説明

多孔質金属積層体およびその製造方法

【課題】多孔質金属層を含む複数の層が互いに接合された積層体を提供する。
【解決手段】金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている多孔質層11を含む複数層からなる多孔質金属積層体10の製造方法であって、多孔質層11と、金属からなる隣接層12とを積層する積層工程と、多孔質層11と隣接層12とを積層した状態でレーザにより所望の形状に溶断する溶断工程とを有し、溶断工程において、多孔質層11と隣接層12とを前記レーザにより溶融し固化させることにより、多孔質層11および隣接層12の側面に多孔質層11と隣接層12とを接合する溶融接合層13を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルタ、二次電池電極、固体高分子型燃料電池集電場、触媒担体等に、複数層の多孔質金属材等を積層した多孔質金属積層体が用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1,2には、金属粉末を含む2層のグリーン層を積層した状態で脱脂、焼結することにより、気孔率の異なる2層の多孔質金属層からなる積層体を製造する方法が開示されている。各層が同種の金属層である場合には、このようにスラリーを二重塗工して焼結することにより、層間を拡散接合することができる。
【0004】
特許文献3には、多孔質金属層と金属板とをろう付けすることにより、接合部分の接触抵抗が小さい複合板を製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献4には、金属粉末を含む板状成形体を重ねて焼結することにより拡散接合して一体化し、多孔質金属積層体を製造する方法が開示されている。この方法によれば、多数の積層体を積層して一体化することができるので、スラリーを二重塗工する特許文献1,2に開示された方法に比較して、厚さの大きな積層体を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3508604号公報
【特許文献2】特許3982356号公報
【特許文献3】特開2006−338903号公報
【特許文献4】特開平9−87705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2および4に開示されている方法では、たとえば異種金属同士等、焼結条件が異なる材料同士の場合は同時に焼結できないため、拡散接合が不可能である。また、拡散接合が可能であっても、接合面が剥がれやすく、熱膨張差による反りが生じるおそれもある。さらに、成形体同士を拡散接合する場合には、接合方向に圧力を加えることにより気孔が歪み、気孔率に不連続性が生じるという問題がある。また、いずれの場合にも、各層の気孔率が異なるなど、焼結時の収縮率が異なる場合には、接合強度不足や変形、割れ等が生じるおそれがある。
【0008】
一方、特許文献3に開示されているように、ろう付により複合板を製造する場合、異種金属同士であっても接合は可能となる場合もある。しかしながら、多孔質層を接合しようとする場合、溶融したろう材が多孔質層の空隙に吸収されてしまい、接合が困難となるおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、多孔質金属層を含む複数の層が互いに接合された積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている多孔質層を含む複数層からなる多孔質金属積層体の製造方法であって、前記多孔質層と、金属からなる隣接層とを積層する積層工程と、前記多孔質層と前記隣接層とを積層した状態でレーザにより所望の形状に溶断する溶断工程とを有し、前記溶断工程において、前記多孔質層と前記隣接層とを前記レーザにより溶融し固化させることにより、前記多孔質層および前記隣接層の側面に前記多孔質層と前記隣接層とを接合する溶融接合層を形成する。
【0011】
この製造方法によれば、多孔質層と隣接層とを積層した状態でレーザにより所望の形状に溶断するだけで、これら多孔質層と隣接層とを接合することができる。このため、多孔質層と隣接層とは、互いに拡散接合が不可能な異種金属同士の場合や、収縮率が異なり接合後に割れや剥がれが生じやすい素材同士の場合等であっても、レーザにより溶融可能な材料であれば接合できる。
また、この製造方法の溶断工程において、溶融接合層の一部が多孔質層の空隙に入り込みアンカーとなることにより、多孔質層と隣接層とが確実に接合された多孔質金属積層体が製造される。
【0012】
この製造方法の前記溶断工程において、前記レーザの焦点を前記多孔質層と前記隣接層との接合面に設定することが好ましい。この場合、焦点部分に発生する液相は、他の部分に比べ量が多く、温度も高い。ここへアシストガスが流れてくると、液相が出現すると同時に冷却され凝固し接合される。また、このとき、液相はつらら状に凝固するので、アンカー効果も出現する。
【0013】
この製造方法において、前記多孔質層は、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを板状に成形し、発泡させた後に焼結して形成することが好ましい。この場合、多孔質層について、任意の金属粉末を材料として形成でき、また空隙率、開口面積の割合、および平均開口径を任意の大きさに設定することができる。
