説明

多機能回転入力装置

【課題】機械的なクリック感を有しながら、操作範囲外での回転操作部材の回転が的確に抑制される多機能回転入力装置を提供する。
【解決手段】多機能回転入力装置(10)は、カム部材(24)と、カム部材(24)のカム山(26)に弾性的に当接する弾接部材(30)と、操作ノブ(14)の回転角度に対応する検出信号を出力するホールセンサ(56a)と、操作ノブ(14)に摩擦力を付与可能なソレノイドユニット(34)と、操作ノブ(14)の回転角度に対応する検出回転角度を演算し、検出回転角度に基づいてソレノイドユニット(34)の駆動制御を行う制御部(72)とを備える。制御部(72)は、操作範囲及び制動範囲を設定し、制動範囲内において検出回転角度が操作範囲から離れる方向に変化するように操作者が操作ノブ(14)を操作したときに、操作ノブ(14)に摩擦力を与えるようにソレノイドユニット(34)を駆動制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の制御対象の目標値を入力可能な多機能回転入力装置に係わり、より詳しくは、制御対象に応じて回転操作部材の操作範囲が可変である多機能回転入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カーナビゲーションシステムやカーエアコンシステム等に適用される入力装置には、一軸の回りに回転させられる回転操作部材を有する回転入力装置がある。操作者は、回転操作部材を回転させることによって、制御対象の目標値を選択することができる。そして、回転入力装置には、回転操作部材を回転させたときに、操作者にクリック感を与えるクリック機構を有するものがある。
【0003】
最も単純なクリック機構は、ボール、スプリング、及び、周期的に設けられた凹凸部を有する回転部材によって構成することができる。回転部材は例えば回転操作部材と一体に回転可能に設けられ、ボールが、回転部材の凹凸部に対し、付勢されながら当接する。このクリック機構では、回転部材の回転に伴い、ボールが凹凸部を乗り越えることで、回転操作部材に機械的なクリック感が与えられる。
【0004】
他のクリック機構を採用した例として、特許文献1が開示する力覚付与型多機能回転入力装置では、制御部が、所定の角度位置でモータの回転方向を切り替えることにより、回転操作部材にクリック感が付与される。
また、この力覚付与型多機能回転入力装置では、回転操作部材が操作範囲の限界点を超えて操作され続けている場合には、最終的には最大のモータトルクが逆方向にて回転操作部材に付与される。これによりユーザは、操作範囲を超えたことをブラインドタッチで知ることが出来る。
【0005】
なお、この力覚付与型多機能回転入力装置によれば、回転操作部材の操作範囲を任意に設定可能であり、複数の制御対象が有るときに、制御対象毎に操作範囲を変えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−11722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1が開示する力覚付与型多機能回転入力装置では、モータの回転方向を切り替えることによってクリック感が与えられるが、モータによるクリック感は、ボール及びスプリングを用いた単純なクリック機構のクリック感と若干異なる。このため、ユーザによっては、後者のクリック感を好むことがある。
【0008】
また、特許文献1が開示する力覚付与型多機能回転入力装置では、モータの逆方向のトルクによって、回転操作部材が限界点を超えて回転することが規制されるものの、回転操作部材を停止させることができないことがある。例えば、勢いよく回転操作部材が回転させられた場合、モータのトルクに抗して、回転操作部材が限界点を大きく超えて回転することがある。
このように限界点を超えた操作範囲外にて回転操作部材が大きく回転することは、操作者が違和感を覚えることがあるため、抑制されることが望まれている。
【0009】
本発明は上記した事情に鑑みてなされ、その目的とするところは、機械的なクリック感を有しながら、操作範囲外での回転操作部材の回転が的確に抑制される多機能回転入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
【0011】
解決手段1:本発明の一態様によれば、複数の制御量のうちの1つを制御対象として選択するための制御対象選択手段と、前記制御対象に係る設定をすべく操作者により操作される回転操作部材と、前記回転操作部材の回転軸を中心として環状に周期的に配列された複数の凹凸を有する凹凸部材と、前記回転操作部材の回転に伴い前記凹凸部材と相対回転可能に設けられ、前記凹凸部材の凹凸に弾性的に当接する弾接部材と、前記回転操作部材の回転角度に対応する検出信号を出力する回転角度検出手段と、回転する前記回転操作部材に摩擦力を付与可能な摩擦ブレーキ手段と、前記検出信号に基づき前記回転操作部材の回転角度に対応する検出回転角度を演算し、前記検出回転角度に基づいて、前記摩擦ブレーキ手段の駆動制御を行う制御手段とを備え、前記制御手段は、前記回転操作部材の回転可能範囲に、前記制御対象に応じた操作範囲及び前記操作範囲に隣接する制動範囲を設定し、前記制動範囲内において前記検出回転角度が前記操作範囲から離れる方向に変化するように前記操作者が前記回転操作部材を操作したときに、前記回転操作部材に前記摩擦力を与えるように前記摩擦ブレーキ手段を駆動制御することを特徴とする多機能回転入力装置が提供される。
【0012】
第1の解決手段の多機能回転入力装置によれば、回転操作部材の回転角度が操作範囲内にあるときには、回転操作部材の回転に伴い、弾接部材が相対回転しながら凹凸に当接する。弾接部材を凹凸に当接させることによって、簡単な構成にて、切れ味の良い機械的なクリック感が回転操作部材に確実に与えられる。
【0013】
一方、この多機能回転入力装置では、制御手段が、操作範囲及び制動範囲を設定することによって、制御対象に応じて、操作範囲の位置及び幅が適当に設定される。このため、この多機能回転入力装置によれば、操作者は、容易に命令を入力可能である。
【0014】
その上、この多機能回転入力装置では、制動範囲において、摩擦ブレーキ手段によって、回転操作部材の回転を停止させるのに十分な制動力が与えられる。従って、この多機能回転入力装置では、制動範囲内での回転操作部材の不所望の回転が確実に防止され、操作者は、回転操作部材の空回転による違和感を覚えることなく、回転操作部材を快適に操作することができる。
【0015】
解決手段2:好ましくは、前記制御手段は、前記検出回転角度が、前記制動範囲内において前記操作範囲に向かう方向に変化又は停止したとき、前記操作範囲と前記制動範囲との間の境界と前記検出角度とが相対的に近付くように、前記検出回転角度又は前記境界の位置を補正する。
【0016】
第2の解決手段の多機能回転入力装置では、操作範囲と制動範囲との間の境界の位置と検出回転角度とが相対的に近付くように、検出回転角度又は境界の位置が補正される。この補正によれば、実質的に、回転操作部材の回転角度に対して操作範囲及び制動範囲が再設定され、再設定前では、操作部材の回転角度が、制動範囲内において操作範囲と制動範囲との間の境界から遠くに位置していても、再設定後には、操作部材の回転角度は、操作範囲に速やかに復帰させられる。このため操作者は、操作部材の回転角度を操作範囲に復帰させるために力を殆ど必要とせず、回転操作部材を適時且つ快適に操作することができる。
