説明

多層チューブ

【課題】各層間の剥離の発生を抑制し、耐久性に優れた多層チューブを提供する。
【解決手段】多層チューブ10は、ポリオレフィン樹脂からなる内層12と、その内層12の外側に接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層14と、その中間層14の外側にポリウレタン樹脂からなる外層16とを備えた3層構造である。内層12として、例えばポリエチレン樹脂、中間層14として、例えば酸変性ポリオレフィン樹脂などが用いられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3層以上の積層構造の多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から飲料用のチューブとして、2層構造のチューブが知られている。
【0003】
例えば、内層に無臭のポリエチレンが使用されており、その外側に、エチレン酢酸ビニル樹脂等の柔軟性のある外層を設けた2層チューブが用いられている。
【0004】
また、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)とHFP(ヘキサフルオロプロピレン)との共重合フッ素樹脂からなる内層に、ポリウレタン樹脂からなる外層を積層した2層チューブが使用されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特許3117931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリエチレンの内層にエチレン酢酸ビニル樹脂等の外層を設けた2層チューブでは、外層材料に外傷がつきやすく、外層と継手とのシール性が悪くなり、液漏れが発生するおそれがある。
【0006】
本発明者らが検討したところ、外層には、外傷がつきにくく柔軟性のあるポリウレタン樹脂が適していることが分かったが、ポリウレタン樹脂はポリエチレン等のポリオレフィン樹脂との接着性に欠けるため、2層には構成しにくい。
【0007】
また、特許文献1に記載のフッ素樹脂からなる内層にポリウレタン樹脂からなる外層を設けた2層チューブでは、内層のフッ素樹脂がポリオレフィン樹脂に比べて高価であり、コスト面からみると不利である。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、層間の接着力を確保しつつ、耐外傷性、柔軟性に優れると共に、低コスト化を可能とする多層チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係る多層チューブは、ポリオレフィン樹脂からなる内層と、ポリウレタン樹脂からなる外層と、前記内層と前記外層との間に、接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層と、を有することを特徴としている。
【0010】
請求項1に記載の多層チューブでは、内層にポリオレフィン樹脂を用いており、非溶出性、無臭性等に優れた性質を有することから、飲料用などに特に好適である。また、内層の外側に、接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層を設け、中間層の外側にポリウレタン樹脂からなる外層を設けている。ポリウレタン樹脂からなる外層は、耐外傷性、耐摩耗性、及び柔軟性に優れており、外傷による継手とのシール性の低下を抑制することができる。
【0011】
また、内層のポリオレフィン樹脂と外層のウレタン樹脂とは接着性に欠けるが、中間層の接着性ポリオレフィン樹脂は、内層のポリオレフィン樹脂、及び外層のポリウレタン樹脂との接着性に優れているため、内層と中間層と外層とを接着させて一体的に形成することが可能となる。これによって、内層と中間層、中間層と外層の層間剥離の発生が抑制され、耐久性に優れた多層チューブを形成できる。
【0012】
また、フッ素樹脂に比べて安価なポリオレフィン樹脂からなる内層と接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層を設けることで、コストダウンが図れる。
【0013】
請求項2に記載の発明に係る多層チューブは、請求項1に記載の多層チューブにおいて、前記中間層は、酸変性ポリオレフィン樹脂、又はこれをポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、若しくはオレフィン系樹脂にブレンドした樹脂であることを特徴としている。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、中間層として、酸変性ポリオレフィン樹脂、又はこれをポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、若しくはオレフィン系樹脂にブレンドした樹脂を用いるため、内層と中間層、中間層と外層の剥離の発生を抑制できる。また、酸変性ポリオレフィン樹脂を汎用の樹脂にブレンドすることにより、更なるコストダウンが図れる。
【0015】
請求項3に記載の発明に係る多層チューブは、請求項1又は請求項2に記載の多層チューブにおいて、前記内層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、又はこれらを主成分とするオレフィン系樹脂であることを特徴としている。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、内層に安価なポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、又はこれらを主成分とするオレフィン系樹脂を用いることで、よりいっそうのコストダウンが図れる。
【0017】
