説明

塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの包接複合体

【課題】ラロキシフェンの固形剤を提供する。
【解決手段】塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの固相の包接複合体を、
A)塩酸ラロキシフェンを水溶液に溶解する工程;
B)得られた混合物を50℃〜80℃の範囲の温度に加熱する工程;
C)β−シクロデキストリンを加える工程;及び
D)塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン複合体を沈殿させ、濾過することにより分離する工程によって精製することにより、ラロキシフェニンの固定剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの包接複合体、及び前記包接複合体の医療分野における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸ラロキシフェンは、骨粗鬆症、なかでも閉経後骨粗鬆症の治療に用いられる活性化合物である。この化合物は下記式で表される。
【0003】
【化1】

【0004】
治療上明らかに有益であるにも拘わらず、塩酸ラロキシフェン(ラロキシフェン塩酸塩)には常温における水溶性が低いという欠点がある。このように水溶性が低いため、この化合物は適宜懸濁剤を加えて水懸濁剤として投与しなければならず、その投与の可能性が狭まっていた。
【0005】
有効成分の分散性を改善し、同時に投与の安全性を改善するために、水溶性の製剤(処方)が望ましい。
【0006】
特許文献1には、水溶性シクロデキストリンと式Iの化合物との間で形成された包接複合体の水溶液組成物が開示されているが、前記式Iの化合物にはラロキシフェンが含まれる。即ち、特許文献1には、水溶性の低い有効成分とヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンとの包接複合体を水溶液として調製した、包接複合体の医薬製剤が記載されている。この水溶液状医薬製剤を投与すると、同じ用量の湿式粒剤を投与した場合よりも15倍高い血漿濃度を示す。
【0007】
特許文献2には、水溶性(水混和性)有機溶媒、シクロデキストリン誘導体及び化合物からなる組成物、並びに前記化合物の水溶液に対する溶解を促進する方法であって、水系媒体中で前記化合物とシクロデキストリンとの包接複合体を形成させる方法が記載されている。この文献には、水溶性に乏しく、有機溶媒の存在下にヒドロキシ−ブテニル−β−シクロデキストリンと包接複合体を形成するのに適した有効成分が数多く挙げられているが、ラロキシフェンはその中に含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5624940号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0105045号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況に鑑み、製剤として調製し加工するのに好適であり、しかも加工中も安定で、一般的用法で液相(液剤)にする場合も溶解性が良好な、ラロキシフェンの固形剤を提供する必要がある。
【0010】
従って、本発明の目的はラロキシフェンの固形剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、上記課題を解決した本発明は、塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの固相の包接複合体を提供する。
【0012】
さらに本発明は、前記本発明の包接複合体を得る方法であって:
A)塩酸ラロキシフェンを水溶液に溶解する工程;
B)得られた混合物を50℃〜80℃の範囲の温度に加熱する工程;
C)β−シクロデキストリンを加える工程;及び
D)塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン複合体を沈殿させ、濾過することにより分離する工程からなる方法を提供する。
【0013】
本発明の特徴及び効果は、下記の詳細な説明及び添付図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の包接複合体のX線回折チャートである。
【図2a】本発明の複合体の実験で得られたX線回折チャートである。
【図2b】塩酸ラロキシフェンの実験で得られたX線回折チャートである。
【図2c】β−シクロデキストリンの実験で得られたX線回折チャートである。
【図3a】本発明の複合体の赤外スペクトルである。
【図3b】塩酸ラロキシフェンの赤外スペクトルである。
【図3c】β−シクロデキストリンの赤外スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の詳細な説明]
本発明は塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの包接複合体に関する。
【0016】
本発明の包接複合体はX線回折によって特徴付けられた。即ち、前記二成分のそれぞれのピークを加算しても、X線回折で実測されたピークとはならないことから、実際に複合体が形成されていることが確認された。
【0017】
塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン包接複合体は、粉末X線回折スペクトルにおいて、下記の回折角(2θ)にピークを有する(±0.2):
10.6, 12.4, 14.4, 15.3, 19.0, 19.5。
【0018】
即ち、図1に示す回折スペクトルから明らかなように、本発明の包接複合体は、下記表1に示す回折角において57本のピークを有し、その強度は表1に示すとおりである。
【0019】
【表1】

