説明

多層フィルムおよびそれを使用したフレキシブル容器

【課題】本発明は、排泄物保持用パウチ、液体保持用バッグインボックス、畜肉包装用多層フィルム等に使用できる、硬度のバリア性と柔軟性を兼ね備えた多層フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】 上記目的は、エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体50〜99重量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体にエポキシ化合物を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体1〜50重量部からなるバリア性樹脂を含む層の少なくともどちらか片側に熱可塑性エラストマーからなる層を有する多層フィルムによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、バリア性、機械強度、柔軟性に優れた多層フィルム、およびそれを使用した排泄物保持用パウチ、液体保持用バッグインボックス、畜肉包装用多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、透明性、ガスバリア性、耐油性などに優れた樹脂であり、この特徴を生かして食品や医薬品などの包装材料として広く使用されている。しかしながら、EVOHは本来柔軟性が不十分であるために、耐衝撃性、耐屈曲性が不十分で用途によっては使用できない場合があった。
【0003】
例えば、排泄物保持用パウチとして用いる場合、EVOHの特性である高い臭気バリア性は有効な物性となるが、患者に装着した場合、EVOHフィルムが硬いため、屈曲のたびにこすれる音が発生するため、使用には適さなかった。そこでEVOHフィルム自身のバリア性を落とさず、フィルムを柔軟化する必要があった。
【0004】
また畜肉包材用途に用いるフィルムは、畜肉についている骨の突き刺しに耐えるため、やはり高い柔軟性を有するフィルムが必要であり、EVOHフィルムのバリア性を犠牲にすることなく柔軟性を改善することが求められていた。
【0005】
これに対し、EVOHと柔軟性に富む樹脂を積層することによってEVOHの、柔軟性に欠けるという欠点を補おうとする方法や、EVOH自体を変性したり、EVOHに柔軟な樹脂を配合したりすることによって、柔軟性を改善する方法が提案されてきた。
【0006】
特許文献1には、EVOHと柔軟性を有する熱可塑性樹脂を積層して、柔軟性の改善された多層フィルムを得る方法が記載されている。この方法によって製造された多層フィルムは確かにEVOH単層のフィルムに比べれば、柔軟性のあるものとなるが、この多層フィルムでも耐屈曲性は十分ではなく、これを折り曲げた場合、発生する音を十分防止できるほどに柔軟ではなかった。
【0007】
特許文献2には、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有する、エチレン含有量5〜55モル%の変性EVOHが記載されている。当該変性EVOHは、バリア性、透明性、延伸性、柔軟性及び耐屈曲性に優れていて、単層、あるいは多層構造体として各種の成形品に使用される。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRは同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していても良い。またR、R、R及びRは水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【0010】
しかしながら、上記変性EVOHにおいて、変性度が低ければ柔軟性の改善が小さく、変性度が高ければガスバリア性がある程度犠牲にされる傾向がある。例えば、前記の排泄物保持用パウチのように多層フィルムが折り曲げられた場合のわずかな音が問題になるような用途の場合、上記変性EVOHと柔軟性を有する樹脂を積層してフィルムとして用いた場合においても、変性度が低ければ柔軟性が十分ではなく、かといって、このような用途に十分な柔軟性を与えるほどに変性度を高くすると、用途や遮断対象物質によってはバリア性が十分でなくなる恐れがある。
【0011】
【特許文献1】特開平3−239541号公報
【特許文献2】国際公開第02/092643号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高度の柔軟性を有し、かつEVOHの有する高いバリア性を併せ持つ多層フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)50〜99重量%,及び下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量%からなる組成物を含むバリア性樹脂組成物を含む層(X)の、少なくとも一方の側に、熱可塑性エラストマー(C)からなる層(Y)を有する多層フィルムによって解決される。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRは同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、RとRとは結合していても良い。またR、R、R及びRは水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【0016】
また、上記課題は、エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)50〜99重量%,及びエチレン−ビニルアルコール共重合体と分子量500以下の一価エポキシ化合物(D)とを反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体5〜50重量%からなるバリア性樹脂組成物を含む層(X)の、少なくとも一方の側に、熱可塑性エラストマー(C)からなる層(Y)を有する多層フィルムによっても解決される。
【0017】
本発明の好適な実施態様は、バリア性樹脂組成物を含む層(X)の両側に熱可塑性エラストマー層(Y)を有する多層フィルムである。このような多層フィルムの好適な用途は排泄物保持用パウチ、液体保持用バッグインボックスなどのフレキシブル容器である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多層フィルムは、バリア性に優れ、しかも高度の柔軟性を有している。そのため、屈曲時の音が問題になる排泄物保持用パウチ、液体保持用バッグインボックスなどの高度な柔軟性を要求されるフレキシブル容器、畜肉包装用多層フィルムなどに好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の多層フィルムは、エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)50〜99重量%,及び下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量%からなる組成物を含むバリア性樹脂組成物を含む層(X)の、少なくとも一方の側に、熱可塑性エラストマー(C)からなる層(Y)を有する。
【0020】
【化3】

【0021】
{式中、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。R、R、R及びRは同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していてもよい(ただし、R3及びR4がともに水素原子の場合は除かれる)。また上記のR、R、R及びRは他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していても良い。}
