説明

多孔性シリカ膜、それを有する積層基板、それらの製造方法およびエレクトロルミネッセンス素子

【課題】脆さや密着性が改善された多孔性シリカ膜および積層基板、それらの製造方法および信頼性と光取り出し効率に優れたエレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】屈折率が1.10〜1.35であり;表面凹凸の最大値が100nm以下であり;熱重量測定−質量スペクトル分析において、炭素数1〜4のアルコール類のうち少なくとも一種の物質のピークを、その物質の760mmHgにおける沸点よりも高温域で与える;多孔性シリカ膜により、上記課題を解決した。また、積層基板は、基板上に上記多孔性シリカ膜を形成して得ることができ、エレクトロルミネッセンス素子は、上記積層基板を有し、その積層基板上に透明電極、エレクトロルミネッセンス層および陰極をこの順で積層して得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性シリカ膜、それを有する積層基板、それらの製造方法およびエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の電子ディスプレイとして特に期待されているものの一つに、有機ELディスプレイがある。この有機ELディスプレイは、図1に示すように、少なくとも透明基板2、透明電極(陽極)3、エレクトロルミネッセンス層4および陰極5をこの順に積層したエレクトロルミネッセンス素子1を有する自発光型のディスプレイである。このエレクトロルミネッセンス素子は、陽極である透明電極3から注入された正孔と陰極5から注入された電子とがエレクトロルミネッセンス層4で再結合し、その再結合エネルギーによって発光中心が励起され、発光するという発光原理を有する。
【0003】
有機ELディスプレイにおいては、エレクトロルミネッセンス層4で発光した光が透明基板2側に効率的に取り出されることが好ましいが、図2に示すように、出射角の大きい光11は、透明基板2と空気7との界面で全反射し、透明基板2の内部を面方向に全反射しながら進む導波光12となる。この導波光12により、透明基板2から取り出される光取り出し効率(エレクトロルミネッセンス層4で発生した光がエレクトロルミネッセンス素子1の外部取り出される割合のこと。)は20%程度と低く、従来よりその改善が要請されている。
【0004】
こうした問題に対し、図3に示すように、透明基板2のエレクトロルミネッセンス層4側に低屈折率層6を設け、その低屈折率層6で出射角の大きい光11を屈折させて導波光の発生を低減し、光取り出し効率を向上させることが検討されている。例えば、下記特許文献1には、シリカエアロゲル膜技術により形成された屈折率1.01〜1.3の低屈折率層を有するエレクトロルミネッセンス素子が記載されている。
【0005】
また、下記非特許文献1には、ゾル−ゲル法により作製された多孔性シリカ膜を、エレクトロルミネッセンス素子の高効率光取り出し窓材として利用することが記載されている。そして、この多孔性シリカ膜は、屈折率1.196〜1.335の低屈折率層であり、表面凹凸の最大値が7nmであると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−278477号公報(段落番号0010〜0012)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アルバック社技報(Ulvac Technical Journal)、57号、2002年9月発行、34頁〜36頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載の低屈折率層は、二酸化炭素等の揮発性超臨界液体をシリカと相分離させ、次いで蒸発させる方法により製造されるため、その低屈折率層内に粗大な孔が多数存在し、その低屈折率層の膜表面においても凹凸の最大値がおよそ400nmを超える形態となっている。こうした表面凹凸を持つ低屈折率層上に陽極をなす透明電極を形成した場合、その透明電極の表面形態は低屈折率層の表面凹凸に大きく影響されるため、透明電極に突起や陥没が生じ、その結果、エレクトロルミネッセンス層を挟んで対向する陰極との間でショート等が起こり、エレクトロルミネッセンス素子の品質を低下させるという問題があった。
【0009】
一方、非特許文献1に記載の多孔性シリカ膜は、表面凹凸の最大値が小さくその表面凹凸に基づく品質低下の問題は起こらないが、その製法上、高温(通常500℃以上)で焼成して得られているので、得られた膜が固くて脆いという欠点があった。また、基板との密着性が要求される場合においては、十分な密着性が得られないという問題、さらにある程度密着したとしても、製膜過程での体積変化(熱膨張・収縮や体積収縮など)により割れやすいという問題もあった。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、第1の目的は、脆さが改善され且つ他の積層材料に上述したような悪影響を及ぼさない低屈折率の多孔性シリカ膜を提供することにあり、第2の目的は、他の積層材料に上述したような悪影響を及ぼさず且つ基板との密着性がよく割れが生じにくい多孔性シリカ膜を有する積層基板を提供することにあり、第3の目的は、前述した多孔性シリカ膜および積層基板の製造方法を提供することにあり、第4の目的は、信頼性を損なうショートの発生等が少なく、光取り出し効率のよいエレクトロルミネッセンス素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行っている過程で、ガラス基板等の基板上にアルコキシシラン類の加水分解反応および脱水縮合反応(以下、加水分解縮合反応またはゾル−ゲル法と略すことがある。)を利用して低屈折率の多孔性シリカ膜を形成する際に、n−ブタノール等の比較的低い親水性を有する有機化合物(この有機化合物を、親水性有機化合物という。)を含有させた含水有機溶液を用いて膜を形成した後、低級アルコール等の水溶性有機溶媒でその膜を洗浄したところ、膜中の親水性有機化合物が抽出されることにより、膜中に所望の空孔構造が形成された低屈折率の多孔性シリカ膜を形成できることを見出すと共に、その表面が極めて平滑であることも見出し、本発明に到達した。
【0012】
記目的を達成するための多孔性シリカ膜および積層基板の製造方法は以下の通りである。
【0013】
明に係る多孔性シリカ膜の製造方法は、加水分解反応および脱水縮合反応を起こすアルコキシシラン類を主体とした原料化合物を含む、含水有機溶液から一次膜を形成する工程、前記一次膜を形成する含水有機溶液が加水分解反応および脱水縮合反応を起こして中間体膜が形成される工程、前記中間体膜を前乾燥する工程、前乾燥後の中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させる工程、水溶性有機溶媒と接触した中間体膜を後乾燥する工程、および、後乾燥後の中間体膜をさらに加水分解縮合反応を促進して多孔性シリカ膜を形成する工程、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る多孔性シリカ膜の製造方法においては、前記含水有機溶液に、沸点80℃以上の親水性有機化合物を含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係る多孔性シリカ膜の製造方法においては、(ア)前記含水有機溶液において、有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の合計量に対する沸点80℃以上の親水性有機化合物の割合が90重量%以下であることを特徴とし、または、(イ)含水有機溶液における有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の重量比が5/5〜2/8であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る多孔性シリカ膜の製造方法においては、沸点80℃以上の親水性有機化合物の比誘電率が20以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る多孔性シリカ膜の製造方法においては、含水有機溶液に含まれる有機溶媒の比誘電率が23以上であることが好ましい。
【0018】
発明の積層基板の製造方法は、上述した本発明に係る多孔性シリカ膜の製造方法において、前記含水有機溶液を基板上に塗布して一次膜を形成したことを特徴とする。このとき、前記基板が透明であることが好ましい。
【0019】
