説明

多孔質静圧気体軸受及びその製造方法

【課題】コスト低下を図り得ると共に、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給できる領域を広くできて、スラスト軸受として機能する気体噴出をも所望になし得る多孔質静圧気体軸受及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質静圧気体軸受1は、円筒状の多孔質金属焼結体2と同じく円筒状のハウジング8とを具備しており、多孔質金属焼結体2の内部には、当該多孔質金属焼結体2の細孔に気体を供給する気体供給通路3が設けられており、また多孔質金属焼結体2には、一端4が多孔質金属焼結体2の円筒状の外周面5で開口し、他端6が気体供給通路3に開口して当該気体供給通路3に高圧空気を導入する気体導入通路7が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質金属焼結体を用いた多孔質静圧気体軸受及びその製造方法に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
多孔質静圧気体軸受は、すぐれた高速安定性と高い負荷容量をもつものとして、従来から注目されており、種々研究もなされているが実用化に際してはいくつかの克服すべき問題がある。
【0003】
ラジアル及びスラスト軸受として用いられる多孔質静圧気体軸受として、ラジアル軸受面を有した円筒状の多孔質金属焼結体と、スラスト軸受面を有した環状の多孔質金属焼結体とをハウジングに装着してなるものでは、通常、両多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給する通路をハウジングに予め形成するが、この通路形成作業は、金属製の剛体のハウジングの内周面及び端面に対して行わなければならないために、煩雑であって面倒な作業となり、コストアップの要因となる上に、ハウジングの内周面及び端面側の各通路への気体導入通路を同じくハウジングに予め形成する必要があり、これによってもコストアップを招来することになる。
【0004】
また、外周面に単に環状の凹所を予め形成した円筒状の多孔質金属焼結体をハウジングに装着後に、当該凹所を、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給する通路として用いる多孔質静圧気体軸受では、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給できる領域が限定されて狭くなり、特に、スラスト軸受として機能する気体噴出を所望に得られない場合が生じ得る。
【0005】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、コスト低下を図り得ると共に、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給できる領域を広くできて、スラスト軸受として機能する気体噴出をも所望になし得る多孔質静圧気体軸受及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様の多孔質静圧気体軸受は、多孔質金属焼結体を具備しており、多孔質金属焼結体の内部には、当該多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給する気体供給通路が設けられており、多孔質金属焼結体には、一端が多孔質金属焼結体の外周面で開口し、他端が気体供給通路に開口して当該気体供給通路に気体を導入する気体導入通路が設けられている。
【0007】
第一の態様の多孔質静圧気体軸受によれば、多孔質金属焼結体の内部に気体供給通路が設けられているために、気体供給通路の周りの全てを多孔質金属焼結体の細孔への気体供給領域とし得、而して、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給できる領域を広くし得て、スラスト軸受として機能する気体の噴出をも所望になし得、また、斯かる多孔質金属焼結体と、この多孔質金属焼結体が嵌装されたハウジングとを具備した多孔質静圧気体軸受を構成する場合には、ハウジングに特に気体供給通路を予め形成する必要がなく、したがって、コスト低下を十分に図り得る。
