説明

外導体端子

【課題】内面に網目状ローレット溝が形成された圧着片を有する外導体端子の生産性を向上させることができる外導体端子を提供すること。
【解決手段】シールドコネクタ1が備える外導体端子4には、シールドケーブルW端末部分のシースWeの皮剥ぎにより露出されたシールド導体Wd上にカシメ加工される一対のシールド導体圧着片6,7が設けられ、これらシールド導体圧着片6,7は一方のシールド導体圧着片6の上に他方のシール導体圧着片7が重ね合わせるようにカシメ加工される。これら一対のシールド導体圧着片6,7の内面には、網目状ローレット溝10が形成されると共に、他方のシールド導体圧着片7の内面のうち一方のシールド導体圧着片6と重ね合わされる部分には、網目状ローレット溝10が形成されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のワイヤーハーネスに関し、更に詳しくは同軸ケーブルなどのシールドケーブルに接続されるシールドコネクタが備える外導体端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーナビゲーションシステム等の自動車の電気装置に内蔵される電子部品やIC(集積回路)等が実装された制御用のプリント基板へ伝送される電気信号は高速化(高周波化)され、また、そのプリント基板の基板パターンも密集し高密度化されてきている。一般的に、このような高周波の電気信号を伝送するために高周波対応のシールドケーブルが用いられるが、伝送される電気信号の高周波化に伴って、このシールドケーブルの端末部分に接続されるシールドコネクタにも高周波対応小型化の要求が高まっている。
【0003】
シールドケーブルの構造として、例えばいわゆる同軸ケーブル呼ばれるシールドケーブルは通常、電気信号等の伝送路として金属製の複数の素線を束ねた芯線とその外周を覆う絶縁体とからなる信号線の外周を同じく複数の素線を編んだ編組線よりなるシールド導体で覆い、更にそのシールド導体の外周を絶縁性のシースで覆った同軸の構造になっており、シールド導体が芯線の外周を隙間なく覆うことで電磁的にシールドしている。
【0004】
一般的に、このような高周波信号を伝送するシールドケーブルの端末部分に接続されるシールドコネクタには、高周波信号を伝達する芯線と接続される内導体端子と、編組線などのシールド導体と接続されると共にその内導体端子の外周を覆って電磁的にシールドするための外導体端子と、これら内導体端子と外導体端子の間に設けられる所定の誘電率を有する誘電体とが備えられており、シールドケーブルの芯線とシールド導体にそれぞれ個別に電気的に接続される。
【0005】
従来のシールドコネクタとしては、例えば下記特許文献1に開示されているようなものがある。このタイプのシールドコネクタにおける同軸ケーブルの絶縁体とシースが剥ぎ取られて芯線及びシールド導体が露出した部分への接続は、先ず剥き出しになった芯線にコネクタの内導体端子の圧着部を圧着接続する。その後、コネクタの外導体端子内に予め収容して組み付けられた誘電体に先の内導体端子を押し込んで固定すると共に、シールド導体を外導体端子の圧着部上に載置する。そして外導体端子の圧着部にてシールド導体とシースにカシメ加工を施すことで完了する。
【0006】
この特許文献1の外導体端子が備えるシールド導体圧着片とシース圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されている。このシールド導体圧着片に形成された網目状ローレット溝の内部に編組線からなるシールド導体が入り込むことで、シールド導体とシールド導体圧着片との固着力が向上するようになっている。同様に、シース圧着片に形成された網目状ローレット溝の内部にシースが入り込むことで、シースとシース圧着片との固着力が向上するようになっている。通常、このような網目状ローレット溝は折り曲げ加工前の外導体端子へのプレス加工により形成されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−93173号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されるように圧着片の内面全部に網目状ローレット溝を形成すると、特に圧着片の先端等においてバリが発生する場合があり、このバリがシール導体やシースに傷を付けるという問題があった。また、網目状ローレット溝を形成するためのプレス加工用の金型費の増大や、プレス加工の際の生産性が悪いという問題があった。