【0014】
この製造方法において、前記多孔質層は、空隙率が50%以上99%以下であることが好ましい。
また、前記多孔質層は、その表裏面における前記空隙の開口面積の割合が15%以上85%以下であることが好ましい。
また、前記多孔質層は、前記表裏面における前記空隙の平均開口径が50μm以上600μm以下であることが好ましい。
【0015】
これらの場合、多孔質層の空隙に溶融接合層の一部が入り込みやすくなり、隣接層と多孔質層とが確実に接合された多孔質金属積層体を製造できる。
【0016】
また、本発明は、金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている多孔質層を含む複数層からなる多孔質金属積層体であって、前記多孔質層と、金属からなりこの多孔質層に積層された隣接層と、前記多孔質層および前記隣接層の側面に沿って設けられ、前記多孔質層および前記隣接層が溶融凝固してなる溶融接合層とを備える。
【0017】
この多孔質金属積層体は、多孔質層と隣接層とが溶融接合層によって接合されているので、多孔質層と隣接層とが互いに拡散接合が困難な異種金属同士等であってもよく、たとえば多孔質層を要する電極、フィルタ、触媒担体、固体高分子型燃料電池集電板等、様々な装置を構成する部材として広い用途に利用できる。
【0018】
この多孔質金属積層体において、前記溶融接合層の一部が、前記多孔質層の前記空隙に入り込んでいることが好ましい。この場合、空隙に溶融接合層が入り込んでアンカーとなり、各層が確実に接合された多孔質金属積層体が実現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多孔質金属層を含む複数の層が互いに接合された積層体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る多孔質金属積層体を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る多孔質金属積層体を示す断面図である。
【図3】多孔質金属材の製造装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る多孔質金属積層体およびその製造方法の実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態の多孔質金属積層体10は、多孔質層11と、金属からなり多孔質層11に積層された隣接層12と、多孔質層11および隣接層12の側面に沿って設けられた溶融接合層13とを備える。図2は、この多孔質金属積層体10の部分断面図である。
【0022】
多孔質層11は、図2に示すように、金属焼結体の骨格11aにより辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙11bが相互に連続状態に形成されている層である。
隣接層12は、図2に示すように、本実施形態では多孔質層11と同様に、金属焼結体の骨格12aにより辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙12bが相互に連続状態に形成されている層である。
図2に示すように、これら多孔質層11と隣接層12とは、多孔質層11の接合面11cと隣接層12の接合面12cとを当接させるように積層されている。
【0023】
溶融接合層13は、図2に示すように、多孔質層11および隣接層12が溶融凝固してなる層である。この溶融接合層13は、多孔質層11および隣接層12と一体に設けられている。そして、この溶融接合層13の一部が多孔質層11および隣接層12の各空隙に入り込むことにより、多孔質層11と隣接層12とがより強固に接合されている。
【0024】
この多孔質金属積層体10の製造方法について以下に説明する。
[積層工程]
まず、多孔質層11と隣接層12とを、各接合面11c,12cを当接させるように積層する。このとき、多孔質層11や隣接層12が反っている場合には、反りを矯正して平らにしてから積層したり、積層した際に離間している部分を押さえたり、接着剤や粘着テープ等で仮留したり、部分的にスポット溶接をして固定したりして、多孔質層11の接合面11cと隣接層12の接合面12cとのすき間が小さくなるようにする。また、各層を重ねた状態で圧延して、各層間を密着させてもよい。
[溶断工程]
次に、多孔質層11と隣接層12とを積層した状態で、レーザにより所望の形状に溶断する。レーザの焦点は、多孔質層11と隣接層12との接合面11c,12cに設定する。この溶断工程において、多孔質層11および隣接層12の側面近傍が溶融されて固化することにより、多孔質層11と隣接層12とを接合する溶融接合層13が、多孔質金属積層体10の側面に沿って形成される。このとき、多孔質層11および隣接層12が空隙11b,12bを備える多孔質体であり、熱伝導率が低いことから、多孔質層11および隣接層12の側面の表層部だけが溶融され、溶融接合層13が形成される。
【0025】
[多孔質層の製造方法]
