説明

多孔質耐熱層の形成方法および多孔質耐熱層の形成装置

【課題】電極フープの表面に多孔質耐熱層をグラビア法にて設ける場合の課題であった肉薄部の形成を抑止し、短絡時の過熱を高い確率で回避できる電池を供給する。
【解決手段】本発明の多孔質耐熱層の形成方法は、活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープを走行させ、周面に溝を設けたグラビアロールを電極フープと当接させつつその走行方向とは逆向きに回転させることにより、電極フープの表面に多孔質耐熱層の前駆体である塗液を塗布する工程を含み、グラビアロールとして、肉薄部の形成を抑止できるようなパターンで溝を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池などの電極フープの表面に多孔質耐熱層を形成する方法に関し、より詳しくは多孔質耐熱層の厚みを一定にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれて、軽量でかつ高エネルギー密度を有する非水電解液二次電池への期待は高まりつつある。ただし非水電解液二次電池の活物質は反応性の高いリチウムであり、短絡によって正極と負極とが異常時に直接触れ合うと発熱し、正極と負極とを隔てる樹脂性微多孔膜セパレータが短絡箇所を中心に溶融することにより、短絡箇所が拡大して異常な過熱が発生する。これを防ぐために樹脂性微多孔膜セパレータと併用する形で、耐熱性樹脂や無機酸化物などを主成分とする多孔質耐熱層を配置し、万一短絡が発生しても短絡箇所の拡大による過熱を抑止する技術が展開されつつある。
【0003】
この多孔質耐熱層は電池の設計容量を損なわぬよう、厚みが2〜10μmとなるように正極あるいは負極(以下、単に電極と称す)の表面に設けられる。このような厚みの小さい層を精度よく作製する方法として、多孔質耐熱層の前駆体である塗液を複数条の溝を設けたグラビアロールに転写し、対象物である電極フープ(電極の前駆体)の表面に塗布する方法(以下、グラビア法と略記)を採用するのが好ましい。
【0004】
グラビア法を具現化するにあたり、以下の2つの技術が有効である。1つは電極フープの走行方向とグラビアロールの回転方法を逆向きにすることである。これにより塗布対象物の表面に設ける層の厚みの精度を高め薄く塗布することができる。もう1つはグラビアロールの周面の一端の上部方向から他端の下部方向へ略平行に複数条の溝を設けることである。この方法は周面に回転方向と平行に複数条の溝を設けた場合と比較して塗液が塗布対象物の上に万遍なく行き渡るので、上述した厚みの精度をさらに高めることができる。
【0005】
図5は従来のグラビアロールを用いた場合の多孔質耐熱層の形成状態を示す部分概略図である。この図にはグラビアロール1の周面と電極フープの合剤層3および多孔質耐熱層4の断面を示している。グラビアロール1の周面の一端の上部方向から他端の下部方向へ(図5の場合では左上から右下へ)略平行に複数条の溝7aを設けた場合、塗液が全体的に左から右へと流れる。グラビア法で用いる塗液は粘性が低いニュートニアン流体なので、形成される多孔質耐熱層にはAで示す厚みが小さい部分(以下、肉薄部と称す)とBで示す厚みが大きい部分(以下、肉厚部と称す)とが否応なく形成される。
【0006】
グラビア法の塗布対象物として厚みが小さいロール紙などを用いる場合は、肉厚部が延々と形成されることによって、塗布を終えた後に塗布対象物をロール状に再度巻き取る際にロールの変形が生じることを課題視していた。そこで特許文献1のように、溝の角度に工夫を凝らすなどして、肉厚部の厚みを影響のない範囲内に留める技術が種々検討されていた。
【特許文献1】特開平11−005052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら電極フープの表面に多孔質耐熱層を設ける場合、この厚みを塗布対象となる全範囲において短絡時に実質的な問題がない大きさ(2μm以上)にする必要がある。特許文献1の技術は肉厚部を解消するためのものであって肉薄部は依然として残るので、
肉薄部を解消するための新たな技術が必要であった。
【0008】