請求項4に記載の発明に係る多層チューブは、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の多層チューブにおいて、前記外層の外周に、繊維を編んだ補強部を設け、前記補強部の外側に、樹脂からなる保護層を設けたことを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、外層の外周に、繊維を編んだ補強部を設け、この補強部の外側に樹脂からなる保護層を設けることで、耐圧性に優れた多層チューブを形成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る多層チューブは、上記のように構成したので、各層間の剥離の発生を抑制することができ、低コストで耐久性、耐外傷性、及び柔軟性等に優れた多層チューブを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の多層チューブにおける実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1(A)には、本発明の第1実施形態に係る多層チューブ10の各層を切断した斜視図が示されており、図1(B)には、多層チューブ10の断面図が示されている。
【0022】
この多層チューブ10は、ポリオレフィン樹脂からなる内層12の外側に、接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層14を備え、さらに中間層14の外側にポリウレタン樹脂からなる外層16を備えた3層構造のチューブである。
【0023】
内層12を構成するポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂又はポリスチレンなどが用いられる。これらのポリオレフィン樹脂は、非溶出性、無臭性等に優れた性質を有することから、飲料用などに使用しても、飲料に匂いが吸着することを抑制でき、無味無臭を実現できる。また、内層にポリオレフィン樹脂を使用することで、内層にフッ素樹脂を用いる場合と比較して、安価に製造できる。
【0024】
中間層14を構成する接着性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、又はこれをポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン、ポリスチレン、若しくはこれらを主成分とするポリオレフィン系樹脂にブレンドした樹脂を用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂は、内層12のポリオレフィン樹脂、外層16のポリウレタン樹脂との接着性に優れている。また、中間層14として、酸変性ポリオレフィン樹脂を100%使用する必要はなく、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン、又はこれらを主成分とするポリオレフィン系樹脂などに所定の比率でブレンドしても、内層12、外層16との接着が可能であると共に、安価な上記の樹脂をブレンドすることで、コストダウンが図れる。
【0025】
外層16を構成するポリウレタン樹脂としては、原料成分によりエステル系、エーテル系、ポリカーネイト系に分類されるが、いずれも使用可能である。食品用としては、耐カビ性からエーテル系が好ましい。
【0026】
このような多層チューブ10は、共押出し成型により、ポリオレフィン樹脂からなる内層12と、接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層14と、ポリウレタン樹脂からなる外層16とを一体的に積層した3層構造のチューブを製造することができる。
【0027】
多層チューブ10として、例えば、以下のものを製造することができる。
【0028】
多層チューブ10の内径:5mm、外径:10mm
内層12:メタロセンポリエチレン(商品名:KF360、日本ポリケム株式会社製)
中間層14:酸変性ポリオレフィン樹脂(商品名:アドマーNFタイプ、三井化学株式会社製)
外層16:ポリウレタン(商品名:T8195N、ディー・アイ・シー・バイエルポリマー株式会社製)
また、外層16の肉厚を厚くすることで、多層チューブ10の柔軟性が比較的向上する。例えば、内層12の厚みを0.2mm、中間層14の厚みを0.3mm、外層16の厚みを2.0mmとすることができる。
【0029】
また、中間層14として安価な汎用の樹脂(例えばポリエチレン)をブレンドして中間層14の肉厚を厚くすることで、コストダウンが可能となる。例えば、内層12の厚みを0.2mm、中間層14の厚みを2.0mm、外層16の厚みを0.3mmとすることができる。
【0030】
ここで、本発明の多層チューブの剥離性を評価する実験を行った。
【0031】
表1中の実施例1〜5、比較例1〜2に示されるように、中間層14の材料を変えた多層チューブ10を用意し、内層12と中間層14、中間層14と外層16との接着力を評価した。
【0032】
表1中の接着性樹脂Aは、酸変性ポリオレフィン樹脂(商品名:アドマーNFタイプ、三井化学株式会社製)であり、中間層14として、接着性樹脂Aのみを用いたものを実施例1、ポリエチレン樹脂と接着性樹脂Aとを10:1でブレンドしたものを実施例2、ポリエチレン樹脂と接着性樹脂Aとを20:1でブレンドしたものを実施例3、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂と接着性樹脂Aとを10:1でブレンドしたものを実施例4、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂と接着性樹脂Aとを20:1でブレンドしたものを実施例5として用意した。
【0033】
一方、比較例として、中間層にポリエチレン樹脂のみを用いたもの(接着性樹脂Aのブレンドなし)を比較例1、中間層にエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂のみを用いたもの(接着性樹脂Aのブレンドなし)を比較例2として用意した。
【0034】
また、内層12と中間層14と外層16の肉厚(厚み)、及び内層12と外層16の材料は、表2に示す構成とした。また、共重合フッ素樹脂からなる内層の上に中間層を設けずにポリウレタンからなる外層を設けた2層チューブを比較例3として用意した。共重合フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレンと、ビニリデンフルオライドと、ヘキサフルオロプロピレンからなる樹脂を用いた。