【0022】
本発明で用いられるEVOH(A)は、公知の方法によって製造されたエチレンとビニルエステルからなる共重合体を、アルカリ触媒等を用いてケン化することによって得ることができる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。
【0023】
また、EVOHは共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有することができる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシランが挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。さらに、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、あるいは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルもしくは(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸またはそのエステル、及び、N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンを共重合することも出来る。
【0024】
本発明で用いられるEVOHのエチレン含量は20〜60モル%であり、好適には25〜55モル%、より好適には25〜50モル%である。エチレン含量が20モル%未満では、高湿度下でのガスバリア性が低下し、溶融成形性も悪化する。また60モル%を超えると十分なバリア性が得られない。
【0025】
また、本発明で用いられるEVOHのビニルエステル成分のケン化度は90%以上であり、好適には95%以上、より好適には98%以上である。ケン化度が90%未満では、高湿度時のガスバリア性が低下するだけでなく、EVOHの熱安定性が悪化し、成形物にゲルが発生しやすくなる。
【0026】
さらに、EVOHはホウ素化合物を含有してもよい。ホウ素化合物を含有することにより、EVOHの溶融粘性が改善され、ブレンドに際し分散性が改善されるだけでなく、均質な共押出多層フィルムの製造の面でも有効である。ここでホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物うちでもオルトホウ酸、NaBHが好ましい。
【0027】
ホウ素化合物が含まれる場合、その含有量はホウ素元素換算で、好ましくは20〜2000ppm、より好ましくは50〜1000ppmである。この範囲にあることで加熱溶融時のトルク変動が抑制されたEVOHを得ることができる。20ppm未満ではそのような効果が小さく、2000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる場合がある。
【0028】
また、本発明で用いるEVOHに対し、アルカリ金属塩を含有させることも、層間接着性や相溶性の改善に効果的であることから好ましい。アルカリ金属塩の添加量は、アルカリ金属元素換算で5〜5000ppmが好ましい。より好ましくは20〜1000ppm、さらに好ましくは、30〜500ppmである。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどがあげられ、アルカリ金属塩としては、一価金属の脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、燐酸塩、金属錯体等が挙げられる。例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。中でも酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、燐酸ナトリウムが好適である。
【0029】
また、本発明で用いられるEVOHに対しリン化合物を、リン元素換算で2〜200ppm、より好適には3〜150ppm、最適には5〜100ppm含有させることも好ましい。EVOH中のリン濃度が2ppmより少ない場合、あるいは200ppmより多い場合には、溶融成形性や熱安定性に問題を生じることがある。特に、長時間にわたる溶融成形を行なう際のゲル・ブツの発生や着色の問題が発生しやすくなる。
【0030】
EVOH中に配合されるリン化合物の種類は特に限定されるものではない。リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていても良く、そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩であることが好ましい。中でも、リン酸2水素ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウムの形でリン化合物を添加することが好ましい。
【0031】
本発明に用いるEVOHの好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜50g/10min.、最適には0.5〜30g/10min.である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0032】
本発明で使用する変性EVOH(B)は、上記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)である。
【0033】
このとき、脂肪族炭化水素基の好適な炭素数は1〜6であり、より好適な炭素数は1〜4である。脂環式炭化水素基の好適な炭素数は3〜6であり、より好適な炭素数は3〜4である。芳香族炭化水素基の好適な炭素数は6である。また、R、R、R及びRの炭素数の合計値は10以下であることが好適であり、6以下であることがより好適である。
【0034】
好適な実施態様では、前記R及びRがともに水素原子である。さらに好適な実施態様では、前記R及びRがともに水素原子であり、前記R及びRのうち、一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基であって、かつ他方が水素原子である。好適には、前記脂肪族炭化水素基がアルキル基又はアルケニル基である。変性EVOH(C)をバリア材として使用する際のガスバリア性を特に重視する観点からは、前記R及びRのうち、一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。
【0035】
また、変性EVOH(B)をバリア材として使用する際のガスバリア性の観点からは、前記R及びRのうち、一方が(CHOHで表される置換基(ただし、i=1〜8の整数)であり、他方が水素原子であることも好ましい。バリア材としてのガスバリア性を特に重視する場合は、前記の(CHOHで表される置換基において、i=1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0036】
変性EVOH(B)に含まれる上述の構造単位(I)の量は0.3〜40モル%の範囲内であることが必要である。構造単位(I)の量の下限は、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることがさらに好ましい。一方、構造単位(I)の量の上限は、35モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下であることがさらに好ましい。含まれる構造単位(I)の量が上記の範囲内にあることで、ガスバリア性、延伸性、柔軟性及び耐屈曲性を兼ね備えた変性EVOH(B)を得ることができる。