述した本発明に係る多孔性シリカ膜の製造方法によれば、中間体膜を形成した後に、前乾燥→水溶性有機溶媒との接触→後乾燥→高温乾燥の順に処理することにより、上述した本発明に係る多孔性シリカ膜を形成できる。また、上述した積層基板の製造方法によれば、上述した優れた特性を有する本発明の積層基板を製造することができ、この方法で製造された積層基板をエレクトロルミネッセンス素子用として好ましく適用できる。
【発明の効果】
【0020】
発明の多孔性シリカ膜によれば、従来の多孔性シリカ膜とは異なりその脆さが改善されており、さらに得られた膜は、低屈折率でしかも表面凹凸の最大値が100nm以下であるので、例えばこの多孔性シリカ膜をエレクトロルミネッセンス素子用の低屈折率層として使用した場合、導波光の発生を低減して光取り出し効率を向上させることができ、さらにその低屈折率層上に透明電極を形成してもその透明電極に突起や陥没が生じるのを防ぐことができる。
【0021】
また本発明の積層基板によれば、上記効果を有する多孔性シリカ膜が基板上に形成されているので、例えばこの積層基板をエレクトロルミネッセンス素子に適用した場合、多孔性シリカ膜と基板との密着性に優れ、導波光の発生を低減して光取り出し効率を向上させることができ、さらにその低屈折率層上に透明電極を積載してもその透明電極に突起や陥没が生じない積層基板とすることができる。その結果、本発明の積層基板を、信頼性に優れたエレクトロルミネッセンス素子用に好ましく適用できる。
【0022】
本発明の多孔性シリカ膜の製造方法によれば、原料液である含水有機溶液に親水性有機化合物を含有させ、その親水性有機化合物を水溶性有機溶媒で抽出するという、極めて簡便な手段を付加するだけで形成することができるという利点がある。また、中間体膜を形成した後に、前乾燥→水溶性有機溶媒との接触→後乾燥→高温乾燥の順に処理することにより、上述した優れた特性を有する多孔性シリカ膜を形成できる。さらに、本発明の積層基板の製造方法によれば、原材料の塗布、薬品による表面処理、乾燥など、生産性に優れる簡便な工程のみで多孔性シリカ膜を有する積層基板を製造することができる。
【0023】
また、本発明の積層基板およびエレクトロルミネッセンス素子によれば、残存有機成分が少ないので、特にエレクトロルミネッセンス素子に使用した場合に、経時変化が少なく安定性に優れたものとなると共に、光取り出し効率のよいエレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】エレクトロルミネッセンス素子構造の一例を示す断面図である。
【図2】低屈折率層を有さないエレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【図3】低屈折率層を有するエレクトロルミネッセンス素子の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(1)多孔性シリカ膜およびそれを有する積層基板
本発明の多孔性シリカ膜は、屈折率が1.10〜1.35であり、表面凹凸の最大値が100nm以下であり、熱重量測定−質量スペクトル分析において、炭素数1〜4のアルコール類のうち少なくとも一種の物質のピークをその物質の760mmHgにおける沸点よりも高温域で与えることに特徴がある。また、本発明の積層基板は、図3に示すように、基板2上に本発明に係る多孔性シリカ膜6を有するものである。
【0026】
(多孔性シリカ膜)
本発明の多孔性シリカ膜は、その屈折率が1.10〜1.35である。この屈折率は、ASTM D−542に基づき、エリプソメーターによる測定で決定される全深さ方向の平均屈折率であり、23℃でのナトリウムD線(589.3nm)に対する値で表される。多孔性シリカ膜は、その空隙率が高いほど屈折率が小さくなるので、屈折率を小さくするほど導波光の発生を抑制して光取り出し効率を向上させることができるが、屈折率が1.10未満では、空隙率が高いために機械的強度が不足することがある。こうした点を考慮した場合、屈折率の好ましい下限値は1.13、更に好ましくは1.15である。一方、屈折率が1.35を超えると、導波光の発生を十分に抑制できなくなることがある。こうした点を考慮した場合、屈折率の好ましい上限値は1.30、更に好ましくは1.27である。
【0027】
上述した屈折率を有するシリカ膜は1〜50nmの平均空孔径を有しており、光透過率と膜の機械的強度の観点から、平均空孔径の上限値が40nmであることが好ましく、30nmであることがより好ましく、20nmであることが最も好ましい。一方、平均空孔径の下限値は、光透過率と屈折率の観点から、2nmであることが好ましく、3nmであることがより好ましい。平均空孔径が1nm未満では、屈折率が大きくなって導波光の発生を抑制することができず、光取り出し効率を十分に向上させることができない。平均空孔径は、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像の解析により評価される。
【0028】
本発明の多孔性シリカ膜の空孔の形状に特に制限はなく、可能な形状としては独立気泡、トンネル状、独立気泡が連通した連通孔などが例示できるが、屈折率と機械的強度の点で好ましいのは、独立気泡が連通した連通孔である。トンネル状や独立気泡が連通した連通孔の場合における平均空孔径は、それらの幅の平均値として定義される。
【0029】
多孔性シリカ膜は、その表面の凹凸の最大値が100nm以下であり、好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下である。なお、表面凹凸の最大値の下限値は、現実的には10nm程度である。表面の凹凸は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される。具体的には、与えられた多孔性シリカ膜表面の任意の5カ所を選び、その100μm四方の領域をAFMで観察して評価する。また、表面凹凸の最大値は、SEMによる断面の電子像写真を解析することによっても決定することができる。この場合は、電子線の加速電圧5kV、観察倍率1000倍〜10000倍の電子顕微鏡写真を撮り、その断面の山頂部と谷底部との差で決定することができる。なお、SEM観察試料としては、この多孔性シリカ膜を基板上に形成した際の積層基板を試料として用い、その試料を液体窒素で冷却して脆化させた状態で機械的衝撃を加え、そのときの脆性破壊面を用いた。この脆性破壊面には、試料表面の導電性を向上させる目的で一般に行われている金属や炭素等の導電性物質の薄膜を蒸着等しないものを試料とした。
【0030】
また、この多孔性シリカ膜の表面では、原子間力顕微鏡による表面形状観察で直径が1〜300nmの粒状構造が観察される。さらに、この多孔性シリカ膜の空孔率は、測定光の波長範囲が250〜850nmの分光エリプソメトリーによって測定した結果、30〜80%であることが確認されている。
【0031】
本発明の多孔性シリカ膜は、酸化ケイ素(SiO)組成を主体とするものである。なお、このシリカ膜には、例えばゾル−ゲル法によるシリカ合成において有機シラン類を共重合するなどの方法でシリカ組成の一部にケイ素原子−炭素原子結合が存在してSiOx組成(但し、xは0を超え2未満の正数である)となるものも含まれる。
【0032】
このシリカ膜には、陽性元素を含む任意の化学組成(付加組成と略すことがある。)が含有されていてもよい。例えば、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化鉛等の遷移金属酸化物組成;酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム等の酸化アルカリ金属組成;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等の酸化アルカリ土類金属組成;酸化ホウ素組成;酸化アルミニウム組成;等を挙げることができる。この他、カルコゲナイドガラス組成、フッ化ガラス組成等の公知の無機ガラス組成も挙げることができる。
【0033】
シリカ膜を構成する酸化ケイ素組成は、ケイ素を含む全ての陽性元素に対するケイ素の割合が50〜100モル%となる割合で含有される。このケイ素の含有割合が50モル%未満では、多孔性シリカ膜の屈折率が極端に大きくなったり、多孔性シリカ膜の機械的強度が極端に低下することがある。好ましい下限値としては、70モル%、更に好ましくは80モル%、最も好ましくは90モル%であり、ケイ素の含有割合が高いほど良質の多孔性シリカ膜が形成される。
【0034】
