塗装方法
【課題】 水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行い第2の塗料でウエット・オン・ウエット塗装を行うに際し、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させ、プレヒート後のクーリングを無くするようにする。
【解決手段】 25重量%以上の固形分含有の水性塗料でなる第1の塗料による第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であり、プレヒート工程は、吹き付けエアの温度が40℃を越え80℃以下、風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上の条件で行う第1プレヒート工程と、該第1プレヒート工程の後に行われ、吹き付けエアの温度が室温を越え40℃以下、風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下の条件で行う第2プレヒート工程と、を有している。
【解決手段】 25重量%以上の固形分含有の水性塗料でなる第1の塗料による第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であり、プレヒート工程は、吹き付けエアの温度が40℃を越え80℃以下、風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上の条件で行う第1プレヒート工程と、該第1プレヒート工程の後に行われ、吹き付けエアの温度が室温を越え40℃以下、風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下の条件で行う第2プレヒート工程と、を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性塗料を用いた塗装方法、特に、水性塗料の塗膜上に第2の塗料でウエット・オン・ウエット塗装を行うようにした塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車等の車両の車体などに塗装を施す場合、いわゆる溶剤型塗料が多用されている。図10は、従来一般的な溶剤型塗料を用いた車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。この図に示すように、従来では、まず電着塗装を施して焼付乾燥を行い(ステップS51及びS52)、次に、電着塗膜の上に中塗り塗装を施して焼付乾燥を行い(ステップS53及びS54)、更に、中塗り塗膜の上にベース塗装およびクリア塗装を順次施して焼付乾燥を行うようにしている(ステップS55,S56及びS57)。特に、ベース塗装後のクリア塗装は、所謂ウエット・オン・ウエット塗装で行われるのが普通である。
【0003】
このように、自動車の車体塗装では、通常、電着塗装と中塗り塗装とベース塗装(及びクリア塗装)が施され多層の塗膜が形成されるが、このうち中塗り塗装およびベース塗装については、塗装品質および塗装作業性を確保する観点から、所謂、溶剤型塗料を用いるのが従来一般的である。特に、ベース塗装では、その後にウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行うことが好ましいので、かかるウエット・オン・ウエット塗装が可能な溶剤型塗料がより好適に用いられる。
【0004】
かかる溶剤型塗料は、塗装品質が優れ、また塗装工程での作業性も良好であるが、多量の有機溶剤を含有しており、この有機溶剤が塗装工程等を通じて周囲へ排出されることになる。このため、近年では、溶剤型塗料から水性塗料への転換が積極的に図られている。特に、ベースコート塗料は、中塗りコート塗料に比べて一般に有機溶剤の含有率が高いので、優先的に水性塗料への切り換えが進められている。
【0005】
ところが、この水性塗料を用いて塗装を行う場合には、塗布された塗料内部の水分の蒸発を促進するために、塗装後に所謂プレヒートを行うことが必須である。
例えば、特許文献1には、自動車の車体に水性ベースコート塗料を用いた塗装を施した後、塗膜表面に熱風を吹き付けることで、塗膜中に含まれる水分の蒸発を促進することが開示されている。
【0006】
図11は、中塗りコート塗料は溶剤型塗料でベースコート塗料のみに水性塗料を適用した車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。また、図12は、中塗りコート塗料およびベースコート塗料の両方に水性塗料を適用した車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【0007】
これらのフローチャートから良く分かるように、水性塗料を用いた中塗り塗装工程(ステップS63)並びにベース塗装工程(ステップS65及びステップS76)の後には、塗膜内部の水分の蒸発を促進するために、例えば所定温度の温風を吹き付けるプレヒート工程(ステップS66,ステップS74及びステップS77)が新たに設けられる。従って、このプレヒート工程で温風を供給するために、追加的なエネルギ消費が必要となる。
また、前記図11及び図12に示すように、ベース塗装の場合、その後工程でウエット・オン・ウエット塗装にてクリア塗装を行うためには、プレヒート工程の後にクーリング工程(ステップS67及びステップS78)が更に必要とされるので、追加的な消費エネルギもより一層増大することになる。
【特許文献1】特開2001−239201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周知のように、近年では、環境問題への関心の高まりに応じて、塗装工程についてもより一層の省エネルギ化が求められており、水性塗料を用いた塗装後の前記プレヒート工程についても、消費エネルギ低減の観点から、できるだけ低温で行えるようにすることが望まれている。
しかしながら、プレヒート温度をむやみに低くした場合には、水性塗料による塗膜内の水分の蒸発が不十分になり、後続する焼付乾燥工程で残存した水分が突沸しピンホール等の塗膜欠陥を生じさせる恐れがある。また、塗料粘度が低いのでクリア塗膜との混層が生じ易く、やはり平滑性悪化などの外観性の低下を招くことになる。特に、アルミニウム等のフレーク(鱗片状部材)を含有する水性塗料の場合には、両塗膜間の界面の乱れが生じ、水性塗料による塗膜内でアルミフレークの配向性が損なわれて塗装面の光輝性が低下するという問題もある。
【0009】
また、プレヒート工程後の塗装については、例えば40℃程度以上の塗膜(例えばベース塗膜)上に溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合、溶剤型塗料中の溶剤が急激に蒸発して塗料の粘度が上昇するため、流動性が低下して塗膜の平滑性が損なわれることが知られている。プレヒート工程後のクーリングは、かかる不具合の発生を防止することを基本的な目的として行われるものであるが、このクーリング工程についても、エネルギ消費低減の観点から極力簡略化あるいは無くすることが望ましい。
【0010】
図1は、プレヒート温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。尚、この例は、水性塗料(例えばベースコート塗料)を用いたベース塗装の後に3分間のプレヒートを行い、溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合についてのものであるが、この場合には、グラフから分かるように、塗装の仕上がり性を目標値以上とするには、プレヒート温度を略70℃程度以上に設定し、且つ、プレヒート後にクーリングを行う必要がある。
【0011】
更に、従来のプレヒートでは、温風の吹き付け等により塗膜の表面から加温されるだけであるので、塗膜表面では水分の蒸発が促進され易いが、塗膜内部まで迅速には熱が伝わり難く、塗膜内部での水分の蒸発が不十分になりがちである。従って、水分の蒸発効率を高めることは困難であり、プレヒート温度を一定以上に高く設定せざるを得ない。また、このことがクーリング工程の必要性を招いている。
例えば、水性ベースコート塗料を用いた塗装の後にウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行う場合について、70℃を越える温度で2分間を越えるプレヒートを行った場合には、前述のクーリング工程が必要であることが知られている。
【0012】
この発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたもので、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、また、プレヒート後のクーリングを無くすることができる塗装方法を提供することを、基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者等は、上記の目的を達成するために研究開発を重ねる中で、水性塗料中に含まれる固形分が多くなれば水分含有量が低くなることに着目し、それだけ塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間が抑えられることを確かめた。また、水性塗料を塗装機により微粒化されたミスト状態とし、シェーピングエアで噴霧することにより、塗装後のプレヒートでの水分の蒸発効率を高める上で有効であることを見出した。これは、塗料を微粒化されたミスト状態とすることで、塗料の粒子径が小さくなり単位質量当たりの表面積が大きくなり、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度が効果的に高められることによるものと考えられる。尚、このように、塗料を微粒化されたミスト状態にして噴霧塗布し得る塗装機としては、所謂、ベル型回転噴霧式塗装機が知られている(例えば特開平10−99736号公報参照)。
【0014】
更に、プレヒート工程を、第1及び第2の前後2工程に分け、第1プレヒート工程を比較的高温に設定して水性塗膜の乾燥性を確保し、第2プレヒート工程を比較的低温に設定して後工程の塗装での塗料の流動性低下を抑制することにより、プレヒート後のクーリング工程を別途に設ける必要なしに、良好な塗装仕上がり性が得られることを見出した。
【0015】
図2は、本発明のプレヒート工程でのプレヒート温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。尚、この例は、水性塗料(例えばベースコート塗料)を用いたベース塗装の後に、吹き付けエア温度80℃で90秒間の第1プレヒート工程を行い、30秒間の第2プレヒート工程を吹き付けエア温度80〜40℃の間で温度を変えて行い、溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合についてのもので、ベースコート塗料としては、従来のものと本発明に係る開発塗料を用いている。図2のグラフから分かるように、従来のベース塗料では、第2プレヒート工程での温度設定に拘わらず目標の塗装仕上がり性は得られないが、本発明に係る開発ベース塗料を用いた場合には、第2プレヒート工程での吹きつけエア温度を略50℃以下に設定することにより、水性塗料の塗膜の水分含有率を目標値以下とし、また、仕上がり性を目標値以上とすることが可能であった。
【0016】
そこで、本願請求項1の発明(第1の発明)に係る塗装方法は、25重量%以上の固形分を含有した水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、前記プレヒート工程は、吹き付けエア温度が40℃を越え80℃以下、吹き付けエア風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上、のプレヒート条件で行う第1プレヒート工程と、該第1プレヒート工程の後に行われ、吹き付けエア温度が室温を越え40℃以下、吹き付けエア風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下、のプレヒート条件で行う第2プレヒート工程と、を有していることを特徴としたものである。ここに、前記吹き付けエアの風速は、被塗物表面での風速である。
【0017】
ここに、第1の塗料が含有する固形分の下限値を25重量%としたのは、固形分の含有量がこの値を下回る場合には、プレヒート工程後に残存する水分が多くなり、塗装仕上がり性に悪影響を及ぼすからである。また、第1プレヒート工程での吹き付けエアについて、温度の下限値を40℃、風速の下限値を0.5m/秒、吹き付け時間の下限値を30秒としたのは、温度、風速及び吹き付け時間がそれぞれこれらの値を下回ると、水性塗料でなる第1の塗料の塗膜内の水分を蒸発させるプレヒート効果(つまり第1の塗料の乾燥性)を確保して良好な塗装仕上がり性を得ることが難しいからである。更に、第1プレヒート工程での吹き付けエアについて、温度の上限値を80℃、風速の上限値を5m/秒としたのは、温度及び風速がこれらの値を超えると、第2プレヒート工程で塗膜の温度を下げることが困難になり、クーリングなしで良好な塗装仕上がり性を得ることが難しいからである。更に、第2プレヒート工程での吹き付けエアについて、温度の上限値を40℃、風速の上限値を10m/秒、吹き付け時間の上限値を30秒としたのは、温度、風速及び吹き付け時間がそれぞれこれらの値を上回ると、第2の塗料を塗布した際の流動性確保が難しいからである。
【0018】
また、本願請求項2の発明(第2の発明)は、前記第1の発明において、前記第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値が30℃に設定されていることを特徴としたものである。
【0019】
ここに、第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値が30℃に設定したのは、第1の塗料の乾燥性を確実に得るためである。
【0020】