【0037】
変性EVOH(B)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。変性EVOH(B)が、良好な延伸性、柔軟性及び耐屈曲性を得る観点からは、変性EVOH(B)のエチレン含有量の下限はより好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、変性EVOH(B)のガスバリア性の観点からは、変性EVOH(B)のエチレン含有量の上限はより好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が5モル%未満の場合は溶融成形性が悪化するおそれがあり、55モル%を超えるとガスバリア性が不足するおそれがある。
【0038】
変性EVOH(B)を構成する、上記構造単位(I)及びエチレン単位以外の構成成分は、主としてビニルアルコール単位である。このビニルアルコール単位は、通常、原料のEVOH(A)に含まれるビニルアルコール単位のうち、一価エポキシ化合物(B)と反応しなかったビニルアルコール単位である。また、EVOH(A)に含まれることがある未ケン化の酢酸ビニル単位は、通常そのまま変性EVOH(B)に含有される。変性EVOH(B)は、これらの構成成分を含有するランダム共重合体であることが、NMRの測定や融点の測定結果からわかった。さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内で、その他の構成成分を含むこともできる。
【0039】
変性EVOH(B)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0040】
上記の変性EVOH(B)を製造する方法は特に限定されない。本発明者らが推奨する方法は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、変性EVOH(B)を得る方法である。
【0041】
また、本発明が解決しようとする課題は、エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)50〜99重量%,及びエチレン−ビニルアルコール共重合体と分子量500以下の一価エポキシ化合物(D)とを反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体5〜50重量%からなるバリア性樹脂組成物を含む層(X)の、少なくとも一方の側に、熱可塑性エラストマー(B)からなる層(Y)を有する多層フィルムを提供することによっても達成される。
【0042】
本発明で変性EVOH(B)の原料として用いられるEVOH(A)としては、エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものが好ましい。EVOHの製造時に用いるビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。また、本発明の目的が阻害されない範囲であれば、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドン等を共重合することもできる。
【0043】
EVOH(A)として、共重合成分としてビニルシラン化合物を共重合したEVOHを用いる場合、共重合量として0.0002〜0.2モル%を含有することが好ましい。かかる範囲でビニルシラン化合物を共重合成分として有することにより、共押出成形を行う際の、基材樹脂と変性EVOH(B)との溶融粘性の整合性が改善され、均質な共押出多層フィルム成形物の製造が可能となる場合がある。特に、溶融粘度の高い基材樹脂を用いる場合、均質な共押出多層フィルム成形物を得ることが容易となる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0044】
本発明に用いられるEVOH(A)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。変性EVOH(B)が、良好な延伸性、柔軟性及び耐屈曲性を得る観点からは、EVOH(A)のエチレン含有量の下限はより好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、変性EVOH(B)のガスバリア性の観点からは、EVOH(A)のエチレン含有量の上限はより好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が5モル%未満の場合は溶融成形性が悪化するおそれがあり、55モル%を超えるとガスバリア性が不足するおそれがある。なおここで、EVOH(A)がエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合重量比から算出される平均値をエチレン含有量とする。
【0045】
さらに、本発明に用いられるEVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は好ましくは90%以上である。ビニルエステル成分のケン化度は、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、最適には99%以上である。ケン化度が90%未満では、ガスバリア性、特に高湿度時のガスバリア性が低下するおそれがあるだけでなく、熱安定性が不十分となり、成形物にゲル・ブツが発生しやすくなるおそれがある。なおここで、EVOH(A)がケン化度の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合重量比から算出される平均値をケン化度とする。
【0046】
なお、EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0047】
本発明に用いられるEVOH(A)の固有粘度は0.06L/g以上であることが好ましい。EVOH(A)の固有粘度はより好ましくは0.07〜0.2L/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.075〜0.15L/gであり、特に好ましくは0.080〜0.12L/gである。EVOH(A)の固有粘度が0.06L/g未満の場合、延伸性、柔軟性及び耐屈曲性が低下するおそれがある。また、EVOH(A)の固有粘度が0.2L/gを超える場合、変性EVOH(B)を含む成形物においてゲル・ブツが発生しやすくなるおそれがある。
【0048】
本発明に用いられるEVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。MFRの異なる2種以上のEVOHを混合して用いることもできる。
【0049】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は、一価のエポキシ化合物であることが必須である。すなわち、分子内にエポキシ基を一つだけ有するエポキシ化合物でなければならない。二価又はそれ以上の、多価のエポキシ化合物を用いた場合は、本発明の効果を奏することができない。ただし、一価エポキシ化合物の製造工程において、ごく微量に多価エポキシ化合物が含まれることがある。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ごく微量の多価エポキシ化合物が含まれる一価のエポキシ化合物を、本発明における分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)として使用することも可能である。