こうした組成の多孔性シリカ膜の化学組成は、機械的に掻き取った試料を熱重量測定−質量スペクトル(TG−MS)分析することによって特定することができる。本発明の多孔性シリカ膜は、TG−MS分析により、炭素数1〜4のアルコール類のうち少なくとも一種の物質のピークが、その物質の760mmHgにおける沸点よりも高温域で与えられるものとして特定される。
【0035】
こうして特定される多孔性シリカ膜は、脆さが低減されて機械的性質が改善され、その多孔性シリカ膜を製膜する際の下地基板となる基板への密着性にも優れている。この理由については現時点では明らかではないが、多孔性シリカ膜に残存する炭素数1〜4のアルコキシ基及び/又はアルコール類が、多孔性シリカ膜に適度の機械的強度と基板への密着性をもたらしていると考えられる。このとき、アルコール類がメタノールまたはエタノールであることが好ましい。TG−MS分析において、炭素数1〜4の低級アルコール類のピークが、その物質の760mmHgにおける沸点よりも高温域で出現する理由は、本発明の多孔性シリカ膜の空孔径が均一且つ非常に小さいため、その低級アルコール類の分子が多孔性シリカ膜の外に脱出するためには通常よりも大きなエネルギーを要するため、あるいは、炭素数1〜4のアルコール類が存在し、これと多孔性シリカ膜との間に水素結合などの何らかの相互作用が働いているためではないかと推察される。こうした現象は、本発明の多孔性シリカ膜の優れた特性(例えば、光線透過率や機械的強度など)と密接に相関していると考えられる。
【0036】
多孔性シリカ膜中の全炭素濃度は、0.1〜10重量%(質量%と同義。)であることが望ましい。全炭素濃度が10重量%を超えると、有機物が実質的に残存していることになるので、残存する有機物の放出が経時的に起こり、例えばエレクトロルミネッセンス素子等に利用された場合には発光特性の経時的安定性が悪化する。一方、全炭素濃度が0.1重量%未満の場合は、多孔性シリカ膜の機械的強度が極端に低下することがある。多孔性シリカ膜の全炭素濃度の上限値は、好ましくは8重量%、更に好ましくは5重量%であり、下限値は、好ましくは0.2重量%、更に好ましくは0.3重量%である。多孔性シリカ膜の全炭素濃度は、市販の全炭素濃度測定装置(例えば、島津製作所製のTOC5000など)を用い、多孔性シリカ膜の試験試料を1450℃に加熱した際に発生するガス中の炭素量を分析して決定される。
【0037】
(多孔性シリカ膜を有する積層基板)
本発明の積層基板は、基板2上に本発明に係る多孔性シリカ膜6を有するものである。多孔性シリカ膜については上述したとおりである。
【0038】
本発明の積層基板を、例えばエレクトロルミネッセンス素子に用いる場合、透明であることが好ましく、積層基板を構成する基板としては、その屈折率が1.4〜1.9、好ましくは1.45〜1.70、更に好ましくは1.47〜1.65、最も好ましくは1.48〜1.60の範囲のものが用いられる。この屈折率は、ASTM D−542に基づき、エリプソメーターによる測定で決定される全深さ方向の平均屈折率であり、23℃でのナトリウムD線(589.3nm)に対する値で表される。こうした屈折率を有する基板としては、汎用材料からなる透明基板を用いることができる。例えば、BK7、SF11、LaSFN9、BaK1、F2等の各種ショットガラス、合成フューズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、サファイヤ、ソーダガラス、無アルカリガラス等のガラス、ポリメチルメタクリレートや架橋アクリレート等のアクリル樹脂、ビスフェノールAポリカーボネート等の芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン等のスチレン樹脂、ポリシクロオレフィン等の非晶性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂を挙げることができる。これらのうち、BK7、BaK1等のショットガラス、合成フューズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、非晶性ポリオレフィン樹脂が好ましく、BK7のショットガラス、合成フューズドシリカガラス、光学クラウンガラス、低膨張ボロシリケートガラス、ソーダガラス、無アルカリガラス、アクリル樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
【0039】
本発明の積層基板において、基板の厚さは、通常、0.1〜10mmである。なお、基板の厚さの下限値としては、機械的強度とガスバリヤ性の観点から、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。一方、基板の厚さの上限値としては、軽量性と光線透過率の観点から、5mmが好ましく、3mmがより好ましい。
【0040】
基板の透過率については、後述する多孔性シリカ膜と併せた積層基板の透過率で測定した場合に、積層基板の透過率が、ナトリウムD線波長(589.3nm)において80%以上となることが好ましく、85%以上となることがより好ましく、90%以上となることが更に好ましい。
【0041】
(多孔性シリカ膜および積層基板の製造方法)
多孔性シリカ膜は、以下の工程により形成される。(ア)多孔性シリカ膜形成用の原料液を準備する工程、(イ)その原料液から一次膜を形成する工程、(ウ)形成された一次膜が高分子量化して中間体膜が形成される工程、(エ)中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させて多孔性シリカ膜を形成する工程、(オ)多孔性シリカ膜を洗浄する工程、(カ)多孔性シリカ膜を乾燥する工程、(キ)シリル化工程。以下、各工程について説明する。
【0042】
(ア)多孔性シリカ膜形成用の原料液を準備する工程;
多孔性シリカ膜形成用の原料液は、アルコキシシラン類を主体とするものであり、加水分解反応および脱水縮合反応により高分子量化を起こすことができる原料化合物を含む含水有機溶液である。
【0043】
原料液である含水有機溶液は、アルコキシシラン類、親水性有機溶媒、水、および、必要に応じて加えられる触媒を含有する。
【0044】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等のテトラアルコキシシラン類、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン類、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,3,5−トリス(トリメトキシシリル)ベンゼン等の有機残基が2つ以上のトリアルコキシシリル基を結合したもの、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシランなどのケイ素原子に置換するアルキル基が反応性官能基を有するものが挙げられ、更にこれらの部分加水分解物やオリゴマーであってもよい。
【0045】
これらの中でも特に好ましいのが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラメトキシシラン若しくはテトラエトキシシランのオリゴマーである。特に、テトラメトキシシランのオリゴマーは、反応性とゲル化の制御性から最も好ましく用いられる。
【0046】
さらに、前記アルコキシシラン類には、ケイ素原子上に2〜3個の水素、アルキル基又はアリール基を持つモノアルコキシシラン類を混合することも可能である。モノアルコキシシラン類を混合することにより、得られる多孔性シリカ膜を疎水化して耐水性を向上させることができる。モノアルコキシシラン類としては、例えば、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルエトキシシラン、等が挙げられる。モノアルコキシシラン類の混合量は、全アルコキシシラン類の70モル%以下となるようにすることが望ましい。その混合量が70モル%を超えると、ゲル化しない場合がある。
【0047】
また、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類を併用すると、優れた耐水性、耐湿性、耐汚染性等が得られる場合がある。
【0048】
この原料液において、オリゴマーとは、架橋、カゴ型分子(シルセスキオキサンなど)でもよい。実用的には、含水有機溶液が含む縮合物の程度の上限として、溶液の透明性が、例えば波長400nm、23℃、光路長10mmの光線透過率として、90〜100%の範囲のものが好ましく用いられる。溶液の光線透過率の下限値は、好ましくは92%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0049】
