説明

増幅装置

【課題】増幅装置の起動後、送信信号の歪の生じる時間を短縮する。
【解決手段】
処理部1は、入力される信号とフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出し、歪補償係数を用いて入力される信号に対し歪補償処理を行う。増幅部2は、処理部1から出力される信号を増幅し、アンテナ5に出力する。モニタ増幅部3は、処理部1から出力される信号を増幅する。切替え部4は、増幅装置の起動後、モニタ増幅部3から出力される信号を処理部1にフィードバックし、アンテナ5を介して送信信号を無線送信するときに増幅部2から出力される信号を処理部1にフィードバックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、無線送信する信号を増幅する増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信に用いられる増幅装置は、無線送信する信号のスペクトラム特性や信号歪に起因する伝送特性劣化を抑えるために、増幅特性(入出力特性)に高い線形性が求められる。また、無線通信に用いられる増幅装置は、高い電力効率も求められる。線形性と電力効率は、相反する特性であるため、両特性を備えるために、歪補償機能を備えた増幅装置がある。
【0003】
歪補償方式の1つとして、プリディストーション方式がある。プリディストーション方式は、増幅器の入力信号に対して歪補償係数を乗算し、増幅器の歪特性と逆の特性を予め付加する。これにより、増幅器は、歪を抑制した所望の信号を出力することができる。
【0004】
移動通信システムの基地局などで用いられる増幅装置では、高出力・高効率の増幅器として、窒化ガリウム(GaN)などを素材としたFET(Field-Effect Transistor)の適用が進んでいる。GaN−FETは、Idqドリフトと呼ばれる、ドレインバイアス電流が低下する現象が発生することがある。
【0005】
なお、従来、コールド状態からの起動でも安定で精度の高い温度補償ができ、しかも周囲温度変化の影響を受けずに安定した特性が得られるようにした温度補償装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−082016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の増幅装置は、起動後IdqドリフトによってGaN−FETの増幅特性に大きな変化が生じた場合、その変化の生じた増幅特性に応じた歪補償係数に収束するまで時間を要し、その間送信信号に歪が生じるという問題点があった。
【0008】
本件はこのような点に鑑みてなされたものであり、増幅装置の起動後、送信信号の歪の生じる時間を短縮する増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、信号を増幅する増幅装置が提供される。この増幅装置は、入力される信号とフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出し、前記歪補償係数を用いて入力される信号に対し歪補償処理を行う処理部と、前記処理部から出力される信号を増幅し、アンテナに出力する第1の増幅部と、前記処理部から出力される信号を増幅する第2の増幅部と、当該増幅装置の起動後前記第2の増幅部から出力される信号を前記処理部にフィードバックし、前記アンテナを介して送信信号を無線送信するときに前記第1の増幅部から出力される信号を前記処理部にフィードバックする切替え部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
開示の装置によれば、起動後、送信信号の歪の生じる時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施の形態に係る増幅装置のブロック図である。
【図2】第2の実施の形態に係る増幅装置のブロック図である。
【図3】演算処理部のブロック図である。
【図4】Idqドリフトを示した図である。
【図5】歪補償係数を示した図である。
【図6】Idqドリフトに対応した歪補償係数を説明する図である。
【図7】増幅装置の動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る増幅装置のブロック図である。図1に示すように、増幅装置は、処理部1、増幅部2、モニタ増幅部3、および切替え部4を有している。図1には、アンテナ5も示してある。
【0013】