ここで、多孔質層11を形成するための金属多孔質材の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態では、隣接層12および多孔質層11のいずれも同様の金属多孔質材からなるので、以下の方法により製造することができる。この製造方法では、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを板状に成形し(発泡性スラリー作成工程および成形工程)、発泡させた(発泡乾燥工程)後に焼結(焼結工程)することにより、多孔質層11および隣接層12を形成する。
【0026】
〈発泡性スラリー作成工程〉
まず、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを作成する。発泡性スラリーは、骨格を形成する金属粉末、バインダ(水溶性樹脂結合剤)、発泡剤および水と、必要に応じて界面活性剤および/または可塑剤とを混合することにより作成される。より具体的には、まず金属粉末、バインダおよび水を含有するスラリーを作成した後、このスラリーに発泡剤を添加し、ミキサーなどの攪拌装置で攪拌する。
【0027】
金属粉末としては、特に限定されず、Ni,Cu,Ti,Al,Ag,ステンレス鋼等を用いることができる。また、この金属粉末は平均粒径0.5μm以上30μm以下が好ましい。このような粉末は、水アトマイズ法,プラズマアトマイズ法などのアトマイズ法、酸化物還元法,湿式還元法,カルボニル反応法などの化学プロセス法によって製造することができる。
【0028】
バインダ(水溶性樹脂結合剤)としては、メチルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロース,カルボキシメチルセルロースアンモニウム,エチルセルロース,ポリビニルアルコールなどを使用することができる。
【0029】
発泡剤は、ガスを発生してスラリーに気泡を形成できるものであればよく、揮発性有機溶剤、例えば、ペンタン,ネオペンタン,ヘキサン,イソヘキサン,イソペプタン,ベンゼン,オクタン,トルエンなどの炭素数5〜8の非水溶性炭化水素系有機溶剤を使用することができる。この発泡剤の含有量としては、発泡性スラリーに対して0.1〜5重量%とすることが好ましい。
【0030】
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩,α‐オレフィンスルホン酸塩,アルキル流酸エステル塩,アルキルエーテル硫酸エステル塩,アルカンスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤,ポリエチレングリコール誘導体,多価アルコール誘導体などの非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤などを使用することができる。
【0031】
可塑剤は、スラリーを成形して得られる成形体に可塑性を付与するために添加され、例えばエチレングリコール,ポリエチレングリコール,グリセリンなどの多価アルコール、鰯油,菜種油,オリーブ油などの油脂、石油エーテルなどのエーテル類、フタル酸ジエチル,フタル酸ジNブチル,フタル酸ジエチルヘキシル,フタル酸ジオクチル,ソルビタンモノオレート,ソルビタントリオレート,ソルビタンパルミテート,ソルビタンステアレートなどのエステル等を使用することができる。
【0032】
さらに、スラリーの特性や成形性を向上させるために任意の添加成分を加えてもよい。例えば、防腐剤を添加してスラリーの保存性を向上させたり、結合助材としてポリマー系化合物を加えて成形体の強度を向上させたりすることができる。
【0033】
このように作成した発泡性スラリーから、図3に示す成形装置20を用いて、グリーンシートを形成する成形工程および発泡乾燥工程を行う。
【0034】
〈成形工程〉
成形装置20は、ドクターブレード法を用いてシート状の成形体を形成する装置であり、発泡性スラリーが貯留されるホッパ21、ホッパ21から供給された発泡性スラリーSを移送するキャリヤシート22、キャリヤシート22を支持するローラ23、キャリヤシート22上の発泡性スラリーSを所定厚さに成形するブレード(ドクターブレード)24、発泡性スラリーSを発泡させる恒温・高湿度槽25、および発泡したスラリーを乾燥させる乾燥槽26を備えている。なお、キャリヤシート22の下面は、支持プレート27によって支えられている。
【0035】
この成形装置20においては、まず、発泡性スラリーSをホッパ21に投入しておき、このホッパ21から発泡性スラリーSをキャリヤシート22上に供給する。キャリヤシート22は図3の右方向へ回転するローラ23および支持プレート27によって支持されており、その上面が図の右方向へと移動している。キャリヤシート22上に供給された発泡性スラリーSは、キャリヤシート22とともに移動しながらブレード24によって薄板状に成形される。
【0036】
〈発泡乾燥工程〉
次いで、薄板状の発泡性スラリーSは、所定条件(例えば温度30℃〜40℃、湿度75%〜95%)の恒温・高湿度槽25内を、例えば10分〜20分かけて移動しながら発泡する。続いて、この恒温・高湿度槽25内で発泡したスラリーは、所定条件(例えば温度50℃〜70℃)の乾燥槽26内を例えば10分〜20分かけて移動し、乾燥される。これにより、スポンジ状のグリーンシート(図示略)が得られる。
【0037】
〈焼結工程〉
