説明

多孔積層体の製造方法および多孔積層体

【課題】 厚さ方向に連通性を持たせることができる多孔積層体を提供する。
【解決手段】 少なくとも充填剤と熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなる層を両側外層に有し、エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなり充填剤を含まない中間層が前記両側外層に挟まれている少なくとも3層構造の積層体を作製する工程と、
得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させ、次いで該状態から逸脱させて前記流体を気化させることにより中間層を多孔化する工程と、
少なくとも一軸方向に延伸することにより充填剤と熱可塑性樹脂との界面を剥離させて両側外層を多孔化する工程とをこの順序で含むことを特徴とする多孔積層体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔積層体の製造方法および該製造方法により得られる多孔積層体に関し、包装用品、衛生用品、畜産用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シートまたは電池用セパレーターとして好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
この種の多数の微細連通孔を有する高分子多孔体は、超純水の製造、薬液の生成、水処理などに使用する分離膜、衣類・衛生材料などに使用する防水透湿性フィルム、あるいは電池などに使用する電池セパレーターなど各種の分野で利用されている。
【0003】
この種の高分子に微細な連通孔を多数作る技術としては下記に記載するような、種々の技術が提案されている。
例えば、特開平5−25305号公報(特許文献1)では超高分子量ポリエチレンと溶媒を混練・シート化し、延伸処理したのち溶媒を抽出することにより多孔膜が得ている。
しかしながら、この方法では多孔膜表面にフィラーが無いので単位面積あたりの質量(坪量)は小さいものの、多孔膜表面に適度な凹凸が存在しないので多孔膜の滑り性が低いという欠点がある。さらに、当該方法では溶媒の抽出が洗浄用の有機溶媒で洗浄することにより行われるが(0045欄等)、この際に有機溶媒が大量に必要となるので環境的な側面から好ましくない。
【0004】
特開平10−50286号公報(特許文献2)では、高融点ポリオレフィンのフィルムと低融点ポリオレフィンのフィルムとを、それぞれ熱処理して複屈折および弾性回復率を調整した後、熱圧着して三層以上の積層フィルムを得、該積層フィルムを2段で延伸して多孔化した後熱固定することにより、電池用セパレーターとして用いる多孔性フィルムを製造している。
当該多孔性フィルムは連通性も耐熱性もあるものの、特許文献1と同様にフィラーが表面になく、ゆえにフィルム表面に適度な凹凸が存在しないので、フィルムの滑り性が低いという欠点がある。さらに、一般的に単一ポリマーによる開孔延伸法と呼ばれている当該多孔性フィルムの製造方法においては延伸温度や延伸倍率、多段延伸等の延伸条件で好ましい多孔構造を得ることができる条件が非常に狭く(0025欄〜0028欄等)、工業的規模で生産する際の工程管理を考えると好ましくない。
【0005】
特許3166279号(特許文献3)では、ポリオレフィン樹脂とフィラー等を含む樹脂組成物をインフレーション成形し、得られたフィルム又はシートをその引き取り方向に一軸延伸することにより連通性をもつ多孔性フィルム又はシートが得られることが提案されている。
同じく特開2004−95550号公報(特許文献4)でもリチウム二次電池用セパレーターとして用いる多孔性フィルムを、熱可塑性樹脂とフィラーとを含む樹脂組成物から成形したシートを少なくとも一軸方向に延伸することにより得ている。
これらの方法により得られる多孔性フィルム又はシートでは、表面にフィラーがあることにより適度な凹凸が存在し、フィルムの滑り性が高くなるものの、全層にフィラーが存在していることにより単位面積あたりの質量(坪量)が大きくなる欠点がある。
【0006】
表面の粗面性をある程度保ちながら秤量を小さくするために、特開平11−060792号公報(特許文献5)には表面のみにフィラー等の微粒子粗面化剤を含有させたポリエチレン樹脂製多孔性フィルムが記載されている(請求項11,12、0018欄)。
しかし、当該多孔性フィルムはポリエチレン樹脂がベースとなっており、耐熱性をさらに向上させる余地がある。また、当該多孔性フィルムの製造において多孔化は可塑剤の除去により行われており(請求項10〜12等)、特許文献1に記載の発明と同様、可塑剤の除去のために有機溶媒が大量に必要であるので環境への負荷がより少なくなるように検討を加える余地がある。
【0007】
前述の特許文献1〜5に記載の多孔性フィルムはそれぞれ特徴を持つものの、フィルムの滑り性、軽量化、耐熱性、環境への低負荷という全ての点では十分なものは無く、改良の余地がある。
【0008】
これに対して亜臨界または超臨界流体を使用する発泡技術が知られている。具体的には、ポリマーに亜臨界または超臨界流体を含浸させ飽和状態にし、その後急激な圧力の低下等で過飽和状態を作り出し、過飽和の気体が発泡するのを利用するものである。当該方法は細かくて均質な発泡が得られ、また二酸化炭素や窒素等の不活性ガスの亜臨界または超臨界流体を用いれば環境への負荷が極めて少ないという利点がある。
しかし、ポリマーの表面付近では急激な圧力の低下等が起きたときに過飽和状態とならず、直ちに拡散・蒸発により表面から気体が放出されるため、発泡を生じない領域、いわゆるスキン層が必ず存在する。このために、厚さ方向に連通性を有する微小孔をもつ多孔積層体を作ることはできなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平5−025305号公報
【特許文献2】特開平10−50286号公報
【特許文献3】特許3166279号
【特許文献4】特開2004−95550号公報
【特許文献5】特開平11−060792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、亜臨界または超臨界流体を利用する際の課題であった表面のスキン層をなくして厚さ方向に連通性を持たせることができ、かつ、亜臨界または超臨界流体を利用することにより、環境に対する負荷が少なく、製造条件の幅が広くて工程管理が行いやすい多孔積層体の製造方法を提供することを課題としている。
さらに、本発明は、滑り性、軽量化および耐熱性の全てを兼ね備えた多孔積層体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、第一の発明として、
厚さ方向に連通性を有する微小孔が多数存在する多孔積層体の製造方法であって、
少なくともフィラーと熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなる両側外層の間に、エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなると共にフィラーを含まない中間層を配置する少なくとも3層の積層体を作製する工程と、
前記工程で作製した積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させた後に、前記超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより中間層に微小孔を形成して多孔化する工程と、
前記工程で中間層を多孔化した後に、該積層体を延伸処理して前記両側外層のフィラーと熱可塑性樹脂との界面を剥離させて微小孔を形成して該両側外層を多孔化して、該微小孔を前記中間層の微小孔と連通させる工程と、
を備えることを特徴とする多孔積層体の製造方法を提供している。
【0012】
本発明は発明者らが鋭意研究および実験を繰り返して知見した結果に基づいてなされたものである。
即ち、本発明者らは、まず、亜臨界または超臨界流体を利用して多孔化する研究・実験を行い、種々の検討を加えたが、前記した問題の表面にスキン層が生じることは回避できなかった。
そこで、本発明者らは、亜臨界または超臨界流体を利用して多孔化する層の表面に無孔層を設けて、所謂、蓋をすることにより、中間層と外側表面の無孔層とに連通する微小孔を有する多孔積層体を得ることができることを知見した。
即ち、積層体に亜臨界または超臨界流体を含浸させ、次いで、急激な圧力の低下等を発生させた時に、中間層を外側の無孔層で蓋をしているため、中間層の表面から気体が蒸散することなく、中間層の表面において過飽和状態を作り出すことができ、その結果、中間層に微小孔を作製することに成功した。その後、蓋となる無孔層を公知技術で微小孔を設けて多孔化すると、中間層の微小孔と厚さ方向に連通性を有する微小穴を有する多孔積層体を得ることができた。
【0013】
さらに、前記方法で製造された多孔積層体は、フィラーが表面のみに局在していることにより適度な凹凸が存在し高い滑り性が確保されつつも単位面積あたりの質量を大きく増加させることがなく、さらに中間層にポリプロピレン樹脂組成物を用いているため優れた耐熱性を発揮でき、上記課題を一挙に解決できることを知見した。
【0014】
