説明

塗装樹脂製品

【課題】過酷な環境で使用される自動車部品等に求められる樹脂基材と塗膜との十分な密着性を確保できる塗装樹脂製品を提供する。
【解決手段】ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行ったポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂基材に、該表面改質処理によって形成された表面官能基と反応するイソシアネート化合物を含むアクリル系樹脂からなる塗料を塗布することによって、樹脂基材上に塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面に塗料を塗布してなる塗装樹脂製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂基材と塗膜との密着性を向上させるため、樹脂基材の表面にケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて行う表面改質処理が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−238710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記表面改質処理を行っても、十分な密着性が得られないことがあった。例えば、樹脂基材が極性基を持たないポリオレフィン系樹脂よりなる場合、上記表面改質処理だけでは、従来の例えばアクリル系塗料で塗装したときの密着力が、不足することがあった。そして、過酷な環境で使用される自動車部品等では、同部品に要求される高い密着性を確保することは難しかった。
【0004】
そこで、本発明は、樹脂基材と塗膜との十分な密着性を確保できる塗装樹脂製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の塗装樹脂製品は、ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行った樹脂基材に、該表面改質処理によって形成された官能基(本明細書では、これを「表面官能基」という)と反応するイソシアネート化合物を含む塗料を塗布してなる。
【0006】
[金属酸化炎処理]
ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎は、ケイ素原子、チタン原子又はアルミニウム原子を含む改質剤化合物を含む燃焼ガスの火炎である。ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎は、酸化炎と共に吹き付けることが一工程で済む点で好ましいが、別途酸化炎を吹き付けた後の次工程として吹き付けることもできる。
【0007】
この改質剤化合物の沸点は10〜100℃であることが好ましい。すなわち、改質剤化合物の沸点を所定範囲に制限することにより、改質剤化合物が適度に気化して、ガスと均一かつ迅速に混合して、完全燃焼しやすくなる。その結果、樹脂基材の表面改質が均一に行われる。
【0008】
この改質剤化合物は、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。このような改質剤化合物を使用することにより、樹脂基材と塗膜との密着性が向上する。
【0009】
ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行うことにより、改質処理対象物の表面に、水酸基を有する各金属の酸化物が付与される。例えばケイ酸化炎の場合、樹脂基材の表面に、塗膜との密着性を得るために必要な、表面官能基としてのシラノール基を有する酸化ケイ素が付与される。なお、本明細書において、金属には、金属元素だけでなく、ケイ素等の半金属元素も含まれる。
【0010】
その他、これらの処理は次の条件が好ましい(前記の特開2003−238710号公報)。
1.燃料ガス中の改質剤化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
2.改質剤化合物を加熱し、気体状態とした後、燃焼させることが好ましい。
3.改質剤化合物を、空気流に混合することにより、燃料ガスとすることが好ましい。また、改質剤化合物を、キャリアガスを用いて、前記空気流に混合することが好ましい。
4.火炎温度を500〜1,500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
5.火炎の処理時間を0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
【0011】
[樹脂基材]
樹脂基材に用いられる樹脂としては、特に限定はされないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の単独重合体又は共重合体が例示できる。極性基を持たない樹脂は、本来、塗膜との密着性が悪いが、本発明によって、樹脂基材と塗膜との密着性向上の効果が明瞭に表れるので、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂等が特に有効である。
【0012】
[イソシアネート化合物]
イソシアネート化合物としては、特に限定はされないが、タイプとしてヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート及びジフェニルメタンジイソシアネート等が例示できる。ヘキサメチレンジイソシアネートの構造としては、イソシアヌレート型、ビュウレット型及びアダクト型がある。
【0013】
[塗料]
