説明

多孔性部材、多孔化方法および前記多孔性部材の製造方法

【課題】本発明は、ペースト法によらず形成される多孔性部材、ならびに、その製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の多孔性部材は、コア層と多孔性の表面層とを有し、前記コア層と前記表面層とは、同じポリマー原料で構成され、前記コア層の表面に、前記表面層が一体化して形成され、前記コア層と前記表面層との間に、接着層を有していないことを特徴とする。このような多孔性部材は、ポリマー基材の表面を多孔化することで製造でき、具体的には、前記ポリマー基材を溶解可能な溶媒に浸漬し、前記浸漬後のポリマー基材を、凍結乾燥することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性部材、多孔化方法および前記多孔性部材の製造方法に関する。より詳細には、例えば、細胞の足場材料、ステント等の生体用部材となる多孔性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞工学および再生医工学の分野において、組織再生等の目的で、足場材料を用いた細胞の増殖が行われている。前記足場材料は、一般に、播種した細胞を保持する目的から、多孔構造を有することが求められ、且つ、全体形状を保持する目的から、適度な剛性を有することが求められる。しかしながら、前記足場材料は、前記多孔構造を有することによって、柔軟性を示すが、その反面、十分な剛性が得られない場合がある。そこで、近年、多孔性という構造上の特性と、剛性という物理的特性の両方を兼ね備えた足場材料の提供が求められている。
【0003】
このような足場材料として、例えば、多孔構造を付与する多孔性部材と、剛性を付与するコア部材との積層体が提案されている。前記積層体の製造方法は、例えば、ペースト法等が知られている(特許文献1)。前記ペースト法は、例えば、熱処理、溶剤処理、接着剤を用いた接着処理等により、前記多孔性部材とコア部材とを貼り合わせ、積層化する方法である。例えば、前記熱処理または前記溶剤処理の場合、前記多孔性部材または前記コア部材の一方の表面を溶解し、前記両部材を貼り合わせて、前記積層体を製造する。前記接着処理の場合、前記一方の表面に接着剤を塗布し、その接着剤層を介して、前記両部材を貼り合わせて、前記積層体を製造する。
【0004】
他方、前記多孔構造を有する足場材料は、表面から一定の厚み(例えば、百μmオーダー)の領域内においては、播種した細胞が生育し、増殖する。しかし、前記領域よりも内部の領域においては、細胞が播種されても、栄養が十分に浸透せず、結果的に、細胞が死滅し、増殖し難いことがわかっている。このため、前述のような積層体の足場材料の製造においては、前記多孔性部材の厚みを、細胞が生育し、且つ、増殖可能な範囲に設定することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5514378号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、百μmオーダーの前記多孔性部材は、非常に薄いため、取り扱い難く、これを前記ペースト法によって前記コア部材に積層することは、困難である。特に、前記足場材料は、再生目的の組織に応じて、その形状を自由に設計することが望まれている。しかし、チューブ状および耳介軟骨形状等のように、前記コア部材が複雑な形状である場合、前記形状の表面に前記多孔性部材を貼り付けることは、容易ではなく、現実的な手法ではない。
【0007】
また、前記多孔性部材に前記熱処理または前記溶媒処理を施した場合、ポアが消失または変形するおそれがある。前記熱処理または前記溶媒処理を行った場合、前記多孔性部材と前記コア部材との間に、前記いずれかの部材が溶融または溶解したことで形成された接着層が介在する。また、前記接着処理を行った場合、前記多孔性部材とコア部材との間に、前記接着剤で構成される前記接着層が介在する。このような接着層は、前記足場材料の機能としては不要である。
【0008】
そして、このような問題は、前記足場材料に限られず、前記多孔性部材の用途として注目されている、癒着防止材、ステント等の生体用部材においても、同様である。
【0009】
そこで、本発明は、例えば、前述のようなペースト法によらず形成される多孔性部材、そのような多孔性部材を製造するための、ポリマー基材の多孔化方法、ならびに、前記多孔性部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多孔性部材は、多孔性の表面を有する多孔性部材であって、コア層と多孔性の表面層とを有し、前記コア層と前記表面層とは、同じポリマー原料で構成され、前記コア層の表面に、前記表面層が一体化して形成され、前記コア層と前記表面層との間に、接着層を有していないことを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔化方法は、ポリマー基材の表面を多孔化する多孔化方法であって、
下記(A)工程および(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)前記ポリマー基材を、前記ポリマー基材を溶解可能な溶媒に浸漬する浸漬工程
(B)前記浸漬後のポリマー基材を、凍結乾燥する凍結乾燥工程
【0012】
本発明の製造方法は、前記本発明の多孔化方法により、ポリマー基材の表面を多孔化することを特徴とする、多孔性部材の製造方法である。
【0013】
本発明の足場材料は、本発明の製造方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔性部材は、前述のようなペースト法によらず形成される多孔性部材である。このため、本発明の多孔性部材は、例えば、前記ペースト法で得られる多孔性部材とは異なり、前記コア層と前記多孔性の表面層との間に、部材の貼り合わせによる接着層を有しない形状となる。このような多孔性部材は、例えば、前述のような本発明の多孔化方法および製造方法により製造できる。すなわち、本発明の多孔化方法および製造方法によれば、前記ポリマー基材を前記溶媒に浸漬後、前記ポリマー基材を凍結乾燥するのみで、前記ポリマー基材の表面を、容易に多孔化できる。これによって、コア層の表面に多孔性の表面層が一体化して形成された本発明の多孔性部材が製造できる。
【0015】
また、本発明の多孔化方法および製造方法によれば、前述のように、前記ポリマー基材に対して、前記溶媒への浸漬と凍結乾燥とを行うのみで、多孔性の表面層を形成できる。このため、本発明の製造方法によれば、前記ポリマー基材の形状に影響されることなく、容易に、前記多孔性の表面層と前記コア層とが一体化した多孔性部材を形成可能である。このように、本発明によれば、接着層を有さない所望の形状の多孔性部材を容易に製造できるため、多孔性部材の適用範囲を、より一層広げることも可能となる。このため、本発明は、例えば、再生医療の分野等において、極めて有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例1における、足場材料の一例の断面写真である。