【0009】
そこで本発明が解決する課題は、内面に網目状ローレット溝が形成された圧着片を有する外導体端子の生産性を向上させることができる外導体端子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、信号線の外側を覆うシールド導体と更にその外側を覆うシースを有するシールドケーブルの端末部分と接続されるシールドコネクタが備える外導体端子には、シールドケーブル端末部分のシースの皮剥ぎにより露出されたシールド導体上にカシメ加工される一対のシールド導体圧着片が設けられ、これらシールド導体圧着片は一方のシールド導体圧着片の上に他方のシール導体圧着片が重ね合わせるようにカシメ加工され、一対のシールド導体圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されると共に、他方のシールド導体圧着片の内面のうち一方のシールド導体圧着片と重ね合わされる部分には、網目状ローレット溝が形成されていないことを要旨とするものである。
【0011】
この場合、一方のシールド導体圧着片の先端の外面にはテーパ面が形成され、他方のシール導体圧着片の先端の内面にはテーパ面に沿ってスライドし得る逆テーパ面が形成されると共に、これらテーパ面位置のシール導体圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されていない構成にすると良い。
【0012】
また、更に、外導体端子にはシース上にカシメ加工される一対のシース圧着片が設けられ、これらシース圧着片は一方のシース圧着片の上に他方のシース圧着片が重ね合わせてカシメ加工され、一対のシース圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されると共に、他方のシース圧着片の内面のうち一方のシース圧着片と重ね合わされる部分には、網目状ローレット溝が形成されていない構成にすると良い。
【0013】
更に、一方のシース圧着片の先端の外面にはテーパ面が形成され、他方のシース圧着片の先端の内面にはテーパ面に沿ってスライドし得る逆テーパ面が形成されると共に、これらテーパ面位置のシース圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されていない構成にすると良い。
【発明の効果】
【0014】
上記構成を有する外導体端子によれば、シールドケーブル端末部分のシースの皮剥ぎにより露出されたシールド導体上に、一方のシールド導体圧着片の上に他方のシール導体圧着片が重ね合わせてカシメ加工されるそのシールド導体圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されると共に、他方のシールド導体圧着片の内面のうち一方のシールド導体圧着片と重ね合わされる部分には、網目状ローレット溝が形成されていない構成により、従来技術のようにシールド導体圧着片の内面全部に網目状ローレット溝を形成する場合と比べて、網目状ローレット溝が形成される面積が縮小される。したがって、シールド導体圧着片に網目状ローレット溝を形成するためのプレス加工用の金型費の増大を抑えると共に、プレス加工の際のプレス圧力を低減することができ、網目状ローレット溝の形状の安定化など生産性を向上させることができる。またシールド導体圧着片の先端等においてバリが発生することが抑制され、シール導体に傷が付いてしまうことが防止される。
【0015】
この場合、一方のシールド導体圧着片の先端の外面にはテーパ面が形成され、他方のシール導体圧着片の先端の内面にはそのテーパ面に沿ってスライドし得る逆テーパ面が形成されると共に、これらテーパ面位置のシール導体圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されていない構成にすれば、テーパ面が形成される部分の面積分だけ網目状ローレット溝が形成される面積が更に縮小される。また、シールド導体圧着片先端のテーパ面部分にも網目状ローレット溝が無い構成なので、カシメ加工の際に、シールド導体圧着片の先端のテーパ面同士が突き当たるときのスライド動作を引っ掛かり無くスムーズにさせることができ、カシメ加工の生産性が向上する。
【0016】