【0008】
本発明の第二の態様の多孔質静圧気体軸受では、第一の態様の多孔質静圧気体軸受において、気体供給通路は、多孔質金属焼結体の外周面と内周面との間に、外部に露出することなしに当該内周面を取り囲んで且つ多孔質金属焼結体の隔壁部を間にして軸方向に配列された複数個の環状通路からなる。
【0009】
第二の態様の多孔質静圧気体軸受によれば、気体供給通路が隔壁部を間にして軸方向に配列された複数個の環状通路からなるために、換言すれば、複数個の環状通路の間に隔壁部が存在するために、隔壁部の支持機能を発現できる結果、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給できる領域を広くするために気体供給通路を軸方向に長く伸ばした場合にしばしば生じ得る多孔質金属焼結体の撓みを斯かる隔壁部の支持機能によりほぼなくし得る。
【0010】
本発明の第三の態様の多孔質静圧気体軸受では、第二の態様の多孔質静圧気体軸受において、多孔質金属焼結体の隔壁部には、複数個の環状通路を互いに連通させる複数個の円柱状の連通路が設けられている。
【0011】
第三の態様の多孔質静圧気体軸受によれば、複数個の環状通路が連通路により互いに連通されているために、環状通路相互の気体圧を均一にし得る。
【0012】
本発明の第四の態様の多孔質静圧気体軸受では、第一から第三のいずれかの態様の多孔質静圧気体軸受において、多孔質金属焼結体は、円筒状のハウジング内に嵌装されており、その両端面で外部に露出している。
【0013】
第四の態様の多孔質静圧気体軸受によれば、ハウジングにより多孔質金属焼結体の外周面の封孔処理を行うことができ、多孔質金属焼結体の細孔の外周面での開口から無駄に気体が噴出することをなくし得ると共に、多孔質金属焼結体の両端面をスラスト軸受面として使用できる。
【0014】
本発明の第五の態様の多孔質静圧気体軸受では、第一から第四のいずれかの態様の多孔質静圧気体軸受において、多孔質金属焼結体には、その内周面とその一端面とが交差する近傍で一端が外部に開口する排気用通路が設けられており、排気用通路は、無細孔の管体で画成されている。
【0015】
第五の態様の多孔質静圧気体軸受によれば、内周面と一端面とが交差する近傍で外部に開口する排気用通路を設けているために、斯かる近傍で互いに衝突し合う内周面から噴出された気体と一端面から噴出された気体とを排気用通路から排出でき、この衝突し合う気体による多孔質静圧気体軸受の作用低下をなくし得、しかも、排気用通路が無細孔の管体で画成されているために、多孔質金属焼結体の細孔からの気体が排気用通路へ直接的に流入しなく、気体を無駄なく利用できる。
【0016】
無細孔の管体としては、本発明の第六の態様の多孔質静圧気体軸受のように、金属製又は樹脂製のパイプであるのが好ましいが、気体が漏れないその他の管体であってもよい。
【0017】
本発明の第一の態様の多孔質静圧気体軸受の製造方法は、金属粉を含む円筒状の内側及び外側圧粉体であって、内側圧粉体の外周面及び外側圧粉体の内周面のうちのいずれか一方に環状の凹所が形成されている当該内側及び外側圧粉体を準備する準備工程と、この準備した外側圧粉体内に内側圧粉体を挿着して外側圧粉体と内側圧粉体との組み合わせ体を作製する組み合わせ体作製工程と、この作製した組み合わせ体を焼結して、外側圧粉体の内周面と内側圧粉体の外周面とを一体化すると共に、凹所からなる環状の気体供給通路が内部に設けられた一体物としての多孔質金属焼結体を作製する多孔質金属焼結体作製工程と、この多孔質金属焼結体作製工程後、気体供給通路に気体を導入する気体導入通路を多孔質金属焼結体に形成するべく、気体供給通路に連通する穴を多孔質金属焼結体に穿つ穿孔工程とを具備する。
【0018】
第一の態様の製造方法によれば、いずれか一方に環状の凹所が形成されている内側圧粉体と外側圧粉体との組み合わせ体から、気体供給通路を内部に設けた一体物としての多孔質金属焼結体を作製するために、気体供給通路を容易に形成でき、しかも、多孔質金属焼結体の細孔への気体供給領域が広い気体供給通路を作製でき、また、斯かる多孔質金属焼結体と、この多孔質金属焼結体が嵌装されたハウジングとを具備した多孔質静圧気体軸受を構成する場合には、ハウジングに特に気体供給通路を予め形成する必要がなく、したがって、コスト低下を十分に図り得る。