本発明は上述した課題に基づいてなされたものであり、電極フープの表面に多孔質耐熱層をグラビア法にて設ける場合の課題であった肉薄部の形成を抑止し、短絡時の過熱を高い確率で回避できる電池を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を鑑みて、本発明の多孔質耐熱層の形成方法は、活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープを走行させ、周面に溝を設けたグラビアロールを電極フープと当接させつつその走行方向とは逆向きに回転させることにより、電極フープの表面に多孔質耐熱層の前駆体である塗液を塗布する工程を含み、グラビアロールとして、以下に示すように肉薄部の形成を抑止できるようなパターンで溝を設けたことを特徴とする。
(1)周面の略中心線から両端の下部方向へ、左右が略対象となるように溝を略平行に複数条設ける。
(2)周面の一端に回転方向と略平行に第1の溝を複数条設け、この第1の溝のうち最も中心よりの1本から周面の他端の下部方向へ第2の溝を略平行に複数条設ける。
(3)周面の一端の上部方向から他端の下部方向へ、周面の端辺への入角が0.05°以上20°以下となるように溝を略平行に複数条設ける。
【0010】
上述した(1)〜(3)に示すパターンの溝を設けることにより、従来のグラビア法なら肉薄部に該当する箇所に塗液を滞留させることができるようになるので、この肉薄部の厚みを短絡時に実質的な問題のない範囲まで大きくすることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極フープの表面に多孔質耐熱層を形成する際に、肉薄部の厚みを短絡時に実質的な問題のない範囲まで大きくすることが可能になるので、短絡時の安全性が高い電池(特に非水電解液二次電池)を多量に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の多孔質耐熱層の形成方法の一例を示す概略図である。芯材5の上に活物質を含む合剤層3を設けてなる電極フープは、駆動部を兼ねるアンコイラー(図示せず)から連続的に供給され、一定方向に走行させられる。一方で多孔質耐熱層4の前駆体である塗液2を収容する塗液槽8の内部には、後述する種々のパターンの溝7a〜7cが設けられたグラビアロール1が配置されている。このグラビアロール1を上述した電極フープ(具体的には合剤層3)の表面に当接させ、かつ電極フープの走行方向とは逆向きに回転させることで、塗液槽8に収容された塗液2が溝7a〜7cに沿って電極フープの表面に塗布される。この後で乾燥部6を経て形成された多孔質耐熱層4は、後述する作用によって肉薄部の厚みが短絡時に実質的な問題のない範囲まで大きくなっている。
【0014】
第1の発明は、図2の部分概略図に示すように、グラビアロール1として周面の略中心線から両端の下部方向へ、左右が略対象となるように溝7aおよび7bを略平行に複数条設けたものを用いたことを特徴とする。溝7aに沿って供給された塗液2は、図5と同様に左から右へと流れるが、溝7bに沿って供給された塗液2は、逆に右から左へと流れることになる。これによってグラビアロール1の周面における略中心線上からに塗液2が左右に流れるため、肉薄部は合剤層3の幅方向の一端から略中心上に移動する。略中心上であれば塗布後に左右から塗液2が流れ込めるのでレベリング作用が発揮され、最終的には肉薄部の厚みを短絡時に実質的な問題のない範囲まで大きくできる。
【0015】
第2の発明は、図3の部分概略図に示すように、グラビアロール1として周面の一端に回転方向と略平行に第1の溝7cを複数条設け、この第1の溝7cのうち最も中心よりの1本から周面の他端の下部方向へ第2の溝7aを略平行に複数条設けたものを用いたことを特徴とする。第1の溝7cだけでは互いに緩衝しあって溝7aの形状を反映した凹凸が形成されるが、第2の溝を設けた箇所における塗液2の流れ(左から右へ)が上述した緩衝を緩和するため、凹凸の発生が抑制されるとともに肉薄部の厚みを短絡時に実質的な問題のない範囲まで大きくできる。
【0016】
