説明

多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法

【課題】多孔質体の樹脂含浸成形おける樹脂内のボイドの生成・成長,流動挙動,分布を大局的に予測することを可能にする多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料を含浸させた多孔質体を金型で加熱圧縮することにより多孔質体の内部に発生するボイドの分布を解析する方法において,樹脂材料が充填された多孔質体の形状を3次元ソリッド要素に分割し,樹脂材料が充填された多孔質体の物性値と金型で多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件を入力し,金型で多孔質体を加熱時に樹脂材料から発生するガスの体積の時間変化を予め実験的に測定して求めたデータベースを用いて流体解析により3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を求め、この求めた3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を金型で加圧する前の多孔質体の樹脂密度の分布と並べて画面上に図示するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,マイカやガラス繊維などの固体部材と部材の隙間からなる多孔質体の樹脂含浸成形加工技術に係り,特に多孔質体を含浸成形する際の多孔質体における樹脂内のボイドの生成・成長,流動挙動,分布が大局的に予測できる3次元流体解析手法に適した多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質体を含浸成形する際の多孔質体の樹脂流動解析モデル化方法関する従来技術として,特許文献1乃至2に記載されたものがある。また,樹脂成形品のボイドの生成予測方法として,特許文献3に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1は多孔質内の樹脂流動に関して,3次元方向の圧力損失を,流動抵抗を表す断面固有抵抗値と粘度,速度,流動距離の積として入力した計算方法についての技術が開示されている。
【0004】
特許文献2は多孔質内の樹脂流動に関して,基材への含浸状態をダルシー則をベースにしたモデル化および計算した技術が開示されている。
【0005】
特許文献3は樹脂成形品のボイド生成に関して,微小要素の樹脂温度から樹脂の弾性率および収縮力を求め,構造解析からボイドを予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−230089号公報
【特許文献2】特開2006−168300号公報
【特許文献3】特開2009−233882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発電機や電動機のステーターコイル絶縁層,風力発電機のブレードなどには,多孔質体に樹脂を含浸成形させる方法が用いられている。この含浸成形品は軽量,高強度の特徴があり,飛行機の筐体などにも適用を拡大している。
絶縁層を形成する樹脂中にボイドが発生する場合には,高電圧をかけるとボイドから放電が生じ,絶縁破壊に至るなどの問題が生じる。また,風力発電機のブレードなどの軽量,高強度の含浸成形品であるFRP(Fiber Reinforced Plastics)の樹脂中にボイドが発生すると,ボイドが破壊の起点となり,FRPの強度が著しく低下するなどの問題も生じる。ボイドの生成・成長は,有機溶剤が残留する多孔質体や,多孔質体および樹脂と接して配置される有機物を含む固体部材,樹脂材料を,加熱したときに発生するガスに起因することがある。多孔質体や固体部材から発生するガスによるボイド発生を低減するには,樹脂含浸前の乾燥プロセスの変更,樹脂加熱硬化プロセス条件の変更,多孔質体および固体部材の材質変更を検討することが必要となる。しかし,上記内容を実験的に検討することは,コストが高く,開発期間が長くなる問題が生じる。従って,樹脂内のボイドの生成・成長,流動挙動,分布が大局的に予測できる解析技術の開発が課題であり,本解析技術を用いて,ボイド生成を最小限にする条件を選定することが必要となる。
前記した従来技術に関し,特許文献1乃至2は多孔質体内の樹脂の流動解析であり,樹脂の加熱硬化時のボイド生成・成長,流動挙動,分布の解析方法は記載されていない。また,特許文献3は樹脂の収縮によるボイドの生成解析であり,多孔質体,固体部材,樹脂などからのガス発生によるボイド生成の解析方法は記載されていない。
本発明の目的は,多孔質体の樹脂含浸成形おける樹脂内のボイドの生成・成長,流動挙動,分布を大局的に予測することを可能にする多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために,本発明では,多孔質体,固体部材,樹脂を加熱した場合のガス発生量の時間および温度変化,樹脂を充填又は含浸させた多孔質体を圧縮させた場合の圧縮力と圧縮変位の変化および樹脂の流動抵抗の変化を予め実験的に測定し,解析の入力として用いて,ガス発生に伴うボイドの生成・成長を解析の有限要素内の見かけの樹脂密度の低下として汎用の流体解析プログラムに組み込むことで,樹脂を充填又は含浸させた多孔質体を加熱圧縮した場合の樹脂中のボイドの生成・成長,流動挙動,分布を大局的に予測することができる。
このとき,樹脂粘度を少なくとも樹脂温度を含む関係式で表し,樹脂材料の加熱による樹脂粘度変化を計算して,多孔質体および固体部材からのガス体積を計算する。即ち,樹脂粘度が上昇した場合,ガスが発生しても,粘性の効果でボイドの体積増加を抑える結果が得られる。