【図2】図2(A)は、本発明の実施例1における、浸漬時間と表面層の厚みとの関係を示すグラフであり、図2(B)は、前記実施例1における、浸漬時間とコア層の厚みとの関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例1における、足場材料の一例のSEM写真である。
【図4】図4は、本発明の実施例1における、凍結処理温度と、表面層の平均ポアサイズとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例2における、細胞数の測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の実施例3における、耳介形状の足場材料の外観写真である。
【図7】図7(A)、(B)は、本発明の実施例3における、耳介形状の足場材料の断面写真である。
【図8】図8は、本発明の多孔性部材の一例であり、(A)は平面図、(B)は断面図、(C)は使用時の斜視図である。
【図9】図9は、本発明の多孔性部材のその他の例であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<多孔性部材>
本発明の多孔性部材は、前述のように、多孔性の表面を有する多孔性部材であって、コア層と多孔性の表面層とを有し、前記コア層と前記表面層とは、同じポリマー原料で構成され、前記コア層の表面に、前記表面層が一体化して形成され、前記コア層と前記表面層との間に、接着層を有していないことを特徴とする。本発明は、例えば、前記接着層を介することなく、前記コア層の表面に、前記表面層が形成されているということもできる。
【0018】
本発明の多孔性部材は、例えば、後述する製造方法により製造できる。本発明の製造方法により、このような多孔性部材が製造できる理由は、以下のように推定される。前記ポリマー基材を、前記溶媒に浸漬すると、前記ポリマー基材の表面は、前記溶媒によって徐々に溶解され、前記溶媒により膨潤した状態、例えば、ゲル状となる。この状態で、前記ポリマー基材を凍結乾燥すると、前記ポリマー基材の表面における前記膨潤領域は、多孔化され、その結果、前記ポリマー基材の表面が多孔化された多孔性部材が得られる。つまり、前記ポリマー基材において、膨潤化の後に多孔化された前記ポリマー基材の表面が、前記多孔性の表面層となり、膨潤されていない前記ポリマー基材の領域が、前記コア層となる。このため、前記多孔性の表面層と前記コア層とが一体化して形成され、且つ、前記両層の間に、前述のような接着層を有しない多孔性部材が得られる。本発明の多孔性部材において、前記コア層は、例えば、前記ポリマー基材の物理的性質を維持した層と言える。なお、本発明は、この推定には、何ら制限されない。
【0019】
本発明において、「一体化して形成」は、前記コア層と前記表面層とを、それぞれ別個の部材として、貼り合わせたものではないことを意味する。このため、本発明の多孔性部材は、前述のように、前記コア層と前記表面との間に、貼り合わせによる「接着層」を有していない形状となる。「接着層」は、例えば、前述のペースト法のように、コア部材と多孔性部材とを別個に用意し、これらを貼り付けた際に形成される層である。例えば、前記コア部材と前記多孔性部材とを接着剤により貼り合わせた場合、前記接着剤を含む層(接着剤層)があげられる。具体例としては、例えば、前記コア部材と前記多孔性部材との間に形成された層、前記多孔性部材または前記コア部材の貼り合わせ表面に露出した孔の内部に接着剤が侵入して形成された層等を含む。また、例えば、前記熱処理または前記溶媒処理により貼り合わせた場合、前記コア部材または前記多孔性部材が溶解または融解して再度固化した層があげられる。具体例として、前記コア部材を溶解または融解した場合は、溶解等したポリマーが、前記多孔性部材の貼り合わせ表面に露出した孔の内部に侵入して、固化することにより形成された層等があげられる。前記多孔性部材を溶解または融解した場合は、ポリマーが溶解等することで、前記多孔性部材の貼り合わせ表面側の孔が消失、縮小または変形することにより形成された層等があげられる。
【0020】
本発明の多孔性部材の用途は、特に制限されず、例えば、生体内(in vivo)で使用する生体用部材、生体外(in vitro)で使用する非生体用部材があげられる。前記生体用部材は、例えば、生体内細胞または生体内組織の足場材料、癒着防止材、ステント、生体用補綴材等があげられる。前記生体用部材を適用する生体は、特に制限されず、例えば、ヒト、ヒトを除く哺乳類、鳥類等の動物があげられ、前記ヒトを除く哺乳類動物は、例えば、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター等があげられる。また、前記非生体用部材は、例えば、生体から採取した細胞または組織の足場材料、細胞培養用容器等の基材等があげられる。
【0021】
本発明の多孔性部材の大きさは、用途等に応じて適宜設定でき、特に制限されない。
【0022】
前記多孔性部材の形状は、例えば、用途に応じて適宜設定でき、特に制限されない。前記形状の具体例は、例えば、フィルム状、プレート状、ブロック状、柱状、筒状、管状、球状、錘状等があげられ、これらの形状等を組み合わせた形状でもよい。前記多孔性部材は、例えば、中空でもよいし、非中空でもよい。前記多孔性部材の形状は、例えば、生体組織の全体の形状または部分の形状であってもよい。前記生体組織は、特に制限されず、例えば、耳介、鼻、半月板、咽頭蓋、目、歯、血管、骨、軟骨、靭帯、皮膚、乳房、尾、脊髄、脳、膵臓、肝臓、腎臓、心臓、腸等があげられる。
【0023】
本発明の多孔性部材において、前記表面層は、前記コア層の表面において、全面に形成されてもよいし、部分的に形成されてもよい。前記コア層の表面において、前記表面層の形成領域は、例えば、前記多孔性部材の用途に応じて適宜決定できる。前記多孔性部材を生体内で使用する場合、例えば、前記多孔性部材の表面において、生体内の細胞との親和性が必要な領域に、前記表面層を有することが好ましい。
【0024】
前記表面層の厚みは、特に制限されず、例えば、数十μmオーダーから数百μmオーダーであり、好ましくは、10〜1000μmであり、より好ましくは、50〜500μmであり、さらに好ましくは、100〜150μmである。
【0025】
前記表面層の厚みは、例えば、略均一であるのが好ましい。「表面層の厚みが略均一」は、例えば、前記表面層の厚みのバラツキが、例えば、平均厚みの±0%〜平均厚みの±15%であることをいい、好ましくは、平均厚みの±0%〜平均厚みの±5%である。前記バラツキは、例えば、測定した厚みの標準偏差があげられる。
【0026】
