説明

多環脂環式化合物を前駆体物質とする薄膜、及びその製造方法

【課題】低誘電率、高強度、高耐熱性を具備する薄膜を得ること及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)、(2)及び(3)で表される多環脂環式化合物から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物を前駆体物質とする薄膜であり、多環脂環式化合物をプラズマ重合法により薄膜とする製造方法であり、低誘電率、高強度、高耐熱性を備えた薄膜となり、CPU、DRAM、フラッシュメモリ等の半導体装置、薄膜上にパターン形成し、回路を描いて作製された薄膜トランジスタに代表される情報処理用小型電子回路装置、高周波通信用電子回路装置等の電子回路装置、画像表示装置、表面保護膜、光学膜等として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子分野、半導体集積回路分野、光学分野において、半導体用層間絶縁膜や光学膜等として有用な薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、低誘電材料は、半導体集積回路の層間絶縁膜を構成する材料として、帯電や抵抗値上昇等の問題点を解消するために広く用いられている。低誘電材料は、経済性の向上や誘電率の低下に加え、発熱を伴う部分に用いられたり、薄膜として使用されることが多いことから、耐熱性や強度等の向上も同時に求められている。
【0003】
様々な材料を用いた薄膜について、層間絶縁膜への適用が検討されている。その中でも、有機化合物を前駆体に用いるプラズマ重合法により得られる薄膜が、低誘電率性、高耐熱性、高強度性、又はその経済性から注目されている。
【0004】
低誘電材料の主な用途である半導体の層間絶縁膜材料としては、現在シロキサン系化合物が主に用いられている。シロキサン系化合物は、主にケイ素、酸素から構成されている。分子の双極子モーメントが大きいほど誘電率は高くなるため、非共有電子対を多く有するシロキサン系化合物は、低誘電率化には不利である。今までは誘電率kの要求値が4程度であったため、強度、シリコンウェハに対する密着性のバランスから、シロキサン系化合物が用いられている。
しかしながら、高性能化の要求から半導体回路幅の微細化が求められており、誘電率をさらに低くすることが必要になってきた。
【0005】
また、半導体集積回路全体の強度や物理的ストレス等による絶縁破壊の問題も深刻になるため、薄膜の強度も維持する必要がある。このため、低誘電率化の観点から、シロキサン系化合物は、無機シロキサン系化合物から有機シロキサン系化合物に移行し、また、薄膜にナノメートルレベルに制御された空孔を導入する技術が開発された。
【0006】
しかし、さらなる低誘電率化に対応するには空孔の導入量を増やすことが必要となるが、空孔量の増加は強度の低下を招くことになる。そこで、有機系ポリマー等の新規材料が提案されているものの、絶縁性、低誘電率、高強度に加えて、特に、半導体製造時にかかる熱負荷に耐える耐熱性を具備する材料は見当たらない。
【0007】
このような状況下、例えば、特許文献1にはボラジン−ケイ素系高分子のような、有機/無機重合体が提案されている。この重合体は、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備するものの、重合に必要なプラチナ触媒を除去する工程がないため、残留プラチナ原子により生じる絶縁破壊や低安定性の点で問題が残っていた。
【0008】
この欠点を補うために、特許文献2にはプラズマ重合によるボラジン系ポリマー及びボラジン含有ケイ素系ポリマーの製膜法が提案されている。しかしながら、ボラジン系ポリマーは低誘電率であるものの強度が低く、一方、ボラジン含有ケイ素系ポリマーでは強度が高いものの誘電率は充分低いとは言えない。即ち、低誘電率と高強度を具備した層間絶縁膜を得ることはできていない。
【0009】
また、特許文献3には、アダマンタンポリオールを用いたポリアダマンタンエーテルのプラズマ重合による製膜法が、特許文献4には、アルケニル基、アルキニル基、水酸基又はエーテル基を有するジアマンタン誘導体ポリマー及びアダマンタン誘導体ポリマーのプラズマ重合による製膜法等が提案されている。アダマンタン誘導体又はその類縁体は、薄膜を得ることは困難であるものの、低誘電率、高強度、高耐熱性を備えた薄膜となる期待がある。
しかしながら、特許文献3に記載された製法では、薄膜の総炭素原子数に対する酸素原子の含有率が高い。また、特許文献4に記載された製法では、前駆体がアルケニル基、アルキニル基、水酸基又はエーテル基を有するため、薄膜中にそれら由来のエーテル構造等を無視できない含有率で含む。このため、いずれの方法で得られる薄膜も、低誘電率化、高強度化、高耐熱化に限界があった。