処理部1は、入力される信号と、切替え部4から出力されるフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出し、算出した歪補償係数を用いて、入力される信号に対し歪補償処理を行う。処理部1には、増幅装置の起動後、モニタ増幅部3の歪補償係数を算出するためのトレーニング信号が入力される。トレーニング信号は、例えば、図示しないトレーニング信号生成部によって生成される。
【0014】
増幅部2は、処理部1から出力される信号を増幅する。増幅部2で増幅された信号は、アンテナ5に出力され、無線送信される。増幅部2は、例えば、GaN−FETを使用した増幅器である。
【0015】
モニタ増幅部3は、処理部1から出力される信号を増幅する。モニタ増幅部3には、例えば、処理部1から出力される信号が、方向性結合器でその一部が分離されて入力される。モニタ増幅部3は、例えば、GaN−FETであり、増幅部2と同様のIdqドリフトの特性を有している。
【0016】
切替え部4は、増幅装置の起動後、モニタ増幅部3から出力されるトレーニング信号をフィードバックする。切替え部4は、その後アンテナ5を介して送信信号を無線送信するときに増幅部2から出力される信号を処理部1にフィードバックする。切替え部4には、例えば、増幅部2から出力される信号が、方向性結合器でその一部が分離されて入力される。
【0017】
ここで、増幅装置の起動後、IdqドリフトによってGaN−FETの増幅特性に大きな変化が生じた場合、歪補償係数は、その変化の生じた増幅特性に応じた値に収束するまで時間を要し、その間、無線送信する送信信号に歪が生じる。
【0018】
しかし、図1の増幅装置のモニタ増幅部3は、増幅部2と同様のIdqドリフトの特性を有している。そして、図1の増幅装置は、起動後、トレーニング信号でモニタ増幅部3における歪補償係数を算出し、アンテナ5を介して送信信号を無線送信するときに増幅部2から出力される信号を処理部1にフィードバックする。これにより、図1の増幅装置では、起動後、送信信号を無線送信するとき、処理部1の算出する歪補償係数が、増幅部2の増幅特性に対応した値に近くなっており、歪補償係数の収束する時間が短くなる。そして、無線送信する送信信号の歪の生じる時間が短くなる。
【0019】
このように、増幅装置の切替え部4は、当該増幅装置の起動後、モニタ増幅部3から出力される信号を処理部1にフィードバックし、アンテナ5を介して送信信号を無線送信するときに増幅部2から出力される信号を処理部1にフィードバックするようにした。これにより、増幅装置は、起動後、Idqドリフトによって増幅部2の増幅特性に大きな変化が生じても、無線送信する送信信号の歪の生じる時間を短縮できる。
【0020】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図2は、第2の実施の形態に係る増幅装置のブロック図である。図2に示すように、増幅装置は、乗算器11,26、DAC(Digital to Analog Converter)12、発振器13,25、QMOD(Quadrature MODulator)14、方向性結合器15,19、RF(Radio Frequency)スイッチ16,24、抵抗17、増幅器18、ATT(ATTenuator)21,23、モニタ増幅器22、ADC(Analog to Digital Converter)27、遅延部28,29、加算器30、アドレス生成部31、演算処理部32、LUT(Look Up Table)33、およびRFスイッチ制御部34を有している。図2には、アンテナ20も示してある。図2に示す増幅装置は、例えば、移動通信システムの基地局に適用される。
【0021】
乗算器11には、増幅装置の起動時にトレーニング信号が入力され、その後、送信信号が入力される。トレーニング信号は、例えば、図示しないトレーニング信号生成部によって生成される。送信信号は、例えば、通信相手に無線送信するベースバンド信号であり、I信号およびQ信号である。
【0022】
乗算器11には、LUT33に記憶されている歪補償係数が入力される。乗算器11は、トレーニング信号に歪補償係数を乗算する。また、乗算器11は、送信信号に歪補償係数を乗算する。
【0023】
DAC12は、乗算器11から出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換する。
発振器13は、基準波の信号と、基準波の信号に対し位相が90度ずれた信号とを出力する。
【0024】