なお、上記した原料液を塗布する際には、すでにある程度の高分子量化(つまり縮合がある程度進んだ状態)が達成されていることが必要であり、その高分子量化の程度としては、見た目に不溶物ができない程度の高分子量化が達成されていることが好ましい。その理由としては、塗布前の原料液中に目視可能な不溶物が存在していると、大きな表面凹凸が確実にでき膜質を低下させてしまうからである。
【0050】
有機溶媒は、原料液を構成するアルコキシシラン類、水、および後述する、沸点80℃以上の親水性有機化合物を混和させる能力を持つものが好ましく用いられる。使用可能な有機溶媒としては、炭素数1〜4の一価アルコール、炭素数1〜4の二価アルコール、グリセリンやペンタエリスリトールなどの多価アルコール等のアルコール類;ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等、前記アルコール類のエーテルまたはエステル化物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−ホルミルモルホリン、N−アセチルモルホリン、N−ホルミルピペリジン、N−アセチルピペリジン、N−ホルミルピロリジン、N−アセチルピロリジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジホルミルピペラジン、N,N’−ジアセチルピペラジンなどのアミド類;γ−ブチロラクトンのようなラクトン類;テトラメチルウレア、N,N’−ジメチルイミダゾリジンなどのウレア類;ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらの水溶性有機溶媒を、単独または混合物として用いてもよい。この中で、基板への成膜性(特に、揮発性)の点で好ましい有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、炭素数1〜4の一価アルコールなどが挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトンが更に好ましく、メタノールまたはエタノールが最も好ましい。
【0051】
沸点が80℃以上の親水性有機化合物とは、水酸基、カルボニル基、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、カルボキシル基、アミド結合、ウレタン結合、尿素結合等の親水性官能基を分子構造中に有する有機化合物のことである。この親水性有機化合物には、これらのうちの複数個の親水性官能基を分子構造中に有していてもよい。ここでいう沸点とは、760mmHgの圧力下での沸点である。沸点が80℃に満たない親水性有機化合物を用いた場合には、多孔性シリカ膜の空孔率が極端に減少することがある。沸点が80℃以上の親水性有機化合物としては、炭素数3〜8のアルコール類、炭素数2〜6の多価アルコール類、フェノール類を好ましく挙げることができる。より好ましい親水性有機化合物としては、炭素数3〜8のアルコール類、炭素数2〜8のジオール類、炭素数3〜8のトリオール類、炭素数4〜8のテトラオール類が挙げられる。更に好ましい親水性有機化合物としては、n−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等の炭素数4〜7のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の炭素数2〜4のジオール類、グリセロールやトリスヒドロキシメチルエタン等の炭素数3〜6のトリオール類、エリスリトールやペンタエリストール等の炭素数4〜5のテトラオール類が挙げられる。この親水性有機化合物において、炭素数が大すぎると、親水性が低下しすぎる場合がある。
【0052】
触媒は、必要に応じて配合される。触媒としては、上述したアルコキシシラン類の加水分解および脱水縮合反応を促進させる物質を挙げることができる。具体例としては、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸などの酸類;アンモニア、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ピリジンなどの塩基類;アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類;などが挙げられる。
【0053】
触媒として用いる金属キレート化合物の金属種としては、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン等が挙げられる。具体的な金属キレート化合物としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0054】
アルミニウム錯体としては、ジ−エトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−イソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物等を挙げることができる。
【0055】
チタン錯体としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリイソプロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−tert−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−tert−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノイソプロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−tert−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタン等を挙げることができる。
【0056】
また、これらの触媒以外に、弱アルカリ性の化合物、例えばアンモニアなどの塩基性の触媒を使用してもよい。この際には、シリカ濃度調整、有機溶媒種等を適宜調整することが好ましい。また、含水有機溶液を調整する際には、溶液中の触媒濃度を急激に増加させないことが好ましい。具体例としては、アルコキシシラン類と有機溶媒の一部を混合し、次いでこれに水を混合し、最後に残余の有機溶媒、および塩基を混合するという順序にて混合する方法が挙げられる。
【0057】
特に、高揮発性で除去が容易な塩酸や、アルミニウムのアセチルアセトン錯体などのルイス酸類が好ましい。触媒の添加量は、アルコキシシラン類1モルに対して、通常0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.1モルである。触媒の添加量が1モルを超えると、粗大ゲル粒子からなる沈殿物が生成し、均一な多孔性シリカ膜が得られない場合がある。
【0058】
本発明の多孔性シリカ膜形成用の原料液は、上述した原料を配合して形成される。アルコキシシラン類の配合割合は、原料液全体に対して、10〜60重量%であることが好ましく、20〜40重量%であることがより好ましい。アルコキシシラン類の配合割合が60重量%を超える場合には、成膜時に多孔性シリカ膜が割れることがある。一方、アルコキシシラン類の配合割合が10重量%未満の場合は、加水分解反応および脱水縮合反応が極端に遅くなり、成膜性の悪化(膜ムラ)が起きることがある。
【0059】
水は、使用するアルコキシシラン類の重量の0.01〜10倍、好ましくは0.05〜7倍、更に好ましくは0.07〜5倍配合される。水の配合量がアルコキシシラン類の重量の0.01倍未満の場合には、加水分解縮合反応の進行度が不十分となり、膜が白濁することがある。一方、水の配合量がアルコキシシラン類の重量の10倍を超える場合には、原料液の表面張力が極端に大きくなり、成膜性が悪く(液のハジキ等)なることがある。
【0060】
水は、アルコキシシラン類の加水分解に必要であり、目的である多孔性シリカ膜の造膜性向上という観点から重要である。よって好ましい水の量をアルコキシド基量に対するモル比で規定すると、アルコキシシラン中のアルコキシド基1モルに対して0.1〜1.6モル倍量、中でも0.3〜1.2モル倍量、特に0.5〜0.7モル倍量であることが好ましい。
【0061】
水の添加はアルコキシシラン類を有機溶媒に溶解させた後であればいつでもよいが、望ましくはアルコキシシラン類、触媒およびその他の添加物を十分、溶媒に分散させた後、水を添加する方が最も好ましい。
