説明

増幅回路装置

【課題】意図しない低周波信号の入力を防止し、規格値を超過するドレイン電流が発生することのない接合形電界トランジスタを用いた増幅回路装置を提供する。
【解決手段】J−FETの封止部材内で、ゲートと直列に容量を付加し、当該容量とJ−FETのゲート−ソース間に接続される抵抗とによってハイパスフィルタを構成する。ハイパスフィルタの遮断周波数を20Hz未満に設定することで、音声信号を低下させることなく、可聴周波数帯の下限より低い周波数を遮断できるので、定常状態での外部要因によるゲート電位の変動の影響を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅回路装置に係り、特に接合型電界効果トランジスタを用いた増幅回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に用いられるエレクトレットコンデンサマイクロフォン(Electret Condenser Microphone:以下ECM)のインピーダンス変換および増幅を行うために、接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor:以下J−FET)が採用される場合がある。
【0003】
図6は、J−FET201を用いた増幅回路装置200の一例を示す回路図である。J−FET201はゲートGが、例えばECM(不図示)の一端と接続する。ドレインDは例えば電源(不図示)と接続する。また、J−FET201のゲートG−ソースS間には抵抗202とpn接合ダイオード203がそれぞれ並列に接続されている。抵抗202は例えば抵抗値が1GΩ程度の高抵抗体である。
【0004】
この増幅回路装置200は、電源投入時にはソースS−抵抗202−ゲートGの経路で電流が流れるので、電源投入から入力電圧(ゲート電位)の変動が安定し定常状態になるまでの時間を短縮することができ、良好な過渡特性が得られる。また、pn接合ダイオード203によって、静電破壊耐量を高めることができる(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−160963号公報 (第3頁 第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
増幅回路装置に採用されるJ−FET201は、電源投入から過渡状態を経過した後の定常状態、すなわちドレイン電流の飽和領域で使用することが一般的である。
【0007】
図6に示す増幅回路装置200では、抵抗202の抵抗値を適切に選択することにより、電源投入時直後の過渡状態におけるゲート電位を接地(GNDに吸収)させ、短期間でゲート電位を安定化させて定常状態にすることができる。
【0008】
しかし定常状態においても、増幅回路装置200の封止部材(パッケージ)外部からの要因で入力電圧が変動し、すなわち意図しない(増幅すべきでない)ゲート電位の変動が生じる場合がある。例えば、高湿度環境下などにおいては特に顕著に、封止部材の外部に導出するゲート端子のゲート電位が変動する場合がある。このようなゲート電位の変動(大きくて100mV)は、可聴周波数より低周波の信号が入力信号(例えば10mV)とは無関係にJ−FETのゲートに入力されることを意味し、これによってドレイン電流が規格値を大きく超えてしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はかかる課題に鑑みてなされ、ゲート、ソースおよびドレインを有する接合型電界効果トランジスタと、前記ゲートとソース間に接続された抵抗と、前記ゲートに直列に接続された容量と、を具備し、前記容量と前記抵抗によってハイパスフィルタを構成したことにより解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0011】
第1に、J−FETのゲート−ソース間に抵抗を接続し、ゲートと直列に容量を接続して、抵抗と容量によってハイパスフィルタを構成する。ハイパスフィルタの遮断周波数を可聴周波数帯域の下限付近に設定することにより、増幅回路装置の封止部材(パッケージ)外部の要因(例えば湿度など)によって、封止部材外部のゲート端子においてゲート電位の変動が生じても、封止部材内のハイパスフィルタで遮断し、入力信号とは無関係な低周波の信号がJ−FETのゲートに入力されることを防止できる。増幅すべき入力信号は、可聴周波数帯域の音声信号であり、容量若しくはハイパスフィルタで遮断されることはなく、意図しない低周波信号の入力を防止し、これにより規格値を超過するドレイン電流が発生することを回避できる。
【0012】