前記コア層の大きさおよび厚みは、何ら制限されず、例えば、前記多孔性部材の用途、前記多孔性部材に必要とされる剛性等によって、適宜決定できる。前記厚みは、例えば、前記表面層よりも厚いことが好ましく、具体例としては、例えば、1000μm以上である。
【0027】
前記表面層のポアサイズは、特に制限されず、例えば、前記多孔性部材の用途に応じて適宜決定できる。前記表面層の平均ポアサイズは、例えば、5〜500μmであり、好ましくは、10〜60μmである。前記表面層のポアサイズは、例えば、不均一であってもよいが、均一であるのが好ましい。
【0028】
前記コア層は、例えば、多孔性でもよいし、非多孔性でもよい。前記コア層が多孔性の場合、その平均ポアサイズは、特に制限されず、例えば、1〜10μmである。前記コア層の平均ポアサイズは、例えば、均一でもよいし、不均一でもよく、特に制限されない。
【0029】
前記表面層の気孔率は、特に制限されず、例えば、50〜99%である。
【0030】
前記コア層が多孔性の場合、気孔率は、特に制限されない。前記気孔率は、例えば、剛性を保持するため、前記表面層の気孔率よりも相対的に小さいことが好ましい。具体例として、前記気孔率は、例えば、50%未満である。
【0031】
本発明の多孔性部材は、例えば、さらに、他の層を有してもよい。前記他の層は、例えば、1層でもよいし、2層以上であってもよい。本発明の多孔性部材が、前記他の層を有する場合、前記他の層は、例えば、前記コア層において、前記表面層が形成されていない領域と積層されていることが好ましい。この際、前記他の層と前記コア層とは、例えば、前記接着層を介した積層でもよい。
【0032】
本発明の多孔性部材は、例えば、薬剤を有してもよい。前記薬剤は、特に制限されず、例えば、各種増殖因子等の生理活性物質、抗感染剤、抗癌剤、抗炎症剤、鎮痛剤等があげられる。
【0033】
以下に、本発明の多孔性部材について、用途を例示する。なお、本発明は、これらの例示には何ら制限されない。
【0034】
(1)足場材料
前記足場材料は、例えば、細胞または組織の増殖の足場となる部材である。前記足場材料は、例えば、in vitroで用いてもよいし、in vivoで用いてもよい。前記in vitroで用いる場合、前記足場材料は、例えば、細胞または組織を播種して培養することにより、前記細胞または組織を生育および増殖可能である。前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞でもよいし、株化された培養細胞でもよい。前記細胞の種類は、特に制限されず、例えば、血管細胞、軟骨細胞、ランゲルハンス島のβ細胞、皮膚細胞、神経細胞、間葉系幹細胞、骨芽細胞、脂肪細胞等があげられる。前記細胞の由来は、特に制限されず、例えば、前述のような各種動物があげられる。このように細胞を培養した前記足場材料は、例えば、細胞培養後、生体内に配置してもよい。一方、前記in vivoで用いる場合、前記足場材料は、例えば、生体内の組織に配置され、生体内の細胞および組織を増殖可能である。前記足場材料を配置する生体組織は、特に制限されず、例えば、前述の生体組織等があげられる。また、前記足場材料を適用する生体の種類も特に制限されず、前述のような、各種動物等があげられる。
【0035】
前記足場材料の形状は、特に制限されず、例えば、ブロック状があげられる。前記足場材料の場合、前記表面層のポアサイズは、例えば、細胞の播種および増殖が可能なサイズが好ましい。前記表面層の平均ポアサイズは、例えば、5〜500μmであり、好ましくは、10〜60μmである。
【0036】
(2)癒着防止材
前記癒着防止材は、例えば、生体内において、組織と組織との間に配置することで、前記組織間の癒着を防止する部材である。
【0037】
前記癒着防止材の形状は、特に制限されず、フィルム状またはシート状が好ましい。前記癒着防止材は、例えば、前記コア層の両面が、多孔性の前記表面層を有してもよいが、一方の表面のみが前記表面層を有することが好ましい。
【0038】
前記癒着防止材は、例えば、生体内の患部に、そのまま配置してもよいし、前記患部が管状の場合、前記患部に捲回してもよい。前記癒着防止材を捲回して使用する場合、例えば、図8に示す多孔性部材が好ましい。図8は、本発明の多孔性部材の一例を示す図である。図8(A)は、多孔性部材1の平面図、(B)は、前記(A)における多孔性部材1のI−I方向断面図であり、(C)は、多孔性部材1の使用時の形態を示す斜視図である。多孔性部材1は、コア層11と多孔性の表面層10とを有し、コア層11の両端部11a、11bを除き、コア層11の表面に表面層10が接着層を介することなく、形成されている。多孔性部材1は、例えば、図8(C)に示すように使用できる。すなわち、多孔性部材1は、管状の患部に多孔性の表面層10が接触するように、前記患部を捲回する。そして、コア層11の両端部11a、11bを重ね合わせて、電気メス等により融着させる。融着部となる両端部11a、11bは、例えば、確実に融着させることが望まれることから、コア層11は、多孔性よりも非多孔性であることが好ましい。
【0039】
(3)ステント
前記ステントは、一般に、血管、気管、食道、十二指腸、胆管等の生体の管状組織に設置する管状デバイスであり、例えば、前記管状組織の管腔内部に挿入することで、吻合が原因となる狭窄等を防止できる。
【0040】
前記ステントは、前述のように、前記管腔内部へ挿入することから、その形状は、例えば、管状が好ましい。前記ステントは、前記管腔内部に挿入されるため、その外表面は、前記管状組織と接し、その内部は、前記管状組織の種類に応じて、例えば、胆汁、血液、消化物等が通過する。前記ステントを、生体内において安定して設置するには、例えば、前記ステントの外表面は、生体細胞との親和性に優れることが望まれる。このため、前記ステントは、その外表面に前記多孔性の表面層が形成された多孔性部材が好ましい。このような多孔性部材をステントに用いれば、例えば、生体内において、前記外表面と接触する生体内の細胞が、前記足場材料の表面層に入り込んで、増殖するため、前記ステントを安定に設置できる。他方、前記ステントの内部は、前述のように、胆汁等が通過するため、例えば、前記多孔性の表面層を有していなくてもよく、例えば、その内表面は、非多孔性の表面層でもよい。
【0041】
前記ステントとしては、例えば、図9に示す多孔性部材が好ましい。図9は、本発明の多孔性部材の一例を示す図である。図9(A)は、多孔性部材2の斜視図、図9(B)は、前記(A)における多孔性部材2のII−II方向断面図である。多孔性部材2は、例えば、管状のコア層21と表面層20とを有し、コア層21の両端部21a、21bとを除き、コア層21の表面に表面層20が一体化されている。多孔性部材2は、その両端部21a、21bのそれぞれを、前記管腔内部に挿入して、その管状組織と縫合する。縫合部となる両端部21a、21bは、例えば、破れることなく縫合することが望まれることから、多孔性よりも非多孔性であることが好ましく、より好ましくは、多孔性の表面層よりも、糸かけ張力が高い非多孔性のコア層が好ましい。