【0062】
用いる水の純度は、イオン交換、蒸留、いずれか一方または両方の処理をしたものを用いればよい。本発明の多孔性シリカ膜を半導体材料や光学材料など、微小不純物を特に嫌う用途分野に用いる際には、より純度の高い多孔性シリカ膜が必要とされるため、蒸留水をさらにイオン交換した超純水を用いるのが望ましく、この際には例えば0.01〜0.5μmの孔径を有するフィルターを通した水を用いればよい。
【0063】
含水有機溶液に沸点80℃以上の親水性有機化合物を用いる際には、沸点80℃以上の親水性有機化合物の含有量が、有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の合計含有量に対して、特定量以下であることが重要である。この合計含有量に対する、沸点80℃以上の親水性有機化合物の含有量は90重量%以下であり、好ましくは85重量%以下である。
【0064】
沸点80℃以上の親水性有機化合物の配合割合が少なすぎると、多孔性シリカ膜の空孔率が極端小さくなり、多孔性シリカ膜の低屈折率化を達成することが困難な場合があるので、一般的には有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の合計含有量の30重量%以上、中でも50重量%以上、特に60重量%以上であることが好ましい。一方、親水性有機化合物の配合割合が該合計含有量の90重量%を超える場合には、成膜途中で塗膜が白濁したり、多孔性シリカ膜が割れることがある。よって含水有機溶液における沸点80℃以上の親水性有機化合物の含有量は、該合計含有量の30重量%以上90重量%以下、中でも50重量%以上85重量%以下、特に60重量%以上85重量%以下であることが好ましい。
【0065】
塗布液の調製における雰囲気温度や、混合順序は任意であるが、塗布液中での均一な構造形成を得るため、水は最後に混合するのが好ましい。また、塗布液中でのシリコンアルコキシドの極端な加水分解や縮合反応を抑えるため、塗布液の調整は0〜60℃、中でも15〜40℃、特に15〜30℃の温度範囲条件下で行うことが好ましい。
【0066】
調液時においては、塗布液の攪拌操作は任意であるが、混合毎にスターラーにより攪拌を行うのがより好ましい。
【0067】
さらに塗布液調整後、シリコンアルコキシド類を加水分解、脱水縮合反応を進行させるため、溶液の熟成をすることが好ましい。この熟成期間中においては、生成するシリコンアルコキシド類の加水分解縮合物が、塗布液内においてより均一に分散した状態であることが好ましいので、液を攪拌することが好ましい。
【0068】
熟成期間中の温度は任意であり、一般的には室温、若しくは連続的または断続的に加熱してもよい。中でも、シリコンアルコキシド類の加水分解縮合物による3次元ナノポーラス構造を形成させるために、急速な加熱熟成を行うことが好ましい。さらに、加熱熟成する際には、塗布液調整直後の加熱熟成が好ましく、塗布液調整後15日以内、更には12日以内、中でも3日以内、特に1日以内の加熱熟成開始が好ましい。
【0069】
具体的には、40〜70℃で1〜5時間の加速熟成が好ましく、その際、均一なポーラス構造を得るため、攪拌を行うことが好ましい。特に多孔化という観点では、60℃近傍の温度で2〜3時間の加速熟成が好ましい。
【0070】
原料液の粘度は、0.1〜1000センチポイズ、好ましくは0.5〜500センチポイズ、さらに好ましくは1〜100センチポイズであり、この範囲の粘度の原料液を用いることが製造上の観点から好ましい。
【0071】
(イ)原料液から一次膜を形成する工程;
一次膜は、原料液である含水有機溶液を基板上に塗布して形成される。基板としては、シリコン、ゲルマニウム等の半導体、ガリウム−砒素、インジウム−アンチモン等の化合物半導体、セラミックス、金属等の基板、さらにはガラス基板、合成樹脂基板等の透明基板等が挙げられる。
【0072】
本発明の多孔性シリカ膜を基板上に形成する際、基板表面の性質が多孔性シリカ膜の性質を左右する可能性がある。よって基板表面の洗浄だけではなく、場合によっては基板の表面処理を行ってもよい。基板表面洗浄としては、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸等の酸類、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ類、過酸化水素と濃硫酸、塩酸、アンモニア等の酸化性を有する混合液への浸漬処理が挙げられる。特に多孔性シリカ膜との密着性という観点からは、シリコン基板、透明ガラス基板に対して硫酸、硝酸等の酸類による表面処理を行うことがより好ましい。
【0073】
原料液を塗布する手段としては、原料液をバーコーター、アプリケーターまたはドクターブレードなどを使用して基板上に延ばす流延法、原料液に基板を浸漬し引き上げるディップ法、または、スピンコート法などの周知を挙げることができる。これらの手段のうち、流延法とスピンコート法が原料液を均一に塗布することができるので好ましく採用される。
【0074】
流延法で原料液を塗布する場合における流延速度は、0.1〜1000m/分、好ましくは0.5〜700m/分、更に好ましくは1〜500m/分である。
【0075】
スピンコート法で原料液を塗布形成する場における回転速度は、10〜100000回転/分、好ましくは50〜50000回転/分、更に好ましくは100〜10000回転/分である。
【0076】
ディップコート法においては、任意の速度で、基板を塗布液に浸漬し引き上げればよい。この際の引き上げ速度は0.01〜50mm/秒、中でも0.05〜30mm/秒、特に0.1〜20mm/秒の速度で引き上げるのが好ましい。基板を塗布液中に浸漬する速度に制限はないが、引き上げ速度と同程度の速度で基板を塗布液中に浸漬することが好ましい場合がある。基板を塗布液中に浸漬し引き上げるまでの間、適当な時間浸漬を継続してもよく、この継続時間は通常1秒〜48時間、好ましくは3秒〜24時間、更に好ましくは5秒〜12時間である。
【0077】
また、塗布中の雰囲気は、空気中又は窒素やアルゴン等の不活性気体中でもよく、温度は通常0〜60℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜40℃であり、雰囲気の相対湿度は通常5〜90%、好ましくは10〜80%、更に好ましくは15〜70%である。なお、ディップコート法ではスピンコート法に比べ、乾燥速度が遅いため、塗布後のゾルーゲル反応でより歪みの少ない安定な膜を形成する傾向にある。従って、基板の表面処理により好ましく膜構造を制御できる場合がある。
【0078】
成膜温度は、0〜100℃、好ましくは10〜80℃、更に好ましくは20〜70℃である。
【0079】
(ウ)塗布された膜が高分子量化されて中間体膜が形成される工程;
塗布された膜は高分子量化され、中間体膜が形成される。この反応はいわゆるゾル−ゲル法と呼ばれ、その素反応は、アルコキシシラン類の加水分解反応、その加水分解反応で生成するシラノール基同士の脱水縮合反応の二つの素反応からなる。
【0080】
加水分解反応は、水を添加することによって引き起こされるが、水は液体のまま、アルコール水溶液として、または、水蒸気として加えることができ特に限定されない。水の添加を急激に行うと、アルコキシシランの種類によっては加水分解反応と脱水縮合反応とが速く起こりすぎ、沈殿が生じることがある。そのため、そのような沈殿が起こらないように、水の添加に十分な時間をかけること、アルコール溶媒を共存させて水を均一に添加する状態にすること、水を低温で添加して添加時の反応を抑制すること、等の手段を単独でまたは組み合わせて用いることが好ましい。
【0081】
ゾル−ゲル法によるアルコキシシラン類の加水分解縮合反応が進行すると、アルコキシシラン類の縮合物が徐々に高分子量化する。加水分解縮合反応においては、相平衡の変化に起因すると考えられる相分離が起こる場合があるが、本発明においては、原料液の組成、使用するアルコキシシラン類および沸点80℃以上の親水性有機化合物の親水性の程度の兼ね合いにより、相分離がナノメートルスケールで起こるように制御される。その結果、親水性有機化合物の分離相が、アルコキシシラン類縮合物のゲル網目の中に保持されたまま基板上に成膜され、中間体膜を構成する。
【0082】
このようなことから、沸点が80℃以上の親水性有機化合物の親水性の制御は重要であり、その親水性有機化合物を比誘電率で表すと、好ましくは10〜20、更に好ましくは13〜19と規定できる。
【0083】