【0019】
本発明の第二の態様の製造方法では、第一の態様の製造方法において、内側及び外側圧粉体は、金属粉に加えて無機質粉を含んでおり、また、本発明の第三の態様の製造方法では、第二の態様の製造方法において、金属粉は、少なくとも錫、燐及び銅を含んでおり、無機質粉は、黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つを含んでおり、本発明の第四の態様の製造方法では、第三の態様の製造方法において、金属粉は、更に、ニッケル又はマンガンを含んでいる。
【0020】
第二の態様の製造方法によれば、内側及び外側圧粉体が金属粉に加えて無機質粉を含んでいるために、焼結後、軸受面を形成するために研削加工が多孔質金属焼結体の一面に施される際に、金属粉の焼結で形成された多孔質金属焼結体の金属部分が塑性流動して多孔質金属焼結体の細孔の開口を閉じようとしても、脆性な無機質部分で金属部分の塑性流動が分断されて細孔の開口の閉塞が好ましく阻止され、而して、軸受面の形成後も、細孔の目詰まりが抑制された理想的な絞り構造となった細孔を有した多孔質静圧気体軸受を得ることができる。
【0021】
また、第三の態様の製造方法において、無機質粉として特に黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウムを含んでいると、これらは固体潤滑材として機能するので、多孔質静圧気体軸受に支持される回転軸又はスライダの静止時又は始動時に相互に接触しても、これらに損傷が生じ難くフェールセーフな多孔質静圧気体軸受となる。
【0022】
多孔質金属焼結体を形成するための金属粉は、その粒径が30μmから150μmのものを、好ましくは45μmから75μmのものを用いるのが好ましく、同じく無機質粉は、その粒径が30μmから300μmのものを、好ましくは45μmから150μmのものを用いるのが好ましく、斯かる金属粉及び無機質粉を用いた多孔質金属焼結体の焼結密度及び多孔度は焼結時間及び焼結温度で異なるが、例えば、2トン乃至7トン/m程度の加圧下で且つ還元性雰囲気もしくは真空中で800〜1150℃の温度で20〜60分間焼結した場合には、概ね焼結密度は、5.15g/cm乃至6.19g/cm、多孔度は21.1%乃至34.1%(含油率換算)である。
【0023】
本発明の第五の態様の製造方法は、第一から第四のいずれかの態様の製造方法において、多孔質金属焼結体を円筒状のハウジング内に嵌装する嵌装工程を更に具備しており、本発明の第六の態様の製造方法は、第一から第五のいずれかの態様の製造方法において、軸受面となる多孔質金属焼結体の面を研削する研削工程を更に具備している。
【0024】
本発明で製造される多孔質静圧気体軸受は、多孔質金属焼結体をそのままの剥き出しで回転軸又はスライダに用いられてもよいのであるが、第五の態様の製造方法のように、多孔質金属焼結体をハウジング内に嵌装して、ハウジング付で回転軸又はスライダに用いられてもよく、斯かるハウジングで多孔質金属焼結体の外周面が覆われていると、多孔質金属焼結体の外周面からの気体の排出をなくし得、気体の消費量を抑えることができる。本発明による多孔質静圧気体軸受では、通常、第六の態様の製造方法のように、研削によりスラスト及び/又はラジアル軸受面が形成され、この研削加工における加工代は、概ね0.2mm以下の範囲で行われるのがよい。
【0025】
本発明による第七の態様の方法は、準備工程では、軸方向に配列された複数個の環状の凹所が形成されている内側及び外側圧粉体を準備し、多孔質金属焼結体作製工程では、外側圧粉体の内周面と内側圧粉体の外周面との一体化により複数個の環状の凹所からなる複数個の環状通路を具備した気体供給通路を形成する上記のいずれかの方法であって、更に、多孔質金属焼結体作製工程後に、複数個の環状通路を互いに連通させる複数個の円柱状の連通路を形成するべく、環状通路に連通する穴を多孔質金属焼結体に穿つ穿孔工程を更に具備する。