尚、類似の構造を有する多環脂環式化合物の薄膜を化学的合成手法で形成することは、薄膜を構成するポリマーが不溶不融性であるため不可能である。
【特許文献1】特開2002−359240号公報
【特許文献2】特開2006−032745号公報
【特許文献3】特開2003−252982号公報
【特許文献4】特開2006−100794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備する薄膜を得ること及びその製造方法を提供することを主たる技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、多環脂環式化合物、具体的には、アダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン及びそれらの特定の誘導体を前駆体とする薄膜が優れた性能を有することを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の薄膜等が提供される。
1.下記式(1)、(2)及び(3)で表される多環脂環式化合物から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物を前駆体物質とする薄膜。
【化3】

(式中、Xは、ハロゲン基、カルボキシル基、シリル基、シロキシ基、ニトロ基、アミノ基、エポキシ基、フッ素含有脂肪族基、フッ素含有芳香族基、メチル基、エチル基、置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数3〜50の飽和脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基を表す。l、m及びnは置換基Xの置換数を表し、lは0〜10の整数、mは0〜18の整数、nは0〜14の整数である。
l、m又はnが2以上の場合、それぞれのXは同一であっても異なっていても良く、それらは同一の炭素上に結合していても、異なる炭素上に結合していても良い。)
2.前記多環脂環式化合物が、アダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン、及び下記式(4)〜(15)から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物である1記載の薄膜。
【化4】

(式中、Yはブロモ基又はカルボキシル基であり、Yが2つ以上ある場合、それぞれのYは同一であっても異なっていても良い。)
3.前記多環脂環式化合物をプラズマ重合法により薄膜とする1又は2記載の薄膜の製造方法。
4.上記1又は2に記載の薄膜からなる低誘電材料。
5.上記1又は2に記載の薄膜からなる半導体用層間絶縁膜。
6.上記1又は2に記載の薄膜からなる光学膜。
7.上記1又は2に記載の薄膜からなる高強度高耐熱材料。
8.上記1又は2に記載の薄膜を含む半導体装置。
9.上記1又は2に記載の薄膜を含む画像表示装置。
10.上記1又は2に記載の薄膜を含む電子回路装置。
11.上記1又は2に記載の薄膜を含む表面保護膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低誘電率、高強度及び高耐熱性を具備する薄膜及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の薄膜は、下記式(1)、(2)及び(3)で表される多環脂環式化合物から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物を前駆体物質とする。
【化5】

【0014】
式中、Xは、ハロゲン基、カルボキシル基、シリル基、シロキシ基、ニトロ基、アミノ基、エポキシ基、フッ素含有脂肪族基、フッ素含有芳香族基、メチル基、エチル基、置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数3〜50の飽和脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基を表す。
尚、Xが置換基を有するとは、上記の基を組み合わせてなる基を意味する。
【0015】
Xが示すフッ素含有脂肪族基としては、フッ素を含有する炭素数1〜10の飽和直鎖状脂肪族基、フッ素を含有する炭素数3〜10の飽和分岐状脂肪族基、フッ素を含有する炭素数3〜10の飽和脂環式置換基が挙げられる。
