多目標追尾装置
【課題】追尾性能が高く、しかも操作性に優れた小型化可能な多目標追尾装置を提供する。
【解決手段】外部から入力される目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置において、各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成する追尾フィルタ選択部5と、追尾フィルタ選択部で生成された制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行する追尾フィルタ処理部1aおよび3aを備える。
【解決手段】外部から入力される目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置において、各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成する追尾フィルタ選択部5と、追尾フィルタ選択部で生成された制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行する追尾フィルタ処理部1aおよび3aを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーダ装置などといったセンサから送られてくる目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の目標を追尾する多目標追尾装置が知られている(例えば、非特許文献1参照)。図11は、このような従来の多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。この多目標追尾装置は、相関処理部1、トラックファイルメンテナンス部2、フィルタリング処理部3および追尾制御部4を備えている。これらの構成要素間はデータ線によって接続されており、相互にデータを送受できるようになっている。なお、図11中のトラックファイル11は、トラックファイルメンテナンス部2によって作成または削除されるファイルである。
【0003】
相関処理部1は、図示しないセンサから目標の観測値が入力された場合に、フィルタリング処理部3から送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理、および、ゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、これらの処理結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0004】
トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1から送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合は、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11によって示されるゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合に、目標が失われたと判断してトラックファイル11を削除する。
【0005】
フィルタリング処理部3は、目標の予測値を算出するとともに、相関処理部1において連結が取れた観測値と予測値を用いて平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。追尾制御部4は、外部とのインタフェースであり、必要な情報を各部へ送る。
【0006】
トラックファイル11は、追尾している目標に関する情報が格納されるファイルであり、位置および速度といった航跡情報の他、観測回数およびフィルタリング処理のフィルタゲインに関する情報などが格納される。
【0007】
次に、追尾フィルタについて説明する。追尾フィルタは、相関処理部1における処理とフィルタリング処理部3における処理とによって実現される。
【0008】
追尾フィルタとしては、NN(Nearest Neighbor)フィルタ、PDA(Probabilistic Data Association)フィルタ、JPDA(Joint Probabilistic Data Association)フィルタ、IMM(Interacting Multiple Model)フィルタ、IMMPDA(Interacting Multiple Model Probabilistic Data Association)フィルタ、IMMJPDA(Interacting Multiple Model Joint Probabilistic Data Association)フィルタ等といった多くのフィルタが提案されている。これら各フィルタのアルゴリズムについては、非特許文献2〜非特許文献4に説明されているので、ここでは詳細な説明を省略するが、以下に各フィルタの特徴を簡単に説明する。
【0009】
NNフィルタは、ゲート内の最近傍の観測値を用いて処理を行なうフィルタである。以下では、NNフィルタの追尾性能を基準とする。PDAフィルタは、ゲート内の全ての観測値に対し、相関確率で重み付けをして処理を行なうフィルタであり、誤警報環境下の追尾性能に優れる。JPDAフィルタは、複数の近接目標の各々のゲートとゲート内の全ての観測値に対し、相関確率で重み付けをして処理を行なうフィルタであり、誤警報環境下の近接目標に対する追尾性能に優れる。
【0010】
IMMフィルタは、複数の運動モデルを用いて目標の運動諸元を推定し、これらを重み付け統合するフィルタであり、高機動目標に対する追尾性能に優れる。IMMPDAフィルタは、IMMフィルタとPDAフィルタを組み合わせたフィルタであり、誤警報環境下の高機動目標に対する追尾性能に優れる。IMMJPDAフィルタは、IMMフィルタとJPDAフィルタを組み合わせたフィルタであり、誤警報環境下の近接した高機動目標に対する追尾性能に優れる。
【0011】
次に、上記のように構成される従来の多目標追尾装置の動作を説明する。図12は、従来の多目標追尾装置における目標追尾処理の流れを示すフローチャートである。目標追尾処理においては、まず、観測値が入力される(ステップS101)。すなわち、図示しないセンサから送られてくる目標の観測値が相関処理部1に入力される。
【0012】
次いで、フィルタリング処理(予測値の算出)が実行される(ステップS102)。すなわち、フィルタリング処理部3は、目標の予測値を算出し、相関処理部1に送る。次いで、ゲーティング処理が実行される(ステップS103)。すなわち、相関処理部1は、フィルタリング処理部3から送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理を実行する。
【0013】
次いで、連結処理が実行される(ステップS104)。すなわち、相関処理部1は、ステップS103の処理で得られたゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、その結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0014】
トラックファイルメンテナンス処理が実行される(ステップS105)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1から送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11に対応するゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合、目標が失われたと判断して、トラックファイル11を削除する。
【0015】
次いで、フィルタリング処理(平滑値の算出)が実行される(ステップS106)。すなわち、フィルタリング処理部3は、相関処理部1において連結が取れた観測値と予測値を用いて、平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。以降、追尾終了まで上記処理が繰り返される。
【0016】
なお、複数の目標を追尾する他の多目標追尾装置として、特許文献1には、低仰角と高仰角で垂直方向のフィルタリング処理を切り替える追尾装置、特許文献2には、目標の運動モデルを切り替える追尾装置がそれぞれ開示されている。これら特許文献1および特許文献2に開示された追尾装置では、フィルタリング処理のパラメータレベルで切り替えが行われるために、追尾処理のための計算量に変動がなく、装置規模に影響しない。
【特許文献1】特開平9−236657号公報
【特許文献2】特開平9−297176号公報
【非特許文献1】吉田孝監修, "改訂 レーダ技術,",電子情報通信学会, 1996.
【非特許文献2】Samuel S. Blackman, "Multiple-Target Tracking with Radar Applications" Artech House Publishers, 1986.
【非特許文献3】D. Lerro, and Y. Bar-Shalom, "Interacting multiple model tracking with target amplitude feature," IEEE Transaction on Aerospace and Electronic Systems 29, pp. 494-509, April 1993.