更に、本願請求項3の発明(第3の発明)は、前記第1又は第2の発明において、前記第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値が90秒に設定され、前記第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値が15秒に設定されていることを特徴としたものである。
【0021】
ここに、第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値を90秒に設定したのは、クーリングなしで良好な塗装仕上がり性を確実に得るためである。また、第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値を15秒に設定したのは、第1の塗料の乾燥性を確実に得るためである。
【0022】
また更に、本願請求項4の発明(第4の発明)は、前記第1〜第3の発明の何れか一において、前記第1の塗料がフレーク状(鱗片状)の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、前記第2の塗料はクリアコート塗料であることを特徴としたものである。
【0023】
また更に、本願請求項5の発明(第5の発明)は、前記第1〜第4の発明の何れか一において、前記第2の塗料は溶剤型塗料であることを特徴としたものである。
【0024】
また更に、本願請求項6の発明(第6の発明)は、前記第1〜第5の発明の何れか一において、前記ベル型回転噴霧式塗装機のベル回転数は20000rpm以上に設定されていることを特徴としたものである。
【0025】
ここに、ベル回転数の下限値を20000rpmとしたのは、ベル回転数20000rpm未満では、噴霧塗料の粒子径を十分に小さくして単位質量当たりの表面積を十分に大きくすることが難しく、従って、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度を有効に高めることが難しいからである。
【0026】
また更に、本願請求項7の発明(第7の発明)は、前記第6の発明において、前記シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL(ノーマル・リットル)/分以上に設定されていることを特徴としたものである。
【0027】
ここに、シェーピングエアの被塗物表面での流速の下限値を150NL/分としたのは、エア流速と光輝材の配向性とは一般に比例し、シェーピングエアの被塗物表面での流速がこの値未満では、前記配向性の確保が難しいからである。
【0028】
また更に、本願請求項8の発明(第8の発明)は、前記第1〜第7の発明の何れか一において、前記第1の塗料が水性ベースコート塗料で前記第2の塗料はクリアコート塗料であり、前記第1塗装工程の前に第2の水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行い、該中塗り塗装後に前記第1〜第3の発明の何れか一に記載のプレヒート工程と同一条件でプレヒートを行い、該プレヒート後に、前記水性ベースコート塗料でなる第1の塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う、ことを特徴としたものである。
【0029】
また更に、本願請求項9の発明(第9の発明)は、前記第8の発明において、前記第2の水性塗料は、40重量%以上の固形分を含有していることを特徴としたものである。
【0030】
ここに、第2の水性塗料が含有する固形分の下限値を40重量%としたのは、固形分の含有量がこの値を下回る場合には、プレヒート工程後に残存する水分が多くなり、塗装仕上がり性に悪影響を及ぼすからである。
【発明の効果】
【0031】
本願の第1の発明によれば、水性塗料でなる第1の塗料中に含まれる固形分を25重量%以上としたことにより、それだけ水分含有量を低く制限し、塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間を抑えることができ、また、プレヒート工程を、第1及び第2の前後2工程に分け、第1プレヒート工程を比較的高温(40℃を越え80℃以下)に設定したことにより、水性塗膜の乾燥性を確保でき、第2プレヒート工程を比較的低温(室温を越え40℃以下)に設定したことにより、第2塗装工程での塗料の流動性低下を抑制することができる。
すなわち、プレヒート後のクーリングを無くした場合でも、第2塗料が塗着時に急激に熱せられて流動性が低下し、平滑性に悪影響を及ぼすことを有効に抑制できる。また、第2塗装工程後の乾燥硬化時における水分突沸によるピンホール発生や第2の塗料との混層による平滑性悪化などの不具合発生も有効に抑制できる。
【0032】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には、前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値を30℃に設定したことにより、第1の塗料の乾燥性を確実に得ることができる。
【0033】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には、前記第1又は第2の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値を90秒に設定したことにより、クーリングなしで良好な塗装仕上がり性を確実に得ることができ、また、第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値を15秒に設定したことにより、第1の塗料の乾燥性を確実に得ることができる。
【0034】
更に、本願の第4の発明によれば、基本的には、前記第1〜第3の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1の塗料がフレーク状の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、第2の塗料はクリアコート塗料である場合において、両塗料による両塗膜間の界面の乱れが生じて水性塗料(第1の塗料)による塗膜内で光輝材の配向性が損なわれ、塗装面の光輝性が低下することを有効に抑制できる。
【0035】
また更に、本願の第5の発明によれば、第2の塗料が溶剤型塗料であることにより、前記第1〜第4の発明の何れか一と同様の作用効果をより確実に奏することができる。
【0036】
また更に、本願の第6の発明によれば、基本的には、前記第1〜第5の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1塗装工程及び/又は第2塗装工程での塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、ベル回転数を20000rpm以上に設定したことにより、噴霧塗料の粒子径を十分に小さくして単位質量当たりの表面積を十分に大きくすることでき、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度を有効に高めることができる。従って、プレヒートの低温化及び/又は短時間化を図っても、水分の突沸によるピンホールの発生や上層との混層による平滑性の悪化等の不具合発生をより有効に抑制することが可能となる。
【0037】
また更に、本願の第7の発明によれば、基本的には、前記第1〜第6の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL/分以上に設定されていることで、光輝材の配向性を確保できる。
【0038】
また更に、本願の第8の発明によれば、水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、更にその後に水性ベースコート塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う場合についても、前記第1〜第7の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
また更に、本願の第9の発明によれば、基本的には、前記第1〜第8の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、第2の水性塗料中に含まれる固形分を40重量%以上としたことにより、それだけ水分含有量を低く制限し、塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態で用いるベル型回転噴霧式塗装装置について説明する。尚、このベル型回転噴霧式塗装装置は、従来公知のものと同様のものであり、例えば特開平10−99736号公報に開示されたものと同様の構成を備え同様の作用をなすものである。
このベル型回転噴霧式塗装装置は、図3〜図5に示すように、内部にエアモータ(図示省略)を内蔵する塗装機本体1と、該塗装機本体1の先端側に回転可能に設けられたベルカップ2と、該ベルカップ2の径方向外側に向かってシェーピングエアFsを噴出するシェーピングエア形成手段3とを備えて構成されている。
【0041】
前記ベルカップ2は、略円錐筒状を呈しており、その基端部に設けられた円盤状の塗料拡散板4に向かって供給された塗料Pを遠心力により霧化状態となすものであり、エアモータにより回転駆動される駆動軸5の先端に共回り可能に取り付けられている。符号6は塗料拡散板4の外周側に形成された塗料噴出口であり、塗料拡散板4の内面側に供給され、遠心力により霧化状態とされた塗料がこの塗料噴出口6を通ってベルカップ2の内周面に沿うように拡散されることとなっている。
【0042】
前記駆動軸5の中心部には、前記塗装機本体1側に固定された塗料供給管7が挿通されており、該塗料供給管7の先端には、前記塗料拡散板4の内面側に臨むようにして塗料供給用のノズル8が設けられている。なお、塗料供給管7は、駆動軸5の回転駆動時にも回転することはない構成とされている。
【0043】
前記シェーピングエア形成手段3は、前記塗装機本体1内に形成されたエア通路9と、該エア通路9の先端部に形成されたエアチャンバ10と、該エアチャンバ10に連通された状態で前記塗装機本体1の先端面に環状に所定間隔で形成された多数のエア噴出口11とによって構成されている。つまり、これらの多数のエア噴出口11から噴出されたエアにより前記ベルカップ2の径方向外側に略円筒状のシェーピングエアFsが形成されることとなっている。
【0044】
本実施の形態では、前記塗装機本体1に、シェーピングエアFsを180°間隔で径方向に横切るエアカーテンFcを噴出するエアカーテン形成手段12が設けられている。
該エアカーテン形成手段12は、前記塗装機本体1内に前記エア通路9とは別途形成された第2のエア通路13と、該エア通路13の先端部に形成されたエアチャンバ14と、該エアチャンバ14に連通された状態で前記塗装機本体1の先端面に180°間隔で対称位置に一対ずつ形成された半径方向に延びるスリット状のエア噴出口15,…,15とによって構成されている。つまり、これらのエア噴出口15,…,15から噴出されたエアにより前記シェーピングエアFsを180°間隔で径方向に横切る略平面状の一対ずつのエアカーテンFc,…,Fcが形成されることとなっている(図5及び図6参照)。すると、シェーピングエアFsは、エアカーテンFc,…,Fcにより2分割されて、略楕円円弧状を呈することとなる。
【0045】
以上のように構成されたベル型回転噴霧式塗装装置を用いた塗装について、例えばメタリック塗装を行う場合を例にとって説明する。
メタリック塗装を行う場合には、鱗片状部材F(フレーク)を含有する塗料Pが塗料供給管7を介して塗料拡散板4の内側に供給される。そして、塗料拡散板4の内側に供給された塗料Pは、ベルカップ2の回転に伴う遠心力により拡散霧化されて塗料噴出口6から噴出され、ベルカップ2の内周面に沿って略円筒状に拡散される。
【0046】
一方、シェーピングエア形成手段3により形成されたシェーピングエアFsは、前述したように、エアカーテンFcによって2分割されて略楕円円弧状となる。
従って、シェーピングエアFsに乗って塗着面に向かう塗料P中の鱗片状部材Fは、図6に示すように、略同一方向(即ち、楕円の長径と平行な方向)に並ぶこととなる。この現象は、鱗片状部材Fの大きさに関係なく生ずる。
【0047】
そこで、ベル型回転噴霧式塗装装置を前記鱗片状部材Fの並び方向と直交する方向(即ち、図6の矢印X方向)に移動させると、塗着面においては鱗片状部材Fが略同一方向に並ぶこととなり、縞状の塗装ムラが生じることはなくなる。しかも、シェーピングエアFsの流れを乱したりする必要がないので、ベル型回転噴霧式塗装装置の利点である高い塗着効率を維持できる。
【0048】
すなわち、かかるベル型回転噴霧式塗装装置によれば、シェーピングエアに乗って塗着面に到達する塗料中の鱗片状部材の向きが略同一方向に整えられるところから、塗装ムラのないメタリック塗装を行うことができることとなり、ベル型回転噴霧式塗装装置の利点である塗着効率の高さを維持しつつ、良好なメタリック塗装が行えるという優れた効果がある。また、例えばエアカーテン形成手段を追加するだけで、メタリック塗装に適したものとすることができるので、コスト的にも有利である。
【0049】
本実施形態では、水性塗料用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、また、プレヒート後のクーリングを無くすることができるようにするために、25重量%以上の固形分を含有した水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを行い、前記プレヒート工程を第1及び第2の前後2工程に分けて行い、第1プレヒート工程を、吹き付けエア温度が40℃を越え80℃以下、吹き付けエア風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上、のプレヒート条件で行い、第2プレヒート工程を、吹き付けエア温度が室温を越え40℃以下、吹き付けエア風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下、のプレヒート条件で行うようにした。
