説明

多層プリント配線板

【課題】小型化しても所望の阻止帯域特性を持つビアレスEBG構造を有する多層プリント配線板の提供。
【解決手段】絶縁体から成る絶縁層を挟むように第1の導体層及び第2の導体層が設けられた構造を有する多層プリント配線板において、前記第1の導体層若しくは第2の導体層に、浮島状のパッチ部とこのパッチ部間を接続するブリッジ部またはブリッジ部のみから成る単位セルを1個若しくは複数個、1次元または2次元に周期的に配置することで、特定の周波数帯において電磁波伝搬が抑制される阻止帯域を有する電磁バンドギャップ構造を形成し、前記ブリッジ部により前記阻止帯域を制御し得るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁バンドギャップ(EBG)構造を有する多層プリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メタマテリアル技術の応用について数多くの報告がなされている。このメタマテリアル技術は、単位セルを周期的に配列することで、現実の材料では実現できない負の誘電率や負の透磁率を特定の周波数範囲で人工的に実現することができるものである。
【0003】
ところで、プリント配線板におけるメタマテリアル技術の応用の一つとしては、電磁バンドギャップ(Electromagnetic Band Gap、以下「EBG」という。)構造の活用が挙げられる。
【0004】
EBGは、特定の周波数帯において電磁波伝搬が完全に抑制される特性を持っており、この特性を用いて、ノイズ抑制や干渉対策などに適用されている(特許文献1等参照)。例えば、EBG構造としては、マッシュルーム状の導体を有するマッシュルームEBG構造や、ビアを用いないビアレスEBG構造などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−510886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マッシュルームEBG構造は、1対の導体層の間にビアを介してパッチを周期的に配置して構成されるが、パッチを配置するために導体層を1層追加する必要があることに加え、接続するためのIVH(Interstitial Via Hole)などのビアを設ける必要があり、ビアを形成するための設計上の制限や製造工程の増加によるコスト増加が問題である。
【0007】
これに対し、ビアを用いないEBG構造(以下、ビアレスEBG構造という。)では、新たな層やビアを追加することなく、導体層のパターニングだけで形成することが可能である。このビアレスEBG構造の特性は、材料とパターン形状によって決定されるため、周期構造をなす単位セルのサイズが阻止帯域の周波数に大きく影響する。即ち、一般的な電子機器で使用するためには単位セルの小型化が必要となるが、単純に小型化すると阻止帯域は高周波化してしまう問題がある。
【0008】
本発明は、上述のような問題点を解決したものであり、小型化しても所望の阻止帯域特性を持つビアレスEBG構造を有する多層プリント配線板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0010】
絶縁体から成る絶縁層を挟むように第1の導体層及び第2の導体層が設けられた構造を有する多層プリント配線板において、前記第1の導体層若しくは第2の導体層に、浮島状のパッチ部とこのパッチ部間を接続するブリッジ部またはブリッジ部のみから成る単位セルを1個若しくは複数個、1次元または2次元に周期的に配置することで、特定の周波数帯において電磁波伝搬が抑制される阻止帯域を有する電磁バンドギャップ構造が形成されており、前記ブリッジ部により前記阻止帯域を制御し得るように構成したことを特徴とする多層プリント配線板に係るものである。
【0011】
また、前記ブリッジ部のインダクタンスと前記単位セル間のキャパシタンスとにより前記阻止帯域を制御するように構成した電磁バンドギャップ構造を有することを特徴とする請求項1記載の多層プリント配線板に係るものである。
【0012】
また、前記ブリッジ部は、パターン幅を調整するか、隣接導体との間隔を調整するか、パターンを折り曲げるか、または、ミアンダ状若しくはスパイラル状に形成することにより、インダクタンスを制御できるように構成された電磁バンドギャップ構造を有することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の多層プリント配線板に係るものである。
【0013】
また、前記ブリッジ部よりパターンを分岐させ、余剰スタブを形成することにより、前記阻止帯域を制御するように構成した電磁バンドギャップ構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層プリント配線板に係るものである。