【0017】
解決手段3:好ましくは、前記制御手段は、前記カム山の周期に対応する角度を単位として前記検出回転角度又は前記境界の位置を補正する。
【0018】
第3の解決手段の多機能回転入力装置によれば、操作範囲及び制動範囲を再設定する前後で、操作範囲と制動範囲との間の境界とカム山の周期との対応関係が変化しない。このため、例えば、再設定前に境界をカム山同士の谷に一致させていた場合、再設定後も境界がカム山同士の谷に一致し、再設定の前後にかかわらず、境界に一致する谷を越えて操作部材の回転角度が変化しようとすると、操作部材に摩擦力が与えられる。
【0019】
解決手段4:好ましくは、前記操作範囲と前記制動範囲との間の境界の位置は、前記カム山同士の間の谷に一致している。
【0020】
第4の解決手段の多機能回転入力装置によれば、操作範囲と制動範囲との間の境界が、カム山同士の間の谷に一致するので、再設定の前後にかかわらず、境界に一致する谷を越えて操作部材の回転角度が変化しようとすると、操作部材に摩擦力が与えられる。このため、この多機能回転入力装置によれば、操作部材を操作範囲の境界まで回転させたときにクリック感が得られながら、それ以上の操作部材の回転が防止され、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0021】
解決手段5:好ましくは、前記制御手段は、前記検出回転角度が、前記制動範囲内において前記操作範囲に向かう方向に変化又は停止した後、一時的に前記回転操作部材に前記摩擦力を与えないように前記摩擦ブレーキ手段を駆動する。
【0022】
第5の解決手段の多機能回転入力装置によれば、制御手段が、再設定される操作範囲と制動範囲との間の境界に向かう方向で回転操作部材が回転することを許容するため、操作部材を回転させることにより、操作部材の回転角度が操作範囲の境界に容易に位置付けられる。特に、弾接部材の弾性力によって、操作部材が回転させられれば、操作部材の回転角度を操作範囲と制動範囲との間の境界に自動的に合わせることができる。
【0023】
解決手段6:好ましくは、前記回転角度検出手段は、前記回転操作部材の回転に伴い、磁石と協働して相互に位相の異なる正弦波の検出信号を出力する第1の磁気センサ及び第2の磁気センサを含み、前記正弦波の周期の整数倍は、前記カム山の周期の整数倍に対応する。
【0024】
第6の解決手段の多機能回転入力装置によれば、2つの正弦波の検出信号に基づいて、回転操作部材の回転角度が検出回転角度として検出される。この場合、検出回転角度と凹凸部材の凹凸との相対的な位置関係がわかり、凹凸部材の凹凸に応じて、摩擦ブレーキ手段を駆動することができる。例えば、凹凸がカム山によって構成されている場合、カム山同士の谷に、操作範囲と制動範囲との間の境界を一致させることができる。
また、この場合、回転操作部材が同一方向に何回も回転しても、回転操作部材の回転角度が検出回転角度として検出される。このため、操作範囲及び制動範囲の設定可能な範囲が広く、利用者が回転操作部材を一方向に回転させ続けても、回転操作部材に対して的確に摩擦力が与えられる。
【0025】
解決手段7:好ましくは、前記回転角度演算手段は、前記回転角度検出手段の出力する検出信号に基づき、前記正弦波の一周期内における、前記回転操作部材の回転角度に対応する位相角度を演算する位相角度演算部と、前記回転操作部材の回転角度が、前記正弦波の一周期を超えて変化したときに、前記回転操作部材の回転角度が属する前記正弦波の周期の番号を加減算し、前記位相角度及び前記正弦波の周期の番号に基づき前記検出回転角度を演算する検出回転角度演算部とを含む。
【0026】
第7の解決手段の多機能回転入力装置によれば、正弦波の周期の番号を加減算することによって、検出回転角度が高精度にて演算される。
【0027】
解決手段8:好ましくは、前記検出回転角度演算部は、前記正弦波の一周期に対応する前記回転操作部材の回転角度量を前記正弦波の周期の番号に乗じて得られる第1の値と、前記位相角度に対応する前記回転操作部材の回転角度量である第2の値とを足すことにより、前記検出回転角度を演算する。
【0028】
第8の解決手段の多機能回転入力装置によれば、第1の値と第2の値とを足すことにより、検出回転角度が高精度にて演算される。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、機械的なクリック感を有しながら、操作範囲外での回転操作部材の回転が的確に抑制される多機能回転入力装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態の多機能回転入力装置を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の多機能回転入力装置における、ホールセンサ、磁石、及び、メカクリック機構の位置関係を説明するための図である。
【図3】図1の多機能回転入力装置の電気的な構成を説明するためのブロック図である。
【図4】図1の多機能回転入力装置における、回転角度の演算方法を説明するための図であり、上段は、検出回転角度とカム山の高さとの関係を示すグラフであり、中段は、検出回転角度とホールセンサの検出信号の出力電圧との関係を示すグラフであり、下段は、検出回転角度と、検出信号の位相角度及び周期番号との関係を示すグラフである。
【図5】図3中の回転角度演算部の構成を説明するためのブロック図である。
【図6】風量選択スイッチが押されたときの、検出回転角度と、カム山の番号と、メカクリック機構の付勢力と、摩擦力との関係を示すグラフである。
【図7】温度選択スイッチが押されたときの、検出回転角度と、カム山の番号と、メカクリック機構の付勢力と、摩擦力との関係を示すグラフである。
【図8】図6のグラフにおいて、検出回転角度が右側の制動範囲内にある状態を示すグラフである。
【図9】図8の状態から、操作ノブが左に回転し、検出回転角度を補正して補正回転角度が演算され、摩擦ブレーキが非アクティブにされた状態を示すグラフである。
【図10】図9の状態から、摩擦ブレーキがアクティブにされた状態を示すグラフである。
【図11】図1の多機能回転入力装置において、制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
【図12】図11のフローチャート中の回転角度演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図13】図11のフローチャート中の摩擦ブレーキ駆動制御・制動範囲再設定ルーチンの一部を示すフローチャートである。
【図14】図11のフローチャート中の摩擦ブレーキ駆動制御・制動範囲再設定ルーチンの残部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態の多機能回転入力装置10の全体的な構成を示す概略的な断面図である。多機能回転入力装置10は、例えば、カーエアコンシステムの入力装置として使用され、車室内のインストルメントパネルやセンターコンソルに設置される。