表1:塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン包接複合体のピーク(2θ、角度±0.2°)
【0020】
図2a、2b、及び2cに基づいて、複合体(2a)、塩酸ラロキシフェン(2b)、及びβ−シクロデキストリン(2c)のスペクトルを比較することができる。これらの図から明らかなように、前記包接複合体が新規の結晶形態を有することをまさにX線回折分析によって本発明者等は確認した。実際、本発明者等はβ−シクロデキストリンと塩酸ラロキシフェンのX線分析を行った結果、二つの成分のそれぞれのピークを加算しても、複合体の回折チャートに見られるピークとはならないことを見出した。このことは、塩酸ラロキシフェンがシクロデキストリンに包接されていること示している。
【0021】
本発明はさらに、塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの包接複合体を得る方法に関する。この方法は、
A)塩酸ラロキシフェンを水溶液に溶解する工程と;
B)得られた混合物を50℃〜80℃の範囲の温度に加熱する工程と;
C)β−シクロデキストリンを加える工程と;
D)塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン複合体を沈殿させ、濾過することにより分離する工程とからなる。
【0022】
工程(a)において、重量比2:1の水−メタノール溶液を前記水溶液として用いることが好ましい。
【0023】
工程(c)において、シクロデキストリンを塩酸ラロキシフェンに対して1:1の割合で加えることが好ましい。
【0024】
下記実施例の実験に関する記載から明らかなように、本発明の包接複合体はさらに13C-NMR核磁気共鳴、H−NMR核磁気共鳴、赤外線分光分析(IR)によっても特徴付けられた。
【0025】
本発明の方法による生成物は99.8%の純度を有していた。
【0026】
下記実施例の実験に関する記載から明らかなように、前記生成物を、無処理で、及び微粉化処理後に、その水溶性を測定したところ、特に良好な水溶性を示した。
【0027】
前記包接複合体は、最大12%の含水量まで経時的に吸湿することが判明した。しかし、このような範囲の含量の水は、結晶水ではなく吸着水(吸収水)に由来し、このような吸着水は乾燥器による乾燥処理で除去できる。
【0028】
本発明の包接複合体は薬剤として用いてもよい。
【0029】
従って、前記包接複合体と、薬学的に許容される媒体と、場合によって適当な賦形剤とを混合し、医薬組成物を得てもよい。用語「薬学的に許容される媒体」とは、本発明の包接複合体を投与するために用いられる、溶媒、担体、希釈剤などを包含する意味に用いられる。
【0030】
これらの医薬組成物は、非経口的、経口的又は局所的に投与してもよい。
【0031】
本発明の経口投与用組成物は、錠剤、カプセル剤、又は散剤若しくは顆粒剤としてカシェ剤に含有される等の別個の(独立した)剤形、またはそれらの分散液として投与することが好ましい。
【0032】
本発明の経口投与用組成物は、さらに好ましくは錠剤である。
【0033】
非経口投与用組成物は、無菌の製剤成分からなることが好ましい。
【0034】
局所投与用組成物は、好ましくは、クリーム剤、ペースト剤、パップ剤、油剤、軟膏(塗沫剤)、乳剤、泡状剤、ゲル剤、滴剤、水溶液剤、散布液剤、及び経皮貼付剤の剤形である。
【0035】
本発明の複合体は、骨粗鬆症、なかでも閉経後骨粗鬆症の治療用薬剤の製造に用いてもよい。
【0036】
以下に、本発明の方法及び前記方法で得られた包接複合体の定性分析(キャラクタライゼーション)に関する実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン包接複合体の製造方法
塩酸ラロキシフェン20.0g(0.0392モル)、メタノール180g及び水360gを混合した。得られた混合物を50℃〜60℃に加熱して完全に溶解した。その後β−シクロデキストリン45.6g(0.040モル)を加えた。混合物を還流下加熱して完全に溶解し、メタノールと水の混合物190gを常圧下留去した。残留物を0℃〜30℃に冷却し、その温度に保持して析出を促進した。得られた生成物を水40gで洗浄、濾過して、85℃〜95℃で乾燥した結果、塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリンが約58g得られた。
【0038】
この試料を元素分析した。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
[実施例2]
X線回折による複合体の定性分析
実施例1で得られた生成物に対し構造決定分析を行った。即ち、リガク社製ミニフレックスX線回折装置によって、銅のα及びα線(λ=1.54051Å;λ=1.54430Å)を用いて試料を分析した。
【0041】
塩酸ラロキシフェン試料及びβ−シクロデキストリン試料に関しても同様の分析を行った。得られたスペクトルをそれぞれ図2b及び2cに示す。これら二つの成分のそれぞれのピークを合計しても、複合体に認められるピークとはならないことが判明した。即ち、塩酸ラロキシフェンがシクロデキストリンに包接され、その結果格子パラメータが変化したことが示された。
【0042】
本発明に係る試料の回折チャートを図1に示すとともに、そのピークを上記表1に示す。
【0043】
[実施例3]
H-NMR核磁気共鳴分析による複合体の定性分析
実施例1で得られた包接複合体の試料をH-NMR核磁気共鳴分析に供した。分析には、バリアン社製Gemini核磁気共鳴スペクトル測定装置(200MHz)を装置として用い、DMSO−d及び、DMSO−dと重水(DO)との混合物を溶媒として用いた。
【0044】
得られた結果を下記に示す。
【0045】
【化2】