こうした親水性の程度の兼ね合いの観点から、原料液である含水有機溶液が、比誘電率23以上の有機溶媒(具体的には、メタノール、エタノール等)を含有することが望ましい。特に、比誘電率が23以上の有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物との重量比(有機溶媒の重量/親水性有機化合物の重量)を5/5〜2/8の範囲にすると、更に望ましい相分離挙動を達成する。この重量比については、4/6〜2/8が最も好ましい。
【0084】
この中間体膜の形成に際しては、例えば基板上に塗布した塗布膜を前乾燥することで、薄膜中の溶媒濃度を低減し、シリカの一部縮合反応をさせることができる。これによって膜中の3次元ネットワーク構造を固定化、安定化を促させ、さらには表面の平滑性を得るのである。
【0085】
中間体膜の前乾燥は、加圧、減圧、常圧のいずれでもよく、温度にも制限はないが、前乾燥の効果は中間体膜内部にシリカヒドロゲル部および溶液部の2相を少なくとも有する相分離構造を形成させることにあると推定される。かかる相分離構造は、海島構造、棒状分散相および連続相からなる構造、ラメラ構造、連通孔および連続相からなる構造、IPN(Inter−penetrating network)やバイコンティニュアス(Bi−continuous)などと呼ばれる相互貫入構造など、任意の構造でよい。こうした相分離構造の形成のため、すなわちシリカの一部架橋反応を促進させるため、温度、湿度をコントロールすることが好ましい。具体的には、温度は通常0〜60℃、好ましくは10〜50℃、更に好ましくは20〜40℃であり、雰囲気の相対湿度は通常5〜95%、好ましくは10〜90%、更に好ましくは15〜80%、さらに最も好ましくは25〜60%である。また、前乾燥の時間は、通常30秒〜60分間、好ましくは1〜30分間である。
【0086】
(エ)中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させて多孔性シリカ膜を形成する工程(抽出工程);
中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させることにより、中間体膜中の上記親水性有機化合物が抽出除去されると共に、中間体膜中の水が除去される。中間体膜中に存在する水は、有機溶媒に溶けているだけでなく膜構成物質の内壁にも吸着しているので、中間体膜中の水を効果的に除去するためには、有機溶媒中の水の含有量をコントロールする。したがって、有機溶媒中の水の含有量は、0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%、更に好ましくは0〜3重量%である。脱水が十分に行われない場合には、その後に行われる膜の加熱または乾燥工程で空孔が崩壊して消滅または小さくなることがある。
【0087】
中間体膜中の親水性有機化合物の抽出除去手段としては、例えば、中間体膜を水溶性有機溶媒に浸漬すること、中間体膜の表面を水溶性有機溶媒で洗浄すること、中間体膜の表面に水溶性有機溶媒を噴霧すること、中間体膜の表面に水溶性有機溶媒の蒸気を吹き付けること等の手段を挙げることができる。これらのうち、浸漬手段と洗浄手段が好ましい。中間体膜と水溶性有機溶媒との接触時間は、1秒〜24時間の範囲で設定できるが、生産性の観点から、接触時間の上限値は、12時間が好ましく、6時間がより好ましい。一方、接触時間の下限値は、前記の沸点80℃以上の親水性有機化合物および水の除去が十分に行われることが必要であることから、10秒が好ましく、30秒がより好ましい。
【0088】
接触処理液としては、極性溶媒が好ましく、中でも一価アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類の1種類、又は2種類以上の親水性溶媒が好ましい。2種類以上の親水性溶媒を組み合わせる際は、混合して用いても、それぞれの溶媒で単独に処理して組み合わせることもできる。さらには、同種の接触処理液を繰り返し作用させることもできる。
【0089】
本発明の多孔性シリカ膜の多孔化という点においては、接触処理溶媒として、比誘電率が15以上であり、かつ沸点が300℃以下である水溶性有機溶媒が好ましく、具体的には、メタノール、エタノール等の一価アルコール類、エチレングリコール等の多価アルコール類、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類が好ましい。中でもメタノール、エタノール、イソ-プロパノール、n−ブタノール、1−ペンタノールなどの一価アルコールが好ましく、特に炭素数4以下の一価アルコールが好ましい。
【0090】
なお、この抽出工程の前、抽出工程の後または抽出工程と同時に、中間体膜を酸類または塩基類と接触させることもできる。こうすることにより、中間体膜の表層での、アルコキシシラン類の加水分解縮合反応を促進させることができる。その結果、中間体膜の表層は、非常に平滑かつ高硬度となるので好ましい。接触させる好ましい酸類としては、塩化水素、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の気化しやすい酸類が挙げられる。また、好ましい塩基類としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン等、分子構造中の炭素数が6以下のモノアミン類が挙げられる。
【0091】
中間体膜を酸類または塩基類と接触させる方法としては、酸類または塩基類の液体または溶液または蒸気が用いられる。また、抽出工程時で使用する上述した水溶性有機溶媒に酸類または塩基類を溶解し、抽出工程と同時に接触させることもできる。
【0092】
(オ)多孔性シリカ膜を洗浄する工程;
多孔性シリカ膜の形成工程の任意の時期に、多孔性シリカ膜の洗浄工程を加えてもよい。洗浄は、多孔性シリカ膜に洗浄液を噴霧したり、多孔性シリカ膜を洗浄液中に浸漬したり、多孔性シリカ膜上に洗浄液を流延したりして行われる。洗浄液としては、水、弱酸性水溶液、弱アルカリ性水溶液、炭素数1〜4のアルコール類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等の親水性エーテル類、酢酸メチルや酢酸エチル等の水に部分的に混和するエステル類等を挙げることができ、好ましい洗浄液としては水を挙げることができる。特に、前記酸類または塩基類との接触工程の後で、酸類または塩基類の除去を目的とする洗浄工程を加えることが好ましい。
【0093】
(カ)多孔性シリカ膜を乾燥する工程;
乾燥工程は、多孔性シリカ膜に残存する揮発成分を除去する目的及び/又はアルコキシシラン類の加水分解縮合反応を促進する目的で行われる。乾燥温度は、20〜500℃、好ましくは30〜400℃、更に好ましくは50〜350℃であり、乾燥時間は、1分〜50時間、好ましくは3分〜30時間、更に好ましくは5分〜15時間である。
【0094】
乾燥方式は、送風乾燥、減圧乾燥等の公知の方式で行うことができ、それらを組み合わせてもよい。なお、乾燥が強すぎて揮発成分を急激に除去すると多孔性シリカ膜に割れが発生するので、送風乾燥のような緩やかな乾燥方式が好ましい。送風乾燥の後は、揮発成分の十分な除去を目的とした減圧乾燥を追加することもできる。
【0095】
なお、歪みの少ないより安定な膜構造を形成するために、中間体膜の水溶性有機溶媒との接触工程の後、多孔性シリカ膜の乾燥を処理温度を変えて多段的に行う方法、つまり、まず低い温度条件下で乾燥(後乾燥)させ、次いで先述のような温度下で乾燥(高温乾燥)させる方法をとってもよい。
【0096】
後乾燥では、加圧、減圧、常圧のいずれの条件下で乾燥してもよい。乾燥温度は、前記前乾燥で生じた相分離構造におけるシリカヒドロゲル部に由来するシリカ骨格を変質させる温度未満で乾燥させることが好ましく、一般的には0〜100℃、中でも10〜70℃、特に15〜50℃が好ましく、乾燥時間は、通常30秒〜60分、好ましくは1分〜30分である。
【0097】
さらに、後乾燥においては、膜表面から膜深さ方向に対して膜厚の5%の範囲、好ましくは3%の範囲における領域の親水性溶媒含有量を30重量%以下としたのちに、高温乾燥を行うことが好ましい。これによって、膜構造変化を軽減して膜のワレやソリなどの変形を抑制可能である。
【0098】
高温乾燥は、多孔性シリカ膜内の不必要な溶媒、添加物の除去、さらには膜の硬化を目的とする。加熱乾燥は、例えばオーブン炉、真空乾燥機、ホットプレート等の装置を用いることができる。乾燥時間は、通常10秒〜48時間、好ましくは30秒〜24時間、更に好ましくは1分〜12時間であり、乾燥温度は、通常100〜370℃、好ましくは130〜350℃、更に好ましくは150〜320℃である。高温乾燥も加圧、減圧、常圧のいずれの条件下で乾燥してもよい。