また,多孔質体の流動抵抗は断面固有の抵抗値と樹脂粘度を含む関数で表し,樹脂を含む多孔質体の加熱圧縮による流動抵抗の変化を計算して,多孔質体および固体部材および樹脂材料からのガス体積を計算する。即ち,多孔質体の圧縮に伴って,多孔質体の開口率が低下し,断面固有の抵抗値が増加すると共に,加熱によって樹脂の粘度が上昇し,流動抵抗が上昇することでボイドの体積増加を抑える結果が得られる。
また,ボイド生成に伴う樹脂の熱伝導率の変化を有限要素内の見かけの樹脂密度の関数として組み込み,エネルギ式に代入することで,樹脂温度を計算する。
即ち、上記目的を達成するために、本発明では、樹脂材料を含浸させた多孔質体を金型で加熱圧縮することにより,樹脂材料を含浸させた多孔質体の内部に発生するボイドの生成・成長・分布を大局的に把握する解析方法において,樹脂材料が充填された多孔質体の形状データを入力し,この入力した形状データに基づいて多孔質体の形状を3次元ソリッド要素に分割し,樹脂材料が充填された多孔質体の物性値と金型で多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件を入力し,加熱時に樹脂材料と多孔質体とから発生するガスの体積の時間変化、樹脂を含浸させた多孔質体を圧縮させた場合の圧縮力と圧縮変位の変化および樹脂の流動抵抗の変化を予め実験的に測定して求めたデータベースを用いて流体解析により3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を求め、この求めた3次元ソリッド要素内の見かけの樹脂密度の分布からガス発生に伴うボイドの生成・成長・分布を大局的に把握するようにした。
また、上記目的を達成するために、本発明では、樹脂材料を含浸させた多孔質体を金型で加熱圧縮することにより多孔質体の内部に発生するボイドの分布を解析する方法において,樹脂材料が充填された多孔質体の形状を3次元ソリッド要素に分割し,樹脂材料が充填された多孔質体の物性値と金型で多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件を入力し,金型で多孔質体を加熱時に樹脂材料から発生するガスの体積の時間変化を予め実験的に測定して求めたデータベースを用いて流体解析により3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を求め、この求めた3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を金型で加圧する前の多孔質体の樹脂密度の分布と並べて画面上に図示するようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,多孔質体の樹脂内のボイドの生成・成長,流動挙動,分布を大局的に予測できる多孔質体内の樹脂のボイドの成長の解析が可能になる。本解析手法を用いることにより,多孔質体や固体部材から発生するガスによるボイド発生を低減し,品質を保持するための樹脂含浸前の乾燥プロセスの変更,樹脂加熱硬化プロセス条件の変更,多孔質体および固体部材の材質変更が解析上可能となり,製品の信頼性向上,試作期間短縮,試作コスト低減が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】樹脂を充填した多孔質体の成形例を表した成形対象の全体の正面図である。
【図1B】図1Aの点線内領域の成形前の部分拡大図である。
【図1C】図1Aの点線内領域の成形後の部分拡大図である。
【図2】多孔質体内に充填した樹脂のモデルを表した斜視図である。
【図3】解析を行うハードウェアの構成を示すブロック図である。
【図4】実施例1の解析処理の手順を表したフロー図である。
【図5】樹脂材料および多孔質体および固体部材から発生するガス発生量の経時変化測定値の一例を表したグラフである。
【図6】多孔質体を圧縮させた場合の圧縮力と圧縮変位の変化の一例を表したグラフである。
【図7】多孔質体を圧縮させた場合の断面固有の抵抗値と圧縮変位の変化の一例を表したグラフである。
【図8】解析例1におけるプレスに加えられる力の時間変化を表した図グラフである。
【図9】解析例1における樹脂材料および多孔質体および固体部材から発生するガス発生量の経時変化を表したグラフである。
【図10】解析例1における多孔質体を圧縮させた場合の圧縮力と圧縮変位の関係を表した図グラフである。
【図11】解析例1における多孔質体を圧縮させた場合の断面固有の抵抗値と圧縮変位の関係を表したグラフである。
【図12】解析例1における見かけの樹脂密度の変化の解析結果を表示した画面の正面図である。
【図13】解析例1における見かけの樹脂密度の時間変化の解析結果を表したグラフである。
【図14】解析例1における圧縮変位の時間変化の解析結果を表したグラフである。
【図15】実施例2におけるFRP(Fiber Reinforced Plastics)の成形法の一例を表した上下金型とその間に挟まれた多孔質体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,添付の図面を参照しながら,本発明に係る実施の形態について説明する。
【0012】
まず,解析対象となる成形工程の一例を,図1を用いて説明する。