【0032】
〔回転操作部材〕
多機能回転入力装置10は、例えば、箱形状又は円筒形状のハウジング12を有し、ハウジング12の外部に、回転操作部材として、例えば円柱形状の操作ノブ14を有する。操作ノブ14は、ハウジング12によって回転自在に支持された回転軸16の先端に一体に回転可能に固定されている。カーエアコンシステムを操作しようとする者は、回転軸16の軸線を中心として操作ノブ14を回転させることによって、カーエアコンシステムの種々の設定を変更することができる。
【0033】
本実施形態では、好ましい態様として、回転軸16は、駆動軸部18、従動軸部20、及び、駆動軸部18と従動軸部20とを弾性をもって連結する連結部22からなり、駆動軸部18の先端に操作ノブ14が固定されている。
連結部22は、例えばゴムからなり、操作ノブ14を回転させた場合、従動軸部20が自由状態のときには、駆動軸部18及び従動軸部20は略一体に回転し、従動軸部20に負荷が掛かっている状態では、連結部22が捻れることにより、駆動軸部18の回転が従動軸部20の回転に先行する。
【0034】
操作者が操作ノブ14を離せば、連結部22の捻れが解消され、駆動軸部18の回転角度は従動軸部20の回転角度に一致する。このため、本実施形態において、操作ノブ14及び回転軸16の回転角度は、特に断らない限り、従動軸部20の回転角度θをさすものとする。
【0035】
〔メカクリック機構〕
回転軸16の従動軸部20には、略円盤形状のカム部材24が同軸且つ一体に回転可能に取り付けられている。カム部材24の外周面には、複数のカム山26が周方向に連続して形成され、カム山26はカム部材24の外周面に周期的な凹凸を形成している。本実施形態では、1つのカム山26の中心角は15°であり、合計で24個のカム山26がカム部材24の外周面に形成されている。
【0036】
一方、ハウジング12には、例えば円筒形状のホルダ28が固定されている。ホルダ28は、例えば半球形状の頭部を有する弾接部材30を滑動自在に支持するとともに、弾接部材30の頭部をカム山26に向けて付勢する付勢手段としての圧縮コイルスプリング32を収容している。
従動軸部20の回転に伴いカム部材24が回転すると、弾接部材30は、弾性をもってカム山26に当接しながら、カム部材24と相対回転する。このとき、弾接部材30が1つのカム山26を乗り越えるたびに、カチッというクリック感がもたらされる。
【0037】
〔摩擦ブレーキ手段〕
回転軸16の従動軸部20は、略円筒形状のソレノイドユニット34を相対回転可能にて貫通している。ソレノイドユニット34は、鉄等の磁性材料からなる2重の円筒形状のコア36を有し、コア36の内部には、管状に巻回された電線からなるソレノイド(円筒コイル)38が同軸にて収容されている。
コア36は、ブラケット40を介してハウジング12によって回転不能に支持され、従動軸部20の外周面とコア36の内周面との間には、例えば樹脂製のすべり軸受42が設置されている。従って、従動軸部20は、すべり軸受42を介して、コア36及びハウジング12によって相対回転可能に支持されている。
【0038】
コア36の一方の端面は、アーマチュアロータ44と対向している。アーマチュアロータ44は鉄等の磁性材料からなり、円盤形状の本体部46を有する。本体部46の中央には中央孔48が形成され、従動軸部20は、遊びをもって中央孔48を貫通している。なお、従動軸部20の外周面と中央孔48の内周面との間には、従動軸部20に沿うアーマチュアロータ44の移動を許容するすべり軸受が設けられていてもよい。
【0039】
アーマチュアロータ44は、従動軸部20と一体に回転可能であるととともに、従動軸部20の軸線方向に移動可能に設けられており、本体部46はコア36の一方の端面に当接可能である。
そのために、アーマチュアロータ44は、例えば2つのロッド部49を有する。ロッド部49は、コア36とは反対側の本体部46の面から軸線方向に突出し、本体部46の直径方向にて相互に離間している。そして、本体部46からみてコア36とは反対側には、円盤形状の支持ディスク50が配置され、ロッド部49は、支持ディスク50に形成された挿通孔52に滑動自在に挿通されている。
【0040】
支持ディスク50は、従動軸部20に同軸且つ一体に回転可能に取り付けられ、アーマチュアロータ44は、支持ディスク50を介して、従動軸部20と一体に回転可能である。そして、支持ディスク50とコア36との間隔は、アーマチュアロータ44が従動軸部20の軸線方向に移動可能なように設定されている。従って、ロッド部49が挿通孔52内を滑動することによって、アーマチュアロータ44は、従動軸部20の軸線方向にて移動可能であり、コア36の端面に当接可能である。
【0041】
ソレノイド38に電流を流すと、ソレノイド38は磁力を発生させ、アーマチュアロータ44は、コア36の端面に引き寄せられて、磁力に応じた接触圧にて当接する。アーマチュアロータ44がコア36に当接した状態で、従動軸部20が回転すると、接触圧に応じた摩擦力が、アーマチュアロータ44及び従動軸部20に制動力として作用する。
【0042】
〔回転軸の回転角度(従動軸部の回転角度)の検出〕
更に、従動軸部18には、円盤形状の磁石54が同軸且つ一体に回転可能に取り付けられている。そして、磁石54の外周部の近傍には、2つのホールセンサ56a,56bが配置されている。なお、ホールセンサ56a,56bは、磁石54の周方向に相互に離間しているため、図1ではホールセンサ56aのみ示している。
図2は、磁石54の構造とともに、磁石54、ホールセンサ56a,56b及びメカクリック機構の相対的な位置関係を説明するための図である。なお、以下では、ホールセンサ56aを第1のホールセンサ56aといい、ホールセンサ56bを第2のホールセンサ56bという。
【0043】
図2に示したように、磁石54は、それぞれ扇形形状をなす複数のN極58及びS極60を含み、N極58及びS極60は周方向に交互に配列されている。N極58及びS極60の中心角はそれぞれ15°であり、カム山26の中心角に一致している。
そして、磁石54の周方向でみて、N極58及びS極60の各々の中心に、カム山26の頂点が位置しており、カム山26同士の谷62は、N極58とS極60との境界に位置している。
【0044】
一方、第1のホールセンサ56aと第2のホールセンサ56bは、磁石54の周方向にて、7.5°の角度にて離間している。従って、1組のN極58及びS極60の中心角の和である30°を1周期としたときに、第1のホールセンサ56aと第2のホールセンサ56bは、1/4周期に相当する分だけ離間している。
第1のホールセンサ56a及び第2のホールセンサ56bは、従動軸部20及び磁石54の回転に伴い、磁界の変化を検出し、相互に位相が90°異なる正弦波の電圧を検出信号として出力する。
【0045】
ここで、本実施形態では、好ましい態様として、正弦波の周期の整数倍が、カム山26の周期の整数倍に対応するように、磁石54におけるN極58及びS極60の中心角、及び、カム山26の中心角が設定されている。
