10μmで塗布した。また、塗布巾は100cmとし、塗布距離は100cmとした。また、間欠塗布における未塗布部長さは1cmとした。なお、塗布液吐出口2は隙間が100μmのスリット形状とし、気体吸引口3は隙間が500μmのスリット形状とした。更に、塗布時における気体吸引口の圧力を−10kPaとし、塗布終端部での気体吸引口の圧力を−15kPaとした。
【0041】
また、図2における吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとし塗布巾全域に設けた。また、図6におけるノズルの吐出口先端面に対する角度θ1=150°とし、同じくθ2を135°〜45°まで変化させた場合のノズルで、上記塗布を間欠500回分行った際の尾引き発生評価を表1に示す。なお、尾引き発生評価は、長さ0.5mm以上の尾引きが発生しない場合「○」、発生した場合を「×」と評価した。
【0042】
ここで、比較例(1)として、図9〜図10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表1に合わせて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
ここで、従来法のノズル1は、ノズルの吸引口側壁面の凹凸部が無い、つまり、図6におけるθ1=θ2である構造となる。この従来法のノズル1のθ1=θ2=150°とし、また、塗布液吐出口2は隙間が100μmのスリット形状とし、気体吸引口3も隙間が500μmのスリット形状とした。更に、塗布時における気体吸引口の圧力を−10kPaとした。また、塗工ギャップ19を100μmとし、塗工速度150mm/sでノズル1と相対的に走行するPETフィルム基材上に、せん断速度1000(1/s)における粘度が100mPa・sであるメチルセルロース水溶液を、厚み10μmで塗布した。
【0045】
また、塗布巾は100cmとし、塗布距離は100cmとした。また、間欠塗布における未塗布部長さは1cmとした。
【0046】
表1より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0047】
これに対して、本発明のノズル1(実施例1)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成できた。このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0048】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0049】
なお、本実施例では、θ1を150°とし、θ2を135°〜45°まで変化させた場合のみ記載したが、これに限らずθ1とθ2に差を設けることで同様の効果が得られる。また、吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとした場合のみ記載したが、複数個の凹凸部が設けられていれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0050】
(実施例2)
実施の形態2を使用した実施例により、更に詳細に説明する。本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図4のノズル1を用いて、実施例1と同様の塗布を行った。ここで、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分9は、塗布巾方向W=3mmおよび高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成(面粗度Ra0.4のまま表面処理せず)し、また濡れ性の低い部分9と交互に濡れ性の高い部分10を塗布巾方向V=3mmおよび高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成(フッ素系材料による表面処理)した以外の塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面に複数の濡れ性(接触角)の異なる部分が塗布巾全域に交互に存在するノズルで塗布した場合の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
また、比較例も実施例1と同様とし、図9〜31に示した従来法のノズル1による同様の結果を表2に合わせて示す。ここで、従来法のノズル1は、ノズルの吸引口側壁面の濡れ性に差が無い、つまり、図6における9と10の部分の濡れ性に差が無い構造となる。
【0053】
表2より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0054】
これに対して、本発明のノズル1(実施例2)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0055】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。 なお、本実施例では、濡れ性の低い(接触角の高い)領域の接触角を70°とした場合のみ記載したが、これに限らず濡れ性に差を設けることで同様の効果が得られる。
【0056】
また、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分の巾は塗布巾方向V=3mmとし、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成し、濡れ性の高い部分10を塗布巾方向W=3mm、及び、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成した場合のみ記載したが、複数個の濡れ性の異なる部分があれれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0057】
(実施例3)
実施の形態1を使用した実施例により、更に詳細に説明する。
【0058】
図7は、実施の形態1における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾けた場合の図であり、図7(a)はノズル側方断面図であり、図7(b)は塗布液吐出口側から見た図である。
【0059】
本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図1のノズル1を用いて、塗布終端部において、塗布終端部での気体吸引口の圧力を塗布時と同じ−10kPaとし、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けたこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の凹凸部構造の異なるノズルで塗布した結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