このようにして得られたグリーンシートを脱脂・焼結することにより、薄板状の金属多孔質材を形成する。具体的には、例えば真空中、温度550℃〜650℃、25分〜35分の条件下でグリーンシート中のバインダ(水溶性樹脂結合剤)を除去(脱脂)した後、さらに真空中、温度700℃〜1300℃、60分〜120分の条件下で焼結する。この金属多孔質材により、本発明の多孔質金属積層体10を構成する多孔質層11および隣接層12を製造することができる。
【0038】
以上説明した多孔質層11および隣接層12の製造方法によれば、多孔質層11の空隙率、開口率、平均開口径等を、所定の範囲内で任意に設定することができる。
【0039】
〈空隙率〉
金属多孔質材における空隙の体積割合を空隙率と呼ぶ。空隙率は、同形の中実体の重量に対する実測重量から算出することができる。
本発明に係る多孔質金属積層体10においては、多孔質層11の空隙率を50%以上99%以下に設定することが望ましい。
【0040】
〈開口率〉
金属多孔質体の表裏面における空隙の開口部の開口面積の割合を開口率と呼ぶ。開口率は、金属多孔質体の表面を撮影した25〜300倍顕微鏡写真を用いて、視野面積Aと、この視野中の最外面の全ての開口部の面積和Apとを測定し、次の式によって算出する。
開口率(%)=Ap/A×100
本発明に係る多孔質金属積層体10においては、多孔質層11の表裏面における空隙11b,12bの開口面積の割合を15%以上85%以下に設定することが望ましい。
【0041】
〈平均開口径〉
金属多孔質材の表裏面における空隙の平均開口サイズは、各開口部を円形とみなした場合の直径で表すことができ、以下、これを平均開口径と呼ぶ。平均開口径は、25〜300倍顕微鏡写真において、視野中の最外面の各開口部面積を測定して算出した各円相当径の算術平均である。
本発明に係る多孔質金属積層体10においては、多孔質層11の平均開口径を50μm以上600μm以下に設定することが望ましい。
【0042】
次に、本実施形態の多孔質金属積層体10の製造方法について、具体的な実施例を説明する。
[実施例1]
まず、上述した金属多孔質材の製造方法により、表1に示す多孔質層11および隣接層12を形成した。
【0043】
【表1】

【0044】
次に、これら多孔質層11と隣接層12とを積層した。このとき、多孔質層11と隣接層12とのすき間を0.1mm以内となるように、各層の反りを矯正し、仮留した。反りは、プレス機や矯正機等を用いた機械的方法により矯正できる。
【0045】
そして、積層した状態の多孔質層11と隣接層12とを、表2に示す条件で10mm×30mmの四角形に溶断し、多孔質層11および隣接層12の側面を溶融し凝固させた。これにより、接合面11c,12cの近傍で各層が混ざり合った一体の溶融接合層13を形成し、多孔質層11と隣接層12とを接合した。
【0046】
【表2】

【0047】
本実施例では、レーザによる溶断の一般的な条件と比較して、レーザの周波数を高くしたことにより1パルスあたりのエネルギーを低下しつつ、連続発射するとともに、加工速度を速くしたことにより、必要以上の入熱を制御した。また、レーザの焦点を接合面11c,12cに設定したことにより、接合部での液相量を増加するとともに温度を上昇させた。一般的には、十分な液相を出現させ、それを吹き飛ばすことにより切断が行われる。これに対して、出現する液相が接合部に残留するように制御することにより、切断加工において一般には嫌われるつらら状バリ(ドロス)をアンカー形成に利用する。
【0048】
このように製造した多孔質金属積層体10における多孔質層11および隣接層12の接合面11c,12c近傍における断面を図2に示す。多孔質層11および隣接層12が溶融して出現した液相が互いの空隙11a,12a内に飛散し、図2に符号14で示すように、凝固して機械的に絡まり合う部分が形成される。これらの部分がアンカー部として働き、多孔質層11と隣接層12とを接合を強固にしている。
【0049】
[実施例2]
次に、上述した金属多孔質材の製造方法により製造した多孔質層と、中実固体材(板材)からなる隣接層との接合について説明する。これら多孔質層および隣接層の各材質、形状等を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
次に、これら多孔質層と隣接層とを積層した。このとき、多孔質層と隣接層とのすき間を0.1mm以内となるように、各層の反りを矯正し、スポット溶接により仮留した。反りは、プレス機や矯正機等を用いた機械的方法により矯正できる。
【0052】
そして、積層した状態の多孔質層と隣接層を、表4に示す条件で10mm×30mmの四角形に溶断し、多孔質層および隣接層の側面を溶融し凝固させた。これにより、接合面の近傍で各層が混ざり合った一体の溶融接合層を形成し、多孔質層と隣接層とを接合した。なお、溶断時のレーザは、多孔質層側から隣接層側に向けて照射した。これにより、発泡体形状を保持しながら加工することが可能となった。逆に、隣接層側から多孔質層側に向けて照射した場合には、出現する液相の量が過剰となり、発泡体を封止または溶失等が発生するため、発泡体形状の保持が困難となる。
【0053】
【表4】

【0054】