図1Aでは,対象の全体図を示し,図1B,1Cでは,図1A上の点線部分を抜き出し,図1Bに成形前,図1Cに成形後の図をそれぞれ示す。解析対象を示す図1Aでは,固体部材4の周囲に樹脂材料2が充填又は含浸された多孔質体3が設置され,その外周にプレス1が配置される。成形工程の一例として,図1Bのようにプレス1と固体部材4を加熱させ,プレス1を加圧圧縮することで,多孔質体3および樹脂材料2を圧縮して硬化させ,成形する。ここで,固体部材4と多孔質体3,樹脂材料2に有機溶剤が内在している場合,加熱によって有機溶剤が気化し,図1Cのようにボイド5が発生する。ボイド5の生成・成長および流動挙動を大局的に把握するため,ボイド5の増加を有限要素内の樹脂密度の減少としてモデル化する。
多孔質体3のモデル形状の一例として,図2のように基材7に多数の円孔8を有し,そこに樹脂材料2が充填又は含浸するモデル形状とする。多孔質体3内における樹脂材料2の流動抵抗を断面固有の抵抗値と粘度を含む関数として入力し,プレス1の加圧と加熱によって,断面固有の抵抗値と粘度が独立に変化するように,断面固有の抵抗値の変化式と粘度変化式を入力する。なお,多孔質体3は図2のモデル形状に限らず,基材と空隙の構成からなる構造体について適用できる。
なお,多孔質体3の材質はマイカ(雲母),ガラス繊維などを用いることができ,樹脂材料2はエポシキやフェノールなどの熱硬化性樹脂,ポリカーボネートやポリスチレンなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。
次に,ボイドの生成・成長,流動挙動,分布を大局的に予測するために用いる解析システムについて説明する。解析システムは,図3に示すハードウェア構成で後述する図4のフローチャートが実行されることにより機能する。
具体的には,表示部11,記録部12(ハードディスクなど),出入力部13,演算部14を備えた計算装置10から構成される。図示していないが,計算装置10には,当然キーボードやマウス等の入力デバイスを備えている。
【実施例1】
【0013】
次に,図4のフローチャートに従って解析プログラムの処理方法を説明する。
まず,モデル形状作成ステップ1001では,オペレータによって出入力部13を介して,解析対象,つまり,プレス1の形状,樹脂材料2が充填された多孔質体3の形状,固体部材4の形状を入力する。
なお,上記形状は図3記載のLAN15,USB16等を介して,外部からCADデータ等を出入力部13を介して読み込んで記録部12に入力できるものとする。
次に,3次元要素作成ステップ1002では,ステップ1001で作成したモデル形状を複数の特定空間(3次元ソリッドの有限要素)に分解し,各有限要素の形状データを作成する。
次に,物性値入力ステップ1003では,少なくとも,樹脂材料2については,密度,初期の熱伝導率,比熱,多孔質体3については,密度,初期の断面固有の抵抗値,初期の開口率,比熱,熱伝導率,多孔質体3および固体部材4および樹脂材料2から発生するガスについては,密度,比熱,熱伝導率を含む物性値を入力するように,オペレータに催促する表示を表示部11の画面上に行い,出入力部13からデータを受け付ける。
【0014】
次に,境界条件,成形条件入力ステップ1004において,固体部材4の温度変化,多孔質体3の初期温度,樹脂材料2の初期温度と初期圧力,プレス1の温度変化と初期移動速度,プレス1に加えられる加圧力を入力するように,オペレータに催促する表示を表示部11の画面上に行い,出入力部13からデータを受け付ける。次に,初期の時間増分および解析終了時間tEを入力するように,オペレータに催促する表示を表示部11の画面上に行い,出入力部13からデータを受け付ける。なお,解析では微小な時間を増加させて,それぞれの時間ステップ毎の変化を計算するものであり,時間増分とは,時間ステップ間隔を示す。
次に,ステップ1005において,多孔質体3および固体部材4および樹脂材料2から発生するガス発生量の測定値,多孔質体3を圧縮させた場合の反発力と圧縮変位の変化,多孔質体3を圧縮させた場合の断面固有の抵抗値と圧縮変位の変化のデータベースを入力するように,表示部11の画面上でオペレータに催促する表示を行い,出入力部13からデータを受け付ける。
多孔質体3および固体部材4および樹脂材料2から発生するガス発生量の測定値の一例を図5に示す。ここでは,実験的に測定した単体ガス発生量,または複数ガス発生量の合計値を多孔質体3または固体部材4または樹脂材料2の内,少なくともいずれか1つの部材の単位重量当りのガス体積の時間変化として表す。
多孔質体3を圧縮させた場合の多孔質体3の反発力と圧縮変位の変化の一例を図6に示す。ここでは,多孔質体3に圧縮力を与えた場合の,多孔質体3の反発力と圧縮変位の関係を実験的に求め,データベース化する。なお,ガス成分は,水や,トルエン,アセトンなどの有機物とする。
多孔質体3を圧縮させた場合の断面固有の抵抗値と圧縮変位の変化の一例を図7に示す。ここでは,圧縮変位を与えた場合の断面固有の抵抗値を実験的および解析的に求め,断面固有の抵抗値と圧縮変位の関係として表す。断面固有の抵抗値は,少なくとも肉厚方向と,それと直交する2方向に対し,独立に設定でき,変化するものとする。
入力するデータベースは図6および図7に示されるような線形的な挙動だけに限らず,非線形の挙動に対してもプロット点を細かく設定し,2点間を関数近似することで導入することができるものとする。
【0015】
ステップ1006では,これまで入力を受け付けた物性値,境界条件,成形条件,実験のデータベースを用いて,時間t=0から任意時間t=t1まで第一計算ステップの時間増分Δt1の樹脂材料2の発熱式,粘度式,多孔質体3の流動抵抗変化式,を演算部10で計算する。
まず,樹脂材料2の発熱式は(数1)〜(数5)で表される。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
【数3】