【0050】
そして、本発明の効果を検証するために、適用塗料,塗装条件,プレヒート条件などを様々に変更して種々の試験を行った。
以下、この試験について説明する。まず、試験で用いる各種塗料の調製方法について説明する。
本実施形態に係る試験では、電着塗装を施した電着板に中塗り塗装,上塗り塗装(ベース塗装),クリア塗装を順次施す塗装が行われる。このうち、ベース塗装には、以下のように調製した3種類の水性ベースコート塗料(A1,A2,A3)を用いた。
【0051】
<水性ベースコート塗料の調製>
水性ベースコート塗料としては、アクリルエマルジョンA又はB,イオン交換水,ジメチルアミノエタノール,アミノ樹脂(例えば三井サイアナミド(株)製のサイメル327),光輝性顔料(例えば旭化成社製のアルミペーストMH8801),表面調整剤(例えばエアープロダクツ社製のサーフィノール440)、更に、ジメチルアミノエタノール及びイオン交換水を、それぞれ下記表1に示す所定の重量部ずつ添加し、均一に分散することで、水性ベースコート塗料A1,A2,A3をそれぞれ得た。
【0052】
【表1】
【0053】
前記光輝性顔料は、鱗片状をなす発色材としての光輝材を含有する。なお、これに限定されることなく、光輝性顔料は、発色材として、光輝材の代わりに、光干渉材を含有しても、あるいは、光輝材及び光干渉材の両方を含有してもよい。
尚、かかる水性ベースコート塗料の調製方法、及び、以下に説明するアクリルエマルジョンの製造方法は、例えば特開2001−240791号公報に開示されるように、公知である。
【0054】
前記3種類の水性ベースコート塗料A1〜A3のうち、水性ベースコート塗料A1及びA2に含有されるアクリルエマルジョンAは、次のようにして製造した。
<水性ベースコート塗料A1,A2用のアクリルエマルジョンAの製造>
アクリルエマルジョンAの製造に際しては、まず、反応容器に脱イオン水126.5重量部を加え、これを窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温させた。続いて、以下の組成を有するモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.24重量部及び脱イオン水10重量部からなる開始剤溶液と、を2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間にわたって同温度で熟成した。
【0055】
<アクリルエマルジョンAに用いるモノマー乳化物の組成>
・アクリル酸メチル:30.61重量部
・アクリル酸エチル:37.97重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:7.42重量部
・アクリルアミド:4.00重量部
・アクアロンHS−10:0.5重量部(第一工業製薬社製)
・アデカリアソープNE−20:0.5重量部(旭電化社製)
・脱イオン水:80重量部
【0056】
更に、次のような組成を有するモノマー乳化剤と、過硫酸アンモニウム0.06重量部及び脱イオン水10重量部からなる開始剤溶液と、を80℃で0.5時間にわたり並行して反応溶液に滴下した。滴下終了後、2時間にわたって同温度で熟成した。
<モノマー乳化剤(第2段階)の組成>
・アクリル酸エチル:16.6重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:1.86重量部
・メタクリル酸:1.54重量部
・アクアロンHS−10:0.2重量部(第一工業製薬社製)
・脱イオン水:10重量部
【0057】
前記3種類の水性ベースコート塗料A1〜A3のうち、残りの水性ベースコート塗料A3に含有されるアクリルエマルジョンBは、次のようにして製造した。
<水性ベースコート塗料A3用のアクリルエマルジョンBの製造>
アクリルエマルジョンBの製造方法は、基本的には前記アクリルエマルジョンAと同様であり、第2段階目のモノマー乳化剤の組成が異なるだけである。アクリルエマルジョンBの第2段階目のモノマー乳化剤の組成は、以下の通りとした。
【0058】
<モノマー乳化剤(第2段階目)の組成>
・アクリル酸エチル:15.07重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:1.86重量部
・メタクリル酸:3.07重量部
【0059】
以上のようにして、前記表1から分かるように、固形分の含有量(表1:最下欄参照)がそれぞれ異なる水性ベースコート塗料A1,A2,A3を得た。このうち、水性ベースコート塗料A1及びA2は固形分が25重量%を上回っているが、水性ベースコート塗料A3については、固形分が25重量%を下回っている。
【0060】
本実施形態では、前記水性ベースコート塗料を用いた塗装工程の前工程として、中塗りコート塗料を用いた塗装が行われる。この中塗りコート塗料としては、以下の5種類(A,B,C1〜C3)のものを用意した。
中塗りコート塗料A:溶剤型塗料OTOH870グレー(日本ペイント社製)
中塗りコート塗料B:溶剤型塗料OTOH880L48(日本ペイント社製)
中塗りコート塗料C1〜C3:水性塗料であり、以下のような組成を有するものを調整した。
【0061】
<水性中塗りコート塗料C1,C2,C3の調整>
これら中塗りコート塗料C1,C2,C3は、ポリエステル樹脂,アミノ樹脂,アミド基含有アクリル樹脂,ウレタン変性ポリエステル樹脂を組み合わせ、更に、顔料,アクリル系表面調整剤およびイオン交換水をそれぞれ所定の重量部ずつ添加し、均一分散することによって調製した。尚、かかる水性塗料の調製方法は、例えば特開2002−146282号公報に開示されるように、公知である。
水性中塗りコート塗料C1,C2,C3の組成および固形分の含有量を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
前記表2の水性中塗りコート塗料C1,C2,C3の調製に用いたポリエステル樹脂,アミノ樹脂,アミド基含有アクリル樹脂,ウレタン変性ポリエステル樹脂の樹脂特性は、以下の通りであった。
・ポリエステル樹脂:酸価50,水酸基価120,数平均分子量2000のもの
・アミノ樹脂:メラミン樹脂(サイメル327:三井サイアナミッド社製)
・アミド基含有アクリル樹脂:酸価50,水酸基価150,数平均分子量5000のもので、アミド基含有エチレン性モノマー20質量%,酸性基含有エチレン性モノマー10質量%,水酸基含有エチレン性モノマー50質量%及び他のエチレン性モノマー50質量%の共重合体
・ウレタン変性ポリエステル樹脂:pHが約7.5であるコロイダル分散ウレタン変性ポリエステル樹脂
【0064】
また、添加した顔料は、二酸化チタンとカーボンブラックを9対1の割合で含有したものとし、アクリル系表面調整剤としては、表2に示すように、例えばエアープロダクツ社製のサーフィノール104Eを用いた。
以上のようにして、前記表2から分かるように、固形分の含有量(表2:最下欄参照)がそれぞれ異なる水性中塗りコート塗料C1,C2,C3を得た。このうち、水性中塗りコート塗料C1及びC2は固形分が40重量%を上回っているが、水性中塗りコート塗料C3については、固形分が40重量%を下回っている。
【0065】
<クリアコート塗料>
また、ベースコート塗料を用いた塗装後に、ウエット・オン・ウエット塗装にて塗装されるクリアコート塗料としては、以下のもの(1種類のみ)を用いた。
クリアコート塗料A:マックフローO−600クリア(日本ペイント社製)
【0066】
本実施形態に係る各試験おいて上述の各種塗料を試験塗装する塗装板は、以下のようにして作製した。
<電着板の作製>
まず、電着塗装を施す電着板を作製した。
:リン酸亜鉛処理した厚みが0.7mmで、縦100mm,横300mmのダル鋼板を用意し、これにPN120M(日本ペイント社製)を乾燥膜厚が20μmになるように電着塗装を施し、160℃で30分間にわったて焼付乾燥した。
【0067】
<中上塗り板の作製>
上記のようにして得られた電着板に、試験条件に応じて、中塗り塗装,ベース塗装,クリア塗装を行うことで中上塗り板を得た。これらの塗装には、前述のベル型回転噴霧式塗装装置を用いた。
【0068】
このようにして得られた中上塗り板について、その塗装面の光輝感および仕上がり性の評価を行った。各評価の仕方は、具体的には以下による。
<光輝感の評価>
光輝感の評価には、変角光度計MA−68(X−Rite社製)を用いて、中上塗り板塗装面のフロップインデックス(FI)を光輝感として測定した。
そして、フロップインデックスが12以上であった場合を非常に良好である(◎)、フロップインデックスが10以上12未満であった場合を良好である(○)、フロップインデックスが10未満であった場合を良好でない(×)としてランク付けを行い評価した。
【0069】
<仕上がり性の評価>
仕上がり性の評価には、ウェーブスキャン(Wavescan)DOI(BYK社製)を用いて、中上塗り板塗装面のWa/Wd値を仕上がり性として測定した。
そして、Wa/Wd値が15未満であった場合を非常に良好である(◎)、Wa/Wd値が15以上20未満であった場合を良好である(○)、Wa/Wd値が20以上であった場合を良好でない(×)としてランク付けを行い評価した。
【0070】
次に、本実施形態で行った各種試験について説明する。
これら試験は、以下の3種類(試験I〜試験III)に大別される。これら各試験においては、水性ベースコート塗料(A1〜A3)をそれぞれ用いたベース塗装後に、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行い、焼付乾燥によって仕上げる点については共通である。各試験は、ベース塗装の前工程が以下のように異なる。
・試験I:溶剤型中塗りコート塗料Aで中塗り塗装を行った後に焼付乾燥を行い、その後にベース塗装を行う。
・試験II:溶剤型中塗りコート塗料Bで中塗り塗装を行った後に、プレヒートも焼付を乾燥も行うことなく、ウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を行う。
・試験III:水性中塗りコート塗料(C1〜C3)で中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、その後にウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を行う。
【0071】
まず、試験Iについて説明する。
<試験I>
この試験Iでは、図7のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS1参照)に、溶剤型の中塗りコート塗料Aを用いて中塗り塗装を施した後に焼付乾燥を行い(ステップS2,S3)、その後に水性ベースコート塗料Aを用いてベース塗装を施し(ステップS4)、第1及び第2のプレヒート工程(ステップS5a,S5b)でなるプレヒート工程(ステップS5)が行われる。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS6,S7)。プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0072】
試験Iにおいては、全実施例および全比較例について、中塗り塗装工程およびクリア塗装工程における使用塗料および各塗装条件等は共通である。
<中塗り塗装>
・中塗り塗料:溶剤型中塗りコート塗料A
・塗装膜圧:30μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:回転数25000rpm,吐出速度200cc/分
・シェーピングエア:流速150NL/分(被塗物表面での流速:以下同じ)
・プレヒート:無し
・焼付乾燥条件:140℃で20分
【0073】
<クリア塗装>
・クリア塗料:溶剤型クリアコート塗料A
・塗装膜圧:35μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:回転数25000rpm,吐出速度250cc/分
・シェーピングエア:流速150NL/分
・焼付乾燥条件:140℃で20分
【0074】
ベース塗装工程については、塗料の種類,塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を以下のように種々変更して塗装を行った。
<ベース塗装>
・ベース塗料:水性ベースコート塗料A1,A2,A3
・塗装膜圧:1次塗膜6μm,2次塗膜6μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:吐出速度は200cc/分で一定、回転数は15000,20000,35000,50000rpmの4種類
・シェーピングエアの流速:140,300,400,500NL/分の4種類
・第1プレヒート工程
−温度:35,45,60,80℃の4種類
−風速:0.3,0.5,3,5m/秒の4種類
−時間:25,30,60,90秒の4種類
・第2プレヒート工程
−温度:25,30,40℃の3種類
−風速:0.8,1,5,10m/秒の4種類
−時間:10,15,30秒の3種類
【0075】
試験Iでのベース塗装条件と試験結果とを表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3の結果から良く分かるように、固形分が25重量%よりも低い水性ベースコート塗料A3を用いた比較例9については、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。これは、水性ベースコート塗料の固形分の含有量が低いので水分含有量が多く、それだけプレヒート後の残存水分が多くなり、塗装仕上がり性に悪影響を及ぼすためであると考えられる。従って、水性ベースコート塗料の固形分含有量は25重量%以上とする必要がある。
【0078】
また、比較例8では、ベル回転数が15000rpmと(20000rpmよりも)低く設定されており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。これは、ベル回転数が20000rpmよりも低い場合には、ベル回転の高速化による塗料粒子の微細化効果が不十分なためであると考えられる。従って、ベル回転数の下限値としては20000rpmに設定することが好ましい。