本発明の製造方法では、前記したように、まず、第1工程において、エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる中間層と、両側外面に位置すると共に少なくともフィラーと熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなる両側外層との少なくとも3層からなる積層体を作製している。
【0015】
前記エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる中間層では、ポリプロピレン樹脂組成物中のエチレン−プロピレンゴムの含有量は5〜95質量%であることが好ましい。エチレン−プロピレンゴムの含有量が5質量%未満であると、亜臨界または超臨界流体の含浸量が少なくなり、十分な連通性を得ることが困難となる。一方、エチレン−プロピレンゴムの含有量が95質量%を越えると、ポリプロピレン樹脂組成物が柔らかくなりすぎて強度が保てず、また亜臨界または超臨界流体流体が中間層にとどまることができず脱気してしまい、中間層を十分に多孔化できないおそれがある。
【0016】
エチレン−プロピレンゴムは、エチレンとプロピレンの二元共重合体と、さらに第3成分としての非共役ジエンモノマーを少量含む三元重合体の2種類に大別され、本発明においてはいずれを用いてもよい。前記非共役ジエンモノマーとしては、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンまたはヘキサジエンなどが挙げられる。
エチレン−プロピレンゴムとしては、ゴム全体に対するエチレン含有率が7〜80質量%であるエチレン−プロピレンゴムが好ましく、10〜60質量%であるエチレン−プロピレンゴムがより好ましい。
エチレン−プロピレンゴムの含有量またはエチレン−プロピレンゴム中のエチレン含有率を調整することにより中間層を構成するポリプロピレン樹脂組成物全体に対するエチレン含有率を5〜95質量%とすることが好ましい。
【0017】
前記エチレン−プロピレンゴムが配合されるポリプロピレンにはホモポリマーとコポリマーがあり、更にコポリマーにはランダムコポリマーとブロックコポリマーがある。ホモポリマーはプロピレン単独重合体であり、アイソタクティックないしはシンジオタクティックおよび種々の程度の立体規則性を示すポリプロピレンである。一方、コポリマーとしては、プロピレンを主成分とし、これとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテンまたは1−デセン等のα−オレフィンとの共重合体が使用される。この共重合体は2元系でも3元系でも4元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体であってもよい。
【0018】
中間層を構成するポリプロピレン樹脂組成物においては、ポリプロピレンにエチレン−プロピレンゴム以外の他の成分が配合されてもよい。前記他の成分としてはポリプロピレンホモポリマーよりも融点が低い樹脂が好適な例として挙げられ、より具体的には高密度あるいは低密度ポリエチレン等を例示することができる。前記他の成分の配合量はポリプロピレン樹脂組成物全体に対して2〜50質量%であることが好ましい。
中間層を構成するポリプロピレン樹脂組成物の製造方法による種類分けとしては、ポリプロピレンホモポリマーにエチレン−プロピレンゴムを二軸押出機のような混練機を用いてブレンドするコンパウンド型とエチレンとプロピレンを直接重合させる重合型が存在する。軟質成分であるエチレン−プロピレンゴムの分散性が良好なことから重合型の方が好ましい。
【0019】
更に、エチレン−プロピレンゴム成分の含有量を上げる方法として、市販のポリプロピレンコポリマーにエチレンプロピレンゴムをブレンドする方法もある。この場合は、二軸押出機等の混練機を使うと簡単にエチレンプロピレンゴム成分の含有量をあげることができる。
同様にポリプロピレンホモポリマーにエチレン−プロピレンゴムやポリエチレン等を二軸押出機等の混練機を使ってブレンドすることにより、好ましいエチレン−プロピレンゴム成分の含有率をもつポリプロピレン樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
前記中間層を構成する熱可塑性樹脂にはフィラーは含まれない。本発明は、フィラーを最外層に局存させることにより多孔積層体の滑り性を高く保ちながら、特に無機フィラーを使用した場合に単位面積あたりの質量を大きく増加させないことを目的としているからである。
しかし、中間層を構成する熱可塑性樹脂には、上述のような本発明の目的や中間層の特性を損なわない程度の範囲で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、スリップ剤または着色剤等を配合してもよい。
【0021】
本発明の多孔積層体において、両側外層を構成する熱可塑性樹脂としては、具体的にはポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としてはポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。本発明の多孔積層体を電池用セパレーターとして使用する場合は、電解液との安定性の観点から特にポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−へキセン、1−オクテンもしくは1−デセン等のモノオレフイン重合体、またはエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンもしくは1−デセンと4−メチル−1−ペンテンもしくは酢酸ビニル等の他のモノマーとの共重合体等を主成分とするものが挙げられる。なかでも、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリブテン、プロピレンエチレンブロック共重合体、プロピレンエチレンランダム共重合体等が好ましい。
【0022】
前記両側外層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンを主とし、具体的には少なくともポリエチレンを50質量部含み、好ましくは80質量部以上含み、より好ましくは95質量部以上含む熱可塑性樹脂を用いることが特に好ましい。
ポリエチレンはポリエチレンホモポリマーまたはポリエチレンコポリマーのいずれであっても良いが、ポリエチレンホモポリマーであることが好ましい。前記ポリエチレンコポリマーとしてはα−オレフィンコモノマー含量が2モル%以下のポリエチレンコポリマーが好ましい。なお、前記α−オレフィンコモノマーの種類には特に制限はない。
【0023】
前記ポリエチレンは、密度が0.92g/cm以上であることが好ましい。密度を0.92g/cm以上としているのは、層の厚さを5〜40μm程度の薄肉としても容易に裂けない所要の強度および剛性を付与するためである。ポリエチレンの密度は0.94g/cm以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、通常は0.97g/cmである。
また、前記ポリエチレンはメルトフローレートが10g/10分以下、好ましくは1g/10分以下である。メルトフローレートが10g/10分より大きいと多孔積層体の強度が低下する場合がある。
【0024】
ポリエチレンの重合方法として、一段重合、二段重合もしくはそれ以上の多段重合等があり、いずれの方法のポリエチレンも使用可能である。また、ポリエチレンの重合触媒には特に制限はなく、チーグラー型触媒、フィリップス型触媒、カミンスキー型触媒等いずれのものでも良い。
【0025】
また、本発明の両側外層においては、上述したポリエチレンを単独で用いても良いが、一般的な熱可塑性樹脂をポリエチレンに混合しても良い。
ポリエチレンに混合できる熱可塑性樹脂として、具体的にはポリエチレン以外のポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、アセタール樹脂またはポリカーボネート等の熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましくはポリプロピレン、ポリブテン、プロピレンエチレンブロック共重合体、プロピレンエチレンランダム共重合体等が挙げられる。ポリエチレンに混合できる熱可塑性樹脂は融点が140℃以上であることが好ましい。
このようにポリエチレンに他の熱可塑性樹脂を混合する場合は、当該他の熱可塑性樹脂の配合量はポリエチレン100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜25質量部、さらに好ましくは1〜5質量部とする。
【0026】
前記両側外層において上述の熱可塑性樹脂に配合されるフィラーとしては無機フィラーおよび有機フィラーの何れのフィラーも使用でき、1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
無機フィラーの例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩;塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの塩化物;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカなどの酸化物;タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩等が挙げられる。これらの中でも、硫酸バリウムが好ましい。
