説明

多孔板吸音体及びその製造方法

【課題】経時変化等による劣化が抑制され、吸音特性及び外観特性に優れ、また、生産性に優れる多孔板吸音体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】板材に複数の微細な貫通孔21が形成されてなる多孔板2を備え、多孔板2の表面2aに、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように塗装薄膜3が形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔板吸音体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防音設備等に用いられ、多孔板吸音体からなる吸音パネルや、多孔板吸音体と多孔質吸音材とを組み合わせた吸音パネル等が知られている。このような多孔板吸音体は、樹脂や金属材料からなる板に複数の微細な貫通孔が形成され、この貫通孔によって吸音特性が高められている。
しかしながら、上述のような多孔板吸音体は、貫通孔の内部に細かな塵埃等が侵入しやすいため、貫通孔の内部に塵埃が付着し、吸音特性が低下するとともに、外観特性が劣化するという問題がある。
【0003】
また、各種表面処理及び塗装、並びに脱脂や熱処理等を施された金属板を用い、該金属板の表面に貫通穴を形成して多孔板吸音体を構成した場合、貫通孔の内壁には処理が施されていないため、貫通孔に侵入した塵埃が内壁に付着しやすいという問題がある。
【0004】
上記問題を解決するため、平板表面に等ピッチ又は不等ピッチで多数の貫通孔を設けて多孔板とし、多孔板表面に、細孔の開口部を覆うようにフィルムが設けられてなる多孔板吸音体が提案されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の多孔板吸音体によれば、多孔板に形成された貫通孔を塞ぐフィルムを設けた上記構成により、貫通孔内へのほこり等の侵入を防ぐことができるので、吸音特性や外観特性の低下を防止することができるというものである。
【特許文献1】特開2003−041528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の多孔板吸音体では、貫通孔を覆うフィルムを設ける際、フィルムを多孔板に固定せず、多孔板表面側に重ねるだけの構成とした場合、フィルムが破損し易く実用性に劣るという問題がある。また、フィルムを多孔板に固定せず、多孔板裏面側に重ねるだけの構成とした場合には、多孔板表面側が汚れ易くなるという問題がある。
また、貫通孔を覆うフィルムを設ける際、粘着材又は接着剤等を用いてフィルムを多孔板の表面側に貼り合わせた場合には工程増となり、コストアップの要因になるとともに、上述のようなフィルムを板表面に貼り合わせる場合には、フィルムの特性上、点接着とされるため、強度特性が劣るという問題がある。また、フィルムの全面に接着剤を塗布した場合には、貫通孔内において塵埃がフィルムに貼り付いてしまうという問題がある。
【0006】
また、特許文献1の多孔板吸音体のように、貫通孔をフィルムによって塞いだ構成とした場合、フィルムは高価であるためにコストアップの要因となる。また、このようなフィルムは、経時変化によって皺や破れ、剥離等の劣化が生じやすく、この場合、貫通孔内に塵埃が侵入してしまうという大きな問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、経時変化等による劣化が抑制され、吸音特性及び外観特性に優れ、また、生産性に優れる多孔板吸音体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述のような、フィルムが貼り合わされた多孔板吸音体における経時変化等の問題点に関して鋭意検討したところ、貫通孔が形成された金属多孔板上に、貫通孔の開口部を塞ぐように形成された塗装薄膜を設けることにより、経時変化による劣化が抑制され、且つ、吸音特性及び外観特性に優れた多孔板吸音体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の多孔板吸音体は、板材に複数の微細な貫通孔が形成されてなる多孔板を備え、該多孔板の少なくとも一方の面に、前記貫通孔の開口部を塞ぐように塗装薄膜が形成されてなることを特徴とする。
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記板材が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記板材の厚さが50〜300μmの範囲であることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記貫通孔の径が100〜200μmの範囲であることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記貫通孔の開口率が、前記多孔板の一方の面又は他方の面の各々に対して0.2〜20%の範囲とされていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記塗装薄膜の厚さが1〜10μmの範囲とされていることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記塗装薄膜が、フッ素樹脂又はポリエステル樹脂を含有する材料からなることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体においては、前記塗装薄膜は、前記多孔板上において、前記貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分が、前記開口部以外に形成されている部分よりも薄く形成されていることが好ましい。
【0011】