第3の発明は、図4の部分概略図に示すように、グラビアロール1として周面の一端の上部方向から他端の下部方向へ、周面の端辺への入角αが0.05°以上20°以下となるように溝7aを略平行に複数条設けたものを用いたことを特徴とする。周面の端辺への入角αが20°以下となるように溝7aを設けることにより、塗液2の右から左への移動が緩やかなものになるので、肉薄部の厚みを短絡時に実質的な問題のない範囲まで大きくできる。ただしこの入角αが0.05°未満の場合、グラビアロール1の回転方向と略平行に設けた場合と同じく溝7aの形状を反映した凹凸が顕著化する。
【0017】
なお図2〜4に示した部分概略図は、図5と同じくグラビアロール1の周面と電極フープの合剤層3および多孔質耐熱層4の断面を示しており、図1においてグラビアロール1近傍を左から右に眺望したものである(図5も同様)。また合剤層3の表面に均質に塗液2を行き渡らせる観点から、グラビアロール1の周面に設ける溝7a、7bおよび7cは、幅を0.1〜0.5mm、深さを0.05〜0.2mmの範囲とするのが好ましい。
【0018】
第4の発明は、図1および2に示すように、活物質を含む合剤層3を芯材5の上に設けてなる電極フープの表面に多孔質耐熱層4を形成する多孔質耐熱層の形成装置であって、電極フープを一定方向に走行させる駆動部と、多孔質耐熱層4の前駆体である塗液2を収容する塗液槽8と、周面の略中心線から両端の下部方向へ左右が略対象となるように略平行に複数条の溝7aおよび7bを設けたグラビアロール1(回転方向は電極フープの走行方向とは逆向き)と、電極フープの表面に塗布された塗液2を乾燥させる乾燥部6とを有することを特徴とする。この多孔質耐熱層の形成装置の効果は第1の発明と同様である。
【0019】
第5の発明は、図1および3に示すように、活物質を含む合剤層3を芯材5の上に設けてなる電極フープの表面に多孔質耐熱層4を形成する多孔質耐熱層の形成装置であって、電極フープを一定方向に走行させる駆動部と、多孔質耐熱層4の前駆体である塗液2を収容する塗液槽8と、周面の一端に回転方向と略平行に複数条の第1の溝7cを設けさらにこの第1の溝7cのうち最も中心よりの1本から周面の他端の下部方向へ略平行に複数条の第2の溝7aを設けたグラビアロール1(回転方向は電極フープの走行方向とは逆向き)と、電極フープの表面に塗布された塗液2を乾燥させる乾燥部6とを有することを特徴とする。この多孔質耐熱層の形成装置の効果は第2の発明と同様である。
【0020】
第6の発明は、図1および4に示すように、活物質を含む合剤層3を芯材5の上に設けてなる電極フープの表面に多孔質耐熱層4を形成する多孔質耐熱層の形成装置であって、電極フープを一定方向に走行させる駆動部と、多孔質耐熱層4の前駆体である塗液2を収容する塗液槽8と、周面の一端の上部方向から他端の下部方向へこの周面の端辺への入角αが0.05°以上20°以下となるように略平行に複数条の溝7aを設けたグラビアロール1(回転方向は電極フープの走行方向とは逆向き)と、電極フープの表面に塗布された塗液2を乾燥させる乾燥部6とを有することを特徴とする。この多孔質耐熱層の形成装置の効果は第3の発明と同様である。
【0021】
本発明の多孔質耐熱層4としては、融点や熱分解温度が200℃を大きく上回る材料を用いることが好ましい。具体的にはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと略記)
、ポリイミド、ポリアミドなどの耐熱性樹脂のほか、アルミナやマグネシアなどの無機酸化物フィラーを用いることができる。ここで塗布対象物である電極との密着性を確保するために、多孔質耐熱層4にポリフッ化ビニリデン(以下PVDFと略記)やアクリル単位を有するゴム粒子(日本ゼオン(株)製BM−500B/商品名など)などの結着剤を加えるとより好ましい。上述した結着剤は適度な耐熱性を有するほかに、電解液に対する膨潤性が抑制されているために多孔質耐熱層4内の空隙を保ち、イオン伝導性を維持できるという利点を有する。なお多孔質耐熱層4の前駆体である塗液2を作製する場合、上述した原材料をN−メチルピロリドン(以下、NMPと略記)などの極性有機溶媒に分散あるいは溶解させるのが好ましい。
【0022】