好ましくは、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフロオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロペンチル基である。これらのフッ素含有脂肪族基では、他のフッ素含有脂肪族基に比較して、得られる薄膜の耐熱性、安定性が特に向上する。
【0016】
Xが示すフッ素含有芳香族基としては、フッ素を含有する炭素数6〜14の芳香族基が挙げられる。
好ましくは、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロナフチル基である。これらのフッ素含有芳香族基は、他のフッ素含有芳香族基と比較して、得られる薄膜の性能は同等であるものの、これらの基を有する多環脂環式化合物の製造が容易である。
【0017】
Xが示す置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和直鎖状脂肪族基としては、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘプチル基、n−へキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
好ましくは、n−プロピル基、n−ブチル基、n−へキシル基である。これらの飽和直鎖状脂肪族基は、他の飽和直鎖状脂肪族基に比較して、得られる薄膜の耐熱性、安定性が特に向上する。
【0018】
Xが示す置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和分岐状脂肪族基としては、iso−プロピル基、iso−ブチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルブチル基等が挙げられる。
好ましくは、iso−プロピル基、iso−ブチル基である。これらの飽和分岐状脂肪族基は、他の飽和分岐状脂肪族基に比較して、得られる薄膜の耐熱性、安定性が特に向上する。
【0019】
Xが示す置換又は非置換の炭素数3〜50の飽和脂環式置換基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基等が挙げられる。
好ましくは、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基である。これらの飽和脂環式置換基は、他の飽和脂環式置換基に比較して、得られる薄膜の耐熱性、安定性が特に向上する。
【0020】
Xが示す置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基としては、フェニル基、トルイル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンタメチルフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
好ましくは、フェニル基、ナフチル基である。これらの芳香族基は、他の芳香族基に比較して、半導体用層間絶縁膜に得られる薄膜を適用する際に問われる絶縁性が特に向上する。
【0021】
l、m及びnは置換基Xの置換数を表し、lは0〜10の整数、mは0〜18の整数、nは0〜14の整数である。l、m又はnが2以上の場合、それぞれのXは同一であっても異なっていても良く、それらは同一の炭素上に結合していても、異なる炭素上に結合していても良い。
【0022】
本発明では上記式(1)〜(3)に示す化合物を前駆体とすることにより、プラズマ重合法により薄膜を容易に得ることができるとともに、薄膜の誘電率低下、耐熱性向上、強度向上が可能となる。
従来、プラズマ重合により薄膜を形成する際は、前駆体が反応に関与するアルケニル基、水酸基、又はエーテル基等の置換基を高い含有率で有していた。この置換基又は置換基由来の構造が薄膜中に含まれることによって、薄膜の誘電率、強度、耐熱性に悪影響を与えていた。一方、本発明では前駆体として、アルケニル基、水酸基、又はエーテル基を含有しない多環脂環式化合物、あるいは、脱離することにより活性部位を生じさせる置換基を有する多環脂環式化合物を使用する。これにより、前駆体の置換基が薄膜の性能に与える影響を排除することができる。
【0023】
上記の多環脂環式化合物のうち、アダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン、下記式(4)〜(15)から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物が好ましい。
【化6】

(式中、Yはブロモ基又はカルボキシル基であり、Yが2つ以上ある場合、それぞれのYは同一であっても異なっていても良い。)
【0024】