また、比較例も実施例1と同様とし、図9〜10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表3に合わせて示す。
【0062】
表3より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0063】
これに対して、本発明のノズル1(実施例3)では、ノズルを傾けることで、ビードが気体吸引口側に引き寄せられ易くなり、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0064】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0065】
尚、本実施例では、塗布終端部において、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けた場合のみ記載したが、気体吸引口のある塗布の上流側に傾ければ同様の効果が得られ、角度はこれに限らない。
【0066】
また、本実施例では、θ1を150°とし、θ2を135°〜45°まで変化させた場合のみ記載したが、これに限らずθ1とθ2に差を設けることで同様の効果が得られる。また、吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとした場合のみ記載したが、複数個の凹凸部が設けられていれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0067】
(実施例4)
実施の形態2を使用した実施例により、更に詳細に説明する。
【0068】
図8は、実施の形態2における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾ける場合の図であり、図8(a)はノズル側方断面図であり、図8(b)は塗布液吐出口側から見た図である。
【0069】
本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図4のノズル1を用いて、塗布終端部において、塗布終端部での気体吸引口の圧力を塗布時と同じ−10kPaとし、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けたこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の濡れ性(接触角)の異なるノズルで塗布した場合の結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
また比較例も実施例1と同様とし、図9〜10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表4に合わせて示す。
【0072】
表4より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0073】
これに対して、本発明のノズル1(実施例4)では、ノズルを傾けることで、ビードが気体吸引口側に引き寄せられ易くなり、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0074】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに細かな亀裂を複数生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0075】
なお、本実施例では、塗布終端部において、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けた場合のみ記載したが、気体吸引口のある塗布の上流側に傾ければ同様の効果が得られ、角度はこれに限らない。
【0076】
また、本実施例では、濡れ性の低い(接触角の高い領域)の接触角を70°とした場合のみ記載したが、これに限らず濡れ性に差を設けることで同様の効果が得られる。
【0077】
また、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分の巾は塗布巾方向V=3mmとし、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成し、また濡れ性の高い部分10を塗布巾方向W=3mmおよび高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成した場合のみ記載したが、複数個の濡れ性の異なる部分があれれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0078】
(実施例5)
実施の形態1を使用した実施例により、更に詳細に説明する。本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図1のノズル1を用いて、ノズル1と相対的に走行するガラス基板(巾110cm×長さ70cm)上に、塗布巾は100cmとし、塗布距離は68cmとして500枚を塗布したこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の凹凸部構造の異なるノズルで塗布した結果を表5に示す。
【0079】
また比較例も実施例1と同様とし、図9〜31に示した従来法のノズル1による同様の結果を表5に合わせて示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、ガラス基板の外周に設ける未塗布部領域に塗布液が付着するという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0082】
これに対して、本発明のノズル1(実施例5)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を被塗布材全域に塗布できた。
【0083】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0084】
また、本実施例では、θ1を150°とし、θ2を135°〜45°まで変化させた場合のみ記載したが、これに限らずθ1とθ2に差を設けることで同様の効果が得られる。また、吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとした場合のみ記載したが、複数個の凹凸部が設けられていれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0085】