本実施例では、実施例1と比較して、レーザの出力を大きくすることにより液相を増加させ、周波数を低くすることにより1パルスあたりのエネルギーを増加させている。また、実施例1と比較してレーザの加工速度を遅くすることにより、溶融接合層を増大させている。また、液相を吹き飛ばさないように、アシストガスの圧力を小さく設定している。このような条件で溶断することにより、接合界面での接合形態がアンカーのような機械的な接合から冶金的な接合が占める部分が増大し、結果として接合強度が増加する。
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、異種金属同士等の拡散接合が困難な材料や、厚さや孔径や気孔率等が異なるため収縮率が異なり接合が困難な材料であっても、多孔質層および隣接層を積層した状態でレーザ溶断するだけで接合でき、様々な材料を用いた多孔質金属積層体を得ることができる。
【0056】
すなわち、本発明の多孔質金属積層体において、隣接層はレーザで溶融される材料であればよく、多孔質材であっても中実固体材であってもよい。たとえば、隣接層が中実固体材である場合、強度を向上させることができるので、フィルタや二次電池電極に好適に用いることができる多孔質金属積層体が実現できる。
【0057】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。たとえば、
多数の層を積層することにより、電極、フィルタ、触媒担体等に適した、厚みの大きい多孔質金属積層体を製造できる。さらに、それぞれ空隙の大きさや空隙率の異なる多孔質体からなる多孔質層と隣接層とを用いることにより、厚さ方向に空隙が連続しているとともに、厚さ方向に空隙の大きさや空隙率が異なり、たとえば固体高分子型燃料電池の集電板に好適な多孔質金属積層体を製造することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 多孔質金属積層体
11 多孔質層
11a 骨格
11b 空隙
11c 接合面
12 隣接層
12a 骨格
12b 空隙
12c 接合面
13 溶融接合層
14 アンカー部
20 成形装置
21 ホッパ
22 キャリヤシート
23 ローラ
24 ブレード(ドクターブレード)
25 恒温・高湿度槽
26 乾燥槽
27 支持プレート
S 発泡性スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている多孔質層を含む複数層からなる多孔質金属積層体の製造方法であって、
前記多孔質層と、金属からなる隣接層とを積層する積層工程と、
前記多孔質層と前記隣接層とを積層した状態でレーザにより所望の形状に溶断する溶断工程とを有し、
前記溶断工程において、前記多孔質層と前記隣接層とを前記レーザにより溶融し固化させることにより、前記多孔質層および前記隣接層の側面に前記多孔質層と前記隣接層とを接合する溶融接合層を形成することを特徴とする多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項2】
前記溶断工程において、前記レーザの焦点を前記多孔質層と前記隣接層との接合面に設定することを特徴とする請求項1に記載の多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質層は、金属粉末と発泡剤とを含有する発泡性スラリーを板状に成形し、発泡させた後に焼結して形成することを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質層は、空隙率が50%以上99%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質層は、その表裏面における前記空隙の開口面積の割合が15%以上85%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質層は、前記表裏面における前記空隙の平均開口径が50μm以上600μm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項7】
前記隣接層が中実固体材であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の多孔質金属積層体の製造方法。
【請求項8】
金属焼結体の骨格により辺が構成されてなる複数の多面体状の空隙が相互に連続状態に形成されている多孔質層を含む複数層からなる多孔質金属積層体であって、
前記多孔質層と、
金属からなり前記多孔質層に積層された隣接層と、
前記多孔質層および前記隣接層の側面に沿って設けられ、前記多孔質層および前記隣接層が溶融凝固してなる溶融接合層と
を備えることを特徴とする多孔質金属積層体。
【請求項9】
前記溶融接合層の一部が、前記多孔質層の前記空隙に入り込んでいることを特徴とする請求項8に記載の多孔質金属積層体。
【請求項10】
前記隣接層が中実固体材であることを特徴とする請求項8または9に記載の多孔質金属積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−106023(P2011−106023A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112177(P2010−112177)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】