【0050】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は特に限定されない。具体的には、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が、好適に用いられる。
【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
【化6】

【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
【化10】

【0058】
{式中、R5、R6、R7、R8及びR9は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。また、i、j、k、l及びmは、1〜8の整数を表す。}
【0059】
これらの分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)のなかでも、本発明に用いられる一価エポキシ化合物(B)としては、炭素数が2〜12のエポキシ化合物が好ましく、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が特に好ましい。化合物の取り扱いの容易さ、及びEVOH(A)との反応性の観点からは、一価エポキシ化合物(B)の炭素数は好適には2〜6であり、より好適には2〜4である。また、一価エポキシ化合物(B)が、上記式(III)又は(IV)で表される化合物であることが好ましい。EVOH(A)との反応性、及び得られる変性EVOH(B)のガスバリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが特に好ましく、なかでもエポキシプロパン及びグリシドールが好ましい。食品包装用途、飲料包装用途、医薬品包装用途などの、衛生性を要求される用途では、一価エポキシ化合物(B)として1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン及びエポキシエタンを用いることが好ましく、特にエポキシプロパンを用いることが好ましい。
【0060】
上記EVOH(A)と上記一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより変性EVOH(B)が得られる。このときの、EVOH(A)及び一価エポキシ化合物(B)の好適な混合比は、EVOH(A)100重量部に対して一価エポキシ化合物(B)1〜50重量部であり、さらに好適にはEVOH(A)100重量部に対して一価エポキシ化合物(B)2〜40重量部であり、特に好適にはEVOH(A)100重量部に対して一価エポキシ化合物(B)5〜35重量部である。
【0061】
EVOH(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、変性EVOH(B)を製造する方法は特に限定されないが、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶液で反応させる製造法、及びEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させる製造法などが好適な方法として挙げられる。なかでも、EVOHと一価エポキシ化合物とを押出機内で溶融混練して反応させる製造法が好適である。また、溶融混練して反応させる際に周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)や触媒失活剤(E)を使用することも好ましい。本発明で使用する変性EVOH(B)の製造方法の詳細については、国際公開第02/092643号パンフレット(特許文献2)に記載されている通りである。
【0062】
変性EVOH(B)には、アルカリ金属塩、ホウ素化合物、カルボン酸又はその塩、リン酸化合物又はアルカリ土類金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を、EVOHと一価エポキシ化合物との反応によって変性EVOH(B)が得られた後に添加することもできる。
【0063】
こうして得られた変性EVOH(B)の融点は160℃以下であることが好ましい。これによって、ポリオレフィンなど融点の低い樹脂との融点の差を小さくすることができ、樹脂組成物を溶融成形する際の成形温度を低くすることができる。より好適には150℃以下であり、さらに好適には140℃以下である。
【0064】
変性EVOH(B)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0065】
本発明の変性EVOH(B)は、20℃、65%RHにおける酸素透過速度が100cc・20μm/m・day・atm以下であることが好ましい。酸素透過速度の上限は、50cc・20μm/m・day・atm以下であることがより好ましく、20cc・20μm/m・day・atm以下であることがさらに好ましい。
【0066】
本発明で使用されるバリア性樹脂組成物はEVOH(A)と変性EVOH(B)からなる。以下このバリア性樹脂組成物を、本発明のバリア性樹脂組成物と称することがある。本発明のバリア性樹脂はEVOH(A)と変性EVOH(B)をブレンドすることによって製造することができる。ブレンドする方法に特に制限はないが、通常はEVOHと変性EVOHを押出機などで溶融混練する方法が挙げられる。溶融混練して本発明の樹脂組成物を得るための配合手段としては、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ペレタイザー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサーなどが例示される。これらの中でも、工程の簡便さおよびコストの観点から、単軸または二軸スクリュー押出機(同方向あるいは異方向)、インテンシブミキサー、連続式インテンシブミキサー等を使用する溶融混練法が好ましい。混練温度は、設備の性質、樹脂の分子量や配合割合などにより適宜選択されるが、多くの場合150〜300℃の範囲が好ましい。得られる樹脂組成物の酸化防止のために、ホッパー口を窒素シールし、低温で押出すことが好ましい。混練時間は、長い方が良い結果を得られるが、樹脂組成物の酸化防止および生産効率の観点から、0.1〜20分が好ましい。
【0067】
本発明のバリア性樹脂組成物において、EVOH(A)と変性EVOH(B)の割合は、EVOH(A)と変性EVOH(B)の合計の重量に対して、EVOH(A)が50〜99重量%、変性EVOH(B)が50〜1重量%である。変性EVOH(B)の量が1重量%以下であると、EVOH(A)を柔軟化する効果が十分でなく、変性EVOH(B)が50重量%以上では、コスト面から実用的でなく、変性EVOHの構造単位(I)の量(以下、変性EVOH(B)の構造単位(I)とOH基の合計量に対する構造単位(I)の割合(モル%)を変性度と記載する)にもよるが、バリア性樹脂組成物のバリア性が低下し実用上不利になる傾向にある。さらに、変性EVOH(B)が5〜30重量%の範囲にあることが好ましい。
【0068】
本発明において、変性EVOH(B)の変性度が高ければ、上記範囲内で変性EVOH(B)の含有量は比較的少なくてよく、変性EVOH(B)の変性度が低ければ、比較的大きいものが好適である。好適にはEVOH(B)の変性度(モル%)にEVOH(B)の含有率(重量%)を乗じて100で除したもの(以下、平均変性度と称する)が0.01〜10の範囲内にあることが好適であり、0.05〜6の範囲にあることがより好適である。これより低ければ柔軟性が十分でなく、高ければバリア性が十分でなくなる傾向がある。