QMOD14は、DAC12から出力される信号を、発振器13から出力される信号で直交変調する。例えば、QMOD14は、DAC12でアナログ信号に変換されたI信号を、発振器13から出力される基準波の信号で変調する。また、QMOD14は、DAC12でアナログ信号に変換されたQ信号を、発振器13から出力される基準波の信号と位相が90度ずれた信号で変調する。
【0025】
方向性結合器15は、QMOD14から出力される信号をRFスイッチ16およびモニタ増幅器22に出力する。方向性結合器15は、QMOD14から出力される信号の一部を分離して、モニタ増幅器22へ出力する。方向性結合器15は、モニタ増幅器22がIdqドリフトを生じるレベルとなるように、QMOD14から出力される信号の一部を分離する。
【0026】
RFスイッチ16は、方向性結合器15から出力される信号を、増幅器18または抵抗17に出力する。RFスイッチ16は、例えば、図2に示す番号1の端子と番号2の端子とを接続し、方向性結合器15から出力される信号を抵抗17に出力する。また、RFスイッチ16は、例えば、図2に示す番号1の端子と番号3の端子とを接続し、方向性結合器15から出力される信号を増幅器18に出力する。RFスイッチ16は、例えば、送信信号の帯域において、低挿入損失特性および高アイソレーション特性を有しているものを用いるのが望ましい。
【0027】
抵抗17は、一端がRFスイッチ16に接続され、他端がグランドに接続されている。抵抗17の抵抗値は、例えば、50Ωである。抵抗17は、RFスイッチ16が番号1の端子を番号2の端子に接続して、トレーニング信号を増幅器18に出力しないようにしたとき、トレーニング信号が反射するのを防止する。
【0028】
増幅器18は、RFスイッチ16から出力される信号を増幅する。増幅器18は、例えば、GaN−FETである。増幅器18は、GaN−FETを2つ備えたドハティ増幅器であってもよい。
【0029】
方向性結合器19は、増幅器18から出力される信号を、アンテナ20およびATT21に出力する。方向性結合器19は、増幅器18から出力される信号の一部を分離して、ATT21へ出力する。
【0030】
ATT21は、方向性結合器19から出力される信号のレベルを所定のレベルに減衰し、RFスイッチ24へ出力する。
モニタ増幅器22は、方向性結合器15から出力される信号を増幅する。モニタ増幅器22は、増幅器18と同様のIdqドリフトの特性を有している。モニタ増幅器22は、例えば、増幅器18と同じGaN−FETである。または、モニタ増幅器22は、増幅器18と同様のIdqドリフトの特性を有していればよく、増幅器18と異なる材料のデバイスであってもよい。また、モニタ増幅器22は、増幅器18と同様の増幅特性を有していてもよい。
【0031】
ATT23は、モニタ増幅器22から出力される信号のレベルを所定のレベルに減衰し、RFスイッチ24へ出力する。
RFスイッチ24は、ATT21,23から出力される信号のいずれかを、乗算器26に出力する。RFスイッチ24は、例えば、図2に示す番号1の端子と番号2の端子とを接続し、ATT23から出力される信号を乗算器26に出力する。また、RFスイッチ24は、例えば、図2に示す番号1の端子と番号3の端子とを接続し、ATT21から出力される信号を乗算器26に出力する。RFスイッチ24は、例えば、トレーニング信号のフィードバック信号および送信信号のフィードバック信号の帯域において、低挿入損失特性および高アイソレーション特性を有しているものを用いるのが望ましい。
【0032】
発振器25は、基準波の信号と、基準波の信号に対し位相が90度ずれた信号とを出力する。
乗算器26は、RFスイッチ24から出力される信号に、発振器25から出力される信号を乗算し、RFスイッチ24から出力される信号の周波数をダウンコンバートする。
【0033】
ADC27は、乗算器26から出力される信号をデジタル信号に変換する。なお、図2には図示していないが、ADC27の出力には、デジタルのIQ直交復調器が設けられ、デジタルのI信号およびQ信号が得られる。
【0034】
遅延部28は、ADC27から出力される信号を遅延する。遅延部29は、乗算器11に入力されるトレーニング信号または送信信号を遅延する。遅延部28,29は、乗算器11に入力される信号と、その信号をフィードバックした信号とのタイミングを合わせる。
【0035】
加算器30は、遅延部28から出力される信号と、遅延部29から出力される信号との差を算出する。