なお、本明細書において、正弦波という表現は、正弦波と余弦波とを区別するために用いられているわけではなく、正弦波又は余弦波のように周期的に変化するという意味で用いられている。また、整数倍には1倍も含まれる。
【0046】
〔回転軸の回転状態(駆動軸部の微小回転)の検出〕
再び図1を参照すると、本実施形態では、好ましい態様として、回転軸16の回転状態を検出する手段として、駆動軸部18の微小回転を検出する手段が設けられている。
具体的には、駆動軸部18には、被検出体としてのコード板64が同軸にて且つ一体に回転可能に取り付けられている。コード板64は、薄い円盤形状の外形を有し、コード板64の外周部には、図示しないけれども、周方向に一定の間隔で、それぞれ径方向に延びる複数のスリットが形成されている。
【0047】
コード板64の外周部近傍には、2つのフォトインタラプタ検出器66がコード板64の周方向に相互に離間して配置されている。なお、図1では、1つのフォトインタラプタ検出器66のみが示されている。
各フォトインタラプタ検出器66は、1組の発光素子68及び受光素子70を有し、発光素子68及び受光素子70は、コード板64の外周部を厚さ方向にて挟むように配置されている。
【0048】
各受光素子70は、コード板64の回転に伴い、発光素子68が出射した光をスリットを通じて間欠的に受光し、受光した光の強度に対応する回転角度信号(エンコーダパルス)を出力する。このとき、2つの受光素子70から出力される回転角度信号同士の間に位相差が生じるように、2つのフォトインタラプタ検出器66は相互に離間している。
なお、2つのフォトインタラプタ検出器66に代えて、同じ機能を有するパルスエンコーダを用いることもできる。
【0049】
〔制御部〕
また、多機能回転入力装置10は、例えばMCU(マイクロコンピュータユニット)を用いて構成される制御部72を有し、制御部72には、ソレノイド38、ホールセンサ56a,56b及びフォトインタラプタ検出器66が電気的に接続されている。
図3は、多機能回転入力装置10の電気的な構成を、制御部72の機能的な構成とともに示すブロック図である。図3に示したように、制御部72は、ホールセンサ56a,56bの検出信号に基づいて従動軸部20の回転角度θを検出回転角度θcとして演算により求める回転角度演算部74と、フォトインタラプタ検出器66,66の回転角度信号に基づいて駆動軸部18の回転角度θzを演算する微小回転演算部76とを含んでいる。
【0050】
そして、制御部72は、検出回転角度θcに基づいて、ソレノイド38に対する電力供給を制御する摩擦ブレーキ駆動制御部78を有する。
また、多機能回転入力装置10は、複数の制御量のうちから1つの制御対象を選択するための制御対象選択手段として、ハウジング12の外に設けられた、吹出口選択スイッチ80、風量選択スイッチ82、及び、温度選択スイッチ84を有する。制御部72は、吹出口選択スイッチ80、風量選択スイッチ82、及び、温度選択スイッチ84に電気的に接続されると共に、カーエアコンシステムのメインコントローラ86にも電気的に接続されている。
【0051】
なお、吹出口選択スイッチ80、風量選択スイッチ82、及び、温度選択スイッチ84は、ハウジング12の近傍に配置することができる。また、吹出口選択スイッチ80、風量選択スイッチ82、及び、温度選択スイッチ84は、メインコントローラ86を介して、制御部72に接続されていてもよい。つまり、制御対象選択手段の構成は特に限定されることはなく、操作者によって選択された制御対象に関する情報が、制御部72に入力されればよい。
【0052】
〔回転角度演算部〕
図4は、回転角度演算部74が実行する、検出回転角度θcの演算方法を説明するためのグラフである。
図4の上段は、検出回転角度θとカム山26の高さとの関係を示しており、検出回転角度θcの原点は、本実施形態では、カム山26同士の間の谷62に一致している。
【0053】
図4の中段は、第1のホールセンサ56aの検出信号の出力電圧V1及び第2のホールセンサ56bの検出信号の出力電圧V2が、検出回転角度θcに応じて変化する様子を示している。
【0054】
図4の中段に示したように、出力電圧V1は、検出回転角度θcが30°変化する毎に1回振動する余弦関数、即ち余弦波で表され、出力電圧V2は、検出回転角度θcが30°変化する毎に1回振動する正弦関数、即ち正弦波で表される。これら余弦波と正弦波との位相差は90°である。
【0055】
図4の下段は、検出回転角度θcと出力電圧V1,V2の位相角度θeとの関係を示すグラフである。出力電圧V1,V2の位相角度θeは、出力V2を出力V1で除した値を変数とするアークタンジェント(arctan(V2/V1))及び出力信号V1,V2の正負に基づいて求められる。
【0056】
図4に示したように、位相角度θeは、検出回転角度θcが30°変化する毎に1回振動する鋸波形状を示す。そして、1回の振動(周期)に順に波形番号(周期番号N)を付けると、検出回転角度θcは、次式(1)によって演算することができる。
θc=30×N+30×θe/360 ・・・(1)
【0057】
従って、図5に示したように、回転角度演算部74は、機能でみたときに、検出信号の出力電圧V1,V2に基づいて位相角度θeを演算する位相角度演算部90を有する。そして、回転角度演算部74は、位相角度演算部90で演算した位相角度θeに基づき、周期番号Nを演算し、位相角度θe及び周期番号Nに基づき検出角度θcを演算する検出回転角度演算部92を有する。
【0058】
具体的には、検出回転角度演算部92は、位相角度θeの変化量Δθeが所定の閾値を越えたときに、周期番号Nを1つずつ増減する。閾値としては、例えば180°及び−180°が設定され、変化量が−180°を越えて小さくなったとき(Δθe<−180°)、周期番号Nが1つ増やされ(N=N+1)、変化量Δθeが180°を越えて大きくなったとき(Δθ>180°)、周期番号Nが1つ減じられる。
つまり、検出回転角度演算部92は、1度初期値を設定した後は、原則として、鋸波の両端での位相角度θeの不連続性を利用して、周期番号Nを増減する。なお、閾値は、検出信号の読み込みの間隔等に応じて適宜設定される。
【0059】
〔制御対象の選択、操作範囲・制動範囲の設定、及び、摩擦ブレーキ〕
一方、制御部72は、カーエアコンシステムを操作する者によって選択された制御対象に応じて、操作ノブ14の回転可能な回転角度範囲のうち、一部を操作範囲に設定し、操作範囲に隣接する領域に制動範囲を設定する。
【0060】
制御対象の選択は、吹出口選択スイッチ80、風量選択スイッチ82、及び、温度選択スイッチ84によって行われ、操作者は、所望の選択スイッチを押すことによって、制御対象を選択することができる。
【0061】
制御部72によって設定される操作範囲は、制御対象の目標値を選択するための範囲である。例えば、制御対象が風量であり、5段階にて風量の目標値を設定可能な場合、図6に示したように、風量の操作範囲には、4つのカム山26が含まれる。
図6において、カム山26の番号は、検出回転角度θcの原点を基準としており、2番、3番、4番及び5番のカム山26が、風量操作範囲に含まれている。そして、風量操作範囲は、検出回転角度θcについてみたとき、15°以上75°以下の範囲として設定されている。