【0026】
第七の態様の方法によれば、多孔質金属焼結体作製工程後に、気体供給通路に連通する連通路用の穴を多孔質金属焼結体に穿つために、内側及び外側圧粉体に予め連通路を形成する場合と比較して、作業性がよく正確な連通路を形成できる。
【0027】
なお、本発明の多孔質静圧気体軸受としては、スラスト軸受若しくはラジアル軸受又はスラスト軸受及びラジアル軸受兼用の軸受のいずれでもよい。
【0028】
以下、本発明及び本発明の実施の形態を、図面を参照してその好ましい例に基づいて説明する。なお本発明はこれらの例に限定されないのである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、コスト低下を図り得ると共に、多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給できる領域を広くできて、スラスト軸受として機能する気体噴出をも所望になし得る多孔質静圧気体軸受及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の実施の形態の好ましい例の斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す例の断面図である。
【図3】図3は、図1に示す例の製造方法の説明図である。
【図4】図4は、図1に示す例の製造方法の説明図である。
【図5】図5は、図1に示す例の製造方法の説明図である。
【図6】図6は、図1に示す例の製造方法の説明図である。
【図7】図7は、図1に示す例の製造方法の説明図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態の好ましい他の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1及び図2において、本例のスラスト軸受及びラジアル軸受兼用の多孔質静圧気体軸受1は、円筒状の多孔質金属焼結体2と同じく円筒状のハウジング8とを具備しており、多孔質金属焼結体2の内部には、当該多孔質金属焼結体2の細孔に気体を供給する気体供給通路3が設けられており、また多孔質金属焼結体2には、一端4が多孔質金属焼結体2の円筒状の外周面5で開口し、他端6が気体供給通路3に開口して当該気体供給通路3に気体、本例では高圧空気を導入する気体導入通路7が設けられており、多孔質金属焼結体2は、円筒状のハウジング8内に嵌装されており、その環状の両端面9及び10で外部に露出している。
【0032】
多孔質金属焼結体2の円筒状の内周面11と両端面9及び10とには、研削加工が施されて、内周面11がラジアル軸受面として、両端面9及び10がスラスト軸受面として形成されている。なお、両端面9及び10のうちの一方の端面のみをスラスト軸受面としてもよく、この場合には、他方の端面にシリコン樹脂等を塗布して当該端面での多孔質金属焼結体2の細孔に対する封孔処理を施すとよい。
【0033】
気体供給通路3は、多孔質金属焼結体2の外周面5と内周面11との間に、外部に露出することなしに内周面11を取り囲んで且つ多孔質金属焼結体2の隔壁部12を間にして軸方向に配列された複数個、本例では二個の環状通路13を具備している。
【0034】
多孔質金属焼結体の隔壁部12には、気体導入通路7に加えて、二個の環状通路13を互いに連通させる複数個の円柱状の連通路14(図7参照)が設けられている。
【0035】
金属製であって剛性のハウジング8は、気体導入通路7に連通すると共にねじが切られた接続通路15を具備しており、接続通路15に空気供給プラグが取付けられるようになっている。ハウジング8の円筒状の内周面16がぴったりと多孔質金属焼結体2の外周面5に接触していることにより、外周面5での多孔質金属焼結体2の細孔の開口が封止されている。なお、外周面5での封孔処理をより完全なものとするために、ハウジング8の内周面16と多孔質金属焼結体2の外周面5との間に、シリコン樹脂等からなる接着剤を介在させてもよい。
【0036】