【非特許文献4】亀田洋志,辻道信吾,小菅義夫, "広域複数レーダによる旋回複数目標追尾,"電子情報通信学会論文誌 B Vol.J83-B No.12 pp.1747-1759, Dec. 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述した従来の多目標追尾装置において追尾フィルタとして使用されるPDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタまたはIMMJPDAフィルタ等は、NNフィルタよりも追尾性能が向上する反面、計算量が増加する。なお、非特許文献2〜非特許文献4には、これらの追尾フィルタを自動的に切り替えて目標を追尾するアルゴリズムは開示されていない。
【0018】
この多目標追尾装置において、計算量を最適化しようとすると、操作員が目標毎に追尾フィルタの種類を選択する必要があり、操作員の負荷が増大する。そこで、操作員の負荷を低減しようとすると、全ての目標に対して、追尾性能が高く計算量も大きな追尾フィルタを選択する必要があり、多目標追尾装置の小型化が難しい。
【0019】
例えば、追尾フィルタとしてNNフィルタの代わりにIMMフィルタを選択した場合、NNフィルタでは、単一の運動モデルを仮定するため、平滑および予測処理が1回で済むのに対し、IMMフィルタでは、複数の運動モデルを仮定するため、少なくともモデル数分の平滑および予測処理を実施する必要があり、計算量が増加し、多目標追尾装置の規模が大型化する。
【0020】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、追尾性能が高く、しかも操作性に優れた小型化可能な多目標追尾装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、第1の発明は、外部から入力される目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置において、各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成する追尾フィルタ選択部と、追尾フィルタ選択部で生成された制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行する追尾フィルタ処理部とを備えたことを特徴とする。
【0022】
第2の発明は、第1の発明において、追尾フィルタ選択部において複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定するために使用される判定基準値を入力する判定基準値入力部を備えたことを特徴とする。
【0023】
第3の発明は、第1または第2の発明において、追尾フィルタ選択部は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎にNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタ及びIMMJPDAフィルタの少なくとも2つ以上の中からいずれか1つの追尾フィルタを選択するかを判定することを特徴とする。
【0024】
第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする。
【0025】
第5の発明は、第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された他目標との距離が距離の判定基準値を超え、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値を超え、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下の場合、JPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値を超え、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値を超え、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超える場合、IMMJPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする。
【0026】
第6の発明は、第1乃至第5の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、さらに、目標毎の選択された追尾フィルタの種類、目標毎の判定基準値と比較される値、または、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数の少なくとも1つを外部に出力することを特徴とする。
【0027】
第7の発明は、第1乃至第6の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数を表す値、相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する機能の有効/無効を外部からの指示に応じて切り替え、無効が指示された場合に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを外部からの指示に応じて決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、特許文献1および特許文献2に開示された技術と異なり、処理アルゴリズムが異なる追尾フィルタのレベルで処理を切り替えるために、計算量の変動があり、装置規模に影響があることが大きな特徴である。本発明によれば、追尾性能が高く、しかも操作性に優れた小型化可能な多目標追尾装置を提供できる。
【0029】
第1の発明によれば、各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成し、この制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行するので、操作員の負荷を増大させることなく、追尾性能を向上させる多目標追尾装置を提供できる。
【0030】
また、第2の発明によれば、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定するために使用される判定基準値を外部から入力できるので、計算量の大きな追尾フィルタが多数選択されて、システムの計算能力をオーバーすることがないように制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、背景技術の欄で説明した構成部分に相当する部分には、背景技術の欄で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。この多目標追尾装置は、相関処理部1a、トラックファイルメンテナンス部2、フィルタリング処理部3a、追尾制御部4および追尾フィルタ選択部5を備えている。これらの構成要素間はデータ線によって接続されており、相互にデータを送受できるようになっている。なお、図1中のトラックファイル11は、トラックファイルメンテナンス部2によって作成または削除されるファイルである。
【0033】
本発明の複数種類の追尾フィルタには、背景技術の欄で説明したNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタおよびIMMJPDAフィルタが含まれる。複数種類の追尾フィルタの各々は、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aの各処理によって実現される。本発明の追尾フィルタ処理部は、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aから構成されている。
【0034】
相関処理部1aは、図示しないセンサから目標の観測値が入力された場合に、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に応じて処理方式を切り替えるとともに、フィルタリング処理部3aから送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理、および、ゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、これらの処理結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0035】
トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1aから送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合は、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11によって示されるゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合に、目標が失われたと判断してトラックファイル11を削除する。
【0036】
フィルタリング処理部3aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に応じて処理方式を切り替えるとともに、目標の予測値を算出し、さらに、相関処理部1aにおいて連結が取れた観測値と予測値を用いて平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。追尾制御部4は、外部とのインタフェースであり、必要な情報を各部へ送る。
【0037】
追尾フィルタ選択部5は、相関処理部1aから送られてくるゲート内の観測値数とフィルタリング処理部3aから送られてくる状態変数とを入力し、これらの少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する。そして、この判定結果に応じた制御信号を生成し、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。
【0038】
トラックファイル11は、追尾している目標に関する情報が格納されるファイルであり、このトラックファイル11には、位置および速度といった航跡情報の他、観測回数およびフィルタリング処理のフィルタゲインに関する情報などが格納される。
【0039】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0040】
目標追尾処理においては、まず、観測値が入力される(ステップS11)。すなわち、図示しないセンサから送られてくる目標の観測値が相関処理部1aに入力される。次いで、フィルタリング処理(予測値の算出)が実行される(ステップS12)。すなわち、フィルタリング処理部3aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、予測値を算出して相関処理部1aに送る。
【0041】
次いで、ゲーティング処理が実行される(ステップS13)。すなわち、相関処理部1aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、フィルタリング処理部3aから送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理を実行する。
【0042】
次いで、連結処理が実行される(ステップS14)。すなわち、相関処理部1aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、ステップS13の処理で得られたゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、その結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0043】
次いで、トラックファイルメンテナンス処理が実行される(ステップS15)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1aから送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11に対応するゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合、目標が失われたと判断して、トラックファイル11を削除する。
【0044】
次いで、フィルタリング処理(平滑値の算出)が実行される(ステップS16)。すなわち、フィルタリング処理部3aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、相関処理部1aにおいて連結が取れた観測値と予測値を用いて平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。
【0045】