【0042】
(4)生体用補綴材
前記生体用補綴材は、例えば、生体内の欠損部に配置することで、生体内細胞または生体内組織を補填する部材である。前記生体用補綴材の具体例は、例えば、骨の欠損部に配置する人工骨、骨を固定するための骨ピン等があげられる。
【0043】
<多孔化方法>
本発明の多孔化方法は、ポリマー基材の表面を多孔化する多孔化方法であって、
下記(A)工程および(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)前記ポリマー基材を、前記ポリマー基材を溶解可能な溶媒に浸漬する浸漬工程
(B)前記浸漬後のポリマー基材を、凍結乾燥する凍結乾燥工程
【0044】
このような方法によれば、前記ポリマー基材の表面が多孔化されるため、前述した本発明の多孔性部材を製造できる。本発明の多孔化方法は、例えば、ポリマー基材の表面改質方法ということもできる。
【0045】
(A)浸漬工程
本発明の多孔性部材の大きさおよび形状は、例えば、使用する前記ポリマー基材の大きさおよび形状に依存する。前記ポリマー基材の大きさおよび形状は、特に制限されず、例えば、所望の多孔性部材の大きさおよび形状に応じて適宜設定できる。前記ポリマー基材の形状は、例えば、前述した多孔性部材の形状等があげられる。前記ポリマー基材の形状は、例えば、中空でもよいし、非中空でもよい。また、前記ポリマー基材の形状は、例えば、生体組織の全体または部分の形状でもよい。前記生体組織は、特に制限されず、例えば、前述の生体組織等があげられる。
【0046】
前記ポリマー基材は、例えば、多孔性でもよいし、非多孔性でもよい。本発明において、「多孔化」とは、浸漬処理前の前記ポリマー基材の表面が多孔性である場合、さらに多孔化する、例えば、より小さな孔径またはさらに大きな孔径に多孔化する、孔数を増加させることの意味も含む。
【0047】
前記ポリマー基材は、例えば、単層のポリマー基材でもよいし、2層以上の多層ポリマー基材でもよい。後者の場合、例えば、各層は、同じポリマー原料から構成されてもよいし、異なるポリマー原料から構成されてもよい。前記多層ポリマー基材は、例えば、各層のポリマー原料の選択により、剛性、生体内での分解速度等の物理的性質を、所望に応じて設定できる。
【0048】
前記ポリマー基材を構成するポリマー原料は、特に制限されず、種々のポリマーを使用できる。前記ポリマーは、特に制限されない。前記多孔性部材を生体内で使用する場合、前記ポリマーは、例えば、生体適合性を示すポリマーが好ましく、また、一定期間経過後に生体内で分解される生分解性ポリマーでもよい。前記多孔性部材を生体外で使用する場合、または前記多孔性部材を生体内で半永久的に維持させる場合、前記ポリマーは、例えば、非生分解性ポリマーでもよい。
【0049】
前記ポリマーの分子量は、特に制限されず、例えば、5,000〜2,000,000であり、好ましくは、10,000〜1,500,000であり、より好ましくは、100,000〜1,000,000である。前記ポリマーは、例えば、ホモポリマーでもよいし、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等のコポリマーでもよい。
【0050】
前記生分解性ポリマーは、特に制限されず、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリアミド等があげられ、好ましくは、脂肪族ポリエステルである。前記生分解性ポリマーを構成するモノマーは、特に制限されず、例えば、乳酸、ラクチド、ラクトン、グリコリド、グリコール酸、トリメチレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジイソシアナート、パラジオキサノン、エチレンオキサイドまたは、これらの組み合わせによるコポリマー等があげられる。前記ラクトンは、例えば、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等があげられ、ε−カプロラクトンが好ましい。前記生分解性ポリマーがコポリマーの場合、前記モノマーの組み合わせおよび割合は、特に制限されない。前記モノマーの組み合わせは、例えば、ラクチドとラクトン、グリコリドとラクトン等があげられ、好ましくは、ラクチドとラクトンであり、具体的には、例えば、ラクチドとε−カプロラクトン、グリコリドとε−カプロラクトン等があげられ、好ましくは、ラクチドとε−カプロラクトンである。前記組み合わせるモノマーの割合は、特に制限されず、前述のラクチドとラクトン(例えば、ε−カプロラクトン)とのコポリマーの場合、そのモル比(ラクチド:ラクトン)は、例えば、90:10〜10:90であり、好ましくは、85:15〜20:80であり、より好ましくは、80:20〜40:60である。
【0051】
前記生分解性ポリマーは、例えば、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、キトサン、キチン、コンドロイチン硫酸、セルロース等の天然高分子でもよい。前記天然高分子は、特に制限されず、例えば、生体の組織および細胞等からの抽出物でもよいし、形質転換体による産生物でもよいし、合成物でもよい。前記天然高分子は、例えば、前記抽出物、前記産生物または前記合成物を、さらに、修飾または誘導体化したものでもよい。
【0052】
前記非生分解性ポリマーは、特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリウレタン等があげられる。
【0053】
前記ポリマー原料は、例えば、前述のポリマーのうち、いずれか1種類でもよいし、2種類以上を含んでもよい。後者の場合、その組み合わせおよび割合は、特に制限されず、適宜設定可能である。
【0054】
前記ポリマー原料は、例えば、前述のポリマー以外に、他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、ヒロドキシアパタイト、チタン等を含んでもよい。
【0055】
前記ポリマー基材を浸漬する溶媒は、特に制限されず、前記ポリマー基材を溶解可能な溶媒が使用できる。具体的に、前記ポリマー基材が前記単層ポリマー基材の場合、前記溶媒は、前記単層ポリマー基材を溶解可能な溶媒、すなわち、前記単層ポリマー基材を構成するポリマー原料を溶解可能な溶媒が使用できる。前記ポリマー基材が前記多層ポリマー基材の場合、前記溶媒は、表面を多孔化させる少なくとも一方の最外層を溶解可能な溶媒、すなわち、前記最外層を構成するポリマー原料を溶解可能な溶媒が使用できる。
【0056】