尚、上記の好適例に該当しない多環脂環式化合物の場合、その分子量によって以下の問題が生じるおそれがある。即ち、上記好適例の多環脂環式化合物と比較して、分子量が大きい多環脂環式化合物を用いた場合は、本発明のプラズマ重合法により薄膜を製造する際に、成膜速度(所望の厚さの薄膜が得られるまでに費やされる時間)が極端に小さくなるため、薄膜の製造方法として効率的ではない場合がある。一方、分子量が小さい多環脂環式化合物を用いた場合は、得られる薄膜の誘電率が高くなり、半導体用層間絶縁膜としては好ましくない場合がある。
【0025】
上述した多環脂環式化合物は、市販の又は公知の方法で合成したものが使用できる。例えば、ブロモ基を有する化合物は、Macromolecules,24,5266−5268(1991);J.Org.Chem.,45,5405−5408(1980);J.Polymer Sci.,Part A:Polym.Chem.,30,1747−1754(1992);Ukr.Khim.Zh.,54,437−438(1988);Chem.Ber.,93,1366−1371(1960)に記載の方法に準じて合成でき、常法によりブロモ基を変換することによりさらにその誘導体類を合成できる。
また、カルボキシル基を有する化合物は、上記のブロモ基を有する化合物より従来公知の合成方法により、又はTetrahedron Lett.,36,1233−1236(1995)に準じた方法により合成できる。
【0026】
尚、本発明の薄膜原料は、洗浄、イオン交換樹脂処理、再沈殿、再結晶、精密ろ過、乾燥等により精製することが好ましい。これにより、例えば、Fe3+、Cl、Na、Ca2+等のイオン性不純物等を除去することで、得られる薄膜の誘電率を低下でき、強度、耐熱性を向上できる。
【0027】
本発明の薄膜は上述した多環脂環式化合物を製膜することにより得られる。製膜方法として、例えば、プラズマ重合法が挙げられる。
本発明におけるプラズマ重合法とは、プラズマ重合製膜装置中で高周波電源に基づく電力により発生するプラズマを利用して該化学反応を進行させるものである。この方法は、製膜途上において所望の薄膜を与える原料、即ち、前駆体を化学反応させることにより薄膜を得る製膜法であり、一般にCVDと表記される化学気相蒸着法に含まれる製膜方法である。
【0028】
本発明ではプラズマ重合製膜装置として、平行平板型プラズマ重合装置、二周波励起平行平板型プラズマ重合装置、高密度プラズマ装置、誘導結合型プラズマ重合装置、容量結合型プラズマ重合装置、誘導結合型プラズマ重合装置等、本発明の目的に反しない限りいかなるプラズマ重合製膜装置を用いてもよい。具体例として、本発明の実施例、比較例において用いた誘導結合型プラズマ重合装置を使用した例を説明する。
【0029】
図1は、誘導結合型プラズマ重合装置の概略構成図である。
誘導結合型プラズマ重合装置は、処理室であるチャンバー1に、チャンバー1内を真空にする真空ポンプ9及び排出口14、プラズマソースガスや前駆体物質を導入する導入口13、及びプラズマを発生させる誘電体板6を接続した構成を有する。
導入口13には、薄膜原料タンク2、プラズマソースガスタンク3、及びこれらの流量を調整するマスフローコントローラー4が接続されている。
誘電体板6は石英からなり、その背面に誘導コイル5、マッチングボックス7及び高周波電源8が接続されている。
その他、チャンバー1内には、処理対象である基板11を設置する温度可変基板保持台10があり、チャンバー1内の圧力を測定する圧力計12が設置されている。
【0030】
薄膜原料タンク2に充填される原料は、上記記載の多環脂環式化合物を単品で使用しても、複数用いても良く、上記多環脂環式化合物を主成分とすれば、上記多環脂環式化合物以外の化合物を、本発明の目的に反しない限り、添加剤として共存させても良い。
具体的には、水酸基あるいはエチニル基を1つ又は複数有する1,3−アダマンタンジオール、1,3,5−トリヒドロキシアダマンタン、1,3−ジエチニルアダマンタン、4,9−ジエチニルジアマンタン等のアダマンタン誘導体、ジアマンタン誘導体等のプラズマ重合に用いることが公知である多環脂環式化合物、有機アンモニウム塩、スチレン系ポリマー等の公知に薄膜に空孔を生じさせる化合物等を加えても良い。
【0031】
薄膜原料の形態としては、上記プラズマ重合装置の薄膜原料タンク2に導入でき、かつ本発明のプラズマ重合による薄膜製造に悪影響を与えない範囲内であれば、塊状固形物であっても、粉体であっても、溶融物であっても、有機溶媒又は水を溶媒として用いる溶液であっても、懸濁液であっても、気体であっても良い。また、それらの形態の2種以上を含んだ形態であっても良い。上記化合物が存在していれば一般に公知の添加剤を加えても良い。