【0014】
また、前記電磁バンドギャップ構造を、前記絶縁層を挟むように設けた電源層とグラウンド層のいずれか一方若しくは双方、前記絶縁層を挟むように設けた信号層と電源層のいずれか一方若しくは双方、または、前記絶縁層を挟むように設けたグラウンド層と信号層のいずれか一方若しくは双方に形成し、ノイズ抑制フィルタとして機能させたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層プリント配線板に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように構成したから、小型化しても所望の阻止帯域特性を持つビアレスEBG構造を有する多層プリント配線板となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】多層プリント配線板の基本構成を説明する概略説明断面図である。
【図2】単位セルの一次元周期構造例を示す概略説明図である。
【図3】単位セルの二次元周期構造例を示す概略説明図である。
【図4】従来の単位セルの概略説明図である。
【図5】実施例1の単位セルの構成概略説明図である。
【図6】実施例2の単位セルの概略説明図である。
【図7】実施例2の単位セルの構成概略説明図である。
【図8】実施例3の単位セルの概略説明図である。
【図9】実施例3の単位セルの構成概略説明図である。
【図10】実施例4の単位セルの概略説明図である。
【図11】実施例4の単位セルの構成概略説明図である。
【図12】実施例5の単位セルの概略説明図である。
【図13】実施例5の単位セルの構成概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0018】
本発明の電磁バンドギャップ構造は、単位セル間のキャパシタンスとブリッジ部によるインダクタンスとを並列に周期的に配置した構造と見ることができ、その共振に起因する阻止帯域を持つ。
【0019】
従って、前記ブリッジ部によるインダクタンスを制御することにより、阻止帯域を低周波側にシフトさせることが可能となる。
【0020】
また、前記ブリッジ部を分岐させ、余剰スタブを形成することによっても阻止帯域を低周波側へシフトさせることが可能となる。
【0021】
よって、小型化により阻止帯域が高周波化しても、上記手法により阻止帯域を低周波側にシフトさせることができるから、所望の阻止帯域特性を持つビアレスEBG構造を有する多層プリント配線板を得ることが可能となる。
【実施例1】
【0022】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0023】
実施例1は、絶縁体から成る絶縁層を挟むように第1の導体層及び第2の導体層が設けられた構造を有する多層プリント配線板において、前記第1の導体層若しくは第2の導体層に、浮島状の導体パターンから成るパッチ部(パッチ)とこのパッチ部間を接続する導体パターンから成るブリッジ部(ブリッジライン)またはこのライン状のブリッジ部のみから成る単位セルを1個若しくは複数個、1次元または2次元に周期的に配置することで、特定の周波数帯において電磁波伝搬が抑制される阻止帯域を有する電磁バンドギャップ構造が形成されており、前記ブリッジ部により前記阻止帯域を制御し得るように構成したものである。
【0024】
具体的には、図1に示すように、絶縁体から成る絶縁層103を挟むように、所定の導体パターンから成る第1導体層101と所定の導体パターンから成る第2導体層102とを設けた構造を有する多層プリント配線板であり、第1の導体層(電源層、グラウンド層若しくは信号層)または第2の導体層(電源層、グラウンド層若しくは信号層)に、パッチとブリッジラインとから成る1個若しくは複数個の単位セルを、1次元または2次元に周期的に配置したビアレスEBG構造を形成したものである。図2に単位セルを1次元に周期的に配置した構造例を、図3に単位セルを2次元に周期的に配置した構造例を示す。
【0025】
図4にビアレスEBG構造の単位セルの従来構造例を示す。パッチ201の四方にブリッジライン202が形成されており、ブリッジライン(のパッチとの接続部分を除く部分)とパッチとの間にはギャップ203が設けられている。ブリッジラインは同一導体層の導体または周期構造をとった場合は隣接する単位セルのブリッジラインへと接続される。
【0026】
例えば、単位セルの全体のサイズを5mm×5mmとし、ブリッジラインの幅を0.3mm、長さを1mm、ギャップを0.3mmとすることにより、40dB以上の阻止帯域は7.2GHz程度となる。
【0027】