塗布対象物である電極フープが非水電解液二次電池の負極の前駆体の場合、活物質としては黒鉛などの炭素質材料の他に、理論容量密度が400mAh/g以上のリチウムと合金化可能な元素を含む高容量材料を用いることができる。リチウムと合金化可能な元素としては特に限定されないが、例えばAl、Zn、Ge、Cd、Sn、Pb等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なお、吸蔵可能なリチウム量の多い材料が得られ、入手も容易である点で、特にSi、Sn等がリチウムと合金化可能な元素として好ましい。Si、Sn等を含む材料としては、Si単体、Sn単体等の単体、SiOx(0<x<2)、SnOx(0<x≦2)等の酸化物、Ni−Si合金、Ti−Si合金、Mg−Sn合金、Fe−Sn合金等の遷移金属元素を含む合金等、様々な材料を用いることができる。なお活物質が粒子状であって芯材5の上に塗布する形式を採る場合、結着剤としてPVDFやスチレン−ブタジエン共重合体(以下SBRと略記)、アクリル酸系ポリマーの変性体などを用いることができる。水系のペーストを経て塗工する場合には、水溶性の増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(以下CMCと略記)やポリアクリル酸などを用いるとペーストの安定性が高まる。また上述した高容量材料の多くは導電性が乏しいので、人造黒鉛などのグラファイトやアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維などを導電剤として加えるのも好ましい態様の1つである。上述した諸材料を芯材5の上に設けることにより、合剤層3が形成される。なお芯材5には、銅や銅合金などの金属箔や多孔体(ラスメタルや発泡メタルなど)を用いることができる。
【0023】
塗布対象物である電極フープが非水電解液二次電池の正極の前駆体の場合、活物質としてはLiCoO2やLiNixCoy2(x+y=1)、LiNixMnyCoz2(x+y+z=1)などを挙げることができる。これら活物質は粒子状であって芯材5の上に塗布する形式を採るので、結着剤としてPVDFやPTFEなどを用いることができる。水系のペーストを経て塗工する場合には、水溶性の増粘剤としてCMCやポリアクリル酸などを用いることができる。また上述した活物質は導電性が乏しいので、人造黒鉛などのグラファイトやアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維などを導電剤として加えるのが好ましい。上述した諸材料を芯材5の上に設けることにより、合剤層3が形成される。なお芯材5には、アルミニウム、アルミニウム合金やニッケルなどの金属箔や多孔体(ラスメタルや発泡メタルなど)を用いることができる。
【0024】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
(実施例1)
図1に示すように、芯材5である厚み10μmの銅箔の両面に、黒鉛とSBRとCMCとの重量比が100:1:1である合剤層3を設けた負極フープ(厚み150μm、活物質密度1.6g/ml、全幅200mm、うち合剤層幅180mm、両端の芯材1の露出部幅10mm/片側、長さ100m)をコイル状に捲回し、駆動部を兼ねたアンコイラーに装着した。一方で塗液槽8の中に、アルミナ(住友化学工業株式会社製AES−12)
と結着剤であるPVDF(呉羽化学株式会社製#1320)と溶媒であるNMPとの重量比を100:42:113とした塗液2を収容し、この塗液2に一部が浸かるように、図2に示す溝7aおよび7bを周面に有するグラビアロール1(周面幅180.5mm、直径120mm、溝7aおよび7bの幅0.2mm、深さ0.1mm、平行間隔0.25mm、周面の端辺への入角45°)を設置した。
【0026】
アンコイラーから3m/分で負極フープを走行させ、グラビアロール1の上端にこの負極フープの下側の合剤層3を当接させた後、乾燥炉6(長さ2m)に導入して120℃、で乾燥させることにより、合剤層3の表面に平均厚み4μmの多孔質耐熱層4を設け、コイラー(図示せず)で再びコイル状に捲回した。なおここでグラビアロール1の回転速度は4m/分とし、回転方向は負極フープの走行方向と逆向きにした。これを実施例1とする。