次いで、追尾フィルタ選択処理が実行される(ステップS17)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関処理部1aから送られてくるゲート内の観測値数とフィルタリング処理部3aから送られてくる状態変数との少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタの中から1つを選択し、この選択結果に応じた制御信号を生成して相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。この追尾フィルタ選択処理では、追尾フィルタとして、NNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタおよびIMMJPDAフィルタのいずれかが選択される。この追尾フィルタ選択処理の詳細は後述する。以降、追尾終了まで上記処理が繰り返される。
【0046】
次に、上記ステップS17において実行される追尾フィルタ選択処理の詳細を、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0047】
追尾フィルタ選択処理では、まず、目標の機動パラメータが判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST201)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが、あらかじめ設定された高機動判定用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0048】
観測時刻tkにおける目標の機動パラメータmnu(k)は、以下の(1)式で算出される。
【数1】
【0049】
ここで、目標の状態ベクトルとして目標の位置、速度および加速度の平滑ベクトルが(2)式で表されるとする。
【数2】
【0050】
このとき、目標の加速度の最大値amax(k)は、以下の(3)式および(4)式で算出される。
【数3】
【0051】
また、目標の距離r(k)は、以下の(5)式で算出される。
【数4】
【0052】
なお、目標の距離r(k)としては、目標の予測位置から算出される距離や観測値の距離を用いることもできる。
【0053】
また、目標の状態ベクトルとして、(6)式で表されるように、目標の平滑ベクトルが加速度項を含まない場合、(4)式の代わりに以下の(7)式を用いることができる。
【数5】
【0054】
また、機動パラメータや加速度の最大値は、平均処理して用いるように構成することもできる。
【0055】
上記ステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えていない、つまり、目標の機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であると判断された場合は、低機動目標であると認識され、次いで、他目標との距離が判定基準値以下かどうかが調べられる(ステップST202)。
【0056】
上記ステップST202において、他目標との距離が判定基準値以下でないことが判断された場合、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST203)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、あらかじめ設定されている観測値数用の判定基準値を超えたか否かを調べる。
【0057】
このステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えていないことが判断されると、NNフィルタが選択される(ステップST206)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてNNフィルタを選択する。
【0058】
次いで、選択結果が出力される(ステップST212)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、選択した追尾フィルタを表す制御信号を生成し、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。その後、追尾フィルタ選択処理は終了する。
【0059】
上記ステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、PDAフィルタが選択される(ステップST207)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0060】
上記ステップST202において、他目標との距離が判定基準値以下であることが判断されると、JPDAフィルタが選択される(ステップST208)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてJPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0061】
ここで、i番目の目標の状態ベクトルとして目標位置の予測ベクトルxi(k|k−1)が(9)式で表されるとすると、他目標(j番目の目標)との距離rij(k)は、(10)式で算出される。
【数6】
【0062】
上記ステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えた、つまり、目標の機動パラメータが、高機動判定用の判定基準値を超えたと判断された場合は、高機動目標であると認識され、次いで、他目標との距離が判定基準値以下かどうかが調べられる(ステップST204)。
【0063】
上記ステップST204において、他目標との距離が判定基準値以下でないことが判断された場合、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST205)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、あらかじめ設定されている観測値数用の判定基準値を超えたか否かを調べる。
【0064】
このステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えてないことが判断されると、IMMフィルタが選択される(ステップST209)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてIMMフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0065】
上記ステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、IMMPDAフィルタが選択される(ステップST210)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてIMMPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0066】
上記ステップST204において、他目標との距離が判定基準値以下である、つまり、他目標との距離が距離用の判定基準値以下であることが判断されると、IMMJPDAフィルタが選択される(ステップST211)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてIMMJPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0067】
(実施例1の変形例)
次に、実施例1の多目標追尾装置の変形例を説明する。図4は本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。図5は本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【0068】
実施例1の変形例は、実施例1の追尾選択処理部5に代えて、図5に示す選択ロジック部20を用いたことを特徴とする。選択ロジック部20は、図5(a)に示すように、メモリに記憶されたテーブル30を有し、テーブル30に記憶された機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、他目標との距離と判定基準値th2との大小比較情報及び各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報を参照して、入力された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数と各判定基準値th1,th2,th3とを比較して、追尾フィルタの方式を選択する。
【0069】
テーブル30は、図5(b)に示すように、機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、他目標との距離と判定基準値th2との大小比較情報、各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報、出力方式、選択されるフィルタを記憶する。
【0070】
次に、このテーブルを参照して選択ロジック部20が行う処理、すなわち、図4に示す追尾フィルタ選択処理を説明する。選択ロジック部20に機動パラメータと他目標との距離と各目標の相関ゲート内の観測値数とが入力されると、選択ロジック部20は、テーブル20の各判定基準値情報を参照して追尾フィルタの方式を選択する(ステップST201a,202a)。
【0071】
具体的には、選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式1を選択して、NNフィルタを選択する(ステップST206)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0072】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式2を選択して、PDAフィルタを選択する(ステップST207)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0073】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、入力された他目標との距離が判定基準値th2以下である場合には、方式3を選択して、JPDAフィルタを選択する(ステップST208)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式4を選択して、IMMフィルタを選択する(ステップST209)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0074】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式5を選択して、IMMPDAフィルタを選択する(ステップST210)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0075】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、入力された他目標との距離が判定基準値th2以下である場合には、方式6を選択して、IMMJPDAフィルタを選択する(ステップST211)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【実施例2】
【0076】
図6は、本発明の実施例2に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。この実施例2に係る多目標追尾装置は、実施例1に係る多目標追尾装置に、判定基準値入力部6が追加されて構成されている。判定基準値入力部6は、追尾フィルタ選択部5で使用される判定基準値を外部から入力し、該追尾フィルタ選択部5へ送る。
【0077】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、上述した実施例1に係る多目標追尾装置における目標追尾処理(図2参照)と同じ処理を実行するステップには、図2のフローチャートで使用した符号と同じ符号を付して説明を簡略化する。
【0078】
目標追尾処理においては、まず、観測値が入力される(ステップS11)。次いで、フィルタリング処理(予測値の算出)が実行される(ステップS12)。次いで、ゲーティング処理が実行される(ステップS13)。次いで、連結処理が実行される(ステップS14)。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が実行される(ステップS15)。次いで、フィルタリング処理(平滑値の算出)が実行される(ステップS16)。
【0079】
次いで、判定基準値入力が行われる(ステップS41)。すなわち、判定基準値入力部6は、追尾フィルタ選択部5で使用される判定基準値を外部から入力し、該追尾フィルタ選択部5へ送る。
【0080】
次いで、追尾フィルタ選択処理が実行される(ステップS17a)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関処理部1aから送られてくるゲート内の観測値数とフィルタリング処理部3aから送られてくる状態変数を入力し、これらの少なくとも1つに基づいて、目標毎に複数種類の追尾フィルタの中から1つを選択し、この選択した結果を自己の内部に保存する。この追尾フィルタ選択処理では、追尾フィルタとして、NNフィルタ、PDAフィルタ、IMMフィルタまたはIMMPDAフィルタのいずれかが選択される。この追尾フィルタ選択処理の詳細は後述する。以降、追尾終了まで上記処理が繰り返される。
【0081】