【0027】
無機フィラーは樹脂中の分散性向上のため、表面処理剤で無機フィラーの表面を被覆して疎水化してもかまわない。この表面処理剤としては、例えばステアリン酸またはラウリル酸等の高級脂肪酸またはそれらの金属塩を挙げることができる。
【0028】
有機フィラーとしては、延伸温度においてフィラーが溶融しないように、最外層を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも高い融点を有する樹脂粒子が好ましく、ゲル分が4〜10%程度の架橋した樹脂粒子がさらに好ましい。
有機フィラーの例としては、超高分子量ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、メラミン、ベンゾグアナミンなどの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中でも、特に架橋させたポリスチレンなどが好ましい。
【0029】
フィラーの平均粒径としては0.01〜25μm程度、好ましくは0.05〜7μmであり、更に好ましくは0.1〜5μmである。平均粒径が0.01μm未満の場合には、フィラー同士の凝集により分散性が低下して延伸むらを引き起こし、多孔化が困難になりやすい。一方、平均粒径が25μmを超えると、表面の凹凸を大きくすることは可能となるが、それと同時に表面の孔径の大きな不均一を発生させる可能性が高くなるので好ましくない。
【0030】
フィラーの配合量はフィラーの種類により異なるので一概にはいえないが、両側外層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対し25〜400質量部であることが好ましく、50〜300質量部であることがより好ましい。フィラーの配合量が前記樹脂100質量部に対し25質量部未満の場合には、目的とする良好な透気性が発現されにくくなり、外観や風合いも悪くなりやすい。また、フィラーの配合量が400質量部を超えると、積層体作製の際に樹脂焼けなど工程上の不具合を起こしやすくなるだけでなく、多孔積層体の強度も大幅に低下する。
【0031】
両側外層を構成する樹脂組成物は少なくともフィラーと熱可塑性樹脂を含有していればよいが、熱可塑性樹脂中へのフィラーの分散性を向上させる目的で可塑剤を加えることができる。
前記可塑剤としては、エステル化合物、アミド化合物、アルコール化合物、アミン塩、アミン化合物(ただしアミン塩は除く)、エポキシ化合物、エーテル化合物、鉱油、油脂、パラフィンワックス、液状シリコーン、フッ素オイル、液状ポリエーテル類、液状ポリブテン類、液状ポリブタジエン類、長鎖脂肪酸、カルボン酸塩、カルボン酸化合物(ただしカルボン酸塩は除く)、スルホン酸塩、スルホン化合物(ただしスルホン酸塩を除く)、フッ素系化合物等が挙げられる。
具体的にはプラスチック配合剤(株式会社 大成社発行 昭和62年11月30日 第2版発行)P31〜P64、P83、P97〜P100、P154〜P158、P178〜P182、P271〜P275、P283〜294に記載の化合物等が挙げられる。より具体的には、P29〜64の可塑剤の項目に記載され、P49からP50の表4と、P52〜P54の表6に列挙されている可塑剤(TCP,TOP,PS,ESBO等)が使用可能である。また新・界面活性剤入門(三洋化成工業株式会社発行 1992年8月 第3版発行)に挙げられている界面活性剤類の化合物も可塑剤として好適に使用できる。
【0032】
前記エステル化合物としては、テトラグリセリントリステアレート、グリセリントリステアレート、ステアリルステアレート、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、エチレンカーボネート、ジステアリルカーボネートまたはジオクチルナフタレート等が挙げられる。
前記アミド化合物としては、エチレンビスステアリン酸アミドまたはヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。
前記アルコール化合物としては、ステアリルアルコール、オレイルアルコールまたはドデシルフェノールなどが挙げられる。
前記アミン塩としては、ステアリルジメチルベタインまたはラウリルトリメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
前記アミン化合物としては、ジヒドロジエチルステアリルアミンまたはラウリルアミンなどが挙げられる。
前記エポキシ化合物としては、エポキシ大豆油などが挙げられる。
前記エーテル化合物としては、トリエチレングリコールなどが挙げられる。
前記鉱油としては、灯油またはナフテン油などが挙げられる。
前記油脂としては、ひまし油もしくは硬化ひまし油またはこれらの誘導体が挙げられる。
前記脂肪酸としては、ステアリン酸またはカプロン酸などが挙げられる。
前記カルボン酸塩としては、ステアリン酸カルシウムまたはオレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記カルボン酸化合物としては、ステアリン酸もしくはオレイン酸、またはこれらのエステル体などの誘導体(ただし塩は除く。)などが挙げられる。
前記スルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記スルホン化合物としては、スルホン結合を有する化合物(ただし塩は除く。)であればよく、スルホランまたはジプロピルスルホン酸などが挙げられる。
【0033】
前記可塑剤の配合量は可塑剤の種類等により異なるので一概には言えないが、最外層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対し例えば1〜30質量部程度である。可塑剤の配合量が1質量部未満の場合には、目的とする良好な延伸性が発現されにくくなり、外観、風合いも悪くなりやすい。また、可塑剤の配合量が30質量部を超えると、積層体作製の際に樹脂焼けなど工程上の不具合を起こしやすくなる。
【0034】
前記両側外層を構成する組成物には、上述した可塑剤の他にも一般に樹脂組成物に配合される添加剤を本発明の目的および最外層の特性を損なわない程度の範囲で配合してもよい。添加剤としては、中間層に配合することのできる添加剤と同じ添加剤が例示できる。
【0035】
本発明の多孔積層体は、前記中間層と、両側外面に配置する両側外層との少なくとも3層からなれば、特にその構造は限定されない。
例えば、中間層が組成の異なる複数層から構成されていてもよいし、最外層の一方または両方が組成の異なる複数層から構成されていてもよい。また、中間層の間にフィラーを含む樹脂層が挟まれている5層構造を呈していてもよい。しかし、本発明においては、両側外層と中間層の3層からなる構造が単純で好ましい。
両側外層の組成または構造は同一であってもよいし、異なっていても良い。例えば2つの最外層のそれぞれが異なる物質と接触する場合は、それぞれの特性に合わせた熱可塑性樹脂の選定が必要となる。例えば、一方の面が水と接触し、他方の面が有機溶媒と接触する場合は、水と接触する最外層を構成する熱可塑性樹脂を例えば耐水性のあるポリスチレンとし、有機溶媒と接触する最外層を構成する熱可塑性樹脂を耐有機溶媒性の高いポリプロピレンにすることができる。
また、フィラーに関しても同様で、両側外層がそれぞれ中性と酸性の液体に接触する場合、中性の液体に接触する最外層においては炭酸カルシウムを配合し、酸性の液体に接触する最外層においては硫酸バリウムを配合するというように配合するフィラーを区別することも可能である。
【0036】
前記第1工程で作製される積層体については、第3工程における延伸処理した後に、全体の厚さtに対する両側外層の厚みの合計toの割合tr(=to/t)が0.05〜0.95、好ましくは0.10〜0.90、さらに好ましくは0.15〜0.80となるように調整している。trが0.05より小さければ、最外層の実質的な厚みが極端に薄くなってしまい、結果的に最外表面の多孔構造が極端に不均一になりやすい。また、両側外層の厚みが極端に薄いと蓋の役割を果たさない。すなわち、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させ、次いで超臨界状態または亜臨界状態から解放させたときに、中間層の表面から気体が薄い最外層を通り抜けて拡散・蒸発により放出されるため、中間層に発泡を生じない領域、いわゆるスキン層が生じるおそれがある。一方、trが0.95より大きければ、中間層が極端に薄くなってしまい実質的には全層にフィラーを含有している多孔性フィルムと大きく変わらず、特に単位面積あたりの質量(坪量)が大きくなってしまうという問題点が生じてくる。
【0037】
前記両側外層と中間層の少なくとも3層からなる積層体の作製方法としては公知のちじゅつを用いてもよい。例えば、下記の方法で作製することができる。
両側外層に関してはフィラーを含むので、熱可塑性樹脂、フィラーおよび可塑剤をはじめとする他の成分をヘンシェルミキサー等の粉体混合機で混合し、一軸あるいは二軸混錬機、ニーダー等で加熱混練し、一旦ペレットすることが好ましい。フィラーの分散状態を考えると、二軸混練機を使用することが更に好ましい。
中間層に関しては、構成成分を混合して得られた樹脂組成物をそのまま次の積層工程で使用してもよいし、最外層と同様に一旦ペレットしてもよい。
両側外層を構成する樹脂組成物のペレットと、中間層を構成する樹脂組成物またはそのペレットとを用いて前記積層体を作製する。
【0038】