第2に、容量の静電容量と抵抗の抵抗値を適宜選択し、これらを用いてあらわされるハイパスフィルタの電圧利得を、可聴周波数帯域において0.9以上とすることにより増幅すべき入力信号(音声信号)の感度を低下させることなく、入力信号とは無関係に発生する可聴周波数を下回る低周波信号のゲートへの入力を防止できる。
【0013】
第3に、ハイパスフィルタは、従来、ゲート電位の安定化のために設けられていた抵抗を用いて、これに容量を1つ付加するのみで構成できるので、増幅回路装置の素子の外形(封止部材の外形)の増大を押さえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の増幅回路装置を説明する図であり、(A)は増幅回路装置の使用例を示す回路図であり、(B)は増幅回路装置の回路図であり、(C)はハイパスフィルタの回路図である。
【図2】本発明の増幅回路装置を説明する特性図である。
【図3】本発明の増幅回路装置を説明する特性図である。
【図4】本発明の増幅回路装置を説明する特性図である。
【図5】本発明の増幅回路装置を説明する特性図である。
【図6】従来技術を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、図1から図5を参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の増幅回路装置10を説明するための回路図であり、図1(A)が増幅回路装置10の使用の一例を示す回路図、図1(B)が増幅回路装置10の回路図、図1(C)がハイパスフィルタ5の回路図である。
【0017】
図1(A)を参照して、本実施形態の増幅回路装置10は、例えば、エレクトレットコンデンサマイクロフォン(Electret Condenser Microphone:以下ECM)15に接続して用いられる。
【0018】
ECM15は、振動膜(振動板)と、これと対向する電極を筐体内に配置したものであり、振動膜は例えば高分子材料などにより構成され、エレクトレット効果により振動膜に電荷を持続させたものである。ECM15は、音による振動膜の動きが振動膜および電極間の静電容量の変化として取り出され、これが増幅回路装置10によって増幅される。
【0019】
増幅回路装置10は、接合型電界効果トランジスタ(Junction Field Effect Transistor:以下J−FET)1と、抵抗2と、ダイオード3と、容量4と、を有する。
【0020】
J−FET1は、ゲートG、ソースSおよびドレインDの3つの端子を有し、ゲートGがECM15の一端と接続し、ドレインDは負荷抵抗Rを介して電源6に接続し、ソースSが接地される。負荷抵抗Rの抵抗値は、例えば1kΩ〜15kΩ程度である。ゲートGは入力側となり、直流的にゲートGが開放の状態で使用する。増幅は主に、J−FET1の定常状態(ゲートGの電位が安定した状態、ドレイン電流の飽和領域)において行われる。ドレインDは出力側となる。
【0021】
詳細には、ECM15の容量変化(電圧変化)が入力電圧Vin(ゲートG−ソースS間電圧VGS)の変化としてJ−FET1のゲートGに印加され、J−FET1に流れるドレイン電流が制御される。ドレインDに流れるドレイン電流が増幅回路装置10により増幅される。増幅後の電流(消費電流)は負荷抵抗Rによって電圧変換され、J−FET1のドレインDから出力電圧VoutのAC成分として取り出すことができる。
【0022】
図1(A)(B)を参照して、J−FET1は、例えばnチャネルのデプレッション型J−FETである。すなわち、n型のチャネル領域とp型のゲート領域及びp型のバックゲート領域及びそれぞれn型のソース領域及びドレイン領域を有する。
【0023】
抵抗2は、ゲートG−ソースS間に並列に接続する。抵抗2は、抵抗値Rが例えば1GΩ〜30GΩ(より好適には1GΩ〜3GΩ)であり、電源6を投入直後のJ−FET1の過渡状態の期間中に、ソースS−抵抗2−ゲートGの経路に電流を流すことにより、ゲート電位を短期間で安定化させるために接続される。
【0024】
また、ダイオード3が、ゲートG−ソースS間に並列に接続する。ダイオード3は、pn接合ダイオードであり、アノード(ソースS)側に負電圧を印加する(逆方向バイアスが印加される)ように接続することにより、ゲートG−ソースS間に印加される静電気を放電し、静電破壊耐量を向上させている。
【0025】
容量4は、J−FET1のゲートGに直列に接続される。容量4の静電容量は例えば、1pF〜50pFである。
【0026】
J−FET1、抵抗2、ダイオード3および容量4は全て単一の封止部材7内に収められ、増幅回路装置10を構成している。封止部材7は例えば封止樹脂パッケージであるが、メタルキャンパッケージやセラミックパッケージも採用できる。また、一例として、J−FET1、抵抗2、ダイオード3および容量4は、全て同一の半導体基板(チップ)に集積化される。