次に、上記ステップS17aにおいて実行される追尾フィルタ選択処理の詳細を、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0082】
追尾フィルタ選択処理では、まず、目標の機動パラメータが判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST201)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが、判定基準値入力部6から入力された高機動判定用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0083】
このステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えていない、つまり、目標の機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であると判断された場合は、低機動目標であると認識され、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST203)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、判定基準値入力部6から入力された観測値数用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0084】
このステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えていないことが判断されると、NNフィルタが選択される(ステップST206)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてNNフィルタを選択する。
【0085】
次いで、選択結果が出力される(ステップST212)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、選択した追尾フィルタを表す制御信号を生成し、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。その後、追尾フィルタ選択処理は終了する。
【0086】
上記ステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、PDAフィルタが選択される(ステップST207)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0087】
上記ステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えた、つまり、目標の機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下でないと判断された場合は、高機動目標であると認識され、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST205)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、判定基準値入力部6から入力された観測値数用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0088】
このステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えていないことが判断されると、IMMフィルタが選択される(ステップST209)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下であることを判断すると、追尾フィルタとしてIMMフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0089】
上記ステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、IMMPDAフィルタが選択される(ステップST210)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下でないことを判断すると、追尾フィルタとしてIMMPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0090】
なお、上述したステップST203における低機動目標に対する相関ゲート内の観測値数用の判定基準値として、ステップST205における高機動目標に対する相関ゲート内の観測値数用の判定基準値と同じ値を用いることができる。これにより、2種類の判定基準値を外部から設定することにより、多目標追尾装置の計算量を調整することができる。
【0091】
また、追尾フィルタ選択部5は、選択されている追尾フィルタの種類、判定基準値と比較される値、または、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数の少なくとも1つを外部に出力するように構成できる。
【0092】
この構成により、操作員は、外部に出力された情報に応じて、判定基準値入力部6から所望の判定基準値を入力することにより、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数を用いて計算量を粗く制御することが可能になり、また、判定基準値との比較に用いる値を用いて計算量を細かく制御することもできる。
【0093】
例えば、IMMフィルタとIMMPDAフィルタの利用数が多く、多目標追尾装置の計算量が増大した場合、ステップST201における判定基準値を大きくすることにより、複数運動モデルであるIMMフィルタとIMMPDAフィルタの利用数が減少するため、多目標追尾装置の計算量を低減させることができる。
【0094】
さらに、追尾フィルタ選択部5は、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する機能の有効/無効を外部からの指示に応じて切り替え、無効が指示された場合に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを外部からの指示に応じて決定するように構成できる。
【0095】
この構成によれば、特定の目標に対して、選択されている追尾フィルタの種類が操作員の希望する追尾フィルタと異なる場合、その目標に対する追尾フィルタ選択部5の判定結果を外部から無効に切り替え、外部から設定する追尾フィルタを選択することができる。
【0096】
(実施例2の変形例)
次に、実施例2の多目標追尾装置の変形例を説明する。図9は本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。図10は本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【0097】
実施例2の変形例は、実施例2の追尾選択処理部5に代えて、図10に示す選択ロジック部20aを用いたことを特徴とする。選択ロジック部20aは、図10(a)に示すように、メモリに記憶されたテーブル30aを有し、テーブル30aに記憶された機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報を参照して、入力された機動パラメータ、各目標の相関ゲート内の観測値数と各判定基準値th1,th3とを比較して、追尾フィルタの方式を選択する。
【0098】
テーブル30aは、図10(b)に示すように、機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報、出力方式、選択されるフィルタを記憶する。
【0099】
次に、このテーブルを参照して選択ロジック部20aが行う処理、すなわち、図9に示す追尾フィルタ選択処理を説明する。選択ロジック部20aに機動パラメータと各目標の相関ゲート内の観測値数とが入力されると、選択ロジック部20aは、テーブル20aの各判定基準値情報を参照して追尾フィルタの方式を選択する(ステップST201b,202b)。
【0100】
具体的には、選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式1を選択して、NNフィルタを選択する(ステップST206)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0101】
選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式2を選択して、PDAフィルタを選択する(ステップST207)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0102】
選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式3を選択して、IMMフィルタを選択する(ステップST209)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0103】
選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式4を選択して、IMMPDAフィルタを選択する(ステップST210)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0104】
実施例1の変形例では、テーブル30に設定された6つの方式からいずれか1つのフィルタを選択したが、実施例2の変形例では、テーブル30に設定された4つの方式からいずれか1つのフィルタを選択しており、テーブルへの設定によって、フィルタの数を動的に切り換えることができる。
【0105】
なお、本発明は上述した各実施例に限定されるものではない。追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎にNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタ及びIMMJPDAフィルタの少なくとも2つ以上の中からいずれか1つの追尾フィルタを選択するかを判定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、レーダセンサやソナーセンサなどといった多目標追尾装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【図6】本発明の実施例2に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【図11】従来の多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図12】従来の多目標追尾装置における目標追尾処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
1a 相関処理部
2 トラックファイルメンテナンス部
3a フィルタリング処理部
4 追尾制御部
5 追尾フィルタ選択部
6 判定基準値入力部
11 トラックファイル
20,20a 選択ロジック部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーダ装置などといったセンサから送られてくる目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の目標を追尾する多目標追尾装置が知られている(例えば、非特許文献1参照)。図11は、このような従来の多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。この多目標追尾装置は、相関処理部1、トラックファイルメンテナンス部2、フィルタリング処理部3および追尾制御部4を備えている。これらの構成要素間はデータ線によって接続されており、相互にデータを送受できるようになっている。なお、図11中のトラックファイル11は、トラックファイルメンテナンス部2によって作成または削除されるファイルである。
【0003】
相関処理部1は、図示しないセンサから目標の観測値が入力された場合に、フィルタリング処理部3から送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理、および、ゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、これらの処理結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0004】
トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1から送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合は、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11によって示されるゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合に、目標が失われたと判断してトラックファイル11を削除する。
【0005】
フィルタリング処理部3は、目標の予測値を算出するとともに、相関処理部1において連結が取れた観測値と予測値を用いて平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。追尾制御部4は、外部とのインタフェースであり、必要な情報を各部へ送る。