【0062】
風量操作範囲に隣接する領域は、制動範囲として設定されており、6番から24番、及び、1番のカム山26が制動範囲に含まれている。また、制動範囲は、検出回転角度θcについてみたとき、75°超360°以下、及び、0°以上15°未満の範囲として設定されている。
【0063】
また、図6には、操作範囲及び制動範囲における、メカクリック機構の付勢力、及び、摩擦ブレーキ手段の摩擦力が示されている。操作範囲では、摩擦ブレーキ手段が摩擦力を付与しておらず、メカクリック機構によるクリック感が得られる。
すなわち、摩擦ブレーキ手段が機能していない状態では、従動軸部20を回転させるためのトルクは、メカクリック機構の圧縮コイルスプリング32の弾性力(付勢力)により、回転角度θcに応じて変化する。本実施形態では、従動軸部20の回転に伴い、カム山26の周期である15°毎にトルクは周期的に増減する。
【0064】
これに対し、制動範囲のトルクは、操作範囲に比べて大きくなっている。制動範囲でのトルクの増大は、摩擦ブレーキ手段によってアーマチュアロータ44に対し摩擦力が与えられることに起因している。
具体的には、制御部72は、操作範囲ではソレノイド38への電力供給を停止する一方、制動範囲ではソレノイド38への電力供給を実行し、コア34に対しアーマチュアロータ44を磁力によって吸着させる。
【0065】
コア34に吸着した状態でアーマチュアロータ44が回転しようとすると、摩擦力がアーマチュアロータ44に与えられる。アーマチュアロータ44は、従動軸部20と一体に回転可能であることから、摩擦力は、従動軸部20及び操作ノブ14に伝わり、制動力として作用する。
ただし、図6中の制動範囲での摩擦力は、操作範囲から離れる方向に操作ノブ14を回転させたときに発生させられる。
【0066】
図7は、制御対象が温度である場合における、温度操作範囲、制動範囲、カム山の高さ、カム山の番号、検出回転角度θc、メカクリック機構の付勢力、及び、摩擦力の関係を示している。温度操作範囲は、2番〜8番の7つのカム山26を含み、検出回転角度θcの15°以上120°以下の範囲に対応している。
この温度操作範囲によれば、温度の目標値を8段階で設定可能である。温度操作範囲は、風量操作範囲に比べて広いことから、温度操作範囲と制動範囲との間の境界は、風量操作範囲と制動範囲との間の境界とは異なっている。なお、図7中の制動範囲の摩擦力も、操作範囲から離れる方向に操作ノブ14を回転させたときに発生させられる。
【0067】
〔操作範囲・制動範囲の再設定〕
その上、本実施形態では、好ましい態様として、制御部72は、操作ノブ14の回転に応じて、操作範囲及び制動範囲の設定を一度解除し、新たに操作範囲及び制動範囲を再度設定可能である。
例えば、図8に示したように、操作範囲と制動範囲との間の境界を越えて、操作範囲から離れる方向(右回転)に操作ノブ14が回転させられ、検出回転角度θcが95°である場合を考える。このときの検出回転角度θcは、黒塗りの丸印で示されている。
【0068】
この後、操作ノブ14が停止するか、又は、操作ノブ14が操作範囲に近付く方向(左回転)に回転させられると、図9に示したように、制御部72は、検出回転角度θcを補正量θaだけ補正した補正回転角度θrを演算する。
操作範囲及び制動範囲は、補正された検出角度θc、つまり補正回転角度θrを基準として設定される。このため、検出回転角度θcを補正するということは、カム山26の番号又は絶対角度でみれば、操作範囲及び制動範囲の位置を変更することに等しく、操作範囲及び制動範囲を再設定することに等しい。そして、補正回転角度θrが、操作範囲と制動範囲との間の境界に近付くように、検出回転角度θcの補正が行われる。
【0069】
本実施形態では、好ましい態様として、カム山26の1周期に相当する15°を単位として、検出回転角度θcの補正が行われ、図8では、補正量θaは−15°である。具体的には、次式(2),(3)のうち何れかを用いて、補正量θaが演算される。
θa=−round{(θc−θR)/15}・・・(2)
θa=round{(θL−θc)/15}・・・(3)
【0070】
ここで、式(2),(3)中、roundは、小数点第1位を四捨五入し、変数である(θc−θR)/15又は(θL−θc)/15を整数にする関数である。θRは、図6でみて、補正量θa=0のときの風量操作範囲と右側の制御範囲との間の境界に対応する検出回転角度θcであり、75°である。θLは、図6でみて、補正量θa=0のときの風量操作範囲と左側の制御範囲との間の境界に対応する検出回転角度θcであり、15°である。
検出回転角度θcが右側の制動範囲内にあるときには、式(2)を用いて補正量θaが演算され、左側の制動範囲内にあるときには、式(3)を用いて補正量θaが演算される。
【0071】
その上、本実施形態では、好ましい態様として、操作ノブ14が停止するか、又は、操作ノブ14が操作範囲に近付く方向に回転させられると、一時的に摩擦ブレーキ手段による制動力を解除する。つまり、操作範囲及び制動範囲が実質的に解除される。これにより、メカクリック機構の圧縮コイルスプリング38の弾性力によって、従動軸部20が回転させられ、図9に白抜きの丸印で示したように、自動的に、操作ノブ14の回転角度θが、カム山26同士の間の谷62に一致させられる。
【0072】
それから、所定時間経過すると、制御部72は、摩擦ブレーキ手段を必要に応じて動作させ、図10に示したように、補正回転角度θrに応じて操作範囲及び制動範囲が設定された状態で、操作ノブ14の操作が可能になる。なお、図10中の制動範囲の摩擦力も、操作範囲から離れる方向に操作ノブ14を回転させたときのトルクである。
【0073】
操作ノブ14の回転状態、つまり、右回転、左回転又は停止の判定は、検出回転角度θcの変化量に基づいて行うこともできるが、本実施形態では、フォトインタラプタ検出器66の回転角度信号に基づいて行うことで、微小な回転も迅速且つ的確に判定することができる。
特に、アーマチュアロータ44に摩擦力が与えられている状態で、操作ノブ14が操作範囲から離れる方向に回転させられと、連結部22が捻れ、その後、操作ノブ14から操作者が手を離すと、連結部22の捻れが解消される。そして、この連結部22の捻れの解消にともない、操作ノブ14及び駆動軸部18がそれまでとは逆方向に回転する。この逆方向の回転をフォトインタラプタ検出器66で検出することで、操作者が操作ノブ14の操作を停止したことを迅速且つ的確に検出することができる。
【0074】
〔制御処理手順〕
図11は、操作者が風量選択スイッチ82を押したときに、制御部72のプロセッサーが実行する制御処理の手順例を示すフローチャートである。なお、制御処理の手順は、制御部72のメモリにプログラムとして記憶させられている。
【0075】
ステップS10:先ずプロセッサーは、初期設定処理として、風量操作の設定情報を読み込む。風量操作の設定情報とは、風量操作に係る操作範囲及び制動範囲を設定するための情報であり、操作範囲及び制動範囲の幅の外、風量選択スイッチ82を押したときの検出回転角度θcと操作範囲との位置関係も含んでいる。