以上の多孔質静圧気体軸受1において、接続通路15に供給された高圧空気は、気体導入通路7を介して環状通路13に供給され、環状通路13に供給された高圧空気は、多孔質金属焼結体2の細孔を介して内周面11並びに両端面9及び10から噴出されて、回転軸18(図8参照)との間に高圧空気膜を形成し、而して、多孔質静圧気体軸受1は、回転軸18をラジアル方向及びスラスト方向において回転自在に支持する。
【0037】
多孔質静圧気体軸受1によれば、多孔質金属焼結体2の内部に気体供給通路3が設けられているために、気体供給通路3の周りの全てを多孔質金属焼結体2の細孔への気体供給領域とし得、而して、多孔質金属焼結体2の細孔に空気を供給できる領域を広くできて、スラスト軸受として機能する空気の噴出をも所望に十分になし得、また、ハウジング8に特に気体供給通路を予め形成する必要がなく、したがって、コスト低下を十分に図り得る。
【0038】
また、多孔質静圧気体軸受1によれば、気体供給通路3が隔壁部12を間にして軸方向に配列された二個の環状通路13からなるために、換言すれば、環状通路13の間に隔壁部12が存在するために、隔壁部12の支持機能を発現できる結果、多孔質金属焼結体2の細孔に空気を供給できる領域を大きくするために気体供給通路3を単に軸方向に長く伸ばした場合にしばしば生じ得る多孔質金属焼結体2の撓みを斯かる隔壁部12の支持機能によりほぼなくし得て、しかも、環状通路13が連通路14でもって互いに連通されているために、環状通路13相互の気体圧を均一にし得る。
【0039】
加えて、多孔質静圧気体軸受1によれば、ハウジング8により多孔質金属焼結体2の外周面5の封孔処理を行うことができ、多孔質金属焼結体2の細孔の外周面5での開口から無駄に気体が噴出することをなくし得ると共に、多孔質金属焼結体2の両端面9及び10をスラスト軸受面として使用できる。
【0040】
以上のような多孔質静圧気体軸受1は次のようにして製造できる。すなわち、先ず、例えば錫、燐、ニッケル、銅及び黒鉛からなる図3及び図4に示すような円筒状の別体の内側及び外側圧粉体41及び42であって、内側圧粉体41の外周面及び外側圧粉体42の内周面のいずれか一方、本例では内側圧粉体41の外周面43に二個の環状の凹所44が形成されている内側及び外側圧粉体41及び42を準備する。
【0041】
内側及び外側圧粉体41及び42の夫々は、例えば、重量比で錫4〜10%、ニッケル10〜40%、燐0.5〜4%、黒鉛3〜10%及び残部銅からなる混合粉を、2〜7トン/cmの圧力を加えて成形することにより作製される。
【0042】
次に、外側圧粉体42内に内側圧粉体41を挿着して図5に示すような外側圧粉体42と内側圧粉体41との組み合わせ体45を作製し、この作製した組み合わせ体45を、還元性雰囲気もしくは真空中で800〜1150℃の温度で20〜60分間焼結して、外側圧粉体42の内周面46と内側圧粉体41の外周面43とを一体化すると共に、凹所44からなる複数個の環状通路13を具備した環状の気体供給通路3が内部に設けられた一体物としての図6に示すような多孔質金属焼結体2を作製する。
【0043】
多孔質金属焼結体2を作製後、その円筒状の内周面11並びに環状の端面9及び10を、旋削加工後、研削加工して内周面11並びに端面9及び10を軸受面として形成する。研削加工における加工代は、概ね0.2mm以下の範囲で行なうとよい。
【0044】
多孔質金属焼結体2の作製工程後であって内周面11並びに端面9及び10の研削加工工程後、気体供給通路3に気体を導入する気体導入通路7を多孔質金属焼結体2に形成するべく、気体供給通路3の環状通路13の夫々に連通する穴を多孔質金属焼結体2にドリル等により穿つと共に、環状通路13を互いに連通させる複数個の円柱状の連通路14を形成するべく、環状通路13の夫々に連通する穴を多孔質金属焼結体2に同じくドリル等により穿つ。
【0045】
これらの穿孔工程後、図7に示すように、多孔質金属焼結体2を、予め接続通路15が形成された円筒状のハウジング8内に、気体導入通路7と接続通路15とが連通するようにして、嵌装することにより、図1及び図2に示すような多孔質静圧気体軸受1を得ることができる。
【0046】
なお、軸受面の形成のための内周面11並びに端面9及び10の旋削加工、研削加工及び気体導入通路7の形成のための多孔質金属焼結体2に対する穴の穿孔は、多孔質金属焼結体2をハウジング8内に嵌装した後に行ってもよい。