積層体の作製方法としては、熱接着法、押出しラミネーション法、ドライラミネーション法、共押出法等が挙げられる。なかでも、Tダイ成形法またはインフレーション成形法による共押出法が特に好適に用いられる。
これは、中間層および最外層を別々に製膜してから熱ロールなどで融着させる方法は均一な接着強度で接着させにくく、皺などの欠陥も発生しやすいからである。特にフィルムなどの厚さが薄い場合はこの傾向が顕著である。さらに、共押出法で積層する場合は、中間層および最外層の結晶化温度の違いにより、結晶化温度が低い樹脂を含む層が製膜時、機械方向の配向が緩和し、延伸により多孔化しやすくなるので、各層を単層で製膜した場合より透気性が高くなる傾向があり好ましい。特に、Tダイ法よりインフレーション法の方がこの結晶化温度の違いによる配向緩和が起こりやすく、より適している。
【0039】
共押出法においては、各層を構成する樹脂組成物またはその造粒物を別々の押出機で各層を構成する熱可塑性樹脂の融点以上、好ましくは融点+20℃以上、分解温度未満の温度において溶融し押出を行い、ダイス内またはダイスに流入する前の合流部で、溶融状態で積層させて積層体を作製している。
【0040】
本発明の多孔積層体の製造方法においては、第2工程として、前記第1工程で得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させ、次いで該超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより中間層に微小孔を形成して多孔化している。
【0041】
亜臨界または超臨界流体として使用できる気体は、以下のものに限定されるものではないが、例えば二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素、エチレン、エタン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロエタン、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1−ジフルオロエチレン、トリフルオロアミドオキシド、シス−ジフルオロジアジン、トランス−ジフルオロジアジン、塩化二フッ化窒素、3重水素化リン、四フッ化二窒素、オゾン、ホスフィン、ニトロシルフルオライド、三フッ化窒素、塩化重水素、塩化水素、キセノン、六フッ化硫黄、フルオロメタン、パーフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1−ジフルオロエテン、エチン、ジボラン、水、テトラフルオロヒドラジン、シラン、四フッ化ケイ素、四水素化ゲルマニウム、三フッ化ホウ素、フッ化カルボニル、クロロトリフルオロメタン、ブロモトリフルオロメタンおよびフッ化ビニル等が挙げられる。なかでも好ましい気体としては、二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素、エチレン、エタン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロエタン、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタンおよび1,1−ジフルオロエチレンが挙げられる。このうち不活性ガスである二酸化炭素と窒素は非可燃性であり非毒性であり、かなりの安価であり、さらにはほとんどのポリマーに対して非反応性であるという点で特に好ましい。
【0042】
前記「超臨界状態」とは気体と液体が共存できる限界の温度(臨界温度)および圧力(臨界圧力)を超えた状態をいう。「亜臨界状態」とは、圧力または温度が臨界圧力または臨界温度の近傍にある状態を意味する。好ましくは、臨界温度をTc、臨界圧力をPcとすると、温度が0.7Tc以上または/および圧力が0.7Pc以上である状態(但し、温度がTc以上および圧力がPc以上の場合を除く。)である。とくに、圧力または温度のいずれか一方が臨界圧力または臨界温度を越えていることがより好ましい。
【0043】
超臨界状態または亜臨界状態の流体は通常の気体や液体とは異なる性質を示す特殊な流体であり、非常に含浸性が高い。従って、前記第1工程で得られた積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を接触させれば、前記積層体に前記流体が含浸される。
積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる具体的な方法は公知の方法に従って良い。
例えば、積層体をオートクレーブ等の耐圧容器に入れ、上に例示したような流体にして積層体に含浸させる気体状または液体状の物質を封入する。ついで、耐圧容器内の温度または/および圧力を上げて超臨界状態または亜臨界状態をつくる。すなわち、耐圧容器内の温度を0.7Tc以上、好ましくは臨界温度以上に上げるか、または耐圧容器内の圧力を0.7Pc以上、好ましくは臨界圧力以上に上げる。特に耐圧容器内の温度を臨界温度以上に上げるとともに圧力を臨界圧力以上に上げることがより好ましい。
【0044】
具体的には、例えば二酸化炭素を使用した場合、二酸化炭素の臨界温度が31.1℃、臨界圧力が7.38MPaであるから、温度は常温のまま圧力を7MPa以上とすることが好ましい。
窒素を使用した場合、窒素の臨界温度が−147℃、臨界圧力が3.40MPaであるから、温度は常温のまま圧力を3MPa以上とすることが好ましい。
亜酸化窒素を使用した場合、亜酸化窒素の臨界温度が36.4℃、臨界圧力が7.24MPaであるから、温度は常温のまま圧力を7MPa以上とすることが好ましい。
エチレンを使用した場合、エチレンの臨界温度が9.2℃、臨界圧力が5.04MPaであるから、温度を10℃以上とし、圧力を5MPa以上とすることが好ましい。
エタンを使用した場合、エタンの臨界温度が32℃、臨界圧力が4.88MPaであるから、温度は常温のまま圧力を4.5MPa以上とすることが好ましい。
【0045】
超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる時間は、中間層を構成する樹脂の組成、目的とする透気度や空孔率などにより異なるので一概にはいえないが、1分以上であることが好ましい。1分未満であると前記流体を中間層に十分含浸させることができないからである。上限値は生産効率の観点から10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2時間以下である。
【0046】
ついで、超臨界状態または亜臨界状態から逸脱させて流体を気化させることにより中間層に微小孔を設けて多孔化している。
このとき温度または圧力は急激に常温または常圧まで戻しても良いし、徐々に下げていっても良い。また、常温以下の温度または常圧以下の圧力にまで一端下げてから、常温または常圧まで戻しても良い。
本発明においては、当該第2工程で厳密に中間層のみを多孔化することに限定しているわけでなく、中間層に接している層において中間層と接している面およびその近傍で多孔化が起っていても全く問題はない。
【0047】
ついで、第2工程を経て得られた多孔積層体を延伸処理して熱可塑性樹脂とフィラーとの界面を剥離させて微小孔を形成し、両側外層を多孔化し、中間層の微小孔と厚さ方向に連通性を有する微小孔が多数存在する多孔積層体を得ている。
延伸方法は、一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、その等方性の点から二軸延伸の方が好ましい。二軸延伸は同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でも構わない。延伸手法としては、ロール延伸機やテンター延伸機等の一般的な装置を用いる手法で構わない。延伸倍率としては、面積倍率で少なくとも2倍、好ましくは4倍以上であることが好ましい。延伸温度は特に限定されるものではないが、最外層を構成する熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度、好ましくは前記融点より30℃以下で延伸することが好ましい。延伸温度が融点に近すぎると、最外層の部分での連通性の発現が困難となる。
また、必要に応じて延伸後に融点近傍で熱固定を行ったり、弛緩を行ったりして、熱収縮や寸法安定性等の対策をとっても構わない。
【0048】
本発明は、第二の発明として、前記第1工程、第2工程、第3工程を経て製造され、透気度が1〜10,000秒/100mlであることを特徴とする多孔積層体を提供している。
また、第三の発明として、フィラーと熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなり、最外面に位置させる一対の両側外層と、
前記両側外層の間に位置し、フィラーを含まず、エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる中間層と
を備えた少なくとも3層からなり、
前記両側外層と中間層には厚さ方向に連通する微小孔が多数存在し、
透気度が1〜10,000秒/100mlであることを特徴とする多孔積層体を提供している。
【0049】
前記のように、本発明の多孔積層体は、連通性の指標である透気度を1〜10,000秒/100mlの範囲としている。これは透気度が10,000秒/100mlより大きければ、測定上透気度の数値は出るものの、連通性のかなり乏しい構造であることを意味しているので、実質的には連通性がないことに等しいとしてもよい。