アドレス生成部31には、乗算器11に入力されるトレーニング信号または送信信号が入力される。アドレス生成部31は、トレーニング信号または送信信号のエンベロープ信号を生成し、生成したエンベロープ信号の電力を、LUT33のアドレスとして生成する。アドレス信号は、例えば、エンベロープ信号のパワーに応じて定まる10ビットの値である。
【0036】
演算処理部32は、LMS(Least Mean Square)に基づいて、加算器30から出力される信号の差がゼロとなるようにLUT33の歪補償係数を更新していく。
図3は、演算処理部のブロック図である。図3に示すように、演算処理部32は、乗算器41,42,44、複素共役生成部43、加算器45、および遅延調整部46を有している。図3には、図2に示す加算器30も示してある。演算処理部32は、例えば、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するDSP(Digital Signal Processor)によってその機能を実現することができる。または、演算処理部32は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)によって実現することができる。
【0037】
演算処理部32は、すでに算出してLUT33に記憶しているn番目の歪補償係数hn(p)から、(n+1)番目の歪補償係数hn+1(p)を算出する。以下、I信号およびQ信号からなる入力信号を複素数表示でx(t)と表し、入力信号x(t)に対するフィードバック信号を複素数表示でy(t)と表す。また、入力信号x(t)とフィードバック信号y(t)との差分をe(t)と表す。
【0038】
加算器30から出力される差分e(t)には、更新量のステップサイズパラメータを表すμが、乗算器41を用いて乗算され、さらに、この乗算結果に、乗算器42を用いて、hn(p)・y*(t)が乗算される。y*(t)は、y(t)の複素共役である。
【0039】
n(p)・y*(t)は、複素共役生成部43を用いて生成されたフィードバック信号y(t)の複素共役フィードバック信号y*(t)と、歪補償係数hn(p)とを、乗算器44を用いて得られた信号である。さらに、乗算器42で算出されたhn(p)・y*(t)・μ・e(t)に、加算器45を用いてn番目の歪補償係数hn(p)が加算されることにより(n+1)番目の歪補償係数hn+1(p)が算出される。なお、加算器45や乗算器44に用いるn番目の歪補償係数hn(p)は、加算器45による加算のために、遅延調整部46によりタイミング調整される。
【0040】
図2の説明に戻る。LUT33は、アドレス生成部31で生成されるアドレスに対応した歪補償係数を乗算器11に出力する。また、LUT33は、演算処理部32によって更新される歪補償係数を、アドレス生成部31で生成されたアドレスに記憶する。LUT33は、例えば、バックアップされたRAM(Random Access Memory)などの記憶装置である。
【0041】
RFスイッチ制御部34は、RFスイッチ16,24の切替えを制御する。例えば、RFスイッチ制御部34は、増幅装置の起動後、方向性結合器15から出力される信号が増幅器18に出力されないようにRFスイッチ16を制御する。また、RFスイッチ制御部34は、増幅装置の起動後、モニタ増幅器22で増幅された信号が演算処理部32にフィードバックされるようにRFスイッチ24を制御する。
【0042】
RFスイッチ制御部34は、LUT33の歪補償係数が収束すると、方向性結合器15から出力される信号が増幅器18に出力されるようにRFスイッチ16を制御する。また、RFスイッチ制御部34は、LUT33の歪補償係数が収束すると、増幅器18で増幅された信号が演算処理部32にフィードバックされるようにRFスイッチ24を制御する。
【0043】
RFスイッチ制御部34は、例えば、演算処理部32を形成するDSPまたはFPGAから、LUT33の歪補償係数が収束したことの信号を受信し、RFスイッチ16,24のスイッチを切替える。DSPまたはFPGAは、例えば、LUT33の更新される歪補償係数の差分値が、所定時間、ある値の範囲内に収まったとき、LUT33の歪補償係数が収束したことの信号を出力する。
【0044】
すなわち、RFスイッチ制御部34は、増幅装置の起動後、モニタ増幅器22から出力される信号がフィードバック信号として演算処理部32に出力されるようにする。また、RFスイッチ制御部34は、その後、LUT33の歪補償係数が収束すると、増幅器18から出力される信号がフィードバック信号として演算処理部32に出力されるようにする。
【0045】