【0027】
(実施例2)
実施例1に対し、グラビアロール1を図3に示すもの(周面幅180.5mm、直径120mm、溝7aおよび7cの幅0.2mm、深さ0.1mm、平行間隔0.25mm、周面の端辺への入角45°)に代えたほかは、実施例1と同様に負極フープの合剤層3の表面に多孔質耐熱層4を設けた。これを実施例2とする。
【0028】
(実施例3〜5)
実施例1に対し、グラビアロール1を図3に示すもの(周面幅180.5mm、直径120mm、溝7aの幅0.2mm、深さ0.1mm、平行間隔0.25mm、周面の端辺への入角0.05°/実施例3、10°/実施例4、20°/実施例5)に代えたほかは、実施例1と同様に負極フープの合剤層3の表面に多孔質耐熱層4を設けた。これを実施例3〜5とする。
【0029】
(比較例1)
実施例3に対し、溝7aのグラビアロール1の周面の端辺への入角を0°に代え、溝7aを回転方向と平行にしたほかは、実施例3と同様に負極フープの合剤層3の表面に多孔質耐熱層4を設けた。これを比較例1とする。
【0030】
(比較例2)
実施例3に対し、溝7aのグラビアロール1の周面の端辺への入角を45°に代え、実質的に溝7aのパターンを従来の図5と同様にしたほかは、実施例3と同様に負極フープの合剤層3の表面に多孔質耐熱層4を設けた。これを比較例2とする。
【0031】
以上の各例の負極フープをコイラーから巻き出し、ほぼ中間地点(50m)において合剤層3の上に設けた多孔質耐熱層4の薄肉部(実施例1は略中心、その他は左端)における厚みの平均値とバラツキσとを測定した。具体的には多孔質耐熱層4の薄肉部にあたる箇所の負極フープ片を採取し、マイクロゲージにて総厚を測定し、合剤層3を含む負極フープの設定厚みを差し引くことで多孔質耐熱層4の厚みを求めた。この値を該当区間において30箇所求めた後、統計処理した。結果を(表1)に示す。
【0032】
【表1】

グラビアロール1の周面に溝7aのみを設け、かつそのパターンを実質的に回転方向と平行にした比較例1は、溝7aの形状を反映した凹凸が顕著化し、薄肉部の平均厚みは大きいもののバラツキが大きくなった。一方グラビアロール1の周面に溝7aのみを設け、かつそのパターンを実質的に図5と同様した比較例1は、従来通り薄肉部の全体的な厚みが著しく小さく(薄肉部の平均厚みが著しく低く)なった。
【0033】
これら比較例に対し、本発明の実施例1〜5は薄肉部の平均厚みも全体的な平均値(4μm)に近く、かつバラツキが小さくなった。ただし実施例3は厚みバラツキがやや大きく、実施例5は薄肉部の平均厚みがやや低くなっている。このことから溝7aの周面の端辺への入角を、0.05°以上20°以下とする必要があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の多孔質耐熱層の形成方法および多孔質耐熱層の形成装置は、電気自動車の補助電源やパーソナルコンピュータの主電源など、電池を多数個用いるので高い安全性が必要とされる電池の電極フープの上に多孔質耐熱層を形成するのに有用であり、かつその利用可能性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の多孔質耐熱層の形成方法の一例を示す概略図
【図2】第1の発明のグラビアロールを用いた場合の多孔質耐熱層の形成状態を示す部分概略図
【図3】第2の発明のグラビアロールを用いた場合の多孔質耐熱層の形成状態を示す部分概略図
【図4】第3の発明のグラビアロールを用いた場合の多孔質耐熱層の形成状態を示す部分概略図
【図5】従来のグラビアロールを用いた場合の多孔質耐熱層の形成状態を示す部分概略図
【符号の説明】
【0036】
1 グラビアロール
2 塗液
3 合剤層
4 多孔質耐熱層
5 芯材
6 乾燥炉
7a 溝
7b 溝
7c 溝
8 塗液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープを走行させ、周面に溝を設けたグラビアロールを前記電極と当接させつつその走行方向とは逆向きに回転させることにより、前記電極フープの表面に多孔質耐熱層の前駆体である塗液を塗布する工程を含む多孔質耐熱層の形成方法であって、