塗料は、イソシアネート基と反応する官能基(本明細書では、これを「塗料官能基」という)を持たない一液塗料であっても、イソシアネート基と反応する塗料官能基を持つ二液塗料であってもよい。ここで、塗料官能基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基等が例示できる。
【0014】
塗料がイソシアネート基と反応する塗料官能基を持たない一液塗料である場合には、樹脂基材と塗膜との密着に寄与するイソシアネート基を確保するため、塗料中にイソシアネート化合物を含むことが好ましい。さらに、樹脂基材と塗膜との十分な密着性を確保するため、塗料中にイソシアネート化合物が、塗料全体の重量に対して、0.4wt%以上含まれることがより好ましい。
【0015】
塗料がイソシアネート基と反応する塗料官能基を持つ二液塗料である場合には、樹脂基材と塗膜との密着に寄与するイソシアネート基を確保するため、塗料官能基との当量よりも塗料中のイソシアネート基の量が多くなるよう塗料中にイソシアネート化合物を含むことが好ましい。塗料官能基がアミノ基の場合は、イソシアネート基が塗料中のアミノ基と当量となる2倍以上の量になるようイソシアネート化合物を塗料中に添加するとよい。一方、塗料官能基がヒドロキシル基の場合は、イソシアネート基が塗料中のヒドロキシル基と当量となる2.5倍以上の量になるようイソシアネート化合物を塗料中に添加するとよい。
【0016】
塗料(塗料のバインダー)としては、特に限定はされないが、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等からなるものが例示でき、自動車部品用塗装を想定した場合、外観及び表面性能(耐溶剤性、耐候性)が得られやすい観点から、アクリル系樹脂からなる塗料であることが好ましい。
【0017】
樹脂基材と塗膜との密着性が向上することから、本発明の塗装樹脂製品は、バンパー、フロントグリル、サイドモール等の自動車の外装樹脂製品、あるいは、インストルメントパネル、コンソールボックス等の自動車の内装樹脂製品等に用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂基材と塗膜との十分な密着性を確保できる塗装樹脂製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ケイ酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行ったポリオレフィン系樹脂基材に、該表面改質処理によって形成された表面官能基と反応するイソシアネート化合物を含むアクリル系樹脂からなる塗料を塗布してなる塗装樹脂製品。
【実施例】
【0020】
以下、ポリプロピレン樹脂よりなる平板状の樹脂基板に対し、次の表1に示すように、表面改質処理又は塗料組成を変えて塗装した実施例、比較例及び参考例について説明する。本発明の実施例及び比較例は、用いられている塗料(塗料のバインダー)によって、グループ1〜3に分けられている。
【0021】
【表1】

【0022】
・実施例は、樹脂基材の表面にケイ酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行い、シラノール基を有する酸化ケイ素を形成した後、その改質樹脂基材上にイソシアネート化合物を含む塗料を塗布して塗膜を形成したものである。
・比較例は、同じく樹脂基材の表面にケイ酸化炎処理を行ってシラノール基を有する酸化ケイ素を形成した後、その改質樹脂基材上にイソシアネート化合物を含まない塗料を塗布して塗膜を形成したものである。
・参考例A群は、樹脂基材の表面に(ケイ酸化炎処理に代えて)改質剤化合物を含まない燃焼ガスの火炎を吹き付けての表面改質処理(以下、フレーム処理という)を行った後、その表面に表1の実施例又は比較例と同様の塗料を塗布したものである。
・参考例B群は、樹脂基材の表面に、表面改質処理を行うことなく、表1の実施例又は比較例と同様の塗料を塗布したものである。
【0023】
[実施例及び比較例のケイ酸化炎処理]
ケイ酸化炎処理は、改質剤化合物と火炎温度を制御するための引火性ガスとからなる燃料ガスを燃焼して行った。その詳細を次に示す。
改質剤化合物:ヘキサメトキシジシロキサン等の有機ケイ素化合物
引火性ガス:エアーとプロパンガス(LPG)
燃料ガス中における各物質の流量
改質剤化合物: 1NL/分
エアー :60NL/分
プロパンガス: 3NL/分
燃焼温度:500〜1,500℃
処理時間:0.5秒
【0024】
[参考例A群のフレーム処理]
フレーム処理は、前記ケイ酸化炎処理の燃焼ガスから改質剤化合物を除くこと以外は、前記ケイ酸化炎処理と同様に行った。
【0025】
[塗料]
グループ1〜3の各塗料は、いずれもアクリル系樹脂からなるものである。実施例の各塗料には、イソシアネート化合物としてイソシアヌレート型ヘキサメチレンジイソシアネート(カシュー株式会社製の商品名「73B」:含有率10〜15wt%)を添加した。
【0026】
・グループ1の塗料には、イソシアネート基と反応する塗料官能基を持たない一液塗料(カシュー株式会社製の商品名「プラスラックCV−1」)を用いた。実施例1−1と実施例1−2との違いは、「プラスラックCV−1」と「73B」との配合重量比の違いのみである。
・グループ2の塗料には、イソシアネート基と反応する塗料官能基としてアミノ基を持つ二液塗料(カシュー株式会社製の商品名「アスコート#300S」:樹脂分23.2wt%)を用いた。実施例2−1と実施例2−2との違いは、「アスコート#300S」と「73B」との配合重量比の違いのみである。
・グループ3の塗料には、イソシアネート基と反応する塗料官能基としてヒドロキシル基を持つ二液塗料(カシュー株式会社製の商品名「スーパーシルバー2P−100クリヤー」:樹脂分11.4wt%)を用いた。実施例3−1と実施例3−2との違いは、「スーパーシルバー2P−100クリヤー」と「73B」との配合重量比の違いのみである。