【0046】
【表3】

【0047】
n.m=測定不能
*β−シクロデキストリンのC,C,C,C,及びCに結合した水素はこの領域にピークを示す。
【0048】
【化3】

【0049】
【表4】

【0050】
H-NMR分析の結果から、塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの間で比率1:1の分子間複合体が生成していることが明らかになった。
【0051】
[実施例4]
13C-NMR核磁気共鳴分析による複合体の定性分析
実施例1で得られた包接複合体の試料を13C-NMR核磁気共鳴分析に供した。分析には、バリアン社製Gemini核磁気共鳴スペクトル測定装置(50MHz)を装置として用い、DMSO−dを溶媒として用いた。
【0052】
得られた結果を下記に示す。
【0053】
【化4】

【0054】
【表5】

【0055】
**シクロデキストリン包接複合体は下記の通りであった。
【0056】
【化5】

【0057】
【表6】


【0058】
上記13C-NMRスペクトルは、提案された構造と一致していた。
【0059】
[実施例5]
赤外線分光分析による定性分析
実施例1で得られた包接複合体の試料を臭化カリウムに溶解し、パーキンエルマー社製Spectrum-one分光分析装置を用いた赤外線分光分析に供した。
【0060】
その結果44本のピークが認められた。結果を下記表7に示す(単位:cm-1)。
【0061】
【表7】

表7:塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン包接複合体の赤外スペクトルにおけるピーク値
【0062】
塩酸ラロキシフェン単独試料及びβ−シクロデキストリン単独試料の赤外スペクトルを上記と同じ実験条件下で得た。得られたデータのチャートを図3a、3b及び3cに比較のため示す。
【0063】
これらの図から明らかなように、複合体のスペクトル(3a)は、二つの成分(塩酸ラロキシフェン及びβ−シクロデキストリン)のそれぞれのスペクトルが重なり合ったものではなかった。実際、塩酸ラロキシフェン(3b)及びβ−シクロデキストリン(3c)の双方に特徴的なバンドがあるが、吸収振動周波数の値は重なり合っていない。何故なら塩酸ラロキシフェンがβ−シクロデキストリンに包接されて生じた相互作用が起きたからである。
【0064】
[実施例6]
本発明の複合体の溶解度試験
実施例1で得られた生成物を、無処理で、及び微粉化処理後に、その水溶性(37℃48時間)を試験した。また、対応する未包接の出発原料(塩酸ラロキシフェン)の無処理及び微粉化処理後の水溶性を同様に試験し、比較した。結果を下記表8に示す。
【0065】
【表8】

表8:37℃48時間攪拌後の飽和溶液におけるラロキシフェン濃度(試料200mgを秤量し水20mlに懸濁したもの)
【0066】
本発明に係る試料が、塊状であっても微粉化処理後であっても、包接化されていない塩酸ラロキシフェンと比較して溶解性に優れることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの包接複合体。
【請求項2】
塩酸ラロキシフェンとβ−シクロデキストリンとの比が1:1である、請求項1に記載の包接複合体。
【請求項3】
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角(2θ)(±0.2):10.6, 12.4, 14.4, 15.3, 19.0, 19.5にピークを有する、請求項1又は請求項2に記載の包接複合体。
【請求項4】
下記回折角において下記相対強度を有する57本のピークを有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の包接複合体。
【表9】

【請求項5】
図1に示される回折チャートを有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の包接複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の塩酸ラロキシフェンのβ−シクロデキストリン包接複合体を得る方法であって:
A)塩酸ラロキシフェンを水溶液に溶解する工程;
B)得られた混合物を50℃〜80℃の範囲の温度に加熱する工程;
C)β−シクロデキストリンを加える工程;及び
D)塩酸ラロキシフェン−β−シクロデキストリン複合体を沈殿させ、濾過することにより分離する工程からなる方法。
【請求項7】
前記水溶液が水−メタノール溶液である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
薬剤として使用される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の包接複合体。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の包接複合体と、薬学的に許容される媒体とを含有する医薬組成物。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の包接複合体の、骨粗鬆症治療用薬剤の製造への使用。
【請求項11】
前記治療が閉経後骨粗鬆症の治療である、請求項10に記載の使用。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公開番号】特開2010−270100(P2010−270100A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169465(P2009−169465)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(599032590)エレジーレ ソシエタ ペル アチオニ (4)
【Fターム(参考)】