前記溶媒は、例えば、前記ポリマー原料の種類等に応じて適宜決定できる。前記溶媒の具体例は、例えば、アセトン、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール等の有機溶媒、水等の水系溶媒があげられる。前記溶媒は、例えば、いずれか1種類でもよいし、2種類以上の混合溶媒でもよい。前記混合溶媒は、例えば、前記有機溶媒と前記水系溶媒との混合溶媒でもよい。前記溶媒と前記ポリマー原料との組み合わせは、特に制限されない。前記組み合わせの具体例は、例えば、1,4−ジオキサンとラクチド−カプロラクトン共重合体との組み合わせ、ヘキサフルオロイソプロパノールとポリグリコール酸との組み合わせ、ヘキサフルオロイソプロパノールとポリパラジオキサノンとの組み合わせ等があげられる。
【0057】
前記ポリマー基材を前記溶媒に浸漬する時間は、特に制限されず、前記ポリマー基材と前記溶媒との組み合わせに応じて適宜決定できる。前記浸漬時間は、例えば、1〜600秒である。本発明の製造方法は、例えば、前記浸漬時間の調節により、形成される前記表面層の厚み、前記表面層のポアサイズ等を制御可能である。具体的には、例えば、前記浸漬時間を相対的に長くすると、前記表面層の厚みを相対的に厚くでき、また、前記ポアサイズを相対的に大きくできる。他方、例えば、前記浸漬時間を相対的に短くすると、前記表面層の厚みを相対的に薄くでき、また、前記ポアサイズを相対的に小さくできる。本発明の製造方法では、前述のように、前記ポリマー基材の膨潤領域が前記表面層となり、非膨潤領域が前記コア層となる。このため、例えば、前記表面層の厚みが厚くなるにつれて、前記コア層の厚みは薄くなる。
【0058】
前記浸漬処理の温度は、特に制限されない。前記浸漬処理の温度は、例えば、浸漬する前記溶媒の融点よりも高く、かつ、前記溶媒の沸点よりも低い温度が好ましい。前記溶媒として1,4−ジオキサンを用いる場合、前記浸漬処理の温度は、例えば、12〜101℃の範囲があげられる。
【0059】
前記ポリマー基材の浸漬は、例えば、前記溶媒を入れた容器内に、前記ポリマー基材を投入すればよい。前記ポリマー基材は、例えば、前記容器の側面および底面に接触しない状態で、前記溶媒に浸漬することが好ましい。これによって、例えば、より均一に前記多孔性の表面層を形成できる。また、前記溶媒に前記ポリマー基材を浸漬する際、例えば、前記容器内の溶媒を、スターラー等で穏やかに攪拌してもよい。
【0060】
前記ポリマー基材が、前述のように単層ポリマー基材の場合、例えば、前記溶媒に、全体を浸漬してもよいし、部分的に浸漬してもよい。前記単層ポリマー基材の全表面を多孔化する場合、前記単層ポリマー基材の全表面を露出させた状態で、前記溶媒に浸漬することが好ましい。前記単層ポリマーの所望の表面を多孔化させる場合、例えば、前記所望の表面のみを、前記溶媒に浸漬してもよいし、前記所望の表面のみを露出させた状態で、前記単層ポリマー基材全体を、前記溶媒に浸漬してもよい。前記所望の表面のみを露出させる方法は、特に制限されず、例えば、前記ポリマー基材の任意の表面をマスキングすることにより行える。前記単層ポリマー基材を使用した場合、例えば、前記ポリマー基材の多孔化されていない部分が、前述した本発明の多孔性部材における前記コア層となり、多孔化された表面が、前記表面層となる。
【0061】
前記ポリマー基材が、前述のように多層ポリマー基材の場合、例えば、前記溶媒に、全体を浸漬してもよいし、部分的に浸漬してもよい。前記多層ポリマー基材の両最外層が、前記溶媒に溶解可能な場合、例えば、一方の表面のみを多孔化するか、両方の表面を多孔化するかで、浸漬処理を設定できる。一方の表面のみを多孔化する場合、前記多層ポリマー基材は、例えば、一方の最外層のみを前記溶媒に浸漬してもよいし、一方の最外層の表面のみを露出させた状態で、前記多層ポリマー基材全体を、前記溶媒に浸漬してもよい。また、両方の表面を多孔化する場合、例えば、前記多層ポリマー基材全体を、前記溶媒に浸漬してもよい。前記多層ポリマー基材において、一方の最外層が前記溶媒に溶解可能であり、他方の最外層が前記溶媒に溶解しない場合、例えば、前記多層ポリマー基材全体を、前記溶媒に浸漬してもよい。
【0062】
前記ポリマー基材が前記多層ポリマー基材であって、一方の最外層のみを多孔化する場合、前記多層ポリマー基材は、一方の最外層が前記溶媒に溶解可能な層であり、他方の最外層が前記溶媒に溶解しない層であることが好ましい。このような多層ポリマー基材であれば、例えば、全体を前記溶媒に浸漬するのみで、前記各層の前記溶媒への溶解度の違いから、容易に、所望の一方の表面のみを多孔化できる。前記溶媒に溶解可能な層と、前記溶媒に溶解しない層は、例えば、前記溶媒に対するポリマー原料の溶解度から、設定できる。具体例としては、例えば、ラクチドとカプロラクトンとの共重合体(P(LA/CL))から構成される層と、ポリグリコール酸(PGA)から構成される層とがあげられる。これらの層を最外層とする多層ポリマー基材を、例えば、前記P(LA/CL)を溶解可能なジオキサンに浸漬する。この場合、PGAはジオキサンに溶解しないため、前記P(LA/CL)の最外層のみが多孔化処理され、前記PGAの最外層は多孔化処理されない。前記多層ポリマー基材が、3層以上の多層ポリマー基材の場合、2つの最外層に挟まれる中間層の種類は、何ら制限されない。
【0063】
なお、前記溶媒に溶解しないとは、例えば、完全に溶解しないことの他、実質的に溶解しないことの意味も含む。実質的に溶解しないとは、例えば、溶解するが、本発明が目的とするところの多孔化に至る溶解には該当しないことを意味する。
【0064】
前記多層ポリマー基材を使用した場合、例えば、前記最外層の多孔化されていない部分が、前述した本発明の多孔性部材における前記コア層となり、前記最外層の多孔化された表面が、前記表面層となる。前記多層ポリマー基材を使用した場合も、前記単層ポリマー基材と同様に、例えば、前記最外層の任意の表面をマスキングすることにより、所望の表面のみを露出させて、多孔化を行うことができる。
【0065】
本発明の多孔化方法において、マスキングを行う具体例を以下に示す。なお、本発明は、これには何ら制限されない。
【0066】
前述した図8の多孔性部材を作製する場合、例えば、フィルム状の前記ポリマー基材について、図8の端部11a、11bに対応する箇所、ならびに、一方の表面全体をマスキングする。マスキングの部材は、何ら制限されず、例えば、マスキングされた領域に前記溶媒が浸透しなければよい。前記ポリマー基材にマスキングをした状態で、前記溶媒に前記ポリマー基材全体を浸漬させる。これによって、前記マスキングされた領域以外の表面が多孔化される。この多孔化された表面が、図8において、表面層10である。
【0067】
前述した図9の管状の多孔性部材を作製する場合、例えば、管状の前記ポリマー基材の中空部分に、溶媒に非溶解性の材料(例えば、シリコン)で構成された円柱状の基材を挿入し、図9の端部21a、21bに対応する箇所、すなわち前記ポリマー基材の外部表面の両端をマスキングする。前記ポリマー基材にマスキングをした状態で、前記溶媒に前記ポリマー基材全体を浸漬させる。これによって、前記マスキングされた領域以外の表面、すなわち、中空の内部表面と外部表面の両端を除く領域が、多孔化される。この多孔化された表面が、図9において、表面層20である。