次に、本発明の多孔板吸音体の製造方法は、板材に複数の微細な貫通孔を形成して多孔板とし、該多孔板の少なくとも一方の面に、前記貫通孔の開口部を塞ぐようにして塗装薄膜を形成することを特徴とする。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記板材を、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板とすることができる。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記金属板からなる板材に対し、レーザー加工法又はエッチング法によって複数の微細な貫通孔を形成して前記多孔板を得ることが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記塗装薄膜を、刷毛塗布法、スプレー塗布法、ロールコーター法の内の何れかの方法で、多孔板に材料を塗布して形成することが好ましい。
また、本発明の多孔板吸音体の製造方法においては、前記塗装薄膜において前記貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分を、前記多孔板の板上に形成されている部分よりも薄く形成することが好ましい。
【0012】
上記本発明の多孔板吸音体によれば、多孔板の少なくとも一方の面に、貫通孔の開口部を塞ぐように塗装薄膜が形成されているので、貫通孔内への塵埃の侵入を防止でき、また、経時変化による劣化が抑制され、貫通孔による吸音作用が安定して得られる。さらに、多孔板が塗装薄膜によって保護されるので、手垢等が付着しにくく、また、多孔板に酸化しやすい金属材料を用いた場合でも変色を防止でき、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
また、板材が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなるので、高い強度特性が得られるとともに、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
また、貫通孔の径が100〜200μmの範囲とされているので、肉眼では孔が形成されているのが視認されず、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
また、塗装薄膜の厚さが1〜10μmの範囲とされているので、貫通孔への塵埃の侵入を防止できる一方、音は塗装薄膜を透過し、貫通孔が開放されている場合と同等の吸音特性が得られる。
また、塗装薄膜が、フッ素樹脂又はポリエステル樹脂を含有する材料からなるので、良好な外観特性及び意匠性が得られ、また、経時変化が抑制される。
また、塗装薄膜が、多孔板上において、前記貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分が、前記開口部以外に形成されている部分よりも薄く形成されているので、貫通孔内への塵埃の侵入を防止しつつ音がより効果的に透過され、安定した吸音作用が得られるとともに、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
【0013】
また、上記本発明の多孔板吸音体の製造方法によれば、多孔板の少なくとも一方の面に、貫通孔の開口部を塞ぐようにして塗装薄膜を形成するので、高い生産性で、良好な吸音特性及び外観特性を有する多孔板吸音体を製造することができる。
また、板材が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなるので、良好な外観特性及び意匠性、高い強度特性を有する多孔板吸音体を製造することができる。
また、金属板からなる板材に対し、レーザー加工法又はエッチング法によって複数の微細な貫通孔を形成して多孔板を得るので、均一な内壁面を有する貫通孔を効率良く形成でき、より良好な吸音特性を有する多孔板吸音体を高効率で製造することができる。
また、塗装薄膜を、刷毛塗布法、スプレー塗布法、ロールコーター法の内の何れかの方法で、多孔板に材料を塗布して形成するので、高い生産性で、安定した膜厚及び強度特性を有し、また、良好な外観特性及び意匠性を有する多孔板吸音体を製造することができる。
また、塗装薄膜において貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分を、多孔板の板上に形成されている部分よりも薄く形成するので、貫通孔内への塵埃の侵入を防止しつつ音がより効果的に透過され、安定した吸音作用有する多孔板吸音体を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、貫通孔への塵埃の侵入を効果的に防止でき、且つ、経時変化等による劣化が抑制され、優れた吸音特性及び外観特性に優れるとともに、生産性に優れる多孔板吸音体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明に係る多孔板吸音体及びその製造方法の実施形態について、図1〜5を適宜参照しながら説明する。なお、以下の説明において参照する図は、多孔板吸音体等の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さ、寸法等は、実際の多孔板吸音体等の寸法関係と異なる場合がある。
【0016】
図1は、本実施形態の多孔板吸音体の一例を示す断面模式図であり、図2は、本実施形態の多孔板吸音体の他例を示す断面模式図である。
図1に示す多孔板吸音体1は、板材20に複数の微細な貫通孔21が形成されてなる多孔板2と、この多孔板2の表面(一方の面)2aに、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように形成された塗装薄膜3とから構成されている。また、図2に示す多孔板吸音体10では、上記多孔板2の表面2aに加え、背面2b側にも塗装薄膜3が設けられている。
【0017】