実施例1は図5に図示したように、前記基本構造のビアレスEBG構造において、パッチ301の四方のブリッジライン302の幅を細く長くし、また、ギャップ303を大きく取ることによりインダクタンスを大きくし、阻止帯域を低周波側へシフトさせたものである。即ち、ブリッジラインのインダクタンスと単位セル間のキャパシタンスとにより阻止帯域を制御するように構成された電磁バンドギャップ構造の前記ブリッジラインのインダクタンスを大きくすることで阻止帯域を制御するものである。
【0028】
例えば、単位セルの全体のサイズを5mm×5mmとし、ブリッジライン302の幅を0.1mm、長さを1.8mm、ギャップ303を0.5mmとすることにより、40dB以上の阻止帯域を3.3GHz程度とすることができる。
【0029】
従って、実施例1は、前記電磁バンドギャップ構造を小型化すると共に、前記絶縁層を挟むように設けた電源層とグラウンド層のいずれか一方若しくは双方、前記絶縁層を挟むように設けた信号層と電源層のいずれか一方若しくは双方、または、前記絶縁層を挟むように設けたグラウンド層と信号層のいずれか一方若しくは双方に形成し、ノイズ抑制フィルタとして機能させた多層プリント配線板を実現可能となる。
【実施例2】
【0030】
本発明の具体的な実施例2について図面に基づいて説明する。
【0031】
実施例2は、前記基本構造のビアレスEBG構造において、ブリッジラインを細くし、図6のように単位セル内で延長させるように、任意の箇所で1回以上、直角に折り曲げる。この時、ブリッジライン同士やギャップと交差しない様に折り曲げる。折り曲げ位置、回数は任意であり、折り曲げ角度も直角の限りではなく、R曲げや面取りでもかまわない。
【0032】
実施例2は、このようにしてブリッジラインを延長させ、インダクタンスを大きくすることにより、阻止帯域を低周波側へシフトさせたものである。
【0033】
例えば、図7に示すような単位セルの全体のサイズを5mm×5mmとし、パッチ501の周囲に設けるブリッジライン502の幅を0.1mm、ギャップ503を0.1mm、2回の直角折り曲げとすることにより、40dB以上の阻止帯域を1.9GHz程度とすることができる。
【0034】
その余は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0035】
本発明の具体的な実施例3について図面に基づいて説明する。
【0036】
実施例3は、前記基本構造のビアレスEBG構造において、ブリッジラインを細くし、図8のように単位セル内でミアンダ状に折り曲げながら延長させ、任意の箇所でパッチと接続する。
【0037】
折り曲げ位置、回数は任意であり、折り曲げ角度も直角の限りではなく、R曲げや面取りでもかまわない。
【0038】
また、パッチを形成せずにブリッジラインのみで単位セルを形成しても良い。
【0039】
また、ブリッジラインを形成するために開いたスペースにはベタ領域を作成しても良い。そのとき、パッチやブリッジラインに接続しても良いし、未接続のままとしても良い。
【0040】
実施例3は、このようにしてブリッジラインを延長させ、インダクタンスを大きくすることにより、阻止帯域を低周波側へシフトさせたものである。
【0041】
例えば、図9に示すような単位セルの全体のサイズを5mm×5mmとし、ブリッジライン702の幅を0.1mm、ギャップ703を0.1mm、ミアンダ状に6回折り曲げ、隣接するブリッジライン702へ接続してブリッジラインのみで形成することにより、40dB以上の阻止帯域を1.4GHz程度とすることができる。
【0042】
その余は実施例1と同様である。
【実施例4】
【0043】
本発明の具体的な実施例4について図面に基づいて説明する。
【0044】
実施例4は、前記基本構造のビアレスEBG構造において、ブリッジラインを細くし、図10のように単位セル内で4分割したスペースにスパイラル状に折り曲げ、往路パターンを形成する。
【0045】
スパイラルを形成している任意の箇所で折り返し、往路パターンと平行に復路パターンを形成する。復路パターンは任意の箇所でパッチに接続する。また、パッチを形成せずに、隣接するブリッジラインへ直接接続しても良い。
【0046】
折り曲げ位置、回数は任意であり、折り曲げ角度も直角の限りではなく、R曲げや面取りでもかまわない。
【0047】
ブリッジラインを形成するために開いたスペースにはベタ領域を作成しても良い。そのとき、パッチやブリッジラインに接続しても良いし、未接続のままとしても良い。
【0048】
実施例4は、このようにしてブリッジラインを延長させ、インダクタンスを大きくすることにより、阻止帯域を低周波側へシフトさせたものである。
【0049】
例えば、図11に示すような単位セルの全体のサイズを5mm×5mmとし、ブリッジライン902の幅を0.1mm、ギャップ903を0.1mm、スパイラル状に2回巻き往路パターンとし、折り返し、平行に復路パターンを形成し、パッチ901へ接続することにより、40dB以上の阻止帯域を1.4GHz程度とすることができる。なお、スパイラルの折り返し付近のスペースにはベタ領域904を作成し、ブリッジラインと接続する構成とした。