【0069】
本発明においては、変性されていないEVOH(A)と変性EVOH(B)が混合されていることが重要である。意外なことに、EVOH(A)と変性EVOH(B)の混合物を用いた場合、該混合物の平均変性度と同一の変性度を有する変性EVOH(B)を単独で用いた場合に比べ、多層フィルムの柔軟性、特に屈曲した場合の音の発生抑制効果に優れ、バリア性にも優れる。この理由は明確ではないが、EVOH(A)のマトリクスの中に変性EVOH(B)が分散することにより、マトリクスのEVOH(A)が高いガスバリア性を維持しつつ、変性EVOH(B)が柔軟性を与え、この微細構造が屈曲したときの音の発生を抑制しているものと推定される。
【0070】
本発明のバリア性樹脂を含む層(X)には、EVOH(A)と変性EVOH(B)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種の添加物を添加することができる。このような添加物としては、EVOH(A)と相容性を有する他の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、安定剤、などが例示できる。
【0071】
本発明の層(X)の、20℃、65%RHにおける酸素透過速度は100cc・20μm/m・day・atm以下であることが好ましい。このような範囲の酸素透過速度を有することによって、バリア性が要求される多くの用途に用いることが可能である。特に、耐屈曲性が要求される用途においては、薄い膜厚であっても良好なバリア性を発揮できることが望まれる。したがって、上記酸素透過速度はより好適には50cc・20μm/m・day・atm以下であり、さらに好適には30cc・20μm/m・day・atm以下である。一方、酸素透過速度が低すぎるものについては低温における耐屈曲性や耐衝撃性が不十分になりやすく、1cc・20μm/m・day・atm以上であることが好ましく、5cc・20μm/m・day・atm以上であることがより好ましい。
【0072】
本発明の多層フィルムにおいては、バリア性樹脂組成物を含む層(X)の少なくとも一方の側に熱可塑性エラストマー層(Y)を有する。
【0073】
前述の通り、本発明のバリア性樹脂組成物は単独のEVOHに比べ改善された柔軟性を有するが、それをさらに柔軟性の大きい、換言すれば大きな引張降伏点伸度を有するエラストマーと積層するものである。こうすることによって、屈曲される際に多層フォルムにかかる負荷をエラストマーが受け取ることが可能であり、樹脂組成物層に局所的にかかる負荷を分散させるのに役立てることができる。特に、エラストマー層(Y)を樹脂組成物層(X)に隣接して配置させることによって、効率的に負荷を分散、吸収することが可能である。
【0074】
また、エラストマー層(X)は本発明のバリア性樹脂組成物層(X)の両側の面に配置されることがさらに好ましい。これによって、どちらの方向に屈曲した場合にも樹脂組成物層のダメージを効率的に減少させることができる。エラストマーと積層する場合には、エラストマー自身の弾性率が低いことから、積層フィルム全体のフレキシビリティーに悪影響を与えにくい。
【0075】
ここで使用されるエラストマーとしては、成形の容易さ等から、熱可塑性エラストマーが使用される。熱可塑性エラストマー(C)としては、特に限定はないが、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性スチレン系エラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマーなどが好適に使用される。これらの中でも、柔軟性、成形容易性、工業的入手容易性の観点からポリウレタン系エラストマーが好適に用いられる。さらに、用途に応じて耐水性や防湿性が要求される場合にはポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレンなどと積層することが好ましく、ヒートシール性が要求される場合にはポリオレフィンと積層することが好ましい。
【0076】
熱可塑性エラストマーの、23℃、50%RHにおけるヤング率は100MPa以下であることが好ましい。ヤング率が100MPaを超える場合、多層フィルムの耐屈曲性及び耐衝撃性が不十分になるおそれがある。好適には50MPa以下であり、より好適には20MPa以下である。一方、ヤング率は好適には0.1MPa以上である。ヤング率が0.1MPa未満の場合、ハンドリングが困難になる場合がある。好適には0.5MPa以上であり、より好適には1MPa以上である。
【0077】
ポリウレタン系エラストマーとしては、加熱溶融し得る熱可塑性ポリウレタンであればいずれも使用可能である。このようなポリウレタンは、各種ポリオール、イソシアナート、および必要に応じて鎖伸長剤を反応させることによって製造される。
【0078】
ポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジベート、ポリプロピレンアジベート、ポリカプロラクトンなどのポリエステルポリオールなどが例示される。ポリエステルポリオールに関しては種々のモノマー単位の組み合わせが採用でき、ジオール単位の例としては例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオールなどを挙げることができ、ジカルボン酸単位の例としては例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、2−メチルコハク酸、2−メチルアジピン酸、3−メチルアジピン酸、3−メチルペンタン二酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3.7−ジメチルデカン二酸などの炭素数5〜12の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;またはそれらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。
【0079】
イソシアナートとしては、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートなどのイソシアネートが挙げられる。
【0080】
また鎖伸長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジン、イソフタル酸ジヒドラジンなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0081】
このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーの市販されている製品としては、例えばクラミロン(株式会社クラレ)、ミラクトラン(日本ミラクトラン)、レザミン (大日精化)、エラストラン(BASF)、パンデックス(大日本インキ化学工業)などを使用することができる。
【0082】
例えば、本発明のバリア性樹脂組成物層(X)とエラストマー層(Y)とを有する多層フィルムの具体的な構成としては、エラストマー(Y)/樹脂組成物(X)、エラストマー(Y)/樹脂組成物(X)/ヒートシール性樹脂、エラストマー(Y)/樹脂組成物(X)/エラストマー(Y)/ヒートシール性樹脂、耐水性樹脂/エラストマー(Y)/樹脂組成物(X)/エラストマー(Y)/ヒートシール性樹脂などが例示される。これらの各層の間には接着性樹脂が介在しても構わない。