ステップS12:またプロセッサーは、初期設定処理として、周期番号N及び補正量θaを初期化して零に設定する。
ステップS14:それから、プロセッサーは、第1のホールセンサ56a及び第2のホールセンサ56bの検出信号の出力電圧V1,V2を読み込む。
【0076】
ステップS16:プロセッサーは、読み込んだ出力電圧V1,V2に基づき位相角度θeを演算する。
ステップS18:そして、プロセッサーは、演算された位相角度θeを上述した式(1)に代入して、検出回転角度θcを演算する。
【0077】
ステップS20:それから、プロセッサーは、ステップS16で演算された位相角度θeを、旧位相角度oldθeとしてメモリに記憶させる。
ステップS22:また、プロセッサーは、ステップS10で読み込んだ風量設定情報、及び、ステップS18で演算された検出回転角度θcに基づいて、操作範囲及び制動範囲を設定する。
【0078】
ステップS24:この後、プロセッサーは、再び、第1のホールセンサ56a及び第2のホールセンサ56bの検出信号の出力電圧V1,V2を読み込む。
ステップS26:そして、プロセッサーは、ステップS24で読み込んだ出力電圧V1,V2に基づき位相角度θeを演算する。
【0079】
ステップS28:それから、プロセッサーは、回転角度演算ルーチンを実行し、検出回転角度θcを演算する。
ステップS30:この後、プロセッサーは、ステップS26で演算された位相角度θeを、旧位相角度oldθeとしてメモリに記憶させる。
ステップS32:また、プロセッサーは、ステップS28で演算された検出回転角度θc又は検出回転角度θcに対応する制御対象の目標値を、カーエアコンシステムのメインコントローラ86に向けて出力する。
【0080】
ステップS34:更に、プロセッサーは、摩擦ブレーキ駆動制御・制動範囲再設定ルーチンを実行し、検出回転角度θcに応じて摩擦力を付与するとともに、必要に応じて操作範囲及び制動範囲を再設定するための補正量θaを演算する。
ステップS36:この後、プロセッサーは、風量選択スイッチ82が引き続きオン状態であるか否かを確認し、オン状態であればステップS24に戻り、オフ状態であれば、プログラムを終了する。
なお、ステップS24〜ステップS36のループは、例えば0.1ms間隔で繰り返し実行される。
【0081】
〔回転角度演算ルーチン〕
図12は、図11中の回転角度演算ルーチン(ステップS28)において、プロセッサーが実行する制御処理の手順例を示すフローチャートである。
ステップS38:まず、プロセッサーは、直前のステップS26で演算された位相角度θeから、1つ前に演算された旧位相角度oldθeを除して、位相角度θeの変化量Δθeを演算する。
【0082】
ステップS40:そして、プロセッサーは、変化量Δθeが、閾値である180°よりも大であるか否かを判定する。
ステップS42:ステップS40の判定の結果、変化量Δθeが180°よりも大であれば、プロセッサーは、周期番号Nから1を減算する。
ステップS44:そして、ステップS42で減算された周期番号N及び位相角度θeを式(1)に代入して、検出回転角度θcを演算する。
ステップS45:ステップS44で演算された検出回転角度θcに、補正量θaを加算して、補正回転角度θrが演算される。
【0083】
ステップS46:一方、ステップS40の判定の結果、変化量Δθeが180°以下であれば、プロセッサーは、変化量Δθeがもう一つの閾値である−180°よりも小であるか否かを判定する。
ステップS48:ステップS46の判定の結果、変化量Δθeが−180°よりも小であれば、プロセッサーは、周期番号Nに1を加算する。そして、プロセッサーはステップS44に進み、この場合、ステップS48で加算された周期番号N及び位相角度θeを式(1)に代入して、検出回転角度θcを演算する。
また、ステップS40の判定の結果、変化量Δθeが−180°よりも大であれば、即ち、変化量Δθeが−180°以上180°以下であれば、周期番号Nは変更されず、そのまま検出回転角度θcの計算に用いられる。
【0084】
〔摩擦ブレーキ駆動制御・制動範囲再設定〕
図13及び図14は、図11の摩擦ブレーキ駆動制御・制動範囲再設定ルーチン(ステップS34)において、プロセッサーが実行する制御処理の手順例を示すフローチャートである。
ステップS50:プロセッサーは、回転角度演算ルーチン(ステップS28)で演算された補正回転角度θrが、風量操作範囲内、左側の制動範囲内、又は、右側の制動範囲内のいずれにあるかを判定する。なお、風量操作範囲は15°以上75°以下であり、右側の制動範囲は75°超であり、左側の制動範囲は15°未満に設定されている。
【0085】
ステップS52:ステップS50の判定の結果、補正回転角度θrが右側の制動範囲内にある場合、プロセッサーは、操作ノブ14が停止又は左回転しているか否かを判定する。
なお左回転とは、風量操作範囲に向かう回転であり、操作ノブ14が停止又は左回転しているか否かは、検出回転角度θc又は補正回転角度θrの変化量から判定してもよいし、フォトインタラプタ検出器66の回転角度検出信号に基づいて判定してもよい。
【0086】
ステップS54:ステップS52の判定の結果、操作ノブ14が停止又は左回転していれば、プロセッサーは、摩擦ブレーキを非アクティブ(オフ)にするとともに、タイマに所定時間のカウントを開始させる。
ステップS56:それから、プロセッサーは、補正量θaを変更し、操作範囲及び制動範囲を再設定する。具体的には、補正量θaを前述した式(2)に基づいて変更する。
【0087】
ステップS58:この後、プロセッサーは、タイマが所定時間のカウントを終了するまで待つ。ステップS58でカウントが終了すると、プロセッサーは、図11のステップS36に戻る。
ステップS60:一方、ステップS52の判定の結果、操作ノブ14が停止又は左回転しておらず、更に右回転している場合には、プロセッサーは、摩擦ブレーキをアクティブ(オン)にする。それから、プロセッサーは、図11のステップS36に戻る。
【0088】
ステップS62:また、ステップS50の判定の結果、ステップS52:ステップS50の判定の結果、補正回転角度θrが左側の制動範囲内にある場合、プロセッサーは、操作ノブ14が停止又は右回転しているか否かを判定する。
なお右回転とは、風量操作範囲に向かう回転であり、操作ノブ14が停止又は右回転しているか否かは、検出回転角度θc又は補正回転角度θrの変化量から判定してもよいし、フォトインタラプタ検出器66の回転角度検出信号に基づいて判定してもよい。
【0089】
ステップS64:ステップS62の判定の結果、操作ノブ14が停止又は右回転していれば、プロセッサーは、摩擦ブレーキを非アクティブ(オフ)にするとともに、タイマに所定時間のカウントを開始させる。
ステップS66:それから、プロセッサーは、補正量θaを変更し、操作範囲及び制動範囲を再設定する。具体的には、補正量θaを前述した式(3)に基づいて変更する。
【0090】
ステップS68:この後、プロセッサーは、タイマが所定時間のカウントを終了するまで待つ。ステップS68でカウントが終了すると、プロセッサーは、図11のステップS36に戻る。