なお、RFスイッチ制御部34は、例えば、ロジック回路で形成される。または、RFスイッチ制御部34は、CPU(Central Processing Unit)によってその機能を実現するようにしてもよい。
【0046】
Idqドリフトと歪補償係数との関係について説明する。移動通信システムの基地局などで用いられる増幅装置では、GaNデバイスの適用が進んでいる。GaNデバイスは、広いバンドギャップや高移動度などの特徴により、LDMOS(Laterally Diffused Metal Oxide Semiconductor)やGaAS系などのデバイスでは得られない、高周波において高効率高出力の特性を有する。
【0047】
MOS−FETのホットキャリア劣化は、ゲート酸化膜にホットキャリアが注入・蓄積していくことが要因となってIdqが低下する現象で、比較的に長い時間応答で緩やかに変動していく。一方、GaN−FETのIdqドリフトは、半導体中の不純物順位にキャリアがトラップされることが要因となってIdqが低下する現象で、比較的に短い時間応答で電流が変動し、その変動量も入力される信号等の条件によって大きく異なるという特徴がある。Idqドリフトの特性は、例えば、温度などの環境変化によって変わる。また、Idqドリフトの特性は、例えば、デバイスによってばらつきがある。
【0048】
図4は、Idqドリフトを示した図である。図4には、増幅器18のドレイン−ソース間を流れる電流が示してある。図4の横軸は時間を示し、縦軸はドレイン−ソース間を流れる電流Idsを示している。図4に示すIdq設定値は、増幅器18のドレインに流すべきドレインバイアス電流を示している。
【0049】
図4に示すW11は、Idqドリフトを示している。図4では、増幅装置を起動したとき、増幅器18にIdqドリフトが生じ、増幅器18のドレインバイアス電流が低下している様子を示している。
【0050】
図5は、歪補償係数を示した図である。図5には、Idqドリフトが発生していない場合の歪補償係数と、Idqドリフトが発生した場合の歪補償係数とを示している。図5の横軸は電力を示し、縦軸は歪補償係数を示している。
【0051】
波形W21は、増幅器18にIdq設定値のドレインバイアス電流が流れた場合のLUT33に記憶される歪補償係数の例を示している。
波形W22は、Idqドリフトによってドレインバイアス電流が低下した場合のLUT33に記憶される歪補償係数の例を示している。例えば、図4の波形W11に示すドレインバイアス電流が増幅器18に流れたときのLUT33に記憶される歪補償係数の例を示している。
【0052】
ここで、増幅器18にIdqドリフトが生じていないとき、増幅装置の電源を切ったとする。この場合、LUT33には、Idqドリフトが生じていないときの増幅器18の増幅特性に応じた歪補償係数が保存される。例えば、図5の波形W21に示す歪補償係数がLUT33に保存される。
【0053】
その後、増幅装置を起動したとする。このとき、増幅器18にIdqドリフトが生じたとする。この場合、増幅装置の起動後、LUT33に保存されている歪補償係数と、Idqドリフトに対応した歪補償係数(Idqドリフトが生じたときに算出されるべき歪補償係数)との間に大きな差が生じる。
【0054】
例えば、増幅装置を起動したとき、LUT33には、波形W21に示す歪補償係数が保存されているとする。また、増幅装置を起動したとき、増幅器18にIdqドリフトが生じたとする。この場合、LUT33に保存されている歪補償係数(波形W21)と、Idqドリフトに対応した歪補償係数(波形W22)との間に大きな差が生じる。
【0055】
上記したように、演算処理部32は、遅延部28から出力されるフィードバック信号と、遅延部29から出力される送信信号とに基づいて歪補償係数を算出し、LUT33の歪補償係数を更新していく。従って、LUT33に保存されている歪補償係数と、Idqドリフトに対応した歪補償係数との間に大きな差が生じていると、Idqドリフトに対応した歪補償係数に収束するまでの時間が長くなる。例えば、図5に示す波形W21が波形W22となるまでの時間が長くなる。このため、歪補償係数がIdqドリフトに対応した値に収束するまでの間に送信信号を増幅器18で増幅すると、歪補償係数が収束するまでの間、歪んだ送信信号が無線送信される。
【0056】
また、工場出荷時、Idq設定値のドレインバイアス電流が増幅器18に流れたときの歪補償係数が、LUT33に初期値として記憶されている場合も同様である。例えば、工場出荷時、図5に示す波形W21の歪補償係数が初期値としてLUT33に記憶されているとする。