【0068】
(B)凍結乾燥工程
つぎに、前記溶媒に浸漬した前記ポリマー基材を、凍結乾燥する。凍結乾燥は、通常、凍結処理を行った後に、減圧乾燥することで行える。
【0069】
凍結処理温度は、特に制限されず、例えば、−196〜0℃であり、好ましくは、−50〜0℃である。前記凍結処理温度は、例えば、前記ポリマー基材を冷却により凍結する際において、凍結機器の設定温度でもよいし、凍結処理時および/または凍結完了時における前記ポリマー基材の温度であってもよい。本発明の製造方法は、前記凍結処理温度の調節により、例えば、形成される前記表面層のポアサイズを制御可能である。具体的には、例えば、前記凍結処理温度を相対的に高く設定すると、前記ポアサイズを相対的に大きく設定でき、前記凍結処理温度を相対的に低く設定すると、前記ポアサイズを相対的に小さく設定できる。
【0070】
前記ポリマー基材の冷却は、例えば、一定の温度条件下で行ってもよいし、凍結処理温度を徐々に下げながら行ってもよい。後者の場合、凍結処理温度は、例えば、断続的に下げてもよいし、連続的に下げてもよい。前記冷却速度を一定にすることにより、例えば、ポアサイズが比較的に均一である表面層を形成可能である。前記凍結処理温度を連続的に下げる場合、例えば、一定の冷却速度で連続的に下げてもよい。前記冷却速度は、特に制限されず、例えば、−3〜−1000℃/時間であり、好ましくは、−3〜−750℃/時間である。凍結開始温度から凍結完了温度まで、凍結処理温度を下げていく場合、凍結完了温度(最終の凍結処理温度)は、例えば、前述の温度範囲があげられる。
【0071】
前記冷却開始から前記凍結完了までの凍結処理時間は、特に制限されない。前記凍結処理時間は、例えば、0.1〜5時間である。
【0072】
前記浸漬したポリマー基材は、例えば、前記溶媒に浸漬した状態で凍結してもよいし、前記浸漬した溶媒から取り出して凍結してもよいが、前者が好ましい。前記溶媒に浸漬した状態で前記ポリマー基材を凍結した場合、例えば、前記溶媒中で形成された、前記ポリマー基材の表面における膨潤領域の形状を維持したまま、凍結処理を行うことができる。このため、例えば、形成される表面層の均一性の低下をさらに防止できる。
【0073】
前記凍結の手段は、特に制限されず、例えば、凍結機等の従来公知の機器等を使用できる。
【0074】
前記ポリマー基材の凍結体を乾燥する際、前記減圧乾燥処理温度は、特に制限されず、例えば、−50〜90℃であり、好ましくは、−20〜25℃である。前記減圧乾燥処理温度は、例えば、前記ポリマー基材を減圧乾燥する際における、乾燥機器の設定温度である。前記減圧乾燥の処理時間は、特に制限されず、前記(B)工程で得られたポリマー基材の凍結体について、例えば、溶媒含有量を減少できればよく、すなわち、前記凍結体から、溶媒が除去できればよい。前記処理時間は、例えば、0.5〜120時間であり、好ましくは、1.5〜12時間である。前記減圧乾燥の圧力は、特に制限されず、例えば、1〜2Paである。本発明において、減圧は、例えば、真空の意味も含む。
【0075】
前記凍結体の乾燥は、例えば、一定の温度条件下で行ってもよいし、前記処理温度を徐々に上げながら行ってもよい。後者の場合、前記処理温度は、例えば、断続的に上げてもよいし、連続的に上げてもよい。後者の場合、例えば、一定の昇温速度で連続的に上げてもよい。前記昇温速度は、特に制限されず、例えば、1〜150℃/時間であり、好ましくは、6.25〜50℃/時間である。前記処理温度を上げていく場合、最終の処理温度は、例えば、前述の温度範囲があげられる。本発明の製造方法は、前記昇温速度の調節により、例えば、前記表面層のポアサイズを制御でき、また、ポアサイズが比較的に均一である表面層を形成可能である。
【0076】
前記乾燥の手段は、特に制限されず、例えば、凍結乾燥機等の従来公知の機器を使用できる。
【0077】
このように、前記(A)工程における前記ポリマー基材の前記溶媒への浸漬、前記(B)工程における前記凍結乾燥によって、前述のような本発明の足場材料を製造できる。
【0078】
<製造方法>
本発明の製造方法は、前記本発明の多孔化方法により、ポリマー基材の表面を多孔化することを特徴とする、多孔性部材の製造方法である。具体的に、本発明は、例えば、表面が多孔化された多孔性部材の製造方法であって、前記(A)工程および(B)工程を含む。
(A)前記ポリマー基材を、前記ポリマー基材を溶解可能な溶媒に浸漬する浸漬工程
(B)前記浸漬後のポリマー基材を、凍結乾燥する凍結乾燥工程
【0079】
本発明の製造方法は、前記本発明の多孔化方法を行うことが特徴であり、その他の工程および条件は、何ら制限されない。本発明の製造方法は、特に示さない限り、前記本発明の多孔化方法を引用できる。
【0080】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
本例では、浸漬時間を変化させて、表面層の厚みの異なる足場材料を作製した。
【0082】
(ポリマー基材の作製)
まず、ラクチド−カプロラクトン共重合体P(LA/CL)を準備した。前記P(LA/CL)は、合成後のL−ラクチドとε−カプロラクトンとのモル比が75.1:24.9であり、平均分子量(Mw)が351,000であった。外径120μm、内径100μm、キャビティ深さ1000μmのステンレス金型の内部に、テフロン(登録商標)シート(商品名ニトフロンNo.970−2UL)およびテフロン(登録商標)フィルム(商品名ニトフロンNo.900UL)をこの順序に置き、この上に、前記P(LA/CL)パウダーを均一に置いた。そして、前記パウダー上に、前述と同じ種類のテフロン(登録商標)フィルムおよびテフロン(登録商標)シートをこの順で積層し、この上に、さらに上板を置いた。前記上板の上にプレス板を配置した。そして、前記金型内部の前記パウダーを、170℃、0.5MPaで5分間プレスした後、前記プレス板を上下に1回ずつ動かし(各1秒)、脱泡した。さらに、170℃、10MPaで5分間プレスした後、プレスした状態で、前記金型ごと40℃まで水冷した。得られた厚み1000μmのポリマー成型体を、10mm×20mmの大きさに切断して、ポリマー基材として使用した。
【0083】
(足場材料の作製)
金属シャーレ(直径5cm)に、1,4−ジオキサン(和光純薬工業社製)約50mLを注ぎ、この中に、前記ポリマー基材を、所定時間(2、10、60、120、180、300および600秒)浸漬した。浸漬後、前記ポリマー基材を浸漬した状態のまま、前記金属シャーレを、凍結乾燥機内の所定温度に設定した冷却棚に配置し、冷却して、前記ポリマー基材を凍結した。前記冷却棚の温度を凍結処理温度とし、一定の所定温度(0℃、−30℃および−50℃)に設定した。前記冷却棚の温度が0℃の場合、前記冷却時間は3時間、前記冷却棚の温度が−30℃および−50℃の場合、前記冷却時間は1時間とした。前記凍結後、前記凍結乾燥機内の温度を、25℃/時間の昇温速度で25℃まで昇温して真空乾燥し、足場材料を得た。前記金属シャーレ内での処理により得られた前記足場材料は、前記金属シャーレの上部開口側に位置する表面層を「上側表面層」とし、前記金属シャーレの内部底面側に位置する表面層を「下側表面層」とした。