【0032】
溶液又は懸濁液の場合、溶媒として使用する有機溶媒は特に制限はなく、一般的な有機溶媒が使用でき、それらの使用上の都合からいずれを選択しても良い。
具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジクロロメタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、乳酸エチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、2−メトキシエタノール、N’,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン等が例示できる。
【0033】
プラズマソースガスタンク3で用いるプラズマソースガスとしては、上記プラズマ重合のプラズマ発生源として作用すれば、得られる薄膜に対して悪影響を与えない範囲において、いかなる物質を用いても良い。具体的には、プラズマの発生効率、膜への不純物防止の観点から、ヘリウム、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0034】
続いて、プラズマ重合装置を使用した薄膜の形成について説明する。
薄膜原料を薄膜原料タンク2に封入し、保持台10に薄膜を形成される基板11を設置し、全てのバルブを閉止した後、真空ポンプ9を稼動させる。排出口14のバルブを開き、チャンバー1の内部を真空引きする。ここで、チャンバー1内の圧力が所定の値以下(例えば、5×10−3Torr以下)になった後、チャンバー1内や基板11に付着したイオン性不純物、アルケニル基、水酸基又はエーテル基を含む化合物等の、本発明における薄膜に悪影響を与える不純物を排出するため、ポンプ9による排気を所定時間継続することが好ましい。
【0035】
薄膜原料タンク2及びこのタンク2からチャンバー1までの配管(図中、点線内の部位)を、リボンヒーター等を用いて加熱して、薄膜原料の蒸気が充分な分圧で発生する温度とする。薄膜原料タンク2及び上記配管の温度は、用いる原料の種類、所望の薄膜の性能や膜厚により適宜調整すればよいが、本発明では0℃から450℃の範囲が好ましい。
【0036】
また、基板11を保持台10で所望の温度まで加熱する。基板11の温度は、用いる薄膜原料の、プラズマ又は熱に対する反応性、所望の薄膜の性能等により適宜調整できる。本発明では、薄膜原料が多環脂環式化合物であり、得られる薄膜が有機物の重合物であることから、それらの熱安定性、基板への水分付着防止の観点から、0℃から450℃の範囲が好ましい。
【0037】
基板11等が所望の温度に到達したことを確認した後、プラズマソースガスタンク3のバルブと導入口13のバルブを開き、マスフローコントローラー4で流量を調整しつつ、プラズマソースガスと薄膜原料の蒸気の混合物ガスをチャンバー1内に導入する。圧力計12を観察しつつ、排気口14のバルブと導入口13のバルブを、チャンバー1内が所望の分圧(プラズマソースガスと薄膜原料蒸気からなる混合ガスの分圧)となるよう調整する。チャンバー1内の分圧等、系の安定が確認された後、高周波電源8を用い所望の周波数の電圧を誘導コイル5に印加しつつ、マッチングボックス7を用い微調整することにより、チャンバー1内に誘電体板6の作用によるプラズマ発生を開始させ、プラズマ重合法による薄膜作成を実施する。所定の時間、プラズマ発生を継続した後、全てを停止させる。これにより、基板11上に所望の薄膜が作成される。
基板は、公知の基板として用いることができる板材であれば、いかなるものでも好適に使用することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等を素材とするプラスチック板、ガラス板、金属板、シリコンウェハ、無機酸化物ウェハ等が挙げられる。基板のサイズはチャンバー及び温度可変基板保持台のサイズに適合する範囲で適宜調整することができる。
【0038】
プラズマソースガスの流量は、装置の大きさや用いる基材の種類、所望の薄膜の性能や膜厚により適宜調整することが出来るが、10ml/minから500ml/minが好ましい。
チャンバー1内のプラズマソースガスと薄膜原料蒸気からなる混合ガスの分圧は、所望の薄膜の性能や膜厚により大気圧〜1×10−5Torrの範囲で選択されるが、薄膜への不純物混入、効率的プラズマ発生及び製膜の観点から0.5Torr〜1×10−3Torrの範囲が好ましい。
【0039】