【0083】
本発明のバリア性樹脂組成物を含む層(X)の厚さは特に限定されないが、通常5〜300μmである。厚みが300μmを超えると、耐屈曲性が要求される用途には使いにくくなる場合があり、好適には100μm以下、より好適には50μm以下、さらに好適には30μm以下である。一方、厚みが5μm未満の場合には、特に本発明の樹脂組成物を単独でフィルムにしようとする場合、フィルムの製造が困難になるとともに、多層フィルムのバリア性も不十分になりやすい。したがって、好適には10μm以上である。
【0084】
エラストマー層(Y)の厚みは特に限定されないが、通常5〜200μmである。厚みが200μmを超えると、重量が大きくなりすぎる場合があり、好適には100μm以下、より好適には50μm以下、さらに好適には30μm以下である。一方、厚みが5μm未満の場合には、フィルムの製造が困難になるとともに、多層フィルムの耐屈曲性の改善効果が不十分になりやすい。したがって、好適には10μm以上である。
【0085】
また、本発明の多層フィルム全体の厚みは、通常、20〜300μmである。厚みが300μmを超えると、屈曲性が低下する場合があり、好適には200μm以下、より好適には100μm以下である。一方、厚みが20μm未満の場合には、フィルムの製造が困難になるとともに、強度が不十分になりやすい。
【0086】
本発明の多層フィルムを成形する方法に特に制限はなく、従来公知の種々の方法が採用できる。インフレーションフィルム成形やキャスト成形、押出コート成形、共押出コート成形などが好ましい。例えば、最初に本発明の樹脂組成物を単層のフィルムに成形し、熱可塑性エラストマー層をコーティングしても良いし、予め作成した熱可塑性エラストマーフィルムと熱接着等でラミネートしても良いし、押出ラミネートしても良い。また、好適には本発明の樹脂組成物と熱可塑性エラストマー、および必要に応じて他の熱可塑性樹脂を共押出成形してもよい。
【0087】
本発明の樹脂組成物は、好適には溶融成形によりフィルムに成形される。また、フィルム、シート等を一軸又は二軸延伸することも可能である。溶融成形法としては押出成形、射出成形、射出ブロー成形等が可能である。溶融温度は120〜270℃程度が好ましい。本発明の樹脂組成物はバリア性が良好であって、しかも柔軟性に優れているので、屈曲されることの多い用途に好適に用いられる。
【0088】
本発明の多層フィルムの用途は特に限定されない。バリア性と、低温での耐屈曲性や耐衝撃性とが要求される用途に好適に使用される。例えば、上記多層フィルムからなるフレキシブル容器は特に好適な用途である。具体的には、高い臭気バリア性とこすれても音が出ない高度な柔軟性を要求される排泄物保持用パウチが、特に好適な用途として上げられる。また、飲料などの液体を充填してチルド輸送するバッグインボックス、冷凍あるいは冷蔵されるパウチなどが、特に好適な用途として例示される。一方、同じく高い柔軟性を要求される用途である、畜肉包材も特に好適な用途として上げられる。この場合、畜肉についている骨の突刺しに耐える観点から、本発明の多層フィルムの柔軟性が重要特性となる。
【0089】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。なお、実施例等における分析は次のようにして行った。
【0090】
[耐屈曲性評価]
多層フィルムを、23℃50%RHの恒温室内で理学工業株式会社製ゲルボフレックステスターを用いて、屈曲回数を変化させて屈曲させて、それぞれの屈曲回数において発生したピンホール数を測定した。屈曲回数(P)を横軸に、ピンホール数(N)を縦軸に取り、上記測定結果をプロットし、ピンホール数が1個の時の屈曲回数(Np1)を外挿により求めた。
【0091】
[突刺し強度]
肉の代替品として、直径3cm、長さ35cmの杉の丸棒を10本束ねたものを、多層フィルムを用いて作製した30cm×50cmの袋に詰め、内部を脱気した後、口部をシールすることで真空包装体を得た。5℃−65%RHに充分調湿後、10個の包装体を5℃の室内でコンクリート床上に1mの高さから、袋面と床面が平行になるように落下させ、破損状況を目視で観察し、下記の1〜5の基準に従って評価した。
5:破損が無く、商品価値が極めて大。
4:破損がほとんど無く、商品価値大。
3:ごく微小な破損はあるものの、商品価値有り。
2:破損があり、商品価値は小。
1:破損が極めて大きく、商品価値は無し。
【0092】
[フィルムのこすれ音の測定]
外部からの音の影響がない実験室で、被験者に見えないように所定の距離離したダンボール箱の中で、実験者がA4サイズにカットした多層フィルムを手で握りつぶした。音が聞こえた場合と聞こえない場合の2種で判定した。なお実験は5名の被験者で行った。
試験は4m離れた場所から開始し、聞こえなかった場合は50cmずつ距離を縮めて実施した。音が聞こえた最大距離を評価値とした。
【0093】
[臭気官能試験]
厚み50μの単層のLDPEフィルムで7cm四方のパウチをヒートシールで作成し、中に所定の薬品を5g投入した。このパウチを作成直後に屈曲前と1000回屈曲後の各種多層フィルムのパウチ(10cm四方)に投入した。23℃50%RHの部屋に一日保存した後、5名の被験者に臭いをかいでもらい、強くにおう場合を1、全くにおわない場合を5として、5段階で臭いの強度を判定した。
【0094】
[フィルムの酸素透過量の測定]
上記作製したフィルムを、20℃−65%RHで5日間調湿した。上記の調湿済みの2
枚のサンプルを使用して、モダンコントロール社製 MOCON OX−TRAN2/2
0型を用い、20℃−65%RH条件下でJIS K7126(等圧法)に記載の方法に
準じて、酸素透過量を測定し、その平均値を求めた。
【0095】
[合成例1]
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成:
エチレン含有量44モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のペレット5kgをポリエチレン製袋に入れた。そして、酢酸亜鉛二水和物27.44g(0.125mol)及びトリフルオロメタンスルホン酸15g(0.1mol)を水500gに溶解させて水溶液を調製し、前記水溶液を袋の中のEVOHに添加した。以上のようにして触媒溶液が添加されたEVOHを、時々、振り混ぜながら袋の口を閉じた状態で90℃で5時間加熱し、EVOHに触媒溶液を含浸させた。得られたEVOHを、90℃で真空乾燥することにより、亜鉛イオンを含む触媒を含有するEVOHを得た。
【0096】
EVOHとして、エチレン含有量44モル%、ケン化度99.8%、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のEVOH90重量部に、前記亜鉛イオンを含む触媒を含有するEVOH10重量部をドライブレンドしたものを用いた。また、分子量500以下の一価エポキシ化合物としてエポキシプロパンを用いた。
【0097】
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図1に示すようにスクリュー構成及びベント及び圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2〜C3を200℃、C4〜C15を220℃に設定し、スクリュー回転数200rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から、ドライブレンドされた混合物からなり触媒を含有する上記EVOHを11kg/hrの割合でフィードし、ベント1を内圧60mmHgに減圧し、C8の圧入口1からエポキシプロパンを2.5kg/hrの割合でフィードした(フィード時の圧力:3.5MPa)。ベント2を内圧200mmHgに減圧し、未反応のエポキシプロパンを除去し、C13の圧入口2から0.14kg/hrの割合でエチレンジアミン4酢酸3ナトリウム3水和物8.2重量%水溶液を添加した。