(実施例6)
実施の形態2を使用した実施例により、更に詳細に説明する。
【0086】
本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図4のノズル1を用いて、ノズル1と相対的に走行するガラス基板(巾110cm×長さ70cm)上に、塗布巾は100cmとし、塗布距離は68cmとして500枚を塗布したこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例5と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の濡れ性(接触角)の異なるノズルで塗布した場合の結果を表6に示す。
【0087】
また比較例も実施例1と同様とし、図9〜10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表6に合わせて示す。
【0088】
【表6】
【0089】
表6より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0090】
これに対して、本発明のノズル1(実施例6)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を被塗布材全域に塗布できた。
【0091】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。なお、本実施例では、濡れ性の低い(接触角の高い領域)の接触角を70°とした場合のみ記載したが、これに限らず濡れ性に差を設けることで同様の効果が得られる。
【0092】
また、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分の巾は塗布巾方向V=3mmとし、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成し、また、濡れ性の高い部分10を塗布巾方向W=3mm、及び、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成した場合のみ記載したが、複数個の濡れ性の異なる部分があれれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能とするため、例えば、有機ELやプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、太陽電池、リチウム二次電池、などの高機能なデバイスを低コスト且つ高い生産性で生産することが求められる印刷製造工程に適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 ノズル
2 塗布液吐出口
3 気体吸引口
4 ビード
5 被塗布材
6 凹部
7 減圧チャンバー
8 塗布膜
9 濡れ性の低い部分
10 濡れ性の高い部分
19 塗工ギャップ
21 尾引き
22 ロール
23 ノズルを傾ける角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を対象物上の所定位置に塗布する液体の塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、エクストルージョン方式のノズル(ダイヘッド)を用いた塗布装置は、均一な薄膜塗布が可能であることから、種々の分野で広く利用されている。図9に、従来におけるダイヘッドの塗布液吐出口付近の側方断面図を示す。
【0003】
このノズル(ダイヘッド)は、基本的に液入り口からの塗布液を巾方向に広がらせるためのマニホールド(図示せず)と、このマニホールドから塗布液が押し出される塗布スリットとを備えた構造をしている。そして、液入り口から内部に流入した塗布液がマニホールドにて巾方向に広がり、先端の塗布用スリットを通過して、塗布液吐出口2から押し出されて基板の表面に塗布されるように構成されている。
【0004】
この塗布装置を塗布速度の高速化に対応させるには、ノズル(ダイヘッド)1の先端部の塗布液吐出口2から押し出されるビード4を、安定に保持させる必要がある。そのための方法として、ノズル1におけるスリット(若しくは、穴形状などの塗布液が吐出する箇所)の上流側に減圧チャンバー7を付加し、この減圧チャンバー7によりノズル1先端のビード近傍部を減圧する方法が一般的に知られている。また、図10には、従来の液体塗布装置の、吸引口側壁面の斜視図を示す。このように、従来の液体塗布装置では、吸引口側壁面は平滑な面となっている。
【0005】
更に、近年では、高機能なデバイスを低コスト且つ高い生産性で生産するため、ロールトゥロールで高速搬送される基材に、より短い間隔(「未塗布部を短くする」という意味)で、間欠的に塗布膜を形成することが要求されてきている。また、枚葉の被塗布材への塗布においては、デバイスの小型・軽量化による商品力向上や、材料コスト削減を実現するため、被塗布材の表面全域に塗布膜を形成することが要求されつつある。
【0006】
このような高速間欠塗布、及び、被塗布材全域への塗布を実現するためには、塗布終端部の液キレを塗布巾方向で、均一に短時間で実現することが必要になる。
【0007】
図11は、終端部でノズル1を上昇させる(「被塗布材から遠ざける」という意味)方法において、図11(a)は側方断面を示し、図11(b)は塗布液吐出口側から見た図を示すものである。
【0008】
従来より、塗布終端部の液キレを塗布巾方向で、均一に短時間で実現すべく、図11に示すような、終端部においてポンプ(図示せず)からの塗布液供給を停止すると共に、ノズル1を上昇させる方法が用いられてきた。この方法によると、ノズル1を上昇させることでビード4が伸びると共に、局部的にビードの厚みが薄い部分が生じ、その薄い部分を起点にビードに亀裂が生じてビードが切り離される。また、塗布終端部の液キレを改善する方法として、サックバックピストン(図示せず)によりノズル1内の流路に塗布液吸い込み空間を形成する方法が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−045762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図12は、尾引きにより、塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生した図であり、図12(a)は尾引き部の拡大図、図12(b)は塗布時のノズル上方概観図、図12(c)は塗布時のノズル側方概観図を示す。また、図13は、枚葉の被塗布材への塗布において発生した尾引きの図であり、図13(a)は塗布時のノズル上方概観図、図13(b)は塗布後の被塗布材上方概観図、図13(c)は尾引き部の拡大図である。なお、両図において、1がノズル、21が尾引き部、5が被塗布材、8が塗布膜である。