多孔板2は、上述したように、板材20に、複数の微細な貫通孔21が形成されてなる。
板材20の材質としては、金属板、木質板、樹脂板、紙等が挙げられるが、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板を用いることが、高い強度特性や良好な外観特性、及び意匠性が得られる点から好ましい。
板材20の厚さは、50〜300μmの範囲とすることが好ましい。板材20の厚さが50μ未満だと、剛性が低すぎるため、商品としての実用化が困難となる。また、板材20の厚さが300μmを超えると、詳細を後述する貫通孔21の孔径を規定範囲(100〜200μm)とした場合の孔開け加工が困難になる虞がある。
【0018】
貫通孔21は、上述したように、板材20の厚み方向に貫通して複数形成される微細な孔であり、多孔板2の表面2a及び裏面2bの各々に開口部21aが開口している。このような、板材20を厚み方向に貫通して複数の貫通孔21を設けることにより、音が多孔板2を通過するのが可能な構成としている。また、貫通孔21は、音を通過するとともに、音を吸音する作用がある。
貫通孔21の開口径としては、肉眼では視認が難しい程度の小径とすることが好ましく、具体的には100〜200μmの範囲の径とすることが好ましい。貫通孔21の径がこの範囲内であれば、音の通過性及び吸音特性を有するとともに、多孔板2の外観の美観性を確保できることができる。
また、貫通孔21の平面視形状としては、特に限定されないが、真円形状、楕円形状、矩形状等の何れであっても良く、適宜採用することができる。ここで、貫通孔を真円形状とした場合には、その直径が開口の径になり、楕円形状とした場合は、その直径が開口の径となり、また、矩形状とした場合にはその長辺の長さが開口の径となる。
また、多孔板2の表面2a側には、多孔板2の美観性を向上させるため、例えば、絵や模様等のデザインが施されていても良く、また表面2aを鏡面仕上げとしても良い。
【0019】
さらに、貫通孔21の多孔板2上における開口率は、0.2%〜20%の範囲であることが好ましい。ここで貫通孔21の開口率とは、多孔板2の表面2a又は背面2bの各々の面積に対する貫通孔21の開口面積の割合である。開口率が0.2%以上であれば、音が多孔板2を効率良く通過し、また、安定した吸音作用が得られる。また、開口率が20%以下であれば、貫通孔21が目立たず、多孔板吸音体の外観の美観性が損なわれる虞がない。
【0020】
塗装薄膜3は、上述したように、多孔板2の少なくとも一方の面に、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように形成され、図1に示す例では、多孔板2の表面2a側に設けられており、また、図2に示す例では、表面2aに加え、背面2b側にも塗装薄膜3が設けられている。
塗装薄膜3の厚さは1〜10μmの範囲とされていることが好ましい。塗装薄膜3の厚さが1μm未満だと、強度が不足して破れ易くなる。また、塗装薄膜3の厚さが10μmを超えると、音が透過しにくくなり、多孔板2に形成された貫通孔21を音が通過できないため、充分な吸音作用が得られなくなる。
【0021】
塗装薄膜3の材質としては、特に限定されないが、フッ素樹脂又はポリエステル樹脂を含有する材料からなることが好ましい。例えば、塗装薄膜3にフッ素樹脂を含有する材料を用いる場合には、外壁等の建材に使用されるようなフッ素樹脂塗料等を用いることができる(例えば、アレスフロン(登録商標):関西ペイント株式会社製等)。また、塗装薄膜3にポリエステル樹脂を含有する材料を用いる場合には、例えば、油脂や、エポキシ樹脂等の他の樹脂が反応に加えられたアルキド樹脂を主成分とする材料を用いることができる(例えば、ソルレス(登録商標):浜二ペイント株式会社製等)。
塗装薄膜3に上記材料を用いることにより、良好な外観特性及び意匠性が得られ、また、経時変化による変質が抑制されるので、良好な吸音特性並びに外観特性を長期に渡って維持することが可能となる。
【0022】
また、塗装薄膜は、図3に例示する断面模式図の塗膜薄膜30ように、多孔板2上において、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように形成されている閉塞部31の部分が、開口部21a以外に形成されている被覆部32の部分よりも薄く形成されていることがより好ましい。
ここで、閉塞部31は、多孔板2に貫通孔21が開口していることによって塗装薄膜30の両面側から溶剤が揮発することと、塗装薄膜30形成時の表面張力の作用により、薄く形成される部分である。
塗膜薄膜30において、閉塞部31が被覆部32よりも薄肉に形成されていることにより、開口部21aを塞ぐ閉塞部31は強度を維持しながら音を効果的に透過できるので、貫通孔21及び多孔板吸音体1の背後に設けられる背後空気層(図5の符号Bを参照)によって音を吸音させることができ、一方、板上の被覆部32は充分な厚さと強度が確保される。
【0023】
閉塞部31の厚みは、この閉塞部31における各部分の厚さが1〜10μmの範囲内であれば良い。この際、被覆部32(塗膜薄膜30)の厚さは、上述したように1〜10μmの範囲であることが好ましいので、閉塞部31の厚さが1μmであって被覆部32の厚さが10μmだと、閉塞部31と被覆部32の厚さの差が最も大きくなり、この場合には両者の厚さの差が10倍となる。このように、塗装薄膜30における閉塞部31と被覆部32の厚さが上記規定範囲内とされ、閉塞部31が薄く形成されるとともに、被覆部32が厚く形成されていることにより、充分な強度及び対候性を維持しながら音を効果的に透過することが可能な塗装薄膜が得られる。
【0024】
なお、塗装薄膜3は、多孔板2の表面2a側と背面2b側とで異なる厚さで構成しても良く、また、表背面をそれぞれ異なる材料から構成することもでき、適宜採用することが可能である。
【0025】
以下に、上述した多孔板吸音体1、10の製造方法の一例について、図4(a)〜(d)に示す工程図を用いて説明する。