好ましくは1〜5,000秒/100ml、より好ましくは50〜5,000秒/100ml、特に、00〜5,000秒/100mlが好ましい。
なお、透気度はJIS P 8117に準拠して測定している。
【0050】
また、中間層にポリプロピレン樹脂組成物を用いると、従来のポリエチレン樹脂のみからなる多孔性フィルムより高い耐熱性を発揮することができる。つまり、高温に曝されてもその形状が保持できる。耐熱性の指標として熱収縮率が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0051】
本発明の多孔積層体において、空孔率も多孔構造を限定する為には重要なファクターである。空孔率の測定方法は後述するが、本発明の多孔積層体の空孔率は5〜80%の範囲とすることが好ましい。これは空孔率が5%未満であれば実質的に連通性を得ることは困難である。また、空孔率が80%よりも大きければ、強度的な点からハンドリングが難しくなってしまうので好ましくない。
空孔率はより好ましくは20〜70%、特に、40〜60%が好ましい。
【0052】
前記透気度や空孔率は用途によって要求される範囲が異なるので、用途に合わせて透気度や空孔率を適宜調整している。
例えば、おむつや生理用品などの衛生用品に使用する場合、透気度は1〜2,000秒/100mlであることが好ましい。
また、電池用セパレーターとして用いる場合、透気度は1〜500秒/100mlであることが好ましい。
【0053】
透気度や空孔率は、例えば、中間層を構成する熱可塑性樹脂におけるエチレン−プロピレンゴムの含有量、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる時間、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる際の温度または圧力を調整することにより制御することができる。
中間層を構成する熱可塑性樹脂におけるエチレン−プロピレンゴムの含有量が多くなれば、超臨界状態または亜臨界状態の流体が含浸しやすくなるから、透気度や空孔率は大きくなる。また、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる時間を長くしたり、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させる際の温度または圧力を大きくしたりしても、透気度や空孔率を大きくすることができる。
【0054】
本発明の多孔積層体については、厚さまたは形状等は特に限定されない。例えば本発明の多孔積層体は、厚さが1μm以上250μm未満のフィルム状、厚さが250μm以上数mm未満のシート状、厚さが数mm以上の成形体のいずれであってもよく、用途に応じて適宜選択できる。
なかでも、本発明の多孔積層体はフィルム状を呈することが好ましい。即ち、多孔積層体の平均厚みは1〜250μmで、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは50〜150μmである。
なお、平均厚みは、1/1000mmのダイアルゲージにて面内を不特定に5箇所測定し、その平均を算出して得られる値である。
【0055】
また、本発明の多孔積層体は、25μmあたりの厚みに換算したときの単位面積あたりの質量(秤量という)が10〜30g/mであることが好ましく、10〜25g/mであることがより好ましい。秤量を小さくすることにより、本発明の多孔積層体を搭載する装置の軽量化を図ることができる。
前記秤量を示すためには、本発明の多孔積層体の全質量に対するフィラーの質量の割合、つまりフィラーの含有率が、前記したように、5〜40質量部、より好ましくは5〜30質量部である。
【0056】
本発明の多孔積層体は両側外層にフィラーが含まれていることから、表面に適度の凹凸を有し、最大高さ(Rmax)値が2μm以上であるが好ましい。これは、2μm以上であれば、多孔積層体の表面に適度な凹凸が存在し、多孔積層体の滑り性が高くなるからである。好ましくは、3μm以上、好ましくは、5μm以上であり、上限値については特に制限はないが、通常7μm以下である。
なお、前記最大高さ(Rmax)値はJIS B 0601記載の方法に準拠して測定している。
【0057】
前記特性を有する本発明の多孔積層体は、透気性が要求される種々の用途に応用することができる。具体的に、例えば前記電池用セパレーター;使い捨て紙オムツ、生理用品等の体液吸収用パットもしくはベッドシーツ等の衛生材料;手術衣もしくは温湿布用基材等の医療用材料;ジャンパー、スポーツウエアもしくは雨着等の衣料用材料;壁紙、屋根防水材、断熱材、吸音材等の建築用材料;乾燥剤;防湿剤;脱酸素剤;使い捨てカイロ;鮮度保持包装もしくは食品包装等の包装材料等の資材として極めて好適に使用できる。
【0058】
なかでも、本発明の多孔積層体は各種電子機器等の電源として利用されるリチウムイオン二次電池等の非水電解液電池用セパレーターとして好適に用いられる。
前記電池用セパレーターとして使用する場合は、透気度を50〜500秒/100mlにすることが好ましく、100〜300秒/100mlがより好ましい。透気度を50秒/100ml未満にすると、電解液保持性が低下して二次電池の容量が低くなったり、サイクル性が低下したりするおそれがある。一方、透気度が500秒/100mlを超えると、イオン伝導性が低くなり十分な電池特性を得ることができない。
また本発明の多孔積層体を電池用セパレーターとして使用する場合、空孔率は30〜70%であることが好ましく、更には35〜65%であることがより好ましい。空孔率が30%未満ではイオン透過性が低く十分な電池性能を得ることが困難である。また空孔率が70%を越えると電池の安全性の観点から好ましくない。
耐熱性は熱収縮率にて、その評価を行うことができる。熱収縮率としては0〜25%が好ましいが、更に好ましくは0〜10%である。熱収縮率が25%よりも大きいと多孔積層体の端部にて正極と負極が接触し、短絡してしまうことが懸念される。
【発明の効果】
【0059】
上述したように、本発明の多孔積層体の製造方法は、多孔化のために有機溶媒を大量に使用しないので環境に対する負荷を軽減できる。特に、亜臨界または超臨界流体として二酸化炭素や窒素などの無毒な不活性ガスを用いればさらに環境に対する負荷を軽減できる。
また、可塑剤や溶媒を除去することにより多孔化する方法においては当該可塑剤や溶媒が除去されずに残存する可能性があるが、本発明では亜臨界または超臨界流体を利用することから前記のような残存の問題は生じず、より不純物の少ない多孔積層体が製造できる。
さらに、本発明の多孔積層体の製造方法は、製造条件の幅が広くて工程管理が行いやすい。
【0060】
本発明の多孔積層体は、両側外層に充填剤が含まれていることから、その表面は適度な凹凸を有する。よって、電池用セパレーター等の表面をある程度粗面化させたいという要望がある多孔体に好適に用いられる。電池用セパレーターでは、多孔積層体のすべり性が向上して電池の捲回加工時のハンドリング性が好適となる。
なお、従来からの電池セパレーター用多孔性フィルムの場合、JIS−B−0601記載の方法により測定された多孔性フィルム表面の最大高さ(Rmax)値が通常1〜2μm程度であった。また、表面に微細粒子や短繊維を付着させる等の公知のフィルム粗面化技術を多孔性フィルムに適用しようとすると、面強度、シャットダウン特性等の、電池用セパレーターとして必須の物性要件が損なわれるという問題がある。
これに対して、本発明の多孔積層体は、面強度、シャットダウン特性等の、電池用セパレーターとして必須の物性要件を損なうことなく、最大高さ(Rmax)値を2μm以上とすることができ、電池の高容量化および電池の捲回加工時のハンドリング性の向上に貢献できる。
【0061】
本発明の多孔積層体は、表面の充填剤により適度な凹凸が存在し高い滑り性を発揮できるにもかかわらず、全層に充填剤が存在していないので、特に無機充填剤を使用した場合に単位面積あたりの質量を大きく増加させることがなく、本発明の多孔積層体を収容する装置の軽量化に貢献できる。
【0062】
本発明の多孔積層体は、中間層にポリプロピレン樹脂組成物を用いているので、従来のポリエチレン樹脂のみからなる多孔性フィルムより高い耐熱性を持つことを特徴とする。つまり、高温に曝されてもその形状が保持されていることを特徴とする。その結果、例えば本発明の多孔積層体を電池用セパレーターとして用いた場合、シャットダウン以降の寸法安定性を確保し、電池として不安定な状態に陥るのを避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、図1〜図3は、それぞれ、後述する本発明の製造方法により製造されたフィルム状の樹脂製の多孔積層体の第1〜第3実施形態を示す。該第1〜第3実施形態の多孔積層体は、積層枚数を相違させた多孔積層体1(1−1、1−2、1−3)からなるが、いずれも後述する同一の製造方法で製造している。
【0064】
図1に示す第1実施形態の多孔積層体1は3層構造とし、中間層2と、その両側外面に位置する一対の両側外層3、4を厚さ方向に積層一体化としている。中間層2と両側外層3、4にはそれぞれ微小孔2a、3a、4aを多数存在し、これら微小孔2a、3a、4aは厚ささ方向に連通させている。両側外層3、4は同一の樹脂組成物からなり、中間層2は両側外層3、4とは異なる樹脂からなる。
なお、両側外層3、4の樹脂組成物は相違させてもよい。