高周波電源の周波数及び電力は、プラズマソースガスの種類、薄膜原料の種類、所望の薄膜の性状により適宜設定すればよく、プラズマ重合装置内でプラズマが発生する限りにおいて、いかなる周波数及び電力も用いることができる。例えば、周波数は13.56MHz、27.12MHz、40.68MHz等が代表的であり、電力は10W〜500Wの範囲で、好ましくは50W〜200Wの範囲で選択される。電力が10Wより低い場合は充分な製膜速度が得られず、また、500Wより高い場合は基板の損傷、薄膜原料の分解反応による、所望のものとは異なる薄膜の生成、過剰なエネルギー強度のプラズマによる薄膜のエッチング現象に伴う膜厚減等の問題が生じる。
【0040】
本発明の薄膜の製法方法では、厚さが10nm〜10μm程度のものが作製できる。尚、薄膜の膜厚は、エリプソメータ、反射光学式膜厚計等による光学的膜厚測定、触針式膜厚測定器やAFM等による機械的膜厚測定が可能である。
本発明の薄膜は、低誘電性、高強度、高耐熱性、高透明性等の特長から、半導体用層間絶縁膜、液晶ディスプレー、液晶プロジェクター、プラズマディスプレー、ELディスプレー、LEDディスプレー、CMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサ等に使用される光学膜、高強度高耐熱材料として有用であり、それらを含む半導体装置、画像表示装置、電子回路装置、表面保護膜において利用することが出来る。
また、本発明の薄膜では、空孔を導入する操作をする必要のない層間絶縁膜が提供できる。これにより超大規模集積回路(ULSI)等の半導体装置の性能が飛躍的に向上することが期待できる。
【0041】
半導体装置におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料として用いる場合においては、誘電率、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等の特性は、該材料を用いる部位の要求値により変化するため、それらの具体的な値については一概に定義ができない。しかしながら、一般に誘電率等は低く、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等は高くなることが望ましい。本発明の多環脂環式化合物からなる薄膜は、これらの性質を具備するものである。さらに、薄膜化後の高温での重合(熱キュア)が不要であるため、従来の層間絶縁膜材料に比較して高性能かつ経済的であるため層間絶縁膜材料として好適に使用できる。
【0042】
本発明の薄膜の誘電率は、用いる原料の種類、置換基の種類、置換位置、置換数により異なるため一概に定義できないが、本発明における誘電率kの値として3.6以下、好ましくは2.2以下である。本発明の薄膜は上記範囲内において、用いる原料の種類、置換基の種類、置換位置、置換数により適宜調整できる。
k値の下限値は、その定義上1であり、半導体用層間絶縁膜では1に近付くほど好ましい。本発明の薄膜においては、用いる原料の種類、置換基の種類、置換位置、置換数によりk値を1に近付けることが可能であるが、現実的には、1.5程度である。
本発明の薄膜の誘電率は、厚さ既知の該薄膜を面積既知の電極で挟み、電極間の電気容量を測定する従来公知の方法で求めることができる。
本発明の多環脂環式化合物から得られる薄膜は、アダマンタン骨格を主成分とする不定形の重合物、かつ剛直な三次元的網目構造を有するため、薄膜全域に亘って、分極率と密度がそれぞれ低く、双極子モーメントも低くなるため、誘電率が低い。尚、半導体装置におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料としては、誘電率が低い方が、微細配線における信号伝達速度の遅延が少なくなるため好ましい。
【0043】
本発明の薄膜の耐熱性は、400℃、3×10−3Paに設定した高真空加熱炉中で5時間処理した後、反射光学式膜厚計にて膜厚を測定することにより膜厚減率を測定して評価する。本発明では膜厚減率が50nm/h以下であり、好ましくは、30nm/h以下である。尚、耐熱性の評価方法は他に、示差走査熱量計(DSC)、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA)等、一般的な熱物性評価により行える。
本発明の多環脂環式化合物から得られる薄膜の構造は、アダマンタン骨格を主成分とする不定形の重合物であるため、ダイヤモンドの結晶格子に相当する三次元構造(Chemical Review,277,64,1964参照)を持つがゆえ、ひずみが極めて小さく熱的、化学的に安定である。
【0044】
本発明の薄膜の強度は、本発明の多環脂環式化合物の構造及びプラズマ重合製膜条件により異なる評価結果となるため一概に定義できないが、半導体装置におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料としては充分な値を有する。