ステップS70:一方、ステップS62の判定の結果、操作ノブ14が停止又は右回転しておらず、更に左回転している場合には、プロセッサーは、摩擦ブレーキをアクティブ(オン)にする。それから、プロセッサーは、図11のステップS36に戻る。
【0091】
ステップS72:また、ステップS50の判定の結果、補正回転角度θrが操作範囲内にあれば、プロセッサーは、摩擦ブレーキを非アクティブ(オフ)にしてから、制動範囲を再設定することなく、図11のステップS36に戻る。
【0092】
上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、回転操作部材としての操作ノブ14の回転角度θ又は補正回転角度θrが操作範囲内にあるときには、操作ノブ14の回転に伴い、弾接部材30が相対回転しながらカム山26に当接する。弾接部材30をカム山26に当接させることによって、切れ味の良い機械的なクリック感が、簡単な構成にて、操作ノブ14に確実に与えられる。
【0093】
一方、この多機能回転入力装置10では、制御手段としての制御部72が、操作範囲及び制動範囲を設定することによって、制御対象に応じて、操作範囲の位置及び幅が適当に設定される。このため、この多機能回転入力装置10によれば、操作者は、容易に命令を入力可能である。
【0094】
その上、この多機能回転入力装置10では、制動範囲において、摩擦ブレーキ手段によって、操作ノブ14の回転を停止させるのに十分な制動力が与えられる。従って、この多機能回転入力装置10では、制動範囲内での操作ノブ14の不所望の回転が確実に防止され、操作者は、操作ノブ14の空回転による違和感を覚えることなく、操作ノブ14を快適に操作することができる。
【0095】
そして、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10では、回転角度演算部74によって検出された検出回転角度θcが、操作範囲と制動範囲との間の境界の位置に近付くように、補正回転角度θrに補正される。この補正によれば、実質的に、操作ノブ14の回転角度θに対して操作範囲及び制動範囲が再設定され、再設定前では、検出回転角度θcが、制動範囲内において操作範囲と制動範囲との間の境界から遠くに位置していても、再設定後の補正回転角度θrは、操作範囲に速やかに復帰させられる。このため操作者は、操作ノブ14の回転角度θを操作範囲に復帰させるために力を殆ど必要とせず、操作ノブ14を適時且つ快適に操作することができる。
【0096】
更に、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、式(2)及び式(3)から明らかなように、カム山26の周期である15°を単位として、補正量θaが演算され、補正量θaを用いて操作範囲及び制動範囲が再設定されている。これにより、操作範囲及び制動範囲を再設定する前後で、操作範囲と制動範囲との間の境界とカム山26の周期との対応関係が変化しない。
【0097】
また更に、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、操作範囲と制動範囲との間の境界が、カム山26同士の間の谷62に一致している。これにより、再設定の前後に関係なく、境界に一致する谷62を越えて補正回転角度θrが変化しようとすると、操作ノブ14に摩擦力に基づく制動力が与えられる。このため、この多機能回転入力装置10によれば、操作ノブ14を操作範囲の境界まで回転させたときにクリック感が得られながら、それ以上の操作ノブ14の回転が防止され、操作者に良好な操作感が与えられる。
【0098】
また、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、操作ノブ14の回転角度θが制動範囲内にあっても、ステップS54又はステップS56で摩擦ブレーキが一時的に非アクティブにされる。これにより、再設定される操作範囲と制動範囲との間の境界に向かう方向で操作ノブ14が回転することを制御部72が許容するため、操作ノブ14を回転させることにより、補正回転角度θrが操作範囲と制動範囲との間の境界に容易に位置付けられる。特に、弾接部材30の弾性力によって操作ノブ14が回転させられれば、補正回転角度θrを操作範囲と制動範囲との間の境界に自動的に合わせることができる。
【0099】
一方、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、2つの正弦波の検出信号に基づいて、任意の位置を検出回転角度θcの基準として、操作ノブ14の検出回転角度θcが検出される。
ここで、正弦波の周期の整数倍は、カム山26の周期の整数倍に対応し、且つ、正弦波の周期とカム山26の周期との間の相対的な位置関係が予め設定されている。このため、ステップS10及びステップS12の初期設定時に、操作ノブ14の検出回転角度θcがカム山26同士の谷62からずれていても、ステップS18で演算された検出回転角度θcに基づいてステップS22で操作範囲及び制動範囲を設定することにより、例えば、操作範囲と制動範囲との間の境界をカム山26同士の谷62に容易に位置付けられる。
また、この場合、操作ノブ14が同一方向に何回も回転しても、操作ノブ14の回転角度θが検出回転角度θcとして検出される。このため、操作範囲及び制動範囲の設定可能な範囲が広く、利用者が操作ノブ14を一方向に回転させ続けても、操作ノブ14に対して的確に摩擦力が与えられる。
【0100】
更に、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、2つのホールセンサ56a,56bと円盤形状の磁石54によって、簡単な構成にて、相互に位相の異なる2つの正弦波の検出信号が得られる。
【0101】
また更に、上述した一実施形態の多機能回転入力装置10によれば、位相差が90°の2つの正弦波の検出信号に基づいて鋸波を求め、鋸波に基づいて操作ノブ14の検出回転角度θcを演算することで、簡単な構成にて、検出回転角度θcが高精度にて演算される。
すなわち、上述した式(1)によれば、周期番号Nを数えることによって、30×Nの項は誤差を含まず、30×θe/360の項のみに誤差が含まれる。このため、検出回転角度θcが大きくなるに連れて誤差が累積することはなく、検出回転角度θcが高精度にて演算される。
【0102】
本発明は、上述した一実施形態に限定されることはなく、上述した一実施形態に適宜変更を加えた形態も含む。
例えば、上述した一実施形態では、回転軸16が、駆動軸部16と従動軸部20とを弾性をもって連結する連結部22を含んでいたが、連結部22を省略してもよい。また、駆動軸部16の回転角度を検出するためのフォトインタラプタ検出器66も省略しても良い。
【0103】
そして、上述した一実施形態のメカクリック機構では、操作ノブ14と一体に回転するカム部材24の外周面にカム山26が設けられていたが、カム山26をカム部材24の一方の平坦な面に形成し、カム部材24の平坦な面に垂直に当接するように弾接部材30の向きを変更しても良い。
また、カム山をハウジング12側に設け、弾接部材30を操作ノブ14と一体に回転するように設置してもよい。更には、弾接部材30の形状や数も特に限定されることはなく、弾接部材30を付勢する付勢手段も圧縮コイルスプリング32に限定されることはない。