【0006】
トラックファイル11は、追尾している目標に関する情報が格納されるファイルであり、位置および速度といった航跡情報の他、観測回数およびフィルタリング処理のフィルタゲインに関する情報などが格納される。
【0007】
次に、追尾フィルタについて説明する。追尾フィルタは、相関処理部1における処理とフィルタリング処理部3における処理とによって実現される。
【0008】
追尾フィルタとしては、NN(Nearest Neighbor)フィルタ、PDA(Probabilistic Data Association)フィルタ、JPDA(Joint Probabilistic Data Association)フィルタ、IMM(Interacting Multiple Model)フィルタ、IMMPDA(Interacting Multiple Model Probabilistic Data Association)フィルタ、IMMJPDA(Interacting Multiple Model Joint Probabilistic Data Association)フィルタ等といった多くのフィルタが提案されている。これら各フィルタのアルゴリズムについては、非特許文献2〜非特許文献4に説明されているので、ここでは詳細な説明を省略するが、以下に各フィルタの特徴を簡単に説明する。
【0009】
NNフィルタは、ゲート内の最近傍の観測値を用いて処理を行なうフィルタである。以下では、NNフィルタの追尾性能を基準とする。PDAフィルタは、ゲート内の全ての観測値に対し、相関確率で重み付けをして処理を行なうフィルタであり、誤警報環境下の追尾性能に優れる。JPDAフィルタは、複数の近接目標の各々のゲートとゲート内の全ての観測値に対し、相関確率で重み付けをして処理を行なうフィルタであり、誤警報環境下の近接目標に対する追尾性能に優れる。
【0010】
IMMフィルタは、複数の運動モデルを用いて目標の運動諸元を推定し、これらを重み付け統合するフィルタであり、高機動目標に対する追尾性能に優れる。IMMPDAフィルタは、IMMフィルタとPDAフィルタを組み合わせたフィルタであり、誤警報環境下の高機動目標に対する追尾性能に優れる。IMMJPDAフィルタは、IMMフィルタとJPDAフィルタを組み合わせたフィルタであり、誤警報環境下の近接した高機動目標に対する追尾性能に優れる。
【0011】
次に、上記のように構成される従来の多目標追尾装置の動作を説明する。図12は、従来の多目標追尾装置における目標追尾処理の流れを示すフローチャートである。目標追尾処理においては、まず、観測値が入力される(ステップS101)。すなわち、図示しないセンサから送られてくる目標の観測値が相関処理部1に入力される。
【0012】
次いで、フィルタリング処理(予測値の算出)が実行される(ステップS102)。すなわち、フィルタリング処理部3は、目標の予測値を算出し、相関処理部1に送る。次いで、ゲーティング処理が実行される(ステップS103)。すなわち、相関処理部1は、フィルタリング処理部3から送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理を実行する。
【0013】
次いで、連結処理が実行される(ステップS104)。すなわち、相関処理部1は、ステップS103の処理で得られたゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、その結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0014】
トラックファイルメンテナンス処理が実行される(ステップS105)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1から送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11に対応するゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合、目標が失われたと判断して、トラックファイル11を削除する。
【0015】
次いで、フィルタリング処理(平滑値の算出)が実行される(ステップS106)。すなわち、フィルタリング処理部3は、相関処理部1において連結が取れた観測値と予測値を用いて、平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。以降、追尾終了まで上記処理が繰り返される。
【0016】
なお、複数の目標を追尾する他の多目標追尾装置として、特許文献1には、低仰角と高仰角で垂直方向のフィルタリング処理を切り替える追尾装置、特許文献2には、目標の運動モデルを切り替える追尾装置がそれぞれ開示されている。これら特許文献1および特許文献2に開示された追尾装置では、フィルタリング処理のパラメータレベルで切り替えが行われるために、追尾処理のための計算量に変動がなく、装置規模に影響しない。
【特許文献1】特開平9−236657号公報
【特許文献2】特開平9−297176号公報
【非特許文献1】吉田孝監修, "改訂 レーダ技術,",電子情報通信学会, 1996.
【非特許文献2】Samuel S. Blackman, "Multiple-Target Tracking with Radar Applications" Artech House Publishers, 1986.
【非特許文献3】D. Lerro, and Y. Bar-Shalom, "Interacting multiple model tracking with target amplitude feature," IEEE Transaction on Aerospace and Electronic Systems 29, pp. 494-509, April 1993.
【非特許文献4】亀田洋志,辻道信吾,小菅義夫, "広域複数レーダによる旋回複数目標追尾,"電子情報通信学会論文誌 B Vol.J83-B No.12 pp.1747-1759, Dec. 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述した従来の多目標追尾装置において追尾フィルタとして使用されるPDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタまたはIMMJPDAフィルタ等は、NNフィルタよりも追尾性能が向上する反面、計算量が増加する。なお、非特許文献2〜非特許文献4には、これらの追尾フィルタを自動的に切り替えて目標を追尾するアルゴリズムは開示されていない。
【0018】
この多目標追尾装置において、計算量を最適化しようとすると、操作員が目標毎に追尾フィルタの種類を選択する必要があり、操作員の負荷が増大する。そこで、操作員の負荷を低減しようとすると、全ての目標に対して、追尾性能が高く計算量も大きな追尾フィルタを選択する必要があり、多目標追尾装置の小型化が難しい。
【0019】
例えば、追尾フィルタとしてNNフィルタの代わりにIMMフィルタを選択した場合、NNフィルタでは、単一の運動モデルを仮定するため、平滑および予測処理が1回で済むのに対し、IMMフィルタでは、複数の運動モデルを仮定するため、少なくともモデル数分の平滑および予測処理を実施する必要があり、計算量が増加し、多目標追尾装置の規模が大型化する。
【0020】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、追尾性能が高く、しかも操作性に優れた小型化可能な多目標追尾装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、第1の発明は、外部から入力される目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置において、各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成する追尾フィルタ選択部と、追尾フィルタ選択部で生成された制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行する追尾フィルタ処理部とを備えたことを特徴とする。
【0022】
第2の発明は、第1の発明において、追尾フィルタ選択部において複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定するために使用される判定基準値を入力する判定基準値入力部を備えたことを特徴とする。
【0023】
第3の発明は、第1または第2の発明において、追尾フィルタ選択部は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎にNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタ及びIMMJPDAフィルタの少なくとも2つ以上の中からいずれか1つの追尾フィルタを選択するかを判定することを特徴とする。
【0024】
第4の発明は、第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする。
【0025】
第5の発明は、第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された他目標との距離が距離の判定基準値を超え、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値を超え、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下の場合、JPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値を超え、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値を超え、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超える場合、IMMJPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする。
【0026】
第6の発明は、第1乃至第5の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、さらに、目標毎の選択された追尾フィルタの種類、目標毎の判定基準値と比較される値、または、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数の少なくとも1つを外部に出力することを特徴とする。
【0027】
第7の発明は、第1乃至第6の発明のいずれか1つにおいて、追尾フィルタ選択部は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数を表す値、相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する機能の有効/無効を外部からの指示に応じて切り替え、無効が指示された場合に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを外部からの指示に応じて決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、特許文献1および特許文献2に開示された技術と異なり、処理アルゴリズムが異なる追尾フィルタのレベルで処理を切り替えるために、計算量の変動があり、装置規模に影響があることが大きな特徴である。本発明によれば、追尾性能が高く、しかも操作性に優れた小型化可能な多目標追尾装置を提供できる。
【0029】
第1の発明によれば、各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成し、この制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行するので、操作員の負荷を増大させることなく、追尾性能を向上させる多目標追尾装置を提供できる。
【0030】
また、第2の発明によれば、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定するために使用される判定基準値を外部から入力できるので、計算量の大きな追尾フィルタが多数選択されて、システムの計算能力をオーバーすることがないように制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、背景技術の欄で説明した構成部分に相当する部分には、背景技術の欄で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。この多目標追尾装置は、相関処理部1a、トラックファイルメンテナンス部2、フィルタリング処理部3a、追尾制御部4および追尾フィルタ選択部5を備えている。これらの構成要素間はデータ線によって接続されており、相互にデータを送受できるようになっている。なお、図1中のトラックファイル11は、トラックファイルメンテナンス部2によって作成または削除されるファイルである。
【0033】