【0027】
[塗装]
各試験片は、樹脂基材に各塗料を塗布後、80℃で40分間の焼付けを行って、樹脂基材の上に塗膜を形成している。
【0028】
樹脂基材と塗膜との密着性を評価するために、各試験片に対し次の二つの試験を行った。
(1)クロスカット試験
塗面にカッターナイフで十字に切り込みを入れ、そこにセロファンテープを貼り、勢いよく剥がし、塗膜の剥離が生じるまでセロファンテープの貼付剥離を最大10回繰り返す。そして、塗膜の剥離が生じなかった最多のセロファンテープの剥がし回数を求める方法である。例えば「3回」の意味は、「3回目のセロファンテープの剥がしまで塗膜の剥離が生じなかった、すなわち、4回目のセロファンテープの剥がしで塗膜の剥離が生じた」である。
(2)碁盤目テーピング試験
塗面にカッターナイフで2mm幅の碁盤目を100マス(10×10マス)ができるように切り込みを入れ、そこにセロファンテープを貼り、勢いよく剥がし、碁盤目状の塗膜の剥離が生じるまでセロファンテープの貼付剥離を最大10回繰り返す。そして、碁盤目状の塗膜の剥離が生じた場合に、100マスの碁盤目のうち剥がれた枚数等の剥離モードを求める方法である。例えば「1/100−2」の意味は、「1回目のセロファンテープの剥がしでは塗膜の剥離が生じず、2回目のセロファンテープの剥がしで1マスの剥離が生じた」である。
【0029】
表1に示すように、イソシアネート化合物を添加しなかった塗料を塗装した比較例1、比較例2及び比較例3については、クロスカット試験及び碁盤目テーピング試験において、共に比較的少ない繰り返しのセロファンテープ剥がし回数で塗膜の剥離が生じた。
これに対し、イソシアネート化合物を添加した塗料を塗装した実施例1−1、実施例1−2、実施例2−1、実施例2−2、実施例3−1及び実施例3−2については、クロスカット試験及び碁盤目テーピング試験において、共に塗膜の剥離が生じなかったか、又は、比較的多い繰り返しのセロファンテープ剥がし回数で塗膜の剥離が生じたにすぎなかった。
【0030】
なお、フレーム処理によって樹脂基材の表面改質処理を行った参考例A群、及び、樹脂基材の表面改質処理を行わなかった参考例B群については、イソシアネート化合物の塗料への添加の如何に関係なく、クロスカット試験及び碁盤目テーピング試験において、共に1回目のセロファンテープの剥がしで、塗膜の全面剥離が生じている。
【0031】
イソシアネート基と反応する塗料官能基を持たない一液塗料である「プラスラックCV−1」が20重量部に対し、イソシアネート化合物の含有率10〜15wt%の「73B」が1重量部添加されている塗料を塗装した実施例1−1について、十分な密着性が得られた。従って、イソシアネート基と反応する塗料官能基を持たない一液のアクリル系樹脂塗料については、塗料全体の重量に対し0.4wt%以上のイソシアネート化合物を添加することで、ケイ酸化炎を吹き付けての表面改質処理した樹脂基材と塗膜の十分な密着性が得られる。
【0032】
また、イソシアネート基と反応する塗料官能基としてアミノ基を持つ二液塗料である「アスコート#300S」(樹脂分23.2wt%)が、4重量部に対し、「73B」が1重量部添加(「アスコート#300S」と「73B」とが当量となる重量比は、8対1である)されている塗料を塗装した実施例2−1について、十分な密着性が得られた。従って、アミノ基を持つ二液のアクリル系樹脂塗料については、イソシアネート基の量が塗料中のアミノ基との当量の2倍以上の量となるようイソシアネート化合物を添加することで、ケイ酸化炎を吹き付けての表面改質処理した樹脂基材と塗膜との十分な密着性が得られる。
【0033】
さらに、イソシアネート基と反応する塗料官能基としてヒドロキシル基を持つ二液塗料である「スーパーシルバー2P−100クリヤー」(樹脂分11.4wt%)が、4重量部に対し、「73B」が1重量部添加(「スーパーシルバー2P−100クリヤー」と「73B」とが当量となる重量比は、10対1である)されている塗料を塗装した実施例3−1について、十分な密着性が得られた。従って、ヒドロキシル基を持つ二液のアクリル系樹脂塗料については、イソシアネート基の量が塗料中のヒドロキシル基との当量の2.5倍以上の量となるようイソシアネート化合物を添加することで、ケイ酸化炎を吹き付けての表面改質処理した樹脂基材と塗膜との十分な密着性が得られる。
【0034】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行った樹脂基材に、該表面改質処理によって形成された表面官能基と反応するイソシアネート化合物を含む塗料を塗布してなる塗装樹脂製品。
【請求項2】
前記塗料がイソシアネート基と反応する塗料官能基を持たない一液塗料であることを特徴とする請求項1記載の塗装樹脂製品。
【請求項3】
前記塗料がイソシアネート基と反応する塗料官能基を持つ二液塗料であって、前記塗料官能基との当量よりも前記塗料中のイソシアネート基の量が多くなるよう該塗料中に前記イソシアネート化合物を含むことを特徴とする請求項1記載の塗装樹脂製品。
【請求項4】
前記塗料が、アクリル系樹脂からなる塗料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装樹脂製品。

【公開番号】特開2008−73879(P2008−73879A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252756(P2006−252756)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】