本実施形態の多孔板吸音体1の製造方法は、板材20に複数の微細な貫通孔21を形成して多孔板2とし、この多孔板2の少なくとも一方の面(図2に示す表面2a及び/又は背面2b)に、貫通孔21の開口部21aを塞ぐようにして塗装薄膜3を形成する方法である。
【0026】
まず、図4(a)に示すような、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなる板材20を用意し、この板材20の表面20a及び背面20bに各種表面処理を施した後、従来公知の金属用塗料を用いて板材塗装を行い、次いで、脱脂処理等を施した後、紫外線照射又は熱処理によって乾燥させる。
【0027】
次いで、図4(b)に示すように、金属板からなる板材20に対し、レーザー加工法又はエッチング法を用いて、径が100〜200μmの微細な貫通孔21を形成し、多孔板2を得る。この際、貫通孔21の合計の開口面積の、板材20の表面20a又は背面20bの面積に対する開口率は、0.2%〜20%の範囲で適宜設定できる。また、形成した貫通孔21の内壁面21bには、特に表面処理等を施す必要は無い。また、板材20への貫通孔21の加工方法としては、サンドブラスト処理法を用いることも可能である。
【0028】
次いで、図4(c)に示すように、貫通孔21が形成されてなる多孔板2の表面2a側に塗装薄膜3を形成する。塗装薄膜3は、上述したようなフッ素樹脂又はポリエステル樹脂を含有する材料を、刷毛塗布法、スプレー塗布法、ロールコーター法の内の何れかの方法によって多孔板2の表面2a上に塗布した後、乾燥処理を施して形成する。この際の塗布回数としては、塗装薄膜3が目的の膜厚となるように、複数回として行なうことができる。
【0029】
なお、塗装薄膜3を、上述のような方法を用いて、樹脂材料を塗布して形成する際には、塗布及び乾燥後の塗装薄膜3が良好な成膜状態となるように、塗布条件を適宜設定することが好ましい。このような塗布条件としては、例えば、上記樹脂材料の粘度や濃度、温度、使用される分散媒体や添加物等の他、多孔板2の温度や表面処理状態等が挙げられる。
また、成膜後の塗装薄膜3の厚さは、塗布する樹脂材料の濃度及び粘度、多孔板2及び樹脂材料の温度、塗布回数等によって制御することが可能である。
【0030】
さらに、本実施形態の製造方法では、図4(d)に示すように、上述のような多孔板2の表面2a側への塗装薄膜3の形成に加え、さらに、背面2b側へも塗装薄膜3を形成することにより、図2に例示するような多孔板吸音体10が得られる。この場合には、図4(c)に示す塗装薄膜3の形成工程と同様の方法で塗装薄膜3を形成することができる。
【0031】
なお、本実施形態の製造方法では、塗装薄膜を、図3に例示する塗装薄膜30のように、貫通孔21の開口部21aを塞ぐ閉塞部31の部分を、多孔板2の板上に形成された被覆部32の部分よりも薄く形成する場合、例えば、塗料に含有される溶剤の量や種類等を適宜選定することにより、溶媒が揮発した後の閉塞部31の部分を薄肉に形成することが可能である。また、この際、多孔板2の表面2aに塗布された材料は、下記に説明する理由により、貫通孔21の内壁面21bに付着することは無く、塗装薄膜30(閉塞部31)は、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように形成される。
【0032】
本実施形態のように、金属板からなる板材2が用いられてなる多孔板2は、多孔板2の表面2a及び背面2bには上述の各種表面処理が施されているのに対し、特に表面処理が施されていない貫通孔21の内壁面21bは粗面であるため、親水性、濡れ性が非常に低い状態の面となる。このため、図4(c)、(d)に示すような塗装薄膜の形成工程において、塗布された材料は貫通孔21の内壁面21bには付着せず、多孔板2の表面2a(背面2b)にのみ付着するので、図1〜3に示すような、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように形成される塗装薄膜が得られる。
【0033】
本実施形態の多孔板吸音体1、10は、例えば、図5(a)、(b)に例示するような所定の枠体Aに取り付け、必要に応じて、多孔板吸音体1(10)の背後に設けられる背後空気層Bにグラスウール等の多孔質吸音材が配置された吸音パネルを構成することができる。
【0034】
また、本実施形態の多孔板吸音体1(10)、又は、多孔板吸音体1(10)が用いられてなる吸音パネルを、防音処理を施す場所に設置した場合には、以下のような作用が得られる。
図1に例示するような、多孔板2の表面2a側のみに塗装薄膜3が設けられた多孔板吸音体1を用いる場合には、塗装薄膜3が設けられた表面2a側を音源側として配置する。この際、塗装薄膜3が設けられた表面2a側からは、貫通孔21に塵埃が侵入することがなく、また、音源から発せられる音は塗装薄膜3を効果的に透過し、貫通孔21を通過するとともに、貫通孔21によって吸音され、さらに、吸音パネルに設けられる背後空気層(図5の符号B参照)によって吸音される。
また、図2に例示するような、多孔板2の表面2a側に加え、さらに背面2b側にも塗装薄膜3が設けられた多孔板吸音体10を用いる場合には、多孔板2の両面に塗装薄膜3が設けられているので、表面2a及び背面2bのどちらの面を音源側に配しても良く、また、どちらの面からも貫通孔21に塵埃が侵入することが無い。また、音源から発せられる音は、多孔板2の両面に設けられた塗装薄膜3を効果的に透過するので、貫通孔21による吸音作用が安定して得られ、さらに、吸音パネルに設けられる背後空気層によって効果的に吸音される。
【0035】