【0098】
上記溶融混練操作における、一価エポキシ化合物の混合割合は、EVOH100重量部に対して22.7重量部であった。EVOHの重量に対する金属イオンのモル数で2.5μmol/gの触媒が添加された。触媒に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤のモル数の比は1であった。
【0099】
ベント3を内圧20mmHgに減圧し、水分を除去して、変性EVOHを得た。前記変性EVOHのMFRは5g/10分(190℃、2160g荷重下)であり、融点は109℃であった。また、亜鉛イオン含有量は150ppm(2.3μmol/g)であり、アルカリ金属塩含有量は金属元素換算で168ppm(7.1μmol/g)[ナトリウム:160ppm(6.9μmol/g)、カリウム:8ppm(0.2μmol/g)]であり、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量は270ppm(1.8μmol/g)であった。アルカリ金属イオンの含有量は、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量の3.9倍(モル比)であった。
【0100】
こうして得られた、エポキシプロパンで変性された変性EVOHの化学構造については、国際公開第02/092643号パンフレット(特許文献2)に記載された手順に従って変性EVOHをトリフルオロアセチル化した後にNMR測定を行うことによって求めた。本合成例3で作製した変性EVOHのエチレン含有量は44モル%であり、構造単位(I)の含有量は8モル%であった。また、20℃、65%RHにおける酸素透過速度は10cc・20μm/m・day・atmであった。
【0101】
[合成例2]
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のペレット5kgをポリエチレン製袋に入れた。そして、酢酸亜鉛二水和物27.44g(0.125mol)及びトリフルオロメタンスルホン酸15g(0.1mol)を水500gに溶解させて水溶液を調製し、前記水溶液を袋の中のEVOHに添加した。以上のようにして触媒溶液が添加されたEVOHを、時々、振り混ぜながら袋の口を閉じた状態で90℃で5時間加熱し、EVOHに触媒溶液を含浸させた。得られたEVOHを、90℃で真空乾燥することにより、亜鉛イオンを含む触媒を含有するEVOHを得た。
【0102】
EVOH(A)として、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.8%、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のEVOH90重量部に、前記亜鉛イオンを含む触媒を含有するEVOH10重量部をドライブレンドしたものを用いた。また、分子量500以下の一価エポキシ化合物としてエポキシプロパンを用いた。
【0103】
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図1に示すようにスクリュー構成及びベント及び圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2〜C3を200℃、C4〜C15を220℃に設定し、スクリュー回転数200rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から、ドライブレンドされた混合物からなり触媒を含有する上記EVOHを11kg/hrの割合でフィードし、ベント1を内圧60mmHgに減圧し、C8の圧入口1からエポキシプロパンを2.5kg/hrの割合でフィードした(フィード時の圧力:3.5MPa)。ベント2を内圧200mmHgに減圧し、未反応のエポキシプロパンを除去し、C13の圧入口2から0.14kg/hrの割合でエチレンジアミン4酢酸3ナトリウム3水和物8.2重量%水溶液を添加した。
【0104】
上記溶融混練操作における、一価エポキシ化合物の混合割合は、EVOH100重量部に対して22.7重量部であった。EVOHの重量に対する金属イオンのモル数で2.5μmol/gの触媒が添加された。触媒に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤のモル数の比は1であった。
【0105】
ベント3を内圧20mmHgに減圧し、水分を除去して、変性EVOHを得た。前記変性EVOHのMFRは5g/10分(190℃、2160g荷重下)であり、融点は133℃であった。また、亜鉛イオン含有量は150ppm(2.3μmol/g)であり、アルカリ金属塩含有量は金属元素換算で168ppm(7.1μmol/g)[ナトリウム:160ppm(6.9μmol/g)、カリウム:8ppm(0.2μmol/g)]であり、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量は270ppm(1.8μmol/g)であった。アルカリ金属イオンの含有量は、トリフルオロメタンスルホン酸イオンの含有量の3.9倍(モル比)であった。
【0106】
こうして得られた、エポキシプロパンで変性された変性EVOHの化学構造については、合成例3と同様にして求めた。得られた変性EVOHのエチレン含有量は32モル%であり、構造単位(I)の含有量は8モル%であった。また、20℃、65%RHにおける酸素透過速度は4cc・20μm/m・day・atmであった。
【実施例1】
【0107】
合成例1で得られた樹脂のペレット2kgと、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のペレット8kgをドライブレンドし、東洋精機製二軸押出し機(スクリュー径25mm)で210℃で溶融ブレンドし、EVOH系樹脂組成物を得た。
【0108】
得られた樹脂組成物と、エラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製 クラミロン3190)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム(熱可塑性ポリウレタン層/EVOH層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各層の厚みは、EVOH層、熱可塑性ポリウレタン層ともに20μmである。
【0109】
共押出成形条件は以下のとおりである。
層構成:
熱可塑性ポリウレタン/EVOH層/熱可塑性ポリウレタン
(厚み20/20/20:単位はμm)
各樹脂の押出温度:
C1/C2/C3/ダイ=170/170/220/220℃
各樹脂の押出機仕様:
熱可塑性ポリウレタン:
25mmφ押出機 P25−18AC(大阪精機工作株式会社製)
EVOH:
20mmφ押出機 ラボ機ME型CO−EXT(株式会社東洋精機製)
Tダイ仕様:
500mm幅2種3層用 (株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0110】
こうして得られた多層フィルムの酸素透過量は0.6cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【実施例2】