【0065】
図2に示す第2実施形態の多孔積層体は1は4層構造とし、2層の中間層2(2A、2B)と、これら2層の中間層2の両側外面に両側外層3、4を備え、第1実施形態と同様に、これら各層に微小孔2a〜4aを厚さ方向に連通させている。
【0066】
図3に示す第3実施形態の多孔積層体1は5層構造とし、2層の中間層2(2Aと2B)の間に両側外層3、4と同一組成物からなる中央中間層5を備え、かつ、前記中間層2A、2Bの外側に両側外装3、4を備え、第1実施形態と同様に、これら各層に微小孔2a〜5aを厚さ方向に連通させている。
【0067】
前記第1〜第3の実施形態の多孔積層体1は、いずれも両側外層3、4および第3実施形態の中央中間層5はフィラー7を含有する熱可塑性樹脂からなり、中間層2はフィラーを含まないハードセグメントとソフトセグメントを有する熱可塑性樹脂からなる。
【0068】
以下に、3層構造の第1実施形態の多孔積層体1の製造方法について説明する。
なお、前記したように、第2、第3実施形態の多孔積層体の製造方法は第1実施形態と同様な下記の工程からなる。
【0069】
前記多孔積層体1の製造方法は、
フィラーをポリプロピレンに配合したポリプロピレン樹脂組成物からなる無孔の両側外層3、4の間に、ポリプロピレン樹脂組成物からなる中間層2を配置して積層体を作製する第1工程と、
前記工程で得られた積層体に、超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させ、次いで該状態から解放して前記流体を気化させることにより中間層を多孔化する第2工程と、
中間層を多孔化した後に、積層体を少なくとも一軸方向に延伸することにより両側外層3、4のフィラーと熱可塑性樹脂との界面を剥離させて、無孔の両側外層3、4を多孔化する第3工程からなる。
【0070】
中間層2を構成するポリプロピレン樹脂組成物としては、本実施形態では、ポリプロピレンホモポリマーにエチレン−プロピレンゴムが配合されている樹脂組成物を用いている。エチレン−プロピレンゴムの含有量は5〜95質量%とし、好ましく15〜75質量%で特に、30〜60質量%とすることが好ましい。
エチレン−プロピレンゴムとしては、ゴム全体に対するエチレン含有率が30〜55質量%であるエチレン−プロピレンゴムが特に好ましい。
エチレン−プロピレンゴムの含有量およびエチレン−プロピレンゴム中のエチレン含有率を調整することにより、中間層を構成するポリプロピレン樹脂組成物全体に対するエチレン含有率が5〜70質量%、好ましく5〜50質量%、特に10〜30質量%とすることが好ましい。
【0071】
前記両側外層3、4を構成するポリプロビレンとしては、密度が0.94g/cm以上、好ましくは0.95〜0.97g/cmの高密度ポリエチレンで、かつ、そのメルトフローレートが1g/10分以下であるものを用いている。
【0072】
両側外層3、4に配当するフィラー7としては、本実施形態では無機フィラーを用いている。該無機フィラーとしては硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、またはこれら2種以上の組み合わせとしても良いが、硫酸バリウムが特に好ましい。さらに、フィラー7の平均粒径が0.1〜5μm、好ましく0.1〜3μmを用いている。
フィラーの含有量は、多孔積層体1の熱可塑性樹脂100質量部に対して50〜300質量部、好ましく50〜150質量部としている。
【0073】
両側外層3,4を構成する樹脂組成物には、更に可塑剤として硬化ひまし油を配合している。硬化ひまし油とは、リシノール酸の二重結合部を水素添加し、飽和脂肪酸とした12−ヒドロキシオクタデカン酸を主成分とする脂肪酸混合物とグリセリンとのエステルのことである。このエステルにはモノエステル、ジエステルおよびトリエステルがあるが、これらの単独物であっても、また混合物であってもよい。なかでも、トリエステルを主成分とするものが好ましい。また、前記脂肪酸混合物に含まれる12−ヒドロキシオクタデカン酸以外の他の脂肪酸としては、炭素数12〜22程度のヘキサデカン酸もしくはオクタデカン酸等が挙げられる。かかる硬化ヒマシ油は、工業的には不乾性油であるヒマシ油に水素添加することにより製造される。
可塑剤の配合量は、両側外層を構成する熱可塑性樹脂100質量部に対し1〜15質量部、好ましく2〜10質量部としている。
【0074】
前記中間層2と、中間層2を挟むように配置する両側外層3、4の3層からなる積層体を作製する方法として、下記方法を用いている。
まず、両側外層3、4に関しては、熱可塑性樹脂、フィラー、可塑剤をヘンシェルミキサー等の粉体混合機で混合し、一軸あるいは二軸混練機、ニーダー等で加熱混練し、ペレットを形成している。なお、フィラー充填剤の分散状態を考えると、二軸混練機を使用することが更に好ましい。
前記ペレットの水分率は1000ppm以下、好ましくは700ppm以下に制御している。これは、ペレットの水分が1000ppmより大きいとゲル、ピンボールが極度に発生して好ましくないためである。
前述のように調製した両側外層用のペレットと中間層用のポリプロピレン樹脂組成物とを共押出で3層状に積層したフィルムを押出成形する。
より具体的には、多層成形用のインフレーションダイまたはTダイを用いて、150〜250℃、好ましくは190〜220℃の温度条件下で積層している。
【0075】
前記第1工程で得られた積層体を耐圧容器に入れ、該耐圧容器に二酸化炭素ガスまたは窒素ガスを封入する。耐圧容器内の圧力を上げ、二酸化炭素ガスまたは窒素ガスを超臨界状態または亜臨界状態としている。
具体的には、二酸化炭素ガスを使用する場合は圧力を7Mpa以上、好ましくは20Mpa以上に上げている。窒素ガスを使用する場合は圧力を3Mpa以上、好ましくは15Mpa以上に上げている。
耐圧容器内の温度は常温でよいが、加熱することもできる。
【0076】
耐圧容器内の圧力および温度を保つことにより、超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素ガスまたは窒素ガスが積層体に含浸される。含浸時間は10分〜2時間、好ましくは30分〜2時間である。
その後、耐圧容器内の圧力または温度を常圧または常温に戻すことにより、含浸された二酸化炭素ガスまたは窒素ガスが気化して、中間層2に微小孔2aが形成され、多孔化される。耐圧容器内の圧力または温度は漸減させてもよいし、一気に常圧または常温に戻してもよい。
この第2工程では、中間層2が多孔化されるが、両側外層3、4では含浸したガスは外面から解放されて孔は形成されず無孔のままである。よって、この無孔の両側外層3、4は中間層2に対してガスを解放させない「蓋」の役割を果たすこととなる。
【0077】
このように、第2工程で中間層2は多孔化される一方、両側外層3、4は無孔のままである積層体を、第3工程で延伸処理している。
該延伸処理で、両側外層3、4内に分散配置されているフィラー7と樹脂との界面で剥離が発生して、両側外層3、4に微小孔3a、4aが形成される。該微小孔3a、4aは中間層2の両側表面に開口する微小孔2aと連通される。
第3工程の延伸方法は、縦方向(長手方向)に延伸してから、横方向に延伸する逐次二軸延伸を用いている。延伸倍率としては、面積倍率で4〜25倍、好ましくは9〜16倍としている。延伸温度は40〜80℃としている。
【0078】
さらに、第3工程の後、必要に応じて、多孔積層体に対し熱寸法安定性を付与するため熱処理を行ってもよい。熱処理は、加熱ロールによる接触加熱、オーブン中での空気中加熱等、公知の任意の方法で行うことができる。熱処理温度は、中間層2および両側外層3、4を構成する熱可塑性樹脂の融点未満の任意の温度で行うことができるが、好ましくは100℃以上前記樹脂の融点未満、より好ましくは110℃以上130℃以下としている。
【0079】
第2実施形態の多孔積層体1−2では、2つの中間層2A、2Bに第2工程で連通した微小孔2aが形成でき、その後の第3工程での延伸処理で両側外層3、4に形成される微小孔3a、4aと連通している。
第3実施形態の多孔積層体1−3では、2つの中間層2A、2Bに第2工程でそれぞれ微小孔2aが形成でき、その後の第3工程の延伸処理で、中央中間層5および両側外層3、4に微小孔5a、3a、4aを形成し、前記中間層2の微小孔2aと連通している。
【0080】
前記のように製造された多孔積層体1は、連通性の指標である透気度が50〜5,000秒/100mlとしており、好ましくは、100〜5,000秒/100mlとしている。空孔率は30〜70%とし、好ましく40〜60%としている。
また、両側外層3、4はフィラーが配合されたポリプロピレン樹脂組成物なると共に中間層2もポリプロピレン樹脂からなるため、従来のポリエチレン樹脂のみからなる多孔性フィルムより高い耐熱性を発揮することができる。つまり、高温に曝されてもその形状が保持できる。耐熱性の指標として熱収縮率は20%以下とし、好ましくは、15%以下でとしている。なお、熱収縮率は実施例に記載の方法で測定できる。
【0081】
前記多孔積層体1はフィルム状を呈し、平均厚みを1〜250μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは50〜150μmとし、該多孔積層体の用途に応じて調製している。この平均厚みは、1/1000mmのダイアルゲージにて面内を不特定に5箇所測定し、その平均を算出して得られる値である。