以上説明したような本実施形態の多孔板吸音体1によれば、多孔板2の表面2aに貫通孔21の開口部21aを塞ぐように塗装薄膜3が形成されており、また、多孔板吸音体10によれば、多孔板2の表面2a側に加え、さらに背面2b側にも塗装薄膜3が形成されているので、貫通孔21内への塵埃の侵入を防止でき、また、経時変化による劣化が抑制され、貫通孔21による吸音作用が安定して得られる。さらに、多孔板2が塗装薄膜3によって保護されるので、手垢等が付着しにくく、また、多孔板2(板材20)に銅等の酸化しやすい金属材料を用いた場合でも変色するのを防止でき、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
また、板材20が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなるので、高い強度特性が得られるとともに、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
また、貫通孔21の径が100〜200μmの範囲とされているので、肉眼では孔が形成されているのが視認されず、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
また、塗装薄膜3の厚さが1〜10μmの範囲とされているので、貫通孔21への塵埃の侵入を防止できる一方、音は塗装薄膜3を透過し、貫通孔21が開放されている場合と同等の吸音特性が得られる。
また、塗装薄膜3が、フッ素樹脂又はポリエステル樹脂を含有する材料からなるので、良好な外観特性及び意匠性が得られ、また、経時変化が抑制される。
さらに、塗装薄膜3は、貫通孔21の開口部21aを塞ぐように形成されている閉塞部31が、多孔板2の板上に形成されている被覆部32よりも薄く形成されているので、貫通孔21内への塵埃の侵入を防止しつつ音がより効果的に透過され、安定した吸音作用が得られるとともに、良好な外観特性及び意匠性が得られる。
【0036】
また、上記本実施形態の多孔板吸音体1の製造方法によれば、多孔板2の少なくとも一方の面(図2に示す表面2a及び/又は背面2b)に、貫通孔21の開口部21aを塞ぐようにして塗装薄膜3を形成するので、高い生産性で、良好な吸音特性及び外観特性を有する多孔板吸音体1(10)を製造することができる。
また、板材2が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなるので、良好な外観特性及び意匠性、高い強度特性を有する多孔板吸音体1(10)を製造することができる。
また、金属板からなる板材2に対し、レーザー加工法又はエッチング法によって複数の微細な貫通孔21を形成して多孔板2を得るので、均一な内壁面21bを有する貫通孔21を効率良く形成でき、より良好な吸音特性を有する多孔板吸音体1(10)を高効率で製造することができる。
また、塗装薄膜3を、刷毛塗布法、スプレー塗布法、ロールコーター法の内の何れかの方法で、多孔板2に上記材料を塗布して形成するので、高い生産性で、安定した膜厚及び強度特性を有し、また、良好な外観特性及び意匠性を有する多孔板吸音体を製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明に係る多孔板吸音体及びその製造方法について、実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
本実施例では、下記表1に示す条件で、各材質の金属板からなる板材に貫通孔を形成して多孔板とし、この多孔板の片面又は両面に樹脂塗料を塗布して塗装薄膜を形成することにより、各実施例及び比較例の多孔板吸音体のサンプルを作製した。
そして、これら多孔板吸音体のサンプルを、平面視で600mm×600mmのパネル形状とし、図5(a)、(b)に示すようなステンレス鋼及びアルミニウム部材からなる枠体Aに、塗装薄膜(図中、符号3参照)側を外側の面としてねじ止め固定し、吸音パネルとした。この際、背後空気層Bの厚さは50mmとし、この背後空気層Bにはグラスウール等を充填せずに空の状態とした。
【0039】
そして、上記多孔板吸音体のサンプルを直径100mmに切り出し、背後空気層=50mm、音源周波数=1kHzにおける垂直入射吸音率の測定を、多孔板吸音体のサンプルを作製した直後と6ヶ月経過後の計2回行い、初期特性と経時変化について評価した。また、これと同時に、多孔板吸音体に塗装薄膜形成面から素手で触り、その後の外観変化の有無を、多孔板吸音体の表面から1mの距離の位置で目視確認した。
各実施例及び比較例の多孔板吸音体サンプル製造条件、及び垂直入射吸音率の測定結果の一覧を下記表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
[実施例1]
図4(a)に示すように、予めデザイン処理を施したステンレス鋼(SUS304)からなる厚さ0.1mm(100μm)の板材を用意し、この板材に対して、図4(b)に示すように、エッチング法を用いて複数の貫通孔を形成し、多孔板を製造した。この際、貫通孔の平均開口径を0.17mmとし、ピッチを2mm、開口率を0.9%とした。
次いで、図4(c)に示すように、多孔板の表面側(図中において符号2a側)に、ポリエステル樹脂塗料(ソルレス(登録商標):浜二ペイント株式会社製)をスプレーで塗布した後に乾燥処理し、厚さ5μmの塗装薄膜を形成した。以上のような方法により、実施例1の多孔板吸音体を作製した。
【0042】
そして、実施例1の多孔板吸音体を、図5に示すような枠体Aに取り付けた状態とし、上述した条件で垂直入射吸音率を測定するとともに、目視による外観確認を行なった。
実施例1における垂直入射吸音率の測定結果を表1に示すとともに、図6(a)にサンプル作製直後の垂直入射吸音率の特性グラフを示し、図6(b)に6ヶ月経過後の垂直入射吸音率の特性グラフを示す。
【0043】
表1及び図6(a)、(b)に示すように、実施例1の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が88%と非常に優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が89%と、経時変化による劣化がほとんど見られなかった。