また、更に、外導体端子にはシース上にカシメ加工される一対のシース圧着片が設けられ、これらシース圧着片は一方のシース圧着片の上に他方のシース圧着片が重ね合わせてカシメ加工され、一対のシース圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されると共に、他方のシース圧着片の内面のうち一方のシース圧着片と重ね合わされる部分には、網目状ローレット溝が形成されていない構成にすれば、従来技術のようにシース圧着片の内面全部に網目状ローレット溝を形成する場合と比べて、網目状ローレット溝が形成される面積が縮小される。したがって、シース圧着片に網目状ローレット溝を形成するためのプレス加工用の金型費の増大を抑えると共に、プレス加工の際のプレス圧力を低減することができ、網目状ローレット溝の形状の安定化など生産性を向上させることができる。またシース圧着片の先端等においてバリが発生することが抑制され、シースに傷が付いてしまうことが防止される。
【0017】
更に、一方のシース圧着片の先端の外面にはテーパ面が形成され、他方のシース圧着片の先端の内面にはそのテーパ面に沿ってスライドし得る逆テーパ面が形成されると共に、これらテーパ面位置のシース圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されていない構成にすれば、テーパ面が形成される部分の面積分だけ網目状ローレット溝が形成される面積が縮小される。また、シース圧着片先端のテーパ面部分に網目状ローレット溝が無い構成なので、カシメ加工の際に、シース圧着片の先端のテーパ面同士が突き当たるときのスライド動作を引っ掛かり無くスムーズにさせることができ、カシメ加工の生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る外導体端子の実施の形態について図面を参照して説明する。尚、本実施形態に係る外導体端子として、芯線とその外周を覆う絶縁体とからなる信号線を1本有する同軸ケーブルに適用したものについて説明する。尚、以下の説明においては、図示しない相手側シールドコネクタとの嵌合接続側を前として説明する。
【0019】
図1は本発明に係る外導体端子を備えたシールドコネクタ1と同軸ケーブルWのカシメ加工前の外観斜視図を示している。図1(a)はシールドコネクタ1を右斜め後方から見た外観斜視図、図1(b)はシールドコネクタ1を左斜め後方から見た外観斜視図を示している。
【0020】
図示されるように同軸ケーブルWの端末部分に接続されるシールドコネクタ1は、内導体端子2、誘電体3、外導体端子4とで構成される。尚、同軸ケーブルWは、電気信号の伝送路として金属製の複数の素線を撚り束ねた芯線Waと同じく複数の素線を編んだ編組線よりなるシールド導体Wdとの間に絶縁体Wbが介在され、その外周を同じく絶縁性のシースWeで覆った同軸の構造になっている。
【0021】
内導体端子2は、上述した同軸ケーブルWの芯線Waに接続されて高周波信号を伝達するもので、いわゆるメス型と呼ばれる端子形状を有している。この内導体端子2を収容する誘電体3は、所定の誘電率を有する樹脂製の絶縁部材により形成されており、内導体端子2と外導体端子4の導体端子間を絶縁状態にする。図示されるように内導体端子2は、この誘電体3の後方から挿入されて固定される。
【0022】
外導体端子4は、導電性板材の折り曲げ加工により略筒状に形成されており、同軸ケーブルWのシールド導体Wdに接続されて内導体端子2を電磁的にシールドする。この導体端子4の筒状の本体部4a内には、誘電体3が収容可能になっている。そして、外導体端子4の本体部4aの後方には、カシメ加工が施される圧着部5が設けられている。この圧着部5には、上方に開いた一対のシールド導体圧着片6,7と、同じく上方に開いた一対のシース圧着片8,9が設けられている。
【0023】
図示されるようにシールド導体圧着片6,7は圧着部5の下部から上方に向かって延設された帯形状を有している。この場合、左のシールド導体圧着片6の中央には圧着片の長手方向に沿って開口された長孔6aが形成されている。また先端の内側の面にはV溝6bが形成されている。このように左のシールド導体圧着片6に長孔6aとV溝6bを形成することで、シールド導体圧着片6の屈曲に対する機械的強度が右のシールド導体圧着片7の屈曲に対する機械的強度よりも小さくされる。これによりカシメ加工の際に左のシールド導体圧着片6が右のシールド導体圧着片7と突き当たったときにシールド導体圧着片7の内側に折れ曲がるようになる。尚、シールド導体圧着片6に形成された長孔6aは、カシメ加工の際にシールド導体Wdがこの長孔6aに入り込むことで、シールド導体Wdとの固着力を向上させる機能も有している。