【0111】
合成例1で得られた樹脂のペレット2kgと、エチレン含有量44モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のペレット8kgをドライブレンドし、東洋精機製二軸押出し機(スクリュー径25mm)で210℃で溶融ブレンドし、EVOH系樹脂組成物を得た以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成した。得られた多層フィルムの酸素透過量は2.2cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【実施例3】
【0112】
合成例2で得られた樹脂のペレット2kgと、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}のペレット8kgをドライブレンドし、東洋精機製二軸押出し機(スクリュー径25mm)で210℃で溶融ブレンドし、EVOH系樹脂組成物を得た以外は、実施例1と同様に多層フィルムを作成した。得られた多層フィルムの酸素透過量は0.5cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【0113】
[比較例1]
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}とエラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製 クラミロン3190)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム(熱可塑性ポリウレタン層/EVOH層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各層の厚みは、EVOH層、熱可塑性ポリウレタン層ともに20μmである。共押出成形は実施例1と同様に行った。得られた多層フィルムの酸素透過量は0.15cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【0114】
[比較例2]
エチレン含有量44モル%、ケン化度99.8%、固有粘度0.096L/g、MFR=5g/10分(190℃、2160g荷重下)のEVOH{酢酸含有量53ppm、ナトリウム含有量1ppm(金属元素換算)、カリウム含有量8ppm(金属元素換算)、リン酸化合物含有量20ppm(リン酸根換算値)}とエラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製 クラミロン3190)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム(熱可塑性ポリウレタン層/EVOH層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各層の厚みは、EVOH層、熱可塑性ポリウレタン層ともに20μmである。共押出成形は実施例1と同様に行った。得られた多層フィルムの酸素透過量は1.2cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【0115】
[比較例3]
合成例2で得られた樹脂とエラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製 クラミロン3190)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム(熱可塑性ポリウレタン層/EVOH層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各層の厚みは、EVOH層、熱可塑性ポリウレタン層ともに20μmである。共押出成形は実施例1と同様に行った。得られた多層フィルムの酸素透過量は4cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【0116】
[比較例4]
合成例1で得られた樹脂とエラストマーとして熱可塑性ポリウレタン((株)クラレ製 クラミロン3190)とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム(熱可塑性ポリウレタン層/EVOH層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各層の厚みは、EVOH層、熱可塑性ポリウレタン層ともに20μmである。共押出成形は実施例1と同様に行った。得られた多層フィルムの酸素透過量は18cc 20μ/m・day・atmであった。また各種物性評価は表1に示すような結果となった。
【0117】
【表1】

【0118】
本発明で作成した多層フィルムは、層構成を変えても優れた外観とバリア性を有しており、突刺し強度、こすれ音評価、臭気バリア性等もかなりよいものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)50〜99重量%,及び下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)1〜50重量%からなる組成物を含むバリア性樹脂組成物を含む層(X)の、少なくとも一方の側に、熱可塑性エラストマー(C)からなる層(Y)を有する多層フィルム。
【化1】


(式中、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRは同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、RとRとは結合していても良い。またR、R、R及びRは水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【請求項2】
エチレン含有量20〜60モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)50〜99重量%,及びエチレン−ビニルアルコール共重合体と分子量500以下の一価エポキシ化合物(D)とを反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体5〜50重量%からなるバリア性樹脂組成物を含む層(X)の、少なくとも一方の側に、熱可塑性エラストマー(C)からなる層(Y)を有する多層フィルム。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー(C)が熱可塑性ポリウレタンである請求項1または2記載の多層フィルム。
【請求項4】
熱可塑性エラストマー層(Y)を、バリア性樹脂組成物を含む層(X)の両面に有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層フィルムからなる排泄物保持用パウチ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層フィルムからなる液体保持用バッグインボックス。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層フィルムからなる畜肉包装用多層フィルム。

【公開番号】特開2006−272569(P2006−272569A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90641(P2005−90641)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】