また、実施例1の多孔板吸音体は、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
これは、本発明に係る実施例1の多孔板吸音体が、上記構成の塗装薄膜を設けることにより、貫通孔に塵埃等が侵入することが無いため、経時変化で吸音特性及び外観特性が劣化するのが抑制されているためと考えられる。
【0044】
[実施例2]
実施例2では、多孔板の片面側に塗布する樹脂塗料としてフッ素樹脂塗料(アレスフロン(登録商標):関西ペイント株式会社製)を用い、厚さ3μmの塗装薄膜を形成した点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例2における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0045】
表1に示すように、実施例2の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が88%と優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が88%と、経時変化による劣化がほとんど見られなかった。
また、実施例2の多孔板吸音体は、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
これは、実施例1と同様、実施例2の多孔板吸音体が、塗装薄膜を設けることによって貫通孔に塵埃等が侵入することが無いため、経時変化で吸音特性及び外観特性が劣化するのが抑制されているためと考えられる。
【0046】
[実施例3]
実施例3では、板材に用いる金属板を銅板とした点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例3における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0047】
表1に示すように、実施例3の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が89%と優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が89%と、経時変化による劣化がほとんど見られなかった。
また、実施例3の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0048】
[実施例4]
実施例4では、板材に用いる金属板を銅板とした点を除き、実施例2と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1、2と同様の測定を行なった。
実施例4における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0049】
表1に示すように、実施例4の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が88%と優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が89%となり、経時変化による劣化が見られなかった。
また、実施例4の多孔板吸音体は、実施例1、2と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0050】
[実施例5]
実施例5では、ステンレス鋼(SUS304)からなる板材に形成する貫通孔の径を0.1mmとし、また、ピッチを1mmとした点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例5における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示すとともに、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率の特性グラフを図7に示す。
【0051】
表1及び図7に示すように、実施例5の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が93%と非常に優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が92%であり、経時変化による劣化がほとんど見られなかった。
また、実施例5の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0052】
[実施例6]
実施例6では、多孔板の両面に塗装薄膜を形成した点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例6における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示すとともに、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率の特性グラフを図8に示す。
【0053】
表1及び図8に示すように、実施例6の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が88%と優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が89%と、経時変化による劣化が見られなかった。
また、実施例6の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0054】
[実施例7]
実施例7では、多孔板の表面側に形成する塗装薄膜の厚さを10μmとした点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例7における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0055】