【0024】
また、シールド導体圧着片6の先端の外側の面にはテーパ面6cが形成されている。このテーパ面6cは、図4(a),(b)に示すようにカシメ加工の際にシールド導体圧着片7のテーパ面7aに沿ってスライドするためのものである。これによりカシメ加工の際に左のシールド導体圧着片6が右のシールド導体圧着片7と突き当たったときにシールド導体圧着片6が容易に内側に案内される。
【0025】
更に、右のシール導体圧着片7の先端の内側の面にはテーパ面7aが形成されている。このテーパ面7aは、図4(a),(b)に示すようにカシメ加工の際にシールド導体圧着片7がシールド導体圧着片6のテーパ面6cに沿ってスライドするためのものである。これによりカシメ加工の際にシールド導体圧着片7がシールド導体圧着片6に突き当たったときにシールド導体圧着片7が容易に外側に案内される。
【0026】
尚、シールド導体圧着片6,7の中央位置の圧着部5には、圧着片の長手方向に沿って開口された長孔5aが形成されている。カシメ加工の際にシールド導体Wdがこの長孔5aに入り込むことで、シールド導体Wdとの固着力が向上する。
【0027】
図示されるシース圧着片8,9は圧着部5の下部から上方に向かって延設された帯形状を有している。この場合、左のシース圧着片8の先端の内側の面にはテーパ面8aが形成されている。このテーパ面8aは、図5(a),(b)に示すようにカシメ加工の際にシース圧着片9のテーパ面9bに沿ってスライドするためのものである。これによりカシメ加工の際にシース圧着片8がシース圧着片9と突き当たったときにシース圧着片8が容易に外側に案内される。
【0028】
右のシース圧着片9の先端の内側の面にはV溝9aが形成されている。このように右のシールド導体圧着片9にV溝9aを形成することで、右のシース圧着片9の屈曲に対する機械的強度が左のシース圧着片の屈曲に対する機械的強度よりも小さくされる。これによりカシメ加工の際に右のシース圧着片9が左のシース圧着片8と突き当たったときにシース圧着片8の内側に折れ曲がるようになる。
【0029】
また、シース圧着片9の先端の外側の面にはテーパ面9bが形成されている。このテーパ面9bは、図5(a),(b)に示すようにカシメ加工の際にシース圧着片8のテーパ面8aに沿ってスライドするためのものである。これによりカシメ加工の際にシース圧着片9がシース圧着片8に突き当たったときにシース圧着片9が容易に内側に案内される。
【0030】
尚、シース圧着片8,9の中央位置の圧着部5には、圧着片の長手方向に沿って開口された長孔5bが形成されている。カシメ加工の際にシースWeがこの長孔5aに入り込むことで、シースWeとの固着力が向上する。
【0031】
このような構成のシールド導体圧着片6,7とシース圧着片8,9の内側の面にはそれぞれ網目状ローレット溝10,11が形成されている。
【0032】
図2(a)は、外導体端子4の折り曲げ加工前の展開状態の圧着部5を示しており、外導体端子4は、同軸ケーブルWへのカシメ加工が完了するまで図2(a)に示されるようなリードフレーム20に複数連結された連鎖状端子という状態となっており、カシメ加工後は連結部20aを切断して切り離される。尚、リードフレーム10に穿設された位置決め孔20bは、外導体端子4の折り曲げ加工や同軸ケーブルWへのカシメ加工時の順送りに用いられるものである。
【0033】
図示されるように、網目状ローレット溝10,11は、外導体端子4の軸方向に対して、一方向に所定の角度を有する右斜めの線状凹溝が平行に複数本配置された右斜め凹溝12aと、この右斜め凹溝12aと交叉し、外導体端子4の軸方向に対して、他方向に所定の角度を有する左斜めの線状凹溝が平行に複数本配置された左斜め凹溝12bとから構成されている。右斜め凹溝12aと左斜め凹溝12bとから形成される網目状ローレット溝の全体の形状は、図示されるようにひし形を多数配置した形状になっている。
【0034】
このような網目ローレット溝10,11は、溝の形状に対応した凸条が設けられた金型を用いて展開状態の圧着部5にプレス加工することで形成することができる。網目状ローレット溝10,11(右斜め凹溝12a及び左斜め凹溝12b)の断面形状は、図2(b)に示すように、凹溝の上側が広がるように側壁にテーパを有し、底が平らな底部を有する形状に形成されている。網目状ローレット溝10,11の深さや幅は、編組線からなるシールド導体Wdの素線が溝内に入り込むことが可能な大きさに形成されている。