さらに、前記多孔積層体1は両側外層3、4にフィラーが配合されているため平滑面とならず微小な凹凸がある粗面として滑り性を高めている。即ち、表面からの最大高さ(Rmax)値が2μm以上、好ましくは5μm以上としている。
【0082】
さらに、前記多孔積層体1は、中間層2にはフィラーを配合しないことで、25μmあたりの厚みに換算したときの単位面積あたりの質量(秤量という)を10〜30g/m、好ましく10〜25g/mとして、多孔積層体1を軽量化している。なお、特に、軽量化を図るためには、多孔積層体1の全質量に対するフィラーの含有率は5〜40質量%、好ましく5〜30質量%としている。
【0083】
前記した多孔積層体1は透気性が要求される種々の用途に用いることができるが、なかでも電池用セパレーターとして使用することが好ましい。
本発明の多孔積層体1を電池用セパレーターとして使用する場合は、透気度を50〜500秒/100mlとしている。これは、透気度を50秒/100ml未満にすると、電解液保持性が低下して二次電池の容量が低くなったり、サイクル性が低下したりするおそれがある。一方、透気度が500秒/100mlを超えると、イオン伝導性が低くなり十分な電池特性を得ることができないことによる。好ましくは100〜300秒/100mlである。
また、空孔率は30〜70%としている。これは、空孔率が30%未満ではイオン透過性が低く十分な電池性能を得ることが困難である一方、空孔率が70%を越えると電池の安全性の観点から好ましくないことによる。より好ましくは35〜65%である。
【0084】
電池用セパレーターとしてはシャットダウン特性の必要性からポリエチレン樹脂を主成分とした多孔性フィルムが用いられるが、本発明の多孔積層体1は中間層2にポリプロピレン樹脂組成物を用いることによりシャットダウン以降の寸法安定性を向上させ、電池として不安定な状態に陥りにくくすることができる。
耐熱性は熱収縮率にてその評価を行うことができ、熱収縮率は0〜25%、好ましくは0〜10%としている。これは熱収縮率が25%よりも大きいと多孔積層体の端部にて正極と負極が接触し、短絡してしまうことが懸念されることによる。
【0085】
次に、本発明の前記多孔積層体を電池用セパレーターとして収容している非水電解液電池について、図4に参照して説明する。
正極板21、負極板22の両極をセパレーター10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。この渦巻き状に巻回する際、セパレーター10は厚さが5〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましい。厚みが5μm未満であるとセパレーターが破れやすくなり、40μmを越えると電池用セパレーターとして所定の電池缶に捲回して収納する際、電池面積が小さくなり、ひいては電池容量が小さくなるからである。
【0086】
前記正極板21、セパレーター10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、上記電解質を電池缶内に注入し、セパレーター10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液電池を作製している。
【0087】
電解液としては、リチウム塩を電解液とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.4mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
【0088】
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0089】
本実施形態では、負極として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
【0090】
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0091】
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。即ち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)に導電助剤としてリン状黒鉛を質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにした。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【0092】
以下、本発明を多孔積層体の実施例1〜4、比較例1〜3を説明する。
(実施例1)
両側外層を構成する樹脂組成物の準備として、高密度ポリエチレン100質量部と硫酸バリウム100質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。ついで、該コンパウンドを両側外層とし、中間層のポリプロピレン樹脂組成物としてポリプロピレンにエチレンプロピレンゴムを含有させた熱可塑性樹脂組成物を使用し、層比が両側外層1/中間層/両側外層2=25/50/25となるように調整しながら、多層成型用のTダイを用いて200℃の温度下で成形し、2種3層の積層体を得た。
得られた積層体を圧力容器に仕込み、常温下で圧力容器内に不活性ガスである二酸化炭素を封入した。ついで、圧力を24MPaまで上げて二酸化炭素を亜臨界状態または超臨界状態とし、この状態を1時間保持して積層体に亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を含浸させた。その後、圧力容器のバルブを全開放して容器内の圧力を解放した。
得られた積層体をストレッチャーにて延伸温度70℃で、縦方向(長手方向)に2倍、横方向に2倍の延伸倍率で逐次延伸を行い、その後125℃で熱固定を行い、本発明の多孔積層体を得た。
【0093】
(実施例2〜4)
両側外層を構成する樹脂組成物の組成、中間層を構成する樹脂組成物の組成および延伸条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に本発明の多孔積層体を得た。
【0094】
(比較例1)
前記特許文献1の特開平5−25305号の実施例1に記載の方法で多孔膜を作製した。
即ち、重量平均分子量が2.0×10の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20質量%と、重量平均分子量が3.9×10の高密度ポリエチレン(HDPE)66.7質量%と、メルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)2.0g/10分の低密度ポリエチレン(LDPE)13.3質量%とを混合した原料樹脂15質量部と、流動パラフィン(64cst/40℃)85質量部とを混合し、ポリエチレン組成物の溶液を調製した。
次に、このポリエチレン組成物の溶液100質量部に、2,5−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(「BHT」、住友化学工業(株)製)0.125質量部と、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシルフェニル)−プロピオネート〕メタン(「イルガノックス1010」、チバガイギー製)0.25質量部とを酸化防止剤として加えた。この混合液を撹拌機付のオートクレーブに充填し、200℃で90分間撹拌して均一な溶液を得た。
この溶液を直径45mmの押出機により、Tダイから押出し、冷却ロールで引取りながらゲル状シートを成形した。
得られたシートを二軸延伸機にセットして、温度115℃、延伸速度0.5m/分で5×5倍に同時二軸延伸を行った。得られた延伸膜を塩化メチレンで洗浄して残留する流動パラフィンを抽出除去した後、100℃で30秒熱セットすることによってポリエチレン微多孔膜を得た。
【0095】
(比較例2)
前記特許文献4の特開平2004−095550号の実施例1に記載の方法で多孔性フィルムを作製した。
すなわち、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製「HI−ZEX7000FP」、密度;0.956g/cm、メルトフローレート;0.04g/10分)100質量部、軟質ポリプロピレン(出光石油化学社製「PER R110E」)15.6質量部、硬化ひまし油(豊国製油株式会社製「HY−CASTOR OIL」、分子量938)9.4質量部、硫酸バリウム(堺化学社製「B−55」)187.5質量部をブレンドしてコンパウンドを行った。
次に、得られたコンパウンドを用いて温度210℃でインフレーション成形を行い、原反シートを得た。
次に得られた原反シートを70℃でシートの長手方向(MD)に1.23倍、次いでll5℃て横方向(TD)に2.86倍の逐次延伸を行い、多孔性フィルムを得た。
【0096】
(比較例3)
前記特許文献5の特開平11−060792号の実施例1に記載の方法で多孔性フィルムを作製した。
すなわち、粘度平均分子量50万のポリエチレン樹脂8質量部、粘度平均分子量100万のポリエチレン樹脂16質量部(前記両者の混合組成物の粘度平均分子量はおよそ80万となる)、パラフィンワックス(平均分子量389)76質量部、および炭酸カルシウム粒子(平均粒径18μm)20質量部の混合物を、40mmφ二軸押出機を用い押出温度170℃、押出量10kg/hで押出し、インフレーション法で原反フィルムを成形した。