表1に示すように、実施例7の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が88%と優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が88%と、経時変化による劣化が見られなかった。
また、実施例7の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0056】
[実施例8]
実施例8では、多孔板に用いるステンレス鋼(SUS304)からなる板材の厚さを0.05mmとした点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例8における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0057】
表1に示すように、実施例8の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が65%となり、多孔板の厚さが薄いために実施例1ほどの高い吸音特性は得られなかった。しかしながら、実施例8では、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が64%であり、実施例1と同様、経時変化による劣化はほとんど見られなかった。
また、実施例8の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0058】
[実施例9]
実施例9では、多孔板に用いるステンレス鋼(SUS304)からなる板材の厚さを0.3mmとした点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例9における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0059】
表1に示すように、実施例9の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が94%と非常に優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が94%と、経時変化による劣化が見られなかった。
また、実施例9の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
実施例9の多孔板吸音体は、多孔板の厚さが0.3mmと肉厚であり、また貫通孔も長めであるため、非常に優れた垂直入射吸音率が得られたものと考えられる。
【0060】
[実施例10]
実施例10では、多孔板の表面側に形成する塗装薄膜の厚さを1μmとした点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
実施例10における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示す。
【0061】
表1に示すように、実施例10の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が88%と優れた特性を示し、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が88%と、経時変化による劣化が見られなかった。
また、実施例10の多孔板吸音体は、実施例1と同様、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0062】
[比較例1]
比較例1では、多孔板の表面側及び裏面側の何れにも塗装薄膜を設けなかった点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
比較例1における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示すとともに、垂直入射吸音率の特性グラフを図9に示す。
【0063】
表1及び図9に示すように、比較例1の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が91%と比較的優れた特性を示したものの、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が35%と、非常に大きな劣化が見られた。これは、比較例1の多孔板吸音体が塗装薄膜を持たないことから、6ヶ月の間に多孔板の貫通孔に塵埃が侵入し、貫通孔による吸音作用が著しく低下したためと考えられる。
また、比較例1の多孔板吸音体は、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に素手で触った後の状態を目視確認したところ、指紋とほこりが入り混じった汚れが目立つ外観となり、大きな変化が視認された。これは、上記同様、6ヶ月の間に多孔板の貫通孔に塵埃が侵入し、素手で触った際に、ほこりと指先の油脂分等が入り混じったものが変質することにより、汚れが目立つ外観となったものと考えられる。
【0064】
[比較例2]
比較例2では、板材に用いる金属板を銅板として多孔板を作製し、この多孔板の表面側に、フッ素樹脂からなる塗装薄膜を15μmの厚さで形成した点を除き、実施例1と同様にして多孔板吸音体を作製し、また、実施例1と同様の測定を行なった。
比較例2における垂直入射吸音率の測定結果を表1に結果を示すとともに、垂直入射吸音率の特性グラフを図10に示す。
【0065】
表1及び図10に示すように、比較例2の多孔板吸音体が取り付けられた吸音パネルは、サンプル作製直後の垂直入射吸音率が35%と非常に低く、また、6ヶ月経過後の垂直入射吸音率が30%であった。これは、比較例2の塗装薄膜が15μmと厚すぎ、音が塗装薄膜を透過し難いため、貫通孔による吸音作用が得られなかったものと考えられる。
一方、比較例2の多孔板吸音体は、フッ素樹脂からなる塗装薄膜が設けられているため、枠体Aに取り付けられて吸音パネルとされてから6ヶ月経過後に指で触った後の外観変化がほとんど無く、経時変化による劣化はみられなかった。