【0099】
(キ)シリル化工程;
得られた多孔性シリカ膜をシリル化剤で処理することが好ましい。シリル化剤で処理することにより、多孔性シリカ膜に疎水性が付与され、アルカリ水などの不純物により空孔が汚染されるのを防ぐことができる。シリル化剤としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン類、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロソラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、メチルクロロジシラン、トリフェニルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、ジフェニルジクロロシランなどのクロロシラン類、ヘキサメチルジシラザン、N,N’−ビス(トリメチルシリル)ウレア、N−トリメチルシリルアセトアミド、ジメチルトリメチルシリルアミン、ジエチルトリエチルシリルアミン、トリメチルシリルイミダゾールなどのシラザン類、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類などが挙げられる。シリル化は、シリル化剤を多孔性シリカ膜に塗布したり、シリル化剤中に多孔性シリカ膜を浸漬したり、多孔性シリカ膜をシリル化剤の蒸気中に曝したりすることにより行うことができる。
【0100】
(エレクトロルミネッセンス素子)
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、図1に示すように、上述した積層基板を有し、その積層基板上に、少なくとも透明電極、エレクトロルミネッセンス層および陰極がこの順で積層されていることに特徴がある。
【0101】
特に、本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、表面凹凸の最大値が100nm以下という平滑な多孔性シリカ膜を有するので、その多孔性シリカ膜上に形成される透明電極の突起や陥没がなく、陽極との間でショート等が生じることがない。さらに、基板との密着性がよく割れが生じにくい多孔性シリカ膜を有する積層基板を有するので、光取り出し効率を向上させる作用を有する多孔性シリカ膜の脆さが改善されており、さらに低屈折率でしかも表面凹凸の最大値が100nm以下であるので、信頼性と光取り出し効率に優れた エレクトロルミネッセンス素子となる。
【0102】
(a)透明電極は、エレクトロルミネッセンス素子の陽極として作用する。透明電極としては、錫を添加した酸化インジウム(通称ITOと呼ばれている。)、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(通称AZOと呼ばれている。)等の複合酸化物薄膜が好ましく用いられる。特にITOであることが好ましい。
【0103】
透明電極は、蒸着やスパッタリング等の真空成膜プロセスにより形成される。形成された透明電極の可視光波長領域における光線透過率は大きいほど好ましく、例えば50〜99%である。好ましい下限値としては60%、更に好ましくは70%である。透明電極の電気抵抗は、面抵抗値として小さいほど好ましいが、通常1〜100Ω/□(=1cm)であり、その上限値は好ましくは70Ω/□、更に好ましくは50Ω/□である。また、透明電極の厚さは、上述した光線透過率および面抵抗値を満足する限りにおいて、通常0.01〜10μm、導電性の観点からその下限値は、0.03μmが好ましく、0.05μmが更に好ましい。一方、光線透過率の観点からその上限値は、1μmが好ましく、0.5μmが更に好ましい。こうした透明電極は、フォトリソグラフィ法等により、エレクトロルミネッセンス素子の電極として必要なパターンに形成される。
【0104】
(b)エレクトロルミネッセンス層は、電界が印加されることにより発光現象を示す物質により成膜されたものであり、その物質としては、付活酸化亜鉛ZnS:X(但し、Xは、Mn、Tb、Cu,Sm等の付活元素である。)、CaS:Eu、SrS:Ce,SrGa:Ce、CaGa:Ce、CaS:Pb、BaAl:Eu等の従来より使用されている無機EL物質、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体、芳香族アミン類、アントラセン単結晶等の低分子色素系の有機EL物質、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリビニルカルバゾールなどの共役高分子系の有機EL物質等、従来より使用されている有機EL物質を用いることができる。エレクトロルミネッセンス層の厚さは、通常0.01〜1μm、好ましくは0.03〜0.5μm、更に好ましくは0.05〜0.2μmである。エレクトロルミネッセンス層は、蒸着やスパッタリング等の真空成膜プロセスにより形成することができる。
【0105】
(c)陰極は、上述した透明電極と対向し、エレクトロルミネッセンス層を挟むように設けられ、アルミニウム、錫、マグネシウム、インジウム、カルシウム、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、白金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等で形成される。特にアルミニウムで形成することが好ましい。陰極の厚さは、通常0.01〜1μm、好ましくは0.03〜0.5μm、更に好ましくは0.05〜0.3μmである。陰極は、蒸着やスパッタリング等の真空成膜プロセスにより形成することができる。
【0106】
(d)なお、エレクトロルミネッセンス層と透明電極との間には、正孔注入層や正孔輸送層を更に積層することができ、エレクトロルミネッセンス層と陰極との間には、電子注入層や電子輸送層を更に積層することができる。また、これら以外の公知の層を適用しても構わない。
【実施例】
【0107】
以下、実施例と比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0108】
(実施例1)
アルコキシシラン類である重合度分布が2〜20程度でピーク平均重合度が3〜4のメトキシシランオリゴマーであるMKCシリケートMS51(6.6g、三菱化学(株)製、MKCシリケートは登録商標)、有機溶媒であるメタノール(2.9g)、沸点80℃以上の親水性有機化合物であるn−ブタノール(9.8g)、触媒であるアルミニウムアセチルアセトネート錯体の5重量%メタノール溶液(1.3g)、および水(1.4g)を混合し、60℃で2.5時間撹拌した後、更に2.5日室温で静置し、含水有機溶液である原料液を準備した。従って、この原料液中に含有されるメタノールとn−ブタノールの重量比は3:7であった。
【0109】
この原料液を、ナトリウムD線波長で23℃における屈折率が1.5のガラス基板(厚さ0.7mm)上に塗布して一次膜を形成した。原料液の塗布は、室温・大気下で3000回転/分の回転速度で20秒間スピンコートし、10分間静置して中間体膜を得た。
【0110】
得られた中間体膜を、水溶性有機溶媒である300mLのメタノール中に5分間浸漬し、乾燥後、150℃のオーブン中で30分間乾燥して、多孔性シリカ膜を得た。
【0111】
こうして得られた多孔性シリカ膜は、非常に平坦な表面であり、SEMおよび原子間力顕微鏡で測定した表面凹凸の最大値はいずれも10nmであった。なお、エリプソメトリーによる屈折率測定から、この多孔性シリカ膜の屈折率は1.29であった。また、多孔性シリカ膜中の全炭素濃度は3%であり、13C固体NMR測定結果からは、メタノールが存在し原料のメトキシシランオリゴマーに由来するメトキシ基は実質的に観測されないことがわかった。また、TG−MS分析を行ったところ、膜中に含有されているメタノールは760mmHgでの沸点よりも高い温度で膜から放出される、という結果が得られた。
【0112】
(測定)
表面凹凸の最大値:多孔性シリカ膜の表面凹凸の最大値は、試料を断面研磨し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて二次電子像の写真を撮影し、その写真から断面の山頂部と谷底部の最大値を測定して決定した。SEMは、日本電子製JSM6320F走査型電子顕微鏡を用い、加速電圧5kV、拡大倍率10000倍および50000倍で観察した。また、原子間力顕微鏡での測定は、前述の方法(5カ所;100μm四方領域)でセイコー社製SPI300、DFMモードにより測定し、SEMによる表面凹凸の最大値の評価結果を検証した。