本発明の複数種類の追尾フィルタには、背景技術の欄で説明したNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタおよびIMMJPDAフィルタが含まれる。複数種類の追尾フィルタの各々は、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aの各処理によって実現される。本発明の追尾フィルタ処理部は、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aから構成されている。
【0034】
相関処理部1aは、図示しないセンサから目標の観測値が入力された場合に、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に応じて処理方式を切り替えるとともに、フィルタリング処理部3aから送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理、および、ゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、これらの処理結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0035】
トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1aから送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合は、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11によって示されるゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合に、目標が失われたと判断してトラックファイル11を削除する。
【0036】
フィルタリング処理部3aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に応じて処理方式を切り替えるとともに、目標の予測値を算出し、さらに、相関処理部1aにおいて連結が取れた観測値と予測値を用いて平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。追尾制御部4は、外部とのインタフェースであり、必要な情報を各部へ送る。
【0037】
追尾フィルタ選択部5は、相関処理部1aから送られてくるゲート内の観測値数とフィルタリング処理部3aから送られてくる状態変数とを入力し、これらの少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する。そして、この判定結果に応じた制御信号を生成し、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。
【0038】
トラックファイル11は、追尾している目標に関する情報が格納されるファイルであり、このトラックファイル11には、位置および速度といった航跡情報の他、観測回数およびフィルタリング処理のフィルタゲインに関する情報などが格納される。
【0039】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0040】
目標追尾処理においては、まず、観測値が入力される(ステップS11)。すなわち、図示しないセンサから送られてくる目標の観測値が相関処理部1aに入力される。次いで、フィルタリング処理(予測値の算出)が実行される(ステップS12)。すなわち、フィルタリング処理部3aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、予測値を算出して相関処理部1aに送る。
【0041】
次いで、ゲーティング処理が実行される(ステップS13)。すなわち、相関処理部1aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、フィルタリング処理部3aから送られてくる予測値を中心にゲートを開き、観測値がゲート内にあるか否かを判定するゲーティング処理を実行する。
【0042】
次いで、連結処理が実行される(ステップS14)。すなわち、相関処理部1aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、ステップS13の処理で得られたゲート内の観測値とゲートを対応させる連結処理を実行し、その結果をトラックファイルメンテナンス部2へ送る。
【0043】
次いで、トラックファイルメンテナンス処理が実行される(ステップS15)。すなわち、トラックファイルメンテナンス部2は、相関処理部1aから送られてくる処理結果に基づき、いずれのゲートにも対応しない観測値が含まれることを判断した場合、新しい目標が発生した旨を認識して、トラックファイル11を新たに作成する。また、トラックファイルメンテナンス部2は、トラックファイル11に対応するゲート内に観測値が入って来ない状態が連続した場合、目標が失われたと判断して、トラックファイル11を削除する。
【0044】
次いで、フィルタリング処理(平滑値の算出)が実行される(ステップS16)。すなわち、フィルタリング処理部3aは、追尾フィルタ選択部5から送られてくる制御信号に基づき処理方式を切り替え、相関処理部1aにおいて連結が取れた観測値と予測値を用いて平滑値を算出し、この算出した平滑値をトラックファイル11に格納する。
【0045】
次いで、追尾フィルタ選択処理が実行される(ステップS17)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関処理部1aから送られてくるゲート内の観測値数とフィルタリング処理部3aから送られてくる状態変数との少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタの中から1つを選択し、この選択結果に応じた制御信号を生成して相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。この追尾フィルタ選択処理では、追尾フィルタとして、NNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタおよびIMMJPDAフィルタのいずれかが選択される。この追尾フィルタ選択処理の詳細は後述する。以降、追尾終了まで上記処理が繰り返される。
【0046】
次に、上記ステップS17において実行される追尾フィルタ選択処理の詳細を、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0047】
追尾フィルタ選択処理では、まず、目標の機動パラメータが判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST201)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが、あらかじめ設定された高機動判定用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0048】
観測時刻tkにおける目標の機動パラメータmnu(k)は、以下の(1)式で算出される。
【数1】
【0049】
ここで、目標の状態ベクトルとして目標の位置、速度および加速度の平滑ベクトルが(2)式で表されるとする。
【数2】
【0050】
このとき、目標の加速度の最大値amax(k)は、以下の(3)式および(4)式で算出される。
【数3】
【0051】
また、目標の距離r(k)は、以下の(5)式で算出される。
【数4】
【0052】
なお、目標の距離r(k)としては、目標の予測位置から算出される距離や観測値の距離を用いることもできる。
【0053】
また、目標の状態ベクトルとして、(6)式で表されるように、目標の平滑ベクトルが加速度項を含まない場合、(4)式の代わりに以下の(7)式を用いることができる。
【数5】
【0054】
また、機動パラメータや加速度の最大値は、平均処理して用いるように構成することもできる。
【0055】
上記ステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えていない、つまり、目標の機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であると判断された場合は、低機動目標であると認識され、次いで、他目標との距離が判定基準値以下かどうかが調べられる(ステップST202)。
【0056】
上記ステップST202において、他目標との距離が判定基準値以下でないことが判断された場合、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST203)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、あらかじめ設定されている観測値数用の判定基準値を超えたか否かを調べる。
【0057】
このステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えていないことが判断されると、NNフィルタが選択される(ステップST206)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてNNフィルタを選択する。
【0058】
次いで、選択結果が出力される(ステップST212)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、選択した追尾フィルタを表す制御信号を生成し、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。その後、追尾フィルタ選択処理は終了する。
【0059】
上記ステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、PDAフィルタが選択される(ステップST207)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0060】
上記ステップST202において、他目標との距離が判定基準値以下であることが判断されると、JPDAフィルタが選択される(ステップST208)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてJPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0061】
ここで、i番目の目標の状態ベクトルとして目標位置の予測ベクトルxi(k|k−1)が(9)式で表されるとすると、他目標(j番目の目標)との距離rij(k)は、(10)式で算出される。
【数6】
【0062】
上記ステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えた、つまり、目標の機動パラメータが、高機動判定用の判定基準値を超えたと判断された場合は、高機動目標であると認識され、次いで、他目標との距離が判定基準値以下かどうかが調べられる(ステップST204)。
【0063】
上記ステップST204において、他目標との距離が判定基準値以下でないことが判断された場合、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST205)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、あらかじめ設定されている観測値数用の判定基準値を超えたか否かを調べる。
【0064】
このステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えてないことが判断されると、IMMフィルタが選択される(ステップST209)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてIMMフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0065】
上記ステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、IMMPDAフィルタが選択される(ステップST210)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてIMMPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0066】
上記ステップST204において、他目標との距離が判定基準値以下である、つまり、他目標との距離が距離用の判定基準値以下であることが判断されると、IMMJPDAフィルタが選択される(ステップST211)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてIMMJPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0067】
(実施例1の変形例)
次に、実施例1の多目標追尾装置の変形例を説明する。図4は本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。図5は本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【0068】