【0057】
増幅装置の工場出荷後、起動したときにIdqドリフトが生じると、LUT33に記憶されている歪補償係数と、Idqドリフトに対応した歪補償係数との差が大きく、歪補償係数の収束時間が長くなる。このため、歪補償係数がIdqドリフトに対応した値に収束するまでの間に送信信号を増幅器18で増幅すると、歪補償係数が収束するまでの間、歪んだ送信信号が無線送信される。
【0058】
これに対し、図2のRFスイッチ16は、増幅装置の起動後、トレーニング信号が無線送信されないように方向性結合器15の出力を抵抗17に接続する。また、RFスイッチ24は、増幅装置の起動後、トレーニング信号が入力されるモニタ増幅器22から出力される信号をフィードバック信号として出力する。
【0059】
その後、RFスイッチ16は、送信信号が無線送信されるように、方向性結合器15の出力を増幅器18の入力に接続する。また、RFスイッチ24は、増幅器18から出力される信号をフィードバック信号として出力する。
【0060】
これにより、増幅器18が送信信号を増幅して出力するときには、モニタ増幅器22のフィードバック信号によって、Idqドリフトに対応した歪補償係数がLUT33に記憶されている。従って、増幅器18の歪補償係数の収束時間が短縮され、送信信号の歪の生じる時間が短縮される。
【0061】
図6は、Idqドリフトに対応した歪補償係数を説明する図である。図6の横軸は電力を示し、縦軸は歪補償係数を示している。
波形W31は、あるIdqドリフトDが生じたときに算出されるべき増幅器18の歪補償係数の例を示している。波形W32は、モニタ増幅器22にIdqドリフトDが生じたときの、モニタ増幅器22の歪補償係数の例を示している。
【0062】
図2の増幅装置の演算処理部32は、増幅装置の起動後、モニタ増幅器22の歪補償係数を算出する。モニタ増幅器22は、増幅器18と同様のIdqドリフトの特性を有している。従って、増幅装置の起動後、モニタ増幅器22にIdqドリフトが生じれば、増幅器18にも同様のIdqドリフトが生じている。よって、増幅装置の起動後、モニタ増幅器22にIdqドリフトが生じたときのモニタ増幅器22の歪補償係数は、例えば、波形W31,W32に示すように、増幅器18の歪補償係数に近いものとなる。
【0063】
これにより、送信信号の送信を開始する直前のLUT33に記憶されている歪補償係数と、送信開始後に算出される増幅器18の歪補償係数は、ずれが小さく、増幅器18の歪補償係数の収束時間が短くなる。よって、無線送信する送信信号の歪の生じる時間を短縮できる。
【0064】
なお、上記した増幅装置の電源のオン・オフは、例えば、増幅装置の故障等でアラームが発生したときに行われる。例えば、増幅装置でアラームが発生したとき、遠隔操作で増幅装置をオフする場合がある。その後、アラーム要因が解消されたとき、遠隔操作で増幅装置をオンする。
【0065】
図7は、増幅装置の動作を示したフローチャートである。増幅装置は、電源が投入されると以下のステップに示す処理を実行する。
[ステップS1]RFスイッチ制御部34は、RFスイッチ16,24のスイッチ制御をするための制御信号を出力する。
【0066】
[ステップS2]RFスイッチ16は、RFスイッチ制御部34からの制御信号を受けて、番号1の端子と番号2の端子とを接続するようにする。すなわち、RFスイッチ16は、方向性結合器15の出力を抵抗17に接続し、トレーニング信号が増幅器18に出力されないようにする。
【0067】
また、RFスイッチ24は、RFスイッチ制御部34からの制御信号を受けて、番号1の端子と番号2の端子とを接続するようにする。すなわち、RFスイッチ24は、ATT23の出力を乗算器26に接続し、モニタ増幅器22を経由したフィードバックループを形成する。
【0068】
[ステップS3]トレーニング信号生成部は、乗算器11にトレーニング信号を入力する。
[ステップS4]演算処理部32は、モニタ増幅器22を経由したフィードバックループによる歪補償係数を算出し、LUT33の歪補償係数を更新する。なお、モニタ増幅器22にIdqドリフトが生じていれば、LUT33には、Idqドリフトに応じた歪補償係数が記憶される。
【0069】
[ステップS5]RFスイッチ制御部34は、演算処理部32からLUT33の歪補償係数が収束したことの信号(LUT更新の完了信号)を受信する。
[ステップS6]RFスイッチ制御部34は、LUT更新の完了信号を受信すると、RFスイッチ16,24のスイッチ制御をするための制御信号を出力する。
【0070】