【0035】
図示されるようにシールド導体圧着片7の内面のうち一方のシールド導体圧着片6と重ね合わされる重ね合わせ部7bには、網目状ローレット溝10が形成されていない。シールド導体圧着片6の内面のほぼ全面に形成された網目状ローレット溝10がシールド導体Wdと接触して固着力を向上させるのに対し、シールド導体圧着片7の重ね合わせ部7bは、後述する図3(b)及び図4(d)に示すように、下側に位置するシールド導体圧着片6の上に重なっている部分であるため、シールド導体Wdとは接触せず、固着力の向上には寄与してない。したがって、このような重ね合わせ部7bに網目ローレット溝10を形成しないことにより、シールド導体Wdとの固着力の減少を招くことなく、網目状ローレット溝の面積を縮小することができる。
【0036】
更に、シールド導体圧着片6の内面のうちテーパ面6cの裏側となっている部分にも、網目状ローレット溝10が形成されていない。このようなテーパ面6cは外面側へのプレス加工により形成されるため、そのプレス加工の際に内面側の網目状ローレット溝10が潰れてしまうことから、この部分に網目ローレット溝10が形成されている場合のようにシールド導体Wdと接触して固着力を向上させることならない。したがって、このようなテーパ面6cの裏側部分にも網目ローレット溝10を形成しないことにより、シールド導体Wdとの固着力の減少を招くことなく、網目状ローレット溝の面積を縮小することができる。
【0037】
また、図示されるようにシース圧着片8の内面のうち一方のシース圧着片9と重ね合わされる重ね合わせ部8bにも、網目状ローレット溝11が形成されていない。シース圧着片9の内面のほぼ全面に形成された網目状ローレット溝11がシースWeと接触して固着力を向上させるのに対し、シース圧着片8の重ね合わせ部8bは、後述する図3(b)及び図5(d)に示すように、下側に位置するシース圧着片9の上に重なっている部分であるため、シースWeとは接触せず、固着力の向上には寄与してない。したがって、このような重ね合わせ部8bに網目ローレット溝11を形成しないことにより、シースWeとの固着力の減少を招くことなく、網目状ローレット溝の面積を縮小することができる。
【0038】
更に、シース圧着片9の内面のうちテーパ面9bの裏側となっている部分にも、網目状ローレット溝11が形成されていない。このようなテーパ面9bは外面側へのプレス加工により形成されるため、そのプレス加工の際に内面側の網目状ローレット溝11が潰れてしまうことから、この部分に網目ローレット溝11が形成されている場合のようにシースWeと接触して固着力を向上させることにならない。したがって、このようなテーパ面9bの裏側部分にも網目ローレット溝11を形成しないことにより、シースWeとの固着力の減少を招くことなく、網目状ローレット溝の面積を縮小することができる。
【0039】
図3(a)は、シールド導体圧着片用クリンパ13とアンビル14及びシース圧着片用クリンパ15とアンビル16によるカシメ加工前の状態をシールドコネクタ1の前方から見た外観斜視図、図3(b)は図3(a)のカシメ加工後の状態のシールドコネクタ1の外観斜視図を示している。図示されるようにシールド導体圧着片6,7とシース圧着片8,9が設けられた圧着部5の上に、シールド導体WdとシースWeが所定長さ皮剥された同軸ケーブルWが載置される。シールド導体圧着片6,7とその上に載置されたシールド導体Wdの上方にはクリンパ13、シールド導体圧着片6,7の下方にはアンビル14が配置されている。また、シース圧着片8,9とその上に載置されたシースWeの上方にはクリンパ15、シース圧着片8,9の下方にはアンビル16が配置されている。
【0040】
図4は、図3のA−A断面におけるシールド導体圧着片6,7のカシメ加工の工程を順に示している。また、図5は、図3のB−B断面におけるシース圧着片8,9のカシメ加工の工程を順に示している。
【0041】
図4(a)に示されるように、シールド導体圧着片用クリンパ13は、高さの異なる山を2つ連ねたような左右非対称の型内壁面形状を有している。このクリンパ13には、左に深い窪み13a、中央付近に2つの窪みが繋がる突出部13b、その右に浅い窪み13cが形成されている。このようなクリンパ13によって、左右対をなすシールド導体圧着片6,7のそれぞれが屈曲するタイミングをずらされている。これにより、カシメ加工時にそれぞれの先端同士が突き当たってカシメ加工不良となってしまうことが防止されている。