【0027】
図1(B)(C)を参照して、本実施形態の増幅回路装置10は、ゲートG、および抵抗2の一端と直列接続する容量4を有し、これによりゲートGに直列に、抵抗2と容量4によるハイパスフィルタ5が接続された構成となっている。
【0028】
ハイパスフィルタ5は、可聴周波数帯域(例えば20Hz〜2万Hz(20KHz))の下限付近の遮断周波数を有する。これにより、例えば20Hzより低い周波数の信号を遮断できる。つまり、J−FET1の定常状態において、増幅回路装置10の使用環境などの外部要因によって意図しないゲート電位の変動が生じ、それが信号として増幅回路装置10に入力された場合であっても、増幅する前にその変動(信号)を低減できる。
【0029】
具体的に説明すると、例えば高湿度環境下での使用などによって、定常状態においても増幅すべき入力電圧Vinの変化(入力信号または音声信号)とは無関係に、ゲート電位が変動する場合がある。この場合のゲート電位の変動は、可聴周波数帯域の下限(20Hz)より大幅に低い周波数の信号として、J−FET1のゲートGに入力される。本実施形態ではこの低周波数の信号によって図1(B)のI1点のゲート電位が変動した場合であっても、これをハイパスフィルタ5で遮断できるので、I2点でのゲート電位の変動を低減できる。一方で、増幅すべき可聴周波数帯域の高周波の入力信号はほとんど損失(低下)することなく、I2点に到達させることができる。
【0030】
増幅すべき高周波の入力信号の損失の大きさは、ハイパスフィルタ5の電圧利得Gainによって算出され、電圧利得Gainの周波数特性は、以下の式で表される。
【0031】
【数1】


ここで、Vin:入力電圧[V]、Vout:出力電圧[V]、ω:角周波数[rad](=2πf(f:周波数[Hz]))、C:静電容量[pF]、R:抵抗[Ω]である。
【0032】
本実施形態では、上式であらわされるハイパスフィルタ5の電圧利得Gainが、可聴周波数帯域において0.9以上となるように、抵抗2の抵抗値Rと容量4の静電容量Cとを選択する。これにより、増幅すべき入力信号(音声信号)の感度はほとんど低下させることなく、増幅すべき入力信号とは無関係に発生する低周波の信号が、J−FET1のゲートGに入力されることを防止できる。
【0033】
図2から図5は、上式を用いて計算した電圧利得Gainおよび周波数fの、容量4の依存性を示す特性図である。いずれもY軸が電圧利得Gain、X軸が周波数f[Hz]であり、図2から図4はそれぞれ容量4の静電容量Cが0.1pF、1pF、5pF、10pF、30pF、50pFの6つの場合について、図5は容量4の静電容量Cが0.1pF、0.5pF、1pF、2pF、5pF、10pF、30pF、50pFの8つの場合について抵抗2の抵抗値Rを変えて依存性を算出した。図2は抵抗2の抵抗値R=1GΩ(1.00E09Ω)、図3は抵抗値R=3GΩ、図4は抵抗値R=10GΩ、図5は抵抗値R=30GΩの場合である。またいずれも破線が可聴周波数帯域の下限付近を示し、矢印で示した破線より周波数の高い領域(2万Hz程度まで)が、可聴周波数帯域である。
【0034】
図2を参照して、抵抗2の抵抗値Rが1GΩの場合、可聴周波数帯域の下限付近において電圧利得Gainが0.9以上となるのは、容量4の静電容量Cが30pF以上の場合であり、50pFでは電圧利得Gainがほぼ1となる。これより静電容量Cが小さい場合は、高い周波数では電圧利得Gainが0.9以上となるものの、可聴周波数帯域の下限付近では電圧利得Gainが0.9を下回り、ゲートGに入力される低周波の信号の遮断はできても、可聴周波数帯域の損失が大きくなりすぎてしまう。
【0035】
同様に、図3を参照して、抵抗2の抵抗値Rが3GΩの場合、可聴周波数帯域の下限付近において電圧利得Gainが0.9以上となるのは、容量4の静電容量が5pFより大きい場合であり、静電容量Cが10pF以上では電圧利得Gが0.95以上となる。
【0036】
更に図4を参照して、抵抗2の抵抗値Rが10GΩの場合には、静電容量Cが5pF以上であれば可聴周波数帯域の下限付近において電圧利得Gainが0.95以上でほぼ1に近くなる。
【0037】
更に図5を参照して、抵抗2の抵抗値Rが30GΩの場合には、静電容量Cが1pF以上であれば可聴周波数帯域の下限付近において電圧利得Gainが0.95以上となる。
【0038】
これらから明らかなように、抵抗2の抵抗値Rが大きいほど、小さい静電容量Cで可聴周波数帯域において良好な電圧利得Gainが得られる。一方で、抵抗2の抵抗値Rは過渡状態の期間においてゲート電位が安定するまでの時間に影響し、抵抗値Rが大きくなるほどソースS−抵抗2−ゲートG間に電流が流れにくくなり、ゲート電位が安定するまでの時間がかかることになる。つまり、過渡状態の期間におけるゲート電位の安定化に適切な抵抗値Rが例えば1GΩ〜3GΩであるとすると、静電容量Cは30pF以上が望ましいといえる。