【0011】
図11に示すような、終端部でノズル1を上昇させる方法では、ビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することが困難なため、部分的に最も長く伸びた塗布液が、図12(a),及び,図13(c)に示すような、被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまう。その結果、図12に示すように、未塗布部の短い間欠塗布では、塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まりが低下することになる。よって、未塗布部を一定長さ以上短くすることができず、十分に生産性向上と低コスト化を実現することができないという問題があった。
【0012】
また、枚葉の被塗布材への塗布においては、被塗布材全域に塗布しようとすると、「尾引き」により塗布液が被塗布材からはみ出し、設備の汚染や、はみ出した塗布液が他のサンプルに付着することによる不良が発生することになる。その結果、図13に示すように、「尾引き」分に相当する余分な被塗布材の領域をデバイス設計上確保せざるを得ず、デバイスの小型化・軽量化が困難となると共に、材料コスト削減も困難となるという問題があった。
【0013】
また、サックバックピストンにより、ノズル1内の流路に塗布液吸い込み空間を形成する方法では、ノズルの構造が複雑になり、分解・洗浄・組み立てなど、メンテナンスが煩雑で困難となる問題があった。また、ノズルの小型軽量化が困難となり高価な設備となるという問題があった。
【0014】
更に、微少なビードの液量を適量だけ吸い込むというサックバックピストンの精密制御は非常に困難であり、連続的な大量生産中において、吸い込み量が少なく「尾引き」が発生したり、吸い込み量が多過ぎたりして、ノズル内にエアが混入し、均一な塗布液の吐出が継続できなくなるという状況が頻繁に発生する。このようなことから、生産中にサックバックピストンの吸い込み量についての調整頻度が多くなり、生産性を低下させるという問題があった。
【0015】
本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能にする、塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成させるため、請求項1に記載の発明は、液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、塗布液を吐出させるノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側の範囲に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面に複数の凹凸が存在することを特徴とする塗布装置である。
【0017】
本構成によると、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことができる。
【0018】
上記目的を達成させるため、請求項2に記載の発明は、ノズル先端面とノズルの吸引口側の壁面との角度が、塗布巾方向で同一でないことを特徴とする請求項1記載の塗布装置である。
【0019】
本構成によると、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことができる。
【0020】
また、上記目的を達成させるため、請求項3に記載の発明は、液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、塗布液を吐出させるノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側の範囲に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではないことを特徴とする塗布装置である。
【0021】
本構成によると、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能にした塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1における液体塗布装置の概略図
【図2】本発明の実施の形態1における液体塗布装置の、吸引口側壁面の凹凸部斜視図
【図3】(a)は、本発明の実施の形態1における、塗布終端部で、ノズル(ダイヘッド)の気体吸引口側壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の側方断面図、(b)は、本発明の実施の形態1における、塗布終端部で、ノズルの気体吸引口側壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の塗布液吐出口側から見た図
【図4】本発明の実施の形態2における、ノズルの吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではない液体塗布装置の吸引口側壁面の濡れ性が異なる部分の斜視図
【図5】(a)は、本発明の実施の形態2における、塗布終端部でノズルの気体吸引口側壁面の濡れ性の高い部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の側方断面図、(b)は、本発明の実施の形態2における、塗布終端部でノズルの気体吸引口側壁面の濡れ性の高い部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法の塗布液吐出口側から見た図
【図6】実施の形態1における本発明のノズルの吸引口側壁面の凹凸部の図
【図7】(a)は、実施の形態1における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾ける場合のノズル側方断面図、(b)は、塗布液吐出口側から見た図
【図8】(a)は、実施の形態2における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾ける場合のノズル側方断面図、(b)は、塗布液吐出口側から見た図
【図9】従来法であるダイヘッドの塗布液吐出口付近の側方断面図
【図10】従来の液体塗布装置の吸引口側壁面の斜視図
【図11】(a)は、終端部でノズルを上昇させる方法の側方断面図、(b)は、終端部でノズルを上昇させる方法の塗布液吐出口側から見た図