【0079】
比較例7は、シェーピングエアの流速が本発明実施例のものに比し不足しており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例3ではシェーピングエア(S/A)の流速が140NL/分と(150NL/分)よりも低く設定されており、光輝材の配向性を十分に確保できていないものと考えられる。
【0080】
比較例6,5,4は、第1プレヒート工程でのプレヒート条件が本発明実施例のものとは異なっており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例6では第1プレヒート工程での吹き付けエアの温度が35℃と(40℃よりも)低く設定されており、十分なプレヒート効果が得られていないものと考えられる。また、比較例5では第1プレヒート工程での吹き付けエアの風速が0.3m/秒と(0.5m/秒よりも)低く設定されており、十分なプレヒート効果が得られていないものと考えられる。更に、比較例4では第1プレヒート工程でのエア吹き付け時間が25秒と(30秒よりも)短く設定されている。
【0081】
また、比較例3,2,1は、第2プレヒート工程でのプレヒート条件が本発明実施例のものとは異なっており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例3では第2プレヒート工程での吹き付けエアの温度が25℃と(30℃よりも)低く設定されている。また、比較例2では第2プレヒート工程での吹き付けエアの風速が0.8m/秒と(1m/秒よりも)低く設定されており、更に、比較例1では第2プレヒート工程でのエア吹き付け時間が10秒と(15秒よりも)短く設定されている。
【0082】
次に、試験IIについて説明する。
<試験II>
この試験IIでは、図8のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS11参照)に、溶剤型の中塗りコート塗料Bを用いて中塗り塗装(ステップS12)を施した後に、プレヒートも焼付乾燥も行わずに、水性ベースコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を施し(ステップS13)、第1及び第2のプレヒート工程(ステップS14a,S14b)でなるプレヒート工程(ステップS14)が行われる。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS15,S16)。プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0083】
試験IIにおいては、全実施例および全比較例について、中塗り塗装工程およびクリア塗装工程における使用塗料および各塗装条件等は共通である。
<中塗り塗装>
・中塗り塗料:溶剤型中塗りコート塗料B
・塗装膜圧:20μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:試験Iの場合と同一で、回転数25000rpm,吐出速度200cc/分
・シェーピングエアの流速:試験Iの場合と同一で150NL/分
・プレヒート:無し
・焼付乾燥:無し
【0084】
<クリア塗装>
:クリア塗装工程での使用塗料及び塗装条件は、試験Iの場合と同一とした。
【0085】
<ベース塗装>
ベース塗装工程については、試験Iの場合と同じく3種類の塗料(A1,A2,A3)を用い、塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を、試験Iの場合と同様に種々変更して塗装を行った。
【0086】
試験IIでのベース塗装条件と試験結果とを表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
表4の結果から良く分かるように、固形分が25重量%よりも低い水性ベースコート塗料A3を用いた比較例9については、試験Iの場合と同様に、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。また、比較例8〜比較例1についても、試験Iの場合と同様の結果が得られた。
【0089】
次に、試験IIIについて説明する。
<試験III>
この試験IIIでは、図9のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS21参照)に、水性の中塗りコート塗料C1〜C3を用いて中塗り塗装(ステップS22)を施した後に第1及び第2のプレヒート工程(ステップS23a,S23b)でなるプレヒート工程(ステップS23)が行われ、焼付乾燥は行わずに、水性ベースコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でベース塗装を施し(ステップS24)、第1及び第2のプレヒート工程(ステップS25a,S25b)でなるプレヒート工程(ステップS25)。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装(W/W)でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS26,S27)。何れのプレヒートについても、プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0090】
試験IIIの中塗り塗装工程については、塗料の種類,塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を以下のように種々変更して塗装を行った。
<中塗り塗装>
・中塗りコート塗料:水性中塗りコート塗料C1,C2,C3
・塗装膜圧:20μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:吐出速度は200cc/分で一定、回転数は15000,25000rpmの2種類
・シェーピングエアの流速:130,150NL/分の2種類
・第1プレヒート工程
−温度:35,45℃の2種類
−風速:0.3,5m/秒の2種類
−時間:25,90秒の4種類
・第2プレヒート工程
−温度:25,30℃の2種類
−風速:0.8,1m/秒の2種類
−時間:10,15秒の2種類
【0091】
<ベース塗装>
ベース塗装工程については、試験Iの場合と同じく3種類の塗料を用い、塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を、試験Iの場合と同様に種々変更して塗装を行った。
【0092】
クリア塗装工程については、全実施例および全比較例について、各使用塗料および各塗装条件等は共通であり、それぞれ試験Iと同一とした。
【0093】
試験IIIでの中塗り塗装条件を表5に示し、ベース塗装条件と試験結果とを表6に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
表5及び表6の結果から良く分かるように、固形分が25重量%よりも低い水性ベースコート塗料A3を用いた比較例9については、試験Iの場合と同様に、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。また、比較例8〜比較例1についても、試験Iの場合と同様の結果が得られた。
【0097】
また、固形分が40重量%よりも低い水性中塗りコート塗料C3を用いた比較例18については、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。また、比較例17〜比較例10については、試験Iにおける比較例8〜比較例1の場合と同様の結果が得られた。尚、比較例16において、シェーピングエア(S/A)の流速は130NL/分と(150NL/分)よりも更に低く設定されている。
【0098】
以上、説明したように、本実施形態によれば、水性塗料でなるベースコート塗料中に含まれる固形分を25重量%以上としたことにより、それだけ水分含有量を低く制限し、塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間を抑えることができ、また、プレヒート工程を、第1及び第2の前後2工程に分け、第1プレヒート工程を比較的高温(40℃を越え80℃以下)に設定したことにより、水性塗膜の乾燥性を確保でき、第2プレヒート工程を比較的低温(室温を越え40℃以下)に設定したことにより、第2塗装工程での塗料の流動性低下を抑制することができる。
すなわち、プレヒート後のクーリングを無くした場合でも、クリア塗料が塗着時に急激に熱せられて流動性が低下し、平滑性に悪影響を及ぼすことを有効に抑制できる。また、第2塗装工程後の乾燥硬化時における水分突沸によるピンホール発生やクリア塗料との混層による平滑性悪化などの不具合発生も有効に抑制できるのである。
【0099】
また、特に、水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、更にその後に水性ベースコート塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う場合についても、水性中塗りコート塗料中に含まれる固形分を40重量%以上とし、プレヒート工程を、前記と同じく第1及び第2の前後2工程に分けることにより、前記と同様の作用効果を奏することができる。
【0100】
なお、本発明は、例示された実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明では、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、例えば自動車の車体の塗装工程などにおいて有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】従来の塗装方法のプレヒート工程での吹き付けエアの温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図2】本発明方法のプレヒート工程での吹き付けエアの温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態にかかるベル型回転噴霧式塗装装置の要部を示す断面図である。
【図4】図3のY4−Y4断面図である。
【図5】前記ベル型回転噴霧式塗装装置における塗装機本体の前面図である。
【図6】前記ベル型回転噴霧式塗装装置によるシェーピングエアの形成状態を示す説明図である。
【図7】試験Iでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図8】試験IIでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図9】試験IIIでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図10】溶剤型塗料を用いた従来の車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図11】中塗りコート塗料は溶剤型塗料でベースコート塗料のみに水性塗料を適用し、プレヒート後にクーリングを行う車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図12】中塗りコート塗料およびベースコート塗料の両方に水性塗料を適用し、プレヒート後にクーリングを行う車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0103】
1 塗装機本体
2 ベルカップ
3 シェーピングエア形成手段
Fs シェーピングエア
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性塗料を用いた塗装方法、特に、水性塗料の塗膜上に第2の塗料でウエット・オン・ウエット塗装を行うようにした塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車等の車両の車体などに塗装を施す場合、いわゆる溶剤型塗料が多用されている。図10は、従来一般的な溶剤型塗料を用いた車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。この図に示すように、従来では、まず電着塗装を施して焼付乾燥を行い(ステップS51及びS52)、次に、電着塗膜の上に中塗り塗装を施して焼付乾燥を行い(ステップS53及びS54)、更に、中塗り塗膜の上にベース塗装およびクリア塗装を順次施して焼付乾燥を行うようにしている(ステップS55,S56及びS57)。特に、ベース塗装後のクリア塗装は、所謂ウエット・オン・ウエット塗装で行われるのが普通である。
【0003】
このように、自動車の車体塗装では、通常、電着塗装と中塗り塗装とベース塗装(及びクリア塗装)が施され多層の塗膜が形成されるが、このうち中塗り塗装およびベース塗装については、塗装品質および塗装作業性を確保する観点から、所謂、溶剤型塗料を用いるのが従来一般的である。特に、ベース塗装では、その後にウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行うことが好ましいので、かかるウエット・オン・ウエット塗装が可能な溶剤型塗料がより好適に用いられる。
【0004】
かかる溶剤型塗料は、塗装品質が優れ、また塗装工程での作業性も良好であるが、多量の有機溶剤を含有しており、この有機溶剤が塗装工程等を通じて周囲へ排出されることになる。このため、近年では、溶剤型塗料から水性塗料への転換が積極的に図られている。特に、ベースコート塗料は、中塗りコート塗料に比べて一般に有機溶剤の含有率が高いので、優先的に水性塗料への切り換えが進められている。
【0005】
ところが、この水性塗料を用いて塗装を行う場合には、塗布された塗料内部の水分の蒸発を促進するために、塗装後に所謂プレヒートを行うことが必須である。