実施例1の変形例は、実施例1の追尾選択処理部5に代えて、図5に示す選択ロジック部20を用いたことを特徴とする。選択ロジック部20は、図5(a)に示すように、メモリに記憶されたテーブル30を有し、テーブル30に記憶された機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、他目標との距離と判定基準値th2との大小比較情報及び各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報を参照して、入力された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数と各判定基準値th1,th2,th3とを比較して、追尾フィルタの方式を選択する。
【0069】
テーブル30は、図5(b)に示すように、機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、他目標との距離と判定基準値th2との大小比較情報、各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報、出力方式、選択されるフィルタを記憶する。
【0070】
次に、このテーブルを参照して選択ロジック部20が行う処理、すなわち、図4に示す追尾フィルタ選択処理を説明する。選択ロジック部20に機動パラメータと他目標との距離と各目標の相関ゲート内の観測値数とが入力されると、選択ロジック部20は、テーブル20の各判定基準値情報を参照して追尾フィルタの方式を選択する(ステップST201a,202a)。
【0071】
具体的には、選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式1を選択して、NNフィルタを選択する(ステップST206)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0072】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式2を選択して、PDAフィルタを選択する(ステップST207)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0073】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、入力された他目標との距離が判定基準値th2以下である場合には、方式3を選択して、JPDAフィルタを選択する(ステップST208)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式4を選択して、IMMフィルタを選択する(ステップST209)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0074】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、入力された他目標との距離が判定基準値th2を超え、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式5を選択して、IMMPDAフィルタを選択する(ステップST210)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0075】
選択ロジック部20は、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、入力された他目標との距離が判定基準値th2以下である場合には、方式6を選択して、IMMJPDAフィルタを選択する(ステップST211)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【実施例2】
【0076】
図6は、本発明の実施例2に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。この実施例2に係る多目標追尾装置は、実施例1に係る多目標追尾装置に、判定基準値入力部6が追加されて構成されている。判定基準値入力部6は、追尾フィルタ選択部5で使用される判定基準値を外部から入力し、該追尾フィルタ選択部5へ送る。
【0077】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に、図7に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、上述した実施例1に係る多目標追尾装置における目標追尾処理(図2参照)と同じ処理を実行するステップには、図2のフローチャートで使用した符号と同じ符号を付して説明を簡略化する。
【0078】
目標追尾処理においては、まず、観測値が入力される(ステップS11)。次いで、フィルタリング処理(予測値の算出)が実行される(ステップS12)。次いで、ゲーティング処理が実行される(ステップS13)。次いで、連結処理が実行される(ステップS14)。次いで、トラックファイルメンテナンス処理が実行される(ステップS15)。次いで、フィルタリング処理(平滑値の算出)が実行される(ステップS16)。
【0079】
次いで、判定基準値入力が行われる(ステップS41)。すなわち、判定基準値入力部6は、追尾フィルタ選択部5で使用される判定基準値を外部から入力し、該追尾フィルタ選択部5へ送る。
【0080】
次いで、追尾フィルタ選択処理が実行される(ステップS17a)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関処理部1aから送られてくるゲート内の観測値数とフィルタリング処理部3aから送られてくる状態変数を入力し、これらの少なくとも1つに基づいて、目標毎に複数種類の追尾フィルタの中から1つを選択し、この選択した結果を自己の内部に保存する。この追尾フィルタ選択処理では、追尾フィルタとして、NNフィルタ、PDAフィルタ、IMMフィルタまたはIMMPDAフィルタのいずれかが選択される。この追尾フィルタ選択処理の詳細は後述する。以降、追尾終了まで上記処理が繰り返される。
【0081】
次に、上記ステップS17aにおいて実行される追尾フィルタ選択処理の詳細を、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0082】
追尾フィルタ選択処理では、まず、目標の機動パラメータが判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST201)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが、判定基準値入力部6から入力された高機動判定用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0083】
このステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えていない、つまり、目標の機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であると判断された場合は、低機動目標であると認識され、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST203)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、判定基準値入力部6から入力された観測値数用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0084】
このステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えていないことが判断されると、NNフィルタが選択される(ステップST206)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてNNフィルタを選択する。
【0085】
次いで、選択結果が出力される(ステップST212)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、選択した追尾フィルタを表す制御信号を生成し、相関処理部1aおよびフィルタリング処理部3aに送る。その後、追尾フィルタ選択処理は終了する。
【0086】
上記ステップST203において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、PDAフィルタが選択される(ステップST207)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタとしてPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0087】
上記ステップST201において、目標の機動パラメータが判定基準値を超えた、つまり、目標の機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下でないと判断された場合は、高機動目標であると認識され、次いで、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたかどうかが調べられる(ステップST205)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、目標の相関ゲート内の観測値数が、判定基準値入力部6から入力された観測値数用の判定基準値を超えているか否かを調べる。
【0088】
このステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えていないことが判断されると、IMMフィルタが選択される(ステップST209)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下であることを判断すると、追尾フィルタとしてIMMフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0089】
上記ステップST205において、相関ゲート内の観測値数が判定基準値を超えたことが判断されると、IMMPDAフィルタが選択される(ステップST210)。すなわち、追尾フィルタ選択部5は、相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下でないことを判断すると、追尾フィルタとしてIMMPDAフィルタを選択する。その後、ステップST212に進み、上述したように、選択結果が出力される。
【0090】
なお、上述したステップST203における低機動目標に対する相関ゲート内の観測値数用の判定基準値として、ステップST205における高機動目標に対する相関ゲート内の観測値数用の判定基準値と同じ値を用いることができる。これにより、2種類の判定基準値を外部から設定することにより、多目標追尾装置の計算量を調整することができる。
【0091】
また、追尾フィルタ選択部5は、選択されている追尾フィルタの種類、判定基準値と比較される値、または、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数の少なくとも1つを外部に出力するように構成できる。
【0092】
この構成により、操作員は、外部に出力された情報に応じて、判定基準値入力部6から所望の判定基準値を入力することにより、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数を用いて計算量を粗く制御することが可能になり、また、判定基準値との比較に用いる値を用いて計算量を細かく制御することもできる。
【0093】
例えば、IMMフィルタとIMMPDAフィルタの利用数が多く、多目標追尾装置の計算量が増大した場合、ステップST201における判定基準値を大きくすることにより、複数運動モデルであるIMMフィルタとIMMPDAフィルタの利用数が減少するため、多目標追尾装置の計算量を低減させることができる。
【0094】
さらに、追尾フィルタ選択部5は、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する機能の有効/無効を外部からの指示に応じて切り替え、無効が指示された場合に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを外部からの指示に応じて決定するように構成できる。
【0095】
この構成によれば、特定の目標に対して、選択されている追尾フィルタの種類が操作員の希望する追尾フィルタと異なる場合、その目標に対する追尾フィルタ選択部5の判定結果を外部から無効に切り替え、外部から設定する追尾フィルタを選択することができる。
【0096】
(実施例2の変形例)
次に、実施例2の多目標追尾装置の変形例を説明する。図9は本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。図10は本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【0097】
実施例2の変形例は、実施例2の追尾選択処理部5に代えて、図10に示す選択ロジック部20aを用いたことを特徴とする。選択ロジック部20aは、図10(a)に示すように、メモリに記憶されたテーブル30aを有し、テーブル30aに記憶された機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報を参照して、入力された機動パラメータ、各目標の相関ゲート内の観測値数と各判定基準値th1,th3とを比較して、追尾フィルタの方式を選択する。