【0084】
(足場材料の評価)
(1)外観
得られた前記各足場材料を、ミクロトーム刃を用いて厚み方向に切断し、その断面を、デジタルマイクロスコープ(VHX−900、キーエンス社製)で撮影した。
【0085】
図1に、浸漬時間10秒、凍結処理温度−50℃の条件で作製した、足場材料の断面写真を示す。図1において、a1は、上側表面層であり、a2は下側表面層であり、bはコア層である。図1に示すように、本例の足場材料において、前記表面層a1およびa2の厚みは、それぞれ均一であり、コア層bの厚みも均一であった。他の浸漬時間および凍結処理温度で得られた足場材料についても、同様に、表面層およびコア層の厚みが、それぞれ均一であることが確認できた。
【0086】
(2)表面層およびコア層の厚み
前記各足場材料の断面写真から、コア層および表面層の厚みを測定した。コア層bは、切片あたり10点で厚みを測定し(n=2)、表面層は、上側表面層a1および下側表面層a2について、それぞれ、切片あたり5点で厚みを測定し(n=4)、それぞれの平均厚みを算出した。
【0087】
図2(A)のグラフに、前記ポリマー基材の浸漬時間と、前記足場材料における上側表面層および下側表面層との関係を示し、図2(B)のグラフに、前記浸漬時間と、前記足場材料における前記コア層の厚みとの関係を示す。図2の各グラフにおいて、横軸は、浸漬時間(秒)であり、縦軸は、厚み(μm)である。図2に示すように、浸漬時間が長くなるにしたがって、前記コア層は薄くなり、前記表面層は上下共に厚くなり(約170〜500μm)、前記足場材料の全体は厚くなった。この結果から、例えば、前記溶媒への浸漬時間によって、表面層、コア層および足場材料の厚みを調節できることがわかった。
【0088】
(3)表面層のポアサイズ
得られた前記各足場材料を、前述と同様に厚み方向に切断した。そして、各切片に、イオンスパッター(E−1010、日立製作所製)を用いて白金蒸着した。この蒸着切片について、前記上側表面層(a1)の表面を、SEM(Type−N、日立製作所製)を用いて撮影した。
【0089】
図3に、浸漬時間10秒、凍結処理温度−50℃の条件で作製した、前記足場材料のSEM写真を示す。図3は、前記足場材料における前記上側表面層の写真である。図3において、写真の右下に示すバーの長さは、100μmに相当する。図3に示すように、前記足場材料は、前記上側表面層において、均一なポアサイズであることが確認できた。前記足場材料の下側表面層においても、均一なポアサイズであることが確認できた。また、他の浸漬時間および凍結処理温度で得られた足場材料についても、同様に、各表面層において、それぞれ均一なポアサイズであることが確認できた。
【0090】
(4)ポアサイズと凍結処理温度との関係
前記(3)で得られた画像を、画像解析ソフト(Image J)を用いて解析し、前記平均ポアサイズを算出した。
【0091】
図4のグラフに、前記ポリマー基材の凍結処理温度と、前記平均ポアサイズとの関係(n=3)を示す。図4において、横軸は、凍結処理温度(℃)であり、縦軸は、前記上側表面層の平均ポアサイズ(μm)である。図4に示すように、前記凍結処理温度が高くなるにしたがって、前記平均ポアサイズは大きくなった。この結果から、例えば、前記凍結処理温度によって、ポアサイズを調節できることがわかった。
【0092】
(実施例2)
本例では、足場材料に細胞を播種して、培養開始18日後まで培養し、その増殖を確認した。
【0093】
(足場材料の作製)
前記ポリマー基材の浸漬時間を10秒とし、凍結処理温度を−50℃とした以外は、前記実施例1と同様にして、足場材料を作製した。この足場材料を、5mm×5mmの大きさに切断し、99.5v/v%エタノールに一晩浸漬した後、乾燥させた。
【0094】
(細胞の播種)
まず、10%ウシ胎児血清(FBS)含有MEM培地に、チャイニーズハムスター肺由来線維芽細胞(V79)を約7.7×10細胞/mLとなるように添加し、細胞懸濁液を調製した。30mLシリンジに、乾燥させた前記足場材料を入れ、前記細胞懸濁液10mLを満たした。前記シリンジの先端に一方弁を取り付け、プランジャーを引いて前記シリンジ内を減圧し、前記足場材料内の空気を除去した。前記シリンジを軽くタッピングし、シリンジ内の空気を除去した。この空気除去操作を3回繰り返し、さらに細胞懸濁液10mLを取り替えて、前述と同様にして、空気除去操作を3回繰り返した。前記細胞懸濁液を含浸させた前記足場材料と、10v/v%FBS含有MEM培地とを、培養フラスコに入れ、18日間培養した。前記培養は、はじめの1日間を静置培養とし、残りの期間を振とう培養とした。培養時における、培地交換は、後述する細胞増殖評価日に行った。
【0095】
(細胞増殖評価)
前記足場材料(n=10)について、以下のようにして、培養開始1、4、8、11、15および18日後に細胞増殖を評価した。すなわち、まず、前記足場材料をリン酸緩衝溶液(PBS)で軽く洗浄した。つぎに、前記足場材料を0.05w/v% トリプシン1mLに浸漬して、37℃で30分間処理し、前記足場材料から細胞を剥離した。得られた剥離細胞液を、電解液(商品名アイソトン、ベックマン・コールター社製)9mLに添加し、コールターカウンターを用いて、細胞数をカウントした。前記カウントは、10μm以上の浮遊物質を対象とした。
【0096】
図5のグラフに、前記細胞数の測定結果を示す。図5において、横軸は、培養開始からの日数(日)であり、縦軸は、細胞数(×10個)である。図5に示すように、培養日数と共に細胞数が増加した。この結果から、足場材料に播種した細胞の増殖が確認できた。
【0097】
同様に培養を行った後、前記足場材料についてギムザ染色を行った。この結果、前記足場材料の表面層に染色が確認され、培養日数に応じて、経時的に染色が濃くなったことから、前記表面層において、細胞が増殖していることが確認できた。
【0098】
(実施例3)
本例では、耳介形状の足場材料を作製した。
【0099】
(ポリマー基材の作製)
前記実施例1の前記P(LA/CL)を200℃に加温し、耳介形状の空洞を有するシリコン型の内部に注入した。前記シリコン型を氷水中に浸漬し、冷却により前記P(LA/CL)を硬化させた。硬化した前記P(LA/CL)を前記シリコン型から取り出し、耳介形状のポリマー基材とした。
【0100】
(足場材料の作製)
前記ポリマー基材の浸漬時間を1〜2秒とし、冷却棚の温度(凍結処理温度)を−80℃とした以外は、前記実施例1と同様にして、足場材料を作製した。
【0101】
(足場材料の形状評価)
得られた足場材料の形状を観察した。また、前記足場材料を、ミクロトーム刃を用いて切断し、その断面を、デジタルマイクロスコープ(VHX−900、キーエンス社製)で撮影した。