更には、メカクリック機構の凹凸は、カム山26によって構成された滑らかな凹凸である必要はなく、周期的に配列された有底孔等によって構成されていてもよい。また、凹凸の周期も特に限定されることはない。
【0104】
また、上述した一実施形態では、摩擦ブレーキ手段が、アーマチュアロータ44をコア34に引き寄せることによって、アーマチュアロータ44に摩擦力を与えていたが、磁力によって、アーマチュアロータ44を支持ディスク50に押し付けるようにソレノイドユニット34を構成してもよい。更には、支持ディスク50を径方向に挟み付けるシューを設け、ソレノイドユニットによって、シューを支持ディスク50の外周に押し付けるようにしてもよい。
【0105】
更に、上述した一実施形態では、操作ノブ14の回転角度θを検出するセンサとして、ホールセンサ56a,56bが用いられていたが、MR(磁気抵抗)センサを用いてもよい。
また更に、上述した一実施形態では、操作範囲と制動範囲検出との間の境界の位置と検出回転角度θcとが相対的に近付くように、検出回転角度θcが補正されたけれども、操作範囲と制動範囲との間の境界の位置を補正するようにしてもよい。
【0106】
その他、図示とともに示した各種部材の形状や配置、更に制御処理は、いずれも好ましい例であり、本発明の実施に際してこれらを適宜変更可能であることはいうまでもない。
最後に、本発明はカーエアコンシステムのための入力装置に好適であるが、これ以外の機器、例えば、カーオーディオシステムやカーナビゲーションシステムにも好適であり、また、パーソナルコンピュータ等にも適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0107】
10 多機能回転入力装置
12 ハウジング
14 操作ノブ
16 シャフト
18 駆動軸部
20 従動軸部
22 連結部材
24 カム部材(凹凸部材)
26 カム山(凹凸)
28 ホルダ
30 弾接部材
32 圧縮コイルスプリング
34 ソレノイドユニット(摩擦ブレーキ手段)
36 コア
38 ソレノイド(円筒コイル)
40 ブラケット
42 すべり軸受
44 アーマチュアロータ
46 本体部
48 中央孔
49 ロッド部
50 支持ディスク
52 挿通孔
54 磁石
56a,56b ホールセンサ(回転角度検出手段)
58 N極
60 S極
62 谷
64 コード板
66 フォトインタラプタ検出器
68 発光素子
70 受光素子
72 制御部(制御手段)
74 回転角度演算部
76 微小回転演算部
78 摩擦ブレーキ駆動制御部
80 吹出口選択スイッチ
82 風量選択スイッチ
84 温度選択スイッチ
86 メインコントローラ
90 位相角度演算部
92 検出回転角度演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制御量のうちの1つを制御対象として選択するための制御対象選択手段と、
前記制御対象に係る設定をすべく操作者により操作される回転操作部材と、
前記回転操作部材の回転軸を中心として環状に周期的に配列された複数の凹凸を有する凹凸部材と、
前記回転操作部材の回転に伴い前記凹凸部材と相対回転可能に設けられ、前記凹凸部材の凹凸に弾性的に当接する弾接部材と、
前記回転操作部材の回転角度に対応する検出信号を出力する回転角度検出手段と、
回転する前記回転操作部材に摩擦力を付与可能な摩擦ブレーキ手段と、
前記検出信号に基づき前記回転操作部材の回転角度に対応する検出回転角度を演算し、前記検出回転角度に基づいて、前記摩擦ブレーキ手段の駆動制御を行う制御手段と
を備え、
前記制御手段は、
前記回転操作部材の回転可能範囲に、前記制御対象に応じた操作範囲及び前記操作範囲に隣接する制動範囲を設定し、
前記制動範囲内において前記検出回転角度が前記操作範囲から離れる方向に変化するように前記操作者が前記回転操作部材を操作したときに、前記回転操作部材に前記摩擦力を与えるように前記摩擦ブレーキ手段を駆動制御する
ことを特徴とする多機能回転入力装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記検出回転角度が、前記制動範囲内において前記操作範囲に向かう方向に変化又は停止したとき、前記操作範囲と前記制動範囲との間の境界と前記検出回転角度とが相対的に近付くように、前記検出回転角度又は前記境界の位置を補正する
ことを特徴とする請求項1に記載の多機能回転入力装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記カム山の周期に対応する角度を単位として前記検出回転角度又は前記境界の位置を補正することを特徴とする請求項2に記載の多機能回転入力装置。
【請求項4】
前記操作範囲と前記制動範囲との間の境界の位置は、前記カム山同士の間の谷に一致していることを特徴とする請求項3に記載の多機能回転入力装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記検出回転角度が、前記制動範囲内において前記操作範囲に向かう方向に変化又は停止した後、一時的に前記回転操作部材に前記摩擦力を与えないように前記摩擦ブレーキ手段を駆動する
ことを特徴とする請求項4に記載の多機能回転入力装置。
【請求項6】
前記回転角度検出手段は、
前記回転操作部材の回転に伴い、磁石と協働して相互に位相の異なる正弦波の検出信号を出力する第1の磁気センサ及び第2の磁気センサを含み、
前記正弦波の周期の整数倍は、前記カム山の周期の整数倍に対応する
ことを特徴とする請求項1に記載の多機能回転入力装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記回転角度検出手段の出力する検出信号に基づき、前記正弦波の一周期内における、前記回転操作部材の回転角度に対応する位相角度を演算する位相角度演算部と、
前記回転操作部材の回転角度が、前記正弦波の一周期を超えて変化したときに、前記回転操作部材の回転角度が属する前記正弦波の周期の番号を加減算し、前記位相角度及び前記正弦波の周期の番号に基づき前記検出回転角度を演算する検出回転角度演算部と
を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の多機能回転入力装置。
【請求項8】
前記制御手段は、
前記正弦波の一周期に対応する前記回転操作部材の回転角度量を前記正弦波の周期の番号に乗じて得られる第1の値と、
前記位相角度に対応する前記回転操作部材の回転角度量である第2の値とを足すことにより、前記検出回転角度を演算する
ことを特徴とする請求項7に記載の多機能回転入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−204021(P2011−204021A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70800(P2010−70800)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】