【0019】
【数4】

【0020】
【数5】

【0021】
ここで,A;反応率,t;時間,T;温度,dA/dt;反応速度,k1,k2;温度の関数となる係数, M,N ,ka,kb,la,lb;材料固有の定数,Q;任意時刻までの発熱量,Q0;反応終了までの総発熱量を示す。
【0022】
樹脂材料2の粘度式は(数6) 〜(数9)で表される。
【0023】
【数6】

【0024】
【数7】

【0025】
【数8】

【0026】
【数9】

【0027】
ここで,η;粘度,η0;初期粘度,tg;ゲル化時間,t;時間,T;温度,D;温度の関数となる係数,a,b,d,e,i,j;材料固有の定数を示す。なお,(数6) 〜(数9)は少なくとも樹脂温度を含む関数として表すことができるものとする。
【0028】
多孔質体3の流動抵抗変化式は(数10)で表される。
【0029】
【数10】

【0030】
ここで,K;流動抵抗値,β;断面固有の抵抗値,h;多孔質体3の圧縮変位を示す。初期時間増分Δt1では,βは初期値を用いて計算する。βは互いに直交する3方向に対して独立に設定可能であり,この値を規定することで各方向の流動抵抗値を規定できる。
【0031】
ステップ1007では,まず,時間t=0から任意時間t=t1まで第一計算ステップの時間増分Δt1のガス発生量vg1を,ステップ1005において入力した多孔質体3または固体部材4または樹脂材料2の内,少なくともいずれか1つの部材から発生する図5に示したようなガス発生量の測定値から求める。さらに,ステップ1002で作成した有限要素1個に含まれるガス占有体積Vgは(数11)で表せる。
【0032】
【数11】

【0033】
ここで,ρp;多孔質体3の密度,f;多孔質体3の開口率,Vm;有限要素の体積を示す。
【0034】
有限要素1個に含まれるガス占有体積Vgは;ボイド近傍の樹脂圧力とガス内圧の差,多孔質体3の断面固有の係数,樹脂材料2の樹脂粘度により変化する場合があり,一例として(数12)〜(数15)の関数を用いてVgを補正する。
【0035】
【数12】