本発明の薄膜の強度は、弾性率として、5〜100ギガパスカル(GPa)、硬度として、0.5〜10ギガパスカルの範囲であることが好ましい。好適な薄膜弾性率の値は、薄膜を用いる半導体装置又は電子回路装置の種類や構造、用いられる部位、薄膜の厚さ等により一概に規定できないが、一般的に構成される薄膜からなる多層構造の製作過程における破損や多層構造の耐久性等の観点から、上記の範囲が好ましい。尚、低誘電材料の強度の目安となる薄膜弾性率はナノインデンテーション法によって評価した値を意味する。
本発明の多環脂環式化合物から得られる薄膜は、前述の通り、アダマンタン骨格を主成分とする不定形の重合物、かつ剛直な三次元的網目構造を有するため、応力を加えた際の分子間のずれ、化学結合の切断、各分子の立体的構造変化が小さく、強度が高い。
また、本発明の薄膜は、シリコン等の基板に対する密着性も従来公知の材料に比べて優れている。尚、基板密着性はテープテスト(作成した薄膜に碁盤の目状の傷を付け、それにテープを貼付し剥離することにより剥がれる薄膜の数で評価)により評価できる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。尚、以下の例で使用した薄膜原料は、市販の製品、又は公知文献記載の方法に従い調製したものである。
【0046】
実施例1
図1に示したプラズマ重合製膜装置を使用してシリコン基板上に薄膜を形成した。
まず、薄膜原料タンク2に薄膜原料であるアダマンタン(Aldrich Chemical社製)10gを封入した。温度可変基板保持台10に基板11を設置し、全てのバルブを閉止した後、真空ポンプ9を稼動させた。排出口14のバルブを開き、チャンバー1内部を真空引きした。チャンバー1内の圧力が1×10−3Torrに到達し、それ以下の状態を保持したことを確認した。その後、チャンバー1内や基板11に付着した水分等の不純物を排出するため、チャンバー1内の圧力を1×10−3Torr以下に30分間保持した。
薄膜原料タンク2から導入口13までの配管と薄膜原料タンク2(図1において点線で囲った部位)をリボンヒーターにて150℃に加熱した。基板11は室温のまま特に加熱操作は行わなかった。所望の温度に到達したことを確認した後、プラズマソースガスタンク3のバルブと導入口13のバルブを開き、マスフローコントローラー4で流量を100cc/minに調整してプラズマソースであるアルゴンガスと薄膜原料蒸気からなる混合ガスをチャンバー1内に導入した。圧力計12を観察しつつ、排出口14のバルブを、チャンバー1内が0.1Torrとなるよう調整した。
チャンバー1内の分圧等、系の安定を確認した後、高周波電源8を用い周波数13.56MHz、電力100Wを誘導コイル5に印加しつつ、マッチングボックス7を用い微調整することにより、チャンバー1内に誘電体板6の作用によるプラズマ発生を開始させ、プラズマ重合製膜を10分間実施した。
その後、装置を停止させ、チャンバー1内の基板11に薄膜が作製されたことを確認した。
【0047】
得られた薄膜基板について、反射光学式膜厚計で薄膜の膜厚を測定した。その後、基板を複数に分割して得た試料について、以下の評価を行った。
試料の薄膜側にアルミニウム電極を蒸着し、C−V測定を行うことにより誘電率kを測定した。
また、別の試料を400℃、3×10−3Paに設定した高真空加熱炉中で5時間処理した後、反射光学式膜厚計にて膜厚を測定することにより膜厚減率を測定し、耐熱性を評価した。
また、粘着テープによる剥離試験を行った。さらに、ナノインデンテーション法により薄膜強度(硬度及び弾性率)を測定した。
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2
薄膜原料としてアダマンタンの代わりに1,3−ジブロモアダマンタンを用いた以外は実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0050】
実施例3
実施例2において、アルゴンガスと薄膜原料蒸気からなる混合ガスの分圧を0.008Torrとした以外は同様に実施した。結果を表1に示す。
【0051】
実施例4
実施例2において、高周波電源を用い誘導コイルに印加した電力を50Wとした以外は同様に実施した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例5
実施例1において、薄膜原料としてアダマンタン10gの代わりに1,3−ジブロモアダマンタン5gと1,3−アダマンタンジオール5gの混合物を用いた以外は同様に実施した。結果を表1に示す。
【0053】
比較例1