得られた原反フィルムをロール延伸機を用い40℃にて縦方向に2.5倍延伸後、テンタ延伸機を用いて110℃の温度にて横方向に8倍延伸した。
得られたフィルムを60℃のイソプロパノール中に浸漬して、パラフィンワックスを抽出除去した。
得られたフィルムをロール延伸機を用い、115℃の温度で熱固定を行った。熱固定に際してはロール速比を調整し、縦方向の延伸倍率が1.2倍となるようにした。
【0097】
(比較例4,5)
中間層を構成する樹脂として、エチレン−プロピレンゴムを含有するポリプロピレン樹脂組成物の代わりに、ポリプロピレンホモポリマーまたはエチレン−プロピレンゴムを用いた以外は、実施例1と同様にして多孔積層体を得た。
【0098】
【表1】

【0099】
表中に記載した成分の詳細を下記に示す。
「7000FP」;高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製「HI−ZEX7000FP」、密度;0.954g/cm、メルトフローレート;0.04g/10分)
「B55」;硫酸バリウム(堺化学株式会社製「B−55」、平均粒径0.66μm)
「B54」;硫酸バリウム(堺化学株式会社製「B−54」、平均粒径1.2μm)
「HCOP」;硬化ひまし油(豊国製油株式会社製「HCOP」、0.88g/cm
「ゼラス5013」;ポリプロピレンホモポリマーにエチレン−プロピレンゴムを含有されている重合型のポリプロピレン樹脂組成物(三菱化学株式会社製「Zelas5013」、密度0.88g/cm、メルトフローレート0.8g/10分)
「F104A」;ポリプロピレンホモポリマー(三井住友ポリオレフィン株式会社製「F104A」、密度0.9g/cm、メルトフローレート3.2g/10分))
「T310V」;エチレン−プロピレンゴム(出光興産株式会社製「T310V」、密度0.88g/cm
【0100】
実施例1〜4および比較例1〜5で得られた多孔積層体について、下記の物性を測定した。
(測定1;厚み)
1/1000mmのダイアルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
(測定2;透気度(ガーレ値))
JIS P 8117に準拠して透気度(秒/100ml)を測定した。
(測定3;空孔率)
空孔率は多孔積層体中の空間部分の割合を示す数値である。空孔率の算出方法は、多孔積層体の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、多孔積層体の実質量との差から下記式に基づき空孔率を算出する。
空孔率Pv(%)={(W0−W1)/W0}×100
【0101】
(測定4;充填剤含有率)
多孔積層体の質量Waを測定し、るつぼにて高温で樹脂を全量炭化させ、残った充填剤の質量Wbを測定する。
充填剤含有率(%)=(Wb/Wa)×100
(測定5;坪量)
坪量は単位面積あたりの質量を表す数値である。その測定方法は、多孔積層体を10cm角に切り出し、その質量を測定する。厚みによる依存性が大きいので、今回は25μmあたりの厚みに換算し、この操作を3回繰り返し、その平均を坪量とした。
【0102】
(測定6;Rmax(表面の凹凸性))
JIS B 0601記載の方法に準拠して多孔積層体表面の最大高さ(Rmax)値を測定した。
(測定7;熱収縮率(耐熱性))
多孔積層体を100mm×200mmに切り出し、150mm角のガラス板に巻き付け、100mm幅の2辺のみを固定する。この際、ガラス板の150mm長さの半分の位置に固定した2辺と平行な向きに印を入れておく。次に、120℃のオーブンの中に2分間放置し、オーブンから取り出した後に、印を入れておいた部分の幅H1を測定する。下記式により得られる熱による収縮率Sを耐熱性の指標とした。
熱収縮率S(%)={(100−H1)/100}×100
【0103】
その結果を下記表に示す。
【表2】

【0104】
比較例1の多孔膜では表面に充填剤が無いので表面の凹凸性が小さい。これでは、多孔膜の滑り性が悪くなる。また、比較例1の多孔膜は耐熱性にも劣る。
比較例2の多孔性フィルムでは、全層に充填剤が存在しているため坪量が大きく、重たくなってしまうことがわかる。また、比較例2の多孔膜は耐熱性にも劣る。
比較例3の多孔性フィルムではポリエチレン樹脂がベースとなっているため、耐熱性が十分ではない。
比較例4,5の多孔積層体は透気度が非常に大きくさらに空孔率も小さいことから、実用に適した透気性を示さない。
これら比較例に対し、実施例の多孔積層体は透気度が480〜4,300秒/100ml、空孔率が48〜55%と確実な透気性を示し、実用に十分適するものである。さらに、表面のみに充填剤が局在しているので、表面の凹凸性を示し、優れた滑り性を発揮できるにもかかわらず、秤量は小さく、軽量化が可能である。そのうえ、中間層にポリプロピレン組成物を用いているので耐熱性が高く、高温にさらされても形状を保持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の多孔積層体は、電池用セパレータの他、おむつ等の衛生用品、包装材料、農業・畜産用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート等として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】第一実施形態の多孔積層体の概略断面図である。
【図2】第二実施形態の多孔積層体の概略断面図である。
【図3】第三実施形態の多孔積層体の概略断面図である。
【図4】本発明の多孔積層体を非水電解質電池セパレーターとして収容している非水電解液電池の一部破断斜視図である。
【符号の説明】
【0107】
1 多孔積層体
2 中間層
3、4 両側外層
2a、3a、4a 微小孔
10 セパレーター
20 非水電解質電池
21 正極板
22 負極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に連通性を有する微小孔が多数存在する多孔積層体の製造方法であって、
少なくともフィラーと熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなる両側外層の間に、エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなると共にフィラーを含まない中間層を配置する少なくとも3層の積層体を作製する工程と、
前記工程で作製した積層体に超臨界状態または亜臨界状態の流体を含浸させた後に、前記超臨界状態または亜臨界状態から解放して前記流体を気化させることにより中間層に微小孔を形成して多孔化する工程と、
前記工程で中間層を多孔化した後に、該積層体を延伸処理して前記両側外層のフィラーと熱可塑性樹脂との界面を剥離させて微小孔を形成して該両側外層を多孔化して、該微小孔を前記中間層の微小孔と連通させる工程と、
を備えることを特徴とする多孔積層体の製造方法。
【請求項2】
前記流体が、二酸化炭素または窒素である請求項1に記載の多孔積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法で製造される多孔積層体であって、透気度が1〜10,000秒/100mlであることを特徴とする多孔積層体。
【請求項4】
フィラーと熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなり、最外面に位置させる一対の両側外層と、
前記両側外層の間に位置し、フィラーを含まず、エチレン−プロピレンゴムを含むポリプロピレン樹脂組成物からなる中間層と
を備えた少なくとも3層からなり、
前記両側外層と中間層には厚さ方向に連通する微小孔が多数存在し、
透気度が1〜10,000秒/100mlであることを特徴とする多孔積層体。
【請求項5】
前記フィラーが無機フィラーである請求項3または請求項4に記載の多孔積層体。
【請求項6】
多孔積層体全体に対するフィラーの含有率が5〜40質量部である請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載の多孔積層体。
【請求項7】
前記フィラーの平均粒径が0.01〜25μmである請求項3乃至請求項6のいずれか1項に記載の多孔積層体。
【請求項8】
前記両側外層を構成する樹脂組成物に可塑剤が含まれている請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の多孔積層体。
【請求項9】
前記中間層ではエチレン−プロピレンゴム中のエチレン含有率が7〜80質量%である請求項3乃至請求項8のいずれか1項に記載の多孔積層体。
【請求項10】
熱収縮率が20%以下、表面の最大高さ(Rmax)値が2μm以上、25μmあたりの厚みに換算したときの単位面積あたりの質量が10〜30g/mである請求項3乃至請求項9のいずれか1項に記載の多孔積層体。
【請求項11】
請求項3乃至請求項10のいずれか1項に記載の多孔積層体からなることを特徴とする電池用セパレーター。
【請求項12】
請求項11に記載の電池用セパレーターを収容している電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−83537(P2007−83537A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274969(P2005−274969)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】