【0035】
接着力の評価は、輪切りにした図1の構造の多層チューブ10を回転自在に支持して、内層12の直上の中間層14、中間層14の直上の外層16をそれぞれ引っ張ることで行った。そして、中間層と外層との剥離が生じた比較例1の条件を基準として、同一条件で実施例1〜5及び比較例2を引っ張り、剥離の有無を調査した。その結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1に示す通り、実施例1〜5では、内層12と中間層14、中間層14と外層16との剥離は認められなかったが、比較例1〜2では、中間層と外層とに剥離が生じた。また、表2中の比較例3では、共重合フッ素樹脂からなる内層とポリウレタンからなる外層とは容易に剥離した。従って、中間層14に接着性樹脂Aを配合することにより、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂のみの場合、又は中間層を設けない場合と比べて耐久性に優れた多層チューブが得られることが確認できた。
【0039】
また、表2に示すように、実施例1〜5、比較例1〜3の多層チューブ10のコストを比較した。表2中のコストは、実施例1の多層チューブ10のコストを100としたときに、他の実施例2〜5及び比較例1〜3の多層チューブ10のコストを数値で示したものである。その結果、比較例3の内層に共重合フッ素樹脂、外層にポリウレタンを用いた多層チューブのコストが125であるのに対し、実施例1〜5の多層チューブ10のコストは100以下であった。このため、実施例1〜5の多層チューブ10は低コストであることが確認できた。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態に係る多層チューブを図面に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0041】
図2に示されるように、この多層チューブ30は、内層12の外側に中間層14が設けられ、その中間層14の外側に外層16が設けられており、さらに外層16の外側に、繊維を編み上げた補強部32が設けられている。さらに、補強部32の外側には、樹脂からなる保護層34が形成されている。
【0042】
補強部32としては、例えばポリエステル繊維、アラミド繊維などを用いることができる。また、補強部32はブレード編みやスパイラル編みなどで編み上げている。保護層34としては、ポリウレタン樹脂を用いることができ、その他、塩化ビニル樹脂、ポリエステルエラストマー、ナイロンなども使用できる。
【0043】
このような多層チューブ30は、耐圧性が必要な装置の配管に好適に使用できる。繊維からなる補強部32と、外層16との接着は、多層チューブ30の耐圧性が低くてよい場合は、補強部32と保護層34との間に隙間ができる構造が可能であり、押出しコーティングで保護層34と外層16とを熱溶融圧着して製造することが可能である。また、多層チューブ30の耐圧性が高く、補強部32の密度が高くて補強部32と保護層34との間に隙間ができない構造の場合は、ポリウレタン系接着剤を使用して保護層34と外層16とを接着することで製造できる。
【0044】
なお、第2実施形態に示す多層チューブ30の構成に限定するものではなく、外層16の外側に、第4、第5・・・の層を押出成型もしくは共押出成型してもよい。即ち、多層チューブにおいて、少なくとも最も内側に設けられる内層12が本発明に係るポリオレフィン樹脂層で、その直上の中間層14が本発明に係る接着性ポリオレフィン樹脂層、その直上の外層16が本発明に係るポリウレタン樹脂であればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態に係る多層チューブの各層を切断した状態を示す斜視図であり、(B)はこの多層チューブを示す断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る多層チューブを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
10 多層チューブ
12 内層
14 中間層
16 外層
30 多層チューブ
32 補強部
34 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂からなる内層と、
ポリウレタン樹脂からなる外層と、
前記内層と前記外層との間に、接着性ポリオレフィン樹脂からなる中間層と、
を有することを特徴とする多層チューブ。
【請求項2】
前記中間層は、酸変性ポリオレフィン樹脂、又はこれをポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレン、若しくはオレフィン系樹脂にブレンドした樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の多層チューブ。
【請求項3】
前記内層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、又はこれらを主成分とするオレフィン系樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多層チューブ。
【請求項4】
前記外層の外周に、繊維を編んだ補強部を設け、
前記補強部の外側に、樹脂からなる保護層を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の多層チューブ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−132659(P2008−132659A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320202(P2006−320202)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(390034452)ブリヂストンフローテック株式会社 (80)
【Fターム(参考)】