実施例1において、薄膜原料としてアダマンタンの代わりにトリヒドロキシアダマンタンを用いた以外は同様に実施した。結果を表1に示す。
誘電率以外の全ての評価項目において、実施例1〜5で得られた薄膜に対して劣る結果であった。特に、剥離試験の結果からは、実用に適さないものと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の薄膜は、電気・電子分野における低誘電材料、高強度材料、耐熱材料等として有用である。具体的に、CPU、DRAM、フラッシュメモリ等の半導体装置、薄膜上にパターン形成し、回路を描いて作製された薄膜トランジスタに代表される情報処理用小型電子回路装置、高周波通信用電子回路装置等の電子回路装置、画像表示装置、表面保護膜、光学膜等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】誘導結合型プラズマ重合装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 チャンバー
2 薄膜原料タンク
3 プラズマソースガスタンク
4 マスフローコントローラー
5 誘導コイル
6 誘電体板
7 マッチングボックス
8 高周波電源
9 真空ポンプ
10 温度可変基板保持台
11 基板
12 圧力計
13 導入口
14 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、(2)及び(3)で表される多環脂環式化合物から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物を前駆体物質とする薄膜。
【化1】

(式中、Xは、ハロゲン基、カルボキシル基、シリル基、シロキシ基、ニトロ基、アミノ基、エポキシ基、フッ素含有脂肪族基、フッ素含有芳香族基、メチル基、エチル基、置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和直鎖状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数3〜20の飽和分岐状脂肪族基、置換又は非置換の炭素数3〜50の飽和脂環式置換基、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基を表す。l、m及びnは置換基Xの置換数を表し、lは0〜10の整数、mは0〜18の整数、nは0〜14の整数である。
l、m又はnが2以上の場合、それぞれのXは同一であっても異なっていても良く、それらは同一の炭素上に結合していても、異なる炭素上に結合していても良い。)
【請求項2】
前記多環脂環式化合物が、アダマンタン、ビアダマンタン、ジアマンタン、及び下記式(4)〜(15)から選ばれる1種類以上の多環脂環式化合物である請求項1記載の薄膜。
【化2】

(式中、Yはブロモ基又はカルボキシル基であり、Yが2つ以上ある場合、それぞれのYは同一であっても異なっていても良い。)
【請求項3】
前記多環脂環式化合物をプラズマ重合法により薄膜とする請求項1又は2記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の薄膜からなる低誘電材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の薄膜からなる半導体用層間絶縁膜。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の薄膜からなる光学膜。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の薄膜からなる高強度高耐熱材料。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の薄膜を含む半導体装置。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の薄膜を含む画像表示装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の薄膜を含む電子回路装置。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の薄膜を含む表面保護膜。

【図1】
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【公開番号】特開2008−201982(P2008−201982A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−42096(P2007−42096)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】