例えば、特許文献1には、自動車の車体に水性ベースコート塗料を用いた塗装を施した後、塗膜表面に熱風を吹き付けることで、塗膜中に含まれる水分の蒸発を促進することが開示されている。
【0006】
図11は、中塗りコート塗料は溶剤型塗料でベースコート塗料のみに水性塗料を適用した車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。また、図12は、中塗りコート塗料およびベースコート塗料の両方に水性塗料を適用した車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【0007】
これらのフローチャートから良く分かるように、水性塗料を用いた中塗り塗装工程(ステップS63)並びにベース塗装工程(ステップS65及びステップS76)の後には、塗膜内部の水分の蒸発を促進するために、例えば所定温度の温風を吹き付けるプレヒート工程(ステップS66,ステップS74及びステップS77)が新たに設けられる。従って、このプレヒート工程で温風を供給するために、追加的なエネルギ消費が必要となる。
また、前記図11及び図12に示すように、ベース塗装の場合、その後工程でウエット・オン・ウエット塗装にてクリア塗装を行うためには、プレヒート工程の後にクーリング工程(ステップS67及びステップS78)が更に必要とされるので、追加的な消費エネルギもより一層増大することになる。
【特許文献1】特開2001−239201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
周知のように、近年では、環境問題への関心の高まりに応じて、塗装工程についてもより一層の省エネルギ化が求められており、水性塗料を用いた塗装後の前記プレヒート工程についても、消費エネルギ低減の観点から、できるだけ低温で行えるようにすることが望まれている。
しかしながら、プレヒート温度をむやみに低くした場合には、水性塗料による塗膜内の水分の蒸発が不十分になり、後続する焼付乾燥工程で残存した水分が突沸しピンホール等の塗膜欠陥を生じさせる恐れがある。また、塗料粘度が低いのでクリア塗膜との混層が生じ易く、やはり平滑性悪化などの外観性の低下を招くことになる。特に、アルミニウム等のフレーク(鱗片状部材)を含有する水性塗料の場合には、両塗膜間の界面の乱れが生じ、水性塗料による塗膜内でアルミフレークの配向性が損なわれて塗装面の光輝性が低下するという問題もある。
【0009】
また、プレヒート工程後の塗装については、例えば40℃程度以上の塗膜(例えばベース塗膜)上に溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合、溶剤型塗料中の溶剤が急激に蒸発して塗料の粘度が上昇するため、流動性が低下して塗膜の平滑性が損なわれることが知られている。プレヒート工程後のクーリングは、かかる不具合の発生を防止することを基本的な目的として行われるものであるが、このクーリング工程についても、エネルギ消費低減の観点から極力簡略化あるいは無くすることが望ましい。
【0010】
図1は、プレヒート温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。尚、この例は、水性塗料(例えばベースコート塗料)を用いたベース塗装の後に3分間のプレヒートを行い、溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合についてのものであるが、この場合には、グラフから分かるように、塗装の仕上がり性を目標値以上とするには、プレヒート温度を略70℃程度以上に設定し、且つ、プレヒート後にクーリングを行う必要がある。
【0011】
更に、従来のプレヒートでは、温風の吹き付け等により塗膜の表面から加温されるだけであるので、塗膜表面では水分の蒸発が促進され易いが、塗膜内部まで迅速には熱が伝わり難く、塗膜内部での水分の蒸発が不十分になりがちである。従って、水分の蒸発効率を高めることは困難であり、プレヒート温度を一定以上に高く設定せざるを得ない。また、このことがクーリング工程の必要性を招いている。
例えば、水性ベースコート塗料を用いた塗装の後にウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行う場合について、70℃を越える温度で2分間を越えるプレヒートを行った場合には、前述のクーリング工程が必要であることが知られている。
【0012】
この発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたもので、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、また、プレヒート後のクーリングを無くすることができる塗装方法を提供することを、基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者等は、上記の目的を達成するために研究開発を重ねる中で、水性塗料中に含まれる固形分が多くなれば水分含有量が低くなることに着目し、それだけ塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間が抑えられることを確かめた。また、水性塗料を塗装機により微粒化されたミスト状態とし、シェーピングエアで噴霧することにより、塗装後のプレヒートでの水分の蒸発効率を高める上で有効であることを見出した。これは、塗料を微粒化されたミスト状態とすることで、塗料の粒子径が小さくなり単位質量当たりの表面積が大きくなり、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度が効果的に高められることによるものと考えられる。尚、このように、塗料を微粒化されたミスト状態にして噴霧塗布し得る塗装機としては、所謂、ベル型回転噴霧式塗装機が知られている(例えば特開平10−99736号公報参照)。
【0014】
更に、プレヒート工程を、第1及び第2の前後2工程に分け、第1プレヒート工程を比較的高温に設定して水性塗膜の乾燥性を確保し、第2プレヒート工程を比較的低温に設定して後工程の塗装での塗料の流動性低下を抑制することにより、プレヒート後のクーリング工程を別途に設ける必要なしに、良好な塗装仕上がり性が得られることを見出した。
【0015】
図2は、本発明のプレヒート工程でのプレヒート温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。尚、この例は、水性塗料(例えばベースコート塗料)を用いたベース塗装の後に、吹き付けエア温度80℃で90秒間の第1プレヒート工程を行い、30秒間の第2プレヒート工程を吹き付けエア温度80〜40℃の間で温度を変えて行い、溶剤型塗料(例えばクリアコート塗料)を用いてウエット・オン・ウエット塗装を行った場合についてのもので、ベースコート塗料としては、従来のものと本発明に係る開発塗料を用いている。図2のグラフから分かるように、従来のベース塗料では、第2プレヒート工程での温度設定に拘わらず目標の塗装仕上がり性は得られないが、本発明に係る開発ベース塗料を用いた場合には、第2プレヒート工程での吹きつけエア温度を略50℃以下に設定することにより、水性塗料の塗膜の水分含有率を目標値以下とし、また、仕上がり性を目標値以上とすることが可能であった。
【0016】
そこで、本願請求項1の発明(第1の発明)に係る塗装方法は、25重量%以上の固形分を含有した水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、前記プレヒート工程は、吹き付けエア温度が40℃を越え80℃以下、吹き付けエア風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上、のプレヒート条件で行う第1プレヒート工程と、該第1プレヒート工程の後に行われ、吹き付けエア温度が室温を越え40℃以下、吹き付けエア風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下、のプレヒート条件で行う第2プレヒート工程と、を有していることを特徴としたものである。ここに、前記吹き付けエアの風速は、被塗物表面での風速である。
【0017】
ここに、第1の塗料が含有する固形分の下限値を25重量%としたのは、固形分の含有量がこの値を下回る場合には、プレヒート工程後に残存する水分が多くなり、塗装仕上がり性に悪影響を及ぼすからである。また、第1プレヒート工程での吹き付けエアについて、温度の下限値を40℃、風速の下限値を0.5m/秒、吹き付け時間の下限値を30秒としたのは、温度、風速及び吹き付け時間がそれぞれこれらの値を下回ると、水性塗料でなる第1の塗料の塗膜内の水分を蒸発させるプレヒート効果(つまり第1の塗料の乾燥性)を確保して良好な塗装仕上がり性を得ることが難しいからである。更に、第1プレヒート工程での吹き付けエアについて、温度の上限値を80℃、風速の上限値を5m/秒としたのは、温度及び風速がこれらの値を超えると、第2プレヒート工程で塗膜の温度を下げることが困難になり、クーリングなしで良好な塗装仕上がり性を得ることが難しいからである。更に、第2プレヒート工程での吹き付けエアについて、温度の上限値を40℃、風速の上限値を10m/秒、吹き付け時間の上限値を30秒としたのは、温度、風速及び吹き付け時間がそれぞれこれらの値を上回ると、第2の塗料を塗布した際の流動性確保が難しいからである。
【0018】
また、本願請求項2の発明(第2の発明)は、前記第1の発明において、前記第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値が30℃に設定されていることを特徴としたものである。
【0019】
ここに、第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値が30℃に設定したのは、第1の塗料の乾燥性を確実に得るためである。
【0020】
更に、本願請求項3の発明(第3の発明)は、前記第1又は第2の発明において、前記第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値が90秒に設定され、前記第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値が15秒に設定されていることを特徴としたものである。
【0021】
ここに、第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値を90秒に設定したのは、クーリングなしで良好な塗装仕上がり性を確実に得るためである。また、第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値を15秒に設定したのは、第1の塗料の乾燥性を確実に得るためである。
【0022】
また更に、本願請求項4の発明(第4の発明)は、前記第1〜第3の発明の何れか一において、前記第1の塗料がフレーク状(鱗片状)の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、前記第2の塗料はクリアコート塗料であることを特徴としたものである。
【0023】
また更に、本願請求項5の発明(第5の発明)は、前記第1〜第4の発明の何れか一において、前記第2の塗料は溶剤型塗料であることを特徴としたものである。
【0024】
また更に、本願請求項6の発明(第6の発明)は、前記第1〜第5の発明の何れか一において、前記ベル型回転噴霧式塗装機のベル回転数は20000rpm以上に設定されていることを特徴としたものである。
【0025】
ここに、ベル回転数の下限値を20000rpmとしたのは、ベル回転数20000rpm未満では、噴霧塗料の粒子径を十分に小さくして単位質量当たりの表面積を十分に大きくすることが難しく、従って、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度を有効に高めることが難しいからである。
【0026】
また更に、本願請求項7の発明(第7の発明)は、前記第6の発明において、前記シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL(ノーマル・リットル)/分以上に設定されていることを特徴としたものである。
【0027】
ここに、シェーピングエアの被塗物表面での流速の下限値を150NL/分としたのは、エア流速と光輝材の配向性とは一般に比例し、シェーピングエアの被塗物表面での流速がこの値未満では、前記配向性の確保が難しいからである。
【0028】
また更に、本願請求項8の発明(第8の発明)は、前記第1〜第7の発明の何れか一において、前記第1の塗料が水性ベースコート塗料で前記第2の塗料はクリアコート塗料であり、前記第1塗装工程の前に第2の水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行い、該中塗り塗装後に前記第1〜第3の発明の何れか一に記載のプレヒート工程と同一条件でプレヒートを行い、該プレヒート後に、前記水性ベースコート塗料でなる第1の塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う、ことを特徴としたものである。
【0029】
また更に、本願請求項9の発明(第9の発明)は、前記第8の発明において、前記第2の水性塗料は、40重量%以上の固形分を含有していることを特徴としたものである。
【0030】
ここに、第2の水性塗料が含有する固形分の下限値を40重量%としたのは、固形分の含有量がこの値を下回る場合には、プレヒート工程後に残存する水分が多くなり、塗装仕上がり性に悪影響を及ぼすからである。
【発明の効果】
【0031】
本願の第1の発明によれば、水性塗料でなる第1の塗料中に含まれる固形分を25重量%以上としたことにより、それだけ水分含有量を低く制限し、塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間を抑えることができ、また、プレヒート工程を、第1及び第2の前後2工程に分け、第1プレヒート工程を比較的高温(40℃を越え80℃以下)に設定したことにより、水性塗膜の乾燥性を確保でき、第2プレヒート工程を比較的低温(室温を越え40℃以下)に設定したことにより、第2塗装工程での塗料の流動性低下を抑制することができる。