[ステップS7]RFスイッチ16は、RFスイッチ制御部34からの制御信号を受けて、番号1の端子と番号3の端子とを接続するようにする。すなわち、RFスイッチ16は、方向性結合器15の出力を増幅器18に接続し、送信信号が増幅器18で増幅されて、アンテナ20を介して無線送信されるようにする。
【0071】
また、RFスイッチ24は、RFスイッチ制御部34からの制御信号を受けて、番号1の端子と番号3の端子とを接続するようにする。すなわち、RFスイッチ24は、ATT21の出力を乗算器26に接続し、増幅器18を経由したフィードバックループを形成する。
【0072】
[ステップS8]トレーニング信号生成部は、トレーニング信号の生成を停止し、増幅装置は、上位装置から受信した無線送信する送信信号を乗算器11に出力する。
[ステップS9]演算処理部32は、増幅器18を経由したフィードバックループによる歪補償係数を算出し、LUT33の歪補償係数を更新する。
【0073】
このように、増幅装置のRFスイッチ16,24は、当該増幅装置の起動後、モニタ増幅器22から出力される信号を演算処理部32にフィードバックし、その後、増幅器18から出力される信号を演算処理部32にフィードバックするようにした。これにより、増幅装置は、起動後、Idqドリフトによって増幅器18の増幅特性に大きな変化が生じても、増幅する信号の歪の生じる時間を短縮することができる。
【0074】
また、増幅する信号の歪の生じる時間を短縮することにより、隣接チャネル漏洩電力の生じる時間を短縮できる。
なお、図2では、方向性結合器15でQMOD14から出力される信号を分離して、モニタ増幅器22に出力するようにしたが、RFスイッチ16でQMOD14から出力される信号をモニタ増幅器22に出力するようにしてもよい。
【0075】
例えば、図2において、方向性結合器15を外し、QMOD14の出力をRFスイッチ16の番号1の端子に接続する。また、抵抗17を外し、RFスイッチ16の番号2の端子を、モニタ増幅器22の入力に接続するようにする。なお、RFスイッチ16からモニタ増幅器22に出力される信号のレベルが高い場合、モニタ増幅器22に最適な信号レベルの信号が入力されるように調整する。
【符号の説明】
【0076】
1 処理部
2 増幅部
3 モニタ増幅部
4 切替え部
5 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信する信号を増幅する増幅装置において、
入力される信号とフィードバック信号とに基づいて歪補償係数を算出し、前記歪補償係数を用いて入力される信号に対し歪補償処理を行う処理部と、
前記処理部から出力される信号を増幅し、アンテナに出力する第1の増幅部と、
前記処理部から出力される信号を増幅する第2の増幅部と、
当該増幅装置の起動後前記第2の増幅部から出力される信号を前記処理部にフィードバックし、前記アンテナを介して送信信号を無線送信するときに前記第1の増幅部から出力される信号を前記処理部にフィードバックする切替え部と、
を有することを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
前記処理部には、当該増幅装置の起動後前記第2の増幅部の前記歪補償係数を算出するためのトレーニング信号が入力されることを特徴とする請求項1記載の増幅装置。
【請求項3】
当該増幅装置の起動後前記処理部から出力される前記トレーニング信号が前記第1の増幅部に出力されないようにする出力制御部を有することを特徴とする請求項2記載の増幅装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記歪補償係数を記憶する記憶部の前記歪補償係数を更新し、
前記切替え部は、当該増幅装置の起動後前記記憶部の前記歪補償係数が収束し送信信号を無線送信するときに前記第1の増幅部から出力される信号を前記処理部にフィードバックすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の増幅装置。
【請求項5】
前記第2の増幅部は、前記第1の増幅部と同様のドリフト特性を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−74595(P2013−74595A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214233(P2011−214233)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】