【0066】
以上の結果により、本発明で得られる多孔板吸音体が、貫通孔への塵埃の侵入を効果的に防止でき、また、経時変化等による劣化が抑制され、吸音特性及び外観特性に優れることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の多孔板吸音体の一例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の多孔板吸音体の他例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の多孔板吸音体に備えられる塗装薄膜の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明の多孔板吸音体の製造方法の一例を説明する模式工程図であり、(a)は板材に表面処理を行う工程を示し、(b)は板材に貫通孔を形成して多孔板とする工程、(c)は多孔板の表面側に塗装薄膜を形成する工程、(d)は多孔板の裏面側に塗装薄膜を形成する工程である。
【図5】本発明の多孔板吸音体の実施例を説明するための模式図であり、(a)は多孔板吸音体を枠体に取り付けた状態を示す断面図、(b)は(a)の平面図である。
【図6】本発明の多孔板吸音体の実施例を説明するための模式図であり、垂直入射吸音率の特性を示すグラフである。
【図7】本発明の多孔板吸音体の実施例を説明するための模式図であり、垂直入射吸音率の特性を示すグラフである。
【図8】本発明の多孔板吸音体の実施例を説明するための模式図であり、垂直入射吸音率の特性を示すグラフである。
【図9】本発明の多孔板吸音体の実施例を説明するための模式図であり、垂直入射吸音率の特性を示すグラフである。
【図10】本発明の多孔板吸音体の実施例を説明するための模式図であり、垂直入射吸音率の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
1、10…多孔板吸音体、2…多孔板、2a…表面(一方の面)、2b…背面(他方の面)、20…板材、20a…表面、20b…裏面、21…貫通孔、21a…開口部、21b…内壁面、3、30…塗装薄膜、31…閉塞部(貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分)、32…被覆部(多孔板の板上に形成されている部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材に複数の微細な貫通孔が形成されてなる多孔板を備え、
該多孔板の少なくとも一方の面に、前記貫通孔の開口部を塞ぐように塗装薄膜が形成されてなることを特徴とする多孔板吸音体。
【請求項2】
前記板材が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板からなることを特徴とする請求項1に記載の多孔板吸音体。
【請求項3】
前記板材の厚さが50〜300μmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔板吸音体。
【請求項4】
前記貫通孔の径が100〜200μmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔板吸音体。
【請求項5】
前記貫通孔の開口率が、前記多孔板の一方の面又は他方の面の各々に対して0.2〜20%の範囲とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔板吸音体。
【請求項6】
前記塗装薄膜の厚さが1〜10μmの範囲とされていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の多孔板吸音体。
【請求項7】
前記塗装薄膜が、フッ素樹脂又はポリエステル樹脂を含有する材料からなることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の多孔板吸音体。
【請求項8】
前記塗装薄膜は、前記多孔板上において、前記貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分が、前記開口部以外に形成されている部分よりも薄く形成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の多孔板吸音体。
【請求項9】
板材に複数の微細な貫通孔を形成して多孔板とし、
該多孔板の少なくとも一方の面に、前記貫通孔の開口部を塞ぐようにして塗装薄膜を形成することを特徴とする多孔板吸音体の製造方法。
【請求項10】
前記板材が、ステンレス鋼又は銅を含有する金属板であることを特徴とする請求項9に記載の多孔板吸音体の製造方法。
【請求項11】
前記金属板からなる板材に対し、レーザー加工法又はエッチング法によって複数の微細な貫通孔を形成して前記多孔板を得ることを特徴とする請求項10に記載の多孔板吸音体の製造方法。
【請求項12】
前記塗装薄膜を、刷毛塗布法、スプレー塗布法、ロールコーター法の内の何れかの方法で、多孔板に材料を塗布して形成することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の多孔板吸音体の製造方法。
【請求項13】
前記塗装薄膜において前記貫通孔の開口部を塞ぐように形成されている部分を、前記多孔板の板上に形成されている部分よりも薄く形成することを特徴とする請求項9〜12の何れか1項に記載の多孔板吸音体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−233792(P2008−233792A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77043(P2007−77043)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】