【0042】
また、図5(a)に示されるように、シース圧着片用クリンパ15は、高さの異なる山を2つ連ねたような左右非対称の型内壁面形状を有している。このクリンパ15には、左に浅い窪み15a、中央付近に2つの窪みが繋がる突出部15b、その右に深い窪み15cが形成されている。このようなクリンパ15によって、左右対をなすシース圧着片8,9のそれぞれが屈曲するタイミングをずらされている。これにより、カシメ加工時にそれぞれの先端同士が突き当たってカシメ加工不良となってしまうことが防止されている。
【0043】
この場合図4(b)に示されるように、シールド導体圧着片6,7とその上に載置された同軸ケーブルWのシールド導体Wdの上方からクリンパ13が下降し、最初にクリンパ13の浅い窪み13cに、右のシールド導体圧着片6が接触し、浅い窪み13cに沿って内側に屈曲し始める。更にクリンパ13が下降を続けると、クリンパ13の深い窪み13aに左のシールド導体圧着片7が接触し、深い窪み13aに沿って内側に屈曲し始める。このとき、左のシールド導体圧着片7の先端の内側の面にはテーパ面7aが形成され、右のシール導体圧着片6の先端の外側の面にはテーパ面6cが形成されているので、それぞれの先端が突き当たった際には、シールド導体圧着片6が内側に案内され、シールド導体圧着片7が外側に案内される。
【0044】
一方、図5(b)に示されるように、シース圧着片8,9とその上に載置された同軸ケーブルWのシースWeの上方からクリンパ15が下降し、最初にクリンパ15の浅い窪み15aに、左のシース圧着片9が接触し、浅い窪み15aに沿って内側に屈曲し始める。更にクリンパ15が下降を続けると、クリンパ15の深い窪み15cに右のシース圧着片8が接触し、深い窪み15cに沿って内側に屈曲し始める。このとき、左のシース圧着片9の先端の外側の面にはテーパ面9bが形成され、右のシース圧着片8の先端の内側の面にはテーパ面8aが形成されているので、それぞれの先端が突き当たった際には、シース圧着片9が内側に案内され、シース圧着片8が外側に案内される。
【0045】
次に図4(c)に示されるように、先に屈曲を始めた右のシールド導体圧着片6の先端は、クリンパ13の中央付近にある突出部13bに案内されて下方に導かれる。更に、遅れて屈曲を始めた左のシールド導体圧着片7の先端は、右のシールド導体圧着片6の上に重なるように屈曲する。そして図4(d)に示されるように、右のシールド導体圧着片6の先端は左のシールド導体圧着片7の下側に、左のシールド導体圧着片7の先端は右のシールド導体圧着片6の上側に、それぞれ左右両方から均等に重なり合ってカシメ加工が完了する。
【0046】
一方、図5(c)に示されるように、先に屈曲を始めた左のシース圧着片9の先端は、クリンパ15の中央付近にある突出部13bに案内されて下方に導かれる。更に、遅れて屈曲を始めた右のシース圧着片8の先端は、左のシース圧着片9の上に重なるように屈曲する。そして図5(d)に示されるように、左のシース圧着片9の先端は右のシース圧着片8の下側に、右のシース圧着片8の先端はシース圧着片9の上側に、それぞれ左右両方から均等に重なり合ってカシメ加工が完了する。
【0047】
以上説明したように、従来技術のようなシールド導体圧着片6,7の内面全部に網目状ローレット溝10を形成する場合と比べて、重ね合わせ部7bの分だけ網目状ローレット溝が形成される面積が縮小されている。また、同様にシース圧着片8,9の内面全部に網目状ローレット溝11を形成する場合と比べて、重ね合わせ部8bの分だけ網目状ローレット溝が形成される面積が縮小されている。したがって、圧着片に網目状ローレット溝を形成するためのプレス加工用の金型費の増大を抑えると共に、プレス加工の際のプレス圧力を低減することができ、網目状ローレット溝の形状の安定化など生産性を向上させることができる。またシールド導体圧着片の先端等においてバリが発生することが抑制される。
【0048】
また、上述した実施例ではテーパ面6c,9bが形成される部分の面積分だけ網目状ローレット溝10,11が形成される面積が更に縮小されている。そして、このようにテーパ面6c,9bに対応する部分に網目状ローレット溝10,11を形成しないことにより、カシメ加工の際にシールド導体圧着片の先端テーパ面6c,7a同士及びシース圧着片の先端のテーパ面8a,9b同士が突き当たるときのスライド動作を引っ掛かり無くスムーズにさせることができ、カシメ加工の生産性が向上する。
【0049】