【0036】
【数13】

【0037】
【数14】

【0038】
【数15】

【0039】
ここで,Vg’;補正後のガス占有体積,η;粘度,Pi;ボイド近傍の樹脂圧力とガス内圧の差,β;断面固有の抵抗値, α1,α2,α3,α4,α5,α6;関数毎に設定する定数を表す。α1〜α6はボイド単体の挙動解析などから設定できる。
【0040】
なお,(数12)〜(数15)は少なくとも樹脂粘度,;ボイド近傍の樹脂圧力とガス内圧の差,断面固有を含む関数として表すことができるものとする。また,多孔質体3の開口率fは(数16)で表せる。
【0041】
【数16】

【0042】
ここで,H;多孔質体3の初期厚さ,f0;多孔質体3の初期開口率,h;多孔質体3の圧縮変位を示す。
【0043】
第一計算ステップの時間増分Δt1では,fは初期値f0を用いて計算する。第二計算ステップ以降では,一つ前の計算ステップで求めたhを用いて計算し,値を更新する。
さらに,有限要素内の見かけの樹脂密度ρAは(数17)で表せる。
【0044】
【数17】

【0045】
ここで,ρr;樹脂材料2の密度,ρg;ガス密度,Vg;有限要素内のガス占有体積を示す。
【0046】
(数17)から,ρr>ρgとなるため,ガスの発生によりボイドが生成され,有限要素内のガス占有体積Vgが増加することにより,有限要素内の見かけの樹脂密度ρAが低下する。
【0047】
また,ボイドの生成に伴う樹脂の熱伝導率λは(数18)で表せる。
【0048】
【数18】

【0049】
ここで,λ0;樹脂材料2の初期熱伝導率,E;材料固有の定数を示す。なお,(数18)は少なくとも初期熱伝導率,密度を含む関数として表すことができるものとする。
ステップ1008では,樹脂材料2に作用する圧縮力Fは,ステップ1004でプレス1に加えられる加圧力Fcと,ステップ1005で入力した多孔質体3を圧縮させた場合の反発力Frの差(F=Fc−Fr)の計算から求める。第一計算ステップの時間増分Δt1では,Frは初期値を用いて計算する。第二計算ステップ以降では,一つ前の計算ステップで求めたhを用いて計算し,値を更新する。
ステップ1009では,演算部10に格納された連続の式(数19),運動方程式(数20),エネルギ保存式(数21)を呼び出し,ステップ1003〜1008において入力及び計算された,初期時間増分,物性値,境界条件,成形条件,発熱式((数1)〜(数3)),粘度式(数6),流動抵抗変化式(数10),有限要素内のガス占有体積Vg(数11),多孔質体3の開口率f(数16),有限要素内の見かけの樹脂密度ρA(数17),樹脂の熱伝導率変化式(数18),樹脂材料2に作用する圧縮力Fを代入し,樹脂の速度,温度,圧力を計算する。この計算結果を有限要素の位置と対応付けて記録部8に保存する。
【0050】
【数19】