【0039】
また、静電容量Cは、大きいほど可聴周波数帯域の広範囲において損失を少なくすることができるといえるが、極端に大きくなると、容量4を追加しない従来構造に近づき、すなわち低周波の信号を遮断できない。本実施形態においては静電容量Cの上限値は、例えば、30pF〜50pF程度までである。この値は、理論上、低周波の信号を遮断できなくなる静電容量よりも小さく、現実的な容量4のサイズに制約される。
【0040】
すなわち、容量4をゲートGに直列に接続する増幅回路装置10の具体的なデバイスとしては、以下の構成が考えられる。例えばJ−FET1のチップを構成し、バックゲート領域となるp+型半導体基板の裏面に絶縁層を設け、ゲート電位が印加される導電部材(例えばリードフレーム)と当該絶縁層、およびJ−FET1のp+型半導体基板とで容量4を構成するものである。また、J−FET1のp+型半導体基板の裏面にn型半導体層を設けるなどして、pn接合容量による容量4を接続する構造であってもよい。更には、少なくとも同一の封止部材7内に収めるのであれば、容量4はJ−FET1と別異の素子(チップ)としてもよい。
【0041】
いずれにしても、J−FET1のチップサイズまたは封止部材7の外形のサイズの制約があるため、例えばチップサイズが0.3mm角程度の場合、静電容量Cが50pFを超えるような容量4を作りこむことは現実的でない。つまり、本実施形態の容量4の静電容量Cの上限値は、増幅回路装置10の外形サイズによって決定される(例えばチップサイズが0.3mm角程度の場合で、静電容量Cは50pF)。これに対し、静電容量Cを小さくすると、可聴周波数帯域の電圧利得Gainが低下してしまうので、下限は適切な値を選択する必要がある。つまり、抵抗2の抵抗値Rも考慮すると、本実施形態の容量4の下限は、1pF程度が望ましい。
【0042】
このように、本実施形態では、J−FET1の封止部材7内で、ゲートGと直列に容量4を付加し、容量4とJ−FET1のゲート−ソース間に接続される抵抗2とによってハイパスフィルタ5を構成する。ハイパスフィルタ5の遮断周波数を20Hz未満に設定することで、増幅すべき入力信号(音声信号)を低下させることなく、可聴周波数帯の下限より低い周波数を遮断できるので、定常状態での外部要因による意図しないゲート電位の変動の影響を低減できる。
【0043】
以上、本実施形態ではnチャネルのJ−FETを例示したが、導電型を逆にしたJ―FETであっても同様に実施でき、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
1 J−FET
2 抵抗
3 ダイオード
4 容量
5 ハイパスフィルタ
7 封止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート、ソースおよびドレインを有する接合型電界効果トランジスタと、
前記ゲートとソース間に接続された抵抗と、
前記ゲートに直列に接続された容量と、を具備し、
前記容量と前記抵抗によってハイパスフィルタを構成したことを特徴とする増幅回路装置。
【請求項2】
前記ハイパスフィルタは可聴周波数帯域の下限付近の遮断周波数を有することを特徴とする請求項1に記載の増幅回路装置。
【請求項3】
前記容量の静電容量と前記抵抗の抵抗値を用いてあらわされる前記ハイパスフィルタの電圧利得は、可聴周波数帯域において0.9以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の増幅回路装置。
【請求項4】
前記静電容量は、1pFから50pFであることを特徴とする請求項3に記載の増幅回路装置。
【請求項5】
前記容量は前記接合型電界効果トランジスタと同一の封止部材内に設けられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の増幅回路装置。
【請求項6】
前記ゲートとソース間に接続されたダイオードを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の増幅回路装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−39408(P2012−39408A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178123(P2010−178123)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(311003743)オンセミコンダクター・トレーディング・リミテッド (166)
【Fターム(参考)】