【0050】
その余は実施例1と同様である。
【実施例5】
【0051】
本発明の具体的な実施例5について図面に基づいて説明する。
【0052】
実施例5は、前記基本構造のビアレスEBG構造において、ブリッジラインを細くし、図12のようにブリッジラインより分岐し、余剰スタブを形成する。
【0053】
余剰スタブの形状は、直線、任意回数折り曲げ、ミアンダ状、スパイラル状のいずれかとする。ブリッジラインは任意の箇所でパッチに接続する。パッチを形成せずに、隣接するブリッジラインへ直接接続しても良い。
【0054】
ブリッジラインおよび余剰スタブの折り曲げる場合、折り曲げ角度は任意であり、R曲げや面取りでもかまわない。
【0055】
ブリッジラインおよび余剰スタブを形成するために開いたスペースにはベタ領域を作成しても良い。そのとき、パッチやブリッジライン、余剰スタブに接続しても良いし、未接続のままとしても良い。
【0056】
実施例5は、このようにしてブリッジラインを分岐させ、余剰スタブを形成することにより、阻止帯域を低周波側へシフトさせたものである。
【0057】
例えば、図13に示すような単位セルの全体のサイズを5mm×5mmとし、パッチ1101から延びるブリッジライン1102の幅を0.1mm、ギャップ1103を0.1mm、ブリッジライン1102から分岐させスパイラル状に4回巻き余剰スタブ1104とし、ブリッジライン1102は隣接するブリッジラインと接続することにより、40dB以上の阻止帯域を1.8GHz程度とすることができる。なお、余剰スタブ1104のスパイラルの中央付近のスペースにはベタ領域1105を作成し、余剰スタブと接続する構成とした。
【0058】
その余は実施例1と同様である。
【0059】
本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体から成る絶縁層を挟むように第1の導体層及び第2の導体層が設けられた構造を有する多層プリント配線板において、前記第1の導体層若しくは第2の導体層に、浮島状のパッチ部とこのパッチ部間を接続するブリッジ部またはブリッジ部のみから成る単位セルを1個若しくは複数個、1次元または2次元に周期的に配置することで、特定の周波数帯において電磁波伝搬が抑制される阻止帯域を有する電磁バンドギャップ構造が形成されており、前記ブリッジ部により前記阻止帯域を制御し得るように構成したことを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
前記ブリッジ部のインダクタンスと前記単位セル間のキャパシタンスとにより前記阻止帯域を制御するように構成した電磁バンドギャップ構造を有することを特徴とする請求項1記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記ブリッジ部は、パターン幅を調整するか、隣接導体との間隔を調整するか、パターンを折り曲げるか、または、ミアンダ状若しくはスパイラル状に形成することにより、インダクタンスを制御できるように構成された電磁バンドギャップ構造を有することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の多層プリント配線板。
【請求項4】
前記ブリッジ部よりパターンを分岐させ、余剰スタブを形成することにより、前記阻止帯域を制御するように構成した電磁バンドギャップ構造を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層プリント配線板。
【請求項5】
前記電磁バンドギャップ構造を、前記絶縁層を挟むように設けた電源層とグラウンド層のいずれか一方若しくは双方、前記絶縁層を挟むように設けた信号層と電源層のいずれか一方若しくは双方、または、前記絶縁層を挟むように設けたグラウンド層と信号層のいずれか一方若しくは双方に形成し、ノイズ抑制フィルタとして機能させたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層プリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−58585(P2013−58585A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195714(P2011−195714)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(592258937)沖プリンテッドサーキット株式会社 (18)
【Fターム(参考)】