前記グラビアロールとして、前記周面の略中心線から両端の下部方向へ、左右が略対象となるように前記溝を略平行に複数条設けたものを用いたことを特徴とする多孔質耐熱層の形成方法。
【請求項2】
活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープを走行させ、周面に溝を設けたグラビアロールを前記電極と当接させつつその走行方向とは逆向きに回転させることにより、前記電極フープの表面に多孔質耐熱層の前駆体である塗液を塗布する工程を含む多孔質耐熱層の形成方法であって、
前記グラビアロールとして、前記周面の一端に回転方向と略平行に第1の溝を複数条設け、この第1の溝のうち最も中心よりの1本から前記周面の他端の下部方向へ第2の溝を略平行に複数条設けたものを用いたことを特徴とする多孔質耐熱層の形成方法。
【請求項3】
活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープを走行させ、周面に溝を設けたグラビアロールを前記電極フープと当接させつつその走行方向とは逆向きに回転させることにより、前記電極の表面に多孔質耐熱層の前駆体である塗液を塗布する工程を含む多孔質耐熱層の形成方法であって、
前記グラビアロールとして、前記周面の一端の上部方向から他端の下部方向へ、前記周面の端辺への入角が0.05°以上20°以下となるように前記溝を略平行に複数条設けたものを用いたことを特徴とする多孔質耐熱層の形成方法。
【請求項4】
活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープの表面に多孔質耐熱層を形成する多孔質耐熱層の形成装置であって、
前記電極フープを一定方向に走行させる駆動部と、
前記多孔質耐熱層の前駆体である塗液を収容する塗液槽と、
周面の略中心線から両端の下部方向へ左右が略対象となるように略平行に複数条の溝を設け、かつ前記電極フープの走行方向とは逆向きに回転することで、前記塗液槽に収容された前記塗液をこの溝に沿わせて前記電極フープの表面に塗布するグラビアロールと、
前記電極フープの表面に塗布された前記塗液を乾燥させる乾燥部と、
を有することを特徴とする多孔質耐熱層の形成装置。
【請求項5】
活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープの表面に多孔質耐熱層を形成する多孔質耐熱層の形成装置であって、
前記電極フープを一定方向に走行させる駆動部と、
前記多孔質耐熱層の前駆体である塗液を収容する塗液槽と、
周面の一端に回転方向と略平行に複数条の第1の溝を設け、さらにこの第1の溝のうち最も中心よりの1本から前記周面の他端の下部方向へ略平行に複数条の第2の溝を設け、かつ前記電極フープの走行方向とは逆向きに回転することで、前記塗液槽に収容された前記塗液をこの溝に沿わせて前記電極フープの表面に塗布するグラビアロールと、
前記電極フープの表面に塗布された前記塗液を乾燥させる乾燥部と、
を有することを特徴とする多孔質耐熱層の形成装置。
【請求項6】
活物質を含む合剤層を芯材の上に設けてなる電極フープの表面に多孔質耐熱層を形成する多孔質耐熱層の形成装置であって、
前記電極フープを一定方向に走行させる駆動部と、
前記多孔質耐熱層の前駆体である塗液を収容する塗液槽と、
周面の一端の上部方向から他端の下部方向へこの周面の端辺への入角が0.05°以上20°以下となるように略平行に複数条の溝を設け、かつ前記電極フープの走行方向とは逆向きに回転することで、前記塗液槽に収容された前記塗液をこの溝に沿わせて前記電極フープの表面に塗布するグラビアロールと、
前記電極フープの表面に塗布された前記塗液を乾燥させる乾燥部と、
を有することを特徴とする多孔質耐熱層の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−273124(P2007−273124A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94004(P2006−94004)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】