尚、上記実施例は本発明を何ら限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施することができる。例えば、実施例では芯線Waとその外周を覆う絶縁体Wbとからなる信号線を一本有する同軸ケーブルWに適用した例について説明したが、このような信号線を多数本有する多極シールドケーブルにも適用可能であり、信号線の数は限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る外導体端子を備えたシールドコネクタの外観斜視図を示しており、(a)はシールドコネクタを右斜め後方から見た外観斜視図、(b)はシールドコネクタを左斜め後方から見た外観斜視図を示している。
【図2】(a)は図1に示した外導体端子の折り曲げ加工前の展開状態の圧着部を示している。(b)は(a)に示した圧着部の内面に形成された網目状ローレット溝の断面形状を示している。
【図3】(a)はシールド導体圧着片用クリンパとアンビル及びシース圧着片用クリンパとアンビルによるカシメ加工前の状態をシールドコネクタの前方から見た外観斜視図、(b)は(a)のカシメ加工後の状態のシールドコネクタの外観斜視図を示している。
【図4】図3(a)のA−A線における断面を示しており、シールド導体圧着片によるカシメ加工の工程を順に示した図である。
【図5】図3(a)のB−B線のける断面を示しており、シース圧着片によるカシメ加工の工程を順に示した図である。
【符号の説明】
【0051】
1 シールドコネクタ
4 外導体端子
5 圧着部
6 シールド導体圧着片
6c テーパ面
7 シールド導体圧着片
7a テーパ面
7b 重ね合わせ部
8 シース圧着片
8a テーパ面
8b 重ね合わせ部
9 シース圧着片
9b テーパ面
10 網目状ローレット溝
11 網目状ローレット溝
W 同軸ケーブル
Wa 芯線
Wb 絶縁体
Wd シールド導体
We シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線の外側を覆うシールド導体と更にその外側を覆うシースを有するシールドケーブルの端末部分と接続されるシールドコネクタが備える外導体端子には、前記シールドケーブル端末部分の前記シースの皮剥ぎにより露出された前記シールド導体上にカシメ加工される一対のシールド導体圧着片が設けられ、これらシールド導体圧着片は一方のシールド導体圧着片の上に他方のシール導体圧着片が重ね合わせるようにカシメ加工され、前記一対のシールド導体圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されると共に、前記他方のシールド導体圧着片の内面のうち前記一方のシールド導体圧着片と重ね合わされる部分には、前記網目状ローレット溝が形成されていないことを特徴とする外導体端子。
【請求項2】
前記一方のシールド導体圧着片の先端の外面にはテーパ面が形成され、前記他方のシール導体圧着片の先端の内面には前記テーパ面に沿ってスライドし得る逆テーパ面が形成されると共に、これらテーパ面位置の前記シール導体圧着片の内面には、前記網目状ローレット溝が形成されていないことを特徴とする請求項1に記載の外導体端子。
【請求項3】
更に、前記外導体端子には前記シース上にカシメ加工される一対のシース圧着片が設けられ、これらシース圧着片は一方のシース圧着片の上に他方のシース圧着片が重ね合わせるようにカシメ加工され、前記一対のシース圧着片の内面には、網目状ローレット溝が形成されると共に、前記他方のシース圧着片の内面のうち前記一方のシース圧着片と重ね合わされる部分には、前記網目状ローレット溝が形成されていないことを特徴とする請求項1又は2に記載の外導体端子。
【請求項4】
前記一方のシース圧着片の先端の外面にはテーパ面が形成され、前記他方のシース圧着片の先端の内面には前記テーパ面に沿ってスライドし得る逆テーパ面が形成されると共に、これらテーパ面位置の前記シース圧着片の内面には、前記網目状ローレット溝が形成されていないことを特徴とする請求項3に記載の外導体端子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−287899(P2008−287899A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128876(P2007−128876)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】