すなわち、プレヒート後のクーリングを無くした場合でも、第2塗料が塗着時に急激に熱せられて流動性が低下し、平滑性に悪影響を及ぼすことを有効に抑制できる。また、第2塗装工程後の乾燥硬化時における水分突沸によるピンホール発生や第2の塗料との混層による平滑性悪化などの不具合発生も有効に抑制できる。
【0032】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には、前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値を30℃に設定したことにより、第1の塗料の乾燥性を確実に得ることができる。
【0033】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には、前記第1又は第2の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値を90秒に設定したことにより、クーリングなしで良好な塗装仕上がり性を確実に得ることができ、また、第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値を15秒に設定したことにより、第1の塗料の乾燥性を確実に得ることができる。
【0034】
更に、本願の第4の発明によれば、基本的には、前記第1〜第3の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1の塗料がフレーク状の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、第2の塗料はクリアコート塗料である場合において、両塗料による両塗膜間の界面の乱れが生じて水性塗料(第1の塗料)による塗膜内で光輝材の配向性が損なわれ、塗装面の光輝性が低下することを有効に抑制できる。
【0035】
また更に、本願の第5の発明によれば、第2の塗料が溶剤型塗料であることにより、前記第1〜第4の発明の何れか一と同様の作用効果をより確実に奏することができる。
【0036】
また更に、本願の第6の発明によれば、基本的には、前記第1〜第5の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、第1塗装工程及び/又は第2塗装工程での塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、ベル回転数を20000rpm以上に設定したことにより、噴霧塗料の粒子径を十分に小さくして単位質量当たりの表面積を十分に大きくすることでき、塗装時における水分や溶剤の蒸発速度を有効に高めることができる。従って、プレヒートの低温化及び/又は短時間化を図っても、水分の突沸によるピンホールの発生や上層との混層による平滑性の悪化等の不具合発生をより有効に抑制することが可能となる。
【0037】
また更に、本願の第7の発明によれば、基本的には、前記第1〜第6の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、シェーピングエアの被塗物表面での流速は150NL/分以上に設定されていることで、光輝材の配向性を確保できる。
【0038】
また更に、本願の第8の発明によれば、水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、更にその後に水性ベースコート塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う場合についても、前記第1〜第7の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
また更に、本願の第9の発明によれば、基本的には、前記第1〜第8の発明の何れか一と同様の作用効果を奏することができる。特に、第2の水性塗料中に含まれる固形分を40重量%以上としたことにより、それだけ水分含有量を低く制限し、塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態で用いるベル型回転噴霧式塗装装置について説明する。尚、このベル型回転噴霧式塗装装置は、従来公知のものと同様のものであり、例えば特開平10−99736号公報に開示されたものと同様の構成を備え同様の作用をなすものである。
このベル型回転噴霧式塗装装置は、図3〜図5に示すように、内部にエアモータ(図示省略)を内蔵する塗装機本体1と、該塗装機本体1の先端側に回転可能に設けられたベルカップ2と、該ベルカップ2の径方向外側に向かってシェーピングエアFsを噴出するシェーピングエア形成手段3とを備えて構成されている。
【0041】
前記ベルカップ2は、略円錐筒状を呈しており、その基端部に設けられた円盤状の塗料拡散板4に向かって供給された塗料Pを遠心力により霧化状態となすものであり、エアモータにより回転駆動される駆動軸5の先端に共回り可能に取り付けられている。符号6は塗料拡散板4の外周側に形成された塗料噴出口であり、塗料拡散板4の内面側に供給され、遠心力により霧化状態とされた塗料がこの塗料噴出口6を通ってベルカップ2の内周面に沿うように拡散されることとなっている。
【0042】
前記駆動軸5の中心部には、前記塗装機本体1側に固定された塗料供給管7が挿通されており、該塗料供給管7の先端には、前記塗料拡散板4の内面側に臨むようにして塗料供給用のノズル8が設けられている。なお、塗料供給管7は、駆動軸5の回転駆動時にも回転することはない構成とされている。
【0043】
前記シェーピングエア形成手段3は、前記塗装機本体1内に形成されたエア通路9と、該エア通路9の先端部に形成されたエアチャンバ10と、該エアチャンバ10に連通された状態で前記塗装機本体1の先端面に環状に所定間隔で形成された多数のエア噴出口11とによって構成されている。つまり、これらの多数のエア噴出口11から噴出されたエアにより前記ベルカップ2の径方向外側に略円筒状のシェーピングエアFsが形成されることとなっている。
【0044】
本実施の形態では、前記塗装機本体1に、シェーピングエアFsを180°間隔で径方向に横切るエアカーテンFcを噴出するエアカーテン形成手段12が設けられている。
該エアカーテン形成手段12は、前記塗装機本体1内に前記エア通路9とは別途形成された第2のエア通路13と、該エア通路13の先端部に形成されたエアチャンバ14と、該エアチャンバ14に連通された状態で前記塗装機本体1の先端面に180°間隔で対称位置に一対ずつ形成された半径方向に延びるスリット状のエア噴出口15,…,15とによって構成されている。つまり、これらのエア噴出口15,…,15から噴出されたエアにより前記シェーピングエアFsを180°間隔で径方向に横切る略平面状の一対ずつのエアカーテンFc,…,Fcが形成されることとなっている(図5及び図6参照)。すると、シェーピングエアFsは、エアカーテンFc,…,Fcにより2分割されて、略楕円円弧状を呈することとなる。
【0045】
以上のように構成されたベル型回転噴霧式塗装装置を用いた塗装について、例えばメタリック塗装を行う場合を例にとって説明する。
メタリック塗装を行う場合には、鱗片状部材F(フレーク)を含有する塗料Pが塗料供給管7を介して塗料拡散板4の内側に供給される。そして、塗料拡散板4の内側に供給された塗料Pは、ベルカップ2の回転に伴う遠心力により拡散霧化されて塗料噴出口6から噴出され、ベルカップ2の内周面に沿って略円筒状に拡散される。
【0046】
一方、シェーピングエア形成手段3により形成されたシェーピングエアFsは、前述したように、エアカーテンFcによって2分割されて略楕円円弧状となる。
従って、シェーピングエアFsに乗って塗着面に向かう塗料P中の鱗片状部材Fは、図6に示すように、略同一方向(即ち、楕円の長径と平行な方向)に並ぶこととなる。この現象は、鱗片状部材Fの大きさに関係なく生ずる。
【0047】
そこで、ベル型回転噴霧式塗装装置を前記鱗片状部材Fの並び方向と直交する方向(即ち、図6の矢印X方向)に移動させると、塗着面においては鱗片状部材Fが略同一方向に並ぶこととなり、縞状の塗装ムラが生じることはなくなる。しかも、シェーピングエアFsの流れを乱したりする必要がないので、ベル型回転噴霧式塗装装置の利点である高い塗着効率を維持できる。
【0048】
すなわち、かかるベル型回転噴霧式塗装装置によれば、シェーピングエアに乗って塗着面に到達する塗料中の鱗片状部材の向きが略同一方向に整えられるところから、塗装ムラのないメタリック塗装を行うことができることとなり、ベル型回転噴霧式塗装装置の利点である塗着効率の高さを維持しつつ、良好なメタリック塗装が行えるという優れた効果がある。また、例えばエアカーテン形成手段を追加するだけで、メタリック塗装に適したものとすることができるので、コスト的にも有利である。
【0049】
本実施形態では、水性塗料用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、また、プレヒート後のクーリングを無くすることができるようにするために、25重量%以上の固形分を含有した水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを行い、前記プレヒート工程を第1及び第2の前後2工程に分けて行い、第1プレヒート工程を、吹き付けエア温度が40℃を越え80℃以下、吹き付けエア風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上、のプレヒート条件で行い、第2プレヒート工程を、吹き付けエア温度が室温を越え40℃以下、吹き付けエア風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下、のプレヒート条件で行うようにした。
【0050】
そして、本発明の効果を検証するために、適用塗料,塗装条件,プレヒート条件などを様々に変更して種々の試験を行った。
以下、この試験について説明する。まず、試験で用いる各種塗料の調製方法について説明する。
本実施形態に係る試験では、電着塗装を施した電着板に中塗り塗装,上塗り塗装(ベース塗装),クリア塗装を順次施す塗装が行われる。このうち、ベース塗装には、以下のように調製した3種類の水性ベースコート塗料(A1,A2,A3)を用いた。
【0051】
<水性ベースコート塗料の調製>
水性ベースコート塗料としては、アクリルエマルジョンA又はB,イオン交換水,ジメチルアミノエタノール,アミノ樹脂(例えば三井サイアナミド(株)製のサイメル327),光輝性顔料(例えば旭化成社製のアルミペーストMH8801),表面調整剤(例えばエアープロダクツ社製のサーフィノール440)、更に、ジメチルアミノエタノール及びイオン交換水を、それぞれ下記表1に示す所定の重量部ずつ添加し、均一に分散することで、水性ベースコート塗料A1,A2,A3をそれぞれ得た。
【0052】
【表1】
【0053】
前記光輝性顔料は、鱗片状をなす発色材としての光輝材を含有する。なお、これに限定されることなく、光輝性顔料は、発色材として、光輝材の代わりに、光干渉材を含有しても、あるいは、光輝材及び光干渉材の両方を含有してもよい。
尚、かかる水性ベースコート塗料の調製方法、及び、以下に説明するアクリルエマルジョンの製造方法は、例えば特開2001−240791号公報に開示されるように、公知である。
【0054】
前記3種類の水性ベースコート塗料A1〜A3のうち、水性ベースコート塗料A1及びA2に含有されるアクリルエマルジョンAは、次のようにして製造した。
<水性ベースコート塗料A1,A2用のアクリルエマルジョンAの製造>
アクリルエマルジョンAの製造に際しては、まず、反応容器に脱イオン水126.5重量部を加え、これを窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温させた。続いて、以下の組成を有するモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.24重量部及び脱イオン水10重量部からなる開始剤溶液と、を2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間にわたって同温度で熟成した。
【0055】
<アクリルエマルジョンAに用いるモノマー乳化物の組成>
・アクリル酸メチル:30.61重量部
・アクリル酸エチル:37.97重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:7.42重量部
・アクリルアミド:4.00重量部
・アクアロンHS−10:0.5重量部(第一工業製薬社製)
・アデカリアソープNE−20:0.5重量部(旭電化社製)
・脱イオン水:80重量部
【0056】
更に、次のような組成を有するモノマー乳化剤と、過硫酸アンモニウム0.06重量部及び脱イオン水10重量部からなる開始剤溶液と、を80℃で0.5時間にわたり並行して反応溶液に滴下した。滴下終了後、2時間にわたって同温度で熟成した。
<モノマー乳化剤(第2段階)の組成>
・アクリル酸エチル:16.6重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:1.86重量部
・メタクリル酸:1.54重量部
・アクアロンHS−10:0.2重量部(第一工業製薬社製)
・脱イオン水:10重量部
【0057】
前記3種類の水性ベースコート塗料A1〜A3のうち、残りの水性ベースコート塗料A3に含有されるアクリルエマルジョンBは、次のようにして製造した。
<水性ベースコート塗料A3用のアクリルエマルジョンBの製造>
アクリルエマルジョンBの製造方法は、基本的には前記アクリルエマルジョンAと同様であり、第2段階目のモノマー乳化剤の組成が異なるだけである。アクリルエマルジョンBの第2段階目のモノマー乳化剤の組成は、以下の通りとした。
【0058】
<モノマー乳化剤(第2段階目)の組成>