【0102】
図6に、前記足場材料の外観写真を示し、図7に、前記足場材料の断面写真を示す。図7(A)は、図6におけるI−I方向の断面の一部の写真であり、図7(B)は、他の部位の断面の一部の写真である。図6に示すように、得られた足場材料は、耳輪、舟状窩、耳甲介、耳垂等の複雑な耳介構造を有し、前記ポリマー基材とほぼ同形状に形成された。また、図7に示すように、前記足場材料は、全表面に多孔性の表面層(例えば、図7(B)の矢印で示す層)が形成され、多様な曲面を有する複雑な形状であるにもかかわらず、前記表面層の厚みがほぼ均一であった。このように、本発明の製造方法により、接着層を形成することなく、複雑な形状の足場材料を、容易に形成できた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の多孔性部材は、前述のようなペースト法によらず形成される多孔性部材である。このため、本発明の多孔性部材は、例えば、前記ペースト法で得られる多孔性部材とは異なり、コア層と多孔性の表面層との間に、部材の貼り合わせによる接着層を有しない形状となる。このような多孔性部材は、例えば、前述のような本発明の多孔性部材の製造方法により製造できる。すなわち、本発明の製造方法によれば、前記ポリマー基材を前記溶媒に浸漬後、前記ポリマー基材を凍結乾燥するのみで、前記ポリマー基材の表面を、容易に多孔化できる。これによって、コア層の表面に多孔性の表面層が一体化して形成された本発明の多孔性部材を製造できる。また、本発明の製造方法によれば、前記ポリマー基材の形状に影響されることなく、容易に、前記多孔性の表面層とコア層とが一体化した足場材料を形成可能である。このように、本発明によれば、接着層を有さない所望の形状の多孔性部材を容易に提供できるため、本発明は、例えば、再生医療の分野等において、足場材料等の提供に極めて有用といえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性の表面を有する多孔性部材であって、
コア層と多孔性の表面層とを有し、
前記コア層と前記表面層とは、同じポリマー原料で構成され、
前記コア層の表面に、前記表面層が一体化して形成され、
前記コア層と前記表面層との間に、接着層を有していないことを特徴とする多孔性部材。
【請求項2】
前記表面層の厚みが、10〜1000μmである、請求項1記載の多孔性部材。
【請求項3】
前記コア層が、非多孔性である、請求項1または2記載の多孔性部材。
【請求項4】
前記コア層が、多孔性であり、前記コア層の気孔率が、前記表面層の気孔率よりも相対的に小さい、請求項1または2記載の多孔性部材。
【請求項5】
前記ポリマー原料が、生分解性ポリマーを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔性部材。
【請求項6】
前記生分解性ポリマーが、ラクチドとカプロラクトンとの共重合体である、請求項5記載の多孔性部材。
【請求項7】
前記多孔性部材の形状が、プレート状、柱状または管状である、請求項1から6のいずれか一項に記載の多孔性部材。
【請求項8】
前記多孔性部材の形状が、生体組織の全体または部分の形状である、請求項1から7のいずれか一項に記載の多孔性部材。
【請求項9】
前記多孔性部材の用途が、生体用部材である、請求項1から8のいずれか一項に記載の多孔性部材。
【請求項10】
前記多孔性部材の用途が、細胞の足場材料、ステントまたは癒着防止材である、請求項1から9のいずれか一項に記載の多孔性部材。
【請求項11】
前記多孔性部材の用途が、生体用補綴材である、請求項1から9のいずれか一項に記載の多孔性部材。
【請求項12】
ポリマー基材の表面を多孔化する多孔化方法であって、
下記(A)工程および(B)工程を含むことを特徴とする多孔化方法。
(A)前記ポリマー基材を、前記ポリマー基材を溶解可能な溶媒に浸漬する浸漬工程
(B)前記浸漬後のポリマー基材を、凍結乾燥する凍結乾燥工程
【請求項13】
前記(B)工程において、前記ポリマー基材を、前記溶媒に浸漬した状態で、凍結する、請求項12記載の多孔化方法。
【請求項14】
前記ポリマー基材を構成するポリマー原料が、生分解性ポリマーを含む、請求項12または13記載の多孔化方法。
【請求項15】
前記生分解性ポリマーが、ラクチドとカプロラクトンとの共重合体である、請求項14記載の多孔化方法。
【請求項16】
前記溶媒が、1,4−ジオキサンを含む溶媒である、請求項12から15のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項17】
前記(A)工程において、前記ポリマー基材を前記溶媒に浸漬する時間の調節によって、形成される前記表面層のポアサイズを制御する、請求項12から16のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項18】
前記(B)工程において、前記ポリマー基材の凍結処理温度の調節によって、形成される前記表面層のポアサイズを制御する、請求項12から17のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項19】
前記(A)工程において、前記ポリマー基材を前記溶媒に浸漬する時間の調節によって、形成される前記表面層の厚みを制御する、請求項12から18のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項20】
前記(B)工程において、前記ポリマー基材を一定速度で冷却する、請求項12から19のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項21】
前記ポリマー基材が、非多孔性の基材である、請求項12から20のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項22】
前記ポリマー基材の形状が、プレート状、柱状または管状である、請求項12から21のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項23】
前記ポリマー基材の形状が、生体組織の全体または部分の形状である、請求項12から22のいずれか一項に記載の多孔化方法。
【請求項24】
請求項12から23のいずれか一項に記載の多孔化方法により、ポリマー基材の表面を多孔化することを特徴とする多孔性部材の製造方法。
【請求項25】
請求項24記載の製造方法により製造される多孔性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−139898(P2011−139898A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273428(P2010−273428)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】