【0051】
【数20】

【0052】
【数21】

【0053】
ここで,u;流速,t;時間,T;温度,P;圧力,ρA; 有限要素内の見かけの樹脂密度,η;粘度,G;重力加速度,C;比熱,λ;熱伝導率,Q;発熱量,γ;せん断速度,K;多孔質体3の流動抵抗値を示す。
【0054】
ステップ1010では,ステップ1009の流動計算の結果から,多孔質体3の圧縮変位hを算出する。ここで,hは樹脂材料2の粘度上昇および多孔質体の反発力増加により,プレス1が動かなくなるまで,または多孔質体3の開口率fが0になるまで変化する。
ステップ1011では,解析における時間tが設定した解析終了時間tEよりも短いかの判定を行い,判定がNOの場合は解析を終了させ,次ステップに移る。一方,判定がYESの場合は,ステップ1006の計算に戻り,次の時間増分Δt2の計算を行う。
次の時間ステップ1006では,1010で算出した圧縮変位Hと,ステップ1005(図7)で入力したデータベースにより求めた断面固有の係数βの値を用いる。
ステップ1011にて解析が終了した場合,ステップ1012にて,結果出力をオペレータに催促し,表示部11に計算の結果を表示する。
【0055】
[解析例1]
前記解析方法を用いた解析例を以下に示す。解析範囲は,図1Bに示す10mm角の樹脂材料2が充填された多孔質体3とそれに接するプレス1および固体部材4とした。樹脂材料2が充填された多孔質体3のx方向の両端部は連続しているため,対称境界として設定した。一方,y方向の両端部は多孔質体3の圧縮によって内部の樹脂材料2が自由に流出できるように境界を設定した。
【0056】
解析では,樹脂材料2,多孔質体3,発生ガスの密度,比熱,熱伝導率等の物性値を表1に,熱伝導率変化式(数18)の定数を表2に,粘度式(数6)〜(数9)の定数を表3にそれぞれ示す値を用いた。(数1)〜(数3)の発熱式および(数13)〜(数15)のガス発生量の補正式は適用していない。また,樹脂材料2が充填された多孔質体3の初期温度を35℃とし,プレス1と固体部材4の温度は180℃一定とし,多孔質体3の初期開口率は0.5とした。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
プレス1に加えられる力の時間変化を図8に示す。また,固体部材4および樹脂材料2および多孔質体3から発生したガスの単位体積当りの体積を図9に示す。多孔質体3の反発力と圧縮変位との関係を図10に示す。樹脂材料2に作用する圧縮力は,図8に示されるプレス1に加えられる力と,図10に示される多孔質体3の反発力の差として求められる。断面固有の抵抗値はx,y,zの3方向とも同じ値とし,図11に示す圧縮変位に対する変化値を入力する。全ての入力行った後,図4に示すフローチャートに従って計算を行った。
【0061】
計算の結果得られたxz平面における樹脂材料2が充填された多孔質体3の形状変化と見かけの樹脂密度の分布の状態を計算装置10の表示部11に表示する画面1200の例を図12に示す。1201は成形前の状態を示し,1202は成形後の状態を示す。1203には見かけの樹脂密度に応じた表示の変化状態を示している。加熱圧縮によって,多孔質体3が変形すると共に,ガスの発生によってプレス1及び固体部材4に近い部分の多孔質体3の見かけの樹脂密度が低下している。これは,高温となるプレス1および固体部材4に接する多孔質体3の上面および下面付近に対し,熱の伝わりが遅い多孔質体3の内部では,ガス発生量が少なくなるなり,見かけの樹脂密度が高くなったためである。
【0062】
図13に、プレス1及び固体部材4に近い部分の多孔質体3の見かけの樹脂密度の時間変化を示す。樹脂密度の減少傾向と図9のガス発生量の増加傾向はよく一致している。図14に多孔質体3の圧縮変位の時間変化を示す。10s以降に一定値となっているのは,プレス1に加えられる力よりも,多孔質体3の反発力が大きくなったためである。
【0063】
以上の樹脂内のボイド挙動解析を行うことにより,固体部材4および多孔質体3および樹脂材料2から発生するガスによって樹脂中に発生するボイドを低減し,品質を保持するための樹脂含浸前の乾燥プロセスの変更,樹脂加熱硬化プロセス条件の変更,多孔質体および固体部材の材質変更を解析上で短期に実施することができる。
【実施例2】
【0064】
次に,FRP(Fiber Reinforced Plastics)成形への適用例を示す。図15にFRP成形の一例を示す。上金型20と下金型21との間に樹脂材料22が充填された多孔質体23を設置し,加熱しながら加圧することで成形される。ここで,多孔質体23はガラス繊維,炭素繊維などを用いることができ,樹脂材料22はエポシキやフェノールなどの熱硬化性樹脂,ポリカーボネートやポリスチレンなどの熱可塑性樹脂を用いることができる。前記実施例1で示した絶縁層の成形例と異なる点は,ガス発生源の一つである固体部材4に相当する部材がなく、樹脂材料22と多孔質体23の層以外からのガス発生が無いことである。
解析プログラムは前記実施例1で示した図4のフローと同様なステップに基づいて処理されるが,固体部材4に相当する下金型21からのガス発生が無いため,ステップ1005のデータベース入力にて,固体部材からのガス発生量と時間の関係式の入力を除外することで解析可能である。
また,上記では,あらかじめ樹脂が含浸された多孔質体を上金型20と下金型21との間に設置して,圧縮することでFRPを成形する場合の解析フローとして図4を用いて示したが,本解析手法はこれに限定されるものではなく,金型に多孔質体のみを設置した後に樹脂を含浸させて加熱硬化させる無圧縮の成形に関しても適用可能である。この場合,図4のフローチャートのステップ1004の境界条件の入力にて,金型に加わる力と金型の移動速度を0に設定し,ステップ1005のデータベース入力にて,多孔質体23からのガス発生量と時間の関係式と樹脂材料からのガス発生量と時間の関係式のみを入力し,ステップ1008の樹脂に加わる圧縮力の計算とステップ1010の多孔質体3の圧縮変位の計算を除外することで解析可能である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・プレス 2・・・樹脂材料 3・・・多孔質体 4・・・固体部材