【0047】
以上の製造方法によれば、前述の特長をもった多孔質静圧気体軸受1を得ることができる上に、凹所44が形成されている内側圧粉体41と外側圧粉体42との組み合わせ体45から、気体供給通路3を内部に設けた一体物としての多孔質金属焼結体2を作製するために、気体供給通路3を容易に形成でき、しかも、多孔質金属焼結体2の細孔への気体供給領域が大面積となる気体供給通路3を作製でき、また、ハウジング8に特に気体供給通路3を予め形成する必要がなく、したがって、コスト低下を十分に図り得る。
【0048】
また、上記の製造方法によれば、内側及び外側圧粉体41及び42が金属粉に加えて無機質粉を含んでいるために、焼結後、軸受面を形成するために研削加工が多孔質金属焼結体2に施される際に、金属粉の焼結で形成された多孔質金属焼結体2の金属部分が塑性流動して多孔質金属焼結体2の細孔の開口を閉じようとしても、脆性な無機質部分で金属部分の塑性流動が分断されて細孔の開口の閉塞が阻止され、而して、軸受面の形成後も、細孔の目詰まりが抑制された理想的な絞り構造となった細孔を有した多孔質静圧気体軸受1を得ることができる。
【0049】
また、無機質粉として黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウムなどの固体潤滑材を使用した場合は、多孔質静圧気体軸受1に支持される回転軸18の静止時又は始動時に相互に接触しても、これらに損傷が生じ難くフェールセーフな多孔質静圧気体軸受1となる。
【0050】
更に上記の方法によれば、多孔質金属焼結体2の作製工程後に、環状通路13に連通する連通路用の穴を多孔質金属焼結体2に穿つために、内側及び外側圧粉体41及び42に予め連通路を形成する場合と比較して、作業性がよく正確な連通路14を形成できることになる。
【0051】
ところで、多孔質静圧気体軸受1において、例えば端面10を回転軸18に対するスラスト軸受面として用いると、端面10の細孔の開口から噴出して内周面11に向かう空気51と、内周面11の細孔の開口から噴出して端面10に向かう空気52とが衝突、干渉して、多孔質静圧気体軸受1の作用を低下させる場合が生じ得るが、図8に示すように、多孔質金属焼結体2に、内周面11と端面10とが交差する近傍で一端53が外部に開口すると共に、多孔質金属焼結体2に嵌装された無細孔の管体である金属製又は樹脂製のパイプ54で画成された複数個の排気用通路55を設けて、前述の干渉し合う空気51及び52を排気用通路55を介して外部に排出すると、衝突し合う空気51及び52による多孔質静圧気体軸受1の作用の低下をなくし得、しかも、排気用通路55が無細孔のパイプ54で画成されているために、多孔質金属焼結体2の細孔からの空気が排気用通路55へ直接的に流入しなく、高圧空気を無駄なく利用できることになる。なお、この場合には、ハウジング8に、一方では排気用通路55に連通し、他方では外部に連通する貫通孔56を排気用通路55に対応して設けるとよい。
【0052】
なお、上記は、円筒状の多孔質静圧気体軸受1の例であるが、板状の多孔質静圧気体軸受も同様である。
【符号の説明】
【0053】
1 多孔質静圧気体軸受
2 多孔質金属焼結体
3 気体供給通路
7 気体導入通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質金属焼結体を具備した多孔質静圧気体軸受であって、多孔質金属焼結体の内部には、当該多孔質金属焼結体の細孔に気体を供給する気体供給通路が設けられており、多孔質金属焼結体には、一端が多孔質金属焼結体の外周面で開口し、他端が気体供給通路に開口して当該気体供給通路に気体を導入する気体導入通路が設けられている多孔質静圧気体軸受。
【請求項2】
気体供給通路は、多孔質金属焼結体の外周面と内周面との間に、外部に露出することなしに当該内周面を取り囲んで且つ多孔質金属焼結体の隔壁部を間にして軸方向に配列された複数個の環状通路からなる請求項1に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項3】