・アクリル酸エチル:15.07重量部
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル:1.86重量部
・メタクリル酸:3.07重量部
【0059】
以上のようにして、前記表1から分かるように、固形分の含有量(表1:最下欄参照)がそれぞれ異なる水性ベースコート塗料A1,A2,A3を得た。このうち、水性ベースコート塗料A1及びA2は固形分が25重量%を上回っているが、水性ベースコート塗料A3については、固形分が25重量%を下回っている。
【0060】
本実施形態では、前記水性ベースコート塗料を用いた塗装工程の前工程として、中塗りコート塗料を用いた塗装が行われる。この中塗りコート塗料としては、以下の5種類(A,B,C1〜C3)のものを用意した。
中塗りコート塗料A:溶剤型塗料OTOH870グレー(日本ペイント社製)
中塗りコート塗料B:溶剤型塗料OTOH880L48(日本ペイント社製)
中塗りコート塗料C1〜C3:水性塗料であり、以下のような組成を有するものを調整した。
【0061】
<水性中塗りコート塗料C1,C2,C3の調整>
これら中塗りコート塗料C1,C2,C3は、ポリエステル樹脂,アミノ樹脂,アミド基含有アクリル樹脂,ウレタン変性ポリエステル樹脂を組み合わせ、更に、顔料,アクリル系表面調整剤およびイオン交換水をそれぞれ所定の重量部ずつ添加し、均一分散することによって調製した。尚、かかる水性塗料の調製方法は、例えば特開2002−146282号公報に開示されるように、公知である。
水性中塗りコート塗料C1,C2,C3の組成および固形分の含有量を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
前記表2の水性中塗りコート塗料C1,C2,C3の調製に用いたポリエステル樹脂,アミノ樹脂,アミド基含有アクリル樹脂,ウレタン変性ポリエステル樹脂の樹脂特性は、以下の通りであった。
・ポリエステル樹脂:酸価50,水酸基価120,数平均分子量2000のもの
・アミノ樹脂:メラミン樹脂(サイメル327:三井サイアナミッド社製)
・アミド基含有アクリル樹脂:酸価50,水酸基価150,数平均分子量5000のもので、アミド基含有エチレン性モノマー20質量%,酸性基含有エチレン性モノマー10質量%,水酸基含有エチレン性モノマー50質量%及び他のエチレン性モノマー50質量%の共重合体
・ウレタン変性ポリエステル樹脂:pHが約7.5であるコロイダル分散ウレタン変性ポリエステル樹脂
【0064】
また、添加した顔料は、二酸化チタンとカーボンブラックを9対1の割合で含有したものとし、アクリル系表面調整剤としては、表2に示すように、例えばエアープロダクツ社製のサーフィノール104Eを用いた。
以上のようにして、前記表2から分かるように、固形分の含有量(表2:最下欄参照)がそれぞれ異なる水性中塗りコート塗料C1,C2,C3を得た。このうち、水性中塗りコート塗料C1及びC2は固形分が40重量%を上回っているが、水性中塗りコート塗料C3については、固形分が40重量%を下回っている。
【0065】
<クリアコート塗料>
また、ベースコート塗料を用いた塗装後に、ウエット・オン・ウエット塗装にて塗装されるクリアコート塗料としては、以下のもの(1種類のみ)を用いた。
クリアコート塗料A:マックフローO−600クリア(日本ペイント社製)
【0066】
本実施形態に係る各試験おいて上述の各種塗料を試験塗装する塗装板は、以下のようにして作製した。
<電着板の作製>
まず、電着塗装を施す電着板を作製した。
:リン酸亜鉛処理した厚みが0.7mmで、縦100mm,横300mmのダル鋼板を用意し、これにPN120M(日本ペイント社製)を乾燥膜厚が20μmになるように電着塗装を施し、160℃で30分間にわったて焼付乾燥した。
【0067】
<中上塗り板の作製>
上記のようにして得られた電着板に、試験条件に応じて、中塗り塗装,ベース塗装,クリア塗装を行うことで中上塗り板を得た。これらの塗装には、前述のベル型回転噴霧式塗装装置を用いた。
【0068】
このようにして得られた中上塗り板について、その塗装面の光輝感および仕上がり性の評価を行った。各評価の仕方は、具体的には以下による。
<光輝感の評価>
光輝感の評価には、変角光度計MA−68(X−Rite社製)を用いて、中上塗り板塗装面のフロップインデックス(FI)を光輝感として測定した。
そして、フロップインデックスが12以上であった場合を非常に良好である(◎)、フロップインデックスが10以上12未満であった場合を良好である(○)、フロップインデックスが10未満であった場合を良好でない(×)としてランク付けを行い評価した。
【0069】
<仕上がり性の評価>
仕上がり性の評価には、ウェーブスキャン(Wavescan)DOI(BYK社製)を用いて、中上塗り板塗装面のWa/Wd値を仕上がり性として測定した。
そして、Wa/Wd値が15未満であった場合を非常に良好である(◎)、Wa/Wd値が15以上20未満であった場合を良好である(○)、Wa/Wd値が20以上であった場合を良好でない(×)としてランク付けを行い評価した。
【0070】
次に、本実施形態で行った各種試験について説明する。
これら試験は、以下の3種類(試験I〜試験III)に大別される。これら各試験においては、水性ベースコート塗料(A1〜A3)をそれぞれ用いたベース塗装後に、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装でクリア塗装を行い、焼付乾燥によって仕上げる点については共通である。各試験は、ベース塗装の前工程が以下のように異なる。
・試験I:溶剤型中塗りコート塗料Aで中塗り塗装を行った後に焼付乾燥を行い、その後にベース塗装を行う。
・試験II:溶剤型中塗りコート塗料Bで中塗り塗装を行った後に、プレヒートも焼付を乾燥も行うことなく、ウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を行う。
・試験III:水性中塗りコート塗料(C1〜C3)で中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、その後にウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を行う。
【0071】
まず、試験Iについて説明する。
<試験I>
この試験Iでは、図7のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS1参照)に、溶剤型の中塗りコート塗料Aを用いて中塗り塗装を施した後に焼付乾燥を行い(ステップS2,S3)、その後に水性ベースコート塗料Aを用いてベース塗装を施し(ステップS4)、第1及び第2のプレヒート工程(ステップS5a,S5b)でなるプレヒート工程(ステップS5)が行われる。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS6,S7)。プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0072】
試験Iにおいては、全実施例および全比較例について、中塗り塗装工程およびクリア塗装工程における使用塗料および各塗装条件等は共通である。
<中塗り塗装>
・中塗り塗料:溶剤型中塗りコート塗料A
・塗装膜圧:30μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:回転数25000rpm,吐出速度200cc/分
・シェーピングエア:流速150NL/分(被塗物表面での流速:以下同じ)
・プレヒート:無し
・焼付乾燥条件:140℃で20分
【0073】
<クリア塗装>
・クリア塗料:溶剤型クリアコート塗料A
・塗装膜圧:35μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:回転数25000rpm,吐出速度250cc/分
・シェーピングエア:流速150NL/分
・焼付乾燥条件:140℃で20分
【0074】
ベース塗装工程については、塗料の種類,塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を以下のように種々変更して塗装を行った。
<ベース塗装>
・ベース塗料:水性ベースコート塗料A1,A2,A3
・塗装膜圧:1次塗膜6μm,2次塗膜6μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:吐出速度は200cc/分で一定、回転数は15000,20000,35000,50000rpmの4種類
・シェーピングエアの流速:140,300,400,500NL/分の4種類
・第1プレヒート工程
−温度:35,45,60,80℃の4種類
−風速:0.3,0.5,3,5m/秒の4種類
−時間:25,30,60,90秒の4種類
・第2プレヒート工程
−温度:25,30,40℃の3種類
−風速:0.8,1,5,10m/秒の4種類
−時間:10,15,30秒の3種類
【0075】
試験Iでのベース塗装条件と試験結果とを表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
表3の結果から良く分かるように、固形分が25重量%よりも低い水性ベースコート塗料A3を用いた比較例9については、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。これは、水性ベースコート塗料の固形分の含有量が低いので水分含有量が多く、それだけプレヒート後の残存水分が多くなり、塗装仕上がり性に悪影響を及ぼすためであると考えられる。従って、水性ベースコート塗料の固形分含有量は25重量%以上とする必要がある。
【0078】
また、比較例8では、ベル回転数が15000rpmと(20000rpmよりも)低く設定されており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。これは、ベル回転数が20000rpmよりも低い場合には、ベル回転の高速化による塗料粒子の微細化効果が不十分なためであると考えられる。従って、ベル回転数の下限値としては20000rpmに設定することが好ましい。
【0079】
比較例7は、シェーピングエアの流速が本発明実施例のものに比し不足しており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例3ではシェーピングエア(S/A)の流速が140NL/分と(150NL/分)よりも低く設定されており、光輝材の配向性を十分に確保できていないものと考えられる。
【0080】
比較例6,5,4は、第1プレヒート工程でのプレヒート条件が本発明実施例のものとは異なっており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例6では第1プレヒート工程での吹き付けエアの温度が35℃と(40℃よりも)低く設定されており、十分なプレヒート効果が得られていないものと考えられる。また、比較例5では第1プレヒート工程での吹き付けエアの風速が0.3m/秒と(0.5m/秒よりも)低く設定されており、十分なプレヒート効果が得られていないものと考えられる。更に、比較例4では第1プレヒート工程でのエア吹き付け時間が25秒と(30秒よりも)短く設定されている。
【0081】
また、比較例3,2,1は、第2プレヒート工程でのプレヒート条件が本発明実施例のものとは異なっており、仕上がり性および光輝感の両方について不十分な結果(×)となっている。
すなわち、比較例3では第2プレヒート工程での吹き付けエアの温度が25℃と(30℃よりも)低く設定されている。また、比較例2では第2プレヒート工程での吹き付けエアの風速が0.8m/秒と(1m/秒よりも)低く設定されており、更に、比較例1では第2プレヒート工程でのエア吹き付け時間が10秒と(15秒よりも)短く設定されている。
【0082】
次に、試験IIについて説明する。
<試験II>
この試験IIでは、図8のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS11参照)に、溶剤型の中塗りコート塗料Bを用いて中塗り塗装(ステップS12)を施した後に、プレヒートも焼付乾燥も行わずに、水性ベースコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装でベース塗装を施し(ステップS13)、第1及び第2のプレヒート工程(ステップS14a,S14b)でなるプレヒート工程(ステップS14)が行われる。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS15,S16)。プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0083】
試験IIにおいては、全実施例および全比較例について、中塗り塗装工程およびクリア塗装工程における使用塗料および各塗装条件等は共通である。
<中塗り塗装>
・中塗り塗料:溶剤型中塗りコート塗料B
・塗装膜圧:20μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:試験Iの場合と同一で、回転数25000rpm,吐出速度200cc/分
・シェーピングエアの流速:試験Iの場合と同一で150NL/分
・プレヒート:無し
・焼付乾燥:無し
【0084】
<クリア塗装>
:クリア塗装工程での使用塗料及び塗装条件は、試験Iの場合と同一とした。
【0085】
<ベース塗装>
ベース塗装工程については、試験Iの場合と同じく3種類の塗料(A1,A2,A3)を用い、塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を、試験Iの場合と同様に種々変更して塗装を行った。
【0086】
試験IIでのベース塗装条件と試験結果とを表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