【図12】(a)は、尾引きにより、塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生した箇所の尾引き部の拡大図、(b)は、塗布時のノズル上方概観図、(c)は、塗布時のノズル側方概観図
【図13】(a)は、塗布時のノズル上方概観図、(b)は、塗布後の被塗布材上方概観図、(c)は、枚葉の被塗布材への塗布において発生した尾引きの拡大図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における液体塗布装置の概略図である。塗布液タンクの塗布液は、例えば、定量ポンプのように安定した送液が可能な送液ポンプにより送り出され、ノズル1に送り込まれる。その後、塗布液はマニホールドからスリット(ストライプ塗布の場合は、巾の狭いスリット、または穴形状の流路など)へ押し出され、更に、塗布液吐出口2から吐出されて、ノズル1と相対的に走行している被塗布材5に塗布され、塗布膜8を形成する。
【0026】
また、本発明では、例えば、減圧ポンプなどを流量調整バルブや流量計を介して減圧チャンバー7へ繋ぎ込み、ノズル1と被塗布材間の気体を吸引する。このように、塗布液吐出口2の塗布上流側に設けられた気体吸引口3から、気体を吸引することで、ビード4の上流側近傍が減圧され、基板の走行によるせん断力に対して、ビード4を塗布上流側に引っ張る力を得ることができ、ビード4を維持できるようになる。
【0027】
ここで、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を実現しようとする場合などは、終端部でノズルを上昇させる方法が、従来から用いられてきたが、ビードが伸びながら千切れて行く挙動を制御することが困難なため、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまう。
【0028】
また、サックバックピストンによりノズル内の流路に塗布液吸い込み空間を形成する方法を用いられる場合があるが、ノズルの構造が複雑になり、分解・洗浄・組み立てなど、メンテナンスが煩雑で困難となったり、ノズルの小型軽量化が困難となったり高価な設備となる。更に、微少なビードの液量を適量だけ吸い込むというサックバックピストンの精密制御は非常に困難であり、生産中におけるサックバックピストンの吸い込み量についての調整頻度が多くなり、生産性を低下させてしまう。
【0029】
図2には、本発明の実施の形態1における液体塗布装置の、吸引口側壁面の凹凸部斜視図を示す。また、図3には、塗布終端部で、ノズル(ダイヘッド)の気体吸引口側壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法における、図3(a)は側方断面図であり、図3(b)は塗布液吐出口側から見た図を示す。
【0030】
図2に示すように、本発明では、ノズルの気体吸引口3側の壁面に凹凸を複数個設けると共に、塗布終端部において、短時間、気体吸引量を増加させる。これにより、ビードの上流側が塗布時よりも減圧され、図3に示すように、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることができる。
【0031】
その結果、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を複数個形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに複数個の細かい亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となる。
【0032】
以上のように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を複数個生じさせることで、ビードの伸びが微小となるよう速やかにビードを切り離すことが可能となる。その結果、塗布終端部の微小な尾引きはレベリングで塗布膜中に平滑化されるため、従来法のように尾引きが倒れこむことなく、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布が可能となる。
【0033】
(実施の形態2)
図4は、ノズル(ダイヘッド)の吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではない液体塗布装置の、吸引口側壁面の濡れ性が異なる部分の斜視図である。
【0034】
図4において、9は濡れ性の低い部分で10が濡れ性の高い部分であり、本発明の実施の形態2における液体塗布装置は、このような塗布巾方向に複数個の濡れ性の異なる領域を形成した構造となっている。このような液体塗布装置を用いて塗布する際、塗布終端部において、短時間、気体吸引量を増加させる。
【0035】
ここで、図5は、本発明の実施の形態2における、塗布終端部で、ノズルの気体吸引口側壁面の濡れ性の高い部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせる方法における、図5(a)は、側方断面図であり、図5(b)は、塗布液吐出口側から見た図である。
【0036】
このように、塗布終端部において、短時間、気体吸引量を増加させることで、ビードの上流側が塗布時よりも減圧され、図5に示すように、壁面の濡れ性の高い部分10のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることができる。その結果、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となる。
【0037】
以上のように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を複数個生じさせることで、ビードの伸びが微小となるよう速やかにビードを切り離すことが可能となる。その結果、塗布終端部の微小な尾引きはレベリングで塗布膜中に平滑化されるため、従来法のように尾引きが倒れこむことなく、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布が可能となる。
【0038】
ここで、実施の形態1および2において、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾けることでも、短時間、気体吸引量を増加させることと同様に、塗布液の濡れ上がりを促進でき、同様の効果が得られる。
【0039】
(実施例1)