多孔質金属焼結体の隔壁部には、複数個の環状通路を互いに連通させる複数個の円柱状の連通路が設けられている請求項2に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項4】
多孔質金属焼結体は、円筒状のハウジング内に嵌装されており、その両端面で外部に露出している請求項1から3のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項5】
多孔質金属焼結体には、その内周面とその一端面とが交差する近傍で一端が外部に開口する排気用通路が設けられており、排気用通路は、無細孔の管体で画成されている請求項1から4のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項6】
管体は、金属製又は樹脂製のパイプである請求項5に記載の多孔質静圧気体軸受。
【請求項7】
金属粉を含む円筒状の内側及び外側圧粉体であって、内側圧粉体の外周面及び外側圧粉体の内周面のうちのいずれか一方に環状の凹所が形成されている当該内側及び外側圧粉体を準備する準備工程と、この準備した外側圧粉体内に内側圧粉体を挿着して外側圧粉体と内側圧粉体との組み合わせ体を作製する組み合わせ体作製工程と、この作製した組み合わせ体を焼結して、外側圧粉体の内周面と内側圧粉体の外周面とを一体化すると共に、凹所からなる環状の気体供給通路が内部に設けられた一体物としての多孔質金属焼結体を作製する多孔質金属焼結体作製工程と、この多孔質金属焼結体作製工程後、気体供給通路に気体を導入する気体導入通路を多孔質金属焼結体に形成するべく、気体供給通路に連通する穴を多孔質金属焼結体に穿つ穿孔工程とを具備する、多孔質静圧気体軸受の製造方法。
【請求項8】
内側及び外側圧粉体は、金属粉に加えて無機質粉を含んでいる請求項7に記載の多孔質静圧気体軸受の製造方法。
【請求項9】
金属粉は、少なくとも錫、燐及び銅を含んでおり、無機質粉は、黒鉛、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、フッ化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素及び炭化ケイ素のうちの少なくとも一つを含んでいる請求項8に記載の多孔質静圧気体軸受の製造方法。
【請求項10】
金属粉は、更に、ニッケル又はマンガンを含んでいる請求項9に記載の多孔質静圧気体軸受の製造方法。
【請求項11】
多孔質金属焼結体を円筒状のハウジング内に嵌装する嵌装工程を更に具備している請求項7から10のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受の製造方法。
【請求項12】
軸受面となる多孔質金属焼結体の面を研削する研削工程を更に具備する請求項7から11のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受の製造方法。
【請求項13】
準備工程では、軸方向に配列された複数個の環状の凹所が形成されている内側及び外側圧粉体を準備し、多孔質金属焼結体作製工程では、外側圧粉体の内周面と内側圧粉体の外周面との一体化により複数個の環状の凹所からなる複数個の環状通路を具備した気体供給通路を形成する請求項7から12のいずれか一項に記載の多孔質静圧気体軸受の製造方法であって、更に、多孔質金属焼結体作製工程後に、複数個の環状通路を互いに連通させる複数個の円柱状の連通路を形成するべく、環状通路に連通する穴を多孔質金属焼結体に穿つ穿孔工程を更に具備する多孔質静圧気体軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−78158(P2010−78158A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293559(P2009−293559)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2000−259852(P2000−259852)の分割
【原出願日】平成12年8月29日(2000.8.29)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】