表4の結果から良く分かるように、固形分が25重量%よりも低い水性ベースコート塗料A3を用いた比較例9については、試験Iの場合と同様に、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。また、比較例8〜比較例1についても、試験Iの場合と同様の結果が得られた。
【0089】
次に、試験IIIについて説明する。
<試験III>
この試験IIIでは、図9のフローチャートに示すように、用意された電着板(ステップS21参照)に、水性の中塗りコート塗料C1〜C3を用いて中塗り塗装(ステップS22)を施した後に第1及び第2のプレヒート工程(ステップS23a,S23b)でなるプレヒート工程(ステップS23)が行われ、焼付乾燥は行わずに、水性ベースコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット(W/W)塗装でベース塗装を施し(ステップS24)、第1及び第2のプレヒート工程(ステップS25a,S25b)でなるプレヒート工程(ステップS25)。そして、溶剤型クリアコート塗料を用いてウエット・オン・ウエット塗装(W/W)でクリア塗装を施し焼付乾燥が行われる(ステップS26,S27)。何れのプレヒートについても、プレヒート後のクーリングは行わなかった。
【0090】
試験IIIの中塗り塗装工程については、塗料の種類,塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を以下のように種々変更して塗装を行った。
<中塗り塗装>
・中塗りコート塗料:水性中塗りコート塗料C1,C2,C3
・塗装膜圧:20μm
・ベル型回転噴霧式塗装装置:吐出速度は200cc/分で一定、回転数は15000,25000rpmの2種類
・シェーピングエアの流速:130,150NL/分の2種類
・第1プレヒート工程
−温度:35,45℃の2種類
−風速:0.3,5m/秒の2種類
−時間:25,90秒の4種類
・第2プレヒート工程
−温度:25,30℃の2種類
−風速:0.8,1m/秒の2種類
−時間:10,15秒の2種類
【0091】
<ベース塗装>
ベース塗装工程については、試験Iの場合と同じく3種類の塗料を用い、塗装装置のベル回転数,シェーピングエアの流速,第1及び第2のプレヒート条件を、試験Iの場合と同様に種々変更して塗装を行った。
【0092】
クリア塗装工程については、全実施例および全比較例について、各使用塗料および各塗装条件等は共通であり、それぞれ試験Iと同一とした。
【0093】
試験IIIでの中塗り塗装条件を表5に示し、ベース塗装条件と試験結果とを表6に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
表5及び表6の結果から良く分かるように、固形分が25重量%よりも低い水性ベースコート塗料A3を用いた比較例9については、試験Iの場合と同様に、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。また、比較例8〜比較例1についても、試験Iの場合と同様の結果が得られた。
【0097】
また、固形分が40重量%よりも低い水性中塗りコート塗料C3を用いた比較例18については、仕上がり性および光輝感の両方共に不十分な結果(×)となっている。また、比較例17〜比較例10については、試験Iにおける比較例8〜比較例1の場合と同様の結果が得られた。尚、比較例16において、シェーピングエア(S/A)の流速は130NL/分と(150NL/分)よりも更に低く設定されている。
【0098】
以上、説明したように、本実施形態によれば、水性塗料でなるベースコート塗料中に含まれる固形分を25重量%以上としたことにより、それだけ水分含有量を低く制限し、塗膜中の水分を蒸発させるプレヒートの温度及び/又は時間を抑えることができ、また、プレヒート工程を、第1及び第2の前後2工程に分け、第1プレヒート工程を比較的高温(40℃を越え80℃以下)に設定したことにより、水性塗膜の乾燥性を確保でき、第2プレヒート工程を比較的低温(室温を越え40℃以下)に設定したことにより、第2塗装工程での塗料の流動性低下を抑制することができる。
すなわち、プレヒート後のクーリングを無くした場合でも、クリア塗料が塗着時に急激に熱せられて流動性が低下し、平滑性に悪影響を及ぼすことを有効に抑制できる。また、第2塗装工程後の乾燥硬化時における水分突沸によるピンホール発生やクリア塗料との混層による平滑性悪化などの不具合発生も有効に抑制できるのである。
【0099】
また、特に、水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行った後にプレヒートを行い、更にその後に水性ベースコート塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う場合についても、水性中塗りコート塗料中に含まれる固形分を40重量%以上とし、プレヒート工程を、前記と同じく第1及び第2の前後2工程に分けることにより、前記と同様の作用効果を奏することができる。
【0100】
なお、本発明は、例示された実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明では、水性塗料を用いた塗装工程後にプレヒートを行って第2の塗料によりウエット・オン・ウエット塗装を行う場合について、プレヒートの温度及び/又は時間をできるだけ抑えつつ、水性塗膜内の水分を効率良く蒸発させることができ、例えば自動車の車体の塗装工程などにおいて有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】従来の塗装方法のプレヒート工程での吹き付けエアの温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図2】本発明方法のプレヒート工程での吹き付けエアの温度が塗装仕上がり性と塗膜水分含有率に及ぼす影響を模式的に示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態にかかるベル型回転噴霧式塗装装置の要部を示す断面図である。
【図4】図3のY4−Y4断面図である。
【図5】前記ベル型回転噴霧式塗装装置における塗装機本体の前面図である。
【図6】前記ベル型回転噴霧式塗装装置によるシェーピングエアの形成状態を示す説明図である。
【図7】試験Iでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図8】試験IIでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図9】試験IIIでの塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図10】溶剤型塗料を用いた従来の車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図11】中塗りコート塗料は溶剤型塗料でベースコート塗料のみに水性塗料を適用し、プレヒート後にクーリングを行う車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【図12】中塗りコート塗料およびベースコート塗料の両方に水性塗料を適用し、プレヒート後にクーリングを行う車体塗装工程の概略を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0103】
1 塗装機本体
2 ベルカップ
3 シェーピングエア形成手段
Fs シェーピングエア
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25重量%以上の固形分を含有した水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、
前記プレヒート工程は、
吹き付けエア温度が40℃を越え80℃以下、吹き付けエア風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上、のプレヒート条件で行う第1プレヒート工程と、
該第1プレヒート工程の後に行われ、吹き付けエア温度が室温を越え40℃以下、吹き付けエア風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下、のプレヒート条件で行う第2プレヒート工程と、
を有していることを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値が30℃に設定されていることを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値が90秒に設定され、前記第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値が15秒に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記第1の塗料がフレーク状の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、前記第2の塗料はクリアコート塗料であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記第2の塗料が溶剤型塗料であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項6】
前記第1塗装工程及び/又は第2塗装工程での塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、ベルの回転数の下限値を20000rpmに設定することを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項7】
前記ベル型回転噴霧式塗装機を用いた塗装は、シェーピングエアの被塗物表面での流速が150NL/分以上に設定して行われることを特徴とする請求項6記載の塗装方法。
【請求項8】
前記第1の塗料が水性ベースコート塗料で前記第2の塗料はクリアコート塗料であり、
前記第1塗装工程の前に第2の水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行い、
該中塗り塗装後に請求項1〜3の何れか一に記載のプレヒート工程と同一条件でプレヒートを行い、
該プレヒート後に、前記水性ベースコート塗料でなる第1の塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う、
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項9】
前記第2の水性塗料は、40重量%以上の固形分を含有していることを特徴とする請求項8記載の塗装方法。
【請求項1】
25重量%以上の固形分を含有した水性塗料でなる第1の塗料を用いる第1塗装工程と、該第1塗装工程後に温風エアを用いて行うプレヒート工程と、該プレヒート工程後に第2の塗料を用いて前記第1の塗料の塗膜上にウエット・オン・ウエット塗装を行う第2塗装工程と、該第2塗装工程後の乾燥硬化工程とを備えた塗装方法であって、
前記プレヒート工程は、
吹き付けエア温度が40℃を越え80℃以下、吹き付けエア風速が0.5〜5m/秒、吹き付け時間が30秒以上、のプレヒート条件で行う第1プレヒート工程と、
該第1プレヒート工程の後に行われ、吹き付けエア温度が室温を越え40℃以下、吹き付けエア風速が1〜10m/秒、吹き付け時間が30秒以下、のプレヒート条件で行う第2プレヒート工程と、
を有していることを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記第2プレヒート工程での吹き付けエア温度の下限値が30℃に設定されていることを特徴とする請求項1記載の塗装方法。
【請求項3】
前記第1プレヒート工程での吹き付け時間の上限値が90秒に設定され、前記第2プレヒート工程での吹き付け時間の下限値が15秒に設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記第1の塗料がフレーク状の光輝材を含有する水性ベースコート塗料であり、前記第2の塗料はクリアコート塗料であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記第2の塗料が溶剤型塗料であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項6】
前記第1塗装工程及び/又は第2塗装工程での塗装をベル型回転噴霧式塗装機を用いて行い、ベルの回転数の下限値を20000rpmに設定することを特徴とする請求項1〜5の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項7】
前記ベル型回転噴霧式塗装機を用いた塗装は、シェーピングエアの被塗物表面での流速が150NL/分以上に設定して行われることを特徴とする請求項6記載の塗装方法。
【請求項8】
前記第1の塗料が水性ベースコート塗料で前記第2の塗料はクリアコート塗料であり、
前記第1塗装工程の前に第2の水性塗料でなる中塗りコート塗料を用いて中塗り塗装を行い、
該中塗り塗装後に請求項1〜3の何れか一に記載のプレヒート工程と同一条件でプレヒートを行い、
該プレヒート後に、前記水性ベースコート塗料でなる第1の塗料を用いたウエット・オン・ウエット塗装を行う、
ことを特徴とする請求項1〜7の何れか一に記載の塗装方法。
【請求項9】
前記第2の水性塗料は、40重量%以上の固形分を含有していることを特徴とする請求項8記載の塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−181447(P2006−181447A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376539(P2004−376539)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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