実施の形態1を使用した実施例により、更に詳細に説明する。本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図1のノズル1を用いて、吸引口側壁面の凹凸部を図6に示すように、ノズルの吐出口先端面に対する角度を部分的に変更したノズルにより塗布した。
【0040】
また、塗工ギャップ19を100μmとし、塗工速度150mm/sで、ノズル1と相対的に走行するPETフィルム基材上に、せん断速度1000(1/s)における粘度が100mPa・sであるメチルセルロース水溶液を、厚み10μmで塗布した。また、塗布巾は100cmとし、塗布距離は100cmとした。また、間欠塗布における未塗布部長さは1cmとした。なお、塗布液吐出口2は隙間が100μmのスリット形状とし、気体吸引口3は隙間が500μmのスリット形状とした。更に、塗布時における気体吸引口の圧力を−10kPaとし、塗布終端部での気体吸引口の圧力を−15kPaとした。
【0041】
また、図2における吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとし塗布巾全域に設けた。また、図6におけるノズルの吐出口先端面に対する角度θ1=150°とし、同じくθ2を135°〜45°まで変化させた場合のノズルで、上記塗布を間欠500回分行った際の尾引き発生評価を表1に示す。なお、尾引き発生評価は、長さ0.5mm以上の尾引きが発生しない場合「○」、発生した場合を「×」と評価した。
【0042】
ここで、比較例(1)として、図9〜図10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表1に合わせて示す。
【0043】
【表1】
【0044】
ここで、従来法のノズル1は、ノズルの吸引口側壁面の凹凸部が無い、つまり、図6におけるθ1=θ2である構造となる。この従来法のノズル1のθ1=θ2=150°とし、また、塗布液吐出口2は隙間が100μmのスリット形状とし、気体吸引口3も隙間が500μmのスリット形状とした。更に、塗布時における気体吸引口の圧力を−10kPaとした。また、塗工ギャップ19を100μmとし、塗工速度150mm/sでノズル1と相対的に走行するPETフィルム基材上に、せん断速度1000(1/s)における粘度が100mPa・sであるメチルセルロース水溶液を、厚み10μmで塗布した。
【0045】
また、塗布巾は100cmとし、塗布距離は100cmとした。また、間欠塗布における未塗布部長さは1cmとした。
【0046】
表1より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0047】
これに対して、本発明のノズル1(実施例1)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成できた。このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0048】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0049】
なお、本実施例では、θ1を150°とし、θ2を135°〜45°まで変化させた場合のみ記載したが、これに限らずθ1とθ2に差を設けることで同様の効果が得られる。また、吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとした場合のみ記載したが、複数個の凹凸部が設けられていれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0050】
(実施例2)
実施の形態2を使用した実施例により、更に詳細に説明する。本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図4のノズル1を用いて、実施例1と同様の塗布を行った。ここで、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分9は、塗布巾方向W=3mmおよび高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成(面粗度Ra0.4のまま表面処理せず)し、また濡れ性の低い部分9と交互に濡れ性の高い部分10を塗布巾方向V=3mmおよび高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成(フッ素系材料による表面処理)した以外の塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面に複数の濡れ性(接触角)の異なる部分が塗布巾全域に交互に存在するノズルで塗布した場合の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
また、比較例も実施例1と同様とし、図9〜31に示した従来法のノズル1による同様の結果を表2に合わせて示す。ここで、従来法のノズル1は、ノズルの吸引口側壁面の濡れ性に差が無い、つまり、図6における9と10の部分の濡れ性に差が無い構造となる。
【0053】
表2より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0054】
これに対して、本発明のノズル1(実施例2)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0055】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。 なお、本実施例では、濡れ性の低い(接触角の高い)領域の接触角を70°とした場合のみ記載したが、これに限らず濡れ性に差を設けることで同様の効果が得られる。
【0056】
また、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分の巾は塗布巾方向V=3mmとし、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成し、濡れ性の高い部分10を塗布巾方向W=3mm、及び、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成した場合のみ記載したが、複数個の濡れ性の異なる部分があれれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0057】
(実施例3)
実施の形態1を使用した実施例により、更に詳細に説明する。
【0058】
図7は、実施の形態1における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾けた場合の図であり、図7(a)はノズル側方断面図であり、図7(b)は塗布液吐出口側から見た図である。