【0098】
テーブル30aは、図10(b)に示すように、機動パラメータと判定基準値th1との大小比較情報、各目標の相関ゲート内の観測値数と判定基準値th3との大小比較情報、出力方式、選択されるフィルタを記憶する。
【0099】
次に、このテーブルを参照して選択ロジック部20aが行う処理、すなわち、図9に示す追尾フィルタ選択処理を説明する。選択ロジック部20aに機動パラメータと各目標の相関ゲート内の観測値数とが入力されると、選択ロジック部20aは、テーブル20aの各判定基準値情報を参照して追尾フィルタの方式を選択する(ステップST201b,202b)。
【0100】
具体的には、選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式1を選択して、NNフィルタを選択する(ステップST206)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0101】
選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1以下であり、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式2を選択して、PDAフィルタを選択する(ステップST207)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0102】
選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、観測値数が判定基準値th3以下である場合には、方式3を選択して、IMMフィルタを選択する(ステップST209)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0103】
選択ロジック部20aは、入力された機動パラメータが判定基準値th1を超え、観測値数が判定基準値th3を越える場合には、方式4を選択して、IMMPDAフィルタを選択する(ステップST210)。その後、ステップST212に進み、選択結果が出力される。
【0104】
実施例1の変形例では、テーブル30に設定された6つの方式からいずれか1つのフィルタを選択したが、実施例2の変形例では、テーブル30に設定された4つの方式からいずれか1つのフィルタを選択しており、テーブルへの設定によって、フィルタの数を動的に切り換えることができる。
【0105】
なお、本発明は上述した各実施例に限定されるものではない。追尾フィルタ選択部5は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎にNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタ及びIMMJPDAフィルタの少なくとも2つ以上の中からいずれか1つの追尾フィルタを選択するかを判定しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、レーダセンサやソナーセンサなどといった多目標追尾装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例1の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【図6】本発明の実施例2に係る多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例2に係る多目標追尾装置の動作を、目標追尾処理を中心に示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理の詳細を示すフローチャートである。
【図10】本発明の実施例2の変形例に係る多目標追尾装置で実行される目標追尾処理の中で行われる追尾フィルタ選択処理を行う選択ロジック部の詳細を示す図である。
【図11】従来の多目標追尾装置の構成を示すブロック図である。
【図12】従来の多目標追尾装置における目標追尾処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0108】
1a 相関処理部
2 トラックファイルメンテナンス部
3a フィルタリング処理部
4 追尾制御部
5 追尾フィルタ選択部
6 判定基準値入力部
11 トラックファイル
20,20a 選択ロジック部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から入力される目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置において、
各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成する追尾フィルタ選択部と、
前記追尾フィルタ選択部で生成された制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行する追尾フィルタ処理部と、
を備えたことを特徴とする多目標追尾装置。
【請求項2】
前記追尾フィルタ選択部において複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定するために使用される判定基準値を入力する判定基準値入力部を備えたことを特徴とする請求項1記載の多目標追尾装置。
【請求項3】
前記追尾フィルタ選択部は、前記追尾フィルタから得られる各目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎にNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタ及びIMMJPDAフィルタの少なくとも2つ以上の中からいずれか1つの追尾フィルタを選択するかを判定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の多目標追尾装置。
【請求項4】
前記追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項5】
前記追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された他目標との距離が距離の判定基準値を超え、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値を超え、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下の場合、JPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値を超え、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値を超え、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超える場合、IMMJPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項6】
前記追尾フィルタ選択部は、さらに、目標毎の選択された追尾フィルタの種類、目標毎の判定基準値と比較される値、または、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数の少なくとも1つを外部に出力することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項7】
前記追尾フィルタ選択部は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数を表す値、相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する機能の有効/無効を外部からの指示に応じて切り替え、無効が指示された場合に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを外部からの指示に応じて決定することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項1】
外部から入力される目標の観測値を用いて複数の目標を追尾する多目標追尾装置において、
各目標の状態変数を表す値または相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定し、該判定結果に応じた制御信号を生成する追尾フィルタ選択部と、
前記追尾フィルタ選択部で生成された制御信号によって示される追尾フィルタを実現するための処理を、目標毎に、実行する追尾フィルタ処理部と、
を備えたことを特徴とする多目標追尾装置。
【請求項2】
前記追尾フィルタ選択部において複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定するために使用される判定基準値を入力する判定基準値入力部を備えたことを特徴とする請求項1記載の多目標追尾装置。
【請求項3】
前記追尾フィルタ選択部は、前記追尾フィルタから得られる各目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータ、他目標との距離及び各目標の相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎にNNフィルタ、PDAフィルタ、JPDAフィルタ、IMMフィルタ、IMMPDAフィルタ及びIMMJPDAフィルタの少なくとも2つ以上の中からいずれか1つの追尾フィルタを選択するかを判定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の多目標追尾装置。
【請求項4】
前記追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項5】
前記追尾フィルタ選択部は、目標の状態変数に基づいて算出された他目標との距離が距離の判定基準値を超え、目標の状態変数に基づいて算出された機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、目標の相関ゲート内の観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、NNフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値を超え、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下であって、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、PDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値以下の場合、JPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値を超え、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値以下の場合、IMMフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値を超え、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超え、前記観測値数が観測値数用の判定基準値を超える場合、IMMPDAフィルタを選択するように制御信号を発生し、
前記他目標との距離が距離の判定基準値以下であって、前記機動パラメータが高機動判定用の判定基準値を超える場合、IMMJPDAフィルタを選択するように制御信号を発生することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項6】
前記追尾フィルタ選択部は、さらに、目標毎の選択された追尾フィルタの種類、目標毎の判定基準値と比較される値、または、複数種類の追尾フィルタの各々の利用数の少なくとも1つを外部に出力することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【請求項7】
前記追尾フィルタ選択部は、追尾フィルタから得られる各目標の状態変数を表す値、相関ゲート内の観測値数の少なくとも1つに基づいて、目標毎に複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを判定する機能の有効/無効を外部からの指示に応じて切り替え、無効が指示された場合に、複数種類の追尾フィルタのいずれを選択するかを外部からの指示に応じて決定することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の多目標追尾装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−32304(P2010−32304A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193485(P2008−193485)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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