5・・・ボイド 6・・・計算装置 7・・・表示部 8・・・記録部
9・・・出入力部 10・・・演算部 11・・・LAN 12・・・USB
13・・・金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を含浸させた多孔質体を金型で加熱圧縮することにより,前記樹脂材料を含浸させた多孔質体の内部に発生するボイドの生成・成長・分布を大局的に把握する解析方法であって,
前記樹脂材料が充填された多孔質体の形状データを入力し,該入力した形状データに基づいて前記多孔質体の形状を3次元ソリッド要素に分割し,
前記樹脂材料が充填された多孔質体の物性値と,前記金型で多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件を入力し,
加熱時に前記樹脂材料と前記多孔質体とから発生するガスの体積の時間変化、前記樹脂を含浸させた多孔質体を圧縮させた場合の圧縮力と圧縮変位の変化および樹脂の流動抵抗の変化を予め実験的に測定して求めたデータベースを用いて流体解析により前記3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を求め、
該求めた前記3次元ソリッド要素内の見かけの樹脂密度の分布から前記ガス発生に伴うボイドの生成・成長・分布を大局的に把握する
ことを特徴とする樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項2】
前記求めた3次元ソリッド要素内の見かけの樹脂密度の分布の図を画面上に表示することにより前記ガス発生に伴うボイドの生成・成長・分布を大局的に把握することを特徴とする請求項1記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項3】
前記多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件は、前記多孔質体の初期温度と初期開口率,樹脂材料の初期温度と初期圧力、前記金型の温度変化と初期移動速度とを更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項4】
樹脂材料を含浸させた多孔質体を金型で加熱圧縮することにより,前記多孔質体の内部に発生するボイドの分布を解析する方法であって,
前記樹脂材料が充填された多孔質体の形状を3次元ソリッド要素に分割し,
前記樹脂材料が充填された多孔質体の物性値と,前記金型で多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件を入力し,
前記金型で前記多孔質体を加熱時に前記樹脂材料から発生するガスの体積の時間変化を予め実験的に測定して求めたデータベースを用いて流体解析により前記3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を求め、
該求めた3次元ソリッド要素に分割した多孔質体の樹脂密度の分布を前記金型で加圧する前の前記多孔質体の樹脂密度の分布と並べて画面上に図示する
ことを特徴とする樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項5】
前記入力する前記樹脂材料を充填させた多孔質体の物性値は、前記樹脂材料の密度,熱伝導率,比熱,前記多孔質体の開口率,断面固有の抵抗値,前記多孔質体の密度,熱伝導率,比熱,前記多孔質体から発生するガスの密度,熱伝導率,比熱を含むことを特徴とする請求項1又は2又は4の何れかに記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項6】
前記データベースとして、前記多孔質体を圧縮したときの断面固有の抵抗値の変化のデータ及び前記多孔質体を圧縮させた場合の多孔質体の反発力と圧縮変位のデータを更に含むことを特徴とする請求項1又は4に記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項7】
前記金型で多孔質体を加圧する加圧力を含む境界条件は、前記多孔質体の初期温度と初期開口率,樹脂材料の初期温度と初期圧力、前記金型の温度変化と初期移動速度とを更に含むことを特徴とする請求項4に記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項8】
前記流体解析を、多孔質体の流動抵抗値を少なくとも断面固有の抵抗値と樹脂粘度の関数として表される流動抵抗式と少なくとも樹脂温度を含む関数として表される樹脂粘度式を含んで実行することを特徴とする請求項1又は4に記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。
【請求項9】
前記流体解析において、前記多孔質体の流動抵抗を断面固有の抵抗値と樹脂粘度を含む関数で表し,前記樹脂材料を含む前記多孔質体の加熱圧縮による流動抵抗の変化を計算して,前記多孔質体および樹脂材料から発生するガスの体積を計算することを特徴とする請求項8記載の樹脂を含浸させた多孔質体内の樹脂のボイド成長解析方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−81703(P2012−81703A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231764(P2010−231764)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】