【0059】
本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図1のノズル1を用いて、塗布終端部において、塗布終端部での気体吸引口の圧力を塗布時と同じ−10kPaとし、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けたこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の凹凸部構造の異なるノズルで塗布した結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
また、比較例も実施例1と同様とし、図9〜10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表3に合わせて示す。
【0062】
表3より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0063】
これに対して、本発明のノズル1(実施例3)では、ノズルを傾けることで、ビードが気体吸引口側に引き寄せられ易くなり、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0064】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに亀裂を生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0065】
尚、本実施例では、塗布終端部において、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けた場合のみ記載したが、気体吸引口のある塗布の上流側に傾ければ同様の効果が得られ、角度はこれに限らない。
【0066】
また、本実施例では、θ1を150°とし、θ2を135°〜45°まで変化させた場合のみ記載したが、これに限らずθ1とθ2に差を設けることで同様の効果が得られる。また、吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとした場合のみ記載したが、複数個の凹凸部が設けられていれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0067】
(実施例4)
実施の形態2を使用した実施例により、更に詳細に説明する。
【0068】
図8は、実施の形態2における本発明のノズルを用いて塗布し、塗布終端部でノズル1を塗布の上流側に傾ける場合の図であり、図8(a)はノズル側方断面図であり、図8(b)は塗布液吐出口側から見た図である。
【0069】
本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図4のノズル1を用いて、塗布終端部において、塗布終端部での気体吸引口の圧力を塗布時と同じ−10kPaとし、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けたこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の濡れ性(接触角)の異なるノズルで塗布した場合の結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
また比較例も実施例1と同様とし、図9〜10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表4に合わせて示す。
【0072】
表4より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0073】
これに対して、本発明のノズル1(実施例4)では、ノズルを傾けることで、ビードが気体吸引口側に引き寄せられ易くなり、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに亀裂を生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を塗布できた。
【0074】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに細かな亀裂を複数生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0075】
なお、本実施例では、塗布終端部において、ノズル1を塗布の上流側に10°傾けた場合のみ記載したが、気体吸引口のある塗布の上流側に傾ければ同様の効果が得られ、角度はこれに限らない。
【0076】
また、本実施例では、濡れ性の低い(接触角の高い領域)の接触角を70°とした場合のみ記載したが、これに限らず濡れ性に差を設けることで同様の効果が得られる。
【0077】
また、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分の巾は塗布巾方向V=3mmとし、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成し、また濡れ性の高い部分10を塗布巾方向W=3mmおよび高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成した場合のみ記載したが、複数個の濡れ性の異なる部分があれれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0078】
(実施例5)
実施の形態1を使用した実施例により、更に詳細に説明する。本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図1のノズル1を用いて、ノズル1と相対的に走行するガラス基板(巾110cm×長さ70cm)上に、塗布巾は100cmとし、塗布距離は68cmとして500枚を塗布したこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例1と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の凹凸部構造の異なるノズルで塗布した結果を表5に示す。
【0079】
また比較例も実施例1と同様とし、図9〜31に示した従来法のノズル1による同様の結果を表5に合わせて示す。
【0080】
【表5】
【0081】
表5より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、ガラス基板の外周に設ける未塗布部領域に塗布液が付着するという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0082】