【0113】
屈折率:分光エリプソメトリー(SOPRA社製GES−5)により、多孔性シリカ膜の屈折率を波長250〜850nmの範囲で測定し、モデリングを用いて解析した。
【0114】
全炭素濃度:多孔性シリカ膜の全炭素濃度は、試料を全炭素濃度測定装置内に入れ、1450℃に加熱し、その際発生するガス中の炭素量を分析することにより測定した。全炭素濃度測定装置は、島津製作所製のTOC5000を用いた。
【0115】
炭素成分の炭素源由来分析:13C固体NMR測定を行い、炭素源由来分析を行った。
【0116】
TG−MS分析:窒素気流下、温度を25〜600℃まで上昇させ、気化物質を質量分析装置で検出した。
【0117】
(実施例2)
上述した実施例1の積層基板を用い、以下の手順でエレクトロルミネッセンス素子を製造した。(ア);実施例1で得られた積層基板の多孔性シリカ膜の表面に、透明電極であるITO層(厚さ0.16μm)をスパッタリングにより形成した。ITO層の表面は、界面活性剤水溶液および超純水で洗浄し、乾燥して水分を除去した。(イ);次に、この透明電極をパターンニングした。パターニングは、透明電極上にフォトレジスト材料をスピンコートで全面に塗布し、超高圧水銀ランプ(露光強度230mJ/cm)を使用して所定の形状に露光した後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド希水溶液(濃度:2.4重量%)で未露光部分のフォトレジスト材料を溶解除去(現像)した。現像で露出した部分のITOを45℃の6規定濃度塩酸で溶解除去(エッチング)した。エッチング後に、露光を受けて難溶化して残存しているフォトレジスト材料を剥離した。この剥離は、濃テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(濃度:20重量%)へ浸漬することにより行った。その後、超純水で水洗した。(ウ);次に、層間絶縁膜を設けた。層間絶縁膜は、パターニングされたITOのうち余分な部分を絶縁材料(フォトレジスト材料)で被覆し、その後に形成するエレクトロルミネッセンス層および陰極との短絡を防ぐために設けた。先ず、フォトレジスト材料をスピンコートで全面に塗布し、次いで、超高圧水銀ランプを使用して所定の形状に露光(露光強度100mJ/cm)した後、前記テトラメチルアンモニウムヒドロキシド希水溶液で未露光部のフォトレジスト材料を溶解除去(現像)した。そして、超純水による水洗を行った。(エ);次に、その上にエレクトロルミネッセンス層を形成した。エレクトロルミネッセンス層は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(略称Alq3)を約200nmの厚さで蒸着した。(オ);こうして形成したエレクトロルミネッセンス層上に、陰極であるフッ化リチウム(厚さ0.5nm)/アルミニウム層(厚さ80nm)を蒸着により形成した。ここでフッ化リチウムは電子注入を促進する目的で用いた。
【0118】
(比較例1)
実施例2の積層基板の代わりに市販のガラス基板を用いた他は、実施例2と同様にして比較例1のエレクトロルミネッセンス素子を作成した。なお、ガラス基板の表面凹凸の最大値は10nm程度であった。
【0119】
(エレクトロルミネッセンス素子の性能評価)
実施例2および比較例1のエレクトロルミネッセンス素子に3〜15Vの電界を印加すると、実施例2のエレクトロルミネッセンス素子の外部への発光の出射強度は比較例1の約1.2倍となった。また、実施例2のエレクトロルミネッセンス素子には短絡による障害が見られなかった。これらの結果より、実施例2のエレクトロルミネッセンス素子は、構成する多孔性シリカ膜の優れた平坦性により、突起や陥没の非常に少ない透明電極を形成できたためと考えられる。
【0120】
(実施例3)
実施例1において、メタノールとn−ブタノールとの混合比を2:8にした溶媒を用い、塗布、前乾燥後、エタノールに5分間浸漬し、2次乾燥、高温乾燥を施した。この膜の表面構造は、平滑性に優れた100nm程度の粒状構造を形成しており、かつ表面の凹凸が10nm以下であった。
【0121】
(実施例4)
実施例2において、メタノールとn−ブタノールとの混合比を2:8にした溶媒を用いた。膜の表面構造は、平滑性に優れた100nm程度の粒状構造を形成しており、かつ表面の凹凸が10nm以下であった。
【0122】
(実施例5)
実施例1において、メタノールとn−ブタノールとの混合比を7:3にした溶媒を用いた。得られた膜に対する分光エリプソメトリー結果より算出された膜厚、空孔率、及び屈折率を表1に示す。
【0123】
(実施例6)
実施例1において、メタノールとn−ブタノールとの混合比を3:7とした溶媒を用い、前乾燥、溶媒接触工程および2次乾燥を含まず、塗膜後すぐに乾燥機内で150℃、30分、乾燥した。得られた膜に対する分光エリプソメトリー結果より算出された膜厚、空孔率、及び屈折率を表1に示す。
【0124】
(実施例7)
実施例6において、メタノールとn−ブタノールとの混合比を2:8とした溶媒を用いた。この膜の表面構造は、平滑性に優れた100nm程度の粒状構造を形成しており、かつ表面の凹凸が5nm以下であった。
【0125】
(実施例8)
実施例3において、溶媒として混合溶媒ではなく、メタノールを用いた。得られた膜に対する分光エリプソメトリー結果より算出された膜厚、空孔率、及び屈折率を表1に示す。
【0126】
【表1】

【符号の説明】
【0127】
1 エレクトロルミネッセンス素子
2 基板
3 透明電極
4 発光層
5 陰極
6 低屈折率層(多孔性シリカ膜)
7 空気
10 積層基板
11 出射角の大きい光
12 導波光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解反応および脱水縮合反応を起こすアルコキシシラン類を主体とした原料化合物を含む、含水有機溶液から一次膜を形成する工程、
前記一次膜を形成する含水有機溶液が加水分解反応および脱水縮合反応を起こして中間体膜が形成される工程、
前記中間体膜を前乾燥する工程、
前乾燥後の中間体膜に水溶性有機溶媒を接触させる工程、
水溶性有機溶媒と接触した中間体膜を後乾燥する工程、および、
後乾燥後の中間体膜をさらに加水分解縮合反応を促進して多孔性シリカ膜を形成する工程、を含むことを特徴とする多孔性シリカ膜の製造方法。
【請求項2】
前記含水有機溶液に、沸点80℃以上の親水性有機化合物を含む請求項1に記載の多孔性シリカ膜の製造方法。
【請求項3】
前記含水有機溶液において、有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の合計量に対する沸点80℃以上の親水性有機化合物の割合が90重量%以下であることを特徴とする請求項に記載の多孔性シリカ膜の製造方法。
【請求項4】
含水有機溶液における有機溶媒と沸点80℃以上の親水性有機化合物の重量比が5/5〜2/8であることを特徴とする請求項2又は3に記載の多孔性シリカ膜の製造方法。
【請求項5】
沸点80℃以上の親水性有機化合物の比誘電率が20以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の多孔性シリカ膜の製造方法。
【請求項6】
含水有機溶液に含まれる有機溶媒の比誘電率が23以上であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載の多孔性シリカ膜の製造方法。
【請求項7】
請求項のいずれか1項に記載の多孔性シリカ膜の製造方法において、前記含水有機溶液を基板上に塗布して一次膜を形成したことを特徴とする積層基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板が透明であることを特徴とする請求項に記載の積層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77021(P2010−77021A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271006(P2009−271006)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【分割の表示】特願2002−348811(P2002−348811)の分割
【原出願日】平成14年11月29日(2002.11.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】