これに対して、本発明のノズル1(実施例5)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の凹部を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を被塗布材全域に塗布できた。
【0083】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。
【0084】
また、本実施例では、θ1を150°とし、θ2を135°〜45°まで変化させた場合のみ記載したが、これに限らずθ1とθ2に差を設けることで同様の効果が得られる。また、吸引口側壁面の凹み部の巾:Z=3mmとし、同じく凸部の巾:Y=3mmとした場合のみ記載したが、複数個の凹凸部が設けられていれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【0085】
(実施例6)
実施の形態2を使用した実施例により、更に詳細に説明する。
【0086】
本実施例では、焼入れステンレス鋼を研削加工して製作した図4のノズル1を用いて、ノズル1と相対的に走行するガラス基板(巾110cm×長さ70cm)上に、塗布巾は100cmとし、塗布距離は68cmとして500枚を塗布したこと以外は、ノズル構造、塗布条件などは、実施例5と同様として実施した。ノズルの吸引口側壁面の濡れ性(接触角)の異なるノズルで塗布した場合の結果を表6に示す。
【0087】
また比較例も実施例1と同様とし、図9〜10に示した従来法のノズル1による同様の結果を表6に合わせて示す。
【0088】
【表6】
【0089】
表6より、従来法によるノズル1(比較例1)では、ノズル先端面と被塗布基材との間でビードが伸びながら千切れていく挙動を制御することができず、部分的に最も長く伸びた塗布液が被塗布材上に倒れこむ「尾引き」が発生してしまい、未塗布部を跨いで塗布膜が部分的に繋がるという不良が発生し、歩留まり低下が生じた。
【0090】
これに対して、本発明のノズル1(実施例6)では、塗布液吐出口2の上流側の範囲に設けた気体吸引口から吸引される気体によってビードの上流側が減圧され、壁面の濡れ性の低い部分を除く部分のみ選択的に塗布液を濡れ上がらせることで、塗布巾全域にわたりビードの厚みが薄い部分を形成でき、このビードの厚みの薄い部分からビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、被塗布材からビードを速やかに切り離すことが可能となった。その結果、尾引きによる不良を発生させることなく、500枚を被塗布材全域に塗布できた。
【0091】
このように、本発明によれば、塗布巾全域にわたりビードに細かい亀裂を複数生じさせることで、尾引きの発生しない高速間欠塗布を可能とした液体塗布装置を提供することができる。なお、本実施例では、濡れ性の低い(接触角の高い領域)の接触角を70°とした場合のみ記載したが、これに限らず濡れ性に差を設けることで同様の効果が得られる。
【0092】
また、ノズルの吸引口側壁面に設けた塗布液の濡れ性の低い部分の巾は塗布巾方向V=3mmとし、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成し、また、濡れ性の高い部分10を塗布巾方向W=3mm、及び、高さ方向に壁面に沿って10mmの領域として形成した場合のみ記載したが、複数個の濡れ性の異なる部分があれれば同様の効果が得られ、これに限らない。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、高速間欠塗布、および被塗布材全域への塗布を可能とするため、例えば、有機ELやプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、太陽電池、リチウム二次電池、などの高機能なデバイスを低コスト且つ高い生産性で生産することが求められる印刷製造工程に適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 ノズル
2 塗布液吐出口
3 気体吸引口
4 ビード
5 被塗布材
6 凹部
7 減圧チャンバー
8 塗布膜
9 濡れ性の低い部分
10 濡れ性の高い部分
19 塗工ギャップ
21 尾引き
22 ロール
23 ノズルを傾ける角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、
塗布液を吐出するノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面に複数の凹凸を備えること、
を特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記ノズルの先端面とノズルの吸引口側の壁面との角度は、塗布巾方向で同一でない、請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、
塗布液を吐出するノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではないこと、
を特徴とする塗布装置。
【請求項1】
液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、
塗布液を吐出するノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面に複数の凹凸を備えること、
を特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記ノズルの先端面とノズルの吸引口側の壁面との角度は、塗布巾方向で同一でない、請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
液体を塗布対象物に塗布する液体塗布装置であって、
塗布液を吐出するノズルを有し、前記ノズルは前記塗布液の吐出口の上流側に気体の吸引口をさらに有し、前記ノズルの吸引口側の壁面の濡れ性が一定ではないこと、
を特徴とする塗布装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−245423(P2012−245423A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116559(P2011−116559)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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